シンプルマーケティング(6) 「クープマンの目標値」の意外な適用例

マーケットシェアの持つ「意味」を説明した

「クープマンの目標値」

の考え方は非常に面白いものですが、実は、
ランチェスター戦略の中ではちょっとしか触れられて
いないそうです。
(だから、ランチェスター戦略の「基本理論」の
 ひとつとは言えない)


また、「クープマンの目標値」について詳細な解説が
あるのは「シンプルマーケティング」だけなんだそうです。

以上、シンプルマーケティングの著者、
森さんから教えていただきました。

ありがとうございました。


さて、「クープマンの目標値」は具体的には次のとおりでした。

(1)独占的市場シェア ・・・73.9%
(2)相対的安定シェア ・・・41.7%
(3)市場影響シェア  ・・・26.1%
(4)並列的上位シェア ・・・19.3%
(5)市場的認知シェア ・・・10.9%
(6)市場的存在シェア ・・・ 6.8%


このクープマン、マーケットシェアの解読だけでなく、
ほかにも意外な方面への適用が可能なことが
シンプルマーケティングに紹介されています。


たとえば、チラシやポスター。

チラシの中にさまざまな商品(情報)を掲載しようとする時、
各商品に割り当てるスペースをほぼ同じ大きさにレイアウト
してしまうデザイナーがいますよね。

具体的には、5つの商品にそれぞれ5分の1ずつのスペース
を割り当てるといったやり方です。

これは、クープマンに照らせば間違い。

なぜなら、チラシの全面積に占める各商品のスペースが
小さすぎて、閲覧者の十分な注目を獲得できないからです。

5分の1のスペースということは、紙面シェアで20%。
クープマンで言う

「市場的認知シェア(10.9%)」

の水準は超えていますが、「市場影響シェア(26.1%)」
までは達しておらず、注目度が不十分です。


そこで、クープマンをポスターのレイアウトに適用すると、

・「最も言いたいこと(売りたい商品)」に紙面の約半分を割く
  →相対的安定シェア(41.7%)の水準

・「次に言いたいこと」に、紙面の約4分の1を割く
  →市場影響シェア(26.1%)水準

・「最後に言いたいこと」を残り10%に当てる
  →市場的認知シェア(10.9%)の水準

というのが理想的な紙面シェアの配分となります。


端的に言えば、レイアウトにメリハリをつけるということです。

ただ、クープマンの目標値というガイドラインを
使ってデザインすれば、仮に素人がやったとしても
ある程度効果のあるチラシが作成できるというわけです。

クープマンはチラシのような平面だけでなく、店頭ディスプレイ
などの立体のデザイン適用可能だそうです。


ただ、クープマンをデザインに適用する場合の留意事項があります。

それは、面積だけでなく、消費者が目に止める印象度を加味しないと
正確なシェアを算出できないという点です。

たとえば、同じ面積であったとしても色の使い方、組み合わせ方で
それを見た人に与える印象度が違ってくるからです。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 13:15 | コメント (4) | トラックバック

ニューロマーケティング:コークvsペプシ

今週もシンプルマーケティングを取り上げてく予定ですが、
ちょっと「ニューロマーケティング」の話題を。

情報源は、

「こころのサイエンス」
(日経サイエンス2006年12月号臨時増刊)

の記事です。


ニューロマーケティングとは、一言でいうと、
最先端の機器(fMRI:機能的磁気共鳴画像法)などを用いて
脳の活動を測定することで、消費者心理や行動の仕組みを
脳神経科学の視点から解き明かそうとする試みです。
(うーん、説明が難しい・・・)


2004年、米ベイラー医科大学の神経科学者、
P・リード・モンタギューのグループがある実験を行いました。

それは、コカ・コーラ(コーク)とペプシに対する消費者の好み
をfMRIを使用して把握したのです。

具体的には、実験の被験者にコークかペプシのどちらか
わからない、ラベルなしの飲料を渡し、
飲んでいるときの脳の活動をfMRIで調べました。

この実験の結果では、
被験者の反応にはどちらの飲み物も差がありませんでした。

いずれも、脳の「腹側被殻」という部位で強い反応を
引き起こしていました。満足感に関わる部位です。


次に、コーク、またはペプシのラベルのついた飲料を渡して、
同様の測定を行いました。

この結果では、なんと
4人に3人が「コーク」の方がおいしいと答えたのです。


fMRIの画像を見ると、最初の実験と同様、「腹側被殻」は
どちらも同じように活性化していました。

ところが、コークがおいしいと答えた被験者の脳では、
コークを飲んでいるとき、「内側前頭前野」という部位も
活動していました。

この部位は、複雑な思考や評価、自己イメージにかかわる
分野です。

つまり、純粋な「味覚」の評価ではコークもペプシも
同じでしたが、イメージ連想がコークの味覚をより
「おいしい」と感じさせていたということです。


モンテギューの結論。

「コークの広告メッセージは長年をかけて消費者を感化し、
 個人の選択に関わる脳の領域に影響を与えたのだ」


ブランド名によって、消費者の製品に対する評価が変わることは、
これまでの様々な調査でもわかっていたことでした。

ただ、脳の活動を測定することによって、
目に見える客観的な現象として「実証」できるという点で
ニューロマーケティングの意義は大きいですよね。


今後のニューロマーケティング研究の進展については、
注意深くウオッチしていこうと思ってます。

投稿者 松尾 順 : 12:00 | コメント (7) | トラックバック

CRMの魂

私が、

「CRM」(Customer Relationship Management)

というコンセプトを知ったのは1995年です。

以来約10年にわたり、マーケティング分野の中でも特に

「CRM」

をメインテーマに据えて追いかけてきました。


「CRM」は、全社・全部門に関係し、かつ、
企業理念やビジョン、戦略、戦術にまたがるコンセプトで
あるため、なかなかとらえどころがないのが現実です。

それでも、最近はつくづく、核となるCRMの思想が、
最も重要なんだなと感じるようになってきました。


この核となるCRMの思想を私は、

「CRMの魂」

と呼びたいと思います。


「CRMの魂」とは、私の考えでは次の2つだけです。


・顧客が真に求めているものを提供する
・個別対応する


この2つは、要するに

顧客がこうしてもらえると、

「うれしい」と感じ、
 「感激」し、時に
「感謝される」こと

です。

こうした行動が全社レベルで、また一人ひとりのスタッフが
自然に行える企業は、長期的に成功を収める企業でしょう。


日経ビジネス最新号(2006年10月23日号)の特集では、
「日本一売る」セールスの人たちが多数登場していますが、
ほとんどの皆さんの行動の背景には「CRMの魂」の存在が
感じられました。

最終的に自社商品・サービスを売ることがゴールであっても、
顧客対応においては、常に顧客が真に求めているものを
提供することに熱心なんですよね。

逆に、自分の売り上げしか考えていないような人、つまり
「CRMの魂」を持たない口八丁手八丁のゴリ押し的営業は
一人も登場していないんです。


例えば、モンスーンカフェなどのレストランを運営する
グローバルダイニングで働く店員の奥澤有紀さんは、
本人が覚えていない「前回食べた料理」を来店客に教えて
驚かせ、また、ドリンクを飲み干したグラスを置くと同時に
お代わりを出す、絶妙の気配りができるカリスマ店員です。

奥澤さんのこのすごいサービスに感激した客は
「ユキちゃん、名前覚えておいて」と名刺を渡してくれる。
その数200人に上るそうです。


また、群馬ヤクルト販売では、逆張りの発想を採用。

戸別訪問の販売員、ヤクルトレディーが
1週間に訪問する顧客数を150から120軒に減らし、
十分にコミュニケーションが取れるようにしました。

販売員は当初売上高の減少につながると反対しましたが、

同社星野社長は、

「売りに行くな。話をしに行け。
 話の中からお客様の健康を気遣え」

と指示。


その結果、過去3年間に月間80万円を売る販売員が、
1-2人から16人にまで増加しました。

全国平均は月間40万円ですから、群馬ヤクルト販売の場合、
平均より倍以上売る販売員が続出したということになります。


皆さんの会社には「CRMの魂」はありますか?

投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (5) | トラックバック

シンプルマーケティング(5)市場をとらえる・・・クープマンの目標値

市場を把握する上で重要な指標のひとつは、

「マーケットシェア」(市場占有率)

ですよね。


でも、自社と競合他社の数値を並べて、
単純にうちが大きいとか、小さいとか言ってるだけじゃ、
マーケティングの意思決定の役には立ちません。

シンプルマーケティングでは、マーケットシェアの持つ「意味」
を「クープマンの目標値」で説明してあります。


米国の数学者、クープマンは、シェアと市場推移の関連性を
分析し、シェアをみきわめるポイントとして6つの数字を
上げています。これが「クープマンの目標値」です。

具体的には次のとおり。

(1)独占的市場シェア ・・・73.9%
(2)相対的安定シェア ・・・41.7%
(3)市場影響シェア  ・・・26.1%
(4)並列的上位シェア ・・・19.3%
(5)市場的認知シェア ・・・10.9%
(6)市場的存在シェア ・・・ 6.8%


次に、それぞれのシェアの持つ意味を簡単に示します。

----------------------------------------------

(1)独占的市場シェア(73.9%)

   要するに独占シェア、短期的にシェアがひっくり返る
   可能性はほとんどない。

   たとえば、ハンバーガー市場の日本マクドナルド。

(2)相対的安定シェア(41.7%)

   市場で首位のブランドがこのシェアを占めている場合、
   そのトップの地位は安定。不測の事態が生じない限り、
   逆転されることはない。森さんは、このシェアを持つ
   企業を「ガリバー」と呼ぶ。

   たとえば、自動車市場の、トヨタ。

(3)市場影響シェア(26.1%)

   この程度の数値で市場トップの企業は多いが、
   逆転される可能性がある不安定なシェア。
   ただ、このシェアを持っていると、競合他社が追随
   せざるを得ないため、市場の主導権を握ることができる。

   たとえば、広告市場の電通。
  
(4)並列的上位シェア(19.3%)

   一位、あるいは二位に複数ブランドや企業が
   ほぼ横並びに拮抗しているときに表れやすいシェア。
   この位置にあるブランドや企業は互いにけん制しあって
   混沌状態を抜け出し、市場影響シェア(261%)を目指す。

   たとえば、テニスラケット市場のヨネックス、ダイワ精工。

(5)市場的認知シェア(10.9%)

   市場において、ようやく存在が確認される水準。
   生活者が、「こういうブランド(企業)もある」と
   思い出してくれるレベル。

   たとえば、デジタルカメラ市場の松下電器。

(6)市場的存在シェア(6.8%)
   
   市場において、ようやく存在が許される水準。
   これ以下のシェアなら、今後よほどの成長が見込めない限り
   市場から撤退するのが賢明。

   たとえば、ハンバーガー市場のロッテリア。

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ちなみに化粧品市場における花王は、
長年がんばってきたものの、「市場的存在シェア」を
わずかにクリアする程度でした。

カネボウ化粧品をなんとしても買収して。
シェアを上げる必要があったわけです。

現在、花王とカネボウのシェア合計は20%を超えますから、
「並列的上位シェア」のポジションにありますね。


このクープマンの目標値は、
ランチェスター戦略における基本理論なんですが、
不思議なことに、「ランチェスター戦略」は、
マーケティングの世界ではあまり知られていませんよね。
(営業の世界では結構知られていますが)

なぜでしょうねぇ・・・


さて、クープマンの目標値は市場をとらえる以外にも、
いろいろと適用可能な分野があります。

次回はそのあたりをご紹介します。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (4) | トラックバック

ライフスタイルマーケティング

このところ、「シンプルマーケティング」から、
‘ライフスタイル’をテーマに書いてますが、
ついでに関連本の


「実践講座 消費行動の「なぜ?」がわかる
          ライフスタイルマーケティング」
(ODSマーケティングコンサルティングチーム著、宣伝会議)


も簡単にご紹介しときます。


この本の参考文献は、

「改訂 シンプルマーケティング」
「最新 ランチェスター戦略がわかる・できる」

の2冊です。


実際、同書の内容は、ほとんどシンプルマーケティングで
語られていることが下敷きになっていることがわかります。

ですから、シンプルマーケティングを読んだ人間には
ちょっとものたりない内容です。


ただ、ODS社が30年前から実施してきた消費者調査のデータベース、

「ODS LifeStyle Indicator」

に基づく最新の

「ライフスタイル分類」

が詳細に説明されている点が参考になります。


このライフスタイル分類ですが、
日本人を次の8つの特徴的なグループに分けたものです。
2003年に開発されたもの。

-------------------------------------

1.アチーブ:自立達成型(11.4%)

 知識教養、トレンド情報やアートまで幅広い関心を持ち、
 達成感を糧に自己向上していくタイプ

2.プレジャー:浪費快楽型(10.1%)

 流行モノや通俗的な楽しみとブランドモノが好きで、
 目立ちたい意識のある、楽天的・享楽的なタイプ

3.ナイーブ:感性・感覚型(8.3%)

 目立ちたい意識が強く、流行関心が高く感覚的判断をする、
 未成熟な子供っぽさがあるタイプ

4.リョウシキ:良識社会型(14.9%)

 ビジネス、政治や環境など社会全体に関心が高く、
 社会的な責任感や道徳的意識を持ち、新たな知識教養を
 取り入れるタイプ

5.ヘイオン:中庸雷同型(22.3%)

 家族みんなで穏やかな生活を過ごすために、
 一生懸命頑張っている。無難で人と同じであることを
 望むタイプ

6・キハン:保守規律型(13.3%)

 性的道徳や地域社会へのかかわり、お中元・お歳暮といった
 慣習など、昔ながらのモラルを、誠実真面目に遵守するタイプ。

7.ヤリクリ:やりくり倹約型(9.9%)

 経済的余裕も精神的余裕もなく、どうにかやりくりして
 毎日を過ごしている。頑張る気持ちもあるが、すぐ現実逃避
 したがるタイプ。

8.クール:静的無関心型(9.8%)

 物事に対する関心が低く、自ら何かを発信することに
 思い入れがなく、世の中をナナメに見ているところが
 あるタイプ。

-------------------------------------


このライフスタイル分類の主な活用目的は、

ライフスタイル分類と、
商品・ブランド・コミュニケーションとの因果関係を明らかに
することによって、商品が売れたり、売れなかったりする理由を
構造的に解明すること

です。


たとえば、シャープの液晶テレビ‘AQUOS’がヒットしたのは、

・よくテレビを観ており、かつ高額商品を購入できる経済力
 を持つ「リョウシキ」を着目した。

・「最新鋭の国内工場で生産」「環境に優しい」といった
 コンセプトが、国産を好み、環境意識の高いリョウシキから
 共感を得た。

・自宅のリビングなどにおいても違和感のないデザインが
 「良質で高級感」を求める「リョウシキ」の価値観に合致
 していた。

・リョウシキに人気の高い吉永小百合を広告キャラクターに
 採用した。

といった理由が挙げられています。

さらに、「リョウシキ」からの影響が大きい
「ヘイオン」や「ハキュウ」へと波及させることができたのが
大ヒットにつながった理由です。


同書には、他にもいろいろと具体例が掲載されてますので
一読の価値はあるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:36 | コメント (3) | トラックバック

シンプルマーケティング(4)ロングセラー商品の秘密

シンプルマーケティングの中から、
ライフスタイル論と密接に関連している、

「ロングセラー商品の秘密」

が明かされている箇所もご紹介しときます!


まず、答えからズバリ。

森さんによれば、ロングセラー商品は、

「ニーズ」と「ウォンツ」

のバランスが取れている商品です。


なお、森さんによる「ニーズ」と「ウォンツ」の定義は
一般のマーケティングテキストに書かれているものとは
若干違います。

「ニーズ」とは、商品に対する基本欲求のこと。
たとえば自動車に対するニーズは、走る、曲がる、止まる
といった基本機能です。

「ウォンツ」とは、基本的機能以外に対する欲求。
デザイン性の高さや、希少価値などのことです。


一通りの基本機能が備わっていて、消費者の「ニーズ」が
満たされるなら、いちおう「商品」としては成立します。

しかし、「ウォンツ」が欠けていれば魅力の乏しい商品に
なってしまいますね。


さて、「ニーズ」と「ウォンツ」によって、
時代の変遷の中で生まれては消えるブーム現象を
説明することができます。


「ニーズ」は、時代が変わってもほとんど変化しません。
横軸に時間、縦軸に変化の度合いをとったグラフを描くと、
まっすぐな横棒になります。

「ニーズ」は、昨日ご紹介した、
ヤンケロビッチ博士の「価値観ヒエラルキー」では、
「ソース」や「ヴァリュー」と近い関係にある欲求です。

潜在的で変化しにくい部分というわけです。

一方、「ウォンツ」は、グラフに描くと、
心電図のように波打つ起伏の激しい変化を見せます。

時代によって大きく変化するのが「ウォンツ」。
価値観ヒエラルキーでは、「マニフェステーション」(行動)や
「テイスト」に近い関係にあります。

顕在的で変化しやすい部分ですね。


ブーム商品、つまり一過性の人気を集めるだけで終わって
しまう商品は、要するに「ウォンツ」しかとらえていない
商品なのです。

味はたいしたことはないけれど、
ファッション性だけで人気を集める飲み物は、
ブーム商品です。

あるいは、人気絶頂のタレントがデザインをしたことが
売り、でも、よく見るとたいしたことのない商品も
そうでしょう。

タレントの賞味期限が尽きると同時に、関連商品の寿命も
終わりますからね。


森さんは、
ここ二十年ほどで一挙に注目を集めた「環境問題」も
まさにウォンツ商品だと考えているそうです。

「LOHAS」のような環境志向は、一見ニーズのようですが、
実は、一種の表層的なライフスタイルということでしょうか。


これについては議論が分かれるところかも知れません。
というか、私は反対の意見を持っています。

2000年くらいまでは、
環境問題も単なるウォンツだったと思います。

しかし、最近の行き過ぎた拝金主義や
全世界規模で起きている環境破壊の問題を見聞きするにつれ、
これまでのように、人類が好き勝手に地球をもてあそんでいると、
地球滅亡は間違いないと、私個人としては思っています。

実際のところ、本当の意味での「自然に帰る」ことは
できないにしろ、「ニーズ」のレベルで環境問題に取り組む
という風潮が高まっているのではないでしょうか。


おっと、話がそれましたが、冒頭に書いたように

「ロングセラー商品」

は、ウォンツしか満たしていないブーム商品と違って、
ニーズとウォンツの両方をバランスよく満たしている商品です。

シャネル、ルイ・ヴィトンなど、
一流のブランドは、おおむねロングセラー商品ですよね。


ルイ・ヴィトンの品質の高さやアフターサービスの充実ぶりは
皆さんご存知かと思います。

でも同時に、画家の村上隆氏とコラボして
アニメチックなモノグラムデザインを発表するなど、
時代の要請にも応えていますよね。


また、ロングセラーの食品もいつも変わらぬ味と思わせながら、
実は、時代によって変化していく人々の嗜好にあわせて微妙に
配合を変えていますよね。


逆に、変化を続けるウォンツに応えることができていないために、
かげりの見えるロングセラー商品も出てきます。

「コカ・コーラ」がそうですね。

微炭酸・非炭酸を求める時代の流れ、甘み離れに対応できて
いません。(もちろん、爽健美茶などの別ブランドで、
ウォンツをカバーしているわけですが、肝心の本丸での対応は
成功していない・・・)


「ニーズ」と「ウォンツ」の視点で新商品を分析すれば、
それがブームに終わるのか、息の長い商品に終わるのか、
かなり高い確率で予測できるように思います。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 08:02 | コメント (2) | トラックバック

シンプルマーケティング(3)ライフスタイル-2

森行生氏著の名作、「シンプルマーケティング」から
今日も「ライフスタイル」のテーマを取り上げます!


消費者(生活者)の心理・行動を理解するのに有効な考え方で、
マーケティングにも適用しやすい「ライフスタイル理論」の
ひとつが、米社会心理学者、ヤンケロビッチ博士が生み出した、

「価値観ヒエラルキー」

です。


価値観ヒエラルキーは、
三角形を5層に分割したイメージで表されます。

各層の概要は次の通りです。


(1)ソース(Source) =基本的意識、性格

  人がもって生まれた先天的資質

  外向的・内向的といった基本的な性格はかなりの部分
  先天的ですよね。


(2)ヴァリュー(Value) =価値観

  種々の物事に対する姿勢、社会との接点でもつ生活意識

  たとえば「社会に溶け込んで生活すべき」といった、
  いわゆる「信条」のこと
 

(3)クライテリア(Criteria) =生活基準

  ある判断、選択を迫られた時に優先順位を決めるよりどころ

  森さんによれば、

  「理想とする自分と、それを取り巻く環境」

  ということだそうです。この基準に基づいてある商品を
  購入したり、しなかったりするというわけですね。

 
(4)テイスト(Taste) =生活の志向、好み、感性

  「具体的な事象」に対する志向、好み、意見、考え方。

  たとえば、クライテリア(生活基準)として

  「知的なエリートビジネスマン」

  を理想としているなら、テイストは、

  「無線通信機能付ノートパソコンを持ち歩き、乗る車は
   欧州車で・・・」

  といった具体的なモノに対する好みのことです。


(5)マニフェステーション(Manifestation) =生活行動

  実際の選択、行動。

  たとえば上記の例で言えば、愛車「アウディ」に乗って、
  「VAIO」でメールをチェックする、といったことです。


ヤンケロビッチ博士は、人間の意識は上から下、
つまり1から5への流れをたどると説いています。

消費者行動の基本は、まず意識があって、それが
最終的な行動に反映されるということでしょう。


しかし、森さんによれば
行動から意識へと逆流するケースも頻繁に見られるそうです。

たとえば、若い女性は、雑貨売り場で気に入ったモノを手に
取ったときに、その製品を使っている自分や、
自分の部屋にその製品が置いてあるさまを思い浮かべるそうです。

これは、具体的な行動(マニフェステーション)が、
逆に意識を刺激して、自分のテイストやクライテリアを認識
させてしまう例です。


確かに、若い女性だけに限らず、
私たちは、しばしば自分の行動を客観的に振り返ってみて

「自分が求めているテイストやクライテリアはこれだったんだ!」

と初めて気づくこともありますよね。


さて、この価値観ヒエラルキーをマーケティングに適用する際に
いろいろと留意すべき点があります。

シンプルマーケティングでは、「落とし穴」も含めて詳しく解説
されています。


ここではひとつだけご紹介しましょう。

それは、目に見える部分(マニフェステーションやテイスト)
だけを見て、人のライフスタイルを理解したつもりにならない
ことです。

過去、多くの企業が、ライフスタイルの表層的な現象面だけを
見てマーケティング活動を行い、失敗してきました。


人々のライフスタイルをより深く理解するためには

現象の背後にある、「ヴァリュー」や「クライテリア」
をしっかり見つめる必要があるのです。


現象面では、日々さまざまなヒット商品が生まれ、一方で
廃れていくことを繰り返しています。

表面的な変化は激しいわけです。


でも、商品選択の本質的な基準である

「ヴァリュー」や「クライテリア」

は5年や10年では変わりません。


ですから、

「マニフェステーション」や「テイスト」

ではなく、

「ヴァリュー」やクライテリア」

に焦点を当てれば、
マーケティングの企画・実行はずいぶん楽になりますよね。

中長期的な視点で、
一貫性のあるマーケティングに取り組めるからです。


逆に言えば、
表層的な変化だけを追いかけているために、
コロコロと猫の目のように方向性を変えるマーケティングは、
多くの場合失敗に終わります。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 12:38 | コメント (5) | トラックバック

新型プレステ(PS3)は、キャズム(断層)を超えられない?

ソニーが昨日(19日)、今期の業績下方修正を発表しました。

例のパソコン用リチウム電池のトラブルや、
来月発売される新型プレイステーション(PS3)の戦略変更
(値下げ)が影響しているようですが、
発売中プレイステーションポータブル(PSP)の
このところの販売不振も見逃すことはできませんね。
(日経産業新聞、20006/10/20)


PSP不振の理由は、魅力あるソフトが揃わなかったこと。

PSPのソフトで100万本超を売り上げるミリオンセラーが1本も
出ていないのに対して、任天堂の「ニンテンドーDS」は、

「脳を鍛える大人のDSトレーニング」

を始めとして、10本がミリオンセラーを達成しています。


11月発売のPS3はPSPとの連携ができ、
過去のPSのソフトがPSPでも遊べるようになるそうですので、
ソニーでは、これまでの劣勢も挽回できるだろうと期待している
そうです。


しかし現実には、そもそも「PS3」がヒットする可能性自体が
かなり低いかも知れません。


大前研一氏も指摘しているように、

「ソニーのゲーム機は突き抜けすぎてしまった」

ためです。

つまり、技術志向が行き過ぎて
ゲーム機としては品質過剰、機能過剰なのです。


このため、PS3を購入するのは、いわゆる

「イノベーター層」

に限定されてしまい、アーリーアダプターにさえ
受け入れられないかも知れないわけです。

当然、大ヒットにつながる「フォロワー」への波及も
ありません。

すなわち、PS3はイノベーター、アーリーアダプターと、
フォロワーとの間にある大きな断層、すなわち

「キャズム」

を超えることはできず、結果として
深刻な業績不振を招く可能性が非常に高いように思います。


ゲームが好きな方に聞いてみましょう。

あなたは、

ゲームを楽しみたいのですか?

それとも、

高機能なゲーム機を持ちたいのですか?

どちらがより重要ですか?


エレキ屋らしく、とことん技術を追求するソニーと
花札から始まった元祖エンタテイメント屋の任天堂の
「ゲーム機戦略」の違いは、昔からかなり明確でしたね。

これまでは勝ったり負けたりのいい勝負をしてきました。


でも、今度のPS3の発売は、どちらの戦略が正しいのか、
はっきりとした決着がつくことになる契機になるかも
しれません・・・


ソニー内には友人が多いので、
こうしたことを書くのは気が引けましたが・・・(^_^;


実際、ソニー関係の人たちはどう感じているのかなあ?

投稿者 松尾 順 : 17:57 | コメント (3) | トラックバック

穴は大きくすべきか、小さくすべきか

今日も引き続き「シンプルマーケティング」の内容を
ご紹介するつもりでしたが、移り気な性格でもあり、
ちょっと休憩して横道にそれます。(笑)


ちょっと前のマーケティング入門書や発想法の本などに、
次のようなエピソードがしばしば掲載されていました。

覚えている方います?

--------------------------------------------

「味の素」の売り上げアップを
製品自体の改良なしで実現したアイディアがあった。

それは、容器の「振り出し穴」の大きさを
ちょっとだけ大きくすることだった。

これによって、一回当たりの使用量が増え、
結果的に購買頻度が上昇し、売り上げ増につながったのである!

--------------------------------------------

このアイディア、
コストをかけずに売上げを伸ばしたケースとして
「すばらしい!」という賞賛を込めての紹介でした。

しかし、この話が実際に行われたものかどうかわかりませんが、
よく考えてみると、消費者をあざむく「姑息な手段」ですよね。

数十年前の、「生産者志向」のマーケティングが主流だった時代
だから通用した話でしょう。


一方、近年の類似事例に、

「フィネスコンディショナー」

があります。
ヘレンカーチスのヘアケア商品です。


さて、フィネスのマーケティングチームも、味の素と同様、
製品改良なしに、売上増を図るアイディアを実行に移しました。

それは、ディスペンサーキャップの穴を「小さく」すること。

味の素と真逆をやったわけです。

穴を小さくすると、一回あたりの使用量が減ります。
結果として、短期的には購買頻度が低下することになりますよね。


しかし、フィネス担当者は、
顧客ロイヤルティの獲得による長期的なリターンが
短期的なロスを上回ると判断したのです。

実際、大幅な業績増を実現したそうです。


この話、顧客志向のマーケティングが求められる今の時代に
ふさわしい好例ですよね。

*このフィネスの事例は、

「世界最強CMOのマーケティング実学」
(ブラッドフォード・C・カーク著、ダイヤモンド社)

から。

なお、上記の本は文字通り、
企業内のマーケティング担当者の実務に役立つ単刀直入な
アドバイスが書かれています。
(広告会社などの方には、あまり面白くないでしょう・・・)

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(2)ライフスタイル-1

今日は「ライフスタイル」のテーマを取り上げますね!


「シンプルマーケティング」で紹介されている
ODS社の消費者調査のデータベース、

「ODS-LSI」(ライフスタイル・インディケーター)

が明らかにした日本人の価値観の変遷が興味深いです。


ODS-LSIによれば、戦後の日本人の欲求は次のように
5段階に変化しています。


-------------------------------------------
第一段階(1940年代)・・・基本的欲求の時代
-------------------------------------------

敗戦直後。食べられればいい、住めればいいという基本的ニーズ
が充たされればOKでした。

-------------------------------------------
第二段階(1950年代)・・・雷同の欲求の時代
-------------------------------------------

基本的欲求は充たされ、隣もTVを買ったから我が家も・・・
という付和雷同型ニーズが主流。

-------------------------------------------
第三段階(1960年代)・・・優越の欲求の時代
-------------------------------------------

高度成長期。「隣のクルマが、小さく見えます」(日産サニー)
他人よりもっといいものを揃えたい。優越感を持ちたいという
ニーズが消費者を動かした。

-------------------------------------------
第四段階(1970年代)・・・差別化の欲求
-------------------------------------------

作れば売れる時代の終焉。好みの多様化。
他人と違うモノを持ちたいというニーズが高まった。

-------------------------------------------
第五段階(1980年代)・・・主観化の欲求
-------------------------------------------

成熟期。個人主義的傾向に拍車がかかる。
晩婚化、シングル化進展。他人を気にせず、
自分らしいモノに囲まれた暮らしを重視。


さらに、91年以降から始まる「第六段階」を
ODS-LSIでは、

「適正の時代」

と定義しています。


これは、人々の志向が、

「足元を見つめ直し、自分にふさわしい生活をする」

段階に移行したということだそうです。


この志向性、2000年以降もますます強まっていると
考えていいんでしょうね・・・

身のたけに合った暮らしをするというか、
無理をしない生き方を標榜する人たちが増えている。

「LOHAS」
(Lifestyle of Healthy and Sustainability)

のコンセプトもこの流れに沿ったものだと言えますし。


ただ、一方で、上昇志向、成り上がり意識が低下することで
経済・社会の活気は失われていってます。

要するにハングリーさが足りない。
日本の国際競争力低下は必至かなと思いますね。


森さんは、「適正の時代」に移行した結果として

“20-30代に「下流意識」が定着しつつあるのは皮肉
 というべきだろう”

と指摘していますが、実際のところ、
日本は今、本格的な階級社会へと変化しつつあるんじゃ
ないでしょうか。(というか、戦前に回帰している?)


下流の対極にある「富裕層」、あるいは「新・富裕層」
といった言葉もまた、最近の流行語となっていますが、
これまでの日本社会ではあまり重要でなかった

社会階級別のマーケティング

が必要になってきているように思います。


明日も引き続きライフスタイルテーマで行きます。

投稿者 松尾 順 : 13:01 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(1)イノベータ理論

森行生氏著の名作、「シンプルマーケティング」から
まずは「イノベータ理論」をご紹介します。


森さんの考え方には、常に、
消費者(森さんは「生活者」と表現)を理解すること、愛すること
が根底に流れているように感じると前回書きました。


実際、この本の第1章はこんな書き出しです。

“マーケティングでは、「生活者」を把握することが非常に
 重要だ。もちろん、関係者をそれを身にしみてわかっている”


ほんと、私も身にしみてわかっています!

だからこそ、生活者(消費者)理解を極めるための方法論を
「マインドリーディング」という言葉をキーワードに
ぐぐっと深めていこうとしてるわけなんですが。


では、「生活者」を把握するというのは、
マーケティング的にはどういうことでしょうか。

それは、生活者の特性を元に様々な角度から市場を細分化し、
自社商品を「誰に向けてつくるのか」というセグメントを
明確にすることです。

「マーケットセグメンテーション」

ですね。


マーケットセグメンテーションのやり方は、
いまだ、性・年齢といったデモグラフィック(人口統計学的)
要因が基本です。

最近は個人情報保護法の施行によって、こうしたデータでさえ
入手が難しくなってきましたが、それでも、いわゆる
「基本属性データ」として使いやすい要因です。


ただ、マーケターの方ならすでにわかっているように、
例えば「20代の女性」といったセグメントはもはやあまり有効で
はありませんよね。

性別・年齢が同じでも、趣味嗜好、購買行動は
天と地ほども違う場合がありますから。

そこで、ライフスタイルやパーソナリティなどの
サイコグラフィック(性格特性図)要因をセグメンテーションに
活用する必要があります。

森さんは、サイコグラフィック要因の中でも特に、

「価値観分析」

の手法を使う必要があると述べています。
(価値観分析については別途ご紹介します)


さて、サイコグラフィック要因は、
基本的に時代に応じて変化するものですが
時代を超えてセグメントに有効な切り口が、

「生活者の3タイプ」

具体的には、

・イノベータ
・アーリアダプター
・フォロワー

です。


これ、ロジャースの「イノベーター理論」に基づく3分類です。
イノベーター理論はもっと細かいタイプ分けがされていますが、
実務的にはこの3タイプで十分ですね。

「イノベーター」は、いつの世でも、ヒット商品をまっさきに
発掘する「革新人間」です。

したがって、「売れる商品」を生み出すためには、まず
イノベーターの目に留まる必要性があります。

しかし、イノベーターに受け入れさえすれば、
成功が約束されるわけではありません。

なぜなら、イノベーターは、
自分が優れた商品を発見する能力を持っていることに
自己満足してしまい、他人に話すことをしないからです。

要するに、口コミしてくれない人なんですね。


そこで、一過性のブームに終わらせず、息の長いヒット商品と
するためには、「アーリーアダプター」に受け入れられる必要が
あります。

森さんに言わせると「アーリーアダプター」は、

「ウケねらいの人々」

です。彼らがものを買う基準は、圧倒的多数のフォロワーに

「これ、知ってる?」

と自慢できるかどうかなんですね。


そして、フォロワーは、ある程度商品が定着してから、
ようやく自分も買う人たち。真っ先に買って馬鹿にされるのが
怖いからです。

したがって、アーリーアダプター層に自社商品が広がれば、
それがフォロワーへと広がり、「ヒット万歳!」という
わけです。


しかし、もしアーリーアダプターに受け入れられず、
イノベーターどまりになってしまったら・・・

それは

「一過性のブームに終わった商品」

ということになります。


ですから、ヒット商品を育てるという観点からは、

アーリーアダプターの目をひきつけること

が最重要課題と言えるわけです。


ところで、森さんの本には記述がありませんが、

イノベーター、アーリーアダプターと、
フォロワーとの間には大きな断層がある

という考え方がありますよね。

ジェフリームーアの「キャズム理論」です。

この考え方では、

アーリーアダプターからフォロワーへの伝播(ユーザー層拡大)
は簡単ではないよ

ということを主張しています。


キャズム理論は、
森さんの考え方と対立しているわけではありませんが、
強引にまとめてしまうと、

イノベーター、アーリーアダプター、フォロワー

の各セグメントの心をつかむためには、
それぞれ個別の工夫が必要であるということでしょうね。
(森さんに怒られたらどうしましょ・・・)


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 22:57 | コメント (0) | トラックバック

「シンプルマーケティング」改訂版を読む(0)

私が最も尊敬し、私淑するマーケティングのプロフェッショナルは、
(株)シストラットコーポレーション代表の森行生氏です。

森さんは、購読者1万人強の人気メルマガ、

「私はこう見る--コンサルタント生の本音情報」

の発行者ですので、
ご存知の方もいらっっしゃるんじゃないでしょうか。

ただ、上記メルマガは、このところ気まぐれにしか
発行されないので残念ですが・・・(+_+)


さて、森さんが書かれたマーケティングの教科書、

「シンプルマーケティング」

の改訂版が今年2月に発刊されています。
私は長らく積読状態でしたが、先日ようやく読了できました。


5年前の初版と比較すると、改訂版では最近の事例が追加され、
各種理論の説明もさらにわかりやすく書き直されていました。

文字通り、シンプルで本質を突いたマーケティング本です。


マーケティングの教科書というと、
フィリップ・コトラー先生の一連の著作が有名ですね。

そして、コトラー先生は、

「マーケティングの神様」

と呼ばれています。

ただ、ちょっと引っかかる。

確かに優れた教科書を書かれてはいますが、
コトラー先生は大学教授。実務家ではありません。

失礼ながら、コトラー先生は

「マーケティング教科書の神様」

と呼ぶのがより正確でしょう。


おっと話がそれました。

コトラー先生と違って、森さんは、バリバリの実務家。

長年に渡って成果を出し続け、
大手企業のクライアントから絶大な信頼を集めています。


「シンプルマーケティング」は、
そんな森さんが書いた教科書ですからバリバリ実用的。

なぜなら、理論自体をただ説明するだけでなく、
それを実務にどう適用するか、というところまで
踏み込んで書いてあるからです。

また、森さんの語り口には、常に

「消費者やユーザーの心理や行動に対する深い理解と愛情」

が感じられるんですよね。


というわけで、「イノベーションの達人」の時と同様、
全10回シリーズでこの本の内容をご紹介していきます。

ご紹介するテーマや理論は次のとおり。

1 イノベータ理論
2 ライフスタイル
3 クープマンの目標値
4 プロダクト・ライフサイクル
5 プロダクトコーン理論
6 ブランディング(意味性の純化)
7 スキミング&ペネトレーション戦略
8 DCCM理論
9 U&E
10 「選好」シェアと「実売シェア」


なお、私の内容紹介は断片的なものですし、
私個人の主観的な解釈なども加えていきます。

ですので、同書をまだ読んだことのない方はぜひ
読んでみてくださいね。

●シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 13:57 | コメント (1) | トラックバック

修学旅行の本質

元大手旅行会社のトップ営業マンとしてならしたIさん。
現在は関連会社で新規事業の立ち上げに関わっています。

Iさんは横浜地区の学校が担当でした。
学校営業の目玉は、なんといっても「修学旅行」です。

なんたって売り上げがでかいですからね。
もちろん、多くの旅行会社も修学旅行を狙ってきますから、
競争は激しい。

しかし、Iさんは、担当の横浜エリアで
長年にわたってダントツの強さを誇っていました。


その秘密を先日教えてもらいました。

Iさんによると、学校の信頼を得ることができたのは、

「修学旅行の本質」

を信念を持って説き続けたからだそうです。


「修学旅行の本質」とは、「主役が誰か」ということです。


修学旅行の主役は言うまでもなく「生徒たち」ですね。
しかも、修学旅行は生徒たちにとって一生に一度の
かけがえのないイベントです。

だとするなら、
生徒が一番喜んでくれる旅行企画を提案するのが正しいはず。

Iさんは、こう考えて、
校門の前で生徒にアンケートを取るなどして、
ベストの企画をひとつだけ提案しました。


一方、競合他社は、一度に何案もの提案をしてきていました。

たくさん提案すれば、
どれかは先生の目に留まるだろうという狙いです。

ただ、どんなにたくさん提案しようが、
主役の生徒たちのニーズはまったく反映されていません。

もちろん、生徒にアンケートを取るような会社は、
Iさん以外にはありませんでした。


修学旅行の主役は生徒とは言え、
実質的な決定権は先生にあります。

おそらく、競合他社の営業は、先生が気に入る企画を出せば
勝てると思っていたのかも知れませんね。

しかし、先生としては、生徒が喜んでくれるかどうかを
重視していたのです。(マスコミではいろいろと
ダメ教師の記事が掲載されますが、大多数の先生は誠実に
職務を遂行していますし、生徒の幸せを願っているものです)

だから、主役のニーズを反映させたIさんのベストな提案を
選ぶのは必然と言えました。


Iさんは修学旅行の中でも生徒がうれしくなるような
ちょっとした心配りをしていました。

たとえば、帰りの新幹線で出すお弁当。
そこには、「お疲れさまでした」というメッセージを
入れていたそうです。

もちろん、その分コストが上昇し目先の利益率は下がります。
しかし、こうしたことの積み重ねが、
リピート受注率をあげることにつながっていました。


Iさんの話を聞くと、
何事も「本質」をつかんでおくことの重要性がわかりますね。

コムスン会長の折口雅博氏の言葉でいえば、
ボーリングで10本全部倒すための「センターピン」が
何かをわかっているということです。

投稿者 松尾 順 : 11:28 | コメント (0)

言葉じゃないところで伝えたいこと

油膜の浮くギトギトのラーメン。
こってりとんこつ博多ラーメンも顔負けのしつこい味。(たぶん)

談笑しながら、おいしそうに食べているのは、
円卓を囲む中国人のお偉いさんたち。

彼らの右手にお箸、でも左手には「特保黒烏龍茶」がある。
だから、脂っこい料理を心から楽しめます!


とまあ、こんなメッセージを伝えるのが、
今オンエア中の「中性脂肪に告ぐ」サントリー黒烏龍茶の
TVコマーシャルです。


見た覚えありますか?
サントリーのホームページでも見ることができますね。

「役員午餐会」


このコマーシャル、
中国の古いホテルを借りて撮影されたものです。

撮影ディレクションは写真家の上田義彦氏。

上田氏は、同じくサントリーの伊右衛門や無印良品などの広告を
手がけている売れっ子ですが、先日のNHKプロフェショナルに
登場、上記コマーシャル撮影の裏側を垣間見ることができました。


この中国での撮影、わずか15秒のコマーシャルのために、
この場面を何十回も繰り返し撮りなおしていました。

結局、予備日も含め3日間をまるまる使い切って
ぎりぎりでなんとか撮影完了。

役員さんたちが食べているラーメンはもちろん本物です。
毎回新しいのを作ってましたから、
この撮影のために消費されたラーメンは数百杯でしょうね。


それはさておき(^_^;、
上田氏がなかなかOKを出さなかったのは、
画面から伝わるものに納得がいかなかったから。

ラーメンの湯気がうまく映らないとか、談笑が自然で
ないとか、ラーメンの食べ方がおいしそうじゃないとか、
ようするに、しっくりとこない何かがあったわけです。

つまり、このコマーシャルを見た人に対して、
「言葉じゃないところで伝えたいこと」がちゃんと伝わる映像に
なるまで、OKを出さなかったんですね。


もちろん、

この見極めができるかどうか

が上田氏の力量であり、クリエイターとしての能力が
発揮されるべきところ。


ただ、不思議なことに、いい映像が取れた時は、
上田氏だけでなく、周りのスタッフも

「今のは良かったね」

とうなずきあっているんですね。


言葉以外で伝わること

には一定の普遍性があることがわかります。


人は、たとえうまく言葉で説明できなくても、

いいものと悪いもの

を感性によって瞬時に見分けることができますよね。


言葉も相変わらず重要ですが、
今後ますます画像が多様されていくであろう
マーケティング・コミュニケーションの世界では、

言葉以外で伝えたいこと

をちゃんと伝えることのできる能力が
ますます重要になっていきそうです。

投稿者 松尾 順 : 11:36 | コメント (0) | トラックバック

生体認証の負の側面

みずほ銀行のATMに行くと、最近
見慣れない装置が操作画面のそばにありますよね。
(他の銀行でも、似たような装置を見かけます)

最近といっても、春先くらいには設置されていましたけど。


どうやら、日立製の「指静脈認証装置」のようです。

すでに使えるのか、
それとも利用開始を待っているのかよくわかりません。

通常の利用には差し支えないものの、
わけのわからない装置をいきなり設置しておいて、
なんの説明もないのは銀行らしい「不親切さ」ですね。


さて、上記のような装置は、いわゆる

「生体認証」

の仕組みですね。

一人ひとりで異なるパターンを持つ人体上の特徴を
本人認証のための「パスワード」として利用するものです。


生体認証に使う特徴として古典的なのは「指紋」ですが、
日立の装置は「指静脈」ですし、「手のひら静脈」を
使う銀行もあります。

映画なんかでよく見ますが、
金庫やサーバールームなどへの入室に使うのは
「眼球の虹彩」が多いですよね。


この生体認証、基本的に偽造が困難で、
また本人しか持ち歩けない(体の一部なので)という点で、
パスワードよりも本人認証が確実にできるというメリットが
あります。

近年、悪質な偽造や詐欺、盗難が相次いでいて、
銀行としては「預金者保護」のためには、
「生体認証」を導入するしかないという判断なんでしょう。


ただ気になるのは、生体認証のメリットのみが強調されて、
その負の側面についての情報があまり伝わってこないことです。

専門家ではないので体系的な議論はできませんが、
最低でも、3点、生体認証導入に伴って解決すべき課題が
思い浮かびます。


1.万が一偽造されてしまったらどうしましょ?

困難とは言え、偽造は不可能ではありません。
生体認証に使われる人体上の特徴は唯一無二であるために、
偽造されてしまうと、逆に手の打ちようがありません。

従来のパスワードなら、すぐに変更することで対応
できますが、生体認証ではそれができないわけです。

そういえば、映画「マイノリティレポート」では、
主演トムクルーズの眼球をくりぬいて棒に刺し、
セキュリティを突破してましたね。


2.身体障害者の方はどうすればいい?

何らかの理由で指や手がない方への対応はどうするので
しょうか。従来のパスワードも併用できるのなら、
そもそも生体認証の導入の価値がさがりますよね。


3.外出が大変な高齢者の方はどうすればいい?

寝たきり、あるいはそうでなくても足腰が弱って外出が
大変なお年寄りは、家族や、信頼できる介護者の方に
通帳とカードを預けて、お金の引き出し・振込みなどを
お願いしている人が多いと思います。

生体認証で本人しかお金をおろせないとなったら、
上記のような高齢者はどうしたらいいんでしょうか?


もちろん、以上のような課題に対する解決策を
いろいろと考えられているんだと思います。

ただ、生体認証にかかわる

・メリット
・デメリット
・対応策

といったことを対外的にきちんと説明して欲しいですよね。


金融業界もいまだ消費者不在の自己中心的思考が強いように
思います。

投稿者 松尾 順 : 13:01 | コメント (0) | トラックバック

ソーシャルメディア最適化(SMO:Social Media Optimization)

最近はやりのキーワードは

「最適化」(Optimization)

ですよね。


YahooやGoogleなどのサーチエンジン(検索サイト)の検索結果に
上位表示されるための対策を

「サーチエンジン最適化」(SEO:Search Engine Optimization)

と呼んだのが始まりでしょう。


そして最近は、たとえ検索エンジンに上位表示されたとしても、
クリック先のページが魅力に乏しく、購入などのアクションに
つながらないのなら意味がないということで、

「ランディングページ最適化」(LPO:Landing Page Optimization)

が重視されるようになってきました。

LPOの基本的なやり方は、
検索結果からのクリック後、最初に着地(ランディング)する
ページについていくつか異なるパターンを用意しておき、
ランダムに表示します。

そして、ユーザーのその後の行動成果(購入など)から、
最も効果的だったパターンのページがどれかを判断するという
ものです。

これは、ダイレクトマーケティングの手法として昔から採用
されてきた「A/Bスプリット」の応用版に過ぎませんが、
「LPO」と言われるとなにかとてもすごい技術のように
感じますね。


さて、SEO、LPOに代わってこれからの話題の中心になりそうなのが、

「ソーシャルメディア最適化」
(SMO:Social Media Optimization)

です。

ソーシャルメディアとは、一般の消費者や個人の
オピニオンリーダーが公開するブログやポッドキャスティング、
ミクシィのようなSNSなどのこと。いわゆる、

「CGM(Consumer-Generated Media)」

を指します。

「SMO」とは、上記のようなソーシャルメディアが引用したり、
評価や批評の対象にしたくなるようなコンテンツを提供すること
で自社サイトへの集客や好意度を高めようとするもの。

「SMO」をうまく回すためには、新しさ、楽しさ、面白さ、
役立ち、感激、感動、社会的意義・価値などを感じさせる
上質のコンテンツを継続的に発信し続けなければなりません。

これは、口で言うのは簡単ですが、
実行は一朝一夕でできるものではないですよね。


「検索エンジン最適化」(SEO)と、
「ランディングページ最適化」(LPO)までは、
外部マーケティング会社への丸投げに近い形でも
相応の成果を出すことができました。


「SMO」になると自社のマーケティング担当や広報担当が
主体的に発想し、社内外の情報を取りまとめ、
明確な方針の元で、コンテンツ制作に関わっていく必要が
あります。


だから、「SMO」はそう簡単にできることじゃない・・・


ということは逆に言えば、
SMOをきちんと実行できる企業は、高い競争優位性を確立できる
ということを意味しますよね。


Webマーケティングの文脈では、これまで

「コンテンツ」

について比較的軽く扱ってきたように思います。

即効性があまり高くなく、効果が不明確だったからでしょう。


しかし、ブログのようなソーシャルメディアの台頭によって
即効性も高まり、かつ効果測定がやりやすくなってきました。


「SMO」の重要性はこれからますます高まっていくでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (0) | トラックバック

認知の浪費家になってみる

「なぜ、階段の‘手すり’はまっすぐなのか?」


こんな変な疑問を持ったことのあるかたは少ないですよね・・・


小さいころから、さまざまなところで私たちは階段を使い、
‘手すり’を目にしてきてます。

鉄製・木製など原材料が違ったり、
断面の形(大体円ですね)はいろいろですが、どれも、
階段の傾斜に沿ってまっすぐに伸びた直線の棒である点は
同じでした。


ところが、棒形ではなく、波形の手すりで

「クネット」

という製品があるんですね!
(日経産業新聞、2006/10/06)

製造販売は、長崎・佐世保の「クネット・ジャパン」。
製品名、会社名とも、てすりの形まんまの社名です。(笑)

波の形状は、幅25センチ。
高さ15センチの標準的な階段1段の大きさに合わせて
作られ、約15センチの間隔で山と谷が交互します。

つまり、蛇のように「くねくね」しています。


従来のまっすぐなてすりは、握る手首の角度が不自然で
力が入りにくく、実は、不安定で滑りやすい形でした。

でも、「クネット」なら、
階段を上がる時には、クネットの垂直に立ち上がっている
部分を握れば、体を持ち上げやすいそうです。

逆に、階段を下る時には、水平になっている部分を握って
体をしっかり支えることができます。

クネットは、階段の上り下りが大変な高齢者にとって
特にありがたい製品ですよね。


しかし、これまで「まっすぐ」であることが当たり前だった
手すりを「くねくね」させるという発想はどこから
涌いてきたんでしょうねぇ。

この手すりの元々の考案者は、佐世保の工務店経営者と
いうことですから、日ごろ住宅を建てている中で、
なにかのきっかけで思いついたんでしょうけど、
きっかけはさておき、

「なぜ、てすりはまっすぐなのか?」
「てすりがまっすぐでなければならない理由はないよな?」
「てすりが、くねっていてもいいんじゃないか?」

といった考えをふくらませていったんだと思います。

つまり、考案者は、ごく当たり前のことに目を向け、
観察し、考えをめぐらせんでしょう。


世の中の斬新なアイディアや発明は、しばしば、こうした
何気ないこと、当然と思われていることをゼロベースで
見つめなおしたことで生まれることが多いですよね。

でも、これを実践するのは結構難しいことです。

なぜなら、私たちは、生まれながらの

「認知の倹約家」

だからです。

認知の倹約家というのは、端的にいえば

既知のことに対しては、なるべく深く考えないようにする

という傾向を持っているという意味です。

たとえば、通勤の途中などで、

「なぜ道路は平らなのか?」
「なぜ車は左側通行なのか?」
「なぜ、自分は右足と左足を交互に出して歩けるのか?」
「なぜ、人には体毛が少ないのか(類人猿にはあるのに)」

などとあらゆることに疑問を持って考え込んでいたら、
まともな生活ができませんよね。

第一、そんなことしてたら大層疲れてしまいますし・・・

だから、人は、物事に対して一定の認知(理解)を与えたら、
それを深く考えることをやめてしまうのです。

思考を節約するために。

実はこうした傾向が、常識、先入観、固定観念、偏見などを
生む背景にあるわけですが。


ですから、逆にいえば、
斬新なアイディアを生み出したかったら、たまに

「認知の浪費家」

になるのがよさそうです。


具体的には、

・日常のさまざまな物事をしっかり見る(観察)

「見るとは2度見ることである」といいますが、
目に見えているものの中から、何かに着目し、
しっかり見て、観察する

・そして、なぜこうなっているのかを考える

・さらに、自分ならどうするか、を考える

ということをやればいいですね。


問題は、頭がへとへとに疲れることですが、
発想力を鍛える頭脳のスポーツとしていいんじゃないでしょうか。

そういえば、エジソンやアインシュタインなんて偉大なる
「認知の浪費家」だったように思います。

投稿者 松尾 順 : 12:58 | コメント (2) | トラックバック

体験情報の価値

先週後半は福岡出張後、福岡・八女の実家に立ち寄り、
さらに、「吉野ヶ里歴史公園」に足を伸ばしてみました。


「吉野ヶ里歴史公園」

同公園は佐賀県にありますが、実家からは車で40分の近さです。


「吉野ヶ里」といえば、
弥生時代の大規模な遺跡発掘現場として有名ですよね。

ただ、そこが歴史公園として整備されていることは
恥ずかしながら知りませんでしたし、
それほど歴史に対して強い関心があるわけではなかったので、
たいして期待してませんでした。

でも、行ってみたらなかなか良かったんですよ!


広大な敷地に点在する、復元された当時の集落跡。

物見櫓や竪穴住居、高床式住居などが、
合計で十数棟建てられており、なかなか壮観です。

以前、1棟だけの竪穴式住居などは見たことがありますが、
村として大規模に再現されていると迫力が違いますね。

「当時の暮らしはこんなだったんだろうな・・・」

などと、当時の様子がリアルにイメージできて
とてもわくわくします。


また、当時の建物が見られるだけでなく、集落の広場では、
弥生時代の服装をしたボランティアガイドの人たちが
焚き火をしています。

そして、集まってきた来客に串に刺した里芋を
ふるまっていました。

めいめい自分で、火にあぶって食べるのです。
ちょっと肌寒い日だったので、ほおばると
あったかくて甘くて、とてもおいしかったです。


おや、あちらでは、当時の素朴な機織り道具を使って、
植物を原材料にした布を織っています。

1枚の布を織るのにどれだけの時間がかかったんでしょう。

当時の農耕の道具として使われていた、
木製のすき、くわを作っているおじさんもいました。

さすがに、木を削る道具は現代の「かんな」を使っている
という、時代考証を無視した矛盾がありましたが(笑)


もちろん、同公園には、
発掘された土器などを展示してある展示室もあります。

また、なぜだかディスクゴルフのコースがあり、
無料で遊べるそうです。バーベキューができるエリアも
ありました。

今回は年老いた両親と行きましたので
どちらも体験できなかったですけど・・・


「吉野ヶ里歴史公園」は、名前は固いですが、
自然がいっぱいの広大な公園で開放感を味わえるし、
家族連れで来れば、歴史の勉強、加えて
誰でもできる軽いスポーツ(ディスクゴルフ)、
そして、みんなでわいわいいいながら楽しめる
バーベキューと、一日を満喫できそうです。

公園の近くには、「吉野ヶ里温泉」もあります。
車で5分ほど。こちらも入ってみました。

中は、いわゆる「スーパー銭湯」です。
本物の温泉に入れて、一人500円でゆっくりできます。
まだできて3年目でしたので、きれいで清潔でした。

今度来るときは、歴史公園で一日遊んで汗かいて、
温泉で汗を流してさっぱりのコースがいい感じです。

今度は自分の家族連れで来ようと思いました。


さて、上記に書いた私の「体験談」、
ちょっとライターっぽいわざとらしい書き方をしてますが、
吉野ヶ里の良さが多少は伝わったでしょうか。


一方、吉野ヶ里歴史公園のホームページを見てください。
なかなかよくできたサイトです。特に問題はありません。

しかし、私が紹介したような楽しさや面白さは
あまり伝わって来ないですよね。


なぜでしょう・・・?


情報は客観的で、かつ構造化、体系化されています。
ですから、情報のわかりやすさや検索性は確かに優れたものに
仕上がっています。

しかし、しょせんは、

・そこに何があるのか
・何ができるのか

といった「機能的な価値」しかほとんど表現されていません。

肝心の、

・そこにいけばどんないいことがあるのか(便益価値)
・どんな気持ちになれるのか(情緒価値)

は伝えようとしていない。

ただ、サービス提供者側がこうした、
ユーザーが本当に知りたい価値を伝えることは難しいですよね。

わざとらしいし、へたをすると自画自賛になってしまいますから。


だからこそ、ユーザーの体験情報に価値があるわけです。

ユーザーによる生の体験情報は主観的で、構造化も体系化も
されていません。でも、人それぞれながらも、何がよかったのか、
どんな気持ちになったかがちゃんと伝わる。

同じ立場のユーザーの共感を得ることができますよね。


カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)の
代表取締役社長、増田宗昭氏は次のようなことを言っています。
(日経情報ストラテジー、JULY 2006)

“僕が理解しているWeb2.0はこういうことです。
 今や世の中に食べたり見たりという体験情報が存在していますが
 実は消費者はこうした情報にこそ価値を置いています。(中略)
 体験情報が世の中を動かす社会になっており、それを実現する
 技術がWeb2.0だと思います。”


体験情報、これは要するに「口コミ」です。

ネット以前は、ごく近い存在の人たちからしか体験情報は
得られませんでした。

たとえば、直接「吉野ヶ里歴史公園」に行った話を聞ける人は
あなたの周りにそうはいないはずです。(笑)

しかし、私たち消費者は、ネットに行けば多種多様のあらゆる
体験情報があふれていることを知っています。


そして、この体験情報こそが、
最も「行動するかしないか(購入判断など)」に参考になる
役立つ情報であることも私たちはわかっていますよね。

投稿者 松尾 順 : 09:28 | コメント (0) | トラックバック

想定外のトラブルへの対応

先日、友人が体験した「ぴあ」のコールセンターのずさんな対応
についてこのメルマガ&ブログでご紹介しました。

*「ぴあ」の蹉跌 勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?

私が書いた時点ではまだ現在進行形だったのですが、
無事解決したそうです。


責任者の方がきっちりとフォロー。
取り損なったチケットが別の売場に残っていたことがわかると、
その責任者がわざわざ足を運んで取りに行き、友人に送付して
くれたそうです。

おかげで、友人の「ぴあ」に対する信頼も多少は回復しました。

しかし、この一件は解決しても、ぴあのコールセンターの根本的
問題が解決したわけではないですよね。

誠意ある柔軟な対応ができるベテランの責任者が
すべての電話を受けるわけにはいかない。

経験年数や、資質もばらばらな、
多数のオペレーター全員の対応の質をどう上げていくか、
という対策が必要だと言えます。


ぴあのコールセンターでも、
なんらかの対応マニュアルは作成されており、
オペレーター教育にも力を入れているとは思います。

ですから、マニュアルに記載されている限りの対応は、
どのオペレーターも合格点以上の対応ができるんじゃない
でしょうか。

しかし、重要なのは、マニュアルには書かれていない、
想定外や例外事項の発生における対応ですよね。


友人の一件の場合、

「自動音声がよく聞き取れなかった」

というのがトラブル発生の発端。


ところが、これはマニュアルに記載されてなかったようです。

最初に対応したオペレーターは、

「これまでそのようなトラブルが発生したことがない」

と日本人らしい「前例主義」を持ち出して
責任を回避しようとしました。


実際のところ、マニュアルに対応方法の記載がないので

「どう対応していいかわからない」

ということだったのかもしれませんね。

だから、「すいません、申し訳ありません」

以上のことが言えなかったのでしょう。


最低限のクオリティを維持するために、
「マニュアル」は必要不可欠ではありますが、
あまり「マニュアル」に依存しすぎてしまうと、

「いかにマニュアルどおりにきっちりやるか」

ばかりに気持ちがいってしまい、本来の目的の、

「いかにお客様を満足させるか」
「いかにお客様とのいい関係を維持するか」

ということを忘れてしまうんじゃないかと思います。


ぴあに限らず、顧客と生で接するサービス産業、
サービス部門の方にとっての最大の課題は、

パターン化して教えることのできない、
想定外のトラブルにおける最適な対応ができる人材

の育成にあります。


これ、端的には、

「自分が顧客の立場ならどうして欲しいか」

という「共感力」を高めるということに尽きるわけですが、
言うは易しですよね・・・

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (2) | トラックバック

正直は最強の戦略?

「アウトレット」のお店に行くことありますか?


「在庫品処分だから、良い品が安く買える」

というのが本来の「アウトレット店」のはずでしたが、実際には、
アウトレット店専用の商品が開発・販売されていることが
多いらしいですね。(つまり安いなりの品質というわけです)

消費者の立場から見れば、なんだかちょっとだまされているよう
ですが、文句があるなら買わなければいいじゃないと言われたら
それまで。

あえて店員に問いただすことまではしないですよね。


こうした、店側にとってあまり都合の良くないことは、
アウトレットに限らず、一般の小売店でもあまり言わないのが
普通ですよね。

お客さんに文句を言われたり、
売上げにが下がるのがいやですから。


でも、「正直は最強の戦略」の実証例とも言えそうな
食品スーパーが「オーケー」です。
(日経ビジネス、2006年10月2日号)


たとえば、梨が並べてある棚にはこんな説明書きが
添えられています。

「二十世紀梨 まだ最盛期に比べたら、今ひとつの食味です。
 おいしくなりましたら、またお知らせ致します」


こんな記述をみたら、買う気を失くす人が多いでしょうね。
ただ、相応に値段も安いし、いまひとつの味でもいいと
納得して買う人もいるでしょう。

しかし、しこんな説明書きがなくて、
何も知らずに買った人はどうでしょう?

「オーケーの梨はおいしくない。今度から他の店で買うわ!」

と感じる人がいるかも知れません。


目先の売上げにこだわり、結果的にお客さんをがっかりさせ、
将来の売上げを永遠に失うよりは、
納得して買ってくれるお客さんだけに売る!


これは商売の王道ではないかと思うのですが、
実践できる企業はとても少ない。
オーケーはその数少ない企業のひとつでしょう。


同社は、首都圏に41店舗を展開する中堅の食品スーパー。
知名度はあまり高くないですよね。首都圏にはライバルが
ひしめいていて決して楽な商売はできないはずです。


ところが、過去2期連続で増収増益。

これは多店舗展開によるものではなく、
既存店の売上げが伸びているからなのです。

小売店の場合、坪単価の売上げが、
店舗の業績(販売効率)を最も明確に示してくれる数字ですが、
オーケーの場合、過去3年間で543万円から649万円へと
約20%アップしています。

この数字を見れば、
顧客の支持を着実に高めてきたことがわかりますね。


おそらく、食品スーパーの商圏の狭さを考えると、
市場シェア(新規顧客数)の向上よりも、
顧客シェア(顧客一人当たりの購入金額)
の増加の影響が大きいんじゃないかと思われます。


オーケー社長の飯田勧氏によれば、
同社の経営は極めてわかりやすいものです。

つまり、

「熱烈なオーケーファンを作ること」

であり、そのために大事なことは、

「裏切らないこと」

だそうです。


このため、冒頭に紹介した梨のように、
商品の短所や、あえて安い(高い)理由を同社では
包み隠さず、正直に顧客に伝えているわけです。

売場のいたるところで見られる商品についての
ネガティブ情報を記載した説明書きをオーケーでは、

「オネスト(正直)カード」

と読んでいます。


さて、こうしたやり方は、心理学の分野では

「両面呈示」

と呼ばれるものの応用ですね。


商品の長所ばかりを訴えるのは「片面呈示」です。

これは、売りつけるために、あえて短所を隠しているかも
しれないという疑惑を買い手にいだかせます。

しかし、商品の長所だけでなく、短所も正直に顧客に伝える
「両面呈示」なら、無理に売ろうとしているわけではないという
「売り手の誠意」を伝えることができる。

だから、顧客の信頼を勝ち得ることができる。

同社はWebサイトを立ち上げていませんが、
熱心なユーザーがボランティアで運営している店舗紹介サイトが
あるほどです。

投稿者 松尾 順 : 18:18 | コメント (0) | トラックバック

特許より意匠

ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)向けに今年5月から
出荷を開始したシャープの携帯端末「AQUOSケータイ」。

*SoftBank 905SH


シャープが液晶テレビ「AQUOS」で培った技術を活かして開発した、
モバイル機器向け地上デジタル放送「ワンセグ」対応機種です。


この機種について、競争戦略的な観点から着目すべきなのは、
AQUOSケータイのデザイン、特にスピーカーの形状について
シャープが「意匠権」を取りまくっていることです。

上記完成品の写真からはスピーカーの形状は確認できませんが、
開発中の機種を含む同社製携帯端末の画面の下や、
操作部のあちこちに配置した長方形のスピーカーに関して
10件以上、意匠権を登録しています。
(日経デザイン、October 2006)


この結果、競合他社の携帯機種は丸みをつけたスピーカーを
開発して、シャープの意匠権の侵害を避けています。

競合他社にとっては、もはや長方形のスピーカーを
自社の携帯のデザインとしては採用できない状況に
追い込まれたといえるでしょうね。

それだけデザインの自由度が制約されてしまうわけです。


携帯電話の意匠権は、
最近は年間300件以上新規登録されています。

部分意匠登録制度によって前述のように
スピーカーだけ、あるいはボタンだけという権利も取れます。

製品の機能や性能、品質面での差別化が難しい今、
製品自体が持つ唯一の差別化要素ともいえる「デザインの一定
の形状」をお互いに取り合っているわけです。


考えてみれば、デザインは視覚的に

「似ている・似ていない」

が判断しやすく、競合他社が優れたデザインを持つ製品を
出してきたからといって、おいそれと真似するわけには行きません。

東南アジアの無名企業が、意匠権侵害と知りつつ、
物まね製品を開発・販売することは頻発していますよね。

しかし、日本の大手企業が同じことはできません。
もし、意匠権侵害で訴えられたら、社会的な評判の低下に
つながりかねないですからね。


ところで、人のアイディアを守るための制度として
意匠権よりも私たちになじみのある「特許制度」は、

「自然法則を利用した技術的なアイディア」

が保護の対象です。

ただ、これはあくまで「技術」が対象であって、
この技術を基にした製品を保護するものではありません。


たとえば、世紀の発明といわれた

「青色発光ダイオード」

には、「青色発光」を実現するための異なる技術が
複数開発されています。

このため、お互いに他社の「特許」を侵害することなく、
堂々と「青色発光ダイオード」を開発・販売している企業が
複数あるんですね。

つまり、「特許制度」の場合には、同等の機能や性能、
品質を実現できる別の技術を開発するという形で、
特許権侵害を回避することができるわけです。


しかし、「意匠」の場合、視覚的に比較しやすい

「デザイン」

が対象ですから、権利侵害を回避することが極めて難しい。


このことを踏まえると、
これからは、技術を守る

「特許」

以上に、

デザインを守る

「意匠」

が、企業戦略、また、マーケティングにおいて、
ますます重要になってくると言えますよね。

投稿者 松尾 順 : 17:17 | コメント (0) | トラックバック