シンプルマーケティング(11)「R25」のプロダクトコーン修正モデル

前回、シンプルマーケティングにおける
プロダクトコーンの修正モデルをご紹介しました。


●シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル


修正モデルでは、商品を4つの要素(切り口)、すなわち

・規格=企業側の商品定義
・機能的ベネフィット
・心理的ベネフィット
・エッセンス=商品が持つ性格

で見るんでした。

ベネフィットが、機能的、心理的の2つに分離されて、
より商品開発などに応用しやすくなっているモデルです。


で、実は、リクルートの無料情報誌「R25」の企画に当たって、
プロダクトコーンの修正モデルが採用されていたんですよ。

「R25]という斬新で、
そして成功した新媒体の特性をプロダクトコーンで見ると
くっきり見えてくるのでご紹介します。


まず、「R25」について最新の基本情報を整理します。

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創刊:2004年7月

発行部数:60万部

配布エリア:首都圏(1都3県)
      ただし、東京都23区で全体の65%を配布

対象読者層:M1層(20-34歳の男性)

コンセプト:紙媒体である新聞や雑誌の橋渡しとなる
      ペーパーポータル

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そして、

「R25」のプロダクトコーン修正モデル

は次の通り。

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[規格]

木曜日夕方、駅近辺で配布する無料で読める
クオリティの高い情報誌

[機能的ベネフィット]

昼休みや電車の中など、すきま時間に暇つぶしで
読める情報誌

[心理的ベネフィット]

幅広い情報が手軽に得られて役に立つ、
得した気分になれる情報誌

[エッセンス]

勇気づけられ、応援してくれて、
自分が変わるきっかけをくれる情報誌
(自分になくてはならないもの・・・)

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「R25」は、単なる暇つぶしという機能だけでなく、
お役立ち感や得した気分といった心理的ベネフィットを
与えることを目指したわけです。


また、ターゲットの「M1層」は、ほんとは
新聞くらい読んでないとかっこ悪いと思っている。

ところが、現実には、基本知識がなかったり、
専門用語が難しすぎて理解できず、なかなか読めない。

「R25」は、そんな基本的なところを
わかりやすく解説してあげることで
新聞や雑誌を読めるようになる。

つまり、

新聞だってちゃんと読んでる、
いけてるビジネスパーソン!

に変われるきっかけをあげるという「エッセンス」を
踏まえた誌面づくりをしているんですね。

M1層のまさに琴線に触れるプロダクトコーンだと
思います。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 17:03 | コメント (2) | トラックバック

不安を解消するための情報提供

「顧客視点」に立つこと、つまりお客様の立場に自分を
置いて考えるというのはなかなか難しい。

これは、私自身も実感していますし、
繰り返しこのメルマガ&ブログでも指摘してきました。
(耳タコすいません)


だとするなら、お客様からの声をどんどん吸い上げて、
それを迅速に商品開発、改善に反映させるという仕組みを
構築するというのがひとつの解決策になりますね。

昨日ご紹介したサントリーさんは、
そうした仕組みを既に安定的に運用し、相応の成果をあげて
いたわけです。


サントリーのお客様センターにまつわる話は、
桜缶事件や、伊右衛門のラベル表示以外にも、いろいろと
興味深いネタが手に入りましたが、
もうひとつだけご紹介したいのが、サントリーのチューハイ、

「-196℃」

のことです。


このチューハイは、果物を-196℃で瞬間凍結する
「瞬間フリーズ製法」により、果実本来の味わい
が楽しめるというのが売りです。

たとえば、「冷凍レモン」では、
皮も含めてまるごとのレモンがチューハイの中に
閉じ込めてあると、発売当初から宣伝してましたよね。


この「-196℃」に対して、お客様センターの元には、

「確かにおいしい」

というポジティブな「ご指摘」も寄せられましたが、
ネガティブな「ご指摘」としては、

「皮には、防カビ剤など、ポストハーベスト農薬が
 使われていないだろうか。残留農薬が心配だ」

というのが多かったそうです。

もちろん、サントリーとしては、
残留農薬などに対する対策は万全でした。

しかし、そうしたことについての情報は、
当初はまったく提供していなかったんですね。


しかし、消費者に指摘されて初めて、
製品の良さを伝えるための情報だけでなく、
不安を解消するための情報も併せてきちんと提供しないと
販売を阻害してしまうことに気づいたというわけです。


サントリーのお客様センターには年間12万件の消費者の声が
届くそうですが、その内容を分析すると、
近年は、やはり

環境問題やリサイクル

に関するものが増加しているそうです。


また、食の安全性についての意識は、
女性の方が高いという先入観を抱きがちですが、
実際には、食物に含まれているかもしれない

「農薬や防カビ剤が心配」

と考えるのは、男性の方が高いのだそうです。


やはり、先入観や思い込みにとらわれず、
丹念に消費者の生の声を集め、
分析することが必要だということですね。

投稿者 松尾 順 : 14:52 | コメント (0) | トラックバック

サントリーの桜缶事件

「おたくがやってることは詐欺じゃねえのか!」

サントリーお客様センター(コールセンター)に
すごい剣幕で消費者から電話がかってきました。


この消費者が激怒していた理由は次のようなものでした。
(この消費者を仮に「遠藤さん」としましょう)


春先のことです。

遠藤さんは、桜の花びらを缶の表面にあしらったサントリーの
発泡酒「純生」をコンビニで買いました。

季節限定デザインの「桜缶」です。


遠藤さんは、

「これはお花見にぴったりだ!!」

と思ったんでしょうね。


今度は量販店で24缶入り箱を花見用に購入。
もちろん、箱の表面にはピンク色の鮮やかな桜の花が
咲いていました。

さて、花見の日、遠藤さんがいざ飲もうと楽しみに
ケースを開けたところ、中味は普通のデザインの純生!

「なんだよう、普通の缶じゃねえか!」

期待を持たせた花見仲間のひんしゅくも買ってしまい、
頭にきて、サントリーに電話をかけてきたというわけです。


サントリーとしては、
「桜缶」はコンビニ向けなどの単品販売向け。
一方、量販店などに流す24本入りは、
外装だけが桜のデザインで中味の缶は通常のデザインにする
というのは、別に消費者をだますつもりはなく、おそらく
生産ラインの都合でそう決めていただけのことでしょう。

しかし、まさか、遠藤さんのようなクレームが来るとは
思ってもいなかったんですね。

これは、要するに「顧客視点」に欠けていたということです。


サントリー内部では、これを

「桜缶事件」

と呼び、「顧客視点」の重要性をサントリーの社員に
認識してもらうための「CS(顧客満足度)研修」で
取り上げているそうです。

同様に、顧客視点の大切さを社員に気づかせるための
失敗事例として上記研修で取り上げているものに、
伊右衛門の不適切なラベル表示があります。


伊右衛門では、以前、
暖めて飲める345mlのペットボトルに赤字で

「ホット専用」

と表示していました。

サントリーとしては、
これでなんの問題もないと思っていたわけです。


ところが、お客様センターにはこんな電話が次々と
かかってきました。

「ホット専用とあるけど、冷やしても大丈夫なの?」

「もうさめてしまったんだけど、飲んでも大丈夫ですか?」


サントリーは、
消費者からこんな問い合わせを受けて初めて

「ホット専用」

というラベル表現の不適切さに気づかされたのです。


今は、こうした消費者の声を受け、ラベル表示を

「温めてもおいしい・・・」

といった表現に改めています。


いやあ、お客様の立場になって考えることって
本当に難しいものですよねぇ・・・


サントリーではこうした失敗を重ねながら、
お客様センターで受けた消費者からの問い合わせや
ご指摘(クレームとは言いません)を
できるだけ迅速に商品改良に結びつけることに
尽力しているそうです。


*以上は

I.M. Press 第6回ビジネスセミナー
“顧客を巻き込む”マーケティング戦略

における

サントリー(株)お客様コミュニケーション部
東京お客様センター長 松尾正二郎氏

の講演よりご紹介しました。

投稿者 松尾 順 : 17:55 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル

商品を3つの要素(切り口)、すなわち

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)

で考える「プロダクトコーン」ですが、
実際の商品に応用しやすいよう、若干の補足が加えられた

「プロダクトコーン修正モデル」

が、シンプルマーケティング著者の森さん自身から
提案されています。


修正モデルでは、ベネフィットをさらに2つの要素に分けます。
具体的に言うと、

・機能的ベネフィット
・心理的ベネフィット

です。


「機能的ベネフィット」とは、規格から直接もたらされる
ベネフィットのこと。「どんな商品なのか」ということに
ついての描写が、客観的・直接的に伝わります。

しかし、同じような機能からは同じようなベネフィットしか
謳えないので、競合製品との違いを明確化しにくいという問題が
起こります。

また、生活者側が規格を十分に理解していないと、
それが心理的にどんな満足を与えてくれるのかを翻訳することが
できず、よくわからない製品という印象を与えてしまいます。

たとえば、

「(DOHCのツインターボだから)加速がつきます」

という機能的ベネフィットは、車好きの人にはともかく、

「DOHCのツインターボ」

という規格が理解できない人にとっては、
あまり意味のない情報です。


しかし、ここで一歩踏み込んで、

「(加速がつくから、スピード感が味わえて)
 いやなことを忘れてスッキリする」

と心理的ベネフィットを打ち出せば、
説得力が増すというわけです。


さて、考えてみれば、パソコンの広告コピーって、
大半が機能的ベネフィットですね。

最近だと

「デュアルコアのパワーで・・・パフォーマンスを
向上し、より多くのタスクの処理を可能にします」

といった表現が目につきますが、

「ソフトがさくさく動いて、気持ちよく仕事が進みます」

くらい言ったらどうでしょうか。


なお、機能的ベネフィットから心理的ベネフィットに踏み込んで
成功した事例としては、「LEON」が面白いんじゃないでしょうか。


「LEON」以前の男性雑誌は、

「クラシコイタリアをおしゃれに着る」

みたいな、そんな機能的ベネフィットの訴求どまりでした。


しかし、「LEON」は、要するに、

「オヤジもモテたいんだ!!」

という本音を見抜き、

「ちょいモテオヤジ」「ちょいワルオヤジ」

で心理的ベネフィットを訴求したわけです。


そうですよね、森さん?

◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 18:24 | コメント (1) | トラックバック

40万円の化粧品を売る方法

以前、カネボウ化粧品が、40万円の化粧品(コンパクトと口紅)
を発売したことがありました。

漆塗りの贅をつくしたパッケージだったそうです。


中味も相応の品質のものだったんでしょうけれど、

「こんな高い化粧品、誰が買うんじゃい!」

と、さすがのスーパーカリスマ販売員、
長谷川桂子氏も思ったそうです。


ともあれ、長谷川氏は、まず地元の高額納税者番付リストを入手。
つまり、地元のお金持ちリストですね。

そして、トップの人から順番に回りました。
しかしまったく売れません・・・


長谷川氏は、40万円の化粧品と向かい合い対話をしたそうです。
(長谷川氏は、よくこうして商品と会話するそうです)

「あなたは、どうやって売って欲しいの?」

よく見ると、この化粧品の漆塗りのパッケージには、
平安絵巻が描かれていました。

そこで、長谷川氏はそれから4日間、図書館にこもり、
「漆」と「平安物語」の勉強をしました。


以来、セールストークの中では、漆のすばらしさを
伝えつつ、見込客を平安の世界へと誘ったのです。

その結果、単価40万円のこの化粧品を
周囲が驚くほど売りまくったそうです。


化粧品は、
コンビニで買える1000円前後の商品も、
丁寧なカウンセリングを受ける百貨店の高級ブランドも、

その実質的な「利用価値」は大差ないですよね・・・

両者の価格差が、仮に10倍あったからといって、
高級ブランドを使えば、コンビニブランドより
10倍きれいになれるということではないでしょう。(笑)


つまり、両者の価格差はデザインやサービスなどの
付加価値部分と、それをきちんと伝えた結果としての
「ブランドイメージ」の差です。

したがって、

「ブランドイメージ」

は、別の見方をすれば、
さまざまなコミュニケーションを通じて形成された

「情報価値」

であると言うことができます。


長谷川氏も、このことがわかっていたから、
40万円の化粧品の持つストーリー性(平安物語)を見込客に
訴求することによって「情報価値」を高め、
販売することに成功したわけです。

カネボウでは、昨年「12万6千円」の口紅を発売してますが、
この商品も、長谷川桂子氏率いる、岡山・新見の「安達太陽堂」
ではガンガン売りまくっているそうです。


機能、性能、品質において差別化の困難な今、
ブランディングやコミュニケーションの重要性を
再認識されられますね。

投稿者 松尾 順 : 10:57 | コメント (0) | トラックバック

「あら、○○さん、お帰りなさい!」

昨日に引き続いて、
カリスマ販売員、長谷川桂子氏率いる、「安達太陽堂」の話です。


長谷川氏によれば、
リピート客を増やすために同店が重視していることは、

「落ち着く、慣れる、ほっとする店づくり」

だそうです。


これは、人間の

「帰属欲求」
(自分の居場所だと感じられるところが欲しい)

という心理を充たしてあげること。

そのために大事なことは、
まずお客さんの名前を呼んであげることです。

なんたって、世界で一番心地よい言葉は「自分の名前」です。
名前を覚えてくれていてうれしくないお客さんはいませんよね。


朝方なら、

「あら、松尾さん、おはようございます」

夕方なら

「あら、松尾さん、お帰りなさい!」

と呼びかけます。


なお、名前だけじゃなく、

「あら」

という言葉をつけるのも重要だそうです。

私はあなたを「いつも来てくれるお客さん」だとわかってますよ、
そして、「また来てくれてうれしいですよ」という気持ちが
伝わる感嘆詞だからでしょうね。

こうして、自分のことを知ってくれている、歓迎してくれる
なじみの店という安心感も生まれる。

また戻ってこようという帰属欲求がおおいに刺激されますね。


長谷川氏は約3千人の顧客を覚えているそうですが、
当然ながら、出張などで不在の時の新規客は覚えられません。

そこは、10人いるスタッフの誰かが代わりに

「あら、山田さん・・・」

と呼びかける。


でも、もしも誰も覚えていない場合は、
新人のスタッフが、かわいらしく、

「申し訳ありません、どちらの町に(お住まい)でしたか」

と、どこに住んでいるかをさりげなく尋ねます。


「あら、□△町よ」

とお客さんが答えたら、カウンターの下で大急ぎで
顧客カルテをめくり、お客さんの名前を探すのだそうです。

そして、最初から覚えていたかのように

「あら、鈴木さん、お帰りなさい!」

と長谷川氏が出迎えるのです。


同店では、この連係プレーができるように
顧客カルテは名前順ではなく、地域別に分類されているそうです。

住んでいる地域を聞けば、
お客さんのカルテが探し出せるようにです。

自分の名前を改めて聞かれて、
生じるであろうお客さんの不快感を避けるために
ここまで徹底していることに驚きますね。


余談ですが、アキバ系メイドカフェなどでの挨拶、

「お帰りなさい、だんな様!」

は、男性の帰属欲求を刺激する最高の言葉ですね。
(もはや、自宅ではこの言葉を聞くことはできませんし・・・)

投稿者 松尾 順 : 09:44 | コメント (0) | トラックバック

4色ボールペンによる顧客管理法

人口2万4千人の岡山県・新見市に

「安達太陽堂(昭和町店)」

という化粧品店があります。

店舗面積約100坪、スタッフ10名で年商2億円を上げる地域一番店。

カネボウの専門店向けブランド「トワニー」の取り扱いでは、
10年連続日本一の売り上げを記録しています。


同店を率いるのは、カリスマ販売員として有名な長谷川桂子氏
(専務取締役)です。

長谷川氏は、

「商売はリピート」

と言い切ります。

人口わずか2万4千人の地方都市では、新規客の心をつかめず、
リピート客にできないお店は、早晩つぶれるしかないからです。


だから、長谷川は、顧客の心をつかむために
さまざまな工夫と努力を重ねてきました。

そのノウハウは、人間心理に対する深い理解に基づいていて、
どんな業種・業態であろうと、またオフライン、オンラインで
あろうと応用可能な普遍的な原理と言えるものです。


今回は、長谷川氏が編み出したノウハウの中からユニークな
顧客管理法をご紹介します。(長谷川氏の講演会で聞いた生の
情報です)


安達太陽堂では、ポイントカードを導入していて
ポイント管理についてはコンピュータを利用していますが、
顧客カルテの作成はすべて手作業だそうです。

ただし、記入方法に工夫があります。


長谷川氏をはじめスタッフ全員は4色のボールペンを持ち、
顧客によって使い分けています。

緑・・・午前中に来店したお客さん
青・・・午後に来店したお客さん
赤・・・DMで来店したお客さん
黒・・・配達したお客さん


このように、買い手の購入状況によって色を変えることで、
たとえば、緑だけで購入履歴が書かれたお客さんは、

「午前中しかこれないお客さん」

ということがパッと判断できる。
(これが、どのような意味を持つのか説明してくれません
 でしたが、おそらく、そのお客さんと相性のいいスタッフの
 勤務時間と合わせるといったことに使うのでしょうね)

また、赤だけで書かれたカルテのお客さんは、
DMに掲載するインセンティブのような特典がないと
来店しないお客さんということがわかりますから、
案内の内容もそれなりのものに変えることができるそうです。


同店で行われている、こうした切り口の顧客管理法は、
現場での経験を通じて生まれたものであり、
極めて効果的なやり方になっています。

しかも、あえてIT化していない点が重要なのです。

色をたくみに使い分けることで、
論理的な分析ではなく、直観的な理解・判断を可能に
しています。

データベースを導入したからといって、
顧客管理がうまくできるわけではないことを
実感させられますよね。

投稿者 松尾 順 : 11:09 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番

取り上げる間隔が空いてますが、

「シンプルマーケティング」
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

の内容紹介を続けます!


シンプルマーケティングの中核と言える、

「プロダクトコーン理論」

は、シンプルでわかりやすい

「総合的な商品定義」

であるということを前回書きました。

前回はこちらを参照ください。

再度ポイントをおさえておきましょう。

プロダクトコーンは、次の3つの要素で構成されています。

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)


実際の商品(サービス)への適用方法の例としては、
シンプルマーケティングに掲載されている

「レストランヒルトップ」
(高層ビルの50階にある架空の店)

の場合、次のような定義になります。

-----------------------------------

規格:50階建てのビルの最上階にあり、一流のシェフと一流の素材、
   美しい夜景が楽しめる

ベネフィット:ねらった女性をおとせる

エッセンス:誘惑

-----------------------------------

なるほど・・・ですね。
森さんをご存知の方ならおわかりですが、
実に森さんらしいスマートな定義です。(笑)


さて、(潜在)顧客とのコミュニケーションにおいては、
プロダクトコーンの3要素をどのように訴求していったらよい
のでしょうか。


同書によれば、

「規格→ベネフィット→エッセンス」

の順番で訴求するメインの対象を移行させるのが基本です。
(もちろん、当該商品の市場や成長、競合状況によって、
メインとすべき訴求対象が変わってきますが)


たとえば、カロリーメイトの場合、
発売当初(82年~)は、

「バランス栄養食」

という「規格」を訴求してましたよね。

しかし、92年には広告コピーを

「朝カロリーメイト、昼カロリーメイト、夜は友人と会食。
 新しいダイエットの提案です」

と変えて、メインの訴求対象を

「ベネフィット」

に移行しています。


同書では、カロリーメイトの訴求対象が「エッセンス」に
移ったかどうかについては触れられていませんので、
私が勝手に追加説明してみます。

近年の広告コピーを振り返ってみると、2000年から、

「食べるケイタイ」「モバイル」


といった表現が使われていましたので、

「手軽な」

というエッセンスが訴求されてきたと思われます。


ともあれ、適切なコミュニケーション戦略が功を奏して、
カロリーメイトは、現在、売上200億円超のロングセラー商品
となっていますよね。


さて、森さんによれば、大半の企業は、
「規格」からいきなり「エッセンス」に移行しがちだそうです。

「ベネフィット」訴求を飛ばして、
イメージ訴求に走ってしまうわけです。

結果として、有名タレント、モデルがにっこり微笑むだけの
コミュニケーションになってしまいます。

これは、「感性マーケティング」の罠にはまっているのだと
同書では指摘されています。


また、イメージ(エッセンス)中心の戦略を実施している業界
では、ベネフィットよりも、むしろ「規格」を訴求の核に
戻した方が効果的だそうです。

たとえば、ビール業界では

「どういうわけかキリンです」

という言葉で代表される、

「イメージによるコミュニケーション戦略」

の時代が長期間続いていました。


しかし、この流れをアサヒビールは、

「コクがあるのにキレがある」

という「辛口、生」のコピーにより断ち切りました。

そして、規格を前面に押し出したスーパードライの大ヒットで
キリンを抜き、トップメーカーへと成長することができたのです。


なぜ、規格を訴求するアサヒビールのコミュニケーションは
成功したのでしょうか?


イメージ(エッセンス)は、「慣習」に似ていると森さんは
説明しています。

当時、「ビールといえばキリン」というイメージ、
言い換えると「常識」に疑問をはさむ人はいませんでした。

まさに、慣習のように、
キリンを選ぶべき理由・根拠を深く考えることもなく、
ビール=キリンと思い込んでいたわけです。

しかし、アサヒは、そこに、明確な味の違い(規格)という
「事実」を提示した。

事実をつきつけることによって、これまでの

「慣習」(ビールといえばキリンという常識)

について、消費者に再考する機会を与えたということでしょうね。


コミュニケーション戦略を分析、また立案するに当たって、
プロダクトコーンの3要素の切り口はかなり使えます!


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 12:12 | コメント (3) | トラックバック

コンテクスト・リーディング

私は、マーケター向けの各種講座を提供する

「シナプス・マーケティング・カレッジ」

の講師として、初心者を対象に、
マーケティングリサーチの基礎の基礎を学んでもらう

「マーケティング・リサーチ・エッセンス」

を担当しています。


それで、講師としての立場(責任)上、
マーケティングリサーチの教科書や関連本はかたっぱしから
買い揃え、しばしば読み直しているんですが、
どの本にもほとんど説明されていないテクニックがあります。


それは、

「コンテクスト・リーディング」

です。


「コンテクスト・リーディング」は、
アンケート調査結果を集計データとして分析するのではなく、
1枚1枚の調査票(「個票」と言います)に立ち戻り、
設問の頭から最後まで通して眺めるやり方です。

目的は、調査票を通じて、回答者一人ひとりの行動や心理を
深く理解しようとすることです。

このため、本来は「数字」(実数、%)で把握する定量的手法
であるアンケート調査を定性的に、つまり数字抜きで分析する
んですね。


「コンテクスト・リーディング」は、
リサーチの王道から見たら、イレギュラーな方法ですし、
確立された方法論があるわけではないため、
教科書にはほとんど登場しないんでしょう。
(もし詳しく書かれてある本があったらぜひ教えてください)

ただ、コンテクストリーディングからは、
集計結果という、「個」が埋没したデータからは見えてこない
知見が得られます。

ですから、必要に応じ、従来の集計に加えて、
コンテクストリーディングを併用した方がいいのです。


通常、アンケート調査はまず設問単位で集計します。

回答者の性別構成は男性70%、女性30%、
○○製品の保有率は28%、といったようにです。(単純集計)

ただ、これでは大枠しか把握できないので、
「男性、女性別の○○製品の保有率」といった2つ以上の設問の
組み合わせを見ていくわけです。(クロス集計)


このクロス集計、通常は2次元(2つの設問の組み合わせ)、
多くて3次元までです。

というのも、
サンプル数が小さく分割されすぎるのと、
人間の理解限界を超えるからです。

たとえば、仮にサンプル数が十分あったとしても

「地域別性別別年齢別職業別年収別○○製品の保有率」

なんて分析しようとしても、わけわからんですよね。
(もちろん、解決策として多変量解析を採用することもあります)


そこで、おおむね2次元クロスまでの分析で止めるわけですが、
正直なところ、これだとかなり薄っぺらい理解しかできないと
いうのが真実でしょう。

そこで、定量的な把握はできないけれども、より厚みのある
理解ができる「コンテクスト・リーディング」をお勧め
しているわけです。


ただ、問題だと思うのは、紙の調査票が主流だった頃と
比べて、インターネット調査をやることが多くなった昨今、
データはエクセルの表としてしか存在しないため、
「コンテクスト・リーディング」がやりにくくなっています。

インターネット調査でもコンテクストリーディングが
やりやすい仕組みがほしいなあと思います。


*今回は、メルマガ「週刊広報」(Vol.182 2006.11.16)
に掲載されていたコラム

「市場から発想するマーケティング」
(JMAマーケティングマスター、白土栄次氏)

に触発されて書きました。

上記コラムで、「コンテクストリーディング」について
詳しく解説されています。すばらしい内容ですよ。

なお、上記メルマガのバックナンバーはこちらから閲覧できます。
(まだVol.182はアップされていないようです)

投稿者 松尾 順 : 12:43 | コメント (4) | トラックバック

目を引くデザイン vs シンプルなデザイン

私は本郷の事務所を借りて、普段は一人で仕事をしています。
なので、事務所内の掃除とか、観葉植物の水やりとか、
全部自分でやってます。

また、お菓子以外の食べ物は置いてないのに、
なぜか出没する○キ○リの退治用品やトイレットペーパーなど
日用品を近くのドラッグストアでもろもろ買ってきます。

買い物は面倒ですし、日用雑貨品でふくらんだビニール袋を
さげて事務所に戻るのはちょっと恥ずかしかったりしますが、
一般消費者の目線で商品が見れる点がいいですね。


今日は、ドラッグストアの店頭で箱ティッシュのセールを
やってました。かなり安かったので1パック買おうかなと
思ったものの、やっぱりやめました。

というのも、実に派手というか、女性向けというか、
赤いバラの花が箱全面に広がってるデザインだったん
ですよ。事務所にはとても合わないですよね。

一般家庭向けとしても、
ちょっと個性が強すぎるんじゃないでしょうか。
(箱ティッシュを用のケースに入れれば見えなくなるとしても)


お店で売ってる商品は、買物客の目を引くことが必要ですよね。
だから、どうしても派手になりがちです。

逆に、その商品が実際に使用される環境にマッチするかという
発想はあまりありません。


芳香剤なんかも派手ですよね。形もへんちくりんですし。
事務所では、お客さんに見えるところにはとても置けません。

以前書きましたが、○キ○リホイホイも、
○キ○リのリアルなイラストが表面に書いてあって勘弁して
欲しい。(だから目立たないものを買ってます)


メーカー側としても、実際のところ

店頭での購買意欲を刺激するためのデザイン

と、

利用環境に合うデザイン

の二律背反に悩んでいるんじゃないかと思います。


しかし、この二律背反を解消できるのが、
カタログ販売なんですね。

例えば、アスクルが最近、エステー化学と組んで出した
事務所に置いても違和感のないシンプルデザインにした
芳香剤だからですは、従来品より売れているそうです。


アスクル社長の岩田彰一郎氏はこんなことを言っています。
(日経デザイン、October 2006)

「シンプルなパッケージの商品は、店頭では目立たないから
 売れません。僕もライオンにいたから分かるんですが、
 シンプルなよいデザインの商品を作っても
 店頭で目立たなければ、そのよさに気づいてもらえないんです」

「アスクルはカタログ販売ですから、こうしたシンプルな商品を
 販売できるんです。こうした顕在化しなかったお客さまの要望
 をアスクルなら顕在化させられるんです」


アスクルが最近だした乾電池も従来になかった
ユニークなデザインです。

カタログがあったらぜひチェックして欲しいんですが、
1,2,3,4といった数字がデカデカと表示されています。
乾電池のサイズが、誰でもぱっと分かるというわけです。

市販品は、ブランド訴求が強すぎてサイズは見えないくらい
小さくしかプリントされてませんよね。


考えてみれば、このところますます利用者が増えている
ECサイト、オンラインショップは、デジタルなカタログ販売です。

リアル店舗での販売ではできない商品提案ができるという点を
もっと活用すべきでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 23:26 | コメント (0) | トラックバック

世界ナンバーワン営業マンの極意

ギネスブックに

「世界一の営業マン」

として認定されているジョー・ジラート氏は、
15年間に13,001台の自動車を販売。

1973年には年1425台を売り、
1カ月で最高174台の販売記録を残しています。
(いまだこの記録は破られていません)


これほどの営業成績をあげられた秘訣を知りたいですよね?

営業に対するステレオタイプ(固定観念)で考えると、

相当押しが強かったんだろう

とか、

完璧なセールストークを身に着けていたんだろう

とかと思っちゃいますよね。


実際、トークのうまさや、
それなりに押しの強さというものを持っていたんだとは思います。


しかし、ジラート氏自身が語る営業の秘訣は、

「アフターサービスには骨身を惜しみませんでした。
 もう一台を売る暇があれば、アフターサービスに徹しました」

ということなのです。
(Diamond Harvard Business Review 2006 October)


その結果、営業マンになってから2、3年もすると
ジラート氏に会いたいという客が押し寄せ、予約制にしたほど。

つまり、客の方が、売り手のジラート氏の都合に合わせなければ
いけないということです。

売り手と買い手の力関係が完全に逆転してますよね。それでも
多くの客がジラート氏から車を買うことを望んだわけです。


なぜでしょうか?

ジラート氏が客に与えていた最大の価値は、
購入後の「利用価値」でした。

車が故障してジラート氏の店に来れば迅速に対応してくれる。
ジラート氏によれば、
25分以内に修理を完了するようにしていたそうです。


消費者にとっては、車を買うことが最大の目的ではなく、
快適に乗り続けられることがより重要ですよね。

しょっちゅう故障したり、故障したらなかなか修理が終わらずに
いつまでも乗れないという状態が一番困るわけです。

ジラート氏が自動車営業をやっていた頃は、今と違って
まだ自動車の故障も多かったでしょうし。


でも、売って終わりじゃないジラート氏なら、安心。
しかも、部品代をしばしば請求しませんでした。

「お金は結構ですよ。私はお客様のことが大好きなんです。
 またいらしてください」


こんな対応されたらどうです?
他の営業マンから買おうなんて絶対考えませんよね。

ジラート氏こそ、CRMの真髄、
わかりやすく言えば、

「釣った魚にえさを十分あげる」

ことでの「リターンの大きさ」を理解していた人でした。


ジラート氏は、顧客に毎月はがきを送って、

「いつもあなたのことを思っていますよ」

という気持ちを継続的に伝えていたことも有名です。


さて、世界ナンバーワン営業が言うんですから、

「アフターサービス」

こそが営業の極意であることは間違いないですよね。


ところが、今でも相変わらず常に新規顧客を追い続け、
既存客をないがしろにする

「自転車操業的営業スタイル」

で自らの首を絞めている営業マンが多いですね。
(ちょっと前にも指摘したばかりですが)


これは、営業マン本人の意識改革だけでなく、
会社としての営業方針や報酬制度の見直しも必要なんだろう
と思います。

また、アフターサービスを営業マン個々人に任せすぎると、
どうしてもムラが出ます。

したがって、会社全体の取り組みとして、
高いレベルのアフターサービスを安定的に提供できる
仕組みの構築が求められるわけです。

投稿者 松尾 順 : 09:27 | コメント (3) | トラックバック

銭湯ランナー

豪華な設備と手ごろな値段のスーパー銭湯が増え、
ますます存在価値が薄くなっている昔ながらの「銭湯」ですが、
思わぬことで、再び人気を盛り返しているところもあるんですね。
(日経新聞夕刊、2006/10/14)


地下鉄半蔵門駅そばのマンションの1階、

「バン・ドゥーシュ」

というしゃれた名前の銭湯には、夕方になると仕事帰りの
ビジネスマン、OLが次々とやってきます。

彼らは、まずロッカー荷物を預けます。
そしてトレーニングウェアに着替えると、
歩道に出て準備体操をし、マラソンの練習。

戻ってきたらお風呂で汗を流してさっぱり。


同銭湯の経営者は、

「一時は廃業も考えたけれど、今は洗い場の拡張を検討中」

だとか。


マラソン客が増え始めたのは、2007年2月に初開催される

「東京マラソン」

の一般申し込みの受付が始まった夏ごろから。


最近は健康意識がますます高まってますが、
ジョギング用のおしゃれなウェアも登場して、
とりわけ、若い女性のランナーが急増しているようです。

皇居周辺なら警官が多く、
夜間に走っても安心なんですね。

ただ、仕事帰りに走ろうとする場合の問題は、
着替えたり、荷物を置いておける適当なところが
なかなか見つからない点でした。

しかし、「銭湯」がランナーのための格好の場所を
提供してくれてありがとうというわけです。

皇居周辺を走る「銭湯ランナー」、
ますます増えそうですよね。


このケース、非常に特殊な状況なので
あまり参考にならないと感じるかもしれません・・・

でも、人々のライフスタイルの変化が、
新たなニーズを生み出すということはしばしば起きている
ということ、それをうまくすくい取れば、
たとえ斜陽産業でも復活できるという可能性を示していると
思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (0) | トラックバック

ベラドンナ

ぱっと見、まったく同じにしか見えない2枚の女性の写真を
男性に見せ、

「どちらが魅力的か?」

と聞いた実験があります。


その結果、聞かれたすべての男性が、
同じ写真を他方よりも魅力的だと答えました。


2枚の写真の違いはどこだったかわかりますか?

それは、「黒目」(瞳孔部分)の大きさでした。

片方は、ちょっとだけ「黒目」が大きくなるように
修整してあったのです。


そして、実験ではすべての男性が、
「黒目」が大きい方を魅力的だと感じたそうです。

しかし、彼らはその理由を説明することができません。
感覚でそう判断したからです。

でも、答えは不思議に一致していた!


実は、「黒目」は、
好きなもの、関心のあるものを見ると拡大するんですね。

例えば、赤ちゃんの写真を見ると、
女性の黒目は拡大します。

男性の場合は、子供がいない場合は拡大せず、
自分の子供がいる場合にのみ拡大する傾向があります。
(子持ちの男性なら、実感としてうなずける結果ですよね・・・)


男性は、目の前の女性を見た時に、
彼女の黒目が拡大していれば、それは

「自分に関心がある(らしい)」

というメッセージであることを無意識に感じているんです。

だから、男性としても、
自分を好きになってくれそうな女性をより魅力的だと思う。


こうしたことが自分にもわからない無意識のところで
起きているというのが本当に不思議だと思います。


ただ、黒目が大きい方が魅力的に見えるということは
女性たちは知っています。(よね?)


昔、イタリアのコールガール(娼婦)は、
瞳孔を拡大させる作用のある目薬を利用していたそうです。

有毒なイヌホウズキから作られたこの目薬は、
つけるとより美しくなるといわれたので、

「ベラドンナ」(イタリア語で「美しい女」の意味)

と呼ばれていました。

最近では、
ジョンソン&ジョンソンのコンタクトレンズで、
黒目の輪郭を際立たせ、黒目がしっかり見える製品
「ワンデーアキュビューディファイン」が発売され、
結構売れています。

今まで、こうした製品がなかったのが不思議ですよね。


しかしまあ、
人間の行動の8割方は無意識に行われているということが
今回の実験からもよくわかります。


今回の話のネタは、
「裸のサル」のデズモンド・モリスの名著、
「マンウォッチング」でした。

投稿者 松尾 順 : 23:56 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論

シンプルマーケティングの内容紹介、まだまだ続けます。
まだたくさん面白い話が山積み状態で残ってますから。


さて、今回取り上げる「プロダクトコーン理論」は、
シンプルマーケティングのハイライトとも言える理論です。

実にシンプルで、わかりやすい「総合的な商品定義」です。


プロダクトコーンは、次の3つの要素で構成されています。

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)


「規格」とは、商品の大きさ、薄さ、重さ、機能、性能など、
いわゆる測定可能な特徴のことです。

しかし、規格だけでは、
その商品を購入すべき理由が明確にはなりません。

昔からよく知られた言葉ですが、
人は、「ドリル」自体が欲しいのではなく、
ドリルを使うことで得られる「穴」が必要だからですね。


したがって、その商品を買うとどんないいことがあるのか、
すなわち「ベネフィット」を潜在顧客に伝える必要があります。


また、商品をあたかも「人」であるかのように形容し、
性格づくりを行うことは、当該商品を他社商品と差異化し、
記憶を強化するとても効果的な方法です。

これが「エッセンス」です。


具体例だと、たとえば、
花王の「ヘルシア緑茶」のプロダクトコーンは、

規格=厚生労働省の特定保健用食品の認可を受けた、
   急須で入れたお茶の約2倍のカテキンを含むお茶

ベネフィット=飲むだけで楽に、体脂肪を低減する

エッセンス=権威

となります。

ここで、エッセンスが「権威」となっているのは、
当時、緑茶飲料では初めてという「特定保健用食品」認可
という「お上のお墨付き」が、ヘルシアの性格づけに、
高い差別優位性を与えていたからです。


ヘルシアは出始めのころ、私もずいぶん飲んでましたが、
カテキンが多いという規格は、むしろ「苦い」という
マイナス要素であったにもかかわらず、
「やせる」というベネフィットに加えて、
特定保健用食品という「権威」のエッセンスがあったことが、
購入していた最大の理由だと思います。


ところで、プロダクトコーンを適用すると面白い
最新の事例としては、キーコーヒーのレギュラーコーヒー

「ご褒美コーヒー」(2006年9月発売)

があります。

ターゲットは20-30代の女性。

当商品は、

「和風スウィーツと愉しみたい」
「洋風スウィーツと愉しみたい」

の2種類。

キーコーヒーの女性社員の意見に基づき、
和風、洋風のそれぞれに合う味になるように
ブレンドしてあるそうです。

また、なぜ「ご褒美コーヒー」かというと、
日々がんばっている女性が、
自分にプレゼントする「スウィーツ」に合うコーヒーは、
「ご褒美」にふさわしい洗練された香りと深い味わいが
求められているという考えのもとに開発された商品だからです。


この商品のプロダクトコーンで見ると、


規格:和風・・・上品でやさしい甘みに調和する、豊かなコクを
        持った苦み系の味わい
   洋風・・・濃厚でまろやかな甘みに調和する、豊かな香りを
        持った酸味系の味わい

ベネフィット:スウィーツのおいしさがより引き立つ

エッセンス:ちょっとした贅沢


となるでしょうか。


レギュラーコーヒーは、
豆の種類とブレンド、煎り方以上の加工ができない素材型商品
ですから、なかなか性格づけの難しい商品です。

しかし、スウィーツとうまくカップリングすることによって、
「エッセンス」を上手に訴求することに成功していますよね。


「ご褒美コーヒー」の売れ行き、好調のようです。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 15:41 | コメント (1) | トラックバック

過剰なサービスが利益を生む事例

過剰と思えるほどの顧客サービス、非効率で利益率低下を
招きかねない手厚いサービスが高い価値を生み出す時代。

最近つくづくそんなトレンドを感じるのですが、
その好事例のひとつが、食品スーパーの「あおき」です。
(日経ビジネス、2006年11月6日)

静岡に10店舗を展開する「あおき」、
今年10月、江東区豊洲に東京初の店舗を開店しています。

同店には、まだ私は行ったことがありませんが、
人口大理石を敷き詰めた床、鏡張りの天井など内装費は坪100万円超、
百貨店の2倍以上のコストをかけています。
また、入り口付近には自動演奏のピアノが置かれています。


このように、「あおき」の外見は高級スーパーですが、
運営は個人商店的です。

各店舗・各部門の担当者が個別に商品の品揃えを考え、
仕入れを行い、自ら売るという体制になっています。

つまり、現場担当者が、
マーチャンダイザー、バイヤー、セールスの3役を兼ねていて、
昔の個人の八百屋や魚屋さんと実態は同じというわけです。


大手チェーンなどでは、
この3役が機能分化して、それぞれ別のスタッフが担当しています。
しかも、たいていマーチャンダイザーとバイヤーは本部にいて、
各店舗では、本部がまとめて仕入れた商品を販売するだけ。

本部集中のこのやり方は、確かに効率的ではありますが、
個別店舗の異なるニーズには対応できないという弱点を
抱えていますね。


そこで、「あおき」では、あえて逆の非効率なやり方を
取ることで、各店舗での個別対応が可能な顧客サービスの
実現を優先しています。


たとえば、客の一人が

「テレビで見たんだけど、チコリーは置いてないの?」

と聞かれたとしても、店先の担当者が仕入れもやってますから、

「明日来てもらえれば、仕入れておきますよ」

と答えることができます。
(これ、本部集中体制ではまず絶対無理な対応)


また、このやり方は、社員が商品の品揃え、仕入れ、販売の
すべてに責任を持てるので、とてもやりがいのある仕事です。

ですから、社員のモチベーション維持にも効果的ですね。
そして、やる気満々で働く社員は顧客にも好感を与えます。

社員満足度、顧客満足度ともに向上するというわけです。


また、「あおき」には、レジを済ませた後に、
客が自分で袋詰めするための「サッカー台」がありません。

各レジ台には、レジ係に加えて、もう一人、
袋詰めをする「サッカー」がいて、その場で手際よく袋詰め
してくれます。

袋詰めって、割れやすい卵をどこに入れたらいいとか、
結構気を使う面倒な作業ですが、「あおき」の場合、
いつもプロがやってくれるので安心ですよね。


さて、豪華な内装、個別対応が可能な運営体制、手厚いサービス
といった非効率な仕組みを「あおき」が重視しているのは、

単に食品を買うというだけでない、

「あおきという店舗での買い物体験」

全体の満足度向上です。


要するに、価格以外の付加価値で勝負しているんですね。
だから、競合店舗よりも割高な価格設定でも顧客の高い支持を
得ています。

業績を見ると、「あおき」の経常利益率は5%です。
業界平均は同1-2%ですから、
業界屈指の利益を生み出しています。

「効率化」の追求は、
そもそも利益率を高めることが目的のはずですが、
「非効率」を追求するあおきの事例を見ると、
「効率化」の意義が感じられなくなってしまいますね。


今後の高齢化社会では、
食事に関してはあまり量は重要ではなく、
高品質の商品、サービスがより強く志向されていくでしょうから、
「あおき」的やり方は今後もますます有望じゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (2) | トラックバック

CRMの好事例:展示場ご来場新聞

CRMの主眼は、

「既存顧客との良好な関係の維持」

であるというのは、
いまさら言わなくても十分おわかりですよね。


ただ、CRMのもうひとつの重要な狙いに

「見込客との良好な関係の維持」

があるという点は、
まだまだあまり浸透していないように思います。


現在の市場は、買い替え需要が主流。

見込客が、時を置かず即座に購買してくれるような商品は
めったにありません。

つまり、ほとんどの商品には「買い替えのタイミング」
というのがあり、そのタイミングにさしかからないと、
購買には至らないのです。


ですから、買い替えのタイミングを無視して、

「こちらが売りたいときに無理やり売ろうとする」

という間欠的で、ハードセル型の「プッシュ営業」は
もはや通用しなくなってきたわけです。


最近は、短期的な販売を目的としない、
ソフトなコミュニケーションを見込客と継続的に行うことで
良好な関係を形成し、買い替えのタイミングがきたら、
むこうから指名してもらうという「プル営業」を
採用している企業が長続きする成功を収めています。


以前も書いたかもしれませんが、私は、
すぐに買ってくれない見込客をあっけなく切り捨てる、
従来の「プッシュ営業」を

「織田信長型マーケティング」

と呼び、一方、見込客がその気になるまで気長に待つ
「プル営業」を

「徳川家康型マーケティング」

と呼んでいます。


さて、「徳川家康型マーケティング」の好事例と言える
面白いマーケティング施策が、
販促会議最新号の12月号(2006.12)に掲載されていました。


簡単にご紹介します。

「積水ハウス」の取り組みです。
全社ではなく、東京南支店だけでの先行的な取り組み
のようです。


同支店では3つの新聞(紙ベース)を発行しています。
うち、見込客に対するソフトなコミュニケーションが、

「展示場ご来場新聞」

です。


これは、展示場に来場してアンケートを書いてくれた
「見込客」に対して、売り込みは一切ない、
キッチン、居間、バスルームなどの住宅に関するトレンド情報
のみが掲載された新聞です。

書き手は展示場の女性社員。
受け取った見込客は、セールスをされないので安心して、
この女性にいろいろと質問してきます。

こうして見込み客との継続的な関係が深まるのが
うかがえますね。

この新聞の成果としては、毎月の受注件数の30%が、
この新聞を受け取っている方たちとなっているそうです。

これこそまさに見込み客維持の理想形でしょう。


残り2つの新聞もCRM施策の理想を実現しています。


「営業担当者新聞」は、既に家を建てた既存客向けの新聞。
やはり宣伝は一切なく、トレンド情報のみ。

成果は、1軒の展示場が年間に契約する以上の棟数を
この新聞を受け取った既存客の紹介で契約しているそうです。

これは、既存顧客との関係維持施策としてすばらしいですね。


そして、「建ててる途中新聞」。

建築中のプロセスやごみ処理の状況などを新聞に仕立てて、
近隣住民に配布するもの。

近隣からの苦情低減になるだけでなく、
建築中の住宅の見学者が増える。

こうした人たちの中から、また新たな見込客や、
顧客を紹介してくれる積水ハウスのファンが
生まれているようです。


この事例のように徳川家康型マーケティングは、
今目の前の潜在顧客を狩り取る「狩猟型」ではなく、
「種」の段階からじっくり育てる「農耕型」と
言い換えることもでき、成果が上がり始めると
継続的に安定した収益が確保できるやり方です。

しかし、短期的な売上を確保するという視点からは、
一見迂遠に見える施策です。

このため、「徳川家康型マーケティング」は、
近視眼的な企業はなかなか実行に移せない施策だと言えます。

結果的にいつも顧客獲得に大変な思いをし続けるのです。

投稿者 松尾 順 : 17:55 | コメント (3) | トラックバック

香りのブランディング

以前、

「匂いのマーケティング」

で書きましたが、

鼻、つまり嗅覚器は、目や耳など他の感覚器と違って、
脳と直接つながっています。

このため、「香り」「匂い」は、
感情を引き起こす脳(大脳辺縁系)を刺激し、
理性的に考えることのない行動を喚起しやすいのです。


この効果は、以前から商売人はわかってました。
うなぎ屋さんや焼鳥屋さんは、店先でたれの焼けるいい匂いを
流して、通行人の食欲を刺激してましたよね。


最近は本格的に「香り」をビジネスに取り入れようという動きが
目立ちます。(日経MJ、2006/11/03)

たとえば、アウトドアブランドの「ザ・ノース・フェイス」では、
ヒノキの香りを流して、都会のオアシスの雰囲気を
醸し出しています。

2年前に改装した際に、エッセンシャルオイルを流す芳香器を
導入したそうですが、改装初年度で売り上げが前年比50%アップ。
現在も2桁増で推移。

香りのおかげで売り上げが伸びたかどうかを測定することは
難しいでしょうけど、店内の快適さの要因になっていることは
間違いないでしょうね。


また、銀座にある高級腕時計ブランド「フランク・ミューラー」
では、かなりきつめの、ツンとするオリジナルの香りを
流しています。

フランク・ミューラーは、創立14年の新興ブランド。

老舗の購入腕時計とのブランド差別化のため、
あえて、好き嫌いのはっきりする「香り」を店内に漂わせる。


「たる型のフォルムなど、前衛的なブランドイメージを
 来店客に伝える」

ワールド通商フランク・ミューラーブティック営業部、
奥野倫也氏は、このように説明しています。

「香り」がブランド構築の重要な一要素として
扱われているわけです。


さて、香りのマーケティング効果は、以前から経験的には
わかっていたものの、あまりビジネスには採用されてこなかった
ですよね。

日経MJによると、

「香りを構成する物質がどのように人間に作用するかの
 生理的・化学的メカニズムはほとんど未解明」
 (近畿大宮沢三雄教授)

という点が問題でした。因果関係がよくわからなくて、
効果測定もしにくいからということでしょう。


ただ、この問題も

「ニューロマーケティング」

の浸透によって、

どんな香りを流すと、脳のどの部位が反応するのか

といったことを詳細に把握できるようになれば、
大きな発展が望めそうな分野ですよね。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

シンプルマーケティング(7)ソフトウエア的市場細分化

マーケットシェアを考えるとき、

市場全体(100%)をどこまでとみなすか

という点が重要になってきますよね。


たとえば、現在、ビール風アルコール飲料は、

・ビール(従来の)
・発泡酒
・第三のビール

と3つのサブカテゴリー(市場)に分けられていますね。


でも、おそらく消費者はこの3つのカテゴリーを
明確には区別していません。

もちろん、原材料が違うことくらいは理解してますが、
価格が安いか高いかだけで、要するにみんなひとくくりに
「ビール」です。

実際、平日は安いビール(第三のビール)を飲み、
週末は、ゆったりと高いビール(ビール、特にプレミアムタイプ)
を飲む、といったように飲み分けてたりします。


ですから、たとえ発泡酒のサブカテゴリーでトップシェアを
持っているからといって、油断することはできませんよね。

実際には、発泡酒カテゴリーだけではなく、
従来のビール、第三のビールカテゴリーの他のブランドとも
競合関係にあるからです。

つまり、こうした市場の切り方を間違ってしまうと、
「クープマンの目標値」を適用することも無効となりますし、
誤った市場分析に基づくマーケティング戦略は失敗に終わる
ことになります。


さて、市場をとらえる上で重要な市場の切り方、
いわゆる「市場細分化」は、
従来はハードウェア的なものが主流でした。

たとえば、「地域」や「規格」などで分けるやり方です。

上記ビール風飲料も、まさに

「原材料の種類や配合比率」

で分けたハードウェア的な市場細分化です。


しかし、消費者は、

発泡酒が飲みたい、
第三のビールが飲みたい

というハードウェア的な理由でブランドを選択しませんよね。


むしろ、

「喉の渇きを潤したい」

「手ごろに酔いたい」

といった、森さんによれば

「ソフトウェア的」

発想がまず先にあり、次にそのソフトウェアに最適な

「ハードウェア」(ブランドの種類)

を選択するという流れで購買行動が起きるのです。


したがって、市場細分化は、ハードウェア(規格)に
こだわりすぎず、もっとソフトウェア的なアプローチを
取り入れていく必要があります。

具体的に例示すると、清涼飲料カテゴリーでの
ハードウェア的市場細分化は、

炭酸飲料、果汁飲料、無果汁飲料、コーヒー系飲料、
新分野飲料(スポーツ飲料、ミネラルウォーターなど)

といったものです。


一方、ソフトウェア的市場細分化だと、

・「身体にいい市場」(機能性飲料や、100%野菜飲料など)
・「体に悪くない市場」(ミネラルウォーターなど)
・「適度に甘い市場」(カルピスウォーターなど)
・「甘くない市場」(ウーロン茶、お茶など)

となります。


ソフトウェア的市場細分化の方が、
より消費者のヴァリュー(価値観)やクライテリア(生活基準)
を反映したものになることがわかりますね。


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 12:42 | コメント (1) | トラックバック