ホテル・ルワンダと総表現社会の三層構造

水曜日(15日)に有楽町シネカノンで話題の映画、

「ホテル・ルワンダ」

を観てきました。

午後9時過ぎのナイトショー上映でしたが、
客席は7分の入りといったところ。

「ホテル・ルワンダ」は、
94年に同国で起きた民族虐殺が背景です。

実話に基づいています。
映画の舞台となったホテルの支配人は、
虐殺から逃れてきた民族をかくまい、彼らの命を救います。

演出は抑え気味です。派手な流血もありません。
主人公の人物像についても、いたずらにヒーロー的な描き方を
していません。

逆に、だからこそ心にじわじわと迫ってくるものがあります。
なかなかの名画です。一見の価値があります。


さてこの映画、海外では評価が高く、
アカデミー賞にもノミネートされたほどでした。

しかし、そのおかげで配給権が高騰したこと、
また「民族虐殺」という背景の重さが女性には受けないだろう
という判断で、当初、日本では公開が見送られていたんですね。


しかし、日本での上映が実現されないことを残念に思った
26歳の青年、ミズキユウタさんは、2005年6月8日、
mixi内で「ルワンダ・コミュニティ」を立ち上げ、
日本上映を働きかける活動を開始します。

さらに、『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会」
ホームページを6月24日に開設、署名運動を開始しました。

署名運動では、全国から4595名の署名が集まりました。
この数自体は決して多いものではないですね。


しかし、署名運動以外にも「ほぼ日刊イトイ新聞」で
紹介されるなど話題が広がったおかげで、
mixiに「ルワンダ・コミュニティ」を立ち上げてから
わずか4ヵ月後の10月頭には、日本公開が決定しました。

配給を決めたメディアスーツの村田敦子取締役は、

“・・・その(署名運動の)数字で動いたわけではない。
 テーマや主演俳優で話題になる要素は少ないのに、
 mixiを起点にこれだけ話題になっていることで、
 見過ごしていた作品の魅力に気づかされた”

と日経ビジネス(2006.02.20号)の記事で述べています。


こうして、ホテル・ルワンダは今年1月14日、
渋谷のミニシアターでの単館での上映が開始されたのですが、
当初から立ち見が出るほどの人気で上映館が増加、
2月20日時点で全国50館に拡大する見込みだそうです。


たった一人の無名の青年の思いが、
ネットを活用することで大きく増幅され、
莫大なお金の動く映画配給に影響を与えたのはすごいですね。

そして、おそらく公開後のヒットには、ネットを通じた口コミが
大きな効果を挙げているに違いありません。


今までは、マスメディアに登場するごく一握りの人々が
発信した情報が、その情報の受け手たる「大衆」を動かし、
大きなムーブメントに仕立て上げてきました。

しかし、だれもがその気になれば自分の意見・考えを公開できる
ネット社会(ブログ社会というべきでしょうか)では、
マスコミには登場しないものの、
ネット上で積極的に発言する人々が急激に増殖しています。


ITコンサルタントの梅田望夫氏は、近著「ウェブ進化論」
おいて、誰もが表現できるようになった現代社会を

「総表現社会」

と規定します。

そして、これまでマスメディアに登場するような、
表現者として認められた少数の「エリート層」と、彼らに
扇動される側の「大衆」との2層の間に

「総表現社会参加者」

という層をイメージすべきだと書いています。

つまり、

総表現社会は、3層(エリート、総表現社会参加者、大衆)構造
として考えるべきだと主張しているのです。


主としてブログを駆使して情報発信を行う「総表現社会参加者」
の一人ひとりは、マスメディアを駆使できるエリート層ほどの
情報伝達力を持ちえませんが、SNSやトラックバックなどで
つながるネットワークを通じて、マスメディアと同等の、
あるいはそれ以上のパワーを持ち始めています。


ホテル・ルワンダの公開に至る経緯、また公開後のヒットは、
「総表現社会参加者」の台頭を裏付けていると言えるのでは
ないでしょうか。


*『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会は、
 現在、『ホテル・ルワンダ』日本公開を応援する会に
 改称されています。

投稿者 松尾 順 : 2006年02月20日 12:48

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