動かないことが最高のサービス

発想のヒントになりそうなネタって、
いろんなところで見つかるものですね。


5年も前から日経夕刊で連載されているコラム、
「世界途中下車」は、世界各地の鉄道の旅を伝えてくれる
楽しい記事です。読んでる方、いらっしゃいますか?


さて、先日読んで「へーぇ!」と思ったのが、
英国の豪華寝台列車「ロイヤルスコッツマン」の話です。

「ロイヤルスコッツマン」は、
スコットランドを走る寝台列車で、7泊8日の旅。


しかし、スコットランドは端から端まで500kmに満たない
北海道より小さい地域です。
昼夜走り続けるはずの寝台列車で7泊8日もかかるのは
不思議ですよね。


でもちゃんと理由がありました。

「ロイヤルスコッツマン」は、始発駅、スコットランドの首都
エディンバラのウェーバリー駅を13:30に発車し、
一路ハイランドへ向かいます。

15時には英国らしくアフタヌーンティーのおもてなし。
そして、ディナーが始まる19時ころ、列車はスピーン橋駅に
停車したまま動かなくなります。

エディンバラからは、まだ250kmしか離れていない地点です。

乗務員に次の発車時間を聞くと、翌朝8時とのこと。
つまり、夜から朝にかけて13時間も同駅に停泊するわけです。

乗務員はこう付け加えました。

「夕食から就寝時間帯に走らないのは‘サービス’なのです」

確かに、動かず止まっていれば、列車の揺れでワインが
こぼれることもなく、またゆっくり安眠できますね。


いやあ、びっくりです。

「寝台列車とは、ベッドが備え付けられた列車であり、
 寝ている間に目的地に移動するもの」

といった一般的な定義でサービスを捉えてしまうと、
なかなかその言葉・定義の呪縛から逃れられないものです。

列車なのに、夜は動かさず、
「高級ホテル」そのものにしてしまう大胆な発想は
なかなか出てこないですよね。


「ロイヤルスコッツマン」の企画を担当した人は、
スコットランドのような小さい地域で、どうやって寝台列車の
サービスを成立させるか、相当頭を絞ったんでしょう。

意識的になんらかの発想法のテクニックを使ったとは思えませんが、
思考プロセスとしては、以前もご紹介した「意味の拡張」

を行ったんだと思います。

つまり、「寝台列車とは何か?」という問いの答えを
自由に、連想と言い換えを駆使して拡げていく発想法です。

・移動手段
・ホテル
・食事するところ
・寝るところ
・おしゃべりするところ
・景色を楽しむ
・出会いの場
・親交を深める場
・ポーカーを楽しむ場
・移動中はとらわれの身となる場

などなど。

その上で、こうした寝台列車の意味の拡張の結果、
出てきたそれぞれの言葉について吟味したんでしょうね。

そして、うちの列車を「高級ホテル」として考えるなら、
快適な食事と宿泊環境をゲストに提供するために、
「移動しない」のが最高のサービスだ、
という結論になったんじゃないでしょうか。


とにかく、固定的な定義、常識にとらわれないこと、
そして言葉の意味を拡張していくこと、
それが新たな発想につながるんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 2006年04月10日 06:00

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