「病児保育」のビジネスモデル

昨日とはうってかわって、社会的意義の高いお話ですよ!


さて、新しい商品開発のヒントは

「不」

の付く言葉にある、とよく言われます。

つまり、不平、不満、不便など、意識的、あるいは無意識的に
消費者が感じている問題を発見し、その解決策を考えることが
商品開発のネタになるというわけです。


ただ、非常に大きな「不」があるにも関わらず、
まずもって「採算が取れそうもない」という理由で、
ほとんど誰も解決策を考えようとしないで、
放置されてきた問題が相当あるようです。


たとえば、「病児保育」。

体調が悪くなった幼児を預かってくれる「病児保育」サービスは、
非常に少ない数しか存在していません。(全国で数百箇所)
そのほとんどが公的な支援を受けないとやっていけない
赤字運営だそうです。

補助金などの支援を受けても赤字では、
とても民営事業としては取り組めないですよね。


しかし、「病児保育」のニーズは極めて高いのです。

働く女性が増加し、夫婦共働きがごく一般的になってきた現代、
働きながら子育てをすることの難しさが「少子化」を促進
しています。

この「子育てを難しくしていること」のひとつが、
保育所不足であることはご存知だと思います。

でも、保育所の不足が解消されただけでは不十分なんですよね。
なぜなら、病気の幼児は、
通常の保育所では預かってくれないからです。

子供の具合が悪ければ、会社を休まなければなりません。
また、保育所に預けていた子供が急に熱を出した。
この場合も、親がすぐに引き取りにいかなければなりません。

たいていは母親が会社を早退することになるわけですが、
この結果、同僚に迷惑をかけたり、仕事が滞るといったことに
つながるため、仕事を続けていられなくなる。

ですから、病気の子供を預かってくれ、安心して仕事に
打ち込めるサービスを、特に働く母親は切実に求めています。


今、このニーズの存在を知ったある青年が、
社会起業家として、新たなビジネスモデルに基づく
「病児保育」サービスに取り組んでいます。

幼児保育のNPO法人、「フローレンス」代表の
駒崎弘樹さんです。
(日経アソシエにも登場されてましたね)

>>駒崎さんのブログ

さて、病児保育のサービスを立ち上げるに当たっての問題は、
「小児科医のいる保育施設の運営」を前提とすると、
採算が厳しくなる点です。

既存の病児保育サービスが赤字なのも、ここに原因があります。

しかし、駒崎さんは助成金に頼らず、事業収入で運営費を
きちんとカバーできるビジネスモデルを考え出したのです。


それは、まず「非施設型」のサービスとすること。

このため、地域の子育ての経験のある中高年の主婦を
「レスキュー隊」として組織化しました。

病気の子供を預かって欲しいお母さんから連絡を受けると、
都合のつくレスキュー隊のおばさんに連絡し、子供を
迎えに行きます。

そして、かかりつけの小児科医の診察を受けて、預かるのは
問題なしと判断された場合のみ、母親の仕事が終わるまで
「自宅」で面倒を見るという仕組みです。

預かっている間に幼児の病状に異変が起きたような場合には
待機している医療スタッフにすぐ連絡できる体制も築いて
います。


レスキュー隊のおばさんにとって、病気の幼児を預かるのは、
とても気を遣う大変な仕事ですが、自分の経験も活かせるし
それだけにやりがいもある。

私の勝手な推測ですが、自分の子育てが終わってぽっかりと
空いてしまった心のすきまを満たしてくれる、
とても魅力的な仕事じゃないかと思います。

しかも、都合の良い時だけ働けるアルバイトとして
相応の収入が得られるということで、
レスキュー隊のなり手には事欠かないようです。


一方、当サービスは、

入会金2万円、月額4千円の会員制のサービス


となっています。
(この基本料金で、月1回は無料で預かってもらえます)

子供が病気になった時しか預からない「病児保育」ですから、
預かった時だけお金をいただく料金制度では、
運営をまかなえるだけの収入が得られないためです。
(ただ、十分にリーズナブルな価格ですよね。
 一般社会人の方が無理なく支払える水準でしょう)


さて、こうして後付けでビジネスモデルを書いてしまうと、

「なんだ誰でも思いつけるアイディアじゃないか」

と思われる方もいるかも知れません。


でも、事業は、発想・企画することの10倍、いや100倍以上、
実行し継続的に運営できる仕組みを作り上げるのが大変
なのです。

フローレンスの場合は、
これだけの仕組みを作り上げるのに3年かかっています。
年内には黒字運営への転換がほぼ確実だそうです。


以上は、金子郁容先生(慶應義塾大学大学院教授)の
ご講演内容からご紹介しました。

駒崎さんとは面識はありませんが、
この仕組みが全国にも広がっていくよう、
彼にはがんばって欲しいものですね。

投稿者 松尾 順 : 2006年07月05日 11:08

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コメント

すごく良いサービス!速攻、加入しようと思ったら、中央区と江東区だけですね。。。
保育園の0歳クラスは、本当にお呼びだし&お休みが多い。
母親からの免疫がなくなる頃から、一気に病原菌を貰ってきます。じじばば達が近所でない我が家は夫婦で毎日、綱渡りです。

今から子供を作ろうかと迷っている人がこんなことを聞くと「やっぱり、無理!」と思うだろうけど、これまた、なんとかなるんだな。

投稿者 yuka.i : 2006年07月06日 10:54

yukaさん、まいど。

まだ、サービスエリアが限定されてるのが残念ですよね。

ただ、子育ては確かに大変で、まだ子供のいない人に
とってはとてつもなく高いハードルに思えるけど、
まあなんとかなっちゃうというのは、おっしゃる通り
だと思います。

投稿者 松尾 順 : 2006年07月06日 12:30

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