マーケットドライビング戦略~アジエンス、ツバキ、ラックス

シャンプーカテゴリーでこれまで圧倒的なブランド力で
トップシェアを維持してきたユニリーバの「LUX(ラックス)」。

7月に新しく投入した「スーパーダメージリペア」シリーズは、
従来のブランド戦略とは全く異なっていることにお気づきですよね。

同シリーズは、モデルとして初めて東洋人の富永愛を起用し、
黒髪、ストレートロングヘアを強調したコミュニケーションを採用。

これは、従来のハリウッドスターを起用して、
ゴージャスで輝くブロンドの髪を「憧れ」として演出してきたのとは
180度の戦略転換と言えるほどです。
(従来の路線は「スーパーリッチシャイン」シリーズで
 維持されてはいますが)


なぜ、ラックスはこのような戦略を取らざるを得なかったのか。


「黒髪」でピンとくる方が多いでしょう。

まず、花王のアジエンスの登場(2003年)が発端です。

アジエンスでは、中国人の人気女優、チャン・ツィイーを起用、
「アジアンビューティ」というコンセプトを打ち出しました。
キャッチコピーでは、

“アジアンビューティ それは、世界の新しい美の基準”

と言い切っています。

そして、ラックスが選ばれる理由となっていた従来の美の基準
「金髪」を「黒髪」にシフトすることに成功しました。


さらに、今年3月には、資生堂が「TSUBAKI」を投入。

「TSUBAKI」は、

“日本の女性は美しい”

と日本女性を賞賛しつつ、人気タレントを同時に起用することで、
黒髪をベースとしつつも、多様な髪型やカラーリングでも、
美しさが際立つことを強調しています。

この結果、「TSUBAKI」は、あっという間にラックス、アジエンスを
抜いてカテゴリートップになりました。


花王、そして資生堂が取ったブランド戦略は、
ヘアケアカテゴリーの価値基準・評価基準をずらすことが
狙いでした。

これは、競争のルール自体を変えてしまうことであり、
専門的には「マーケット・ドライビング戦略」と呼びます。

これまで王者ラックスが作ったルールの枠組みの中で
戦ってきていたのを止め、自ら新たなルールを生み出し、
古いルールを書き換えることに成功したわけですね。


このため現時点では、
ラックスは、花王、資生堂の作り出したルールの枠組みで
戦うことを余儀なくされた。

富永愛の起用と黒髪、ストレートロングヘアの強調は
同じ土俵で勝負するためのやむを得ない選択だったのです。


なぜなら、新しいルールの下では、ハリウッドスター、
ブロンドの髪は、逆にマイナス評価になってしまうから。

これまでは高い価値を持っていたブランド資産が、
新ルールの下では「負債化」してしまったんですね。


ただ、今のところ、ラックスの「スーパーダメージリペア」
の売れ行きははかばかしくないようです。

果たして、ラックスの巻き返しはうまくいくのか、
ブランド戦略の生々しい事例として今後の展開も興味深いものが
ありますね。


*マーケット・ドライビング戦略については、
 下記書籍を参照ください。

「マーケティング戦略論」
(ドーン・イアコブッチ編著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 2006年08月23日 14:43

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