シンプルマーケティング(13)ケーススタディ:午後の紅茶リニューアル

プロダクトコーンは、基本的には

規格→ベネフィット→エッセンス

と訴求の対象が移行していきますが、
「エッセンス」まで到達した後は、再び「規格」に戻るという
サイクルになることが多いそうです。


この典型的なケースが「午後の紅茶」でしょう。


キリンの「午後の紅茶」が、世に出たのは1986年でした。

当時私は学生でしたが、甘さ控えめのさっぱりした味が好きで
よく飲んでいたのを覚えています。


さて、発売20周年に当たる今年の2月、
キリンビバレッジは、「午後の紅茶」のリニューアルを実施。

前年比20%増のという大幅な売り上げを記録しています。
(日経情報ストラテジー、JANUARY 2007)


NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場した
同社マーケティング部長、佐藤章氏によれば、

「20年続く食品ブランドが前年比で20%も伸びたのは過去に
 例がないのでは・・・」

と大喜び。


今回のリニューアル成功の理由は、これまでの
「OL向けの上品な飲み物」というイメージ(エッセンス)を
訴求するのではなく、ターゲットを中高年層に置き、

「実はヘルシー」

という新たなコンセプトに基づいて、
午後の紅茶の「規格」を前面に打ち出したことにあります。


「午後の紅茶」は、元々

・低カロリー
・無着色
・低脂肪

という規格を有していました。

こうした「午後の紅茶」の特徴は、
近年の健康志向や、食品の安全性に対する意識の高まりに
合致する好ましい「規格」だったわけです。


ところが、長年イメージ重視のコミュニケーションを
続けてしまったために、消費者が持つ知覚品質はゆがんだもの
になっていました。

「カロリー高そう」
「着色料を使っているのでは?」
「甘すぎるのでは?」


そこで、今回のリニューアルでは、
「午後の紅茶」がヘルシーな飲み物であることを「規格」を
語ることで証明し、健康を気にする中高年層を取り込むことに
成功しました。


実は、リニューアルを行うに当たっては、
担当の藤川主任と佐藤部長が、方向性の違いで対立しています。

藤川主任は、当初、従来のイメージ路線を踏襲。

「最高大人品質」というキーワードで味を見直し、
「20年目の新発見」というキャッチコピーを付けた
広告・プロモーションを行う計画を立てていました。


これに佐藤部長が「ヘルシー路線」を打ち出して反対。

「何を新発見したんだ。ネタがないだろう。
 大人のムードを出すだけで買ってもらえるほど甘くないぞ」

と藤川主任に再提案を指示しました。


そこで、藤川氏は、
お客様相談室(コールセンター)の顧客データベースから、
午後の紅茶についての「不満情報」の洗い出しを行いました。

興味深いことですが、これまで午後の紅茶は6回もリニューアル
しているにもかかわらず、上記顧客データベースに蓄積された
顧客の生の声を参考にしたことは、ほとんどなかったそうです。


藤川主任は、顧客の不満情報を分析した結果、

「顧客が飲むのをやめてしまったのは、20年の歳月の中で
 午後の紅茶が不健康な飲み物であると思い込んでしまった
 からではないか」

という仮説にたどりつきます。

この仮説は、合計18人の消費者対象グループインタビューで
間違っていないことが検証されました。

そして、今回のリニューアルの新コンセプト「実はヘルシー」
に結実したというわけです。


ヒット商品を生み出す達人、佐藤部長は、
ひょっとして「シンプルマーケティング」の愛読者かも
知れません。(^o^)

*佐藤部長の「プレゼン術」について以前、このメルマガ&
 ブログでも書きましたね。

こちらです>「合脳的プレゼンテーション」

投稿者 松尾 順 : 2006年12月12日 10:35

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mindreading.jp/mt/mt-tb.cgi/339

このリストは、次のエントリーを参照しています: シンプルマーケティング(13)ケーススタディ:午後の紅茶リニューアル:

» ジミー チュウ from ジミー チュウ
シンプルマーケティング(13)ケーススタディ:午後の紅茶リニューアル [続きを読む]

トラックバック時刻: 2013年11月29日 03:39

コメント

消費者感覚に根ざした“(仮)仮説”
センスといってしまえばそれまでですが、日々意識して身に付け、永遠に磨き続けていきたいものです。

投稿者 課長007 : 2006年12月12日 21:11

課長007さん、まいど!

おっしゃるとおり。
永遠に磨き続けていきたいですね!

投稿者 松尾順 : 2006年12月13日 11:11

午後の紅茶の話は初耳でした^^
でも、まさにそのとおりですね。

古くはビールもそうですし、おーいお茶も(成功したとは言えませんが)同様のサイクルを経験しました。

自分で作っておいてなんですが、プロダクトコーン理論の最も大切なものが、この「サイクルの一方向移動」なんです。
決して逆走しない。

これがなかったら、プロダクトコーン理論は「単なるチェックリスト」で終わっていたのかも知れません。

投稿者 森@シストラット : 2006年12月19日 03:23

森さん、コメントありがとうございます。

サイクルは常に一方向移動、決して逆走しないんですね。

ブランドの記号と意味は双方向なのに、
なぜ逆走しないのか気になります。

まず記号認知が先だからでしょうか。

投稿者 松尾順 : 2006年12月19日 12:06

コメントしてください




保存しますか?