命を賭けたデザイン 完全版

お正月スペシャル(笑)として、1月1日~5日にかけて
産業スパイ小説もどきのストーリーを掲載しましたが、
第1章から通してまとめた完全版をアップしておきます。

*これは、2年ほど前にISIS編集学校の「破」応用コースの課題として
 作成したものです。(一部加筆修正)


*本文中に登場する「デザイン原器」とは、特定企業、ブランドのデザインに
 一貫性・統一感を与えるための「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。

*デザイン原器は、メーカーの研究所などに門外秘出扱いで厳重に保管されています。

*これについて書いた記事「感覚優位性」があります。


<登場人物>


●国枝丈治

H電機社長室秘書。

ジョージと呼ばれるナイスガイ。
しかし、その正体は産業スパイである。

31歳。独身。身長180cm。米国生まれ・米国育ち。母親が日本人、父親が米国人
のハーフ。実は父親はCIAのスパイであり、若い頃からCIA的な訓練を受けていた。

20代前半は、米国企業で調査業務をやっていたが、しばらく母親の母国日本で
働きたいと思い、4年前に来日した。一人暮らしのマンションは目黒にある。

そして、H電機社長より、S電機の「デザイン原器」を盗み出すという特命を受ける。

●大友健二

S電機 神奈川技術研究所 主査。

デザイン原器を守る立場にある。30歳、独身、柔道5段。
豪快で愉快な男だが、女性と話すのは苦手。

●作田ひとみ

S電機 神奈川技術研究所 副研究員

S電機の新製品開発者のアシスタント。26歳、独身。
モデルにスカウトされそうになったほどの容姿の持ち主。

●田中智史

S電機 神奈川技術研究所 総務課員 28歳、独身。

S電機の研究所の総務部門勤務。めがねをかけたインテリ風の外見。
実は韓国系電機メーカー、K電機のスパイ。
1年前にS電機にうまくもぐりこむことに成功し、やはりS電機の
「デザイン原器」を盗むことを狙っている。


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命を賭けたデザイン
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第1章:仕組まれた出会い


「おっと、失礼!」

ジョージは、踊っているひとみにわざとらしくぶつかった。

ここは六本木のクラブ。

平日でそれほど混んでいない。ひとみはナンパには慣れているから、
適当にやり過ごそうとしたがジョージの魅力的な笑顔には
逆らえなかった。

出会いはありきたりだったが、ジョージとの機知に富む会話は
楽しかった。


「今までの男たちとは何かが違うわ・・・」

ジョージは、日本人と米国人のハーフという顔立ちもさることながら、
ずっと米国で過ごしてきた。日本語は母親の教育で不自然さはない。

しかし、生粋の日本人とは明らかに違う立ち振る舞いが
ひとみを魅了したのだ。


「ドライブで気分を変えようか?」

ジョージが駐車場から出してきた車はフェラーリ。
フェラーリに乗るのは初めてではなかったが、
乗り手が違うとこんなにも変わるものだということをひとみは知った。


「もう一杯、テキーラ飲む?いつもテキーラしか飲まないのね」

ひとみはジョージに声をかける。ベッドの上のジョージは軽くうなずく。

ひとみのマンションにジョージは頻繁にくるようになった。
そういえば、ジョージがITベンチャー社長であること以外、何も知らない。

ジョージのマンションに連れて行ってもらったこともない。
ひとみはふとそう思ったが、ただジョージと一緒にいられるのがうれしくて
それ以上考えなかった。


「え、デザイン原器を持ち出すって、本気?」

ジョージの真の目的がS電機のデザイン原器だったと知って、
ひとみはやるせないものを感じた。

しかし、いまやジョージを心から愛しているひとみは、
ジョージの計画を手伝うことに躊躇しなかった。


第2章:デザイン原器持ち出し計画


「ずいぶん複雑な構造だね・・・」

ひとみから渡されたS電機神奈川研究所の見取り図を見ながら、
ジョージはつぶやく。


「警備体制マニュアルはこれよ」

ひとみが渡してくれたマニュアルには、
デザイン原器の保管場所までに突破しなければいけない厳重なゲートや、
デザイン原器を取り巻く赤外線センサーの仕掛けが詳細に記されている。


「うーん、仕掛けがわかったからといって、それだけで仕掛けを
突破できるというわけじゃないねぇ・・・」

ジョージはため息をつく。
 
CIA本部でも通用するほどの知識とスキルを持つジョージでさえ、
S電機のデザイン原器を持ち出すのは簡単な仕事ではない。

しかし、彼は知恵を絞り、着々と準備を進めた。


「なんだって、デザイン原器を狙っているやつがいるらしいって?」

大友は部下の報告を聞いて大声を出した。

相手は、自称ITベンチャー社長の国枝丈治という男らしい。
大友は、早速、尾行者をつけて行動を見張るよう指示する。


「ひとみとあいつが付き合っているとは信じられない・・・」

尾行者からの報告をうけて大友は落ち込む。

よりによって、デザイン原器を盗もうとしている奴と、
ひそかに心を寄せている部下の女性が付き合っているとは・・・

もちろん、大友は、ひとみの職場での動きの不自然さには
以前から気がついていたのだったが。


第3章:水面下の戦い


「やっぱり本当だったか・・・」

大友は、ジョージとひとみが楽しそうにカフェで話している様子を
陰から見て、がっくりと肩を落とす。

激しい嫉妬の気持ちが起きる。
二人の関係は、デザイン原器を盗まれるかもしれないという危機感以上に
大友の心を揺さぶった。


「じゃあ、国枝がデザイン原器を盗むとしたらどんな侵入方法を
取るのか、可能性を全部洗い出そうじゃないか!」

大友は、ひそかに招集した社内ミーティングで、
デザイン原器持ち出し阻止の計画を討議する。


「しめしめ、俺の代わりにデザイン原器を持ち出そうとする奴が
現れたか。そいつが持ち出した後に横取りさせてもらう。」

その中には、K電機のスパイ田中智史もいた。


ジョージは、怪しい影がつきまとっているのに気付いていた。
CIAの訓練を受けた彼には簡単なことだった。

「計画がS電機にばれている可能性が高いな・・・」

たとえそうだとしても、計画を中止するわけにはいかない。
もはや後戻りはできない。

ジョージは覚悟を決め、より一層入念に侵入計画を練るのだった。


ひとみもまた、職場での大友のひとみに対する態度が微妙に変化
していることに気付いていた。

「ジョージに言った方がいいかしら・・・」

しかし、ひとみは思い直した。
ジョージなら、たとえ相手が計画を知っていたとしてもきっと決行する。

ジョージはリスクを犯すことに、大きな喜びを感じるタイプの人間だということが
既にひとみにはわかっていた・・・


第4章:研究所侵入


「ご苦労様です!」

S電機本社社員になりすましたジョージは、
他の警備員に挨拶して研究所内に堂々と入っていく。
誰も疑うものはいない。

しかし、監視モニターに写ったジョージの姿を大友は
見逃さなかった。


「いいか、現場を押さえるんだ!」

大友は部下たちに配置につくよう命じた。


「こっちよ」

ひとみに誘導され、ジョージはデザイン原器の保管場所まで走る。
すべて手はずどおりにことが運び、厳重なゲートもくぐりぬけた。

今や、デザイン原器はジョージの手の中にあった。


「そこまでだ!」

大友が姿を現した。
警備員たちが銃を構えてジョージを取り巻いている。

ジョージはスキを見て逃げ出す。
焦った警備員たちは一斉に拳銃を発射し始めた。
ジョージもやむを得ず応戦。研究所内は白煙に包まれた。


「どこだ、あいつはどこにいった!」

ジョージの姿が消えた。
プロのスパイの方が1枚も2枚も上手だったのだ。

ジョージはこんな事態になる場合も事前に想定して、
しかるべき逃走方法を準備していたのだった。

それはひとみも聞かされていなかったことだった。


第5章:本当の勝利者


「ふう、なんとか抜け出せた・・・」

ジョージは、研究所の脇のマンホールから姿を現した。

プロに対抗しようとするのは10年早い、そうジョージは思いながら、
体についた埃を払った。


「そいつを渡しな」

ジョージに銃口を向けた田中智史が叫ぶ。

プロのスパイ同士の対決だ。
ジョージも、田中が同類であることはすぐにわかった。


「そう簡単には渡さない」

ジョージはそう叫んで、草むらに逃げ込んだ。
田中も後を追う。


「ジョージ、こちらにそれ投げて!」

ひとみが叫んだ。
ジョージはデザイン原器をひとみにほうり投げる。

今度は、ひとみを追おうとする田中にジョージが飛びつく。
殴り合い。力はほぼ互角のようだ。なかなか勝負がつかない。


その間にひとみは、デザイン原器を持って車に乗り込んだ。
向かう先は、中国の電機メーカーP社日本本部だ。


「これが、S社のデザイン原器です」

ひとみは、P社幹部にデザイン原器を手渡した。


「ひとみ、君はラッキーだったな」

ひとみは微笑み返した。

「男たちを操るという点については、女の方が上手ですから」


(完)

投稿者 松尾 順 : 2007年01月06日 08:24

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