情緒価値重視の製品開発:花王のケーススタディ

優れた製品開発力に基づく高い機能性と品質が強みの「花王」は、
日用品メーカーの中ではダントツの競争力を有し、
24期にわたって増益を続けてきました。
(増益記録は、2006年3月期で途切れましたが)


ただ、消費者から高い信頼を得てはいるものの、
「花王」というブランドには野暮ったいイメージが
つきまとってますよね。面白みがないというか。

このため、イメージが重要な化粧品事業(ソフィーナ)では、
十分な成功を収めることができていません。
(だからこそ、「カネボウ」の化粧品事業を手に入れたかった)


しかし、近年の消費者心理の変化を
花王さんも見逃していたわけではありません。

今の消費者は、毎日の暮らしに密着した「実用品」にさえ、
美しさや心地よさ、楽しさといった感性を刺激する要素を
求めるようになってます。

花王さんでも、数年前から、
社長自ら「情緒性」が重要だと強調してきてました。


この花王の新たな方向性が、
現場レベルで実を結んできたようです。
(日経ビジネス、2007年1月8日号)


たとえば、2006年11月に発売されたハンディタイプのモップ、
クイックルワイパーハンディ」。

従来の商品は、清潔感を出すためにパッケージは緑色。
白いシートをモップの柄にかぶせて使うやり方でした。

しかし、新商品のパッケージは鮮やかなピンク。
モップ部分はオレンジ、猫じゃらしのような
ふわふわした形。見た目がかわいらしく、
思わずなでてみたくなります。


モップ部分をふわふわにしたのは、
その方が、ごみをからめとりやすくなるという「機能性」
の高さもありました。

しかし、それ以上に重視したのは楽しいイメージを
かもし出すこと。

使ってると楽しい、掃除が楽しくなる、
そんな情緒的価値を付加することを狙いました。


このため、おそらく性能の向上とはあまり関係のない

「理想のふわふわ感」

を出すために100回以上も試作しています。


ハンディタイプのモップ市場は、
これまでユニ・チャームのほぼ独壇場だったそうですが、
この新商品投入後、花王のシェアは、最初の1週間で
ユニ・チャームを抜いたようです。
(もちろん、製品自体の魅力だけでなく、
花王の流通力の強さも忘れちゃいけませんが)


日用品メーカーの雄、花王も、
これまでの花王の勝ちパターンとなっていた
「常識の返上」「発想の逆転」に本腰を入れていることが
わかりますね。


ちなみに、製品の価値は、
次の4つの階層で構成されるという考え方があります。
(ピラミッドをイメージすると、
 最下層が「基本価値」、最上層が「観念価値」です。)

・基本価値
 当該製品が有する基本的な品質や機能

・便益価値
 当該製品の使用や消費によって得られる便益

・感覚価値
 当該製品を使用・消費するに当たっての感覚的な楽しさ、
 形態的な魅力

・観念価値
 製品コンセプトそのものが生み出す価値


花王さんの場合、従来の企業文化に根付いた製品開発戦略は、
基本価値と便益価値に最大の力を注ぐものだったんでしょうね。

しかし、近年は、「感覚価値」(=情緒価値)の創造に
より大きな力を入れているというわけです。

投稿者 松尾 順 : 2007年01月09日 10:56

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