顧客が刺客に変わる時

先日の

「推奨者、無関心者、刺客」

の話の続きです。


顧客満足度調査の専門会社、J.D.パワーズの調査によれば、
顧客が「推奨客」に変わる、あるいは逆に「刺客」に変わるのは
どんな時に起こるのかがわかっています。


それは、企業が、次のような二者択一を迫られたときです。

(1)顧客との長期的関係を築くためにコストを負担する。
   (または収入の機会を放棄する)

(2)顧客満足を犠牲にして、ある取引の短期的な潜在的利益を
   最大化する


上記は難しい言い回しになってますね、要するに、

「企業が目先の利益を取るか、取らないか」

ということです。


たとえば、「返品を受け付ける」ことは、
「目先の利益を取らない」という判断を下しているわけです。

でもこの方針があるおかげで、顧客は安心して買い物ができる。
結果として、繰り返し買ってくれる優良顧客が増え、
長期的には元が取れるという考え方です。


逆に、目先の利益ばかりを追いかける企業には、
優良顧客はつかず、短命で終わるビジネスとなります。

これは、強引なプッシュ型セールスを売りに急成長した企業に
多いですよね。ほとんどの場合、急失速して突然死を迎えます。


さて、現代は、お客さんが企業・商品を選ぶ時代ですから、
基本的に、目先の利益よりも顧客満足を優先することが重要。

ただ、このことをお客さんと直接コミュニケーションを持つ
顧客接点にまで、きちんと浸透させることは簡単ではありません。

口先でいくら「顧客満足」を唱和したところで、
顧客接点の社員に対して短期的な売上ノルマを課していたら、
社員としては、顧客満足よりも自分の業績を優先するに
決まってます。


「J.D.パワー 顧客満足のすべて」には、
そうした社員の短期的利益を追求する行動をした結果、
ある顧客が「刺客」に変わったエピソードが紹介されています。


アメリカン航空を長年ひいきにしていたある顧客。

寒い冬のボストンを脱出し、西海岸で休暇をすごすため、
マイレージを利用してチケットを購入することにしました。

アメリカンのWebサイトは複雑で使いにくいものでしたが、
なんとか予約を完了したつもりでした。


ところが、旅行日が近づいたのに、
アメリカンから予約確認メールが届きません。

そこで、電話をしたところ、オンラインの申し込みが
完了しておらず、予約が取り消されていたことがわかりました。


電話で対応していた予約係は、

「ご心配いりません、同じフライトで予約を取り直すことが
 できます」

と伝えてくれました。ただし、

「フライト日が近くなっているため、50ドルの割増料金が
 かかります。」


顧客としては、期限前に予約しようとしたのだから、
50ドルの割増料金には納得できません。


この顧客は

「25年もアメリカンを利用しているし、
 サイトが使いにくいせいで、こちらがとばっちりを食うのは
 おかしいんじゃないか」

と主張しました。

そして電話にでた係の上の役職の主任、さらにその上の管理者にも
取り次いでもらいましたが、彼らの答えは「ノー」。


アメリカンは、IT部門にも電話を回しましたが、
IT部門の主任もまた、サイトの利用履歴を調べた上で、
今回の問題は、明らかな「顧客の操作ミス」であることを証明し、
アメリカン側には非がないことをほのめかしたのです。


顧客は、

「期限前にチケットを買おうとしていた記録もあったのに、
 私が長年アメリカンをひいきにしてきたのも関係ないとでも?
 50ドルで大事なお客を失おうとしていることがわからないのかね?」

と最後のあがきをしてみましたがやはり駄目。

彼は50ドルを払ってアメリカンに乗らざるを得ませんでした。


その後、彼は旅行会社に電話して、

「これからは、アメリカンには二度と乗らない」

と告げ、またWebサイトから、同社カスタマーサービスに
事の一部始終を説明するメールを送付したそうです。


すると、2、3日もしないうちに、アメリカンから
謝罪の手紙と50ドル分の旅行券が送られてきました。

しかし、もう手遅れだったんですね。


彼は、2度とアメリカンに乗らなかっただけでなく、
周囲の人間にアメリカンがいかにひどいかを話して回る刺客に
変わってしまったのです。

アメリカンは、最終的には顧客に返すことになった50ドルを
稼ごうとしたためにこんな事態を招いたわけです。


実は、この事件とそっくりな話を以前、

「ぴあの蹉跌・・・勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?」

「想定外のトラブルへの対応」

でご紹介したんですが、
この時のぴあのカスタマーセンターの責任者の対応はさすがでした。

オンライン予約で不愉快な思いをした友人をすんでのところで
「刺客」に変えずにすんだのでした。


彼のことはよく知っておりますが、もし刺客に変えていたら
その影響力は甚大だったに違いありません。(笑)


出典:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワー4世+クリス・ディノーヴィ著、ダイヤモンド

投稿者 松尾 順 : 2007年03月02日 11:23

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コメント

いろいろと考えさせられています。別に変な意味じゃないですよ。
私は個人でインプロワークショップを開いています。
ですから、営利目的なんではないのですが、やはり赤字は避けたいもの。
講師(私の自慢の師匠です)を呼んで開いていますのでそれなりに費用がかかります。
参加料を上げるか、参加者が増えれば問題はないのか。
顧客満足はどう量るのか、いまところ、繰り返し参加してくれることでそうと理解しているがそれでいいのか、など。
前向きに色々と考えさせられています。
多分、考えさせられていても楽しんでいると感じています。

投稿者 原田ちゃぼ吉 : 2007年03月02日 20:57

コメントありがとうございます。

あえて顧客満足度調査をやらなくても、繰り返し参加してくれること、つまりリピート率は、顧客満足度を行動レベルで測定する最も有効な指標ですよね。だから自信を持っていただいていいのでは!

ただ、運営費をカバーできるだけの売上げは最低限確保して、ワークショップが継続できることも大切じゃないでしょうか。

「安ければ受講する」というだけの方とは、あまりつきあいたくはいですよね。

価値を認めてくれるまともな方は、相応の対価を喜んで払ってくれるものです。ワークショップが継続されなくなることは、残念に思うはずですから。

どんなことでも同じだと思いますが、お互いがWin-Winになれる方向を目指すべきだと私は思っています。

投稿者 松尾順 : 2007年03月02日 22:34

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