マーケティング情報士官

先日、当メルマガ&ブログで書いた

「リサーチリテラシー」


「思えばなる方式からの脱却」


では、


・企業によっては、商品開発担当者や上層部の
 「調査」の役割や意義に対する理解があまり高くないこと。

・このため、「調査」が正しく実行されないこと。
 (やらずに済ますことさえある。)

・このことが、優れた商品開発の障害となっていること。


等を指摘させていただきました。


上記記事で私が言いたかったことは、本音ベースでは、

“マーケティングにかかわる方は、
 最低限のリサーチについての知識を持っておいてほしい”

という「ボヤキ」でもありました。(笑)


しかし、リサーチを発注する相手に文句を言う以上は、
調査を担当するマーケティング・リサーチャーとしての

「あるべき姿」

も再確認しておくべきですよね。


マーケティング・リサーチャーとしてのあるべき姿とは、

「リサーチャーは、本来どんな仕事をすべきなのか?」

という本質的な問いに答えることでわかります。


恥ずかしながら、私はこれまで、
この問いに対する明快な答えを持っていませんでした。

しかし、最近になって、
国家安全保障のための諜報活動の文脈で使われる

「インテリジェンス」

の考え方に大きな示唆を得ました。


「インテリジェンス」を扱う人のことを
情報士官(インテリジェント・オフィサー)と呼びます。

情報士官の仕事は、ベストセラー『ウルトラ・ダラー』の
著者であり、元NHKワシントン支局長として知られる手嶋龍一氏
によれば次のようなものです。(私の解釈が多少入っています)


---------------------------------------

・玉石混交の膨大な情報から、
 ダイヤの原石と思われる情報を見極め、選び出すこと

・ダイヤの原石らしき情報に磨きをかけること、
 すなわち、その情報の真偽、信憑性を確認するための裏を
 取ること

・磨きをかけた情報をさまざまに組み合わせて、
 将来の変化について、新たな発見や予測を行うこと

----------------------------------------


上記を読むとおわかりだと思いますが、
情報士官の仕事は、単に‘情報を収集して’
政府関係者に提供することではないことがわかります。


情報士官が提供する「インテリジェンス」は、
政府関係者(その頂点には、大統領や首相がいます)
の重大な意思決定に役立つ

「意味を持つ情報」

でなければならないのです。

ここで「意味を持つ情報」とは、将来についての

「一定の方向を指し示すもの」
(読み、仮説、予測などと言い換えられます)

です。


さて、マーケティング・リサーチャーがやるべき仕事も、
情報士官とまったく同じでしょう。


マーケティング・リサーチャーのあるべき姿は、

「マーケティング情報仕官」

とでも言えるのではないでしょうか。


マーケティングリサーチャーも、
ただ、データを集めて分析するだけでは
務めを果たしていない。

ダイヤの原石情報を選び出し、磨きをかけ、
複数のデータを統合して、「意味を持つ情報」に
仕立て上げなければなりません。


なお、このために特に必要とされる能力が、

「データの解釈力」

だと思います。


この「解釈力」は、
リサーチャーが持つ知識や思考能力に比例します。


調査対象の業界や商品、顧客に始まり、
社会、経済、技術、歴史、哲学、社会学、心理学、
人類学等々、広範囲の知識があればあるほど、また
こうした知識を柔軟に使いこなす思考能力が高ければ
高いほど、同じデータから導かれる「意味」の価値は
優れたものになるでしょう。


すなわち、マーケティング・リサーチャーとしての質は、
最終的には、「解釈力」によって評価されることに
なるんじゃないかと思います。
(調査企画・設計や統計解析など、
 テクニカルなスキルは基本要件に過ぎません)


まあ、実際のところ、マーケティング・リサーチャーが、

「マーケティング情報士官」

を目指そうとすのは、めちゃくちゃ大変です・・・


私も、まだ道半ばにも来ていないと思います。
でも、やりがいたっぷりです。

投稿者 松尾 順 : 2007年05月30日 11:12

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コメント

おやこれは奇遇ですね。私もこの5月に2社で研修やったときに、「インテリジェンス」の話から始めてました。

「仕事で成果を上げるには行動が必要です。
 しかし行動するためにはその前に意思決定が必要です。
 意思決定のために必要なもの、それがインテリジェンスです・・・・」てな感じで。
わりとうまく通じました。

ところで手嶋氏は「情報と政策の分離」については書いてますか?

(なお、仕官 だと意味が違ってくるので、士官 のほうが正しいです)

投稿者 開米瑞浩 : 2007年05月30日 21:45

開米さん、まいど。

奇遇ですね!

確かに「情報士官」の間違いでした。ご指摘ありがとうございます。
わかってたはずなのに、なぜかうっかり・・・

なお、情報と政策の分離ということですが、手嶋氏は、
実際の政策を決定するのは、大統領や首相といった国家トップの役割であり、情報士官は、政策に関わる意思決定のために役立つ、価値ある情報を提供するだけであるという明確な区別をされていますよ。

投稿者 松尾順 : 2007年05月30日 22:06

そうですか、きちんと書いてましたか。
その割に本人は至る所で政治的な発言をしまくっているのがどうも、うさんくさいなと僕は思っています。
ま、手嶋氏自身は「インテリジェンス・オフィサー」ではないので、問題ないといえば問題ないんですが・・・

投稿者 開米瑞浩 : 2007年05月30日 23:27

手嶋氏の肩書きは、外交ジャーナリスト&作家です。

既存メディアの客観報道主義というんでしょうか、
政府などが発表した内容を伝えるだけで、その真偽を
検証しようとしない点を厳しく批判されていますね。

確かに、手嶋氏はインテリジェントオフィサーではないけれど、手嶋氏なりに、情報(informationの意味)をインテリジェンス化した形でアウトプットしようとされているということじゃないでしょうか。
(結果としてそれが政策批判になることもあるわけですが)

投稿者 松尾順 : 2007年05月30日 23:37

おっと、このままでは手嶋評論スレになってしまう(笑)
というわけでテッシーの話はおいといて

>マーケティング・リサーチャーのあるべき姿は、
>
>「マーケティング情報士官」

確かにそれは言い得て妙な気がします。

つけくわえるとすれば、

「どんなダイヤが必要かを定義するのは政策の仕事」

なんだろうと思います。

第二次大戦当時の独ソ戦とゾルゲ事件の構図を見ると、
「極東戦力を西部へ組み替えたい」というソ連の政策が
「日本の対ソ開戦意志を見きわめる」というインテリジェンスへの要求を生み、
「ゾルゲによる日本での諜報活動」がスタートしているわけです。

政策が変われば必要なダイヤは変わってくるわけで、政策が明確でないときに
は「ダイヤの原石」といっても何を探せばいいのやらということになりますよね。

投稿者 開米瑞浩 : 2007年05月31日 03:04

blogいつも拝見してます(&勝手ながら引用も度々…)。今回のテーマ、とくに琴線に触れましたので、コメントをさせてください。
マーケティングリサーチャー=マーケティング情報士官という定義、まさに!と思いました。ただ、現実はなかなか厳しいですよね。。。
とくに、前提としていらっしゃる「調査対象の業界や商品、顧客に始まり」という部分でさえ、ほんとうに理解できているかと自問することが度々です。最初のミーティング(とくに初めてのクライアントの場合)で、このポイントを、どううまく引き出すことができるか、に集中していますが。
それと、コメントでの「情報と政策の分離」も、とても納得なんですが、クライアントが「政策」を求めることも少なくないと感じています。。。

投稿者 owl : 2007年05月31日 04:35

開米さん、

>「どんなダイヤが必要かを定義するのは政策の仕事」

まったくそのとおりですね。
方針や目的を政策側が示すことによって、拾い出すダイヤの原石も変わってくるでしょうし!

投稿者 松尾順 : 2007年05月31日 15:45

owlさま、いつもコメント&引用ありがとうございます!

>クライアントが「政策」を求めることも少なくないと感じています。。。


本来、調査結果の中に「答え」を求めてはいけないのですが。
調査結果=政策の方向性でということにはならない。

ただ、クライアントが、調査結果に基づく具体的な提案を求めることはよくありますよね・・・

もちろん、こうした要求には、当方の意見を述べさせていただくという形で応えることになりますけど。

投稿者 松尾順 : 2007年05月31日 15:50

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