フォロワー狙いのペネトレーション戦略:DoCoMo2.0

ここ数年、多数の人気タレントを同時起用した
ブランドコミュニケーションが目立ちますね。


その中でも、
最も成功したのは、資生堂の「TSUBAKI」でしょう。

初年度の予算は50億円だったといわれていますが、
とてもその予算内に収まっているとは思えない露出量でした。


さて、多数タレント同時起用の狙いは、
大きくは2つ挙げられます。ひとつは、

「インパクト効果を高めるため」

です。

1人よりは2人、2人よりは3人、と華のあるタレントが
多く登場すればするほど、消費者の関心(アテンション)を
より多く引くことができますから。


そして、もうひとつの狙いは、

「ターゲットを広げるため(絞込みすぎない)」

ためです。


資生堂の「TSUBAKI」の場合、ブランドを統廃合して、
特定少数のブランドにマーケティング資源を集中する

「メガブランド戦略」

の一環として立ち上げた新ブランドですが、
メガブランドは、マーケットリーダーとなることが必須。

つまり、市場シェアの最大化を目指さなければなりません。

ということは、細分化されたターゲットを狙った従来の
ブランドと異なり、いわゆる「大衆」(マス)を狙って
いかなければなりません。


ただ、現代の大衆は、
価値観やライフスタイルが多様化しています。
(そもそも、もはや「大衆」とは呼べない)

したがって、一人のタレントだけでは、
大衆の一部の心しかつかめないわけです。

そこで、多数のタレントを同時起用して、
できるだけ広範囲の大衆をカバーしようとしている。


このあたりは、以前次の記事でも書かせてもらった
ことでした。

資生堂のメガブランド戦略:
◎ブランドではなく、意味を多様化せよ

そして、今、「DoCoMo2.0」でも、
8人もの人気タレントを起用した大々的な
ブランド・コミュニケーションが展開されていますね。

現在54%のシェアを持つマーケットリーダーのDoCoMoの
至上命題は、シェアの死守・拡大。

チャレンジャーのau、ソフトバンクモバイルほど、
尖がりすぎるわけにはいかないのです。

目立つことはやりたいけれど、
マスにそっぽを向かれるわけにはいかないということが、
多数タレント同時起用につながったんじゃないかと思います。


また、DoCoMo2.0のようなアプローチが行われる背景には、
携帯電話はもはや成熟商品であり、これ以上、
機能・性能的おいて劇的な差別化はなしえず、
またベネフィット(便益)における優位性の確立も難しいこと
があります。


シンプルマーケティングの森行生さんの

「プロダクトコーン理論」

によれば、商品の次の3つの切り口

・規格(機能・性能)
・ベネフィット(規格がもたらす便益、価値)
・エッセンス(端的にはブランドイメージ)

において、基本的な訴求の順番は、

規格→ベネフィット→エッセンス

と進んでいくべきとされています。


携帯電話においても、これまでまず規格、次にベネフィットが
アピールされてきたわけです。

しかし、ソフトバンクモバイルのカラーバリエーションが
売れたように、もはや、規格やベネフィットではなく、
デザインやブランドイメージのような、

「エッセンス」

を強くアピールすべき段階に、
携帯電話市場は来ているということです。


このひとつの回答が、「DoCoMo2.0」だと言えるのでしょう。


識者の間では、
「DoCoMo2.0」といいながら規格面での違いは生み出せていないから、
消費者の期待をそぐことになるのでは・・・

といった批判をする人もいます。

しかし、上記の考え方に照らせば、
この批判は的外れのように思います。


DoCoMo2.0は、その圧倒的な資金力で物量作戦を行うことで、

「業界標準は、DoComoだよね」
「DoCoMoなら間違いない」

と、理屈抜きで思い込ませようとしているということです。

もちろん、製品自体も高い品質を維持することは必須ですが、
他社との違いをことさら打ち出すことは、もはやあまり重要
ではありません。


そして、こうした理屈抜き、
「エッセンス」訴求主体のコミュニケーションに
ノックアウトされてしまうのは、フォロワーな人たち。

すなわち、最も人口比の多い、
いわゆる一般大衆であることは言うまでもありません。


DoCoMo2.0は、フォロワー狙いのペネトレーション戦略。
お金持ちの業界トップだけが実施できる戦略です。


なお、大前研一氏は、

“Docomo2.0は、大きな過失
 絶対にやってはならないマーケティング戦略だ”

と厳しく断定しています。
(大前研一『ニュースの視点』2007/05/18)


その理由は、

“『そろそろ反撃してもいいですか?』というキャッチコピー
 を見て分かるように、この戦略は、完全に同業他社に反発し、
 それを打ち負かすことだけを考えたものだから”

だそうです。

“こういった考え方を、経営学では「コンピティティブ・
 リタリエーション(競合反発)」と呼び、経営者が選んでは
 いけない戦略の一つになっている”

とのこと。

“なぜなら、この考え方は、業界収益をなくし、
 自分も相手も血だらけになるだけという結果をもたらすから”

というのも、

“「反撃しても、いいですか?」などという挑戦的な
キャッチコピーを見れば、消費者は「値下げするのかな?」
 と思います。

結果、消費者の買い控えを引き起こす可能性があります。

つまり、大々的な広告は打ったが、買う人はいなかったという
最悪の結果につながる危険性が高いと私は思います。”


ということなのだそうです。


はて、そうでしょうか?

一消費者の実感としては、「DoCoMo2.0」から受け取る
メッセージは「値下げ期待」ではありませんし、
買い控えをしてしまうことにはならないように感じるのですが。


あなたはどう思いますか、DoCoMo2.0は成功するでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 2007年06月13日 14:16

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コメント

松尾さん、はじめまして。
「Weekly Matsuoty」時代からのメールマガジンの愛読者の一人です。

大前さんの件、ちょうど月曜日に「大前研一氏の"傲慢さ"からじゃ見えない経営の本質」というエントリーを自分のblogに書いたところでした。よろしかったらご笑覧ください。

ぼくもあのコピーを見て値下げを連想するのはかなりおかしな人だなあと感じました。

投稿者 衰弱堂 : 2007年06月13日 16:55

大前研一・・・・は、ただの文句つけ屋である。
と、私は断定しました。

投稿者 開米瑞浩 : 2007年06月14日 03:31

衰弱堂さま、長年のお付き合い、
本当にありがとうございます!!

エントリーも早速拝見しました。
しかし、実際、今回の大前氏の意見は、
あまりに強引すぎる論理展開だと思いますね。

投稿者 松尾順 : 2007年06月14日 08:46

開米さん、まいど!

ただの文句つけ屋・・・(笑)

正直、私は大前さんの鋭い舌鋒は好きです。
たまに行き過ぎることがあるのはご愛嬌。

投稿者 松尾順 : 2007年06月14日 08:49

ドコモ に移転 ゼロ   (漫画のキャラつき)
    2.  0

と言うのが、流行るわけです。

広告代理店的には、こういったところでの露出も含め、たくさん取り上げられたのでうれしいでしょうが、

広告本来の目的である『購買行動につながる』といった面では、周りの多くの一般消費者(含む、私)は「全く効果がない。」と言ってますね。

投稿者 tkawai : 2007年06月16日 16:06

DoCoMo2.0は、良くも悪くも話題性が高く、また口コミ効果もあるキャンペーンになりましたね。

メルマガで補足しましたが、DoCoMo2.0に対して否定的であったりシニカルな見方をする人は、そもそも今回の広告のターゲットではない(つまり、フォロワーではない)ので、ドコモさんとしては正直気にしていないんじゃないでしょうね。

また、広告の目的については、もちろん「最終目的」は購買行動の喚起ですが、それ以前の段階の心理・行動変化を重点目的とすることもあります。

DoCoMo2.0は、購買行動の喚起を直接の目的としてないのは明らかですね。

投稿者 松尾順 : 2007年06月16日 18:27

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