「手抜き調査」の自覚

マーケティングリサーチャーの一人として、
自戒を込めて、やや極論を申し上げます。

「アンケート調査は、手抜きの調査方法です。」

こうした自覚が、マーケターには必要だと思います。


アンケート調査自体を否定しているわけではありません。

仮説を検証し、定量的な数字で物事を判断する場合に、
きわめて有効な手法です。


ただし、アンケート調査が、

「今回の調査目的を達成するために、最適の手法か?」

という吟味が十分になされた上で実施が決定されるべきでしょう。


なぜ、こんなことを書いているかというと、
アンケート調査を行う理由が、その「合目的性」ではなく、

・予算がないから
・時間がないから
・他の調査は手間がかかるし面倒だから
 (あからさまにそう思ってはいないでしょうけど)

といった、率直に言ってしまえば、

マーケターの「手抜き」

的なものになりがちだからです。


最近はお手軽・安価なネットアンケートが普及したので、
猫も杓子もアンケート、アンケート。

安易にアンケートを実施して、
結局のところ、あまり役に立たないデータが量産されている
可能性があるんじゃないでしょうか?


「調査なんて役に立たない」

などと、調査の本質を理解しない発言をする人がいるのも、
アンケート調査の氾濫が背景にあるのかもしれません。


消費者対象の調査について言えば、
それは、消費者の心理や行動を的確に把握するもの。

そこから、売れる商品開発や、
効果的なコミュニケーション施策のためのヒント
(顧客洞察=インサイト)を得ることができなければ、
調査をやるだけ無駄です。


逆に言えば、売れる商品開発や、
効果的なコミュニケーションのためのヒント
(顧客洞察=インサイト)を得たかったら、
安易な「手抜き」をしてはいけません。


商品開発や、コミュニケーション施策には莫大なお金を
投じるにも関わらず、リサーチを軽視し、
十分な時間や予算、手間をかけないのはまさに本末転倒。


これは、先日書いた記事、

「思えばなる方式」からの脱却

でも指摘した通りです。


調査手法にはさまざまなものがありますが、
最もリッチな情報、すなわち、
磨けば光るインサイトの原石が含まれているのは

「観察調査」

でしょう。


これは、要するに「現場」に行くということです。

顧客が対象商品を選んだり、利用している様子を
じっくり観察する。ビデオに撮って繰り返し見る。

観察調査は、大変に面倒で、お金も時間もかかります。


しかし、情報のリッチ度と調査の面倒度は
相反する関係にあります。

私の感覚的なランキングではありますが、
情報が最もリッチ(裏返すと調査の面倒度)が高いものから
主要な調査手法を並べると次のようになるでしょう。

1.観察調査
2.個別インタビュー調査(デプスインタビュー)
3.グループインタビュー調査
4.アンケート調査
5.マーケターの思い込み(これは調査ではないですが)


顧客の理解度の深さが、
新商品やマーケティング施策の成功の鍵を握っています。

だとするならば、顧客理解のための調査には、
必要十分な手間と面倒をかけていただきたいと願っています。

投稿者 松尾 順 : 2007年06月21日 08:51

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コメント

えーと、ご自身もあえて「極論」とおっしゃっているので、私も「極論」を。

どうも、問題は昨今の「アンケート軽視」というか「お手軽」な風潮にあるのではないかと。

ヤコブ・ベルヌーイの「大数の法則」で考えれば、「より多くのデータは真の確立に近づく」はずです。
まぁ、当然、必要サンプル数は数式で求められますが、極端な話、多いに越したことはないでしょう。(極論ですよ)。

しかし、ご指摘のように、最近、小サンプル、属性に偏りのあるインターネットパネル調査でサクッと済ませる傾向が強い。しかも、安く上げるために随分と少ない設問数。しかも設問もどうも錬られた感じがしまいものも散見される。

いや、私もインターネットパネルを批判しているんじゃないんです。その特性を考慮して、また、設問も練り上げ、結果の解釈を十分すれば役に立つはずなんですよね。

オートマチックになって誰でもカンタンに車が動かせるようになったからと言って、十分な教習を受けなければ大事故が続発するはず。そうはならなかったのは、オートマ限定免許は多少教習課程が減ったとはいえ、十分な教育・練習がされているから。
なんだいあ、昨今のアンケート実施状況は、免許なしで自動車販売会社で車を買ってそのまま乗って帰る人が事故を起こしているようです。困ったもんです。

投稿者 金森努 : 2007年06月21日 15:31

金森さん、まいど!

私の書き方が不十分だったようですが、この記事で私が言いたかったことは、調査手法の採用のことであって、データの量ではないのですよ。むしろ、データの質の問題。

「ガベージ(ごみ)・イン、ガベージ・アウト」という言葉がありますが、100件だろうが1万件だろうが、ゴミデータはゴミデータ。価値のある情報は取り出せません。大数の法則は適用できないでしょう。

アンケート調査の場合、調査票という限られた紙面で定型の質問文と多くの場合、選択肢が提示されるため取れるデータの「質」に限界あります。

この点を理解しないまま、安易にアンケート調査に頼ってしまうと、結果的に使えないゴミデータが生まれてしまうといういことを言いたかったわけです。

まあ、ネット調査によって、誰でも手軽に調査が実施できるようになったこと(調査の原理原則をよく知らないまま)が、一番の問題でしょうけど。

投稿者 松尾 順 : 2007年06月21日 19:32

ヒントやアイデア、インサイト取得のための調査では、定量調査とくにネットリサーチ以外の手法をしっかり採用した方が有効だと私も思います。

また、需要予測のための調査手法としては、どうなんだろうかなどと問題意識をもったりしています。
テストマーケティングや、新商品の上市の意思決定を大前提とした定量アンケート調査って、この頃どういう位置づけになっているのでしょうか?
損失を最小限におさえることに貢献する、プロジェクトにストップをかける市場調査ってホントはとても価値があるはずだと思うのですが・・・。
重要な意思決定のための調査手法としては、アンケートもアリかな?と思っています。

投稿者 つくねパパ : 2007年06月21日 20:09

つくねパパさん、まいど!

>重要な意思決定のための調査手法としては、アンケートもアリかな?と思っています。

まさに、↑こんなときにこそアンケートが最適ですね。
意思決定に当たっては、定量的な判断材料が不可欠だと思います。


ただし、定量調査の結果に無条件に従うべきとは思いませんが。調査対象者の回答と実際の購買行動の乖離は必ず存在しますので。見極めが難しいですけれどね。

投稿者 松尾順 : 2007年06月21日 20:18

松尾さん。1+2が最強です。観察したことをデプスする。
観察は、発見は多いですが、それだけ仮説がたくさんでてきます。行動を説明できる理屈が何通りも出てきます。
観察した人にディープなインタビューができれば、スパッと決まります。

投稿者 菅原です。 : 2007年06月22日 13:31

菅原さん、まいど!

1+2というのは、最も手が抜けない調査方法ですね。

1+2に時間も予算も割く意思がある企業がヒット商品を生み出す可能性を高く維持できるんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 2007年06月22日 19:10

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