誰が新聞を滅ぼすのか

ネットに読者や広告を奪われ、
最も大きな打撃を受けているのが新聞・雑誌業界でしょう。


かといって、自らネットに力を入れれば、
自社の紙媒体からの収益の落ち込みを加速させる可能性もあり、
なかなか思い切った意思決定ができない。

いわゆる

「イノベーションのジレンマ」

に直面してますよね。


さて、日経ビジネス最新号(2007年7月16日号)の第2特集は、

「誰が新聞を滅ぼすのか」

というタイトルで主に米国新聞業界の動向を伝えていました。


この特集のなかで、面白いと思ったのは、
有料モデルを採用する米経済新聞、

「WSJ(Wall Street Journal)」

と、無料モデルを採用する米経済雑誌、

「フォーブス」

の対比でした。


WSJは当初から電子版は有料を貫いていてきました。

現在の電子版の購読料は、年額79ドル。
紙の購読者は、これが同20ドルになります。

契約者数は、前年比20%の93万人と、
紙の購読者の約半数に達しているそうです。


この結果、WSJの電子版の収入構成は、
広告と購読料が50%ずつとなっており、
ほぼ広告収入だけに頼る他紙と比較すると、
収益基盤は手堅いものがあります。


WSJサイトの月間訪問者数は370万人。
新聞社サイトトップの人気を誇る

「ニューヨークタイムズ」

の同1000万人超の約3分の1しかありません。


WSJは、当初「オンライン戦略に出遅れた」と
言われていたそうです。

しかし、このところ電子版、紙版ともバランスよく
読者数を増やしてきていることから、
そのビジネスモデルが見直されているとのこと。


WSJは、今年1月に紙面改革を行いました。

最新のニュース報道は電子版に任せ、
紙の方では、ニュースの分析や解説が8割を
占めるようになっています。

つまり、電子版と紙版の役割分担を
はっきりさせたわけです。これが両方の読者数を
増加させることに寄与したと考えられています。


一方のフォーブス。

フォーブス電子版の特徴は、
雑誌の支援媒体ではなく、
独立した媒体として位置づけてきた点です。


フォーブスは、記事全文を無料公開していますが、
公開のタイミングは木曜日の午後6時です。

雑誌が届くのは、金曜か土曜なので、
電子版の方が早く読めることになります。

でも、雑誌の部数減には、
今のところつながっていません。


スティーブ・フォーブス社長兼CEOは、

“紙とオンラインは共食いしない。
 広告主はあらゆるプラットフォームの広告を
 要求するようになった。これからは、
 紙に固執するほど、紙が痛手を受ける時代になる”

と述べています。

彼は、

「イノベーションのジレンマ」

を乗り越える決意を固めているようですね。


なお、北米を中心に雑誌の発行部数を
伸ばしている英エコノミストのWebサイトの発行人、
ベン・エドワーズ氏は、
同特集の中で、次のような重要なコメントを残しています。

“本来、雑誌とウェブは使い方が異なる。
 当社のサイトに読者が滞在する時間は、平均6分。
 これは、仕事上、必要な情報を探し出すために
 使っていることを意味する”

“これに対して、雑誌は週末や電車の中で
 ゆっくりと読むもの。もし雑誌の部数が落ちているなら、
 それはウェブのせいではなく、雑誌自身の中身の問題だろう”


私自身、10誌以上の雑誌をいまだに購読し、
並行して、各種ニュース系Webサイト、ポータル、ブログ、
メルマガを読んでいますが、
まさに、オンラインとオフラインでは使い方が異なります。


そして、コンテンツが面白かったり、役に立つものであれば
有料でも読みますし、そうでなければ無料でも読みません。
時間もコストですから。

それだけです。


新聞、雑誌の関係者の方々は、
自社媒体が売れない格好の理由として「ネット」を
槍玉に挙げるべきではないんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 2007年07月18日 08:41

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トラックバック時刻: 2013年09月09日 11:54

コメント

昨今のメディア界、大再編の動きを「イノベーションのジレンマ」として捉えるのは正鵠を得ていると思いますし、この記事アップもタイムリーですね。
ただ、私は今回の「誰が新聞を滅ぼすのか」というタイトルを見た時、別の事を連想してしまいました。「滅び」は「自滅」であるという結論は一緒ですが。
私は「Webで済ますな、新聞を読め」といつも学生に言っています。理由は本文に記されている、”使い方”が異なるからです。
しかし、本音で言えば、新聞は色々な情報が網羅されていますが、面白くありません。各紙ともある程度独自色は出していますが、扱っている記事はほぼ一緒。踏み込みも甘い。
理由はカンタンで、「記者クラブ」の存在がそうさせているのでしょう。いつの頃からか、記者は靴底をすり減らす代りに各役所や警察が用意した「記者クラブ」に詰め、ニュースソースを投げてくれるのを待つという姿勢になっています。ニュースソースが同じでは、大きな違いが出せようはずもありません。
それはテレビを見るともっとひどい有様だとわかります。
ニュース内容はどの局も同じ。しゃべっているアナウンサーが違うだけ。また、同じ局では何度も何度も同じ内容を繰り返すだけで、記者クラブに次のニュースソースが配られるまでは変わることはありません。
こんな状況では読者や視聴者が離れていくのは当たり前でしょう。
ただ、雑誌だけは少々様子が異なります。最近「週刊現代」は非常に突っ走っています。記事への踏み込みも深く、また、一度食い付いたネタへの追跡も抜群です。「週刊ポスト」も時々ヒットを出しますね。
なぜそれらの雑誌は面白いかというと、「記者クラブに入れてもらってないから」だと思います。通常、「クラブ」には雑誌記者は入れてもらっていないはずです。その分、本来的な「取材」をきちんとやっている。
読み手によっては、その内容の突っ込み加減が「アヤシイ」「インチキくさい」と受け取られ、「しょせん週刊誌」という扱いも受けますが、飼い慣らされ、大本営発表しか掲載しない大手新聞・テレビより内容は先鋭的です。どこまでを信じるのか、情報を取捨選択できるフィルターがあれば、十分読み応えがあるのです。
なので、この「記者クラブ依存」を続けていれば、いずれ新聞・テレビは自滅の道を歩むことになると思います。
雑誌も売上的には低迷の一途を辿っていますが、新聞・雑誌の凋落が進めば、どこかで読者は気付くかも知れません。
旧来型のマスメディアの中では雑誌(特に週刊誌)だけは生き残ってもらいたいと思っています。

投稿者 金森努 : 2007年07月18日 16:18

金森さん、まいど!

新聞が雑誌と比べてあまり面白くないのはご指摘のとおり、記者クラブの存在、そして、「客観(報道)主義」(=受け取った情報をそのまま流すだけ)が根強いせいでしょう。

私も、新聞は、Webでは見逃しがちなネタを拾うためのメディアとして利用しており、突っ込んだ分析はあまり期待していないのが正直なところです。

雑誌の場合、新聞よりも時間的余裕もありますから、ネタの裏を取るというか、突っ込んだ取材が可能ですから、いわゆる「客観性」は失われるとしても内容は面白くなりますね

ともあれ、紙メディアの影響力低下もWebのそれとどこかの線で均衡すると思うのですが、その時点で、各メディアが、アナログ、デジタルの役割分担や補完関係をどれだけきっちり設計できるかが、生き残りの鍵じゃないでしょうか。

投稿者 松尾順 : 2007年07月18日 16:31

>各メディアが、アナログ、デジタルの役割分担や補完関係をどれだけきっちり設計できるかが、生き残りの鍵じゃないでしょうか。

おっしゃるとおりですね。
しかし、その受取手たる、生活者の情報感度が低下してしまっていては何にもならない。
伝える側、受け取る側の相互研鑽と受け取る側もネットという力を手に入れたのだから、一方的な受取手にならず、自らもレスポンスする、発信する能力を高めたいものですね。

投稿者 金森努 : 2007年07月18日 20:20

生活者の情報感度は、果たして高まっているのか、最近疑問です。一見、これだけの情報があふれ、ネットによって活用しやすくなってますけどね。

投稿者 松尾順 : 2007年07月19日 08:36

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