料理の道理=仕事の道理

先日、京都嵐山の老舗料亭「吉兆」の総料理長、
徳岡邦夫氏の講演を聴く機会がありました。

こぶ平さん(現九代目林家正蔵師匠)にちょい似の、
親しみやすい風貌の徳岡氏は、近年マスコミに
頻繁に登場されてますね。


さて、今日は、徳岡氏の講演で聴いたさまざまなお話の中で、

「仕事全般に通じる普遍的なことだなあ」

と思った話をご紹介したいと思います。


徳岡氏によれば、昔、北大路魯山人は、
全国の一流の料理人を集めた「美食クラブ」のようなものを
作ろうとしたことがあったそうです。

そこで、魯山人は、新聞広告を出して、
「自分こそは最高の料理人だ」と思う人を募集しました。


そして、応募してきた料理人には、魯山人自ら面接を行い、

「君はいったい何が好きかね?」

という質問をしたそうです。


この質問に対して、応募者が、
たとえば「釣り」とか「囲碁」とか、
料理以外のことを答えた場合は不合格としました。

「好きなことは料理です」と答えられない料理人は、
「意識が低い」と魯山人は考えていたんですね。


徳岡氏は、仮にこの求人に自分が応募したとして、
魯山人との面接で上記の質問をされた時になんと答えるか、
考えてみたそうです。

単に、

「魚」や「肉」

と答えるだけでは不十分だろう。

「魚」といっても、さまざまな種類がある。
季節によって味が変わる。

頭、胴、尾っぽ、ぜんぶ魚だ。
部位によって味も違う。

また、焼く、煮る、蒸す・・・
料理法でも味が変わってくる。


徳岡氏はこんなことを考えているうちに、

「料理の道理」

という本質に到達します。


「料理の道理」とは、

「結果的にどんな料理を作りたいか」

というイメージ(理想像)を実現するために、
どんな素材のどの部位を選び、どんな料理技術を
使うべきかということです。

これは、いわば料理における

「因果関係」(原因と結果の関係性・ロジック)

と言えるでしょう。


また、料理の先には、それを食べてもらうお客さんが
いますから、彼らが喜んでもらえる料理を作ることが
究極の目的です。


つまり、究極の目的を達成するために
将来のイメージ(理想像)を構想し、
それを確実に具現化できる能力を備えているのが

「一流の料理人」

ということ。


これは、料理に限らず、
あらゆる分野の仕事に当てはまることですよね。

すなわち、

「仕事の道理」

をわかることが、プロフェッショナルの必要条件です。


なお、上記の話も含まれていますが、
徳岡氏の講演レポートが下記にアップされています。

*夕学五十講 受講生レポート 徳岡邦夫氏

投稿者 松尾 順 : 2007年07月26日 08:46

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コメント

「仕事の道理」興味深いです。

確かに本を書いておられるようなプロフェッショナルといえるような人には「明確な理想像」と「それを具現化する確実な手順」を自覚して磨かれておられる方が多いような気がします。

最近印象に残っているものといえば、
齋藤孝さんの「教育力」に書かれていたことですが

●「あなたの仕事は何ですか?」と問われて「文化遺産の継承・伝達です」とはっきり自覚的に答えられる人は、現実には少ないであろう

という部分。(そのために必要なことも書かれていました)

「大事なことを人に伝えていく」ということは、自分の仕事にも通じるもののです。自分の「仕事の道理」もこのように自覚した状態で持っておきたいです。

投稿者 はぐれヲタ : 2007年07月28日 08:20

はぐれヲタさん、まいど!

何かを後世に伝えていくというのは、DNAに埋め込まれた本能的欲求ですよね。子孫を残すのと同じで。

あらゆる人間の活動(およびその目的)は、最終的には「命」をつないでいくことに帰結するんだろうなと、私は思っています。

投稿者 松尾順 : 2007年07月28日 10:54

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