苦情学

西武百貨店で8年間にわたって

「お客様相談室」

を担当した関根眞一氏の著書、

「苦情学 クレームは顧客からの大切なプレゼント」

は読みましたか?


この本では、
顧客から寄せられる様々な苦情の適切な対処方法など、
関根氏が現場の体験からつかんだ

「実践的なノウハウ」

をわかりやすく紹介してくれています。


また、この本には、
常軌を逸した、とんでもないクレーマーたちと、
関根氏との壮絶なやり取り(闘い?)がリアルに
再現されているのですが、

「こんなやつらが世の中にはいるのか!」

と唖然とさせられますよ。


さて、関根氏によれば、
苦情対応には絶対に欠くことのできないものが
一つだけあるそうです。

それは、お客様の

「心理を察する」

ことです。


関根氏は、お客様相談室を担当してから、

「お客様の心理」

が読めるようになるまで5年かかったそうです。


そして、この5年間の関根氏の考え方の変化が、

「予測する力養成講座」(講談社MOOKセオリーVol.11)

のインタビュー記事で語られています。


“お客様相談室に配属されると、まずは会社の利益を
 保護する立場に立とうとするものです。
 会社や店舗のリスクにならないように、
 自分の言葉や態度に気をつけて対処する。”


これは間違いではないそうですが、
しかし「限界がある」と、関根氏は指摘します。

苦情を言う人たちをただ撃退するだけで終わっては
いけないからです。


関根氏の場合、お客様相談室に配属されてから1年ほどして

「店舗と顧客の中立の立場」

に立った考え方ができるようになりました。

関根氏は、

“そうすると、前よりも多くのことが見えてきたのです。
 でもそれでもまだ不十分でした。”

と答えています。


関根氏の考え方に
さらなる変化が起きたのは3年後のことでした。


“その頃から、ほぼお客様側の立場に立って
 物事を考えることができるようになりました。
 つまり、困っているのはお客様で、
 一刻も早く問題を解決したいのはお客様側なのだ、
 ということがわかったのです。”


そうすると、不思議なことに、

“苦情の約8割は電話での対応だけで
 解決できるようになりました”

とのこと。


続けて関根氏は、

「マーケティングの要諦」

にも通じるコメントをしています。


“大切なのは、
 お客様 を 満足させるのではなく、
 お客様 が 満足することなのです。”

“百貨店におけるゴールは、お客様を離さないことだと
 私は思います。そのために、お客様の立場に立って
 それぞれが満足する解決策を探っていくことが大切
 なのです。”


お客様を自社と相対する側に置いて考えるのでなく、
お客様側と同じ場所に自分を置いて考える。

これが、顧客の心理を的確に読むことを可能にし、
優れた苦情処理だけでなく、売れる商品づくりにも
つながっていくんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 2007年08月08日 11:48

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» 【クレームは顧客からの大切なプレゼント】苦情学 from ぱふぅ家のサイバー小物
クレーマーを避けるのではなく、その心理を理解し、良好な人間関係を築くことが大切だと思う。 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2008年08月12日 20:32

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コメント

苦情に対応するスキルはオペレータに欠かせないところですが、中にはホントに客側に立ってしまって、お客様と一緒に自分の会社に対して文句をいって相手をなだめてしまうというおきて破りな技を使う方もいたりします。

お客様の立場に立て。と言うのは簡単ですが、ホントに世の中信じられないような行動を取る方が多くてびっくりするのであります。

ちなみによく言われるのは「電話口におけるクレームは20分で一回り」。文句もよくよく聞いていると20分単位で繰り返されるというものです。

実際には、クレームの電話が20分に近づいてくると、相手を納得させるモードを高めるが、20分過ぎてしまったらあとはさらに20分が経過するのを待つモードに切り替える。といった運用に応用されています。

志が低い話ではありますが、クレームの現場は精神を病む方が出るくらい辛いところです。長々とクレームを聞かされてどうにもならないときに「あと20分。」と考えることでオペレータの心理的な負担がずいぶん軽減されることは経験上間違いないところでした。

投稿者 sopiez : 2007年08月08日 15:07

いくら仕事とはいえ、顧客のクレームを延々と聞かされるのは、本当につらいことだと思います。

ついつい、お客さんと一緒になって会社の文句を言いたくなる人もいるのも仕方ないのかもしれません。(とはいえ、本来おきて破りですから、別の対応をするように指導すべきでしょうけど)

「あと20分」といった経験からくる知恵を
オペレーターの方に共有できるといいですよね。

投稿者 松尾順 : 2007年08月08日 16:51

初めまして。
過去、電話オペレーターとして、現在は接客という立場でクレームに出会うことが多い環境にいます。
凄い発言をされるお客様は本当に多いです。
昔、この手の暴露サイトが大変賑わったことがあるほどいろいろな環境があります。
お客様が満足する。とは・・・なるほど。と思いました。
結局、満足させるだけでは、永遠にこの関係は終らないんです。
なぜなら、満足させると次に利用した際、またクレームになる確率が高く、リピートを生んでしまうからです。
けっしてお客様の要望を叶えるという一方通行の意味ではなく、「双方納得する」ということで、クレームという関係が本当に終わりをむかえるのだと思います。
(ただ、最近は「プライベートが寂しい」という全く関係ない理由からクレームを出してくる方々が増えていて・・・こればかりは仕事という範囲では手に負えないのですが)
クレーム言う側も、クレームを受ける側も出来る事と出来ない事があります。
最近、日々その模索の繰り返しのような感じがしています。

投稿者 あい : 2007年08月08日 18:08

松尾さん
どうも、大変ご無沙汰しております。鈴木です。
ついつい、馴染みのあるエントリだったのでコメントさせていただきました。

>お客様を自社と相対する側に置いて考えるのでなく、
>お客様側と同じ場所に自分を置いて考える。

本当にその通りです。そして、全世界にいるオペレーターは(たぶん)この言葉とその意味を知っています。でも、できないんです。

私はあちこちで口酸っぱく「終始顧客視点で!」を唱えていますが、やはりクレーム対応の最中となるとどうしても”自己防衛”に走ってしまうようです。本能的な部分もあるのでしょうが、プロたるもの、やはりそこは切り分けてほしいなあといつも思っております。そこに当事者意識をどう持たせるかがポイントですね。

実は、どうにもピンとこない人には「苦情を言う心理がわからないなら、苦情をしてみなさい」とこっそりアドバイスしたりもしています。急にクレーマーに転じたりする人もいるので、そこはもちろん、釘を刺しますがね。

投稿者 鈴木 : 2007年08月08日 19:16

あいさん、こんにちは。

なるほど、お客様が満足するというよりは、
「お客様が納得する」というのが最も適切な考え方かも知れませんね。関根氏も、お客様が満足するということは、お客様の要求をすべて受け入れるという意味では使っていませんけど。
本当に悪意のあるクレーマーに対しては断固たる態度を取り、こちらから関係を絶つというのも時に必要でしょう。

投稿者 松尾順 : 2007年08月08日 19:47

鈴木さん、ご無沙汰してます。

オペレーターの方も、「顧客視点で」というのは頭でわかっていても、実際にはできない。わかることとできることの壁はやはり大きいんですね。関根氏も5年かかったわけですし。

当事者意識を持たせるというのは重要な示唆だと思います。
ありがとうございます!

投稿者 松尾順 : 2007年08月08日 19:49

お客様を満足させる。お客様が満足する。
たった一文字の違いなのに、深いですね。。。

投稿者 Anonymous : 2007年08月09日 01:19

おっと、この上のAnonymousは私です。

投稿者 開米瑞浩 : 2007年08月09日 01:19

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