影響力を解剖する(3)無意図的影響力-2

「人に影響を与えること」は、大きくは

「意図的」と「無意図的」

に分けることができるということでした。


そして、無意図的な影響力は、

『影響力を解剖する』

では、次の6種類が挙げられています。

・参照影響力
・行動感染
・観察学習(モデリング)
・傍観者効果
・社会的促進・社会的手抜き
・漏れ聞き効果


今回は、このうち後半の3つについてご紹介します。


[傍観者効果]

高齢者や妊婦が社内に乗り込んできても、
誰も席を譲ろうとしないので、自分も寝たふりをしてしまった。

これが傍観者効果。


周囲に人がいると、

「自分以外の誰かがやってくれるだろう」

と考え、文字通り「傍観者」になってしまうことです。


他人の存在が、無意識に自分の

「見て見ぬふり行動」

を誘発してしまうのですね。


実は、傍観者効果が見られる出来事は、
かなり頻繁に起きています。

ちょっと前のことですが、
列車内で隣に座った赤の他人の男性に脅され、
暴行された女性を満員の乗客の誰も助けなかった
という事件がありました。


また、以前友人から聞いた話ですが、
ある外国人の方が空港の待合室で気分が悪くなった。

ところが、明らかに具合が悪いことが見てわかるのに、
誰も声をかけてくれなかったそうなのです。


傍観者効果は、残念ながら
個人の倫理観では防げない問題です。

しかし、自分が当事者というか、
例えば、街中で倒れてしまった時に誰も助けようと
してくれなかったら大変ですね。


こんな時の解決策は、通り過ぎる特定の人に向けて、

「そこの赤い服の人、助けてください」

などと呼びかけることなのだそうです。

こうすることで、多数の人がいることによって
分散してしまった「社会的責任」を特定の人に
押し付けてしまう。

さすがに、名指しされて無視する人は少ない。
そして、一人が助けると周囲の人も寄ってきてくれます。


[社会的促進・社会的手抜き]

一緒に勉強する仲間がいると勉強がはかどる。


こんな現象が、「社会的促進」です。


他者(観察者や共行動者)の存在が、
自分の作業の量(増加することも減少することもある)に
影響を与えてしまうのですね。

社会心理学者のザイアンスによれば、
他者(観察者や共行動者)がいることによって、

慣れている仕事の場合には作業量が増加し、
慣れていない仕事の場合には作業量が低下する

ことがわかっています。


一方、「社会的手抜き」とは、
単純作業を何人かで一緒にしているときに起きる現象。

これが「社会的手抜き」です。
傍観者効果に近い心理があるように思いますが、
集団で同じことをやろうとすると、一人ひとりの
モチベーションが下がってしまうのです。


たとえば、運動会の綱引きの時、
自分だけ力を入れているふりをしませんでしたか。

周りが力を出してくれるから、
自分くらい手を抜いても大丈夫だろうと
考えてしまうのですね。
(こんな人が多かったら負け確実・・・)


私の勝手な推測ですが、綱引きの勝敗は、

・どっちが力持ちの人間が多かったか

ということではなく、

・どっちが「社会的手抜き」をする人が多かったか

で決まるんじゃないかと思います。


なお、会社の会議などにおいても、
この社会的手抜きは発生しています。

ブレストみたいにある程度全員発言を義務付けないと、
他人にしゃべらせといて、

「自分はただ聞いてることにしよう」

と考える人が発生してしまいます。


『影響力を解剖する』では、
社会的手抜きを防ぐ方法として次の3点が紹介されています。

(1)単純作業ではなく、挑戦的な多少難しい仕事にする
(2)各人に少しずつ異なる作業を与える
(3)各人の責任の分担を明らかにしておく


[漏れ聞き効果]

電車に乗っていて

「○○銀行は危ないんじゃないの」

と話しているのをたまたま聞いて、なんとなく不安になり、
口座から金を引き出した。


こうした、いわゆる「うわさ」を偶然聞いたことで、
自分の行動に変化が生じてしまうのが

「漏れ聞き効果」

です。


なぜ偶然聞いた話に影響を受けてしまうのでしょうか。
その理由として、次の3つが挙げられています。

(1)偶然に会話に接するので、面と向かって話されるときよりも
   受け手に構えが生じにくい
(2)聞こうと思って会話に接したわけではないので、
   その内容から受ける衝撃が大きいこと
(3)会話をしている人が受け手に影響を及ぼそうという意図が
   ない(ように見える)ので、受け手に反発が生じにくい

考えてみれば、「ブログ」は、

「漏れ聞き効果」

が高い媒体ですね。

個人発ながら、「口コミ」と異なり、
不特定多数に向けられた情報発信です。

とはいえ、偶然に目にする機会がありますし、
作為的なものも増えてきたとはいえ、基本的には自然な内容
ですので。

ブログの影響力が増しているのもむべなるかな、です。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 2007年08月15日 13:12

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コメント

こんにちは。金森です。まいどどうも!
「傍観者効果」について、ビフ・ラタネの実験の解説と、自説を記した過去記事がありましたので、トラックバックさせていただきました。
よろしくお願いいたします。

投稿者 金森努 : 2007年08月16日 09:04

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