影響力を解剖する(6)影響力の源-2

「影響力の源」は次の6つでした。
(米国の社会心理学者、フレンチとレイヴンの説)


・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力


今回は、後半の3つについて簡単に解説します。


[専門影響力]

医者から、

“「タバコ」を吸うのは体に良くない”

と言われたので、長年吸い続けてきたタバコをやめることにした。


学問、スポーツ、料理、芸術など、
さまざまな領域において、人よりも豊富な専門的知識や技能を
身につけていることによって生じるのが

「専門的影響力」

その道のプロの言葉なら、素人の自分よりも信憑性が高いだろう
と影響の受け手が考えやすい。だから、影響力が高くなるわけです。


健康関連商品の広告では、よくお医者さんが登場しますが、
これは「専門的影響力」を購買意欲の喚起に活用しているわけです。


さて、「専門的影響力」が効果を発揮するためには、
影響の受け手が、相手の「専門性」を認めていることが前提です。

医師のように国家資格の場合は、
資格を取得していることで「専門性」が担保されますから、
上記の点は問題なりません。

しかし、たとえば「経営コンサルタント」のような職業の場合、
「専門性」を担保されるような資格は実質存在しません。

MBAホルダー=名経営コンサルタント

とは限らないのは言うまでもないですよね・・・


そこで、『影響力を解剖する』には、
専門影響力を高める方法として、

受け手に対し、折に触れて

「自分の専門性の高さ」

を呈示していくことが挙げられています。

こうした機会を積み重ねることによって、
「専門性の高い人」というイメージが強化されていくわけです。


ですから、様々な分野の専門家が、
現在、ブログやメルマガで積極的に情報発信を
行っているのは、

「専門的影響力」

を向上させるためなのです。


逆に言えば、
どんなに自分では専門性が高いと思っていても、
情報発信を通じた「専門性」の呈示が十分でない場合、
専門的影響力は高まりません。
(誰もが認める専門的な資格を取得している場合を除いて)

結果的に、

「話を聞いてもらえない、信頼されない」(=仕事が来ない)

ということになりますね。


なお、「専門的影響力」を
自分の利益誘導のためだけに活用した場合、
相手からの信頼を失ってしまうことも忘れてはいけません。

たとえば、私の経験ですが、以前通っていた歯医者さんで、
保険の効かない高額の金歯をかなり強引に勧められたことが
ありました。

金歯の方が良いのはわかりますが、
その歯医者さんは「金儲け主義」に走っている印象が強くて、
治療途中で、別の歯医者さんに切り替えてしまいました。


[参照影響力]

「参照影響力」は、

「無意図的な影響力」

のひとつとしても、すでにご紹介しました。

*影響力を解剖する(2)無意図的影響力-2


私たちは、小さいころから、
親をはじめとする周囲の人々の「考え方」や「行動」を
真似ることによって、「生き方」を学んできています。

ですから、

「あのような人になりたい」

という願望が、
心の奥深く植えつけられているんじゃないかと思います。

このため、命令されたわけでもないのに、

「あこがれの人」(理想像)の

しぐさや服装を勝手に真似したりするわけです。


そしてまた、こうした尊敬や好意を抱いている人からの

依頼や指示・命令

だったら、私たちは喜んで聞きますよね。


最近、ビジネスでは

「人間力」

という言葉がキーワードになっています。


優れたビジネススキルを有しているだけでなく、
明確なビジョン、ぶれない決断力や危機対応能力、
部下育成能力、そしてまた

「人としての魅力の高さ」

を備え持つリーダーは、
あえて「賞影響力」や「罰影響力」を駆使しなくても、

「あの人のためにがんばりたい」

といった「自発的」で
高いモチベーションを部下に与えることができるからです。


[情報影響力]

これまで紹介してきた5つの影響力は、

「外的な刺激(賞、または罰を与える)」

または

「誰が言うか」

ということが影響力を左右してきました。


しかし、「情報影響力」は、語られる言葉、文字そのもの、
すなわち「内容」(コンテンツ)自体が持つ影響力です。

理路整然とした展開、様々な具体事例を挙げながらの話って、
語り手が誰であるかにかかわらず、

「なるほど、そうなんだ」

という印象を持ちますよね。


つまり、内容自体が優れていると
それだけでも高い説得力を持ちうるわけです。

実際、狂信的なカルト団体のメンバーを
その団体から脱会させる時に有効なのは、
強い「参照影響力」を持つ教祖の話の論理的矛盾を突いたり、
メンバー本人の思考や行動の不合理さを会話を通じて
自覚させるといった、

「情報影響力」

活用のアプローチだと聞いたことがあります。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 2007年08月20日 11:20

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コメント

私はかなり松尾さんから「専門的影響力」を受けているような気がします。なんだかこういう言い方をするとちょっと抵抗感を感じてしまうのが不思議ですが(笑

今回の内容は自分がお客様に接する時に限って考えるのではなく、教育者と名の付く人に読んでほしいですね。

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ここから先は教師に限っての話です。
この前のコメントでも触れた「教育力」には冒頭には
「教育とはあこがれの伝染である」という言葉があり、思わず頷いたものです。

しかし私が今まで接してきた教師に関して言えば「専門影響力」を過大に見積もって権威主義になっていたり「情報影響力」だけで事足りると思っている人が多い印象があります。

生徒の価値観が多様化している状態で
今の労働時間のままでは難しいでしょうが
日本の将来を担う子供のために、何か考えられないかな、と思います。この認識を広めるだけでも違うと思うのですが。

投稿者 はぐれヲタ : 2007年08月21日 10:51

まいど!

いろんな物事の裏のカラクリを知ってしまうとなんだかつまらないというか、白けますよね。

「教育とはあこがれの伝染である」というのは
なかなかグッとくる言葉ですね。

教育者がまずもつべきは「参照影響力」なんでしょう。

投稿者 松尾順 : 2007年08月21日 14:00

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