「法事」の深い意味

日本では、親族が亡くなった後、

初七日、四十九日、初盆・・・

と、かなり頻繁に遺族が集まる風習(法事、または法要)
がありますよね。


これにはどんな「意味」があるのか、
考えたことがありますか?


“昔からそうするしきたりになっているから、
 今も続けているだけに過ぎない「形式的な仏事」だよね? 
 だから、その「意味」など考えたこともないよ。”

という方が多いんじゃないでしょうか。

私もそうでした。


しかし、実は、「法事」には深い意味があったのです。


話が飛びますが、欧米の病院では近年、

「遺族ケア」

が試みられているそうです。


遺族ケアは、末期と診断された患者さんを
定期的に小さなパーティに招待するもの。

このパーティは、患者の家族や友人、医師、僧侶などを含む
10-15人の集まりです。そして、患者の話したいこと、
歌いたい歌、流したい涙、なんでも受け止めるのです。

パーティは7-8回繰り返され、
3カ月もすると患者さんは天国に召されます。


遺族ケアの要諦は、その後にあります。

患者さんが亡くなった後も、
同じメンバーが集まってのパーティ(患者さんは写真で参加)が
3-4回開催されるのです。

これには、部屋代もお菓子代もかかる。
医師も参加することがありますが、
この場合の実質的なコストは相当高いものになります。


ドライに考えれば、死んでしまった方のために
さらにお金をかけるのは、ある意味「無駄」なことですよね。

にもかかわらず、効率を徹底的に追求する欧米の病院で、

「遺族ケア」

が行われているのはなぜでしょうか?


その理由は、結果的に

「安上がり」

だからです。

つまり、経済合理性の観点から

「遺族ケア」

は行われています。


実は、「遺族ケア」をしなかった家族を
追跡調査してみると、患者さんの死から1-2年のうちに

急病、突然死、精神異常、自殺未遂、交通事故

など、多くの不幸が起こる確率が跳ね上がることが
事実として把握されているのだそうです。

家族の死は、人にとって

「最大のストレス」

であるということを聞いたことがありますよね。

おそらく、このストレスによって、
遺族は精神的・肉体的に不安定になり、結果として、
さまざまな不幸につながっていくのでしょう。

そうした不幸は、社会的には新たなコストの元です。


したがって、

「遺族ケア」

は遺族に降りかかる不幸を未然に防ぐことができる
(そして、新たな社会的コストも抑えられる)

「優れた公衆衛生学的な方法」

だと、欧米では認められているのです。


さて、日本に話を戻しましょう。

身内の死後、
残された家族にさまざまな不幸が起きることは、
日本でも経験的にわかっていました。

これを私たちは

「死者のたたり」

と呼んで恐れました。


ここまで書けば、

「法事」

の深い意味がもうおわかりでしょう。


死者の「たたり」を鎮め、不幸を予防するための

「仕組み」

として確立されたのが、

初七日、四十九日、初盆

といった法事だったのです。


一見、単なるしきたり、風習、伝統としか思えない
私たちの行動の奥には、しばしば深い意味が潜んでいます。


心理学には、

「文化心理学」

という研究分野が存在するのはご存知でしょうか?


「遺族ケア」の話は、
人の行動をよりよく理解するためには、私たちが持つ様々な

「文化や伝統」

についても深く掘り下げる必要性を感じさせてくれますね。


「遺族ケア」の出典:ドクターズマガジン No.94 September 2007

柏木哲夫氏(淀川キリスト教病院名誉ホスピス長/
金城学院大学学長)とカール・ベッカー氏
(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)の対談

投稿者 松尾 順 : 2007年08月31日 11:49

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コメント

こんばんは。 

 興味深い話です。

 セーフティネットとして機能していた、ということなんですね。

 ある人が死ぬことで、その人を取り巻く人々の状況が激変する、と言う事はよくある話ですね。

 オタクな話になってしまうんですが、戦国時代切っての謀将、黒田孝高は、晩年急に怒りっぽい性格になったそうで、その一番の理由が殉死者を出さぬため、また、息子の長政に忠誠を誓うようにするための深慮遠謀であった、という話を、ふと思い出しました。

 武田晴信や真田昌幸といった多くの名将が死後その事実を数年は伏せることで家中の動揺と周辺の敵対国の動きを封じたことにも通じますね。

投稿者 s2 : 2007年09月04日 13:34

s2さん、まいど!
(最初のs2さんのコメントをスパムコメントと一緒に間違って削除してしまったので、私の方で再度コメントをアップさせていただきました)

戦国武将の話は、
人の死が周囲に与える影響の大きさを
改めて感じさせますね。

投稿者 松尾順 : 2007年09月04日 13:36

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