エンゲージメント、エンゲージメント・マーケティングとは何か?

最近のマーケティングにおける、
最もホットな「バズワード」(流行り言葉)のひとつに

「エンゲージメント」

がありますね。

(実は「エンゲージメント」は、
 人材マネジメント業界においてもホットなバズワードですが!)


ところが、さまざまな情報に当たってみても
未だにその正体ははっきりしません。

先日参加した某勉強会でも

「エンゲージメント・マーケティング」

が、旬のテーマとして取り上げられてました。

しかし、現時点では言葉だけが独り歩きしていて、
中身はまだ空虚なままであるということがはっきりしました。


そこで、今日は私なりの「エンゲージメント」についての考えを
書いてみます。


まず「エンゲージメント」を日本語にどう訳すかですが、
これは、

「のめりこみ」

という言葉がしっくりくると思います。

人材マネジメント業界では、この「のめりこみ」という言葉が、
ワトソンワイアットの人材コンサルタント、川上真史によって
紹介されています。

人材マネジメントの枠組みでは、社員が、
どれだけ自分の仕事に“のめりこめている”かどうかが、
高い生産性や成果をあげるために重要だという視点で
注目されています。

つまり、従来のように企業本位の視点で、
どうやって働かせるかという発想ではありません。

逆に、社員本位の視点で、
どうやったら仕事に自発的に取り組んでもらえるかを考えるのが、
人材マネジメントにおける「エンゲージメント」です。


マーケティングの枠組みにおける「エンゲージメント」、
つまり「のめりこみ」も、同様に視点(立ち位置)の移動が
あります。


従来のマーケティング・コミュニケーションは、

どうやって伝えるか、理解してもらうか、買ってもらうか

という企業本位の発想でした。


しかし、「エンゲージメント」の考え方では、

対象ユーザー(消費者)が、どの程度、
当該商品・サービスにのめり込んでいるか
(エンゲージしているか)

を重視します。


すなわち、「対象ユーザーの視点」で、
マーケティング・コミュニケーションを評価しようするのが、

「エンゲージメント」(のめりこみ)

の基本発想だと言えます。

より具体的に説明すれば、「エンゲージメント」(のめりこみ)
では、この言葉が示すとおり、従来の

「ブランド認知」「ブランド理解」

といった浅いレベルではなく、
より深いレベルでの対象ユーザーとブランドとの関わり方に
焦点を当てます。

すなわち、対象ユーザーと当該商品・サービスとの間に
どの程度強い「心の絆」が形成されているかという、

「心理面での関わり度合い」

と、その目に見える形での現れとしての

「行動面での関わり度合い」

に着目します。


そして、エンゲージメントの基本思想である、

「深いレベルでの対象ユーザーとブランドの関わり方を
 強化すること」

を目指した具体的なマーケティング施策のことを

「エンゲージ・マーケティング」

と呼ぶのだと私は考えています。


さて、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、
「エンゲージメント」の基本思想は、

「CRM」(Customer Relationship Management)

のそれとほぼ同じです。

どちらも、対象ユーザーとブランド(企業を含む)との
関係性強化を狙うものだからです。

ただし、「CRM」は、どちらかといえば企業本位の視点が
強かったのに対し、「エンゲージメント」では、
企業のマーケティング活動の成果を対象ユーザーの深いレベルの
心理面や行動面の変化で評価しようとする点が異なると言えます。


問題は、「エンゲージメント」をどう測定するかですね。
この点で、米国でも日本でも論争が続いています。


行動面の評価指標の候補としては、例えばインターネットなら

サイトの滞在時間、ブログでのキーワード頻出数、
コメント数、トラックバック数

といったものが挙げられます。


一方、心理面の評価指標は、目に見えない心理状態を
把握するわけですから、なんらかのアンケート調査を行うか、
人間の脳を直接測定する「神経生理学」(ニューロサイエンス)
の手法を採用することが考えられます。
(このニューロサイエンスを活用したマーケティングである、
「ニューロマーケティング」も最近のバズワードのひとつですね)


ニューロサイエンスはまだ敷居が高いのですが、
アンケート調査による、対象ユーザーの心理状態の把握については、
すでに利用可能と思われる先行指標があります。

それは先日ご紹介した、

「BRQ:Brand Relationship Quality」

です。

「BRQ」は、10年ほど前に開発された評価指標ですが、
ブランドの関係性の「質」を測定するものです。


具体的には、

“消費者が、ブランドに対して持っている感情的なつながり”

を評価します。

これは、「エンゲージメント」で言われる「心の絆」に
他なりません。


「BRQ」では、次の7つの軸で「心の絆」の強さを見ます。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)

そして、この7つの軸の強弱を競合ブランド間で比較分析
することなどによって、具体的なマーケティング施策を
立案することが可能です。


さて長々と説明してきましたが、まとめます。


エンゲージメントとは、
対象ユーザーが当該商品・サービスに対して持っている
「心の絆の強さ」のことです。

ひらたく言えば、対象ユーザーが、

当該ブランドにどれだけのめり込んでいるか

ということです。

「心の絆」を強化することを狙ったマーケティング施策を
「エンゲージマーケティング」と呼びます。

「エンゲージマーケティング」の効果測定は、
心理面と行動面の2面で行う必要がありますが、
まだ一般に認知された指標はありません。

ただし、心理面の指標としては、
「BRQ」が採用可能だと考えています。


(関連記事)
*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(0)イントロダクション

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(1)感情的なつながり

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(2)活用の具体手順

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(3)効果と具体施策

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(4)BRQ低下をもたらすもの

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(5)まとめ

*ニューロマーケティング:コークvsペプシ

*欲望解剖

*fMRI:機能的磁気共鳴画像法の利用増えてます。

投稿者 松尾 順 : 2007年11月27日 09:37

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コメント

いつもながら分かりやすくまとめていただいて感謝です。
とても勉強になります。

選択理論心理学の立場から眺めると、
まさに「のめりこみ」とは、
その人の上質世界のトップページに
そのイメージ写真が鮮明に貼られている状態を
いうのだろうと感じました。

>従来のマーケティング・コミュニケーションは、
>どうやって伝えるか、理解してもらうか、
>買ってもらうかという企業本位の発想でした。

これはそこはかとなく外的コントロールの香りがする状況

>しかし、「エンゲージメント」の考え方では、
>対象ユーザー(消費者)が、どの程度、
>当該商品・サービスにのめり込んでいるか

これは、ユーザーがその商品に
どれほど内側から動機付けられて、
さらに欲求充足しているか(内的コントロール)

ということなのではないかと思いました。

良いキーワードを教えていただきました。
ありがとうございます。

投稿者 natsuko : 2007年11月27日 15:03

natsukoさん、いつもコメントありがとうございます。

ご指摘のとおり、マーケティングにおいても、
外的コントロールから内的コントロールへの視点の
移行が起きていると思います!

投稿者 松尾順 : 2007年11月27日 19:04

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