オープンソースで食っていく、幸せになる

今日もちょっと「人材マネジメント」や
「キャリア」寄りの話です。

先日、

「ジョブ・エンゲージメント」

の考え方をご紹介しましたが、この記事を書いた後になって、

「そういえば、ジョブ・エンゲージメントは、
オープンソースに関わっている方に最もあてはまるなあ」

と気づいたんですよね。


以前、オープンソースの代表としてあまりにも有名な

「リナックス」

の創始者、リーナス・トーバルス氏が自著、

『それが僕には楽しかったから』(just for fun)

の邦訳版の出版に併せて来日された際に行ったインタビューの時、
彼は、リナックスが開発者に与える価値を解説してくれました。


リーナスさんによれば、私たちが生きる意味は、

「生き残り」「社会性」「娯楽」

の3つがあると考えてますが、このうち、リナックスは

「社会性」「娯楽」

の2つを与えると言っていました。


プログラミングは創造的な仕事ですよね。

自分が作成に関わっているプログラム上で実行できる機能が
だんだんと増えていくことを通じて「達成感」と「自己効力感」、
つまり「自分には能力がある」という自尊感情を満たすことが
できます。

しかも、そのプログラムが社会に受け入れられ、
社会で広く利用されるようになれば、自分の社会における
存在意義・価値を実感することができ、承認欲求も満たされる。


ジョブ・エンゲージメントの最初の条件、

「自己効力感」

がオープンソースにはあるというわけです。


もちろん、オープンソースでなくても、
仕事としてプログラミングに関わっていれば、
多かれ少なかれ「自己効力感」を得ることはできます。

しかし、「娯楽性」はあまり与えてくれないでしょう。

というのも、仕事としてのプログラミングは、
生活費を稼ぐためという外的報酬に動機付けられている点が
大きく、それをやりたいかやりたくないかではなく、

「やらざるを得ない仕事」

になってしまうからです。


でも、オープンソースは基本自由参加ですよね。
楽しいと思える人、やりたい人だけが参加すればいい。

しかも、リーナスさんが、リナックスの開発を

「チームスポーツ」

に喩えていたように、
さまざまな個性、能力を持つ世界のプログラマーが
それぞれの得意分野(ポジション)を担当して、
共にゴールを目指すという楽しさがある。

オープンソースの開発は、
自由参加の異質な人間の交わりを通じて
高い「娯楽性」が生じているわけです。

つまり、ジョブエンゲージメントの2番目の要素、

「シナジー」

もオープンソースにはある。


問題は、ジョブ・エンゲージメントの3番目の要素

「プライベート」(の安定)、

リーナスさんの言葉では、

「生き残り」

はどうするんだということです。

オープンソースは文字通り、
ソースコードを無料で公開してしまうわけです。

ライセンスフィーが得られないとなれば、
どうやって食っていくのか・・・


しかし、これは杞憂のようです。

すでにオープンソースに関わることで
メシを食っている人はどんどん増えている現実があります。

日本発のプログラム言語、「Ruby」の創始者、
まつもとゆきひろ氏も、梅田望夫氏との対談で、
すでにオープンソースで数百人単位で飯を食っていると
指摘しています。


オープンソースの隆盛を見ると、
資本主義社会の儲かってナンボの世界とは異なる世界が
インターネットによって拡大しつつあるのを実感しますね。

自分の好きなこと、やりたいことに没頭する。
仲間と共に、協働するからこそ可能な価値を生み出す。
それが、結果的に社会的な価値を持ち、関係者にも、
その価値が回りまわって戻ってくる。飯が食えるようになる。

オープンソースに関わることによって、
純粋な「ジョブ・エンゲージメント」が実現するわけです。

これは、実にうらやましい「幸せなキャリア」でもあります。


*IT Pro 梅田望夫×まつもとゆきひろ対談
「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(前編)

*IT Pro 梅田望夫×まつもとゆきひろ対談
「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(後編)

*ジョブ・エンゲージメントからの示唆

*それがぼくには楽しかったから

投稿者 松尾 順 : 2007年12月04日 09:42

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