『亜玖夢博士の経済入門』

今日は、最近読んだ風変わりな本をご紹介します。


『亜玖夢博士の経済入門』

は、端的にご紹介するなら、

専門書の解説では厳密すぎて理解困難な、

「経済関連の理論の基礎」

を物語仕立てでわかりやすく解説している本

ということになるでしょうね。


同書には5編の独立したストーリーが収められています。
ただし、それぞれに関連を持たせてあり、
最後には全体が結びつくのですが。


各編では、最近注目されている以下の理論が一つずつ
取り上げられ、それぞれの理論を軸にしながら、
相当ぶっ飛んだ、奇妙な話が展開していきます。

・行動経済学
・囚人のジレンマ
・ネットワーク経済学
・社会心理学
・ゲーデルの不完全定理


主人公は、70歳の亜玖夢(あくむ)博士です。

万巻の書物を読破した亜玖夢博士は、
己の学識全てを傾け衆生を救済するため、
東京・歌舞伎町裏、風俗街の怪しげなビルに

「亜玖夢研究所」

を開設。

歌舞伎町のポン引きがばらまく勧誘チラシを
頼りにやってきた相談者たちが抱える問題を
中国人の助手の手を借りて解決してあげるという設定です。

そのチラシには次の一文が。

「相談無料。地獄を見たら亜玖夢へ」


私が特に楽しかった章は、
やはり私の最大の関心領域である「社会心理学」を
取り上げた第4章(同書では「第4講」)です。


この章では、あらゆる病気に効果があると謳う

「スーパー・バイオニック・ウォーター」

といういかにも怪しげな水を製造するマシン

「ミラクルSBW」

を売りまくるトップセールスマンが、
亜玖夢研究所にやってきます。

そして、あらゆるセールステクニックを用いて、
亜玖夢博士に「ミラクルSBW」を売りつけようとします。


しかし、人類の英知を知り尽くした亜玖夢博士は、
彼が次々と繰り出すセールストークを社会心理学的に
解説してみせることによって、セールスマンを完全に
打ちのめし、無力化してしまうのです。

ただ、結局のところ1台100万円のマシンを
亜玖夢博士は購入します。その後、セールスマン自身は
まんまとある罠にはめられて地獄を見ることになるのですが、
ことの顛末は本書をお読みください。(笑)


なお、4章で亜玖夢博士が示した社会心理学の理論とは、
具体的には、「コールドリーディング」を始め、
名著『影響力の武器』で紹介されている理論である、

・権威に対する服従
・社会的証明
・希少性の原理
・一貫性
・返報性

の5つです。


『影響力の武器』にはより詳細な説明があり、
文章も読みやすいのですが、
なにしろ分厚くボリュームのある本です。

『影響力の武器』をまだ読んでいない方は、
まずは本書での亜玖夢博士の解説を読んで、
社会心理学で解明されている

「相手に影響を及ぼすテクニック」

のポイントをつかんでおくのがいいかもしれません。


『亜玖夢博士の経済入門』は280ページありますが、
軽い文体ですので、通勤時間の1-2時間でさくっと読めます。

とっつきにくい印象のある理論も、
実は人間の行動を理解するために役立つこと、そして
理論の本質は、それほど複雑ではないことがわかりますよ。


『亜玖夢博士の経済入門』
(橘玲著、文藝春秋)

(関連図書)
『影響力の武器[第二版]』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会翻訳、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 07:35 | コメント (0) | トラックバック

乳児でも区別する「良い人」「悪い人」

私たち人間は、「群れ」(集団)を作り、
共同生活をすることで世代をつないできた社会的動物。


共同生活を維持するためには「相互扶助」の関係が必要です。

ですから、茂木健一郎氏も述べていますが、

「他人のため」

に何かをすることを

「喜び」

とするように脳の報酬系ができあがっています。

つまり、誰かのために役立つこと(利他的行動)が、
脳に「快感」を与える仕組みが組み込まれています。


そしてまた、私たちは生まれながらにして、

・誰かを助ける人は「良い人」(好きな人)
・そうでない人は「悪い人」(嫌いな人)

と区別することが、
イェール大学のハムリン博士の実験から
わかっているのだそうです。


以下の実験内容は、脳研究者の池谷裕二氏が、
日経新聞夕刊(2007/12/05)の「あすへの話題」で
紹介されていたものです。


生後6カ月の乳児に、円盤に2つの目が描かれた
かわいいキャラクター「クライム君」を見せます。

クライム君は、斜面を登ろうと努力しているところ。


ここで、別のキャラクターAとBが登場します。

Aは、クライム君を後ろから押して
坂を登るのを手伝います。

一方、Bは坂の上にいて、
登ってくるクライム君を押し戻そうとします。
つまり、クライム君の邪魔をするのです。


この様子を見ている乳児はといえば、
Aを長く眺めたり、Aに手を伸ばそうとします。

言葉をまだ話せない赤ん坊ですが、
こうした態度・動きによって、

「BよりもAが好き」

ということを示しているわけです。


そもそも、クライム君の動きを見た乳児は、

「クライム君は坂を登りたいのだ」

という他者の欲求を理解しているらしい点も
驚きですよね。

これは、おそらくミラーニューロンの働きでしょう。


そしてまた、他人の欲求を叶えるために援助できる人を

「好き」

と感じるのもミラーニューロンの働きなのかもしれません。

他人を助ける人は、
自分に快感をもたらしてくれるわけですから。


さて、当然のことながら、
逆に利己的な行動を取る人は他者に不快感を与えるため、
嫌われ、社会から疎外される結果をもたらします。


ところが、このことがわかっていながら、
私たちはしばしば、「利己的」に振舞ってしまいますよね。

なぜなのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 07:26 | コメント (3) | トラックバック

YouTubeで発見されたジャーニーの新リードボーカル

私が高校・大学生の頃に
大好きだったアメリカのロックバンドのひとつが

「ジャーニー」

です。

全盛期は80年前半でしたので、
最近はほとんど忘れられた存在ですね・・・
(とりあえず彼らのCDはすべて持ってますけど)


まあ正直なところ

「まだいるの?」

という感じでしょう。

でも、中だるみの時期もあったものの、
バンド結成30年を越えてまだがんばってます。

日本にも3年おきくらいに来てたようです。
(私も気づかなかったほど小規模ですが)


ところで、ジャーニーのリードボーカルは
過去1年ほど不在だったのですが、昨年末(07年12月5日)、
フィリピン・マニラ出身の

「アーネル・ピネダ」(Arnel Pineda)

に決まったことが発表されました。


アーネルは、1967年生まれのフィリピン人です。

地元で「ZOO」というバンドを率いており、
ジャーニーを始めとする70-80年代のロックバンドの
カバー曲を主に演奏していました。


実は、この無名のアーティスト、アーネル・ピネダが
ジャーニーの新ボーカルに抜擢されたのは、

「YouTube」

がきっかけでした。


ボーカル不在の状態が続いて困っていたジャーニーのギタリスト、
ニール・ショーンが自分たちのバンドにふさわしい人材がいないかと
YouTubeを探し回ったのです。


そして、二ールはアーネルを発見した。

YouTubeには、「Zoo」のライブ演奏が多数アップされていますが、
アーネルは本当に素晴らしい歌を聞かせてくれています。
(バンド自体の演奏はあまり上手くありませんが・・・)


特に、ジャーニーのカバー曲を聞くと、

「日本のものまね紅白歌合戦に出演しませんか?
 優勝間違いなしですよ。」

と誘いたくなるほど、
ジャーニー全盛時のリードボーカル、
スティーブ・ペリーにそっくりなんですよね。

もちろん、アーネルは単に似ているだけではない、
素晴らしい才能を持っていることが、
他の有名ロックバンドのカバー、例えばクィーンや
ボストン、チープトリックなどの曲を聞けばわかります。


さてアーネルの才能に魅了されたニールは、
早速、YouTubeを通じてアーネルに連絡を取ったのですが、
アーネルは当初、

「どうせひっかけだ!」

と無視しました。

しかし、このニールからのメッセージを最初に見つけた
友人のノエルは、アーネルに次のように言ったのです。

“What if it really was Neal and He wanted to offer
you the chance of a lifetime?”

もしそれが本物のニールで、生涯最高のチャンスを
 君に与えようとしていたとしたら?

そこで、アーネルはニールにeメールを送ってやりとりが始まり、
ついにジャーニーの新しいリードボーカルとして迎えられることが
決まったというわけです。


もし、YouTubeがなかったら・・・?

おそらくアーネルは、出身地のフィリピンでは
そこそこ人気のあるリードシンガーではあるものの、
それで終わっていた可能性が高いですよね。


インターネットのおかげで、世界のあちこちで
発見されないまま埋もれている才能が見い出され、
世に出るきっかけが与えられる可能性があるのだという
事実に、私は素直に感動してます。


*ジャーニーの新ボーカル決定についてのニュースリリース(英文)
 http://www.journeymusic.com/index2.html

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (6) | トラックバック

現場は「プロセス」で評価すべきでは?

ある事業(会社)がもうかるかどうかは、

「事業立地の選択」

次第。

すなわち、「だれに何を売るか」という基本的な

「戦略」

の適切さで決まります。

この「戦略」を決めるのは経営者ですから、
儲からないのは経営者の責任だと言えます。


ただ、収益を上げる鍵となる「競争力」は、
戦略が書かれた分厚い中期経営計画書や本社の会議室からは
生み出すことができません。

戦略を確実に実行できる

「現場」(オペレーション)

こそが「競争力」を生み出す。


ですから、経営者としては、
適切な「事業立地」を選択すると同時に、
現場を強くするための仕組みづくりが求められるわけです。


さて、このことを深く理解している経営者のひとりが、
昨年、ドトールと経営統合を果たした

ドトール・日レスホールディングス」

の会長、大林豁史(ひろふみ)氏です。

日本レストランシステムが運営する主力業態としては、

「洋麺屋五右衛門」「にんにく屋五右衛門」

が有名ですよね。


大林氏によれば、
毎日店舗ごとの成績表とにらめっこし、
赤字の店がどうやったら儲かるようになるかを
四六時中考えているそうです。
(日経ビジネス、2008/01/21)

でも、各店舗の売上ノルマがあるわけではありません。
営業成績を店長に問うこともありません。

そもそも店長自身が、
自店の営業成績を知らないのだそうです。


大林氏は、

“店の営業成績が振るわないのは店長など店舗スタッフの
 せいではありません。赤字は、出店や業態を決めた本部の
 戦略部門の失敗であり、私の失敗です。
 店舗スタッフは本部が定めたちゃんとしたことをきちんと
 やればいい”

と述べています。

赤字は、本社、つまり経営者の戦略上の失敗だから、
どうしたら挽回できるかを大林氏自身が考えているんですね。


では、大林氏は現場をどうやって評価しているかというと、

「本部が定めたモデルケースにどれだけ近づいたか」

だそうです。


「モデルケース」の詳細は不明ですが、
現場のオペレーションを最適化するための標準的な仕様、
たとえば、食材の量や調理方法、接客方法などのことだと
思われます。

端的にいえば、

「成功パターン」(=マニュアル)

のことでしょう。


すなわち、同社の店舗では売上という

「結果」

ではなく、現場のオペレーションという

「プロセス」

がどれだけ理想に近い形で実行できているかを
評価しているのです。


よく考えてみれば、
きちんとした商品・サービスが提供できてこそ、
結果としての売上がついてくるわけです。

ですから、売上目標を現場に押し付けて、
ケツをたたくだけの本部は戦略思考に欠けていますし、
現場側としては、売上げのために不正だって何だって
やるしかないということになりかねませんよね。


多くの会社では今でも、

「売上目標」

に基づく管理(評価)が主流でしょう。


ドトール・日レスホールディングスのように、

「成功パターン」(モデルケース)

をどれだけ着実に実行できているかという

「プロセス目標」

に基づく管理(評価)の重要性を理解しているところは、
まだまだ少ないのではないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:34 | コメント (10) | トラックバック

男と棒はDNAでつながっている!?

「棒が一本、道に落ちていたならば、
 それを拾わぬ男子がいるであろうか?」

自分の息子や親父(だんなさん)、
外で遊ぶ男子たちの生態を観察する中で、
漫画家の西原理恵子氏はこの重大な発見をしました。


確かに・・・

男性なら誰でも共感できると思いますが、
落ちている棒を見つけたら絶対に見逃すことはできず、
手に取って振り回したくなるのが男です。

昨年、家族で四万温泉近くの遊歩道を歩いていた時、
道の脇にある木の枝を拾って持ち歩いたのは、
わが息子と私だけでした。

不思議と女性陣はただの棒には興味を示しません。


なぜでしょうね。

男子は、自らも「さお」を持って生まれてきているからなのか、
それとも、古代より棒を使ってマンモスを追い、また他部族と
戦ってきたからなのかわかりませんが、

「男と棒はDNAでつながっている」

という西原氏の読みは鋭い着眼点だと思います。

投稿者 松尾 順 : 21:53 | コメント (0) | トラックバック

目力と直感を磨け?・・・見つめ合いデート

最近、人が持つ魅力のひとつとして

「目力」(めぢから)

という言葉をよく聞きます。

特に、女性の場合、
目を魅力的に見せることは永遠の課題ですよね。
化粧品の宣伝でもよく目にします。

中世の時代だったと思いますが、ヨーロッパでは、
目に点すと黒目(瞳孔)が拡大する作用を持つ

「ベラドンナ」

という薬が女性の間で流行ったそうです。
黒目が大きい方がより魅力的に見えるからですね。
(ベラドンナは毒があったため、今は使われません)


ところで米国では、おしゃべり一切なし、
相手の瞳を見つめあうだけの

「見つめ合いデート」

があちこちの都市で広がっているそうですよ!

ラテンダンスで効力(目力の)を実感した男性が
考案したとのことですが、まあよくこんなアイディアを
実行に移せるものです。

たぶん、日本にもそろそろ登場するでしょうけど。
(もうやっているところあるかも)


しかし、この「見つめ合いデート」でいい人を
ゲットするためには、

「目力」

を相当鍛える必要がありますよね。

また、「目」だけで相手を選択するわけですから、

「直感力」

も磨いたほうがよさそう・・・

投稿者 松尾 順 : 07:16 | コメント (4) | トラックバック

アラン・グリーンスパンの「インテリジェンス」

現在、日経本紙の「私の履歴書」に、
元連邦準備制度理事会(FRB)の元議長、

アラン・グリーンスパン氏

が登場されてますね。

金融関連のエピソードは、
金融に疎い私にはちょっと難しいのですが!


さて、グリーンスパン氏が20代の頃に設立した経済金融調査会社、

「タウンゼント・グリーンスパン」

の話には「おっ」と思うところがありました。


同社のクライアント企業は一般の事業会社でしたが、
当時の米国産業化の中心だった大手鉄鋼会社の多くが顧客に
名を連ねており、経営は順調だったようです。


グリーンスパン氏は、
この会社の事業方針について次のように述べています。

“われわれの調査分析の売り物は、経済の動向が同顧客の
 事業に影響するかをわかりやすく伝えることにあった。
 つまりは、実際の経営判断に役立つ分析である”

“国民総生産(GNP)がこうなると言っても、
 販売やエンジニア出身のトップは興味を持たない”


このグリンスパン氏のコメントから判断できるのは、
彼の会社が提供していたのは、

「インフォメーション」(情報)

ではなく、

「インテリジェンス」(情報に基づく、読みや仮説、予測)

であったということです。


当時の米産業界を牛耳っていた大手企業が、
グリーンスパン氏の会社を高く評価したのも当然ですね。


以前、

「マーケティング情報士官」

というテーマの記事の中で

「インテリジェンスとは何か」

についてご説明しました。


以下、その部分を再掲(一部修正)します。

---------------------------------------

インテリジェンスを作り出す情報士官の仕事とは、
・玉石混交の膨大な情報から、
 ダイヤの原石と思われる情報を見極め、選び出すこと

・ダイヤの原石らしき情報に磨きをかけること、
 すなわち、その情報の真偽、信憑性を確認するための裏を
 取ること

・磨きをかけた情報をさまざまに組み合わせて、
 将来の変化について、新たな発見や予測を行うこと

上記を読むとおわかりだと思いますが、
情報士官の仕事は、単に‘情報を収集して’
政府関係者に提供することではないことがわかります。

情報士官が提供する「インテリジェンス」は、
政府関係者(その頂点には、大統領や首相がいます)
の重大な意思決定に役立つ

「意味を持つ情報」

でなければならないのです。

ここで「意味を持つ情報」とは、将来についての

「一定の方向を指し示すもの」
(読み、仮説、予測などと言い換えられます)

です。

---------------------------------------

情報士官とは、米国ならCIAのような諜報機関に
勤める人間のことです。

そして、彼らが諜報活動の結果生み出すものを

「インテリジェンス」

と呼んでいるわけです。


しかし、単なるデータの寄せ集めに過ぎない

「情報」

ではなく、

「意味のある情報」

すなわち、意思決定に役立つ情報である、

「インテリジェンス」

は、一般企業も欲しがっています。


ただ、正直なところ、
私も含めてリサーチに従事する会社・人間は、
なかなか「インテリジェンス」と呼べる水準の
レポートを提供できないのが現実なんですよね。

たいていは調査結果を平板に報告するところまで。

踏み込んだ読みをするには、
クライアントの事業そのものに対する深い理解や、
周辺情報、過去の経緯といった情報まで加味する
必要があります。

しかし、なかなかそこまではできないわけです。


グリーンスパン氏は、
実際の経営判断に役立つ分析のためには、

“綿密な事実の発掘と分析が不可欠だ”

と指摘していますが、
私も改めてにこのことを肝に銘じなければと
思った次第です。

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

「お約束」の偽装

いまさら言うまでもなく、「偽装」は良くないこと。
やってはいけないことです。


でも、提供する側受ける側の両者が了解済みの

「お約束」

の偽装ってありますよね。

その一番卑近な例は、駅前の立ち食いそば店で出される

「えび天ぷら」

でしょう。

私は、若いころ福岡から東京に出てきて初めて、
駅の立ち食いそば屋の

「えび天うどん」

を食べた時、うどんの上に鎮座しているえび天の衣の大きさと、
中に入っているえびの身の「小指並の小ささ」の落差に愕然と
したものです。(オオゲサですけど)


これじゃあ、「えび天」というより、

「シュリンプ天」

と呼んだほうが正確だよなあ!

当時はそう思いました。

まあ、今でも立ち食い店に行くたびに、
あんな小さいエビの身に、あれだけ巨大な衣を着せることが
できる職人芸には感心していますが。


でも、別に文句を言ったりはしません。

あの「えび天」に文句を言う人は、
外国人旅行者とかでもない限りたぶんいませんよね。

実質的な「偽装」とわかっていて受け入れています。


そもそもエビ1尾200円そこらの値段で、
まともなエビが食べられるはずもありません。

それでも、食べる側の心情としては、
トッピングの天ぷらは丼からはみ出すくらいの大きさがうれしい。
たとえ、中身は小指大でも・・・

バカ正直に、エビの真実の大きさ通りの天ぷらを揚げたら、
見かけが貧相となってしまい、注文する人が激減しますよね。

こうした、消費者心理を踏まえた上で、
「お約束」のエビ天偽装は続けられているということでしょう。


まあ、ほかにも贈答用のお菓子箱などの

「上げ底」

も、両者が握り合った「偽装」ですね。

実質よりも、見栄えを優先することの必要性を
贈り手、貰い手の双方が納得しています。


そういえば、古典落語の名作のひとつ、

「長屋の花見」

は、貧乏長屋の連中が花見に出かけたはいいが、
先立つものはないので、番茶を薄めたものを「酒」、
かまぼこは「大根」、卵焼きは「沢庵」で代用して、
見かけだけでも立派な花見を楽しもうとする話でした。


日本には、昔から「上げ底文化」(偽装を許容する文化)
とでも呼べるものが脈々と続いてきており、これが近年、
次々と明らかになっている食品などの偽装問題の背景にある、
というのは飛躍しすぎでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 06:30 | コメント (0) | トラックバック

「第1感」・・・考えない力

最近、「直感」のことばかり取り上げてる私ですが、
畳み掛けるようにこのテーマについて書かれた良書を
ご紹介します。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコムグラッドウェル著、沢田博・阿部尚美訳、光文社)


2006年初版の本書は、
この数年に出たマーケ本の中では、
ベストテンに入るくらいの優れた本だと思っています。

しかし残念ながら、
ベストセラーとまでは行かなかったようです。


ケチをつけるつもりはないのですが、

『第1感』

という邦題が、正直あまりピンとこないんですよね。
直感的には、あまり惹かれないタイトルだと思います。


本書の原題は、

『blink - The Power of Thinking Without Thinking』

です。

実は私は、翻訳本が出る1年ほど前に原書を買っていたのですが、
購買意欲を刺激したのはこの原題のサブタイトル、

「考えないで考える力」
(The Power of Thinking Without Thinking)

という面白い表現でした。


ですから、邦題でも、

『非思考力』

とか

『考えない力』

とでもしたほうがもっとキャッチーだったかなと思います。


まあ、第三者はいくらでももっともらしいことが
言えますので、タイトルの話はこのくらいにしときます。


さてこの本では、
最初のわずか2秒ほどで感じた結論が、
多くの場合に正しい判断であるということを
様々な具体例を交えて解説しています。


本書冒頭には、
次のような話が紹介されています。

紀元前6世紀に作られたというギリシャ彫刻の大理石像、

「クーロス像」

が、ある美術商によって、
カリフォルニア州のゲッティ美術館に持ち込まれました。

ゲッティ美術館では、この像の真偽鑑定のため、
14カ月かけて科学的な分析を含む徹底的な調査を
行いました。

その結果、同像は数百~千年以上前の作品であることが
確認できたため、同美術館はクーロス像の購入しました。


ところが、美術史や彫刻に詳しい専門家たちは、
この像を見た瞬間に、

「どこかおかしい」

とか、

「新しい」(2千年以上も前のものであるはずなのに)

と感じたのだそうです。

ただし、そのように感じた理由を彼らは
言葉ではうまく説明することができませんでした。

まさに、「直感」が働いていたわけです。


そして再調査の結果、
現在ではこの像は近年に作られた

「模造品」

だとみなされているそうです。


本書によれば、
このように一瞬にして真偽を見分けることが
できるような脳の働きは

「適応性無意識」

と呼ばれており、
心理学で最も重要で新しい研究分野のひとつ
なのだそうです。


この「適応性無意識」こそが、
俗に「直感」と言われているものです。


心理学者、ティモシー・D・ウィルソンは、
「適応性無意識」について次のような説明を行っています。

「高度な思考の多くを無意識に譲り渡してこそ、
 心は最高に効率よく働ける。最新式のジェット旅客機が、
 <意識的>なパイロットからの指示をほとんど必要とせず、
 自動操縦装置で飛ぶのと一緒だ。
 適応性無意識は、状況判断や危険告知、目標設定、行動喚起
 などを、実に高度で効率的なやり方で行っている」


この本には多様な分野のエピソードが掲載されているため、
正確には「マーケ本」と呼べるかどうか微妙です。

ただ、新商品のブラインドテストの例などを示して、
直感的(=無意識的)には優れた商品、好きな商品を
正しく選択できるにも関わらず、現実には、
強いブランドイメージに引っ張られて、

「このブランドだから、良い商品に違いない」

と、実際には好きでもない有名ブランド商品を選んでしまう
傾向が一般消費者にはあることが指摘されています。


これは、「直感的判断」を
「理性的(観念的)判断」が覆してしまうということですね。

明らかに優れているはずの新商品が、
以前からあるパワーブランド商品になかなか勝てない理由
のひとつがここにあります。


「第1感」は、
純粋に読み物としてもなかなか楽しめる本ですよ。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコムグラッドウェル著、沢田博・阿部尚美訳、光文社)

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (2) | トラックバック

モノホンのお笑い・・・サンドウイッチマン

島田紳助は、

「XとYの法則」

という考え方を持っているのはご存知ですか?


これは紳助の持論である、

「お笑い芸人として売れ続けるための法則」

です。

*YとYの法則については、下記の記事で詳しく説明してます。

「天才マーケター島田紳助」
 
「XとYの法則」(Z会ブログ sideB キャリアデザインのはなし)


簡単にポイントのみ説明します。

「X」とは、その芸人が持つお笑いのスタイル、
つまり個性や強みのこと。

一方、「Y」は、「お笑いのトレンド」のことです。

そして、X(芸人の強み)とY(トレンド)が
交差した瞬間が、その芸人がブレークする時です。


たとえば、昨年末のM-1グランプリ2007で優勝した

「サンドウィッチマン」

の場合、あの瞬間が「XとYが交差した時」だったのでしょう。

島田紳助は、彼らに98点と、
審査員の中で最高点をつけていたのが興味深いです。


サンドウィッチマンの二人は苦節9年なんですよね。

すばらしいY(才能)を持っていたのに、
Y(トレンド)となかなか合わなかったわけです。

でもまあ、世に出た今となっては、
長い下積みの経験があったおかげで、自分を見失うことなく、
トレンド(Y)の変化に合わせて自分たちの芸風(X)を
うまく微調整していけることでしょう。


それにしても、なぜ彼らが突然受けたのでしょうね?

私は、お笑いについてきちんと語れるほど詳しくは
ありませんし、あくまで横目で見ていただけでしたが、
近年のお笑いブームは、見かけや動きの奇抜さが強調され、
中身は薄っぺらでチマチマしたネタばかり・・・

内輪(箸が転がっても笑う、扱いやすい若年層)受けで
盛り上がっていただけという印象を持っています。

まあニセモノ、マガイモノとまで言わないまでも、
キワモノ系が多かった。すぐに飽きちゃう。
(私のような中年男性には、イマドキのお笑いは
 そもそもあまり理解できないということでもありますが)


そこで、正統派で質の高い漫才やコントがやれる

「サンドウィッチマン」

のような本物の芸人の登場が渇望されていた・・・
ということではないかと思います。


産業界では偽装事件が続く中、お笑いの分野でも

「本物」「正統」

への回帰が始まっているのでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (2) | トラックバック

Don't Think. Feel!・・・「直感」の磨き方

先日、

「ひらめき」と「直感」の違い

についてご紹介しました。


「直感」は、脳科学的に言えば、
大脳皮質の前頭葉のすぐ内側にある「ストリアツム」(線条体)
の働きによって、潜在記憶の中から導き出された

「答え」

であり、なぜその答えが正解かを言葉でうまく説明できません。

すなわち、「分析的・論理的」な計算によって得られた答え
(この場合、正解の理由を明快に説明可能)ではなく、
「総合的・全体的」な視点での推論が「直感」だと言えます。


さて、「直観」を研究している伊藤毅志氏
(電気通信大学助教)によれば、
将棋のプロ棋士を対象に、アイカメラを使った実験を
行った結果から、次のようなことを述べています。
(日経産業新聞、2007/12/13)


“プロ棋士は何も考えていないようにみえるが、
 いかに読まないか直観を磨いているのではないか”

*伊藤氏は、「直観」という言葉を使われていますが、
 「直感」と語義は同じと考えていいようです。


伊藤氏がこのように考える理由は、
羽生善治氏クラスの一流棋士になると、
次の一手を一瞬のうちに絞込み、せいぜい

2、3手

しか次の手の選択肢を思い浮かべないからです。

もちろんその後に、
何十手か先までの局面展開を「読み」ますが、
それは直観で思いついた手を確認するための作業に
すぎません。

しかも、読む総量はせいぜい数十局面だそうです。


コンピュータを駆使する将棋ソフトでは、
膨大な局面展開(数百万から数千万!)を
分析的・論理的に読んだ結果に基づいて次の一手を決めます。

しかし、生身の人の場合、特に一流であればあるほど、
論理的な思考ではなく、全体的な直観的思考で判断を
行っているというわけです。

将棋の場合、チェスなどよりもルールが複雑で、
展開が複雑過ぎるため、コンピュータでも完璧に
読みきれないとは言え、今のところ、ある意味大雑把な
判断に見える「直感」に頼る方が強いということには驚きです。


これまで、自分のヒットはすべて「説明できる」と
豪語してきたイチローが、これからは「見えない世界」
(=説明できない世界)をコントロールする必要性を
悟ったことを先日の記事に書きましたが、将棋の世界に
かかわらず、どの分野でも行き着く先は、つまり究極の
勝負は、「直感力」が決め手になるのでしょうね。


ところで、どうやったら
優れた直感を発揮できるのでしょうか。

基本的には、かのブルース・リーが、
「燃えよドラゴン」の冒頭のシーンで言ったように、

「Don't Think. Feel!」(考えるな、感じろ)

という姿勢が直感を働かせるために必要です。


ブルース・リーは上記の言葉に続いて、

「それは、月を指差すようなものだ。
 (月を指している)指に集中するな。
 さもなくば、その先にある月(=全体性)を
 見失ってしまう」

と言っていますが、

感じることは、物事を全体として観ることである

ということを伝えたかったようですね。


実は、ブルース・リーとほぼ同じことを
主張しているのが、作家で僧侶でもある玄侑宗久氏です。


玄侑氏は、物事を構成要素に還元していく、
すなわち、分析的に考えることを「分析知」と呼び、
一方で、全体を捉えて、いわば全体を包み込むような思考を
「瞑想知」と呼んでいます。

玄侑氏自身は言及されていませんが、
「瞑想知」こそ「直感力」ではないかと私は思います。


そして、玄侑氏によれば、
この「瞑想知」を発揮するために大切なことは、
まさに、ブルースリーが言ったように、
目や耳などの感覚器で「感じたこと」を大脳で

「考えないこと」

なのだそうです。


玄侑氏が、こうした思考をなぜ「瞑想知」と呼ぶかといえば、
瞑想をしている時、人はただものごとの流れに身を任せて
感じているだけの状態にあるからです。

逆に言えば、瞑想知、つまり直感を磨くためには、
「瞑想」が有効だと言えそうです。


なお、前述した伊藤氏は、

「優れたルールを数多く身につけることが直観を生む基礎になる」

と考えるようになっています。

ということは、瞑想を行うだけではなく、
直感を発揮したい分野で数多くの経験を積み、
そこから成功パターンを抽出しようとする作業を継続することが
必要だと考えられますね。

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (0) | トラックバック

セ○○スの快感は脳を麻痺させる

日経ビジネスが発行する

「NBonline」(日経ビジネスオンライン)

の日刊メルマガには登録してますか?


登録してる方は、昨日(1/14)に届いた同メルマガの「件名」を
見た瞬間、「頭」よりも先に「下半身」が反応してしまったのではないでしょうか!

なにしろ、

【NBonline No.424】セックスの快感は脳を麻痺させる

でしたから・・・


当該記事を読んでみると、
伊藤乾氏(東京大学准教授)の手による
極めて真っ当な実験結果のレポート。

当実験の目的は、
人が性的な絶頂期にある時の脳内の状態を
測定することでした。

そして、実験の結果、
オーガズム状態にある脳では、
脳の前頭前野の酸素化ヘモグロビンが
極度に低濃度になっていることがわかりました。

これは要するに、

「脳が酸欠状態にあること」

を意味しており、伊東先生の言葉を引用すれば、

「オーガズム脳は窒息している」

ということです。


このような状態にある脳は、
当然ながら十分に活動することができず、
合理的、賢明な判断ができません。

したがって、エロサイトをブラウズしていて
冷静さを失ってしまう理由や、エセ宗教などでも
活用される性的な刺激を利用したマインドコントロール
の有効性を脳科学的に実証したものと言えます。
(下記に示すように被験者数が少ないので、
厳密な証明にはならないのですが)


さて、繰り返しになりますが、
当研究の目的は極めてまじめなものです。

しかし、当実験はAV嬢2名と、
「性の巨匠」あるいは「テレクラ王」の異名をとる
成田アキラ氏の協力を得て行われています。

実験風景を第三者から見たら(いや誰が見ても)、
極めていやらしいことが行われたようです・・・


*詳細記事はこちら↓

『セックスの快感は脳を麻痺させる
 -脳測定から見た性的ネット濫用の本質』

*『週刊アサヒ芸能』(1.24特大号)では、
 “袋とじ”で、この実験結果が赤裸々に報告されています。

投稿者 松尾 順 : 09:02 | コメント (0) | トラックバック

バーモントカレーの甘口が辛すぎて食べられないって・・・

私は4年ほど前から、

「ラテンパーカッション(主にコンガ、ボンゴ)」

の個人レッスンを受けています。

私が教わっている先生は、
若いころにはキューバに滞在してサルサのリズムを中心とする
本場のパーカッションを学び、超一流のプロとして有名アーティストの
レコーディングやコンサートにも参加されている有名な方です。


さて、この先生は、毎年1月の今ごろ、
パッケージツアーの引率者としてキューバ旅行に行きます。

キューバ滞在中は、定番の観光に加えて、
現地の音楽学校に体験入学し、本場のラテンパーカッションや
サルサのレッスン三昧という内容のツアーです。

ただ、添乗員が同行しないので、
引率役の先生は、ツアー参加者の面倒を見るので
結構大変だそうです。(世話好きな方なので、
楽しんでやっているそうですが)


情報が少ないキューバですから、
現地に詳しい方の案内がないとなかなか行く勇気が
出ないですよね。

ですから、私もぜひ一度このキューバツアーに
参加したいと思っています。(これまでのところは、
時間も予算も厳しくて実現していないんですけど!)


ところで、先生によれば、
キューバ旅行用として日本から持参する荷物として
欠かせないのが「食料品」だそうです。

現地の食料事情はやはり厳しくて、
おいしい料理にありつこうと思ったら、
毎食かなり高額な出費になってしまいます。

そこそこの食費で収めようと思ったら、
正直なところ「激マズ」の食事で我慢するしかない。

しかし、さすがに毎回ひどい食事が続くとつらい。

たまに日本から持ち込んだレトルト食品とかを食べて
胃を落ち着かせてあげる必要があるというわけ。
(ですから、お湯が沸かせるケトルも必需品)


また、しょうゆはもちろん、
七味、タバスコなど香辛料もいろいろ持っていくのが
賢明だそうです。

というのも、
キューバには辛い料理が一切ないから。
辛味系調味料は、「塩」「こしょう」のみしかない。

しかし、これだけでは味が単調になってしまうので、
ただでさえまずい料理にいろんな香辛料でアクセントをつけ、
少しでもおいしくする工夫をしなければならないのです。


不思議なことに、中南米のラテン文化圏で
辛いものを食べるのはメキシコくらい。

キューバを含め、ボリビア、ペルーなど
他の国々でも、辛い料理を作ったり食べたりする文化が
存在しないとのこと。


日本にいるキューバ人の中には、
ハウスバーモンドカレーの「甘口」でさえ
辛すぎて食べられない方がいるそうですよ・・・!

世界の食文化の違いにも驚きますよね。


ついでながら、日本国内の食文化の違いにも
いまだに驚かされます。


R25の最新号で知ったのですが、

「焼きみかん」

って食べたことあります?

フライパンを使い、
みかんの皮が真っ黒になるまで焼くのだそうです。


私はまだ、焼きみかんを食べたことは一度もないのですが、
結構あちこちで食されているのだとか。

山口県周防大島では、
焼きみかんを皮ごと入れる鍋料理もある!

どんな味がするのやら・・・


そういえば、「焼きバナナ」を出してくれる
炉端料理店が広尾にありますが、
とてもおいしいのです。

意外に焼いておいしい果物というのは
多いのかもしれません。

私は、まずはオーブントースタを使って、
焼きみかんを作ってみようと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:14 | コメント (4) | トラックバック

「ひらめき」と「直感」の違い・・・イチローの悟り

「ひらめき」と「直感」はどう違うのか?


この疑問に対して、「海馬」の研究で知られる池谷裕二氏
(東京大学大学院薬学系研究科准教授)がわかりやすい解説を
してくれています。
(Think! WINTER 2008 No.24)


「ひらめき」(Inspiration)によって得た答えは、

「なぜそれが正解か」

を自分で説明することができます。


例えば、次のような数列、

2、4、6、□、10

の「□」の部分にどんな数字が入るかは、
パッとわかります。

「8」ですね。

そしてなぜ「8」が正解なのかについて、

「偶数が小さい順に並んでいるから」

といった説明が可能です。


しかし、「直感」(Intuition)は、

「なぜそれが正しいのか」

を言葉でうまく説明できません。


将棋で言えば、
プロ棋士は論理的思考力を活用して何十手も先まで読み、
次の手を瞬時に「ひらめく」ことができます。しかも、
それが最適手であることを論理的に説明できます。

しかし、局面が複雑になって選択肢がたくさんある場合、
さすがのプロでも先を読むことが難しくなることがある。

そんな時でも、なんだかわからないけれど

「この手を打てばいい」

と瞬時にわかるのだそうです。

これが「直感」です。


池谷氏によれば、「ひらめき」と「直感」は、
使っている脳の部位が違います。

すなわち、「ひらめき」は、

「大脳皮質」や「海馬」

といった場所の働き。

しかし、「直感」は、
大脳皮質の前頭葉のすぐ内側にある

「ストリアツム」(線条体)

の働きなのです。


「ストリアツム」はあまり馴染みがない名称ですが、
自転車の乗り方、箸の持ち方などの

「体の運動を制御する場所」

です。


自転車の乗り方を一度覚えると、
まず忘れてしまうことがありませんよね。

「ストリアツム」は、
このような、無意識にしまいこまれてしまう

「潜在記憶」

を司るところと理解すればいいようです。


「直感」とは、ストリアツムによって、
潜在記憶の中で高速に計算が行われた結果出てくる

「答え」

だから、言葉での説明がうまくできないのです。


一方で、ひらめきを生む「海馬」は、
自分で意識的に思い出すことのできる

「顕在記憶」

を司っています。

ですから、ひらめいた答えの説明が可能なのです。


さて、ここからは私の勝手解釈ですが、
「ひらめき」「直感」は、要するに、

「見える領域」(ひらめき)と「見えない領域」(直感)

をそれぞれ活用できる力と言えそうです。

そして、とりわけ

「見えない領域」

を活用できるようになるためには、
長年にわたる修練を積む必要がある。

つまり、その道の超一流と呼ばれるような域まで達しないと、
優れた直感力は発揮できないと考えられます。


優れた直感力を持つプロと言えば、
将棋の羽生喜治氏や、メジャーリーガーのイチロー
あたりを真っ先に思い出しますね。

彼らは、高い論理的思考力によって、
ロジカルに自分の領域を分析し続けてきており、
高度な「ひらめき力」を持っていると同時に、
体に覚えこませた記憶を駆使して優れた「直感力」も
身につけているのでしょう。


NHKプロフェッショナル 仕事の流儀の

「イチロースペシャル」(08年1月2日放送回)

の中で、イチローは、

「見えないものを制御したい」

ということを強調していましたが、
これこそ、今以上に打撃能力を高めるためには、

「直感力」

を高めるしかないということをイチローが悟っているから
だと言えそうです。

投稿者 松尾 順 : 12:09 | コメント (3) | トラックバック

戦略は大事だが、戦術も重要だ

企業が持続的に成長できる最大の鍵は、

独自の「事業立地(誰に何を売るか)」

を選択することです。


これは、「戦略立案」の問題。

「戦略立案」とは、船で言えば、
どの方角に向かうかを決定することに等しく、
その決定を行うのは船長の役割ですよね。

同様に、企業の戦略立案は、
企業の舵取りを行う

「経営者」

が行うべきことです。

したがって、企業が成長できるかどうかは、
経営者の力量にかかっています。


三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、

「良い企業は存在しない。良い経営者がいるだけだ」

と断言しています。


しかし、経営者が優れていればそれだけでOK
というわけではありません。

もうひとつ、戦略に基づく現場のオペレーション、
すなわち「戦術」を着実に実行できる、

「優れた現場の人たち」

がいなければならないはずです。


つまり、戦略も重要だが、戦術も同じくらい重要。

とりわけ近年は、
おいしそうな事業立地があると、
われもわれもと企業がそこに殺到する。

このため、

「戦略的な差異(競争優位性)」

を生み出しにくくなり、
勝敗の分かれ目は戦術レベル、
つまり、

「現場のオペレーションの優劣」=「現場力」

にかかってくきます。


この「現場力」の重要性を強く主張されているのは、
コンサルティング会社、ローランドベルガー会長の
遠藤功氏です。

遠藤氏によれば、

「良い現場」と「悪い現場」

があります。

良い現場には、自律神経が通っていて、
思考回路が回っています。問題を自分たちで発見し、
解決策を生み出し、粘り強く対応できる。

悪い現場は、その逆、自分たちで考えることをしない、
いわれたことだけをロボットのようにこなすことしか
できない社員しかいません。


したがって、経営者としては、

独自の「事業立地」を選択する

という戦略的意思決定とともに、
優れたオペレーションが遂行される

「良い現場」

を作り上げ、維持することも求められます。

どうやって「良い現場」を作るかという点については、
遠藤氏の一連の著作、また文末に示した遠藤氏の講演
レポートが掲載されているサイトを参考にしてください。


ここでは、私が半年ほど前に体験した

「悪い現場」

の例をひとつご紹介します。


最大手の居酒屋グループの「マネ」が得意な
某居酒屋グループがありますよね。

その某店舗での話です。

お店には、上京してきた高校時代の親友と
2人で入りました。

その店を選んだのは、

「ビール半額セール」

をやっていたからです。


2時間近く飲んだ後、
私がトイレに立つと彼も後からやってきました。

期せずして「連れション」になっちゃったんですね。

「連れション」終了後、
2人で仲良く自分たちのテーブルに戻ると、
店員がテーブルを片付けています。

もう私たちが帰ったと思ったようです。

確かに、テーブル上の料理や飲み物は
あまり残ってませんでしたが、そもそも、
まだ伝票が置いてあったのです。
(テーブルの裏に伝票を差し込むスタイルなので
わかりづらいですが)

混んでるわけでもない空席も目立つ店内で、
客が帰ったかどうかろくに確かめもしないで
さっさと片付けていたのにはがっかり。


しかもこれで終わりではありません。

「ちょっと待ってよ、お兄さん、
 まだ帰るわけじゃないよ!」

と店員に告げて飲み物を追加したら、
お詫びに「手羽先」をサービスでもってきますと
言いにきました。

「おっ、なかなか気が利くね・・・」

と思って待っていたら出てきたら、
お皿には手羽先1本が乗ってるだけでした。

こちとら2人なのに、
小さい手羽先1本だけですか・・・

さすがに無料ですから、
そんな文句は言いませんでしたが、
再びがっかり。

この店には二度と行かないと強く誓ったのでした。


おわかりかとは思いますが、
この店では、店員が完全に思考停止しています。

料理も居酒屋としてはおいしいし、
値段も手ごろではありますが、
いわゆる典型的な居酒屋チェーン。

つまり、独自の事業立地を持たない以上、
現場のオペレーションでしか勝てないはずなのに
現実は私が体験したとおり。

ビール半額セールをやっても、
客の入りがぱっとしないのも当然でした。


しかし、それにしても、
現場が思考停止している企業や店舗って
多いですよねぇ・・・


*遠藤功氏の現場力に関する講演についてのレポート
 → https://www.sekigaku.net/

 左メニューの「受講生レポート」をクリック、
 「レポート一覧」から探してください。

投稿者 松尾 順 : 18:04 | コメント (2) | トラックバック

居酒屋「はなの舞」の事業立地

私の事務所の最寄り駅、
丸の内線の「本郷三丁目駅」そばに、

「海鮮居酒屋 はなの舞 本郷三丁目駅前店」

が昨年末オープンしました。
現在も毎日店員さんが店頭で呼び込みをやってます。


同店は文字通り駅前にあります。
改札を出て店の前まで約50歩、所要時間30秒程度でした。
(ざっくり調べてみました・・・)


「はなの舞」は、多様な業態の飲食店を開発・運営する
チムニー(株)の主力業態。

出店場所は、駅から徒歩1分以内にこだわっています。
おかげで、近年の飲酒運転に対する規制強化による
マイナスの影響を免れています。

このため、過当競争が常態化していることに加えて、
飲酒運転問題で来店客が減少したことによる業績低迷に
苦しむ現在の居酒屋業界において、
チムニーは順調に売上・利益を伸ばしています。
(日経MJ、08/01/09)


昨日、三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)の
実証研究の結果をご紹介しました。

三品氏によれば、
上場企業1013社のうち、持続的な成長を続け、
過去最高益を何度も更新した「優良企業」122社の成功のカギは、

独自の「事業立地」(誰に何を売るか=ポジショニング)

を選んだことでした。


居酒屋のようなリアル店舗事業では、

「店舗立地」

が文字通り、

「事業立地」

を決定する最大の要因になりますよね。


はなの舞の場合、

「駅前立地」

を選択しているため、主要客層(誰に売るか)は、

近隣に勤める仕事帰りのサラリーマン(あるいは学生)

となります。


駅前立地の場合、繁華街立地と異なり、
広範囲からの多数の集客が見込めません。

また、郊外立地のように、
家族でやってくるファミリー層も狙えません。

したがって、はなの舞では、
比較的狭い商圏の中での特定の顧客層のニーズを
敏感に捉えつつ、固定客比率を高めるためのアプローチ
が求められます。

となると、チェーン店とは言え、
昔ながらの個人経営の居酒屋のスタイルに
近づける必要がありそうですよね。


そこで、具体的な販売戦略(何を売るか)を見てみると、

・海鮮品を主力に据えたアピール
・各地域の食材や嗜好を反映した地域別8種類のメニュー構成
・店内調理による味の向上
・年10回近いメニューの入れ替えによる、顧客の「飽き」の防止

など、確かに個人経営店に近い取り組みです。


また、空間に癒しや遊びの要素を取り入れて、
来店客に楽しい時間を提供するためため、

・オープンキッチンによるシズル感の醸成
・水槽を置くことによる新鮮さのアピール

を行っています。

なるほどなるほど。

「はなの舞」の業績好調の理由は、
やはり優れた「事業立地」の選択にあることがわかりますね。


実は、本郷三丁目駅前店にはまだ行けてません。
(他の場所の店には行ったことがありますが・・・)

頭で分析するだけでは不十分ですよね。

早いとこ実際に行ってみて、
はなの舞の「事業立地」を五感を駆使して
再確認してみたいと思います。(笑)

投稿者 松尾 順 : 11:47 | コメント (2) | トラックバック

優良企業の経営者はみな長期政権

世界最強の企業と言えば・・・?


近い将来、日本の「トヨタ」がそう言われる可能性も
なきにしもあらずですが、現時点ではやはり、

「GE」(ゼネラル・エレクトリック)

でしょう。


そしてGEと言えば、

“20世紀最高の経営者”

と賞賛された同社元CEO、ジャック・ウエルチ氏を
思い浮かべる方が多いと思います。


ウエルチ氏は、1981年から2001年までの20年間にわたって
GEを率いた後、現会長兼CEOのジェフ・イメルト氏に
その座を譲りました。

イメルト氏を後任に選んだ時、ウエルチ氏は、

「今後20年を託した」

と言ったそうです。
(日経ビジネス、2008年1月7日号)


自分と同様、GEの最高経営責任者は、
長期政権を前提として企業のリーダーを務めるということを
明確に述べたわけです。


GEの哲学は、

「結果を出せる長期的なチャンスを指導者に与える」

というものだそうです。

イメルト氏は、毎年日本に訪れて会うクライアント企業や
パートナー企業のトップが頻繁に変わること、そのため、
就任6年足らずのイメルト氏がCEOとしての在任期間が
一番長いことに驚いています。


イメルト氏は次のように述べています。

“私たちのビジネスからは、どうすれば

 「3年間のCEO」

 になれるのか、想像もできません”

これは、在任わずか3年間ばかりで、
CEOとしてのまともな仕事ができるはずがないだろう
という意味を込めているようです。

逆に言えば、業績を長期にわたって向上し続けるためには、
トップは長期的にその座にいなければならないということを
GEはわかっているということです。
(この哲学・考え方が正しいことは、GEの業績が証明していますね)


実は、日本でも上記のことを裏付けた実証研究があります。

三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、
最近、上場企業1013社の過去50年間の財務データの分析を
行いました。

その結果、持続的な成長を続け、
過去最高益を何度も更新した「優良企業」122社では、
同じ経営者が長期間にわたってその座にあった点が
共通していたそうです。


また、これら122社が成長を続けられた理由について、
三品氏は、

独自の「事業立地」

を選んだことにあるとしています。


事業立地とは、
端的には「ポジショニング」のことであり、
純粋な意味での「戦略」そのものです。

「戦略」とは、

「長期的な競争優位性を維持できるポジションを構築すること」

のことだからです。


ただ、「戦略」を絵に描いた餅ではなく、
現場の「戦術」にまで落とし込み、実際の「強み」(競争優位性)
にまで磨き上げるためには長い時間を要します。

したがって、優れた経営者が将来の変化を的確に読み、
適切な「戦略」を打ち出し、その戦略実現のため長期的に
リーダーシップを取り続けた企業こそが成長を持続できるのだ

ということがいえるでしょう。


なお、

経営者がトップに長く居座り続けすぎてしまうことの弊害

ももちろんありますよね。

ですから、自分の引き際を見極めるだけの見識が
経営者には必要でしょう。

また、イメルト氏が45歳でGEのCEOに選ばれたように、
長期にわたってリーダーシップを発揮できるように、
若いうちにCEOの座に就かせることが求められます。


まあ、日本の大手企業の多くは、
カネボウのように経営危機にでもならないかぎり、
若手リーダーを生み出すのはまずもって難しいのでしょうけど!


*三品氏の上記実証研究が紹介された講演についてのブログ記事

 『戦略不全の因果 三品和広さん』(慶應MCC「夕学五十講」楽屋blog)

この講演には私も出席しました。


*参考書籍

『戦略不全の因果-1013社の明暗はどこで分かれたのか』
(三品和広著、東洋経済新報社)

『戦略不全の論理-慢性的な低収益の病からどう抜け出すか』
(三品和広著、東洋経済新報社)

『経営は10年にして成らず』
(三品和広氏、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 11:51 | コメント (6) | トラックバック

無責任な幕引き

私の会社の名刺は、過去5年ほど

「ふで文字名刺」

にしてました。

個人名が毛筆で書かれているものです。

台紙に凹凸のある和紙を選び、
手前味噌ながらなかなか渋い名刺でした。


このふで文字名刺の在庫が年末でちょうど切れたので、
再発注を依頼したところ、先方からの返事は、
昨年3月でサービスを停止していたので注文は
受けられませんとのこと。


名刺作成サービスを提供していた書道家の大先生が、
他の仕事で忙しくなったためというのが理由。

まあ、要するにあまり儲からない仕事を切り捨てたということ
でしょうけど、せめて既存客にはサービス停止の連絡をして
欲しかったですね。

ちょっと無責任な幕引きの仕方です。


ふで文字名刺の方は、
その著作権を3万円で買い取ることができるとのことでした。

しかし、上記のような対応に納得できないためお断りし、
ノーマルな名刺を作成しました。

投稿者 松尾 順 : 16:31 | コメント (0) | トラックバック

「KY」を生み出す社会的圧力

こどもは非常に幼いときから、

大人のゼスチャーを見るだけでその意味の推測ができる

ということが、研究でわかっているそうです。


こどもの言語知識形成や非言語コミュニケーション活動
などの研究を行っている小林春美氏(東京電機大学教授)は、

『科学のクオリア』(茂木健一郎、日経ビジネス人文庫)

に掲載されている茂木氏との対談の中で、
次のような実験を紹介しています。

“キャップが付いたペンを一歳代の赤ちゃんに見せ、
 キャップを取ろうとするふりを見せます。
 キャップを取ろうとして取れない、というような動作です。
 そのペンを渡すと、赤ちゃんはキャップを取るのです。”


1歳そこらの赤ちゃんでさえ、
目の前の大人はペンのキャップを取りたいのだという

「意図」

を自然に読み取り、自分が取ってあげるという行動を
できるというのは驚きますよね。


小林氏は、このような行為ができる理由については
触れていませんが、おそらく昨日ご紹介した

「ミラーニューロン」

のおかげでしょう。

ミラーニューロンとは、平たく説明すれば、
他人の行動を見るだけで、その行動を自分自身の脳内で
「疑似体験」しているような感覚を与える神経回路のことです。

人は、誰もが生まれつき持っているミラーニューロン
のおかげで相手の言動をリアルタイムに理解(推測)できる。

そして、この能力が、共同体を作って相互に助け合って生きる
人間社会への適応を容易にしているのでした。


さて近年、ミラーニューロンを持っているはずなのに、
その能力を眠らせている人たちとも言える

「KY」(空気が読めない人)の増加

が問題視されています。

この「KYが増えている原因・理由」については、
次の2つの視点で考えることができます。

1.本人のコミュニケーション力の低下
2.KYを許容できない社会的圧力の強度化


世間一般の論調としては、
1の本人の問題に原因を帰結させていますね。

つまり、小さいころから他者(特に家族以外)との
コミュニケーションが不足したまま育ったため、
複雑な相手の感情を的確に読む力が低いという指摘です。

また、「KY」は、周囲の人の気持ちを読めるかどうかだけでなく、
その気持ち(=場の雰囲気)に即した適切な言動ができないという
ことがより問題ですが、これは、社会規範の欠如というか、
暗黙のルールを身につけていないということが挙げられます。


実際、こうした本人の問題も大きいでしょう。

しかし、同時に2番目に示した

「社会的圧力の強度化」

という視点も忘れてはいけないと思います。


昔の人々は、お互いにもっと感情をストレートにぶつけ、
傷つけあうことも多かった。人に迷惑をかけっぱなしの
ぶっとんだ人もたくさんいました。

それでも、以前なら、人間社会にそうした負の側面が
多少あっても仕方がないと許されていたところがありました。


しかし、現代では、できるだけ社会のルールを守り、
そして、お互いに相手を傷つけあうことを極力回避するように
なっています。

この背景には、社会学的には

「人格崇拝の高度化・厳格化」

があると見ることができます。

「人格崇拝」とは、個々人が、相互に相手の人格にまるで
神の聖性が宿っているかのごとく敬意を表し、その尊厳を
傷つけないよう配慮しあうことです。


また、例えばエスカレーターでは常に左側に立ち、
急ぐ人のために右側を空けておく(関西では逆)といった
ルールを守ることによって、全体として合理的でスムーズな
社会活動が可能になっていますよね。

現代は、こうした合理的な振る舞い、スムーズに予想した通りに
ものごとを進行させようとする人々が増えています。

ITによる自動化も進みましたし、
そうしないと世の中が回らなくなってしまってますよね。


こうした世の中では、以前なら「KY」とは言われなかったで
あろう人たちでさえ、KYのレッテルを貼られてしまうことに
なります。

他人の振る舞いに対する許容度が小さくなったためです。


ですから、KYの増加は、単に個人の問題だけでなく、
現代社会の高度化・厳格化しすぎた人格崇拝や合理化にも
原因があると考えられるのです。


同時に、こうした社会では、
自分自身の感情コントロールを極度に求められるわけですから、
精神的にはつねに緊張状態を強いられます。

その結果、精神的に破綻をきたす人も増加せざるを得ないでしょう。

また、こうした精神的破綻を避けるためでしょうか、
あえて自分の個性を消し、周囲に過度に同調する

「鉄板病」(おちまさとしの命名による現代人の行動傾向)

という症状が現れてきています。


よく、最近の若い人に対して、

打たれ弱い、ストレス耐性が低い

という非難を私たちは向けますよね。

しかし、この点についても、
本人の問題だけでなく、社会が個人に対して要求する

「自己コントロール力」

のハードルが極端に高くなっているからなのだという点も
忘れてはいけないのではないでしょうか?


現代社会は、以前よりはるかに適応が難しくなってるのです。


*人格崇拝や合理化の高度化、厳格化、また合理化の議論は、

『自己コントロールの檻 感情マネジメント社会の現実』
(森真一著、講談社選書メチエ)

を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (4) | トラックバック

相手の心が読めるメカニズム・・・ミラーニューロン

私たちは、他人が何を考えているのか、あるいは
何を感じているのかをあれこれ複雑な推論をすることなく、
ほぼ瞬時に理解することができます。

これって、よく考えれば不思議なことですね。


なぜこんなことができるのでしょうか。

この不思議を解く鍵は、

「ミラーニューロン」

と呼ばれる脳の神経回路にあります。


他人が、何かものを食べています。

それをあなたが見ている時、あなたはただ見ているだけなのに、
食べている人と同じ箇所の脳の神経回路が活性化しています。

つまり、相手の脳内の動きが、
まるで鏡のようにあなたの脳内にも反映されている。


これは、端的に言えば、他人の体験を観察することで、
あなたの脳内では「疑似体験」をしているということです。

だから、まるで自分ごとのように
相手の気持ちが理解できるわけですね。


先日の米大統領予備選において、
ヒラリー・クリントン氏が涙を見せた時、
おそらくミラーニューロンの働きによって、
彼女の苦渋の表情を見ていた支持者の脳内でも、
ヒラリー氏と同様の感情が湧き起ったはずです。
(ただし、その感情を支持者がポジティブに解釈するか、
あるいはネガティブに解釈されるかは別の問題ですが)


ミラーニューロンは、過去の実験から、
サルや人などの霊長類に存在することがわかっています。
(他の動物たちにもあるかどうかは不明)

いわゆる霊長類のほとんどは、
群れを作って共同生活する社会的な動物です。

この社会という集団の中で適応するためには、
相手の感情をすばやく理解し、適切な対応ができることが
求められます。

このためにミラーニューロンが発達したのだと
考えられます。


ミラーニューロンは、他人の感情を理解する力、
つまり「共感力」だけでなく、また、相手の行動を観察し、
模倣することによって何らかのスキルを身につける
「学習力」とも関係があるようです。


ミラーニューロンは、
発見されてからまだ10年そこそこしか経っていません。

人と人とのコミュニケーションに大きな役割を
果たしていると考えられるミラーニューロンについての
新たな発見がこれからも続々と出てくるでしょうね。


(参考文献)
*他人を映す脳の鏡
 (日経サイエンス別冊、脳から見た心の世界 Part3)

投稿者 松尾 順 : 11:36 | コメント (4) | トラックバック

サル仕事が新たな発想を生むことの示唆

昨日、紙の資料をPCに入力するため、
ひたすらキーボードを打ち続けていると、
新たな発想を得る瞬間がやってくるという話を書きました。

サルでもできる、あるいはサルにでもやらせたい、
そんな退屈な単純作業という意味の

「サル仕事」

が新しい発想をもたらしてくれるというのは、
不思議なことですよね。


さて、なぜこんな現象が起こるのかという理由については、

「知的情報の読み方」(妹尾堅一郎著、水曜社)

を読んでくださいということにしておりましたが、
それはあまりにひどかろうと思いましたので、
同書の中で、妹尾氏が挙げている3つの理由(示唆)を
ご紹介しておきます。


1点目は、「量」は「質」に転換するということです。

ひたすらデータを入力するという単純作業を通じて、
少しずつ蓄積されていくデータが、
ある閾値を超えた瞬間に一挙に抽象概念として焦点を結ぶ。

ひたすら同じ動作を繰り返すことは、
スポーツや武道の基本練習に似ていますね。

一流の域に達したアスリート、武道家は、
やはり、「質」を云々する前に、まずは圧倒的な練習、
稽古を積み重ねることの重要性をわかっています。


2点目は、サル仕事から新たな発想を得るということは、
「ミョウバン型」の発想法を無意識に実践していたのだろうと
いうことです。


妹尾氏によれば、発想法は大別すると

「樹氷型」と「ミョウバン型」

の2つがあると考えているそうです。

樹氷型は、ある軸(樹氷でいえば樹木そのもの)がまずあり、
そこにさまざまな情報(樹氷)を付加していくことによって
新たな発想を導くものです。

一方、ミョウバン型は、ミョウバンを水にどんどん溶かしていき、
一定の濃度を加えたところで強い衝撃を加えると突然結晶化する
現象になぞらえて、情報の蓄積から突然新たな着想を得ること。

ここで、樹氷型とミョウバン型の発想法の違いは、
樹氷型は、元の軸(樹木)が核としてあるために、
その形を超えた発想が生まれることはないのに対して、
ミョウバン型は、その水溶液と結晶がまったく異なる姿を
しているのと同様、元の情報と、新たに得た発想に大きな違い
(飛躍)があるという点です。


私の考えでは、樹氷型は、ロジカルな手順を踏む各種発想法
(オズボーンのチェックリストなど)のテクニックが適用可能。
しかし、ミョウバン型は、漠然としたテーマはあっても、
出発点としての軸はなく、とにかくひとつの箱(頭脳)の中に
大量のデータをぶち込んでいくうちに、突然変異的に閃きを
得るもの。

したがって、ミョウバン型の発想法は、明快なテクニック
として確立できるようなものではないと思います。


ただ、ミョウバン型の方が、樹氷型よりも
はるかに斬新で型破りな着想が得られるわけですから、
もし、ミョウバン型の発想を得たかったら、
出発点としての軸(ある場合には「仮説」と呼べるもの)を
持たず、無駄を承知のサル仕事に取り組んでみることが必要
でしょう。

この対比は、仮説ありきの従来のリサーチと、
ともかくも膨大なデータと格闘する中で新たな金鉱(知見)を
発見しようとする「データマイニング」の関係に似ていますね。


さて、3点目の示唆は、
私たちは、情報を頭だけでなく、身体でも読んでいる
ということです。

何か新しい企画づくりに取り組むとき、
ただ頭の中であれこれ考えを巡らせるのではなく、
紙とペンを用意して、浮かんだアイディアを言葉や絵として
書き留めていたら、いい企画ができたという経験があなたに
もありますよね。


考えてみれば、情報とは、資料に表された数値や文字
といったものだけでなく、私たちの5感を通じて得る、
数値や文字にしがたいものもすべて「情報」です。

そうした、いわば「目に見えない情報」を
身体を通じて取り込むことが、新たな発想を得ることに
役立っているといえるのかもしれませんね。

投稿者 松尾 順 : 15:23 | コメント (4) | トラックバック

サル仕事でヒトが奇声を発する瞬間

私は、調査の仕事から
マーケティングの世界に入りました。

したがって、独立した現在も、

「ユーザーアンケート調査」

などの調査業務が全体の3割程度を占めています。


調査の仕事も実質一人で仕事を回してますので、
調査企画や調査票の設計はもちろん、回収されたデータのチェック、
加工、集計、分析、報告書作成まで、一貫作業体制(笑)です。


こうした調査業務は職人芸的なことがあり、
作業工程の一部を外注することはあまり容易ではありません。

でも、報告書作成工程の一部である、

グラフや表の作成

は、エクセルやパワーポイントなど、
アプリケーションの操作ノウハウがあれば対応可能です。

わかりやすく、見栄えのいいグラフや表を作成するためには
ちょっとしたコツが必要ですが、コツさえ覚えてしまえば、
ある意味「単純作業」です。

したがって、作業量が多い場合には、
グラフ・表の作成を外部の方に依頼することもあります。


ただ、集計結果を見ながら、
自分でグラフや表を作成するという単純作業を繰り返す中で、
データの中から新たに見えてくるものがあります。

グラフ・表作成という作業だけを取り出してみると、
私の時間単価では割高なものなってしまうのですが、
こうした単純作業を通じてデータとガチンコ勝負することで、
新たな知見を得ることのできる工程と考えれば、まんざら
コスト的に無駄ではないと思っています。


さて、同じようなことが、

知的情報の読み方」(妹尾堅一郎著、水曜社)

に書いてあります。


慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の
学生たちの話です。

デジタルデータベースが利用しにくかった数年前まで、
学生が研究テーマに関した資料・データを利用しようと
思ったら、新聞の縮刷版や雑誌のバックナンバーから
集めてきた記事などをコンピュータに手入力する必要が
ありました。

これは、紙に印刷された文字をデジタルデータ化するだけ
の単純作業。しかし、作業量は膨大。


SFCの学生たちは、
この非生産的・非頭脳労働的仕事を

「サル仕事」

と呼んでいたそうです。


「サルにでもできる仕事」

あるいは、

「サルにでもやらせたい仕事」

のどちらの意味にせよ、
この単純作業に学生たちは辟易していたのです。


ところが、この単純作業を続けていくと、
ある時点で、

「真実の瞬間」

を学生が体験するのだそうです。


その時、学生は

「あっ、読めた!」
「あっ、わかった!」

という奇声を発する。

これは、単純作業の繰り返しで、
頭が錯乱したというわけではありません。


膨大な紙の資料を
コンピュータに打ち込んでいく中で、
そのデータを貫いている

「ある軸」や「概念」(コンセプト)

を発見した瞬間でした。


なぜ、頭をまったく使わず、
ただキーボードで文章を打ち込むだけの作業を通じて
このような現象が起きるのか?

その理由については、
前掲書に詳しく書かれていますので
ここでは省略させていただきます。


ただ、私が思うに、
目だけで資料・データを眺めるだけでなく、
手を動かして脳に刻み込む(入力)することで、
脳内で勝手にデータの整理、分類、統合、混合作業が
自動的に行われてしまうといういことなのでしょう。


あらゆる分野のどんな仕事にも、
単純作業に思える工程が必ず存在しますが、
そうした単純作業の中に大事なものが隠れています。

単純作業を侮るなかれ!です。

投稿者 松尾 順 : 10:38 | コメント (3) | トラックバック

おいしそうな入浴剤

入浴剤使ってますか?

体が冷える冬には、
自宅のお風呂でもちょっとだけ温泉気分が味わえて、
体も温まる入浴剤を使いたくなりますよね。


入浴剤といえば、やはり

「バスクリン」

を真っ先に思い出します。

とりわけ中高年の方にとって、
不思議と懐かしさを感じるのがバスクリンでしょう。


ただ、若い人にとっては、
最近TVコマーシャルでの露出が多い、

「バスロマン」

の認知度の方が高いかも知れませんね。


さて、入浴剤の本質的な価値は、

・温浴効果(体が温まる)
・清浄効果(体の汚れが落ちる)

の2つがメインです。


そして付加価値としては、まずは

「香り」

をつけるという手が王道でした。

レモン、ジャスミンなどの香りで嗅覚を刺激。
癒し効果を狙っています。


あるいは、

「草津の湯」

など、有名温泉と同じ成分を配合して、
そのブランドを借用した製品も多いですね。


子供向け入浴剤になると、

「アンパンマン」

などのキャラクターの力を借りる手が主流でした。

また、固形の入浴剤を湯船に入れると、
しばらくして中から恐竜が飛び出してくるといった
仕掛けを加えることで、「遊び」の要素を付加する
商品があります。


最近は、新たなトレンドとして、

「お菓子もどき入浴剤」

がヒットしています。
(日経産業新聞、2007/01/04)


例えば、バンダイの

「ガリガリ君入浴剤Cool!」

は、赤城乳業のアイスバー

「ガリガリ君」

そっくりに仕上げてありました。
同製品は、今夏限定100万個を売り切っています。

子供だけではなく、20-30代の男性にまで購入層が
広がったようです。


さらに、バンダイでは、昨年(07年)12月に、

「うまい棒入浴剤」

を投入。


お菓子の「うまい棒」もまた、
子供から大人までファンが多いことから、

「うまい棒入浴剤」

は幅広い顧客層の心を捉えそうです。


ガリガリ君入浴剤にしろ、うまい棒入浴剤にしろ、
店頭でこれらのパッケージをみた最初の印象は、

「あ、おいしそう!」

というものでしょう。

入浴剤だとわかっても、

「おいしそう!」

という心地よい感情は残ります。
思わず買いたくなる効果抜群だと思います。


最近、五感刺激型の製品づくりに注目が
集まっていますが、「嗅覚」刺激が主流だった入浴剤に、

「味覚」を通じて「食欲」

を刺激する価値を付加するというのは、
大きな発想の飛躍だといえます。


そういえば、以前
にぎり寿司型のUSBメモリーも大ヒットしました。


人の三大本能のひとつである「食欲」を
刺激するという付加価値を与えるという工夫は、
さまざまな製品分野に適用可能だということがわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 12:57 | コメント (3) | トラックバック