セブンイレブンに感じた現場力

北海道や東北の一部では、
冬場にコンビニで「おにぎり」を買うと、

「おにぎりあたためますか?」

と店員に聞かれることがあるそうです。


コンビニのおにぎりは保冷されていますし、
寒い地域なので

「あたためて食べたい」

というニーズが多かったんでしょう。

自然に広まった慣行みたいですね。


ちなみに北海道テレビでは、

「おにぎりあたためますか」

というバラエティ番組がずいぶん前から制作・放送されてます。


東北以南の地域のコンビニでは、
どの程度この慣行が広まっているかよくわかりませんが、
少なくとも東京近辺では、

「おにぎりあたためますか?」

と聞かれることはありませんよね。


さて、先日の寒い夜、
セブンイレブンで久しぶりにおにぎりを2個買いました。

あたたかいおにぎりが食べたかったのですが、
当然ながら、店員さんは

「おにぎりあたためますか?」

とは聞いてくれません。


そこで、

「おにぎりをちょっとあたためてもらえますか?」

と私からお願いしました。

すると、店員さんは、
おにぎりをわざわざ1個ずつ別の電子レンジに
入れてタイマーをセットしてました。

私は、

「2個一緒に暖めれば手間が省けるのに・・・」

と不思議に思って、
レジのお兄さんに聞いてみたんですね。

するとお兄さんは、

「以前2個一緒にあたためたら店長に怒られたんですよ。
 1個ずつ別々にあたためるように言われてます。
 どうしてなのかわかりませんが・・・」

と返してきました。


‘どうしてなのかわかりませんが’
という一言は余計ですね。言わなくてもよろしい。

しかし、さすがセブンイレブンです。


おそらく、おにぎりを複数個一緒にレンジで
チンすると、

「あたためムラ」

ができるためだと思われますが、果たして、
セブンイレブン以外のコンビニチェーンで
こうした細かいオペレーションを徹底できるだろうか?
と、ふと感じました。


コンビニの日本1号店は、

セブンイレブンの豊洲店

だったというのは有名ですよね。


セブンイレブンは、

「コンビニエンスストア」

という新業態における先駆者であるわけです。

そして74年の1号店開店以来、
多くの追随企業の参入によって競合が激化する中、
現在に至るまで、ダントツの業績を残してきています。


セブンイレブンの高い業績の秘密は、
言うまでもなく「戦略の巧さ」ではありません。

各店舗の日々のきめ細かいオペレーション(戦術)、
すなわち

「現場力」

が強いからなのです。


コンビニ業界に詳しい方によれば、
競合他社と比較して、明らかに店舗の清掃の徹底度合いや
店員の接客水準の高さは群を抜いているそうです。

もちろん、セブンイレブンの店内に流れる、
一言では説明しにくい「心地よさ」は、
一消費者でも容易に感じることができますよね。
(他のチェーンも悪くはないのですけど)


セブンイレブンの強さを考えると、
重要な点は戦略をコピー(真似る)のは比較的簡単だが、
現場のオペレーションをコピーするのは、

人材の質や教育の質

といった人的要素が大きいため、
簡単ではないということがわかりますよね。


セブンイレブンが作り上げた、
緻密と言われる

「運営マニュアル」

を仮に入手したとしても、
それを日々の運営に定着させることは
やはり人の問題です。簡単には追いつけない。


以前も書いたように、

戦略、戦術

のどちらも、事業の成功のために重要ではあります。

しかし、最近は戦略のコピーは、
以前よりはるかにしやすくなっているのが現実でしょう。
(金さえあればたいてい解決しますから・・・)


となると、やはり最後は「戦術」の勝負です。

机上で語れる「戦略」をこねくり回すよりも

「現場力」

に磨きをかけるということが、
これからの最重要課題ではないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 16:39 | コメント (1) | トラックバック

価値は客が決めるもの・・・裏向きに写るテレビ

どん底のホームレス生活から成功を収めた

堀之内九一郎氏

のことはご存知でしょうか?


堀之内氏が設立したリサイクルショップチェーン、

「生活創庫」

は、他の古物商と異なり、
あらゆるガラクタをほとんど選別することなく、
一切合財引き取ります。

そして実際、

「こんなものが売れるはずがない」

と思えるようなものが、
生活創庫の店頭には並んでいます。
しかもちゃんと売れていく・・・


たとえば、

・ウイスキーの空き瓶・・・1個1000円
・薬用の小さい空き瓶・・・1個300円

(もちろん、どちらもきれいに洗浄済み)

どのような用途に使われるのでしょう・・・
にわかにはわかりませんね。

趣味のボトルシップ用かもしれません。


欠けたり、ひびが入っている瀬戸物の茶わんなども、
一山いくら(数十円)で売られています。

これは、細かく割ることで、
「タイル」のように用いることができます。

瀬戸物には様々な絵柄が入ってますから、
センスよく組み合わせれば、
なかなかおしゃれな装飾品に仕立てることができます。

こんな趣味のために、
実用にならなくなった食器を買う人が
全国にはたくさんいるのだそうです。


こうした話を聞くと、
モノの「価値」というのは結局のところ、
お客様が決めるのだということが実感として
わかりますよね。

逆に言えば、
様々なニーズを持つ顧客が「価値」を感じるような
工夫をすれば売れるということです。

堀之内氏は、自社の事業は「中古品の流通業」ではなく、
中古品に新たな価値を与える「付加価値業」であると
言っています。


10年前ほどに数万円で販売されていた石油ストーブ。

円柱の上に半球状のドームが乗った発熱部分があり、
その後ろに反射板がついている昔ながらのストーブです。

そのままでは古臭いだけのストーブでまず買う人はいません。

でも、鮮やかなパステルカラーに塗り直すだけで、
レトロでおしゃれなストーブに変身。

数千円程度の値付けで難なく売れます。


また、14型程度の中古テレビ。
回路をちょっといじって裏向きに写るようにする。

これは、理髪店が買っていきます。

鏡に写った状態では正常に見えるので、
散髪中の客向けサービスになるわけです。


まあ、実にいろんな付加価値の生み出し方が
あるものですね。


もちろん、まず、

「こうした簡単には拾えない潜在ニーズをどうやって発見するか」

が大事なのですけど!

投稿者 松尾 順 : 12:55 | コメント (0) | トラックバック

付加価値の高い言葉

耳に心地よい言葉とは?


「好きだよ」

なんていう「愛のささやき」は、
好きな人から言われたら最高の気分ですが、
嫌いな人から言われたら鳥肌が立つ・・・

万能の言葉じゃありませんね。


でも、誰が口にしようが、
まず確実に相手を気分良くさせる言葉があります。

私は、

「付加価値の高い言葉」

と呼んでます。

それらの言葉は、無理に言わなくても話は通る。

でも、その言葉を付け加えることによって、
相手と良い関係を作ることに役立つ言葉です。

そんな付加価値の高い言葉には様々なものがあると思いますが、
特にビジネスシーンで使える3つの言葉をご紹介します。
(他にも、「こんな言葉も付加価値高いよ!」 というのが
あれば教えてくださいね)


1.相手の名前「○○さん、・・・」


以前もこのことは取り上げましたが、
自分の名前を呼ばれて気分を悪くする人はいませんよね。


カリスマ販売員、長谷川桂子氏が経営する化粧品店

「安達太陽堂」(岡山県新見市)

では、顧客が来店したら、

「あら、松尾さん・・・」

と必ず顧客の名前を呼びかけています。


*関連記事
「あら、○○さん、お帰りなさい」


2.「いつも・・・」


事務所近くにある

「とんかつ 新宿さぼてん」

で、私は月に1回くらいお弁当を買います。


それで、この店の店長らしき女性だけは毎回、

「いつもありがとうございます。」

と言ってくれます。

月1回程度しか寄らないから、

「いつもじゃないんですけど・・・」

と心の中で思うのですが、
不思議と悪い気がしないんですよね。

また来なきゃ悪いなとなぜだか感じてしまう。


メールなどのあいさつ文でも、
まだ取引のない見込み客に対してさえ

「いつもお世話になっております」

という形式的な言葉を使いますよね。


たいした意味はないけれど、

「いつも」

という言葉には潤滑油としての価値があります。


ただ、お店で

「いつもありがとうございます」

というあいさつをする店員さんは
ほとんどいないんですよね。


3.「喜んで!」


何か相手に依頼した時に、

「承知しました

だけじゃなくて、

「喜んで!」

という言葉が続くとこちらもうれしいですよね。


使うにはちょっと気恥ずかしい言葉です。

でも、依頼する側の精神的負債感を
軽くしてあげる効果があります。


さて、こうした「付加価値の高い言葉」は、
その本質を掘り下げてみると、

「(自分の存在を)認めてもらいたい」

という「承認欲求」や、

「大切に思われたい」

という「尊厳欲求」を満たすことができるからこそ、
高い効果を発揮するわけです。


ビジネスであれプライベートであれ、
相手を認知し、承認し、大切に思っていることを
伝えることが重要なんですよね。

まあ、こんなことをえらそうに書いてる当の私は、
大してできてませんけど・・・!

投稿者 松尾 順 : 09:39 | コメント (4) | トラックバック

イノベーションとしての「カラー」

3月15日にデビュー予定。

小田急ロマンスカーの新型車両、

「MSE」

は、清涼感や透明感、豪華さを
感じさせる車体色のブルーが美しい!


この青色は、

「フェルメール・ブルー」

と名づけられています。

そう、17世紀オランダの画家、

「フェルメール」

が好んで用いた色が採用されているのです。
(日経デザイン、March 2008)


デザインを担当した建築家の岡部憲明氏によれば、
当初から大きな課題として挙げられ、

「車体のスタイリング」

と同一レベルで検討を要求されたのが、

「車体色」

だったそうです。


さて近年、商品デザインにおける

「色」

の重要性がますます高まっていますよね。


この背景には、
商品が持つ「本質的な価値」とも言える

「機能や性能」

の次元では、
他社との十分な差別化が図れないから
という企業側の事情があります。


一方、ユーザー側の立場で言えば、
ほとんどの製品カテゴリーにおいて、

現在保有・利用している製品で十分に用が足りている

ということがあります。

機能面や性能面を現行機種より多少向上させたからといって、
それは

「買い換える理由」

になりにくい時代だということです。


実際、現在家にある様々な製品のことを考えてみると、
自分の解決したかった元々の問題やニーズはすでに
ほぼ解決・充足されていますよね。

新たに買う理由が
ロジカル(論理的・理性的)に考えるとありません。

つまり、「本質的な価値」のレベルでは、
消費者を購入に踏み切らせることができないわけです。


そこで、付加価値的な部分、とりわけ

「カラー」(色使い)

のバリエーションによって、感性を刺激し、

「欲しいから欲しい!」(理屈抜きに・・・)

と消費者に思わせることが
必要になってきたということです。


機能・性能本位だったノートパソコンの世界でも、
スタイリングに加えて、「色」にこだわった製品が
増えてきました。

ソニーやHP(ヒューレットパッカード)は、
花柄やグラデーション入りの製品を相次いで投入してます。


昔からのPCファンは、

「見た目は本筋ではない」

という非難が。

でも、メーカーの機能・性能向上競争にワクワクし、
石(CPU)の処理速度が速くなったからというだけの理由で
買い換えるのは一握りのイノベーターだけですよね。


ソニーの直販サイトでは、
柄入りが選べる機種の販売台数のうち4割が柄入りと、
目標(2割)を軽く超える予想外の売れ行きだそうです。
(日経産業新聞、2008/02/22)


使い勝手の向上にも関連する

「スタイリング(形状のデザイン)」

と比較して、

「色」

は、製品の本質的な価値を高めることには
ほとんど寄与しません。

しかし、「色」は、見た目の心地よさや
好きな色の製品を所有する喜びや満足感を
与えてくれますよね。


そういえば、
イノベーションの切り口として、
従来言われてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

に加えて、

・アイステシス・イノベーション

という軸が必要だという考え方を
ちょっと前にご紹介しました。


「アイステシス・イノベーション」

とは、

美しさ、心地よさ

といった、
生活の質の向上に寄与するイノベーションです。


商品デザインにおける「色」の重要性が高まったこと。

これは、企業がこれまで力を入れてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

については、情報化等の進展によって
均質化が進んだため、これからは、

「アイステシス・イノベーション」

により一層力を入れざるを得なくなってきた
ということなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:45 | コメント (2) | トラックバック

安易なショッピングセンター開発?

ビビットスクエア南船橋」

って、ご存知ですか?


04年にオープンしたSC(ショッピングセンター)そうですが、
私は昨日までまったく知りませんでした。

20代前半から船橋、市川、松戸など、
千葉にずっと住んでる地元民の私が知らないくらいですから、
広告宣伝とかほとんどやってないんでしょう。


このSCは現在、
4フロア・5万平方メートル強の売場面積のうち、
4割が空いた状態だそうです。

SCなのにほとんどシャッター通りかも!
ポツポツと店がある感じでしょうね。
寂しすぎます。

ショッピングセンターは、
様々な専門店が並んでいるのが魅力なのに、
これじゃあ行く気になりません。


隣接する老舗のSC、「ららぽーと」が強力とは言え、
運営主体は何をやってるのか。

土地と箱を用意して、
後は集客力のある有名専門店を入れさえすれば、
テナント料でガバガバ儲かるといった安易な考えで
オープンしたんでしょうねぇ・・・

投稿者 松尾 順 : 15:15 | コメント (0) | トラックバック

「人間圏」の行く末

今日は、ちょっとスケールの大きな話です。
小人物の私が書くのはちょっと気が引けますが・・・


このところ、

「地球環境問題」

に対する関心がますます高まってますよね。


私は、以前からしばしば、
素朴な疑問が頭をよぎることがあります。


「なぜ、人間は、環境にただ従属するのではなく、
 環境そのものを大きく変えてしまう力を持ったのだろうか?」


人間がこれまでどおりの生き方を続けていたら、
地球資源を蕩尽し、また破壊しつくして、
最後には地球の全生物を巻き込んで自滅してしまうでしょう。

これは決して悲観的な推測ではなく、
現状の延長線上にある確実な未来だと思います。


単純に考えると、
人間は、地球の生物の終末を速めるために、
地球に誕生したやっかいな生物ということになりますよね?

私たちは「ターミネーター」?

いや、さすがに人間がそんな宿命を背負って
生まれたはずはない。何か別の重要な、
果たすべき役割があると考えたいところです。


その答えは見当もつきませんが、
今日は、人間の存在というものを
宇宙や地球の歴史も踏まえて考えてみたいと
思います。


宇宙の年齢は、およそ137億年だそうです。

つまり、ビッグバン(宇宙大爆発)が起こり、
宇宙が膨張を始めたのが137億年前でした。


地球の誕生は約46億年前です。

地球に「生物」が現れたのは、
約20億年前と推定されています。


私たち現生人類につながる旧人類の歴史は、
700万年前に始まりました。

現生人類である

「ホモサピエンス」

は、15万年前に登場。


「ホモサピエンス」も、
当初は環境に従属した暮らしをしていました。

すなわち、狩猟採集で命をつなぐ、
食物連鎖に組み込まれたか弱い生物に
過ぎませんでした。


しかし、農耕牧畜を始めた時から、
人は環境に働きかけ、環境そのものを
人間が暮らしやすいように変質させていくことを
学んでいったのです。

これは約1万年前のことでした。

なぜ、1万年前に農耕牧畜が始まったのか?

それは、そのころから地球の気候が安定したためと
考えられています。

それ以前は気候が大きく変動し続けていたため、
今年食べることのできる木の実や動物たちが
来年もあるかどうかわからない。

今、目の前にあって手に入る食物を
狩猟・採集するしかなかったのです。


ところが、気候が安定することによって、
毎年同じ時期に花が咲き、実がなるようになった。

その周期に気づいた人間が、
農耕牧畜をはじめたというわけです。


こうして、
地球という大きなシステムに従属し、
食物連鎖の中で生きる

「生物圏」

を人間は飛び出て、

「人間圏」

を形成していきました。


「人間圏」という言葉は、
松井孝典氏(東京大学教授)の造語です。

人は、農耕牧畜を開始し、
いわゆる「文明化」を成し遂げることによって、
他の生物が属している「生物圏」とは異なる
独自の生活領域である

「人間圏」

の中で生きています。


この人間圏の中で人間がやってきたこと。

それは端的に言えば、
様々な道具・機械などを駆使して、
人間圏への資源(太陽、水、食物など、
生命維持に必要なもの)の流入量を拡大することです。


そして、とりわけ人間圏への資源の流入量を
驚異的に増大させたのは、

「駆動力」

を手に入れてからでした。

化石燃料(石炭・石油)を使ったエンジンが
その端緒でしたね。


現在、私たちが人間圏への資源の流入量は、
環境にかなりの部分従属していた時期
(江戸時代くらいまでの現状維持的な生活)の
10万倍なのだそうです。

つまり、私たちの現代の暮らし100年は、
昔の1千万年に相当するほどの変化を地球に
もたらしていることになる。

このところ、急速に地球環境問題が
大きくなってきたのは当然のことだったのです。

私たちは、昔の10万倍の速さで地球資源を消費している。

その反動としての様々な問題、松井氏は

「負のフィードバック」

と読んでいますが、
それが今、強烈に私たちにかかってきていると
言えるわけです。


さて、松井氏もまだ、

・なぜ、私たち人間だけが環境自体を大きく変える力を持ったのか?
・人間という種の存在には、どんな意味や役割があるのか?

についての答えは見つかっていないようです。


もちろん、まずは、生き急いでいるかのような文明生活の当然の帰結
としての、環境問題を初めとする様々な問題に対して、
具体的な行動を起こすべきではあります。


ただ、同時に、上記のような

「そもそもの問い」

を考えることで、
根本的な解決の方向性が見えてくるかも知れません。


*以上は、夕学五十講での松井孝典氏の講演内容を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 14:01 | コメント (2) | トラックバック

市場開発には投資が必要だということ

「市場開発」

とは、より具体的には、

「新規顧客を獲得するための取り組み」

と言い換えられます。


なお、「市場開発」を実際に行うための

「基本理論」や「枠組み」、「ガイドライン」

などのことを

「マーケティング」

と呼びます。(ただし、マーケティングの適用範囲は、
「市場開発」だけに留まりませんが)


さて、この「市場開発」という言葉、
普段のビジネスシーンではほとんど使いませんよね。
(表現が硬いせいでしょうか)

しかし、もっと意識して使うべきではないかと、
ずいぶん以前から私は思っていました。


なぜなら、新規顧客を獲得するためには、
相応の資金を「先行投資」として投下することが
必要であるにも関わらず、その認識が薄い企業が結構多い。

だから、

「市場開発」

という表現を使えば、
目先の短期的な収支にとらわれない

「先行投資」

の重要性を意識しやすいからです。


「製品開発」は、明らかに先行投資ですよね。

‘柳の下のどじょう’製品はさておき、
純粋な新製品を開発しようとしたら、
市場に出すまでに数千万、数億、製品によっては
数十億円以上のお金を先行して投じるわけです。

しかも、新製品が100%ヒットする保証はありません。


製品開発に投じた莫大な資金が回収できるかどうかは、
蓋を開けて(上市して)みなければわからない。


しかし、継続的な成長のためには、

「製品開発」

のための投資が必要であることを
まっとうな企業(特にメーカー)は十分に認識しています。

だから、厳しい経営状況でも、
投資予算をなんとか確保しようとするわけです。


一方、新規顧客を獲得するためにもまた、

「相応の投資」

が必要なのだという認識は、
優良企業でも意外に薄いのが現実です。


新規顧客を獲得するためには、
相応のマーケティング予算を確保して、
十分な広告宣伝を行い、
製品の存在を認知してもらい、
またその特徴やベネフィットを潜在顧客に
知ってもらうことが欠かせません。


いまさら言うまでもないことですが、

「優れた商品なら黙っても売れる」

ということはまずないのです。
(運よくそうなることもありますが、
 事業を「運」だけに頼るわけにはいきませんよね)


結構前のことですが、
地方の某ソフトハウスが新たに開発したばかりの、
法人向けソフトウェアのマーケティング施策に
関わったことがあります。


このソフトは、今後法人ユーザーが間違いなく
必要とする機能を備えており、非常に有望な商品でした。

既に名の知られた競合他社が類似製品を出していましたが、
まだまだ市場導入期にある製品のため、この企業が
トップシェアを獲得することは決して無理ではないと
思っていました。


ところが、この企業はマーケティング予算を
ほとんど確保していなかったのです。
(確保する気も薄かった)

ソフトウェアの開発のためには、
おそらく数千万円を「投資」として投じたにも関わらず、
市場開発のための「投資」の必要性をまったく認識
していなかったわけです。


結局、ほとんど予算がないこともあり、
この案件に私が深く関わることはできませんでした。

この新商品の結末がどうなったかは、
あえて言わなくてもわかりますよね・・・
とても残念でした。


「市場開発」には、「製品開発」と同様、
相応の投資が必要だということを
ぜひとも企業の皆様に改めて認識してもらいたいと
願っています。

投稿者 松尾 順 : 12:17 | コメント (2) | トラックバック

雑誌とオンラインはとも食いしない!?

インターネットの浸透によって、
既存の紙媒体、すなわち新聞・雑誌等が
厳しい状況に追い込まれているのは周知の通りです。


ネット上でも有力な媒体を生み出し、
新たな収益源に育てない限り媒体社の将来はない。

もはやこんなことは言われなくても、
十分にわかってはいる。


しかし、

「イノベーションのジレンマ」

が思い切った決断を阻んでしまう。

まだまだ紙で行ける。
まだまだオンラインはたいしたことない。
そう思いたい。

ネット媒体に注力すると既存の読者を自ら奪い、
短期的には収益低下につながるかも知れない。
そんなことは怖くてできない・・・


とまあ、媒体社の方々は、
いろいろと悩んでらっしゃることでしょう。


米経済誌『フォーブス』では、
08年度には、オンライン媒体の売り上げが、
紙媒体のそれを抜くと予測されているそうです。

(宣伝会議、2008.2.15)

いつか確実にやってくる未来であった

「紙とデジタルの逆転」

を最初に実現しそうな最有力候補が、
一般誌の中では『フォーブス』なのです。


『フォーブス』(隔週刊)の雑誌の発行部数は

90万部

です。

一方、独立会社として運営されている
『フォーブス・ドットコム』は

1500万ユーザー/月

のアクセスを得ています。


『フォーブス・ドットコム』では、
雑誌の全記事とオンラインオリジナル記事を
無料で閲覧でできます。

以前の関連記事でご紹介しましたが、
最新記事のオンライン公開は木曜日です。

雑誌が読者に届くのは金曜以降なので、
オンラインの方が早く記事を読めるように
なっています。


しかし、同誌の編集次長、
カール・ラヴィン氏は次のように述べています。
(フォーブスCEOも同じことを主張してますが)

“雑誌とオンラインはとも食いにはならないのです。
 むしろ相乗効果の方が高い”


というのも、雑誌(紙)の新規購読者の3分の1が、
フォーブス・ドットコム(オンライン)経由で
獲得されているからです。

この数は既に旧来のダイレクトメールによる
新規顧客獲得数を上回っています。


今のところ、雑誌読者とオンライン読者の層が
あまり重なっていないため、総体的な読者層を
広げることに成功しているのが『フォーブス』だと
言えそうです。


紙からデジタルへの移行の過渡期にある今、
フォーブスの大胆な取り組みはいいケーススタディ
ですよね。


*関連記事
「誰が新聞を滅ぼすのか」

投稿者 松尾 順 : 09:50 | コメント (2) | トラックバック

イノベーション成功・不成功の分かれ道

次世代DVDの規格争いは、
ブルーレイ・ディスクの圧勝で
幕を閉じようとしていますね。

次世代DVDは、
現行のDVDよりも記録容量が大きいのが特徴。

これを可能にしているキーデバイスが、

「青紫色半導体レーザー」

です。


現行DVDは、赤色半導体レーザーがキーデバイス。

赤色より青紫色の方が光の波長が短いのですが、
波長が短かいほど、DVDの記録容量を増やせるのだそうです。

ですから、

「青紫色半導体レーザー」

という部品があったからこそ開発可能となったのが、
次世代DVDというわけです。


さて、青色を出す発光デバイスが開発されたのは、
15年ほど前に過ぎません。

それまで、青色発光デバイスの開発は
電機業界の長年の課題となっていたのです。

ところが、NTT、東芝、NEC、ソニーなど
名だたる大企業が勢力的にその開発に取り組んできた
にもかかわらず、最初に開発に成功したのは、
「日亜化学工業」という徳島にある中小企業の開発者、
中村修二氏でした。


なぜ、膨大な資金を投じることのできた大企業ではなく、
限られた資金しか持たない地方の中小企業の開発者が、
青色発光デバイスの開発に成功したのでしょうか?

それは、開発者の「暗黙知」を経営者が理解・共感し、
リスクの大きい開発を後押しできたかどうかの違いでした。

ここで「暗黙知」というのは、
まだ検証できていないし、理論的な説明はできない。
しかし、この材料や技術を採用した方がきっと成功する
に違いないという「直観」(直感)のことです。


日亜化学工業の中村氏が、
青色発光デバイスの開発に当たって採用した材料は、

「窒化ガリウム」

というものでした。

一方、大手企業が採用していた材料は、

「セレン化亜鉛」

でした。


当時の科学的知見(=パラダイム)では、
色発光デバイスの開発には、

「セレン化亜鉛」

の採用がベターな選択であることが
理論的に説明可能でした。

逆に、「窒化ガリウム」を用いることは、
理論上は極めて困難だと考えられていたのです。

だからこそ、大手企業はこぞって
「セレン化亜鉛」を選んだわけです。


しかし、中村氏は大手と同じ材料を選んでも
勝ち目はないと考え、あえて難しい材料に
挑みました。

そして、日亜科学工業の経営者もまた、
中村氏のこの決断を支持し、同社としては多額の
開発費を投じる経営判断を行いました。


実は、中村氏も含め開発者の多くは、

「窒化ガリウム」の方が筋がいい

と「暗黙知」ではわかっていた(感じていた)
のだそうです。

それは、「窒化ガリウム」は、うまくいけば
良く光るということ、またもろい材料である
「セレン化亜鉛」よりも、固い「窒化ガリウム」
の方が実用に耐える可能性が高いということでした。


しかし、残念ながら大手企業のトップで、
この開発者の暗黙知を理解・共感できるところは
ありませんでした。

NTTでは、セレン化亜鉛、窒化ガリウムの両方を
使った研究が進められていたそうです。

しかし、研究開発予算の見直しに当たって、
理論的には開発可能性が高い「セレン化亜鉛」を
採用するのが妥当という判断になり、
「窒化ガリウム」による開発は中断されました。


従来のパラダイムを破壊するようなイノベーションの場合、
これまで存在していなかった

「新たな知」

がベースになっています。

ところが、新しい知の理論化・体系化には時間がかかるため、
最初はうまく説明できないことが多いものです。
あくまで、研究者、開発者の暗黙知に止まっています。

この段階で開発にGOが出せるか出せないかは
開発者の暗黙知を経営者が理解、
あるいは理解できないまでも共感できるかどうかに
かかっています。

業界構造を変えるような大きなイノベーションの
成功・不成功の分かれ道がここにあるのですね。


*参考文献

『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (2) | トラックバック

オバマ氏の「外見」

日本でも、
米大統領選の動向に
ますます関心が高まってますね。

特に「ヒラリー対オバマ」の争いが、
面白いといっちゃなんですが、面白い。


最近は、オバマ氏が、
従来の彼の主な支持層だった高学歴の白人、高所得者、黒人層、
若年層だけでなく、女性、低・中所得者、ヒスパニック層、
高齢者など、これまでクリントン氏が強かった層にまで支持者を
拡げています。

オバマ氏の強さの理由は、もちろん、
一言で説明できるわけではないのですが、
私が最初から気になっているのは彼の「外見」です。


オバマ氏は47歳ながら、
「少年」の面影を残していますよね。

要するに、「童顔」です。


オバマ氏を見ると、
立派な中年男性に対する言葉としては
ちょっと失礼かもしれませんが、

かわいい、愛らしい

といった感情を抱きませんか?


心理学の実験では、

「童顔」

であるというだけで、
人の好意を得やすいということが
検証されてます。


外見だけで大統領候補を選ぶ人はいないでしょうけど、
オバマ氏は、もともと万人受けする外見を持っているのは
確かです。

投稿者 松尾 順 : 10:24 | コメント (1) | トラックバック

「オウケイウェイブ」が「Google」を超える日?

現在、ネット業界最強の企業といえば、

「Google」

で決まりですね。


しかし彼らの拠って立つ

「知のパラダイム」(科学的知見の一定の枠組み)

はあくまでコンピュータベースの検索技術です。


一方、人力に頼る「オウケイウェイブ」は、
一見時代遅れに思えますが、実は電子機械では
いまだに実現できない複雑な能力を備えた人間の「頭脳」を
ネットを通じて活用しているという点で、
Googleとは異なるパラダイムにおいて成立しているサービス。


「オウケイウェイブ」代表取締役社長、兼元謙任氏は、
人気メルマガ、「プレジデントビジョン」(2008/02/13)で
次のように語っています。

“2005年に『グーグルを超える日 オーケイウェブの挑戦』と
 いう本を出版いたしましたが、その頃なんか「Googleを越える
 なんて、到底無理だろ」と言われ続けたものです。
 しかし2006年の株式上場後は、投資家の方々から
「ひょっとすると、可能かもしれないね」と言われたんです。”


ある大手証券アナリストは、兼元氏に

「Deep Web」

という考え方を示したそうです。

“Googleで検索できる情報というのは海上表面40メートルだ。
 2万2,000メートルの深海にある情報はまったく拾いきれていない。
 これらを拾い上げるのは、おそらく機械ではなくて、
 人の関心・興味だとか、そういった人の経験値かもしれない”

おそらく、Googleと同じ知のパラダイムの枠組みでは、
今後いくら戦っても誰も絶対に勝てないでしょう。

しかし、オウケイウェイブのように、
別のパラダイムを提示し、その中で技術を磨いていけば、
Googleを追い抜くことだって決して夢物語ではないかも。

投稿者 松尾 順 : 10:21 | コメント (0) | トラックバック

技術イノベーションの4類型

イノベーションには、大きく分けると、
次の3つの軸があることを前回ご紹介しました。

・技術イノベーション
・経営イノベーション
・アイステシス・イノベーション


このうち、技術イノベーションにおける
4類型についてご紹介します。


技術イノベーションは、
次の2つの軸の組み合わせの枠組み
で考えると構造が把握しやすくなります。

・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型


では、まず

[性能持続型-性能破壊型]

の軸から説明します。


性能持続型は、
性能をより高めていく取り組みです。
これは、技術イノベーションの自然な方向性ですね。

一方、性能破壊型は、
逆に意図的に性能を引き下げることによって、
別のベネフィットを高めるアプローチです。


たとえば、ハードディスクドライブ(HDD)は、

「14インチ」

の大きさからその製品の歴史が始まっています。


しばらくして、より小型の

「8インチ・ドライブ」

が開発されましたが、小さい分記憶容量が少ない。

つまり、14インチよりも性能は低下しているわけです。

このため、当時14インチHDDを製造していたメーカーは
バカにしてどこも手を出さなかったのです。

ただし、8インチHDDは、
「小さい」というベネフィットを高めることが
できていますよね。(もちろん、8インチという規格の中で、
記憶容量を高める技術革新は続けられましたが)

その後も、

5.25インチ、3.5インチ

とさらに小型のHDDが開発され、
それぞれ、デスクトップ、ノートパソコンなど、
容量よりもサイズが小さいことが重要なコンピュータ向けに
普及が進んできました。


『イノベーションのジレンマ』で、
クレイトン・クリステンセン氏が検証しているように、
大きなサイズのハードディスクでトップシェアを取っていた
企業が、こうしたハードディスクの小型化の流れ、すなわち、

「性能破壊型イノベーション」

についていけずに、ほとんどが姿を消していきました。


一方、もうひとつの軸である

[パラダイム持続型-パラダイム破壊型]

ですが、これは、

その技術のよりどころとなる「科学原理」が同じか、異なるか

ということで分かれます。


例えば、「真空管」の性能を圧倒的に凌駕した

「トランジスタ」

の開発は、

「パラダイム破壊型イノベーション」

と呼べるものです。


なぜなら、真空管の動作の元になっている科学原理は

「古典電磁気学」

であるのに対し、トランジスタのそれは、

「量子力学」

だからです。


ですから逆に言えば、
古典電磁気学ベースでの

「真空管」

という規格上の技術革新は、

「パラダイム持続型イノベーション」

であるということがおわかりですよね。


さて、この技術イノベーションの2つの軸、

・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型

の組み合わせによって次の4つのセルができます。

1.パラダイム破壊型-性能破壊型
2.パラダイム持続型-性能破壊型
3.パラダイム持続型-性能持続型
4.パラダイム破壊型-性能持続型


このうち、

1.パラダイム破壊型-性能破壊型

のセルに該当する製品は実質的に存在しません。

なぜなら、パラダイム破壊型は、
通常大幅な性能向上を伴うべきものであり、
パラダイムを破壊しつつ、同時に性能を
引き下げるようなイノベーションを行うことは
矛盾するからです。


そして、この4類型でいくと、

「トランジスタ」

は、パラダイム破壊型、かつ真空管よりも
大幅な性能向上を果たしているという点から、

4.パラダイム破壊型-性能持続型

に分類できます。


また、ハードディスクドライブの小型化の歴史は、
同じパラダイム上にあって、
性能を引き下げていったわけですから、

2.パラダイム持続型-性能破壊型

に該当することになります。


最近のより身近な例を挙げるなら、
従来の銀塩フィルムを用いたカメラから
デジタルカメラへの移行は、
パラダイム破壊型、性能持続型の「4」になるでしょう。

銀塩フィルムの小型バージョンであった「APS」規格は、
パラダイム持続-性能持続型の「3」でしたが、
デジタルカメラが引き起こした「4」のイノベーションに
呑み込まれてしまって実質的に失敗に終わりましたね。

富士フィルムは、
一時期、デジタルカメラのパラダイム破壊を無視し、
従来のパラダイムの枠内にあった「APS」に
こだわったため苦しい思いをしたようです。


今回はとりわけ難しいテーマでしたね。
わかりにくかったらすいません。

なお、本来このメルマガ&ブログは、
主にマーケターの方を対象に書いていますので、
科学技術系のネタはちょっと場違いだと思われている
かと思います。

ただ、2軸でモノゴトを整理するような枠組みを
使いこなせる力、つまりフレームワーク思考力の
トレーニングとして読んでいただければ幸いです。

また、パラダイム破壊といった視点は、
マーケティングの世界で言えば、

生産者志向→消費者志向
販売志向→関係性志向

という変化として置き換えられるわけです。

マーケティングにおけるイノベーションを
考える上で参考になるんじゃないでしょうか?


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 14:27 | コメント (2) | トラックバック

イノベーションとは何か?

今日は、そもそも論。

「イノベーションとは何か?」

ということについて押さえておきたいと思います。


なお、今回、および前回の内容は、
文末に示した参考文献、および山口栄一氏(同志社大学
ビジネススクール教授)の「夕学五十講」での講演を
元にしています。

実は、先週も山口氏の話を基にした記事を
いくつか書いています。

山口氏のお話や本があまりに面白かったため、
こうして続けて書かせてもらっているという次第です。


さて、「イノベーション」と聞くと、
どうしても「技術」分野における発明や画期的な新製品の開発を
連想しますね。

しかし、イノベーションを研究した経済学者、
シュンペーターによれば、イノベーションは技術分野に
とどまるものではありません。


シュンペーターによる

「イノベーションの定義」

は次のとおりです。


“イノベーションとは、経済活動の中で生産手段や資源や
 そして労働力などを今までとは異なる仕方で「新結合」すること”


そして、具体的なイノベーションのタイプ(類型)として
以下の5タイプを示しています。

(1)未知の新商品や新品質の開発
   →プロダクト・イノベーション

(2)未知の生産方法の開発
   →プロセス・イノベーション

(3)新市場の開拓
   →マーケティング

(4)ものの新しい供給源の獲得
   →サプライチェーン・マネジメント

(5)新組織の実現
   →組織イノベーション


つまり、経済活動、もっとミクロ的にいえば、
「企業活動」において、従来になかった

「新しい組み合わせ」

を実現することです。


たとえば、代金1000円ポッキリ、洗髪、髭剃りなし、
所要時間10分散髪が終わる理髪店、

「QBハウス」

は、どんなイノベーションを実現したのでしょうか?


(2)の未知の生産方法(サービス提供方法)、
すなわち、「プロセスイノベーション」ですね。


余談ですが、QBハウスに初めて行った人なら誰でも驚く
(戸惑う)であろう仕組みが、切った髪を掃除機のように
吸い取るやつ(バキューム?)でしょう。

あれは、実に奇想天外なアイディアでした。


さて、上記5タイプのイノベーションは、
大きくは次の2つの軸、すなわち

・技術に関するイノベーション(1、2)
・経営に関するイノベーション(3、4、5)

に分けることができますが、
山口氏はこの2つでは足りないと考え、
もうひとつ新たな軸を追加しています。

それは、

「アイステシス・イノベーション」
(Aisthesis Innovation)

です。

「アイステシス」(Aisthesis)はギリシャ語で、
英語の「エステティック」(Esthetic)の語源と
なっている言葉。

美容の「エステ」はこのエステティックから
来ていますが、日本語ではしっくりくる訳語がありません。

美しさや使いやすさなど、製品の感性的な面での改革、
端的にいえば、

「生活の質の向上」

に資するイノベーションが、

「アイステシス・イノベーション」

です。


アイステシス・イノベーションは、
その性質上、多くが「デザイン面」での改革になりますが、
確かに、近年は、形状、色などに工夫を凝らした製品が
増えてきていますね。

これは、技術イノベーション、経営イノベーションが
以前よりも格段に困難になったということの裏返しでも
あるかも知れませんが。


なお、このイノベーションの3つの軸を考える上で
重要な点は、すべての軸において
より優れたイノベーションを目指す必要はないということです。

技術面では、従来製品よりもむしろ低機能、低性能で
ありながら、デザインにおいて美しい、あるいは
使いやすい製品として仕上げることでも、
顧客の支持を得ることができるのです。


近年台頭してきた、

アマダナ、プラスマイナスゼロ

などのデザイン家電を見ていただくと、
このことが納得いただけるかと思います。


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (2) | トラックバック

「研究」と「開発」の違い

「研究」と「開発」

この2つの違いをご存知ですか?

厳密な議論は、
文末にご紹介している参考文献をご覧いただくとして、
ここではできるだけわかりやすく説明してみます。
(わかりにくかったら私の失敗です。ごめんなさい!)


研究と開発をそれぞれ一言で言い換えると、

研究・・・「知の創造」
開発・・・「知の具体化」

となります。


「知の創造」とは、

・誰も知らないこと
・誰も見たことがないこと

を発見することです。

知の創造に取り組む「人間の営み」(行動)を

「科学」

と呼びます。

そして、上述した新たな発見のことは、

「科学的知見」

と言います。

例えば、

「熱力学の法則」(エントロピーの法則など)

は、研究によって発見された「科学的知見」
のひとつですね。


一方、「知の具体化」とは、
科学的知見を集積・統合して、
なんらかの目的に寄与する「製品」として
実現することです。

この知を具体化する「人間の営み」(行動)を

「技術」

と呼びます。


さて、研究で得られた「科学的知見」は
そのままでは人間の生活の役には立ちません。

科学的知見をベースにして、
実際の製品として具体化されることによって、
初めて人間の生活に役に立ちます。

したがって、

研究・・・「虚学」
開発・・・「実学」

と対比されることもあります。


しかし、「研究」における
イノベーションがあるからこそ、
製品の「開発」上の大きな進展が可能です。

ですから、科学のことを

「虚学」

といった揶揄したような言葉で呼ぶのは失礼ですし、
短期的な収益につながりにくいからという理由で、
「基礎研究」を軽視してしまうと、
長期的には製品開発力の弱体化をもたらします。


この「研究」(知の創造)と
「開発」(知の具体化)の関係は、

・横軸(X軸)・・・「研究」
・縦軸(Y軸)・・・「開発」

として展開するとさらに把握しやすくなります。

「横軸」(X軸)を左から右へと進むことは、
より有力な優れた知が創造されていくことを意味します。

これは、例えば

「天動説」

という知が、

「地動説」

という新たな知に置き換わることであり、

「パラダイムチェンジ」

としばしば呼ばれます。


一方、「縦軸」(Y軸)を下から上に進むことは、
既存の科学的知見に基づいて技術が進化し、
新たな製品が生み出されていくことを意味します。

例えば、以前は可能とは思っていなかった

「フェライト磁石の発見」

という知の創造に基づいて開発されたのが、

「磁気テープ」

であり、その進化形として

「フロッピーディスク」や「ハードディスク」

が製品化されてきました。

そして今、フェライト磁石とは異なる
「知」の創造に基づいて開発された

「フラッシュメモリー」

が、従来のフェライト磁石ベースの記憶媒体に
置き換わろうとしているわけです。


さて、この「知の創造」と「知の具体化」
の2つの視点で考えると、

・イノベーションには
 どのようなタイプがあるのか?

また、

・なぜイノベーションを起こせる企業と
 そうでない企業に分かれるのか?

といった面白い議論ができるのですが、
長くなりますのでまた明日。


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 08:21 | コメント (0) | トラックバック

野菜のリサイクル

スーパーの野菜売り場に並ぶ、

きゅうり、にんじん、じゃがいも、トマト、大根・・・

などなど。

何気なく買い物をしている時には思いもしませんが、
どれも形が大きさがほぼ同じですよね。見事に揃っています。

工業製品でもないのに、
野菜の外見がほぼ均一なのはよく考えると不思議です。


でも、実は大きすぎたり、小さすぎたり、曲がっていたりする

「規格外の野菜」

は店頭に並ばないだけのことなんですね。


ある一定の大きさ・形から外れた野菜は、
販売する側としては、運搬しにくいし売りにくい。

まがったきゅうりは、
袋詰め3個売り用のビニール袋に
入りきらないこともあります・・・


一方、消費者側も、
ほとんどの人は畑で取れたばかりの野菜たちの
「不揃いさ」を知りません。

そのため、スーパーに並ぶ野菜が、

「標準」=無難なもの、良いもの

だという思い込みができあがってしまう。
そして、標準から外れた野菜に手を出そうとしなくなる。

つまり、規格内の野菜しか売れないということになるわけです。


こうして、規格外の不揃いの野菜たちは、
食べられることなく、大半が廃棄処分にされてしまうのだそうです。


そこで、こうした捨てられてしまう

野菜のリサイクル

に乗り出したのが「生活創庫」です。
(カンブリア宮殿、テレビ東京、20008/02/11)


リサイクルショップ(チェーン)を全国に約190店舗展開する
生活創庫の浜松本店では近くの農家の畑に出向き、
従来は捨てられていた規格外の野菜を買取っています。

そして、週1回土曜日、本店で朝市を開いて、
買い取った野菜の即売を行っています。


例えば、育ちすぎて通常の2倍くらい大きい大根。

スーパーでは陳列場所に困るでしょうし、
客も持ち帰るのに重すぎると文句を言う大きさですが、
生活創庫では1本50円。

大きくても、車で来てれば重さは負担になりませんね。
もちろん、味は規格品と変わりません。
安くて新鮮、大家族にはうれしい大根でしょう。


あるいはちょっと表面がブツブツしている株。
これも味には問題はないのに見た目が良くないということで
スーパーでは扱ってくれません。

生活創庫では1株100円で売ってます。


というわけで、
朝市の野菜は結構売れているようです。


生活創庫の

「野菜のリサイクル」

はまだ浜松本店だけの実験的な取り組みのようですが、
全国展開できるといいですね。


規格外野菜を売る試みは、
これまでも全国各地で細々とやってきているとは
思いますが、生ものを扱うだけに一朝一夕ではできない
難しい事業でしょうから。


野菜に限らず、合理的になりすぎた現代社会で、
「外見」だけで振り落とされてしまうモノゴトを
何らかの形で活かしてあげられる仕組みが、
あらゆる分野で求められてるんじゃないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 15:53 | コメント (0) | トラックバック

“ペン回し専用”ペン

タカラトミーが、今月21日に

“ペン回し専用”ペン

を発売するそうです。


左右のバランスを均等にして、

“回しやすさ”

を追求したボールペンということですが、
ずいぶんニッチな市場を狙ってきたものです。

もちろん、ちゃんと字も書ける!
というか書けなければペンとしてのアイデンティティが
失われてしまいます。


当製品は、「日本ペン回し協会」との共同開発。

そんな協会もあったのか!


そういえば、

「のこぎり」

を楽器として奏でる演奏家が世界には結構たくさんいて、

「演奏専用のこぎり」

があるというのを以前ご紹介しました。


演奏専用のこぎりは、
「目」は立っていないもののちゃんと「歯」がついています。

それがのこぎりとしてのアイデンティティ。


歯のない単なる「薄い板」を演奏しても、
面白くともなんともないですよね。

投稿者 松尾 順 : 17:34 | コメント (0) | トラックバック

ペット一生涯預かりサービス

ちょっと前にもご紹介しましたが、
高齢者が亡くなった後に残されたペットを引き取り、
一生涯面倒を見るサービスが始まっています。
(日経新聞夕刊、2008/02/05)


一人暮らしの老人に取って、
ペットは喜びと生きがいを与えてくれる
かけがえのない存在ですよね。

自分が死んだ後、
一人(匹)では生きられないペットの行く末が心配で・・・
という方も多いんじゃないかと思います。


ただし、一生涯預かりサービスの値段は、
種類や年齢によって異なりますが、

144万円~1,428万円

となかなかの値段。
おいそれとは頼めないですねぇ。


でも、常にそばにいてくれて、ある意味、
肉親以上の存在とも言えるペットのためなら、
これくらい出しても惜しくないと考える方もまた多いかも!


*ペット一生涯預かりサービス「Second life」
 http://www.pet-syougai.com/

投稿者 松尾 順 : 16:02 | コメント (0) | トラックバック

老眼鏡が月20本売れるコンビニ

「確実にやってくる未来」には様々ありますが、

「高齢化社会」

は、既に輪郭がかなりはっきりしてきている未来ですよね。


この高齢化社会において、

「コンビニ」

はどのように適応すべきかを探るため、
ローソンは数年前から実験店舗を運営してきてます。
(他のチェーンでもそれぞれ取り組んでると思いますが)


ローソンの

‘シニアにやさしい’

コンビニ1号店は、06年7月に
高齢化比率の高い淡路島でオープンしました。

この店にはマッサージチェアが置いてあったり、
レジ前には、杖が立てかけかけられる小さなクボミが
つけてあったりと細かい工夫がされてます。


この店では「老眼鏡」の品揃えが豊富で、
確か月平均20本くらい売れるということでした。

コンビニで1日約1本くらいのペースで
老眼鏡が売れるというのは、ちょっとびっくりですよね。

投稿者 松尾 順 : 02:14 | コメント (0) | トラックバック

『オルタナ』の決断と私の迷い

『オルタナ』は、2007年4月創刊の雑誌。

「環境と社会貢献と「志」のビジネス情報誌」

がキャッチフレーズです。


オルタナには、
既存のビジネス誌では取り上げられることが
まだまだ少ないテーマ、例えば、

・企業の社会的責任(CSR)
・LOHAS
・環境保護
・エコロジー

についての記事が掲載されています。


同誌は、当初無料配布で読者の拡大を図ってきました。
私は創刊2号から読者になりました。


さて、創刊後しばらくして公表された同誌の方針では、
最初の2万部(人)までは無料で配布を継続し、
以降の新規読者については有料化(1部350円)する
ということでした。


ところが、先日届いた
同誌編集長から既存読者宛のメールによれば、
無料購読を廃止し、

「全面的に有料化に踏み切る」

とのこと。

やはり充実した紙面作成のためには、
資金がもっと必要だということでした。

苦渋の決断でしょう。


しばらくして、
編集長から再びメールが届きました。

上記の突然の通知についてのお詫びでした。

どうやら、当初の約束を翻すことについて、
無料購読者から多くのクレームが寄せられたようです。


私自身もちょっと釈然としない気持ちです。

ただ、「オルタナ」のような雑誌は、
地球環境に対する危機意識が高まっている今、
とても重要な役割を果たす情報誌だと思います。

キャッチコピーにあるように、

高い「志」(こころざし)

を持って取り組まれていることは、
同誌を読めばわかります。


今回の全面有料化も
相当悩んだ末での結論だと思います。

ですから、あえて意見を送ることは
しませんでした。


それでも私は、
購読料を払うかどうか迷っています。

以前と比較して、最近の号は
飛躍的に内容が充実してきています。

ただ、1冊当たり300円を払う価値があるかどうか、
現時点では正直、微妙なところです。
(あくまで私の評価です)


例えば、なんらかの協会や学会に所属するために
「年会費」を払い、その特典として

「会報」

が送られてくるというのなら、
その内容はそれほど重視しません。


しかし、購読料は基本的には

『オルタナ』

という雑誌の内容に対しての対価と考えたい。

雑誌の内容はたいしたことないけれど、
社会的に存在意義があるから(我慢して)、
払ってあげようというのは、
オルタナの制作に携わっている方に対して
失礼じゃないかともと思うわけです。


同じような社会的な意義の高い雑誌に
ホームレスの方が販売する

『ビッグイシュー』

というのがありますが、
これは1部300円の価値がある内容だと、
私は評価しています。

だから、ホームレスの方を支援するということだけでなく、
読みたいから買っています。


さて、オルタナについては、今回の全面有料化に伴い、
購読を中止してしまう読者の方が相当数発生するでしょうね。

でも、こうして購読を中止した方に対しても、
時々は見本誌を送付してくれて、

「ほら、ますます内容が充実してますよ、
 読まなきゃ損ですよ!」

ということを伝えられるくらい、
がんばってもらいたいと思います。


*『オルタナ』公式サイト
http://www.alterna.co.jp/index.html

*『ビッグイシュー日本版』公式サイト
http://www.bigissue.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:23 | コメント (0) | トラックバック

「見た目」がすべてか?

大減量に成功した岡田斗司夫氏。

社会評論の本を出していた岡田氏自身は、自分は

「社会評論家」

と見られていると思っていました。


ところが、現実には

「デブキャラ」

とみなされ、知的なイメージが無かったとのこと。


まあ、サンドウィッチマンの伊達さんのような

「小太り」

程度であればそんなことはなかったと思います。

しかし、相撲取り級の120キロに迫る体格となれば、
岡田氏が、単なる「デブ」としか受け取られなかったのも
むべなるかなです。


ところが、67キロにまで体重を減らした今、
掲載される写真やスペースが大きくなったそうです。

なるほど!
しかし、これは見た目が改善されたからというよりも、
ダイエット成功による

「体型の変化」

で注目を集めているからだと思います。


岡田氏は、

“見た目が悪いと、いい仕事をしても評価されない。
 私たちはいつの間にか、外見で中身や仕事の実績まで
 評価されているのです。”

と言い切っています。
(日経新聞夕刊、2008/01/30)

なるほどね!
しかし、自分が痩せたからといって、
岡田氏もちょっと言い過ぎではないでしょうか。


さて、確かに私たちは、
まずは対象(人に限らず食べ物なども)の見た目で、

・危険はあるか・ないか(近づいても大丈夫か)
・好きか・嫌いか(付き合いたいか)

を判断しますよね。


ただしこの判断はあくまで「直感」による

「仮評価」

に過ぎず100%正しいとは限りません。

ですから、少なくとも危険はなさそうだと判断できたら、
実際に近づいてみて、例えば食べ物であれば、

においをかいだり、
手で感触を確かめたり、
ちょっとかじってみて、

見た目じゃなくて「本質」(中身)は
実際どうかを確かめるわけです。


ところが、近年は本質を確かめる以前の
「仮評価」の段階で思考を停止してしまい、

あの人はだめ、この食べ物はだめ

とさっさと最終評価にしてしまう傾向が
高まっているようです。


この背景にはやはり、

情報過多で複雑になりすぎた社会

があるのではないかと思います。

ひとつひとつ、外見だけじゃなくて、
本質まで確かめようとしたらとても時間が足りないですから。


岡田氏は、「見た目主義」の是非を問うようりも、
どんな行動をすれば効率的かを考えて行動すべきと
考えています。

見た目が良いほうがメリットが大きい社会であるなら、
太っている人は痩せたほうがいい、というシンプルな理屈です。


ただ、これもあくまで本質(中身)が伴っての話でしょう。

ぱっと見がよいと確かに最初はみな飛びつく。
でも、本質がたいしたことなければすぐに離れて
いってしまいますからね。


最近、「きゅうり」の人気が落ちているそうです。

その理由は、どうやら「見た目」は良くなったけれど、
「本質」がだめになったからです。


「きゅうり」は、
本来水分の蒸発を防ぐ白い粉が付着し、
くすんだ色をしていました。

しかし、これが消費者からは

「鮮度が良くない」

ように見えるため不評。


そこで、白い粉をなくす栽培法が普及し、
光沢のあるきゅうりが主流になりました。

ところが、この美しいきゅうりは、
皮が厚くて固く、みずみずしい本来のおいしさが
失われたのだそうです。


要するに、見た目がいいから買ったものの
実際食べてみたらおいしくないから、
きゅうりを買う人が減ってしまったというわけです。


やっぱり見た目がすべてじゃありません。

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (2) | トラックバック

確実にやってくる未来を見据えることができているか?

私たちは、技術上のブレークスルーなどによって、
「いつ(When)」になったら実現するかは正確に言えないけれど

「確実にやってくる未来」

の変化に意外と鈍感です。

変化の重大さに気づいた時には往々にして手遅れ!
新しい環境に適応した新興企業にやられてしまう。


自動車が初めて実用化されたころ、
当時の運送手段として主流だった「馬車」の経営者は
鼻で笑いました。

また、メインフレームで大儲けしていたIBMが、
まだ幼児期のパソコンを単なる「おもちゃ」として
バカにした話も有名ですよね。

同じようなことは現在もあちこちで起こっています。
たとえば照明器具です。


「Ban the Bulb」(白熱電球禁止)

米国、カナダ、オーストラリアを始めとして、
欧米諸国では、こんなスローガンの下、

白熱電球を蛍光灯に切り替える運動

が盛んになっています。


ちなみに、「Ban the Bulb」というのは、
一昔前に、原爆や水爆に反対する人々が唱えていた

「Ban the Bomb」(爆弾禁止)

というスローガンのもじりだそうです。


さて、白熱電球は電力消費量が大きく、
エネルギー利用効率が悪い。

このため、二酸化炭素を減少させる温暖化対策の一環として、
光熱電球を使うのは止めましょうということです。

実は日本でも、
数年以内に発熱電球の国内製造・販売が中止される可能性が
あるようですね。


一方、白熱電球の代替として推奨されている

蛍光灯

ですが、最近は

「電球型の蛍光灯」

がずいぶん普及してきましたね。

電球型蛍光灯はまだ割高ではありますが、
電力消費量は白熱電球と比べるとはるかに少なく、
かつ長寿命ですから、法規制の後押しがあれば
あっという間に浸透するかも知れません。


ただ、蛍光灯も問題を抱えています。
蛍光灯には人体に有害な水銀が含まれているため、
処分が面倒なのです。

私たちはあまり知りませんが、
うっかり割ったりすると、空気中に水銀が流出するため
かなり危険なんですよね。

それでも、これまでのところ
蛍光灯ほど優れた照明器具はなかったので
利用されてきたというわけです。


しかし、蛍光灯よりもさらに電力消費量が少なく、
かつ長寿命の

「発光ダイオード」

における技術革新が蛍光灯を

「過去のもの」

にしようとしています。


すでに、実験室では蛍光灯と同等の明るさを
実現しているそうです。

まだまだ製造単価が高いですし、安定性の問題もあり、
一般消費者が手に入る蛍光灯の代替製品としての
実用化はちょっと先になりそうです。

それでも、山口栄一氏(同志社大学ビジネスクール教授)
によれば、5年後には蛍光灯の照明は発光ダイオードに
置き換わるのではないかという推測をされていました。

実際、5年後にすべてが置き換わるかどうかは
わかりません。しかし、性能や価格的に見て、
蛍光灯が発光ダイオードに置き換わるのは確実に
やってくる未来です。
(街中の信号機が今、どんどん発光ダイオードの
 ランプに変わっているのをごぞんじ?)


蛍光灯メーカーとしては、
こうした確実にやってくる未来を
どの程度客観的に受け止め、
思い切った戦略転換の決断を行えるかが、
将来の生き残りの鍵となることはおわかりですよね。

現在莫大な利益を上げている、
目先の蛍光灯事業の存続にばかり目がいってしまった
企業はたぶん終わりです。


以上は、いわゆる

「イノベーションのジレンマ」

として説明されることですが・・・


さて、あなたの事業においては、

「確実にやってくる未来」(の変化)

をちゃんと見据えることができていますか?

投稿者 松尾 順 : 12:30 | コメント (0) | トラックバック

JR福知山線事故の発生は100%予見できた!

2005年4月25日に発生したJR西日本・福知山線の事故は、
死者107名(運転手含む)、負傷者562名の大惨事となりました。

改めて、お亡くなりになった方のご冥福をお祈りします。


さて、事故発生から約2年後の2007年6月28日、
事故調査委員会が提出した「最終報告書」によれば、
当事故は、

「運転手の過失」

が引き起こしたものと結論付けており、

「JR西日本の過失」

には全く触れていません。


しかし、これはリスク管理の視点からは、
とても不可思議な結論です。

なぜなら、科学的に状況を分析していれば、
事故の発生は100%予見可能だったからです。

したがって、JR西日本が適切な対策を打っていれば、
事前に発生を予防することができたのです。


当事故発生の直接の原因は、
塚口駅から尼崎駅に向かう上り線のほぼ直線6.5km
(制限速度120k)を通過後にさしかかる

「右カーブ」

において、運転手のブレーキ使用が遅れたため、
減速が不十分だったことです。
(右カーブの制限速度は70km)

このため、遠心力が働いて車両が転覆(横転)してしまった。
(線路のゆがみなどによる「脱線」ではないので、
 この事故を「脱線事故」と表現するのは適切ではありません)


この右カーブはR304(半径304メートル)です。

電卓でできる四則演算レベルの計算を行うだけで、
時速120km以上では確実に転覆することがわかります。

この計算には、カーブの大きさ、車両のスピードに加えて、
車両の重さ(乗客数)なども考慮しますが、時速120kmでも
転覆しないのは車両が空の場合だけだそうです。

ですから、右カーブの手前で運転手が確実に減速しない限り、
事故の発生は必然でした。


実は、この福知山線上りは以前別の場所を走っていたのですが、
JR東西線の開通に合わせて下り線と同じ経路に変更されています。

この以前の線路でのカーブは、
もっと緩やかなR600(半径600m)だったそうです。

上述の簡単な計算によれば、
R600のカーブの場合には時速150km近くで走っても
転覆することはありません。

もし、JR西日本が線路付け替えの際に安易に下り線の脇に
設置するのではなく、R600の十分な曲線半径を取っていれば、
仮に運転手が時速120km以上であの右カーブに突っ込んでも
転覆することはまずなかったと考えられます。


しかし、現状の上り線はR304のカーブであったため、
乗客の命は文字通り、運転手に預けられていました。

長い直線の線路を120kmで突っ走っている時、
もし、運転手が心臓発作を起こして人事不省に陥ったり、
あるいは、ちょっと居眠りしただけでも、確実に事故は
発生したわけですから。

まるでこれは、
地雷原を避けた道が作れないことはなかったが、
もはや、地雷原のある道を毎日通ってもらうしかないから、

「運転手くん、地雷を踏まないように上手に通ってくれよ」

と言うようなものではないですかね。

つまり、リスク管理を運転手という一個人にのみ
委ねていたのが実情だったわけです。


非常に初歩的なことですが、リスク管理における対策には、

・事前予防策:リスク発生を阻止する対策
・事前準備策:リスク発生に備える対策
・事後対応策:リスク発生後の対策

の3つがあります。

このうち、JR西日本が取っていたのは、

「事前準備策」

だけであったのは明白ですよね。

運転手のブレーキという

「事前準備策」

によって、
事故発生のリスクを低減することだけは
行ってました。

しかし、線路のカーブの大きさを適切に設計することで、
事故の発生原因そのものを除去、あるいは回避する、

「事前予防策」

は行っていなかったということです。


ですから、事故調査委員会の結論は、
リスク管理の視点からは極めて不可思議というのが
おわかりでしょうか。

もちろん、この結論に別の配慮が働いている
ということなら「何おかいわんや」ですが。


以上の話は、

『JR福知山線事故の本質-企業の社会的責任を科学から捉える』

の編著者、山口栄一氏(同志社大学ビジネススクール教授)のお話を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:13 | コメント (1) | トラックバック

ギフトエコノミー・・・合計0ドル、お支払いはペイフォワードで!

カリフォルニア州立バークレー大学近くの

「カーマレストラン」

は、土曜日の夕方5時から10時までオープンしているお店。
毎週、40-50席ほどの店内が満席になる賑わいです。
(オルタナ、FEB. 2008 No.6)


ネパール料理をベースとするインド風メニューは、
ネパール、イラク、ベトナムからの移民シェフが作る本格派。

サラダ、メインディッシュ、デザートまで、
豊富なメニューが並んでいます。

ところが、メニューには値段が書かれていません。
なぜなら、食事後にいくら払うかを「客」が決める仕組み
だからです。


客が料理を食べ終わると、
伝票の代わりに封筒が置かれるそうです。

その中に入っているカードには、

「合計0ドル」

という文字と共に次のようなメッセージが!

寛容の精神に基づいて、この食事はあなたの前に来た
 だれかからの贈り物です。私たちは、あなたがこの循環を
 続けてくれることを願っています。
 もし、これから訪れるお客様へこの輪をつなげたいと思ったら、
 封筒に無名の寄付を残してください。」


この封筒にお金をいくら入れるかは客の自由。

しかも、客から回収された封筒は店内のポストにしまわれ、
閉店後に開封されるため、誰がいくら払ったか、
あるいは払わなかったかは、一切分からないようになっています。


カーマレストランの創設者の一人、

ニプン・メーター氏

によれば、このレストランのコンセプトは、

「ギフト・エコノミー」

です。


ギフトエコノミーとは、
自ら進んで与えることを前提に成立する経済。

需給関係で価格が決まり、貨幣の支払いと引き換えに
モノやサービスが提供される市場経済とは異なり、
ギフトエコノミーでは、お互いの善意と信頼関係が必要です。

ところが、この店では、ギフトに対して直接の見返りを
期待するのではなく、信頼関係のない見知らぬ次の人に
対してギフトを送るという思想、すなわち

「ペイ・イット・フォワード」

が根底にあります。
(映画「ペイフォワード」で描かれた姿)


カーマレストランは07年3月にオープン。
当初、ギフトエコノミーの手法が成功するかどうか
わかりませんでした。

しかし、ふたを開けてみると、
毎週土曜日の開店中に訪れる客は平均70-100人程度。

座席数を考えると、
わずか5時間で約2回転していることになりますね。

売上も常にコストをカバーし、
2倍以上になることもあるそうです。


こうした、客が支払額を決める

「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」

は同店だけでなく、
ユタ州、コロラド州、ワシントン州などにもあり、
増加の兆しを見せているとか。


お互いに助け合うことで成立する共同生活を営む、
社会的動物である人間の「遺伝子」に組み込まれている

「互恵性」

を活かしたギフトエコノミーに基づくビジネスは、
これから面白い発展を見せてくれそうです。


そういえば、イギリスのロックバンド、

「レディオヘッド」

は、昨年末にリリースした最新アルバム

「In Rainbows」

のダウンロード販売で、
購入者が価格を決める方式を採用して話題を
呼びましたね。

これは、カーマレストランの

「ギフトエコノミー」

コンセプトであるとはちょっと違いますが。


レディオヘッドの試みもまた、

「成功した」

と言えそうです。

有料でダウンロードしたユーザーは30-50万人。
平均購入価格は、およそ6ドル(660円)と
推定されており、総売上2-3億円に達します。

メジャーなレコード会社を介さない
ダイレクト販売ですから粗利も大きいでしょう。


*カーマレストランについての出典

「オルタナ」(Feb.2008 No.6)

*オルタナ公式サイト
 http://www.alterna.co.jp/

投稿者 松尾 順 : 04:53 | コメント (2) | トラックバック

国際線の航空運賃が数千円になったら・・・

最近の若者はあまり旅行しなくなったと
言われてますけど・・・

その背景や理由はいろいろあるにせよ、
やはり一番の問題は、旅行料金がまだまだ高いこと
じゃないかと思います。


特に交通費でしょうね。

私もそうでしたが、特に若い頃は、飛行機に乗って
国内なら沖縄や北海道、できれば海外に行ってみたいものです。

ところが、宿泊費についてはピンからキリ、
つまりユースホステルから高級ホテルまで予算に応じて
多くの選択肢がありますが、飛行機については
価格的な選択肢が限られてます。

以前よりもずいぶん安くなったとは言え、
航空運賃で最低でも数万円支払うのは、
若者にとっては結構ハードルが高いと思います。


最近急成長している
マレーシア・クアラルンプール拠点の格安航空会社、

「エアアジア」

では、国際線(マレーシア→バンコク)が最安値で千円台~、
国内線だと100円台~という、バス代並みの驚きの安さを
提供しており、日本への進出も検討中らしいです。


もし、エアアジアが日本に就航し、
海外航空運賃が1万円を大きく下回る数千円代になれば、
もっと若者の旅行者も増えるんじゃないでしょうかね・・・?

投稿者 松尾 順 : 21:26 | コメント (2) | トラックバック

花粉症対策に「じゃばら」

そろそろ、花粉症が気になる時期ですよね。

私は、以前から花粉症には

「養命酒」

が結構効きますよ!ということを何度かお伝えしてますし、
今でも毎日飲んで花粉症シーズンに備えてます。
(ただ、やはり効果には個人差があるようですが)


そして、今年新たに試してみようと思っているのが、
和歌山県の「北山村」だけで生産されているという

「じゃばら」

です。

ちょっと変な名前ですが、かんきつ類の一種です。

「花粉症にじゃばらが効くらしい」ということが、
最近マスコミでも盛んに取り上げられてますので
ご存知の方も多いかと思います。


実は、「北山村」は昨年6月に、
地方自治体初めてのブログポータル

「村ぶろ」

を開設したところです。

私も自分のブログを開設しています。
(このメルマガの本文を転載してるだけですが)


最近はなんとなく、北山村や同村の特産品である
「じゃばら」に対する愛着がわいてきてます。

そこで一度、花粉症持ちの私としては、
じゃばらを試してみたいと思ったわけです。


おそらく私は、ブログポータル開設者の思惑(狙い)通りの
行動をしているものと思われます。(笑)

投稿者 松尾 順 : 13:33 | コメント (0) | トラックバック

「無料」というならホントに無料にしてほしい

これまで5年間ほど弊社で採用してきた

「ふで文字名刺」

がちょうど年末で切れたので再発注したところ、
発注先から、サービスを停止したため

「増刷できません」

という返事が戻ってきました。

「ふで文字名刺」、結構気に入っていたんですけどね。
残念です。


そこで、早速新しい名刺を作成することにしたのですが、

「さて、どこに頼もうかな・・・」

と思った時に某サイトでたまたま目に入ったのが、

「無料お試し名刺」

のバナー広告でした。


やはり

「無料」

という言葉にはパワーがありますね。

早速クリック。

飛び先のWebサイトで台紙のデザインを選び、
名刺の表に表示する会社名や所在地、役職などを入力。

名刺の出来上がりイメージを確認して、
決済ページまでとりあえず進んでみました。


名刺代は確かに「0円」でした。

しかし、次のぺージに進むと

「送料」、そして「プロセス料」

というよくわからない費目が表示されます。


「送料」はまあいいとして、

「プロセス料」って翻訳すれば、

「手数料」

ですよねぇ・・・


この「送料」+「プロセス料」は、
発注から納品日までのリードタイムで値段が違います。

例えば、お試し名刺を250枚作成するとして、
納品日が3週間後だと900円弱、
1週間短い2週間後の納品の場合で約1600円です。


まあ、細かいことはいわずに、
単純に値段だけ見れば大バーゲンセール。
メチャクチャ安い!

とてもいいんですけどね。


でも、結局発注はしませんでした。
なんだか気分がすっきりしなかったからです。


「お試し名刺」は本体分はタダですが、
送料だけは別途ください

ということなら

「無料」

と謳うのも納得します。


しかし、「プロセス料」という手数料が
加算されるのであれば、それはやっぱり

「無料」

じゃないだろうというのが、
エンドユーザーとしての率直な感想ではないでしょうか。


まあ、このようなセールステクニック、
このケースでは、

「ローボールテクニック」
(最初に相手が承諾しやすい提案をして、
 後から別のオプションや費用を追加していく方法。
 一度その気になったら、なかなか途中で止めにくいという
 「一貫性」の心理を突いたものです。)

が使われていますが、
従来からよく行われてきたものですし、
法的、あるいは倫理的に大きな問題があるとは思いません。


しかし、このところの一連の偽装事件の発覚のために
人々が、企業の言動に対して疑り深くなっている昨今、

『影響力の武器』や『亜玖夢博士の経済入門』

で紹介されている、
人間心理の盲点を突いたセールステクニックの利用は
なるべく避けた方が賢明ではないかと思うのですが・・・


ところで、最終的に私が名刺を発注した会社は、
3年ほど前にキャリアカウンセリング用のカードを
作成をお願いしたところでした。


当時から、ずっとこの会社のメールマガジン(週刊)を
受け取っていたのが発注を決めた理由です。

費用的にもそこそこ安かったこともありますが。


もし、メルマガがなければ、
以前利用したことなどすっかり忘れてしまっていて、
おそらくほかの会社に発注していたんじゃないかと思います。

メルマガ発行の最大メリットは、
いざ(ニーズ発生)という時に思い出してもらえるという

「リマインダー効果」

だと、常日頃から私はクライアントにお伝えしてるのですが、
図らずも自分自身の行動が、この主張を裏付けるものとなりました。


『影響力の武器[第二版]』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会翻訳、誠信書房)

『亜玖夢博士の経済入門』
(橘玲著、文藝春秋)

投稿者 松尾 順 : 17:37 | コメント (2) | トラックバック