香る広告

日経ビジネス最新号(2008年3月24日号)には、

「香る広告」

が掲載されてますね。


ブルガリの男性用フレグランス、

『アクア プール オム マリン オードトワレ』

の新発売に当たっての仕掛け。


広告右下の円形のパッケージ写真をペロンと裏返すと、
その下に貼り付けてあるガーゼっぽい紙に浸み込ませた

「アクア」

がほんのり漂ってきます。

クンクン・・・
確かに海の爽やかな香り。


しょせん動物に過ぎない人間、
本能的に匂いを嗅ぎたくなりますね・・・

といいながら、
花粉症で鼻詰まり気味なので、
アクアの香りがよくわかりません。(笑)


「香る広告」

を打つタイミングとしては
あまり適切ではなかったのでは・・・
(だれもが花粉症というわけじゃないですけどね)

投稿者 松尾 順 : 19:43 | コメント (2) | トラックバック

泣き女とラビット

「泣き女」そして「ラビット」

「泣き女」は、葬儀のときに呼ばれる人。

「ラビット」は、
マラソンの「ペースメーカー」の俗称です。

どちらも立派な仕事なんですよね・・・


この2つの間に特に関連性はないんですが、
どちらも興味深い職業として一緒に取り上げます。


まず「泣き女」。

泣き女は、
葬儀の時に嘆きの言葉を上げながら泣き叫んだり、
哀愁いっぱいの歌や踊りを披露することが仕事です。

故人、遺族とのつながりはありません。


昔は日本にも「泣き女」がいたようですが、
今はさすがに聞きませんね。

しかし、中国では今でも風習として残っており、
葬儀会社の従業員として雇われるか、葬儀のたびに
アルバイトとして召集されるそうです。


「泣き女」の年齢は30代~50代。

採用条件がちゃんとあります。

1.まじめそうな外見
2.よく通る声
3.人生経験の豊かさ

さすがに重苦しい葬儀の場ですから、
軽い印象を与える女性は向いていないのも
当然でしょうね。


上記3つの条件のうち、
重要なのは「人生経験」だそうです。

なぜなら、苦い経験を積んだ人ほど
感情表現が豊かだからです。

流す涙にも説得力があるでしょうしね。


1出番当たりの報酬は200元ほど。
日本円で約3千円です。

現地では自転車が買えるほどの値段ですから、
安い金額ではないですね。


「泣き女」としてのプロ意識は高く、
喪服の手入れは怠らず、
亡くなった人の経歴や人柄を叩き込んだ上で
葬儀に臨みます。

高い評判を得ているある「泣き女」は、

「親族並みの尊敬と愛情を持って死者と向き合うのが泣き女」

と語っているそうです。


次に、マラソンの「ペースメーカー」。

俗称「ラビット」と言われるように、
マラソン序盤から中盤30キロくらいまで、
快調なペースで飛ばして先頭を走る人たちです。


彼らの仕事は、
選手同士がけん制しあって全体的にスローペースに
ならないようにすること。

また、一定のペースで走ることで選数の負担を減らし、
風よけの役割も果たします。

まさに「ペースメーカー」ですね。

世界新記録を破るような好タイムを出すためには、
ペースメーカーの存在が不可欠なのが現実です。


彼らの存在は、
日本では最近まで公然の秘密というか、
公式には認められることがありませんでした。

しかし04年のアテネオリンピックの男子選考会で
正式に「認知」されたことで、世間でも知られるように
なってきたというわけです。

先日の東京マラソンでは、
5人のペースメーカーが出走したそうです。


彼らは、普通に走ったら上位入賞も可能な実力の持ち主。

それでもペースメーカーの仕事を選ぶのは、
フルマラソンを走りきって消耗してしまうより、
中盤で切り上げて体力を温存し、数多くのマラソンに
出場したほうが稼げるからです。

ペースメーカーの報酬は明らかにされていませんが、
実績が認められた人になると、1レースで100万円以上
もらえるほどだそうです。


まあ、「仕事」として考えたら、

「マラソンからどれだけの売り上げが見込めるか」

という実利的な判断が行われても仕方がないでしょう。


さて「泣き女」と通称「ラビット」は、
お互い直接的には関係ないとはいえ、
ある場を盛り上げるための作為的な

「演出」

であるという点は同じですよね。


極論すれば、

「さくら」(やらせ)

です。

非難するつもりはまったくありません。

ただ、人間社会において、
こうした仕事が必要とされることが、
そもそも不思議ではありませんか?


ビジネス的な色合いの強いマラソンはともかく、

「葬儀」

になぜ「泣き女」が必要なんでしょうねぇ?


桜の季節に「さくら」の話題を提供させていただきました。


参考にした記事:

日経新聞夕刊(2008.3.3)、および「R25」(2008.3.19)

投稿者 松尾 順 : 09:06 | コメント (0) | トラックバック

2008年米国大統領予備選・民主党両候補のSWOT分析

「SWOT分析」は、

何らかの目標達成に向けての戦略立案に用いられる分析方法

です。


‘SWOT’は、
以下の4つの切り口の頭文字を取ったもの。

S:Strength(強み)
W:Weakness(弱み)
O:Opportunity(機会)
T:Threat(脅威)


SとW、すなわち「強み」と「弱み」は、
当事者(企業または個人)についての特質であり、

「内的要因」

と呼ばれます。

一方、OとT、すなわち「機会」と「脅威」は、
当事者を取り巻く外部環境についての特質です。

「外的要因」

と呼ばれます。


SWOT分析を行う意義は、

戦略立案において考慮すべき、
重要な内外の要因を明確化すること

にあります。


まあ、実際「SWOT分析」をやってみると、

当事者としては既に頭ではわかっていたことを
記述してあるに過ぎない

と感じることが多いのですが、
大事なのは、言語化しておくことで、
未来に向けての方向性を指し示す

「戦略」

の妥当性を検証しやすいこと、また
関係者の納得を引き出しやすいことにあります。


さて、宣伝会議最新号(2008.3.15)では、
2008米国大統領選挙予備選候補である、
民主党のクリントン、オバマ氏、共和党のマケイン氏を
対象としたSWOT分析が行われています。

なかなか面白い分析でしたので、
ここでは、注目度の高い、クリントン、オバマ氏の
SWOT分析の結果のみ引用させていただきたいと
思います。


------------------------------------
★S:強み

(クリントン氏)
・知名度、実績経験、政策通
・民主党基盤層
・党内エスタブリッシュメントとのパイプ
・資金力、組織網、ビル・クリントン

(オバマ氏)
・勢い、新鮮さ、率直、弁舌能力
●若年高学歴高所得層
●外交左派・内政中道
・マイノリティ民主党支持総
・資金力、ネット組織、支持者熱意

------------------------------------

------------------------------------
★W:弱み

(クリントン氏)
・分断政争政治の象徴
・世論の好悪感二分、計算高さ
○父権主義・恩寵主義

(オバマ氏)
・経験不足、政策能力未知数
・党内エスタブリッシュメントと疎遠
○●人種

------------------------------------

------------------------------------
★O:機会

(クリントン氏)
・共和党不人気、民主党に追い風
・世論の内政重視

(オバマ氏)
・共和党不人気、民主党に追い風
・既存政治への不信、変革志向
・無党派層の予備選挙大量参入

------------------------------------

------------------------------------
★T:脅威

(クリントン氏)
・既存政治への不信、変革思考
・無党派層の予備選挙大量参入

(オバマ氏)
・内政緊急課題の山積

------------------------------------


やはり、こうして列挙してみると
両候補者の内外の特質がすっきり理解できますね。

なお、上記の中で示されている

○は、本選挙で「有利」に転化しうる要因
●は、本選挙で「不利」に転化しうる要因

です。


クリントン、オバマ氏のSWOT分析結果を読むことで、
私たちのような傍観者としては、彼らがどのような戦略を
展開してきたのかを考える面白い材料になりますね。


このSWOT分析を行った平林氏の特別寄稿は、
米国予備選において、

「なぜ、オバマ氏は‘変革’という
 ブランドイメージの構築に成功したのか」

という点をマーケティング視点で
的確に解説されています。

一読をお勧めします。


(上記SWOT分析の出所)
弱みを利点に変えたオバマ
米国大統領選挙 予備選挙のマーケティング
(平林紀子氏、埼玉大学 教養学部 教授)
宣伝会議、2008.3.15

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

ネット革命後のダイレクトマーケティング

・eDMでセール品の情報が届く。
・または、紙DMでお勧め商品のカタログが届く。
・あるいは、新聞の折込チラシで特価品が目に入る。


あなたは、こうした情報を見て、
それらの販売対象商品を欲しいと思った。

そして、代金を払えるだけのお金もある・使えるとします。


その場ですぐに発注しますか?

しませんよね。


欲しい商品がその企業からしか買えない場合を除いて、
ほとんどの人はまず、ブラウザーを立ち上げ、
検索エンジンや比較サイト、口コミサイトを活用しながら、

・同一製品でもっと安いところはないか

・類似商品と比較して、欲しい商品のスペック(仕様)は、
 自分のニーズを十分に満たしてくれるか

を十分に吟味するのではないでしょうか。


これは、

「自分にとって最善の取引(購買)をしたい」

という気持ちがベースにあることはもちろんですが、

「主導権」

が企業側ではなく「自分にある」という状態で
自ら情報を収集し、比較検討できることが大きいと
思います。


言うまでもなく、
人は、誰か他人にコントロールされることを
最も嫌います。

このあたりがわかっているトップセールスマンは、
あたかも買い手が自分で決めたかのように感じさせる
セールストークに長けているわけですが。


したがって、従来のように、
ダイレクトメールやチラシ一発で高い反応を狙うのではなく、
より詳細な情報を提供できることに加えて、
消費者主導での比較検討が可能な

「Webサイト」

への誘導を主体にコミュニケーション設計することが

「ダイレクトマーケティングの定石」

になりつつあります。


いわゆる「ネット革命」のBEFORE/AFTERで
ダイレクトマーケティングのロジックが
大きく変化してしまったのです。
(もちろん、従来の手法が通用する商品カテゴリーも
 まだまだありますが)


先日、来日されていた米国のダイレクトマーケティングの
第一人者のひとり、Ron Jacobs(ロン・ジェイコブス)氏は、
私が聴いた講演の中で、現代の消費者心理について
次のようなことを強調されていました。


・私(消費者)は、主権(オウナーシップ)を求める。
 ブランドは、ブランド自身のことではなく、
 自分たち消費者のことを語ってほしい。

・私は選択肢(製品、品質、サービス、価格)を望む。
 そして、選択肢が手に入るところに自ら出向く。

・いつでも、どこでも、どんな方法で売り込んでもらっても良い。
 しかし、その売り込み(コミュニケーション)をどんなタイミング、
 どんなチャネル、どの場所で受け取るかは私が選ぶ。

・そして、可能なら、私が買う気になったときに、
 (企業が)そこにいてくれるといいのだが。


ダイレクトマーケティングの手法は、
本質的には、「プッシュ」なものですよね。


しかし、もはやほとんどの企業は、

「私ども(企業)は、
 こんな製品をこんな条件でご提供できます。
 十分比較検討なさった上で当社製品を選んで
 くださるならうれしいです。」

としか言えません。


こうした消費者主権の時代、「プル」の時代となった今、
ダイレクトマーケティングの理論と実践にも、
大きなパラダイムチェンジが求められているように思います。

投稿者 松尾 順 : 13:21 | コメント (0) | トラックバック

紙DMの逆襲

ネットマーケティング勃興期、
低コストでダイレクトにターゲット顧客に届く

「eメール」

を活用したダイレクトメール(eDM)が
急速に浸透しました。


この結果、紙の資料を郵送などで届ける従来の

「紙DM」

の将来性はとても暗いぞ、と当時は感じたものでした。


ところが現実には、
確かに一時期、「紙DM」は減少したものの
再び盛り返しつつあるようです。


eDMのコストは、1通当たりせいぜい

「数十円(以下)」

といったところです、

ところが、紙DMになると1通当たり

「数百円(以上)」

かかります。


したがって、コスト比では、
紙DMはeDMの数10倍高い。

でも、重要なのは費用対効果ですよね。
顧客からの1反応(資料請求や購入等)当たりコストが
問題です。

つまり、

[総コスト÷反応数=1反応当たりコスト]

が、ターゲット顧客や商材によっては、
「紙DM」の方が「eDM」よりもはるかに
安上がりな場合もあるわけです。


DMを受け取る消費者側にしてみれば、
スパムまみれの「eDM」に辟易しているが故に、
以前よりも「紙DM」の存在感や価値が
相対的に向上しているように感じます。

お手軽な「eDM」に挑発されてモノを買ってしまうほど、
私は安っぽい人間じゃないぜ・・・なんて思ったこと
ありませんか・・・?(笑)

実際には買ってしまうこともありますけど(爆)


逆に、立派な紙DMを手にすれば、
ここまでお金と手間をかけて伝えたいことはなんだろう
と気になってしまう。

なにより貴重な紙資源が使われていることもあって、
無下に捨てるにはしのびないという感覚が強まってる
ように思います。(考えすぎ?)


さて、月刊アイ・エム・プレス最新号(Vol.143,2008.4)では、

「紙DMの逆襲」

と題する特集で、
紙DMの有効性や可能性を再考しています。


この特集のために行われた調査の中で、

「紙DM」と「eDM」を受け取った場合の反応の違い

の対比が面白いです。


まず、紙DM(封書のDM)を受け取った時の対応に
ついての回答。


1 ほとんど開封して目を通す(18.8%)
2 開封した上で興味がなければ処分する(45.5%)
3 封筒を見て開封する決める(29.4%)
4 ほとんど開封せずに処分する(6.4%)


紙DMの開封率(1+2)は、6割以上になります。
以前はどうだったのかという数字がないのですが、
意外に高い開封率だと思いませんか。

ひょっとしたら以前よりも開封率は
向上しているのではないかとも思います。


では、eDMを受け取った時の反応を見てみましょう。


1 ほとんど開封して目を通す(5.0%)
2 開封・閲覧した上で興味がなければ削除する(16.0%)
3 メールの件名を見て開封するか決める(57.6%)
4 メールボックスに放置する(1.0%)
5 すぐに削除する(20.4%)


eDMの開封率(1+2)は、2割に過ぎません。


物理的なモノとして届く「紙DM」と、
メールソフトに電子的に届く「eDM」という
違いがあるとは言え、開封率に3倍の差があるんですね。


また、

「メールの件名を見て開封するか決める」

が6割弱を占めている点にも着目すべきでしょう。


これは、

「だから目を引く件名のつけ方が重要なんだ」

という早合点だけで終わってはいけないと思います。


もちろん、件名のつけ方が
開封率を大きく左右するのは確かです。


しかし、派手な件名の割に本文の内容が
しょぼかったら羊頭狗肉ですよね。

次からの開封率は大きく低下します。


また、これは定期的に届けるeDMである、

「メールマガジン」

に言えることですが、結局のところ
どんなに目を引く件名をつけたところで、
本文が、

商品情報やキャンペーン情報

ばかりだと、
開封率はどんどん低下していきます。


毎回毎回、商品やキャンペーン情報だけを
受け取ってうれしい顧客はいません。


それ以外に、
なんらか読む価値のある内容が
含まれていなければ、

「あ、またこの会社のメルマガか、
 いつもセールス情報だけで内容ないから
 そのまま捨てちゃおう」

となってしまいます。
 

まあ、こうした間違いは「紙DM」でも
起こりえることですけどね。


*月刊アイ・エム・プレス
http://www.im-press.jp/magazine/index.html

投稿者 松尾 順 : 16:53 | コメント (0) | トラックバック

女性の髪形と景気の関係!?

花王が長期間、定期的に実施している

「女性のヘアスタイル調査」

を分析すると、

景気が良い・・・髪の毛が長くなる
景気が悪い・・・髪の毛が短くなる

という関係が見出せるそうです。
(日経産業新聞、2008/02/15)


花王では、1987年から
東京・銀座、大阪・梅田の2箇所の街頭で
女性千人を対象に上記調査を実施。

同調査では、
ヘアスタイルを以下の4種類に分類しています。
(1991年以降)

・ショート(髪の長さはアゴまで)
・ミディアム(肩の鎖骨まで)
・セミロング(わきの下まで)
・ロング(わきの下以下)


この4分類から、

ショート、ミディアムを「短い」、
セミロング、ロングを「長い」

と2分類に括ってみると、

「長短比率」(長い髪の人と短い髪の人の構成比)

が、1997年に初めて逆転したそうです。

つまり、短い髪の人の比率が、
長い髪の人のそれを上回ったということです。

この年の景気は下向き。

山一証券の破綻をはじめとする企業の大型倒産が
相次ぎ、翌98年はマイナス成長に陥ったのです。


バブル期に大流行した

「ワンレン」(ワンレングス・ロングヘア)

は、90年まで20代女性の6割以上を占めていたそうですが、
97年以降は10%に低迷しているそうです。


さて、短い髪に代わって、
長い髪が再び優勢になり始めた年は02年。

02年は、一般庶民にはあまり実感がありませんでしたが、
現在まで続く景気拡大局面が始まった年です。


さて、最近の景気は足踏み状態であり、
今後の景気悪化が懸念されていますよね。

そうすると、女性の髪は短くなるのでしょうか?


花王の担当者によれば、
後頭部で髪をまとめるヘアスタイル

「まとめ髪」

が増えているため、たとえ景気が後退したとしても、

“今後、短い髪が大勢を占めることはない”

と考えているそうですが。


それにしても、
なぜ景気と女性の髪は従来連動していたのでしょうか?

女性の方、どなたか説明してくれませんか?(笑)


まあ、景気と髪との関係には
複雑な要因が絡み合っていると思いますので
簡単に説明はできないでしょうね。


ただ、因果関係がはっきりしないとしても、
こうした物事と物事との間の

「相関関係」

を見い出すことによって未来の予測の精度が増し、
より的確な経営戦略の立案が可能になるのは確かですね。

投稿者 松尾 順 : 13:14 | コメント (4) | トラックバック

スペアボタンはご希望になりますか?

「洋服の青山」の青山商事では、
主力ブランドにつけている

「スペアボタン」

の提供方法を要望に応じて渡す方式に
切り替えるそうです。


スペアボタンって、
スーツを買うと2個くらい無条件でついてきますよね。

でも、ボタンが取れたので、
付け替えるということはほとんどありません。
(飲み屋でよく喧嘩するような人はさておき)


結果的に洋服ダンスの隅に溜まっていく。
(私のスペアボタンもたくさん溜まってます)

でも、ほかに使い道もなく、
最後は捨てるしかないわけです。


それは

「なんとももったいない」

ということで、青山商事では、
希望者だけに渡すということにしました。

もちろん、購入時に受け取らなかった場合でも、
後で必要になった時、連絡すれば郵送してもらえます。


さて、この新しい提供方法ですが
店員の説明ひとつでずいぶん顧客の反応が違うだろうな
と思います。


趣旨をあまり説明しないで、

「スペアボタンはご希望になりますか?
 希望者だけにお渡ししております。」

と聞くだけだと、

「どうせタダだよね。じゃあ、せっかくだから
 もらっておくか」

となってあまり意味がなくなってしまうでしょう。


もちろん、

「使われないボタンを無駄にしないため、
ひいては地球資源保護にも貢献できるから」

いう説明をちゃんとすれば、

「じゃあ、いいや。
 必要になったら連絡すればいいんだしね。」


と答える客が増えると思います。


現場では、意外と本来の趣旨が忘れられてしまい、
実効が出ないことが多いものです・・・

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (3) | トラックバック

オーガスト・ラッシュ(奇跡のシンフォニー)

今年封切り予定のはずのハリウッド製お涙頂戴映画、

「オーガスト・ラッシュ」

の試写を私が観たのは昨年11月でした。

その後すぐに、

早すぎる映画レビュー『August Rush』-オーガスト・ラッシュ-

と題して記事を書き、
このメルマガ&ブログやインサイトナウに掲載したんですが・・・


インサイトナウの記事ランキングを
みていただくとわかりますが、最近、
コンスタントにアクセスがあり、
ずっと上位の位置をキープしてます。


なぜだろうと思っていたら、
ブログへのコメントを見てわかりました。

国際便の機内で観ることのできる映画として、

「オーガスト・ラッシュ」

が流れている航空会社が多いようですね。

海外の行きか帰りの便で観て面白かった。
それで、日本の映画館ではいつから上映するんだろうとか
気になって検索エンジンで調べた結果、
私の記事にたどり着いたと思われます。


日本での配給元は東宝東和社ですが、
現時点ではまだほとんど情報を流していません。
公開日も決まっていない模様。

このため、今「オーガスト・ラッシュ」で検索すると、
結果表示画面の1ページ目の上位には、
あちこちに同時掲載している私の記事が
ほとんど独占に近い状態で表示されるんですよね・・・


さて、この映画、
赤ん坊の頃に両親と離れ離れになった天才音楽少年が、
音楽に導かれて両親と奇跡の対面を果たすという話です。

ストーリー自体は平凡ですし、やや無理な展開もあり、
米国の批評家の評価は散々なもの。

しかし、子役のフレディ・ハイモア君の演技、
そして、映画で流れる楽曲はすばらしく、
ストーリーはあまり重要でない、

「音楽映画」

と捉えれば大いに楽しめる内容です。

日本でもさすがに大ヒットになるとは思えませんが、
スマッシュヒットくらいは狙えるんじゃないでしょうか。

さっさと公開して欲しいんですが、
東宝東和は何してるんだろう!

投稿者 松尾 順 : 17:37 | コメント (4) | トラックバック

「Iメッセージ」なコミュニケーション

「最近、あなたがおいでにならないから、
 私とても寂しいわ・・・」

常連になってた夜の店のママさんやなじみの女性から、
こんな言葉を言われた経験のある諸兄がいらっしゃること
と思います。

私は行きつけの店を作らない人なので、
残念ながら、こんな琴線に触れる言葉をもらった経験が
ありませんが・・・


さて、

「あなたが○○○だから、
 私は○○○な気持ちになってます」

という言い回しは、カウンセリングの世界で

「I(アイ)メッセージ」

と呼ばれます。

相手の何らかの行動に対する、
私(I)の感情を伝えることから
このように言われるわけです。


実は、この「Iメッセージ」、
相手に何かをやって欲しい時に
とても効果的です。

なぜ効果的かというと、ひとつには

「押し付けがましくない」

からですね。

言い換えると「弱い説得法」です。


この「Iメッセージ」の対極にあるのが、

「Youメッセージ」です。

「なぜお店に来てくださらないの!」
「近いうちにまた来てくださいね!」

といった言い回しが「Youメッセージ」。
あなた(You)が主語の言い回し。

こうした直接的な依頼は、
「強い説得法」です。


人は、基本的に相手にコントロールされることを
嫌いますから、強制力がない限りは、
強い説得よりも、むしろ弱い説得の方がじわじわと
効くのです。

また、Iメッセージは、
おそらく、人間が集団生活を円滑に営むために
本能的に埋め込まれている

「人の役に立ちたい」「人を喜ばせたい」

という気持ちをくすぐるから効果が高いのでしょう。
(こんな気持ちが欠如している人もたまにいますけどね)


したがって、職場の上司・部下の関係(あるいは親子関係)
のような、ある程度強制力がある状況においても、

「この仕事やっといて!」

という、Youメッセージよりも、

「この仕事をやってくれると、俺すごく助かるな!」

という「Iメッセージ」のほうが、
いい仕事をやってくれる可能性が高まります。


もちろん、Iメッセージは、
マーケティングコミュニケーションにも
応用可能です。

というか、良好な関係性ができている
既存顧客向けのコミュニケーション
(メルマガやDMなど)ではよく利用されています。


今後、取引先などから自分宛に届いたDMに
Iメッセージが含まれていないか、
また、もし含まれていたら、
そうしたメッセージが自分の心をどれだけ揺り動かすか、
ちょっと考えてみてくださいね。


なお、新規開拓にIメッセージは効きません。

知りもしない企業や人の気持ちを
一方的に伝えられても気持ち悪いだけですから。

投稿者 松尾 順 : 15:32 | コメント (2) | トラックバック

夢の端末・・・進化した紙

ノンフィクション作家、
山根一眞氏は、1980年代末に夢の端末(パソコン)の

「イメージモデル」

をボール紙を切って作ったそうです。


その仕様・特徴は次のようなものでした。

・A4判の厚紙を二つ折りにした薄さ、軽さ

・広げた画面はA3判でカラー表示

・駅の売店や書店前でボタン一つ押すと、
 瞬時に新聞や雑誌、書籍がまるごと無線通信で購入でき、
 通勤電車内で読める

・操作は画面上に指やスタイラスペンで行う

・会議では必要資料が各自に配布され、
 あたかも紙をくるように読み書きができる。

・この紙端末だけで全世界とテレビ会議が可能で、
 映画も視聴可能。


山根氏が作成したこのイメージモデルの
根底にあったのは、人類が長年使ってきた「紙」が
究極のメディアであり、パソコンが目指すべき姿も

「進化した紙」

であるべきという考え方でした。


現時点では究極の薄さを実現した

「MacBook Air」

は、中根氏のイメージモデルの実現が
近いことを予感させますよね。


さて、この確実にやってくる未来で、
確実に窮地に陥るのは

「製紙業界」や「印刷業界」

ですよね。

このような業界の人たちは、
未来の変化に適応する準備ができているでしょうか・・・?

投稿者 松尾 順 : 11:32 | コメント (0) | トラックバック

ブレークスルーのためには「理論」に立ち戻れ!

今回は、新しい何かを開発したり、
創造することに行き詰まったら、

「理論」

に立ち戻ってみると、

「突破口」(ブレークスルー)

が見つかることがあるという話です。


先月(2月)に、山口栄一氏(同志社大学教授)の
著作や講演を元に、イノベーションに関連した記事を
何本か書きました。

その中のひとつ(「研究」と「開発」の違い)では、
タイトルの通り、

「研究」と「開発」

の違いについて解説したのですが、
覚えてらっしゃいますか?


「研究」と「開発」は、
それぞれ次のように言い換えることができます。

研究・・・「知の創造」
開発・・・「知の具現化」


研究、すなわち「知の創造」とは、

・誰も知らないこと
・誰も見たことがないこと

を発見することです。


そして、知の創造のための私たちの取り組み(行動)が

「科学」(科学する)

であり、「科学」によって発見されたことを

「科学的知見」

と呼びます。


一方、こうした科学的知見を集積・統合して、
なんらかの目的に寄与する「製品」を作ることが、
開発、すなわち「知の具現化」です。

そして、知の具現化のための私たちの取り組み(行動)を

「技術」

と呼びます。


実は、この記事について、
ある技術者の方からコメントをもらいました。

その方によれば、
実際の製品開発を進める際に壁にぶち当たったら、
理論的な研究に立ち戻って

「知の創造」

に取り組み、新たな「科学的知見」を得て、
その壁を乗り越えようとすることが多いのだそうです。


なるほど。

ただ、新たな開発のためには、
常に新たな科学的知見が必要とは限りません。

実は、過去に発表された論文の中に眠っている

「既存の知見」

が役に立つことも多いのです。


最新の具体例を示しましょう。


美しい機体を持つ超音速旅客機、

「コンコルド」

は、音速を超えるスピードで飛ぶ際に発生する衝撃波、

「ソニックブーム」

がもたらす問題を解決できなかったため、
結局、2003年に運航を終了することになりました。


ソニックブームがもたらす問題とは、大きくは

・大きな騒音(このため居住地区では超音速飛行ができない)
・大きな空気抵抗(このため燃費が悪い)

の2つでした。


しかし、近年、コンコルドに代わる

「新世代の超音速飛行機」

の研究・開発が進められています。


この飛行機は、上下2枚の翼を持つ複葉機です。

ライト兄弟が世界で最初に飛行に成功した

「ライトフライヤー号」

は複葉機でしたね。

あるいは、宮崎駿監督作品、

『紅の豚』

に登場した戦闘機が複葉機でした。


古臭いイメージのある複葉機と
超音速機の組み合わせはあまりピンときませんよね。


実は、上下2枚の翼があると、
お互いに干渉しあうために衝撃波を発生しないこと、
したがって、

「複葉超音速機」

が原理的、つまり「理論研究的」に可能であることが、

1930年代

に提唱されていたのだそうです。


ただし、この研究は、コンコルドも含めて
これまで実際の飛行機開発に採用されることは
ありませんでした。

しかし、近年、スーパーコンピュータによる
3次元シミュレーションや超音速風洞を使った研究が
進められた結果、

「複葉超音速機」

の有効性が検証されたのだそうです。


現在は、「複葉超音速機」の実用化に向けて
より具体的な問題解決のための研究が行われています。


複葉超音速旅客機が実用化されれば、
現在の旅客機の約半分の飛行時間で目的地に
到着できます。

日本からハワイまでだと、
3時間ちょっとで着いてしまうことになります!


およそ80年前に提唱されていた古い理論が、
最先端の飛行機の飛行原理として採用されるというのは
なんだか面白いですよね。


今回は、開発(実用化)の壁を打ち破るもの=ブレイクスルーは、
既出理論の中に発見できるという話でした。

これは、自然科学だけでなく、
経済、経営、マーケティングなどの社会科学においても
同様のことが言えるんじゃないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 13:49 | コメント (1) | トラックバック

定額制タクシー

商品開発のヒントは、
世の中の人々が明確に、あるいは漠然と感じている、

・不満
・不便
・不安

の中にある。


このことは、元リクルートで、
創刊男と呼ばれた、くらたまなぶ氏はじめ、
多くの方が指摘していますね。


「タクシー」に関していえば、
いまだに様々な

不満、不便、不安

がありますよねぇ。


たとえば、

・運転手のサービス、マナーが良くない

という不満は大きい。


これを解消したのが

「MKタクシー」

でした。


さて最近、

「料金がいくらになるのかわからない」

という「不安」を解消した
タクシー配車サービスが登場しています。
(日経MJ、2008/03/10)


システム開発会社の「トラン」が運営する

「らくらくタクシー」

は、定額制のタクシー利用を実現。


利用者が予約時に出発地と目的地を指定すると、
距離、所要時間などから自動的に料金を算出します。

そして、実際に乗車した際、
例えば渋滞に巻き込まれて想定時間よりも乗車時間が
延びた場合でも、追加料金が発生することはありません。


なお、こうした定額料金によるタクシーサービスは、

「旅行商品」

とみなされるため、
トランは旅行業者と提携して同サービスを
提供しています。


利用者側としては、
深夜帰宅時の利用がメリット大きいようですね。

例えば、横浜アリーナでのコンサート終了後、
深夜3時に配車を予約して帰宅する消費者の場合、
普通にタクシーを拾ってメーターで加算する方式よりも

2-3割

料金が安くなることもあるそうです。


しかし一方で、タクシー会社側としては、
上記のように1乗車当たりの売上は減る場合が多いでしょう。

それでも、1乗車あたりの売上は減ったとしても、
トランのサービスを通じて予約が増えれば、
乗車率が高まると期待できます。


すなわち、客数を増やすことができて、
結果的に総売上は増えるという計算が成り立つことから、
当サービスに参加しているようです。


「らくらくタクシー」は、
タクシーに関連した不安に着目し、
それを軽減、除去できるようなサービスを
発想・実現した新事例ですね。

投稿者 松尾 順 : 16:27 | コメント (4) | トラックバック

2007年日本の広告費とMC戦略の課題

先日、2007年の「日本の広告費」(推定値)が
電通から発表されていますね。


普段はどっぷりとミクロな現場にはまっているせいか、
私自身、なかなかこのようなマクロ的な視点で
自分の属している業界を眺めることがありません。

でも、たまに大枠の数字を振り返っておくのは、
方向性を見失わないために役立ちます。


では、全体感の把握を優先して、
おもいきり丸めた数字で広告費の構成を見てみましょう。


日本の総広告費は約7兆円。

7兆円の構成比は、大きくは
 
・従来のマス媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)と、
 「インターネット」「衛星メディア関連(CATV、BS、CS)」

・プロモーショナルメディア

の2つに分けて考えるのがわかりやすいです。


「プロモーショナルメディア」とは、
具体的には、

・屋外・交通広告
・新聞折込
・DM
・フリーペーパー
・POP(店頭での広告)

などのことを指します。

ブランド認知や理解を主目的とするマス媒体の広告と異なり、
プロモーショナルメディアは、消費者の「購買行動」を
刺激することに重点を置く「販売促進ツール」ということで
分けて考えるわけです。


さて、7兆円の約4割(39.7%)を

「プロモーションメディア」

が占めています。
金額にして約2兆8千億円です。


つまり、残り6割が

「4大マス媒体+インターネット+衛星メディア」

となります。


では、4大マス媒体とインターネット、衛星メディア関連の
それぞれの広告費、および構成比を並べてみます。

・テレビ  約2兆円  約3割(28.5%)
・新聞   約1兆円  1割超(13.5%)
・インターネット 約6千億円 1割弱( 8.6%)
・雑誌 約4千5百億円 約7%( 6.5%)
・ラジオ 約1千7百億円 約2%( 2.4%)
・衛星メディア 約6百億円 約1%( 0.9%)


インターネットの広告費(媒体費+制作費)が、
ついに雑誌を追い抜いていますね。

実は昨年2006年時点ですでに逆転していたのですが!


傾向としては、4大マス媒体はどれも、
近年、広告費の低下が顕著になってきています。

インターネット、そしてより究極の成果(購買)を
求めるプローショナルメディアへの予算配分が増加している
ためです。


ところで先日、
日本マーケティング協会主催のセミナー、

「マーケティングフロンティア2008」(08/03/10)

に出席しました。

当セミナーのオープニングで登壇された
田中洋氏(法政大学教授)は、
上記に挙げた日本の広告費の数字を説明しつつ、
現在の日本企業においては、

「マーケティングコミュニケーション戦略」(MC戦略)

が岐路に立たされているという問題提起をされていました。


この「岐路に立たされている」背景としては、
私もご説明したように、

・インターネット広告の隆盛
・既存マスメディアの相対的後退

に加えて、

・コミュニケーション戦略の困難

を田中氏は指摘されています。

確かに、これだけ多様なメディア・ツールが次々と現れ、
かつ、それらを適切に組みあせること(クロスメディア)
が求められるわけですから、戦略の立案にしろ、
実行にしろ、以前よりもはるかに難易度が高くなっています。


そしてまた、田中氏は、

「MC戦略において何が問題・課題なのか?」

という点が、
関係者間できちんと共有されていないと
考えているそうです。


そこで、今回のお話の中では、田中氏が考える

「MC戦略の課題」

を挙げてくれました。次の通りです。

-----------------------------------------

1 マス広告の効率悪化にどう対処するか

2 インターネット広告をどう活用するか
  -マスメディアとどう連関させるか
  -ウェブサイトをどう位置づけるか

3 プロモーションメディアをどう活用するか
  -OOH(Out of Home広告:屋外・交通広告等のこと)、
   フリーペーパー、DMなど

4 キャンペーンをどうプランニングするか
  -そのための人材をどう確保・育成するか

------------------------------------------


さらに、上記課題の達成のヒントを
田中氏は示してくれています。

------------------------------------------

*メディアの位置づけをはっきりさせる
 -多メディア時代にメディアの役割がハッキリする

*メディアのリンケージによるシナジーを考える

*その業種に特有な効果的メディアを見つける
 -(例えば)消費者金融→テレビ、ネット、ティッシュ(街頭配布)

*キャンペーンプランナーの養成と発見

------------------------------------------


以上のテーマはどれも重い内容を含んでますので、
おいおい取り上げていきます・・・


(ご参考)
日本の広告費の推移がわかるグラフが、
以下のページで閲覧できます。

電通「日本の広告費」 1985年~2007年の時系列データに
よるグラフ(ネットレイティングス社長、萩原雅之さん作成)

投稿者 松尾 順 : 13:23 | コメント (0) | トラックバック

ラジオの復権はあるか?

不肖の息子(小5)が、
このところラジオにはまっています。

朝食を取りながらニュース番組を聴き、
夜は早々と9時に寝たとおもったら、
床の中で、小島よしおや桜塚やっくんのトーク番組に
耳をそばだてている。

文化放送がお気に入りだそうです。

私が子供のころは、
オールナイトニッポンがお気に入りでしたが。

今振り返ってみれば、
たいして過激でもない鶴光の下ネタに
当時の少年たちはずいぶん興奮していたものです。(笑)


さて、愚息にラジオの良さを聞いたら、

「テレビは疲れることがある」

なのだそうです。

もちろん、息子はテレビ番組もいろいろ見てますが、
視聴者を飽きさせないため、数秒ごとに切り替わるショットに、
子供でさえついていけないことがあるのでしょう。

まあそうでなくても、
他のメディアと違い、ラジオは耳だけでOK、
目を使わなくてすみますから

人に優しいメディア

ということが言えますね。


一日中PCの前にいて、
ネットにどっぷり浸かっている私には、
ラジオは

「古臭いメディア」

という思い込みがどうしても強いのですが、
なんの先入観も持たない子供は、ニュートラル(中立的)に
ラジオというメディアの良さを評価できるんですね。


私はふと、

「ラジオの復権はそう遠くないかも!」

という仮説が頭に浮かびました。

この仮説の背景にあるのは、
子供というより高齢者の増加、つまり

「高齢化社会」

です。


お年寄りにとって、
テレビはあまり優しくないメディアだと言えます。

目が弱くなってますから、
めまぐるしい画面を凝視するのは大変です。
ついていけなくて疲れてしまう。
(もちろんそうでない番組もありますが)


一方、ラジオは遠くなった耳でも
なんとか聴けます。

また、往年のオールナイトニッポンの人気DJ(パーソナリティ)、
「カメ」こと、亀渕昭信氏も指摘するように、ラジオは

「パーソナルメディア」

であり、孤独やさびしさを癒してくれます。

単に情報を伝えるというよりも、語りかけてくるような、
あるいはおしゃべりしているような感覚を与えてくれる
メディアですよね。

高齢化社会では、
一人暮らしの人も増えます。

一人暮らしの老人にとって、
画面のあっち側で勝手に大騒ぎしているようなテレビよりも、
耳元で自分だけにささやいてくれるようなラジオは
かけがえのない「友」になる可能性が高くないでしょうか。

すでに、その兆候は、
NHKラジオ「ラジオ深夜便」の人気に見ることが
できるように思います。


今後お金も暇もあるシニア層に、
最も的確に効率的にリーチできるメディアが

「ラジオ」

になるとしたら、ラジオの復権は夢物語ではありませんよね。

投稿者 松尾 順 : 09:44 | コメント (1) | トラックバック

マツムシソウ騒動・・・六合村の花つくり

料理を引き立てるために添えられる、
野山の花や枝葉のことを

「つまもの」

と呼びます。


徳島県・上勝町(かみかつちょう)では、
家の周辺でいくらでも見つかる、
ありふれた存在に過ぎない野山の花・枝葉を

「つまもの」

として商品化し、
高級料亭などに安定供給する仕組みづくりに成功。

これは、「葉っぱビジネス」と呼ばれ、
過疎化が進む地域活性化の好事例として
最近、よく紹介されます。


この例は、あまりにも身近な存在だからこそ、
その価値が当事者はなかなか見えないことが多い
ということを示唆していますよね。

また、たかが・・・と言いたくなる「葉っぱ」も、
用途によっては高い価値を生み出すことができる!

つまり、自分にとっては価値を感じないものでも、
世の中には、金を払ってでも欲しいと思う人が
いるかもしれないということも読み取れますよね。

実は、このような話は
他の地域でも起きていました。


群馬県の六合村(くにむら)は、
総面積の90%以上が山や原野という山間高冷地。

住民の多くは、
近隣の草津温泉への出稼ぎで
生計を立てています。

ただ、出稼ぎに行きたくともいけない
お年寄りもたくさんいました。


そこで、六合村では、
お年寄りが地元で働ける場所を提供すべく、
さまざまな

「地場産業起こし」
(主に、長イモ、キャベツなどの農産物生産)

に取り組みました。

しかし、

・村の耕地はほとんどが傾斜地であるため、
 機械が使えない

・お年寄りなので、手で重いものは運べない

・高冷地なので生産性が低い

・キャベツなら、嬬恋村のようにブランドが
 確立された生産地にはかなわない

といった制約・問題があり、
ことごとく失敗してしまいました。


ところが、ある部外者が、
村人にとってはありふれた存在のものに
隠れた価値を発見するのです。

その人は、
東京・自由が丘で花屋を営んでいた
フラワーデザイナーの中山昇さん。(故人)

中山さんは、
同村を訪れた時、路地などに咲き乱れる

マツムシソウ、ミズヒキソウ、レンゲショウマ

といった山野草に目を奪われました。

中山さんは、
こうした山野草を採取・栽培することが
ビジネスになると気づいたのです。

そこで、中山さんは住民に山野草の栽培を
勧めるのですが、当初、住民の反応は鈍いものでした。

マツムシソウやミズヒキソウは、
馬の餌置き場に咲いているような花。

これが売れると言われても
ピンとこなかったのです。


しかし、試しに

「マツムシソウ」

を東京の市場に出荷してみました。

すると、1本50円程度の相場のところ、
180円の高値で売れたのだそうです。


村では、

「マツムシソウ騒動」

として語り継がれているこの一件を契機に
六合村での山野草の採取・栽培が急速に
広まっていくことになります。

村に暮らす人なら誰でも、
集落から2時間ほど歩いた山中に、
マツムシソウを始めとする多くの草花が
咲いていることを知っていたからです。

花は、野菜と違って
片手で何十本も運べることから、
お年寄りにも最適の仕事でした。

現在、六合村の花つくりの年間売上は
1億5千万円超!

2億円まで伸ばすのが当面の目標です。


*以上は、編集会議(2008.04)に掲載されていた
 編集・ライター養成講座 東京教室 第15期
 卒業制作課題 優秀作品、

「平均年齢65歳で売り上げ1・5億円」
-過疎の山村で生まれた六合(くに)の花つくり
 (取材・文 小柳隼人氏)

を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 06:39 | コメント (0) | トラックバック

「じつは、一枚でいける」って早く言ってよ!

「PASMO」(パスモ)

のサービス開始からまもなく1年。


「パスモ」は、
関東の私鉄や地下鉄、バス会社で購入できるICカードで、
JR東日本・JR東海が販売している

「SUICA」

と相互利用が可能ですね。

つまり、「PASMO」、「SUICA」のどちらか1枚持っていれば、
首都圏では、JR、私鉄、地下鉄、バスどこでも使えます。


って、こんなこと今では常識ですが、
PASOMOが導入された当初、改札で迷いませんでしたか?


私の場合、SUICAを以前から持っていましたが、
PASOMOが導入されてからもしばらくは地下鉄で
SUICAを使えませんでした。


というのも、改札周辺では

「SUICAも使える」

とはどこにも掲示されていなかったからです。

ゲートにも、

「PASOMO」

のマークしか表示されていませんでしたし。

このため、

「確か使えたはずだけどなあ・・・」

と漠然とは思いつつも、
警告音が鳴りゲートがしまって、
後ろの人に迷惑かけるのはいやだからと、
相変わらず地下鉄の切符買ってました。
(駅員さんに聞けばよかったんですけど・・・)


しばらくして、

「じつは、1枚でいける」

というコピーのポスターが作成され、
地下鉄・JRの駅構内に貼られるようになりました。

「PASOMO」「SUICA」の
相互利用が可能なことを伝えるポスターです。


このようなポスターが貼られたということは、
私と同様、

「相互利用できること」

を知らなかった、また実際そうしなかった人が
相当数いたことを物語っていますよね。


事業者側としては、導入前後に
相互利用についてはさまざまなメディアを
通じて周知徹底したつもりだったんでしょうね。

しかし、肝心の現場、
つまりICカードが実際に利用される駅構内で
きちんと知らせることをうっかり怠ってしまったと
いうことではないかと思います。


いかに、人に物事をきちんと伝えること、
理解してもらうこと、行動してもらうことが
難しいかを実感させられます。

投稿者 松尾 順 : 01:52 | コメント (4) | トラックバック

ちくわ笛名人!

「のこぎり」

を楽器として弾く人たちがいるのにも驚きましたが、

「ちくわ」

を笛にして吹く人って信じられます・・・?


ちくわ笛名人の住宅正人(すみたくまさと)氏は
なんとオリジナルの音楽CDまで出しちゃってます!!

住宅氏が開設してるWebサイト「ちくわ笛の世界」では、
何曲か試聴ができるんですね。R25の最新号で知りました。

実際聴いてみました。

愁いのある済んだ音色が素晴らしい!

とてもちくわを吹いているとは思えないです。


住宅氏は、数年前に日経本紙の文化面に登場され、
ちくわ笛についてのうんちくを語っていました。


ちくわ(製品)はピンからキリまでありますが、
安物の魚のすり身を使い、つなぎの小麦粉が多いものは
ちくわ笛の材質として向いてないそうです。

すぐへなへなしてしまって、長持ちしないからです。


やはり、高級魚のタイのすり身を100%使った製品が

「ちくわ笛」

として最高だと書いてあって感心したのを覚えています。


何事もつきつめれば奥が深いものですよね・・・


→ちくわ笛の世界

投稿者 松尾 順 : 13:33 | コメント (1) | トラックバック

Webサイトの分割戦略

多様な分野の製品・サービスを数多く扱っている企業が
Webサイトを開発する際、最初に悩まされるのは、
来訪するユーザーの種類が多岐にわたる点です。


なぜなら、
Webサイトのコンテンツやデザインの方向性を左右する

「ターゲット設定」

が難しくなるからですね。

要するに、

「誰をメインターゲットにサイト開発をすべきか」

で頭を抱えるということです。


標準的なサイト開発プロセスでは、
ターゲット設定にあたり、まずどんな種類の人々、
すなわち

「ユーザータイプ」

がサイトにやってくるかを明らかにします。


例えば、仮の事例として、
ゴルフ、テニスなどのレジャー・スポーツ施設に加えて、
結婚式場、会議場などを擁する大規模リゾートのWebサイト
の場合のユーザータイプを考えてみます。

・一般旅行客(家族中心)
・ゴルフ客
・結婚式を挙げたいカップル
・会議開催を考えている法人客
・旅行会社
・その他取引先
・入社希望者
・マスコミ
・投資家

などが想定されますね。


上記のそれぞれの人たちは、
サイト来訪の目的が異なるのは当然として、
年代も関心・嗜好などもバラバラです。

あるユーザータイプにとって好ましいデザインが、
別のユーザータイプにとっては不快感を与えてしまう
可能性もあります。


例えば、結婚式を控えたウキウキ気分のカップル向けに
明るい軽めのデザインを施したとします。

すると、ビジネスモードで訪れた法人客は、
このリゾート施設の会議場を利用すべきかどうか、
ちょっとためらってしまうかも知れません。

もちろん、各ユーザータイプ向けコンテンツのカテゴリー
ごとにデザインのトーン&マナーをチューニングすること
でこうした問題を回避するわけですが。

ただ、全体の統一感を維持する必要がありますから、
どうしてもデザイン上の制約が発生しますね。

また、目的のコンテンツも
ユーザータイプごとに大きく異なるにも関わらず、
ひとつのサイトに統合しようとすると、
多くの場合、情報構成に無理が生じやすいものです。


そこで、ユーザータイプが多岐にわたる場合は、
ひとつの解決策として、ユーザータイプごとに異なる
独立したサイトを立ち上げるのも手です。


最近の具体例として、「明治乳業」があります。

同社では、リニューアルに当たって、
各種リサーチ、ログ解析を通じた効果測定を行ったそうです。

その結果、消費者の約9割が
商品・キャンペーン情報しか閲覧していないこと
がわかりました。

(PRIR、2008 APRIL)

逆に言えば、同じサイト内にあった

「明治乳業」

という企業自体についての各種情報は
ほとんど見られていなかったということです。

食品を扱うメーカーとしては、
企業の姿勢や活動を紹介することを通じて、
企業や商品に対する安心感・信頼感を醸成したかった。

ところが、そのためのコンテンツが
十分に活かされていなかったことになります。


この原因のひとつが、
ユーザーのターゲットを絞りきれていなかった
ことだそうです。

さまざま情報がウェブサイト内に乱立し、
情報が複雑に入り組んでしまい、
消費者に見てほしい情報が伝わりにくく
なっていました。


そこで同社では、
サイトリニューアルに当たって、
まず、会社としてのウェブサイトの位置づけを
明確化。

そして、

・どんな目的で、
・誰を相手に
・どんなコミュニケーションを図っていくか

を整理しました。

そうしてたどり着いた結論が、

・ターゲット
・機能
・役割

によってサイトを分割することだったそうです。


結局、リニューアル後の同社のサイトは、

・商品情報サイト( www.meinyu.jp )
・企業情報サイト( www.meinu.co.jp )

の独立した2つのサイトに分割されて
運営されています。

ちなみに、「商品情報サイト」は、
消費者をメインターゲットとにしたコンテンツ、
一方、「企業情報サイト」は、ビジネスパーソン、
投資家を対象としたコンテンツをメインに揃えています。


大手企業の中には、

・ターゲット
・機能
・役割

の違いに応じて、
多数のサイトを同時並行的に立ち上げ、
自在に運用しているところも増えてきました。

しかし、その域まで達している企業は
まだまだ少数派でしょう。


コミュニケーションツールとしての

「Webサイト」

をどう使いこなすかについては、
まだまだ様々なトライアルが必要な時期かなと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (2) | トラックバック

小売店の実売品が無料でもらえるサンプリング

「サンプル」(試供品)を
狙ったターゲットに的確に配りたい企業と、
サンプルを使ってみたい消費者を結びつけるネットビジネスが

「サンプル百貨店」

です。


以前、同社のビジネスモデルについてはご紹介しましたね。

*サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(1)
*サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(2)


サンプルをもらいたい人は、
サンプル百貨店の登録会員(無料)になる必要があります。

現在約30万人の登録会員がいて、
そのほとんどが女性。

男性は少ないようですが、
私もずいぶん前から会員になってます。

マーケターたるもの、
何事も自分で試してみなくては・・・


さて先日、サンプル百貨店にて、
サントリーの新商品、

「糖質0」の発泡酒、『ゼロナマ』

の無料お試しキャンペーンをやっていたので
早速応募しました。

数万本規模のサンプリングキャンペーン。
先着順だったので難なくゲット!


通常、こうやって応募したサンプルは
宅配便などで送られてくるのが普通ですよね。


でも、このキャンペーンでは、
サンプル百貨店が開発した面白い仕組みが
採用されています。

具体的には、

「サンプル無料引換券」

付きのハガキが応募者に送られてきます。

そして、提携コンビニ(今回はサークルKサンクス)の
レジでこの引換券を出せば、

『ゼロナマ』

が1本無料でもらえるというもの。


この仕組み、

・企業→サンプルの送付代が節約できる
 (サンプリングコスト削減)

・消費者→小売店の実売品がタダでもらえるという快感がある
 (無料サンプル入手+得した感)

・小売店→サンプル引き換えにきた消費者の集客・ついで買い
 が狙える(集客・客単価アップ)

と、関係者全員がうれしい。
WIN-WIN-WINというわけです!

実際、私もサンクスで「ゼロナマ」をもらう時、
つまみも欲しくて「枝豆」を買ってしまいました・・・


こうして説明すると、

「ああ、なんだ、そんなことかい!」

と思うかもしれません。
コロンブスの卵的アイディアですよね。


しかし、仮に思いつくのは簡単だったとしても、
仕組みを実現するのは容易じゃありません。

全国に店舗展開している
大手小売チェーンとの提携が前提となるからです。

何事につけ新しい取り組みには及び腰になりがちな
日本の会社との交渉は、当初はあまり楽じゃなかったようです。

投稿者 松尾 順 : 11:57 | コメント (0) | トラックバック

愛されないかもしれないマスコット・キャラクター

平城京ができたのは西暦何年でしょう?

710年です。

学生の頃、

「なんと綺麗な平城京」「納豆食べて平城京」

といった語呂合わせで覚えましたよね。


さて、2年後の2010年は、
平城京誕生1300年を迎えるということで、

「平城遷都1300年祭」

の開催が計画されています。

「平城宮跡」を主会場に、奈良、関西各県で
さまざまな展示、イベントが行われる予定です。

事業規模は約100億円。


この平城遷都1300年祭に関連して、
このところ物議をかもしていることがあります。

それは、当事業のシンボル的存在となる

「マスコットキャラクター」

です。現在名称募集中!


まあとりあえず、ちょっと彼の姿を見てあげてください!
http://www.1300.jp/mascot.html


第一印象はいかがでしょう?

かわいい? かわいくない?


コンセプトシートを読むと、

奈良の守り神である「鹿」の角を生やした
「童子」のようないでたち

とありますね。


このキャラクターについて、
地元奈良では、

「かわいくない」

という批判が相次いでおり、
白紙撤回を求める署名運動が始まっているそうです。
(毎日新聞、2008/03/02)


元吉本興業常務で、
フリープロデューサーの木村政雄氏は、

「こんな写実的なデザインがなぜ選ばれたか理解に苦しむ」

とコメントしてます。

実際、愛嬌がないわけではないけれど、
ちょっとリアルすぎますかね・・・


愛されるキャラクターにはある程度共通点があります。

それは、「赤ちゃん」、もしくは
「動物」(特に動物の子供)を連想させるものです。

具体的な特徴としては、

・頭が大きい(全体的なバランスで見て)
・目が大きい
・丸顔
・2頭身などずんぐりむっくり

などがあります。

愛知万博のマスコットキャラクター、
森の精「モリゾー」「キッコロ」はこれらの条件を
満たしていました。

http://www.expo2005.or.jp/jp/A0/A1/A1.10/index.html


一方、平城遷都のキャラクターは、
これらの条件にほとんど当てはまってないですね。

残念ながら、
あまり愛着の持てるキャラクターには
なりえないことがわかります。

かわいそうですね。彼は何も悪くないのに!


さて、彼の行く末はどうなるのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 07:29 | コメント (4) | トラックバック

調査のウソを見抜くには?

今日も、昨日に続いて、
調査結果の解釈についての話です。


調査結果の解釈において、
留意しなければならないのは、

「アンケート」や「グループインタビュー」(グルイン)

などの一般的な調査手法は、
調査対象者の意識的・積極的な協力を得て
行われているという点です。


対象者の行動をありのまま把握する

「観察調査」

ならさほど問題はありません。

しかし、アンケートやグルインのような調査手法では、
調査結果が

「真実」

を必ずしも反映していない可能性があります。


以前ご紹介しましたが、
無料情報誌「R25」の開発に当たって、
若手ビジネスパーソン対象のグルインをやったら、
全員が「日経新聞」を読んでいると答えた。

そんなことがあるだろうかといぶかった藤井編集長が、
事前アンケートで「日経を読んでいない」と回答した層を
グルインに呼んで、

「日経読んでますよね?」

と聞いたら、やはり皆うなずいたそうなのです。


彼らは、意識的にウソをついたわけではないのでしょう。

そもそも、

「ビジネスパーソンなら日経くらい読んでいるべき」

という意識があった。

それで、他の調査協力者がいる前では、

「日経をちゃんと読みこなしてる理想の自分」

のつもりで、ついつい「読んでいる」と答えてしまった。

要するに「見栄を張った」ということですけど。


このように、調査結果には、真実とは異なる

「調査のウソ」

が隠れていることがあると言うわけです。


さて別の事例。

エステーのヒット商品「消臭ポット」

のテレビCM、

「支店長ズ」

はご存知ですよね。

本物の同社支店長が出演して
奇妙な振り付けの踊りを披露するこのCMは
ずいぶん話題を集めました。


実は、事前調査(クリエイティブテスト)では、
あのCMは一番人気ではなかったそうです。

(宣伝会議、2008.3.1)

しかし、エステーでは、
一番人気のCMを流すことをしませんでした。


エステーの宣伝部長、鹿毛康司氏によれば、
クリエイティブテストが行われている現場に足を運び、
調査協力者の様子を観察したところ、
8割の人は前のめりになり、緊張した面持ちで
CMが流される画面を凝視していたそうです。

そして、残りの2割の人は、
友達と一緒に談笑しながら画面を見ていました。


鹿毛氏が採用したCMは、
この残りの2割の人たちに評判が良かったものでした。

普段の生活で、
前のめりになってテレビを凝視する人は
まずいませんよね。

ゆったりとリラックスした姿勢で見る人が
ほとんどでしょう。

そんな自然な状況に近い2割の人に受けた

「支店長ズ」

のCMをエステーでは採用したというわけです。


鹿毛氏は、

「調査現場に来ない人は、
 調査分析についての発言権なし」

というルールを決めているそうです。


上記のCMのクリエイティブテストの話は、
調査現場に立会い、調査協力者の様子を見たからこそ
的確な判断ができるということを示してますよね。

調査結果が記述されたレポートを見ただけでは
絶対にできない判断です。


調査のウソを見抜くコツは、
なによりもまず現場に立ち会うこと。

そして、回答内容だけでなく、
回答者の姿勢や表情も同時に情報として取り入れることが
調査結果の的確な解釈には不可欠だと言えます。


*関連記事
『人は無意識にウソをつく』

投稿者 松尾 順 : 09:24 | コメント (1) | トラックバック

調査の付加価値とリサーチャーに求められること

「分析」

という言葉に含まれる2つの漢字、

「分」

および

「析」

はどちらも、物事を分けるという意味があります。


したがって、

「物事を分析する」

と言う時、それは、
物事をさまざまな視点で切り、
2つ3つ、あるいはそれ以上に細かく分けていくことで、
物事の成り立ち(構成)や仕組みを知ろうとすることです。


「分析」をどうやるのかについては、

「顧客満足度アンケート」

などの調査結果がどのように集計・分析されるのかを
考えてもらえばわかりやすいでしょう。


たとえば、製品の機能についての満足度調査データは、
まず回答者全体で

・満足している-----68%
・満足していない---32%

といったように2つに‘分けて’みます。
すると、機能についてのユーザー評価が端的にわかりますね。

これは単純集計です。
(単純すぎるので「分析」とは通常呼びません)


次いで、この評価を

「男性・女性」

の性別で重ねて切ってみる。
こうして重ねて切っていく方法を

「クロス集計」(クロス分析)

と呼びます。

すると回答結果が4分割され、
男女別のより精緻な満足度の把握が可能になります。


さらに、

・年齢別で切ってみる
・職業別で切ってみる

など、さまざまな分析を行って、
満足度調査の結果データを多面的に分けていきます。

これが分析の実際。
(上記の説明は初歩的なものですが)


さて、私は以前から繰り返し書いてきていますが、

「分析結果」

を出しただけではあまり価値がありません。

もちろん、数字そのものが伝えてくれることに
大きな価値がある場合も、たまにあります。


ただ、長年調査の仕事をやってきた経験からは、
分析結果の数字を見るだけでは、
実務の役には立たないという実感を持っています。


多くの場合、
その数字の意味することは何なのか?という

「解釈」

まで深く踏み込んでいかないと駄目なんですよね。

そうでないと、

「使えない調査」

の烙印を押されてしまいます。


日産自動車の執行役員市場情報室長、
星野朝子氏もまた、単なる調査(分析)結果を示すだけでは
調査をやる価値・意義は高くないないと考えているようです。


星野氏率いる市場情報室では、
日産の様々な部署から依頼された調査案件に対し、
内部で実行した場合、あるいは調査会社に外注した場合の
どちらにおいても、

「調査結果には付加価値をつけて依頼主の部署に報告する」

のだそうです。
(日経情報ストラテジー、APRIL 2008)

ここでの「付加価値」とは、
統計学や心理学、マーケティング理論などを
駆使して提示する、調査結果の解釈の仕方のことです。


ということは、
調査結果に対して優れた付加価値を与えることが
できるために、

調査担当者(リサーチャー)に求められること

がはっきりします。


それは、調査に直接関係した知識やノウハウだけでなく、
人の心の基本的傾向やルールを理論化・体系化した

「心理学」

や、調査結果の応用先となるビジネス活動に関わる
基本ルールである

「マーケティング理論」

についての知識を深めていく必要があるということです。


ちなみに顧客・生活者についての調査結果を
深く解釈したものが、いわゆる

「カスタマーインサイト」(顧客洞察)

です。


調査の付加価値として、

「カスタマーインサイト」

を提示することができたら、
リサーチャーとしては最高ランクの腕を持っていると
評価されるでしょうね。


実は、調査における「解釈」の重要性は、
既存のリサーチ解説本ではあまり触れられていません。
(ノウハウとして伝えるのは難しいからでしょう・・・)

しかし、一流のリサーチャーを目指す方は、
ぜひ「解釈」の重要性を認識し、

心理学やマーケティング理論

など、リサーチに関連した周辺の知識を蓄えることを
お勧めします。

投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (0) | トラックバック