ソニーの遺伝子はまだ残っているのか?

今年2008年は、
ソニー創業者である

井深大氏

の生誕100年だそうですね。


先日、井深氏の直接の薫陶を受けた元ソニー上席常務、
天外伺朗氏のご講演を聴く機会がありました。

天外氏のお話は、
さすがソニーが誇る奇人変人のお1人だけに
ぶっ飛んだ内容でした。(内容のご紹介はまたの機会に)


面白かったのは、講演後の質疑応答の時間です。

聴衆の1人が、

「わが社は大変な状況になっているのですが、
 いったいどうしたらいいでしょうか?」

と質問したのに対し、天外氏が、

「あなたの勤めている会社はどちらですか?」

と質したところ、
最初は社名を出すのは差支えがあるといいつつも、

「実はソニーです・・・」

と答えたので、
会場が大いに沸いたというわけです。


ただ、現ソニー社員の質問に対する
天外氏の回答は率直でした。

「もはや図体がでかくなってしまったソニーは
 一朝一夕では変わらない。良くなるまでには
 まだ時間がかかりますよ」

といったみもふたもないもの。


天外氏は、2000年代前半に起きた

「ソニーショック」

を役員として経験されているだけに、
実感のこもったお答えではありました。


ソニーの直近(2008年3月期)の業績は、
純利益で過去最高を更新しており、
私たちが世界に誇れるスーパーブランド

「ソニー」

が復活しつつあるのは確かでしょう。
しかし、現場の状況はまだまだ厳しいようです。


さて、ソニーの近年の凋落の要因は、
天外氏も指摘しているように、
組織が大きくなったための

「大企業病」

に罹ってしまったためです。

ベンチャー精神あふれる革新的な企業であった
ソニーでさえ、組織が肥大化するにつれて陥ってしまう
様々な罠から逃れることができなかったのです。

元ソニーの横田宏信氏は最近出た著書の

『ソニーをダメにした「普通」という病』

で、ソニーは

「普通」という病(普通病)

に蝕まれてしまったことを具体的な

「症例」

を挙げながら解説しています。

なお、「普通病」とは、
端的には、大企業の多くが陥りがちな

「悪しき企業文化」

と解釈すればいいようです。


例えば、

・「会社のため」とを振りかざした内輪の論理が
 まかり通るようになったこと

・「そんなの聞いてない」とダダをこねる社員が
 増えたこと

・自分たちの技術で何ができるかという「機能価値」を
 優先しがちで、ユーザーがどう楽しめるかといった
 「使用価値」を軽視していること

・以前は、部門間の壁が低いカオス的な組織であったのに、
 今や縦割りのサイロ型になってしまったこと

・ソニー流よりも米国流を信奉する、いわゆる
 「米国かぶれ」の傾向が強まったこと

・優等生が増えて、奇人変人の居場所が
 なくなってしまったこと

など、大企業でよく聴く現象が、
ソニーにも起きているのだそうです。


ただ同時に、横田氏は

「ソニーの遺伝子」、

言い替えると

「ソニースピリット」

がまだ個人や組織の中に残っていることも指摘し、
ソニー復活の可能性を捨ててはいません。


ところで、「ソニーの遺伝子」って
どんな特質を持っているんでしょうね。

そのまんまの書名がつけられた

『ソニーの遺伝子』

という本を読む限りでは特に、

・部門の壁を越えチームが一体となって
 ゴールに突き進む「燃える集団」となれること

・奇人変人を許容する懐の広さがあったこと

の2点があるんじゃないかと思います。


ただ、こうしたカオス的状態の組織を
マネジメントするのは容易ではありません。

そこを実にうまくやっていたのが、

井深大氏

だったのです。

しかし、井深氏のマネジメントスタイルを
後の歴代社長は継承することができなかったと
天外氏は考えています。


なぜ継承できなかったのでしょうか?

天外氏によれば、

井深氏はどのようなマネジメントを行っているのか

について誰もわかっていなかった(理解できなかった)
からです。


ソニーに40年以上勤め、
井深氏を身近で最もよく知る天外氏でさえ、
彼のマネジメントスタイルの本質がわかってきたのは、
ほんの数年前のことだったそうです。


横田氏の本の中に、
横田氏自身が経験した井深氏のマネジメントスタイルが
うかがえるエピソードが書かれています。

横田氏が英国赴任前のある日、
デスクのかたわらに人影を感じて顔を上げると、
井深氏がいました。

井深氏はよく社内を一人でぶらぶらしていることを
横田氏も知っていましたが、まさか自分のところに
立ち寄るとは思ってもいなかったようです。


井深氏が横田氏に掛けた言葉はただ一つだけでした。

「仕事、楽しいですか?」

<参考文献>
『ソニーをダメにした「普通」という病』
(横田宏信著、ゴマブックス)

『ソニーの遺伝子』
(勝見明著、日本経済新聞社)

投稿者 松尾 順 : 2008年05月22日 21:31

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コメント

ソニーの遺伝子は「大賀さん」で終わり。
と元ソニーで各国の現地ソニーの社長を歴任した方が言っていました。

そのひと、今、ベンチャー立ち上げて頑張ってます。
MFOオヤジです。

投稿者 しがっち : 2008年05月24日 07:00

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