小売店の競争マイオピア

小売店の「業態別」の成長(成熟)度合いを把握するため、

「製品ライフサイクル」

に当てはめてみます。


成長初期にあるのは「ネット通販」ですね。

一方、加速成長の時期にあるのが、
ユニクロ、無印良品、ヤマダ電機などの「大型専門店」です。

「コンビニエンスストア」は成熟期に入ってますね。


そして、成熟期から衰退期へと移りつつあるのが、

イトーヨーカー堂、ジャスコ、ダイエー

などの「総合量販店(総合スーパー」(GMS)。

「百貨店」や「中小商店」は衰退期です。


さて、今回は、「小売の雄」と言われたダイエーが
破綻したことに象徴されますが、消費者の支持が著しく低下し、
厳しい経営状況に追い込まれている

「総合量販店」

に焦点を当てます。


私自身、時々、自宅近くのダイエーやイトーヨーカー堂に
行きますが、テナントとして入っているファッションブランド
はさておき、品揃えにほとんど違いを感じません。

つまり、どの総合量販店も変わり映えがしないため、
あえて特定の店舗を選ぶ理由がほとんど見つからないですよね。
(距離的に近い以外は)

ただ、一時期、イトーヨーカ堂グループに在籍されていた
元伊勢丹バイヤーの藤巻幸夫氏によれば、同店の衣料品の品質
は価格的みて非常に優れているとおっしゃっていましたが。


総合量販店の品揃えが似通ってしまうのはなぜでしょうか?

それは、商圏内の競合他店との競争において、
違いを出そうとするのではなく、逆にお互いに模倣しあう結果
であるという研究があります。


なぜ模倣しあうのでしょうか?

それは、商圏内の消費者の衣食住にわたる幅広いニーズに、
大量仕入れで販売価格を引き下げ、大量販売を狙う総合量販店
としては、そうするしかないからです。


つまり、ひとりでも多くの消費者に商品を買っていただくためには、
あまりとんがった個性的な商品を並べるわけにはいきません。

どうしても、無難で平均的な品揃えになってしまうのです。

また、他店で売れ筋の商品があれば、
それを黙って指をくわえて見ているわけにはいきません。

消費者にも、

「あの店には置いてあったのに、
 どうしておたくには置いてないの?」

と言われてしまいますしね。

そこで、同じ、または類似商品を仕入れざるを得ない。


こうして、商圏内の同じ消費者を奪い合っているはずなのに、
競合店舗と差別化しようとするのではなく、逆にどんどん

「同質化」

していくということが起きるのですね。

田村正紀氏(同志社大学教授)は、この現象を

「競争マイオピア」

と読んでいます。
(マイオピアとは近視眼的行動の意味)


この同質化現象は「ゲーム理論」でも説明できるようです。

詳細な解説は末尾に示した参考記事をご覧いただきたいのですが、

「相手プレーヤーの戦略が変わらない時に、
 自分1人だけ戦略を変えても利得が増えないような状態」

と言える

「ナッシュ均衡」

をどの店舗も選んでしまうために同質化が起きるのです。


総合量販店は、前述したように、
基本的に商圏内の「最大公約数的ニーズ」に対応する
店づくりを目指しています。

端的に言えば、大量に売れそうな商品しか置かない。

ここで、ある店が差別化のために、
あえてユニークな商品を入れたらどうなるかというと、
好き嫌いが明確に分かれる商品ですから、
たくさんは売れませんし、競合店に客が流れてしまい、
売上が低下するのは明らかです。

したがって、お互いナッシュ均衡を選ぶしかないというわけ。


なお、このゲーム理論による説明は、
覇権を狙う大手政党(米国における共和党と民主党、
日本における自民党と民主党)の政策がどんどん
似通ってくることにも適用されています。


選挙で少しでも多くの支持者を得ようと思ったら、
過激な政策ではダメ。

むしろ、多くの支持者が拒否反応を示さないような、
中庸で無難な政策をお互い打ち出すしかないですし、
また競合政党の政策の中で支持率の高いものがあれば、
やはり競争上、類似の政策を掲げて支持率を高める行動を
取るしかないからですね。


*総合量販店の同質化についての研究

 「GMS激突競争における競争マイオピア」
  (田村正紀氏、同志社大学教授、)

*ゲーム理論による店舗同質化についての参考記事

 「経済学で斬るビジネス潮流 ゲーム理論」
 (文:広野彩子氏、監修:安田洋祐氏、政策研究大学院大学助教授)
  日経ビジネス マネジメント、Summer 2008

投稿者 松尾 順 : 2008年06月25日 12:48

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コメント

まつおっちさん
まいどっ!
またまた、勉強になりました。
「マイオピア」ですね。ふむふむ。

投稿者 しがっち : 2008年06月26日 12:15

しがっちさん、まいど!

短期的な利益を重視しすぎてしまうと
長期的にはうまく行かないことって、
どんなことにも起きますよね。

投稿者 松尾 順 : 2008年06月26日 12:28

まつおっちさん
「短期的な利益を重視しすぎてしまうと
長期的にはうまく行かないことって、
どんなことにも起きますよね。」

まさに、その矛盾をマネジメントして「なんとか」うまくやる!」のがマネジャーである。
と神戸大学の加護野先生は言っていらっしゃいます。

投稿者 しがっち : 2008年06月29日 08:02

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