京都花街の経営学(3)芸舞妓さんのキャリア後編

先日、地上波で放映された映画

『さくらん』(土屋アンナ主演)

の舞台は「吉原遊郭」でした。

体を売る「娼妓」(遊女、女郎)さんの世界。


しかし、「芸」は売っても
「体」は売らないのが芸舞妓さんです。


芸舞妓さんは、裾の長い着物を着るため、
屋外などすそを引きずれないところでは
左手で「褄(つま)」(着物の衿下の部分)を
持って歩きます。

これを「左褄」(ひだりつま)と呼びます。

ですから、「左褄をとる」ことは、
芸妓さんになることを意味するのだそうです。


一方、花魁(おいらん)などの遊女は、
右手で「褄」をとります。

右手で褄をとるということは、
着物の合わせ目、長じゅばんのどちらの合わせ目も
右側に来るため、男性の手が裾に入りやすくなります。
(へーそうなんですか)

しかし、左手で褄をとる芸舞妓さんの場合、
着物と長じゅばんで合わせ目が反対なるため、
男性の手が入りにくくなります。
(なるほどねぇ・・・)


つまり、芸舞妓さんが「左褄をとる」ことは、
上述の「体は売らない」という気もちを表している
のだそうです。


また、『さくらん』の主人公、きよ葉は、
8歳の時、吉原に身売りされてやってきます。

同様に、以前は、家庭の困窮などの理由で、
10歳かそこらで置屋に身売りされ、
強制的に舞妓さんにさせられてしまう女性もいました。


しかし現在は、前回ご説明したように、
中卒以降の女性が、自らの意思で舞妓になることを
決めて花街にやってきます。

それでも、置屋に住み込んでの「徒弟制度的」な
修行の毎日は、現代女性にとっては順応するのが
なかなか大変なこと。

そこで、置屋のお母さんや、先輩の芸舞妓さんだけ
でなく、花街全体で新人舞妓さんをバックアップ
するのです。


さて、舞妓さんの基本技能は、言うまでもなく

「日本舞踊」

ですから、花街にやってきた舞妓さん見習い
(正式には「仕込みさん」と呼ばれます)にとって
日本舞踊の勉強は必須科目です。


花街には日本舞踊を始め、長唄、小唄といった邦楽の唄、
三味線・鐘・太鼓・鼓・笛などの邦楽器の演奏を
教えてくれる学校があります。

芸舞妓さんのための学校は

「女紅場」(にょこうば)

と呼ばれています。

京都の花街には、
「女紅場」は全部で3つあるそうです。

舞妓さんを目指す女性は、
置屋のお母さんからも稽古をつけてもらいますが、
まずは学校に入学して日本舞踊を学び始めるのです。


私がすごいなと思うのは、芸舞妓の仕事をやっている限り、
すべての芸舞妓さんはこの学校に在籍し、学び続けるという点です。

つまり、芸舞妓さんの学校に「卒業」はないのです。

「もてなしのプロ」

としての高い評価を向上・維持することができるよう、
花街には、現役でいる限りは自分の技能を磨き続けること
のできる仕組みが内包されているというわけですね。


女紅場での「学び方」も、とても興味深いです。

前述したように、
芸舞妓でいる限りこの学校に通い続けるため、
女紅場では、経験の浅い舞妓さんから、
ベテランの芸妓さんまで皆が一緒に稽古します。


稽古の日、新人さんは朝早くに女紅場に行き、
いろいろと準備をしなければなりません。

その後、先輩から順番に稽古をつけてもらう間、
新人さんは、その稽古の様子をじっと見るのです。

「他の人の稽古を見ることも大事なお稽古」

と言われており、日本舞踊なら、先輩の手や足の動き、
またお師匠さんがどんな振りをつけ、どのように先輩を
指導するのかをしっかり見て学ぶことが奨励されている
のだそうです。


夕学五十講 西尾久美子氏講演(08/06/16) 受講生レポート

『京都花街の経営学』
(西尾久美子著、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 2008年07月03日 15:23

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