京都花街の経営学(4)芸舞妓さんの評価システム

お茶屋で芸舞妓さんたちを呼び、
彼女たちの舞踏を鑑賞したり、小唄、長唄を楽しむことを

「お茶屋遊び」

と呼びますが、
そもそも費用はどのくらいかかるものでしょうか?


当然ながら、費用は、顧客が希望するサービスの内容に
よって大きく変動しますし、明確な価格表は存在しませんので、
一概に言えないのですが、

『京都 舞妓と芸妓の奥座敷』
(相原恭子著、文春新書)

によれば、

午後6時~8時の2時間、
舞妓1人、芸妓1人を呼んで夕食、飲み物込み

として、お客さん3人の場合で一人当たり48,000円、
5人になると同38,000円だそうです。


また、レストランなどでの食事後の2次会として、
午後9時ごろにお茶屋に行き、食事抜きで楽しむことも
できます。(「後口」と言います)

この場合は、

午後9時~11時の2時間、
舞妓1人、芸妓1人を呼んでおつまみ、飲み物込み

で、お客さん3人で一人当たり35,000円、
5人では25,000円となります。

以上はあくまで目安ということですし、
7年前の本に記載されているので、
直近では多少高くなっているかもしれません。

まあ、確かに「お茶屋遊び」は贅沢な娯楽ではありますが、
多人数で行けば、1人当たりの金額は目の玉が飛び出るほど・・・
というほどではありませんね。


さて、お茶遊びのメインキャストである
芸舞妓さんに対して支払われる代金のことを

「花代」

と呼びます。


「花代」は、

芸舞妓さんの拘束時間(移動時間含む)x 時間単価

で計算されます。

つまり、稼働時間が多くなればなるほど、
芸舞妓さんの1人あたりの売上げが増加するという
シンプルな仕組み。


実は、芸舞妓さんの最終的な評価は、
この花代の金額の大小に応じて行われています。


毎年、正月明け、芸舞妓さんたちが所属している
学校(女紅場)では始業式が行われます。

この始業式では、新年を祝う舞や邦楽が披露されることに
加えて、前年度の売上成績上位者が表彰されるのです。

この表彰は、

「売花奨励賞」

などと呼ばれているそうですが、
文字通り、前年度の花代合計金額に基づいて、
上位からのランキングが公表されます。


新人の舞妓さんから90歳のベテランの芸妓さんまで、
すべての芸舞妓さんが同じ俎上で競争するのです。

究極の「成果主義」と言えます。


花代の時間単価は、
京都花街の場合、新人もベテランも同額ですから、
上位をゲットするポイントは稼働時間です。

つまり、

「どれだけお座敷などに呼ばれたか」

ということが鍵であり、
これは、端的にはその芸舞妓さんの

「人気度」

に等しいと言えるわけです。

ただ、注意したいのは、ここでの「人気度」は、

どれだけ指名の入るひいきのお客さんがいるか

ということだけでなく、

どの芸舞妓さんを呼ぶかというアレンジを行う
お茶屋のお母さんの評価や、仲間同士の評価も
含まれるという点です。


芸妓さんもある程度経験を積んでくると、
自分の得意なことが分かってきますから、
舞を主に行う「立方」、三味線や唄を担当する
「地方」などに、ある程度専門分化していきます。

お座敷には、立方、地方などそれぞれの役割を
受け持つ芸舞妓さんたちが複数人呼ばれますから、
例えば、特定の芸舞妓さんがひいき客から呼ばれた場合に、
その舞妓さんと役割上の相性のいい他の芸舞妓さんも
一緒にお座敷に出ることになるわけです。


このように、芸舞妓さんたちは基本、チームで動くので、
お茶屋のお母さんとしては、単に舞などの技能や接客力
が優れているだけでなく、場全体をうまく仕切る能力
(ディレクション能力)の高い芸舞妓さんは、
顧客の満足度を高めてくれるありがたい存在であり、
よく声がかかることになります。

また、お座敷での能力だけでなく、
普段の振る舞いも評価の対象となっていて、
儀礼に欠けるような行動をした芸舞妓さんは、
その評判がたちまち花街全体に伝わり、
お茶屋さんから呼ばれなくなっていくのです。


ですから、
芸舞妓さんの花代に基づくランキングは、
極めて明快な

「成果主義」

とは言え、その成果に至るプロセスの評価が
きっちりと反映されているということになります。


ですから、上位をゲットできるような芸舞妓さんは、
単なる結果に過ぎない「花代」に一喜一憂するのではなく、
そうした結果に至ったプロセス、端的には

「自分のどこが良かったのか、改善すべき点は何か」

を客観的に見つめることができる人です。

おや、ビジネスパーソンと全く同じですね。


夕学五十講 西尾久美子氏講演(08/06/16) 受講生レポート

『京都花街の経営学』
(西尾久美子著、東洋経済新報社)

『京都 舞妓と芸妓の奥座敷』
(相原恭子著、文春新書)

投稿者 松尾 順 : 2008年07月04日 13:31

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コメント

おもしろい!
いやーおもしろいですわ

投稿者 開米瑞浩 : 2008年07月05日 00:57

開米さん、ども!

そうでしょう!
実に面白いですよね。

投稿者 松尾順 : 2008年07月05日 07:41

まつおっちさん
まいどっ!
しがっちは先週の火曜日にいやいやお客さんに六本木の超高級クラブに連れていかれ、お一人様40000円もふんだくれらました・・・(涙)
お姉さんは1人に常時3人着き。

投稿者 しがっち : 2008年07月05日 09:27

しがっちさん、まいど!

超高級クラブがどんなプロのサービスを
提供してくれるのか、私には経験がないので
よくわかりませんが・・・

芸舞妓さんが、毎日のように学校に通って
磨き上げている日本の伝統芸能の技を
堪能できての値段であることを考えると
「お茶屋遊び」は、妥当な、いやむしろ
割安かも知れません・・・

投稿者 松尾順 : 2008年07月05日 10:25

 松尾さんの的確な説明に思わずうなずいてしまいます。

 また行きたくなってしまいました。

 そのうちに、マイフェアオヤジ花街オフ会をしませんか?

 しがっちの奥さんの全快祝いをかねて。

 もちろん、しがっちの奥さんは招待ということで。

投稿者 ブールパパ : 2008年07月05日 13:13

ブールパパさん
ありがとうございます。
全快してもいきなり海外はむずかしそうなので、どっか国内旅行に行こうね♪と話をしていたところなんです。

京都、いいですねぇ・・・

投稿者 しがっち : 2008年07月05日 23:03

マイフェアオヤジ花街オフ会、いいですね!

開催しやすいのは、東京の花街でしょうけど、
できれば京都でやりたいものです。

投稿者 松尾 順 : 2008年07月07日 10:04

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