京都花街の経営学(6)一見さんお断りの背景
「お茶屋」は、
基本的になじみ客の紹介がないと利用することができません。
いわゆる「一見さんお断り」です。
ですから、紙に書かれた会員規約や会費はありませんが、
お茶屋のビジネスは実質的には、
「会員制のビジネス」
だと言えます。
ただ、面白いのは、
「金さえ持っていれば会員になれるわけではない」
ことです。
花街だけの暗黙のルールを理解しており、
良識ある社会人としてのマナーをわきまえた人間でなければ、
たとえ金持ちでも、お茶屋のお母さんからやんわりと
拒否されてしまうのです。
逆に、ごく普通のサラリーマンであったとしても、
お茶屋のなじみ客になることが可能です。
(遊ぶお金はちゃんと払えなければだめですけど・・・)
この点、高額の会費を設定したり、
一定以上の保有資産や、高い役職にあることを
入会の条件とすることで、
「富裕層」
としてのステータスを誇示させることが狙いの、
他の多くの会員制ビジネスとお茶屋は異なっています。
ですから、なじみのお茶屋を持っていることは、
「あの人は信用できる人である」
「ちゃんとした常識・マナーを知っている見識の高い人である」
といったことを示す証となります。
単なる「富裕層」以上のステータスと言えますよね。
さて、西尾氏は「一見さんお断り」の背景として
次の3つのポイントを挙げています。
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1 長期掛け払いの取引慣行
→債務不履行の防止
2 もてなしというサービス
→顧客の情報にもとづくサービスの提供
3 職住一体の女所帯
→生活者と顧客の安全性への配慮
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1 長期掛け払いの取引慣行
お客さんは、お座敷遊びの際、
現金やクレジットカード等は一切いりません。
後日、お客さん宛に請求書が送られてくる
段取りになっています。
なじみ客ともなると、
京都駅に着いてからのお出迎えのハイヤーや
宿泊するホテル代などを含む京都滞在中の
すべての費用をお茶屋が立て替えることがあります。
この場合、お茶屋が立て替える費用は、
かなりの金額になりますよね。
万が一、お客さんがちゃんとお金を払ってくれなかったら、
お茶屋はとんでもない損失を被ることになります。
したがって、信用できるなじみ客の紹介がないと、
とても新規のお客さんを受け入れることはできない
というわけです。
2 もてなしというサービス
お茶屋で提供されるサービスに「定型」はありません。
お茶屋のサービスは、
顧客1人ひとりの好みに応じて提供される
「カスタマイズサービス」
です。
お茶屋のお母さんは、
基本的にお客さんにどうして欲しいかを
いちいち聞きません。
これまでのつきあいを通じて把握したお客さんの
「好み」
を踏まえて、そのお客さんに満足してもらうために、
どんなサービスを提供するのが最適か、頭を絞るのです。
そして、お母さんの裁量で、お座敷をしつらえ、
料理を手配し、芸舞妓さんたちを呼びます。
したがって、好みがわからない、
まったくのフリの客を受け入れることは難しい
というわけです。
これは、究極の「CRMの実践」と言えますよね。
3 職住一体の女所帯
お客さんが上がるお座敷は「お茶屋」の中にあります。
お茶屋は、お母さんやそこで働く女性たちの「職場」
であると同時に、「生活の場」でもあります。
つまり、お客さんを個人宅に呼ぶのと実質同じ。
したがって、素性のはっきりしないお客さんは
そもそも怖くて呼べないんですね。
“お酒がすぎて、お座敷で暴れはったり、
お座敷に根がはえてしもうたみたいにずーっと
お帰りにならへんと、困るんどす”
と話すお母さんがいたそうです。
お茶屋の利用者は、
やはり社会的地位の高い方が多いわけですが、
「一見さんお断り」のお茶屋は安全で、かつ安心して
過ごせる数少ない場所。
お茶屋が、昔から「密談の場所」となってきたのは
「一見さんお断り」だったからなんですね。
→夕学五十講 西尾久美子氏講演(08/06/16) 受講生レポート
『おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る』
(リクルートワークス編集部編、英治出版)
投稿者 松尾 順 : 2008年07月10日 09:18
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コメント
一見さんおことわりはまだいいとしても
何人かでいっても、請求がおなじみさん一名のみにきて、
接待でない場合は、その人間がいちいち友人をまわって
請求しなくてはならないのがやっかいです。
たいていの場合均等割りというわけにいかず、いくらかは持ち出しとなります。
それと領収書が一切ないため、多くの場合会社の経費というわけにいかず、個人持ちとなるため、おいそれとは行けません。
またある程度のおなじみさんとなると、ひいきの子何名かの踊りの会のチケット購買の協力やら、襟替え時のお祝いやらが2万とか3万とかついてきます。
現在では襟替えは旦那がつく場合は殆どなく、広く浅くおひいきさんから協力してもらうのが普通となっているようです。
でも逆に、お祝いを催促されることは、一人前のお客として認知されたあかしとして誇らしい気持ちになることも確かです。
投稿者 ブールパパ : 2008年07月11日 22:08
ブールパパさん、経験に即した生々しいコメント、
とても勉強になります!
馴染み客はいろいろ大変なんですね。
(それだけ名誉でもあるということでしょうけど)
投稿者 松尾 : 2008年07月12日 17:09
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