京都花街の経営学(7)お茶屋のお母さんはおもてなしプロデューサー

現役芸妓として、
初めてホームページを立ち上げたのは

小糸さん

という方でした。


小糸さんは現在、宮川町の屋形(「置屋」のことを京都では
「屋形」とも呼びます)&お茶屋である、

「花傳」(かでん)

の女将(お母さん)でもあります。


1997年春、
小糸さんの立ち上げたばかりのホームページを
見て連絡してきた、ある日本女性がいました。

当時彼女は、父親の仕事の都合で
北京で暮らしていたのです。

以来、小糸さんとその女性はeメールをやり取りするようになり、
体験入門を経て、3年後の2000年夏、ついにその女性は
舞妓の世界に足を踏み入れます。


インターネットをきっかけに「舞妓」になったのは
彼女が始めて。

彼女は、小糸さんの「小」を取って

「小桃」

という名前をもらいました。

現在、小桃さんは独立し、
自前の芸妓さんとしてがんばっています。


さて、小桃さんを一人前の芸妓に育てた花傳のお母さん、
小糸さんは、『KOMOMO』(小桃さん成長のドキュメンタリー)
の本のまえがきで次のように書いています。


『花街が生み出し、今に伝えているもの……それは、
 「癒し」の文化である。』

『美しい着物や髪飾りも、舞や三味線などの伝統芸能も、
 柔らかな微笑みも、すべてはお客様の疲れた心を
 解きほぐすためにある』

『そして、花街流「癒し」のノウハウは何百年もの時間を
 かけて練り上げられ、精製されてきたのだ。』

『舞妓になる、ということは、この伝統のノウハウを
 身に付けた「癒し」の象徴……
 つまり、そこに存在するだけで人の心を癒す能力を
 持っている人間になる、ということである』


お茶屋での「お座敷遊び」におけるお客さんの満足に
最も大きな影響があるのは、「癒しの象徴」である
芸舞妓さんであることは言うまでもありません。

しかし、お客さんの指定がない限りは、
どの芸舞妓さんを呼ぶのかはお母さんが決めます。

また、芸舞妓さん以外のもてなしの要素である、
お座敷のしつらえや料理の内容もお茶屋のお母さん
の裁量です。


前回ご説明したように、
顧客との長いおつきあいを前提に、
顧客情報をたんねんに蓄積し、いちいち相手に聞かずとも、
お客さんの望んでいることを的確に察知し、
喜んでくれる最適なサービスを提供することに、
お茶屋のお母さんは全人生を賭けていると言えるでしょう。


したがって、お茶屋のお母さんは、
「おもてなし」全体を取り仕切る極めて有能な

「おもてなしプロデューサー」

と呼べるかもしれません。


なお、お客さんのうち、年配の男性は、

「お父さん」

多少若めの方は

「お兄さん」

と呼ばれるそうです。


そうすると、お茶屋の女将は「お母さん」と呼ばれ、
先輩の芸舞妓さんは「お姉さん」、後輩は「妹」と
呼びますから、お客さんがお茶屋で遊ぶのはある意味、

「家庭」

で過ごしているかような感覚があるのかもしれません。
(なじみになればなるほど・・・)


本来(という言葉をつける必要があるのは皮肉ですが)、
人が最も癒され、くつろげるのは、

「家庭」

ですよね。

そんなくつろげる雰囲気の中で、
奥深い日本の芸能と、芸舞妓さんとの楽しい会話や遊び、
食事を堪能することができる。


花街は昔も今も、また今後も、

「癒しのサービス」

の「理想形」であり続けるのではないかと思います。


『京都花街の経営学』
(西尾久美子著、東洋経済新報社)

『京都 舞妓と芸妓の奥座敷』
(相原恭子著、文藝春秋)

『京都花街 もてなしの技術』
(相原恭子著、小学館)

『おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る』
(リクルートワークス編集部編、英治出版)

『KOMOMO』
(小桃著、写真:荻野NAO之、講談社インターナショナル)

投稿者 松尾 順 : 2008年07月11日 16:40

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コメント

 写真集「KOMOMO」の小糸さんのまえがきの文章、私も紹介しようかとおもっていました。

 彼女のまえがきを読んだだけでも写真集「KOMOMO」を買ったかいがあったとおもいました。

 小糸さんはふだんでもすばらしい文章をかかれる方です。
 
 小糸さんの屋形出身の方はすばらしい方ばかりです。

 全員、芸事をしっかりしこまれています。

 ただ、最近舞妓さん希望の人がふえて、宮川町としても
昔のように半年足らずでなく10か月みっちり修業させて
これはという子を選んで見せだしさせるようになり、なかなかデビューまでいたらない子が多いのが悩みのようです。

 花傳さんも芸事をしっかり教育されていますが、なかなか最近の子はついていけなくて、新しい舞妓のデビューがないのが悩みです。こんどの新しい仕込みさんにはぜひお店だしまでがんばってほしい。

投稿者 ブールパパ : 2008年07月12日 13:38

 男の場合、いくつになってもお兄さんとよばれると
うれしいものです。
 
 70すぎてもほとんどお兄さんとよばれているようです。

投稿者 ブールパパ : 2008年07月12日 16:44

男としては、何歳になっても、
お父さんと呼ばれるよりは、
お兄さんと呼ばれたい、という気持ち、
よくわかります。

女性心理と同じなんですよね。

投稿者 松尾順 : 2008年07月12日 17:10

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