マズローの「自己実現欲求」の先にあるもの

このメルマガ・ブログをお読みの方なら、

「マズローの欲求階層説」

はよくご存知でしょう。
(これまでも、何度か簡単にご紹介しましたし)

マズローは、人の欲求は以下の5段階からなるという
考え方を示しました。

------------------------------------

1.生存の欲求(食欲、性欲など根源的な欲求が満たされたい)
2.安全の欲求(生命が脅かされない、安全に暮らしたい)
3.社会的欲求(所属や愛が欲しい)
4.自我(自尊)の欲求(社会の中で承認、尊敬を得たい)
5.自己実現の欲求(自分らしさを発揮したい)

------------------------------------

このうち最高次の欲求が、5段階目の

「自己実現欲求」

ですが、これは、

「自分らしさを発揮したい」

という欲求ですから、

「個性化欲求」

と言い換えることもできます。


さて、特にこの数年、
世の中のヒット商品やトレンドを眺めていると、
この5つの欲求ではうまく説明できない消費者行動が
顕著になってきているように思います。


実は、マズロー自身も晩年に提唱していたのですが、
「自己実現欲求」の先に知られざる別の欲求が
いくつかあるのです。

それは、自己超越、つまり他人への奉仕や、
知識欲の充足、美の追求といったもの。

私は、これらをわかりやすく説明するキーワード
として、何か適切なものがないかなと考えていたところ、
ふとある言葉が浮かんできました。

それは、

「真・善・美」

です。


「真・善・美」は、
主に哲学の世界で用いられてきた言葉です。

しかし、私は大胆ながら、
現代の消費行動を説明しやすい欲求として

「真・善・美の欲求」

という考え方を提示してみたいと思います。


「真・善・美の欲求」は、
マズローの自己実現欲求の先にある
新たな3つの欲求のこと。

そして、これは現代日本のような
成熟社会に顕著になってくる欲求です。


簡単に説明します。


・「真」の欲求

物事の真理を追究したいという欲求。
知りたい、学びたいという行動の源泉になります。

現在一線を退いたシニアの方々が、
最も熱中しているのが「学び」ですよね。

すでに人生の目標はなんらかの形で
達成された方たちですから、
「成功したい」とかそんな明確な目標は
もはや必要ありません。

純粋に学ぶことが楽しいのです。

脳科学者の茂木健一郎氏の言葉を借りれば、

学びは最高のエンターテイメント。
いくら学んでもおなか一杯にならない。

(つまりいくらでも楽しめる)

ということなのです。

実は、私の父も70歳を過ぎてから、
サイバー大学に入学しITを学んでいます。

地元NPOのホームページを作ってあげたりと
いった役にも立っているようですが、
やはり学ぶこと自体が楽しいようです。

もちろん、シニア層に限らず、
主婦を含むあらゆる階層が「学び」に
貪欲になりつつありますよね。


・「善」の欲求

人のために役立ちたい、
善いことをしたいという欲求。

先日の記事でご説明した、

「フィールグッド・マーケティング」

の根底にあるのがこの善の欲求です。

マズローが、トランスパーソナル=自己を超える、
すなわち自己超越欲求と呼んだものがこれに
該当します。

自己実現を果たした、つまり「個」としての自分が
確立できた時、多くの人が次に向かうのが社会貢献
ですよね。


・「美」の欲求

美しいものを愛でるというのは、
人の最も根源的な欲求の一つなのかも知れません。

アウシュビッツの収容所から生還を果たした心理学者、
ヴィクトール・フランクルは、明日はガス室送りかも
しれないという極限状態にある人々さえ、収容所から
見る夕日の美しさを讃えていた風景に感銘を受けたこと
を手記に書いています。

さて、「美」は、大量生産・大量消費型商品においては、
これまでかなり軽視されてきた要素です。

美しさにこだわると、コスト高、ひいては
高価格の原因になるからですね。

しかし、近年のデザイン家電の隆盛や、
また、優れたデザイン力を発揮してきたアップル
の飛躍的成長を見ると、消費者はますます、

「デザインの美しさ」

を選好要因の一つとして重視するようになっています。

結局のところ、人の感性に訴えかけ、
人を感動させるパワーを持っているのは、

「美」

ですよね。


以上、真・善・美の欲求について
簡単にご説明しました。


これからの商品開発においては、

「真・善・美の欲求」

をいかにくすぐることができるかが、
ヒットするかどうかの分かれ目だと思うのですが、
いかがでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 2009年04月20日 13:34

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トラックバック時刻: 2013年08月31日 12:11

コメント

こんばんは。
つい先日、自分のノートに思い出したように
ピラミッドの絵を描いて、ネットでマズローを
調べたばかりでした。びっくり。

さらに上の段階があることをこの記事で知れて
よかったです。

少し質問があるのですが、
「美」の欲求は、形が目に見えない商品については
満たすことが難しいですか?

今日、ミヤネ屋(関西ローカルのワイドショー)で
「トクートラベル」というネット旅行代理店の特集が
あって、一泊109円というとにかく破格な商品が紹介
されていました。
→旅行商品に美しさをどうあてはめる?というのが
疑問の始まりでした。

お時間あるときに教えてください。
また来ます!

投稿者 パナコニック : 2009年04月22日 23:07

パナコニックさん、まいど!

記事がお役に立てたようでなによりです!

「美」についてですけど、
視覚的な美以外にも、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚の
それぞれにとって心地よい美がありますよね。

旅行商品の話は、パッケージやコミュニケーション上
の課題かと思ったんですが、形がある商品の場合、
むしろ見えない部分に気を配ること、逆に目に見えない
サービス商品の場合、目に見える部分に力を入れると
いうことがポイントですよね。

このあたりヒントになりません?

投稿者 松尾順 : 2009年04月23日 17:14

うちの小学校では 校歌にこの真善美がはいってます

投稿者 heroko : 2009年05月09日 10:10

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