誰のためのデザイン? - デザイナー調味料ビン
‘マーク・ニューソン’
というオーストラリア出身の
プロダクトデザイナーはご存知ですか?
彼が手がけた製品のうち、
私たちが一番ピンとくる身近なデザインは、
au携帯電話「Talby」
でしょう。
私は、恥ずかしながら知りませんでした。
(そういえば聞いたことがあったような・・・のレベル)
世界的にはかなり有名な存在のようですが、
一般消費者には遠い存在ですよね。
さて、先月(2009年8月24日)から、
マーク・ニューソン氏がデザインした、
「味の素(R)」(調味料)
が新発売されています。
もちろん、中身はあの「味の素」でして、
ビンのデザインが違うだけです。
「味の素マークビン」
と呼ばれています。
同製品は、
「味の素(R)」
の発売100周年の記念として新発売されたもの。
味の素(株)のニュースリリースによれば、
“グローバルに通用する洗練されたデザインの
新ボトル品種を発売し、商品鮮度をUPする事で
新規消費者の獲得、使用者層のさらなる拡大を図ります”
とのこと。
で、実際一般消費者の評価はどうかというと・・・
他国ではわかりませんが、
日本の消費者にはあまり受けが良くないようです。
日経デザイン(2009年9月号)では、
既存の調味料ビン2種に、「マーク瓶」を加えた
3種類のビンの形状について、アンケート調査による
比較評価の結果が掲載されていました。
比較対象となったのは、
具体的には以下の3種です。
A:アジパンダビン(たれ目パンダが描かれているもの)
B:卓上小ビン(ビン下部がボテっとしているもの)
C:マークビン(三角錐のとがっている部分を切ったようなデザイン)
詳細は記事を見ていただきたいのですが、
圧倒的一番人気は、やはり「アジパンダビン」でした。
ビンに描かれた笑顔の「たれ目パンダ」を見ると、
思わずこちらも微笑んでしまうデザイン。
そもそも、擬人化(というか擬動物化)されたデザインに、
私たちは強く惹かれる傾向があります。
(とりわけ、「目」には無意識に注目してしまうのです)
この点が、今回の調査でも明確に現れています。
2番人気は、卓上小ビン。
こちらは、いわゆる「ウーマンボディ」に近い形状で、
スカートをはいた女性のイメージ。
親しみを感じやすいデザインだと言えます。
一方、マークビンは全く人気がないのです。
設問のうち、
「総合評価」
(あなたが実際に購入するとしたらどれが欲しいですか?)
の回答結果について数値(全体)を示しましょう。
A:アジパンダビン 59.7%
B:卓上小ビン 32.0%
C:マークビン 8.3%
回答者の1割の支持も得られていないのは、
新規層を獲得するのが狙いとしても、
かなり厳しい結果ですよね。
マークビンのデザインに当たって、
発売前のユーザー評価は行われなかったのでしょうか?
もちろん、一流デザイナーの感性から導かれた
デザインですから、ユーザーテストの評価が仮に
低かったとしても、修正してくれとはなかなか
言えないでしょうけど!
マークビンのデザインで、
私が個人的に特に気になったのは、見た目の
「使いにくさ」(使いにくそう・・・)
です。
末広がりのすっと伸びたボディライン。
デザインとしては美しい。
でも、調理中の濡れた手で握ると、
スルッと滑って下に抜けてしまいそうに
見えます。
実際、アンケートの結果を見ると、
全体的に良くないのですが、
特に中高年の評価が低くなっていました。
40代以上の男女で、
マークビンを「使いやすそう」と答えた人は
わずかに7.8%に止まっているんですね。
見た目の持ちやすさや、使いやすさは、
いわゆる
「アフォーダンス」
と呼ばれる理論で説明できます。
アフォーダンスとは、
簡単に説明すれば、
・ドアのノブが丸ければ、回したくなる
・レバーであれば、横にひねりたくなる
・横棒が渡してあれば、押したくなる
といったように、モノの形状によって、
私たちの特定の行為が誘発されるというものです。
ビンの形状についていえば、
一般には、マークビンとは反対の形状、
すなわち
「下すぼまり形状」
が持ちやすさを感じさせ、
利用者の評価が高くなることがわかっています。
したがって、マークビンの形状は、
アフォーダンス的にもあまり好ましくない
と言えそうです。
まあ、あまり評価のよろしくないデザインだとしても、
既存のビンが撤去され、店頭に「マークビン」しか
並んでなければ、この製品を選択するしかなく、
結果的にちゃんと売れていくわけですから、
OKなのかもしれませんが・・・!
ちなみに、アンケート対象者のうち、
マーク・ニューソン氏のことを少しでも
知っていたのは5%でした。
ですから、このビンは
「あの‘マーク・ニューソン’のデザインなんですよ」
と訴えたところで、
「ふーん、誰その人」
と軽く受け流されてしまうだけでしょう。
つまり、本来なら期待したいはずの
著名デザイナーが持つブランド効果も
あまり期待できないということですね。
マークビンのデザインを見ていたら、
“いったい誰のためのデザインなのか?”
ということを改めて考えされられました。
*参照記事
『ブランド向上委員会第24回 味の素のパッケージ比較
調味料のビンにデザイナー名は不用』
(日経デザイン、September 2009)
*「味の素(R)発売100周年記念「味の素(R)マーク瓶」50g 新発売
(味の素 ニュースリリース)
*『誰のためのデザイン?』
(D.A.ノーマン著、野島久雄訳、新曜車認知科学選書)
投稿者 松尾 順 : 2009年09月04日 14:39
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コメント
小生も直感的に「えー!そうくるかい????」と思いましたよ、このデザイン。
味の素ボトルは結構ちょこちょこ変わってきているのでノスタルジックにルーツエレメントを入れたらよかったのにと思いました。
投稿者 大川耕平 : 2009年09月04日 14:56
なんのためにデザイナー使ったのか意味不明なデザインですねぇ・・・
実際使いにくそうに見えますし。という一点だけで私はこのデザインは失敗作だと思いますぜ。
投稿者 開米瑞浩 : 2009年09月04日 19:29
大川さん、コメントありがとうございます。
>味の素ボトルは結構ちょこちょこ変わってきているのでノスタルジックにルーツエレメントを入れたらよかったのにと思いました。
確かにそうですね!
ノスタルジーは現代のトレンドのひとつですしね。
開米さん、まいど!
>実際使いにくそうに見えますし。という一点だけで私はこのデザインは失敗作だと思いますぜ。
芸術作品ではなくて、あくまで実用品ですからね。
ニューソン氏もこのデザインおける明確なコンセプトや
意図をお持ちとは思いますが、「ユーザビリティ」の視点は
含まれていたのか、ちょっと疑問です・・・
(実際にはマークビンはそれほど使いにくいわけでは
ないかもしれません。しかし、知覚品質(利用者の印象)
が重要ですよね。)
投稿者 松尾順 : 2009年09月05日 10:25
通りすがりで失礼。
あのぉ、そもそも、その見た目の使いやすさであるアフォーダンスなる理論を実現した「下すぼまり形状」の調味料瓶って主流なんですか?
ハインツの逆さケチャップぐらいしか思いつかないんですけど。
握りやすいかもしれないけど倒れやすい形状が、果たして使いやすそうな見た目なんですかね。。。
まぁ、この瓶が使いにくそうなのは認めるに吝かではないですが、末広がりであることよりも、括れがないことの方が原因なのではないかと。
投稿者 とおりすがーり : 2009年09月07日 13:59
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