クジラ・エスキモーは歌がうまい!

「私たち人類の言葉は、
 どうやって生まれたのだろう?」


これについては諸説ありますが、

「はじめに歌ありき!」

という仮説を提唱する人がいます。


理化学研究所の
岡ノ谷一夫氏(生物言語研究者)は、

ジュウシマツの求愛の歌

などの分析を通じて、
彼らの歌に見られる一定の法則性を発見。


そして、ヒトの場合、歌をうたうことを通じて

「文法」

が形成され、


「文節」や「単語」

が切り出されていき、
複雑な思考でさえ伝達できる高度な

「言語」

が確立されていったのだろうと、
岡ノ谷氏は考えています。


そういえば、クジラもまた、
クラシックの楽曲形式の一つ

「ソナタ形式」

に類似した歌をうたうことがわかっていますね。
(いわゆる「言語」としては確立していませんが)


ですから、
上記の仮説が正しいとすれば、
私たち人類が

・歌をうたうこと
・歌を聴くこと

が大好きなのは、
ごく自然なことだと言えますね。


さて、

「歌がうまいこと(特に合唱)」

が生存の決定的な条件だったと考えられるのが、
クジラ・エスキモーの人たちです。

*最近は‘イヌイット’と呼ぶことが
 多いようですがここではエスキモーに
 統一します。


カナダやアラスカ、グリーンランドなど、
北極圏に住むエスキモーたちは主に、

「カリブー」(トナカイ)

を狩猟して生活してきました。


カリブーは集団で大移動する動物です。

したがって、エスキモーたちも
広大な北極圏をカリブーを追って
移動していきました。

厳寒の土地ですから農業はできません。
カリブーのような動物の狩りだけが頼り。

こうした不安定な食糧事情において、
以前は、生産活動に従事できない老人や病人は
遺棄されるのが一般的な風習でした。

滅びてしまった部族も多いようです。


そんな中、クジラを捕獲することで
生き延びた人々が、沿岸部に住む

クジラ・エスキモー

です。


クジラを捕獲できるチャンスは、
年に2回だけしかありません。

クジラが湾の中に入ってきて、
氷の割れ目ができているときだけです。

つまり、初冬の氷のでき始めか、
初春の解け始めの2回。

氷が海面を完全に覆っている時、
クジラは海上に姿を現すことはできませんし、
逆に氷がない時は、海上のどこに顔を出すか
わからないからです。


クジラ狩りの時、
クジラ・エスキモーたちは、
ボートに乗ってクジラがやってくるのを
待ちます。

クジラが湾の中に入ってきたら、
出られないように封鎖線をボートで作る。

その後、クジラが呼吸をするため、
氷の割れ目に顔を出した瞬間、みんなで
一斉に襲ってクジラを仕留めるのです。


相手は巨大な図体の持ち主。

みんなで息を合わせて、
一斉に襲えないとクジラを
取り逃がしてしまう。

仲間同士の「チームワーク」、
とりわけ

「タイミング」

が決定的に重要だったのです。


ですから、クジラ・エスキモーは、
極めてリズム感がよく、10人でも20人でも、
ピタっと息の合った歌をうたえるのだそうです。


一方、1人でも捕獲可能なカリブーを
狩猟して生活している、内陸部の

「カリブー・エスキモー」

は、リズム感があまり良くありません。
いわゆる「合唱」はへたくそなんだそうです。

おそらく、狩猟において、
チームワークを必要としないからでしょう。


こうした世界の民族の生活に根ざした音楽に
ついて研究してきた民族音楽学者の故小泉文夫氏は、
次のように述べています。

“人間は、生きるために拍子をそろえて歌うのです。
 拍子をそろえなくても生きていかれるんだったら、
 そんな余計なことはやらないんです”

“クジラ・エスキモーは、そうしたからこそ
 あのグループだけがいきてこられた・・・”


さて、エスキモーとは、
大きく異なる社会に生きる現代の私たちですが・・

ものごとが高度化・複雑化し、
仕事が極端なまでに専門分化したがゆえに、
逆にますますチームワークが求められる時代を
迎えているように思います。


仕事における、

「歌唱力」や「合唱力」

は、どうやって磨けばいいんでしょうね?
(あくまで喩えですが)


*参考文献

『小泉文夫フィールドワーク 人はなぜ歌をうたうか』
(小泉文夫著、冬樹社)

投稿者 松尾 順 : 2009年09月24日 15:38

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