様々なビジネスに活用されるアンカリング効果

前回、アンカリング効果の力を踏まえると、
売り手側が、価格交渉を有利に進めたければ、

「ふっかけた方が得」

ということをお話しました。


では、買い手側が、
売り手のこうした策略を避けるためには
どうしたらいいでしょうか?


最初に相手が提示してきた金額が、
とんでもないものだったら、
具体交渉に入らず、いったん席を立って
時間を置き、改めて再交渉を行うのが正解。


なぜなら、ありえない金額だと
わかっていても、提示された金額に
影響を受けてしまうのです。

なんとか調整しようと交渉を始めたら、
その瞬間から、アンカリング効果の罠に
落ちることになります。

だから、ふっかけられたら、
まず席を蹴って数字をリセットし、
再交渉の機会を持つべきなのです。


さて、アンカリング効果は、
ビジネスのあらゆる場面でまさに
‘効果的に’使われています。


たとえば、寿司屋のメニュー、
にぎり寿司(セット)の価格は
たいてい

「松」「竹」「梅」

の3種類ですね。

価格設定としては、

松・・・2800円
竹・・・2100円
梅・・・1500円

といったところでしょうか。

お客さんの懐の具合もあるでしょうけど、
多くの場合、「竹」が選ばれます。

おそらく、
この選択プロセスの背景には
こんな心理が働いているのです。

「梅」だと、なんだか
安さだけで選んだみたいで、
ちょっと恥ずかしい。

でも、「松」は高いなあ。

それに比べると「竹」は
安いから「竹」のにぎりにするか。

つまり、「松」が基準点(アンカー)
となって、実はそれほど安くもない

「竹」

が安く見えてしまうというわけです。


様々な物販店でも、
客層からみてめったに売れそうもない

値段高めの高級品

を陳列することで、
店舗の格を上げると同時に、
他の本当に売りたい商品を
相対的に安く見せるという手法が
採用されています。

いわゆる

「見せ筋」

ってやつですね。


また、これは倫理的にどうかなと
思いますが、新築の住宅を売り出す際、
最初に短期間だけ、あえて高い価格を
設定して売り出し、顧客の反応を
見ながら徐々に下げていくという
住宅販売を採用するところがあります。


例えば、立地や物件内容的には、
明らかに割高な1億円といった価格で
売り出すのです。

ここでは、1億円が基準点となり、
値下げした場合には、

「3千万円値下げして7千万円で販売」

などとチラシで訴求できます。


すると、お客さんは、

本来、当物件の妥当な価格はいくらか

という判断をする以前に、
元値より3割も安くなってお得だなという
印象を受け、購買意欲が刺激されます。

当初の1億円で売れることはないにしても、
売り手としては、利益の大きい価格で
売れる可能性が高くなるというわけです。


米国の不動産王、ドナルド・トランプは
以前、次のような告白をしたことがあるそうです。

“部下がやってきて、(建築見積)価格は、
 7500万ドルになりそうですという。

 そこで客には、「1億2500万ドルかかりますよ」
 と言っておいて、結局は1億ドルで建ててやる
 わけです。

 要するにずるいことをやってきたわけです。
 でも相手は、いい仕事をしてくれたと思っている。”


アンカリング効果とは、要するに
比較可能な「基準点」を示すことで、
相対的な「差」が際立って見える効果です。

ですから、価格以外にも使えます。

例えば、自分が痩せてるように
見せたければ、自分より太めの友人と
歩くとか(笑)


ただ、アンカリング効果は、
価格において最も顕著に見られることが、
行動経済学では判明しているので、
買い手側はほんと要注意です。


また、商売(売り手)としては、
倫理的な問題をクリアしつつ、
うまく活用したいところです。


(参考文献)

『プライスレス 必ず得する行動経済学の法則』
(ウィリアム・バウンドストーン著、松浦俊輔、小野木明恵訳、青土社)

『経済は感情で動く』
(マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳、紀伊國屋書店)

『予想どおりに不合理』
(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房

投稿者 松尾 順 : 2010年01月15日 12:36

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