「アンガージュマン」で乗り越えよう

今回の東北地方太平洋沖大地震と、
福島原発の事故のため、被災地の方々だけでなく、
首都圏の人々にも大きな影響が出ています。


ビジネスに与える影響も甚大です。

弊社も他人事ではないのですが、
あらゆる業界・業種の企業・組織が、
今後の業務活動において難しい判断・決断を
迫られているものと思います。


こんな時、どのような姿勢で立ち向かえばいいのか。

たまたま、本日の日経産業新聞の連載コラム、

「哲学で拓くBIZテク」

では哲学者、ジャン・ポール・サルトルの考えが
紹介されていました。

私なりに咀嚼してお伝えします。


サルトルは、「実存は本質に先立つ」と説きました。

実存とは、私たちの存在そのもの、生き方そのもの。
本質とは、あらかじめ決められた「運命」のようなものです。

すなわち、サルトルが言わんとしたことは、
人は、ただ運命に従うのではなく、自らの意思で
人生を切り拓いていくべき存在でもあるということです。

今回の地震や原発の事故が、
仮に「運命」として事前に定められていたことだとしても、
私たちは、その運命を受け止めるだけでなく、
自らの行動で自分たちの今後の在り方を自由に描くことが
できるし、それを実現する力があると言えるのではないで
しょうか。

そもそも、私たちは一定の自由があるだけでなく、
多数の制約に囲まれています。

つまり、どんな状況においても、
私たちには制約の中での自由しかないのです。

こうした状況を乗り越えるための
基本的姿勢として、サルトルが提唱したのが

「アンガージュマン」

でした。

アンガージュマン(仏語)は、英語であれば、
今のマーケティング業界のバズワードでもある、

'Engagement'(エンゲージメント)

のこと。

これは、積極的な関わりを意味します。

状況を壁と感じて立ち止まるのではなく、
むしろその状況に積極的に関わり乗り越えていく。

つまり、逃げない。現状を直視し、
乗り越える方法を考える。

現在の苦境に対処する最善の方法は、

「アンガージュマン」

だと、私は確信します。


*上記記事は、日経産業新聞(2011/03/15)の
 「哲学で拓くBIZテク」の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 13:58 | コメント (0) | トラックバック

犠牲者の方々に心よりご冥福をお祈りします。

先週金曜日に東日本を襲った巨大地震。
一瞬にして多数の人々の命を奪いました。

犠牲者の方々に心よりご冥福をお祈りします。

また、いまだライフラインが断たれた地域で
孤立され、救助を求めている方々もいらっしゃいます。

一刻も早い救助を願ってなりません。


いま、被災地以外にいる私たちがやるべきことは、
「義援金」による支援、そして日本赤十字社からの
要請に応じての「献血」、そして「節電」だと思います。

そしてまた、それぞれの業務を通常通り、
粛々とこなすことだと考えます。

被害を受けなかった人々が、
しっかりと経済を回し続けることで、
被災地の復興のための必要な資金が確保できるからです。


もちろん、地震による被害に加えて、
計画停電が当面続き、交通機関の通常運行も望めず、
関東エリアではなかなか平常通りの業務は難しいですが、
現状の中でベストを尽くすしかありません。


しばらくは混乱状態が続くことになるかと思いますが、
余震に十分に備えつつ、今それぞれが果たすべき役割を
十分に果たしてまいりましょう。

投稿者 松尾 順 : 09:48 | コメント (0) | トラックバック

寄付文化は日本に根づくか?

うかつにも今日まで知らなかったのですが、
昨年(2010年)末に、日本初となる

『寄付白書 2010 - GIVING JAPAN2010』
(日本ファンドレイジング協会)

が発行されていたんですね。

ネットでちょっと調べてみました。

同白書では、日本の寄付とボランティアの全体像を
把握するために、大規模な全国調査を実施した結果が
まとめられているようです。

それで、日本全体の年間寄付額についてみると、
総額で1兆円強でした。内訳としては、

・個人寄付:5500億円
・法人寄付:4900億円

となっています。


さらに、上記の明確な寄付行為以外に、
個人が「会費」として年間3700億円余りを
払っています。

私自身も数年前から、
アジアの途上国を支援する某NPOの会員になり、
わずかな会費を出していますが。

こうした会費も、実質的な寄付行為とみなすことが
できるでしょうから、日本人は知られざるところで
結構寄付を行なっているということですね。

たまたまメディアで取り上げられて、
注目を集めることになった「伊達直人を名乗る人たち」
ばかりほめていてはだめなんです。(笑)


まあ、日本人もそれなりに寄付をしていたとはいえ、
個人寄付については、米国のわずか40分の1の規模だそうです。
(米国の個人寄付には一部資産家の莫大な寄付が
 含まれているでしょうけど)

人口比を考えても、日本人の寄付額は圧倒的に少ないですね。
もちろん、だからと言って米国と同じ水準を目指すべき、
という競争的な発想はしたくないですけど。


さて、「平等意識」が比較的強い日本の文化の
視点からみると、日本人は相対的に「寄付行為」が
苦手だと思います。

お互いに助け合うということはOKでも、
あからさまな「寄付」は、心理的な上下関係を
生み出してしまうからです。

古くからそれほど明確な社会階級が存在しなかった
日本では、「一方的な慈恵行為」は、するほうも、
されるほうもあまり好きではない。

一方、欧米の階級意識はかなり根強いものがあります。

「ノブレス・オブリージュ」
(貴族などの、地位や財力、権力の高い者は、
 社会に対して相応の責任を果たすべきという考え方)

という言葉があるように、自分よりも下位のものに
恵むことは当然という考えが根底にあるようです。

また、寄付をすることは、
彼・彼女の自尊心を高めることでもあるのです。

以前、某日本人が書いたエッセイに書かれていたのですが、
外国人の知り合いが、街中でお金を乞うているホームレス
の人などに気軽に小銭を渡しているのを見て

「どうしてそうしたことをするの?」

と聴いたら、

「だって、気分がいいじゃないか!」

と応えたというのです。

この回答には、「見下している」とまでは
言いませんがちょっとした「優越意識」が感じられますよね。

私たち日本人には、なかなか理解しにくい
感覚ではないでしょうか。

日本人の寄付が欧米に比べて圧倒的に少ないのは
このあたりに起因するところがありそうです。


ただ、逆に言えば、伊達直人現象に見られたように、
寄付者が誰かがわからなければ抵抗がないわけですから、
インターネットなどを通じて、気軽に、ひそかに寄付が
できる環境が整いつつある今後は、日本人の寄付行為も
さらに増加していくことにはなるかと思います。


*日本ファンドレイジング協会 Webサイト
http://jfra.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:15 | コメント (0) | トラックバック

残念なプレスリリース

イベント会場などで、
たまに顔を合わせる知人がいます。

会ったときはあれこれ話しますけど、
それほど親しいわけではありません。

その人が、時々私の携帯メールに
いろんなイベントのお知らせを送ってきますが、
ほんとにお知らせだけなんですよね。


一斉同報なので仕方ないとは思いますが、

「こんにちは」

くらい頭につけたら?と思うし、できれば、
同報じゃなくて、名前で呼びかけて欲しい。

個人レベルで送信してるので、
同報っていったって数十人程度だと思うんですよね。

イベントのお知らせ自体は私も関心のある分野。
決して迷惑ではないので、なんとも残念な気持ちに
なるのです。


まあ、これは個人レベルの話なので、
仕方ないかで済みます。

しかし、プレスリリースだと仕方ないで
済ませるわけにはいかないですよ。


マガジンハウス、「ブルータス」編集長、
西田善太氏は、最近増えてきたメールでの
プレスリリースに対し、

“1行目で読む気が失せてしまう”

とおっしゃっています。


それは、

「BCC配信にて失礼します」

と書かれた1行目です。


西田氏は以下のように言い切っているのです。

“たいした手間もなく、リターンキーひとつで
 送られる情報にどうやって興味を持てるというの
 でしょう?”

“編集の仕事でそんな依頼してたら、誰も動かせませんぞ。”

まったく賛成です。

さらに西田氏の名言!

“広告も広報も(そして雑誌も)人を動かす仕事です。”

人を動かしたいと本当に願うなら、
一斉同報、BCCで大量に配信して済ませるのは
効果の低い「残念な方法」だと思います。

一律の内容を手抜き的に送るのでは、
思いが伝わらないのです。

思いは、1対1の関係で
頼んでいるということを感じさせないと
伝わらない。

ですから、西田氏が言うように、

“贈る者は汗をかけ!”

だと思うのです。

これは、コピーライター、岩崎俊一氏が書いた
西武百貨店のコピーだそうですが。


大切な誰かにプレゼントを贈るときって、
相手が喜んでくれることを願って、
どんな立場・関係の人か、何が好きそうかを考え、
贈る中味、包装紙、贈り方など気を配りますよね。


西田氏は、プレスリリースも同じくらいの配慮が
必要ではないかと主張しているのです。

ITのおかげで、簡単に情報の大量送信が可能になった時代
だからこそ、逆に、送信先の媒体の特徴や紙面構成を
しっかり理解し、個別に送っていることがわかる文面の
プレスリリースに仕立てることが、好印象を高め、
最後まで読んでもらえて、掲載率も高まるのです。


*西田氏のコメントは、「広報会議」(2011 Apr.)
 の記事から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 07:34 | コメント (0) | トラックバック

文化と行動経済学

消費者の購買行動に与える「文化」の影響が、
相応に大きいことは、これまでも指摘してきました。

今後は、日本企業の多くが、
これ以上の成長が見込めない日本市場から飛び出し、
世界各国の消費者相手としたビジネスを
本格展開しなければならない。

ですから、各国の文化の特徴を理解すること
の重要性はますます増していると言えるでしょう。


さて、近代の経済学では、
「文化」を基本的に無視してきたことは
ご存知かと思います。

というか、人は経済合理性で行動するものである、
すなわち「得か・損か」で判断して行動する、
という前提を経済学では置いていましたから、
それ以外の要因は、文化も含めほとんど考慮して
こなかったのです。


しかし、近代経済学では人間の行動を
うまく説明できないことがはっきりしてきました。

このため、人間の非合理性にも着目する
「経済行動学」の勢いが近年は増してきています。

経済行動学でよく売れた本としては、

『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』

などがありますね。


実は、私もまだまだ勉強不足でしたが、
行動経済学では、「文化」も重要な要素として
取り込み、各種研究が進んでいるのですね。

本日(2011/03/09)の日本経済新聞「経済教室」では、
行動経済学の枠組みで、「文化の差の影響」について
の研究が進められていることが書かれています。


それにしても、そもそも、文化とは何でしょうか?

今回は深入りすることは避けたいと思いますが、
端的に言えば、特定の国やコミュニティ、組織など
において「共有されている「価値観」や「信条」が
文化です。

「価値観」とは、何を大切にすべきであり、
逆に、何を大切にするべきではないかの判断基準。

また、「信条」とは、何を信じるべきか、行なうべきか、
逆に、何を信じるべきでないか、行なうべきでないかと
の判断基準だと理解すればいいでしょう。

価値観も信条も、ものごとの判断基準ですから、
購買行動にも大きな影響を与える可能性が高いのは
当然ですよね。


本日の経済教室では、日米のそれぞれの国民の世界観に
対する確信度と子育ての厳しさとの関係についての研究が
紹介されていました。

ここで、「世界観」についての確信度とは、

‘死後の世界がある’
‘神様、仏様がいる’
‘人間は他の生物から進化した’

といった信条に対し、どの程度賛成か、あるいは
反対かということです。
(ご存知の方もいると思いますが、欧米では、
 人は神の創造物であり、他の生物から進化した
 という説は認めない、と強く主張する人々がいます。)


調査の結果では、上記のような信条に対して、
明確に賛成・あるいは反対を示す傾向が米国人に強く、
日本人は、あまり明確に賛成・反対を示さない人が
多いことがわかりました。

要するに、日本人は信条があいまいというか、
「どちらともいえない」的な人が多いということですね。

それで、上記の結果と子育ての厳しさとの関係ですが、
確信度が高い、すなわち明確な信条を持っている人ほど、
子育てが厳しいという傾向は日米とも同じでした。

明確な信条を持っているということは、
「こうすべき、こうすべきでない」という判断基準
がはっきりしていることを意味しますから、
良くも悪くも親の信条を子供にも押し付けることに
なるのは容易に推測できますね。

ただ、前述したように、日本、米国それぞれの国民全体
としてみた場合、米国人の方が信条に対する確信度が高い
わけです。

ですから、子供に対するしつけは、
米国のほうが日本よりも厳しくなるはずですね。

これは、他の調査によって裏付けられています。


このように、文化が人々に与える影響の大きさは
様々な切り口で検証されつつあります。

消費者の購買行動に対する文化の影響度合いに
ついても、さらなる研究の進展を期待したいですね。

私も折に触れ、紹介していきたいと思います。


『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』

投稿者 松尾 順 : 14:24 | コメント (1) | トラックバック

レピュテーション・マネジメントと「逆SEO」

「レピュテーション・マネジメント」とは、
ひとことで言えば、企業(組織)に対する好ましい
評判やイメージを構築・維持するための活動。

したがって、「企業ブランド」の構築・維持を
目的とするものと言い換えてもいいでしょう。


レピュテーション・マネジメントには、
大別すれば、「攻め」と「守り」があります。

「攻め」のレピュテーション・マネジメントは、
積極的に情報発信を行うことによって企業の評判を
形成していくものです。

広報的なアプローチとしては、
プレスリリースを流し、メディアに記事や番組として
取り上げもらうことですね。

これからは、公式アカウントのブログ、ツイッターや、
フェイスブックページを通じてのメッセージ発信、
一般消費者とのコミュニーションもますます重要に
なってくるでしょう。

また、広告的なアプローチは、企業広告を出して、
一般消費者や関係者に好意的なイメージを形成してもらう
いった活動が該当します。


一方、「守り」のレピュテーションマネジメントは、
誹謗中傷、根も葉もない噂などの風評・悪評対策です。

新聞、雑誌などの既存のマスメディアに対しては、
正確な情報の提供、謝罪・訂正文の掲載依頼、あるいは
究極的には訴訟に持ち込むといった手段が採用されて
きています。


悩ましいのはオンラインです。

既存の媒体企業等が運用しているオンライン・メディア
であれば、従来のやり方で対応できます。

しかし、悪意を持つ人が運営するWebサイトやブログ、
また、オープンな場(ツイッターなど)で消費者が
流し、広まった情報に対しては、従来のやり方はあまり
有効ではありません。

多くの場合、訂正や削除依頼を出す相手が不明であったり、
あるいは既に情報が拡散しすぎていて手がつけられない
からです。


とはいえ、放置しておくわけにはいきませんよね。

私たちは、商品を購入するとき、就職・転職先を探すとき、
株・債権を購入するときなどあらゆる状況において、
まず検索エンジンを用いて当該企業の情報を詳細に調べる
ようになってきています。

この時、悪口やネガティブな噂が上位にずらりと
並んだとしたら・・・

たとえ、それらが、明らかな悪意を持って流された情報
だとしても、それらを閲覧した人としては、当該企業に
対するイメージがダウンせざるを得ないでしょう。


そこで、とりあえずの対策としての

「逆SEOサービス」

を利用する企業がこのところ増加しているようです。

「逆SEOサービス」は、いわゆるSEO(サーチエンジン最適化)
の技術を活用して、ネガティブな情報を検索結果の上位に
表示させないようにするもの。

このサービスを提供している企業は既に相当数存在して
いますが、具体的には、少なくとも検索結果の1ページ目に
は表示させず、2ページ目、3ページ目とできるだけ後ろの
ページにネガティブな情報を追いやることを目標として
各種逆SEO対策を行なうようです。


今、‘とりあえず’の対策と書きましたが、
逆SEO対策は、端的に言えば「臭いものにフタ」をするだけ。

すなわち、とりあえず、ネガティブな情報をなるべく
見せないようにするだけなので、同時並行的に、そもそもの
悪臭源を絶つ取り組みが必要なのは言うまでもありません。


また、「火のないところに煙は立たず」と言うように、
なんらかの誹謗・中傷や、悪い噂が出てくるというのは、
やはり、企業(組織)内になんらかの問題がある可能性が
高いわけです。

ですから、外部の悪臭源だけでなく、
内部の腐ったリンゴを探し出し、取り除く必要もあります。
(難儀でしょうけど)

投稿者 松尾 順 : 13:07 | コメント (0) | トラックバック

オギノの購買データ活用とその進化

山梨県を基盤に、
約40店舗を展開するスーパー、オギノ。

オギノの強みは、顧客の購買データの分析と活用です。

同社のデータ分析の取り組みについては、
以前もこのメルマガ&ブログでご紹介しました。
(「データの行間を読む力」末尾参照)


オギノでは、山梨県内の世帯の9割をカバーしている
42万枚のポイントカードを通じた購買データが、
全売上の95%を占めています。

したがって、「どの世帯がいつ、何を買っているか」
をほぼ完全に把握することが可能になっているのです。


同社では、この購買データを元に、

「クラスター分析」

という手法を用いて顧客を20種類のグループに分類。

品揃えや販促は基本的に、
この独自の顧客分類法に基づいて行なわれています。
(もちろん、王道の「RFM分析」なども行なっていますが)


例えば「酒飲み世帯」という顧客層について、

「ビール離れ」

が起きている兆候が見られたことから、
購買データを掘り下げて分析してみると、
実際、スーパードライを愛飲していた人が、
発泡酒や第3のビールに移ったり、購入そのものを
止めていることがわかったそうです。

スーパードライのような通常のビールよりも、
単価の安いビール系アルコール飲料に流れるといった
傾向が続くと、「酒飲み世帯」の総購買金額の低下、
ひいては店舗の売上高低下につながる可能性があります。


そこで、具体的な打ち手として、オギノ独自の仕様となる
スーパードライの4缶パック(売価759円)をメーカーに
依頼して開発してもらいました。

これは、従来の6缶パック(売価1,099円)の1,000円を
超える値づけが、ビール離れを招いているかもしれないと
いう仮説に基づくもの。

結果的に、4缶パックは売れ行き好調となり、
酒飲み世帯について購入アイテムの分析を行なってみると、
発泡酒や第3のビールの購入比率が低下しており、
スーパードライに客が戻ってきていることが
確認できたそうです。

しかも、スーパードライに客が戻る流れの中で、
利益率がさらに高い1本売り、2本パックの売上も
同時に伸びていました。

結果として、スーパードライの全店売上高は
前年同時期比20%増となり、ビール系カテゴリーの売上
もプラスに転じています。


このように、オギノでは、豊富な購買データを用いて

・データ分析に基づく問題・課題の抽出
・上記問題・課題に対する仮説の立案
・仮説に基づく具体的な品揃えや販促施策の実行
・データ分析に基づく施策結果の検証

というPDCA(Plan-Do-Check-Action)を
文字通りきっちりと回しています。


さらに同店では、2009年から、
買い物カゴに無線ICタグを付けることで、
来店客の店内回遊状況をデータとして
収集しています。

ポイントカードとも組み合わせて、
購買データに加えて、どの客がどの売場に、
どのくらいの時間立ち寄ったかがわかるのです。

実際に分析した結果によれば、
例えば「雑貨売場」の立ち寄り率は低く、
購買金額も低いという課題が明らかになったため、
具体的な売場の改善策を進めています。


全国のスーパーの中で、
オギノほど顧客データの捕捉率が高く、
また十人分に分析・活用している小売企業は
極めて少ないのが現状です。

購買データ分析活用の先進事例として、
今後もウオッチしておきたい企業のひとつです。


以上は、日経情報ストラテジー(April 2011)の
記事を参考にしました。


「データの行間を読む力」

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

‘夜カフェ’の違和感

首都圏にお住まいの方にお聞きします!

今年1月から1都6県のコンビニで販売されてるキリンの

「夜カフェ」

のことご存知ですか?

飲んだことありますか?

夜カフェは、女性をターゲットとしたアルコール飲料です。
アルコール度数4%。紅茶、カフェラテの2種類の味わい。


当ブランドは、キリンとしては初めて、
TVコマーシャルを流さず、インターネットを活用した
「口コミ」による販促に取り組んでいます。

具体的には、ツイッターや雑誌の読者モデルのブログ、
フェイスブックなどを通じて情報を流しています。


しかし、日経産業新聞(2011/03/04)の記事によれば、
現時点では売れ行きはもうひとつのようです。

実際の購入者層は、女性比率が6割と男性を上回り、
また、飲酒回数の少ないライトユーザーが約7割
(同社平均4割)ということで狙ったターゲットの
トライアルにはまずまず成功しています。


しかし、取っ掛かりの「認知度」が
なかなか上がらないようです。

ある情報に触れたとき、
それを思わず人に話したくなる度合いのことを

「トークバリュー(Talk Value)」

と言いますが、

「紅茶のお酒」
「カフェラテのお酒」

とういう製品自体のコンセプトは残念ながら、
あまり「トークバリュー」は高くないですよね。

キャンペーンサイトの仕掛けもインパクト不足であり、
やはりトークバリューを生み出せてるとは言いがたい。
(批評するのは簡単ですね。ごめんなさい)


さて、「夜カフェ」のトークバリューが低い理由を
掘り下げて考えてみると、そもそも、

「お酒と、紅茶・カフェラテとのイメージの乖離が
 大きすぎるのではないか」

という仮説が立てられます。


キリンによれば、

「小容量のお酒を家でゆっくりと飲みたい」

という女性の需要に着目、リラックス効果の高い、
紅茶、カフェラテの味わいにしたそうですが。


しかし、お酒と紅茶・カフェラテの組み合わせって
なんか違和感あるのです。

正直、あんまり飲んでみたいと思わない。
(私は男性でメインターゲットじゃないんですけど)

あなたはどう感じますか。(特に女性の方に聞きたい)


お酒と紅茶・コーヒーは、どちらもリラックス効果が
ありますが実は質が違うんですね。


人の心理状態を以下の2軸で考えることがあります。

・覚醒水準:高い⇔低い
・緊張水準:高い⇔低い

覚醒水準とは、どれだけ意識がはっきりしているか
ということで、最も低い状態は寝ているとき。

一方、緊張水準は、精神がどれだけ張りつめているか。
緊張水準が低い状態をリラックス(弛緩)といいます。

それで、この2軸の組み合わせで4つの次元の心理状態
に分けるとすると次のようになりますね。

(1)覚醒水準:高 & 緊張水準:高

   危険な状態にあるとき、大舞台で上がって
   しまっているときなど

(2)覚醒水準:高 & 緊張水準:低

   瞑想中や、フロー状態に入っているときなど

(3)覚醒水準:低 & 緊張水準:高

   これは現実にはあまり起こらない状況
   (徹夜続きで仕事をしている状況が近いかも)

(4)覚醒水準:低 & 緊張水準:低

   お酒を飲んでいるとき、寝ているときなど


この次元で見ると明らかですが、
お酒のリラックスは(4)なのですね。

緊張を下げるだけでなく、
意識もぼんやりさせて心地よい気分を味わう。

一方、紅茶・コーヒーのリラックスは(2)です。
意識は明瞭だけど気持ちは緩んでいる。

余談ですが、(2)が最高の状態に達した時、
それを「フロー」とか、「ゾーンに入る」と言います。

よけいな力が抜けているけれど、意識は高いので、
理想的なパフォーマンスが発揮できる状態です。


本題に戻しましょう。

以上のことからおわかりのように、
お酒と紅茶・コーヒーを飲むときに人が
望むリラックス状態は明確に異なるのです。

まあ、理屈で説明すればこうなりますが、
私たちがなんとなく感じる違和感の根底には、
こういうことが感覚的にわかっているからでは
ないでしょうか。


さて、「夜カフェ」は、こうした本質的なお酒と
紅茶・カフェラテの相性の悪さを乗り越える
新たな価値を今後、示せるでしょうか?


キリン・夜カフェ(Webサイト)
http://www.kirin.co.jp/brands/yorucafe/index.html

投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (0) | トラックバック

脳波から、好き嫌い、喜怒哀楽を測定する!

昔、「ラブテスター」というおもちゃというか、
電子機器があったの知ってますか?

少年マガジンとかの裏表紙の通販ページに
よく掲載されていました。


この機械、楕円形をした2個の端子を友達の手に握らせて、

「ひろしクンは●●子さんが好きだろ?」

とか質問して、その答えがホントかウソかを
判定するマシーンです。

原理は、電圧を調べるテスターみたいなものです。

ウソをつくと冷や汗をかきやすくなり、
すると、手のひらの電気抵抗が低下して導電率が高くなり、
針が大きく振れるためウソだとわかるというもの。


ここだけの話、私、小学校高学年くらいの時、
購入した覚えがあるんですよね。

当時、警察の科学捜査について解説した本に凝っていて、
指紋の照合や、ウソ発見器の仕組みとかに興味があったのです。
(とすると、私がマーケティング・リサーチの仕事をするように
 なったのは、決して成り行きだけではないのでしょう。)


ラブテスターの仕組みは、警察のウソ発見器と原理はほぼ同じ。
それで、ついつい買ってしまったのだと思われます。

ただし、警察で採用(研究?)されていたものは、
脳波なども同時に調べて、被疑者の自白の真実性を
確認するものでした。


さて、時代は巡り、今や、脳波を測定することで
人の「好き嫌い」「喜怒哀楽」がかなり正確に、
かつリアルタイムで把握できるようになっています。

脳波を測定することで、
人の心理を読み取ろうとする試みは

「ニューロサイエンス(脳神経科学)」

の領域ですね。(ちなみに、マーケティングに
応用するのが「ニューロマーケティング」)


ニューロサイエンスには様々なアプローチが
ありますが、名古屋大学教授、中川匡弘氏の研究では、
脳波を測定することにより、

・好き・嫌い
・喜び
・怒り
・悲しさ
・楽しさ

といった多様な感情をビジュアルに
リアルタイム表示できるのが実に画期的!


先日のNHK『爆笑問題のニッポンの教養 (2011/1/3)』
では、田中裕二さんが被験者となり、いろんな対象物を
見せられた時の感情の変化を見ることができました。

例えば、彼が嫌いな椎茸を見せられた時は、
「嫌い」という感情がやはり明確に現れました。

また、ビキニ姿のロシア人美女が登場した時には、
最初は驚いて動揺したものの最後には大喜び。
(実に正直な人です)

大好きなネコを渡されたときも、
喜びの感情が明確に示されていました。

ただ、タイタンの社長、太田光代さんの写真を
見せられた時に、「嫌い」の感情が高い水準で
現れた時には田中さんも随分困ってました・・・
(実に正直な人です)

太田光さんが、中川教授と話しをしている中で、
「漫才がなくなるかもしれない」という話題に
なった時には、「哀しい」という感情が露わに。


この中川教授の研究、
すでに製品開発などにも応用されつつあります。

いわゆる「感性工学」の分野における取り組み。

コマーシャルを見た時の感情の動きなどの測定にも
既に応用が始まっているのかもしれません。

fMRIのようなおおげさなマシンを使わないし、
すぐに好き嫌い、喜怒哀楽といった基本的な感情要素が
読み取れるので、実用性は高そうです。


*中川教授が登場されたのは、

FILE39:「どんなココロも お見通し」

です。3月8日(火)午後4時~<BS2>で再放送あり!

投稿者 松尾 順 : 15:05 | コメント (0) | トラックバック

言語ゲームの達人になるには?

昨日の『メッセージ&コンテクスト』では、

“情報は、コンテキスト(文脈)次第で
いかようにでも解釈できるものです。”

ということを書きましたが、

「言葉は、文脈において初めて意味を持つ」

と主張した哲学者にウィトゲンシュタインがいます。


彼は、私たちが、コミュニケーションを行なう時、
お互いに言葉の意味を解釈しあっていることを

「言語ゲーム」

と呼びました。

この言語ゲームのルール、すなわち、
言葉の意味をどのように解釈するかは、

「生活様式」

とウィトゲンシュタインが呼んだ、
時や場所、状況によって決まってきます。

したがって、唯一のルール=解釈方法はありません。


ですから、言語ゲームにおいてうまく立ち回り、
有利にものごとを進めるためには、時、場所、状況を
すばやく理解し、相手の言葉の(真の)意味を
できるだけ的確に把握する必要があります。

これは、まさに「空気を読む」ことが
前提になると言えるでしょうね。


では、言語ゲームの達人になるには、
どうしたらいいでしょうか?

結局のところ、人の心の変化の中に潜む、
一定の法則性・パターンを学び理解すること。

そして、ビジネスの交渉、また日常の会話に
おいても同じですが、「言語ゲーム」に勝利した時、
逆に、思惑違いや誤解などが起きて「敗北」に
終わったケースの原因を深く掘り下げてみる

「内省」(後悔ではありませんよ)

を常に行なうことでしょうか。

ゲームなのですから、
学びと経験の両輪を回してスキルを
磨き上げていくしかないのですね。


*今回は、哲学で拓くBIZテク(日経産業新聞2011/03/01)
 の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:43 | コメント (0) | トラックバック

メッセージ&コンテクスト

この10年ほど、

マーケティングにおける'キーワード'

としてずっと頭に引っかかっているのが、

「コンテクスト(文脈)」

という言葉です。


『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』
 (佐々木俊尚著、ちくま新書)

には、次のような一節があります。


情報のノイズの海の中から、特定のコンテキストを
付与することによって新たな情報を生み出すという存在。
それがキューレーター。

あるアメリカ人のブロガーは、「コンテンツが王だった時代は
終わった。いまやキューレションが王だ」と書きました。

一次情報を発信することよりも、その情報が持つ意味、
その情報が持つ可能性、その情報が持つ
「あなただけにとっての価値」、そういうコンテキストを
付与できる存在の方が重要性を増してきているということなのです。

これはどういうことだかおわかりになりますか?
私なりにできるだけわかりやすく説明してみたいと思います。

最初から特定個人に向けられた情報は別として、
マスメディアやネットにあふれている情報のほとんどは、
基本的に「万人向け」の一般的な情報です。

キュレーターは、そうした情報を適宜組み合わせたり、
背景となる情報や一定の解釈を行なうこと、すなわち、
独自の「コンテキスト(文脈)」を付与することによって、
情報に「特定の価値」を生み出す作業を行なうのです。


この「特定の価値」は、
もはや万人向けではないかもしれません。

しかし、ある特定のセグメントの人々にとっては、
極めて高い価値のある情報となります。

すなわち、「あなただけにっての価値」になるというわけ。


そもそも、情報は、コンテクスト(文脈)次第で
いかようにでも解釈できるものです。

例えば、いわゆる「いいね!」という短い言葉ひとつとっても、

・誰に対して
・どんな発言に対して
・どんな背景や空気の中で

付けられたかよって、本来の「ポジティブな承認」であることも、
逆の「ネガティブな皮肉」にもなりえますよね。


ですから、なんらかの

「マーケティング・コミュニケーション」

を行おうとする際にも、
こちら側が送出したい「メッセージ」に加えて、
そのメッセージを取り巻く「コンテクスト」にも
十分に気を配らなければならないのです。

なぜなら、そうしたメッセージが受け手に
どのように解釈されるかは、「コンテキスト」
に大きな影響を受けるからです。


近年は、メッセージを出す前に、

「コンテクスト」

を積極的に生み出すことから取り組む施策も
増えてきています。

これは

『新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。』
(本田哲也著、アスキー新書)

で解説されている「空気をつくる」ということ
だと言えるでしょう。

また、2002年の

『ブランド戦略シナリオ-コンテクスト・ブランディング』
(阿久津聡、石田茂著、ダイヤモンド社)

においても、商品を売るための下地としての

「新たな文脈創造」

の方法が紹介されていました。


情報過多の今、情報の解釈は大変面倒なものになっています。

ですから、マーケティング・コミュニケーションが高い効果を
達成するためには、メッセージ本体に加えて、ますます
「コンテクスト」を重視しなければなりません。

私たちマーケターは、優れたキュレーターにならなければ
ならないということになりますかね。

『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』
 (佐々木俊尚著、ちくま新書)

『新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。』
(本田哲也著、アスキー新書)

『ブランド戦略シナリオ-コンテクスト・ブランディング』
(阿久津聡、石田茂著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 11:30 | コメント (0) | トラックバック