「ゴールデンライン」ならぬ「シルバーライン」

以前よく唱えられていた、

‘お客様のために(For the Customer)’

という考え方は、しばしば企業側の
独りよがりな製品・サービスの押し付けに
なることがあります。

そうではなく最近は、

‘お客様の立場で(from the customer's point of view)’

で考えるべきだと、
言われることが多いですね。


確かに、この主張は正しいと思います。

ただ、‘お客様の立場で’考えることは、
決して簡単なことではありません。

例えば、男性が女性の立場になって物事を
評価したり、判断できるようになるのは大変。

ユニ・チャームの創業者、高原慶一朗氏は、
自社製品の生理用ナプキンを自分で着用してみた
という話がありますが、そんな努力が必要なんですね。


また、高齢化社会へと突入した日本において、
高齢者に優しい製品・サービスの開発が不可欠ですが、
若い人が

「高齢者の立場」

で考えるのも容易ではありません。

私自身、いわゆる「老眼」を実感する最近になって初めて、
小さい字を読む「つらさ」が理解できるようになってきました。


結局のところ、‘お客様の立場’で考えられるように
なるためには、ユニ・チャームの高原氏のように、
お客様の持つ具体的な特性や状況を疑似体験してみるのが
最も有効です。

食品スーパーのマルエツでは、
視野が狭くなる「白内障ゴーグル」を装着したり、
おもりを体につけるなどして、
自店内で買い物をしてみる、

「高齢者疑似体験」

を売場に出る店長からアルバイトまで16,000人を
対象に実施。この体験からの「気づき」を元に、
改善提案を募集しました。

これまで300件の提案が寄せられ、
各店で様々な取り組みが行なわれているそうです。


例えば、100円均一のお菓子売場の「陳列方法」は、
従来は大容量のものを下段に、
上段にいくほど少容量のお菓子を並べていました。

この方法は、「見栄え」を優先した陳列でした。

しかし、高齢者は高いところに手が伸ばしにくいこと、
視線が下方向に行きがちなことを発見。

これは、背が曲がり始め、また肩関節の可動領域が
狭くなって、手を高くあげることが困難になりつつある
高齢者だからこそ起きることでしょう。

そこで、高齢者が好む和風や小袋の商品を
最下段に置き、大容量のポテトチップを最上段に
置くなど、商品陳列を上下入れ替えています。

同様の商品陳列の入れ替えは、
他の売場でも実施されたそうです。

結果として、目に見える販売促進効果が
あったとのこと。


従来、目線の高さにある棚は、

「ゴールデンライン」

と呼ばれ、最も商品が手に取られやすく、
売れやすいため、ゴールデンラインには
売れ筋商品が並べられていました。

しかし、高齢者が
メインターゲットのお店ではもはや、

「ゴールデンラインの法則」

は通用しない可能性が高いわけです。


一方、マルエツでは、最下段を

「シルバーライン」

と呼んでいます。

そして、シルバーラインには、
高齢者向けの商品を配置する工夫を
行なっているというわけです。


「疑似体験」で得られるような気づきは、
アンケートやインタビュー調査などを通じて、

「言葉で聴き、言葉で答えてもらう方法」

ではなかなか得られないもの。

「行動観察」と並んで、

「対象顧客の疑似体験」

もまた、消費者についての有益な

「洞察」=「インサイト」

を発見する手段としてもっと活用すべきでしょう。


*マルエツのケースは、
 日経MJ(2012/08/03)の記事から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 2012年08月03日 09:29

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