「振り返る自己」が楽しむ「ノスタルジック消費」

スポーツクラブNASが、
今年(2012年)8月1日に開業した「西日暮里店」には、

「元気横丁」

と呼ばれる交流スペースが最上階に設けられています。


「元気横丁」は、ひとことで言えば、
『Always 3丁目の夕日』の世界を再現したもの。

昔ながらの喫茶店。スナック風のカラオケルーム。
駄菓子屋。『ローマの休日』などが楽しめる映画館など、
高度成長期の昭和の雰囲気が楽しめる。


スポーツクラブが、
こうした施設を併設するのは珍しいですね。

ただ、スポーツクラブの収益を支える基盤と
なっているのは、まるで「集会場」のような感覚で
毎日通ってくれる

「シニア層」

です。

シニア層の会員を獲得し、維持するために、
「元気横丁」は、一定の効果を発揮するのではないでしょうか。

なぜなら、彼らは、元気横丁に行くことで、
昔の思い出に浸り、束の間の「幸福感」を味わうこと
ができるからです。


さて、行動経済学などの研究によれば、

「幸福感」

については、2つの視点で考える必要があります。

2つの視点とは、

・「経験する自己」(experiencing self)
・「思いだす自己」(remembering self)

です。

経験する自己とは、今この瞬間に経験していることを
自分がどう感じているか、ということ。

例えば、お風呂の湯船の中でくつろいでいるとき、
一種の「幸福感」がありますよね。

また、好きな趣味やゲームに夢中になっているとき、
やはり、幸せな時を過ごしている。

こうしたものが「経験する自己」です。


一方、「振り返る自己」は文字通り、
過去を振り返り、一定の期間について
「幸福」を感じるもの。

例えば、楽しかった学生時代。
スポーツや芸術など、なんらかの分野で
がんばって、1位になるとか、賞をもらった
ことなど。


もちろん、誰の過去においても、
楽しい思い出ばかりではなく、
多くのつらい状況も「経験」してきているはず。

それでも、今現在生きているということは、
それらを乗り越えてきたわけですから、
総括すれば「幸福だった」と感じる過去と
して保持するのが、私たちの記憶のメカニズムです。


このように、経験する自己と振り返る自己が
感じる「幸福感」は種類が異なるもの。

ですから、マーケターとしては、
この2つの視点を元に、対象顧客に対して
提供すべき「幸福感」が何かを考えることは、
とても有益でしょう。

観終った後、気分が爽快になるアクション映画や、
夢中で楽しめるゲーム、癒しを与えてくれる
マッサージ器具やアロマ、ヨガといった
製品・サービスは、

「経験する自己」

に与えることができる「幸せ感」ですね。

一方、スポーツクラブNASの「元気横丁」は、
昭和時代のセッティングによって、

「振り返る自己」

が得る「幸福感」を創出できる仕組みです。


理想を言えば、経験する自己、振り返る自己の
両方に同時に「幸福感」を与えられるほうがいい。

スポーツクラブNASでは、
メインの「フィットネスサービス」を通じて、
「経験する自己」に対する幸福感を与えることが
できるのですが、「元気横丁」を併設することで、
さらに、「振り返る自己」の幸福感をも与えること
を可能にしていると考えられます。

ビールやチョコレートを始めとする製品でも、
しばしば、昔のパッケージデザインをあしらった

「復刻版」

が登場しますが、これは、「経験する自己」と
「振り返る自己」の両方にアピールするからこそ、
消費者に注目され、一定の売上を上げることが
できるわけです。


私は、「思いだす自己」が幸福を味わうために
行なう消費のことを

「ノスタルジック消費」

と呼んでいます。

すなわち、懐かしさを味わうことを
第一目的に、製品やサービスを購入することが、
「ノスタルジック消費」です。

そして、高齢化社会においては、

「ノスタルジック消費」

の重要性が高まると考えられます。

なぜなら、年齢を重ねると、「経験する自己」が
味わうことのできる幸福感はおおむね減少していくから。

体力・意欲がどうしても低下するため、
楽しい経験を求めて、積極的に行動することが
あまりできなくなるからです。

だからこそ、より一層、「昔は良かったなあ」という
「振り返る自己」が味わえる幸福感が大事になっていく。

ですから、高齢化が進展する日本において、
思いだす自己」が楽しめる「ノスタルジック消費」
へのニーズはますます高まるのではないかと思うのです。

投稿者 松尾 順 : 2012年08月06日 10:52

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