ありふれた「コモディティ」にも常に革新の余地はある!

コモディティ(ありふれた汎用品)でも、
まだまだ革新の余地がいくらでもあることを
実感させられるのが、バルミューダの高級扇風機、

「グリーンファン(GreenFan)」

です。


2010年に初めて登場した「グリーンファン」は、
3万円を超える価格でした。2011年に発売された
小型化バージョン「グリーンファンミニ」も2万円台。

それでも、「自然風」のような優しい風が評価され、
飛ぶように売れました。

現在も堅調に売れ続けています。


バルミューダ社長、寺尾玄氏によれば、

「高級扇風機」

を開発することは、

「理詰めの決断」

だったそうです。

具体的には、

・冷房器具は必需品である
・地球温暖化の影響で需要はますます高まるだろう
・そして、省エネが叫ばれる時代、エアコンに代わるもの
 として扇風機の人気はたかまるだろう

といったことが開発を決断した理由です。

昨年は、震災後の福島原発事故により、
電力不足が懸念され、全国的に節電が推進されたことは、
同社にとってはまさに「追い風」となったようです。


さて、まるで自然風のような風が作れる

「グリーンファン」

に寺尾氏が取り組むきっかけは、
取引先の工場に行った際、扇風機を工場の壁に
向けて回していたのを見たことでした。

その工場では、扇風機の風を直接当てるのではなく、
壁に当てて一度バウンドさせて人に当たるように
していたのです。

なぜかと聞くと、

「扇風機の風は気持ちよくないから」

という答え。

寺尾氏が研究してみると、
従来の扇風機は、ファンで空気を切り取り、
渦を巻く「旋回風」を前方に送り出す仕組みのため、
肌に刺さるような硬さがあることがわかったのです。

これは、風の「弾丸」を受け続けているような
ものと言えるかもしれませんね。

実際、従来の扇風機にずっと当たり続けていると、
だんだんつらくなってくるものです。

そこで、グリーンファンでは、
ファンの形状を工夫し、風がふわっと広がって
「面」で人に当たるような仕組みになっています。

おかげで、自然のそよ風のような心地よさを
感じることができるわけです。

なお、グリーンファンには、風の心地よさに加えて、
静音性、省電力性といったメリットもあったことが、
高価格でも爆発的に売れた要因でしょう。


それにしても、今や扇風機なんて
1,000-2,000円くらいから買えるありふれた製品、
すなわち、

「コモディティ」(汎用品)

であり、ほとんど革新の余地はなさそうに思えます。

少なくとも、消費者の多くはそう考えています。

「まあ扇風機はこんなもんだろう」

と疑問を持たなくなってしまっている。

どのメーカーも大差ないと思い込んでしまっている。

言われて見れば、
確かに従来の扇風機の風は気持ちよくない。

しかし、自然の風とは違うとわかっているし、
そもそも「心地よい風」が出る扇風機を体験して
いない時点では、扇風機に対するそんな不満は

「顕在化」

しないものです。

したがって、おそらく消費者に対して、

「どんな扇風機が欲しいですか?」

と聞いたところで、

「省エネ」や「音が静か」

といった、既存の扇風機が、
既にある程度実現している機能や性能の延長、
改善点しか出てこないでしょう。


ですから、新製品開発担当者としては、
寺尾氏が、工場の壁に向けて扇風機が回っていたこと
に目を留めたように、日々の生活の中でものごとを
注意深く観察し、

「マイナーな兆し(行動)」

を目ざとく見つけ、それを新製品のヒントとして
拾い上げることが必要なのです。


バルミューダでは、
新製品開発に当たって、いわゆる

「マーケティングリサーチ」

は行なわないとのこと。

寺尾氏は以下のように述べています。(a)

「必要とされているものは、日本で暮らす以上、
 自身で感じ取らなければならない。人に言われる前、
 調査結果が出る前に自分自身で感じ取れないのであれば、
 リサーチャーとしての資格はないのではないかと思う。」

「ブレークスルーは“消費者の声”からは生まれにくい。
 消費者はあくまでも今あるものに対する意見を出すもので、
 ないものを生み出すのが自分たちの仕事。まず自分たち
 自身がユーザーであるという視点に立ちながら、自分たち
 の感覚を信じ、こんなものがあればすごい、という
 プロダクツを思いつき、開発にまい進する。その代わり、
 その感覚が受け入れられなければ…というリスクは常にある。」

ダイソンのファンのない扇風機、

「エアマルチプライヤー」

も革新的な製品ですが、やはり、

「消費者の声」

を直接聞いて生まれたものではないでしょう。


寺尾氏は

「自分はできる」

と信じてとことん真剣に取り組むことで
道は開けると考えています。


「どうせありふれた製品だから」
「高いと売れるわけないよ」

などと固定観念にとらわれず、

「どこかに革新のヒントが必ずあるはずだ」

という強い信念を持つことが、
新製品開発には最も必要なことなのかもしれません。


*当記事は、

・日経ビジネスアソシエ(2012.10)のインタビュー記事

・売り切れ目前の扇風機「GreenFan2」を生んだバルミューダ
 は何をしたのか(日経トレンディネット、2011/05/24)
 

・風を変えることに成功したバルミューダ代表寺尾玄氏に迫る
 (My VAIO MAGAZINE)
 

などを参考にしました。

*引用文(a)は、日経トレンディネットの記事からです。

投稿者 松尾 順 : 2012年09月10日 11:44

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