地道なコミュニケーションがCRMの本質

お客さまとの信頼関係は、
楽に手っ取り早く形成することはできません。

たとえすぐに結果が出なくても、
地道に手間をかけ、お客さまとの丁寧な
コミュニケーションを継続することで、
揺るがぬ信頼関係とそれを土台とする
安定収益が得られるのです。

これがCRMの本質でもあります。

-------------

私はいつも新しいお店に行ってみたいほうなので、
最近の10年で、ずっと通っている飲食店は広尾に
ある1軒(以下「広尾店」)だけです。

広尾店は、高級店ではありません。
そこそこ手頃な値段でおいしい料理が楽しめます。

店内の雰囲気、また接客サービスも心地よく、
接待にも利用しています。

ただ、そうしたことだけで、
私は広尾店のリピーターになっているわけ
ではないんですね。

結局、毎年、年に2-3回届く

「ハガキDM」

の効果なんだろうと思います。

手書きで書かれた宛名。

そして、裏面には、素朴な印象を与える印刷で
その時々の季節の新メニューの案内が紹介されており、
また行きたいという気持ちを高めてくれます。

広尾店は、看板も目立たなくしてあり、
しかも「何屋」かわからないので、
一見さんが入ることはまずありません。

したがって、新規客は、既存客に連れてこられた
友人知人、あるいは紹介を通じて獲得。

そして、ハガキDMが、
リピート客育成の最大の武器となっています。

おそらくDMは毎回数千通出していて、
宛名書きが大変だと思います。

しかし、そのおかげで宣伝することもなく、
固定客に支えられて安定した売上を確保している
ようです。

さて、大阪府泉佐野市の老舗和食店

「割烹 松屋」

では、やはり「ハガキDM」を地道に出し続ける
ことで、バブル経済崩壊後の落ち込みから回復し、
安定した業績を維持しています。

同店では、保有している顧客6,000人分の情報を

・1年以内の来店客
・2年以内の来店客
・その他

の3つのカテゴリーに分類。

1-2年以内の来店客を中心に、
毎月少なくとも1,000枚から、多いときには
3,000枚のハガキを送っているとのこと。

宛名やコメントはすべて手書きなので、
スタッフ全員で手分けしています。

同店の取り組みとして面白いのは、
誕生日や記念日向けの特別コースの案内や、
年4回の商品紹介以外のDMでは、
前回の来店のお礼や時候の挨拶しか書かないこと。

なぜなら、ハガキの役割を

「お客さまとの信頼関係を築き、保つため」

と割り切っているからです。

顧客情報は、
来店時のアンケートから得ていますが、

・誕生日
・記念日
・好きな飲み物・食べ物
・苦手な食材(アレルギー含む)

といった情報に基づいた、
お客さま一人ひとりにカスタマイズされた
コメントを盛り込んでいます。

また、記念日向けなどの「特別コース」に
ついては、そのお客さまの苦手な食材を
除いたものを提案するところまで踏み込んで
いるそうです。

こうしたハガキDM始めるのは簡単ですが、
続けるのが難しいのが現実ですね。

即効性のある販促策ではないからです。

実際、松屋の2代目店主、浜田憲司氏は、

「最もつらかったのは、結果が出ないときに
 アンケートを取り、はがきを書き続けること
 だった」

と述べています。

しかし、うまく回り始めると、
松屋も、また私が通ってる広尾店もそうですが、
広告・販促に依存しすぎる必要がなくなります。

また、固定客率が高いため、あらかじめ毎月の売上
が読めるくらい、安定した業績を実現できるのです。


松屋も広尾店もどちらも、いわゆる

「CRM(Customer Relationship Mamagement」

を実践し、成功していると言えます。

一方、CRMに失敗するケースは、

・顧客情報を統合しデータベース化すること
・どうやってコミュニケーションするか
 (主にメディアやツールを重視)

に意識が行きすぎ、

・お客さまの「信頼」、また「好意」を獲得するために
 何を伝えるべきか(すなわちコンテンツ自体を重視
 すること)

というCRMの本質を忘れているからです。

私たちは、広尾店や松屋、またこれまでも
何度か紹介した

「でんかのヤマグチ」

の顧客コミュニケーションの方法に、
おおいに学びたいものです。


*松屋については、日経MJ(2012/10/24)の記事を
 参考にしました。

*高値売りの「でんかのヤマグチ」

投稿者 松尾 順 : 11:07 | コメント (0) | トラックバック

「情報価値」を高める

製品・サービス単体での差別化が困難な今、
製品・サービスの「選定プロセス」や
「消費・利用」をより賢く、より楽しくできる

「情報」

を様々なチャネル・ツールを通じて提供することが、
ますます重要なマーケティングになりつつあります。

-------------

現在は、あらゆる商品カテゴリーにおいて、

「コモディティ化」

が進行していると言えますね。

コモディティ化とは、
競合する製品・サービス本体が持つ機能や性能、
品質における違いがほとんどなく、

「消費者の直接的な欲求を充足させる」

ということについては、
どの製品を選んでも大差がないと
感じられる状況のことです。

コモディティ化が進むと、
もはや価格競争をするしかありません。

したがって、企業としては旨みの少ない
事業分野となっていきます。

もちろん、先日の記事で取り上げた、
自然風を作り出すことができる扇風機や、
ファンのない扇風機が開発され、
高価格でも好調に売れているように、

「コモディティ(製品)」

と思われていたカテゴリーにおいても、
イノベーションの余地はまだまだあるでしょう。


ただ、「イノベーションを起こせ」と言うは
易しですが、そんなに簡単に生まれるものではない。

とにもかくにも、イノベーションの取り組みは
続けるとして、今、コモディティと思われる製品
カテゴリーにおいて、競合と差別化できる工夫が
あるとしたら、それは、

「情報価値」

を高めることでしょう。


先ほど、

「消費者の直接的な欲求を充足させる」

と書きましたが、
例えば「外食」は、私たちの

「食欲を充たしたい」

という直接的な欲求を充足させるだけでなく、
外食先であるレストランなり居酒屋を選ぶ楽しみや、
お店の雰囲気やサービス同席者との会話を楽しむ
といった副次的な欲求を充たしてくれます。

そして、「高級レストラン」を
外食先に選ぶ場合には、

「食欲を充たしたい」

はむしろ副次的な欲求となり、

・セレブな雰囲気にひたりたい
・メニューやワインについてのうんちくを語りたい

といったものが重要な欲求になるでしょう。


このように、私たちは、なんらかの製品・サービスを
選択・利用するにあたって、複数の欲求を充足しようと
するものですが、近年の消費行動として顕著なのは、
直接的な欲求充足よりも、

・商品を選ぶプロセスを楽しみたい

・商品「を」購入することより、
 商品「で」 あれこれ楽しみたい。

 (関連した情報を知ることで使う楽しみが増したり、
  仲間との交流が深まるようなこと)


という欲求が高まっていることです。

これは、端的には

「自己充足的消費」

あるいは

「快楽消費」

とも呼ばれているものが含まれます。


そして、こうした消費を可能にするのが、
企業が消費者に対して提供できる「付加価値」
としての

「情報」

なのです。

具体的には、

・自社が扱う製品カテゴリーの歴史や
 知られざる秘話・逸話

・製品の部品や原材料にまつわる興味深い話

・賢い製品の選び方(選定基準)

・製品をより楽しむノウハウ

・楽しく使いこなしているユーザーの声

など、製品の仕様や特徴を伝える情報(「製品情報」)
とは異なる、

消費者にとって価値ある情報

を提供する。

こうした価値ある情報を得た消費者は、
その情報を提供する企業に対する信頼と好意が
高まり、最終的にその企業の製品・サービスを
優先的に選択・購入してくれる確率が高まるのです。


ところが、残念なことに、いまだ多くの企業は
とかく短期志向で、すぐに成果を出したいと

「製品情報」

あるいは、販促のための

「キャンペーン情報」

ばかり消費者に大量に押し付けてしまっています。

その結果、逆に消費者に忌避され、
ますます売れなくなってしまっています。

「製品情報」「キャンペーン情報」は、
企業にとっては価値ある情報でしょう。

しかし、消費者にとっては
それほど価値が高いわけではありません。
(いますぐその製品を購入したい人を除いては)


消費者はそれ以前に知りたい情報があるのです。

それは、冒頭に書いたように、

・製品・サービスの「選定プロセス」や「消費・利用」
 をより賢く、より楽しくすることのできる「情報」

なのです。

もちろん、そうした「情報」の提供についても、
競合が追随することができますし、競争優位性を
維持するのは簡単ではありません。

それでも、「価値ある情報の提供」は、
物理的な制約のある製品・サービス本体における
差別化よりもはるかに制約が少なく、多様な展開が
可能です。

しかも、消費者とのコミュニケーションは、
インターネット登場以降、多様化しています。

さまざまなチャネル、ツールが活用できる。


消費者に喜ばれる「情報価値」を高めることは、、
今後のマーケティングにおける最も重要な取り組み
 課題だと私は確信しています。

投稿者 松尾 順 : 14:12 | コメント (1) | トラックバック

「カチッ・サー理論」で、でんかのヤマグチを読み解く

マスコミでも頻繁に取り上げられる
驚異の街の電器屋さん、

「でんかのヤマグチ」

のことは、私のメルマガ&ブログでも
何度か紹介していますが。


同店の最新の状況は、
販促会議(2011年2月号)の記事で
把握することができます。

町田市郊外にある、
売場面積500平方メートルの同店の年商は
12億8800万円(2010年3月期)。

従業員数は42人(うちパート8人)です。

粗利益率はなんと38.9%!
年々粗利益率が高まっているようです。

これだけの粗利を取るわけですから、
店頭販売価格は、近隣の大手家電量販店よりも
数万円高い。カカクコムの最安値と比較したら、
2倍近くになることもあるようです。


また、同店はパナソニック系列店として、

「ハイビジョンテレビを一番売る店」

なのだそうです。


さて、同社が成功するきっかけとなった
最初の要因は、

「お客がうちを選ぶのではなく、
 うちがお客を選ぶ」

という戦略転換にあります。

同店のきめ細かなサービスを喜び、
繰り返し買ってくれる顧客にターゲット
を絞り込んでいるのです。

具体的には過去5年間、
商品を購入していない顧客を削除しており、
現在の顧客リストの数は12,000人です。

以前の記事によれば、
戦略転換前の顧客リスト数は3万4千人
だったそうですから、現在は3分の1以下まで
減らしたわけですね。


では、でんかのヤマグチが成功し続けている
最大の要因と考えられる点を、
「カチッ・サー理論」で読み解いてみましょう。

「カチッ・サー理論」は、お客さんが
自然に財布の紐をゆるめてくれるような
心理的スイッチをまとめたものです。
(詳細は末尾の記事URL参照)


実は、同店が活用している「カチッ・サー理論」は、
徹底した「返報性」だと考えられるのです。

「返報性」とは受けた恩義に対しては、
将来報いなければならないという心理のこと。

まず、同店では土・日にお客さんを
呼んで旬の特産品を無料プレゼントしています。

例えば、11月は「だんしゃく祭り」。

男爵いも、たまねぎそれぞれ2キロを
お客さんに持ち帰ってもらいます。

お店では、いもをゆで、塩、バター、キムチ
などを用意して、その場で食べてもらえるように
設営してあります。

過去32年間にわたって続けているこのイベント。
月5回開催して、1回あたり400世帯が来店するそうです。


また、同店は、
無料でモノを提供するだけではありません。

本業とは関係のないこと、また直接売上につながらない
ことでも、お客さんが困っていること、望んでいること
なら、営業担当者が喜んでやってあげる。

同店では、こうしたサービスを

「裏サービス」

と呼んでいます。

ちなみに、先日ご紹介した電器屋チェーン、
「セブンプラザ」では、同様のサービスを
「めんどうみ活動」と呼んでいますね。

同店では、電球の取り替えなどは当然として、
犬の散歩とか、留守番、そして、最近、包丁を研いで
あげたら好評だったとのことで、昨年10月から、
営業担当者は全員、「包丁研ぎ」を持ち歩いている
そうです。


こうして、とことんお客様のために尽くす。

すなわち、商品を売る前に、
たっぷりの「恩」をお客さんに売っているわけです。

結果として、お客さんとの絆が深まり、
同店の商品を喜んで買ってくれる。


返報性って、考えてみれば、
昔から言われてきた「先義後利」なんですよね。

ただ、利益をまず前提として考える企業では、
「まずお客さんに尽くす」ということがなかなか
実行に移せません。

大手企業では規模的に、また人的サービスの点から
みてもまず無理です。

しかし、顧客を思い切って絞り込める
中小規模なら対応可能です。

中小企業の生き残りのカギは、
カチッ・サー理論の中でもとりわけ

「返報性」

を重視することなのかもしれません。


『街の電器屋さんの復活』

『‘めんどうみ活動’に見る関係づくりの目的化』

『カチッ・サー理論とは?』

投稿者 松尾 順 : 16:51 | コメント (0) | トラックバック

‘めんどうみ活動’に見る関係づくりの目的化

「CRM(Customer Relathiship Management)」

については様々な定義がありますが、
顧客接点の現場においては、

「顧客との関係づくり」

をすることによって「販売」に結びつける、
という説明が一番、わかりやすいものでしょう。


従来のように、お客さんが誰であれ、

「自社が売りたいものを売りつける」

というのではなく、
顧客のニーズをしっかり聴き、
顧客にとって最善の提案をすることで
信頼を培いつつ、モノを売る。

上記の考え方では、当然ながら、
「関係づくり」が手段であり「販売」が目的です。


ところが、近年ではさらに‘進化’してというか、
「関係づくり」自体を目的とする企業が登場しています。

つまり、(営業)スタッフは、
お客さんが困っていること、役に立つことなら、
本業と関係のないことでも喜んでやってあげる。

こうしてお客さんとの関係を深めることで、
お客さんは進んでそのスタッフからモノを買う。

ここでは、

「販売」-むしろ「購入」と言ったほうがいい-

が手段化しています。


すなわち、お客さんはスタッフとの関係を
維持するために、他店より割高でも、喜んで
「購入」してくれるというわけです。


こんなお店の具体例として有名なのは、
東京・町田市の電器屋さん、「でんかのヤマグチ」です。

でんかのヤマグチは、

「遠くの親戚より近くのヤマグチ」

と言われるほど顧客から頼りにされており、
留守番や犬の散歩をお願いされることもあるとか。

結果として、カカクコムの最安値と比較したら
2倍近くにもなる家電製品が売れるのです。


実は、でんかのヤマグチのようなお店が
ほかにもあったんですね。

パナソニックの系列販売店チェーン

「セブンプラザ」

でも、スタッフは「売らなくていい」のです。

むしろ、顧客のために徹頭徹尾働くことを
重視しています。

家電製品の設置や操作方法の説明、
アフターサービスにきめ細かい対応を
するだけでなく、

「牛乳買って来て」
「ケガしたから代わりに料理して」

といった依頼にも対応する。


同店ではこうした顧客のための活動のことを

「めんどうみ活動」

と呼んでいます。

スタッフの評価も、売上ではなく、
「めんどうみ活動」をどのくらいきちんと
やったかで行なわれるのだそうです。

こうして、近くの大手量販店に行けば、
はるかに安く買える製品が売れていく。

お客さんが進んで購入してくれます。

そして、粗利益はでんかのヤマグチ並み
の30%後半を達成しているのです。


現在、セブンプラザの加盟店は50店舗ほど。

加盟前は赤字で苦しんでいたお店が8割を
占めていたそうですが、加盟後は9割が
黒字転換しているとのこと。


このような関係づくりに力を入れる、
言い換えるとサービスを最重視するお店が
成立する背景には、近年の製品の高度化・複雑化と、
高齢化が進んでいることがありそうです。

しかし、この環境変化は多くの業界に
共通していることですね。

とすれば、セブンプラザ、
またでんかのヤマグチのように、
「関係づくり」自体を目的化する取り組みは、
今後のマーケティング&セールスのあり方に
大きな示唆を与えているのかもしれません。


*セブンプラザについての出所:
日経ビジネス(2011.1.10)特集“非効率経営”の時代

投稿者 松尾 順 : 11:42 | コメント (0) | トラックバック

既存客への投資

「釣った魚にはエサをやらない」

すなわち、購入してくれるまでは、
熱心に見込み客にアプローチするけれど、
顧客になったとたん見向きもしなくなり、
新たな見込み客のハンティングに執心する。

これは、いまだ多くの企業における
営業・マーケティング活動の実態でしょう。


もちろん、近年は、

CRM(Customer Relationship Management)

の思想や、CRMを実行可能にする
顧客統合データベースなどのITシステム
の浸透によって、

「釣った魚にも十分にエサを与える」

こと、つまり、既存客との関係性を
深めることで安定した収益につなげている
企業も増えてきてはいますが。


留意すべきなのは、

「顧客第一主義」

といったスローガンを掲げて、
どんなに強くCRMの重要性を社内に訴え、
また、最新型のCRMシステムを導入しようと、
営業やサービス部門など、顧客接点の最前線
にいる人たちの実際の行動が変わらなければ
成果にはつながらないということです。


では、どうやって最前線の人たちの
実際の行動を変えたらいいのでしょうか?

一番効果的なのは、
評価体系を変更することですね。


例えば、資生堂の場合では、
美容部員の販売ノルマをなくし、

「顧客満足度」

を核とした評価体系に変更しています。

これによって、
製品をガンガン売ることではなく、
お客様に満足していただけるような
接客サービスに自然と力が入るよう
になります。

もちろん、接客サービスの向上が、
結果的に販売にもつながるという
ロジックですが。


中古車買い取り事業の

ガリバーインターナショナル

でも、09年4月頃から、
興味深い評価体系を導入しています。
(日経情報ストラテジー、FEBRUARY 2010)


同社では、

「SP-PRO=スマートカーライフプランナープロ」

という営業担当職を新設しました。

彼らは、毎月20件くらいまでは
来店客(新規客)の対応ができます。


しかし、それ以外は、
過去の取引客からの紹介を通じて
商談しなければならないということに
なっています。

ただし、紹介を通じた販売については、
来店した新規客に対する販売の2倍の評価を
与えるのだそうです。

たとえば、紹介で10台販売したら、
新規販売20台分の販売実績と同等とみなし、
給料にも反映されます。


ですから、SP-PROの人たちは、
これから取引するお客様に対して、
「売ること」ではなく、むしろ喜んで
いただくこと、信頼を得ることに尽力する
でしょうし、既存客との関係性を深めるため、
フォローサービスにも身が入るようになると
いうわけです。


同社代表取締役会長、羽場兼市氏も
認めていますが、この仕組みは、


「非効率」

なやりかたではあります。
(あくまで短期的には)


なぜなら、一つの商談に十分な時間を
かけるようになるでしょうし、目先の売上げ
にはなりにくいフォローサービスに、より多く
の時間を割くことになるからです。


しかし、この仕組みの狙いは、

“5年、10年先にはSP-PROの力が
 大きく発揮されているだろうと思います”
 (羽鳥氏)

ということなのです。


すなわち、長期的なリターンを狙う

「既存客への投資」

を行っているのが、
SP-PROだと言えます。


実は、いわゆる
CRMに成功している企業の共通点は

「既存客への投資」

に踏み切り、
その成果が顕在化してくるまでの
およそ5-10年の間、

目先の業績向上

を我慢した点にあります。


既存客への投資は、
当初は販売実績の停滞や利益率の低下
にどうしてもつながりやすい。

したがって、目先の効率を犠牲にしても、
顧客サービスに力を入れる企業体制の
構築を主導できるのは経営トップだけです。


ガリバーの例、また資生堂の例も同様ですが、
CRMへの成功には、経営トップの強い意志が、
不可欠だということを痛感せざるをえません。

投稿者 松尾 順 : 11:24 | コメント (2) | トラックバック

CRMと次世代マーケティングプラットフォーム

「CRM」(Customer Relationship Management)

が最初に注目を浴びた90年代後半、私は、

『CRMをひとことで表現するなら、

‘IT-supported Communication’

 である。

 すなわち、「情報技術」の支援を受けて行われる
 コミュニケーション活動がCRMである。』

と言う説明をしていました。


CRMの直接の目的は、

顧客1人ひとりの深い理解に基づく良好な関係形成

です。

そして、その究極の目的(すなわちビジネス上の目的)は、

「顧客生涯価値」

の拡大にあります。

つまり、市場シェアよりも、

「顧客シェア」(財布シェア)

にフォーカスします。


さて、CRM的な関係形成は、基本的には

カスタマイズされたコミュニケーション

を通じて行うべきものでしょう。


なぜなら、

[1:多]

のマスコミュニケーション的なものではなく、

[1:1]

の関係において行われる、

パーソナル・コミュニケーション

でなければ、

「顧客愛顧」(ロイヤルティ)

を勝ち取ることはできないからです。


この点において、CRMの原型は、
以前から再三指摘されてきていますが、

個人商店と買物客との間で行われるコミュニケーション

にあります。


買物客の購買行動や嗜好、家族構成などを
抜群の記憶力で覚えている店のオヤジさん、オカミさんが、
買物客に対して適切な提案を行うことで、
固定客を増やし、購買頻度、購買単価を引き上げている
という話です。


しかし、対象となる顧客が、数百人くらいまでは
個人の脳力でなんとかカバーできますが数千人、数万人、
数百万人となると、もはや人力での対応が不可能になってきます。

そこで、ITの助けを借りるしかなくなってくるわけです。

すなわち、脳の記憶を補完するデータベース、
そして適切な提案(レコメンデーション)を可能にする各種
アプリケーションを導入して、人力では対応不可能な多数の顧客の
1人ひとりに対してできる限り個別(に見える)コミュニケーション
を行う仕組みを構築する。

これが現代のCRMであり、私が

「IT-supported Communication」

と表現した理由です。


さて、時事通信編集委員、湯川鶴章氏は最新刊、

『次世代マーケティングプラットフォーム』

において、CRMという言葉は使っていないものの
同様の主張をされています。

“わたしはこれまでの取材活動を通じて、
 「IT革命の本質の一つは、20世紀後半のマス文化の中で
 失われたきめ細かなサービスを、テクノロジーの力を
 持って取り戻すことだ」と考えるようになった。”


まさにその通りですね。

90年代後半の時点では、
CRMが実際の業務にどの程度まで応用され、
どのくらいの効果を上げるのか、
まだはっきりとは見えていませんでした。

しかし、現在の私たちの消費活動に関連した
テクノロジーの進歩には目覚しいものがあります。

CRMにおいて理想と考えられる

コミュニケーションのあり方

が着実に実現しつつあるのではないでしょうか?


湯川氏は、
20世紀に失われてしまったきめ細かなサービスを

「三河屋さん的顧客対応(サービス)」

と呼んでいます。

そして、三河屋さん的サービスを
現代によみがえらせることを可能にする
システム共通基盤のことを

「マーケティングプラットフォーム」

と名づけ、前掲書、

『次世代マーケティングプラットフォーム』

において豊富な事例を元に解説しています。


同書はテクノロジー、すなわちITの側面から、
CRMの今後を読む上で有益な示唆を与えてくれます。

興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。


『次世代マーケティングプラットフォーム』
(湯川鶴う章著、ソフトバンク クリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 18:10 | コメント (0) | トラックバック

お客さんの顔識別システム

先日の記事『顧客情報記憶力』で、
お客さんと直接接する立場の人(CP:Contact Personnel)、
すなわち、

営業パーソンや店員、カスタマーサポート担当者など

が高い成果を出す要件として、

「優れた記憶力」

を挙げました。

その理由は、CPがお客さんに会った時、
その方の顔や名前、プロフィール、購入履歴を即座に
思い出すことができれば、個々の顧客にカスタマイズ
された適切な対応、提案が可能になるからです。


もちろん、対応しなければならないお客さんの数が
増えてくるとさすがに頭脳で記憶することが困難になります。

そこで、顧客台帳を作成したり、顧客データベースを構築して、
顧客情報を「外部記憶」として保管し、必要な時にすばやく
顧客情報を参照して、あたかもお客さんのことを覚えていたか
のように振舞うわけですね。


さて、リアル店舗でお客さんを出迎える店員さんの場合、
お客さんの顔を見ただけですぐに名前を思い出し、

「あら、松尾さん、いつもありがとうございます!」

などと呼びかけられるのがベストですよね。


ただ、「顔」というイメージ情報は
顧客台帳でも、また顧客データベースでも管理が難しく、
顔情報で検索して、お客さんの名前やその他の情報を
参照するのは簡単ではありません。


岡山県の化粧品店「安達太陽堂」を率いるカリスマ販売員、

長谷川桂子氏

は3千人のお客さんの顔と名前を覚えているそうですが、
それでもたまに名前がどうしても思い出せない時があります。

そのままでは、お客さんの名前で呼びかけられませんし、
顧客台帳を調べて、購入履歴などを把握することもできません。

そこで、まだ新人の店員に接客させて、
さりげなく名前を聞いてもらうのだそうです。

新人であれば、名前を聞いても仕方がないと
お客さんが思ってくれるからです。


でも、こうした長谷川氏の苦労も
テクノロジーの進化のおかげで不要になりそうです。


システム開発の芝電子システムズでは、

重要顧客の来店を店員が即座に認識できる
ビデオカメラシステム

を開発しています。
(日経産業新聞、2008/07/18)


この新システム「フェースマイスター」は、
店舗側があらかじめ、顧客の顔写真、属性、商品の好み、
注意点などを顧客データベースに登録しておきます。

このシステムには、店舗入り口に設置されたカメラが
接続されています。


そして、来店した顧客の顔をそのカメラが捉えると
画像認識機能が作動、店内のパソコン画面に、
その顧客の情報、例えば

「VIP客、A社社長、前回7月1日来店、○○を購入」

といったデータが表示されるのです。


店員はこの情報をまず頭に入れて顧客を出迎え、

「○○さん、いらっしゃいませ!」
「前回お買い上げいただいた○○の調子はいかがですか?」

などと、お客さんが喜ぶ、気の利いたコミュニケーションが、
記憶力に自信のない店員さんでも可能になるというわけです。


このシステム、リアル店舗における

「CRM(Customer Relationship Management)」

においておおいに役立つと私は感じているのですが、
あなたはどう思いますか?

*『顧客情報記憶力』

投稿者 松尾 順 : 14:59 | コメント (4) | トラックバック

心理的報酬・・・ハーレー検定

ちょっと前に書いた『継続ドライバ』(参照先は末尾)の記事で、
既存顧客の維持施策には、以下の2つの方向があることを
お伝えしました。

1.経済的報酬
2.心理的報酬


この2つのうち、「心理的報酬」の具体施策として、

「何とかマスター」

などといった称号を与える方法があります。
これは、顧客の名誉欲や特権意識をくすぐることが
狙いですね。


例えば、近年話題を集めたのが、

「ラーメン花月」

の「花月マスター」でした。

これは、一定期間内にラーメンを食べると
1杯毎に1ポイントがもらえて、15ポイントを貯めると、

「花月マスター」

に認定されるというもの。


花月マスターには、
創業者の直筆サイン入り認定証が贈呈されるほか、
同社ホームページなどに「花月マスター」として
名前が公表されます。

また、「新作ラーメン試食モニター権」が与えられ、
いち早く新作を味わうチャンスがあるということで、
初年度は8,930人のマスターが誕生しています。


今年は3年目ということで、

「花月マスターV3」

が開始されています。

ただ、そのキャンペーン内容を見ると、
認定証の贈呈や花月マスターの氏名公開はなく、
特別割引や特別サービスを含む、単なる

「ポイントシステム」

になっちゃってますね。

「ポイントシステム」は「心理的報酬」ではなく、

「経済的報酬」

ですから、当初とは趣が変わってしまっています。


さて、熱狂的な愛好家がいることで知られる
「ハーレーダビッドソン」では、今年8月から

「ハーレー検定」

を開始するそうです。(日本産業新聞、2008/05/27)


検定に出されそうな例題を1つ引用しておきます。

------------------------------------------------

●4人の創業者のうち、ファミリーネームが‘ハーレー’
なのは何人か?」

 
(1)1人 (2)2人 (33人 (4)4人

*正解は(1)の1人

------------------------------------------------

とてもマニアックですね・・・


当検定は、顧客にハーレーの製品や歴史に対する
関心を高めてもらうのが直接の目的です。

ただ、心理学で言う

「熟知性の法則」

(ある物事を良く知れば知るほど、
 それに対する好意が高くなるという傾向)

に基づけば、当検定を受検することによって
ハーレーに対する愛情がますます深まるでしょうし、
同時に、合格者は「名誉」を得ることができる。

ハーレーのことをますます熱く語り、
同社製オートバイの購入を周囲にも熱心に勧める
オピニオンリーダーが輩出されることになりそうですね。


『継続ドライバとは?』

投稿者 松尾 順 : 09:07 | コメント (6) | トラックバック

サンクスのたこ焼き

私は子供の頃から「たこ焼き」が大好きです。
お祭りなどに行くと、たこ焼きの屋台に目が釘付けに。

いつも、

「1パック買ってくれるまで屋台の前から動かないよ・・・」

となります(笑)


ですから、屋台のような、できたてホカホカのおいしい
たこ焼きがいつでも買えたらいいのに・・・

と切実に思っています。

ただ、実はいつでも買える「AM/PM」の冷凍たこ焼きは、
かなりおいしいです。しょっちゅう買ってます。

普通サイズの6個入りのため量は物足りないけれど、
中のタコは噛み応えのある大きさですし、十分に満足です。


一方、サンクスでは、ずいぶん前から、

「手焼きたこ焼き」(15個入り)

を販売していました。

ところが、ボリューム感に惹かれて買ってみたら、
正直がっかりする味だったんですよね。

中のタコも実際入っているのか、
爪楊枝でほじくって確認したくなるほど小さい!

二度と買うものかと食べた瞬間は思いました。


ただ、私はコンビニに対して幻想を持っています。

100m2ほどの狭いスペースに
3-4千品目の商品が並ぶコンビニです。

商品の棚取り合戦は激しいし、
売れないもの、まずいものはすぐに棚から撤去され、
別の商品、あるいは改善された商品に切り替わっていくはず。


このように勝手に期待していた私は、サンクスの

「手焼きたこやき」

を2-3ヶ月に1回は再購入していたんですよね。


しかし、

「今回は前回よりも、少しはおいしくなってるんじゃないか」

という淡い期待は毎回確実に裏切られました。

以前と同様、あいかわらずまずい。

結局、過去1年で4回ほど間を置いて
繰り返し買ってみたものの、すべてハズレでした。


1ヶ月ほど前、最後に手焼きを買ってやはりまずかったため、
さすがに切れてしまった私は、サンクスのWebサイトから、
同社お客さま相談室にクレームのメールを送りました。

先方からは、

「商品開発セクションに
あなた様の貴重なご意見を伝えます」

という、まあ型どおりの返事がきたのですが・・・


さて、先日サンクスに行った時、手焼きに代わって、

「大玉たこやき」(6個入り)

が棚にあるのを発見。早速、試し買い。

食べてみたら、なかなかいける味でした!
手焼きのものよりも、格段に改善されています。

私が偉そうに言うのもなんですが、
これは一応、合格点をあげてもいいかなと思いました。

(相変わらず、中のタコは小さいのが難点ですが。)


「大玉たこ焼き」は春の新商品です。

まさか私1人のクレームを受けて出してきた
新商品ではないでしょう。

しかし、1消費者からの直訴とは言え、
「まずいよ」という指摘を受けたことによって、
発売直前の大玉たこ焼きの味を改めて見直した可能性は
あります。


Googleで検索してみると、
サンクスの以前のたこ焼きは量はあるが味はダメという
コメントをかなりの数、発見することができます。

こうした消費者の生の声を
同社開発担当者は十分にフォローしていたのでしょうか。

過去1年ほどにわたって、
手焼きたこ焼きの味がまったく改善されなかったところ
を見るとそうではないようです。


でも、私のケースのように、
企業に対して直接物申すことにによって、
新商品が改善された可能性があることを考えると、
消費者としては、企業に対して直接メッセージを
もっと積極的に送る必要があるんじゃないかと思います。


企業の立場としては耳の痛い意見は
あまり聞きたくないのが正直なところです。

しかし、改めて言うまでもなく、
現代の顧客は数多くの選択肢を持っています。

ダメな会社、商品はさっさっと見限られてしまう。

ですから、お客さまの声を取り入れる仕組みを
さらに充実させていくことが企業における
喫緊の課題ではないでしょうか。


ところで今、私は、

「大玉たこ焼きの中のタコは小さい。がっかりする」

というメッセージを
再びサンクスお客さま相談室に送るべきか悩んでいます。(笑)

たかがたこ焼き、されどたこ焼き。

投稿者 松尾 順 : 14:40 | コメント (2) | トラックバック

顧客の時代がやってきた! 「売れる仕組み」に革命が起きる

今日は久しぶりのビジネス書レビューです。


『顧客の時代がやってきた!「売れる仕組み」に革命が起きる』

は、米国・ロサンゼルスにオフィスを構え、
20年以上にわたり、日米間のビジネスの橋渡しに尽力されてきた
石塚しのぶ氏の著作。


さて、本書の議論の出発点となっているのは、
タイトルにもある

「顧客の時代」

という点です。

第1章で石塚氏は、社会全体の風潮として

「ニッチマインド」

が生まれつつあると述べています。

つまり、顧客の頭の中に、

「欲しいものは必ず見つかる」

という堅固な確信が芽生えつつあるということです。


なぜなら、

“店舗でも、カタログでも、インターネットでも、
 購入方法にかかわるありとあらゆる選択肢があり、
 情報を得るためのツールがある。

 売り手主導で発信される宣伝/広告やマス・メディアに
 頼る必要はなく、自分が求める 商品やサービスを自分と
 同じ視点で利用する「一般消費者」たちの正直な意見や
 感想を聞くことができる。

 自分んの欲しいものを自力で探して見つからなければ、
 ネットでほかの消費者とつながり、どこで買えるか
 教えてもらえばいい。真の意味で、顧客に「選択権」が
 ある時代が到来したのだ。”

ということだからです。


そして、石塚氏は第2章以降で、
すでに現実のものとなった

「顧客の時代」

において企業が生き残るためにどのような戦略・施策を
展開すべきかを豊富な事例に基づいて論じています。


私が最も面白いと思った事例は、
米国オフィス用品販売の最大手、

「ステープルズ」

の顧客の声を聞く徹底した姿勢や取り組みです。


顧客の声を聞くプログラムのことを専門的には

「VOC」(ボイス・オブ・カスタマー)

と呼びますが、ステープルズのVOCの中で、
ひときわユニークで刺激的な取り組みとして
紹介されていたのが、

「グループモニタリングセッション」

です。

これは、月に約4回、
ステープルズ本社の大講堂に数百人の社員が集まって、
1回につき1時間ほど、コンタクトセンターの顧客対応
をライブで傍聴するというもの。


通常、コンタクトセンターのオペレーターと顧客との
やり取りは、スーパーバイザーや、センターの品質向上を
担当する社員が定期的にモニタリングする程度です。

ところが、ステープルズではほぼ毎週1回、
数百人の社員が顧客の生の声を聴くことができるのです。


このセッションに参加する社員は、
普段は顧客と直に接することがほとんどありません。

こうした社員が、カスタマーサービスの現場をライブで体験し、
顧客が感じているであろう問題点や不平・不満などを
身をもって知ることで、顧客の抱える問題の根源を理解して、
顧客のニーズを先取りし、問題の発生を回避する方策を
立案する上でのインスピレーションを得ることができると、
同社では考えているのだそうです。


その他、同社では、

「会員制サンプリングプログラム」

を運営。

同プログラムに会員登録したユーザーには、
毎月サンプル商品やサービスの紹介、ディスカウントクーポン
などがパッケージで送られ、商品試用後の感想などを

Webアンケート

を通じてステープルズにフィードバックすることが
できるようになっています。


同社では、SNS的機能を有した

「カスタマーコミュニティ」

も運営するなど、

ウェブを媒介としたVOC

に力を入れることによって、
何か問題があった時にだけ顧客の意見を聞く

「イベントベース」

ではなく、
自然な環境の中で継続的に顧客の声を収集する

「オーガニックベース」

でのVOCを実現しているのです。


石塚氏のこの本には、顧客主導のうねりが

「医療サービス」や「お役所」(公共サービス)

にも大きな変化を呼び起こしている事例なども
紹介されており、様々な分野の方にとって参考になる
良書だと言えます。

じっくりと腰をすえて読むことをオススメします。


『顧客の時代がやってきた!「売れる仕組み」に革命が起きる』
(石塚しのぶ著、インプレス)

投稿者 松尾 順 : 12:38 | コメント (0) | トラックバック

「継続ドライバ」とは?

私が専門とする

「CRM」(Customer Relationship Management)

では、「新規顧客の獲得」に加えて、

「既存顧客の維持」

の施策が重要な地位を占めています。


既存顧客の維持施策は、
大きくは次の2つの方向で考えます。

1.経済的報酬の提供
2.心理的報酬の提供


「経済的報酬」として最も普及しているのは、

「ポイントプログラム」

でしょう。

航空会社のマイレージのように、
利用回数、金額などに応じてポイントが付与され、
蓄積ポイント数に応じて、

「特典航空券」

などの金銭的な価値を持つ賞品と交換可能な仕組みのことを

「経済的報酬」

と呼びます。


最近、このポイントプログラムは、

「ポイントの大判振る舞い」

のために企業の収支を圧迫する傾向が強まったため、
ポイント付与条件や付与数を厳しくするところが増えていますね。


一方、「心理的報酬」とは、
金銭では換算できない価値を提供するものです。

「何とかマスター」

などといった称号を与えたり、
優良顧客に対する特別待遇を与えることによって、
名誉やプライド、特権意識をくすぐるもの。

「コミュニティ」も心理的報酬の一種で、
共通点を持つ人々とのコミュニケーションを通じて、

「集団欲」(仲間とつるみたい)

を充たすことでユーザー維持を図ります。


では、「既存顧客の維持施策」について、
具体的な事業分野ではどのように実施され、
また整理されているか、ひとつご紹介しましょう。


ヘルスケア(健康ビジネス)の開発や活性化
のコンサルティングを手がける

(株)スポルツ

では、ヘルスケア(ダイエット含む)の事業成功の鍵を

「継続率」

にあると考えており、
「健康行動」を継続するために作用する

「サービスアイディア」

を国内外の様々な具体事例から抽出・整理しています。


同社ではこれらを

「継続ドライバ」

と呼んでいますが、現在のところ
以下の10個の継続ドライバが明らかになっているそうです。

---------------------------------------------------

1.インセンティブ

 健康行動の継続度や目標の達成度に応じて、
 報酬がもらえる機能

2.ヘルスコミュニケーション

 専門家による専門性あるコミュニケーション
 (インストラクティング、コーチング、メンタリングなど)

3.パーソナライズ

 一人一人に合った選択を可能にする機能

4.ビジュアルモニタリング

 視覚的に自分の健康状態・行動・結果を記録し
 表現できる機能

5.エンターテイメント

 楽しさ演出機能。ゲーム的な要素をプログラムの中に組み込む

6.交流

 他者との交流機能。リアルの場とウェブコミュニティ

7.コンペティション

 競争機能。不特定多数、知り合い同士で行うものなど

8.エンカレッジメント

 励まし機能。専門家が直接アドバイスを行う
 「直接的励まし」、参加者のコミュニティで他者の活動状況を
 伝える「間接的励まし」がある
 
9.ITベネフィット

 IT機能機器との連動で継続支援するもの
 
10.ヘルスナレッジ

 健康づくりに必要な知識提供機能

---------------------------------------------------


「継続ドライバ」

は、ダイエットなど挫折しやすい
ヘルスケア分野において長年工夫されてきた

「顧客維持施策」

であり、他の事業分野でも大いに参考になる
アイディアが含まれていますよね。


「継続ドライバ」の詳細は下記出典をご参照ください。

『ヘルスビズウォッチ・マガジン』Vol.02 Spring.2008
(無料情報誌です)

→(株)スポルツ
http://www.sportz.co.jp/


スポルツが運営するWebサイト、

「ヘルスビズウォッチ」
http://www.healthbizwatch.com/

では、「今注目のキーワード集」の中で、
継続ドライバの説明が行われています。

投稿者 松尾 順 : 08:02 | コメント (0) | トラックバック

心を動かすサプライズ!

注文した覚えのない荷物が、amazon.comから届く。

何かと思って開けると、
amazon.comオリジナルのコーヒータンブラー。

社長のジェフ・ベゾス氏の手紙が添えられていて、

「日ごろのご愛顧に感謝してこれを贈ります・・・云々」

とある。ロイヤル顧客向けのプレゼントだったのです。


アマゾンが日本に進出する前、
90年代後半にamazon.comをよく利用されていた方は
同じようにプレゼントを受け取られたのではないでしょうか?

コーヒータンブラーは、
スタバのグランデサイズくらいの容器でした。

スタバに持っていけば、
コーヒーを入れてもらえるマイタンブラーです。

今は、もはや持っていないのですが、
当時は、どこでも手に入るものではないだけに
いい気分でコーヒーが飲めたものでした。

よく考えてみると、
アマゾンは黒字化するはるか以前に、
既存顧客維持のための費用もきちんとかけていた
ということです。さすがです。


さて、私たちはこんな嬉しい

「サプライズ」

を求めていますよね。

サプライズは、
予期していなかったことが
起こるからサプライズ。

期待値ゼロだけに、
ちょっとしたことでもうれしい。

心が大きく動く。

顧客維持のためのコミュニケーション施策として
とても効果的なのに、意外にあまり採用されないのが、
こうした「サプライズプレゼント」です。


以下は、槇原敬之デビュー当時の話。

まだ売れる前で、
テレビやラジオには出演させてもらえない頃、

「ダイジェストCD」

を制作したんだそうです。

曲の1番目くらいでフェードアウトして、
次の曲が始まるというスタイルの5曲入り
「お試し版」です。


このダイジェスト版、
当初はレコード店のレジカウンターに置いて
無料で配布しようと考えました。

しかし、タダでもらったものなんか
ロクに聴いてくれないだろうと、
別の方法を採用しました。


『君が笑うとき君の胸が痛まないように』

という長いタイトルのグリーティングカードを作り、
応募した人にはこのカードが送られてくる仕組みです。

ただし、カードと一緒に、
ダイジェスト版を内緒で送ったのです。

つまり「サプライズプレゼント」にしたんですね。


この仕組みは、
マーケティング的に見てとても巧妙です。

「カードあげます」

というだけで応募する人は、
槇原敬之に多少とも興味を持った人でしょう。

こうした優良見込客にだけ、
ダイジェストCDを送付した。

期待していなかったCDが届いて本人は大喜び。

CDを確実に聴いてくれたでしょうし、
彼のファンになった人も多かったのではないでしょうか。


実際、本盤を買ってくれた人も結構いたそうです。
さらに、本盤を買ってくれた人には

「インストアライブ」

をやった。

結果としてデビューアルバムは、
1万5千枚位売れました。


デビュー初期のこうした人間心理の機微をつく
巧妙なマーケティングによって、
彼のブレイクが加速化されたのは間違いありません。


*槙原敬之の話は、沢田研二、アグネス・チャン、
山下久美子、吉川晃司、槇原敬之、バンプ・オブ・チキン
などを手がけた音楽プロデューサー、木崎賢治氏の
インタビュー記事(ディレクターズマガジン、APRIL&MAY 2008)
を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 08:02 | コメント (0) | トラックバック

自動化される顧客情報収集

今日は、技術革新が顧客情報収集の自動化を
可能にしつつあるという話です。


「CRM」(Customer Relationship Managment)

「ワン・ツー・ワンマーケティング」

は、詳細な顧客情報に基づき、
適切な個別対応や提案を行うことを通じて、
良好な関係を形成・維持するもの。

その結果として、
長期的な収益を向上させる考え方です。


「CRM」や「ワン・ツー・ワンマーケティング」
は単なる流行り言葉ではありません。

これからの経営・マーケティングの核となるものです。

なぜなら、製品自体の機能・品質では、
競合との差異を生み出しにくくなっている今、
顧客に対する理解の深さ、密着の強さが多くの企業における

「成功の鍵」

だからです。


問題は、個人情報保護法のしばりや、
ユーザー側のプライバシー意識の高まりによって、
個人情報の収集がますます困難になってきたことですね。


性、年齢、職業といった基本的な情報でさえ、
ストレートに聞きにくい。

また、まともに答えてくれないこともが多い。
(年齢はさばを読むなど・・・)


そこで、進展する情報技術によって顧客を自動識別し、
また情報として蓄積する仕組みが開発されつつあります。
(日経MJ、2007/10/10)


例えば、NECソフトの年代・性別推定システム、

「フィールドアナリスト」

は、デジタルカメラを利用した顔認識技術を応用して、
顔の輪郭やしわ、たるみから、

「年代」「性別」

を瞬時に判定することが可能。

その精度は性別判定で9割だそうです。

このシステムと接続されたデジタルカメラを
リアル店のあちこちに設置しておけば、
売り場毎・時間帯毎にどんな性別・年代の人が多いかを
分析することができるようになります。

あるいは、POSデータ(購買データ)と
組み合わせることによって、より詳細な購買分析が可能。


同様の情報を人手で調査・収集しようとすれば、
1日あたり数十万円かかりますが、このシステムは、
カメラ1台につき年間使用料200万円ということですから、
決して高いものでありません。

同システムが発売されれば、
導入する小売店が結構多いかもしれません。


また、映画「マイノリティリポート」の一場面を
思い出させるシステムも登場してます。
(主演のトム・クルーズが、屋外看板の前を通ると、
彼を個別認識して看板の中の人物が話しかけるシーンが
ありましたよね。)


三菱電機が開発中のシステムは、
通行客の性別と人数を顔認識システムで判断し、
客層にあった情報をディスプレイに表示することが
できます。

たとえば、ショッピングセンター入り口の壁にある
ディスプレイの前をサラリーマンが通過すると、
「旬の魚を使った居酒屋」の案内が表示され、
女性3人組の場合だと「イタリア料理店」が
表示されるという具合。


このシステムでは、顔が比較的大きければ男性、
小さければ女性と認識しますが、精度は8割程度。

年代でも、明らかに20代なのに40代に間違うケースもあり、
まだまだ実用化は先になりそうです。


まあ、いかに正確に顧客を判別したところで、
その後の適切な対応・提案も重要なんですよね。

上記のシステムで表示される

サラリーマン→居酒屋、女性→イタリア料理店

という客層と提案の組み合わせは、
ややステレオタイプ的で、その効果は怪しい・・・


現時点ではまだまだ初歩的なシステムではありますが、
今後どこまですごいものになるのか楽しみです。
(ユーザーの立場では、ちょっと気味が悪い感じもしますけど)

投稿者 松尾 順 : 10:12 | コメント (2) | トラックバック

オネストカード・・・「正直さ」がCRM戦略の核

私が生まれ育った福岡の片田舎に、
小さな個人商店がありました。

まだろくにスーパーもなかった頃からの店で、
地元のいわゆる「よろずや」的存在。


近隣の主婦たちが買い物カゴを下げて毎日買い物をし、
同時に何時間も油を売りに行く場所。(笑)

コンビニ並みの広さでしたが、
生鮮三品(肉、魚、野菜)から日用雑貨まで
一通りなんでも置いてありました。


店を切り盛りしていたおばさんは、なかなかの目利き。
質のよい生鮮品を仕入れてくると常連客から評価されてました。

ただ、良くも悪くも昔ながらの商売人でした。

古くなって明らかに味が落ちている肉や魚を
まだ経験の浅い、若い主婦に言葉巧みに売りつけていたのです。


傍で見ていたベテランの主婦(私の母など)は、

「そんなことはしないほうがいいよ」

と忠告していたそうですが。


その結果がどうなったかは知りません。

おそらく、実際料理したらおいしくないことがわかった客は、
わざわざ車を使ってでも、他の店に行くようになった可能性が
高いですよね。

さて、この店も今は代替わり。

スーパーの攻勢にもさらされていますから、
以前のような商売はやってないでしょう。


さて、個人商店だけでなく、大手のスーパーでも、
賞味期限切れの商品に、新しい賞味期限のシールに貼り替える
ということを平気でやっているところがあると聞きます。


店舗型ビジネスは、
商圏内の顧客からそっぽを向かれたら終わりです。
立地を簡単に移すことはできませんから。

でも、「見つからなければいい」という考えなのでしょうか、
平気で顧客に対して不誠実な行為をやっているのです。


しかし、中堅スーパーの「OKストア」だけは別格です。

OKストアの店頭に行くと、

「オネスト(正直)カード」

というものを目にすることがあります。


このカードには、まさに正直に事実が記入されています。


“この商品は来週24日からセールで安くなりますので、
 それまでお待ちになったほうがお得です。”

“このグレープフルーツ(南ア産)は、フロリダ産の
 食味を100点とすると70点です。蜂蜜をおかけになって
 お食べください。”


こんな文章を読まされた顧客は、
購買意欲が確実に低下しそうですよね・・・

でも、実際にはそれほど売り上げが下がるわけでは
ないそうです。


他の店では、こうしたネガティブな事実を
わざわざ顧客に伝えようとはしません。

短期的な売り上げ低下が怖いからです。


しかし、あなたも経験があると思いますが、
先週買ったばかりの商品が、今週安く売られていると
知ったときのくやしさ。

また、見た目おいしそうだったけれど、
おいしくなくてがっかりした果物や野菜。

こうした不愉快な体験が積み重なると、最終的には

「あの店は良くない」

という評価になり、客が離れていく。

長期的には、売り上げ低下につながってしまうわけです。


OKストアの場合、
短期的な売り上げを犠牲にしても、
顧客に正直であることによって、

「信頼」

を勝ち得ています。

オネストカードで問題のある商品と知りつつも、
顧客が自ら「納得」した上で購入していますから、
後日の不満につながることはありません。


実は、OKストアのオネストカードについては、
別の切り口で昨年も取り上げました。

*正直は最強の戦略


改めて思うのですが、商品を売ることではなく、
顧客の獲得、育成、維持に焦点を当てた

CRM戦略」

の成功のためには、顧客に対する

「正直さ」(誠実さ)

が絶対的に必要です。


だって、ごまかしたり、うそをついたりする会社と
付き合いたいとは思わないですよね。


売上確保のためになんだってする会社が多い中、
顧客の利益を最優先にしているという姿勢を示している
OKストアが顧客の熱い支持を受けるのは当然でしょう。

投稿者 松尾 順 : 07:35 | コメント (0) | トラックバック

脱ノルマ・・・資生堂の挑戦

「売上」は、会社の「通知表」ですよね。

具体的に言えば、

「自社(社員)や自社の商品が、顧客に受け入れられているか」

を数値として把握できるのが「売上」です。


すなわち、「売上」とは、

「日々の企業活動」

が有効であったかどうかを
最終的に評価するための結果に過ぎない。

ですから、

個々の社員の「直接目標」として「売上」を掲げること

は本来変だと私は思っています。


むしろ、「目標」として掲げるべきは、

「お客様に自社(社員)や自社商品が受け入れられるためには、
 どんな行動(プロセス)が必要か」

を明らかにし、その行動を直接評価できる「指標」では
ないでしょうか?

ちなみに、その最も典型的な指標のひとつが

「顧客満足度」

です。


もちろん、「売上」はわかりやすい数字ですし、
そうした明確な目標があったほうが、
やる気が高まるという効果を否定はしません。


ただ、売上を重視しすぎると「顧客不在」の思考に陥ります。

そして、詐欺まがいの押し売りや偽装行為など、
巷をにぎわす不祥事にいつかは確実につながりますよね。


また、短期的には業績を伸ばすことができても、
長期的には顧客からそっぽを向かれ、事業の継続ができません。


最近は、こうした考えに基づき、「売上」を目標にしない、
すなわち「ノルマ」を廃止する企業が大手にも出てきました。


たとえば、資生堂は、
06年春から美容部員の売上ノルマを人事評価から
外しています。(日経MJ、07/08/27)

この結果、美容部員が販売を担当する

「カウンセリング化粧品」

の07年3月期の売上高は、

前期比3.5%減の2千306億円

に低下しました。


これは、従来であれば

「販売力の低下」

とみなされたところです。

しかし、真実は、
押し売りに近い形で商品を買わされてしまい、
家に戻ってから悔しい思いをしていた

「不満足客の減少」(これは良いこと!)

を意味すると考えるのが
正しいんじゃないでしょうか。


実際、売上ノルマを外すことで、
売らんかなの強引な接客が影を潜め、

「どうすれば顧客に喜んでもらえるか、を
 個々の美容部員が必死に考えるようになった」

(都内のある百貨店の責任者)

とのことですから、売り上げ低下は

「適正な企業行動(美容部員の接客行為)」

を正確に反映しているだけなのです。


現在の資生堂の美容部員の主な評価項目(評価指標)は
次のとおりです。

・顧客からのはがきの採点(接客態度を評価するもの)
・接客した人数
・再び来店した客数
・顧客の肌に触れた回数
・肌診断など美容機器を使った回数


そして、確かに目先の売上は減少したものの、
過去10年間減り続けてきた会員組織、

「花椿会」

の会員数は、昨年春の550万人を底に増加に転じ、
毎月5%のペースで増えているそうです。


売上ノルマを撤廃するという資生堂の挑戦が、
最終結果である、

「売上の増加」

に反映されてくるまでにはまだ時間が必要でしょう。

しかし、正しい方向に向かっていることは
間違いないと思います。


資生堂の前田社長も、

「5年間は売上が落ちてもかまわない」

と腹を括っています。

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

愛想がいい人型ロボット

「客と顔見知りになる機能」

が搭載されたロボットが話題になってます。
(日経産業新聞、2007/08/23)


国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の実証実験だそうですが、
このロボットには、

「イオン高の原ショッピングセンター」(京都市木津川市)

に行けば会えますよ。


このロボット君(名称不明)は、

‘顔見知り’の客

が近づくと、

「またお越しいただきました」
「きょうはどこをご案内しましょうか」
「前回はアイスクリームを買われたようですが、
 きょうは新メニューが出ましたよ」

などと、気の利いた会話を交わすことができる
愛想のいいロボットなのです。


なんでこんなことができるのでしょうね?


秘密は、300人以上の買い物客に配った携帯ストラップ型の

「電子タグ」

にあります。

ロボットと会話する際、この電子タグを客が示すと、
電子タグに埋め込まれた識別場号(ID)をロボットが認識し、
その客との過去の会話を思い出して適切な受け答えを返すことが
できるというわけです。

おそらく、ロボットに内蔵されたDBから、IDに紐付けられた
過去会話データを引き出しているということなんでしょう。


このロボット君との会話がどのくらい楽しいのか、
実際体験してみないと見当もつきませんが・・・

しかし、上記ショッピングセンターでは、連日、
5、6人がわざわざ10分以上並んでロボットとの会話を
楽しんでいるらしいのです。

彼には、ぜひ東京にも来て、
愛想の良い会話を披露してもらいたいですね。


さて、この実験のことを読んで、
私が感じたのは、次のようなことです。

----------------------

顧客の「好意」を得ることのできる
優れたCRM的コミュニケーションを行うためには、

「顧客についてのより深い理解」

が必要である。


その深い理解は、ほとんどが

「顧客との会話を積み重ねること」

によって得られる。


だから、顧客との過去の会話内容をしっかり

「記憶・保持すること」

が、対顧客コミュニケーションの基盤である。
----------------------


実際、トップセールスパーソンは、
例外なく、並外れた記憶力の持ち主ですよね。

数百人もの顧客一人ひとりの家族構成や趣味、関心事、
そして過去の購買履歴まで、

「よくそこまで覚えてられますね」

と驚くほどスラスラと空で話すことができます。


もちろん、「灰色の頭脳」だけで覚えられるはずもなく、
顧客台帳(ノート)などに基本的な事項、
そして過去の会話の内容をきちんと記録している方が
多いです。(記録することで、頭脳の「記憶」として
定着しやすくなりますし)


たとえば、岡山の化粧品店「安達太陽堂」の
カリスマ販売員、長谷川桂子氏の場合もやはり

「優れた記憶力」(顧客台帳の活用含む)

が対顧客コミュニケーションの基盤になっています。


(ご参考)

*4色ボールペンによる顧客管理法

*「あら、○○さん、お帰りなさい!」

私は思うのですが、
何回行っても「一見さん」扱いしかしてくれない
ファーストフード店に

「CRM」

が導入されるとしたら、上述のロボット君を
生身の人間の代わりに採用するのが得策かも知れません。


多少「人件費」、いや「ロボット件費」が高くても
元が取れそうじゃありませんか?

投稿者 松尾 順 : 13:51 | コメント (2) | トラックバック

パソコン・サポートランキング企画の休止

日経パソコンが過去8年にわたって特集してきた、

「サポートランキング」

が今年2007年から休止することになったそうです。


この企画は、

「パソコンメーカーのユーザーサポートの実態」

をアンケートで探るものでした。


なお、このアンケートでは、

サポートを利用したユーザーに対して、
各メーカーからアンケートの告知文を送付し、
アンケート対象者(協力者)を募集する

というやり方が取られていました。


さて、このランキングが休止になった理由ですが、
上記のアンケート対象者の抽出に、
一部のメーカーが協力しないことを決めたためです。

彼らの理屈は、

「個人情報保護」の厳密な運用のため、
告知文をユーザーに送付するのはよろしくない

と判断したからということらしいのですが・・・


しかし、メーカーはユーザー名簿を
日経パソコンに直接渡していたわけではありません。

あくまで、メーカーを通じてアンケート協力者を募集し、
協力してもよいというユーザーが、自発的にアンケートに
回答する方法でした。

つまり、個人情報保護上はなんら問題はないはず。
どうも腑に落ちません。


ところが、メーカーからは次のような指摘も受けたそうです。

“毎年サポートランキングを実施しているために競争が過熱し、
 サポートへのコストが増大、パソコン事業を圧迫している”


私には、これが、ランキングへの協力を止めたメーカーの

「本音」

に聞えます。


「ユーザーサポート」、すなわち、

「カスタマーセンター(コールセンター)」

の運営コストは、確かに莫大なものでしょう。


しかし、製品本体の「機能上の違い」を
ほとんど感じることのできないパソコンにおいて、

「ユーザーサポートに対する満足度の高さ」

は、自社製品が選ばれるための重要な差別化要因では
ないんでしょうか?


もはや日用品化したパソコン事業では、
「長時間駆動」や「耐久性の高さ」をウリにする
パナソニックの「Let's Note」のような独自のコンセプトを
打ち出せない限りは、価格競争に陥るしかありません。


つまり、利益を削って値段を下げないと勝てない。
だから、ユーザーサポートの莫大なコストが重荷なんだ。

ということなら、

パソコン事業自体の存続の意義

を見直したほうがいいように思いますが、いかがでしょうか?


*参考にした記事:『サポートランキングを休止する理由』

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (6) | トラックバック

孤独感を和らげるダイエットブログ:リエータカフェ

「リエータカフェ」

という無料ブログサービスはご存知でしょうか?


このブログは、
健康食品メーカー、キリン ヤクルト ネクステージ(株)が
製造・販売するダイエットのための低カロリー食品、

「リエータ」

の購入者のためのサイト。

ダイエットに取り組む女性を支援するファンサービスであり、
リピート購入を主な狙いとする「CRM施策」と言えます。


ちなみに、ほぼ同じような狙いやコンセプトで運営されている
サービスサイトとして、ワコール(株)の

「スタイルサイエンス」

があります。

これは、「トレーニングボトム」と呼ばれる補正下着の購入者を
対象としたサイトです。

詳細は、以前書いた下記記事を参照してください!

*「愛すべきなまけものたちへ」・・・
   ワコール・スタイルサイエンスのWeb-CRM

さて、「リエータカフェ」ですが、
このブログサイトの開設は05年4月でした。

そして、開設から2年が経過した07年4月の段階で、
会員は2万人を超えています。


一日あたりのブログの書き込み数は、
冬場で800-1,000件程度ですが、女性が薄着になる夏場は、
冬場の倍以上に増えるそうです。

体の線が見えやすくなるため、
ダイエットに慌てて取り組み始める女性心理がうかがえます。(笑)


当ブログは、
ブログとしての基本機能(コメント、トラックバックなど)に
加えて、毎日の自分の体重や体脂肪を記録し、公開する機能が
ついています。

リエータカフェで日記を書く人の約半数は、
体重も入力しており、目標体重を宣言することによって、
ダイエットを続けるための動機付けにしているようです。

また、コミュニティ機能があり、
さまざまなトピックでのディスカッションが行われています。


このブログは開設以来、
何度かメディアで取り上げられてきているのですが、
2年経った今でも活発な日記投稿、ユーザー同士の熱い意見交換が
行われています。

ブログを効果的に活用したCRMの先進事例として、
今後も動向をウオッチすべきでしょう。


この成功の背景には、
ダイエット食品「リエータ」が即効性のあるものでなく、
リバウンドが起きない程度の緩やかなダイエットに
向いたものであること、このため、
長期にわたって継続利用することが必要だという点が挙げられます。

(当然、ビリーズ・ブートキャンプとは違いますね・・・)


ダイエット効果がすぐに現れないと、
途中で挫折しがちなものです。

しかし、リエータカフェにユーザー登録すれば、
ダイエットに取り組む仲間とお互いに励ましあうことが
できます。

これまで、どちらかといえばひそかに行われていた
ダイエットの「孤独感」和らげることができるのが
リエータカフェなのです。

(この点は、ワコールのスタイルサイエンスの成功要因でも
 あります。)


なお、ブログに書き込まれる生の声は商品開発にも
活かされており、リエータカフェで要望の多かった

「チョコレート味」

を投入したところ、

「おいしかった」「この味はちょっと苦手」

といった反響がすぐに書き込まれたそうです。


以上は、過去の各種記事、および
NBonlineの日経情報ストラテジー発ニュースの
下記記事(2007.05.23)を参考にしました。

*ダイエット支援の「リエータカフェ」、
 「男性お断り」のブログ販促で効果

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

お客さんに告白しよう


「事業の目的は、顧客の創造である」

とはドラッカーの言葉。


この本質がわかっていながら、現実には、

「事業の目的は、商品の販売である」

と考えている(建前はさておき行動レベルでは)企業が
あいかわらず大多数を占めているようです。

顧客を食い物にする不祥事が、昔も今も絶えることがないのが、
その証拠です。


しかし、「商品の販売が事業目的」とする考え方じゃあ、
これからは生き残ってはいけないよ、ということで
10数年前に登場したのが、いわゆる

「CRM」(Customer Relationship Management)

でした。


「CRM」は、簡単に説明すると、

「顧客との良好な関係を構築、強化、維持」

することです。

文字通り、「顧客の創造」ですよね。

もちろん、その先には、結果として商品が売れる、
というか、「商品が買われる」というロジックに
つながっているわけですけど。
(「売れること」が、先にあるのではない点が重要なんです)


さて、顧客との良好な関係を構築するというのは、
ベタな言い方をすれば、

「お客さまと‘相思相愛’の関係」

になることだと言えます。


ところが、私の過去の経験に基づいて言わせていただくと、
企業が「CRM」を導入し、実践する際に、
根本的に間違った考え方で取り組んでいるケースが多いのです。


それは、CRM施策において考えがちなことは、
企業が顧客に対して、一方的に、

“当社(商品)を好きになってください”

と訴えようとしてしまうということです。
これでは、単なる従来の販売促進と同じです。


たとえば、特に大手企業が発行するメルマガ。

「リレーションシップメール」

などと大層な名称を
つけているものさえありますが・・・


その実態は、新商品情報を羅列しただけのものが
ほとんどですよね。

必死でアピールしたいということはわかるのですが、
その本心は、

「当社(商品)を愛してください(=買って下さい)」

であることが見え見えです。

相手が、それを望んでいるか、
喜んでくれるかどうかを全然考えていない。


各種懸賞も同様です。

「得する何か」「ただでもらえる何か」で、
相手の関心を引こうとすること自体は、
やむをえないことだと思います。


しかし、こうした施策は、基本的に
相手に気に入られたいがための小手先のテクニックに
過ぎないという自覚が足りません。

お客さんも、このことがわかっているから、
おいしいとこだけ取って逃げていく。


そもそも、お客さんに対して、
自社(商品)を愛して欲しいと願うなら、
まず考えるべきことは、

「どのようにお客さんを愛するか」

です。

愛が欲しいなら、まず自分から与えなくては。


「お客さんを愛したい」という思いがあればこそ、

・お客さんのことをもっとよく知りたい
・十把一絡げには扱いたくない
・時には損をしてでも尽くしたい

ということが自然にできるようになっていく。


お客さんのすべてが、
愛を受け止めてくれるわけではありませんが、
中には、愛を投げ返してくれて、
相思相愛になるお客さんが必ずいます。


実は、企業だけでなく、個人レベルでも、
成功しているトップセールスマンの行動を見ると、

「お客様に対する深い愛」

からくる行動が、顧客の信頼を得ていることがわかります。
(一方的に愛を奪うことで一時的に成功するセールスマン
 もいますが、長続きはしません。)


ですので、
私は、今後、クライアントのCRM施策立案を
お手伝いする際には、

“では、お客様をどうやったら深く愛せるのかを考えましょう。
 どうやったら、うちを愛してもらえるかを最初に考えるのは
 やめましょう!”

とはっきり伝えようと考えています。


ところで、今回のタイトルは、

『戦わない経営』(浜口隆則著、かんき出版)

の中で見つけたフレーズです。
この場を借りてお礼申し上げます。


また、当該箇所を引用させていただきます。

----------------------------------------

ビジネスはお客さんがいないと完結しない

いくら自分が好きな仕事だって、
いくら価値がある仕事だって、
お客さんがいないと成立しない

だから、お客さんは大切なパートナー。

だから、お客さんを好きになろう。

そして、先に、「好きです」って言おう。
告白してしまおう。

すると、何人かに一人は、
「私も好きだよ」って返してくれる。

それが、ファンが生まれた瞬間

-----------------------------------------


この考え方を実践に落とし込めるかどうかが、重要なんですが!

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

ICタグを使ったスマートシェルフ

今日はちょっとIT寄りのネタです。


大手百貨店の高島屋は、06年11月から、

「スマートシェルフ」

の実験を紳士用シャツ売り場で行っていたそうです。
(日経コンピュータ、2007/05/28)


「スマートシェルフ」とは、
ICタグ用のアンテナを各棚に取り付けた商品棚のことです。

商品に取り付けたICタグを定期的に読み取ることで、
リアルタイムで在庫量を把握することができます。


高島屋では、このスマートシェルフを
店頭とバックヤード(倉庫)に設置。

そして、実験の対象とした高島屋のプライベート・ブランドの
シャツにICタグを取り付けることで、
多様なサイズごとの在庫をバックヤードまで確認しにいかなくても、
店頭端末で即座に照会できるようにしました。


さて、先日発表された実験結果によれば、
販売成約率が4割弱から7割に向上したそうです。

ちょっと、「ホントかいな・・・」と感じるほどの
驚異的な成果ですね。


成約率が3割向上した理由については、

「在庫確認で顧客を待たせることなく、
 多種の商品を販売員が薦めることができたから」

と分析されています。

ホンソメワケベラじゃありませんが、
やはり「客を待たせない」ことって大事ですね。


「ビジネス成功の基本原則」


また、接客時間は、6.4分から9.2分へと伸びました。

在庫確認など、接客以外の時間が短縮された分、
顧客対応により長い時間をかけられるようになったという
ことのようです。


この話で、私が特に面白いと思った点は、

同社IT推進室の担当の方が、
当初、ICタグ+スマートシェルフの導入によって
接客時間は短縮できる

と想像していたことです。


技術系の方にありがちな発想なんですが、
IT投資の目的として、

「効率化」

にばかり目がいってしまいがちな人が多いです。

このご担当も、IT化によって、
接客業務を効率化できると思い込んでいたんでしょう。


でも、自分が顧客の立場で考えたらわかると思うのですが、
百貨店で効率的な接客は望んでいません。

自分のためにどれだけ親身に、
時間を使って対応してくれるかが重要ですよね。


だから、本来スマートシェルフの導入についても、
接客以外の無駄な業務を減らすことで
接客により多くの時間を割けるようにするという

「接客効果」

の向上を本来期待しておくべきだったんじゃないかな
と思います。


まあ、これまで長いこと、
業務効率化を第一義としてIT投資は実行されてきましたので
しょうがないことではあります。


しかし、これからは、サービス向上、サービス強化のために
いかにITを活用するかに焦点を当てることが企業生き残りの
鍵でしょう。

投稿者 松尾 順 : 14:52 | コメント (0) | トラックバック

効率は、愛を育まない

母親やパートナーが作ってくれた

「手料理」

には、外で買ってきた出来合いの惣菜にはない深い愛情を
感じますよね。


なぜでしょうか。

それは、手間をかけているから。つまり、貴重な時間を
たっぷりとかけて作ってくれているからですよね。


以前も同じようなことを書きましたが、
「愛」を相手に伝える最も効果的な方法は、

「あなたのために、自分の時間をたくさん使っていますよ」

ということを何らかの形で示すことです。


ですから、思いを寄せる男性に手編みのセーターや
マフラーをプレゼントするという女性の古典的な告白手法は、
実際、高い効果があったわけです。(笑)


また、マーケティング的な例では、

・プリンターで作成された手紙よりも、
 手書きの手紙をもらった方がうれしいこと

・書店やスーパーなどのPOP広告は、
 手書きの方が効果が高いこと

・旭山動物園の説明パネルは、印刷された立派なものより、
 飼育係が書いた手作りのパネルのほうがよく読まれること

が挙げられます。

手書き文字の効果が高いのは、
それが書き手の個性を感じさせるからというだけでなく、
わざわざ手間(時間)をかけて自分で書いている事実が
相手の好感を引き出しているからだと思います。


さて、私の専門とする

「CRM」(Customer Relationship Management)

は、ベタな言い方をすると、

「お客様と相思相愛の関係になること」

です。


ただ、この点について、
大きな勘違いをしている企業(人)が多いように思います。

大きな勘違いとは、CRMを

「お客様が、自社(商品)を愛してくれるようにすること」

と、考えていることです。

つまり、企業側が一方的にお客様の愛を求めているわけです。
実に独りよがりな考えですよね。
(理念レベルではそうじゃなくても、現実のCRM施策立案段階
 ではどうしても、こうした考えに傾きがちなんですよ・・・)


しかし、お客様に愛してほしければ、お客様の愛を一方的に
求める前に、まず企業側がお客様を愛すべきでは?

そして、このためには、「愛していること」をお客様に
実感させることが必要です。


これは、理想論でもきれいごとでもありません。

感動を与える商品(サービス)を提供している、
顧客満足度の高い企業は実際、

「お客様への愛」

を効果的にお客様に伝えています。


リッツ・カールトンや加賀屋等の取り組みを
お読みになれば、よくおわかりになると思いますが、

「お客様への愛」

を伝えるために彼らがやっていることは、効率を度外視して、

「手間をかける」「時間をかける」

ことなんです。


今、「効率」という言葉を書きましたが、CRMの最大の壁は、

効率至上主義に傾いている現代の企業経営

との矛盾なんですね。


効率とは、端的にいえば、

「できるだけ手間や時間をかけないこと」
(結果的にコストを削減できるから)

です。

しかし、言うまでもないことですが、
効率重視のサービスは、「愛」が伝わりません。


すなわち、

「効率は愛を育まない」

のです。


したがって、

「お客様と相思相愛になる」

という本来のCRMの思想を実践しようとする企業は、
短期的な効率を捨てなければいけません。
(もちろん、「手間の使い方」にはメリハリが必要ですよ)


短期的な効率を捨てることで利益率は低下します。
個別案件だけで見ると、マイナスになることもあるでしょう。

しかし、長期的にはつじつまが合います。

手間をかけている企業が、
長きに渡り存続していることがその証です。
(逆に、短期的な効率を重視している企業ほど、
 意外に短命ではないでしょうか)


ところで、「長期的」というのはどのくらいの長さかなのか、
気になりますか?

経験則的に言えば、最低3年です。


「お客様と3年越しの愛を育む」

という心構えでいればきっと成功します。

投稿者 松尾 順 : 10:39 | コメント (2) | トラックバック

全体的アプローチの勝利:ジュンク堂書店

「何でもありそうで、実際何でもある」

という点が「楽天の強み」とおっしゃっていたのは、
ECコンサルタントの故三石玲子氏でした。

同様のことは、「ヤフーオークション」についても言えます。
あそこには、楽天以上に見つからないものはない。
予想もしない奇妙なものまで出品してありますよね。(笑)

要するに、楽天やヤフーオークションは、
ユーザーの期待感を裏切らない品揃えを達成したことによって
業界ダントツトップの座を手に入れ、このことが、
さらに2位以下との差を広げることにもつながっています。
(Googleの登場によって、この優位性が多少揺らいではいますが・・・)


さて、リアルな世界で、「何でもありそうで、実際何でもある」を
実現している本屋が、

「ジュンク堂書店」

です。


他の書店が、販売点数が少ない専門書の取り扱いを大きく縮小する中、
ジュンク堂書店だけが、年に1回しか売れないような本も取り揃えるという
「逆張り」の戦略を取ってきたのです。

POSシステムの普及によって一般的となった「単品管理」
(アイテム毎の売上・利益、効率を重視)の考え方に立てば、
めったに売れない商品を在庫として持っておくのは販売効率の低下に
つながります。

したがって、こうした死に筋商品は返品し、
売れ筋商品だけに在庫を絞り込むのが論理的には正しい戦略です。


しかし、ジュンク堂の場合、販売効率を低下させることよりも、顧客の

「欲しい本がみつかってうれしい」

という気持ちを優先してきました。


その結果、ジュンク堂ファン、つまりロイヤル顧客をたくさん生み出した。
しかも、1来店あたりの客単価を3500円(一般書店は同1000円程度)と、
他店の3倍以上に引き上げることによって、業績を伸ばすことに成功した
というわけです。


私は若いころ、まだ普及が始まったばかりのPOSデータの分析に
関わっていたのですが、アイテムベースで売れ筋、死に筋を把握し、
また売上、利益、効率などを個別に科学的に分析する単品管理には
大きな意義を感じていました。

しかし、一方で、売れ筋だけに絞り込んだお店には、
選ぶ楽しみ、発見の喜びがなく、消費者の購買意欲を低下させる
という事実にも気づいていました。

客観的なデータに基づく行き過ぎた「分析的・還元論的アプローチ」は、
ビジネスをだめにする場合があるということです。

典型的な「合成の誤謬」ってやつでしょう。

ジュンク堂の場合、不良在庫(つまり返品処理商品)が発生しても、
売り場担当者などが責任をとらされる事はないそうですが、
目先の短期的な数字ではなく、

「顧客にとって魅力のある店とはどんな店なのか」

を追求する「包括的・全体論的アプローチ」が勝利につながった
好事例だと言えますよね。

投稿者 松尾 順 : 13:40 | コメント (0) | トラックバック

「コブクロ」に学ぶ顧客志向

小渕健太郎と黒田俊介

二人の姓(コブチ、クロダ)を組み合わせたから、

「コブクロ」

なんですね。

一度聞いたら忘れられない奇妙なネーミング。
マーケティング的センスとしては最高ですよね。
(彼らは、意識してなかったんでしょうけど)


コブクロの結成は、1998年です。
二人は、堺東の商店街の路上ライブで知り合いました。


地元大阪出身の黒田は、数年前からこの商店街で一人、
路上ライブをやっていたのです。

一方、宮崎出身の小渕は、関西に就職のために出てきており、
毎週土曜日だけ、この商店街で路上ライブをやりに来てました。


小渕の才能を高く買っていた黒田はある日、小渕に

「何かオリジナル書いてくれ!」

と頼んだそうです。

「いいよ、君のために1曲書いてあげる」

小渕は快諾。


1週間後に、黒田は、ギタコード付の楽譜を受け取りました。

しばらくして、小渕が黒田のライブを見に行くと、
歌は歌っているけれど、手元のギターはちゃんと鳴っていない。


「黒田はろくにギターが弾けない」という事実を
小渕はその時初めて知りました。
(ギター弾けないのに、よく弾き語りやってたもんですねぇ!)


「じゃあ、俺が弾いてあげるよ」

小渕が黒田のギターを持ち、黒田はボーカルに専念。
2人で適当に合わせて歌い始めました。

「コブクロ」誕生の瞬間です。

そしてこの曲の名こそ、あの「桜」。


さて、コブクロは、2001年に

”YELL~エール~/Bell”

でメジャーデビューを果たしました。


この1stシングルはそこそこの成功を収めます。

ところが、以降のCDはなかなか最初のシングルを
超えることができなかったそうです。

CDに対する顧客の反応は、いい時はいろいろ
書いて送ってくるけれど、良くない時は無反応
なんだそうです。

このため、曲作りに多少行き詰まりを感じたことも
あったようです。


しかし、救いは「ライブ」でした。

彼らがライブをやる時、イントロをちょっと短くするなど
曲のアレンジを変えてファンの反応を見たのです。

そうやって、曲のこの部分はやっぱり長すぎるねとか、
こう変えたほうがいいという工夫を重ねた。

「コブクロ」が生み出す「楽曲」いう商品を、
顧客の反応を見ながら磨き上げていったわけです。


こうした努力の結果が、今の爆発的な人気を
もたらしたのは間違いありません。


彼らもアーティストとして、
曲づくりには、自分たちの強い想いを込めているでしょう。

しかし、それだけでは一人よがり。

ファン(=顧客)の声・反応を受け止め、
微調整を躊躇しないことが、メジャーとして成功を
収めるためのマーケティングとしては重要になってきます。


コブクロからは、

「顧客志向の大切さ」

を学ぶことができると思いませんか?


*以上は、NHKトップランナーに出演したコブクロの話を
 ベースにしました。

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

CRMキッチン・・・全員が女将

あなたの会社では、「顧客満足度調査」を実施してますか?


次に、顧客満足度調査を実施されている方にお聞きします。

「調査結果」をどの程度活用できてますか?


まさか、

調査会社から報告書を受け取り、プレゼンを聞いてオシマイ!

じゃないですよね。


そもそも、顧客満足度調査を実施する目的は、
商品・サービスの改善を行うこと、そして究極的には

・「リピート率」を向上すること
・「ロイヤル顧客」の育成を図ること

ですよね。


ですから、顧客満足度調査を実施する上で最も大事なことは、
現場(顧客接点)にいる、一人ひとりのスタッフへの適切な
「調査結果のフィードバック」と、スタッフ一人ひとりの
「継続的な行動改善や工夫」です。


しかし、現実には、「顧客満足度調査」と「現場」が乖離し、
調査結果が現場での行動改善、工夫に必ずしも落とし込まれない
企業が多いんじゃないでしょうか?


では、どうしたら顧客満足度調査と
現場を結びつけることができるのでしょうか?

最大のポイントは、

・満足度向上を実現するのは現場の自分たちだという
 「主体性」を持たせること

でしょう。


これを実際に取り組んでいるのが、
星野佳路氏率いる「星野リゾート」です。

「星野リゾート」は、リゾート運営の達人を掲げ、
自社保有の軽井沢のホテル・旅館等の経営に加えて、
「磐梯リゾート」、「アルファリゾート・トマム」など、
地方の経営破たんしたリゾート施設の再建を次々と
成功させてきている企業。


同社では、3年ほど前から、

「CRMキッチン」

というITシステムを全スタッフと共有しています。
(日経コンピュータ、2007.4.16)


「CRMキッチン」では、経営情報とともに、
顧客満足度調査の結果が自由に閲覧できるようになっています。

同社スタッフは、「CRMキッチン」を使って、
顧客満足度の結果をリアルタイムで把握しながら、

「なぜ顧客満足度が低下したのか」
「どんな改善策があるのか」

と自ら考え、実行に移すことを日常的にやっています。

スタッフとしても、自分の行動に対する顧客の反応が
迅速にわかるわけですから、やりがいを感じるでしょうし、

「どうやったら、もっと満足度があがるのかな・・・?」

と自発的に工夫するようになりますよね。


上記のようなことを考えるのは、従来は、

‘旅館の女将’

の役割でしたが、


星野社長によれば、

“スタッフ全員を「女将」にするのが目標”

なのだそうです。


なお、同社では、顧客満足度の向上度合いに応じて、
決算賞与の分配を行っています。「金銭的な動機付け」
もしっかり取り入れているんですね。

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

消費者に接近していくビジネス

小売業などの流通業者の戦略は、

「集客型」

から、

「接客型」

にシフトしつつある。

と指摘するのは、明治大学大学院、
グローバルビジネス研究科教授、上原征彦氏です。
(月刊アイ・エム・プレス、2007-4)


従来の「集客型」というのは、大きな店舗を作って消費者を
集めることを基本としてきたビジネス。

「百貨店」は、その最高峰に位置していると言えます。


一方、「接客型」というのは、

‘消費者に接近していくビジネス’

という意味です。


上原先生によれば、

百貨店(都市部に立地)

GMS(ダイエーなどの量販店、住宅地に進出)

SM(マルエツなどのスーパーマーケット、さらに接近)

CVS(コンビニ、500m商圏、さらにさらに接近)

インターネット(オンライン店舗、ついに店が家庭に入り込んだ)

というように業態が変化してきている。

つまり、店舗がどんどんと消費者に接近していって
いるというわけです。


なるほど、確かにそうですね。

流通業者は、消費者との「物理的な距離」を
短縮する方向で進化してきたと言えます。

そして、「インターネット」に到達してしまうと、
店舗繁盛のための最大の要因のひとつであった「立地」が、
あまり意味を持たなくなってしまいました。

そしてさらに、インターネットにおける消費者との物理的距離を
短縮したかったら、検索エンジンでの上位表示を行うための
SEO(サーチエンジン最適化)対策であったり、
リスティング広告への出稿を行うということになりますか。
(これを物理的距離と呼ぶのはちょっと変ですが・・・)


さて、問題はこの後です。


物理的距離が近いだけで消費者が買ってくれるほど
ビジネスは甘くないですよね。

大事なのは、消費者との「心理的な距離」です。
心理的距離が遠かったら、モノは売れません。


「物理的な距離」は、上記のように極限まで売り手側から
短くしていくことができます。

しかし、「心理的な距離」はそう簡単ではないですね。


こちらがいくら「好き」だと言っても、相手も自分のことを
「好き」と思ってくれないのいと恋が実らないのと同じで、
消費者の方が、「売り手に心理的に近づきたい」と思って
くれないと取引は始まらない。

売り手は、当然ながら自分たちの思いを消費者に伝えることが必要。

でも、同時に消費者が、売り手に好意を寄せてくれるためにやるべきことが
何かも、わかっていなければなりませんよね。

それがわかっていないと、おそらくその売り手は選れない。
消費者に求愛している気の利いたライバルは、
他にも山ほどいますから。


つまり、いつの時代でも大事なことは、

消費者との「心理的距離」をいかにしてつめるか
(つめてもらうか)

じゃないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 14:28 | コメント (2) | トラックバック

せつな的SPはやりません

ここしばらく、田坂広志氏の

「これから何が起こるのか」

をレビューしてきて痛感したのは、これからは

「企業本位な考え方」

はますます通用しなくなるということです。


「企業本位な考え方」とは、要するに

「自社の商品・サービスが売れること」

を中心に物事を考え、行動すること。


いまさら言うまでもないことかも知れませんが、この考え方には、

「顧客が求めているものを提供する」

という考えが欠落しています。


ご存知のとおり、現在の多くの企業は、

「顧客満足度ナンバーワン」

だとか

「お客様のために」

といったスローガンを前面に出しています。


ところが、販売現場を見てみると、
売り上げ目標に追われていてそれどころではありません。

上記のスローガンが、単なるきれいごと、口先だけのお題目に
終わっているケースがほとんどです。


こうなるのはなぜでしょうね・・・?

企業の上層部が、企業本位でもモノが売れた時代の成功体験から
抜け出せていないためというのもあるでしょう。


ただ、私が考えるに、企業本位になってしまう最大の問題は、

「企業のサイクルが、1年周期である」

ということにあるんじゃないかと思います。


企業は、1年ごとに会計処理をして損益計算を行います。
つまり、企業の成績を出します。

生活のサイクル自体も1年単位で回っていますし、
企業も同じサイクルで回すのは自然なことではあります。


しかし、

「顧客との関係づくり」

は1年を超える長期的な取り組みです。

3ヶ月、半年、1年といった短い期間では、
顧客の「信頼」を勝ち得ることはできません。


ブランド構築も同様です。

なぜなら、ブランドとは、顧客の頭の中にある

「企業・商品に対する理解や認識、イメージ」
(思い出の小箱)


ですから、「ブランド」は、
そもそも顧客との関係づくりの結果として形成されるもの。
顧客との関係づくりがなければ「ブランド」もないのです。


でも、企業の発想が1年単位という枠で縛られると、
どうしても、「顧客の関係づくり」が短期的なものにならざるを
得ないですよね。

というより、1年単位で評価してしまうと、
顧客との関係づくりのための活動が、良い成績を取れない
(目に見える成果として現れてこない)ため、

「この施策は効果がない」

という短絡的判断がなされ、途中で打ち切られてしまうと
いうことがしばしば起こってきました。

そして、毎年毎年、せつな的なSP(販売促進施策)で
購買意欲をあおり、無理やり数字を作ることの繰り返し。


つまり、

「顧客の創造」

ではなく

「商品の販売」

をずっと続けてきた。


でも、これからの「顧客中心市場」の時代においては、
上記のやり方はますます通用しなくなります。


ですから、企業としては、財務的な成績は1年ごとに出すという
基本の仕組みには従うとしても、顧客との関係づくりについては、
もっと長いサイクルで考えるようにすべきです。


私は、そのサイクルは最低「3年」だと思います。

もちろん、3ヶ月、半年、1年毎などの中間レビューは必要です。

しかし、最低3年というスパンで、顧客との関係づくりを考えるのが、
企業を永続させる鍵ではないでしょうか。


実際、パワーブランドを擁している企業や、
長期的に高い業績を継続している企業を研究してみると、
決して1年という短期サイクルでは顧客との関係を見ていないこと
がわかります。


「息の長い企業にしたければ、息の長い視点を持つ」

当たり前のことですが、これを実行できるかどうかです。


ところで、私は、
企業のマーケティング支援をメインの業務としております。

CRM(Customer Relationship Management)が専門です。
つまり、顧客との関係づくりをお手伝いしています。

とは言え、

「モノを売る」ための短期的なSP施策をお手伝いすることも
ありました。


しかし、これからは、「モノを売る」ことを最優先にした
せつな的SPの仕事はお受けしないことにします。

そもそも、せつな的SPは苦手ですし。(笑)


せつな的SPを得意とされる方は他にたくさんいらっしゃいます。

「モノを売る」ことが大事だよ、「顧客との関係づくり」は
後回しとお考えの企業さまは、ぜひ他の方をあたってください。

私は、せつな的SPはやりません。

投稿者 松尾 順 : 09:05 | コメント (1) | トラックバック

顧客が刺客に変わる時

先日の

「推奨者、無関心者、刺客」

の話の続きです。


顧客満足度調査の専門会社、J.D.パワーズの調査によれば、
顧客が「推奨客」に変わる、あるいは逆に「刺客」に変わるのは
どんな時に起こるのかがわかっています。


それは、企業が、次のような二者択一を迫られたときです。

(1)顧客との長期的関係を築くためにコストを負担する。
   (または収入の機会を放棄する)

(2)顧客満足を犠牲にして、ある取引の短期的な潜在的利益を
   最大化する


上記は難しい言い回しになってますね、要するに、

「企業が目先の利益を取るか、取らないか」

ということです。


たとえば、「返品を受け付ける」ことは、
「目先の利益を取らない」という判断を下しているわけです。

でもこの方針があるおかげで、顧客は安心して買い物ができる。
結果として、繰り返し買ってくれる優良顧客が増え、
長期的には元が取れるという考え方です。


逆に、目先の利益ばかりを追いかける企業には、
優良顧客はつかず、短命で終わるビジネスとなります。

これは、強引なプッシュ型セールスを売りに急成長した企業に
多いですよね。ほとんどの場合、急失速して突然死を迎えます。


さて、現代は、お客さんが企業・商品を選ぶ時代ですから、
基本的に、目先の利益よりも顧客満足を優先することが重要。

ただ、このことをお客さんと直接コミュニケーションを持つ
顧客接点にまで、きちんと浸透させることは簡単ではありません。

口先でいくら「顧客満足」を唱和したところで、
顧客接点の社員に対して短期的な売上ノルマを課していたら、
社員としては、顧客満足よりも自分の業績を優先するに
決まってます。


「J.D.パワー 顧客満足のすべて」には、
そうした社員の短期的利益を追求する行動をした結果、
ある顧客が「刺客」に変わったエピソードが紹介されています。


アメリカン航空を長年ひいきにしていたある顧客。

寒い冬のボストンを脱出し、西海岸で休暇をすごすため、
マイレージを利用してチケットを購入することにしました。

アメリカンのWebサイトは複雑で使いにくいものでしたが、
なんとか予約を完了したつもりでした。


ところが、旅行日が近づいたのに、
アメリカンから予約確認メールが届きません。

そこで、電話をしたところ、オンラインの申し込みが
完了しておらず、予約が取り消されていたことがわかりました。


電話で対応していた予約係は、

「ご心配いりません、同じフライトで予約を取り直すことが
 できます」

と伝えてくれました。ただし、

「フライト日が近くなっているため、50ドルの割増料金が
 かかります。」


顧客としては、期限前に予約しようとしたのだから、
50ドルの割増料金には納得できません。


この顧客は

「25年もアメリカンを利用しているし、
 サイトが使いにくいせいで、こちらがとばっちりを食うのは
 おかしいんじゃないか」

と主張しました。

そして電話にでた係の上の役職の主任、さらにその上の管理者にも
取り次いでもらいましたが、彼らの答えは「ノー」。


アメリカンは、IT部門にも電話を回しましたが、
IT部門の主任もまた、サイトの利用履歴を調べた上で、
今回の問題は、明らかな「顧客の操作ミス」であることを証明し、
アメリカン側には非がないことをほのめかしたのです。


顧客は、

「期限前にチケットを買おうとしていた記録もあったのに、
 私が長年アメリカンをひいきにしてきたのも関係ないとでも?
 50ドルで大事なお客を失おうとしていることがわからないのかね?」

と最後のあがきをしてみましたがやはり駄目。

彼は50ドルを払ってアメリカンに乗らざるを得ませんでした。


その後、彼は旅行会社に電話して、

「これからは、アメリカンには二度と乗らない」

と告げ、またWebサイトから、同社カスタマーサービスに
事の一部始終を説明するメールを送付したそうです。


すると、2、3日もしないうちに、アメリカンから
謝罪の手紙と50ドル分の旅行券が送られてきました。

しかし、もう手遅れだったんですね。


彼は、2度とアメリカンに乗らなかっただけでなく、
周囲の人間にアメリカンがいかにひどいかを話して回る刺客に
変わってしまったのです。

アメリカンは、最終的には顧客に返すことになった50ドルを
稼ごうとしたためにこんな事態を招いたわけです。


実は、この事件とそっくりな話を以前、

「ぴあの蹉跌・・・勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?」

「想定外のトラブルへの対応」

でご紹介したんですが、
この時のぴあのカスタマーセンターの責任者の対応はさすがでした。

オンライン予約で不愉快な思いをした友人をすんでのところで
「刺客」に変えずにすんだのでした。


彼のことはよく知っておりますが、もし刺客に変えていたら
その影響力は甚大だったに違いありません。(笑)


出典:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワー4世+クリス・ディノーヴィ著、ダイヤモンド

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (2) | トラックバック

推奨者、無関心者、刺客

顧客満足度調査を専門に行っているJ.D.パワー社では、
顧客を次の3タイプに分けています。

--------------------------------------------------

1.推奨者

  企業、サービス、商品の熱狂的な信者となった顧客
  他者に対して積極的に、商品・サービスの使用を勧めます。

2.無関心者

  最低限の期待しか満たされなかった、満足しているだけの顧客
  ちょっとした刺激でブランドスイッチしてしまいます。

3.刺客

  不快な体験をした商品・サービスをけなして
  ダメージを与える顧客

--------------------------------------------------

さて、顧客満足度調査の結果を見る時、以前は、

「とても満足」(20%)+「まあ満足」(60%)

で、「うちは顧客満足度80%だ!」と自己満足していました。
以前も書きましたが、こういうのを「自己満足度調査」と
私は呼んでいます。


でも、今では、

「とても満足している」

だけの数字を特に重視します。

なぜなら、顧客満足度調査の主な目的が、
顧客維持、つまりリピート購入率の向上であることを考えると、
「まあ満足している」と回答した顧客は、「無関心者」に
他ならず、彼らがリピートする可能性は決して高くないからです。

要するに、リピートしてくれる可能性の高い「推奨者」
(彼らは「とても満足」と答えることが多い)の数をどれだけ
増やすかが大事なんですよね。

一方、「刺客」をどうやって減らすかもきわめて重要。
自社商品・サービスの「悪口」をいいふらしてるわけですから。


J.D.パワーズの調査では、推奨者や刺客となるきっかけとなった
消費体験が明らかになっています。

--------------------------------------------------

●推奨者の体験談トップ5

・期待を超えるサービス 47%
・長期的判断による対応 27%
 (短期的損失)
・親切/親身 18%
・製品品質の高さ 11%
・価格の安さ  9%

*「長期的判断による対応」とは、購入商品の無条件の
 返品受付のように、企業側に短期的な損失をもたらしてでも
 顧客の利益を優先する対応のことです。


●刺客の体験談トップ5

・製品品質の悪さ 20%
・修理拒否 19%
・無愛想なサービス 17%
・失礼な対応 16%
・短期的な考え方 11%

*「短期的な考え方」とは、顧客の利益よりも、
 企業の短期的な利益を優先する対応のことです。

--------------------------------------------------


企業としては、ぜひ自社の宣伝をしてほしいし、
逆に、悪口を吹聴して回って欲しくはないですよね。


つまり、近年関心を集めている顧客の「口コミ」には、

好ましいものと好ましくないもの

があるわけで、上記の体験談は「口コミ」活用
(CGMマーケティング)にも、とても参考になります。


出典:J.D.パワー 顧客満足のすべて
J.D.パワー4世+クリス・ディノーヴィ著、ダイヤモンド社

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (0) | トラックバック

両面提示広告:新生銀行のケース

「メリット」は、目立つように大きく派手に書く、声高に言う。

一方、

「デメリット」は、目立たないように小さく書く、小声で言う。
あるいは、そもそも「デメリット」を書かない、言わない)


売り手の気持ちとしては、こんなコミュニケーションを
したくなりますし、実際、どんな業界の広告宣伝でも、
こんな表現が一般的ですよね。


しかし、顧客(消費者)の立場に立てば、

「企業の都合の良いことだけ強調して、
 都合の悪いことを隠そうとするのはずるい」

となるわけです。


企業の担当者も、一顧客(消費者)でもあるわけで、
この気持ちがわからないわけではない。

でも企業の立場に立つと、
なぜだか企業に都合のよい表現しかできなくなる。

「顧客中心主義」とか「CS第一」とかお題目は立派だが、
本当に顧客の立場に立ったコミュニケーションができている
企業は、まだまだ少ないのが現実でしょう。


とはいえ、最近は少しずつ変わってきましたね。
ネット革命のおかげでしょう。


田坂氏の言う、「ネット革命」によって、
「情報主権」が企業から消費者へと移行してしまったからです。

消費者は、ネットを通じて、多様なルートからさまざまな情報を
容易に収集することができる。そして、
十分に時間をかけてその情報を分析し、学習する。

しばしば、「多忙」という言い訳で勉強を怠っている
企業側担当者よりも、消費者の方が知識が豊富です。

したがって、もはや自社に都合のよい情報だけを見せる
というやり方は、通用しなくなっているといます。


さて、この「今の真実」を悟り、素直にコミュニケーションに
反映させている事例が、「新生銀行」の「仕組預金」です。


商品名は

「パワーステップアップ預金」


正式名称は、

「仕組預金(デリバティブ預金)預入期間延長特約付円定期預金」


長い名前ですねぇ・・・


当金融商品の07年1月以降のチラシ、新聞広告を
目にされた方はお気づきでしょうし、Webサイトの紹介ページを
見てもわかりますが、

「メリット」と「デメリット」(注意点)

が、まったく同じ扱い、並列で記載されています。


これは、心理学で言う、

「両面提示」(メリット、デメリットの両方をきちんと伝える)

を忠実に実行している広告として、
大手企業にはきわめて珍しいことです。


従来の都合の良いことしか言わないコミュニケーションは、
「片面提示」と呼ばれていますが、「両面提示」は、
比較的学歴が高い消費者、そして、金融商品のように、
じっくり購買を検討する関与度の高い商品において
有効なコミュニケーションであることがわかっています。


ただ、これまで実践できる企業は少なかった。

新生銀行の「パワーステップアップ預金」の広告は、
賞賛に値するものだと私は思います。


新生銀行マーケティング部長、伊藤淳一氏は次のように
述べています。

「広告は、当然ながら消費者の皆さまに興味を持ってもらい、
 ご購入いただくことが目的ですから、メリットを強く
 打ち出したい。しかし、こうした金融商品の場合、
 検討段階でリスクをしっかりと理解していただいた上で
 店頭での販売などを行う方が、購入する際の納得度も
 高いと考えました」

「・・・リスクをわかりやすく説明しようという姿勢を打ち出す
 ことで預金者との信頼関係強化につながると考えています」
(PRIR、2007 March)


顧客の「納得度の高さ」を優先する。「信頼関係」を重視する。

これこそが、CRMであり、また顧客中心の考え方です。

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

赤福の3つの味

伊勢名物「赤福」、適度な甘みの餡(あん)と柔らかなお餅の
コンビネーションが最高ですよね。

普段は関西でしか販売しておらず、
関東に住む人間としてはめったに食べる機会のない幻のお菓子。
(10月から5月までは、通販でも買えるんですけどね)


余談ですが、お餅の上に乗ってるあのアンコ、
絶妙に波打っています。とっても美しい曲線です。

あれは、右手の指3本で餅の上に餡をかぶせていくために
できる跡。つまり、手作業の証しでもあるわけです。


さて、余談の後に本題です。(^_^;


赤福では、お客様を満足させるために

「3つの味」

を大切にしているそうです。
(サービスの花道[セオリー]、講談社)


3つの味とは、

・先味
・中味
・後味

のこと。


赤福会長の浜田益嗣氏は、

「先味」とは、実際に口に入れる前の期待感
「中味」とは、食べた時の実際の味覚
「後味」とは、食後、心に残った印象

と説明し、この3つを満足させてはじめて
お客様に喜んでいただける、

と語っています。


そして、「先味」を高めるにあたって重要なのが、
「ブランド」です。


ブランドとは、端的にいえば「赤福」という名称や
店舗、パッケージ、ロゴなどを見聞きした時に
連想するイメージや感情のことです。


赤福の場合、1707年創業という歴史が持つ「暖簾」が
強力なブランドとなっており、

「赤福なら間違いない」「あの味をまた食べたい」

といった信頼と期待感を生み出してますよね。


赤福の包みの中には、「伊勢だより」という日替わりの
短冊程度の大きさの版画&メッセージが入っていますが、
これも「先味」、つまり期待感を煽るための仕掛けだそうです。


さて、「中味」は、期待にたがわぬ味を提供するための
品質管理や、時代とともに変化する消費者の嗜好にチューニング
し続けることで維持されるもの。

そして「後味」は、店を出た瞬間にふと客が漏らす正直な感想に
現れるそうです。

歴代の店主たちは、お客さまの生の声を現場で収集して
「後味」を評価することで「赤福」の味を300年に渡って
守ってきたというわけです。


私は、マーケティング・コミュニケーションで大事なのは、

「言行一致」

だとずっと言ってきました。


どういうことかというと、

広告・宣伝などを通じて、
どんなに美しい「企業イメージ」(期待)を作り上げても、
実際の商品やサービスを利用した時の「ユーザー体験」(真実)
が、企業イメージに一致していなかった場合、
その企業や商品、サービスに対するブランドは一気に
崩れてしまうということです。


「赤福」では、このことが創業当時から明確に意識されており、
しかも、「後味」把握のために、現場での生の声の収集という
「顧客満足度調査」を続けてきた。

やはり、老舗は、老舗として残ってきただけのすばらしい
考え方を持っているということがよくわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 11:30 | コメント (2) | トラックバック

めんどくさいこと

毎日遅くまで働いていたりすると、

「楽に、手っ取り早く儲けられたらいいなあ・・・」

って思うことありますよね。


でも、自分がお客さんの立場だった時に、

「楽して手っ取り早く儲けたい」

と考えている人から、何か買いたいと思いますか?


単に「いいカモ」にされているだけに感じられて、
決して買いたいとは思わないはずです。


とはいえ、ネット上には、

「楽に手っ取り早く儲かるノウハウ」

を言葉巧みに売りまくって、

「楽に手っ取り早く儲けてる人」があふれていますけどね。

(「情報起業」自体を否定する気はありません)


実のところ、短い間だけなら、
楽に手っ取り早く儲けることは可能だと思います。

しかし、一度カモにされたと感じたお客さんを
リピーターにすることは難しい。

つまり、継続性のある事業にすることはできないのが現実。


ですから、安定的に収益の上がる息の長いビジネスを
展開したかったら、

やるべきことは、

「お客さんが喜ぶことで、他の人、会社がやりたがらない、
 手間のかかるめんどくさいことを続けること」

だと思います。


昨日の「CRMリテラシー」で紹介した酒屋さんがやっていること
は、毎月ニューズレターを書くというめんどくさいことでした。

結果として、固定客がつきビールが正価で売れる。


また、カリスマ販売員として有名な、安達太陽堂の長谷川桂子氏
は、腱鞘炎を我慢しながら、毎年累計2万通の手紙をお客さんに
書いています。

通信販売企業の中には、購入客に対して手書きの礼状を書く
専任スタッフを数人雇っているところもありますよね。


沖縄の「小福」という小料理屋のおかみは、
毎日、ちょっとした言葉を色紙に書いてお手洗いに貼っていました。

毎日、新しい言葉を考えて色紙を書くのはとっても面倒なことだと
思いますが、それを知ってるお客さんは、その色紙見たさに
繰り返し行きたくなるのです。(料理もおいしいですけどね)


どの業界であれ、今、トップセールスマンの地位にいる人は、
はたから見れば実に非効率的で面倒な顧客サービスを
徹底してやっています。

だからこそ、お客さんから全幅の信頼を得て、
ほぼ口コミだけで安定的な業績を残してきています。


私は確信しているんですが、

一見お金の無駄に思える面倒なことをやり続けることこそが、
長期的に儲かり続ける唯一の方策であること、

そして

このことを真に理解し、実行できる人や企業だけが
今の厳しい環境で生き残っていけるのではないでしょうか?


ここまで書いてきてふと気づいたのですが、
ひょっとして、「CRM」の考え方が理解できない人、
つまりCRMリテラシーが低い人は、
面倒くさいことをやりたくないから、(無意識に)
理解できないふりをしてるのかも知れませんね。

投稿者 松尾 順 : 07:50 | コメント (3) | トラックバック

CRMリテラシー

CRM(Customer Relationship Management)

の考え方を実務に落とし込む際の基本指針は、

「顧客の立場で考えること」

に尽きます。


ただ、これだと、まだピンとこないですよね。


そこで、もう少し具体的な指針に言い換えるとすると、

「顧客が‘購入’という自律的な行動を起こしてもらうために、
 こちらは何をすべきなのかを考える」

となります。


ここで強調したいのは、このCRMの基本指針(パラダイム)は、

「商品を‘販売’するために、こちらを何をすべきかなのかを
 考える」

という古い基本指針(パラダイム)とは対極にある考え方で
ある点です。


ですから、どんなに「顧客第一主義」とか「顧客満足度最大化」
などと、経営理念で高らかにうたっていても、
顧客接点、つまり現場の人たちの考え方が古いパラダイムのまま
だったとしたら、その企業はCRMを実践しているとは言えません。


実際、CRMがお題目のままで終わっている企業がいまだ
多数派のように感じます。


どうやらその原因は、そもそも冒頭に示した

「顧客が‘購入’という自律的な行動を起こしてもらうために、
 こちらは何をすべきなのかを考える」

ことが結果として販売につながることが理解できないための
ようなんですね。


私は、これを

「CRMリテラシーの欠如」

と呼んでいます。


このCRMリテラシーの欠如が如実に現れているエピソードが、

「感性」のマーケティング
(小阪裕司著、PHPビジネス選書)


にありました。


ある地方の小さな酒屋では、アサヒスーパードライや
キリン一番搾りなどのナショナルブランドのビールが
「正価」で売れているそうです。

近くにあるディスカウントショップとの価格差は
ケース単位だと1500円になるにも関わらず、
この酒屋の顧客は喜んで買っている!


小阪氏が、この酒屋の話を日経MJのコラムで書いたところ
ぜひ視察したいという問い合わせが殺到。

価格競争に悩まされている某業界団体の視察を受け入れて
もらったそうです。


ところが、遠方からわざわざやってきた人々が
店主にする質問が、

「おたくでは、私どものような価格競争の激しい
 ナショナルブランドを正価で売るテクニックをお持ちだと
 聞いたんですが、教えてくれませんでしょうか?」

という「本質」を見誤ったもの。


なぜなら、その酒屋は、小手先のテクニックで
売っているわけではなかったのです。

店主がやっていたのは、「顧客との関係づくり」。

CRMの基本思想であり、CRMリテラシーが高い方にとっては
なんら理解に苦しむことはありません。


でも、この業界団体の方々はわからない。

店主が関係づくりのための方法として毎月発行している
ニュースレターを見せたところ、

「なぜ、この手紙を出したら、ビールが定価で
 売れるんでしょうか?」

と首をひねっている。


こうしたCRMリテラシーの欠如が、

販売するためには、やっぱり安くするしかない

という考え方しか導き出せず、
結果として、自分たちの首を絞めていることに
気づくことができていないわけです。


あなたの業界、あなたの会社のCRMリテラシーは
どの程度でしょうか?

投稿者 松尾 順 : 18:00 | コメント (0) | トラックバック

「愛すべきなまけものたちへ」・・・ ワコール・スタイルサイエンスのWeb-CRM

今日は、ワコールのWebサイトを活用したCRM施策事例を
ご紹介します。
(IMプレスセミナーにおけるワコールご担当者の講演より)


「スタイルサイエンス」

は、ブランド横断型のサイトです。

共通しているのは、

「トレーニングボトム」

と呼ばれる補正下着を対象としたサイトであること。


「トレーニングボトム」の最も代表的なブランドは、

「おなかウォーカー」
「ヒップウォーカー」

など。

これらの広告は地下鉄などでもよくみかけますので、
男性の方も記憶に残っているかもしれませんね・・・


さて、いわゆる「補正下着」は、
着用している間はおなかやおしりが引き締まって見えるけれど、
ワコール担当者曰く、
脱ぐと「ぼよよん」と元に戻ります。(笑)


一方、ワコールのトレーニングボトムは、
着用したからといって「ぼよよん」状態が引き締まるわけでは
ありません。

しかし、特殊な織りが採用されており、
着用して一定量以上の運動をすると、徐々におなかやおしりが
引き締まっていき、脱いでも「ぼよよん」に戻らなくなる機能
を持っています。

つまり、トレーニングボトムは、
正確には体型を「補正する」のではなく、「変化させる」こと
のできる画期的な下着です。


ただし、引き締め効果を実感するためには、
最低でも週5日着用して、1日6千歩以上歩かないといけません。

すると、着用開始1ヶ月後くらいには、
引き締まってきた自分の体型の変化に気づくことができる。


この週5日、毎日6千歩以上というハードルは結構高いですよね。

しかし、購入者にこのハードルを超えてもらい、
効果を実感してくれないと、継続利用・リピート購入は難しい。
また、店売りの商品であるため、販売員が購入後のフォローを
行うことには限界があります。


そこで、ワコールでは、Webサイトで購入者を支援するサービス
として

「スタスタ部」

というコミュニティ機能を構築しました。

スタスタ部に入部できるのは、購入者だけ。
入部(登録時)には、「商品番号」「製造番号」の入力が必須です。


入部すると、毎日の体調や運動記録を日記として残すことが
できます。個人専用ブログですね。

また、掲示板を使って部員間で情報交換が可能。
トレーニングボトム着用のコツや、効果的なエクササイズを
教えあったり、挫折しそうな人を励ましたり、励まされたり。


「愛のムチ プログラム」に参加することもできます。
スタスタ部に何日かログインせず、日記をつけるのをさぼると、

“あなたはもう2日もログインしていない!
 家の中で丸くなっているうちに、お尻もおなかも
 丸くなっちゃうよ”

といった、きついお叱りメールが飛んでくるしかけです。

でも、日記をきちんとつけ、愛のムチに耐えて無事卒業すると、
ポイント(マイル)がたまり、5万円の旅行券がもらえるチャンス
が与えられるという「インセンティブ」もあります。


スタスタ部の開設は06年7月です。

約5ヶ月後の現在(06年11月末)の部員数は、約1万人。
「愛のムチ プログラム」に参加したのは、その約半数。

スタスタ部の掲示板や、「愛のムチ プログラム」卒業生の
コメントは誰でも閲覧(見学)できますが、
かなり活発なコミュニティであることがわかります。


ワコール担当者によれば、「卒業者のコメント」が
キラーコンテンツになっているそうです。
(1日当たり150件ほどの新規のコメント書き込みあり)

卒業者のコメントは、要するに、ユーザーの「口コミ」。
トレーニングボトムを1ヶ月ほど着用した成果について
率直な感想が語られています。

つまり、薬事法により、企業側が示すことはできない
効果効用を顧客自らが代弁してくれているのです。


ワコールでは、スタスタ部の開設に当たり、
ターゲットユーザーを

「愛すべきなまけもの」

たちと命名。

単に、商品を売るだけでなく、購入後の継続着用と一定以上の
運動を支援する仕組みをWebで提供するトレーニングボトムの
商品群を

「Webサポート付き商品」

と位置づけているそうです。


現時点ではまだ、このWeb-CRMの成否の判断は難しいとのこと
でしたが、私としては、間違いなく「成功事例」だと思います。

投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (2) | トラックバック

役に立つ情報

相手の信頼を得るには、
相手に役に立つ、特になる情報、アドバイスを提供すること。


ビジネスにおける最も重要な基本行動がこれでしょう。

特に、顧客以前の「見込客」との信頼関係形成には
この基本行動を継続するのが最善の策です。

このことに私が気づいたのは、
広告会社に在籍していた10年ほど前のことでした。

そこで、同広告会社のWebサイトのリニューアルに合わせて、
メールマガジンの発行(月刊)を開始しました。

目的は、メールマガジンを通じ、
見込客、顧客にとって役に立つ情報を継続的に提供することで
「信頼できる会社」というブランドイメージを醸成すること。
そして、セミナーのお知らせなどは最小限にとどめていました。


ただ、そのメールマガジンの発行を開始してから
わずか半年ほどして私は某ネットベンチャーに移ったため、
早々と発行を同僚に引き継ぐことになったんですが・・・

ちょっと無責任ですよね・・・
(引き継いでくれたKさん、ありがとう)


現在も同広告会社のメールマガジンは、
種類を増やしつつ継続して発行されており
相応の効果を上げているようです。

そういえば、コミュニケーションを扱うマーケティング業界の
会社でありながら、メルマガのようなツールを自ら活用できて
いるところは意外と多くないですね。


さて、私自身、広告会社退社直後から、
個人で週刊メルマガの発行を開始しましたし、
1年前からは、こうして平日日刊のメルマガ&ブログを通じて

「役に立つ情報」(だといいのですが・・・(^_^;)

を継続的に提供してきてるわけです。


実は、製薬会社の営業担当(「MR」と呼ばれます)においても
このような基本行動が、営業成績に大きな差をもたらします。


私のもうひとつの専門領域である人材(育成)管理の専門用語で、
成果につながる行動パターンは、

「コンピテンシー」

と言われますが、MRの平均的業績の人と高業績の人の差を
調査した結果、次のような違いがあったそうです。


平均的業績の人たちは、とにかく「顔を売る」行動に
終始しがちでした。

キーパーソンのドクターに会えるまで延々と待ち、
ドクターが忙しい場合には一言挨拶して帰ってくる。


一方、高業績のMRは、
医局をたずねてドクターがいなかった場合は、
何か「役に立つ情報」を置いてくるという行動を取っていました。


つまり、高業績のMRは、

「ドクターのほしい情報をタイムリーに提供して存在感を増す」

ことが業績につながることを確信しており、
ドクター待ちに無駄な時間を費やすのではなく、
営業活動のかなりの部分を情報収集や資料づくりに
時間を割いていたのです。


よく考えてみれば、ただ単に「顔を売る」ために
ドクターを待つのは、頭も使いませんし楽な行動ですね。
でも、医局でずっと待ち続けているわけだから、いちおう仕事を
しているように見える。

一方、役立つ情報を提供するのは、頭を使いますし、
事務所でPCに向かっていたりして、一見営業をさぼっているように
見えるかもしれませんよね。

しかし、人からどう見えるかは、実際どうでもいいことですし、
成果につながらなければ意味がありません。


このような話は、あらゆる業界で見聞きしますね。

顧客に役立つと思う資料づくりのためにずっとデスクに座って
いると、営業部長などから

「昼間に社内にいるんじゃない、営業は外回りしてナンボだ」

などと叱責される。

しかし、昔のように手ぶらで日参したところで
迷惑がられる時代です。

「顔を売る」だけで通用したのは高度成長期まで。

今は、成果につながる最も重要な基本行動は、
相手に役に立つ行動をすること。

最近、これを

「アドボカシーマケティング」

と呼ぶ人もいるようです。

投稿者 松尾 順 : 13:54 | コメント (2) | トラックバック

「あら、○○さん、お帰りなさい!」

昨日に引き続いて、
カリスマ販売員、長谷川桂子氏率いる、「安達太陽堂」の話です。


長谷川氏によれば、
リピート客を増やすために同店が重視していることは、

「落ち着く、慣れる、ほっとする店づくり」

だそうです。


これは、人間の

「帰属欲求」
(自分の居場所だと感じられるところが欲しい)

という心理を充たしてあげること。

そのために大事なことは、
まずお客さんの名前を呼んであげることです。

なんたって、世界で一番心地よい言葉は「自分の名前」です。
名前を覚えてくれていてうれしくないお客さんはいませんよね。


朝方なら、

「あら、松尾さん、おはようございます」

夕方なら

「あら、松尾さん、お帰りなさい!」

と呼びかけます。


なお、名前だけじゃなく、

「あら」

という言葉をつけるのも重要だそうです。

私はあなたを「いつも来てくれるお客さん」だとわかってますよ、
そして、「また来てくれてうれしいですよ」という気持ちが
伝わる感嘆詞だからでしょうね。

こうして、自分のことを知ってくれている、歓迎してくれる
なじみの店という安心感も生まれる。

また戻ってこようという帰属欲求がおおいに刺激されますね。


長谷川氏は約3千人の顧客を覚えているそうですが、
当然ながら、出張などで不在の時の新規客は覚えられません。

そこは、10人いるスタッフの誰かが代わりに

「あら、山田さん・・・」

と呼びかける。


でも、もしも誰も覚えていない場合は、
新人のスタッフが、かわいらしく、

「申し訳ありません、どちらの町に(お住まい)でしたか」

と、どこに住んでいるかをさりげなく尋ねます。


「あら、□△町よ」

とお客さんが答えたら、カウンターの下で大急ぎで
顧客カルテをめくり、お客さんの名前を探すのだそうです。

そして、最初から覚えていたかのように

「あら、鈴木さん、お帰りなさい!」

と長谷川氏が出迎えるのです。


同店では、この連係プレーができるように
顧客カルテは名前順ではなく、地域別に分類されているそうです。

住んでいる地域を聞けば、
お客さんのカルテが探し出せるようにです。

自分の名前を改めて聞かれて、
生じるであろうお客さんの不快感を避けるために
ここまで徹底していることに驚きますね。


余談ですが、アキバ系メイドカフェなどでの挨拶、

「お帰りなさい、だんな様!」

は、男性の帰属欲求を刺激する最高の言葉ですね。
(もはや、自宅ではこの言葉を聞くことはできませんし・・・)

投稿者 松尾 順 : 09:44 | コメント (0) | トラックバック

4色ボールペンによる顧客管理法

人口2万4千人の岡山県・新見市に

「安達太陽堂(昭和町店)」

という化粧品店があります。

店舗面積約100坪、スタッフ10名で年商2億円を上げる地域一番店。

カネボウの専門店向けブランド「トワニー」の取り扱いでは、
10年連続日本一の売り上げを記録しています。


同店を率いるのは、カリスマ販売員として有名な長谷川桂子氏
(専務取締役)です。

長谷川氏は、

「商売はリピート」

と言い切ります。

人口わずか2万4千人の地方都市では、新規客の心をつかめず、
リピート客にできないお店は、早晩つぶれるしかないからです。


だから、長谷川は、顧客の心をつかむために
さまざまな工夫と努力を重ねてきました。

そのノウハウは、人間心理に対する深い理解に基づいていて、
どんな業種・業態であろうと、またオフライン、オンラインで
あろうと応用可能な普遍的な原理と言えるものです。


今回は、長谷川氏が編み出したノウハウの中からユニークな
顧客管理法をご紹介します。(長谷川氏の講演会で聞いた生の
情報です)


安達太陽堂では、ポイントカードを導入していて
ポイント管理についてはコンピュータを利用していますが、
顧客カルテの作成はすべて手作業だそうです。

ただし、記入方法に工夫があります。


長谷川氏をはじめスタッフ全員は4色のボールペンを持ち、
顧客によって使い分けています。

緑・・・午前中に来店したお客さん
青・・・午後に来店したお客さん
赤・・・DMで来店したお客さん
黒・・・配達したお客さん


このように、買い手の購入状況によって色を変えることで、
たとえば、緑だけで購入履歴が書かれたお客さんは、

「午前中しかこれないお客さん」

ということがパッと判断できる。
(これが、どのような意味を持つのか説明してくれません
 でしたが、おそらく、そのお客さんと相性のいいスタッフの
 勤務時間と合わせるといったことに使うのでしょうね)

また、赤だけで書かれたカルテのお客さんは、
DMに掲載するインセンティブのような特典がないと
来店しないお客さんということがわかりますから、
案内の内容もそれなりのものに変えることができるそうです。


同店で行われている、こうした切り口の顧客管理法は、
現場での経験を通じて生まれたものであり、
極めて効果的なやり方になっています。

しかも、あえてIT化していない点が重要なのです。

色をたくみに使い分けることで、
論理的な分析ではなく、直観的な理解・判断を可能に
しています。

データベースを導入したからといって、
顧客管理がうまくできるわけではないことを
実感させられますよね。

投稿者 松尾 順 : 11:09 | コメント (0) | トラックバック

CRMの好事例:展示場ご来場新聞

CRMの主眼は、

「既存顧客との良好な関係の維持」

であるというのは、
いまさら言わなくても十分おわかりですよね。


ただ、CRMのもうひとつの重要な狙いに

「見込客との良好な関係の維持」

があるという点は、
まだまだあまり浸透していないように思います。


現在の市場は、買い替え需要が主流。

見込客が、時を置かず即座に購買してくれるような商品は
めったにありません。

つまり、ほとんどの商品には「買い替えのタイミング」
というのがあり、そのタイミングにさしかからないと、
購買には至らないのです。


ですから、買い替えのタイミングを無視して、

「こちらが売りたいときに無理やり売ろうとする」

という間欠的で、ハードセル型の「プッシュ営業」は
もはや通用しなくなってきたわけです。


最近は、短期的な販売を目的としない、
ソフトなコミュニケーションを見込客と継続的に行うことで
良好な関係を形成し、買い替えのタイミングがきたら、
むこうから指名してもらうという「プル営業」を
採用している企業が長続きする成功を収めています。


以前も書いたかもしれませんが、私は、
すぐに買ってくれない見込客をあっけなく切り捨てる、
従来の「プッシュ営業」を

「織田信長型マーケティング」

と呼び、一方、見込客がその気になるまで気長に待つ
「プル営業」を

「徳川家康型マーケティング」

と呼んでいます。


さて、「徳川家康型マーケティング」の好事例と言える
面白いマーケティング施策が、
販促会議最新号の12月号(2006.12)に掲載されていました。


簡単にご紹介します。

「積水ハウス」の取り組みです。
全社ではなく、東京南支店だけでの先行的な取り組み
のようです。


同支店では3つの新聞(紙ベース)を発行しています。
うち、見込客に対するソフトなコミュニケーションが、

「展示場ご来場新聞」

です。


これは、展示場に来場してアンケートを書いてくれた
「見込客」に対して、売り込みは一切ない、
キッチン、居間、バスルームなどの住宅に関するトレンド情報
のみが掲載された新聞です。

書き手は展示場の女性社員。
受け取った見込客は、セールスをされないので安心して、
この女性にいろいろと質問してきます。

こうして見込み客との継続的な関係が深まるのが
うかがえますね。

この新聞の成果としては、毎月の受注件数の30%が、
この新聞を受け取っている方たちとなっているそうです。

これこそまさに見込み客維持の理想形でしょう。


残り2つの新聞もCRM施策の理想を実現しています。


「営業担当者新聞」は、既に家を建てた既存客向けの新聞。
やはり宣伝は一切なく、トレンド情報のみ。

成果は、1軒の展示場が年間に契約する以上の棟数を
この新聞を受け取った既存客の紹介で契約しているそうです。

これは、既存顧客との関係維持施策としてすばらしいですね。


そして、「建ててる途中新聞」。

建築中のプロセスやごみ処理の状況などを新聞に仕立てて、
近隣住民に配布するもの。

近隣からの苦情低減になるだけでなく、
建築中の住宅の見学者が増える。

こうした人たちの中から、また新たな見込客や、
顧客を紹介してくれる積水ハウスのファンが
生まれているようです。


この事例のように徳川家康型マーケティングは、
今目の前の潜在顧客を狩り取る「狩猟型」ではなく、
「種」の段階からじっくり育てる「農耕型」と
言い換えることもでき、成果が上がり始めると
継続的に安定した収益が確保できるやり方です。

しかし、短期的な売上を確保するという視点からは、
一見迂遠に見える施策です。

このため、「徳川家康型マーケティング」は、
近視眼的な企業はなかなか実行に移せない施策だと言えます。

結果的にいつも顧客獲得に大変な思いをし続けるのです。

投稿者 松尾 順 : 17:55 | コメント (3) | トラックバック

CRMの魂

私が、

「CRM」(Customer Relationship Management)

というコンセプトを知ったのは1995年です。

以来約10年にわたり、マーケティング分野の中でも特に

「CRM」

をメインテーマに据えて追いかけてきました。


「CRM」は、全社・全部門に関係し、かつ、
企業理念やビジョン、戦略、戦術にまたがるコンセプトで
あるため、なかなかとらえどころがないのが現実です。

それでも、最近はつくづく、核となるCRMの思想が、
最も重要なんだなと感じるようになってきました。


この核となるCRMの思想を私は、

「CRMの魂」

と呼びたいと思います。


「CRMの魂」とは、私の考えでは次の2つだけです。


・顧客が真に求めているものを提供する
・個別対応する


この2つは、要するに

顧客がこうしてもらえると、

「うれしい」と感じ、
 「感激」し、時に
「感謝される」こと

です。

こうした行動が全社レベルで、また一人ひとりのスタッフが
自然に行える企業は、長期的に成功を収める企業でしょう。


日経ビジネス最新号(2006年10月23日号)の特集では、
「日本一売る」セールスの人たちが多数登場していますが、
ほとんどの皆さんの行動の背景には「CRMの魂」の存在が
感じられました。

最終的に自社商品・サービスを売ることがゴールであっても、
顧客対応においては、常に顧客が真に求めているものを
提供することに熱心なんですよね。

逆に、自分の売り上げしか考えていないような人、つまり
「CRMの魂」を持たない口八丁手八丁のゴリ押し的営業は
一人も登場していないんです。


例えば、モンスーンカフェなどのレストランを運営する
グローバルダイニングで働く店員の奥澤有紀さんは、
本人が覚えていない「前回食べた料理」を来店客に教えて
驚かせ、また、ドリンクを飲み干したグラスを置くと同時に
お代わりを出す、絶妙の気配りができるカリスマ店員です。

奥澤さんのこのすごいサービスに感激した客は
「ユキちゃん、名前覚えておいて」と名刺を渡してくれる。
その数200人に上るそうです。


また、群馬ヤクルト販売では、逆張りの発想を採用。

戸別訪問の販売員、ヤクルトレディーが
1週間に訪問する顧客数を150から120軒に減らし、
十分にコミュニケーションが取れるようにしました。

販売員は当初売上高の減少につながると反対しましたが、

同社星野社長は、

「売りに行くな。話をしに行け。
 話の中からお客様の健康を気遣え」

と指示。


その結果、過去3年間に月間80万円を売る販売員が、
1-2人から16人にまで増加しました。

全国平均は月間40万円ですから、群馬ヤクルト販売の場合、
平均より倍以上売る販売員が続出したということになります。


皆さんの会社には「CRMの魂」はありますか?

投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (5) | トラックバック

CRMについての基本的な誤解

「目標管理制度」を導入されている企業にお勤めの方、
結構多いと思います。

「松尾くん、君の今期の売上目標達成やばそうじゃないか、
 大丈夫か!」

なんて上司にプレッシャーかけられたりして、
目標管理制度には、いやーな感情を持つ人が
多いんじゃないでしょうか。


こんなネガティブな感情を持ってしまうのは、
目標管理制度の「運用」が間違っているからだと言われています。

運用の間違いは、目標管理とは、

「目標を管理することである」

という勘違いから来るものです。

この勘違いのままだと、上司は、
「目標」と「実績」との乖離ばかりに焦点を当ててしまうのです。
そして、「目標めざしてがんばれ」としか言わない。

これは管理ではありませんよね・・・
ただがんばれと言うだけなら、小学生だって上司が務まります。

部下は、どうしていいかわからずおろおろするだけ。
やる気も下がります。


実は、目標管理制度の真の管理対象は、「目標」自体ではなく、

「社員の活動」

です。

セールスパーソンなら、当然ながら

「自分の営業活動」

が管理対象です。

ですから、「目標」とは、営業活動の成果を示す指標であり、
営業活動管理のためのツールとして使うものにすぎません。


この正しい理解ができている上司は、「目標」自体ではなく、
「目標」と「実績」を判断材料にしながら、
どんな営業活動をすることが効果的なのかということに
フォーカスします。

そして、今後の具体的な営業活動計画に落とし込めるよう
部下をコーチングします。

その結果、部下のアドバイスを受けつつ、
やるべきことが明確になった部下は、
やる気いっぱいで、明日からの営業活動に臨めるというわけです。


「目標管理制度」は元々米国から輸入されたものであることは
ご存知かと思います。英語では

「MBO:Management by Objective」

であり、この英語に忠実に和訳すると、

「目標による管理」

となります。

これなら、「目標を管理すること」という勘違いは
起きなかったと思いますよね。

ですが、「目標管理」という短い言葉にしてしまったが故に、
上記のような勘違いが起き、運用が不適切に行われ、
結果、社員には嫌われ、やる気を阻害する逆効果の制度に
なってしまいがちなわけですね。


さて、類似の根強い誤解が「CRM」にもあります。

それは、CRMは、

「顧客を管理すること」

という解釈です。


この発想自体、そもそもとてもおこがましいことですよね。

顧客を柵の中に囲い込む、そんな独りよがりの考えが
ちらついています。

この考え方からは、顧客データベースを構築して
顧客データを蓄積・管理すればよいというソリューションしか
生まれてきません。


しかし、CRMは顧客を管理することではありません。

CRM(Customer Relationship Management)は、
英語を直訳すれば、「顧客関係性管理」となります。

つまり、「顧客」ではなく「顧客との関係性」がキーワード。

ですが、CRMは、

「顧客との関係性を管理すること」

でもありません。

目標管理制度と同様、CRMの真の管理対象は、

「企業のコミュニケーション活動」

です。

具体的には、広告・販促活動や、Webサイト、コールセンターなど
各種コンタクトポイント(顧客接点)における自社スタッフの
コミュニケーションをどう改善していくかが主眼です。

そのための成果指標として、ツールとして使うのが、

「顧客との関係性」

です。、わかりやすく言えば、
どれだけロイヤルなお客さんが増えたのか、減ったのかということ
を判断材料に、自社のコミュニケーションを管理(コントロール)
していくのがCRMであるわけです。


いかがでしょうか。

上記のように考えれば、「CRM」は単なる流行語でも、
概念論でもなく、本来、企業のマーケティングコミュニケーション
を良くしていくことができる優れた管理手法であることが
おわかりになるんじゃないでしょうか。


ですから、「CRM」に対する誤解を解くためには、
やや説明口調でわかりにくくはなりますが、

「顧客関係性によるコミュニケーション管理」

という言い方をするのがいいでしょうね。

英語では、

「Communication Management By Customer Relationship」

です。

ともあれ、最低でも、

管理する(できる)のは、自分たちの行動であって、
相手(顧客)ではない、

という点だけは、胸に刻んでおくべきだと思います。

投稿者 松尾 順 : 13:43 | コメント (0) | トラックバック

新規顧客獲得は、こそこそやってくださいませ

つい昨日聞いたばかりの話です。

京都の老舗の某和菓子屋が、
ある時「ぴあ」に掲載されたそうです。

とてもおいしい和菓子が買えるとか、
そんな紹介が載ったんだと思います。
(店が取材を受けたわけではありません)


ところが、「ぴあ」をみた客が早速行ってみたら、
なぜかお店は閉まっていました。

いつ行っても閉まっていました。
結局、この店が再び店を開けたのは3ヶ月後。


なぜか?

既存顧客を守るためでした。

ぴあをみた一見の客が殺到して商品が売切れてしまったら、
常連さんが買えなくなる。

だから、ほとぼりがさめて一見さんがこなくなるまで
あえて店を閉めたのだそうです。


これは、事業を継続するもの(ゴーイング・コンサーン)と
考える視点から見れば、大変すばらしい判断ですよね。


客が押し寄せる時期に店を開けたら一時的に大繁盛するでしょう。
でも、手作り中心の和菓子の生産量には限界があります。
売上げの増加度はたいしたことない。

しかも、一見さんは文字通り一見さん。
リピート顧客になる確率は限りなく低いでしょう。

むしろ、これまで長年買い続けてきたロイヤル顧客が、
一時的なブームのために離れてしまったら、
ブームが去った後が大変です。

大きく売上げが落ち込こむこと必至。
ブランド(のれん)もガタガタになってしまっていたかも
知れません。

この和菓子屋は、既存顧客を守ることによって、
自店の伝統あるのれんを守ったのだと言えるでしょうね。


ところで、同様に昨日、
月刊誌「宣伝会議」のメルマガ登録者である私に、

「新規定期購読キャンペーン」

の告知メールが届きました。


いまなら、定期購読申し込み先着30名に、
広告コピーのコンテスト「宣伝会議賞」の応募作品を収録した
最新本を無料進呈とあります。


はて、長年定期購読している私はどうなるんでしょう?

もちろん、「新規の」定期購読者にはもはやなれません。
ですから、残念ながらこの本はもらう資格がないわけです。


ただ、宣伝会議賞の本は過去4冊出版されており、
これまですべてお金を出して買っていただけに、
なんだか、今回はとても損した気分です。

最新本を買う意欲が減退したように思います・・・


基本的に、どんなビジネスも、
既存顧客を維持するだけでなく、新規顧客の獲得も
継続的にしなければやっていけませんよね。
(先に紹介した和菓子屋は例外的なケースでしょう)


しかし、既存顧客を不愉快な思いをさせないような配慮は
必要です。


卑近な喩えを許してもらえるなら、

「二股かけたいのなら、こっそりやって頂戴!」

といったところです。(笑)


先の告知メールで言えば、メルマガ購読者の中から、
定期購読者を除外した上でメール配信すべきでした。


新規顧客も欲しいけれど、既存顧客も大切にする、
そんな気持ちがあれば、その程度の作業をやるのは
常識です。

投稿者 松尾 順 : 23:27 | コメント (0) | トラックバック

顧客志向への発想転換

「お客様を差別する気か。百貨店の売り場はすべてのお客様に
 対応するものだ」


大丸の現会長、奥田務氏は、
1980年当時、大阪・梅田店の企画課長に任命されました。
同店開設に当たって、「売り場作り」を担当することに
なったのです。

奥田氏は、70年代に米国留学し、米国の大手百貨店、
ブルーミングデールでの実習経験もありましたので、
当時、米国では当たり前だった売場作りを大丸にも導入しようと
したそうです。

それは、

「世代別」「ライフスタイル別」

の品揃えでした。

すなわち、従来の商品の分類による売場ではない、
顧客の属性に基づいたマーケットセグメンテーションです。

どうやら、こうしたマーケットセグメンテーションを
百貨店に導入したのは、日本では大丸梅田店が初めてのこと
だったようですね。

冒頭の「お客様を差別する気か・・・」

という言葉は、奥田氏が取締役会にこの新たな売場作りを
提案した際に投げつけられた言葉です。

そして、当初はなんと!この提案は却下されたそうです。


しかし、奥田氏はなんとか粘り腰で上層部を説得し、
ほぼ構想どおりの売場を実現、開設2年目から成長軌道に
乗せることに成功します。


80年代前半といえば、松田聖子、河合奈保子、あるいは
3年B組金八先生から田原俊彦、近藤正彦などがデビューして
アイドルブームが巻き起こった時代。

そんなに遠い昔でもないのに、日本では、

「マーケットセグメンテーション」

の考え方は、まだまだ受け入れられる土壌には
なかったんですね。


なお、

「顧客は平等ではない」
(Customers are not created equal)

という考え方、これは

CRM(Customer Relationship Management)


の根本思想とも言えるものですが、
この考え方が日本に紹介されたのは、さらに10年以上後の
90年代半ばでした。


近年、百貨店業界では、

「売り場」

ではなく、

「買い場」

という言い方をするところもあります。

「商品を売る場」ではなく、お客様が「買っていただく場」と
いう発想の転換を促すためです。


大丸の例などを見ると、
商品(生産者・販売者)志向から顧客志向への発想の転換は
意外にも、つい最近のことであったことが改めてわかります。

もちろん、いまだ顧客志向に転換できていな企業も多数
存在していますけど・・・

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

ダイハツ カフェ プロジェクトの「なんだかなあ・・・」体験

先日、妻と一緒に、
自宅近くのダイハツの販売店に行きました。


ダイハツのお店では今、

「ダイハツ カフェ ロジェクト」

というキャンペーンをやっています。


キャンペーン中、ダイハツのお店に行くだけで、

帝国ホテル・ガルガンチュアの特製スイーツでもてなしてくれる!

しかも、

アンケートに答えると、抽選で「お取り寄せスイーツ」が当たる!

なるほど!
明らかに女性ターゲットですよね。
軽自動車が強みのメーカーさんらしいキャンペーンです。


ネットでこんな「オトク情報」(お取り寄せネット)

を見つけた妻が、一人ではいやなので付き合え!
というわけです。

正直、ディーラーに行くのはあまり気乗りがしなかったのですが、
私には断る自由はありません。(笑)

黙ってお供しました。


さて、車で店に入ると、
営業マンが出迎えてくれました。

アンケートの話を妻が切り出すと、営業マンはためらいがちに

「ええ・・・一応やっていますが」

という煮え切らない返事。


そして、店内に通されましたが、
アンケートを前に営業マンいわく、

「これは、本来、新車を見に来られたり、整備のために
 お待ちになっている方にお茶と共にスイーツをお出しして、
 アンケートにお答えいただくものです」


そうですか、つまり私たちは、

「歓迎されない客」

だとおっしゃるのですね。
(私は、心の中でそうつぶやきました)


「まあ・・・いちおうご記入ください」


いちおうですか・・・
妻も私も、なんだか情けない気持ちにさせられました。

結局、スイーツも、またお茶でさえも出されず、
私たちは店を後にしました。


こうしたキャンペーンでは、多くの場合、
店頭への集客が目的ですよね。

スイーツのようなオファー(インセンティブ)をつけるのは、
ぶっちゃけ、エサで釣るようなものですが、
集客に弾みをつけるための仕掛けです。

その結果、私たちのような「えさ」が最大の目当ての人たちも
来ますけど、それはやむを得ないことだと、企業側では普通、
割り切っています。

しかし、

「ダイハツ カフェ プロジェクト」

ではそうではないようですね。
少なくとも販売店の理解は、そうではなかったようです。


もし、仮に営業マンの言うとおりだとしたら、
ホームページなどでそのことを訴求する必要はないのでは?

新車を見に来るなどの「正当」があって来店した見込み客を
もてなすことがキャンペーンの目的なら、
別に宣伝しなくてもいいですよね・・・


ちなみに、我が家では軽自動車に乗っています。

妻も私も、あまり車にこだわらないこともあって、
経費の安い軽を選んだわけですが、
すでに平均的な買い換え期間(3-5年)をはるかに超えています。

ちょっとしたきっかけさえあれば、
いつ買い換えてもおかしくないのですよ・・・

ですから、新車を見ることが今回の来店目的ではなかったとは言え、
私たちは実は「有望見込み客」だったのです。


ダイハツの営業マンは、惜しくも
このことが見抜けなかったようですね。

使い古した軽でやってきた私たちを出迎えたにも関わらず・・・


毎日車を利用している妻は、新車を買うとしたら、
やはり運転しやすい「軽」がいいと申しております。

しかし、あのダイハツの店では絶対に買わないとも
申しております。

既にネガティブな体験をさせられてしまった以上、
ダイハツの車自体、購入検討候補からはずすかも知れません。

残念なことですよね、ダイハツさん!


私は、マーケティングプランナーとして、
様々な企業のキャンペーンを企画する立場にありますが、今回の

ダイハツ カフェ プロジェクトの「なんだかなあ」体験

は、消費者側の気持ちを実感できた大変いい勉強となりました。


キャンペーンは企画以上に、オペレーションが重要ですよね。

投稿者 松尾 順 : 06:35 | コメント (16) | トラックバック

ユーザーが主役

連休の半分は、家の用事のため自宅に張り付いていた私ですが、
インターネット無しの世界にはもはや住めない体質です。

メールは毎日チェック、最近は、ミクシィ、グリー、楽天日記
など、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も
日課になっています。

こうしたメールやSNSのように利用頻度の高いものは、
当然ながら使い勝手の良さや、自分の好きなデザインかどうか、
などが大事になってきますよね。

実際、あまり深く理由を考えたことはないのですが、私は
ミクシィがなんとなく使いやすいように感じて、
最も多く利用しています。

こんな、使い勝手やイメージのちょっとした(大きくない)
差異が、ミクシィが日本最大のSNSへと成長した背景に
あるのかもしれません。


一方、米国最大のSNSは「MySpace」です。
今年後半には、日本進出を計画していることが報道されました。

しかし、実は、米国のSNSで最初に成功したのは
「Friendstar」でした。特に10代に人気があったんですよね。

ところが、後発の「MySpace」に
あっという間に追い越されてしまった。


技術面、デザイン面では、明らかに「Friendstar」が優れている
というのがIT専門家の一致するところ。

なのに、なぜ「Myspace」が勝ち、「Friendstar」が負けたのか。


この理由は、「Myspace」はユーザーの自由を許したのに、
「Friendstar」は、ユーザーの行動を規制したことに
あるようです。

たとえば、「Friendstar」では、デザインに厳しい制約を置いて
いたため、ペットの写真の投稿を禁止したそうです。
一方、「Myspace」は、ユーザーの好きなようにページをデザイン
させました。

結果として、Myspaceには、デザインセンスの欠けた極端に
見苦しいページも登場したそうです。でも、
そうした自由さが、特に10代のユーザーに受けたんですね。


「Myspace」のページを私は見たことはありませんが、
見た人によれば、“10代の子供たちの「寝室」のよう”だと
形容しています。散らかし放題の子供部屋を連想させるようです。

大人が見れば「ちょっとはキレイにしたら?」と言いたく
なるものですが、子供たちにとっては、その乱雑さが居心地
いいわけなんですよね。


この話は、編集会議(2006.6)のウェブニューストピックスの
記事から拾ったものですが、

結局、誰のためのサービスなのかを企業は理解しておくべき
だということ、

また、ユーザーが主役であるという視点(いわゆる
「顧客中心主義」ですね)でサービスを設計、運営しないと
ユーザーから簡単に見放されてしまうということ、

なんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 13:48 | コメント (2) | トラックバック

目に見えないほどの差異で勝負してどうする?

テレビを買い換える時、「画質」は重視されますか?


私は、あまり「画質」は重視しないんですよね。
結構鈍感なので(⌒o⌒;、‘そこそこ’でいいと思っています。

実際、映画とか、美術館めぐりのようなドキュメンタリー
を見る場合なら、画質の良さが実感できるのかも知れません。

でも、例えば、お笑いタレントが出演するバラエティ番組や
普通のドラマを見るのならまあ、画質はどうでもいいですよね。


さて、これからのテレビ市場の主役になる(らしい)のは

「フルスペックハイビジョンテレビ」

だそうです。


そうなんですよ、すでに普及している「ハイビジョン」よりも
さらに画質の高い上位規格があったんですね。

従来のものは「標準ハイビジョン」。
実は、デジタルハイビジョン放送の信号を5割程度に間引いて
表示しています。

一方「フルスペックハイビジョン」は、
デジタルハイビジョン放送を100%表示できます。
したがって、標準ハイビジョンよりもさらに‘微細な部分’
の表現力が高い。


もちろん、価格も若干高い。

画面サイズが同じものだと、標準ハイビジョンよりも
5-10万円ほど高くなっています。

これでも、以前よりもずいぶん安い価格設定で
販売できるようになったそうです。

そもそも、標準ハイビジョンを最初に市場に出したのは、
当時のフルスペックでは、高すぎて売れそうもなかったから
なんですね。


さて、この5-10万の価格差、消費者が納得できるだけの
画質の違いがあるのか、といったらそうでもないんです。

例えば、シャープさんでは、画質の細かさの違いを
確認してもらうために「虫メガネ」を販促ツールとして
量販店に配布しています。

つまり、もはや裸眼では違いがわからないところまで
行き着いた品質で競争しているわけです。


目に見える製品、つまり「有形財」を製造しているメーカーの
場合、どうしても、機能、性能、価格(コスト削減の反映)
といった、「目に見える次元」での技術競争に邁進し、
本当にそれが消費者のベネフィットにつながっているかどうか
考えない傾向がありますよね。

「フルスペックハイビジョンテレビ」

もその典型的なケースですね。

「目に見える次元」での競争でありながら、
もはや目に見えないほどの差異で勝負してどうするんでしょう?

メーカーのひとり相撲というところでしょうか。


ところで、最近の類似のケースとしては、
デジタルカメラ市場で、「超薄型」でヒットしたカシオの
エクシリムに対抗し、それを上回る薄さを実現したソニーの
「サイバーショット」があまり売れなかったというのがあります。

また、カメラと言えば、
富士写真フィルムの「写るんです」の高機能版が5月に
登場しますね。シャッタースピードを二百分の一秒に高速化
したものです。

レンズ付フィルム市場では世界最速。


しかし、私たちは、お手軽・便利で使ってた「レンズ付フィルム」
にそんなもの求めてるかなあ?

投稿者 松尾 順 : 00:00 | コメント (2) | トラックバック

攻めから待ちへ

自動車販売というと、ディーラーの営業マンが足を棒にして
一軒一軒家庭を訪問して歩くイメージが強いですよね。


ところが、日本自動車販売協会連合会(自販連)がまとめた
「国内自動車販売の現状と課題」によると、
顧客が来店して車を購入した比率(店頭販売比率)が、
2004年度では全体の48.5%を占めています。
(日経産業新聞、2006/03/13)

2000年度は同38.1%でしたので、4年間で10%のアップ。


いまや、顧客の2人に1人は、
「お店」で車を買うようになったというわけです。


最近は、家族みんな働きに出ているため、
日中訪問しても不在の家が多くなってますし、
マンションなんかだと、
エントランスがロックされていて個別訪問ができない。

しかも、物騒な世の中、エタイの知れない訪問営業は
ますます嫌がられる存在になってます。

当然ながら、訪問販売の効率は大幅に低下してます。


一方で、消費者の方は、
ネットを活用して事前にじっくり検索、情報収集。

値引き後の実勢販売価格も知った上で、
購入したい車種をあらかた絞り込んでしまいます。

そして、最後の判断材料として
実車をこの目で見て、試乗するために来店します。

この新しい消費行動プロセスには、残念ながら
従来型の車の営業マンの出番はないですよね。


国内の自動車販売会社は、自動車メーカーとの資本関係は
ほとんどなく(一部輸入メーカーを除く)、
それぞれが独立した別企業なんですが、
この顧客の消費行動プロセスの変化をしっかり捉えて、
売り方を

「攻め(プッシュ)」から「待ち(プル)」

へとうまく転換できるかどうかが、
ますます生き残りの鍵になってきたようです。


そういえば、私の友人が以前、某大手国内ディーラーの
営業マンになりましたが、販売台数に応じて上乗せされる
インセンティブ手当てはあまり魅力的なものではありませんでした。

思わず、

「この程度のインセンティブで、よく売る気になるね」(^-^)

と言ったほどです。

実際、毎月の販売目標台数を決めさせられ、
アメよりはムチで売らされていたようですが・・・


しかし、自動車業界に限らず、
いまだに根性だけのプッシュセールスに頼る業界って
多いですよね。

投稿者 松尾 順 : 14:17 | コメント (0) | トラックバック

やっぱり閉じたものは開かれたものに負けてしまう?

今頃の時期、皆さんの事務所・家庭にタウンページが
届けられますよね。もう来ましたか。

ところで、

過去1年間で、1回でもタウンページを開いた記憶ありますか?

私はもう何年も開いたことがありませんでした。
この拙文を書くために数年ぶりに開きました。(笑)


手にとると、実にでかくてぶ厚いタウンページ、
私の事務所には「東京23区版」と「豊島・文京区版」の2冊が
配布されますが結構場所取ります。正直邪魔です。

使わないのだから、「いらないよ」と断ろうかとも思うのですが、
「タダ」なのでついつい受け取ってしまいます・・・(⌒o⌒;


もはや、タウンページもその役割を終えつつありますよね。
欲しい商品やサービスを探す媒体としての役割です。

企業名や店名だけで探して、それから詳細情報を問い合わせて
なんて、かったるくてやってられない。

今は、「企業・店名+詳細情報」とセットになっているのが
当たり前。そうしたら、すぐに比較検討に入れますから。


マーケティングコンサルタントの石原明さんは、

「情報は先出し」(しかも、できるだけ詳しく)しないと

顧客は寄ってこないとおっしゃってますが、
紙のタウンページはそれができないわけです。


タウンページは、広告媒体として
まだまだかなりの収益を上げていると思います。

でも、実際の問い合わせにつながる反応率など、
費用対効果はおそらく以前より下がっているだろうし、
だんだんと広告を取りづらくなっているに違いありません。

そう遠くない将来、紙のタウンページが廃止される日が
やってくるんでしょうね。


もちろん、紙のタウンページがどのような運命を辿るのか、
とっくの昔にわかっていたはずのNTTさんは、
インターネット上のサービス、

「iタウンページ」
に力をいれています。


でも、なぜか存在感が薄い・・・

「iタウンページ」利用してみると、飲食店情報などは
かなり充実しています。お得な割引クーポンもついている。

しかし、おそらく「ぐるなび」には負けていると思います。
情報量ではそれほど大差ないと思いますが。


「iタウンページ」がネット上での存在感を増せない理由、
それは、検索エンジンに引っかからないからでしょう。

「iタウンページ」は、完全に閉じたシステムのようです。
GoogleやYahooの情報収集ロボットの侵入を許さない。

したがって、検索結果に「iタウンページ」の情報が
表示されることはありません。


昨日も書きましたが、ユーザーとしては、

「検索されないものは、存在しない」

と考える傾向が高まっているわけですから、

「iタウンページ」の存在はすっかり忘れ、
検索結果の上位に表示される「ぐるなび」や
「ホットペッパー」のサイトを利用してしまうわけです。


NTTさんとしては、タウンページの情報は大切な財産であるから、
しっかり鍵を掛けて外部にはもらさないようにしようと
お考えのようですが、

オンラインでは、

「クローズド」(閉じたもの)より「オープン」(開かれたもの)

が優勢です。

そのベースにあるのは「協調+競争」、すなわち「協争」の原理。


iタウンページも、
思考のパラダイムを変えた方がいいんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 10:53 | コメント (0) | トラックバック

自宅に帰れなくなっちゃいました・・・でもとりあえずキットカット

関東も、ついにすごい大雪が来襲しましたね。

事務所でこもって仕事していたのですが、
松戸の自宅近辺はすでに相当積もっているらしい。

自宅に帰るつもりでしたが、とても帰れそうにないです。
(結構田舎なもので)


いちおう、事務所も快適に泊まれる設備が完備してある
んですけど・・・

しかし、実は、今日は私の誕生日。
ちょいと情けない。

なんて愚痴ってもしょうがないですね。


そうそう、今日は大学入試センター試験。
事務所のある本郷三丁目駅では、
やはりキットカットを配布してました。

東大本郷キャンパスに向かう受験生対象。

残念ながらおじさんには渡してくれませでした。

投稿者 松尾 順 : 17:44 | コメント (4) | トラックバック

幽霊のような存在

フランスで、アフリカからの移民系の若者による暴動が
続いています。
夜間外出禁止令が出るほどの暴動が、先進国のひとつで
発生してしまうのは相当に大変な状態ですよね。

そんな中、移民系の若者が言った言葉が心に留まりました。

「俺たちは、幽霊のような存在。
 働き口もなく、誰からも認められない」

人にとって、自分の存在価値が認められないことほど
つらいものはないですよね。

暴動は、

「俺たちは幽霊なんかじゃない、ここに確かに生きているんだ」

ということを示すためのものでしょう。
(暴動自体は決して許されることではないですが)

身近なことにひきつけて考えると、
私たちは、お客さん、配偶者、友人、同僚、部下など、
周囲の人の存在を認めてあげることが、とても重要なんだなと
改めて思います。

ちょっと強引なひきつけ方ですかね。(笑)
 

投稿者 松尾 順 : 18:50 | コメント (3) | トラックバック

そよ風マーケティング

ラスク(フランスパンの切片に砂糖などをまぶして焼いたもの)
の通販で成長を遂げ、7月にジャスダックに上場を果たした
「シベール」では、自社のマーケティングスタイルを

「そよ風のマーケティング」

と呼んでいます。(日経MJ、2005/11/17)

マス媒体の広告を使わない、
コールセンターからの電話営業もしない、
ダイレクトメールも中元、歳暮の2回だけ

顧客の口コミでじわじわと知名度を上げる

というソフトなマーケティングなのです。

シベールは、もともとは山形で、パン製造やレストランを
経営していた会社です。94年に通販を開始する時、
食通や文化人100人にラスクを配り、いわゆる
「インフルエンサー(影響者)」を通じた口コミに成功しました。

現在、同社はたかだか1枚30円のラスクで年商約39億円、
経常利益率14%という驚くべき利益率を維持しています。

同社のラスクは試したことがないのですが、そもそも
味で大きな差別化は難しいと思います。

それでも、これだけの売り上げ・利益を確保できている秘密は
顧客を信用し、また顧客のメリットを優先しているからでしょう。

その表れのひとつが、商品到着後の支払いを原則とする
「納得納得保証制度」です。
商品を食べてみて納得したらお金を払えばよいのです。

インターネット通販などで実際に購入されたことがある方なら
共感いただけると思うのですが、前払いと後払いの場合、
後払いは、「安心感」と「信頼されている感」の両方を与えて
くれます。

逆に「前払い」は、顧客を信用できない、疑い深い企業姿勢が
透けて見えます。

私たち消費者の大多数は、善良な市民です。

たとえ相手が企業でも、裏切ったら長期的にはペイしないこと
をわかっています。またそんなひどいことをする自分を
受け入れることは実はとてもつらいのです。

だから、自分を信じてくれる企業には、こちらもその期待に
応えようとします。
日常生活でも、原則としてお互いの信頼を前提に皆そのように
振舞っているから、当然の行動なんですね。

数百万円、数千万円の取引ならともかく、数千円程度の金額で
なぜ前払いを要求する企業があるのでしょうか。
おそらくそうした企業は、さらに成長するチャンスを
失っているのではないでしょうか。

実際、シベールの場合も、年間の貸倒率は0.1%だそうです。
顧客を信用し、顧客のメリットを優先することが、
実際には高い業績として跳ね返ってくるんですね。

おそらく、シベールとその顧客の間には、
さわやかなそよ風が吹くような関係が成立しているのです。

投稿者 松尾 順 : 12:42 | コメント (6) | トラックバック

たまにはアナログ

昨日のメルマガ(ブログ)で、お客様に手書きの手紙やはがきを
送るのが効果的といったことを書きました。

人の温もりを失わせるデジタルメディア全盛時代だからこそ、
逆にアナログが希少になるんですよね。
普段のやりとりは、まあデジタルでもいいけれど、
たまにアナログの暖かさがあると心がほっとします。

この効果を積極的に活用している会社もありますね。
例えば、最近急成長している某通信販売会社は、
顧客に送る手書きの手紙を毎日ひたすら書き続ける社員を
5、6名雇っています。

目先のコストは高くつくように見えますが、この会社では、
そうした人を感じさせるコミュニケーションがリピート顧客、
ロイヤル顧客の育成につながると確信しているんですね。

さて、アナログの必要性が見直される中で、高級手紙用品も
売れているようです。

老舗封筒メーカーの「ハグルマ封筒」は、2001年に
高級品を扱う「ウイングド・ウィール」を表参道に出店。
当初から売り上げ好調で、2006年9月期の売上高は
前年度4割増しを見込んでいるそうです。

携帯電話やEメールの普及で、個人の封筒やはがきの利用は激減
しましたが、単なる社交辞令ではなく、きちんと自分の気持ち
を託したい特別の機会には、やはり、デジタルじゃなくて
アナログメディアを使いたいと思いませんか。

企業だって、コストを考慮すると、いつもというわけには
いかないけれど、時々は目先をかえて強い印象を与えるメディア、
つまり郵便を使う価値を見直し始めているのです。

そして、上記のような場合、手紙やはがきの素材は、
和紙100%のものや、洗練されたデザインのものが選ばれます。
価格の安さはあまり問題ではありません。

企業側から見れば、価格競争から脱することができるわけです。

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (2) | トラックバック

お客さんをどこまで満足させればいいのか

「顧客満足度調査」を実施している企業はたくさんありますけど、
実際に活用できているところはそれほど多くはないようです。

まあまあ平均以上の商品やサービスを提供している企業だと、
顧客満足度はおおむね高くなりますから、
「満足度高くて良かったね!」で終わってしまってます。

それじゃ、

“「自己満足度調査」でしょ”

と突っ込みいれたくなりますね。

さて、顧客満足度を調べる狙いは、満足度を高めることで
再購入してくれるお客さん、周囲に口コミしてくれるお客さんを
増やすことです。

ところが、調査してみると、顧客満足が高いお客さんでも
結構高い割合で浮気をしていることがわかっています。
「満足度が高けりゃ、ブランドスイッチはしないだろう」
という安易な仮説は成立しなかったのです。

そこで、考えたいことは、

お客さんをどこまで満足させればいいのか

ということでしょう。

これについてわかりやすい考え方があります。

顧客満足に影響を与える商品やサービスの要素を
つぎの3つの切り口で見るものです。

1 不満足要素
 この要素がないと「不満足」になるもの。
 ただし、この要素があったとしても「満足」するわけではない
 例えば、携帯電話では、音声通話の機能はあって当たり前。
 ついていたからといって満足はしませんね。

2 満足要素
 この要素があると、お客さんは「満足」します。
 ただし、この満足は、問題が解決された状態に過ぎません。
 あなたではなく、他の商品やサービスでも解決できたかも
 知れない程度のことです。
 したがって、単に満足しただけでは
 ブランドスイッチが防げないのは、当然ですね。

3 感動要素
 この要素は、お客さんに感動を与えるほどの素晴らしい商品や
 サービスです。
 この要素が提供できれば、あなたの商品やサービスはお客様の
 心に深く刻まれ、他社に浮気される可能性が低くなります。
 もちろん、感動要素の提供は簡単ではありません。しかし、
 だからこそ、他社との差別化に有効ともなるのです。

実は、この3つの要素のさらに上位の要素もあります。
それは、「感謝要素」です。お客様が感謝の言葉や感謝状を
送ってくれるほどの高い価値を提供できればまず、お客さんは
離れていきません。

自社の商品やサービスの持つ機能、性能、品質、デザイン、
サービスがそれぞれ、上記の要素のどれに該当するか、
考えてみませんか。

もし、感動要素、感謝要素が少ないようであれば、
どうやったら感動要素を生み出せるか、考えた方がいいです。

投稿者 松尾 順 : 12:47 | コメント (0) | トラックバック

敬う心

米国の高級車カテゴリーでは、BMW、メルセデスベンツより売れているトヨタ「レクサス」。

日本市場には今年の9月に、満を持して登場しました。約1ヶ月を経過した現時点での実績は、販売店への来場者数20万組、受注台数4600台と上々の滑り出しです。

レクサスの売りは、高級車にふさわしい重厚なしつらえの販売店と、高い接客力を持つ店員による丁寧なおもてなし。ターゲットが高所得者層ですから、そうした新たな販売スタイルが必要になったわけです。

販売店の幹部によると、「レクサスのもてなしの基本は『相手を敬う心』」です。高所得者層、つまりお金持ちは、敬われること、ひらたく言えば、持ち上げられることが大好きですので、さすがトヨタさんはそこのあたりをよくわかってますね。

もちろん、敬われるということは、誰にとっても心地よいものですが、これ以外にも、顧客との良好な関係づくりのためのポイントがあります。「統合型マーケティング戦略」という良書に、意味のある対話の条件として5つが挙げられています。

同書の中では、5つのポイントは企業側の視点で書かれていますが、このブログでは消費者(顧客)側の視点でご紹介します。

1.頼りたい 

これは取引において最も重要ですね。店員、セールスマンであれば、専門知識の豊富さ、人間性といったものが鍵です。

2.認められたい 

端的には自分の名前を覚えて欲しい、呼んで欲しいということが出発点。一人の人間として「認められたいという存在欲求を満たして欲しいのです。

3.すばやく対応して欲しい

 現代の人々にとって、最も大切な資源は「時間」です。自分の時間を無駄に費やされてしまうことほどいやなことはありません。だから、すばやい返事、すばやい処理ができる人、会社とつきあいたいですよね。

4.敬われたい

 レクサス販売店のおもてなしの基本ですね。極端な言い方をすれば、たとえ、おべっか、ごますりとわかっていても、お世辞を言われたり、丁寧に扱われることは人を心地よくさせます。その心地よさには抗えません。

5.補強して欲しい

 ちょっと表現がわかりにくいですが、おたくと取引している、あるいはこの製品を買ったのは正しい判断だったよね、という気持ちを強化して欲しいということです。人は、何かを購入した後、ほんとにこれでよかったかな、という不安にかられがちです。そこで、「確かにあなたの判断は正しかったのですよ」というメッセージや行動を示して欲しいのです。クルマで言えば、納車したらしばらくして、「調子はどうですか」とか連絡して欲しい。売ってしまえばもう終わりとばかり、なしのつぶてではがっかりです。

ところで、レクサス販売店の課題は、従来とは異なる販売スタイルのため、まだ店員が慣れておらず、マニュアルくさい、慇懃無礼な接客になりがち点だそうです。

「丁寧」という仮面をかぶってしまうスタッフが出てきているんですね。

投稿者 松尾 順 : 09:43 | コメント (0) | トラックバック