(ご報告とご案内)新・顧客創造マーケティング研究会参加者募集

本日のブログは、
ご報告とご案内のみになることをお許しください。


【ご報告】

私が代表を務めます(有)シャープマインドは、
このたび(株)ジェネシスコミュニケーション(代表:杉田裕一)
の出資を受け、ジェネシスコミュニケーショングループの一員と
しての活動を開始します。

-----------------

ジェネシスコミュニケーショングループにおける、
シャープマインドの主たる機能・役割は、新たなマーケティング
コミュニケーションの研究開発、およびマーケティングスタッフの
ナレッジ、スキル向上です。

*ピンでお受けできる仕事、すなわち研修・セミナー講師や
 執筆などについては、従来どおりシャープマインドで
 直接お引き受けいたします。

*マーケティングリサーチ、マーコム施策、Webサイト開発など、
 組織対応が必要なものはジェネシスグループとして受けさせて
 いただきます。

------------------

今回、このような形での活動を行なうことにした理由としては、

1.なんでも一人ベースでやるのは寂しくなった(笑)

2.マーケティングが高度化・複雑化したため、
  ナレッジやノウハウを共有し、高めあえる、ある程度固定的な
  組織としての対応が必要。

の2点があります。

今後ともよろしくお願いします。

-----------------

早速ですが、ジェネシスコミュニケーショングループとしての
活動第一弾として、「新・顧客創造マーケティング研究会」を
発足いたします。フェイスブックページを開設しましたので、
ぜひ「いいね」お願いします。

こちらでは、マーケティングコミュニケーション関連の
情報をご提供していきます。

★新・顧客創造マーケティング研究会 フェイスブックページ

-----------------

【ご案内】

リアルセッション(第1期)の参加者募集します!
ご興味ある方はぜひご応募ください。


●新・顧客創造マーケティング研究会


●研究会の趣旨

新・顧客創造マーケティング研究会は、
消費者が大きな影響力を手にしたソーシャルメディア時代に
おいて、見込み客・顧客との良好な関係の形成を目的とする
マーケティングのあり方について考え、議論する場・機会と
して発足しました。

今後、長期的に運営継続し、その時々で注目されている
様々なトピックを取り上げていく予定です。

運営主体は、シャープマインドおよびジェネシスグループです。

*シャープマインドは、マーケティングリサーチの企画・実行、
ブランディング、およびマーコム戦略のコンサルティング、
Webサイト企画・設計などを強みとしています。

また、心理学の知見をマーケティングに活用し、
顧客心理を深く洞察する「マーケティング心理学」の体系化に
取り組んでいます。

*ジェネシスコミュニケーショングループは、
「私たちは顧客を増やす提案をします」というスローガンを掲げ、
様々な業界の企業に対して、マスマーケティングから、
ダイレクトマーケティング、ソーシャルメディアマーケティングも
含む、各種マーケティングサービスをワンストップで提供している
マーケティング会社です。

*シャープマインドは、ジェネシスコミュニケーションの
 グループ会社として、新たなマーケティングコミュニケーションの
 研究開発や、マーケティングスタッフのナレッジ、スキル向上を
 担当しています。


●リアルセッション(第1期)テーマ

これからのマーケティングのメインストリームになるか?
「インバウンドマーケティング」徹底研究!

●参加資格・定員

*一般事業会社のマーケティング担当の方
*1社最大2名様まで出席可能です。
*定員:最大10社程度
*マーケティング(広告、販促関連)、経営・マーケティングコンサルティング
 の方は、恐縮ながらご遠慮ください。
*参加希望者多数の場合は抽選とさせていただきます。
 (2期以降では優先的にご案内します!)


●開催スケジュール

 第1回:2012年11月22日(木) インバウンドマーケティングとはいったいナニ?
 第2回:2012年12月20日(木) 「つきぬけたコンテンツ」はどう作る?
 第3回:2013年01月20日(木) 「リーチ」じゃなくて「ファインダビリティ」
 第4回:2013年02月21日(木) インバウンドマーケティングとCRMの熱い関係
 第5回:2013年03月21日(木) インバウンドマーケティングの効果はどう測る?

*開催時間は、各回とも19:00‐21:00
*参加企業さま同士の交流を深めるための懇親会も時々企画します。


●リアルセッションの進め方

・まずは松尾より、当日テーマについての基本的な枠組みや具体事例を提示します。

・その後、参加者のディスカッションを通じて理解を深めてまいります。

・ディスカッションの内容は、各回終了後、「議事録」にまとめて参加者に送付します。


●開催場所
ジェネシスコミュニケーション本社 
平河町VISIX 2階会議室

〒102-0093
東京都千代田区平河町一丁目5番15

最寄り駅:麹町駅(有楽町線)・半蔵門駅(半蔵門線)

●参加費用

1,000円/人

*会場代として充当させていただきます。


●参加お申し込み先

シャープマインド 松尾順

jmatsuo@sharpmind.co.jp

*eメールの件名に「リアルセッション参加希望」、
 本文には、参加されるお名前、所属会社・団体、部署名、
 役職、メールアドレス、連絡先電話番号のご記入を
 お願いします。


●お申し込み締切
2012年11月11日(日)


以上よろしくお願いします。

投稿者 松尾 順 : 10:27 | コメント (0) | トラックバック

関係維持戦略としての「ロマンティックな愛情」

男女の付き合いにおいてお互い、
自分が別の魅力的な異性に出会っても、
今の相手に

「コミット」

し続けるためには

「ロマンティックな愛情」

を感じた経験が有効のようです。

--------------------

男女(厳密には愛し合う2人!)が、
お互いに相手をパートナーとして選択し続ける、
すなわち「コミット」してくれるかどうかは
とても重要な問題ですね。

結婚前の男女であれば、
お互いに、相手に対して

「今後もずっと自分にコミットしてくれる」

という確信が持てなければ

「結婚」

に踏み切ることは難しいでしょう。


経済学者のフランクは、

「愛情」

という感情によって結び付いている男女
(打算的な関係ではないという意味です)
において、彼らの関係が維持されるかどうかを

「コミットメント問題」

と呼んでいます。


そして、この「コミットメント問題」を
解決してくれる可能性が高いのが、

「ロマンティックな愛情」
(romantic love)

を感じた経験の有無であることが、
心理学の実験を通じてわかっています。

実験の詳細は省略して、
結論だけをご紹介しましょう。

実験結果によれば、
ステディな相手のいる人に、
その相手に対して

「ロマンティックな愛情」

を感じた場面を思い出してもらうと、
魅力的な他の異性になびきにくくなること
がわかった。

すなわち、ロマンティックな愛情は、
魅力的な他の異性の存在を頭から
追い出してしまうと考えられるわけです。

さて、

「ロマンティックな愛情」

とはどんなものでしょうね?

もちろん人それぞれでしょうけど、
例えば、

・(偶然がもたらしてくれた)「運命的な出会い」
・(演出された)浜辺でのプロポーズ
・ 旅行先で2人で眺めた幻想的なオーロラ

といったことでしょうかw

今、あなたがお付き合いしている相手と
これからも良い関係を保ちたければ、

「ロマンティックな愛情」を感じる機会

を積極的に創出することが有効と言えるでしょう。


ついでながら、日本人男性(私を含め)は、

ロマンティックな演出

は気恥ずかしくて、苦手な方が多いのでは
ないでしょうか?

しかし、だから突然振られるのです(笑)

がんばりましょう、
このメルマガを読んでいる男子諸君!


(参考文献)

『進化と感情から解き明かす社会心理学』
(北村英哉、大坪傭介著、夕斐閣アルマ)

投稿者 松尾 順 : 09:02 | コメント (0) | トラックバック

幸せのコミュニケーション

誰かを一瞬にして幸せにする方法。

それは、その人の良いところを見つけて

「ほめる」

ことです。

「ほめること」は簡単なようで、
実は慣れないとなかなか難しいもの。

とはいえ、たとえ歯の浮くような

「お世辞」

であったとしても、
言われた方は悪い気はしないものですね。

結果、人間関係がより良いものとなり、
ほめた人も幸せを感じることができます。


自動車ディーラーの営業担当者、
および彼らの顧客両方を対象にして行なわれた
アンケート調査によれば、成績の良い営業担当と、
あまり良くない営業担当の大きな違いの一つとして、

「お客さんのことをほめること(お世辞が言えること)」

が抽出されています。

お客さんのことをうまく「持ち上げること」が
できる営業パーソンほど、よりたくさんの車を
販売できているのです。

ほめることで、お客さんを幸せな気持ちにさせ、
購買意欲を高めているということでしょう。

お客さんもハッピー、
営業パーソンもクルマが売れてハッピー。

この結果を受けて、そのディーラーでは、
営業パーソンを対象とした

「お世辞研修」

を開催しているそうです!


さて、ほめることは、
相手を肯定的に認めることであり、
いわゆる「承認欲求」を充たすものです。

そして、認められた人は幸福感を得るだけでなく、
日々積極的に活動できる

「動機づけ」

ともなることがわかっています。

ですから、お互いにほめあうような文化が
定着している企業は、高い業績を維持すること
ができるわけです。


ただ、職場にしろ、家庭や友人関係にしろ、
お互い身近になればなるほど、
「良い点」よりも、「良くない点」のほうが
気になってくるものですね。

いつもついつい粗探し、

「こうすればいいのに」「こうすべきだ」

といった批判的な言葉が口に出てしまいがち。

批判的な言葉は、もしそれが相手の改善すべき点を
指摘するものであれば、その人の成長を促すきっかけ
にもなりますので時に必要ではあります。


大事なのは、「ほめること」と「批判すること」の
バランスです。

夫婦間のコミュニケーションについての心理学研究に
よれば、夫婦関係が円満な男女の場合、お互いに、
ほめあう回数が、批判の5倍も多かったそうです。

つまり、

ほめる(肯定的発言):5 批判する(否定的発言):1

ということです。

この割合が縮小すればするほど夫婦間の危機は
高まります!

夫婦が同席する15分間ほどのインタビューを見れば、
両者の会話における肯定・否定の比率から、
将来の離婚率が90%の確率で予測できるのだそうです。


私自身も、過去の失敗(!)を踏まえ最近は、
身近な人ほど積極的にほめようと心がけています。

もし批判的なことを言わざるを得ないときは、

ほめる⇒批判する⇒ほめる

というように、ほめ言葉でサンドウイッチする。

また、ほめる言葉がうまく見つからないときは、

「がんばってるね」

と「ねぎらい」の言葉をかける。


ちなみに、子供に対しては、

ほめる:3 叱る:1

の比率が良いとのこと。


「幸せのコミュニケーション」のために、
周囲の人を積極的にほめまくりましょう!

最後に、ロンドンオリンピックに出場された選手の皆さん、
皆さんは本当に素晴らしかった。
たくさんの感動を与えてくれました。
ありがとう!

---------------------------------

<主催セミナーのご紹介>

●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

●深堀り!『影響力の武器』エッセンス(9月12日)

●早分かり!『行動経済学エッセンス』(8月29日) 

           ------------

●英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」(8月26日)

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (0) | トラックバック

「自己実現的人間」とは?

マズローの欲求段階説において、
最高次に位置づけられるのは、

「自己実現の欲求」

でした。

そして、人の行動が主として「自己実現の欲求」
によって動機づけられている人、すなわち、
自己実現欲求に突き動かされて日々の生活を
送っている人々のことを

「自己実現人間」

と呼びます。


マズローの独断的な見立てによると、
自己実現の欲求に満足している度合いは

「10%程度」

ということですから、真の「自己実現人間」と
呼べる人は極めて少ないことがうかがえます。


さて、「自己実現人間」と呼べる人々の特徴は
どのようなものでしょうか?

マズローは、個人的な好奇心からこの研究に取り組みました。

有名人(晩年のリンカーンやトマス・ジェファーソン、
アインシュタイン、エリノア・ルーズベルトなど)、および、
個人的な知人・友人などを被験者として選び、
自己実現人間に見られる特徴を整理したのでした。
(なお、この研究手法に対して、彼自身、信頼性や妥当性など
 に問題があることを認めています)

では、マズローの論考に基づいて、
「自己実現人間」の主要な特徴をまとめてみましょう。

------------------------------------

1.現実をありのままに見ることができる。

“子供が偏りや批判のない無邪気な目で世界を眺め、
事実をありのままに観察し、いたずらに論じたり、別のもので
あればと願ったりすることがないように、自己実現人間も、
自分自身や他の人々の人間性を、そのまま受け止めるのである。”
(『人間性の心理学』P232)

かれらは、病や死に直面した時でさえ、
それをいい意味の「諦め」で受容できます。

私たちは、大人になればなるほど先入観、固定観念の固まりとなり、
あらゆる物事を色眼鏡をかけて解釈するようになります。

ありのままの事実ではなく、自分が見たい、知りたい事実のみを
受け入れ、あるいは事実そのものをねじ曲げてしまう。

このような態度は、しばしば他者とのトラブルや、
未知や新奇なものに対する拒絶を生み出し、自己の成長の機会を
逃してしまうことにつながります。

しかし、自己実現人間は、自分にとって不快であったり、
異質なできごと、人間性を素直に受け入れることができる。

そして、「あるべき姿」(理想)とのギャップを認識しつつ、
しかるべき対応を行なうことで、よりよい方向へと状況を変える
ことができるのです。

自己実現人間は、「自然体」が身についた人と言えるでしょう。

------------------------------------

2.「成長」に動機づけられている。

“彼らにとって、動機づけとはまさに人格の成長であり、
 性格の表現であり、成熟であり、発展である。”
(『人間性の心理学』P238)

自己実現は、最高次の欲求ですから、自己実現人間は、
基本的に、下位の欲求、すなわち、生理的欲求、安全欲求、
愛と所属の欲求、承認欲求などに対する満足度が高い人々。

これらは、「ないから満たされたい」という欠乏欲求であり、
自己実現欲求は、こうした欠乏がある程度満たされたからこそ
優勢になってくる「成長欲求」です。

端的にいえば、「よりよき人間になりたい」「自分の技など、
強みを極めたい」という内面的な欲求に突き動かされている
のです。

外部から満たしてもらえるようなものではない欲求であり、
また、限りのない欲求です。

メジャーリーガーのイチロー選手もまた、
自己実現欲求に動機づけられている「自己実現人間」で
あることは間違いないですね。

彼は、自分自身を極めようとしている。
安打を何本打つとか、打率4割を超えるといった数値や記録を
軽視しているわけではありませんが、そうした通過点に過ぎない
結果よりも、「成長させ続けたい」という欲求が根底にある。

だからこそ、どのようなときでもフラットな心境、
つまり「自然体」でいられるのでしょう。

------------------------------------

3.課題中心的である。

“彼ら(自己実現的人間)は、自己中心的というよりも、
 課題中心的なのである。一般に、彼ら自身が彼らの問題と
 なることはなく、自分のことで気をもんだりしない。”
(『人間性の心理学』P238)

“彼らはけっして木を見て、森を見失うということはないように
 思われる。彼らは、広くてちっぽけでない、普遍的で偏狭でない、
 また世紀単位であり、瞬間的でない価値の枠組みの中で仕事をする。”
(『人間性の心理学』P239)


自己実現的人間は、もちろん、「私利私欲」も多少はあると思いますが、
それ以上に、世界、社会といった、大きな枠組みの中での何らかの使命や
達成すべき義務のようなものを感じて、行動していると言えます。

自分のためではなく、自分の外にあるなんらかの「課題」
(おそらく様々な社会的問題)の解決に取り組むことを第一関心事
としているのが自己実現的人間です。

「貢献したい」という欲求が強いのが自己実現人間と言えるのかも
しれません。

------------------------------------

自己実現的人間の特徴をひとことでまとめるなら、

「純真・素直で、成長欲求が強く、使命感を持っている人」

となるでしょうか?


さて、先ほど、自己実現の欲求は最高次の欲求であり、
低次の欲求がある程度満たされてから出てくる欲求であると
申し上げました。

しかし、ひょっとしたら、上記の特徴のような行動を無意識に、
あるいは意識的に取れるような人間こそが、結果的に食料や安全、
愛、所属、尊敬、承認といった下位の欲求を満たすことができる
のではないかと、個人的には感じるのですがいかがでしょうか?


『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)

投稿者 松尾 順 : 11:47 | コメント (0) | トラックバック

犠牲者の方々に心よりご冥福をお祈りします。

先週金曜日に東日本を襲った巨大地震。
一瞬にして多数の人々の命を奪いました。

犠牲者の方々に心よりご冥福をお祈りします。

また、いまだライフラインが断たれた地域で
孤立され、救助を求めている方々もいらっしゃいます。

一刻も早い救助を願ってなりません。


いま、被災地以外にいる私たちがやるべきことは、
「義援金」による支援、そして日本赤十字社からの
要請に応じての「献血」、そして「節電」だと思います。

そしてまた、それぞれの業務を通常通り、
粛々とこなすことだと考えます。

被害を受けなかった人々が、
しっかりと経済を回し続けることで、
被災地の復興のための必要な資金が確保できるからです。


もちろん、地震による被害に加えて、
計画停電が当面続き、交通機関の通常運行も望めず、
関東エリアではなかなか平常通りの業務は難しいですが、
現状の中でベストを尽くすしかありません。


しばらくは混乱状態が続くことになるかと思いますが、
余震に十分に備えつつ、今それぞれが果たすべき役割を
十分に果たしてまいりましょう。

投稿者 松尾 順 : 09:48 | コメント (0) | トラックバック

言語ゲームの達人になるには?

昨日の『メッセージ&コンテクスト』では、

“情報は、コンテキスト(文脈)次第で
いかようにでも解釈できるものです。”

ということを書きましたが、

「言葉は、文脈において初めて意味を持つ」

と主張した哲学者にウィトゲンシュタインがいます。


彼は、私たちが、コミュニケーションを行なう時、
お互いに言葉の意味を解釈しあっていることを

「言語ゲーム」

と呼びました。

この言語ゲームのルール、すなわち、
言葉の意味をどのように解釈するかは、

「生活様式」

とウィトゲンシュタインが呼んだ、
時や場所、状況によって決まってきます。

したがって、唯一のルール=解釈方法はありません。


ですから、言語ゲームにおいてうまく立ち回り、
有利にものごとを進めるためには、時、場所、状況を
すばやく理解し、相手の言葉の(真の)意味を
できるだけ的確に把握する必要があります。

これは、まさに「空気を読む」ことが
前提になると言えるでしょうね。


では、言語ゲームの達人になるには、
どうしたらいいでしょうか?

結局のところ、人の心の変化の中に潜む、
一定の法則性・パターンを学び理解すること。

そして、ビジネスの交渉、また日常の会話に
おいても同じですが、「言語ゲーム」に勝利した時、
逆に、思惑違いや誤解などが起きて「敗北」に
終わったケースの原因を深く掘り下げてみる

「内省」(後悔ではありませんよ)

を常に行なうことでしょうか。

ゲームなのですから、
学びと経験の両輪を回してスキルを
磨き上げていくしかないのですね。


*今回は、哲学で拓くBIZテク(日経産業新聞2011/03/01)
 の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:43 | コメント (0) | トラックバック

新年のご挨拶&今年の取り組み

当マインドリーディング・ブログ(&メルマガ)は、
今年からちょっと仕立てを変更することに致しました。

平日発行については、
基本的に短め・軽めの内容にします。

これまでと違って、
さくっと気楽に読める感じになるかと思います。

そして、従来のような、まとまった長めの内容は、
週末や祝日に十分時間をかけて書き、皆さまに
お届けしたいと考えております。

ただし、基本コンセプトは変えません。

すなわち、「消費者・顧客心理」の解読に役立つ
ヒントやアイディア、情報の提供です。

----------------------------

さて、今日は2011年の新たな取り組みについて
簡単にご案内させてください。

●「マーケティング心理学」のリアルセミナーを開始

2005年にマインドリーディングメルマガ&ブログを
開始した究極の目的は、マーケティングに役立つ心理学を
体系化した「マーケティング心理学」を確立し、
様々な学習コンテンツとして提供することでした。

過去5年間は、土壌作り・種まき段階という感じで
コツコツやってきましたが、昨年あたりから、
企業からの「マーケティング心理学」についての
問合せや引き合いが発生するようになりました。

これまで多くの企業は、消費者に対する理解を深めること
には関心が低く、相手が誰であれ、とにかく、効果のある
小手先のノウハウ、テクニックを求める傾向がありました。

しかし、万人に効く万能のノウハウ・テクニックなどは
存在しない、まずはターゲット消費者・顧客の理解を
深めなければ、費用対効果の高いマーケティング施策は
企画・運営できない、ということをようやく、多くの
マーケターが認識し始めたようです。


機は熟した、と私は感じています。そこで、今年から

「Mindreading - マーケティング心理学」

を本格展開します。

すでに、大手流通グループの社員研修の案件が
確定していますが、自社主催の一般マーケター向け
リアルセミナーも積極的に開催していきます。

第1弾は1月30日です。
ご興味のある方はぜひご参加ください!
 
 ⇒詳細・お申し込み

----------------------------

●「英語で学ぶマーケティング」のコンテンツ拡充

2010年7月から開始した「英語で学ぶマーケティング」は、
毎月2回の定例セミナーをコンスタントに開催しました。

毎回、英語力をアップしたい、
意識の高いマーケターの方々が参加くださっています。


今年も、月2回の定例セミナーは続けますが、
単発の集中セミナーを開催していきます。

日本企業における、
英語の社内公用語化も増えつつありますし、
マーケターのグローバル対応も「待ったなし」です。

1月には集中セミナーを2回開催します。
こちらもご興味のある方はぜひご参加ください!

 ⇒詳細&お申込み

また、2月からは有料メルマガも開始する予定です。
詳細は改めてご案内いたします。

「英語で学ぶマーケティング」Webサイト
http://www.marketinglish.com

では、今年もよろしくお願いします!

投稿者 松尾 順 : 13:46 | コメント (0) | トラックバック

『プラットフォーム戦略』

今日は、ブランド関連本ではありません。

ビジネスブックマラソンの土井英司さんも大絶賛している
最新刊をご紹介します。

『プラットフォーム戦略』
(平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ著、東洋経済新報社)

「プラットフォーム」とは、具体例を挙げれば、

「楽天市場」

のように、多種多様なオンラインの店舗が集積し、
多くの消費者が集まる「場」を作り出すことです。


卑近な例ながら

「合コン」

もまた、プラットフォームだと、
著者は主張しています。


合コンをビジネスとして展開する

「お見合いクラブ」

では、合コンの「幹事役」として、
出会いを求める男女に魅力的な場を提供し、
双方からの参加を募ることで事業を回しています。

男性・女性という互いに引き合う2つのグループを
マッチングさせ、双方がお互いにやりとりすることを
促す合コンには、

「プラットフォームの基本構造」

があるのです。


さて、プラットフォームで面白いのは、

「自分(自社)」

にはとくに魅力的なサービスがなくても、
魅力的なメンバーを集めることができれば、
その会(場)もますます魅力的なものになっていく
という点です。

そしてまた、会(場)の主催者は、
個人情報や好みなどのメンバーの詳細情報を
手に入れることができ、その情報を活用して、
さらに新たな事業を展開することが可能なのです。


本書によれば、プラットフォームには、
大きくは以下5つの機能があります。

1.マッチング機能

2.コスト削減機能

3.検索コストの削減機能(ブランディング・集客機能)

4.コミュニティ形成による外部ネットワーク効果・機能

5.三角プリズム機能

各機能の詳細は本書を読んでいただきたいのですが、
これらは、役割・立場の異なる様々な事業者が、
ひとつの場(リアルorバーチャル)に一同に会すること
によって可能になる機能です。


また、本書では、

「勝てるプラットフォーム」

の特徴として次の3つを挙げています。


1.自らの存在価値を創出する

あなたが創りだすプラットフォームが、
ない場合と比較してなんらかのメリットを
与えることができるかどうか、すなわち、
そのプラットフォームには存在価値があるか
どうかが重要です。

例えば、「築地市場」は、
昔から存続してきたいリアルな
プラットフォームですが、

「鮮魚の卸売なら築地」

というブランドや市場の運営管理力が、
売り手、買い手双方にとって価値ある場
となっています。


2.対象となるグループ間の交流を刺激すること
  (情報と検索)

端的に言えば、場に参加しているメンバー間で、
情報が口コミとして広がっていくことが重要です。

情報がウィルスのように伝わることで、
プラットフォームは自然増殖し、拡大していきます。


3.統治すること(ルールと規範を作り、クオリティを
  コントロールすること)

ビジネスパーソンが集まる「勉強会」もまた、
プラットフォームと言えますが、例えば、参加者の誰かが、

「高額で怪しげな壺」

のセールスを受けたら、
会自体の信頼性も低下してしまいます。

ですから、プラットフォームの主宰者は、
ルールや規範を作り、プラットフォームの持つ特徴と
集まっているグループのクオリティを一定の水準に
維持することが必要なのです。


さらに本書では、プラットフォームを構築する手順を
9つのステップで説明しています。

------------------------------

step1 事業ドメインを決定する-社会の変化、
   ライフスタイルの変化という大きな流れをとらえる

step2 ターゲットとなるグループを特定する

step3 プラットフォーム上のグループが活発に交流する
   仕組みを作る

step4 キラーコンテンツ、バンドリングサービスを用意する

step5 価格戦略、ビジネスモデルを構築する

step6 価格以外の魅力をグループに提供する

step7 プラットフォーム上のルールを制定し、管理する

step8 独占禁止法などの政府の規制・指導、特許侵害などに
   注意を払う

step9 つねに「進化」するための戦略を作る

------------------------------


プラットフォームには負の側面もあります。

プラットフォームの主宰者(プラットフォーマー)は、
勝ち組になると次第に横暴になっていく傾向があるのです。

著者は、「プラットフォームの横暴」の
典型的なパターンとして以下を挙げています。

1.利用料の値上げリスク
2.プラットフォーマーによる垂直統合リスク
3.プラットフォーマーが顧客との関係を弱体化させるリスク


本書は、読書に慣れている方なら、
1時間足らずで読めるボリュームながら、
プラットフォーム戦略の理論と実践が
実にわかりやすく、凝縮されて語られています。


今後、多くの企業は、
自らがプラットフォーマーとなって、

「場づくり」

に取り組むか、
またはプラットフォームのメンバー
となるかのどちらかによって、
生き残りを模索していくことになるでしょう。

したがって、ビジネスパーソンには
見逃せない一冊と言えるのではないかと思います。


『プラットフォーム戦略』
(平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ著、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 18:39 | コメント (0) | トラックバック

恐山とイタコ

青森県恐山院代の

南直哉(じきさい)さん

から聞いた話です。


青森県・恐山にある「恐山菩提寺」(恐山院)は、
永平寺と同じ曹洞宗のお寺。つまり禅寺ですね。

恐山と言えば、死者の霊を呼び寄せる(口寄せ)

「イタコ」

が有名です。

南和尚の話で初めて知ったんですが、
お寺と恐山にはなんの関係もないんですね。

イタコさんは普段は自宅で

口寄せ

をやっているそうです。

ただ、「恐山祭」など、
たくさんの参拝客、観光客が
恐山に押し寄せる時期は、
いわば

「出張営業」

の形でイタコさんが
恐山にやってくる。

お寺としては、
歴史的経緯も踏まえて

彼らの存在を拒まない

というだけのことだそうです。

お寺とイタコさんの間に、
雇用関係や契約関係などは
一切ないのです。

ただ、私も含め一般人は
この真実を知りませんよね・・・

だから、恐山が開山する5月になると、
お寺にたくさんの電話がかかってくるそうです。

「あのお、イタコさんは今いますか?」
「イタコさんの予約できますか?」
「口寄せの料金はいくらですか?」

お寺としてはいい迷惑でしょう。


また、テレビ局などからも、
イタコに絡んだ番組企画の話が
しばしば持ち込まれるそうです。

お寺としては、

・イタコ関係
・幽霊関係

企画案件は一切お断りとのこと。

ただ、いちおう企画内容を
聞いてみることもあるそうです。

以前、東京のキー局の若い男性(たぶんAD)
からかかってきた電話の内容は、
次のようなものでした。

「あのお、イタコさんに織田信長を
 呼んでもらうことはできますか?」

「恐山で信長の霊を呼んで、
 その前で芸人にネタやらせて信長を
 笑わせるという企画なんですが・・・」

投稿者 松尾 順 : 09:50 | コメント (2) | トラックバック

首狩りが上手な部族は歌がうまい!

首狩り族。

この言葉を聞いただけで、
なんか背中に寒いものが走りますね。


首狩り族は、東南アジア、南米など、
世界各地にその存在が確認されており、
意外にたくさんいる部族だそうです。

現在も、多くの部族は、
現代文明からある程度孤立した形で
生活しています。

ただし、首狩りの風習は政府によって
禁止されたりして止めてしまった部族
も多いようです。


彼らは、エスキモーの生活にも近い、
原始共産制の集落を形成しており、
いわゆる「酋長」や「王様」もおらず、
お互いに助け合いながらひっそりと
暮らしてきました。

そして、軍隊さえ持たない彼らが、
部族全員で自分たちの猟場や農地を守るため、
外敵の首を問答無用で切る風習を続けてきた
ようです。


首狩り族というと、
獰猛で野蛮なイメージがありますよね。

でも、実態は繊細で臆病な人たちだそうです。


「首狩り」は、決して楽しみや狂気的な信仰に
基づくものではなく、部族生き残りの手段として
(やむを得ず)行われてきたらしいというのが、
首狩り族の研究を行った民族音楽学者、
小泉文夫氏の見解です。


さて、首狩り族は、お互いに領地を守るため、
あるいは拡大するため、部族同士での戦争を
行うことがあります。

「首狩り合戦」ですね。


小泉氏は、こうした部族間の戦いにおいて、
首狩りが上手な部族は歌がうまく、
逆に、首狩りが下手で首を狩られてばかりの部族は
歌が下手な傾向があることを発見しています。


たとえば、首狩りが一番うまい

「ブヌン族」

は、周辺の部族をみんな
滅ぼしてしまったそうですが、
合唱が大変に上手。


彼らは、首狩りに行く前に合唱を行います。

まず、老人がワーッと即興で歌いだし、
その旋律に皆がハーモニーをつける。

西洋音楽は聴いたことがなく、
もちろん、平均律も知らない彼らですが、
そのハーモニーは純生調!

ぴったりとあうハーモニーを探し出す。
例えば「ドミソ(ミのピッチは少し低め)」。


そして、美しいハーモニーが作れれば、

「みんなの気持ちが合っている」

ということで戦いに出かけて行く。

しかし、もし、いいハーモニーができなければ、
その日は、戦争に行くのを止める!


クジラ・エスキモーと同様、
首狩り族にとっても、歌がうまいこと、
とりわけ

「ハーモニー」

がうまく揃えられることは、
部族の生き残りに関わる重大問題なんですね。

だから、皆額に汗をかきながら、
真剣に歌うのだそうです。


さてさて、現代文明に生きる私たち。

会社勤めにせよ、独立しているにせよ、
多くの人々との協働作業で仕事を進めなければ
なりませんよんね。


どうやって、みんなの気持ちが合っていることを
確認したらいいでしょうか?

また、気持ちを合わせられるようになるために
どんなことをやるべきでしょうか?


たいてい、1人ずつかわりばんこに歌い、
他人が歌っているときは、次の曲を決めることに
夢中でろくに人の歌を聴いちゃいない

「カラオケ」

はあんまり効果なさそうですね。

全社員で、あるいは部署単位で、

「ハーモニー研修」

とかやるといいかも・・・

*参考文献

『小泉文夫フィールドワーク 人はなぜ歌をうたうか』
(小泉文夫著、冬樹社)

投稿者 松尾 順 : 10:20 | コメント (0) | トラックバック

‘グランブルー’に魅せられた人たち・・・「アプネア」の世界

海底を目指して深く潜行・・・

太陽の光が射し込む海の色は、
グラデーションを描いて変わっていく。

ライトブルー ~ ディープブルー ~ ダークブルー ~ グランブルー

その先にあるのは、漆黒の闇。


さて、美しく変化する海のグラデーションを
目の当りにしながら、

「限りない深み」

に挑戦する人々がいます。


「フリーダイビング」

いわゆる

「素潜り」

の競技に魅せられた人たちです。

正式には

‘アプネア(Apnea)’

と呼ぶようです。

‘アプネア’とは、

「息こらえ」

と言うラテン語が語源の言葉。

まさに、酸素タンクなどの機材を一切使わず、
一息でどれだけ水中に潜っていられるかを競います。


ジャン・レノの演技が印象的な名作、

「グランブルー」

で描かれた世界ですね。


私自身はもちろん、
アプネアをやっているわけではありません。
(正直、水は苦手なほう・・・)

しかし、グランブルーは大好きな映画ですし、
アプネアの競技は実に美しい!

そこで、たいして詳しいわけではないけれど、
アプネアについて簡単な紹介を試みてみます。
(詳しい方、間違っている点があったら、
 ご指摘お願いします!)


アプネアの競技には、
様々なバリエーションがありますが、
基本は次の3種類です。

(バリエーションとしては、

 フィンを使う・使わない

といった違いがあります。)

●スタティック・・・じっとしてどれだけ息を止めていられるか

●ダイナミック・・・息を止めて横にどれだけ移動できるか

●コンスタント・・・息を止めてどれだけ深く垂直に潜れるか


このうち、一般の人にもよく知られている、
最もポピュラーな競技は、

「コンスタント・ウイズ・フィン」(フィンを使って垂直に深く潜る)
(通称:Constant Weight)

でしょう。

1983年、55歳のジャックマイヨールが、
105メートルの世界記録を樹立した競技が、

「コンスタント・ウィズ・フィン」

でした。

日本人としては、
日本のアプネア界の第一人者、
篠宮龍三さんが、今年(09年)4月3日に
ジャック・マイヨールと肩を並べる

水深105メートル(アジア&日本記録)

に到達しています。

なお、現時点(2009年9月)での同競技の世界記録は、

・122メートル(男性)
・96メートル(女性)

です。

一方、スタティックは、シンプルな水中息止め。

小さい頃、お風呂でお湯に顔をつけて、
何秒我慢できるかという遊びをやった覚えが
誰にでもあると思いますが、まさにアレです。

世界記録はなんと、

・11分35秒(男性)
・8分23秒(女性)

です。

アジア(日本)記録。
男性はやはり篠宮龍三さんの

7分25秒

です。


実は、スタティックの練習では、
篠宮さんは、軽く8分を超えることができます。

しかし、本番となると、
よけいな邪念、緊張や力みがどうしても
出るため、脳の酸素消費量が増えてしまい、
練習と同じタイムを出すことはなかなか
難しいのだそうです。


これは、コンスタント、ダイナミックでも同様。

いかに心を平静に保てるかが、
自分の限界を超えた深みに到達するための
決め手なのです。

ジャックマイヨール氏も、
ヨガや禅に学んだ瞑想を行い、
自分は

「イルカ」

であると、心から感じられるような
心境になるまで潜水を開始しなかったのです。


ところで、なぜ陸地に生活してきた私たちが、
10分近くも息を止め、水中深く潜れるのでしょうか?

イルカやアザラシのような海洋哺乳類の能力には
及びませんが、ヒトもまた、水中では心拍数を
低下させたり、手足などに流れる血液を止め、
脳などの生命維持に重要な臓器に血液を集中させる

「ブラッドシフト」

という現象が人間にも起こっていることが
わかっています。

要するに、酸素の乏しい水素において、
酸素を節約し、効率的に使う能力が、
人間にもある程度備わっているのですね。

だからこそ、逆に、心の平静が保てないと、
脳の活動が活発になりすぎ、酸素を消耗してしまい、
長く、また深く潜れなくなるということなんでしょう。


それにしても・・・

なぜ篠宮さん始めとするフリーダイバーたちは、
なぜ、ボンベなしで到達できる限界深度と思われる
グランブルーの世界を目指すのでしょうか?

登山家と同じなのかもしれませんね。

登山家は、「高み」をめざし、
フリーダイバーは「深み」を目指す。

そこには単に記録作りを超えたものがあります。

著名な登山家、ラインホルト・メスナー氏と
同じ気持ちがあるのかもしれません。

“自分という有限の肉体、ハダカの肉体を試し、
どれだけ命の可能性を拡げられるかを確認したかったのです。”

(ラインホルト・メスナー)


余談ですが、ヒトは、

サバンナ(高原)

ではなく、

海辺

で進化したという説があります。

この説によれば、簡単に言うと、
ヒトは、両生類のように、水中と陸上を
行き来しながら生活をしていたというものです。

サルから枝分かれし、
木から降りて森林から出たものの、
他の動物よりも身体能力の劣るヒトの祖先は
簡単に肉食獣の餌食となりました。

しかし、食糧も豊富、そして比較的安全な海辺で
生活すれば生存できる可能性が高くなる。

だから、ヒトは海辺で暮らすようになった。

サルの仲間のうち、
ヒトだけが体毛がほとんどないのは、
水に浸って暮らしていたからだというのです。

(水は相対的に温かいので体毛は不要)


海洋哺乳類には勝てないものの、
優れた潜水能力をヒトが持っているのも
その名残りかもしれませんね。


*篠宮龍三さんの公式ホームページ
http://www.apneaworks.com/index.html


『人は海辺で進化した―人類進化の新理論』
(エレイン モーガン著、望月 弘子訳、どうぶつ社)

投稿者 松尾 順 : 19:26 | コメント (0) | トラックバック

ひろみトラベル

東京JAZZ2009、9月5日(土)19:00~@東京フォーラムA

3組のアーティストが登場。
上質のパフォーマンスをたっぷり聴かせてもらいました。

みんな良かったけど、やはり上原ひろみさんが最高。

今回のテーマは、‘ひろみトラベル’

世界ツアーで立ち寄った場所で書いた曲中心の演奏。
聴衆を世界の旅へ!

シシリアで書いた曲。
手でピアノの弦を直接ジャラランとならして、
オリエンタル風のイントロが印象的。

ニューヨークの曲。
ひろみさん曰く、‘闘う街’にふさわしく、
アグレッシブで変化に富んだメロディ。

パリの曲はシャンソンの香り。

曲名忘れたけど、
バロックの名曲で箸休め。

ピアノなのに、チェンバロのような複雑な音色が。
弦の上に鉄板でも渡してあったのか・・・

締めは、ラスベガス。
3曲編成。

またもや邸音階の弦を直接弾く。
ウッドベースがピアノから飛び出してきた!

ひろみさんほど、
ピアノを弾くのが楽しくてたまらない
という気持ちが伝わってくる人は
いないですね。


投稿者 松尾 順 : 17:47 | コメント (0) | トラックバック

どっちが好き? 丸亀製麺 or はなまるうどん

うどんの話題、続けます。(笑)

最近、うどんチェーンの中で業績好調なのが、

「丸亀製麺」(セルフ式讃岐うどん系)

です。

私の行動圏にはあまり店がなく、
たまにしか食べる機会がありませんが、
東京で食べる讃岐うどん店の中では一番好きです。

なんといっても、
トッピングの天ぷらが「揚げたて」、
「サクサク」でおいしい!


一方、ここ数年、
行く度にがっかりさせられるのが、
セルフサービス式を全国に認知させた
讃岐うどんの雄、

「はなまるうどん」

です。


麺、つゆはさておき、
はなまるのトッピングは、
「揚げたて」ではないことが多く、
衣がボテッとしてます。

食べた後、
どうも胃がもたれる感じ
なんですよね・・・


たまたま私がよく行く店がそうなのか、
それとも、どの店でもおおむね同じなのか、
こんど、他の店にも行ってみようと思います。


ネットでちょっと調べてみましたが、
はなまるに対してあまりネガティブな感想は
見つかりませんでしたけど・・・

とはいえ、知人の中にも、
はなまるの味は最近落ちたという人がいます。


はなまるは、現在「吉野家」の子会社になってますが、
吉野家さんが、はなまるの

「トッピング問題」

を長年放置してきている理由がわかりません・・・

ちなみに、香川県のはなまるは、
他県のお店よりもおいしいみたいですね。

まあ、競合だらけですから、
気合入れて店舗運営してるんでしょう。

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (3) | トラックバック

どんなときでも平気で生きることが悟り

福井の永平寺78代貫首、宮崎奕保(えきほ)さん。

宮崎さんは60歳を過ぎて肺結核に罹り、
生死をさまよいました。

宮崎さんはこの病気を克服し、
106歳で大往生を遂げられていますが、
この体験を通じて宮崎さんの

「死生観」

がガラリと変わってしまったそうです。

宮崎さんはそれまで、

「いつでも死ねる覚悟ができていること」

が悟りだと考えていたそうです。

しかし、病気を克服した後は、

「どんなときでも平気で生きること」
が悟りだと気づいたのだそうです。

この言葉は、
どのように解釈すればいいのでしょうか?


生きているとつらいことにも
たくさん出会う。悩みも尽きることはない。

それでもあきらめない。生きようとする。
命の炎を燃やし続ける。

おそらくそういうことなんじゃないかなと
思います。


*以上は、NHK「あの人に会いたい」から。
宮崎さんの言葉は記憶に頼っています。

投稿者 松尾 順 : 10:22 | コメント (0) | トラックバック

人が動かない4つの理由

以前、某飲み会でお会いしたことのある

漆 紫穂子氏(品川女子学院校長)

が手がけられた「学校改革」の話をきちんと聴きたい
と思い、昨日(2009/07/02)行われた夕学五十講での
講演に参加しました。


本記事では、漆氏のお話の中から、

「人が動かない4つの理由」

と、「動かない人たち」を漆氏がどうやって
動かしてきたかについてご紹介したいと思います。


私立中高一貫校、「品川女子学院」創業者のひ孫であり、
前校長の娘である漆氏は、大学卒業後、都内の別の学校
の教員になっていました。

しかし、品川女子学院が危機的状況にあることを聴いた
漆氏は、1989年、28歳の時に同学院に入り、
たった1人からの改革に着手します。


当時の品川女子学院は、
中等部への入学応募者数がわずか28人。

1学年の生徒数が5人という時期もあり、
まさに廃校寸前でした。

しかし、学校改革に成功した今、
生徒数は1246人(平成20年現在)となり、
中等部への入学応募者数は約1800人と、
20年前の60倍へと増加しています。


さて、同学院に入ったばかりのころ、
漆氏が同僚などに現状を聞くと、
皆、異口同音に

「もう手遅れだよ・・・」

といったそうです。

ただし、誰もが

「同学院のどこが良くないか」

を指摘することはできたのです。


問題点がわかっていながらも、

「あきらめモード」

に入っていたんですね。

このため、改革の必要性をいくら訴えても、
なかなか動いてくれなかったと、漆氏は
当時を回想していました。


さて、孤軍奮闘する毎日の中で、
漆氏は

「人が動かない理由」

には以下の4種類があることに気づきます。

1 知らない(現状を実感として把握していない)

 内部にいると、厳しい現状でさえ日常になって
 しまい、危機感を失っていた。

2 責任を取りたくない

 賛意を表明してしまうと、失敗したときに
 自分の立場が悪くなるから。
 現場での協力はするが、賛成はしないという
 人もいた。

3 めんどくさい

 現状を変えるのが面倒なので、
 あれやこれやと、うまくいかない理由を
 挙げてやらないで済まそうとした。

4 あなたが嫌い

 改革着手当時は20代とまだ若く経験も浅い漆氏、
 校長の娘という立場を盾に、偉そうなことを
 言っていると感じる人がいた。


漆氏は、それぞれの理由について、
次のような工夫で乗り越えていったそうです。

1 知らない(現状を実感として把握していない)

 外部から見たらどんなに厳しい状況なのか実感して
 もらうため、外の人に会いに行く時、同僚たちにも
 同行してもらった。

2 責任を取りたくない

 学内の様々な改革プロジェクトチームにおいて、
 漆氏が「私が責任を取るから!」と、いわば皆の
 「風除け」になることを明言した。

3 めんどくさい

 できない理由を挙げる人は、漆氏とは「違う絵」を
 見ていた。漆氏は、改革がうまくいった時に、
 生徒が喜んでいる「ゴール」のイメージを描いて
 いたのに対し、動かない人たちは、そのプロセスで
 遭遇するであろう、さまざまなトラブルや障害を
 イメージしていた。

 つまり、人によって、ゴールorプロセス、あるいは
 成果orリスクのどちらか一方しか見ていないことが
 あるということ。

 そこで、漆氏は相手の見ている絵がどんなものかを
 聴き、一方、漆氏は、自分見ている絵がどんなものか
 を相手に伝えた。こうして、お互いの見ている絵を
 交換することで、改革に対する理解と行動を促した。

4 あなたが嫌い
 
 わずか5分でもいい、改革に関わる簡単な仕事を
 頼み込んでやってもらう。そうすると視点が変わり、
 主体者意識が出てくる。
 こっち側に一度でも連れてくれば、漆氏は嫌いな
 対立者ではなく、同じ改革に取り組む仲間になる。


こうして、漆氏は、周囲を巻き込みながら、
できることから改革を進めていったのだそうです。


それにしても、

「協力はするが賛成はしない」

って、何なんですかねぇ・・・

そこまでして責任から逃げたがるというのは
なんとも情けないですよね。

ただ、結局のところ、

「生徒たちが喜ぶ姿を見たい

というゴールイメージが先生たちを動かす、
最も大きな原動力になったようです。

教師をやる動機や充足感、すなわち漆氏の言う

「心にスイッチが入る瞬間」

は、生徒たちの笑顔にあるからなのだそうです。


*慶応丸の内シティキャンパス 夕学五十講
 「改革のストーリー~心にスイッチが入る瞬間~」
 (漆 紫穂子、品川女子学院校長)

慶應MCC「夕学五十講」楽屋blog : 自分の言葉で語る強さ  漆紫穂子さん


(その他関連リンク)

品川女子学院・漆紫穂子校長の
やる気を高め、人を育てるマル秘メソッド
(日経ビジネスオンライン)

品川女子学院 校長日記

品川女子学院

投稿者 松尾 順 : 12:03 | コメント (1) | トラックバック

費用対効果が見える広告

新聞・雑誌などに掲載されている、
健康食品や化粧品、自動車保険などの広告にはたいてい、

・無料サンプル(試供品)1万名様プレゼント
・もれなく詳しい資料をご提供

といったオファーと共に、

‘0120’‘0800’

などから始まるフリーダイヤル番号(着信課金サービス電話)や、
WebサイトのURLが大きく記載されていますね。


このような広告は

「レスポンス広告」

と呼ばれています。
(「ダイレクト・レスポンス広告」とも言う)


レスポンス広告は、当該広告を見た人から、

なんらかの反応(レスポンス)

を取ることを最大の目的としている広告です。

究極的な反応は、当該商品の「購入」になりますが、
広告を見てすぐに購入に踏み切るにはハードルの高い
商品の場合には、前述したように、まず無料サンプルや
詳細資料の請求といった反応を得ることを目的に置くこと
が多いです。


レスポンス広告としては、
冒頭のようなマスメディアを使ったものに加えて、
以下のようなメディア・ツールも含まれます。

・折込チラシ/ポスティング
・ルートメディア(セグメントされたターゲット層が
 集まる先[ゴルフ場、書店など]でのツールやサンプル配布)
・ダイレクト(e)メール
・インターネット(Webサイト、メールマガジンなど)


なお、広告目的の違いから見て、
レスポンス広告と対極にあるものが、

「イメージ広告」

です。


イメージ広告は、「ブランド広告」、あるいは
「純粋広告(純広)」、「一般広告」などとも
呼ばれますが、その目的は文字通り、商品の

「ブランドイメージ」

を形成することです。

つまり、広告を見た人からのダイレクトな反応を
得ることではなく、商品の認知や理解、関心、好意
を得るために打つのがイメージ広告ですね。


さて、今月(09年6月27日)に発刊される下記書籍は、
レスポンス広告についての本です。

『費用対効果が見える広告 レスポンス広告のすべて』
(後藤一喜著、翔泳社)


著者の後藤氏よりいち早く献本いただいたので、
さっそく私も読んでみました。

同書は、レスポンス広告を通じて、
より多くの反応を得るための方法論を語ったもの。


後藤氏は同書の中で、
レスポンス広告の「3つの極意」を披露しています。
(同書、145-146ページ)

-------------------------------------------

[極意1]集客

欲望に火を点ける広告、思わず通行人を
立ち止まらせる広告であること! 

最初に言葉あり。自分は無関係と思い、
そのまま通り過ぎようとしているただの通行人の
心の中に眠っている欲望をわしづかみにし、
思わず立ち止まらせるような“つかみOK!”の
強いキャッチコピーを、広告の“頭”の部分に
配置すること


[極意2]説得

行動阻害要因を排除・解決する広告であること!

“買う理由”、商品の品質や価格の妥当性、
効果・後納を伝えるだけでなく、広告の力だけで、
行動を抑制しようとするターゲットの意識、
ターゲットが抱えている疑問や課題を解決し、
行動へと促す広告。

情報量や表現方法、レイアウトにも工夫を凝らし、
パッと見、斜め読み、精読と三回の接触に値し、
また堪えられる広告であること。


[極意3]レレバンシー(適切性、妥当性、関連性)

ターゲット・インサイトに根ざした納得・共感を呼ぶ
広告であること!

ターゲットの興味関心、価値観に適合した
(ターゲット・インサイトに根ざした)、心の琴線に
触れる“レレバンシー”の高い広告。

集客のポイントや説得のポイントだけでなく、
情報の伝え方や演出においても適切であり、全体としての
バランスのとれた共感や納得を引き出す広告であること


----------------------------------------------

これら3つの極意をメインに、
豊富な具体例を元にした詳細でわかりやすい説明が
なされています。


後藤氏は、私がダイレクトマーケティング
専門広告会社に在籍していた時の先輩にあたります。

彼は、当時から、前職の「カタログハウス」での
カタログ制作を通じて学んだ、優れたレスポンス広告
制作力に定評がありました。


今回の著作は、後藤氏が蓄積してきた知識、経験、
ノウハウを惜しげもなく注ぎ込んだ力作となっており、
掛け値無しですばらしい内容だと思います。

広告を通じて、
より多くの顧客をダイレクトに獲得するノウハウを
知りたい方はぜひ読んでみてください!


『費用対効果が見える広告 レスポンス広告のすべて』
(後藤一喜著、翔泳社)

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (0) | トラックバック

著作権侵害にご注意!

あなたは、メルマガやブログに書いた自分の文章を
盗作されたことありますか?


「盗作されたことがあるよ」という方が、
けっこう多いんじゃないでしょうか?

デジタルなネット系文章だと、
コピペで簡単に真似されやすいですからね。


盗作された経験は、私にも何度かあるのですが、
そのたびに思うことがあります。

「これは、盗作と知りつつやった確信犯なのか、
 それとも、著作権の知識・常識を知らない、あるいは
 軽く考えていたための意図的でない行為なのか?」

どちらにせよ、盗作、すなわち

「著作権侵害」

であるという事実は揺るがないのですが。


さて、つい最近も、
メルマガ&ブログで私の書いた記事が
著作権侵害を受けました。

最終的には、盗作した側の責任者から、
真摯な謝罪をもらいましたので一件落着はしています。


ただ、私自身も含め、文章を書き、
ネットなど通じて公表する機会が多い方のために、

自分自身がうかつに著作権侵害を起こさないためのポイント

を一度整理しておいたほうがいいと思いました。


というわけで、直近に起きた私の盗作被害を
具体事例として示しながら説明してみたいと思います。


まず、私のオリジナル記事の冒頭と、
盗作記事の冒頭を並べてみますね。

------------------------------------

[オリジナル記事]
タイトル:裁判員になる方へ・・・目撃証言の信頼性

従来、刑事裁判は、
裁判官3人だけで評議し評決していました。

しかし、裁判員制度の実施後は、
裁判官3人に加えて、国民から選ばれた裁判員6人
の合計9人で、評議・評決をすることになります。

裁判員候補者としては、
社会人のほとんどの人が対象となりますね。

もし裁判員候補者に選ばれたら、
所定の理由がない限り辞退することはできません。

ですから、いつかは自分も裁判員になる日が来るかも
しれないという、心の準備はしておいたほうがいいでしょう。

------------------------------------

[盗作記事]
タイトル:裁判員制度の留意点

従来の刑事裁判では、裁判官3人で評決しましたが、
新制度では、国民から選ばれた裁判員6人が加わり、
計9人で評決することになります。

社会人のほとんどが対象となる裁判員制度ですが、
所定の理由がない限り、辞退することが出来ません。

いつかは、自分が選ばれる日が来るかもしれない、
という心の準備が必要でしょう。

------------------------------------


盗作記事の場合、全体の文章が短く、
また表現・言い回しが変えてありますが、
私の記事の「引用」ではなく、
あたかも自分の文章であるかのように書いた、

「剽窃(ひょうせつ)」

であること、要するに、「盗用」したことが、
著作権の専門家でなくとも一目瞭然ですよね。
(そもそも、出典の明示もなしでした)


さて、当初、盗作記事を掲載した側の責任者の
謝罪の文章は次のようなものです。
(重要箇所のみ抜粋)

------------------------------------

5月XX日に書かれた記事が松尾様の記事
「裁判員になる方へ・・・目撃証言の信頼性」を
もとにして書かれているにもかかわらず、出典の明記が
なされず、オリジナル記事であるように書かれていました。

(中略)

今後は出典の明記を義務づけ、再発しないよう周知徹底
してゆく所存ですので、今回に限り、どうかお許し
くださりますと幸いでございます。

-------------------------------------


この文章を読むと、盗作記事は、

「出典の明記」

が行われていなかったことのみが問題という、
間違った事実認識を責任者が持っていたことが
わかります。

このため、出典の明示がなかったことについての
謝罪に止まっていますね。


しかしこの記事の場合、
出典が明記されているかどうかに関わらず、

「著作権侵害」

に該当するのです。


なぜかという理由については、

「引用」の目的と許容範囲

をご説明すればおわかりになるでしょう。


そもそも「引用」とは、

自分の考えを展開したり、
説明・証明するために他人の文章や事例を引くこと

です。

しかし、当該盗作記事の場合、
私の記事をそっくりなぞり、表現を変えただけの
内容でした。つまり、

書き手の持論・自説

が全く含まれていなかったのです。


したがって、「引用」には該当せず、
「剽窃」=「盗用」になってしまうというわけです。

もし仮に出典が明示されていたとしても、
変な話ですが、

盗作先の明示

に過ぎなかったことになりますね。


ですから、引用については、
以下の原則を常に意識しておく必要があります。
それは、

「主従関係の原則」

です。

自説を展開した部分と、引用箇所を比べた時に、
自分の文章が「主」であり、引用が「従」とみなせる
場合にのみ正当な引用として認められるという原則です。

当該盗作記事の場合、
自説ゼロですから、引用100%ですね。
「アウト」。

「主従の関係」の見極めは、
基本的には自説と引用の文章量の比較に、
双方の内容の質を加えて判断されますが、
明快な線引きは難しいのが現実ではあります。

実は私も、うかつにも引用箇所が主と感じられるような
記事を書いてしまい、読者の方から叱られた経験があります・・・


さて、もうひとつ、著作権侵害を避けるために
知っておくべきポイントがあります。

それは、

著作権は「表現」を保護することが目的である

いう点です。

特許は、発明=アイディアを保護することが
目的ですが、著作権はオリジナルの書き手の

「表現」

を守ることが目的。


ですから、盗作記事の場合も、
裁判員制度における留意点を「自分の言葉」で
表現してあれば、問題はありませんでした。
(後はもちろん、適切な引用と出典の明示)


ちょこっと言い回しを変えただけではダメです。

他人の文章を元にしており、
かつその文章と明らかな類似性があり、

「実質的に同一」

と判断されるようであれば著作権を
侵害したことになるからです。


まとめます。

著作権侵害にならない文章を書くために、
最低限おさえておきたいポイントは以下の3つです。


・自説を自分の言葉で表現する。

・自説と引用のバランスに注意し、
 引用が主にならないようにする。

・出典を明記する。


掘り下げれば、上記以外にも様々な留意点がありますが、
詳細は参考文献等をご参照ください。

私自身も、細心の注意を払って、
記事を書いていきたいと思います。


*参考文献

『引用する極意 引用される極意』
(林紘一郎、名和小太郎著、勁草書房)


『デジタルコンテンツの著作権Q&A 第2回』
‐自社のWebページをまねたとしか思えない他社のWebページを発見。
 削除を要求できるか?
(広報会議、2009/07)

投稿者 松尾 順 : 09:58 | コメント (3) | トラックバック

成果につながるベタスキル

私たちが、
仕事で成果を出すために必要なスキル。

時に「コンピテンシー」と呼ばれることもある
スキルとして、あなたはどんなものが頭に浮かびますか?


・プレゼンテーション?
・論理的思考能力?
・交渉力?

などなど、いろいろ挙げられますが・・・

言うまでもなく、
こうしたスキルを高めることは重要です。

もちろん、高い成果にもつながりやすくなるでしょう。


でも、普段はあまり意識しておらず、
また、とてもスキルとは呼ばれそうもない、
ごく日常業務で求められる行動だけれど、
よくよく考えてみると、成果を出すために
重要なスキルもあります。


例えば、国際会議など、
大規模な聴衆が集まった場所で、
挙手して、講演者に質問するスキル。

語学力がまず大前提として必要ですが、
通訳がいて日本語でOKだったとしても、
なかなかできるものではありませんよね。

自分の質問が的を外れていないか、
きちんと質問の主旨を伝えられるかといった
内容面の不安に加えて、なにより聴衆の目が
自分に注がれるのがイヤですよね。


ここで行動の障害となっているのは、

「気恥ずかしさ」

という心理。

そこで、まずは、こうした心理に打ち勝ち、
積極的に手を挙げるようにする。

最初は失敗することもあるかもしれませんが、
そのうち慣れて、平気で質問できるようになるものです。


あるいは、知人が誰もいない立食パーティ等で、
見知らぬ人々が穏やかに談笑している輪に、
うまく溶け込むスキル。


これ、私もかなり苦手です。

どうやって溶け込むきっかけを
作っていいかわからない・・・

結局、壁際に立ったまま1人寂しく、
過ごしてしまいがち。

でも、これも慣れの問題です。

ここでも大事なのは、
知らない人の輪に割り込むことで生じる

「気まずさ」

というネガティブな心理に負けないこと。

そして、勇気をだして行動し、
失敗しながら、コツをつかんでいくことです。


さて、以上のような

「ベタスキル」

とでも呼びたいスキルの重要性を教えてくれたのは、
旧ルノー公団やエアリキードを始めとする、
欧州グローバル企業の要職を歴任された今北純一氏でした。


今北氏の華麗なキャリアを見ればわかりますが、
語学力は言うまでもなく、ビジネスパーソンとして
極めて高いスキルをお持ちの方。

しかし、今北氏のような人であっても、
誰もが日々の業務で直面する、ごく平凡に思える
状況をうまく乗り切るスキルを高めるために、
自分自身の心理的な弱さを認識し、
それらとの戦いを続けてきたのだそうです。


ベタスキルは、
ある意味、お辞儀や名刺交換の仕方といった
基本作法の応用版というか、より高度なものだと
言えるかと思います。

ただ、新入社員向けセミナーなどの研修で
身に付くようなものではありませんよね。

あくまで日々の実践の中で、
楽に流れようとする自分と闘い続けるしかないんです。


*以上の内容は、今北純一氏の以下の講演を
 元にしました。

「夕学五十講」
https://www.sekigaku.net/

「世界で戦える人材とは?」(今北純一氏) 
(2009年4月24日開催)

*講師紹介ページ(今北純一氏)

*受講生レポート(今北純一氏)

投稿者 松尾 順 : 17:53 | コメント (2) | トラックバック

「ブレンドワイン」とでも呼んだらいかが?

その昔、私がまだ紅顔の美少年(ウソ)だったころ、

「ロゼワイン」

というのは、赤と白ワインを混ぜたものだと思っていました。

オトナの人にある日、

「いや、ロゼワイン独自の製法で作られているんだよ」

と教えられて、

「ふーん、そうなんだ、そりゃ、そうだよね、ただ混ぜるだけなんて芸ないし!」

と納得したことを覚えています。


ウィキペディアによれば、ロゼワインの製造法には、
「セニア法」、「直接圧搾法」、「混醸法」の3種類があるみたいです。

ところがなんと、現実には、
単純に赤・白ワインを混ぜる(ブレンド)だけのロゼワインもあったんですね!

これまで「シャンパーニュ」だけには、
この単純な製法が認められていたことを先日知りました。

そして今、EUでは、新世界(欧州以外の国)の
安価なロゼワイン(ブレンドするだけの製法のロゼが多い)に対抗するため、
シャンパーニュに限らず、赤・白ワインをブレンドしただけのワインを

「ロゼワイン」

と呼んで販売することを認可するどうかの議論が続いています。

独自の製法で手間をかけるより、
単純に赤白ワインをブレンドしたほうが
低コストで製造できますからね。

それにしても、消費者不在の議論ではあります。

シャンパーニュも含め、
赤・白ワインを混ぜただけのワインは、
ロゼワインとは呼ばず、

「ブレンドワイン」

あるいは

「ミックスワイン」

と呼んできっちり区別して欲しいものです。

投稿者 松尾 順 : 13:03 | コメント (0) | トラックバック

私は、「ソフトクリームひとつ」と言いたい。「ソフトツイスト」じゃなくて!

先日、某所のマクドナルドにて。

私:「ソフトツイストひとつください!」

店員:「・・・えーっと、“ソフトクリーム”のことですか」

私:「えっ、はい・・・」
  (コラ、客に聞くんじゃない!)


店員さんはアラカン(アラウンド還暦)の女性。
明らかに勤務初日でした。

ひょっとしたら、
お客としてマクドナルドを利用したことが
ないのかもしれません。

とはいえ、「ソフトツイスト=ソフトクリーム」という
スーパーウルトラ基本知識さえ身につけていない新人さんを
即現場に投入している状況を鑑みると、いまだ外食産業の
人手不足は深刻なんでしょうね?


それにしても、「ソフトツイスト」は、
どこからみてもフツーのソフトクリーム以外の
何者でもありません。

わざわざ「ソフトツイスト」なんて、
変にツイスト(ひねった)ネーミングは止めて
欲しいものです。

店員さんでさえ理解できないくらいなんですから。

私は、普通に「ソフトクリームひとつ」と言いたい。

投稿者 松尾 順 : 13:29 | コメント (0) | トラックバック

自己を「複雑化」せよ・・・複雑化社会でのサバイバル

変化が激しく、高度化・複雑化した現代の日本社会で
生きていくのは本当に大変なことですね・・・


とても便利な社会には、なりました。

しかし、社会が便利になったということは、
私たちを取り巻く環境は高度化・複雑化している
ということです。

そして、私たちは、
この高度化・複雑化した環境に適応することを
要求されています。


実際、「便利さ」を享受するためには、
PCや携帯電話、ブラウザーといった各種ツール
の使い方に習熟しなければなりません。

また、オンラインショップ、
さらにリアルな店舗においても、

一定の作法・手順(プロトコール)

を理解できていないと、
ちゃんと買い物ができません!


慣れてしまえばサクサクと済ませられる
オンラインショップでの購入も、
最初は手順がわからず右往左往する人が
多いのです。

スターバックスに初めて行った人は、
おそらくどうやって注文したらいいかわからず、
カウンターの前で途方にくれるに違いありません。


ビジネスの世界では、従来「雑用」と呼ばれてきた仕事が、
IT化の進展によってほとんどが消滅しつつあります。


以前から指摘してますが、
現場に配属された新人さんはまず、
電話番とか、コピー取り、おつかい(書類のお届け等)
といった比較的シンプルな仕事をあてがわれ、

「慣らし運転」

をさせてもらう時間がありましたよね。

ところが今の職場はめったに電話が鳴りません。

eメールのやりとりが主体ですし、
たまの電話も本人が直接出ることがほとんど。

もはや電話番は不要。

また、オンラインで書類データをやりとりすることが
増えてコピーは減り、おつかいもほとんどなし。

このため、いきなり企画立案や、
業務の運営管理などの高度な仕事を任されてしまう。


しかし、こうした仕事を仕事経験の浅い若手が
そうそううまくこなせるはずはありません。

大変なプレッシャーです。
失敗することも多いでしょう。

心が折れてしまう人が増えるのも、
仕方がないことかもしれません・・・

ですから、近頃の若者は「我慢強くない」、
あるいは、「打たれ弱い」などと批判するのは、
ちょっと一方的過ぎると私は感じています。


もちろん、大変な思いをしているのは、
若手だけではないですね。

中堅どころや、シニア社員もまた、
近年の急激なIT化によって従来の仕事のやり方が
通用しなくなり、自己変革を迫られています。

しかし、長年続けてきた仕事のやり方を
大きく変えるのは、ベテラン社員にとって
大きなストレスです

やはり、精神的に参ってしまう人が増えるのも、
やむを得ないことかもしれません。


とはいえ、当事者としての私たちは、
このような厳しい状況において、
どのようにサバイバルすればいいのでしょうか?


至極当然のことではありますが、
第一には、変化する環境に適応できるように、
新たな能力を開発する努力を続けることです。

つまり、自分の能力を複雑化させるということですね。

ただ、これは前述したように簡単ではないし、
一朝一夕ではできないことなので、

メンタル面の工夫

が必要になってきます。

すなわち、環境適応の過程で遭遇する、
様々な苦難や失敗によって簡単に心が折れない
ようにするということです。


そのためには、どうすればいいか?

日々の過ごし方を複雑化させるのです。


具体的には、会社という単一のコミュニティに
閉じこもるのではなく、地域、家庭、そして
趣味・レジャーでの集まりなど様々なコミュニティに
積極的に参加し、自分なりのポジションを確保するのです。

そうすれば、例えば仕事で失敗して自我が深く傷ついても、
暖かく迎えてくれる趣味のコミュニティの中で、
まだ無傷の自我があることに気づくことができるので、
自信回復が可能になります。

つまり、仕事場における「職業人」以外に

「複雑な役割」

を人生において持っておくことが、
生きるうえでの各種ストレスを緩和し、
再び厳しい現実に向き合うエネルギーを
充電する助けになるのです。


複雑化し続ける現代社会には、
「能力」と「生き方」の両面の複雑化戦略で
対抗しましょう!

投稿者 松尾 順 : 14:27 | コメント (0) | トラックバック

早稲田ラグビー蹴球部、中竹竜二監督の「フォロワーシップ」

2007年、2008年の大学選手権を制し、
2連覇を成し遂げた早稲田ラグビー蹴球部監督、
中竹竜二さんに会ったのは、
監督就任の2年ほど前だったかと思います。


当時、中竹さんは三菱総合研究所の研究員。
まさか、その後、早稲田ラグビーの監督に就任される
ことになるとは思ってもみませんでした。


中竹さんは、自称、

「日本一オーラのない監督」

です。

前任者の清宮克幸氏が発揮していたカリスマ性、
強烈なオーラと比較すると、確かにそのギャップは
大きいですね。


実際、私がお会いした時も、
包み込むような人間性は若干感じたものの、
目立たないごく普通のサラリーマンという印象。

とても、学生時代、早稲田ラグビーのキャプテンを
務めた方という感じはしませんでした。
(中竹さん、ごめんなさい!)


しかし、その後、
中竹さんのキャプテン時代を追ったドキュメンタリー本、

『オールアウト‐1996年度早稲大学ラグビー蹴球部中竹組』

を読むと、中竹さんは、

・小さい頃から常に周囲から推されてなるリーダーであったこと

そしてまた、

・明快なリーダー哲学、ラグビー哲学を若くして持っていたこと

がわかりました。

つまり、ちょっと会っただけではわからない、
深い人間性を秘めた方だったのです。


さて、中竹さんは、早稲田ラグビー監督就任後、
「リーダーシップ」ではなく、「フォロワーシップ」の
重要性を学生たちに訴えてきています。

「フォロワーシップ」とは、端的に言えば、
リーダーたる監督の指示やアドバイスを待つのではなく、
学生自ら考え、行動することです。

日本一オーラのない監督としては、
無理して強力なリーダーシップを発揮しようとするよりも、
学生の自律性を高めることが、早稲田ラグビーの勝利に
つながると確信していたのですね。

清宮監督時代、リーダーとして神がかり的なパワーを持つ
清宮氏の指示するままに練習し、試合に臨んでいた早稲田
ラグビーの部員たちは、受身の姿勢、行動が染み付いていました。

したがって、清宮監督退陣後、
そのままではガタガタになるのははっきりしていました。


清宮監督ほどのカリスマ性のあるリーダーは
そうそういません。

となれば、「リーダーシップ」ではなく、
「フォロワーシップ」でチームをまとめることのできる
中竹竜二さん以外に、清宮監督の後任者はいなかったのです。

この判断が正しかったことは、
大学選手権2連覇が証明していますね。


おっと、本当はこの後、
中竹さんの独自の思考のスキルである

「対極視点法」

が面白いのでご紹介しようと思っていたのですが、
前段が長くなってしまいました。


「対極視点法」については次回にします。


『リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の
 組織づくりとは』
(中竹竜二著、阪急コミュニケーションズ)

『監督に期待するな 早稲田ラグビー「フォロワーシップ」の勝利』
(中竹竜二著、講談社)

『オールアウト‐1996年度早稲大学ラグビー蹴球部中竹組』
(時見宗和著、スキージャーナル)

投稿者 松尾 順 : 09:12 | コメント (2) | トラックバック

情報力を高める参考本

『情報力を飛躍的に高める!実践ノウハウ講座』

が近づいてきました!

3月12日開催、時間は18時半~。懇親会あり。


効率的・効果的な情報収集方法を知りたい
若手ビジネスパーソン対象です。

とはいえ、現時点で参加申し込みされている方
の役職を拝見すると、意外に偉い方もいらっしゃいました。

というわけで、内容を多少修正中です。

本題の情報力を高める参考本は、
上記セミナー配布資料でも紹介していますが、
ブログでもご紹介しておこうと思います。

仕事に役立つインテリジェンス、北岡元著、PHP新書


ビジネスインテリジェンス、北岡元著、東洋経済新報社


人を動かす情報術、春木良且著、ちくま新書


日経新聞の裏を読め、木下晃伸著、角川SSC新書


情報のさばき方、外岡秀俊著、朝日新書


情報検索のスキル、三輪眞木子著、中公新書


統計数字を疑う、門倉貴史著、光文社


社会調査のウソ、谷岡一郎著、文藝春秋


統計はこうしてウソをつく、ジョエル・ベスト著、林大訳、白揚社


統計という名のウソ、ジョエル・ベスト著、林大訳、白揚社


統計でウソをつく方法、ダレル・ハフ著、高木秀玄訳、講談社ブルーバックス


視聴率の正しい使い方、藤平芳紀著、朝日新書


池上彰の情報力、池上彰著、ダイヤモンド社


3時間で「専門家」になる私の方法、佐々木俊尚著、PHP研究所


知的情報の読み方、妹尾堅一郎著、水曜社


ビジネスマンのための「発見力」養成講座、小宮一慶著、ディスカバー携書


調べる技術、書く技術、野村進著、講談社現代新書


「判断力の磨き方、和田秀樹著、PHPビジネス新書


使える弁証法、田坂広志著、東洋経済新報社


営業はリサーチが9割!、松尾順著、日本能率協会マネジメントセンター


先読みできる!情報力トレーニング、松尾順監修、TAC出版

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (5) | トラックバック

できそこないの男たちが美しくなろうとするのはなぜか?

分子生物学者の福岡伸一氏によれば、

「オトコ(オス)は、メスが自分の遺伝子を他のメスに
 伝えるための‘使いっぱしり’にすぎない」

のだそうです。


本来、生物はすべて「メス」として発生します。

そして、メスだけでも、
自分の遺伝子を単純コピーすることで
子孫を残すことは可能なのです。
(無性生殖)

実際そうしている生物種がいますね。


ただ、同じ遺伝子を持つ子供たちだと、
強力な病原体などが登場すると、
一網打尽でやられ、全滅してしまうかもしれません。


そこで、メスの「できそこない」とも言える

「オス」

を生み出し、自分の遺伝子を他の「娘」のもとに運ばせる。

そして、

「自分」と「その娘」の遺伝子

を交尾によって混ぜ合わせた子孫を残すことで、
多様性を高め、病原菌や他の脅威を乗り切ることができる

「有性生殖」

というメカニズムを発生させたというわけですね。


オスは、他の娘に遺伝子を無事運び終えれば、
とりあえず役割は果たしたことになります。

交尾が終われば早々と死んだり、
メスに食べられてしまう生物がいるのは
この本来のオスの存在意義を表しているといえます。


ところが、多くのオスは、
運び屋としての役割を終えても長生きします。

福岡氏によれば、
これはメスが欲張ったためだとのこと。

オスには、生殖以外にも、
自分を守らせたり、エサをとってこさせたりと、
いろいろと使い道がある。

そこで、オスも長生きさせてもらえるように
なっていったということらしいです。


さて、冒頭に述べたように、
そもそも、生物においては「メス」が主役であり、
オスは単なる運び屋ですから、どのオスに
自分の遺伝子を託すかはメスが選びます。

メスとしては、
生命力にあふれた美しいオスを選びたい。

クジャクなどの鳥類を想像してもらえれば
おわかりになると思いますが、多くの生物では

オスの方が美しい

のはそのためです。

選ばれるためには、
美しくなければならないから。


ところが、人間の場合、女性のほうが美しく、
また美を追求する志向が強いですね。


これは、女性を上回る体力を持つオスが、
「力」によって地位や財産を築き、
生活力を高めることに成功したからだと
考えられています。

力では勝てず、生活力を持てなかった女性は
男性にしたがうしかありませんでした。

このため、人間においては、
例外的に男性が女性を選ぶ権利を得たというわけです。

古代ギリシャでは、女性は男性のできそこないだと
考えられていたほど。日本でも「男尊女卑」の発想は、
根強いものがありますね。

つまり、人間の場合、
生物の本来のあり方とは逆転現象を起こしたわけです。


しかし、近年、先進国では、強さを求めず、
むしろ自らを磨き、美しくなることを志向する男性が
増加中です。

これは進化論的に言えば、男性が再び、

「選ばれる性」

になりつつあることを示唆しているのかもしれません。


この背景には、本来生命力の強い女性が、
社会進出によって十分な経済力を得るように
なってきた点があります。

自活能力を高めることで、
再び「選ぶ性」になった人間の女性にとって、
男性に求めるのは、生活力につながる強さよりも、

美しさや優しさ

なのです。


基本的に中身重視であり、
外見に無頓着な私たち、男性にとっては、
なかなかつらい時代がやってきましたね・・・(笑)


(参考書籍)

『できそこないの男たち』
(福岡伸一著、光文社新書)

『通勤電車の人間行動学
 男がきれいになる時代 女がかわいくなる時代』
(小林朋道著、創流出版)

投稿者 松尾 順 : 17:44 | コメント (2) | トラックバック

第五水準のリーダーシップ:品川女子学院 漆紫穂子校長

「第五水準のリーダーシップ」

という言葉はご存知でしょうか?


そこそこ良い(Good)企業を

「偉大(Great)な企業」

へと飛躍させ、しかも高い業績を長期にわたって
維持することに成功した「指導者」に共通する

「リーダーシップのスタイル(特質)」

のことです。


「第五水準のリーダーシップ」は、

『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』
(ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP社)

において初めて明らかにされました。


「第五水準のリーダーシップ」を発揮するリーダーとは
どんな人なのか、端的には次のように形容できます。

・謙虚だが、強靭な意志を有している


つまり、個人としては謙虚で控えめ、
しばしば恥ずかしがり屋。

ところが、職業人としては、
不屈の精神を持ち、大胆な決断ができるという、
矛盾した2面性を持っているのです。


このリーダーシップスタイルは、
成長企業のリーダーの典型的なイメージである

ワンマンでカリスマ的なリーダー像

とは大きく異なるものですね。


『ビジョナリーカンパニー2』では、
第五水準のリーダーシップの2面性について
以下のような説明があります。

------------------------------------------

*職業人としての意思の強さ

・素晴らしい実績を生み出し、偉大な企業への飛躍をもたらす
・どれほど困難であっても、長期にわたって最高の実績を
 生み出すために必要なことはすべて行う固い意思を示す
・偉大さが永続する企業を築くために基準を設定し、
 基準を満たせなければ決して満足しない
・結果が悪かったとき、窓の外ではなく鏡をみて、
 責任は自分にあると考える。他人や外部要因や運の悪さのためだ
 とは考えない

*個人としての謙虚さ

・おどろくほど謙虚で、世間の追従を避けようとし、決して自慢しない
・野心は自分個人ではなく、企業に向ける。次の世代に一層の成功を
 収められるように後継者を選ぶ
・鏡ではなく窓をみて、他の人たち、外部要因、幸運が会社の成功を
 もたらした要因だと考える
・静かな決意を秘めて行動する。魅力的なカリスマ性によってではなく、
 主に高い基準によって組織を活気づかせる

-------------------------------------------

さて、こうした第五水準のリーダーシップを発揮している人は、
日本の企業(組織)だと誰が該当するだろうと考えた時、
真っ先に私が思い浮かぶのは、

品川女子学院校長、漆紫穂子(うるし・しほこ)氏

です。


漆氏とは、半年ほど前にこじんまりとした会で初めてお会いし、
ちょっとだけお話したことがあります。

その時の印象は、まさに謙虚で控え目な美人校長。
気負ったところがなく、威圧感を与えないソフトな語り口。


廃校寸前から人気校へと生まれ変わった

品川女子学院

については、キャリア教育に関わってきたこともあって
5-6年前から知っていました。

しかし、同校の大胆な改革を主導したのが、
目の前にいらっしゃる優しい笑顔をたたえた漆さんだとは
とても信じられませんでした。


品川女子学院の改革の様子は、
先日のカンブリア宮殿(テレビ東京)でも放送されましたね。

同番組にゲストとして登場された漆氏の話を聴かれた方なら、
彼女は、まず間違いなく、

「第五水準のリーダーシップ」

を持つリーダーであることに納得されると思います。


実際、漆氏が今年(08年)10月から、
日経ビジネスオンラインで連載されている記事、

「やる気を高め、人を育てる丸秘メソッド」

をお読みになれば、まさに「不屈の精神」で、
品川女子学院を素晴らしい学校に変えるための努力
を続けてこられたことがわかります。

一方、漆氏のブログ、「校長日記」では、
その飾らないお人柄をうかがうこともできますよ。


「第五水準のリーダーシップ」

に興味のある方は、『ビジョナリーカンパニー2』
と共に、漆紫穂子氏校長率いる品川女子学院を
ケーススタディとして、ぜひ学んでみてください!


『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』
(ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP社)

*品川女子学院
http://shinagawajoshigakuin.jp/home.html

*やる気を高め、人を育てる丸秘メソッド
(NBオンライン)

*漆紫穂子氏 校長日記

*漆氏著作(新刊)

『女の子が幸せになる子育て 未来を生き抜く力を与えたい』
(漆紫穂子著、かんき出版)

投稿者 松尾 順 : 15:58 | コメント (0) | トラックバック

経営コンサルタントの企業診断力

前回、前々回で、

医師が、患者に対する問題を「診断」する方法

についての本をご紹介しました。


お医者さんは生身の人、
あるいは動物たちを診断しますが、
企業経営の診断を行うのが、

「経営コンサルタント」

ですね。


企業経営に関する問題は、しばしば

「○○病」

とたとえられます。

企業が罹患する様々な病気の中でも、
一番知られている深刻な病気は、

「大企業病」

でしょうか。


ですから、各種調査や財務データの分析、
また経営者や社員のヒアリングなどを元にして、
企業経営上の問題点(病名)を特定し、
その処方箋(解決策)を書くことは、文字通り

「企業診断」

と呼ばれることがあります。


私は20代の頃、

「中小企業診断士」
(いわゆる「経営コンサルタント」の国家資格)

の勉強をしていたのですが、
経営コンサルタントとしての企業を診断する能力
の向上には、医者と同様の段階があることを
思い出しました。


ご存知の方もいらっしゃると思いますが、
中小企業診断士の資格を取得するためには、
まず企業経営全般についての網羅的・体系的な
知識を頭に入れなければなりません。

具体的には、

・経済学
・経営戦略論
・マーケティング論
・組織論
・人的資源管理
・運営管理(生産、店舗など)
・財務・会計
・経営情報システム

などです。


実は、こうした知識がまだ十分に身についていないし、
もちろん実践経験もない初期の段階では、
どんなに診断対象の企業についてたくさんの情報を
集めても、当該企業の問題がどこにあるのか、
さっぱり判断できないのです。

要するに、圧倒的な知識不足、実践不足のため、

「病名候補」

をそもそも挙げることができないのですね。


ところが、ある程度知識が身に付き、
多少とも実践経験(演習レベルですが)を積んで、
自信が生まれてくると、診断対象の企業の問題点を
発見することの面白さに目覚め、

研究開発上の問題はこれ、組織体制にも問題あり、
報酬制度にもこんな問題、マーケティングには
こんな問題・・・

などと、

「病名候補」

を何十も並べるような時期がやってきます。


まあ、実際のところ、
企業経営上の問題は、生体以上に相互に複雑に関係しあっており、
病巣があちこちに転移している場合が多いのは確かです。

しかし、そうした問題点を解決して企業を立て直すこと、
医者でいえば、病気を治療して健康体に戻すことが最終的な目的
であることを考えると、山ほどの問題点をただ羅列してもあまり
意味はありませんよね。


すべての病巣を一度に治療しようとするのは、
しばしば体制、予算、時間的に困難です。

また、企業の場合、
ある問題点が解決されたことをきっかけに、
その他の問題も一挙に解決に向かうこともある。


ですから、優れた企業診断を行うことができる
経験豊かな経営コンサルタントは、数ある問題点の中から、
重点的に治療(改善・改革)すべき

「少数の問題点」

をずばりと指摘することのできる人です。

そして、実際の治療(改善・改革)に当たっては、
その少数の問題点に経営資源を集中投下します。


いわゆる

「企業再建の神様」

と呼ばれるカリスマ経営者たちもまた、
例外なく、一流の経営コンサルタントに匹敵する
優れた企業診断力を有しています。

だから、短期間で瀕死の企業を立て直すことが
できるわけですね。


若手の経営コンサルタントの方で、
問題点をたくさん発見することに躍起になっている
自分に気付いたら要注意ですよ。

投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (2) | トラックバック

リリー・フランキーの悩み相談室

今日は、腰が抜けるほど楽しませてもらった

『劇的3時間SHOW』

リリー・フランキーの日(08/10/09)

をアバウトに振り返ってみます。


なお、私の大幅な編集と創作が入っておりますので、
現場で語られた「真実」とは必ずしもイコールではありません。

あらかじめご承知おきを!

-------------------

おや、開演時間6時半を過ぎても何も始まる気配ありません。
しかし、立ち見客もあふれる満席の会場は落ち着いた風情。

と、ウグイス嬢のアナウンス。

「ご来場の皆様にお知らせいたします。
 開演時間を過ぎておりますが、
 リリー・フランキーさんは現在こちらに
 向かっておられるとのことです。
 あとしばらくお待ちください。」


とたんに、会場は暖かな笑いで包まれました。

想定通り。
やはり「遅刻」してくれないとリリーさんじゃない。


午後7時。リリーさん登場。開口一番。

「いやあ、年末が近くなると道路が混んでますね・・・」
「さっきまで寝てたんですが・・・、二日酔いで・・・」

と悪びれることなく早速講演開始。

遅刻したけど、

「今日は12時までやります」

と、いちおうやるき満々。


さて、まずは「スペシャルゲスト」として、
旧知の仲の某エロ雑誌の編集長を呼びいれたのはいいが、
いきなり

エロ&スカトロ系

の話を展開。

会場を思いきりなごませすぎた後、
来場者が当日記入した様々な質問に答えていきます。

‘リリー・フランキーの悩み相談室’

といったところ。


「えーと、マサチューセッツくんの質問、
 ボクは21歳ですがまだ童貞です。
 どうしたらいいでしょうか?」

「なるほど。マサチューセッツくん、
 どこにいるの。ちょっとステージに出ておいでよ。
 出てこないと次に進めないよ」

と無理やり、某大学学生のマサチューセッツ君を
ステージに上げて童貞談義。


「あの社会派ジャーナリストの鳥越俊太郎さんだって、
 27歳まで童貞だったんだから。だいたい、男はね、
 女に弓を引いてる時間が長ければ長いほどいい仕事を
 するんだよ」

「まだ君は女の人のあそこを拝んだことがないんだろう」

「じゃあ、まずはハンバーガーを縦にして食べてみるとかして
その時に備えなさい。これはリリー式想像力の訓練だ」

(中略)


「次の人、私は大学3年生です。
 これから就職活動をする私に、何かアドバイスをください」

「ステージにいらっしゃい。えーと君はどんな仕事がしたいの」

ステージに上がった表参道に近い大学の女子学生
(とっても可愛い子でした!)は、

「やりたいことがない」

とのこと。


「好きなことは何?」とリリーさん。

「漫画を読むのが大好きです」

「漫画家になることは考えなかったの?」

「ええ、読むのは好きですが描くほうは・・・」

「君はなかなか面白い漫画を描きそうだから、
 漫画家になりなさい」

「えーと、予想外のアドバイスありがとうございます!」

「いや、アドバイスじゃなくて
 もう決まったことなんだよ。君は漫画家になる」


かなり、強引なキャリアカウンセリングですね。

(中略)


「70歳過ぎの男の人が好きなんです。
 昨年奥様がお亡くなりになったんですけど。
 たぶん、リリーさんもご存知かも・・・」

と23歳の独身女性。

「え、そうすると、俺の友達のお父さんが好きなの?」

「ええ、でもそばにいると、
 何を話したらいいかわからなくて・・・」

「何も話さなくてもいいんじゃないかなあ。
 添い寝してあげるとか・・・」

「食事をしたらお昼寝されてしまうんですよね」

「昼寝してて若い女性にほれられるなんていいよなあ、
 長生きはするもんだ!」

「君の方から、好きですと告白しなさい」

「そのほうがいいんでしょうか」

「もちろん、そのおじいさんは大喜びするよ」


とまあ、休憩時間も取らずノンストップで、
親身な悩み相談へのアドバイスが延々と続いて、
ふと時間を見ると10時。


リリーさん、時計を見ながら、

「まだあと2時間はありますね・・・」

と言うと、慌てて脇から顔を出した運営側のおじさん、

「すいません、そろそろお時間が・・・」

の言葉を軽く受け流してさらに話は続く。


10時半、運営側のおじさんの2度目の警告で
ようやく終わる気になったリリーさんは、
新曲の弾き語りで講演を締めくくりました。

リリーさんの歌、とても良かったです。
歌うまいんですね。


「じゃあ、会場の都合があるみたいだから、
 これで終わりますけど、これからみんなで

 ‘笑笑’(わらわら)

に移動しますか!」


私は帰りましたが、
実際、リリーさんと一緒に居酒屋に行った人が
いたかもしれません・・・

30分遅刻したけど、
休憩抜き、主催者側の意向を無視した
1時間の勝手延長で実質、

「3時間半SHOW」

となったリリーさんの講演でした。


*劇的3時間SHOW

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (0) | トラックバック

ちょっとアホ!理論

私の師匠(さまざまな面で・・・)であり、
多数の著作で知られる阪本啓一さんは2006年に

(株)JOYWOW

を設立されています。ユニークな社名ですよね。


「JOYWOW」のビジョンは、

「世界にJOY(楽しさ)とWOW(感動)を広めたい!」

だそうです。

こうしたビジョンを打ち出す背景には、

システムや株価ではなく、人間を中心に据え、
人間のこころと魂の幸せを経営目的としなければ、

「こころの病気と戦争と破壊と不幸の連鎖」

は止まりません。
(同社Webサイトより)

という認識があります。


阪本さんの思想を私なりに解釈するなら、

・儲かるか/儲からないか
・正しいか/正しくないか

という視点も重要ではあるものの、何よりも

・楽しいか/楽しくないか

を経営の判断基準の核にすべきである
ということだと思っています。

私自身、以前から

・その仕事は楽しくやれるか?
 (あるいは、どうしたら楽しくやれるか?)

ということを大切にしてきましたので、
阪本さんの考え方には全面的に共感しています。


さて、「楽しさ」を経営判断の核に置く人たちは、
最近増えているのではないかと思います。

おそらく、人間性を失わせてしまう、
効率性ばかりを追求しすぎる企業経営に対する反動
ではないかと思います。


京都に本社を置く古着屋チェーン、

「ヒューマンフォーラム」

の出路(でみち)雅明氏もまた、最新の経営手法を導入して
経営が安定するどころか、経営が行き詰まった末に、

「どっちみちやるんだったら楽しくやろう!」

と開き直ります。

同時に、

一緒に働くすばらしい仲間が何より大切

ということにも気づき、

「仲間を喜ばせ、ともに楽しみたい!」

という最高の学びを得るのです。


そして、ともに働く仲間たちに対して、
出路氏は、

「新しい希望の光」

を示します。

それは、仕事においての全ての判断基準を

「楽しいか/楽しくないか」

に置くことにするということです。


出路氏は、常識に囚われず、

「楽しい!」「仲間を大切にして生きる」

を実践することを

「ちょっとアホ!」

と呼んでいます。


出路氏自身は、
自分が興した会社が倒産寸前になって、
開き直った瞬間に、

「スーパーサイヤ・アホ!」

へと変身したのだそうです。


現在、ヒューマンフォーラムの経営は、

「ちょっとアホ!」

の精神に則って運営されており、
外部の人間から見ればまさに、

「あいつら、ちょっとアホとちゃう?」

と言われてしまうような制度や仕組みが満載です。


ただ、はっきりしているのは、
お客さんも、社員も、また社長の出路氏も皆、
楽しい毎日を送っており、会社も儲かっていると
いう点です。

同社の経営のひみつ(=ちょっとアホ!理論)を
知りたかったら、以下の出路氏の本を読んで
みてください。

『ちょっとアホ!理論 倒産寸前だったのに超V字回復できちゃった』
(出路雅明著、現代書林)


この本の中から、お客さんを巻き込む

「ちょっとアホ!イベント」

を2つご紹介しておきましょう。


・アフロの日

 毎月1回、週末の土曜日開催。

 アフロヘアーで来店すると全品30%オフ
 入り口付近においてあるアフロのカツラを買って、
 それをかぶって買い物をすれば全品20%オフ
 もちろん、スタッフ全員アフロヘアでお出迎え。

・体育祭

 ジャージを上下で着用してくれたお客さんは全品20%オフ
 ジャージ上だけ着用は全品10%オフ
 そしてなんと、「ブルマ」を着用してきてくれたお客さんは、
 出血大サービス全品50%オフ


なお、本自体も「ちょっとアホ!」ですよ。
常識に囚われない本づくりが行われています。


*JOYWOW
http://www.joywow.jp/

*阪本さんの最新著作

『気づいた人はうまくいく!』
(阪本啓一著、日本経済新聞出版社)

投稿者 松尾 順 : 14:58 | コメント (2) | トラックバック

「経営コンサルタント」と「経営者」の違い

昨日の記事でご紹介した本、

『ソニーをダメにした「普通」という病』
(横田宏信著、ゴマブックス)

の中で面白い記述がありました。


「経営コンサルタント」と「経営者」

の違いについての説明です。

同書の中で横田氏は、
「優れたコンサルタント」とは、

“企業経営にまつわる様々な事象を、
 それらの本質に即して論理的に分類整理する能力、
 すなわち「構造化能力」を磨きに磨き上げた者のこと”

と定義しています。

そして、

“自らの中に揺るぎない論理の構造物を持ち、
 ありものの経営手法に軽々に依存することもない。
 ありものの経営手法に軽々に依存する者は、
 優れた経営コンサルタントと言えるものではない”

と続けています。

これは、次々と登場する新しい経営手法
(アルファベット3文字の略語が多いですね)を
どんな企業にも画一的に適用しようとする
経営コンサルタントに警鐘を鳴らすものでしょう。


横田氏によれば、この高い「構造化能力」は、
優れた「経営者」の多くに通用するものだそうです。

「構造化能力」は、要するに

「物事の本質を見通す力」

と言えますよね。

物事の本質が見えているからこそ、
的確な決断を下すことができ、企業を成長に導ける
わけですから、経営者にとっても「構造化能力」が
なくてはならない資質なのです。


ただ、優れた経営者は、

“自らの中にある巨大な構造物を、
 ほんの一言のメッセージに凝縮する、という高い
 「抽象化能力」を併せ持つ”

と横田氏は指摘します。

これは、「要は何か」を短く語り切る能力です。

この「抽象化能力」において、
優れたコンサルタントは優れた経営者に
とても対抗できません。

なぜなら、完璧に論理立った「説明」よりも、
時に一言だけの「メッセージ」のほうが、
人には深く響くものだからです。

横田氏は、

“優れた経営者は「説明」でなく、
 「メッセージ」で勝負する”

と言い切っています。


なるほど!全くその通りだと思います。

ただ、一言補足させてもらえるなら、
経営者の発するメッセージには深い意味が含まれている
とはいえ、単なる「抽象語」ではなかなか伝わりません。

それは、巧みな比ゆによって、
聞き手の心(腹?)にストンと落ちるようなものでなければ
ならないと思います。

例えば、ソニーの平面ブラウン管テレビ「ベガ」の開発を
指揮した中村末広氏(ディスプレイカンパニープレジデント、
常務取締役、当時)は、優れた「比ゆ表現」で部下を
鼓舞していたそうです。(『ソニーの遺伝子』より)

“お前らは働いているつもりなんだろうが、
 やたら‘動’いているだけで、‘イ’(にんべん)
 のない動きなんだ”

プレゼンで毎回、同じシートを使って同じ説明を
繰り返す部下に対しては、

“オイ、お前はカラオケをやっているのか?”

など、多くの中村語録を残しています。


<参考文献>
『ソニーをダメにした「普通」という病』
(横田宏信著、ゴマブックス)

『ソニーの遺伝子』
(勝見明著、日本経済新聞社)

投稿者 松尾 順 : 12:16 | コメント (4) | トラックバック

ソニーの遺伝子はまだ残っているのか?

今年2008年は、
ソニー創業者である

井深大氏

の生誕100年だそうですね。


先日、井深氏の直接の薫陶を受けた元ソニー上席常務、
天外伺朗氏のご講演を聴く機会がありました。

天外氏のお話は、
さすがソニーが誇る奇人変人のお1人だけに
ぶっ飛んだ内容でした。(内容のご紹介はまたの機会に)


面白かったのは、講演後の質疑応答の時間です。

聴衆の1人が、

「わが社は大変な状況になっているのですが、
 いったいどうしたらいいでしょうか?」

と質問したのに対し、天外氏が、

「あなたの勤めている会社はどちらですか?」

と質したところ、
最初は社名を出すのは差支えがあるといいつつも、

「実はソニーです・・・」

と答えたので、
会場が大いに沸いたというわけです。


ただ、現ソニー社員の質問に対する
天外氏の回答は率直でした。

「もはや図体がでかくなってしまったソニーは
 一朝一夕では変わらない。良くなるまでには
 まだ時間がかかりますよ」

といったみもふたもないもの。


天外氏は、2000年代前半に起きた

「ソニーショック」

を役員として経験されているだけに、
実感のこもったお答えではありました。


ソニーの直近(2008年3月期)の業績は、
純利益で過去最高を更新しており、
私たちが世界に誇れるスーパーブランド

「ソニー」

が復活しつつあるのは確かでしょう。
しかし、現場の状況はまだまだ厳しいようです。


さて、ソニーの近年の凋落の要因は、
天外氏も指摘しているように、
組織が大きくなったための

「大企業病」

に罹ってしまったためです。

ベンチャー精神あふれる革新的な企業であった
ソニーでさえ、組織が肥大化するにつれて陥ってしまう
様々な罠から逃れることができなかったのです。

元ソニーの横田宏信氏は最近出た著書の

『ソニーをダメにした「普通」という病』

で、ソニーは

「普通」という病(普通病)

に蝕まれてしまったことを具体的な

「症例」

を挙げながら解説しています。

なお、「普通病」とは、
端的には、大企業の多くが陥りがちな

「悪しき企業文化」

と解釈すればいいようです。


例えば、

・「会社のため」とを振りかざした内輪の論理が
 まかり通るようになったこと

・「そんなの聞いてない」とダダをこねる社員が
 増えたこと

・自分たちの技術で何ができるかという「機能価値」を
 優先しがちで、ユーザーがどう楽しめるかといった
 「使用価値」を軽視していること

・以前は、部門間の壁が低いカオス的な組織であったのに、
 今や縦割りのサイロ型になってしまったこと

・ソニー流よりも米国流を信奉する、いわゆる
 「米国かぶれ」の傾向が強まったこと

・優等生が増えて、奇人変人の居場所が
 なくなってしまったこと

など、大企業でよく聴く現象が、
ソニーにも起きているのだそうです。


ただ同時に、横田氏は

「ソニーの遺伝子」、

言い替えると

「ソニースピリット」

がまだ個人や組織の中に残っていることも指摘し、
ソニー復活の可能性を捨ててはいません。


ところで、「ソニーの遺伝子」って
どんな特質を持っているんでしょうね。

そのまんまの書名がつけられた

『ソニーの遺伝子』

という本を読む限りでは特に、

・部門の壁を越えチームが一体となって
 ゴールに突き進む「燃える集団」となれること

・奇人変人を許容する懐の広さがあったこと

の2点があるんじゃないかと思います。


ただ、こうしたカオス的状態の組織を
マネジメントするのは容易ではありません。

そこを実にうまくやっていたのが、

井深大氏

だったのです。

しかし、井深氏のマネジメントスタイルを
後の歴代社長は継承することができなかったと
天外氏は考えています。


なぜ継承できなかったのでしょうか?

天外氏によれば、

井深氏はどのようなマネジメントを行っているのか

について誰もわかっていなかった(理解できなかった)
からです。


ソニーに40年以上勤め、
井深氏を身近で最もよく知る天外氏でさえ、
彼のマネジメントスタイルの本質がわかってきたのは、
ほんの数年前のことだったそうです。


横田氏の本の中に、
横田氏自身が経験した井深氏のマネジメントスタイルが
うかがえるエピソードが書かれています。

横田氏が英国赴任前のある日、
デスクのかたわらに人影を感じて顔を上げると、
井深氏がいました。

井深氏はよく社内を一人でぶらぶらしていることを
横田氏も知っていましたが、まさか自分のところに
立ち寄るとは思ってもいなかったようです。


井深氏が横田氏に掛けた言葉はただ一つだけでした。

「仕事、楽しいですか?」

<参考文献>
『ソニーをダメにした「普通」という病』
(横田宏信著、ゴマブックス)

『ソニーの遺伝子』
(勝見明著、日本経済新聞社)

投稿者 松尾 順 : 21:31 | コメント (1) | トラックバック

営業はリサーチが9割!売上倍増の“情報収集”完全マニュアル

5月30日、私の初めての本が出ます!

20代の若手ビジネスパーソン(主に営業関連の方)を
主要読者層に置いた

「情報収集マニュアル」

です。

営業だけでなく、企画・マーケティング関連の方にも
参考になる内容だと自負してます。

既にアマゾンで予約注文できますので、
興味のある方はぜひご購入お願いします!


『営業はリサーチが9割!売上倍増の“情報収集”完全マニュアル』
(松尾順著、日本能率協会マネジメント 出版情報事業)


eigyoresearch.gif

投稿者 松尾 順 : 10:29 | コメント (6) | トラックバック

ピジンとクリオール

いつの時代も、奇妙な言葉や文字を次々と生み出して、
大人を困惑させるのは子供たちですよね。

「言語」もまた、他の様々なものごと同様、
過去から受け継いでいく部分と、現在の環境に応じて
変えていくべき部分があると思いますし、それはいわば

「言語の進化」

とでも呼べるものでしょう。

そうした進化を主導するのが、
次世代の子供たちであるのは当然かもしれません。


興味深いのは、子供たちは生まれつき

「体系的な言語」

を生み出す力を備えているという点です。


昔、ハワイや東南アジア諸国、アフリカ諸国などの
熱帯、亜熱帯地域において、砂糖きびやコーヒーなどを
広大な農地で栽培した

「プランテーション」

と呼ばれた大規模農園には、
世界各地から労働者が集められました。

彼らは、当然ながらそれぞれ自分の国の言葉しか
話せなかったため、仲間とコミュニケーションができません。

そこで、

「ピジン」

と呼ばれる独特の言語が生み出されます。

ピジンは、さまざまな国の言葉がごちゃ混ぜになったもので、
ほぼ単語を並べるだけに近い、簡潔化された言語です。

あまり英語ができない人が、
外国人相手に片言の英単語を並べて
なんとか意思疎通を図ろうとする場面が、
ピジンが生まれる状況に近いんじゃないかと思います。


したがって、ピジンは「文法」が確立していない、
とても不安定な言語なのです。


さて、こうした労働者たちから生まれた子供は、
親たちが話すピジンを聞いて育ちます。

つまり、「母語」として習得していくわけです。

ところが、驚くべきことに、
その過程でしっかりとした語彙の体系や文法体系を備えた
安定度の高い言語へと変化するのです。
(これを「言語の進化」と呼んでいいのかはわかりませんが)


こうして次世代の子供たちが作り上げた言語を

「クリオール」(「クレオール」と表記されることもあります)

と呼びます。

親世代が生み出した不安定な言語「ピジン」が、
次世代の子供たちによって、他の自然言語(英語、仏語など)に
ひけを取らない安定的な言語「クリオール」へと完成を遂げる。

これは世界各地の旧プランテーション地域で
等しく起こったことなのだそうです。

人間の生得的な言語能力の高さを感じさせますよね。


ちょっと強引な論理展開かもしれませんが、
若い人たちが生み出す奇妙で理解不能な新語は、
なんらかの時代の要請や必然性があると考えて、
あまり神経質にならないほうがいいんじゃないかと思います。


*以上は、NHKラジオ「徹底トレーニング英会話」テキスト
 の連載記事「心のサイエンス~ことばを知ろう」
(執筆:大津由紀雄慶應義塾大学言語文化研究所教授)を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:16 | コメント (0) | トラックバック

80歳のおばあちゃんの仮説思考を支える情報システム

料理の脇に添えられた、
色鮮やかな「もみじ」の葉っぱなど、

「つまもの」

と呼ばれる商品で「村おこし」に成功した

徳島県・上勝町

の全国シェアはどの程度かご存知ですか?


なんと8-9割。ほぼ独占状態なのだそうです。

この圧倒的な市場シェアは、
当該市場の先行者であることも大きいですが、
高い品質や市場ニーズへの対応力、安定した供給力など

「事業運営能力」

によるところが大きいでしょう。


そしてこの事業運営能力を支えているのが、
コンビニの情報システムをモデルにして開発された

「情報システム」

なのです。


「つまもの」も一種の生鮮品です。新鮮さが重要。

したがって、市場の需要動向を見ながら
タイミングよく市場に供給していく必要があります。


ちなみに、上勝町から出荷される「つまもの」は、
ナンテン、モミジ、カキなどの葉っぱ、
サクラ、ウメ、ボケなどの花、ヒイラギ、ユズリハ
といった祭事ものなど、320種に及ぶそうです。

限られた売り場で多品目を販売し、
最小の在庫しか持てないコンビニの運営と
この点で類似していますね。


さて、上勝町の「つまもの」事業の運営会社

「いろどり株式会社」

と生産者宅に設置されたパソコンは
ネットワークで結ばれています。

そして、会社側からは毎日、

品目別の市況や需要動向

が発信されています。

生産者は、この情報を元に、
どの品目をどれだけ出荷すれば、
大きな収益が得られるかを考えます。


また、POSシステムを導入しており、
出荷した商品には生産者別のバーコードがついているため、
自分の商品が市場でいくらで売れたかも翌日には可能。

したがって、出荷数量など自分の判断の正否がすぐに
確認できて次回の出荷にも活かせます。

マネジメントサイクル(P-D-C-A)が、
しっかり回せる仕組みになっているというわけです。


しかも、このシステムでは、
個人別売り上げがランキングで示され、
自分が何位かがわかるようになっています。

実は、田舎の人ほど負けん気が強く、
プライドが高いのだそうです。

そこで、こうした競争原理を導入することで
生産者のモチベーションを適切に刺激することにも
成功しているんですね。


「いろどり」の代表取締役、横石氏は、
上記のシステムについて興味深いコメントをしています。

“情報システムは基本的には「商売のための仕組み」です。
 それが、上勝では生産者が「自分で考えるための仕組み」
 になった。どうすれば出荷がうまくできるのか。
 80歳を過ぎたおばあちゃんがものすごく頭を使い、
 思考力を高めていくのには本当に驚かされました。”


適切な出荷量を決めるためには、
PCに写し出された目先の市況や需要量を
見ているだけではだめなのです。

需要に影響を与える様々な外部要因、具体的には、

・週末の天気
(天気がよければ外食する人が増え、つまもの需要も増える)

・季節性
 結婚式のシーズンなら縁起物の品目の需要が高まる)

などを考慮しなければなりません。

まさに、セブンイレブンの鈴木会長が言う

「仮説思考」

を生産者は駆使しているんですね。


失礼ながら、
こうした一線のビジネスパーソン
顔負けの仮説思考を

70-80歳超のお年寄りたち

がやっているんですよ。
(上勝町の平均年齢は70歳超です)


みんな頭をフル回転させて、かつ、
つまものを収穫するために体を使っているせいか、
元気いっぱいのようですね。

徳島県内の全市町村のうち、
高齢化比率は上勝町が1位なのに
医療費は県内最低額。

老人ホームも閉鎖されたそうです。


私たちも負けてはいられませんね。


以上は、

『Works』(Apr.-May 2008)リクルートワークス研究所

「野中郁次郎の成功の本質」

を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 17:27 | コメント (1) | トラックバック

イノベーション成功・不成功の分かれ道

次世代DVDの規格争いは、
ブルーレイ・ディスクの圧勝で
幕を閉じようとしていますね。

次世代DVDは、
現行のDVDよりも記録容量が大きいのが特徴。

これを可能にしているキーデバイスが、

「青紫色半導体レーザー」

です。


現行DVDは、赤色半導体レーザーがキーデバイス。

赤色より青紫色の方が光の波長が短いのですが、
波長が短かいほど、DVDの記録容量を増やせるのだそうです。

ですから、

「青紫色半導体レーザー」

という部品があったからこそ開発可能となったのが、
次世代DVDというわけです。


さて、青色を出す発光デバイスが開発されたのは、
15年ほど前に過ぎません。

それまで、青色発光デバイスの開発は
電機業界の長年の課題となっていたのです。

ところが、NTT、東芝、NEC、ソニーなど
名だたる大企業が勢力的にその開発に取り組んできた
にもかかわらず、最初に開発に成功したのは、
「日亜化学工業」という徳島にある中小企業の開発者、
中村修二氏でした。


なぜ、膨大な資金を投じることのできた大企業ではなく、
限られた資金しか持たない地方の中小企業の開発者が、
青色発光デバイスの開発に成功したのでしょうか?

それは、開発者の「暗黙知」を経営者が理解・共感し、
リスクの大きい開発を後押しできたかどうかの違いでした。

ここで「暗黙知」というのは、
まだ検証できていないし、理論的な説明はできない。
しかし、この材料や技術を採用した方がきっと成功する
に違いないという「直観」(直感)のことです。


日亜化学工業の中村氏が、
青色発光デバイスの開発に当たって採用した材料は、

「窒化ガリウム」

というものでした。

一方、大手企業が採用していた材料は、

「セレン化亜鉛」

でした。


当時の科学的知見(=パラダイム)では、
色発光デバイスの開発には、

「セレン化亜鉛」

の採用がベターな選択であることが
理論的に説明可能でした。

逆に、「窒化ガリウム」を用いることは、
理論上は極めて困難だと考えられていたのです。

だからこそ、大手企業はこぞって
「セレン化亜鉛」を選んだわけです。


しかし、中村氏は大手と同じ材料を選んでも
勝ち目はないと考え、あえて難しい材料に
挑みました。

そして、日亜科学工業の経営者もまた、
中村氏のこの決断を支持し、同社としては多額の
開発費を投じる経営判断を行いました。


実は、中村氏も含め開発者の多くは、

「窒化ガリウム」の方が筋がいい

と「暗黙知」ではわかっていた(感じていた)
のだそうです。

それは、「窒化ガリウム」は、うまくいけば
良く光るということ、またもろい材料である
「セレン化亜鉛」よりも、固い「窒化ガリウム」
の方が実用に耐える可能性が高いということでした。


しかし、残念ながら大手企業のトップで、
この開発者の暗黙知を理解・共感できるところは
ありませんでした。

NTTでは、セレン化亜鉛、窒化ガリウムの両方を
使った研究が進められていたそうです。

しかし、研究開発予算の見直しに当たって、
理論的には開発可能性が高い「セレン化亜鉛」を
採用するのが妥当という判断になり、
「窒化ガリウム」による開発は中断されました。


従来のパラダイムを破壊するようなイノベーションの場合、
これまで存在していなかった

「新たな知」

がベースになっています。

ところが、新しい知の理論化・体系化には時間がかかるため、
最初はうまく説明できないことが多いものです。
あくまで、研究者、開発者の暗黙知に止まっています。

この段階で開発にGOが出せるか出せないかは
開発者の暗黙知を経営者が理解、
あるいは理解できないまでも共感できるかどうかに
かかっています。

業界構造を変えるような大きなイノベーションの
成功・不成功の分かれ道がここにあるのですね。


*参考文献

『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (2) | トラックバック

技術イノベーションの4類型

イノベーションには、大きく分けると、
次の3つの軸があることを前回ご紹介しました。

・技術イノベーション
・経営イノベーション
・アイステシス・イノベーション


このうち、技術イノベーションにおける
4類型についてご紹介します。


技術イノベーションは、
次の2つの軸の組み合わせの枠組み
で考えると構造が把握しやすくなります。

・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型


では、まず

[性能持続型-性能破壊型]

の軸から説明します。


性能持続型は、
性能をより高めていく取り組みです。
これは、技術イノベーションの自然な方向性ですね。

一方、性能破壊型は、
逆に意図的に性能を引き下げることによって、
別のベネフィットを高めるアプローチです。


たとえば、ハードディスクドライブ(HDD)は、

「14インチ」

の大きさからその製品の歴史が始まっています。


しばらくして、より小型の

「8インチ・ドライブ」

が開発されましたが、小さい分記憶容量が少ない。

つまり、14インチよりも性能は低下しているわけです。

このため、当時14インチHDDを製造していたメーカーは
バカにしてどこも手を出さなかったのです。

ただし、8インチHDDは、
「小さい」というベネフィットを高めることが
できていますよね。(もちろん、8インチという規格の中で、
記憶容量を高める技術革新は続けられましたが)

その後も、

5.25インチ、3.5インチ

とさらに小型のHDDが開発され、
それぞれ、デスクトップ、ノートパソコンなど、
容量よりもサイズが小さいことが重要なコンピュータ向けに
普及が進んできました。


『イノベーションのジレンマ』で、
クレイトン・クリステンセン氏が検証しているように、
大きなサイズのハードディスクでトップシェアを取っていた
企業が、こうしたハードディスクの小型化の流れ、すなわち、

「性能破壊型イノベーション」

についていけずに、ほとんどが姿を消していきました。


一方、もうひとつの軸である

[パラダイム持続型-パラダイム破壊型]

ですが、これは、

その技術のよりどころとなる「科学原理」が同じか、異なるか

ということで分かれます。


例えば、「真空管」の性能を圧倒的に凌駕した

「トランジスタ」

の開発は、

「パラダイム破壊型イノベーション」

と呼べるものです。


なぜなら、真空管の動作の元になっている科学原理は

「古典電磁気学」

であるのに対し、トランジスタのそれは、

「量子力学」

だからです。


ですから逆に言えば、
古典電磁気学ベースでの

「真空管」

という規格上の技術革新は、

「パラダイム持続型イノベーション」

であるということがおわかりですよね。


さて、この技術イノベーションの2つの軸、

・性能持続型-性能破壊型
・パラダイム持続型-パラダイム破壊型

の組み合わせによって次の4つのセルができます。

1.パラダイム破壊型-性能破壊型
2.パラダイム持続型-性能破壊型
3.パラダイム持続型-性能持続型
4.パラダイム破壊型-性能持続型


このうち、

1.パラダイム破壊型-性能破壊型

のセルに該当する製品は実質的に存在しません。

なぜなら、パラダイム破壊型は、
通常大幅な性能向上を伴うべきものであり、
パラダイムを破壊しつつ、同時に性能を
引き下げるようなイノベーションを行うことは
矛盾するからです。


そして、この4類型でいくと、

「トランジスタ」

は、パラダイム破壊型、かつ真空管よりも
大幅な性能向上を果たしているという点から、

4.パラダイム破壊型-性能持続型

に分類できます。


また、ハードディスクドライブの小型化の歴史は、
同じパラダイム上にあって、
性能を引き下げていったわけですから、

2.パラダイム持続型-性能破壊型

に該当することになります。


最近のより身近な例を挙げるなら、
従来の銀塩フィルムを用いたカメラから
デジタルカメラへの移行は、
パラダイム破壊型、性能持続型の「4」になるでしょう。

銀塩フィルムの小型バージョンであった「APS」規格は、
パラダイム持続-性能持続型の「3」でしたが、
デジタルカメラが引き起こした「4」のイノベーションに
呑み込まれてしまって実質的に失敗に終わりましたね。

富士フィルムは、
一時期、デジタルカメラのパラダイム破壊を無視し、
従来のパラダイムの枠内にあった「APS」に
こだわったため苦しい思いをしたようです。


今回はとりわけ難しいテーマでしたね。
わかりにくかったらすいません。

なお、本来このメルマガ&ブログは、
主にマーケターの方を対象に書いていますので、
科学技術系のネタはちょっと場違いだと思われている
かと思います。

ただ、2軸でモノゴトを整理するような枠組みを
使いこなせる力、つまりフレームワーク思考力の
トレーニングとして読んでいただければ幸いです。

また、パラダイム破壊といった視点は、
マーケティングの世界で言えば、

生産者志向→消費者志向
販売志向→関係性志向

という変化として置き換えられるわけです。

マーケティングにおけるイノベーションを
考える上で参考になるんじゃないでしょうか?


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 14:27 | コメント (2) | トラックバック

イノベーションとは何か?

今日は、そもそも論。

「イノベーションとは何か?」

ということについて押さえておきたいと思います。


なお、今回、および前回の内容は、
文末に示した参考文献、および山口栄一氏(同志社大学
ビジネススクール教授)の「夕学五十講」での講演を
元にしています。

実は、先週も山口氏の話を基にした記事を
いくつか書いています。

山口氏のお話や本があまりに面白かったため、
こうして続けて書かせてもらっているという次第です。


さて、「イノベーション」と聞くと、
どうしても「技術」分野における発明や画期的な新製品の開発を
連想しますね。

しかし、イノベーションを研究した経済学者、
シュンペーターによれば、イノベーションは技術分野に
とどまるものではありません。


シュンペーターによる

「イノベーションの定義」

は次のとおりです。


“イノベーションとは、経済活動の中で生産手段や資源や
 そして労働力などを今までとは異なる仕方で「新結合」すること”


そして、具体的なイノベーションのタイプ(類型)として
以下の5タイプを示しています。

(1)未知の新商品や新品質の開発
   →プロダクト・イノベーション

(2)未知の生産方法の開発
   →プロセス・イノベーション

(3)新市場の開拓
   →マーケティング

(4)ものの新しい供給源の獲得
   →サプライチェーン・マネジメント

(5)新組織の実現
   →組織イノベーション


つまり、経済活動、もっとミクロ的にいえば、
「企業活動」において、従来になかった

「新しい組み合わせ」

を実現することです。


たとえば、代金1000円ポッキリ、洗髪、髭剃りなし、
所要時間10分散髪が終わる理髪店、

「QBハウス」

は、どんなイノベーションを実現したのでしょうか?


(2)の未知の生産方法(サービス提供方法)、
すなわち、「プロセスイノベーション」ですね。


余談ですが、QBハウスに初めて行った人なら誰でも驚く
(戸惑う)であろう仕組みが、切った髪を掃除機のように
吸い取るやつ(バキューム?)でしょう。

あれは、実に奇想天外なアイディアでした。


さて、上記5タイプのイノベーションは、
大きくは次の2つの軸、すなわち

・技術に関するイノベーション(1、2)
・経営に関するイノベーション(3、4、5)

に分けることができますが、
山口氏はこの2つでは足りないと考え、
もうひとつ新たな軸を追加しています。

それは、

「アイステシス・イノベーション」
(Aisthesis Innovation)

です。

「アイステシス」(Aisthesis)はギリシャ語で、
英語の「エステティック」(Esthetic)の語源と
なっている言葉。

美容の「エステ」はこのエステティックから
来ていますが、日本語ではしっくりくる訳語がありません。

美しさや使いやすさなど、製品の感性的な面での改革、
端的にいえば、

「生活の質の向上」

に資するイノベーションが、

「アイステシス・イノベーション」

です。


アイステシス・イノベーションは、
その性質上、多くが「デザイン面」での改革になりますが、
確かに、近年は、形状、色などに工夫を凝らした製品が
増えてきていますね。

これは、技術イノベーション、経営イノベーションが
以前よりも格段に困難になったということの裏返しでも
あるかも知れませんが。


なお、このイノベーションの3つの軸を考える上で
重要な点は、すべての軸において
より優れたイノベーションを目指す必要はないということです。

技術面では、従来製品よりもむしろ低機能、低性能で
ありながら、デザインにおいて美しい、あるいは
使いやすい製品として仕上げることでも、
顧客の支持を得ることができるのです。


近年台頭してきた、

アマダナ、プラスマイナスゼロ

などのデザイン家電を見ていただくと、
このことが納得いただけるかと思います。


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (2) | トラックバック

「研究」と「開発」の違い

「研究」と「開発」

この2つの違いをご存知ですか?

厳密な議論は、
文末にご紹介している参考文献をご覧いただくとして、
ここではできるだけわかりやすく説明してみます。
(わかりにくかったら私の失敗です。ごめんなさい!)


研究と開発をそれぞれ一言で言い換えると、

研究・・・「知の創造」
開発・・・「知の具体化」

となります。


「知の創造」とは、

・誰も知らないこと
・誰も見たことがないこと

を発見することです。

知の創造に取り組む「人間の営み」(行動)を

「科学」

と呼びます。

そして、上述した新たな発見のことは、

「科学的知見」

と言います。

例えば、

「熱力学の法則」(エントロピーの法則など)

は、研究によって発見された「科学的知見」
のひとつですね。


一方、「知の具体化」とは、
科学的知見を集積・統合して、
なんらかの目的に寄与する「製品」として
実現することです。

この知を具体化する「人間の営み」(行動)を

「技術」

と呼びます。


さて、研究で得られた「科学的知見」は
そのままでは人間の生活の役には立ちません。

科学的知見をベースにして、
実際の製品として具体化されることによって、
初めて人間の生活に役に立ちます。

したがって、

研究・・・「虚学」
開発・・・「実学」

と対比されることもあります。


しかし、「研究」における
イノベーションがあるからこそ、
製品の「開発」上の大きな進展が可能です。

ですから、科学のことを

「虚学」

といった揶揄したような言葉で呼ぶのは失礼ですし、
短期的な収益につながりにくいからという理由で、
「基礎研究」を軽視してしまうと、
長期的には製品開発力の弱体化をもたらします。


この「研究」(知の創造)と
「開発」(知の具体化)の関係は、

・横軸(X軸)・・・「研究」
・縦軸(Y軸)・・・「開発」

として展開するとさらに把握しやすくなります。

「横軸」(X軸)を左から右へと進むことは、
より有力な優れた知が創造されていくことを意味します。

これは、例えば

「天動説」

という知が、

「地動説」

という新たな知に置き換わることであり、

「パラダイムチェンジ」

としばしば呼ばれます。


一方、「縦軸」(Y軸)を下から上に進むことは、
既存の科学的知見に基づいて技術が進化し、
新たな製品が生み出されていくことを意味します。

例えば、以前は可能とは思っていなかった

「フェライト磁石の発見」

という知の創造に基づいて開発されたのが、

「磁気テープ」

であり、その進化形として

「フロッピーディスク」や「ハードディスク」

が製品化されてきました。

そして今、フェライト磁石とは異なる
「知」の創造に基づいて開発された

「フラッシュメモリー」

が、従来のフェライト磁石ベースの記憶媒体に
置き換わろうとしているわけです。


さて、この「知の創造」と「知の具体化」
の2つの視点で考えると、

・イノベーションには
 どのようなタイプがあるのか?

また、

・なぜイノベーションを起こせる企業と
 そうでない企業に分かれるのか?

といった面白い議論ができるのですが、
長くなりますのでまた明日。


『イノベーション 破壊と共鳴』
(山口栄一著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 08:21 | コメント (0) | トラックバック

確実にやってくる未来を見据えることができているか?

私たちは、技術上のブレークスルーなどによって、
「いつ(When)」になったら実現するかは正確に言えないけれど

「確実にやってくる未来」

の変化に意外と鈍感です。

変化の重大さに気づいた時には往々にして手遅れ!
新しい環境に適応した新興企業にやられてしまう。


自動車が初めて実用化されたころ、
当時の運送手段として主流だった「馬車」の経営者は
鼻で笑いました。

また、メインフレームで大儲けしていたIBMが、
まだ幼児期のパソコンを単なる「おもちゃ」として
バカにした話も有名ですよね。

同じようなことは現在もあちこちで起こっています。
たとえば照明器具です。


「Ban the Bulb」(白熱電球禁止)

米国、カナダ、オーストラリアを始めとして、
欧米諸国では、こんなスローガンの下、

白熱電球を蛍光灯に切り替える運動

が盛んになっています。


ちなみに、「Ban the Bulb」というのは、
一昔前に、原爆や水爆に反対する人々が唱えていた

「Ban the Bomb」(爆弾禁止)

というスローガンのもじりだそうです。


さて、白熱電球は電力消費量が大きく、
エネルギー利用効率が悪い。

このため、二酸化炭素を減少させる温暖化対策の一環として、
光熱電球を使うのは止めましょうということです。

実は日本でも、
数年以内に発熱電球の国内製造・販売が中止される可能性が
あるようですね。


一方、白熱電球の代替として推奨されている

蛍光灯

ですが、最近は

「電球型の蛍光灯」

がずいぶん普及してきましたね。

電球型蛍光灯はまだ割高ではありますが、
電力消費量は白熱電球と比べるとはるかに少なく、
かつ長寿命ですから、法規制の後押しがあれば
あっという間に浸透するかも知れません。


ただ、蛍光灯も問題を抱えています。
蛍光灯には人体に有害な水銀が含まれているため、
処分が面倒なのです。

私たちはあまり知りませんが、
うっかり割ったりすると、空気中に水銀が流出するため
かなり危険なんですよね。

それでも、これまでのところ
蛍光灯ほど優れた照明器具はなかったので
利用されてきたというわけです。


しかし、蛍光灯よりもさらに電力消費量が少なく、
かつ長寿命の

「発光ダイオード」

における技術革新が蛍光灯を

「過去のもの」

にしようとしています。


すでに、実験室では蛍光灯と同等の明るさを
実現しているそうです。

まだまだ製造単価が高いですし、安定性の問題もあり、
一般消費者が手に入る蛍光灯の代替製品としての
実用化はちょっと先になりそうです。

それでも、山口栄一氏(同志社大学ビジネスクール教授)
によれば、5年後には蛍光灯の照明は発光ダイオードに
置き換わるのではないかという推測をされていました。

実際、5年後にすべてが置き換わるかどうかは
わかりません。しかし、性能や価格的に見て、
蛍光灯が発光ダイオードに置き換わるのは確実に
やってくる未来です。
(街中の信号機が今、どんどん発光ダイオードの
 ランプに変わっているのをごぞんじ?)


蛍光灯メーカーとしては、
こうした確実にやってくる未来を
どの程度客観的に受け止め、
思い切った戦略転換の決断を行えるかが、
将来の生き残りの鍵となることはおわかりですよね。

現在莫大な利益を上げている、
目先の蛍光灯事業の存続にばかり目がいってしまった
企業はたぶん終わりです。


以上は、いわゆる

「イノベーションのジレンマ」

として説明されることですが・・・


さて、あなたの事業においては、

「確実にやってくる未来」(の変化)

をちゃんと見据えることができていますか?

投稿者 松尾 順 : 12:30 | コメント (0) | トラックバック

JR福知山線事故の発生は100%予見できた!

2005年4月25日に発生したJR西日本・福知山線の事故は、
死者107名(運転手含む)、負傷者562名の大惨事となりました。

改めて、お亡くなりになった方のご冥福をお祈りします。


さて、事故発生から約2年後の2007年6月28日、
事故調査委員会が提出した「最終報告書」によれば、
当事故は、

「運転手の過失」

が引き起こしたものと結論付けており、

「JR西日本の過失」

には全く触れていません。


しかし、これはリスク管理の視点からは、
とても不可思議な結論です。

なぜなら、科学的に状況を分析していれば、
事故の発生は100%予見可能だったからです。

したがって、JR西日本が適切な対策を打っていれば、
事前に発生を予防することができたのです。


当事故発生の直接の原因は、
塚口駅から尼崎駅に向かう上り線のほぼ直線6.5km
(制限速度120k)を通過後にさしかかる

「右カーブ」

において、運転手のブレーキ使用が遅れたため、
減速が不十分だったことです。
(右カーブの制限速度は70km)

このため、遠心力が働いて車両が転覆(横転)してしまった。
(線路のゆがみなどによる「脱線」ではないので、
 この事故を「脱線事故」と表現するのは適切ではありません)


この右カーブはR304(半径304メートル)です。

電卓でできる四則演算レベルの計算を行うだけで、
時速120km以上では確実に転覆することがわかります。

この計算には、カーブの大きさ、車両のスピードに加えて、
車両の重さ(乗客数)なども考慮しますが、時速120kmでも
転覆しないのは車両が空の場合だけだそうです。

ですから、右カーブの手前で運転手が確実に減速しない限り、
事故の発生は必然でした。


実は、この福知山線上りは以前別の場所を走っていたのですが、
JR東西線の開通に合わせて下り線と同じ経路に変更されています。

この以前の線路でのカーブは、
もっと緩やかなR600(半径600m)だったそうです。

上述の簡単な計算によれば、
R600のカーブの場合には時速150km近くで走っても
転覆することはありません。

もし、JR西日本が線路付け替えの際に安易に下り線の脇に
設置するのではなく、R600の十分な曲線半径を取っていれば、
仮に運転手が時速120km以上であの右カーブに突っ込んでも
転覆することはまずなかったと考えられます。


しかし、現状の上り線はR304のカーブであったため、
乗客の命は文字通り、運転手に預けられていました。

長い直線の線路を120kmで突っ走っている時、
もし、運転手が心臓発作を起こして人事不省に陥ったり、
あるいは、ちょっと居眠りしただけでも、確実に事故は
発生したわけですから。

まるでこれは、
地雷原を避けた道が作れないことはなかったが、
もはや、地雷原のある道を毎日通ってもらうしかないから、

「運転手くん、地雷を踏まないように上手に通ってくれよ」

と言うようなものではないですかね。

つまり、リスク管理を運転手という一個人にのみ
委ねていたのが実情だったわけです。


非常に初歩的なことですが、リスク管理における対策には、

・事前予防策:リスク発生を阻止する対策
・事前準備策:リスク発生に備える対策
・事後対応策:リスク発生後の対策

の3つがあります。

このうち、JR西日本が取っていたのは、

「事前準備策」

だけであったのは明白ですよね。

運転手のブレーキという

「事前準備策」

によって、
事故発生のリスクを低減することだけは
行ってました。

しかし、線路のカーブの大きさを適切に設計することで、
事故の発生原因そのものを除去、あるいは回避する、

「事前予防策」

は行っていなかったということです。


ですから、事故調査委員会の結論は、
リスク管理の視点からは極めて不可思議というのが
おわかりでしょうか。

もちろん、この結論に別の配慮が働いている
ということなら「何おかいわんや」ですが。


以上の話は、

『JR福知山線事故の本質-企業の社会的責任を科学から捉える』

の編著者、山口栄一氏(同志社大学ビジネススクール教授)のお話を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:13 | コメント (1) | トラックバック

現場は「プロセス」で評価すべきでは?

ある事業(会社)がもうかるかどうかは、

「事業立地の選択」

次第。

すなわち、「だれに何を売るか」という基本的な

「戦略」

の適切さで決まります。

この「戦略」を決めるのは経営者ですから、
儲からないのは経営者の責任だと言えます。


ただ、収益を上げる鍵となる「競争力」は、
戦略が書かれた分厚い中期経営計画書や本社の会議室からは
生み出すことができません。

戦略を確実に実行できる

「現場」(オペレーション)

こそが「競争力」を生み出す。


ですから、経営者としては、
適切な「事業立地」を選択すると同時に、
現場を強くするための仕組みづくりが求められるわけです。


さて、このことを深く理解している経営者のひとりが、
昨年、ドトールと経営統合を果たした

ドトール・日レスホールディングス」

の会長、大林豁史(ひろふみ)氏です。

日本レストランシステムが運営する主力業態としては、

「洋麺屋五右衛門」「にんにく屋五右衛門」

が有名ですよね。


大林氏によれば、
毎日店舗ごとの成績表とにらめっこし、
赤字の店がどうやったら儲かるようになるかを
四六時中考えているそうです。
(日経ビジネス、2008/01/21)

でも、各店舗の売上ノルマがあるわけではありません。
営業成績を店長に問うこともありません。

そもそも店長自身が、
自店の営業成績を知らないのだそうです。


大林氏は、

“店の営業成績が振るわないのは店長など店舗スタッフの
 せいではありません。赤字は、出店や業態を決めた本部の
 戦略部門の失敗であり、私の失敗です。
 店舗スタッフは本部が定めたちゃんとしたことをきちんと
 やればいい”

と述べています。

赤字は、本社、つまり経営者の戦略上の失敗だから、
どうしたら挽回できるかを大林氏自身が考えているんですね。


では、大林氏は現場をどうやって評価しているかというと、

「本部が定めたモデルケースにどれだけ近づいたか」

だそうです。


「モデルケース」の詳細は不明ですが、
現場のオペレーションを最適化するための標準的な仕様、
たとえば、食材の量や調理方法、接客方法などのことだと
思われます。

端的にいえば、

「成功パターン」(=マニュアル)

のことでしょう。


すなわち、同社の店舗では売上という

「結果」

ではなく、現場のオペレーションという

「プロセス」

がどれだけ理想に近い形で実行できているかを
評価しているのです。


よく考えてみれば、
きちんとした商品・サービスが提供できてこそ、
結果としての売上がついてくるわけです。

ですから、売上目標を現場に押し付けて、
ケツをたたくだけの本部は戦略思考に欠けていますし、
現場側としては、売上げのために不正だって何だって
やるしかないということになりかねませんよね。


多くの会社では今でも、

「売上目標」

に基づく管理(評価)が主流でしょう。


ドトール・日レスホールディングスのように、

「成功パターン」(モデルケース)

をどれだけ着実に実行できているかという

「プロセス目標」

に基づく管理(評価)の重要性を理解しているところは、
まだまだ少ないのではないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:34 | コメント (10) | トラックバック

戦略は大事だが、戦術も重要だ

企業が持続的に成長できる最大の鍵は、

独自の「事業立地(誰に何を売るか)」

を選択することです。


これは、「戦略立案」の問題。

「戦略立案」とは、船で言えば、
どの方角に向かうかを決定することに等しく、
その決定を行うのは船長の役割ですよね。

同様に、企業の戦略立案は、
企業の舵取りを行う

「経営者」

が行うべきことです。

したがって、企業が成長できるかどうかは、
経営者の力量にかかっています。


三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、

「良い企業は存在しない。良い経営者がいるだけだ」

と断言しています。


しかし、経営者が優れていればそれだけでOK
というわけではありません。

もうひとつ、戦略に基づく現場のオペレーション、
すなわち「戦術」を着実に実行できる、

「優れた現場の人たち」

がいなければならないはずです。


つまり、戦略も重要だが、戦術も同じくらい重要。

とりわけ近年は、
おいしそうな事業立地があると、
われもわれもと企業がそこに殺到する。

このため、

「戦略的な差異(競争優位性)」

を生み出しにくくなり、
勝敗の分かれ目は戦術レベル、
つまり、

「現場のオペレーションの優劣」=「現場力」

にかかってくきます。


この「現場力」の重要性を強く主張されているのは、
コンサルティング会社、ローランドベルガー会長の
遠藤功氏です。

遠藤氏によれば、

「良い現場」と「悪い現場」

があります。

良い現場には、自律神経が通っていて、
思考回路が回っています。問題を自分たちで発見し、
解決策を生み出し、粘り強く対応できる。

悪い現場は、その逆、自分たちで考えることをしない、
いわれたことだけをロボットのようにこなすことしか
できない社員しかいません。


したがって、経営者としては、

独自の「事業立地」を選択する

という戦略的意思決定とともに、
優れたオペレーションが遂行される

「良い現場」

を作り上げ、維持することも求められます。

どうやって「良い現場」を作るかという点については、
遠藤氏の一連の著作、また文末に示した遠藤氏の講演
レポートが掲載されているサイトを参考にしてください。


ここでは、私が半年ほど前に体験した

「悪い現場」

の例をひとつご紹介します。


最大手の居酒屋グループの「マネ」が得意な
某居酒屋グループがありますよね。

その某店舗での話です。

お店には、上京してきた高校時代の親友と
2人で入りました。

その店を選んだのは、

「ビール半額セール」

をやっていたからです。


2時間近く飲んだ後、
私がトイレに立つと彼も後からやってきました。

期せずして「連れション」になっちゃったんですね。

「連れション」終了後、
2人で仲良く自分たちのテーブルに戻ると、
店員がテーブルを片付けています。

もう私たちが帰ったと思ったようです。

確かに、テーブル上の料理や飲み物は
あまり残ってませんでしたが、そもそも、
まだ伝票が置いてあったのです。
(テーブルの裏に伝票を差し込むスタイルなので
わかりづらいですが)

混んでるわけでもない空席も目立つ店内で、
客が帰ったかどうかろくに確かめもしないで
さっさと片付けていたのにはがっかり。


しかもこれで終わりではありません。

「ちょっと待ってよ、お兄さん、
 まだ帰るわけじゃないよ!」

と店員に告げて飲み物を追加したら、
お詫びに「手羽先」をサービスでもってきますと
言いにきました。

「おっ、なかなか気が利くね・・・」

と思って待っていたら出てきたら、
お皿には手羽先1本が乗ってるだけでした。

こちとら2人なのに、
小さい手羽先1本だけですか・・・

さすがに無料ですから、
そんな文句は言いませんでしたが、
再びがっかり。

この店には二度と行かないと強く誓ったのでした。


おわかりかとは思いますが、
この店では、店員が完全に思考停止しています。

料理も居酒屋としてはおいしいし、
値段も手ごろではありますが、
いわゆる典型的な居酒屋チェーン。

つまり、独自の事業立地を持たない以上、
現場のオペレーションでしか勝てないはずなのに
現実は私が体験したとおり。

ビール半額セールをやっても、
客の入りがぱっとしないのも当然でした。


しかし、それにしても、
現場が思考停止している企業や店舗って
多いですよねぇ・・・


*遠藤功氏の現場力に関する講演についてのレポート
 → https://www.sekigaku.net/

 左メニューの「受講生レポート」をクリック、
 「レポート一覧」から探してください。

投稿者 松尾 順 : 18:04 | コメント (2) | トラックバック

居酒屋「はなの舞」の事業立地

私の事務所の最寄り駅、
丸の内線の「本郷三丁目駅」そばに、

「海鮮居酒屋 はなの舞 本郷三丁目駅前店」

が昨年末オープンしました。
現在も毎日店員さんが店頭で呼び込みをやってます。


同店は文字通り駅前にあります。
改札を出て店の前まで約50歩、所要時間30秒程度でした。
(ざっくり調べてみました・・・)


「はなの舞」は、多様な業態の飲食店を開発・運営する
チムニー(株)の主力業態。

出店場所は、駅から徒歩1分以内にこだわっています。
おかげで、近年の飲酒運転に対する規制強化による
マイナスの影響を免れています。

このため、過当競争が常態化していることに加えて、
飲酒運転問題で来店客が減少したことによる業績低迷に
苦しむ現在の居酒屋業界において、
チムニーは順調に売上・利益を伸ばしています。
(日経MJ、08/01/09)


昨日、三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)の
実証研究の結果をご紹介しました。

三品氏によれば、
上場企業1013社のうち、持続的な成長を続け、
過去最高益を何度も更新した「優良企業」122社の成功のカギは、

独自の「事業立地」(誰に何を売るか=ポジショニング)

を選んだことでした。


居酒屋のようなリアル店舗事業では、

「店舗立地」

が文字通り、

「事業立地」

を決定する最大の要因になりますよね。


はなの舞の場合、

「駅前立地」

を選択しているため、主要客層(誰に売るか)は、

近隣に勤める仕事帰りのサラリーマン(あるいは学生)

となります。


駅前立地の場合、繁華街立地と異なり、
広範囲からの多数の集客が見込めません。

また、郊外立地のように、
家族でやってくるファミリー層も狙えません。

したがって、はなの舞では、
比較的狭い商圏の中での特定の顧客層のニーズを
敏感に捉えつつ、固定客比率を高めるためのアプローチ
が求められます。

となると、チェーン店とは言え、
昔ながらの個人経営の居酒屋のスタイルに
近づける必要がありそうですよね。


そこで、具体的な販売戦略(何を売るか)を見てみると、

・海鮮品を主力に据えたアピール
・各地域の食材や嗜好を反映した地域別8種類のメニュー構成
・店内調理による味の向上
・年10回近いメニューの入れ替えによる、顧客の「飽き」の防止

など、確かに個人経営店に近い取り組みです。


また、空間に癒しや遊びの要素を取り入れて、
来店客に楽しい時間を提供するためため、

・オープンキッチンによるシズル感の醸成
・水槽を置くことによる新鮮さのアピール

を行っています。

なるほどなるほど。

「はなの舞」の業績好調の理由は、
やはり優れた「事業立地」の選択にあることがわかりますね。


実は、本郷三丁目駅前店にはまだ行けてません。
(他の場所の店には行ったことがありますが・・・)

頭で分析するだけでは不十分ですよね。

早いとこ実際に行ってみて、
はなの舞の「事業立地」を五感を駆使して
再確認してみたいと思います。(笑)

投稿者 松尾 順 : 11:47 | コメント (2) | トラックバック

優良企業の経営者はみな長期政権

世界最強の企業と言えば・・・?


近い将来、日本の「トヨタ」がそう言われる可能性も
なきにしもあらずですが、現時点ではやはり、

「GE」(ゼネラル・エレクトリック)

でしょう。


そしてGEと言えば、

“20世紀最高の経営者”

と賞賛された同社元CEO、ジャック・ウエルチ氏を
思い浮かべる方が多いと思います。


ウエルチ氏は、1981年から2001年までの20年間にわたって
GEを率いた後、現会長兼CEOのジェフ・イメルト氏に
その座を譲りました。

イメルト氏を後任に選んだ時、ウエルチ氏は、

「今後20年を託した」

と言ったそうです。
(日経ビジネス、2008年1月7日号)


自分と同様、GEの最高経営責任者は、
長期政権を前提として企業のリーダーを務めるということを
明確に述べたわけです。


GEの哲学は、

「結果を出せる長期的なチャンスを指導者に与える」

というものだそうです。

イメルト氏は、毎年日本に訪れて会うクライアント企業や
パートナー企業のトップが頻繁に変わること、そのため、
就任6年足らずのイメルト氏がCEOとしての在任期間が
一番長いことに驚いています。


イメルト氏は次のように述べています。

“私たちのビジネスからは、どうすれば

 「3年間のCEO」

 になれるのか、想像もできません”

これは、在任わずか3年間ばかりで、
CEOとしてのまともな仕事ができるはずがないだろう
という意味を込めているようです。

逆に言えば、業績を長期にわたって向上し続けるためには、
トップは長期的にその座にいなければならないということを
GEはわかっているということです。
(この哲学・考え方が正しいことは、GEの業績が証明していますね)


実は、日本でも上記のことを裏付けた実証研究があります。

三品和広氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)は、
最近、上場企業1013社の過去50年間の財務データの分析を
行いました。

その結果、持続的な成長を続け、
過去最高益を何度も更新した「優良企業」122社では、
同じ経営者が長期間にわたってその座にあった点が
共通していたそうです。


また、これら122社が成長を続けられた理由について、
三品氏は、

独自の「事業立地」

を選んだことにあるとしています。


事業立地とは、
端的には「ポジショニング」のことであり、
純粋な意味での「戦略」そのものです。

「戦略」とは、

「長期的な競争優位性を維持できるポジションを構築すること」

のことだからです。


ただ、「戦略」を絵に描いた餅ではなく、
現場の「戦術」にまで落とし込み、実際の「強み」(競争優位性)
にまで磨き上げるためには長い時間を要します。

したがって、優れた経営者が将来の変化を的確に読み、
適切な「戦略」を打ち出し、その戦略実現のため長期的に
リーダーシップを取り続けた企業こそが成長を持続できるのだ

ということがいえるでしょう。


なお、

経営者がトップに長く居座り続けすぎてしまうことの弊害

ももちろんありますよね。

ですから、自分の引き際を見極めるだけの見識が
経営者には必要でしょう。

また、イメルト氏が45歳でGEのCEOに選ばれたように、
長期にわたってリーダーシップを発揮できるように、
若いうちにCEOの座に就かせることが求められます。


まあ、日本の大手企業の多くは、
カネボウのように経営危機にでもならないかぎり、
若手リーダーを生み出すのはまずもって難しいのでしょうけど!


*三品氏の上記実証研究が紹介された講演についてのブログ記事

 『戦略不全の因果 三品和広さん』(慶應MCC「夕学五十講」楽屋blog)

この講演には私も出席しました。


*参考書籍

『戦略不全の因果-1013社の明暗はどこで分かれたのか』
(三品和広著、東洋経済新報社)

『戦略不全の論理-慢性的な低収益の病からどう抜け出すか』
(三品和広著、東洋経済新報社)

『経営は10年にして成らず』
(三品和広氏、東洋経済新報社)

投稿者 松尾 順 : 11:51 | コメント (6) | トラックバック

長期的視点が成功をもたらした資生堂の経営改革

資生堂の業績は絶好調。

2008年3月期の営業利益は

580億円

と過去最高益を更新する見込みです。
(日経情報ストラテジー、FEBRUARY 2008)

売り上げ・利益とも前年を上回っており、
通期で売り上げ100億円、利益で20億円の上方修正
を行っています。

業績に大きく寄与しているのは海外事業。
海外の現地売上高は2桁の伸びです。

しかし、国内事業も、
化粧品市場が横ばいを続ける中、
店頭売り上げが1%増と堅調な結果を得ています。


こうした好調な業績の要因としてはまず第一に、ご存知

「メガブランド戦略」

の成功がありますよね。

(関連記事)
*資生堂のメガブランド戦略・・・悪魔のスパイラルからの脱却
*資生堂のメガブランド戦略・・・ブランドではなく意味を多様化せよ


従来は100以上もあった雑多なブランドを統廃合し、
資生堂が展開する各カテゴリー(17カテゴリー)の
それぞれでトップになれるブランドを確立するために、
経営資源を集中投下した。

まさに「選択と集中」を行ったわけです。

その第一弾が、
メーキャップ化粧品の「マキアージュ」でした。

そして、苦戦していたヘアケア分野では、

「TSUBAKI」

を投入。

発売初年度は50億円を超える予算を配分し、
一気にトップシェアを獲得しました。

同社社長、前田新造氏によれば、
先行投資型の製品であり、3年目以降に利益が出ればOKとしていた
「TSUBAKI」ですが、計画をはるかに上回る1.8倍の売り上げを達成したおかげで、
当初から利益が出るようになったそうです。


一方、販売の現場でも大胆な改革を実行に移しました。

同社全社員2万6千人のうち1万人を占める美容部員
(同社ではビューティコンサルタント:BC、以下「BC」)の

「販売ノルマ」

を2006年春から撤廃。

顧客から直接評価してもらう仕組みに変えました。
(意外なことに、従来はBCの評価は、社内の支店長や部長が
行っており、直接の顧客からの評価を仕組みとして得ることは
やっていなかったのです)


(参考記事)
*脱ノルマ・・・資生堂の挑戦


この新しく導入した顧客満足度調査は、
接客が終わったら顧客にアンケートを渡し、
自宅で回答して投函していただく方式です。


当アンケートの当初の回収率は17%程度でしたが、
現在は22%、およそ5人に1人は回答してくれています。

これはかなり高い回収率と言えるでしょう。

しかも、アンケートの自由回答欄には、
回答者の約6割の顧客が意見等を書いてくれており、
大半がお褒めの言葉や応援の言葉だそうです。


顧客満足度調査の結果は、
毎月1回、BC一人ひとりにフィードバックしています。

自由回答欄の記述内容も原文のまま見せます。

したがって、BCは、個々のお客さんが自分の接客をどのように
評価してくれたかを知ることができます。

自分が接客した顧客全体の平均値ではなく、
顧客それぞれに対する接客を振り返り、接客を改善することが
可能になったというわけです。


前田社長によれば、販売ノルマがあった頃は、
たとえば今日の売り上げ目標が40万円だったとして、
それを達成してしまえば息が抜けてしまうことがあった。

ところが、顧客満足度調査の仕組みを導入してからは、
最後のお客さんまで気が抜けなくなった。

顧客一人ひとりに対して真剣勝負を挑まざるを得ず、
前田社長曰く、

“お客様が先生のような存在になり、BCさんも本当の意味で
 成長していくという感じがしますね”

なのだそうです。


前田社長は、販売ノルマを撤廃した際、
改革を優先するから売り上げが下がってもいいと明言しました。

なぜなら、

“売り上げよりも何よりも、5年、10年を見た時に、
 お客様からの信頼をどれだけ獲得することができるか、
 全社員のエネルギーを集中させることが大事だったんですね”

と考えていたからです。


「メガブランド戦略」にしろ、
店頭における「販売ノルマ」の撤廃にしろ、
資生堂の改革の核には、

「長期的な視点」

があったことがおわかりですよね。


目先の売り上げ・利益に一喜一憂しない。
顧客の満足、そして信頼を勝ち得ることが持続的な成長のカギ
であることを示し、それに前田社長はコミットした。


短期的な視点しか持たず、
目先の収益確保に血眼になった企業は、
やはり短期で没落する。

しかし、長期的な視点に立った経営ができる企業は、
長きにわたって栄えるものだということが、
資生堂の改革の成功から実感できますね。

資生堂はもう135年も続いている長寿企業なのです。

投稿者 松尾 順 : 17:38 | コメント (3) | トラックバック

収益至上主義が招く虚偽に満ちた現場

折口雅博氏率いるグッドウィルグループでは、
介護ビジネスの「コムスン」に続いて、人材派遣の

「グッドウィル」

でも様々な法令違反が摘発されましたね。


折口氏は、起業家としては優れた才覚の持ち主です。

彼の事業センス、マーケティングセンスは
今でも高い評価に値すると思っています。


しかし、経営者としては、昔ながらの

「収益至上主義」

を採用していましたよね。

折口氏のこの経営スタイルが
今回の破綻を招いてしまったのは明らかです。


私が3年前に出席した講演で、折口氏は、

「過去を見れば、未来は予測できる」

と豪語していました。

これは、逆の見方をすれば、

原因となる現在の行動を着実にやれば、
未来(目標)は、自分の予測したとおりになる

という意味でした。


しかし、この考え方は現場にとっては、
単なる押し付けになっていたのだと思います。


なぜなら、折口氏は現場に対して、
必達の売上ノルマ(目標)を与えた。

そして、折口氏曰く、

“執念と鉄の意志を持ち、決してあきらめない”

ことを社員に訴えたのです。

つまり、「過去を見て予測する」というよりも、
未来という名の「目標」を何が何でも達成することを
社員に約束させた。

折口氏の(収益)予測が的中するのは当然ですね。


しかし、現場の社員は、
折口氏の予測を的中させるために、
それこそ、どんな手段でも取らざるを得なくなります。

ノルマ達成のためには、
多少の不正行為も仕方がない、やむを得ないとなる。

そして、不正行為がだんだんと拡大し、
またエスカレートしていく。

こうなることは自明の理のはずでした。


元日本マクドナルドの人材開発室長で、
現(有)ジェイシップ代表取締役社長の田岡純一氏も、

“数字を追いかけると、人は疲弊し必ずうそをつく”

とおっしゃっています。


つまり、コムスンにしろ、グッドウィルにしろ、
「売上」という数字を追いかけさせられたことによって、
誰もが予測できる結末として、

「虚偽に満ちた現場」

を生んでしまったというわけです。


残念なことながら、この必然的な未来を
折口氏は予測できなかったようですね。


顧客の「満足」や「信頼」の先にある結果に過ぎない

「収益」

を現場をコントロールする手段にしてしまっている経営者は、
折口氏に限らずあいかわらず多いのですが、
収益至上主義の経営は、遅かれ早かれ現場の破綻を招く。

これは簡単に予測できる未来ではないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (2) | トラックバック

経営のABC

「ABC」と言えば、
ティーンエージャーのころスケベ顔して話した

「下半身系隠語」

に始まり、販売・在庫管理などに用いられる

「ABC分析」

や、心理カウンセリングの世界で知られている

「ABC理論」

など、さまざまありますね・・・


しかし、今回取り上げるのは

「経営のABC」

とも呼べるものです。


すなわち、

A:当たり前のことを
B:馬鹿にせず
C:ちゃんとやる

という原理原則を説いたもの。

これにはバリエーションがあって、

B:馬鹿正直に

とか

B:馬鹿みたいに

とか言うこともありますが、要するに、

「そんなこと言われなくてもわかってるよ」

と言いたくなるようなことを愚直にやる!

この重要性や意義を強調しているわけです。


逆に言えば、経営の現場では、

当たり前のことがちゃんとやれていない

という現実があるということでもありますね。


私は、この「経営のABC」という言葉を
次の本を読みながら改めて思い出していました。

『利益を3倍にするたった5つの方法』
(大久保恒夫著、ビジネス社)


著者の大久保氏は、イトーヨーカドー出身。
流通業界ではカリスマコンサルタントとして有名な方です。

以前は、「ユニクロ」「無印良品」の
コンサルタントとして両者の成長を支えました。

また、経営危機に陥ったドラッグストア、

「ドラッグイレブン」

の社長に就任して同社の再建に成功。

ドラッグイレブンでは、マイナス15億円から、
就任後2年で実質プラス14億円の利益へとV字回復させました。


現在は、高級スーパー、「成城石井」の社長として
同スーパーの経営改革に取り組んでいます。

成城石井では、経営改革初年度で
前年比2倍から4倍の利益回復を見込んでいるそうです。


このように、大久保氏は確実に成果を出してきた
コンサルタントであり、経営者です。

でも、こんなすごい人が書いたんだから、

「上記の本には、どんなすばらしいことが書いてあるんだろうか?」

と期待すると拍子抜けします。


まさに、基本中の基本、
当たり前のことしか述べられていないからです。

タイトルにもある「5つの方法」の項目名だけご紹介しましょう。


1.経営と指導が一体となってお客様の満足を実現する
2.仕事を通して現場の人を成長させる
3.重要なことに絞り込んですぐやる
4.売れる商品を価格を下げないで売り込む
5.今までのやり方をやめて、構造的に改革する


なるほどなるほど。
まったく異論を挟む余地のないポイントですよね。

しかし、どれもお題目として唱えるのは簡単ですが、
企業のクセというか、企業の文化と呼べるレベルの
継続的な行動習慣にまで定着させるのは至難の業であることを
大久保氏は実体験を通じて痛感しているのです。


大久保氏は次のように述べています。

“同業者であれば、ほとんどの会社は同じ方向を目指していて、
 ほとんど同じ経営戦略を持っています。

 
 いまは情報化社会ですから、会社によって戦略の差など
 そんなに大きなものではありません。

 どの会社も考えていることはほとんど一緒です。
 
 その中で、どこで違いが生まれるのかというと、

 経営者が考えた戦略を現場が実行できる仕組みになっているか
 どうかです。この差が業績の差なって表れる

 のです。”


「Knowing-Doing Gap」

という言葉がありますよね。

「知っていること(わかってること)」

「実際の行動(やってること)」

にはギャップがある。

「やればいい」と知っているけれども、
実行に移せないことがビジネスの現場には多々ある。

このギャップの有り無しが、
業績の差をもたらすと言えます。


ですから経営者は、現場の人々が

A:当たり前のことを
B:馬鹿にせずに
C:ちゃんとやる

ことのできるの仕組みづくりに注力しなければ
ならないというわけです。


企業経営者が、

『利益を3倍にするたった5つの方法』

を読み、単に内容を理解しただけでなく、
自社の経営に実際に反映することができたなら、
おそらくその会社は着実に伸びでしょう。

でもおそらく、実際にこの本に書いてあることを
実践できる経営者はほんの一握りでしょうね・・・


『利益を3倍にするたった5つの方法』
(大久保恒夫著、ビジネス社)

投稿者 松尾 順 : 10:28 | コメント (2) | トラックバック

オープンソースで食っていく、幸せになる

今日もちょっと「人材マネジメント」や
「キャリア」寄りの話です。

先日、

「ジョブ・エンゲージメント」

の考え方をご紹介しましたが、この記事を書いた後になって、

「そういえば、ジョブ・エンゲージメントは、
オープンソースに関わっている方に最もあてはまるなあ」

と気づいたんですよね。


以前、オープンソースの代表としてあまりにも有名な

「リナックス」

の創始者、リーナス・トーバルス氏が自著、

『それが僕には楽しかったから』(just for fun)

の邦訳版の出版に併せて来日された際に行ったインタビューの時、
彼は、リナックスが開発者に与える価値を解説してくれました。


リーナスさんによれば、私たちが生きる意味は、

「生き残り」「社会性」「娯楽」

の3つがあると考えてますが、このうち、リナックスは

「社会性」「娯楽」

の2つを与えると言っていました。


プログラミングは創造的な仕事ですよね。

自分が作成に関わっているプログラム上で実行できる機能が
だんだんと増えていくことを通じて「達成感」と「自己効力感」、
つまり「自分には能力がある」という自尊感情を満たすことが
できます。

しかも、そのプログラムが社会に受け入れられ、
社会で広く利用されるようになれば、自分の社会における
存在意義・価値を実感することができ、承認欲求も満たされる。


ジョブ・エンゲージメントの最初の条件、

「自己効力感」

がオープンソースにはあるというわけです。


もちろん、オープンソースでなくても、
仕事としてプログラミングに関わっていれば、
多かれ少なかれ「自己効力感」を得ることはできます。

しかし、「娯楽性」はあまり与えてくれないでしょう。

というのも、仕事としてのプログラミングは、
生活費を稼ぐためという外的報酬に動機付けられている点が
大きく、それをやりたいかやりたくないかではなく、

「やらざるを得ない仕事」

になってしまうからです。


でも、オープンソースは基本自由参加ですよね。
楽しいと思える人、やりたい人だけが参加すればいい。

しかも、リーナスさんが、リナックスの開発を

「チームスポーツ」

に喩えていたように、
さまざまな個性、能力を持つ世界のプログラマーが
それぞれの得意分野(ポジション)を担当して、
共にゴールを目指すという楽しさがある。

オープンソースの開発は、
自由参加の異質な人間の交わりを通じて
高い「娯楽性」が生じているわけです。

つまり、ジョブエンゲージメントの2番目の要素、

「シナジー」

もオープンソースにはある。


問題は、ジョブ・エンゲージメントの3番目の要素

「プライベート」(の安定)、

リーナスさんの言葉では、

「生き残り」

はどうするんだということです。

オープンソースは文字通り、
ソースコードを無料で公開してしまうわけです。

ライセンスフィーが得られないとなれば、
どうやって食っていくのか・・・


しかし、これは杞憂のようです。

すでにオープンソースに関わることで
メシを食っている人はどんどん増えている現実があります。

日本発のプログラム言語、「Ruby」の創始者、
まつもとゆきひろ氏も、梅田望夫氏との対談で、
すでにオープンソースで数百人単位で飯を食っていると
指摘しています。


オープンソースの隆盛を見ると、
資本主義社会の儲かってナンボの世界とは異なる世界が
インターネットによって拡大しつつあるのを実感しますね。

自分の好きなこと、やりたいことに没頭する。
仲間と共に、協働するからこそ可能な価値を生み出す。
それが、結果的に社会的な価値を持ち、関係者にも、
その価値が回りまわって戻ってくる。飯が食えるようになる。

オープンソースに関わることによって、
純粋な「ジョブ・エンゲージメント」が実現するわけです。

これは、実にうらやましい「幸せなキャリア」でもあります。


*IT Pro 梅田望夫×まつもとゆきひろ対談
「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(前編)

*IT Pro 梅田望夫×まつもとゆきひろ対談
「ウェブ時代をひらく新しい仕事,新しい生き方」(後編)

*ジョブ・エンゲージメントからの示唆

*それがぼくには楽しかったから

投稿者 松尾 順 : 09:42 | コメント (0) | トラックバック

早すぎる映画レビュー『AUGUST RUSH』-オーガスト・ラッシュ-(邦題:奇跡のシンフォニー)

先日、某チャリティ試写会に出席し、
米国でも今月21日に封切りされる予定の
デキタテホヤホヤ最新作、

『AUGUST RUSH』-オーガスト・ラッシュ-
http://augustrushmovie.warnerbros.com/

を見てきました。

日本での公開は、
おそらく来年(2008年)春以降でしょう・・・


この映画、あまりにもすばらしくて、
いきなり私の好きな映画ナンバーワン!に
ランクインさせました。

劇場公開したら改めて見に行きます。
DVDも絶対買います。

今はとりあえず、
先行発売されたサウンドトラック(輸入版)を
購入して毎日聞いております・・・


さて、「AUGUST RUSH」の主人公は、
11歳の少年、エヴァン・テイラーです。

彼は生まれた時から、
ニューヨークの孤児院に預けられています。

両親が誰かは知りません。まだ生きているかどうかも
わからない。もちろん顔も見たこともない。

でも、きっといつか出会えると信じています。


彼には天賦の才能が与えられていました。

耳に飛び込んでくる周囲のあらゆる音の中に
「メロディ」を感じることができたのです。


彼は音楽の天才でした。

それもそのはず、
母親のライラはニューヨーク交響楽団に招待され、
協演をするほどのチェロ奏者。

一方の父親、ルイスは、
ロックバンドのボーカリストでした。

エヴァンは、2人の才能を受け継いでいたのです。


ある日、エヴァンは両親を探すために
孤児院を脱走します。

そして、ひょんなきっかけで大道芸人の元締めと
出会い、音楽の才能を見出されます。

そこから、彼はまず、
ストリートミュージシャンとしての道を
歩み始めるのです。


これ以上はネタバレになるのでやめときましょう。


ストーリー自体は、よくありがちではあります。
しかし、脚本、配役、演出、映像、音楽は最高です。

エヴァン役には、
自然な演技が光るフレディ・ハイモア。

『チャーリーとチョコレート工場』
『アーサーとミニモイの不思議な国』

の主役を演じた子ですね。

両親役として、
母親の清楚なチェロ奏者、
ライラにケリーラッセル。

父親のクールなロックボーカリスト、
ルイスにはジョナサン・リース・マイヤーズ。

そして、大道芸人の元締め役として、
私も大好きな名優、ロビン・ウイリアムスが出演。
脇を固めています。

しかしなによりも、
エヴァンを両親の元に導びいていく
音楽のすばらしさ!


初めて手にしたギターでエヴァンが弾く、
幻想的なアコスティックギターソロ。
(押尾コータローを連想しました)

ライラとルイスの住む世界の違いを暗示するように交錯する、
ライラの気品あるチェロ演奏と、ルイスの歌う情熱的なロック。

エヴァンが迷い込んだ教会で出会うゴスペル。

エヴァンが初めて作ったクラシック曲「8月のラブソディ」。


音楽好きにはたまらない映画です。

そして、、たくさんの感動の涙で心を浄化したい方に
お勧めします。

ちょっと早すぎるレビューですけど・・・!


なお、「AUGUST RUSH」とは、
エヴァンのアーティストとしての芸名です。

“The music is all around us.
          All you have to do is listen.”
            - August Rush

 音楽は、僕たちの周りにあふれてる。
ただ耳をすますだけでいいんだよ。

投稿者 松尾 順 : 06:42 | コメント (27) | トラックバック

苦悩する西友・・・WM流を捨てよ

先日、米ウォルマートが、

「西友」

の完全子会社化を決定しましたね。

ウォルマート(以下、WM)が、
西友に資本参加したのは2001年5月のことでした。

WM流経営ノウハウを持ち込み、西友の再建に乗り出したわけです。


WMの日本進出当時から、

果たしてWM流が日本で通用するのかなあ・・・?

と、私も含め多くの人が懐疑的でしたが、
結果的には6年連続の赤字。

「WM流」による西友の再建は、
今までのところ失敗に終わっています。


失敗に終わった理由のひとつは、米国では通用した

「安さ(だけ)重視」

の店は、日本人の消費者には受け入れられなかったということ。


もちろん、一般消費財を売る小売店において「安さ」は
重要です。でも、日本では品質の高さと、サービスの充実も
同時に求められますよね。


しかし、WM流では、安さの代わりに品質や安さを犠牲にします。
このため、顧客にそっぽを向かれてしまった。

たとえば、WMのプライベートブランド(PB)しか
並んでいない腕時計。安いけれどデザインがパッとしません。

しかも売り場では、

「電池交換やベルトの調整は承れません。
 ご理解のうえ、お買い求めください」

と表示してある。

WMになって、
アフターサービスを止めてしまったのです。

お客さんからは「不親切」だと、
怒られっぱなしなのだそうです。


さて、WM流が通用しないもうひとつの理由、
それは、従業員満足をほとんど考慮していない点です。


現在、全390店のうち、300店で24時間営業を実施し、

「(顧客に)最高の利便性を提供している」

とエドワード・カレジェッスキーCEOは胸を張りますが、

現場の従業員は、

「おれはロボットではない。24時間営業といっても限界がある」

と不満を漏らしています。


また、WMになってから、
現場の裁量がほとんど奪われてしまいました。

今の店長には、品揃え、価格の決定権はほとんどありません。

残念ながら、現在の西友の職場で、

「働きがい」「やりがい」

を感じることはあまりできないようです。


WMが経営を握って以来、
たたき上げの人がどんどん去っていきました。

WM進出当時、日本側が、WM幹部に対し、

「そんなやり方は、日本では通用しない」

と具体的な根拠を挙げて反論したところ、
言葉に詰まった彼らの口から出てきたのは、

「We are the capitalist」(我々は資本家だ)

だったそうです。


彼らが、自分たちのことを資本家と言うのなら、
あくまで資本家に徹し、経営に乗り出さなければいいのに!
と思いますよね。


そして今、西友がWMの完全子会社となったとしても
あいかわらず先行きは不透明。

従業員の方にとっては、
将来の希望が持ちにくいでしょう。

今月(10月)、西友では、
450人の希望退職を募集していますが、
会社が想定していなかった優秀な人材の応募も
多いようです。


西友の苦悩は大きい・・・


もしWMが、本気で西友の建て直しに成功したいなら、
WM流経営ノウハウを捨てる必要があります。


日本の消費者を満足させられる品揃え、サービス、価格。
そして、従業員満足の向上につながる組織運営体制の確立、
評価・報酬制度の導入。


前述したように、WMは、資本家としての立場に徹し、
経営は、日本の流通環境に適応させることができる会社に
任せたらどうでしょうか。


(参考資料)
・日経MJ、2007/10/24
・日経ビジネス、2007/05/07

投稿者 松尾 順 : 12:25 | コメント (2) | トラックバック

‘病める’米国医療制度・・・『シッコ』

「米国なんかにゃ、死んでも絶対住みたくないな・・・」

と心から思いました。

「米国で病気になったら、終わりだ・・・」
(金持ちでない限り・・・)

マイケルムーア監督の新作映画、

『シッコ』

を見た後の率直な感想です。

『シッコ』は、米国医療制度の病巣を赤裸々に描いた傑作。

米国では医療保険に加入できず、高額の治療費が払えないため、
大きな傷口でさえ自分で縫わなければならないような人が
5千万人もいます。


でも、

医療保険に入っているから安心というわけではない

のがあきれてしまう点です。
本当に米国の医療制度は病んでいます。

というのも、保険会社が保険金の支払いを拒否したたために、
必要な手術や投薬が受けられず、死んでいく人が多数いるのです。
(受けていれば助かったのに・・・)

保険会社に雇われているドクターは、
保険加入者の申請(○○手術の費用を補償してほしい等)の
否認(拒否)率が高いほど、報酬が高い仕組みになっています。

つまり、保険会社の利益を上げるために保険金の支払いを拒み、
病人を見殺しにすればするほど、ドクターも儲かる仕組みなのです。

(全ての保険会社がそうだというわけじゃないでしょうけど)

また、入院患者が治療費を払えなくなると、
病院は、冷貧困層が住むエリアの医療センター前の路上に
その患者を寝巻姿のまま捨てます。
(この医療センターはとりあえずお金がなくても面倒はみます)

病院側が、一方的に患者をタクシーにのせて、
 そこで強引に降ろすように頼むのです。

病院もまた、お金がない病人は見殺しにするのが米国の実態。
病人ですから、必要な治療が受けられず、文字通り死に至る人も
いるでしょう。


一方、シッコで紹介されていましたが、
米国と川を隔てただけのカナダや、英国、フランス、
そして米国の仮想敵国のキューバでさえ、

「国民皆保険制度」

が確立しています。したがって、これらの国では、
医療はすべて無料で受けられます。
(もちろん、税金負担は大きいのですが!)

フランスでは、赤ちゃんのいる家庭には、
週2日ほどベビーシッターサービスが「無料」で
受けられるほどです。


シッコの中で特に印象に残っているのは、
911の救援活動に従事し、その後遺症に苦しんでいるに
もかかわらず、必要な治療が受けられないでいた米国人を
ムーア監督がキューバの病院に連れて行ったところ、
笑顔で受け入れられ、無料で必要な治療を受けることが
できたというシーン。

キューバの平均寿命は、米国より長いのだそうです。


近年問題になっている日本の保険会社の保険金不払いも、
米国保険会社の「人の命より利益優先」という姿勢に
比べると、まだましに感じられましたね。

また、無料ではないにせよ、
比較的軽い負担で相応の治療が受けられる日本の医療制度も、
断固として守らなければならないと思いました。
(改善の余地は多々あるにせよ・・・)

なお、米国では、

『シッコ』

は、ドキュメンタリー映画として史上2位の動員を上げています。

ところが、日本では不入りのためか、
封切り1ヶ月もたたずに公開を打ち切る映画館が
相次いでいますね。

まあ、固い内容ですし、しょせん他国の問題ですから、
平和ボケしてる日本人の関心があまり向かなかったのでしょう。


マイケル・ムーア監督の一連の作品は、
テーマの描き方が一面的で客観性に欠ける点があるという指摘が
これまでありました。

「シッコ」もそうした批判を受けているようですが、
とにかく見て損はない映画だと思いますよ。

楽しいというより、びっくり・唖然とさせられることの連続で、
最後まで目が離せません。

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (2) | トラックバック

ヒューマノイドロボットの過去・現在・未来

人手不足の影響もあって、サービス低下がはなはだしいのが、
流通・外食・サービス業界ですね。


私も、ファミリーレストラン等には、
過剰な期待は持ってはいないのですが・・・

感情のかけらもない、機械的な挨拶と笑顔に迎えられ、
声をかけたくても、わざと避けているかのように目をそらす
ウェイター・ウエイトレスに出会うたび、

「あんたらはいらん。セルフサービスがまだましや!」

「あんたら、うかうかしてると、そのうち

 “ヒューマノイドロボット(人型ロボット)”

 に仕事を奪われるで!」

と、なぜだか「なんちゃって関西弁」で内心毒づいております。


というわけで(やや強引な導入ですが)、今日は、

実用に供されるヒューマノイドロボット

の過去・現在・未来を語ります。(偏った内容ですけど・・・)


☆ヒューマノイドロボットの過去


回転寿司大手の「くら寿司」では、
今から20年も前の1986年に、

「お運びロボット」

を導入しました。

テーブル席まで注文された寿司を運ぶ、
このロボットは、1台500万円もしました。


しかし、様々な問題があったようです。

なかでも一番の問題は、
当時の技術ではバッテリーの持続時間が短く、
すぐに途中で止まってしまったことです。

すると、生身の店員が、
寿司を持ったまま立ちつくす直立不動ロボットを
「よいしょ」と後ろから押してあげなければいけない。

なんか情けないですね・・・


結局、ロボットを導入後に売上がどんどん低下したため、
半年でロボットはお役ご免になりました。


☆ヒューマノイドロボットの現在


三菱重工の人型ロボット、「ワカマル」。
かわいらしい姿が人気を集めましたね。

「ワカマル」は、東京都区内限定で、
2005年から家庭用販売を開始していました。


ワカマルは、家族の顔や名前を登録しておけば、
家族一人ひとりを識別して話しかけたり、
インターネットから天気予報やニュースを取り込んで
教えたり、メールの到着を知らせてくれたりします。
また、留守中の室内を監視してくれる機能も。

販売価格は157万5千円、販売目標は当初100台でした。


しかし、販売が思わしくなかったことから、今年07年春に

「販売中止」

を決定しています。


ワカマルのショールーム(丸の内・池袋)には、
05年秋の販売開始数ヶ月で延べ1万人を集めました。

ユーザーの関心は非常に高かったわけです。


ところが、実際に予約を受け付けると数十台しか
獲得できませんでした。

しかも、予約した家庭に行ってみると、
段差があってワカマルが移動できなかったり、
インターネットを導入していなかったりで、
実際に販売できるのは

10数台

にとどまることがわかりました。

これでは、アフターサービス体制の維持も困難と、
本格販売を断念したのです。


さて、この販売不振の原因ですが、開発担当者によれば、

「ロボットに対する消費者の期待値と、
 現在の技術レベルに差がありすぎる」

と分析しています。


ショールームでは、

「(ワカマルは、)掃除や炊事はできないの?」

と尋ねる女性が多かったそうですが、
さすがに、現在の技術ではそこまでは無理でしょう。

また、ネット情報の取り込み、メール到着の通知、
室内監視などの機能は、もっと手軽な携帯でも
実現可能なサービスですね。

ヒューマノイドロボットの強みといえば、
人との「会話能力」ですが、ワカマルの音声認識能力は
まだまだだったようです。

ワカマルの大きさ(体長約1メートル、幅40センチ)も
家庭用としては若干大きめと感じられたようです。


ただ、無料貸し出しをしていた家庭では、
一緒に暮らすうちに、ワカマルに対する愛情が生まれ、

「そばにいてくれるだけでいい」
「言うことをよくわかってくれないのもかわいい」

というユーザーの声も多く聞かれたそうです。

こうしたコメントは、
人型ロボットならではだと思います。


三菱重工では、受付用などよりも、
はるかに市場規模の大きい家庭用ロボットを
あくまで狙うため、ワカマルをさらに進化させるための
研究開発を続けています。


☆ヒューマノイドロボットの未来


たった一人で二足歩行の精巧なロボットを
製作するロボットクリエイターの高橋智隆氏。

高橋氏のロボットは、
ロボカップ世界大会で4連覇を達成しています。


高橋氏は、近い将来、一般家庭には、

「ヒューマノイドロボット」

が欠かせない存在になると信じているそうです。


高橋氏のイメージするそんなロボットは、
小さめのサイズ(おそらく30-40センチ)くらいで
普段はそこらへんにいます。

そして、時折、

「そういえば、松尾さん、“劇団ひとり”が
 好きでしたよね。今晩11時からテレビに出演しますよ」

などと、気の利いた提案をしてくる。

「そうか、でも今日は早く寝たいから、
 その番組を録画しといてくれるかな?」

などと頼むと、HDDレコーダーに信号を送って、
録画予約を完了してくれるのです。


つまり、このロボットは、人間と、そして
家庭内の様々な機械の両方と会話できる能力を
持っているわけです。

いわば、人間と機械の仲立ちをしてくれる
通訳のような役割を果たしてくれるのが、
高橋氏の理想とするヒューマノイドロボットです。

なかなかいいと思いません?


こんなロボットなら

「一家に1台(人)の時代がやってくる」

というのも、荒唐無稽な夢じゃないと思います。


*高橋氏のHP:『ロボ・ガレージ』


さて、以上、

ヒューマノイドロボットの過去・現在・未来

を簡単にご紹介しましたが、とりあえずは、
「大人向けおもちゃ」としての高額な

「ロボット組み立てキット」

がこれからブレークすると思います。


(出所)
くら寿司のロボット・・・カンブリア宮殿(TV東京)
ワカマル・・・日経産業新聞(2007/07/27)
高橋智隆氏の話・・・トップランナー(NHK)

投稿者 松尾 順 : 07:41 | コメント (0) | トラックバック

知られざるゴスペルの世界

休日はたまにはちょっとオフな話題で・・・


「ゴスペル」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?

教会で黒人の人たちが集団で歌ってるイメージ?

今までゴスペルを実際に知る機会がなかった方は、
たぶんこの程度のイメージしか湧かないですよね。

私もそうでした。


ただ、ウーピー・ゴールドバーグ主演の映画、

『天使にラブソングを』

を見た方はおわかりになると思うんですが、
教会で厳かに歌われるスローなものだけでなく、
結構‘ノリノリ’の曲もあります。


実は、私は1年ほど前から、全国各地にメンバーがいる
ゴスペルグループに参加しています。

練習は月2回。東京のメンバーは100人ほどで、
練習場所には、毎回50人以上のメンバーが集まります。


ゴスペルグループに入会した動機は、友人に誘われたからです。

「天使にラブソングを」は以前から大好きな映画でしたから、
ゴスペルについて多少の関心がありました。

でも、実際のところはよく知らないまま。
自分でゴスペルを歌ってみたいとは、考えたこともありませんでした。

でも、直感的に「ひょっとしたら面白いかも!」と思って参加したのです。


そして、たちまち夢中になってしまいました。(笑)


50人以上(コンサートでは200-300人になることもあります)の
メンバーが歌う時の迫力、そして感動。

歌を通じて仲間と心をひとつにする感覚は、
一人か、せいぜいデュエットで歌うだけのカラオケの何百倍も楽しい。


なによりも、私がはまった最大の理由は、
ゴスペルは心、いや「魂」(ソウル)で歌うということを
知ったからです。(これは私なりの理解ですが)


私たちが、小中高の音楽の時間などにやらされた
いわゆる「合唱」は、「頭」で歌っていたように思います。
「合唱」では、きれいに歌うことが大切でした。

しかし、ゴスペルは魂の歌です。

きれいに歌おうとするよりも、声に言葉に魂を乗せ、
聞き手に対して自分たちの思いを届けることが大切なのです。


ですから、美しいサウンドに聞こえた方がもちろんいいのですが、、
魂のない歌になるくらいなら、むしろ多少汚く聞こえたとしても、
魂が入っていると感じられるほうがいい。


実は、魂をこめて歌うのはなかなか難しいことなのですが、
「思いを伝える」ということを大切にするゴスペルを歌うことは
私にとっては、今までにない貴重な体験になっています。

なお、私の参加しているゴスペルグループでは、
宗教にはこだわっておらず、様々な他のジャンルの曲をゴスペル風に
アレンジして歌っています。

例えば、ビートルズやサザン・オールスターズ、そして美空ひばりまで!

これもまた楽しい・・・!


また、この1年は、いろいろとゴスペルの音楽CD(20枚以上!!)を
買って聴いていますが、宗教歌っぽい典型的な曲もある一方、
結構ロックしていたり、ポップな感じの曲もたくさんあります。

はっきり言って、そのへんの凡庸なバンドやボーカリストよりも
何倍もクールです。

ゴスペル・ミュージックの世界がこんなにすばらしいものだったとは・・・

もっと早く知っておくべきだったと後悔しているほどです。


おそらく多くの方にとっては、

「知られざるゴスペルの世界」

といったところだと思いますが、
機会があればちょっと試してみたらどうでしょうか。

たとえば、上記ゴスペルグループでは、
ゴスペルをやったことのない方を対象に、
7月に体験ワークショップの開催を予定しています。
募集人員は200人。すでに半分程度集まっているようですが、
ほとんどが女性なので、男性の参加者も大募集中だそうです。
(ワークショップは、東京と広島で開催されます)

興味のある方は、下記ホームページをのぞいてみてください。

> Anointed & Brighten Mass Choir

> 東京ワークショップ

> 広島ワークショップ

投稿者 松尾 順 : 22:50 | コメント (0) | トラックバック

最後の恋のはじめ方

ゴールデンウィークの谷間、いかがお過ごしでしょうか?
私はバリバリと仕事をしております。

とはいえ、ちょっと肩の力は抜きたいなあ・・・という気持ち。
また、昨日は、現地で映画の買い付けや制作の仕事に関わっている
LA駐在員の古い友人に数年ぶりに会い、旧交を温めてました。


というわけで、たまにはお勧め映画をご紹介。


『最後の恋のはじめ方』(原題:HITCH)


この映画は、私も友人に勧められて見ました。
知られざるラブコメの佳作といったところ。

シナリオがよくできてます。主演のウィル・スミスやっぱり面白い。
脇を固める共演者たちも、いい味出してますね。


さて、ウィル・スミス演じる「ヒッチ」(HITCH)はデートコンサルタント。
もてない男性に対して「恋の手ほどき」をしてあげるのが商売です。

そして、今回のクライアントは会計士のアルバート、30歳くらい?

ちょっと太めのぱっとしない外見、何をやっても不器用な彼が、
取引先の魅力的な女性、「アレグラ」に恋をします。

彼女は親の莫大な遺産を受け継いだ、いわゆるセレブな人。
アルバートにとっては高嶺の花です。

それでも、彼女のことを思うと夜も眠れないアルバートは、
思い切ってヒッチにコンサルティングを依頼しました。

さて、ヒッチが支援することにしたアルバートの恋の行方はいかに・・・


これ以上のストーリーは見てのお楽しみということにしますが、
このドジなアルバートがなんともかわいいんですよ!

彼は、確かにあまりもてそうなじゃないし、
女性との付き合い方がよくわからない、「いるいる、こんな人」
というタイプ。


でも、恋には一途。
また、「誠実」なだけじゃなく、実は言うべきことはズバリと言える
「勇気」と、セレブ社交界のいやみでスノッブな連中を煙に巻ける
「ウイット」、そして、「キュートな口びる」(見ればわかります)を持つ、
実に魅力的な人物です。


そんな「いい奴」をなんとか幸せにしてあげようととがんばるのが
ヒッチなんですね。

ヒッチは、女性のことが本当に好きな男性だけしか助けない。

「行きずりの相手と寝たいから、どうにかしろ」

などという性悪男の仕事の依頼はきっぱり断る。
プロとしての矜持があります。


ところで、HITCHの恋の手ほどきですが、「うまく口説く方法」
というよりは、むしろ「きっかけの作り方」や「失敗しない方法」
を中心に教えています。

うまくいくかどうかは、結局は当人同士の相性ですし、
変によく見せようとしてもいつかはボロがでる。

おそらくヒッチはこう考えているんでしょうね。
クライアントの男性が持つ本来の個性をそのまま相手に出すことは
否定しないのです。


そういえば、ある著名なベンチャー企業の経営者が、

“女性にもてるコツは、なによりもまず「不潔な服装」など
女性に嫌わる点を一つ一つつぶしていくことだ”

と喝破していたのを思い出しました。

ビジネスも同じですが、成功するかどうかの予測は難しいけれど、
失敗するかどうかは、ほぼ100%予測できますからね。

成功の法則はないけれど、失敗の法則はあるのです。
恋愛にもビジネスにも。

ともあれ、この映画、ほんわかハッピーになれますし、
恋はテクニックだけじゃないんだよということを教えてくれる
ナイスムービーです。

投稿者 松尾 順 : 08:46 | コメント (2) | トラックバック

それがぼくには楽しかったから・・・

現在、LINUXのネットワークプログラミングを学習中・・・

熊本大学大学院(修士課程)2年次、2007年前期の科目
として選択しました。

いや、最初は取るつもりはなかったんですけどね、
単位が足りないので。(笑)


昨年入学したこの大学院、専攻は、

社会文化科学研究科 教授システム学専攻

というんですが、一言で言えば、

「eラーニングの企画・設計・運営方法」

を学ぶWeb大学です。


eラーニングのコンテンツの制作やデリバリーには、当然ながら、
ICT(Information Communication Technology)、
とりわけインターネット技術が最大限に活用されるため、
当大学院選択科目としてUNIXのネットワークなんぞも
用意されているというわけです。
(昨年度は、HTML/JAVAの基礎もやりました)


まあ、エンジニアになるための科目ではないので、
基本的なことをさらっとやるだけでしょうし、
学習の目的は、eラーニングの基盤構築についてエンジニアと
意思疎通ができるようになることだと思いますので、
がんばればなんとかなりますよね。
(なんて他人に聞いてどうする>自分)

ともあれ、「いやいや」じゃなくて、楽しんでやろうと思ってます。
大学院自体、私が望んで入学したわけですし。

実際、知らないことを知る、
できなかったことができるようになるというのは楽しいんですよね・・・


さて、私のWindowsマシンに、
仮想ソフトを利用してLINUXをインストールしながら、
ふと、6年前のことを思い出しました。

「そういえば、2001年に、LINUXの開発者、
リーナス・トーバルズさんにインタビューしたんだよなあ」

リーナスさんは、当時和訳されたばかりの自著

「それがぼくには楽しかったから」

のプロモーションのため来日されました。

そして、私は、某オンライン書店の仕事で、
彼にインタビューする幸運な機会に恵まれたのです。
(サインもらっとけばよかったなあ・・・)


リーナスさんは、なぜLINUXを開発したのか?

もちろん本の題名どおり、

「それが僕には楽しかったから(just for fun)」

です。


また、直接的にはお金が儲からないのにも関わらず、
なぜ、世界中のプログラマがLINUXの開発に喜んで参加しているのか?
(現在、LINUXの全プログラムのうち、リーナスさんが開発した部分は
 わずか2%なんですよね。残りは他のプログラマがボランティアで開発
 しているということです)

本にも書いてあったんですが、インタビューの中でもリーナスさんは
次のような明快な答えを用意していました。

“私たちが生きる意味とは、

「生き残り」、「社会性」、「娯楽」

であり、リナックスはそのショートバージョンを提供しているんだと考えたんだ。

リナックスは、

「社会性」と「娯楽性」

の両方の側面を与える。”

“リナックスには世界中の最高のプログラマーたちが参画しているんだけど、
それを最も簡潔な言葉で表すとしたら、リナックスをやることは、

‘チームスポーツ’

だと言える。実際にボールを蹴ったりはしないけどね。

リナックスをやることは、大きな楽しみであると同時に、
社会の一員としての「チームスピリット」を感じることのできる機会なんだ。”


リーナスさんだけじゃなくて、LINUXに関わっているプログラマの人たちもまた
なによりも、「楽しいから」という理由で参画していること、
同時に、それは仲間とともにLINUXをより良いものにしていくという共通の目標に
向かって協同できるという充実感を与えてくれるということなんでしょうね。


私は、キャリアアドバイザーとしても活動していますが、
そうした立場で今振り返ってみると、リーナスさんは、

一流の「キャリア論」「人生論」

を展開していたことを改めて実感しました。


人生、そして仕事も、楽しむためにある。


私もこう思います。

ただし、リーナスさんは次のようにも言っています。

“楽しむためには努力しなきゃいけないんだよ”

逆説的ですが、

「楽(らく)なこと」は「楽しいこと」

につながらないのが人生の真実なんですよね。

ちょっとがんばらないと解けない(人生や仕事上の)問題
にうんうんいいながら取り組んで、解けた時に「楽しかった」
という気持ちと充実感を得るものなんです。

投稿者 松尾 順 : 08:21 | コメント (2) | トラックバック

イノベーションの達人(書評総合版)

これまで11回に分けて、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

の書評を書いてきました。
ここですべてをまとめて再編集した「書評総合版」を掲載します。
(長いですよ)

さて、同書の著者であるトム・ケリー(以下、トム)は、
世界最高のデザインファームと賞賛される‘IDEO’社の
ゼネラル・マネージャーです。


この本は、一言でいうと、

イノベーションあふれる会社(組織)に必要な

10の人材(キャラクター)

について解説したものです。

原題は、

‘THE TEN FACES OF INNOVATION’

ですから、文字通りタイトルが内容を体現しています。


経済、社会、技術が複雑、高度化した現在、
イノベーションは、とても一人だけでは成し遂げることは
できませんよね。

様々な異なる強みをもった人材が力を合わせてこそ、
イノベーションは実現できる、トムはそう考えています。


ところで「イノベーション」とは何でしょうね。

改革?革新?

気軽に使われる言葉ですが、
本質をうまく説明するのは、なかなか難しいものです。

本書では、イノベーションとは、

「新しいアイディアを発想し、実験し、鼓舞し、確立していくこと」

です。

重要な点は、ただ発想するだけでなく「実践」すること。

どんなにすばらしいアイディアが生まれたとしても、
それを育み、具現化しなければなんの意味もない。

イノベーションというと、発想力のある「アイディアマン」
の存在が不可欠だよなあ、とあなたも考えるんじゃないかと
思いますが、しばしばアイディアマンには実現するための
執念や実行力が欠けています。(笑)

そこで、人材が集まったチームとしてイノベーションに
取り組むことが必要になってくるわけです。


では、イノベーションを通じて新たな価値を生み出す10の人材
(キャラクター)とは?

トムは、10の人材を大きく次の3つのカテゴリーに
分けています。

●情報収集をするキャラクター
●土台をつくるキャラクター
●実現するキャラクター


彼らのそれぞれの役割について簡単に説明しましょう。

●情報収集をするキャラクター

彼らの役割は、文字通りイノベーションの元ネタを
「情報収集」すること。

現状に決して満足せず、
チームの目が内側に向きすぎないように、また、
自分の「知識」におぼれすぎていないかどうかを
組織に思い出させます。


●土台をつくるキャラクター

生まれたアイディアを育てるための土台を作る役割です。
大きな価値を生み出すアイディアも最初は海のものとも
山のものともわからないもの。

しばしば組織論理につぶされてしまうことがあります。
彼らは、手練手管を尽くして、アイディアの実現に
向かって人々を巻き込んでいく手腕を発揮するのです。


●実現するキャラクター

彼らは、情報収集をする役割から得られた発見を適用し、
土台をつくる役割から委託された権限を利用して、
イノベーションを実現します。


そして、この3つのカテゴリーそれぞれに入る10の人材
(キャラクター)は次の通りです。


●情報収集をするキャラクター
1 人類学者:観察する人
2 実験者:プロトタイプを作成し改善点を見つける人
3 花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人

●土台をつくるキャラクター
4 ハードル選手:障害物を乗り越える人
5 コラボレーター:横断的な解決策を生み出す人
6 監督:人材を集め、調整する人

●実現するキャラクター
7 経験デザイナー:説得力のある顧客体験を提供する人
8 舞台装置家:最高の環境を整える人
9 介護人:理想的なサービスを提供する人
10 語り部:ブランドを培う人

では、以下、10人の達人を順番にご紹介していきます。


1.人類学者

「人類学者」と呼ばれる人、言い換えると、
「人類学者」の役割を担える人は、

「問題を新しい枠組みでとらえること」

に非常に長けています。

同書では、マルセル・プルーストのこんな言葉を引用しています。

“発見という行為の真の意味は、新しい土地を見つけることに
 あるのではなく、新しい目でモノを見ることにある”


優れた発想・アイディアは、従来とは異なる視点や、
既存の情報の新しい「組み合わせ」から生まれるという主張は、
最近は多くの人が知るところになってきたかと思います。

「人類学者」は、優れた発想・アイディアを生み出すネタ元
であって、イノベーションの中で最も重要な役割と言えるかも
しれません。


さて、トムは、人類学者の特徴として次の6つを挙げます。

1.人類学者は禅の法則「初心」を実践している
2.人類学者は人間の行動を新鮮な驚きをもって受け入れる
3.人類学者は自分の直感に耳を傾けることによって推論を
  導き出す
4.人類学者は、「ヴィジャデ」を通じてひらめきを求める
5.人類学者はつねに「バグ・リスト」やアイディアの財布を
  身につけている
6.人類学者は手がかりを求めてゴミ箱さえもあさる。


詳細は本書を読んでいただくとして、いくつか補足説明が
必要ですね。


4.の「ヴィジャデ」とは「デジャブ」のサカサマ語。

「デジャブ」とは「既視感」と訳されますが、
初めてきた場所なのに、どうも以前来たり、見た覚えがして
しょうがないそんな感覚を言います。
(ありますよね、そんな気持ちになったこと)

「ビィジャデ」はその反対ですから、前に何度も見ている
ものをいま初めて見ているような感覚のことです。


5.の「バグ・リスト」とは、世の中にある不満なこと、
不便なことなどのことです。

一方、アイディアの財布には、革新的なコンセプト、
そのコンセプトを実現するために解決すべき問題点が
含まれています。

人類学者はこうした「気づき」をしばしば
たんねんにメモしているのです。


さて、上記に示した人類学者の6つの特徴を眺めると
ほぼ同じようなことを言い方を変えて言っているだけ
のようです。

人類学者は、端的には「子供のような素直な観察眼と、
あくなき好奇心を持っている人」と言えるでしょうね。


では、単に現在を観察するだけでなく、そこから未来を
見通すためには、誰を観察の対象とすべきかわかりますか?


それは、

「若者」(特に10代)

です。

既存の枠にとらわれず、というか、古いものを
ガンガン壊して、新たな文化を生み出すのは常に若者。

これからの時代の空気を最も敏感に感じているのは若者であり、
新作映画のネタ出しや、仕上がりの良し悪しを確認するために
自社の若手のスタッフに聞く、

と言うのは、スタジオジブリの宮崎敏夫プロデューサーでした。

トムもまた、

「子供は次に何が起こるかを予測するてがかりを
 教えてくれる

と考えているのです。


2.実験者

「実験者」は、人類学者が提示したアイディアのネタを
具体的なものにする役割を果たします。

ざっとスケッチを描いたり、発砲パネルをテープでつぎはぎ
したり、急ごしらえのビデオを制作したりして、
新しいサービスのコンセプトに「性格」と「形状」を与えます。


実験者は、さまざまなアイディアやアプローチを試すのが
大好きな人。

大発明家のエジソンが典型的です。
エジソンのこんな言葉が本書では引用されています。

“私は失敗したことがない。一万通りのうまくいかない方法を
 発見しただけだ”


最近の発明家で大成功した人と言えば、
サイクロン式の掃除機を開発したイギリスのジェーズ・ダイソン氏
が思い浮かびますね。

ダイソン氏は、掃除機の最終的なデザインを決めるまでに、
5127種類のプロトタイプ(原型)をつくって失敗したそうです。


さて、どんなにすばらしいアイディアを思いついても、
言葉だけでは、実際の形のイメージや面白さ、効用を伝える
のは難しいものですよね。

実験者にとって重要なのは、アイディアをできるだけ早く
目に見える具体的なものにすることです。

ここで、会社・組織としては、まだ不完全で未熟なプロトタイプ
を作り、提案することを許容する文化が求められます。

最初から高い基準を持ち、完成度の高いものを求めてしまうと、
みすぼらしい形だからという理由で、すばらしいアイディアが
却下されてしまうからです。

トムは、コンサル先の会社のエグゼクティブに対して、
少しばかり「目を細めてみる」こと-
つまり、表面上の細かい部分は無視して、アイディアの全体像
だけを見ることを推奨しているそうです。


ところで、実験者は、モノづくりの部分だけでなく、
広告の仕方、売り方などにおいても、既存のルールを破って
新たな方法を試すことに果敢に挑戦します。

広告の仕方について言えば、
BMWのショートフィルムの事例が、本書で紹介されています。

BMWのブランディングのために、
今まではテレビコマーシャルを活用していたのを一切止め、
8分間のドラマ「ザ・ハイヤー」を制作して、
同社のWebサイトだけで公開しました。

この従来のルール破りのマーケティングは大きな話題を呼び、
多くの消費者をBMWのサイトに呼び込んだだけでなく、
2年連続で売上げを更新する具体成果につながりました。

あれ以来、日本でもブランディング用のショートフィルム
制作が盛んになってますよね。


トムは、実験は次の大躍進に向かうための最良の方法の
ひとつであり、だから、

いつまでもスタートラインに立ったまま、
レースの行方をあれこれ思案しているのはやめよう。
とにかく動き出して、いろいろなことを試してみればいい。
そのうちに、ひょっとしたら勝つための新しい手段が
見つかるかもしれないのだから、

と私たちに提案しています。


3.花粉の運び手

「花粉の運び手」は、特に関連もなさそうな複数のアイディアや
コンセプトを並列させることによって、新たに優れたものを
生み出す能力を持っています。

人類学者が観察を通じてアイディアのネタを発見するのが得意
なのに対し、花粉の運び手は、情報の組み合わせやメタファーを
駆使するのが得意なようです。

例えば、花粉の運び手の功績のひとつとして本書で紹介されている
ものに、ピアノの鍵盤のアイディアを拝借して、
初期の手動のタイプライターを開発した事例があります。

ピアニストが鍵盤を指でたたくイメージから、
文字通り、タイプライターから今のPCに至る「キーボード」
の原型が生まれたんですね。
これは、「メタファー(比喩・置き換え」の力」と言えます。

こうして、ある物事をまったく別のところに持ち込むことで
斬新なアイディアを生み出すさまをトムは「他家受粉」と呼び、
それを実行するのが「花粉の運び手」というわけです。


花粉の運び手は、強い好奇心と柔軟な頭脳の持ち主です。

本や雑誌やネット上の記事をむさぼり読んで、
自分やチームが巷の話題に乗り遅れないようにしますし、
多方面に関心があって多彩な経験をするので、
ひとつの経営課題からアイディアを拝借して
思いもよらぬ別の状況に生かすのがうまいのです。


では、組織の中で「花粉の運び手」を育てるためには
どうしたらいいのでしょうか。

トムは、IDEO社が持つ他家受粉のレシピにある7つの
「隠し味」を紹介してくれています。

1.発表会をしよう。
2.さまざまな背景をもった人をたくさん雇おう。
3.議論が巻き起こるような空間をつくろう。
4.さまざまな地域のさまざまな文化を取り入れよう。
5.週に一度の「ノウハウ」講演会を主催しよう。
6.客人から学ぼう。
7.多様なプロジェクトを進めよう。

要するに、さまざまな異なる文化的背景や価値観を持つ人々を
歓迎し、彼らが自由に議論できる環境をつくりだすということ
のようです。

まさに、

「ダイバーシティ・マネジメント」(多様性の管理)

のことですね。


そして、トムによれば、
よりよい「花粉の運び手」になる最も効果的な方法は、

「さまざまな場所に足繁く通うこと」

だと述べています。

「花粉の運び手」には、
好奇心だけでなく行動力も必要のようですね。


4.ハードル選手

「ハードル選手」は、土台をつくる人の一人。
彼は、有望なアイディアをつぶしにかかる様々なハードルを
なんとかして乗り越えようとします。並外れた回復力があって、
ノーと言われても決してあきらめません。

ハードル選手は、かならずしも課題を正面から取り組む必要は
なく、障害をうまく回避すればよいと考えています。
しかし、状況を見極めた上でリスクを取り、しばしば規則を
破ってでもアイディアを推進することをいといません。


本書では、「ポストイット」をはじめとする独創的な製品で
知られるスリーエム社の事例などが紹介されています。

例えば、スリーエム社のマスキングテープ
(塗装作業で色を塗り分ける時などに貼る粘着テープ)
の開発を担当した同社のハードル選手は、リチャード・ドルー。

彼は、自動車車体工場に行った時、
自動車の塗装に失敗した工員が悪態をついているのをみて、
粘着テープを開発することに決めます。

しかし、当時のスリーエム社は経営不振に苦しむ紙やすり
のメーカーで、テープの製造経験はありませんでした。

ただ、リチャードは、同社の技術でテープが開発できる
可能性があることに気づいており、勝手に実験を始めます。

やがて社長に実験のことがばれると、
元の紙やすりの仕事に戻るように言われますが、
戻ったのは1日だけ。

またすぐに、テープの開発のための実験を再開しました。
(今度は、なぜだか社長は見て見ぬふりをします)

次に、リチャードは、
テープを作るための製紙機械の購入を会社に申請します。
しかし、これも却下されました。

でも、やはりリチャードはあきらめません。
研究員として与えられていた100ドルの購入権限を利用して
99ドルの申請書を何枚も書いて、こっそり機械を購入して
しまうのです。(不正行為ですよね・・・)


しかし1925年、リチャードは世界初のマスキング・テープ
の製造に成功を収めます。
最初の顧客はデトロイトの自動車メーカーでした。

スリーエム社は、研究時間の一定時間を自分の好きな研究に
使っていいという制度や、秘密裡に勝手に行う研究、
「スカンクワーク」に寛容なカルチャーを持っていますが、
その原点はこのマスキング・テープにあるんでしょうね。


とかく、企業は革新的なアイディアに対しては、
拒否反応を示しやすいし、リスクを恐れて十分な時間やお金、
人を配してはくれないものです。

そんな時、ハードル選手は、それこそどんな手を使ってでも
アイディアを進める、ある意味偏屈なまでの強い粘りを
発揮するんですよね。

日本で言えば、ノーベル賞級の発明といわれた「青色ダイオード」
の開発者、中村修二氏もまた、代表的な「ハードル選手」と言える
でしょう。


5.コラボレーター

そうそう、CNET Japanにトム・ケリー氏の最新インタビュー記事が
掲載されてます。


トム(面識もないのにファーストネームで呼ぶのはちょっと
失礼かもしれませんが)は、毎年日本に仕事で来ているそうですね。
本では、日本企業の事例もいろいろと取り上げられています。


さて、「コラボレーター」は、土台をつくる人たちの中で、
文字通り、多くの人々をまとめて目的を遂行させます。

あの偉大な発明家、エジソンも優れた実験者であり、かつ
コラボレーターでした。

昔の発明家は、バック・トゥ・ザ・フュチャーに出てくる
「ドク」のような、誰にも相手にされないちょっと変わった人。
1人でアイディアを発想し、ガレージでコツコツ試作品を
作っているイメージがあります。

しかし、エジソンの場合、優秀なエンジニアなどの人材を率いて、
「チーム」として新しい発明に取り組んだことが意外に知られて
いません。

最近は、ますます技術が高度化し、専門分化が進んでいますから、
ちょっとした工夫レベルの発明でもない限り、チームとして
イノベーションが起こせる仕組みが必要です。

チームを取りまとめるコラボレーターの役割は以前にも増して
重要になってきていると言えるんじゃないでしょうか。


トムによれば、コラボレーターが務まる人は、

個人よりもチームを重んじ、個人的な達成よりもプロジェクトの
完逐を第一に目指す奇特な人

だそうです。


コラボレーターは、こんな「無私の心」で様々な人々との
共同作業を遂行する潤滑油のような働きをしてくれますが、
同書では、「顧客」との共同によって新たなアイディアを
生み出す方法として、

「非フォーカスグループ」

というものが紹介されています。


通常のフォーカスグループ(インタビュー)では
一般的な顧客を集めます。

これは検証段階では有益ですが、
画期的なイノベーションのヒントを求めるのなら駄目。

フォーカスグループではありきたりのヒントしか
得られないとIDEO社では考えているようです。


そこで、開発している製品やサービスに
「異様に熱中している人」を集めて意見を聞くのが

「非フォーカスグループ(インタビュー)」

です。要するに、その道の「オタク」と呼ばれる人たちを
招くということでしょう。


「非フォーカスグループ」は、
革新的なデザインのテーマやコンセプトに関するひらめきを
与えてくれるそうです。また、どんなものが人を心から興奮させ、
かりたてるかを表情や身振りで具体的に示してくれます。


「オタク」な人たちは、その熱中している対象に
のめりこんでいます。そのことについてなら何時間でも話せる。
メチャクチャ詳しい。

仕事でいきなりテーマを与えられて、取り組み始めたばかりの
プランナーよりも、彼らの方がはるかに豊富なアイディアを
出してくれそうですよね。


コラボレーターは、こんな人々を見つけ出してくるのも
得意なのです。

あなたの会社・組織にも、コラボレーター役の人いますか?


6.監督

本書の「監督」の章の冒頭に引用されている、
スティーブン・スピルバーグ監督の言葉が印象的です。

「私は夢で生計を立てている」

こんな人生送れたら最高ですね。うらやましい限りですね。(^_^)


さて、「監督」とは、

製作過程の計画を立て、ステージを構成し、俳優から最高の
演技を引き出し、プロジェクトや会社の趣旨を明確にし、
全体の調和をとって仕事を完成に導く人

です。

ただ、トムの考える監督は、決して「トップダウン型」の
リーダーではないですね。

むしろ、偉大な監督は、縁の下の力持ちを進んで引き受け、
舞台の中央を他人に委譲し、各メンバーがほとんど指導を
必要とせず、自ら実例を示して率先して行動するチームを
作り上げます。

公式の権限が仮になかったとしても、メンバーの士気を
高めることができる人心掌握術の持ち主と言えるでしょう。


ハリウッドには、

「監督の仕事の90%は配役だ」

という格言があるそうですが、企業組織でも同じですね。


監督は、プロジェクトに適したメンバーを見つけ、
巻き込み、各メンバーの才能や個性に応じた適切な
配置を行って、チームの調和を図ることができなければ
なりません。

これ、人が相手ですから、たぶん他のどんなキャラクターと
比較しても一番難しくて面倒な仕事です。

立場上、監督が一番偉いのは当然かもしれません。


ところで、同書の監督の章にはとてもうれしいことが
書いてあります。

それは「昼寝のすすめ」


IDEO社の経験によれば、ブレーンストーミングは朝が
一番盛り上がるそうです。

つまり、頭が冴えてアイディアが出やすい。
朝は、エネルギーと創造性がピークに達している刻限
なのです。

そこで、日中に適度な仮眠を取るようにすれば、
一日に2度、エネルギーと創造性のピークに達すること
ができるというわけです。


また、ハーバード大学のある調査によると、
昼間の仮眠は「情報過多」を緩和するのだそうです。
昼寝は脳がさまざまな仕事を学習する能力を高め、
記憶を強固にするらしいのです。


実は、私は会社勤めをしていた頃から、
日中、デスクに座ったまま、うつらうつら、
いや「仮眠」をしていました。

人にわからぬようにこっそり寝ていたつもりですが、
当時の同僚たちは皆気づいていたようです・・・(⌒o⌒;


5年前に独立して、
自分の事務所でデスクワークするようになってからも、
しょっちゅう眠くなってしまいます。
(しかし、幸いにも一人でやってるので、私の居眠りを
 見咎める人はいません)

それで、我慢できずについついソファーに横に
なってしまうのですが、いつも、

「自分はなんてぐうたらなんだ」

と目覚めるたびに自己嫌悪に陥っていたものです。


しかし、この本を読んだ今となっては、
ためらいなく仮眠することができるので、
とても喜んでいるわけです。


なんたって、トムは、偏見や先入観を捨てさえすれば、

「昼寝は、野心的で創造的な人間の強力なツール」

とまで言い切ってるんですから。(笑)


7.経験デザイナー

「経験デザイナー」はイノベーションを実現する人々の一人。
すばらしい「顧客経験」を創造しようと、
ひたむきに努力する人です。


冒頭に、トム・ピーターズのこんな言葉が引用されています。


零細企業であろうと、巨大企業であろうと、ほとんどの会社に
とっての「付加価値」は、提供される良質の経験によって生じる


今の客にとって、製品とは、

形のある製品+形のないサービス

です。(単純化してますが)


つまり、実際に手にする製品本体だけでなく、
購入する場所の雰囲気や、そこでの店員とのやりとり、
購入後の定期点検などのアフターサービスなど、
製品に付随するサービスすべてをひっくるめて
ある会社の「製品」であり「ブランド」なのです。

この両者を合せた製品は、通常の製品本体と区別して、
「ホールプロダクト(全体的製品)」と呼びますね。

ですから、どんなに製品そのものが優れていても、
アフターサービスが良くなければ、
その製品・ブランドの評価は下がります。

そして、今さら言わなくてもおわかりだと思いますが、
「製品本体」での差別化が困難な今、付加価値的な
サービスの部分で差別化を図るしかありません。


「顧客経験」を設計する「経験デザイナー」の役割の
重要性がわかりますよね。

本書で紹介されている例で最も面白いのは、
米国のアイスクリーム店、

「コールドストーンクリマリー」
です。

日本には昨年、アジア第1号店として六本木ヒルズに出店。
人気店となって、現在は国内5店舗まで増えています。


さて、コールドストーンでは、
従来のアイスクリーム店とは全く異なる体験があります。

食べたいアイスクリームとトッピングの種類を選ぶと、
店員は、それを冷やした御影石(まさにコールドストーン!)
の上で2本のヘラを使って混ぜ合わせます。

しかも、店員は歌をうたいながらリズムに乗って!


これはまさに「パフォーマンス」。
自分のためのアイスクリームが出来上がるプロセスを
見るのは実に楽しいわけです。

しかも、混ぜ合わせることで、既存のアイスクリーム店の
固い食感のものと違って、柔らかくクリーミィな味に
なっています。

コールドストーンの成功をみると、
飽和状態かと思われたアイスクリーム店市場にも、
アイディア次第でまだまだ参入余地があったということが、
わかりますね。


コールドストーンのコンセプトは、

「アイスクリームの革新と経験」

だそうですが、アイスクリーム本体よりも、
「すばらしい顧客経験」を売り物にすることにしたのは
「経験デザイナー」の貢献でしょう。


8.舞台装置家

「舞台装置家」は、大道具係のことですね。
社員の創造性を刺激し、イノベーションを生み出すことのできる
最高の職場環境を整えることが役回りです。

イノベーションとは、多くの場合、既存の固定観念やルールを
打ち破ることから生まれますよね。もし、職場が細かい制限
だらけで味気ないものだとしたら、イノベーションは自分の
居場所がなくなって出てこなくなるでしょう。


また、舞台装置家は、
すばらしい顧客の体験を演出するための物理的環境の設計に
おいても活躍します。

特に小売・サービス業で重要ですが、店舗・施設の空間デザインは
顧客の満足度、そして収益に大きな影響を与えます。

同書によると、ラスベガスのカジノでは、1950年代から
空間の改良による見返りを測定してきています。

例えば、ホテルの客をエレベーターまでまっすぐ歩かせずに
スロット・マシンの並んだジグザグの通路を歩かせると、
「あがり」(売上)は明らかに0.7%上昇するのだそうです。


また、同書では、トムが率いるIDEO社が関わった
有名病院の建物の設計にまつわる話も紹介されています。

この病院には、優れた心臓外科の先生たちがいました。
毎日、患者の生命を救い、同僚や地域社会から尊敬されている
特別な人たちです。

彼らは、病院に、正面玄関とは別に心臓病患者専用の玄関を
設置することを希望しました。「権威」のある心臓外科医が
治療をほどこす「神殿」にふさわしい特別の入り口を
欲しがったわけです。


IDEO社のスタッフは、果たして玄関が2つ必要かどうか、
疑問を持ちました。

そこで、外科医、患者の意見を聞き、また正面玄関とロビー、
病室の観察を行った後、病院のデザインづくりに先生方を
巻き込んで、次のような質問を投げかけたのです。

“心臓切開手術を受けに来るときの気持ちはどんなものでしょう?
 どう控えめにみても不安でしょう?そこで別の玄関から
 入らなければならないと知れば、不安は軽減されますか?”

“手術が必要なほど深刻な病気の人が足を踏み入れる専用玄関
 ですか?それは、人の心理にどんな影響を与えるでしょう?”


結局、心臓外科医たちは、自分たちのエゴの反映である
別の玄関を作るというアイディアを捨てました。
そして、患者の気持ちも考え、専用玄関の代わりに、
2階につながる立派なエスカレーターを設置しました。

この立派なエスカレーターは、心臓病患者に対して
歩かなくて良いというメリットを提供すると同時に、
心臓外科医の専門的技能を称える存在として機能しています。
かといって、専門玄関ほど美化しておらず、患者をことさらに
不安に陥れることはありませんでした。


考えてみれば、会社では、ビルの最上階に立派な個室を持ち、
室内に高級な調度品を誂え、自分の権威を誇示したがる経営者が
いますが、こうして敷居を高くしてしまうと、現場の情報が
ほとんど入ってこなくなります。

経営者にとっては、
外界から断絶された空間で実に心地よい時間を過ごせるのかも
知れませんが、イノベーションを生む空間では決してありませんし、
そんな会社では、おそらく衰退が静かに進行し始めているに
違いありませんよね・・・


9.介護人

日本語で「介護人」と聞くと、
介護福祉士を連想してしまいますね。

元の英語は、‘Care Giver’です。
気配りのできる人、世話好きな人という理解のほうが
わかりやすいかなと思います。

もちろん、介護士や、医師、看護師といった職業は、
最も純粋な形での‘Care Giver’と呼べますが。


さて、医療福祉業界に限らず、
あらゆる分野で私たちは皆、優れた介護人を求めていますよね。

例えば、レストランのウエイター・ウエイトレス、
ホテルのコンシエールジュ、あるいは担当の美容師。

私たちが接するこうした人たちが優秀かどうかで、
その店やホテル、企業に対する評価がまったく違ってきます。


優秀な介護人は、あなたがそこで「唯一の顧客」だと
感じさせてくれます。

介護人は人の気持ちを思いやります。お互いの関係を
深めようとします。

介護人は、労を惜しまずに個々の顧客を理解しようと
努めます。

なぜなら、それぞれの個人的な関心や要望に合わせるのが
最良のケアだからです。


要するに、介護人は、
顧客との永続的な関係維持を重視する
CRM(Customer Relationship Management)戦略、
あるいはワン・ツー・ワンマーケティングを現場で
実践する人たちと言えるのでしょう。


そして、おそらく、どんなにロボットが進化しても、
人と人との心の絆を生み出すことのできる「介護人」
の替わりはできないと思います。

また、日本人は特に好きですが、なんでもかんでも
自動化(=省人化)してしまうのは間違っています。


トムは本書の中で次のように述べています。

「自動化がどれほど進んだとしても、人間による操作や
人間同士の交流を維持しておくことには大切な価値が
ある。」

「自動化された新しいサービスを利用する人にも、
実体のある文字通りの触れあいをさせるようにするべきだ。」


また、IDEO社ロンドン・オフィスの
インタラクション・デザイナー、マット・ハンターは、

「サービス機械にやってほしくないことを見極めるのは
 最も重要なことかもしれない」

「ハイテクの世界では、テクノロジーの驚異を利用して改良した
 伝統的な個人対個人のカスタマーサービスを届けるのが
 最善のサービスになることがある」

と言っているのです。


すでに繰り返し書いてきたことですが、
ハード(見える次元:製品の機能・性能)での差別化が
困難となった今、ソフト(見えない次元:人的サービス)こそが
持続的な競争優位の源泉です。


優れたイノベーションを定着させるという大仕事は、
ひとえに「介護人」にかかっていると言えるでしょうね。


10.語り部

本書の「語り部」の章、冒頭の引用がぐっときます。


世界は原子でできているのではなく、物語でできている

-ミュリエル・ルーカイザー(詩人)


ブランドの価値に精通した現代の企業は、
よい物語の語り方を知っています。

彼らは、新しい試みやひたむきな努力やイノベーションを
説得力のある物語にして、私たちのイマジネーションを捉えます。


物語には、事実や報告書や市場動向では伝えられない説得力が
あります。物語は、感情面での結びつきを形成するからです。

また、物語の語り部は、チームに団結をもたらします。
その物語は組織の伝承となっていつまでも語られていきます。


そして、何よりも、物語の語り部は、
普通の人たちをヒーローにします。

確かに!
思わず、「プロジェクトX」を連想してしまいますが、
優れたブランドには必ず、よく知られた物語がありますよね。


さて、私たちが人を理解したいなら、そして
人が本当に求めているものを知りたいなら、
人が語る物語に耳を傾けなければいけません。

トムは言います。

“私たちの多くは、他人の物語を理解するとき、近道を
 しようとする悪い癖がある。「要するに」と思いつつ
 話を聞くから、あんたの考えを聞かせてくればいい、と
 端的に重いってしまう。(中略)
 ・・・さっさと要点をいってくれ、というわけだ”

一方、イノベーションの達人の一人である「人類学者」は
人の端的な考えなど聞きません。すぐに結論に飛びつくことも
ありません。イエスかノーかと尋ねる質問をしません。

人類学者は、現場に出て行き、

「あなたは自分の携帯電話サービスを気に入っていますか、
 いませんか」

といった質問ではなく、

「あなたが自分の携帯電話にがっかりしたときの話を
 聞かせてください」

といって会話を始めるのです。

会話の中心を物語に据えることによって、
相手との強い個人的な絆を形成し、深い洞察を得ます。


ですから、組織(企業)は、物語のよい聞き手であることも
必要だというわけです。


同書では、組織(企業)がよい語り部になるべき7つの理由を
挙げています。ここでは項目のみ記します。
詳細はぜひ同書を読んでください。

1.ストーリーテリングは信頼性を築く
2.ストーリーテリングは強い感情を解き放ち、
  チームの絆を深める
3.物語は物議をかもす問題や厄介なテーマについても
  探索する「許可」を与える
4.ストーリーテリングはグループの視点に感化をおよぼす
5.ストーリーテリングは主人公をつくる
6.ストーリーテリングは変革にかかわる新しい語彙を提供する
7.よい物語は混沌に秩序をもたらす


“よい物語はがらくたを突き抜ける”

とトムは言っていますが、断片的な情報が氾濫するなか、
魅力的なコンテキスト(文脈)を持つ物語は、人々の記憶の中に
ずっと残り続けるのです。

このことが、マーケティングに示唆すること。
説明しなくてもわかりますよね。

投稿者 松尾 順 : 09:00 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:語り部(ブランドを培う人)

ようやく最後の一人にたどりつきました。

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

から、10番めのキャラクター、

「語り部」

を取り上げます。


本書の「語り部」の章、冒頭の引用がぐっときます。


世界は原子でできているのではなく、物語でできている

-ミュリエル・ルーカイザー(詩人)


ブランドの価値に精通した現代の企業は、
よい物語の語り方を知っています。

彼らは、新しい試みやひたむきな努力やイノベーションを
説得力のある物語にして、私たちのイマジネーションを捉えます。


物語には、事実や報告書や市場動向では伝えられない説得力が
あります。物語は、感情面での結びつきを形成するからです。

また、物語の語り部は、チームに団結をもたらします。
その物語は組織の伝承となっていつまでも語られていきます。


そして、何よりも、物語の語り部は、
普通の人たちをヒーローにします。

確かに!
思わず、「プロジェクトX」を連想してしまいますが、
優れたブランドには必ず、よく知られた物語がありますよね。


さて、私たちが人を理解したいなら、そして
人が本当に求めているものを知りたいなら、
人が語る物語に耳を傾けなければいけません。

トムは言います。

“私たちの多くは、他人の物語を理解するとき、近道を
 しようとする悪い癖がある。「要するに」と思いつつ
 話を聞くから、あんたの考えを聞かせてくればいい、と
 端的に重いってしまう。(中略)
 ・・・さっさと要点をいってくれ、というわけだ”

一方、イノベーションの達人の一人である「人類学者」は
人の端的な考えなど聞きません。すぐに結論に飛びつくことも
ありません。イエスかノーかと尋ねる質問をしません。

人類学者は、現場に出て行き、

「あなたは自分の携帯電話サービスを気に入っていますか、
 いませんか」

といった質問ではなく、

「あなたが自分の携帯電話にがっかりしたときの話を
 聞かせてください」

といって会話を始めるのです。

会話の中心を物語に据えることによって、
相手との強い個人的な絆を形成し、深い洞察を得ます。


ですから、組織(企業)は、物語のよい聞き手であることも
必要だというわけです。


同書では、組織(企業)がよい語り部になるべき7つの理由を
挙げています。ここでは項目のみ記します。
詳細はぜひ同書を読んでください。

1.ストーリーテリングは信頼性を築く
2.ストーリーテリングは強い感情を解き放ち、
  チームの絆を深める
3.物語は物議をかもす問題や厄介なテーマについても
  探索する「許可」を与える
4.ストーリーテリングはグループの視点に感化をおよぼす
5.ストーリーテリングは主人公をつくる
6.ストーリーテリングは変革にかかわる新しい語彙を提供する
7.よい物語は混沌に秩序をもたらす


“よい物語はがらくたを突き抜ける”

とトムは言っていますが、断片的な情報が氾濫するなか、
魅力的なコンテキスト(文脈)を持つ物語は、人々の記憶の中に
ずっと残り続けるのです。

このことが、マーケティングに示唆すること。
説明しなくてもわかりますよね。

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:介護人

イノベーションを起こす10人衆のうち、
ご紹介していない人がまだあと2人残っています・・・


というわけで、今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

から、第9番めのキャラクター、

「介護人」

を取り上げます。


日本語で「介護人」と聞くと、
介護福祉士を連想してしまいますね。

元の英語は、‘Care Giver’です。
気配りのできる人、世話好きな人という理解のほうが
わかりやすいかなと思います。

もちろん、介護士や、医師、看護師といった職業は、
最も純粋な形での‘Care Giver’と呼べますが。


さて、医療福祉業界に限らず、
あらゆる分野で私たちは皆、優れた介護人を求めていますよね。

例えば、レストランのウエイター・ウエイトレス、
ホテルのコンシエールジュ、あるいは担当の美容師。

私たちが接するこうした人たちが優秀かどうかで、
その店やホテル、企業に対する評価がまったく違ってきます。


優秀な介護人は、あなたがそこで「唯一の顧客」だと
感じさせてくれます。

介護人は人の気持ちを思いやります。お互いの関係を
深めようとします。

介護人は、労を惜しまずに個々の顧客を理解しようと
努めます。

なぜなら、それぞれの個人的な関心や要望に合わせるのが
最良のケアだからです。


要するに、介護人は、
顧客との永続的な関係維持を重視する
CRM(Customer Relationship Management)戦略、
あるいはワン・ツー・ワンマーケティングを現場で
実践する人たちと言えるのでしょう。


そして、おそらく、どんなにロボットが進化しても、
人と人との心の絆を生み出すことのできる「介護人」
の替わりはできないと思います。

また、日本人は特に好きですが、なんでもかんでも
自動化(=省人化)してしまうのは間違っています。


トムは本書の中で次のように述べています。

「自動化がどれほど進んだとしても、人間による操作や
人間同士の交流を維持しておくことには大切な価値が
ある。」

「自動化された新しいサービスを利用する人にも、
実体のある文字通りの触れあいをさせるようにするべきだ。」


また、IDEO社ロンドン・オフィスの
インタラクション・デザイナー、マット・ハンターは、

「サービス機械にやってほしくないことを見極めるのは
 最も重要なことかもしれない」

「ハイテクの世界では、テクノロジーの驚異を利用して改良した
 伝統的な個人対個人のカスタマーサービスを届けるのが
 最善のサービスになることがある」

と言っているのです。


すでに繰り返し書いてきたことですが、
ハード(見える次元:製品の機能・性能)での差別化が
困難となった今、ソフト(見えない次元:人的サービス)こそが
持続的な競争優位の源泉です。


優れたイノベーションを定着させるという大仕事は、
ひとえに「介護人」にかかっていると言えるでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 14:26 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:舞台装置家

今日も引き続き、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

から、第8番めのキャラクター、

「舞台装置家」

を取り上げます。


「舞台装置家」は、大道具係のことですね。
社員の創造性を刺激し、イノベーションを生み出すことのできる
最高の職場環境を整えることが役回りです。

イノベーションとは、多くの場合、既存の固定観念やルールを
打ち破ることから生まれますよね。もし、職場が細かい制限
だらけで味気ないものだとしたら、イノベーションは自分の
居場所がなくなって出てこなくなるでしょう。


また、舞台装置家は、
すばらしい顧客の体験を演出するための物理的環境の設計に
おいても活躍します。

特に小売・サービス業で重要ですが、店舗・施設の空間デザインは
顧客の満足度、そして収益に大きな影響を与えます。

同書によると、ラスベガスのカジノでは、1950年代から
空間の改良による見返りを測定してきています。

例えば、ホテルの客をエレベーターまでまっすぐ歩かせずに
スロット・マシンの並んだジグザグの通路を歩かせると、
「あがり」(売上)は明らかに0.7%上昇するのだそうです。


また、同書では、トムが率いるIDEO社が関わった
有名病院の建物の設計にまつわる話も紹介されています。

この病院には、優れた心臓外科の先生たちがいました。
毎日、患者の生命を救い、同僚や地域社会から尊敬されている
特別な人たちです。

彼らは、病院に、正面玄関とは別に心臓病患者専用の玄関を
設置することを希望しました。「権威」のある心臓外科医が
治療をほどこす「神殿」にふさわしい特別の入り口を
欲しがったわけです。


IDEO社のスタッフは、果たして玄関が2つ必要かどうか、
疑問を持ちました。

そこで、外科医、患者の意見を聞き、また正面玄関とロビー、
病室の観察を行った後、病院のデザインづくりに先生方を
巻き込んで、次のような質問を投げかけたのです。

“心臓切開手術を受けに来るときの気持ちはどんなものでしょう?
 どう控えめにみても不安でしょう?そこで別の玄関から
 入らなければならないと知れば、不安は軽減されますか?”

“手術が必要なほど深刻な病気の人が足を踏み入れる専用玄関
 ですか?それは、人の心理にどんな影響を与えるでしょう?”


結局、心臓外科医たちは、自分たちのエゴの反映である
別の玄関を作るというアイディアを捨てました。
そして、患者の気持ちも考え、専用玄関の代わりに、
2階につながる立派なエスカレーターを設置しました。

この立派なエスカレーターは、心臓病患者に対して
歩かなくて良いというメリットを提供すると同時に、
心臓外科医の専門的技能を称える存在として機能しています。
かといって、専門玄関ほど美化しておらず、患者をことさらに
不安に陥れることはありませんでした。


考えてみれば、会社では、ビルの最上階に立派な個室を持ち、
室内に高級な調度品を誂え、自分の権威を誇示したがる経営者が
いますが、こうして敷居を高くしてしまうと、現場の情報が
ほとんど入ってこなくなります。

経営者にとっては、
外界から断絶された空間で実に心地よい時間を過ごせるのかも
知れませんが、イノベーションを生む空間では決してありませんし、
そんな会社では、おそらく衰退が静かに進行し始めているに
違いありませんよね・・・

投稿者 松尾 順 : 19:21 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人・・・経験デザイナー

今日は再び、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房


に紹介されている第7番めのキャラクター、

「経験デザイナー」

を取り上げます。


これまで紹介してきた次の6人については、
マインドリーディング・ブログのバックナンバーを
ご参照くださいね。

●情報収集をするキャラクター
1 人類学者:観察する人
2 実験者:プロトタイプを作成し改善点を見つける人
3 花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人

●土台をつくるキャラクター
4 ハードル選手:障害物を乗り越える人
5 コラボレーター:横断的な解決策を生み出す人
6 監督:人材を集め、調整する人


さて、「経験デザイナー」はイノベーションを実現する人々の一人。
すばらしい「顧客経験」を創造しようと、
ひたむきに努力する人です。


冒頭に、トム・ピーターズのこんな言葉が引用されています。


零細企業であろうと、巨大企業であろうと、ほとんどの会社に
とっての「付加価値」は、提供される良質の経験によって生じる


今の客にとって、製品とは、

形のある製品+形のないサービス

です。(単純化してますが)


つまり、実際に手にする製品本体だけでなく、
購入する場所の雰囲気や、そこでの店員とのやりとり、
購入後の定期点検などのアフターサービスなど、
製品に付随するサービスすべてをひっくるめて
ある会社の「製品」であり「ブランド」なのです。

この両者を合せた製品は、通常の製品本体と区別して、
「ホールプロダクト(全体的製品)」と呼びますね。

ですから、どんなに製品そのものが優れていても、
アフターサービスが良くなければ、
その製品・ブランドの評価は下がります。

そして、今さら言わなくてもおわかりだと思いますが、
「製品本体」での差別化が困難な今、付加価値的な
サービスの部分で差別化を図るしかありません。


「顧客経験」を設計する「経験デザイナー」の役割の
重要性がわかりますよね。

本書で紹介されている例で最も面白いのは、
米国のアイスクリーム店、

「コールドストーンクリマリー」
です。

日本には昨年、アジア第1号店として六本木ヒルズに出店。
人気店となって、現在は国内5店舗まで増えています。


さて、コールドストーンでは、
従来のアイスクリーム店とは全く異なる体験があります。

食べたいアイスクリームとトッピングの種類を選ぶと、
店員は、それを冷やした御影石(まさにコールドストーン!)
の上で2本のヘラを使って混ぜ合わせます。

しかも、店員は歌をうたいながらリズムに乗って!


これはまさに「パフォーマンス」。
自分のためのアイスクリームが出来上がるプロセスを
見るのは実に楽しいわけです。

しかも、混ぜ合わせることで、既存のアイスクリーム店の
固い食感のものと違って、柔らかくクリーミィな味に
なっています。

コールドストーンの成功をみると、
飽和状態かと思われたアイスクリーム店市場にも、
アイディア次第でまだまだ参入余地があったということが、
わかりますね。


コールドストーンのコンセプトは、

「アイスクリームの革新と経験」

だそうですが、アイスクリーム本体よりも、
「すばらしい顧客経験」を売り物にすることにしたのは
「経験デザイナー」の貢献でしょう。

投稿者 松尾 順 : 18:27 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:監督

10人も紹介するのはやっぱ大変だったなと思いつつ・・・(⌒o⌒;
今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

に紹介されている第6番めのキャラクター、

「監督」

を取り上げます。


本書の「監督」の章の冒頭に引用されている、
スティーブン・スピルバーグ監督の言葉が印象的です。

「私は夢で生計を立てている」

こんな人生送れたら最高ですね。うらやましい限りですね。(^_^)


さて、「監督」とは、

製作過程の計画を立て、ステージを構成し、俳優から最高の
演技を引き出し、プロジェクトや会社の趣旨を明確にし、
全体の調和をとって仕事を完成に導く人

です。

ただ、トムの考える監督は、決して「トップダウン型」の
リーダーではないですね。

むしろ、偉大な監督は、縁の下の力持ちを進んで引き受け、
舞台の中央を他人に委譲し、各メンバーがほとんど指導を
必要とせず、自ら実例を示して率先して行動するチームを
作り上げます。

公式の権限が仮になかったとしても、メンバーの士気を
高めることができる人心掌握術の持ち主と言えるでしょう。


ハリウッドには、

「監督の仕事の90%は配役だ」

という格言があるそうですが、企業組織でも同じですね。


監督は、プロジェクトに適したメンバーを見つけ、
巻き込み、各メンバーの才能や個性に応じた適切な
配置を行って、チームの調和を図ることができなければ
なりません。

これ、人が相手ですから、たぶん他のどんなキャラクターと
比較しても一番難しくて面倒な仕事です。

立場上、監督が一番偉いのは当然かもしれません。


ところで、同書の監督の章にはとてもうれしいことが
書いてあります。

それは「昼寝のすすめ」


IDEO社の経験によれば、ブレーンストーミングは朝が
一番盛り上がるそうです。

つまり、頭が冴えてアイディアが出やすい。
朝は、エネルギーと創造性がピークに達している刻限
なのです。

そこで、日中に適度な仮眠を取るようにすれば、
一日に2度、エネルギーと創造性のピークに達すること
ができるというわけです。


また、ハーバード大学のある調査によると、
昼間の仮眠は「情報過多」を緩和するのだそうです。
昼寝は脳がさまざまな仕事を学習する能力を高め、
記憶を強固にするらしいのです。


実は、私は会社勤めをしていた頃から、
日中、デスクに座ったまま、うつらうつら、
いや「仮眠」をしていました。

人にわからぬようにこっそり寝ていたつもりですが、
当時の同僚たちは皆気づいていたようです・・・(⌒o⌒;


5年前に独立して、
自分の事務所でデスクワークするようになってからも、
しょっちゅう眠くなってしまいます。
(しかし、幸いにも一人でやってるので、私の居眠りを
 見咎める人はいません)

それで、我慢できずについついソファーに横に
なってしまうのですが、いつも、

「自分はなんてぐうたらなんだ」

と目覚めるたびに自己嫌悪に陥っていたものです。


しかし、この本を読んだ今となっては、
ためらいなく仮眠することができるので、
とても喜んでいるわけです。


なんたって、トムは、偏見や先入観を捨てさえすれば、

「昼寝は、野心的で創造的な人間の強力なツール」

とまで言い切ってるんですから。(笑)

投稿者 松尾 順 : 13:19 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:コラボレーター

今日は、再びイノベーションの達人の本に戻って、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

に紹介されている10の人材のうち、第5番めのキャラクター、
「コラボレーター」を取り上げます。


そうそう、CNET Japanにトム・ケリー氏の最新インタビュー記事
掲載されてます。


トム(面識もないのにファーストネームで呼ぶのはちょっと
失礼かもしれませんが)は、毎年日本に仕事で来ているそうですね。
本では、日本企業の事例もいろいろと取り上げられています。


さて、「コラボレーター」は、土台をつくる人たちの中で、
文字通り、多くの人々をまとめて目的を遂行させます。

あの偉大な発明家、エジソンも優れた実験者であり、かつ
コラボレーターでした。

昔の発明家は、バック・トゥ・ザ・フュチャーに出てくる
「ドク」のような、誰にも相手にされないちょっと変わった人。
1人でアイディアを発想し、ガレージでコツコツ試作品を
作っているイメージがあります。

しかし、エジソンの場合、優秀なエンジニアなどの人材を率いて、
「チーム」として新しい発明に取り組んだことが意外に知られて
いません。

最近は、ますます技術が高度化し、専門分化が進んでいますから、
ちょっとした工夫レベルの発明でもない限り、チームとして
イノベーションが起こせる仕組みが必要です。

チームを取りまとめるコラボレーターの役割は以前にも増して
重要になってきていると言えるんじゃないでしょうか。


トムによれば、コラボレーターが務まる人は、

個人よりもチームを重んじ、個人的な達成よりもプロジェクトの
完逐を第一に目指す奇特な人

だそうです。


コラボレーターは、こんな「無私の心」で様々な人々との
共同作業を遂行する潤滑油のような働きをしてくれますが、
同書では、「顧客」との共同によって新たなアイディアを
生み出す方法として、

「非フォーカスグループ」

というものが紹介されています。


通常のフォーカスグループ(インタビュー)では
一般的な顧客を集めます。

これは検証段階では有益ですが、
画期的なイノベーションのヒントを求めるのなら駄目。

フォーカスグループではありきたりのヒントしか
得られないとIDEO社では考えているようです。


そこで、開発している製品やサービスに
「異様に熱中している人」を集めて意見を聞くのが

「非フォーカスグループ(インタビュー)」

です。要するに、その道の「オタク」と呼ばれる人たちを
招くということでしょう。


「非フォーカスグループ」は、
革新的なデザインのテーマやコンセプトに関するひらめきを
与えてくれるそうです。また、どんなものが人を心から興奮させ、
かりたてるかを表情や身振りで具体的に示してくれます。


「オタク」な人たちは、その熱中している対象に
のめりこんでいます。そのことについてなら何時間でも話せる。
メチャクチャ詳しい。

仕事でいきなりテーマを与えられて、取り組み始めたばかりの
プランナーよりも、彼らの方がはるかに豊富なアイディアを
出してくれそうですよね。


コラボレーターは、こんな人々を見つけ出してくるのも
得意なのです。

あなたの会社・組織にも、コラボレーター役の人いますか?

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:ハードル選手

今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房


に紹介されている10の人材のうち、第4番めのキャラクター、
「ハードル選手」です。


「ハードル選手」は、土台をつくる人の一人。
彼は、有望なアイディアをつぶしにかかる様々なハードルを
なんとかして乗り越えようとします。並外れた回復力があって、
ノーと言われても決してあきらめません。

ハードル選手は、かならずしも課題を正面から取り組む必要は
なく、障害をうまく回避すればよいと考えています。
しかし、状況を見極めた上でリスクを取り、しばしば規則を
破ってでもアイディアを推進することをいといません。


本書では、「ポストイット」をはじめとする独創的な製品で
知られるスリーエム社の事例などが紹介されています。

例えば、スリーエム社のマスキングテープ
(塗装作業で色を塗り分ける時などに貼る粘着テープ)
の開発を担当した同社のハードル選手は、リチャード・ドルー。

彼は、自動車車体工場に行った時、
自動車の塗装に失敗した工員が悪態をついているのをみて、
粘着テープを開発することに決めます。

しかし、当時のスリーエム社は経営不振に苦しむ紙やすり
のメーカーで、テープの製造経験はありませんでした。

ただ、リチャードは、同社の技術でテープが開発できる
可能性があることに気づいており、勝手に実験を始めます。

やがて社長に実験のことがばれると、
元の紙やすりの仕事に戻るように言われますが、
戻ったのは1日だけ。

またすぐに、テープの開発のための実験を再開しました。
(今度は、なぜだか社長は見て見ぬふりをします)

次に、リチャードは、
テープを作るための製紙機械の購入を会社に申請します。
しかし、これも却下されました。

でも、やはりリチャードはあきらめません。
研究員として与えられていた100ドルの購入権限を利用して
99ドルの申請書を何枚も書いて、こっそり機械を購入して
しまうのです。(不正行為ですよね・・・)


しかし1925年、リチャードは世界初のマスキング・テープ
の製造に成功を収めます。
最初の顧客はデトロイトの自動車メーカーでした。

スリーエム社は、研究時間の一定時間を自分の好きな研究に
使っていいという制度や、秘密裡に勝手に行う研究、
「スカンクワーク」に寛容なカルチャーを持っていますが、
その原点はこのマスキング・テープにあるんでしょうね。


とかく、企業は革新的なアイディアに対しては、
拒否反応を示しやすいし、リスクを恐れて十分な時間やお金、
人を配してはくれないものです。

そんな時、ハードル選手は、それこそどんな手を使ってでも
アイディアを進める、ある意味偏屈なまでの強い粘りを
発揮するんですよね。

日本で言えば、ノーベル賞級の発明といわれた「青色ダイオード」
の開発者、中村修二氏もまた、代表的な「ハードル選手」と言える
でしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:35 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:花粉の運び手

今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

に紹介されている10の人材のうち、第3番めのキャラクター、
「花粉の運び手」です。


「花粉の運び手」は、特に関連もなさそうな複数のアイディアや
コンセプトを並列させることによって、新たに優れたものを
生み出す能力を持っています。

人類学者が観察を通じてアイディアのネタを発見するのが得意
なのに対し、花粉の運び手は、情報の組み合わせやメタファーを
駆使するのが得意なようです。

例えば、花粉の運び手の功績のひとつとして本書で紹介されている
ものに、ピアノの鍵盤のアイディアを拝借して、
初期の手動のタイプライターを開発した事例があります。

ピアニストが鍵盤を指でたたくイメージから、
文字通り、タイプライターから今のPCに至る「キーボード」
の原型が生まれたんですね。
これは、「メタファー(比喩・置き換え」の力」と言えます。

こうして、ある物事をまったく別のところに持ち込むことで
斬新なアイディアを生み出すさまをトムは「他家受粉」と呼び、
それを実行するのが「花粉の運び手」というわけです。


花粉の運び手は、強い好奇心と柔軟な頭脳の持ち主です。

本や雑誌やネット上の記事をむさぼり読んで、
自分やチームが巷の話題に乗り遅れないようにしますし、
多方面に関心があって多彩な経験をするので、
ひとつの経営課題からアイディアを拝借して
思いもよらぬ別の状況に生かすのがうまいのです。


では、組織の中で「花粉の運び手」を育てるためには
どうしたらいいのでしょうか。

トムは、IDEO社が持つ他家受粉のレシピにある7つの
「隠し味」を紹介してくれています。

1.発表会をしよう。
2.さまざまな背景をもった人をたくさん雇おう。
3.議論が巻き起こるような空間をつくろう。
4.さまざまな地域のさまざまな文化を取り入れよう。
5.週に一度の「ノウハウ」講演会を主催しよう。
6.客人から学ぼう。
7.多様なプロジェクトを進めよう。

要するに、さまざまな異なる文化的背景や価値観を持つ人々を
歓迎し、彼らが自由に議論できる環境をつくりだすということ
のようです。

まさに、

「ダイバーシティ・マネジメント」(多様性の管理)

のことですね。


そして、トムによれば、
よりよい「花粉の運び手」になる最も効果的な方法は、

「さまざまな場所に足繁く通うこと」

だと述べています。

「花粉の運び手」には、
好奇心だけでなく行動力も必要のようですね。

投稿者 松尾 順 : 11:13 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:実験者

今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

に紹介されている10の人材のうち、第2番めのキャラクター、
「実験者」です。


「実験者」は、人類学者が提示したアイディアのネタを
具体的なものにする役割を果たします。

ざっとスケッチを描いたり、発砲パネルをテープでつぎはぎ
したり、急ごしらえのビデオを制作したりして、
新しいサービスのコンセプトに「性格」と「形状」を与えます。


実験者は、さまざまなアイディアやアプローチを試すのが
大好きな人。

大発明家のエジソンが典型的です。
エジソンのこんな言葉が本書では引用されています。

“私は失敗したことがない。一万通りのうまくいかない方法を
 発見しただけだ”


最近の発明家で大成功した人と言えば、
サイクロン式の掃除機を開発したイギリスのジェーズ・ダイソン氏
が思い浮かびますね。

ダイソン氏は、掃除機の最終的なデザインを決めるまでに、
5127種類のプロトタイプ(原型)をつくって失敗したそうです。


さて、どんなにすばらしいアイディアを思いついても、
言葉だけでは、実際の形のイメージや面白さ、効用を伝える
のは難しいものですよね。

実験者にとって重要なのは、アイディアをできるだけ早く
目に見える具体的なものにすることです。

ここで、会社・組織としては、まだ不完全で未熟なプロトタイプ
を作り、提案することを許容する文化が求められます。

最初から高い基準を持ち、完成度の高いものを求めてしまうと、
みすぼらしい形だからという理由で、すばらしいアイディアが
却下されてしまうからです。

トムは、コンサル先の会社のエグゼクティブに対して、
少しばかり「目を細めてみる」こと-
つまり、表面上の細かい部分は無視して、アイディアの全体像
だけを見ることを推奨しているそうです。


ところで、実験者は、モノづくりの部分だけでなく、
広告の仕方、売り方などにおいても、既存のルールを破って
新たな方法を試すことに果敢に挑戦します。

広告の仕方について言えば、
BMWのショートフィルムの事例が、本書で紹介されています。

BMWのブランディングのために、
今まではテレビコマーシャルを活用していたのを一切止め、
8分間のドラマ「ザ・ハイヤー」を制作して、
同社のWebサイトだけで公開しました。

この従来のルール破りのマーケティングは大きな話題を呼び、
多くの消費者をBMWのサイトに呼び込んだだけでなく、
2年連続で売上げを更新する具体成果につながりました。

あれ以来、日本でもブランディング用のショートフィルム
制作が盛んになってますよね。


トムは、実験は次の大躍進に向かうための最良の方法の
ひとつであり、だから、

いつまでもスタートラインに立ったまま、
レースの行方をあれこれ思案しているのはやめよう。
とにかく動き出して、いろいろなことを試してみればいい。
そのうちに、ひょっとしたら勝つための新しい手段が
見つかるかもしれないのだから、

と私たちに提案しています。

投稿者 松尾 順 : 10:15 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:人類学者

今日は、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

に紹介されている10の人材のうち、第一番めのキャラクター、
「人類学者」を紹介します。


「人類学者」と呼ばれる人、言い換えると、
「人類学者」の役割を担える人は、

「問題を新しい枠組みでとらえること」

に非常に長けています。

同書では、マルセル・プルーストのこんな言葉を引用しています。

“発見という行為の真の意味は、新しい土地を見つけることに
 あるのではなく、新しい目でモノを見ることにある”


優れた発想・アイディアは、従来とは異なる視点や、
既存の情報の新しい「組み合わせ」から生まれるという主張は、
最近は多くの人が知るところになってきたかと思います。

「人類学者」は、優れた発想・アイディアを生み出すネタ元
であって、イノベーションの中で最も重要な役割と言えるかも
しれません。


さて、トムは、人類学者の特徴として次の6つを挙げます。

1.人類学者は禅の法則「初心」を実践している
2.人類学者は人間の行動を新鮮な驚きをもって受け入れる
3.人類学者は自分の直感に耳を傾けることによって推論を
  導き出す
4.人類学者は、「ヴィジャデ」を通じてひらめきを求める
5.人類学者はつねに「バグ・リスト」やアイディアの財布を
  身につけている
6.人類学者は手がかりを求めてゴミ箱さえもあさる。


詳細は本書を読んでいただくとして、いくつか補足説明が
必要ですね。


4.の「ヴィジャデ」とは「デジャブ」のサカサマ語。

「デジャブ」とは「既視感」と訳されますが、
初めてきた場所なのに、どうも以前来たり、見た覚えがして
しょうがないそんな感覚を言います。
(ありますよね、そんな気持ちになったこと)

「ビィジャデ」はその反対ですから、前に何度も見ている
ものをいま初めて見ているような感覚のことです。


5.の「バグ・リスト」とは、世の中にある不満なこと、
不便なことなどのことです。

一方、アイディアの財布には、革新的なコンセプト、
そのコンセプトを実現するために解決すべき問題点が
含まれています。

人類学者はこうした「気づき」をしばしば
たんねんにメモしているのです。


さて、上記に示した人類学者の6つの特徴を眺めると
ほぼ同じようなことを言い方を変えて言っているだけ
のようです。

人類学者は、端的には「子供のような素直な観察眼と、
あくなき好奇心を持っている人」と言えるでしょうね。


では、単に現在を観察するだけでなく、そこから未来を
見通すためには、誰を観察の対象とすべきかわかりますか?


それは、

「若者」(特に10代)

です。

既存の枠にとらわれず、というか、古いものを
ガンガン壊して、新たな文化を生み出すのは常に若者。

これからの時代の空気を最も敏感に感じているのは若者であり、
新作映画のネタ出しや、仕上がりの良し悪しを確認するために
自社の若手のスタッフに聞く、

と言うのは、スタジオジブリの宮崎敏夫プロデューサーでした。

トムもまた、

「子供は次に何が起こるかを予測するてがかりを
 教えてくれる

と考えているのです。

投稿者 松尾 順 : 11:22 | コメント (0) | トラックバック

イノベーションの達人:発想する会社をつくる10の人材

今週からしばらくの間、普段とちょっと趣向を変えまして、
6月に出版されたばかりの本、

『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』
トム・ケリー&ジョナサン・リットマン著、早川書房

の内容をじっくり紹介していきたいと思います。
(なお、単なる内容紹介ではなく、私の考えが適宜挟み込まれて
いますので、文責はすべて私にあります。)


著者のトム・ケリー(以下、トム)は、
世界最高のデザインファームと賞賛される‘IDEO’社の
ゼネラル・マネージャー。

前著の「発想する会社!」もとても刺激的で楽しい内容でした
ので、この本もぜひ読みたいと思っていたところ、

「起-動線」さんのプレゼント企画
「1万円分の本選び」に当選していただくことができました。

自分が読みたい本をプレゼンとしてくれるなんて、
すばらしい企画ですよね。
ありがとう、起・動線主宰者の堀内さん!


さて、この本は、一言でいうと、

イノベーションあふれる会社(組織)に必要な

10の人材(キャラクター)

について解説したものです。

原題は、

‘THE TEN FACES OF INNOVATION’

ですから、文字通りタイトルが内容を体現しています。


経済、社会、技術が複雑、高度化した現在、
イノベーションは、とても一人だけでは成し遂げることは
できませんよね。

様々な異なる強みをもった人材が力を合わせてこそ、
イノベーションは実現できる、トムはそう考えています。


ところで「イノベーション」とは何でしょうね。

改革?革新?

気軽に使われる言葉ですが、
本質をうまく説明するのは、なかなか難しいものです。

本書では、イノベーションとは、

「新しいアイディアを発想し、実験し、鼓舞し、確立していくこと」

です。

重要な点は、ただ発想するだけでなく「実践」すること。

どんなにすばらしいアイディアが生まれたとしても、
それを育み、具現化しなければなんの意味もない。

イノベーションというと、発想力のある「アイディアマン」
の存在が不可欠だよなあ、とあなたも考えるんじゃないかと
思いますが、しばしばアイディアマンには実現するための
執念や実行力が欠けています。(笑)

そこで、人材が集まったチームとしてイノベーションに
取り組むことが必要になってくるわけです。


では、イノベーションを通じて新たな価値を生み出す10の人材
(キャラクター)とは?

トムは、10の人材を大きく次の3つのカテゴリーに
分けています。

●情報収集をするキャラクター
●土台をつくるキャラクター
●実現するキャラクター


彼らのそれぞれの役割について簡単に説明しましょう。

●情報収集をするキャラクター

彼らの役割は、文字通りイノベーションの元ネタを
「情報収集」すること。

現状に決して満足せず、
チームの目が内側に向きすぎないように、また、
自分の「知識」におぼれすぎていないかどうかを
組織に思い出させます。


●土台をつくるキャラクター

生まれたアイディアを育てるための土台を作る役割です。
大きな価値を生み出すアイディアも最初は海のものとも
山のものともわからないもの。

しばしば組織論理につぶされてしまうことがあります。
彼らは、手練手管を尽くして、アイディアの実現に
向かって人々を巻き込んでいく手腕を発揮するのです。


●実現するキャラクター

彼らは、情報収集をする役割から得られた発見を適用し、
土台をつくる役割から委託された権限を利用して、
イノベーションを実現します。


そして、この3つのカテゴリーそれぞれに入る10の人材
(キャラクター)は次の通りです。


●情報収集をするキャラクター
1 人類学者:観察する人
2 実験者:プロトタイプを作成し改善点を見つける人
3 花粉の運び手:異なる分野の要素を導入する人

●土台をつくるキャラクター
4 ハードル選手:障害物を乗り越える人
5 コラボレーター:横断的な解決策を生み出す人
6 監督:人材を集め、調整する人

●実現するキャラクター
7 経験デザイナー:説得力のある顧客体験を提供する人
8 舞台装置家:最高の環境を整える人
9 介護人:理想的なサービスを提供する人
10 語り部:ブランドを培う人


明日から、10人のキャラクターを一人づつ紹介していきます。

この人材の考え方って、「キャリア・デザイン」にも
役に立つと思うんですよね。

あなたは、どのキャラクターになりたいですか?
また適性があると思いますか?

そんな視点も頭に置いてもらって、
しばらくお付き合いくださるとうれしいです。

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (0) | トラックバック