福沢諭吉の「広告論」

「学問のすすめ」で知られる福沢諭吉は、
明治時代、商人に対して、

「商いは広告をすべき」

と説いていたのです。

---------------------

慶應義塾大学の創設者、福沢諭吉は、
教育者としての評価が高いですね。

彼は一方で、明治15年に

「時事新報」

という新聞も創刊しています。

同紙は、政党色のない、
独立不偏を編集方針としていました。

そして、福沢は、
時事新報の紙面充実と部数拡大
に力を入れつつ、


・広告の効果
・媒体としての新聞の価値

を繰り返し力説しました。


実際、彼は、

新聞広告を集めるための広告主向け広告

にも積極的で、

「日本一の時事新報に広告するものは、
 日本一の商売上手である」

と刷ったビラを風船で飛ばしたことも
あったそうです。

すると、とたんに広告申し込みが殺到したとか。


さて、彼は明治16年、時事新報の社説に

「商人に告るの文」

を書いています。

この社説で展開されているのは、

『商いは広告をすべき』

という彼なりの「広告論」でした。


この社説は結局のところ、

「新聞広告を出しましょう(出しなさい!)」

といういささか説教的な

「自社広告」

という側面があるのですが、
彼の広告論はビジネスの本質を突いています。

そこで、この社説から一部を紹介しましょう。

---------------------

1 商売繁盛は、「正直」「熟練」「廉価」で
  客に対応すべきである。

2 それを知らせる工夫をしなければ商売繁盛は
  ありえない

3 商いは「人に知られること」がもっとも大切である

4 人に知られる方法は、まず人通りの多いところに
  店を開くこと

5 店頭に看板を掲げ、店を飾り、人目につくよう
  品物を並べ、注意を喚起すべきである

6 人通りの多い場所にポスターを掲げ、さまざまの
  チラシを配布しなければならない

7 商いには「広告するに適当なチャンス」がある。
  その機会を見極めるのが肝要である

8 広告文は素人では書けない、有名な筆者に依頼すべきと
  信じている人が多いが、それはとんでもない間違いだ

 
9 世の中に手紙が書けない人はいないはず。
   手紙で自分の意志が通じる人が、広告文を書いて
   自分の意志ができないはずがない

----------------------

テレビさえまだない時代ですし、
彼の具体的なアドバイスについては実に

「アナログな教え」

ではありますね。

しかし、単純に「古い」と
片付けてしまわないで本質を見ましょう。


現代は、リアル・ヴーチャルの両方を俯瞰して、

・「人通りの多いところ」とはどこなのか?

・「広告するに適当なチャンス」とはいつなのか?

を熟慮することが必要でしょう。


また、福沢は、

「広告文は自分(自社)で書け」

と言っています。

これは「極論」ではあると思いますが、
まさに今でこそ、ソーシャルメディア上での

消費者・顧客とのパーソナルな対話

は基本的に企業・組織内で取り組むべき活動で
あることを考えると意義深いものがあるように
思います。


時代が流れ、媒体やマーケティング手法が
多様になっても、ビジネス(商売)は

「知られること」

から始まることは普遍的な法則です。

福沢諭吉は優れたマーケターでもあったと
言えるのではないでしょうか?


*参考文献

『絵とき 広告「文化誌」』
(宮野力哉著、日本経済新聞出版社)

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投稿者 松尾 順 : 10:46 | コメント (0) | トラックバック

ブランデッド・コンテンツ

今日も、

『教えて!カンヌ国際広告祭』(佐藤達郎著、アスキー新書)

から、興味深いキーワードをご紹介したいと思います。

「ブランデッド・コンテンツ」は、佐藤氏によれば、

“広告の形はしていないけれど、
 広告としての機能=ブランドのメッセージを
 ドライブする機能を果たしている一連の活動”

のことを指します。

従来の広告クリエイティブが、

「生活者にいかにメッセージを伝えるか」

という視点が根底にあったのに対し、
ブランデッド・コンテンツは、
コンテンツとしての魅力があることが最重要であり、

「商品が出てくるべき」
「商品は大事に扱う」
「商品を誉める」
「ブランドメッセージが明示的にわかる」
「広告としてわかりやすい」

といった従来の広告クリエイティブの原則に
捉われません。


佐藤氏が、ブランデッド・コンテンツの例として
挙げるのが、カンヌ・フィルム部門金賞のテレビCM

「ボールズ(BALLS)」

です。ソニーUKの液晶テレビ、ブラビアのCMで、
たくさんの色とりどりのスーパーボールが街の坂を
転がり落ちていくシーンが映し出されるもの。
(ちなみに、投下されたスーパーボールの数は25万個、
撮影場所はサンフランシスコ)

これは、本当にコンテンツとしてすばらしいですね。
Webサイトではメイキングなども閲覧できますし。


ブランデッド・コンテンツでは、

「メッセージが明示的に伝わらない=広告らしくない」
ことがプラスのキーワードになる、
と佐藤氏は考えています。

これは従来、

「どのブランドが、何をメッセージしているのか」
を明確に伝えるべきと考えられてきた広告作法と
真逆です。


ブランデッドコンテンツの登場は、
日々、洪水のように広告メッセージが押し寄せる中、
生活者が、「広告っぽいもの」をあからさまに忌避する
状況を踏まえ、まず、コンテンツとしての魅力を高め、
視聴者の共感を得ることへと、広告のあり方が大きく
シフトチェンジしつつあることを物語っているのでしょう。

『教えて!カンヌ国際広告祭』(佐藤達郎著、アスキー新書)

投稿者 松尾 順 : 13:40 | コメント (0) | トラックバック

シンプルメッセージ&リッチコンテンツの法則

先週末に読んだ、

『教えて!カンヌ国際広告祭』(佐藤達郎著、アスキー新書)

は久しぶりにワクワクするマーケティング本でした。

これからのマーケティングコミュニケーションの
方向性について教えてくれる、示唆に富む内容です。

マーケターは、必読中の必読ですよ。


本書には、メルマガのネタとしてもいろいろと
使えるキーワードがありましたが、そのうち、
まずご紹介したいのが以下の法則です。

「シンプルメッセージ&リッチコンテンツの法則」

これは、今の時代、本当に効果率的にブランドの
コミュニケーション行なうためには、

・メッセージはシンプルに

しかし、そのメッセージを伝えるコンテンツは、

・できるだけリッチ(豊穣)にすべき

という法則です。


なお、上記の‘リッチ’とは、いわゆる動画などを
駆使した「リッチコンテンツ」の意味ではありません。

例えばTVコマーシャルなら、設定やストーリー展開に
工夫を凝らすということです。
(したがって、謎解き的な要素や複雑になることが
 多くなります。)

カンヌの受賞作を見ると、その多くは、
メッセージはシンプルでありながら表現はリッチで、
視聴者をおおいに楽しませる(エンタテイン)もの
になっています。


前掲書の著者、佐藤氏は、
日本で広告クリエイティブについて

「シンプルさ」
が語られる時、

・メッセージがシンプル
・クリエイティブがシンプル

が混同されて語られていることが多いように思う、
と述べています。

「メッセージがシンプル」であることは当然ですが、
表現がシンプルでありすぎると、わかりやすくは
なるものの、面白みに欠け、印象の弱いものになる
リスクがあります。


日本の広告の場合、
佐藤氏も、また私も感じていますが、

「あれもこれも言いたい」

というクライアントの意向を汲みすぎてしまい、
メッセージが複雑になる傾向があります。

一方で、メッセージが複雑になっていることもあって、
表現はできるだけシンプルなもの、わかりやすいもの
を求められる。

結果として、「消費者がどう受け取るか」ではなく、
「自社がなにを伝えたいか」しか考えない、
独りよがりで平板なコミュニケーションとなってしまい、
消費者の関心・興味を引くことができずに終わって
しまいがちです。


佐藤氏は次のように書いています。

“表現はすべて、「ひとつの言いたいこと=シンプル・
 メッセージ」を効果的に伝えるために、作り上げられて
 いく。受けての注意を喚起し、メッセージが受け手の
 気持ちに届くように、表現は「絞り込まれたメッセージ」
 に向かって、進んでいく。”

“つまり、メッセージとは、クリエイティブの「的」と
 言い換えることもできる。的が複数あっては、あるいは
 的がぼんやりしていては、力のある矢を射ることはできない”

本書でも紹介されている、
カンヌ金賞受賞のタイのコマーシャルは、
まさに、メッセージはシンプルだけど
表現は大変リッチな例です。

このコマーシャル、すなわちUnif Green Teaの
「ワーム(Worms)」のメッセージは、

「茶の木の先端にある最上の新芽だけを
 使用したおいしい日本茶」

というだけのシンプルなもの。
しかし、表現はこれでもかというリッチさ。

私も大好きなコマーシャル。
ぜひYoutubeでご覧になってみてください↓
Japanese/Thai tea commercial with catarpillars

『教えて!カンヌ国際広告祭』(佐藤達郎著、アスキー新書)

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

『メディアマーケティング進化論』

ブーズ・アンド・カンパニーのコンサルタント、
岸本義之氏の著作、

『メディアマーケティング進化論』

は、ビジネス・ブレークスルー757chで
放送された番組内容が元になっています。


タイトルには、

‘メディア’

と言う言葉が含まれていますが、
メディアにとどまらず、
マーケティング領域に生息する関係者、
すなわち、

・消費者
・広告主マーケター
・メディア企業
・広告代理店

など、生態系全体を俯瞰しながら、
大きな変化を示している
昨今のマーケティング進化の基本方向が、
手際よくまとめられています。


具体的なノウハウを解説したものではないため、
即効性を期待してはいけません。

様々な場所に生息するマーケターが、

「生き残りのためにはどんな変化に適応し、
 自分を進化させていくべきか?」

についてのヒントを得るために有用な本です。


本書を読んで、
私が特に気になったポイントを
2点お伝えしておきます。

-------------------------------------------

[パーチェス・ファネル]


これは、端的には

「消費者行動モデル」

のこと。

すなわち、消費者(ターゲット)が、
ある商品を認知して購入するまで、
また、その先にある利用や口コミに
至るまでにどのような段階を踏むのか、
を概念化したものです。


古くは‘AIDMA’や‘AMTUL’などがあり、
最近なら、電通が提唱した

‘AISAS’

などがよく知られた
消費者行動モデルでしょう。


本書によれば、
ブース・アンド・カンパニーは、
以下のようなパーチェスファネル
を提唱しています。

-----------------------------

Awareness(認知)

 ↓

Consideration(考慮)

 ↓

Trial(試行)

 ↓

Occasional(一過性)
Regular(定期的)
Penetration(固定的)

なお、最後の3つ、
Occasional、Regular、Penetration
のことを

「Conversion/Retention(顧客維持)」

と総称。

*正確なモデル表現は同書をご覧ください。

-------------------------------

ネット革命(デジタル革命)以降、
消費者行動が詳細に把握できるように
なったこともあり、現代のマーケターは、
自社商品が購入され、利用され、あるいは
口コミされるまでの一連のプロセスである、

「パーチェス・ファネル」

をまず明確に把握・理解した上で、
マーケティング施策を立案する必要性が
ますます高まっています。

すなわち、

・消費者行動のどの部分に着目し、
 そこをどのように変化させるのかを決め、

・そしてその変化を起こすためにどんな
 コンセプトやアイディアが有効か考え、

・さらに、上記のコンセプトやアイディアを
 最も有効に展開するためにはどんなメディア、
 ツールを組み合わせかを決める

という手順で、
施策立案を進めるべきである
ということです。


「メディア・ニュートラル」

という言葉を最近よく聞きますが、

媒体ありき、あるいはツールありき

でマーケティング施策を考えてしまうと、
ターゲット特性やマーケティング目的との
適合性が低く、失敗する可能性が高くなります。

-------------------------------------------

[マーケティングROI(Return On Investment)]


マーケティングにおける
投下コスト(Investment)に対して、
どれだけの収益(Return)が得られたか、

定量的に示すことの重要性も、
ますます高まってきましたね。

この点もまた、
ネット革命(デジタル革命)の進展によって、
販売データだけでなく、消費者のWebサイト
アクセスデータなど、ROI分析に必要なデータが
容易に得られるようになってきたことが背景に
あります。


「ROI」とは、ひとことで言えば、

マーケティングコスト

の妥当性を検証するものです。


ただし、経営全体としては、
財務的な最終結果である売上や利益に
どれだけ貢献しているかが最も重要とは言え、
マーケティング活動は売上に直結したもの
ばかりではありません。

例えば、新商品発売の場合、
まずは、商品名や商品の特徴を認知・理解
していただくという段階をクリアしなければ
次に進めません。


ですから、当初のマーケティング活動では、
消費者の認知を高めるための広告施策が
当然中心になってくるわけです。

しかし、残念ながら、認知さえ上がれば、
即販売につながるような楽な商品は現在、
ほとんどありません。

このため、広告活動と販売=売上との関係性、
言い換えると広告の販売貢献度をダイレクトに
示すのはなかなか難しいのです。

ここにマーケティングROIの課題があります。


実は、この課題を乗り越えるために
上述した「パーチェスファネル」が再び
重要になってくるのです。


マーケティングROIはあくまで、
売上・利益に対するマーケティング活動の
「費用対効果」を示す最終ゴールです。

ですから、ROIを算出したところで、
マーケティング活動をどのように変えれば
ROIが改善できるのかはわかりません。


そこで、そのゴールに到達するまでの
中間指標として設定し、測定すべきものが、

KPI(Key Performance Indicators)

になります。

このKPIは、
パーチェス・ファネルの各段階において、
定量的に把握すべき消費者行動そのものであり、
数値的な目標設定箇所ともなります。

したがって、パーチェス・ファネルに沿った
KPIを設定し、定期的に測定することで、
マーケティング活動の精緻なコントロールが
可能になるというわけです。

-------------------------------------------


『メディアマーケティング進化論』
(岸本義之著、PHP研究所)

本書の構成(「部」レベル)

第1部:進化の最前線
第2部:生態系レベルの変化
第3部:マーケティングROI
第4部:広告メディア業界の統合と進化
第5部:インタラクティブ・マーケティング戦略

投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (0) | トラックバック

広告の役割再考「広告リレーション理論」

このところ、

「広告の役割がよくわからなくなってきた・・・」

と感じていらっしゃる方はいませんか?


私はそうです。

近年、広告の役割が曖昧模糊としてきた背景には、
おそらく、インターネットの登場があるのではないか
と思っています。


インターネットを活用すれば、

広告、広報、販売促進、販売、アフターサービス

など、ほぼあらゆる企業のマーケティング活動を
継ぎ目なく行うことができます。

このため、広告とそれ以外のマーケティング活動
との境目が不明確になってきたのです。


また、インターネットは、企業が

「見込客・顧客とのダイレクトなコミュニケーション」

を容易に行うことができるため、

「売ること」

に短絡的につなげようとする傾向が
強くなっています。


もちろん、「広告」も、
「販売(=収益)」が最終ゴールです。

しかし、従来、売りに直接つなげることを
狙いとしたマーケティング活動は

(狭義の)「販売促進」

と呼んできました。

広告の直接目的を「販売」だけと考えるのであれば、
従来の「販売促進」と言葉を使い分ける意味がありません。


このように、インターネット以降、
広告の役割がよくわからなくなってきている現状が、
企業の広告予算の削減にも影響を与えているのでは
ないでしょうか。


そこで、今回は広告の役割や機能をすっきりと
整理する上で役に立つ「枠組み」をご紹介したいと
思います。


この枠組みは、

「広告リレーション理論」

と呼ばれています。

東海大学文学部広報メディア学科教授の
小泉眞人氏が提唱されているものです。


さて当理論では、広告の主な役割として
以下の3つがあるとしています。

・プロモーション
・コミュニケーション
・リレーション

この3つの違いについては、
小泉氏も示している次のようなたとえを
用いた説明がわかりやすいでしょう。

---------------------------------------

・プロモーション

 ボールの壁投げのようなもの

 一方的に伝えること(情報提供)を通じて、

 「認知・説得」

 を行うことが目的


・コミュニケーション

 キャッチボールのようなもの

 主体は「相手」であり、
 双方向に伝え合うこと(情報交換)を通じて

 「理解・共感」

 を得ることが目的


・リレーション

 キャッチボールを継続することで、
 「絆」を深めていくようなもの

 主体は「両者」であり、
 継続的な情報交換を通じて、

 「相互の信頼」

 を得ることが目的。


(一部、松尾が表現を変えています)

------------------------------------------

以上の3つの役割を踏まると、広告には

・プロモーションとしての広告
・コミュニケーションとしての広告
・リレーションとしての広告

の3種類があるということになります。
(もちろん、ひとつの広告が複数の機能を
 果たす場合もあります)


では、それぞれの広告の特徴について
小泉氏による整理の一部をご紹介します。

-------------------------------------------

・プロモーションとしての広告

- 変化に富んだ対応・メッセージ
- 話題性重視
- 売るための広告
- 短期的・速効的効果
- 知名度・認知度向上⇒売上

・コミュニケーションとしての広告

- 一貫した対応・メッセージ
- 共感性重視
- ブランドのための広告
- 中・長期的、遅効的効果
- 理解度・好感度向上⇒ブランド

・リレーションとしての広告

- 継続した対応・メッセージ
- 関係性重視
- ロイヤルティのための広告
- 長期的、持続的効果
- 関係性・信頼性向上⇒ロイヤルティ

------------------------------------------

いかがでしょうか?

ネット広告どっぷりの方は、おそらく

「プロモーションとしての広告」

に偏重しすぎており、他の重要な役割を
忘れている可能性が高いのではないでしょうか。
(そのため、ブランドが構築できず、
 安売りなどの販促策に走らざるをえない)


上記3種類の役割のどれに重点を置いた広告を
制作・出稿するのかは、各企業が直面している
競争環境や顧客特性、製品のライフサイクルなど
によって異なってくると思います。


「広告リレーション理論」に基づいて、
自社の広告のあり方を再考してみたらいかがでしょうか?


*東海大学Webサイト
 文学部 広報メディア学科 小泉 眞人氏 
http://www.hum.u-tokai.ac.jp/media/professor/prof-koizumi.html

投稿者 松尾 順 : 08:45 | コメント (0) | トラックバック

2007年日本の広告費とMC戦略の課題

先日、2007年の「日本の広告費」(推定値)が
電通から発表されていますね。


普段はどっぷりとミクロな現場にはまっているせいか、
私自身、なかなかこのようなマクロ的な視点で
自分の属している業界を眺めることがありません。

でも、たまに大枠の数字を振り返っておくのは、
方向性を見失わないために役立ちます。


では、全体感の把握を優先して、
おもいきり丸めた数字で広告費の構成を見てみましょう。


日本の総広告費は約7兆円。

7兆円の構成比は、大きくは
 
・従来のマス媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)と、
 「インターネット」「衛星メディア関連(CATV、BS、CS)」

・プロモーショナルメディア

の2つに分けて考えるのがわかりやすいです。


「プロモーショナルメディア」とは、
具体的には、

・屋外・交通広告
・新聞折込
・DM
・フリーペーパー
・POP(店頭での広告)

などのことを指します。

ブランド認知や理解を主目的とするマス媒体の広告と異なり、
プロモーショナルメディアは、消費者の「購買行動」を
刺激することに重点を置く「販売促進ツール」ということで
分けて考えるわけです。


さて、7兆円の約4割(39.7%)を

「プロモーションメディア」

が占めています。
金額にして約2兆8千億円です。


つまり、残り6割が

「4大マス媒体+インターネット+衛星メディア」

となります。


では、4大マス媒体とインターネット、衛星メディア関連の
それぞれの広告費、および構成比を並べてみます。

・テレビ  約2兆円  約3割(28.5%)
・新聞   約1兆円  1割超(13.5%)
・インターネット 約6千億円 1割弱( 8.6%)
・雑誌 約4千5百億円 約7%( 6.5%)
・ラジオ 約1千7百億円 約2%( 2.4%)
・衛星メディア 約6百億円 約1%( 0.9%)


インターネットの広告費(媒体費+制作費)が、
ついに雑誌を追い抜いていますね。

実は昨年2006年時点ですでに逆転していたのですが!


傾向としては、4大マス媒体はどれも、
近年、広告費の低下が顕著になってきています。

インターネット、そしてより究極の成果(購買)を
求めるプローショナルメディアへの予算配分が増加している
ためです。


ところで先日、
日本マーケティング協会主催のセミナー、

「マーケティングフロンティア2008」(08/03/10)

に出席しました。

当セミナーのオープニングで登壇された
田中洋氏(法政大学教授)は、
上記に挙げた日本の広告費の数字を説明しつつ、
現在の日本企業においては、

「マーケティングコミュニケーション戦略」(MC戦略)

が岐路に立たされているという問題提起をされていました。


この「岐路に立たされている」背景としては、
私もご説明したように、

・インターネット広告の隆盛
・既存マスメディアの相対的後退

に加えて、

・コミュニケーション戦略の困難

を田中氏は指摘されています。

確かに、これだけ多様なメディア・ツールが次々と現れ、
かつ、それらを適切に組みあせること(クロスメディア)
が求められるわけですから、戦略の立案にしろ、
実行にしろ、以前よりもはるかに難易度が高くなっています。


そしてまた、田中氏は、

「MC戦略において何が問題・課題なのか?」

という点が、
関係者間できちんと共有されていないと
考えているそうです。


そこで、今回のお話の中では、田中氏が考える

「MC戦略の課題」

を挙げてくれました。次の通りです。

-----------------------------------------

1 マス広告の効率悪化にどう対処するか

2 インターネット広告をどう活用するか
  -マスメディアとどう連関させるか
  -ウェブサイトをどう位置づけるか

3 プロモーションメディアをどう活用するか
  -OOH(Out of Home広告:屋外・交通広告等のこと)、
   フリーペーパー、DMなど

4 キャンペーンをどうプランニングするか
  -そのための人材をどう確保・育成するか

------------------------------------------


さらに、上記課題の達成のヒントを
田中氏は示してくれています。

------------------------------------------

*メディアの位置づけをはっきりさせる
 -多メディア時代にメディアの役割がハッキリする

*メディアのリンケージによるシナジーを考える

*その業種に特有な効果的メディアを見つける
 -(例えば)消費者金融→テレビ、ネット、ティッシュ(街頭配布)

*キャンペーンプランナーの養成と発見

------------------------------------------


以上のテーマはどれも重い内容を含んでますので、
おいおい取り上げていきます・・・


(ご参考)
日本の広告費の推移がわかるグラフが、
以下のページで閲覧できます。

電通「日本の広告費」 1985年~2007年の時系列データに
よるグラフ(ネットレイティングス社長、萩原雅之さん作成)

投稿者 松尾 順 : 13:23 | コメント (0) | トラックバック

ラジオの復権はあるか?

不肖の息子(小5)が、
このところラジオにはまっています。

朝食を取りながらニュース番組を聴き、
夜は早々と9時に寝たとおもったら、
床の中で、小島よしおや桜塚やっくんのトーク番組に
耳をそばだてている。

文化放送がお気に入りだそうです。

私が子供のころは、
オールナイトニッポンがお気に入りでしたが。

今振り返ってみれば、
たいして過激でもない鶴光の下ネタに
当時の少年たちはずいぶん興奮していたものです。(笑)


さて、愚息にラジオの良さを聞いたら、

「テレビは疲れることがある」

なのだそうです。

もちろん、息子はテレビ番組もいろいろ見てますが、
視聴者を飽きさせないため、数秒ごとに切り替わるショットに、
子供でさえついていけないことがあるのでしょう。

まあそうでなくても、
他のメディアと違い、ラジオは耳だけでOK、
目を使わなくてすみますから

人に優しいメディア

ということが言えますね。


一日中PCの前にいて、
ネットにどっぷり浸かっている私には、
ラジオは

「古臭いメディア」

という思い込みがどうしても強いのですが、
なんの先入観も持たない子供は、ニュートラル(中立的)に
ラジオというメディアの良さを評価できるんですね。


私はふと、

「ラジオの復権はそう遠くないかも!」

という仮説が頭に浮かびました。

この仮説の背景にあるのは、
子供というより高齢者の増加、つまり

「高齢化社会」

です。


お年寄りにとって、
テレビはあまり優しくないメディアだと言えます。

目が弱くなってますから、
めまぐるしい画面を凝視するのは大変です。
ついていけなくて疲れてしまう。
(もちろんそうでない番組もありますが)


一方、ラジオは遠くなった耳でも
なんとか聴けます。

また、往年のオールナイトニッポンの人気DJ(パーソナリティ)、
「カメ」こと、亀渕昭信氏も指摘するように、ラジオは

「パーソナルメディア」

であり、孤独やさびしさを癒してくれます。

単に情報を伝えるというよりも、語りかけてくるような、
あるいはおしゃべりしているような感覚を与えてくれる
メディアですよね。

高齢化社会では、
一人暮らしの人も増えます。

一人暮らしの老人にとって、
画面のあっち側で勝手に大騒ぎしているようなテレビよりも、
耳元で自分だけにささやいてくれるようなラジオは
かけがえのない「友」になる可能性が高くないでしょうか。

すでに、その兆候は、
NHKラジオ「ラジオ深夜便」の人気に見ることが
できるように思います。


今後お金も暇もあるシニア層に、
最も的確に効率的にリーチできるメディアが

「ラジオ」

になるとしたら、ラジオの復権は夢物語ではありませんよね。

投稿者 松尾 順 : 09:44 | コメント (1) | トラックバック

雑誌とオンラインはとも食いしない!?

インターネットの浸透によって、
既存の紙媒体、すなわち新聞・雑誌等が
厳しい状況に追い込まれているのは周知の通りです。


ネット上でも有力な媒体を生み出し、
新たな収益源に育てない限り媒体社の将来はない。

もはやこんなことは言われなくても、
十分にわかってはいる。


しかし、

「イノベーションのジレンマ」

が思い切った決断を阻んでしまう。

まだまだ紙で行ける。
まだまだオンラインはたいしたことない。
そう思いたい。

ネット媒体に注力すると既存の読者を自ら奪い、
短期的には収益低下につながるかも知れない。
そんなことは怖くてできない・・・


とまあ、媒体社の方々は、
いろいろと悩んでらっしゃることでしょう。


米経済誌『フォーブス』では、
08年度には、オンライン媒体の売り上げが、
紙媒体のそれを抜くと予測されているそうです。

(宣伝会議、2008.2.15)

いつか確実にやってくる未来であった

「紙とデジタルの逆転」

を最初に実現しそうな最有力候補が、
一般誌の中では『フォーブス』なのです。


『フォーブス』(隔週刊)の雑誌の発行部数は

90万部

です。

一方、独立会社として運営されている
『フォーブス・ドットコム』は

1500万ユーザー/月

のアクセスを得ています。


『フォーブス・ドットコム』では、
雑誌の全記事とオンラインオリジナル記事を
無料で閲覧でできます。

以前の関連記事でご紹介しましたが、
最新記事のオンライン公開は木曜日です。

雑誌が読者に届くのは金曜以降なので、
オンラインの方が早く記事を読めるように
なっています。


しかし、同誌の編集次長、
カール・ラヴィン氏は次のように述べています。
(フォーブスCEOも同じことを主張してますが)

“雑誌とオンラインはとも食いにはならないのです。
 むしろ相乗効果の方が高い”


というのも、雑誌(紙)の新規購読者の3分の1が、
フォーブス・ドットコム(オンライン)経由で
獲得されているからです。

この数は既に旧来のダイレクトメールによる
新規顧客獲得数を上回っています。


今のところ、雑誌読者とオンライン読者の層が
あまり重なっていないため、総体的な読者層を
広げることに成功しているのが『フォーブス』だと
言えそうです。


紙からデジタルへの移行の過渡期にある今、
フォーブスの大胆な取り組みはいいケーススタディ
ですよね。


*関連記事
「誰が新聞を滅ぼすのか」

投稿者 松尾 順 : 09:50 | コメント (2) | トラックバック

「名コピー」の秘密

「確かに、うまい」


サントリービール、

「ザ・プレミアム・モルツ」

のキャッチコピーですね。


自社製品をこうして「自画自賛」するのは
いかがなものか?

とちょっと思わないでもないですが、

「名コピー」

だと思います。


その理由は2つあります。


ひとつは、「モンドセレクション」で

「3年連続最高金賞」

を受賞しているというお墨付きがあること。

世界中から優れた製品を発掘・顕彰することを目的としている
「モンドセレクション」は、1961年から続く権威あるコンテスト。

この第三者の客観的評価があるので、

「確かに、うまい」

は、単なる自画自賛、自己満足でないことが
わかるわけです。


もうひとつは、実際飲んだ人の多くが、

「そういえばそうですね」

と、素直に納得できること。


ここに「伝わるコピー」の秘密があります。


昨日も取り上げましたが、
コピーライターの谷山雅計氏の著作、

『広告コピーってこう書くんだ!読本』(宣伝会議)

の中で、谷山氏は、

「常識とコピーと芸術」の3分法

という独自の考え方を教えてくれています。


“ある意見を人に言ったときに、それを聞いた受け手の
 反応は大きく3つに分かれると、ぼくは考えています。
 それは、「そりゃそうだ」と「そういえばそうだね」と
 「そんなのわかんない」。

 この3つの反応の違いに、「常識とコピーと芸術」
 の違いがあると思うのです”
(確かにうまい)


このように谷山氏は述べた後、
次のような具体例を挙げています。

あなたの目の前に豆腐があると想像してください。

そして、私がそれを指さして、

「この豆腐は白いんですよ」

と言えば、あなたは

「そりゃそうでしょう。見ればわかります。」

と答えますよね。

これが「常識」。


次に、私は、

「この豆腐の白さはね、現代の不安を象徴してるんですよ。」

と言います。

これを聞いた人のほとんどは、

「はあ?」「よくわかんない!」

と反応するでしょう。

これが「芸術」。


最後に、

「豆腐はね、すごく栄養があるので、
 “畑のステーキ”みたいなものなだんだよ」

と言ったら、あなたは、

「確かにそうだね」「あ、そういえばそうだ」

と答えるはず。


これが、「コピー」なのだと、谷山氏は考えています。


谷山氏によれば、コピーとは、

「知っていること」(=常識)

でも、

「知らないこと}(=芸術)

でもありません。


ちょっとわかりにくいですが、コピーは、

「知っているのだけれども、
 ふだんは意識の下に眠っているもの」

なのだそうです。


すなわち、コピーとは、

「意識の下に眠っていること」

を言語化することによって「よみがえらせる」行為であり、
その結果、相手の納得や共感を呼ぶメッセージとして
伝わるということなのです。


上記のことに成功している「名コピー」として、
同書では次のようなコピーが例示されています。

「サラリーマンという仕事はありません」
(西武セゾングループ、糸井重里氏作)

「カゼは、社会の迷惑です」
(武田薬品、仲畑貴志氏作)


どちらも、確かに、

「あ、そういえばそうですね」

と思いますよね。


冒頭に紹介した、プレミアムモルツの

「確かに、うまい」

もまた、「名コピー」と呼ぶ理由が
納得いただけたでしょうか。


なお、谷山氏の提唱する「3分法」ですが、
留意しておくべき点があります。

それは、

「そりゃそうだ」
「そういえばそうだね」
「そんなのわかんない」

の3つの感覚は、常に移り変わっていくものだということです。


“世の中の新しい概念は、つねに最初は、
 「そんなのわかんない」のところに現れて、
 それがあるときに「それはそうだね」に移り、
 やがて「そりゃそうだ」になっていく。

 時代の感覚はつねにそういう方向に移り変わって
 いくんじゃないかと、ぼくは考えています。”
 (前掲書)


したがって、

「確かに、うまい」

というコピーが使えるのもあとわずかです。


仮に1年後にも相変わらず、

「確かに、うまい」

と言われたとしたら、

「はいはい、そりゃそうですね。
 十分わかってますから、もうその言葉は結構です」

と答えるんじゃないでしょうか?


『広告コピーってこう書くんだ!読本』
(谷山雅計著、宣伝会議)

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (0) | トラックバック

実感のない言葉

私は、マーケターとしてのキャリアを

「リサーチャー」

から始めました。

「リサーチャー」の仕事は、簡単に説明すると、
消費者対象のアンケート調査などの企画立案や調査票の設計、
データの集計・分析、報告書作成等を行うものです。


ところが、30代以降は、
企業の会社案内・製品パンフの文面や、
Webサイトのテキストベースのコンテンツ、
ユーザー導入事例記事の執筆など、

「コピーライティング」

の仕事が段々増えてきました。


これは、リサーチにつきものの「報告書作成」を通じて、
文章力がずいぶん鍛えられたことがベースにあると思います。

しかし、今でこそ白状できますが、
調査報告書を書き始めたばかりの頃の私の文章力は

「幼稚園児レベル」(いや本当に!)


私の支離滅裂な文章を見た上司には、
メタメタにけなされ、ずいぶん落ちこみました。

しかし、落ち込んでばかりではいられないと、
あわてて「文章作成入門」といった通信教育を受講し、
必死になってトレーニングしたものでした。


こんな私ですから、残念ながら、
文章作成や言葉に対して特段優れた感性を
持っているわけではありません。

だからこそ、プロとしてお金をいただいて文章を書く以上は、
言葉の使い方にできるだけ細心の注意を払うようにしています。


さて、前置きが長くてすいません。


最近、私がどうも気になってしょうがないのは、

「一見きれいに決まっているけれど、実感のない言葉」

の氾濫です。


例えば、あるダイレクトEメールのキャッチコピー。


「御社の提案書の説得力が10倍増します!」


一瞬、「おっ」と目に留まる一文ではあります。
しかし、なんか白々しいと思いませんか。

「10倍も増す」なんてどうやって調べたんだい?

と突っ込みたくなる。

伝わってこないですよね。
残念ながら、このコピーの「説得力」は低い。(笑)


なぜ、上記コピーは実感が感じられず、
相手に伝わらない結果に終わっているのでしょうか。


その答えはずばり「ウソ」をついているからです。


資生堂/TSUBAKI「日本の女性は、美しい」
新潮文庫「Yonda?」

などを手がけたコピーライターの谷山雅計氏は、著書の

『広告コピーってこう書くんだ!読本』(宣伝会議)

の中で、

“人はコピーでウソをつく”

と指摘しています。


そして、谷山氏は、その具体例として、
「古本屋に若者をもっと呼ぶためのコピーを作れ」
というお題に対する学生の答えを示してます。


「古本屋で本を買ったら、
 あるページに前にもち主の涙の跡があって、
 自分も同じところで感動した」


一見きれいに決まっている。
でも、実感が感じられないはずです。

本を読んでいるとき、
涙が本の上にぼろぼろ落ちるような人が
そもそもどれだけいるのか?

あるいは、

もし実際に涙がこぼれた跡だとしても、
後日、その本を開いた別の人が、
単なるしみにしかみえないであろうものを
果たして「涙」と認識できるのか?

こんな疑問があれこれわいてきて、
このコピーを信じる気にはなれないですよね。


また、以前、JR東日本のあるポスターには、

「アイラブ東日本」

というキャッチコピーが書かれていたそうです。


谷山氏は、このコピーについて次のように
斬り捨てています。

“「アイラブ東日本」のように、
 日本の東側半分だけを愛している人など
 ひとりもいないはずです。”


「アイラブ東京」「アイラブ大阪」
という人は確かにいますよね。

私はもちろん、

「アイラブ福岡」(ふるさとですから)


でも、

「日本アルプスから東側だけが私は好きなんだ」

というのは、人の感情としてまずありえないでしょう。


谷山氏は、前述した

「古本の涙の跡」

のようなウソはすぐに見抜けるけれど、

「アイラブ東日本」

のようなハイレベルのウソは
なかなか気づきにくいと述べています。


だから、JR東日本のポスターに堂々、
このへんてこりんなコピーが採用されてしまった。

そしてもちろん、このメッセージは
ターゲットユーザーには届かず、

「広告の無駄遣い」

という結果に終わっているわけです。


コピーに限らず、文章作成において、

「実感のない言葉」「伝わらない言葉」

をうっかり書いてないか、注意したいですね。
(自戒を込めて)

*『広告コピーってこう書くんだ!読本』
(谷山雅計著、宣伝会議)

投稿者 松尾 順 : 15:34 | コメント (4) | トラックバック

フリーペーパー花盛り

最近、さまざまなフリーペーパーを目にするように
なってきましたね。

特に、駅構内や街頭で配布する無料誌が
雨後のたけのこのように出てきてます。


これらの無料誌のレイアウトやコラムの文字数(800字)を
見ると、『R25』のスタイルを真似したものが多いようです。

街頭配布型としてひとつの成功モデルを作った『R25』が
スタンダードとして見られているということでしょう。


さて、無料誌についてのネット1000人調査の結果を
かいつまんでご紹介しておきたいと思います。
(日経産業新聞、2007年6月15日)


・最近3ヶ月以内に読んだ人は64.4%
・一番よく読まれた媒体(閲読率)は、

1位:「ホットペッパー」(46.7%)、
2位:「ぱど」(26.9%)、
3位:「タウンワーク」(24.1%)
4位:「R25」(16.8%)


ホットペッパーが圧倒的に多いですね。

配布スタッフが駅前などでかなり強引に配ってますから、
到達率が高くなるんでしょう。

しかし、最近のホットペッパーのタウンページ並の厚さは
どうにかならないんでしょうか。

あまりの厚さに、そもそも受け取る気にならないし、
もらってもめくる気がしない・・・

好きな人にとっては、あの分厚いページを
じっくりめくるのが楽しみなのかもしれませんが・・・


・満足度の高さ(満足+まあ満足)の1位:「L25」(84.6%)


「R25」の姉妹紙である「L25」閲読率では8%程度でしたが、
20-30代女性ターゲットのこれまでになかった切り口(R25的な)
が受け入れられたことがわかりますね。


・無料誌を読む理由のトップは、
「お得な情報が手に入るから」(65.7%)、
 2位は「暇つぶしになるから」(%明示されていません)


・無料誌を読まない理由は、

1位:「不要な情報が多い」(31.2%)
2位:「捨てるのが面倒だから」(24.2%)
3位:「大きかったり、重かったりして邪魔だから」(12.9%)


自由回答では、「もっと小さく、軽くしてほしい」との
要望が多かったようですが、おそらく「ホットペッパー」
に向けられたものでしょうね・・・


日本生活情報紙協会の調査(06年)によれば、
発行されている無料誌は都市部を中心に1,200誌、
年間総発行部数は約100億部に達するようです。


インターネット上のデジタルメディアが浸透しつつある一方で、
従来ながらのアナログな情報誌の存在感が高まっているのは、
ちょっと不思議ですよね。


紙媒体の持つ携帯性の高さ、手軽さには、
デジタル機器はまだまだかなわないから、というかも
知れません。


蛇足ながら、
私のお気に入り無料誌は、
「R25」は別格として、50代男性が対象の

「ゴールデンミニッツ」(毎月26日発行)。

内容がしっかりしてますし、つくりにもお金をかけています。


当誌は、東京都心の限られた地下鉄駅でしか配布されていません。
配布部数は10万部台のようです。

「R25」以上に、すぐになくなってしまいます。


ただ、果たして事業としてペイする(している)かどうか、
疑問です。コスト的に厳しいように感じます。

廃刊にならないことを願っています。

投稿者 松尾 順 : 13:53 | コメント (4) | トラックバック

成長するタクシー広告

タクシー業界は、運転手さんのサービス・マナーの悪さや
低賃金の問題がよく取り上げられますよね。


一方で、ほとんど注目されてこなかったのが

「タクシー広告」

です。


しかし、ここ数年は、「小冊子広告」が急激に伸びています。
(日経産業新聞、2007/06/01)

タクシーの背もたれの設置された専用ラックに、
置かれたハガキ大の小冊子、お気づきですよね。

広告内容は、ダイエット食品やエステなどさまざまです。


従来は、20センチメートル大のパンフレットが主流でした。

近年、小冊子スタイルが増えているのは、
そのまま持ち帰ってもらうことが狙いです。


このタクシー内での「小冊子広告」の先鞭をつけたのは、
おそらく、新卒採用コンサルティングで急成長した

「ワイキューブ」

だと思われます。


社長は、安田佳生氏。
安田氏は、何冊もベストセラーを書いています。

最近では、

『千円札は拾うな』


というユニークなタイトルの本が売れました。


ワイキューブは、マーケティング巧者です。

社長さんが積極的に本を書き、マスコミに登場することで
知名度を上げる一方、ダイレクトマーケティングなど
地道なところにもしっかりお金をかけています。


さて、同社の主力事業、新卒採用コンサルティングの
ターゲットは企業の採用担当者ですが、中小企業では
経営者自身がかなり採用に関与します。

そこで、目をつけたのがタクシー広告でした。


タクシーの主要客層は、
30-50歳代の購買力を持つビジネスパーソンです。

そして、東京を走るタクシーには、
上京した地方の中小企業社長が乗車することも多いだろうと
仮説を立てたわけです。


同社がタクシー広告を始めたのは、3年ほど前だったと
記憶していますが、いまだに継続しているということは、
相応の効果があるということなんでしょうね。


実は、タクシー広告は意外に安い媒体です。

小冊子を専用ラックに置いてもらう場合で、
都内を走るタクシー500台以上に掲出して
1ヶ月、1台当たり950円。


たとえば、1,000台に1ヶ月掲出したとすると、
総費用95万円です。

そして、タクシーの一日当たりの輸送人員は
46人だそうですから、1,000台、1ヶ月掲出では、

延べ138万人

の潜在顧客にリーチできる計算になります。

この場合、
ターゲット一人当たりへの到達コストは約1.5円と、
TVコマーシャルのそれにかなり近い水準ですね。

投稿者 松尾 順 : 08:35 | コメント (0) | トラックバック

メディアミックスショッピング:ジャパネットたかた

先週土曜日(27日)、「ジャパネットたかた」
の新聞折込チラシが全国で配布されたようですが、
お気づきになりましたか?

千葉・松戸の我が家の日経新聞にも入ってました。

「ジャパネットたかた」のチラシが我が家にも入ったのは
たぶん始めてです。相当大規模なチラシ攻勢なんでしょう。

ざっと眺めてみましたが、Windows Vista搭載パソコンと
ハイビジョンテレビを中心とした紙面構成です。

パソコンの仕様や価格設定は、さすがにツボを抑えていました。


さて、同社の中心顧客層は、

電気製品に弱く、通信販売で商品を購入することに抵抗がなく、
一方で、受動的でウィンドウショッピングが苦手という人たち

です。


「ジャパネットたかた」は、全国のこうした顧客層に対し、

絞り込まれた商品をテレビ、ラジオ、チラシ、カタログ、
Webサイトなどあらゆるメディアを駆使して訴求する

「メディアミックスショッピング」

によって、成功を収めてきました。


よく考えてみれば、同じ商品をさまざまなメディアで
ほぼ同時に横展開するわけですから、あまり効率が
よくないように思います。

ただ、それぞれのメディアの特性を活かし、
手を変え品を変えて商品の魅力を伝えることで、
説得力を高め、爆発的な販売力を可能にしています。


実際、高田社長によれば、

「ご老人は、テレビに言っただけのことは信用しない。
 紙に書いてあることでなければ信用しない人も多い」

のだそうです。


また、高田社長は消費者心理をよく理解しています。


消費者にとって一番大切なことは、

「どんな商品が、いくらで買えるか」

ということです。

すべての消費者が
フル装備の多機能商品を求めているわけではありません。

機能が少ない商品でも、
それに見合った価格が設定されていれば買う人がいます。


つまり、

「商品の価値は、使う人の満足度で決まる」

ということ、そして、使う人の「満足度」は、

「本当に必要で、使いやすい便利な機能かどうか」

「値段が適正かどうか」

で決まるということです。


ところで、本日付の日経MJ(2007/01/29)には、
高田社長のインタビュー記事が掲載されていますね。

ジャパネットたかたは、2004年の顧客情報流出事件の際、
1月間半の販売自粛を行った影響で減収減益になりました。

しかし、直近の2006年12月期には年商1千億円を突破。
再び成長軌道に乗ってます。

長崎に本社を置く地方企業が、
全国の消費者の心をこれほど掴むことができたのは
すごいことですよね。


余談ですが、通販企業の大手は地方、
つまり関東以外で誕生していることが多いように思います。

これって何か理由があるのかなと気になっていたんですが、
神戸に本社のあるフェリシモについての記事
(日経ビジネス、2007/01/29)の中にその答えを見つけた
ような気がしました。


それは、同社のカタログを精読している地方在住の
フェリシモの顧客が口にした一言です。

「私たちにとって、市販されている女性誌なんて
 生活に関係のないことばかりです。東京のレストランや
 衣料品のことが出ているけれど、地方に住む私たちには
 何の関係もない。でも、このカタログは違うでしょう」


全国をターゲットにする企業の本社が東京にあると、
地方にすむ消費者の心理やニーズが見えなくなってしまうんじゃ
ないでしょうかね?

投稿者 松尾 順 : 13:38 | コメント (1) | トラックバック

ネット千人調査(2007/01/11-15実施)


年明け早々に実施されたインターネット調査
(回答者千人、男女半々)から、テレビ視聴などの
メディア行動についての結果が、日経産業新聞(2007/01/19)で
紹介されてました。


なかなか面白い数字ですので、すでにご存知の方もいらっしゃる
と思いますが、いくつかメモ的に拾っておきます。


・テレビ視聴時間の変化

 3年前に比べてテレビを見る時間が減った人は39.0%、
 「変わらない」(38.0%)を上回っています。一方、
 テレビ視聴時間が「増加」した人は23.0%。

 20代-30代台前半の女性だけでみると、「減少」(46.6%)、
 「変わらない」(23.0%)の2倍、10代の女性の「減少」も
 44.0%と、テレビ局のメインターゲットだった女性層の
 テレビ離れが顕著です。


・テレビの代わりに増えた時間の使い方

 トップは「インターネット」(71.0%)、
 二位「仕事・勉強」(28.2%)、三位「メール」(24.6%)。
 10代の女性では「メール」(45.5%)と突出して高い結果と
 なってますが、これは携帯メールでしょうね。


・06年に最も多く見たテレビ局
 
 「フジテレビ系」(41.8%)が3年連続トップ、
 NHK(14.1%)が2位、「テレビ朝日系」(12.1%)3位。
 フジテレビの強さが目立ちますね。一方、 かっての
 視聴率トップ、日本テレビは凋落激しく、わずか9.9%。
 

・CM飛ばし

 CM飛ばすことが「よくある」は44.2%、「ときどきある」は
 21.9%、合計で全体の3分の1。
 「あまりない」「まったくない」との回答は合計で20%ちょっと。
 みんな飛ばしてみるのが当然の行動になってます・・・


さてさて、まだまだTVは大衆のメディアとして君臨してますし、
TVコマーシャルも全体としては好調。

でも、消費者のメディア行動はじわじわと着実に変化しています。


いつかはインターネット系メディアにその座を奪われる日も
やってくる。いつかは言えないけれど、確実に予測できる未来
ではないでしょうか。

このことを自覚して、次世代のテレビのあり方を構想し、
実行に移せるかどうかで、テレビ局の将来が決まって
きますよね。

投稿者 松尾 順 : 19:13 | コメント (2) | トラックバック

雑誌の創刊ノウハウから学ぶ

Webサイトは、「情報財」をくるむためのITベースのパッケージ。

その本質は、コンテンツ(情報)であってITではないですよね。

Ajaxなどを活用したどんなにすばらしい最新の機能であっても、
それは、「情報」を

見つけやすく、あるいは、わかりやすく、楽しくする

ためのものに過ぎません。


インターフェイスデザインやユーザビリティも同様。

つまり、あくまでも、「コンテンツ」(情報)が主役であり、
その他の要素は、すべて引き立て役だと言い切ってもいいと
思います。


「コンテンツこそキング」です。

ですから、機能、デザイン、ユーザビリティ以上に
コンテンツの質、量、鮮度には配慮しなければならないはず。

ところが、現実には、コンテンツがおざなりであったり、
更新が十分でないWebサイトが目に付きますよね。

これは、企業のサイト上の情報編集能力が弱いためじゃないかと
私は推測しています。

どの企業も、サイト構築自体は
外部制作会社に相応のお金を払ってやってもらうことをしますが、
不思議と運営については予算がほとんど計上されていません。


だから、外部のプロに頼むことができず、
内部で細々と片手間にやってしまうということになりがち
のようです。

結果的に内容的にもプアで、かつ更新されない情報が永久に
掲載され続ける「ゾンビサイト」になりがち。


そういう悲惨なWebサイトにしないために、
私は、週刊や月刊など、継続的な発行を前提とした雑誌編集の
ノウハウをWebサイト運営にもっと取り入れるべきだと日ごろ
から考えています。


そこで、今日は、ハーストマガジン前社長、ギル・モウラー氏
の雑誌創刊で成功するポイントをざっくりご紹介します。
(編集会議、2007.01)


「もっともすばらしい雑誌、最も成功している雑誌は、
 人々が過去に望んだ情報を提供したりしない。」

「それらは、人々が将来望みそうなものを直感的に理解し、
 雑誌に掲載している」

「すなわち、雑誌を作り出すものにとっては、それを雑誌に
 表現できるか、できないかが、成功と失敗の分かれ道になる。」


モウラー氏はこのように語っていますが、
これは、雑誌にとどまらず、あらゆる商品開発に通底する原理原則
と言えますね。


モウラー氏の考える4つの「Don't」(してはいけないこと)

(1)自分のアイディアにほれ込んではいけない(現実的な限度を
   超えて過大に将来を予測してはいけない)

(2)「ミー・トゥ・アイディア」(ものまね)で成功できると
   考えてはいけない

(3)小さなターゲットに焦点を当ててはいけない

(4)経験より希望にかけてはいけない。現実離れした事業計画、
   無料の宣伝といった希望はすべての誤りのスタート
   (経験を通じて、現実的な雑誌運営を学べ)


そして、基本の10のルール。

(1)常に読者を意識する

(2)読者は常に一人である。一人の読者の姿を頭の中に明確に描く

(3)ターゲットの状況ではなく、ニーズを編集する

(4)「ライフスタイル」という文字を多用しない(なぜなら、
   ぼやけた夢想家のようなイメージだから)

(5)雑誌のキャッチフレーズは、明確に、鋭く、簡潔に

(6)キャッチフレーズは具体的な安心感を与える効果のあるものに

(7)1音節の言葉が決め手。分からない言葉は絶対に排除すべき

(8)最初にカバー・ライン。まず最初に、表紙のカバー・ライン
   にキャッチコピーを書く。それから該当する編集材料を作る

(9)誘い文句が重要。具体的には、どのように、なぜ、秘密、
   告白、医者、豊富な、セックス、すばやく、今、簡単、
   やせる、勝つなど。

(10)アートディレクションはさりげなく


上記についての細かい解説は省きますが、モウラー氏の言っている
ことを読むと、雑誌創刊は、事業立ち上げであり、
またマーケティングそのものでもあることがわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 16:08 | コメント (2) | トラックバック

「R25」の仕掛け

昨日に続いて今日も「R25」を取り上げます。

一読者としてなにげに読んでると気づきませんが、
誌面構成はかなり緻密な計算に基づいて練り上げられたものです。


ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「R25」は、

「帰りの電車の中で読んでもらう」

ことを前提に作られています。


「M1層」、つまり20-34歳の男性が都心の職場を
夜8時前後に出て、駅に向かう途中で「R25」をピックアップ、
電車に乗ったら読み始めるというのが、正しい作法です。(笑)


最初の方のページは、政治、経済、ITなど幅広いテーマを
取り上げた「ランキンレビュー」。固い内容です。

まだまだ気持ちは、

「ビジネスONモード」

ですから、フムフムなどとちょっと難しい顔をしながら
ちょっと賢くなった気分を味わう。

そして、ブックレビューを経てインタビューのページへ。
少し話題がやわらかくなってきます。

インタビューに登場するのはだいたい30-40代の有名人。
ちょっと勇気をもらう。元気になる。


さらにページをめくると、
ますますテーマがこなれてきますね。

鈴木おさむ氏の「胸キュン短歌」、さぼれる場所がわかる
「SAH"OL」など脱力系コンテンツのおかげで、
気持ちが徐々に

「プライベートOFFモード」

へと切り替わっていきます。


自宅の最寄り駅に着くころには、ちょうど
コンビニの新メニュー比べのコーナーを読んだばかり。


駅の改札を出たら、いつものコンビニに立ち寄って、
早速新メニューをチェック、勢いで購入。


家に着いたらすぐさまテレビとPCオン。
R25の深夜番組表で見たい番組はすぐわかります。
PCやケータイWebですぐに手に入る通販商品のページ
もなかなか購買意欲をそそります。


というわけで、「R25」は、
「M1層」の帰宅時の行動パターンに完全に
沿った形で誌面が構成されていたというわけです。

ポイントは、具体的な購買行動に結びつけるように
読者の気持ちを変化させていくこと。


具体的には、次の4つのキーワードを意識して
「R25」は作られているそうです。

・アテンション・・・「あ、そうか」(今と向き合う)
・モチベーション・・・「よしがんばろう」(勇気が出る)
・インビテーション・・・「これ、やりたい」(動機付けられる)
・アクション・・・「やってみよう」(消費に向けて動き出す)


私は「R25」世代ではないので、実のところあまりピンと
来ませんが、「R25」世代の人たちはやっぱり
まんまと乗せられちゃってるんですかね?

投稿者 松尾 順 : 08:41 | コメント (2) | トラックバック

広告の見かた

「月刊アイ・エム・プレス」で先月から始まった連載、

「DR(Direct Response)広告改造屋」

がなかなか面白いですよ。


毎回、ダメダメ広告を取り上げて、問題点を指摘し
こうすればよくなるよという改善例を示すというもの。

「広告ビフォア・アフター」です。

執筆者は、ダイレクトマーケティング専門広告代理店の
「ラップ・コリンズ」の創始者、トーマスコリンズ氏。
業界では超有名人です。


さて、コリンズ氏によれば、
広告には次の4つのタイプがあるそうです。

1.商品の固有なベネフィット、優位性、ニュース性、
  差別化ポイントなどを訴求し、または再認識させ、
  説得を働きかけ、行動を促すもの

2.商品に決め手となる差別化ポイントがない場合、
  読者の心の中に、継続的に好意的なマインドシェアを
  築き強化することを狙うもの

3.主目的として1を。副次的に2を達成するもの

4.1も2も達成できず、ほとんど広告としての価値が
  ないもの


4はダメダメ広告ですから論外ですね。

1は、明確な競合優位性がある場合、それを前面に押し出して
合理的な説得を図ろうとするものです。

例えば、ノートパソコンなら「パナソニック レッツノート」。
広告の訴求ポイントは、軽量さと長時間駆動に絞ってます。
モバイルPCユーザーの最も重視するニーズに対する答えを
明快に伝えています。


2は、端的にいえばブランド広告です。
合理的な判断を超越し、共感を呼び起こすもの。

焼酎の「いいちこ」が典型例でしょう。
様々な自然の風景の中に、「いいちこ」のボトルがぽつんと
置かれている。コピー最小限。


コリンズ氏の4つの広告の分類法は極めて基本的なことですが、
この視点で、自分が目にする広告を評価してみると、
「マーケティング眼」を磨くとてもいいトレーニングになりますよ。

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (0) | トラックバック

ナラティブ広告

説得ではなく、共感。

機能や性能だけで、
消費者を惹きつけることができた時代は終わってますよね。

もちろん、水で加熱する電子レンジとか、塩水で洗う洗濯機だとか、
「そんなのできるの」とびっくりするような製品が
今だってたまに登場します。

そうした機能、性能に頭抜けたものをもつ新製品なら、
買ってもらうための説得は比較的簡単です。
これまでの製品との明確な違いが説明できますからね。

でも、それほど画期的でもなく、競合他社との差もたいしてない
ということになれば、説得は難しい。
「自社の製品を買うべき明確な理由」を示せないからです。


そこで有効なのが、製品開発者の思いや背景、開発秘話など、
「物語」を語ること。

理詰めのロジックじゃなくてなく、ストーリーで攻める。
頭で理解してもらうのではなくて、心で共感してもらう。


近年の行き過ぎたロジカルシンキングの反動もあると
思いますが、「物語」の有効性がビジネスで認められつつ
あります。

最近人気の「スープストック トーキョー」の事業計画は、
イメージを刺激する豊かな物語が書かれていました。
それが、この事業に対する投資にGOがでる大きな力に
なったようです。

しょせん、つじつまあわせに過ぎない数字を羅列しただけの
事業収支計画だけでは人の心は動きませんよね。
スープを飲む情景がありありと描かれたストーリーが、
この事業の成功の可能性を感じさせたのでしょう。


イメージを刺激する物語は、共感を呼ぶだけでなく、
記憶に残りやすいというメリットもあります。
記憶に残りやすいというのは、ブランディングの視点では
非常に意味のあることですよね。

そこで、物語(ナラティブ)の手法を活用した
マーケティング・コミュニケーションが増えつつあります。

例えば、ソニーのパソコン「VAIO」は、
約1年間にわたって全国紙に

「ナラティブ広告」

- VAIOgraphy -

を展開していました。(日経産業新聞、2006/05/24)

PCの基本スペック(CPU、メモリー、ハードディスクなどの
性能)はだいたい、どの製品も規格化された標準品を
使っているのでユーザーに伝える意義は弱い。

むしろ、デザインや素材、機能の細部など、
ソニーならではのこだわりを「おはなし」に乗せて
伝える。

それは、ソニーの価値観を伝えることであり、
「VAIOgraphy」企画を主導した同社の高瀬氏は、

「モノの価値を、値段と機能だけでは判断しない人。
 価格以上に大切なものがある、という価値感に共感してもらえる人」

に顧客層を絞り込むことができるという効用もあると
言っていますね。

この物語手法については、最近いろんな本が出ていて
次のマーケティングトレンドになるのはまず間違いありません。


ところで、物語を語る力、習得したいですか。

文学寄りのシナリオライティングを学ぶのも悪くないですが、
ビジネスへの応用を考えるなら「ISIS編集学校」がいいです。

応用コースに当たる「破」(守・破・離の「破」です)
では、「物語編集術」という課題があります。
スターウォーズやジェームスボンドの映画を素材に
自分で物語を作る練習をします。

今ちょうど、私が師範代で教えていて、
生徒さんたちが取り組んでいる真っ最中です。

投稿者 松尾 順 : 07:35 | コメント (0) | トラックバック

CM飛ばしの対抗策

昨年、ある懸賞企画で入選し副賞としてもらったパイオニアの
「HDD/DVDプレーヤー」(DVR)は便利で重宝してます。

VHSテープの出し入れや保管の面倒がなく、
気軽に録画して、気軽に再生できるんですよね。

当然、テレビCMはスキップです・・・
(仕事柄、新製品のやつとかは意識的に見ますけど!)


さて、見たいテレビ番組を録画して、
自分の都合の良い時に見ることを

「タイムシフト視聴」

と言いますが、
視聴者の立場ではなく、企業の立場で悩ましいのは、
CMを飛ばされてしまうことですね。


昨年発表された野村総研の調査では、
録画済み番組のCMスキップ率は60%を超えており、
視聴されないことによる推定損失額は540億円だそうです。
(この損失額については、前提の置き方や、
 計算方法に問題があるんじゃないかという反論が出ました)


企業側としては、視聴者に「スキップは止めなさい」と
命令できるわけではないので、
いかにしてCMをスキップさせないか、
知恵の絞りどころですね。


宣伝会議最新号(2006.4.15)のマディソン・アベニュー便りでは
米国での面白い最新事例が紹介されてます。

フライドチキンの「KFC」は、今年2月23日~3月3日まで、

「シークレットコード」

と呼ばれるテレビCMを放映しました。

これは、DVRやVHSで録画して「スロー再生」すると、
隠れたメッセージ「シークレットコード」が浮かび上がる
もの。

そのコードをWebサイトで入力するとチキンサンドウイッチの
クーポンをゲットできるというプロモーションです。

この仕掛けの面白いところは、通常の放映では、
シークレットコードが見えない点。

むしろ、録画をして別の時間に見ているタイムシフト視聴者たち
をメインターゲットに置いて、
CMスキップを止めたくなる工夫をしているわけです。

さて、このプロモーションの成果を見ると、
クーポン券は先着75000枚のところ、103,000件もの応募を達成。
Webのアクセス数は40%増加ということで、
なかなかの成功を収めたようです。


また、ホームセンターの「ホーム・ディーポ」は、
3種類のCMを制作し、ホームページに掲載、
消費者の人気投票で一番好きなコマーシャルを選んでもらいました。

投票数は45万票に達し、うち17万票を獲得した‘Indecision’が
現在放映中だそうです。

消費者自身が「投票行動」という形で関わったCMです。
スキップしないで見たいという気持ちになる可能性が高いです。


テレビCMは、これまでも、なんだかんだと
問題が指摘されてきていますが、

到達率(リーチ)の大きさや費用対効果(主に認知度向上)

においてとても優れた媒体です。

消費者のCMスキップ行動をどうやって能動的に止めさせるか、
いろいろ対抗策をひねり出す必要がありますよね。


ちなみに、ネットテレビの「Gyao」では
いつでも自分の好きな時に見られるオンデマンド型放送なので、
録画とかタイムシフト視聴という概念は存在しませんし、
CMのスキップはシステム的にできない仕組みになっていますね。

これは、広告主が「Gyao」を評価する最大の理由のひとつです。

人間はお手洗いタイムで、画面を見ているのは愛猫だけかも
しれない。

けれども、少なくとも「飛ばされてはいない」わけですから。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2) | トラックバック

追いかけてくる広告

オンライン広告の中で最も注目率が高く、また実際のアクション
(オンライン広告のクリック率や資料請求、購入など)
につながりやすいと期待され、このところ注目されているのが、

「行動分析型ターゲット広告」

と呼ばれるものです。


この広告は、
Webサイト上でのターゲットユーザーの行動履歴から、

そのユーザーがどんな製品やサービスに興味・関心があるか、

また、

どの程度購入意欲が高いのか、

などを分析した上で、
そのユーザーの琴線に触れる可能性の高い広告を配信します。

つまり、「行動」を分析して、ターゲットユーザーの「心理状態」
を推測し、その心理状態を操作(言葉がいやらしいですが)
することのできる仕組みというわけです。


この仕組みのポイントは顧客のニーズ、心理状態をリアルタイム
で追うことができる点。

今の、熱々のニーズを捉えて、
ユーザーがまさに望んでいたメッセージを送れる確率が
高くなるので、反応率も向上するんですね。


さて、行動分析型ターゲット広告の注目の新サービスが、
アイメディアドライブ(2006年4月10日に設立された新会社)の

「パーソナルアド」

です。

この広告では、
例えばユーザーが、化粧品の専門サイトを閲覧した後、
別のサイトに行くと、そちらのサイト上で化粧品のバナー広告を
表示させることができます。

つまり、ユーザーのニーズが明確な専門サイト上での
行動履歴を収集・分析し、ユーザーの今の心理状態、
ニーズを踏まえた最適なメッセージを他のサイト上から送れる
仕組みです。

これはなかなか面白いですよね。


ユーザーから見れば、自分に関心のある広告が全然別の
サイトで表示されるので、不思議に思うことでしょう。

いや、たぶんあまり気づかないまま、無意識にその広告を
クリックすることの方が多いかも知れません。


この仕組みのウリは、ページビューが少ない専門サイトでも、
そこに来るユーザーの行動情報を提供することで、
ページビューの多い他のWebサイトが得る広告収入の分け前に
預かれること。

パーソナルアドはこれからサービス開始ということで、
当初は40サイト、1年後には200サイトの専門サイトの加盟
を目指しています。


裏の仕組みを知ってしまうと、

「これって、広告が追いかけてくるようなものだね」

という感じでちょっと抵抗を感じますが、
おそらく広告効果の高い仕組みとして成功する可能性が
高いんじゃないでしょうか。

皆さんはどう思います?

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック