会話の4大機能とは?

企業は、自社サイトやブログ、
またフェイスブックページ、ツイッター
などのインタラクティブなツールを用いて、
ますます消費者・関係者と積極的な会話を
行なうようになっていますね。

そこで、そもそも会話にはどんな機能が
あるのかを理解しておいたほうがいいでしょう。

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会話には、次に示すように、
大きくは4つの機能があります。
(会話の「目的」と言い換えてもいいでしょう)

1 説得する
2 説明する
3 心理的結合を深める
4 情緒的変化を与える


以下、簡単に解説します。

----------------

1 説得する

相手が、自分の期待する行動を
してもらえるように働きかける会話です。

セールスパーソンの商談はもちろんですが、
広告、販促などの様々な

マーケティングコミュニケーション

の最終目的は、最終的に相手に自社製品・サービスを
購入してもらうことです。

したがって、マーケティングコミュニケーションとは
「説得」である、と言い切ってもいいかも。

----------------

2 説明する

相手がわかっていないこと、疑問を持っていること
について、理解してもらうための会話です。

例えば、自社がなんらかの不祥事を起こしたとき、
第一に、現状を正しく理解してもらうことが
重要ですね。

こうしたときは真摯な「説明」をまず行うわけです。
さらに、謝罪して許し(受容)を求めるとしたら、
「説得」の目的が加わります。

----------------

3 心理的結合を深める

お互いの親密さを高めること、
言い換えると、

心理的距離感

を縮めるための会話です。

企業としては、消費者に自社、あるいは自社製品・
サービスに対する

「心理的ロイヤルティ」

を感じてもらい、リピート購入やクチコミを
期待したいわけですから、この機能の活用も
非常に重要ですね。

これには、2つのアプローチがあります。

まず、適切な問いかけをして、
相手のことを深く理解することです。

そして、顧客データベースに個々のお客様の関心事、
好き嫌いなどを蓄積し、活用することが理想ですね。

これは、相手に対して

「自己開示」
(ありのままの気持ち、意見、評価などを伝えること

を求めることだと言えます。

もうひとつのアプローチは、
こちら側が「自己開示」をすることです。

企業人の立場でいえば、自社が大切にしている
価値観や理念、思いなどを率直に伝えること。

ただし、宣伝っぽくなると、

「自己呈示」
(自分の良さを伝えるためのプレゼンテーション)

になってしまうのでご注意!

ヒトは、お互いに相手のことを深く知れば知るほど、
心理的距離感が縮まるものです。

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4 情緒的変化を与える

相手を楽しませたり、驚かせたり、喜ばせたり、
感激させたりするための会話。

誰でも、面白い話や笑える話を聞かせてくれる人が
好きですよね。

会話を通じて、相手を心地よい気持ちにさせてあげること
ができたら、自分に対する好意はぐっと高まるもの。

企業のフェイスブックページやツイッターの中の人でも、
人気が高いのは面白い人ですよね。

また、「ほめること」は、相手を喜ばせるために効果的な会話。

調査によれば、「お世辞」でも効果があることが
わかっていますが、できれば心からの賛辞でありたいものです。

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企業人としての立場であれ、個人であれ、
以上の4つの目的を意識しながら話せるようになれば

「会話の達人」

になれること間違いなしです!


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投稿者 松尾 順 : 09:01 | コメント (0) | トラックバック

どれだけ手間と時間かけてますか?

お客さんの心を掴みたいなら、
楽しよう、手を抜こうとしちゃいけません。

また、効率性を考えすぎてはいけません。

可能な限り、手間と時間をかけた
コミュニケーションが必要です。


世界的なベストセラーである、

『説得力の武器』

では、相手を説得するための効果的な

「コミュニケーションテクニック」

が実証研究に基づいて解説されています。

同書では主要なテクニックとして

「6つの原理」

が示されていますが、
最もパワフルな原理はやはり

「返報性の原理」

でしょう。

これは、

「受けた恩は返さずにはいられない」

という心理を利用するもの。

具体的には、こちらがまず相手にとって
何らかの得になることを提供して、

「恩義」

を感じさせ、その後の説得を有利に
展開しようとすることです。


人間は社会的動物です。

すなわち、集団で生活を営む動物であり、
お互いに助け合うことで社会が円滑に回る。

したがって、「恩義」を大切にすること、
「借りはきちんと返したい」という欲求は、
人間社会において、最も根底にある心理だと
考えられます。

だからこそ、「返報性の原理」は、
極めて効果の高い説得テクニックに
なりえるわけで、仮に相手が自分に対して
あまり好意を持っていなくても一定の効果が
あるほどです。


さて、「返報性の原理」は、
ビジネスにおいては、

・無料サンプルの提供
・プレゼント(記念日など)
・グリーティングカード(誕生日など)
・試食販売
・試着
・無料レンタル(一定期間後に販売)

といった形で採用されています。

どれも一定の効果があるのは確かです。

しかし、より効果を高めたければ、

「できるだけ手間と時間をかけること」

です。

しばしば、

「心のこもった贈り物」

という表現をしますが、これは、
贈り主がいろいろと考えてくれたり、
手間や時間をかけてくれたことが
伝わる贈り物のことです。


ですから、お誕生日のお祝いを
プログラムで自動送信しているだけのeメールや、
印刷された文面だけのカードをもらっても、
私たちはちっともうれしくない。

恩義を感じることはない。
なぜなら、人手がかかってないことがわかるから。
心がこもっていないから。

以前もご紹介しましたが、
ある通販企業には、お礼状を1枚1枚手書きで
書く人々が雇われています。

手書きの礼状やお祝い状は、
一定の時間や手間をかけたことがわかるので、
うれしいのです。恩義を感じるのですね。

そして、

「また買ってあげなきゃ(悪いな)」

という気持ちにさせるため、
リピート率の向上につながっています。


また、試供品の無料提供は文字通り、

「試してもらう」

ための方策としては有効ですが、
大量生産された商品をばらまいているだけでは、
やはり「ありがたみ」は少ない。

しかし、ちょっとした手書きのメッセージを
付け加えるだけで効果がまるで違ってきます。

そういえば、経営危機を乗り越え、さあ再出発
という時期のJALでは、客室乗務員の自筆の
メッセージを搭乗客全員に渡すといった工夫を
していましたね。


実は、ビジネスとして「返報性の原理」が
応用できるにも関わらず、それほど実施されて
いないことがあります。

それは、企業が持つ

「専門知識やノウハウ」

の積極的な公開です。

企業にとって、自社内にある専門知識やノウハウは、
あまりにも身近なもの。このため、たいして価値を
感じなくなっています。

しかし、外部の人々にとって、
それはとても価値が高いかもしれないし、
その知識やノウハウのおかげでなんらかの
問題解決につながることもある。

そうすれば、なによりも「恩義」に感じて
もらえるわけです。


自社がもつ専門知識やノウハウは、
あまり外部に出したくないという意識が働きますし、
わかりやすく伝えようとすれば、
手間と時間がかかるため、正直面倒だと感じるでしょう。

専門知識やノウハウの公開が、
それほど実施されていない理由はおそらく
こんなところでしょう。


しかし、だからこそ、
積極的に公開すれば、「返報性の原理」の効果が
大きく高まるのです。

なお、コンサルティングなどの専門サービス企業に
おいては、知識やノウハウは収益を生み出す商品です。

それでも、一定の範囲で積極的に公開することで、
評価が高まり収益向上につながるケースがしばしば、
見られます。

「返報性の原理」を自社ビジネスに応用するなら、
できるだけ手間と時間をかけること、効率性を重視
しすぎないことをぜひ心がけてください。

投稿者 松尾 順 : 12:41 | コメント (0) | トラックバック

残念なプレスリリース

イベント会場などで、
たまに顔を合わせる知人がいます。

会ったときはあれこれ話しますけど、
それほど親しいわけではありません。

その人が、時々私の携帯メールに
いろんなイベントのお知らせを送ってきますが、
ほんとにお知らせだけなんですよね。


一斉同報なので仕方ないとは思いますが、

「こんにちは」

くらい頭につけたら?と思うし、できれば、
同報じゃなくて、名前で呼びかけて欲しい。

個人レベルで送信してるので、
同報っていったって数十人程度だと思うんですよね。

イベントのお知らせ自体は私も関心のある分野。
決して迷惑ではないので、なんとも残念な気持ちに
なるのです。


まあ、これは個人レベルの話なので、
仕方ないかで済みます。

しかし、プレスリリースだと仕方ないで
済ませるわけにはいかないですよ。


マガジンハウス、「ブルータス」編集長、
西田善太氏は、最近増えてきたメールでの
プレスリリースに対し、

“1行目で読む気が失せてしまう”

とおっしゃっています。


それは、

「BCC配信にて失礼します」

と書かれた1行目です。


西田氏は以下のように言い切っているのです。

“たいした手間もなく、リターンキーひとつで
 送られる情報にどうやって興味を持てるというの
 でしょう?”

“編集の仕事でそんな依頼してたら、誰も動かせませんぞ。”

まったく賛成です。

さらに西田氏の名言!

“広告も広報も(そして雑誌も)人を動かす仕事です。”

人を動かしたいと本当に願うなら、
一斉同報、BCCで大量に配信して済ませるのは
効果の低い「残念な方法」だと思います。

一律の内容を手抜き的に送るのでは、
思いが伝わらないのです。

思いは、1対1の関係で
頼んでいるということを感じさせないと
伝わらない。

ですから、西田氏が言うように、

“贈る者は汗をかけ!”

だと思うのです。

これは、コピーライター、岩崎俊一氏が書いた
西武百貨店のコピーだそうですが。


大切な誰かにプレゼントを贈るときって、
相手が喜んでくれることを願って、
どんな立場・関係の人か、何が好きそうかを考え、
贈る中味、包装紙、贈り方など気を配りますよね。


西田氏は、プレスリリースも同じくらいの配慮が
必要ではないかと主張しているのです。

ITのおかげで、簡単に情報の大量送信が可能になった時代
だからこそ、逆に、送信先の媒体の特徴や紙面構成を
しっかり理解し、個別に送っていることがわかる文面の
プレスリリースに仕立てることが、好印象を高め、
最後まで読んでもらえて、掲載率も高まるのです。


*西田氏のコメントは、「広報会議」(2011 Apr.)
 の記事から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 07:34 | コメント (0) | トラックバック

レピュテーション・マネジメントと「逆SEO」

「レピュテーション・マネジメント」とは、
ひとことで言えば、企業(組織)に対する好ましい
評判やイメージを構築・維持するための活動。

したがって、「企業ブランド」の構築・維持を
目的とするものと言い換えてもいいでしょう。


レピュテーション・マネジメントには、
大別すれば、「攻め」と「守り」があります。

「攻め」のレピュテーション・マネジメントは、
積極的に情報発信を行うことによって企業の評判を
形成していくものです。

広報的なアプローチとしては、
プレスリリースを流し、メディアに記事や番組として
取り上げもらうことですね。

これからは、公式アカウントのブログ、ツイッターや、
フェイスブックページを通じてのメッセージ発信、
一般消費者とのコミュニーションもますます重要に
なってくるでしょう。

また、広告的なアプローチは、企業広告を出して、
一般消費者や関係者に好意的なイメージを形成してもらう
いった活動が該当します。


一方、「守り」のレピュテーションマネジメントは、
誹謗中傷、根も葉もない噂などの風評・悪評対策です。

新聞、雑誌などの既存のマスメディアに対しては、
正確な情報の提供、謝罪・訂正文の掲載依頼、あるいは
究極的には訴訟に持ち込むといった手段が採用されて
きています。


悩ましいのはオンラインです。

既存の媒体企業等が運用しているオンライン・メディア
であれば、従来のやり方で対応できます。

しかし、悪意を持つ人が運営するWebサイトやブログ、
また、オープンな場(ツイッターなど)で消費者が
流し、広まった情報に対しては、従来のやり方はあまり
有効ではありません。

多くの場合、訂正や削除依頼を出す相手が不明であったり、
あるいは既に情報が拡散しすぎていて手がつけられない
からです。


とはいえ、放置しておくわけにはいきませんよね。

私たちは、商品を購入するとき、就職・転職先を探すとき、
株・債権を購入するときなどあらゆる状況において、
まず検索エンジンを用いて当該企業の情報を詳細に調べる
ようになってきています。

この時、悪口やネガティブな噂が上位にずらりと
並んだとしたら・・・

たとえ、それらが、明らかな悪意を持って流された情報
だとしても、それらを閲覧した人としては、当該企業に
対するイメージがダウンせざるを得ないでしょう。


そこで、とりあえずの対策としての

「逆SEOサービス」

を利用する企業がこのところ増加しているようです。

「逆SEOサービス」は、いわゆるSEO(サーチエンジン最適化)
の技術を活用して、ネガティブな情報を検索結果の上位に
表示させないようにするもの。

このサービスを提供している企業は既に相当数存在して
いますが、具体的には、少なくとも検索結果の1ページ目に
は表示させず、2ページ目、3ページ目とできるだけ後ろの
ページにネガティブな情報を追いやることを目標として
各種逆SEO対策を行なうようです。


今、‘とりあえず’の対策と書きましたが、
逆SEO対策は、端的に言えば「臭いものにフタ」をするだけ。

すなわち、とりあえず、ネガティブな情報をなるべく
見せないようにするだけなので、同時並行的に、そもそもの
悪臭源を絶つ取り組みが必要なのは言うまでもありません。


また、「火のないところに煙は立たず」と言うように、
なんらかの誹謗・中傷や、悪い噂が出てくるというのは、
やはり、企業(組織)内になんらかの問題がある可能性が
高いわけです。

ですから、外部の悪臭源だけでなく、
内部の腐ったリンゴを探し出し、取り除く必要もあります。
(難儀でしょうけど)

投稿者 松尾 順 : 13:07 | コメント (0) | トラックバック

「こだわり」の発信

長引く現在の景気低迷期においても、
着実に成長を果たしている企業に
共通点はあるのか?

あるとしたらそれは何なのか?


お正月、私は改めて
この素朴な疑問を考えてみました。


共通点は確かにあると思います。


抽象的なレベルではありますが、
成長企業の共通点として挙げられるのは、
その企業ならではの

「明確なこだわり」

があることです。


端的にいってしまえば、

・ビジョン

が極めてクリアに定義されている
ということです。


ただし、掲げるビジョンは、

「1兆円企業になる」

といった利己的なものだけで終わらず、

「社会や人々にとっての幸せ」

のために当該企業がどのように
貢献できるかを示していることがポイント。
(そもそも、数値的な目標は「ビジョン」
 とは言えません)


そして、このビジョンを本気で
実現するために、とことんこだわっています。

そこで、成長企業を率いる経営者は、
自社のビジョンを単なるお題目に終わらせないため、
社外・社内に向けて繰り返し語り続けます。

つまり、自社が掲げるビジョンの実現に
コミットしていることを積極的に発信することで、
そうせざるをえない状況にあえて追い込んでいます。


例えば、私たち消費者は、

ユニクロ、無印良品、サイゼリヤ、オーケーストア

といった、
こだわりの発信に積極的な企業のビジョンを
頭(理性)で、あるいは肌感覚で理解していますよね。

また、彼らのビジョンに共感し、
一定の信頼を彼らに持っていますよね。

だからこそ、数ある競合製品の中から、
彼らの製品・サービスが優先的に選ばれるわけです。


逆に、こだわりがない(見えない)企業、
要するに、

・流行に乗っているだけ
・他社を真似しているだけ
・消費者にこびているだけ

の企業は、まぐれで成功することはあっても、
継続的な成長はありません。

なぜなら、こだわりがないので、
そもそも社内外に向けた発信ができませんし、

消費者の共感や信頼

が醸成されないからです。


企業としてはもちろん、

・トレンド・流行
・競合の動き
・消費者ニーズ

を常々把握することは不可欠ではありますが、
それ以前に、時代や消費者に左右されない

ぶれない軸=こだわり

が企業の存在基盤としてあり、
また、それを社内外に積極的に
発信し続けることが成長の必要条件なのです。

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (0) | トラックバック

カイタッチ・プロジェクト!(KAI TOUCH PROJECT!)参加

貝印が実施しているWebプロジェクト、

「KAI TOUCH PROJECT」
http://www.kai-group.com/jp/kaitouch/

に参加します。

これは、KAI TOUCH PROJECTで出されているお題に
自分のブログ上で答えると、貝印の担当者がコメント
しにきてくれるというものです。

カイタッチ・プロジェクト!
#002 あなたのお宅にも貝印製品
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K-4 TETRAシリーズ

-----------------------------------
(リンクを許可)


私は、かれこれ約20年間、

ひげ(口ひげ、あごひげ)

を伸ばしています。

1年前までの手入れ方法は、はさみでささっと切るだけ。
できるだけ長いままにしたかったのです。

ところが、ある人に言わせると私の顔は、

「満月の夜に変身途中のオオカミ男」

でした。
つまり、暑苦しく見苦しいヒゲだったわけです。


そこで、1年ほど前にイメチェン!

電動シェーバーを購入し、
ヒゲを思い切り短く、軽めのヒゲオヤジに変身したのです。

さすがにもはや「オオカミ男」とは言われません・・・!


さらに、昨年末には、
20年ぶりに貝印の替え刃式カミソリと
シェービングクリームを購入しました。

電動シェーバでは無理な、
ほおのあたりのひげをさっぱり剃りあげることで、

つるつる⇔ジョリジョリ

のメリハリのあるヒゲ面(笑)を現在は維持しています。


替え刃式カミソリは外資系メーカーのイメージが強いですが、
貝印のTETRAは、ロボットライクというか、メカニカルな形状が
店頭で目を引きました。

なにしろ20年ぶりにカミソリを使うので、
顔が血だらけになるのではないかとちょっと不安でしたが、
TETRAはグリップ部分が持ちやすくスムーズに扱えました。

TETRA、これからも愛用させていただきます。

投稿者 松尾 順 : 19:08 | コメント (1) | トラックバック

本の帯の気になるコピー

先日、あるパーティでビジネス系大手出版社元編集者の方
(「Aさん」としておきます)とお話する機会がありました。

編集者時代、Aさんは、
ビジネス書を50冊以上手がけられたとのことでした。
(現在は独立されて別の仕事をやられています)

Aさんによれば、人々の関心を集めるテーマや内容には
大きなトレンドがあり、そのトレンドをうまく読むことが、
売れる本を作るポイントだとのことでした。


最近は、

「●●勉強法」

というテーマがベストセラー上位を占めることが
多いですよね。

仕事の成果に直結するスキルアップを図らなければ、

「良い働き先が見つからない」

あるいは

「現在の会社に残れないかもしれない」

といった危機意識が高まっているせいでしょう。


さて、音声コンテンツのダウンロードサイト、

「ラジオデイズ」

が最近行った

本の「帯」などのキャッチコピーに書いてある言葉で、
つい気になってしまうもの

について聞いた調査結果を見かけました。
(編集会議、2009.01)


当調査の回答者数は4,554人。

全回答者ベースでの回答ランキング上位(10位まで)を
見ると次のようになっています。

1位 感動
2位 ~役に立つ
3位 衝撃
4位 すぐ分かる
5位 笑える
6位 泣ける
7位 ~部突破
8位 ~部絶賛
9位 映画化・ドラマ化
10位 メディアで紹介


ざっくり分析すると、上位にくる言葉は、

・感情が揺り動かされることが伝わる言葉(感情系ワード)
 →感動、衝撃、笑える、泣ける

と、

・実用的であることが伝わる言葉(理性系ワード)
 →役に立つ、すぐ分かる

の2タイプに分類できると言えますね。


この結果は、本のカテゴリー別でのクロス分析結果を
見たいところですが、おそらく

・文芸書における感情系ワードに引かれた
・ビジネス書における理性系ワードに引かれた

ということでしょう。
つまり、異なるタイプの関心が混在していると思います。


ただ、興味深いのは、

「映画化・テレビ化」や「メディアで紹介」

といった言葉はあまり読者の気を引かない言葉である
という点です。

作り手の押し付け的な印象があるからでしょうね。


なお、男性別に見ると、

●男性

1位 ~に役に立つ
2位 すぐ分かる
3位 感動
4位 衝撃

●女性

1位 感動
2位 衝撃
3位 すぐ分かる
4位 ~に役に立つ

です。

1、2位と3、4位が、
男女で入れ替わる形になってますね。 

こうした結果にも、
やはり男女の性差が如実に表れることがわかります。


それにしても、みんな「感動」したいんですね!


*ラジオデイズ
http://www.radiodays.jp/

上記調査結果は、サイトでは公開されていないようです。
また、編集会議の記事では実施日は記載されていません。

投稿者 松尾 順 : 18:00 | コメント (4) | トラックバック

バニティ・コミュニケーション

「ちょっと、おねえさん、お銚子もう1本!」


地元のそば屋で飲んでた中年のおじさんが、
店の人に声をかけました。

しかし、「おねえさん」と呼ばれたその人は、
推定年齢60歳超、どこからみても「ばばあ」、
いや「おばあさん」、というかシニアな女性です。


よくまあ、正真正銘のおばあさんに、
「おねえさん」と呼びかけられるものです。

私なぞ、まだまだ修行が足りないというか、
心理的抵抗が強すぎて、

「おねえさん」

とは決して口にすることができません。


もちろん、おじさんの言葉はお世辞。

でも、たとえお世辞でも、

「おねえさん」

と呼ばれたそのシニアな女性は悪い気はしないでしょうし、
ひょっとしたら、お酒の量をちょっと多めに入れてくれるかも
しれませんよね。


上記の例の場合、年配の女性が
「おねえさん」と呼ばれてうれしいのは

「まだまだ若いと思ってる自分」

を認められたように感じたからです。


最近、

「こうありたい自分」

に近づいた気分にさせてくれるコミュニケーションが
増えているような気がします。

・メイドカフェで、
 男性客を「ご主人さま」と呼ぶこと

・バトラー(執事)カフェで、
 女性客を「お嬢様」と呼ぶこと

なども、
客をちょっとした貴族やセレブになった気分を
楽しませるためですよね。


私は、相手の「虚栄心(バニティ)」を
くすぐる上記のようなコミュニケーションのことを

「バニティ・コミュニケーション」

と命名し、研究を深めていこうと思っています。

以前、米国では一般的だという

「バニティ・サイジング」

についての記事を書きました。


これは、女性服(アウターウェア)で多いのですが、
実際のサイズよりも、

サイズ表記(L,M,Sなど)

を小さめにするというもの。

例えば、実寸では「L」サイズなのに、
「M」とサイズ表記するのです。


この業界慣行、米国だけでなく、
日本でもやっているところがあるんですね。


日本では、女性の既製服の場合、

「9号」

が標準サイズです。

ですから、9号より大きめの11号とか13号じゃない
と着れない、

ぽっちゃり女性

は9号を着れるようになるのが夢!


この女性心理につけこむ服飾メーカーは、
実寸で11号や12号の服に9号のラベルをつける。

すると、このブランドの服だと、

「9号がぴったりだわ!」

と女性が喜ぶ。

この結果、お店の売上げが伸びるというわけです。


周囲の女性の方々に聞くと、ブランドによって、
同じ号数なのに実際の大きさが随分違うそうですが、
それは

「バニティ・サイジング」

が採用されているからなんでしょうね。


なお、ブラジャーの場合、
アウターウェアとは逆の表記法になるようです。

・実寸サイズ→バニティ表記

 A→B
 B→C
 C→D

という感じ。
もちろん、「バスト」は社会通念上、
大きいほうがいいということになっているから。


「バニティ・サイジング」も、
「バニティ・コミュニケーション」も、
どちらも昨今問題になっている

「偽装」

に近いものがありますから、
乱用は避けなければならないと思います。


ちなみに、私が命名した

「バニティ・コミュニケーション」

もあえて英語表現にすることでカッコつけてますから、
バニティ・コミュニケーションそのものですね。


*関連記事

「理想の自分で行動する」

投稿者 松尾 順 : 13:47 | コメント (4) | トラックバック

■「ニュース価値」を客観的に評価すべし!

『ブランドは広告ではつくれない』

という極論を説く本がありますね。


企業がお金を出して媒体スペースを購入し、
自社の広告を掲載しても、自画自賛に過ぎない。

だから、消費者は広告を信用しないし、目もくれない。


むしろ、「パブリシティ(=広報)」、
つまり「プレスリリース」などを媒体に送付し、

「記事」

として記者に書いてもらい、
媒体に掲載されることに力を入れるべきだ
という趣旨の内容でした。


実際、「パブリシティ」は、

「広告費」

がかからないこともあって、
近年注目する企業が増えています。

もちろん、「記事」として取り上げてもらうためにも、
相応のコストが必要ですけど。


ただ、パブリシティには「落とし穴」があります。

それは、広告と違って、
記事として掲載されるかどうかは

「媒体側の裁量」

にかかっているという点です。

お金を出せば、原則として掲載してもらえる

「広告」

とは違います。


今、「媒体側の裁量」と書きましたが、
要するに、その媒体の読者に対して伝えるだけの

「ニュース価値」

があるかどうかで判断されるということです。


ただ、企業側としては、

「ニュース価値」

を客観的に判断するのはなかなか難しいようです。


「記事として取り上げて欲しい」

という独りよがりな思いが強くなりすぎて、
媒体、いや「読者」にとって知る価値があるかどうかを
考えられなくなりがちなんですよね。


ヴェルディ川崎の広報部長や、
プランタン銀座の広報担当取締役などを歴任された
尾関謙一郎氏は、読売新聞の駆け出しの記者だったころ
次のような経験をしています。
(PRIR、2008 November)


1987年末、おおみそかの日、
尾関氏は、大手百貨店のカリスマと呼ばれる
有名経営者とアポを取り会いました。

その経営者は、

“あす(つまり元旦)の一面トップを飾るネタを提供しましょう”

と尾関氏に切り出したそうです。


元旦一面トップを飾るとなると、

“大手百貨店との合併か、あるいは有名海外デパートとの提携か”

と尾関氏は期待しました。


ところが、そのネタというのは、
グループ内に「専門店チェーン」をつくるという話。

(なあんだ・・・)

当時の流通業界において、
百貨店が専門店チェーンの展開に乗り出すのは
画期的なことではありました。

しかし、一般読者にとってはその意義がよくわかりません。
つまり、ニュース価値はあまり高くないわけです。


どうやら、この経営者は、
自分が属する流通業界の枠の外に出て考えるということが
できなかったようですね。


結局、このネタは、元旦どころか、
3月になってやっと

「経済面3段」

に掲載されたそうです。


「パブリシティ」に力を入れるのは結構ですが、
自社のプレスリリースの内容の

「ニュース価値」

について、客観的な視点で厳しく評価すべきなのです。


『ブランドは広告ではつくれない』
(アル・ライズ、ローラ・ライズ、共同PR、翔泳社)

投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

「魚介類サラダ」vs「海鮮サラダ」

あなたが和風レストランに行ったとします。

そして、メニューブックを見た時、
以下のどちらのメニューの方がより注文したくなるでしょうか?


1 魚介類サラダ
2 海鮮サラダ


おそらくほとんどの方が、

2 海鮮サラダ

と答えるんじゃないでしょうか。

そもそも、「魚介類サラダ」なんて
野暮な名前をつけるレストランは見たことありませんし、
センスありませんけど・・・


さて、レストランで

「海鮮○○」「シーフード○○」

というメニューは思わず注文したくなる、
売上げ増加に効くマジックワード。

魚を好む日本人の食欲中枢をとりわけ刺激する
言葉だと言えます。


「海鮮」のような、
人の感情や欲求を刺激することのできる言葉は

「情緒的意味」

を持っています。

一方、「魚介類」のように、
描写は正確だけれども辞書的な説明にすぎないものは、

「知的意味」

しか持っていないと言えます。


冒頭の例で言えば、

「魚介類サラダ」も「海鮮サラダ」

も実体は同じです。

しかし、人の心を刺激し、動かすという点で
マーケティング的にどちらが優れているかは明白ですよね。


なお、

「情緒的意味」と「知的意味」

の説明は、言語戦略研究所所長、齋藤匡章氏によるものです。


齋藤氏は、

“ビジネスでもプライベートでも、情緒的意味を意識して、
 相手の心にスッと入り込むような、気分に合うコトバ、
 心になじむ言葉を使うことが大切”

と喝破しています。


余談になりますが、
昨年のM-1の覇者、サンドウイッチマンのコント、

「ピザの宅配」

では、伊達さんがシーフードピザを注文したのに、
富澤さんが演じる宅配のお兄さんは、

「ミックスピザ」

を渡します。


注文違いに気づいた伊達さんが、

「これどう見てもミックスピザじゃねえか!
 シーフードピザが、どんなものかわかってるかい?」

と文句を言うと、富澤さんは

「はい、シーフドピザは、

‘死んだばかりの魚介類’

が載ってるピザです。」

と返す。

そして、伊達さんが

「おいおい、

‘死んだばかりの魚介類’

なんて言うな!」

と突っ込みを入れて笑いを取りますね。

彼らの言語感覚の鋭さが現れているコント
だと思います。


*参考文献

『コトバを変えなきゃ売れません。』
 (齋藤 匡章 著、サンマーク出版)

投稿者 松尾 順 : 10:33 | コメント (8) | トラックバック

「Iメッセージ」なコミュニケーション

「最近、あなたがおいでにならないから、
 私とても寂しいわ・・・」

常連になってた夜の店のママさんやなじみの女性から、
こんな言葉を言われた経験のある諸兄がいらっしゃること
と思います。

私は行きつけの店を作らない人なので、
残念ながら、こんな琴線に触れる言葉をもらった経験が
ありませんが・・・


さて、

「あなたが○○○だから、
 私は○○○な気持ちになってます」

という言い回しは、カウンセリングの世界で

「I(アイ)メッセージ」

と呼ばれます。

相手の何らかの行動に対する、
私(I)の感情を伝えることから
このように言われるわけです。


実は、この「Iメッセージ」、
相手に何かをやって欲しい時に
とても効果的です。

なぜ効果的かというと、ひとつには

「押し付けがましくない」

からですね。

言い換えると「弱い説得法」です。


この「Iメッセージ」の対極にあるのが、

「Youメッセージ」です。

「なぜお店に来てくださらないの!」
「近いうちにまた来てくださいね!」

といった言い回しが「Youメッセージ」。
あなた(You)が主語の言い回し。

こうした直接的な依頼は、
「強い説得法」です。


人は、基本的に相手にコントロールされることを
嫌いますから、強制力がない限りは、
強い説得よりも、むしろ弱い説得の方がじわじわと
効くのです。

また、Iメッセージは、
おそらく、人間が集団生活を円滑に営むために
本能的に埋め込まれている

「人の役に立ちたい」「人を喜ばせたい」

という気持ちをくすぐるから効果が高いのでしょう。
(こんな気持ちが欠如している人もたまにいますけどね)


したがって、職場の上司・部下の関係(あるいは親子関係)
のような、ある程度強制力がある状況においても、

「この仕事やっといて!」

という、Youメッセージよりも、

「この仕事をやってくれると、俺すごく助かるな!」

という「Iメッセージ」のほうが、
いい仕事をやってくれる可能性が高まります。


もちろん、Iメッセージは、
マーケティングコミュニケーションにも
応用可能です。

というか、良好な関係性ができている
既存顧客向けのコミュニケーション
(メルマガやDMなど)ではよく利用されています。


今後、取引先などから自分宛に届いたDMに
Iメッセージが含まれていないか、
また、もし含まれていたら、
そうしたメッセージが自分の心をどれだけ揺り動かすか、
ちょっと考えてみてくださいね。


なお、新規開拓にIメッセージは効きません。

知りもしない企業や人の気持ちを
一方的に伝えられても気持ち悪いだけですから。

投稿者 松尾 順 : 15:32 | コメント (2) | トラックバック

付加価値の高い言葉

耳に心地よい言葉とは?


「好きだよ」

なんていう「愛のささやき」は、
好きな人から言われたら最高の気分ですが、
嫌いな人から言われたら鳥肌が立つ・・・

万能の言葉じゃありませんね。


でも、誰が口にしようが、
まず確実に相手を気分良くさせる言葉があります。

私は、

「付加価値の高い言葉」

と呼んでます。

それらの言葉は、無理に言わなくても話は通る。

でも、その言葉を付け加えることによって、
相手と良い関係を作ることに役立つ言葉です。

そんな付加価値の高い言葉には様々なものがあると思いますが、
特にビジネスシーンで使える3つの言葉をご紹介します。
(他にも、「こんな言葉も付加価値高いよ!」 というのが
あれば教えてくださいね)


1.相手の名前「○○さん、・・・」


以前もこのことは取り上げましたが、
自分の名前を呼ばれて気分を悪くする人はいませんよね。


カリスマ販売員、長谷川桂子氏が経営する化粧品店

「安達太陽堂」(岡山県新見市)

では、顧客が来店したら、

「あら、松尾さん・・・」

と必ず顧客の名前を呼びかけています。


*関連記事
「あら、○○さん、お帰りなさい」


2.「いつも・・・」


事務所近くにある

「とんかつ 新宿さぼてん」

で、私は月に1回くらいお弁当を買います。


それで、この店の店長らしき女性だけは毎回、

「いつもありがとうございます。」

と言ってくれます。

月1回程度しか寄らないから、

「いつもじゃないんですけど・・・」

と心の中で思うのですが、
不思議と悪い気がしないんですよね。

また来なきゃ悪いなとなぜだか感じてしまう。


メールなどのあいさつ文でも、
まだ取引のない見込み客に対してさえ

「いつもお世話になっております」

という形式的な言葉を使いますよね。


たいした意味はないけれど、

「いつも」

という言葉には潤滑油としての価値があります。


ただ、お店で

「いつもありがとうございます」

というあいさつをする店員さんは
ほとんどいないんですよね。


3.「喜んで!」


何か相手に依頼した時に、

「承知しました

だけじゃなくて、

「喜んで!」

という言葉が続くとこちらもうれしいですよね。


使うにはちょっと気恥ずかしい言葉です。

でも、依頼する側の精神的負債感を
軽くしてあげる効果があります。


さて、こうした「付加価値の高い言葉」は、
その本質を掘り下げてみると、

「(自分の存在を)認めてもらいたい」

という「承認欲求」や、

「大切に思われたい」

という「尊厳欲求」を満たすことができるからこそ、
高い効果を発揮するわけです。


ビジネスであれプライベートであれ、
相手を認知し、承認し、大切に思っていることを
伝えることが重要なんですよね。

まあ、こんなことをえらそうに書いてる当の私は、
大してできてませんけど・・・!

投稿者 松尾 順 : 09:39 | コメント (4) | トラックバック

市場開発には投資が必要だということ

「市場開発」

とは、より具体的には、

「新規顧客を獲得するための取り組み」

と言い換えられます。


なお、「市場開発」を実際に行うための

「基本理論」や「枠組み」、「ガイドライン」

などのことを

「マーケティング」

と呼びます。(ただし、マーケティングの適用範囲は、
「市場開発」だけに留まりませんが)


さて、この「市場開発」という言葉、
普段のビジネスシーンではほとんど使いませんよね。
(表現が硬いせいでしょうか)

しかし、もっと意識して使うべきではないかと、
ずいぶん以前から私は思っていました。


なぜなら、新規顧客を獲得するためには、
相応の資金を「先行投資」として投下することが
必要であるにも関わらず、その認識が薄い企業が結構多い。

だから、

「市場開発」

という表現を使えば、
目先の短期的な収支にとらわれない

「先行投資」

の重要性を意識しやすいからです。


「製品開発」は、明らかに先行投資ですよね。

‘柳の下のどじょう’製品はさておき、
純粋な新製品を開発しようとしたら、
市場に出すまでに数千万、数億、製品によっては
数十億円以上のお金を先行して投じるわけです。

しかも、新製品が100%ヒットする保証はありません。


製品開発に投じた莫大な資金が回収できるかどうかは、
蓋を開けて(上市して)みなければわからない。


しかし、継続的な成長のためには、

「製品開発」

のための投資が必要であることを
まっとうな企業(特にメーカー)は十分に認識しています。

だから、厳しい経営状況でも、
投資予算をなんとか確保しようとするわけです。


一方、新規顧客を獲得するためにもまた、

「相応の投資」

が必要なのだという認識は、
優良企業でも意外に薄いのが現実です。


新規顧客を獲得するためには、
相応のマーケティング予算を確保して、
十分な広告宣伝を行い、
製品の存在を認知してもらい、
またその特徴やベネフィットを潜在顧客に
知ってもらうことが欠かせません。


いまさら言うまでもないことですが、

「優れた商品なら黙っても売れる」

ということはまずないのです。
(運よくそうなることもありますが、
 事業を「運」だけに頼るわけにはいきませんよね)


結構前のことですが、
地方の某ソフトハウスが新たに開発したばかりの、
法人向けソフトウェアのマーケティング施策に
関わったことがあります。


このソフトは、今後法人ユーザーが間違いなく
必要とする機能を備えており、非常に有望な商品でした。

既に名の知られた競合他社が類似製品を出していましたが、
まだまだ市場導入期にある製品のため、この企業が
トップシェアを獲得することは決して無理ではないと
思っていました。


ところが、この企業はマーケティング予算を
ほとんど確保していなかったのです。
(確保する気も薄かった)

ソフトウェアの開発のためには、
おそらく数千万円を「投資」として投じたにも関わらず、
市場開発のための「投資」の必要性をまったく認識
していなかったわけです。


結局、ほとんど予算がないこともあり、
この案件に私が深く関わることはできませんでした。

この新商品の結末がどうなったかは、
あえて言わなくてもわかりますよね・・・
とても残念でした。


「市場開発」には、「製品開発」と同様、
相応の投資が必要だということを
ぜひとも企業の皆様に改めて認識してもらいたいと
願っています。

投稿者 松尾 順 : 12:17 | コメント (2) | トラックバック

『オルタナ』の決断と私の迷い

『オルタナ』は、2007年4月創刊の雑誌。

「環境と社会貢献と「志」のビジネス情報誌」

がキャッチフレーズです。


オルタナには、
既存のビジネス誌では取り上げられることが
まだまだ少ないテーマ、例えば、

・企業の社会的責任(CSR)
・LOHAS
・環境保護
・エコロジー

についての記事が掲載されています。


同誌は、当初無料配布で読者の拡大を図ってきました。
私は創刊2号から読者になりました。


さて、創刊後しばらくして公表された同誌の方針では、
最初の2万部(人)までは無料で配布を継続し、
以降の新規読者については有料化(1部350円)する
ということでした。


ところが、先日届いた
同誌編集長から既存読者宛のメールによれば、
無料購読を廃止し、

「全面的に有料化に踏み切る」

とのこと。

やはり充実した紙面作成のためには、
資金がもっと必要だということでした。

苦渋の決断でしょう。


しばらくして、
編集長から再びメールが届きました。

上記の突然の通知についてのお詫びでした。

どうやら、当初の約束を翻すことについて、
無料購読者から多くのクレームが寄せられたようです。


私自身もちょっと釈然としない気持ちです。

ただ、「オルタナ」のような雑誌は、
地球環境に対する危機意識が高まっている今、
とても重要な役割を果たす情報誌だと思います。

キャッチコピーにあるように、

高い「志」(こころざし)

を持って取り組まれていることは、
同誌を読めばわかります。


今回の全面有料化も
相当悩んだ末での結論だと思います。

ですから、あえて意見を送ることは
しませんでした。


それでも私は、
購読料を払うかどうか迷っています。

以前と比較して、最近の号は
飛躍的に内容が充実してきています。

ただ、1冊当たり300円を払う価値があるかどうか、
現時点では正直、微妙なところです。
(あくまで私の評価です)


例えば、なんらかの協会や学会に所属するために
「年会費」を払い、その特典として

「会報」

が送られてくるというのなら、
その内容はそれほど重視しません。


しかし、購読料は基本的には

『オルタナ』

という雑誌の内容に対しての対価と考えたい。

雑誌の内容はたいしたことないけれど、
社会的に存在意義があるから(我慢して)、
払ってあげようというのは、
オルタナの制作に携わっている方に対して
失礼じゃないかともと思うわけです。


同じような社会的な意義の高い雑誌に
ホームレスの方が販売する

『ビッグイシュー』

というのがありますが、
これは1部300円の価値がある内容だと、
私は評価しています。

だから、ホームレスの方を支援するということだけでなく、
読みたいから買っています。


さて、オルタナについては、今回の全面有料化に伴い、
購読を中止してしまう読者の方が相当数発生するでしょうね。

でも、こうして購読を中止した方に対しても、
時々は見本誌を送付してくれて、

「ほら、ますます内容が充実してますよ、
 読まなきゃ損ですよ!」

ということを伝えられるくらい、
がんばってもらいたいと思います。


*『オルタナ』公式サイト
http://www.alterna.co.jp/index.html

*『ビッグイシュー日本版』公式サイト
http://www.bigissue.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:23 | コメント (0) | トラックバック

会社は頭から腐る・・・「性弱説」の視点

広報専門誌「PRIR」(プリール)が実施した

「企業の不祥事と対応に関する調査」(07年11月実施)

によれば、

「あなたが企業の不祥事・その対応を見て、
 信頼できないと感じるのはどのようなときですか?」

という設問(複数回答)に対する回答は、

・不祥事の実態を把握した後、隠そうとしたとき(24%)
・一度発表したことが、後から嘘だったと分かったとき(23%)
・嘘の情報を発表したとき(21%)

が上位に来ています。

・人命や健康に関わる不祥事を起こしたとき(17%)

は4番目です。


PRIRでは、この調査結果に基づく記事に、

消費者は、「事件」ではなく、企業の「対応」を見ている

という見出しをつけています。


つまり、消費者は、

「事件」

そのもの以上に、不祥事を起こした企業が

「どのように対応するか」

を重視していることが、この調査から検証できたというわけです。


企業の対応によって、
その会社の「誠実さ」を測るのが消費者。

なぜなら、「誠実さ」が、

「相手を信頼するかどうか」

の判断基準だからです。


では、「誠実でない」というのはどういうことでしょう?
子供でもわかる簡単なことですよね。

・嘘をつくこと
・隠すこと
・だますこと
・裏切ること

などです。


事件を起こしたことだけでも、

「企業に対する信頼」

はある程度失われますが、さらに不祥事発覚後の

隠蔽工作、現場への責任の転嫁、見苦しい言い逃れ

などによって、企業の信頼性はさらに大きなダメージを受けます。


「実害はなかった」「健康上の問題は発生しなかった」

といったことが争点ではないことは明白なはずなのに。

なぜ、不祥事企業の多くが、
適切な対応ができずに自ら泥沼にはまりこんでいくのか?

不思議ですよね。


しかし、結局のところ、これは「企業」という

「法人格」

の問題ではないのです。

会社トップ個人の「人格」の問題なのです。


産業再生機構の元専務取締役COO、冨山和彦氏が、
最新著作の『会社は頭から腐る』で次のようなことを
書いています。

“・・・さらには産業再生機構での再生の修羅場で見た人間模様。
 これらを通じて見えてくるのは、ほとんどの人間は土壇場では、
 各人の動機づけの構造と性格に正直にしか行動できないという
 現実であった。”

表現がちょっと難しいですが、ひらたく言えば、
土壇場では、その人が本来持っている

本性(特性・特徴)

がそのまま露呈してしまうということです。


“そこには善も悪もなく、言い換えればインセンティブと
 性格の奴隷となる「弱さ」にこそ人間性の本質がある”

と冨山氏は述べていますが、会社のリーダーでさえ、
追い詰められると、会社の代表としてではなく、
一人の人間としての判断、行動しか取れなくなるということ
でしょう。


冨山氏は続けて、

“性悪説でもなく、性善説でもない、

「性弱説」

に立って 人間を見つめたときにはじめて
多くの現象が理解可能となってくる”

と書いています。


とすれば、企業の危機管理は、

「性弱説」

に基づいて考えるべきなんでしょうね。


『会社は頭から腐る』
(冨山和彦著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (0) | トラックバック

「対話」のマーケティングから「会話」のマーケティングへ

えーと、私は、マーケティングのお仕事以外に、
キャリア系(キャリアデザイン講師など)の仕事も
やっています。

ですので、キャリア系情報の収集のために、
リクナビのメルマガ『リクナビCAFE』なども
読ませてもらってます。
(リクナビさんの見込客でなくて申し訳ないんですけど・・・)


1年ほど前ですが、このメルマガの記事の内容で
ちょっと気になった点がありました。

そこで、感想というか意見を送ったんですね。


ところが、リクナビさんから帰ってきた返事は、

「このたびは貴重なご意見を賜り・・・云々」

という「定型文」だったのでがっかりしました。


このメルマガは、全体的に気さくで親しげなトーンで
書かれていて、読み手との距離感を近づけることに成功している
と思います。

しかし、メルマガ配信のような「1対多」ではなく、
ユーザーからの声に対する回答のように「1対1」の関係に
なった瞬間、生身の人間でない「無機質な法人」として
対応するというチグハグさを露呈してしまう!

リクルートさんでさえこの程度か・・・と
当時は思いましたし、以来、感想や意見を送る気が失せました。


上記の例でもおわかりのように、
消費者自身が自ら積極的に情報発信するようになった今でも、
個々のユーザーときちんと向き合う意思のある、
また向き合うことのできる体制を整えている企業(組織)は
まだまだ少ないのが現実でしょう。


さて、このところ、
マーケティング業界のバズワード(流行言葉)として、

「カンバセーショナル・マーケティング」

も注目を集めつつありますよね。


これは、文字通り訳すと

「会話マーケティング」

となりますが・・・


現時点ではまだ、この「会話マーケティング」を
どのように企画・実行すべきかという「定石」が
固まっていません。試行錯誤の段階だと言えます。


ただ、ふと、以前私の記事でご紹介した、
劇作家・演出家、平田オリザさんの

「会話」と「対話」の区別

の話を思い出しました。


平田さんによれば、
夫婦のような親しい関係で行われるコミュニケーションを

「会話」(カンバセーション)

と呼び、あまり親しくない関係でのそれを

「対話」(ダイアログ)

と区別しています。


「会話」は、基本的に同じ土壌に立つ者同士が、
相手にしてほしいこと、伝えたいことをストレートに
言うことが目的です。

一方、「対話」は、価値や情報の交換が主な目的です。
つまり、異なる人格・価値観を持つ同士が、
お互いの考え方をすり合わせることです。


この見方に立つと、
企業と対象顧客との「関係性の深さ」の違いによって、

「会話」と「対話」

を使いわける必要性がありそうです。


すなわち、企業と顧客との良好な関係性が
十分に確立していない段階では、

「対話」のマーケティング

を行う。

「対話」では「冗長さ」が大切です。
単刀直入に用件に入るのではなく、もろもろと雑談を
入れながら、時間をかけてお互いを理解しあう。


そして、十分に良好な関係性が確立した段階で、

「会話」のマーケティング

へと移行します。

この段階で初めて、
企業と対象顧客はお互い腹を割った話ができますし、
またそうすべきです。

「本音」の情報交換こそが、
強固な「信頼関係」づくりへとつながっていくからです。


*マーケティングコミュニケーションの冗長率

投稿者 松尾 順 : 13:20 | コメント (4) | トラックバック

銀座テーラーの戦略転換・・・事業立て直し成功の秘密

東京・銀座の高級注文服店の熟練職人が作る

「オーダーメイドジーンズ」

はご存知ですか?

お値段のほうは、最低でも1本約4万円しますが・・・

ああ、私も自分だけのジーンズ1本だけでいいから欲しい!

とは思うものの、さすがに気軽に手が出る値段ではないですね。


さて、このジーンズを製造・販売しているのは
昭和22年創業の老舗テーラー、

「銀座テーラー」
http://www.gintei.com/index2.html

です。

「銀座テーラー」は長年にわたって、
名だたる政財界の大物を含む富裕層を対象に
商売をしてきました。

販売していたのは、機械を使わず職人の手によって1着1着、
丁寧に作り上げる「オールハンドメイド」のスーツのみ。
1着のお値段は、最低でも30万円から!

同テーラーが擁する職人の技術には定評がありました。
昭和30年代には、読売ジャイアンツの選手のユニフォームを
オーダーメイドで作っていたそうです。


しかし、バブル崩壊以降は業績が低迷。
売り上げは横這いが続いていました。

既製服の浸透と、欧米の高級ブランドが日本市場に
次々と進出してきたためです。


そこで、銀座テーラーでは、
旧態依然とした従来のやり方に見切りをつけ、
過去数年前で大きな戦略転換を成し遂げました。

その結果、見事事業立て直しに成功。
2006年度の売り上げは前年度比約130%増、
2007年度は同140%増と、再び成長軌道に乗っています。


この企業改革を主導した専務取締役、皆川和久氏によれば、
同テーラーでは、「オンリーワン」の存在になるために
以下の3つの基本戦略(方向性)を立てました。

------------------------------------

1.老舗テーラーとして守るべきブランドの「核心(価値観)」

これは、「30万円上」という顧客から見える(金銭的な)「価値」
の裏側にある「技術という価値」をきちんと伝えることでした。

職人の仕事ぶりを一般公開し、匠の技を目の当たりにしてもらう
「見学会」を開催したり、職人のハンドメイドによる全製造工程を
HP上で動画で閲覧できるようにしたのです。


2.ブランドの革新

本来舶来ものである洋服に日本の伝統文化を融合する新たな
ブランド「サムライ」(samurai)を開発。

生地には西陣織を採用、
ボタンには、福井県鯖江市の漆塗りが施されています。
このブランドは、いわば「和的スーツ」です。

こうした取り組みは、
従来のテーラー業界では「タブー」とされてきたことでした。

しかし、銀座テーラーではあえてタブーを破ることで、
同店のビジネスを大きく変えていこうとしたわけです。

「サムライ」は発売当初、顧客の反応もあまり良くなかった
ようですが、3年目くらいから人気を集めるようになり、
現在は売り上げの3割を占めているそうです。

また、同じ生地を使いながらも、
ハンドメイドだけでなく、一部機械縫製も導入。
2プライス制を導入することで値段を引き下げ、
顧客層の拡大を図りました。


3.ブランドの拡張

職人の技を生かしたオーダーメードジーンズがこの戦略が
具現化されたもののひとつです。このジーンズのおかげで、
新規顧客が3割ほど増えたそうです。

また、メンズ美容室を事業化することにより、
男性のおしゃれを総合的にサポートすることを始めています。

さらに、テーラー業界の活性化や職人の技術伝承を目的として
次世代の裁断士を養成する学校「日本テーラー技術学院」を
設立しています。

------------------------------------

さて、以上のような事業戦略の転換を支えたのが、
きめ細かな対顧客コミュニケーションと積極的な広報戦略です。

顧客コミュニケーションについては、
顧客一人ひとりに丁寧なお礼の手紙を送ることに加えて、
購入したスーツに合うワイシャツやネクタイを組み合わせた
そのお客さまだけの提案書を作成したり、
お客様から借りた顔写真と、お似合いのファッションを
PC上で合成してお見せする

「ヴァーチャルコーディネイト提案」

を行っています。

他のテーラーでは、ここまでの手間をかけることは
あまりやっていないそうです。


また、富裕層向けの情報誌

「銀座テーラージャーナル」

を毎月発行。
同誌は、既存顧客(政財界の有名人が多い)に登場して
もらっているため、銀座テーラーのイメージアップにも
寄与しているそうです。


一方、広報については、最低でも月1回はなんらかのニュース
リリースを出すことを目標にしており、その結果、05年は81回、
06年は115回も、各種メディアに記事が掲載されています。

ホームページも、5、6年前はほとんどアクセスがない状況
でしたが、こうした努力の結果でしょう、現在は月間25-30万
ページビューに達しています。

皆川氏によれば、こうした一連の改革は、
外部コンサル等の支援を借りることなく、すべて
同社社長、鰐渕美恵子氏と皆川氏によって行った
のだそうです。

なかなかすごいと思います。


さて、このところ大手欧米ブランドの巨艦店舗が、
銀座に次々とオープンしています。

銀座テーラーとしては、
「オンリーワンブランド」としての地位を固めるために、
気を抜く暇がないでしょうね。


*以上の内容は、皆川和久氏の講演
(IMプレスビジネスセミナー)を元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 12:09 | コメント (0) | トラックバック

「会話を最大化」するブロガー会議

企業とブロガーをつなぐ立場で、
さまざまなイベントを開催されている『百式』の田口元氏。


田口氏が主催するイベントは、

・セキュリティ会議
・ユーザビリティ会議
・ワイヤレスピクチャー会議

など、

「○○会議」

という名称で統一されているのをご存知の方も多いでしょう。


これは、企業とブロガーが

「共に解決策を探る全体会議」

という意味合いがあるようです。

記者会見のように、企業がブロガーに対して
一方的にメッセージを伝えるだけの場ではない
ということですね。


実は、私も1年ほど前、
電動シェーバーの「ブラウン」さんの新製品発売に
合わせて開催された

「ブラウン会議」

に参加させていただきました。


ただ、20代半ばからひげを伸ばし始め、
以来20年近く、ヒゲソリには縁のない私は、
本来、この会議への参加資格はなかったのでした・・・

大変申しわけないことです。
いまさらながらですが、懺悔しつつお詫び申し上げます。


さて、田口氏によれば、
企業とブロガーをつなぐ会議で目指しているのは、

“トータルで見た時に「会話が最大化すること」”

です。

“企業とブロガー間で見れば、
 2者の会話を最大化するためにやっているのが
 「会議」というわけです”(田口氏)


そして、イベントを準備するにあたって、田口氏は

・メッセージ
・ストラクチャー

の2つの視点から企業の担当者と打ち合わせを重ね、
組み立てていきます。


「メッセージ」は、次の4段階で詰めていきます。

・Value(目指すところ)
・Data/Problem(調査/事実)
・Our solution(製品の特性)
・Yours(全体会議)

なお、メッセージを作る際に
田口氏が注意しているのは、いきなり

「製品を売りたい」

というメッセージではなく、

「なぜその商品が必要なのか、開発に当たっては
 どの部分で苦労したのかをまず伝えるようにしている」

という点です。


また「ストラクチャー」を考える上では、
次の「5つの立場」からそれぞれの関係性で何を
仕掛けていくかを押さえていくのだそうです。

・企業
・参加ブロガー
・読者ブロガー
・消費者
・マスコミ


繰り返しになりますが、
これらの関係者間の「会話」を最大化することが
田口氏の狙いです。


田口氏主催の○○会議シリーズは、
実に緻密に組み立てられたものであることが
うかがえますね。


ところで、田口氏は、ブログは

「雑誌」

であり、ブロガーは

「雑誌の編集長」

と考えると分かりやすいと述べています。


そして、ブロガーがこうしたイベントに興味を持つのは、

「ネット上にはまだ掲載されていない情報」

が得られるかも知れないから。


ブロガーは常に検索できない情報を求めている。
だから、イベントには

「開発担当者」

のような立場を呼ぶのが良いと、
田口氏は考えています。


また、田口氏は、ブロガーは、

「単に言われたことを書く」

というより、

「表現」や「クリエイト」する人たち

だと捉えています。


だから、もし企業側で許されるのなら、

「イベントはブロガーを企画の主体に持ってくるといい」

とまで言い切っています。


たとえば、企画段階から参画できるなら、
ブロガーとしてはとてもうれしいわけです。

私もブロガーの一人として、
この気持ちが実によくわかります。


さて、企業の立場に立つと、
ついつい既存媒体と同様に、「ブロガー」のことを単なる

「効果の高い、使える新媒体」

といった見方をしてしまいがちです。


しかし、田口氏の卓見を聴くと、
そのような見方では、

ブロガーとの良好な関係づくり

はうまくいかないことがわかりますね。


(当記事の出典)
『宣伝会議』(2007.9.1)
特集:企業とブロガー マッチポンプはあるか
田口氏の取材記事(P.034-036)

投稿者 松尾 順 : 13:00 | コメント (8) | トラックバック

お詫びの技術

不祥事が明らかになった企業幹部の釈明・謝罪会見。
彼らの口から決まって出てくるのが、次のような言葉です。

「結果的に、○○○と受け取られても仕方がない」

*○○○には「偽装」「粉飾」「手抜き」などが入ります。


はっきり言って、この言い訳ほど情けないものはありませんよね。

会社の行動がどんな結果を引き起こすのか
をまるで予想していなかったような苦しい言い逃れ。


なぜ、素直に

「自分がやりました、悪うございました」

と言えないのか。


言えない理由は明らかですけどね。

それは、謝罪において最も必要な

「誠意」

が欠けているからでしょう。

謝罪する気が本当はないのに、周りが責めるから、
仕方なく頭を下げるふりをしているだけなんですよね。


さて、謝罪には「誠意」が不可欠とはいえ、
「誠意」さえあれば、謝罪はうまくいくというものでは
ありません。

誠意を持ってお詫びしているつもりが、
お客様はますます逆上。

火に油を注ぐような結果になることだってあります。


何事も、「気持ち」に「技術」が伴わないと
いい結果につながらないのです。


実際、日々企業などに寄せられるお客様からの苦情に
対してうまく対応できず悪化させるケースが多いようです。

顧客接点にいる方たちは、もう少し、

「謝罪の技術」

をちゃんと学ぶべきじゃないかと思うんですけどね。


そこで、「お詫びの技術」を簡単にご紹介したいと思います。

出典は、

「話すチカラをつくる本」
(山田ズーニー著、知的生き方文庫)


この本は100ページちょっとの内容ですが、
本当にすばらしい。さすが山田ズーニー氏です。


さて、ズーニー氏が同書で挙げる

「伝わらない謝罪文」

は次のようなもの。

-----------------------------------

このたびは、誠に申し訳ございませんでした。

日ごろミスが出ないよう万全をつくしてはいたのですが、
これからは、こういうことがないよう精一杯
がんばりますので、よろしくお願いします。

------------------------------------

誠意は感じられないこともないのですが、
すんなり納得できるお詫びではないですね。

同じミスが再発しないという確証が持てませんし、
もし再発しても、やはりこんな形式的なおわびを
繰り返して「その場しのぎ」をするだけじゃないか
と思ってしまいます。


ズーニー氏は、企業で編集をしていた16年の間に
たくさんのおわびの文章を書いたそうですが、
その経験から、一定の構造を持つ謝罪文を
書くようになったそうです。


ズーニー氏によれば、
相手がどんなお詫びを求めているかを考えると、

・まず自分が受けたダメージをわかって欲しい(相手理解)
・そして、本当に悪かったと認めた上で(罪の認識)
・ごめんなさいと謝って欲しい(謝罪)
・損害が発生している場合には、
 どのように償ってくれるのか(償い)に関心がある
・また、今後同じようなことが起きないために、
 どうするのか(今後の対策)にも 興味がある

なのだそうです。

なお、お詫びの順番も大切ですね。

たとえば、謝罪もろくにせず、
さっさとお金を渡す(償う)のでは、
お客さんは

「金が欲しくて言ってるんじゃない」

とますます怒らせることになりますから。


というわけで、ズーニー氏が示す

「お詫びの構造」

は次の通り。
(同書では、「お詫びの問いの構造」と表記されています。
「問い」というのは、この本のキーワードなのですが、
説明が長くなりますので、詳しくは同書をお読みください)


----------------------------

1 相手の立場から、この一件を見るとどうか(相手理解)

2 自分の責任・非はどこにあるか(罪の認識)

(ここで謝罪)

3 なぜ、このようなことをしたのか(原因究明)

4 二度としないためにどうするか(今後の対策)

5 かけた迷惑をどう償っていくか(償い)

----------------------------

*3の原因究明を入れるのは、今後の対策を伝えるうえで、
 これがないと説得力がないためです。

投稿者 松尾 順 : 13:20 | コメント (0) | トラックバック

シャドーサイト:ペッパーランチのケース

先日のペッパーランチ心斎橋店の暴行事件には唖然ですね。

同店の店長と店員の2人が、店内で食事中の20歳の女性を
スタンガンでおどして車で連れ去り、乱暴したのみならず、
女性の財布も奪うという極めて悪質な犯罪。


事件当時2人は制服姿であり、警察の調べに対して、

「インターネットでスタンガンや睡眠薬を購入し、
 女性客を物色していた」

とのことです。


被害者の女性は、本当にお気の毒です。

まさか「ペッパーランチ」のような大手飲食チェーンの店内で
犯罪に巻き込まれるとは予想もしていなかったでしょうね。


今回の事件は組織犯罪ではなく、
あくまで個人が起こした犯罪ではありますが、
同店のブランドへの被害も甚大です。

「ペッパーランチ」は、
一夜にして汚れたブランドになってしまいました。


女性客は、とても入る気がしないでしょう。

ペッパーランチは、私も結構好きでした。
渋谷店などによく行ってましたが、もはや食事を
楽しめそうにないので、しばらくは行く気になれません。


こうした事件が起きると、

「なんでそんな悪質なやつを雇っていたんだ!」

などと、無責任な発言をする人が必ず出てきますが、
それは現実問題としては難しいことです。

この考えが行き過ぎると、

「犯罪歴のある人は雇用しない」

といった雇用差別につながりかねませんし。


さて、今回の事件を受けて、
運営会社の「ペッパーフードサービス」は、5月17日、
Webサイトで真摯な謝罪文を掲載していますね。

→ペッパーフードサービス

同社では取り急ぎ、すべてのコンテンツを隠し、
トップページに謝罪文だけアップしています。


最近知ったのですが、
こうした謝罪に相応しい処置を施したWebサイトのことを

「シャドーサイト」

と呼びます。


「シャドーサイト」は、
企業広報における危機管理の一環としての対応です。

事件発生以前に作成されていた派手なトップページのまま、
謝罪文を掲載しても、企業の気持ちは伝わりません。

そこで、フラッシュ動画を削除したり、
地味な色合いのレイアウトに変更することにより、
サイト全体で、お詫びの気持ちを伝える工夫が必要に
なってきます。

シャドーサイトの体裁や内容ついて、定型のひな型が
あるわけではないそうですが、どんな優良企業でも、
いつどんな形で謝罪をしなければならないかわかりません。

ですから、事前に自社における「シャドーサイト」の仕様を
決めておけば、迅速な対応が可能になりますね。


「ペッパーフードサービス」の場合は、
同社にとっても想定外の事件でしたでしょうし、
おそらく慌てて作成したシャドーサイトだと思います。

しかし、すべてのコンテンツを隠してしまうのは
ちょっとやりすぎかも知れません。


心斎橋店以外の店は平常どおり営業しているでしょうし、
残りのまじめに働いているスタッフの皆さんの士気を維持し、
またブランドを立て直すためにも、基本的な情報はこれまで通り
オープンにしておいて良かったんじゃないでしょうか?

*シャドーサイトについては下記記事を参考にしました。
 この場を借りてお礼申し上げます。

→企業Webサイトの危機管理事例
 (雨宮和弘氏、クロスメディア・コミュニケーションズ)

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

「気」のコミュニケーション

最近、やたら

「気」

が、気になってます。(^o^)


ここでいう「気」というのは、
古来中国などで言われてきた「気」のことです。


「気」について、私なりのシンプルな定義をすると、

「五感を超えたところで行なわれるコミュニケーション」

です。


すべての物体、とりわけ「生命体」は、
植物であれ動物であれ、すべてが「気」によってつながることが
できます。つまりなんらかの情報をやりとりできます。


ただ、私は、上記のことを別に「スピリチュアル的」に
語りたいわけではありません。

まだ科学的に解明されていないけれども、
現実には確実に「気」は存在していると思います。


たとえば、米国の原子力潜水艦は、子ウサギを飼っています。

そして、無線が届かない深海で潜水艦に非常事態が起きたとき、
子ウサギの首をはねることになっている。

すると、米国本土にいる「親ウサギ」が大騒ぎをする。
こうして、潜水艦の危機を伝えるのです。


また、昔、声の届かない山奥に仕事に行った子供に
「客人」の到来を知らせ、家に戻ってきてもらうために、
母親は自分の指を強く噛んだ。

すると、子供も、親が噛んだ指に異変を感じた。
そして、家に帰ってきた。


以上は、作家・僧侶の玄侑宗久氏から聞いた話です。

どの程度の信頼性のある話なのか、私は裏を取ってなくて
すいませんが、「気」存在を感じさせますよね。


また、これは「ナショナルジオグラフィック」に
掲載されていた記事ですが、中南米に生息する

「アカメアカガエル」

の「驚くべき護身術」というのがあります。


「アカメアカガエル」は、文字通り目が赤く、
緑色のボディとのコントラストが大変に美しいキュートな
カエル。

そして、アカメアカガエルが生む卵は、
昔、皆さんも田んぼなどで見たことがあると思いますが、
プチプチのような半透明の膜に覆われた卵がたくさん
つながった形です。


この卵は、ハチやヘビの格好のエサになるのですが、
こうした捕食者がやってくると、卵の中のおたまじゃくしは
自らの成長を速め、急いで孵化して逃げ出すのだそうです。

おそらく、捕食者が卵を食べようとする時の揺れを感じて、
孵化を速めるといった行動を取るわけです。

不思議なのは、天敵ではなく、風や雨などの自然現象が
起こす揺れでは決して同じ行動はしないのだそうです。

つまり、単に風で揺れているだけなのか、天敵がやってきて
危険が迫っている状況なのかを卵の段階で区別できてしまう。

しかも、天敵のタイプによって、卵の取る行動が変わるのです。

びっくりですよね。


このカエルの卵の護身術は、
遺伝子にあらかじめ埋め込まれた本能的行動なのでしょうけど、

「俺はハチだ、おまえらを食べちゃうぞ!」
「俺はヘビだ、おまえら、うまそうだなあ!」

といった「気」を卵が感じているんじゃないでしょうか。


そういえば、宗久さんの話でもうひとつ思い出したのが、
おかしなことを言ったり、行動を取る人のことを昔

「気違い」

と言いましたが、これはまさに「気」が通じなくなった状態
のことなんですよね。

しかも、面白いのは、「気違い」を治すのに効果があるのが、

「リズム」

なんだそうです。


音楽、ダンスといった「リズム」をベースとしたものが
宗教的な治療行為に取り入れられていたのはちゃんと
それなりの意義があったわけです。

また、私見ですが、自然と交流することは、
ノイズが多すぎる現代において弱体化しがちな「気」の力
(まさに「気力」)を取り戻させることに高い効果がある
と思います。


さて、「気」は、前述したように科学的な証明が十分に
なされてはいないものの、普段からひとつの
ノンバーバル(非言語的)コミュニケーションの方法として
活用していることは間違いありません。


あえて大胆な提言をさせていただきますが、
マーケターの皆さんも、これからは

「気」

の研究にも取り組む必要があるんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (2) | トラックバック

知識の呪縛

「知識の呪縛」と呼ばれる現象があります。

これは、

自分はよく知っていることを誰かに伝えようとする時、
自分にとっては既知のことだからこそ、
逆に相手にうまく意図が伝えられない現象のことです。
(President 2007.03.19)

その原因は、自分の持つ知識に囚われていて、
相手の心理状態を読みにくくなっているからです。


特に、

「顧客の喜びを実現」とか、「効率ナンバーワン企業に」

といった抽象的な短い表現が多い
企業スローガンやキャッコピーなどの場合に、
「知識の呪縛」は顕著になります。


上記のような言葉には、本来深い意味や思いが込められている
はずです。もちろん、創業社長などの当事者は十分に理解して
います。

しかし、ここで社員や顧客も、自分と同じように、

「理解してくれている」

という間違った思い込みをしてしまう傾向があるというわけです。


この心理的傾向は、次のような実験で検証されています。

スタンフォード大学心理学部の大学院生、
エリザベス・ニュートンは、まず被験者を

「タッパー(叩き手)」と「リスナー(聴き手)」

に分けました。


そして、一人ひとりのタッパーに対しては、
「ハッピーバースディ」のような有名な曲を選び、
テーブルを叩いてその曲のリズムを刻むように依頼しました。

一方、リスナーには、そのテーブルをタップする音を聴いて、
どんな曲なのかを当ててもらうという単純な実験です。


しかし、120曲のタップを聴かせる実験の結果、
正しく曲名を言い当てられたのはわずか3曲だけ。
正答率は2.5%でした。

実は、エリザベスは、この実験に先立ち、
タッパーたちに、リスナーはどのくらい曲を当てられるかを
予測してもらっていました。

その予測は、なんと50%。
2曲に1曲は当てられるだろうとタッパーたちは楽観視
していました。

これは明らかに「知識の呪縛」の存在を証明するものでした。

タッパーの頭の中では曲のメロディやリズムが
流れていて、それを忠実にタップで再現しているつもり。

だから、リスナーにしてみれば、
実際のところタップだけで曲名を当てるのは難しい

ということにまで、タッパーの考えが及ばなかったわけです。


さて、こうした「知識の呪縛」が起こるのは、端的には、
送り手と受け手の間に情報の大きな不均衡があるからです。


では、どうしたらこの情報の不均衡を補正できるのでしょうか。


ひとつは、抽象的な言葉を具体的な言葉に「翻訳」すること

「ターゲット顧客」の規定を例に取ると、

「40代の中年男性」という抽象的なものではなく、

「ずいぶん年季の入ったボルボに乗っている失業中の大学教授」

といったイメージがぱっと浮かぶようなものに落とし込む。
(「ペルソナ」のアプローチです・・・)


もうひとつは、「物語」、つまり
言葉の背景にある深い思いや意味を投影させたストーリーで、
相手に伝えることです。


たとえば、フェデックスには、

「絶対に、確実に、翌日にはお届けします」

というブランドプロミスがありますが、
これを次のような物語(逸話)で具体的に示しています。


舞台はニューヨーク。
フェデックスの配送トラックが故障。
代わりのトラックもなかなか到着しない。

ドライバーは最初、徒歩で荷物を届けた。
しかし、それでは今日中に届けられないと判断し、
ライバル会社のドライバーに頼み込んで荷物を配り終えた。


フェデックスでは、この物語を通じて、

同社が何を大切にしているのか

を対外的にも、また同社社員・関係者の胸にも
深く刻みこませているというわけです。


経営理念やビジョン、ブランドプロミスが
社員や顧客にきちんと浸透している企業には、
ほぼ間違いなく、お題目やきれいごとではなく、
具体的な現場の言葉で語れるトップが存在し、また
さまざまな感動的なストーリーがあふれているものですよね。

投稿者 松尾 順 : 14:17 | コメント (2) | トラックバック

不安を解消するための情報提供

「顧客視点」に立つこと、つまりお客様の立場に自分を
置いて考えるというのはなかなか難しい。

これは、私自身も実感していますし、
繰り返しこのメルマガ&ブログでも指摘してきました。
(耳タコすいません)


だとするなら、お客様からの声をどんどん吸い上げて、
それを迅速に商品開発、改善に反映させるという仕組みを
構築するというのがひとつの解決策になりますね。

昨日ご紹介したサントリーさんは、
そうした仕組みを既に安定的に運用し、相応の成果をあげて
いたわけです。


サントリーのお客様センターにまつわる話は、
桜缶事件や、伊右衛門のラベル表示以外にも、いろいろと
興味深いネタが手に入りましたが、
もうひとつだけご紹介したいのが、サントリーのチューハイ、

「-196℃」

のことです。


このチューハイは、果物を-196℃で瞬間凍結する
「瞬間フリーズ製法」により、果実本来の味わい
が楽しめるというのが売りです。

たとえば、「冷凍レモン」では、
皮も含めてまるごとのレモンがチューハイの中に
閉じ込めてあると、発売当初から宣伝してましたよね。


この「-196℃」に対して、お客様センターの元には、

「確かにおいしい」

というポジティブな「ご指摘」も寄せられましたが、
ネガティブな「ご指摘」としては、

「皮には、防カビ剤など、ポストハーベスト農薬が
 使われていないだろうか。残留農薬が心配だ」

というのが多かったそうです。

もちろん、サントリーとしては、
残留農薬などに対する対策は万全でした。

しかし、そうしたことについての情報は、
当初はまったく提供していなかったんですね。


しかし、消費者に指摘されて初めて、
製品の良さを伝えるための情報だけでなく、
不安を解消するための情報も併せてきちんと提供しないと
販売を阻害してしまうことに気づいたというわけです。


サントリーのお客様センターには年間12万件の消費者の声が
届くそうですが、その内容を分析すると、
近年は、やはり

環境問題やリサイクル

に関するものが増加しているそうです。


また、食の安全性についての意識は、
女性の方が高いという先入観を抱きがちですが、
実際には、食物に含まれているかもしれない

「農薬や防カビ剤が心配」

と考えるのは、男性の方が高いのだそうです。


やはり、先入観や思い込みにとらわれず、
丹念に消費者の生の声を集め、
分析することが必要だということですね。

投稿者 松尾 順 : 14:52 | コメント (0) | トラックバック

サントリーの桜缶事件

「おたくがやってることは詐欺じゃねえのか!」

サントリーお客様センター(コールセンター)に
すごい剣幕で消費者から電話がかってきました。


この消費者が激怒していた理由は次のようなものでした。
(この消費者を仮に「遠藤さん」としましょう)


春先のことです。

遠藤さんは、桜の花びらを缶の表面にあしらったサントリーの
発泡酒「純生」をコンビニで買いました。

季節限定デザインの「桜缶」です。


遠藤さんは、

「これはお花見にぴったりだ!!」

と思ったんでしょうね。


今度は量販店で24缶入り箱を花見用に購入。
もちろん、箱の表面にはピンク色の鮮やかな桜の花が
咲いていました。

さて、花見の日、遠藤さんがいざ飲もうと楽しみに
ケースを開けたところ、中味は普通のデザインの純生!

「なんだよう、普通の缶じゃねえか!」

期待を持たせた花見仲間のひんしゅくも買ってしまい、
頭にきて、サントリーに電話をかけてきたというわけです。


サントリーとしては、
「桜缶」はコンビニ向けなどの単品販売向け。
一方、量販店などに流す24本入りは、
外装だけが桜のデザインで中味の缶は通常のデザインにする
というのは、別に消費者をだますつもりはなく、おそらく
生産ラインの都合でそう決めていただけのことでしょう。

しかし、まさか、遠藤さんのようなクレームが来るとは
思ってもいなかったんですね。

これは、要するに「顧客視点」に欠けていたということです。


サントリー内部では、これを

「桜缶事件」

と呼び、「顧客視点」の重要性をサントリーの社員に
認識してもらうための「CS(顧客満足度)研修」で
取り上げているそうです。

同様に、顧客視点の大切さを社員に気づかせるための
失敗事例として上記研修で取り上げているものに、
伊右衛門の不適切なラベル表示があります。


伊右衛門では、以前、
暖めて飲める345mlのペットボトルに赤字で

「ホット専用」

と表示していました。

サントリーとしては、
これでなんの問題もないと思っていたわけです。


ところが、お客様センターにはこんな電話が次々と
かかってきました。

「ホット専用とあるけど、冷やしても大丈夫なの?」

「もうさめてしまったんだけど、飲んでも大丈夫ですか?」


サントリーは、
消費者からこんな問い合わせを受けて初めて

「ホット専用」

というラベル表現の不適切さに気づかされたのです。


今は、こうした消費者の声を受け、ラベル表示を

「温めてもおいしい・・・」

といった表現に改めています。


いやあ、お客様の立場になって考えることって
本当に難しいものですよねぇ・・・


サントリーではこうした失敗を重ねながら、
お客様センターで受けた消費者からの問い合わせや
ご指摘(クレームとは言いません)を
できるだけ迅速に商品改良に結びつけることに
尽力しているそうです。


*以上は

I.M. Press 第6回ビジネスセミナー
“顧客を巻き込む”マーケティング戦略

における

サントリー(株)お客様コミュニケーション部
東京お客様センター長 松尾正二郎氏

の講演よりご紹介しました。

投稿者 松尾 順 : 17:55 | コメント (0) | トラックバック

言葉じゃないところで伝えたいこと

油膜の浮くギトギトのラーメン。
こってりとんこつ博多ラーメンも顔負けのしつこい味。(たぶん)

談笑しながら、おいしそうに食べているのは、
円卓を囲む中国人のお偉いさんたち。

彼らの右手にお箸、でも左手には「特保黒烏龍茶」がある。
だから、脂っこい料理を心から楽しめます!


とまあ、こんなメッセージを伝えるのが、
今オンエア中の「中性脂肪に告ぐ」サントリー黒烏龍茶の
TVコマーシャルです。


見た覚えありますか?
サントリーのホームページでも見ることができますね。

「役員午餐会」


このコマーシャル、
中国の古いホテルを借りて撮影されたものです。

撮影ディレクションは写真家の上田義彦氏。

上田氏は、同じくサントリーの伊右衛門や無印良品などの広告を
手がけている売れっ子ですが、先日のNHKプロフェショナルに
登場、上記コマーシャル撮影の裏側を垣間見ることができました。


この中国での撮影、わずか15秒のコマーシャルのために、
この場面を何十回も繰り返し撮りなおしていました。

結局、予備日も含め3日間をまるまる使い切って
ぎりぎりでなんとか撮影完了。

役員さんたちが食べているラーメンはもちろん本物です。
毎回新しいのを作ってましたから、
この撮影のために消費されたラーメンは数百杯でしょうね。


それはさておき(^_^;、
上田氏がなかなかOKを出さなかったのは、
画面から伝わるものに納得がいかなかったから。

ラーメンの湯気がうまく映らないとか、談笑が自然で
ないとか、ラーメンの食べ方がおいしそうじゃないとか、
ようするに、しっくりとこない何かがあったわけです。

つまり、このコマーシャルを見た人に対して、
「言葉じゃないところで伝えたいこと」がちゃんと伝わる映像に
なるまで、OKを出さなかったんですね。


もちろん、

この見極めができるかどうか

が上田氏の力量であり、クリエイターとしての能力が
発揮されるべきところ。


ただ、不思議なことに、いい映像が取れた時は、
上田氏だけでなく、周りのスタッフも

「今のは良かったね」

とうなずきあっているんですね。


言葉以外で伝わること

には一定の普遍性があることがわかります。


人は、たとえうまく言葉で説明できなくても、

いいものと悪いもの

を感性によって瞬時に見分けることができますよね。


言葉も相変わらず重要ですが、
今後ますます画像が多様されていくであろう
マーケティング・コミュニケーションの世界では、

言葉以外で伝えたいこと

をちゃんと伝えることのできる能力が
ますます重要になっていきそうです。

投稿者 松尾 順 : 11:36 | コメント (0) | トラックバック

ソーシャルメディア最適化(SMO:Social Media Optimization)

最近はやりのキーワードは

「最適化」(Optimization)

ですよね。


YahooやGoogleなどのサーチエンジン(検索サイト)の検索結果に
上位表示されるための対策を

「サーチエンジン最適化」(SEO:Search Engine Optimization)

と呼んだのが始まりでしょう。


そして最近は、たとえ検索エンジンに上位表示されたとしても、
クリック先のページが魅力に乏しく、購入などのアクションに
つながらないのなら意味がないということで、

「ランディングページ最適化」(LPO:Landing Page Optimization)

が重視されるようになってきました。

LPOの基本的なやり方は、
検索結果からのクリック後、最初に着地(ランディング)する
ページについていくつか異なるパターンを用意しておき、
ランダムに表示します。

そして、ユーザーのその後の行動成果(購入など)から、
最も効果的だったパターンのページがどれかを判断するという
ものです。

これは、ダイレクトマーケティングの手法として昔から採用
されてきた「A/Bスプリット」の応用版に過ぎませんが、
「LPO」と言われるとなにかとてもすごい技術のように
感じますね。


さて、SEO、LPOに代わってこれからの話題の中心になりそうなのが、

「ソーシャルメディア最適化」
(SMO:Social Media Optimization)

です。

ソーシャルメディアとは、一般の消費者や個人の
オピニオンリーダーが公開するブログやポッドキャスティング、
ミクシィのようなSNSなどのこと。いわゆる、

「CGM(Consumer-Generated Media)」

を指します。

「SMO」とは、上記のようなソーシャルメディアが引用したり、
評価や批評の対象にしたくなるようなコンテンツを提供すること
で自社サイトへの集客や好意度を高めようとするもの。

「SMO」をうまく回すためには、新しさ、楽しさ、面白さ、
役立ち、感激、感動、社会的意義・価値などを感じさせる
上質のコンテンツを継続的に発信し続けなければなりません。

これは、口で言うのは簡単ですが、
実行は一朝一夕でできるものではないですよね。


「検索エンジン最適化」(SEO)と、
「ランディングページ最適化」(LPO)までは、
外部マーケティング会社への丸投げに近い形でも
相応の成果を出すことができました。


「SMO」になると自社のマーケティング担当や広報担当が
主体的に発想し、社内外の情報を取りまとめ、
明確な方針の元で、コンテンツ制作に関わっていく必要が
あります。


だから、「SMO」はそう簡単にできることじゃない・・・


ということは逆に言えば、
SMOをきちんと実行できる企業は、高い競争優位性を確立できる
ということを意味しますよね。


Webマーケティングの文脈では、これまで

「コンテンツ」

について比較的軽く扱ってきたように思います。

即効性があまり高くなく、効果が不明確だったからでしょう。


しかし、ブログのようなソーシャルメディアの台頭によって
即効性も高まり、かつ効果測定がやりやすくなってきました。


「SMO」の重要性はこれからますます高まっていくでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (0) | トラックバック

想定外のトラブルへの対応

先日、友人が体験した「ぴあ」のコールセンターのずさんな対応
についてこのメルマガ&ブログでご紹介しました。

*「ぴあ」の蹉跌 勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?

私が書いた時点ではまだ現在進行形だったのですが、
無事解決したそうです。


責任者の方がきっちりとフォロー。
取り損なったチケットが別の売場に残っていたことがわかると、
その責任者がわざわざ足を運んで取りに行き、友人に送付して
くれたそうです。

おかげで、友人の「ぴあ」に対する信頼も多少は回復しました。

しかし、この一件は解決しても、ぴあのコールセンターの根本的
問題が解決したわけではないですよね。

誠意ある柔軟な対応ができるベテランの責任者が
すべての電話を受けるわけにはいかない。

経験年数や、資質もばらばらな、
多数のオペレーター全員の対応の質をどう上げていくか、
という対策が必要だと言えます。


ぴあのコールセンターでも、
なんらかの対応マニュアルは作成されており、
オペレーター教育にも力を入れているとは思います。

ですから、マニュアルに記載されている限りの対応は、
どのオペレーターも合格点以上の対応ができるんじゃない
でしょうか。

しかし、重要なのは、マニュアルには書かれていない、
想定外や例外事項の発生における対応ですよね。


友人の一件の場合、

「自動音声がよく聞き取れなかった」

というのがトラブル発生の発端。


ところが、これはマニュアルに記載されてなかったようです。

最初に対応したオペレーターは、

「これまでそのようなトラブルが発生したことがない」

と日本人らしい「前例主義」を持ち出して
責任を回避しようとしました。


実際のところ、マニュアルに対応方法の記載がないので

「どう対応していいかわからない」

ということだったのかもしれませんね。

だから、「すいません、申し訳ありません」

以上のことが言えなかったのでしょう。


最低限のクオリティを維持するために、
「マニュアル」は必要不可欠ではありますが、
あまり「マニュアル」に依存しすぎてしまうと、

「いかにマニュアルどおりにきっちりやるか」

ばかりに気持ちがいってしまい、本来の目的の、

「いかにお客様を満足させるか」
「いかにお客様とのいい関係を維持するか」

ということを忘れてしまうんじゃないかと思います。


ぴあに限らず、顧客と生で接するサービス産業、
サービス部門の方にとっての最大の課題は、

パターン化して教えることのできない、
想定外のトラブルにおける最適な対応ができる人材

の育成にあります。


これ、端的には、

「自分が顧客の立場ならどうして欲しいか」

という「共感力」を高めるということに尽きるわけですが、
言うは易しですよね・・・

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (2) | トラックバック

正直は最強の戦略?

「アウトレット」のお店に行くことありますか?


「在庫品処分だから、良い品が安く買える」

というのが本来の「アウトレット店」のはずでしたが、実際には、
アウトレット店専用の商品が開発・販売されていることが
多いらしいですね。(つまり安いなりの品質というわけです)

消費者の立場から見れば、なんだかちょっとだまされているよう
ですが、文句があるなら買わなければいいじゃないと言われたら
それまで。

あえて店員に問いただすことまではしないですよね。


こうした、店側にとってあまり都合の良くないことは、
アウトレットに限らず、一般の小売店でもあまり言わないのが
普通ですよね。

お客さんに文句を言われたり、
売上げにが下がるのがいやですから。


でも、「正直は最強の戦略」の実証例とも言えそうな
食品スーパーが「オーケー」です。
(日経ビジネス、2006年10月2日号)


たとえば、梨が並べてある棚にはこんな説明書きが
添えられています。

「二十世紀梨 まだ最盛期に比べたら、今ひとつの食味です。
 おいしくなりましたら、またお知らせ致します」


こんな記述をみたら、買う気を失くす人が多いでしょうね。
ただ、相応に値段も安いし、いまひとつの味でもいいと
納得して買う人もいるでしょう。

しかし、しこんな説明書きがなくて、
何も知らずに買った人はどうでしょう?

「オーケーの梨はおいしくない。今度から他の店で買うわ!」

と感じる人がいるかも知れません。


目先の売上げにこだわり、結果的にお客さんをがっかりさせ、
将来の売上げを永遠に失うよりは、
納得して買ってくれるお客さんだけに売る!


これは商売の王道ではないかと思うのですが、
実践できる企業はとても少ない。
オーケーはその数少ない企業のひとつでしょう。


同社は、首都圏に41店舗を展開する中堅の食品スーパー。
知名度はあまり高くないですよね。首都圏にはライバルが
ひしめいていて決して楽な商売はできないはずです。


ところが、過去2期連続で増収増益。

これは多店舗展開によるものではなく、
既存店の売上げが伸びているからなのです。

小売店の場合、坪単価の売上げが、
店舗の業績(販売効率)を最も明確に示してくれる数字ですが、
オーケーの場合、過去3年間で543万円から649万円へと
約20%アップしています。

この数字を見れば、
顧客の支持を着実に高めてきたことがわかりますね。


おそらく、食品スーパーの商圏の狭さを考えると、
市場シェア(新規顧客数)の向上よりも、
顧客シェア(顧客一人当たりの購入金額)
の増加の影響が大きいんじゃないかと思われます。


オーケー社長の飯田勧氏によれば、
同社の経営は極めてわかりやすいものです。

つまり、

「熱烈なオーケーファンを作ること」

であり、そのために大事なことは、

「裏切らないこと」

だそうです。


このため、冒頭に紹介した梨のように、
商品の短所や、あえて安い(高い)理由を同社では
包み隠さず、正直に顧客に伝えているわけです。

売場のいたるところで見られる商品についての
ネガティブ情報を記載した説明書きをオーケーでは、

「オネスト(正直)カード」

と読んでいます。


さて、こうしたやり方は、心理学の分野では

「両面呈示」

と呼ばれるものの応用ですね。


商品の長所ばかりを訴えるのは「片面呈示」です。

これは、売りつけるために、あえて短所を隠しているかも
しれないという疑惑を買い手にいだかせます。

しかし、商品の長所だけでなく、短所も正直に顧客に伝える
「両面呈示」なら、無理に売ろうとしているわけではないという
「売り手の誠意」を伝えることができる。

だから、顧客の信頼を勝ち得ることができる。

同社はWebサイトを立ち上げていませんが、
熱心なユーザーがボランティアで運営している店舗紹介サイトが
あるほどです。

投稿者 松尾 順 : 18:18 | コメント (0) | トラックバック

人に読まれるブログ

楽天市場で、4年連続ベスト店長賞を受賞した

「成田ゆめ牧場」

というオンラインショップはご存知ですか?


看板商品の超濃厚アイスはいかにもおいしそうですね!

また、「ゆめ牧場の手袋」というハンドクリームが
一時期大ブレイクしました。


同店の場合、発行している「メルマガ」の人気がすごく高くて、
私も一時期メルマガを購読してました。

読んだことのある方はおわかりでしょうけど、
「メルマガ」は、桁外れにおバカな乗りで書かれています。
(もちろん計算されたものでしょう)

また、自衛隊からもらった

「夕焼け空を背景に砲弾を発射する戦車」

の写真をプレゼントするなど、一風変わった企画をやってました。

さすがに、私は、あまりのノリの軽さについていけなくて、
今は購読をストップしています・・・


この「成田ゆめ牧場」オンラインショップの初代店長を務め、
人気店に育て上げたのは竹内謙礼さんという方です。
(面識はありません)

竹内さんは、実は、元は某出版社の編集者。
やはり文章のプロだからこそ、ユーザーの食欲・購買欲をそそる
キャッチコピー、メルマガが書けたんだなと改めて納得。


先日、竹内さんが出した新刊があることを知り、
早速読んでみました。

「頭がいい」と思わせる文章術
(竹内謙礼著、PHP出版)

ブログやメルマガを書いている人にとっては、
すぐに実践できる具体的なノウハウが紹介されています。
しかも、とても読みやすくわかりやすい。
一読の価値ありです。


さて、この本の中で特に面白いと感じたのは、
竹内さんの考える

「人に読まれるブログ」

の条件です。


竹内さんによれば、
「人に読まれるブログ」は次の5種類しかないそうです。

・有名人のブログ
・匿名のブログ
・お金儲けのブログ
・裏話のブログ
・アダルト関連のブログ

(私の理解では、竹内さんの言う「人に読まれるブログ」
 というのは、「一般大衆に広く読まれるブログ」
 という意味のようです。)


そして、竹内さんは、上記5種類以外のブログは、
よほどのことをしない限り、ビジネスに結びつくような
ツールにはならないと言い切っています。

本書を読むとわかりますが、
ここで竹内さんが言ってる「ビジネスに結びつく」というのは、
ダイレクトに収益を生み出すという意味(物品・サービス販売や
広告収入などによって)のようです。


確かに、広く人口に膾炙していること、つまり、
大規模な訪問者を抱えているブログやメルマガだけが、
確率論的に言って高い収益を生み出すことができます。

私は、この竹内さんの意見に100%賛同するわけでは
ありません。単に「儲かる」だけのために、
誰もが上記5種類のどれかに該当するブログをやりたいとは
思わないですよね。


ただ、書くからにはやはり、

できるだけ多くの人に読んでもらいたい

というのはほとんどのブロガー、メルマガライターの
気持ちでしょう。


竹内さんは、
ブログ(メルマガ)を読んでもらうための条件として
次の2つを上げています。

「内容の必要性」と「最低限の読みやすさ」です。


読みやすさは当然のこととして、
「内容の必要性」というのは、

読み手にとって必要としている情報であるかどうか

ということです。

要するに、ターゲットとしている読者層が喜ぶ
まだ知らない新鮮な情報、役に立つと思ってもらえる情報を
継続的に提供できることが重要なんですね。


私のメルマガ、そして連動させているブログも、
この「内容の必要性」を最も重視して書いてきましたが、
どの程度達成できているでしょうか?

時々は、「役に立ったよ」という直メールを送ってくださる方
もいらっしゃるので、まったくの無価値な情報を垂れ流して
いるわけではなさそうだと思ってますが・・・


そうそう、ブログの方は、
おかげさまで最近は1日あたり2,000人前後の方に
おいでいただけるところまで育ってくれました!

ごひいきにしてくれてる皆様、本当にありがとうございます!!

投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (2) | トラックバック

「ぴあ」の蹉跌・・・勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?

顧客の満足度、また好意的なブランドイメージ形成に
大きな影響を与える接点(コンタクトポイント)として、
最近特に重視されるようになってきたのが、

「コールセンター」(コンタクトセンター、カスタマーセンター)

ですよね。

単に、注文を受けたり、問いあわせや苦情に対応する
「インバウンド」業務だけでなく、顧客に対して積極的に
アプローチして売上にダイレクトに貢献する「アウトバウンド」
業務も含め、インターネットによる自動化が進む中で、
生身の人間同士が対話する貴重な接点です。


製品自体には大差のない今、
コールセンターの対応の良し悪しで、
企業や製品ブランドに対する印象がガラリと変わってしまう。

以前のように、経費を食うコストセンターとして軽く扱っている
ことはできないわけです。


ただ、コールセンターは入れ替わりの激しいオペレーターの
採用・教育が大変で、質を維持するのはなかなかに難しい。

コールセンターを「必要悪」くらいにしか思っていない、
いまだ本質の見えていない経営者もいると聞きます。

このため、オペレーターの志気があがらず、
ずさんな顧客対応が起きることも当然ながらあるわけです。


さすがに、「ぴあ」ほどの優良企業ではそんなことはないだろう
と思ってましたが、そうでもなかったようです。


今回は、私の友人が今、リアルタイムで体験している
コールセンター顧客対応の「ダメダメ事例」をご紹介します。


友人(Aさんとしましょう)は、プラチナチケットを狙って、
エントリーボックスの予約(先行の先行)を電話で行いました。
(自動音声対応)

席は無事ゲット!やったね。

カード番号、認証番号も入力し、最後に「予約番号」を
確認のため入力しなければならなかったのですが、
自動音声がよく聞き取れません。

なんど聞いても予約番号がよく聞こえない。
このため、確認番号を何度か入れ間違ったところ、いきなり

「申し訳ないですが予約をお引き受けできません」

というアナウンスとともに電話が切れてしまいました。

あわててかけ直したものの、もはや席は確保できず・・・


Aさんは、当然ながら、この件でコールセンターの
オペレーターに電話をかけて対処をお願いしたのですが、

予約は、もはやできません、申し訳ない、すいません

と杓子定規な回答を繰り返すだけ。
上司にも取り次ぎません。

オペレーターの対応に「誠意」が感じられず、
これだけでも「ぴあ」のコールセンターには大きな問題が
あるのでは思えるのですが、その後のやりとりで、
極めつけの「悪回答」をAさんに寄越しています。

・今まで予約番号案内音(低音の女性の発声)が
 聞きにくいという報告受けたことは「一切」ない。
・(Aさんの)電話機の問題ではないか?


この回答のなにが問題かというと、
オペレーターが顧客に対して、
正面切って勝ち負けの勝負に出てきているという点です。

つまり、

「どちらが正しいか、間違ってるか」

をはっきりさせようじゃねぇか、と開き直っているわけです。

これは、真に悪質なクレーマーであった場合にのみ
許される最後の顧客対応でしょう。

なぜなら、結果がどう転んでも顧客の感情は害されて
しまっていますから、今後の取引継続は望めないからです。


しかし、Aさんは、実は10年来のぴあ会員です。
ぴあのロイヤルカスタマーです。これは会員履歴をみれば
すぐにわかること。

また、今回のトラブルは、たかだかチケット数枚の話。
悪質でもなんでもありません。


現在、Aさんとぴあのやりとりは続行中ですが、
結果次第では、ぴあ会員の退会もありえるでしょう。

わずか数千~万円程度のトラブルで、Aさんの今後の生涯売上
をふいにしようとしているわけです。


話が飛ぶようですが、
小売業では、理由のいかんに関わらず返品を受け付ける
という対応が一般的になってきてますよね。

「Customer is always right」

お客様は常に正しいのだ、という考え方をベースにして
いるわけです。

仮に顧客側の過失が返品理由であったとしても、
快く返品を受け付けることで、好意的なブランドイメージ
形成と、長期的にはロイヤル顧客の育成につながるからです。


ひるがえって「ぴあ」の対応は、

ぴあさん、
勝負に勝つのはいいけど、ビジネスに負けてどうするの?

と聞きたくなるようなものですよね。


さて、結末はどうなることやら。

投稿者 松尾 順 : 13:19 | コメント (2) | トラックバック

AFTERのイメージ

その商品(サービス)を購入して実際使ってみたら、
どんな感じなのか、また、どんないいこと(メリット)があるのか?

このことは、特に初めての商品(サービス)の場合、
未経験だけに、あまりイメージができませんよね。

だから、その商品(サービス)に対する確信が持てなくて
購入に踏み切ることができないことあります。


実は、お店でポンと商品が展示してあるだけだと、
使用後のイメージが伝えにくい。

通信販売のカタログなら、現物は見せられないけれど、
使用中のイメージ(例えば、鍋なら、おいしそうなシチューが
湯気を立てている写真)を示したり、ユーザーの声を伝えること
で、実際に使用した場合の価値(使用価値)を伝えやすい。

だから、通信販売でモノが売れる。

というのが、以前ご紹介した通販生活の斉藤駿氏の説です。

参考>「ネットだから売れる」


では、通信販売以外の業態ではどんな工夫をして「使用価値」を
伝えようとしているのでしょうか。


最近の事例としては、シャープのエアコンの販促ツールとして
制作された「訪販バッグ」がありますね。(販促会議、2006.10)

これは、家電専門店の販売員が、
家庭を訪問してエアコンを売るためのツールです。

エアコンのようなかさばるものは、
とても持ち運びできませんので店頭のように現物は見せられない。

ですから、これまでは、無機質な写真とスペックが並んだ
あまり面白みのないパンフレットを持参するしかなかったわけです。

しかし、シャープでは、エアコンの外枠だけの見本を制作しました。
いわばハリボテのエアコンですが、これならショルダーバッグで
持ち運べる軽さになります。


なお、販売対象商品は、奥行き30cmの大きめのエアコン。
このところ流行の薄型で目立たないことを売りにする商品とは
逆張りの形状です。

そこで、凝った木目調のデザインを施し、
インテリア的に積極的に見せることができるスタイルに仕上げて
います。

こんな特徴を持つエアコンですから、
現品を目の前で見せることで、質感やデザインの良さを実感して
もらえますし、なによりも、訪問先の家庭の家具・調度品に
合うかどうかを判断することができます。

さらに、外枠が持っていけない販売員のために開発されたツール
も面白いです。(中身の入っていないエアコンとはいえ、それなり
の重さがあるので、年配の家電店オーナーにはつらいようです)


「ヴァーチャル設置写真シート&設置イメージシート用製品シール」

と名称は仰々しいですが、実にシンプルなツールです。

下敷き程度の大きさの透明シートにエアコンの写真を貼り、
手に持って部屋の隅に合わせてすかして見ることで、
設置された時の様子が擬似的にわかるというもの。


ローテクだけれど、

・どの部屋にはどの柄が合うのか
・どこに設置したら一番見映えがいいかなど

がイメージできるので予想以上の効果を発揮しています。

なお、売り上げは前年比1.3倍だそうです。


サービス業では、有名美容室の「田谷」の‘擬似パーマ’が
面白いですね。

パーマ後の仕上がりが不安がある顧客に対して、
ムースを使ってパーマ後のヘアスタイルの変化を擬似的に
見せることで、納得してオーダーする客が増え、
パーマをする顧客の割合が、18%から25%に上昇しています。


これらの事例は、要するに

BEFORE/AFTERのうち、「AFTERのイメージ」を
効果的に伝えるために、商品のデモをどううまく行うか

ということなんですが、必ずしもネットに頼らなくても、
ローテクでいろいろと工夫の余地があるということを
教えてくれますね。

投稿者 松尾 順 : 08:29 | コメント (0) | トラックバック

ネットだから売れる

昔は、

「ネットで、ものが売れるわけない!」

と言われた時期がありましたね。


でも、今となってみれば、

「ネットで、売れないものはない!」(極論ながら)

という感じですけど。


さて、以前、売れない理由の第一として挙げられたのが、
バーチャル店舗の「信頼性」ですよね。

文字通り‘仮想’の店舗であり、物理的な存在が確認できない
お店からものを買うのは不安を感じるだろうということでした。

ただ、これは初回だけの話です。

ネットでもちゃんと取引できて、確かな商品が届けば、
次からはあまり不安を感じることはありません。

それに、実在の店舗があるからといって、
必ずしもそこに置いてある品が良品とは限らないし、
口のうまい店員にいいように丸め込まれ、買う気のなかった商品
を買わされることもあるわけで、実は店舗の実在性は信頼性とは
あまり関係ないということが消費者は元々わかっていました。


そして、もうひとつ、ネットで買わない大きな理由は、

「手に取って確かめられないから」

というものでした。

これは一見説得力のある理屈に思えます。
が、これは真実を知らない頭でっかちの先入観でした。

ネットでの販売、すなわち「Eコマース」は、
通信販売の進化形と言えるわけですが、
すでに通信販売の先達は、「通信販売だからこそ売れる」
という理由を発見していたのです。

それは、商品を購入後、実際に使用した時に消費者はどんな
価値を得られるのか、という「使用価値」を説明するのは、
店舗よりもカタログの方が優れているということです。

端的には、最新のファッション衣料。
店舗ではのっぺら坊、しばしば首なしのマネキンが着ている。
ポーズも取ってません。(笑)

生地は手にとって確かめられても、自分がこれを着たら
どのくらい良いのか、イメージしにくいですよね。


一方、通販のカタログには、理想(なりたい)の自分を
投影できる、スタイル抜群の生身のファッションモデルが、
その衣料品が最も際だつポーズを取って着ています。

どちらが、使用価値を実感でき、また購買意欲がそそられる
でしょうか?


「料理器具」なんかも同じですね。
デパートなどで売場に並んでいる鍋をいくら手に取って
眺めてみても、それでどんなにおいしい料理が作れるのか、
まるでわかりません。

でも、カタログなら、鍋の中で出来立てのシチューが
湯気を立てている、そんな写真を見せることができます。

店頭で単なる飾り物となっている現物を見るよりも、
カタログで使用後の写真を見た方が、よほど「使用価値」が
伝わるということです。


以上の話、実は通販生活の創業者、斉藤駿氏の説です。

通販生活のカタログが、他の通販会社と比較すると
1アイテムあたりのコピーがやたらと多いのは、
商品の「使用価値」を最大限に伝えようという意図が
あったわけですね。


さて、Eコマースでは、紙のカタログよりもさらに表現力豊かに
商品の「使用価値」を伝えることができます。
リアル店舗ではまず聞けない、既存ユーザーの声も豊富。

ですから、

「ネットだから売れる」

ということは、通販をやっていた人なら
最初からわかっていたことでしょう。
(白状しますと、私も頭でっかち。
 Eコマースの市場性については半信半疑でした・・・)


なお、斉藤さんによれば、

「通販は、時間節約になる、便利だから売れる」

という考え方は間違いだそうです。
(Eコマースでも同じ考え方が浸透していますが)

通販では、基本的に街中で手に入りにくいものがよく売れる。

逆に言えば、近くの店ですぐに買えるようなものは、
そうそう通販では売れない。(例外は「アスクル」くらい)

確かに!
ネット・コンビニは確かにいまだ浮上してませんね。


*参考文献
 「なぜ通販で買うのですか」(斉藤駿著、集英社新書)

投稿者 松尾 順 : 12:17 | コメント (0) | トラックバック

マーケティング・コミュニケーションは「教育」である!

‘マーケティング・コミュニケーションは「教育」である!’

なんて言い切ってしまうと、

“神聖なる教育とビジネスをごっちゃにするとは何事か!”

とお怒りになる方もいらっしゃるでしょうから、

‘マーケティング・コミュニケーションは「教育」に似ている
 ところがある’

と、やや後退した表現に改めたいと思いますが。(笑)


でも、実際のところ、

・商品名を記憶・再生できるようになってもらう
・商品の使い方を覚えてもらう
・この商品は優れているといった考えを身につけてもらう

といった、
マーケティング・コミュニケーションの主な狙いを列記すると、
教える対象は異なるものの教育にそっくりです。

ユーザー視点で言い換えると、マーケティングコミュニケーション
は「学習」の働きかけに他ならないですよね。


となれば、畑の違う教育・学習分野の理論の中に、
マーケティング・コミュニケーション分野に応用できるものが
ありそうですが、あります、あります!

例えば、有名な学習心理学者、アメリカのロバート・M・ガニェら
が提唱する学習課題の分類というものがあります。

それは、次の4つです。

・言語情報
 名前や公式、文章などを覚える
 ・・・例えば、掛け算の九九、英単語

・知的技能
 ある約束ごと(枠組みなど)を新しい例に応用する
 ・・・例えば、マーケティングの4Pに基づく競合動向の整理

・運動技能
 筋肉を使って体の一部を動かす
 ・・・例えば、パソコンのタッチタイピング、機器の操作方法

・態度
 個人的な選択の機会があった時にあることがらを
 選ぼう、避けようとする気持ち
 ・・・例えば、環境に配慮したライフスタイルの標榜


そして、上記4つの分類は、大きくは、

・アタマ、すなわち認知領域の課題(言語情報、知的技能)
・カラダ、すなわち運動領域の課題(運動技能)
・ココロ、すなわち情意(心理)領域の課題(態度)

の3つの領域における学習課題と言えます。


難しい専門用語が出てきてすいませんが、
要するに、この4つの学習課題という視点は、
マーケティング・コミュニケーションのプランニングに
大変有益な示唆を与えてくれるのです。


例えば、あなたが、自社の新製品発売に当たって、
マーケティングのプランニングに頭を悩ませているとします。

そこでまず、「言語情報」の学習課題をターゲットユーザーに
与えるというのはどういうことか考えて見てください。

・どうやったらブランド名を覚えてもらえるか
・どうやったらブランド名をすぐに思い出してもらえるように
 なるか(他のブランドより先に)

といった問いを立てることができますね。
この問いの答えとしての学習方法、つまり
コミュニケーション方法はどんなものがありそうでしょうか?


次に、「知的技能」。
これは、

・どうやったら、自社製品を購入対象としてくれるか
・どうやったら、自社製品の購入を決定してくれるか

ということが重要で、そのためには、

「購入判断のよりどころ、目安を示す」

という教育的コミュニケーションが有効になります。

例えば、

「これからパソコン買うなら、メインメモリは最低512Mないと
厳しいですよ」

という目安を示せば、この目安に合わない競合製品は、
自動的に購入対象から外れ、512Mを搭載した自社製品は
当然のことながら購入対象としてくれるようになるという
わけです。


「運動技能」については、

・どうやったら操作方法(手順)に慣れてもらえるか

という点が大事ですね。
これは、そもそも機器のユーザビリティを改善する必要が
あるかも知れませんし、マニュアルをわかりやすくしたり、
使い方のデモやアフターサービスを充実させるなどの、
さまざまな打ち手を考えることが必要になります。

もし、新商品が、既存商品の姉妹品のようなものであった
場合、逆にうかつに操作方法などを変えてはいけません。
ユーザーがとまどってしまい、次回から購入を忌避されて
しまうかも知れないからです。

実際、日清食品の新商品「スープヌードル」は、
カップヌードルの姉妹品と呼べるものですが、
ネーミング、デザインを踏襲して、「言語情報的に」
覚えやすく認知しやすい工夫をしているだけでなく、
「操作手順」も同じにして、ユーザーがなじみやすいように
してあります。


最後の「態度」は、
好意や価値観といった心理状態の変化(形成)が
学習の課題になります。

端的には、

・どうやったら、自社製品を買うのが私にとってもっとも
 適切であるという考えをもってもらえるか

ということです。

このためには、

「自社の製品は環境に配慮しているからいいんですよ」

といった価値観の押し付けではなく、

「あなたの身近な環境が破壊されています。
 そんな環境破壊にあなた自身、手を貸していていいのですか?」

といった、個人的、具体的な問いかけを通じたコミュニケーション
が有効のようです。


マーケティング・コミュニケーションの領域では、
従来から

・「行動変容」(行動を変化させる)
・「態度変容」(心理、気持ちを変化させる)

という2つの大きな枠組みで目標を分類してますし、
よりマーケティング・コミュニケーションに即した目標設定の
やり方があるんですが、こうした異分野の理論も応用してみれば、
いろいろと新たなヒントや発想が得られますよね。

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (0) | トラックバック

インターネット風評の伝達スピード

今さら言うまでもないことですが、
インターネットはとっても便利なコミュニケーションツール。

便利になったおかげで、なんだかとっても忙しくなったように
感じますけど!(⌒o⌒;


でも、インターネットは、「両刃の剣」であるという認識も
お持ちですか?

つまり、ネットは単なる媒体にすぎず、
良い情報も良くない情報も、圧倒的なスピードで広範囲に広がる
ということです。


自社(自分)にとって良い情報が流れれば、
ブランドイメージアップになるし、収益増につながりますね。
これはありがたいこと!

これを仕掛けていくのが、「ネット口コミ」のマーケティング
なわけです。


一方、自社(自分)にとって良くない情報が流れてしまうと
大変ですね。イメージダウンは必至、会社なら倒産の事態
だってありえます。

良くない情報は、自ら流してしまうことが多い。
いわゆる口からポロッと「失言」です。

今、話題になってる、ハリウッド俳優のメルギブソンが、
飲酒運転で捕まったときにこぼしたユダヤ人に対する蔑視発言
なんてそうですね。

元々彼は有名人ですから、ネットがあろうがなかろうが、
あっという間に広がりましたけど、こうした失言はネット上に
記憶され続けますし、メルギブソン氏は、
ネットのために全世界のより多くのユダヤ人の怒りを買うことに
なったのは確かでしょう。


さて、失言より困るのが、出所のはっきりしないウワサです。
他人の口に戸は立てられない・・・

いわゆる「風評」による被害は、ネットによって増幅
される可能性がありますから、企業としては対応策を
明確に決めておく必要がありますよね。


「ネット風評」の場合、その伝達スピードがすざましい。
例えば、2003年のクリスマスイブに発生した佐賀銀行の
取り付け騒ぎがあります。
(PRIR 2006 July、インターネット風評の影響と対策)

「佐賀銀行が潰れるそうです」という、
他愛のない友人間のメールが県内外の多数者に転送されて
大騒ぎ。

この騒ぎを大きくしたのは、年末で混んでいるATMの窓口
を見た人が、

「潰れそうだからみんな急いで引き出している」

と勘違いし、自分も早く預金解約しなきゃと焦ってしまったこと。
これが連鎖反応を呼んだんですね。

この事例の場合、携帯メールの転送によって、うわさの発生から
わずか12時間後には解約者が銀行に殺到したそうです。


このような金融機関の風評被害は以前なんどか発生していますが、
最も大きなものは、1927年の渡辺銀行などのケースです。
いわゆる「金融恐慌」と呼ばれる事件。

これは、取り付け騒ぎが連鎖して半年間で37行が休業、または
閉鎖に追い込まれています。

この事例の場合、うわさの発生から取り付け騒ぎにつながる
まで数週間かかっています。昭和初期の頃ですから、
伝達速度は実にのんびりしたものですね。


また、1973年の豊川信用金庫のケースは、
女子高生を発端として町内にウワサが広がり1支店に
預金解約者が殺到したもの。

当時はまだ、インターネットも携帯もないころですが、
町内のアマチュア無線が伝達速度を速め、数日で騒ぎに
なったそうです。


さてブログやSNSなど、個人メディアが乱立し、
おたがいにつながりあっている2006年の今、
風評のスピードはひょっとするともっともっと早くなって
いますよね。

適切、かつ俊敏な対応が風評を流されてしまった企業には
求められるというわけです。

ちなみに、「インターネット風評の影響と対策」を
寄稿された駒橋恵子(東京経済大学助教授)によれば、
風評発生時の基本対策は次の2点だそうです。


●迅速な完全否定

 うわさがデマの場合、できるだけ早く公式な否定コメントを
 出すこと


●風評を再生産しないこと

 例えば、取り付け騒ぎのケースで言えば、
 銀行に殺到した預金解約者に落ち着いて対応し、
 混雑を緩和する方策を取ることにより「ウワサは本当だった」
 と感じさせない工夫をする

投稿者 松尾 順 : 15:35 | コメント (0) | トラックバック

円滑すぎる請求書発行

先週21日(金)、事務所の郵便物を取り出してみると、
A社からの請求書が届いていました。

「変だな・・・A社のログ分析ソフトは1年前に購入したけど、
 保守費用とか発生しないはずだし、心当たりがないなあ!」


請求書というものは、おおむね心臓によくありませんよね・・・
遅かれ早かれ払わなければいけないとわかってはいても、
気分が滅入るものです。(笑)


さて、ここでいったん話を2日前の19日(水)に巻き戻します。


19日、A社からメールで案内が届きました。

新しいASPサービスの紹介です。
ブログの仕組みを使ってホームページの立ち上げや運用が
簡単にできるというもの。

仕事柄、こうした情報は逃すわけにはいきませんので
早速、詳細説明のWebサイトにアクセス。


サービス内容をざっと眺めると、なかなか良く出来たASPです。
ビジネスユースにも耐えるデザインや品質に仕上がっている
という印象を受けました。

料金設定もビジネスユースであれば妥当な水準であり、
悪くありません。


「もう一つ自分のサイトを立ち上げるかな・・・まあそれは
時間がなくて無理かもしれないけれど、今後、クライアント
のWebサイト立ち上げの選択肢とて使えそうだ」

と考え、まずは自分でちょっと試してみることにしました。
幸い、登録から最初の14日間は「無料お試し期間」となっています。


それで、ともあれユーザー登録だけ済ませました。
サイトの詳細設定は結構手間がかかりそうなので、
週末以降にぼちぼちやろうかなと思ってたんですね。


そう、そして中一日後の21日金曜日、
A社から届いた請求書は、このASPサービスのものだったのです。

請求書やWebサイトを改めてよく見ると、
請求書記載の金額を払えば、
無料お試し期間終了後も継続利用できるし、
もし、継続利用する気がないなら払わなくてよい、
ということらしいです。


なるほどそれはそうかもしれませんが・・・
請求書発行のタイミングがあまりに早すぎると思いませんか?


まだ、当サービスに「興味・関心」を持ったばかりで、
ろくに「理解」も「確信」もしていない時点で、
早々と請求書を送ってしまうことが、
見込み客の心理にどんな影響を与えるか、
当サービスの担当者は想像できなかったんでしょうか?


請求書を受け取るということは、支払いが先のことであれ、
すぐにでも「購入の決断」を迫られているような気分に
嫌がおうにもさせられます。


今回、ユーザー登録からわずか2日後に
請求書が届くというのは、実に円滑なワークフローですよね!

しかし、

「えーなにー、まだろくに試してもいないのに、
 いきなり請求書送りつけやがって・・・」

という気持ちを与えてしまったら「アウト」じゃないでしょうかね。

コミュニケーションのプロセス設計がまったくなされていない
と考えざるを得ません。


定石的には、

・ユーザー登録後3日目くらいに、使用感についてたずね、
 またわからないことがあれば問いあわせしてほしい旨の
 eメールを送る。

・7日目あたりで、試用期間があと1週間であること、および
 紙の請求書が2-3日以内に届くことを事前に知らせるeメールを
 送る。

くらいのことをやるべきではないでしょうか。


円滑な業務遂行は本来歓迎されるべきことですが、
今回の場合は、お試し登録ユーザーの歩留まり率を
大きく低下させることにつながっているんじゃないでしょうか。


A社のこのサービス、なかなか優れものであるだけに、
大変残念に思いました。

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

「箇条書き」にはご注意!

昨日書いた「合脳的プレゼンテーション」では、
内容の展開を「接続詞」でつないでいけば、

・プレゼンを物語化することができること

これによって、

・プレゼンの内容が、聴いている人の脳にすっと入っていくこと

を説明しましたが、
究極の合脳的プレゼンテーションは、物語そのもの、
具体的には「劇」として組み立てられたものでしょう。


例えば、統計解析ツールを開発・販売しているSPSS社が、
昨年からイベントで行っている「寸劇形式」のプレゼンテーション
が該当します。

*以前このことについて書きました>寸劇プレゼン


寸劇形式のプレゼンは、シナリオ作成から始まって、
演出、配役、リハーサルなど、準備が半端じゃなく大変ですが、
それに見合う効果(面白さ、わかりやすさ、記憶の残りやすさ)
があると思います。

つい先日、このプレゼンのストリーミング映像が
公開されましたので、関心のある方はぜひごらんください。
(寸劇裏話やイベントレポートのURLも併せて掲載します)

------------------------------------------------------------
*SPSS Data Mining Day 2006で披露された、
SPSS社員が演じる寸劇形式のプレゼンテーション「SPSS Solution」

▼ストリーミング映像(登録制/所要時間37分)

▼SPSS社員の紹介 & 寸劇裏話

▼@ITイベントレポート(各講演のダイジェスト)
------------------------------------------------------------


さて、最近増えてきた「導入事例記事」も、
物語化された効果的なコミュニケーションのひとつです。

導入企業への取材を元に、背景や、導入のきっかけ、
導入成果などをストーリー性をもたせることで、読者の関心を
引き、わかりやすく製品の特徴やメリットを訴求できます。


実は、私もしばしば、事例記事の取材・ライティングの仕事を
やる機会があるのですが、数年前、某ソフトウェアの導入事例記事
を書いた時、次のようなことがありました。

初稿を提出した後、クライアントから戻ってきた修正指示を
見ると、大幅に「箇条書き」を増やすようになっていたのです。

もし、指示通りに修正するとストーリー性がまったく失われて
しまうため、私は頭を抱えました。

とはいえ、なんとかクライアントの要求に最大限こたえつつ、
ストーリー性を失わないように注意して修正してその仕事は
納めたのですが・・・

今でも、ちょっと違うなあという思いが残っています。


いわゆる「ビジネス文書」では、

「箇条書き」

が過度に強調されている嫌いがありますよね。

出張報告とか提出したら、上司から、「箇条書きに直せ」
なって言われて突っ返された経験ありません?


確かに、「箇条書き」は、
ポイントだけをわかりやすく抜き出して提示することができます。
したがって、多くのビジネス文書では有効な文体だと思います。

しかし、箇条書きは、内容を把握する必要に迫られた人には
読んでもらえますが、そうでない人、すなわち、
まだ内容に関心を持たない人には、あまり読んでもらえません。

なぜなら、箇条書きは
キーワード、キーセンテンスの羅列に過ぎないため、

・表現が平板なため読んでいて面白くない

また、まさに「接続詞」がないので、

・読み手が文脈を想像しなければならず、
 読み進めるのが大変

だからです。


ですので、関心のない人を振り向かせたい
マーケティング・コミュニケーションでは、
「箇条書き」の使いどころを間違えてはいけません。

「箇条書き」が適しているのは、主に製品スペックのような
そもそもストーリー性を要求しない部分や、並列的な情報が
多数あって、箇条書きでないと混乱する場合です。


「図解コミュニケーション」で知られる久恒啓一氏
(宮城大学教授)は、

「箇条書きは思考を停止させる」


とおっしゃってますが、確かに「箇条書き」は、

分かった気になっただけで、実はぜんぜんわかっていない
(わかってもらえていない)

というコミュニケーションになってしまう危険性を
秘めていると思います。


「箇条書き」にはご注意!

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (2) | トラックバック

見えない次元ポジショニング

先日書いた

「同じ土俵で勝負しないこと」

に対して、
金森マーケティング事務所の金森さんよりコメントをいただきました。

-(金森さんコメント:ここから)----------------------------

伝統的なマーケティングの考え方は、

S→T→P

(セグメンテーションをして、ターゲットを絞って、
 それに対するポジショニングを決める)。

しかし、昨今は「ポジショニングありき」が正解だと思います。

-(金森さんコメント:ここまで)----------------------------


これについて、私の考えを書いてみたいと思います。


確かに、マーケティング戦略・施策のプランニングにおいて

S:セグメンテーション
T:ターゲティング
P:ポジショニング

のうち、P:ポジショニングが最も重要ですね。

その理由は、端的には、現在の市場が「成熟市場」であり
「買い換え需要」が中心となっているからでしょう。


企業側が、いかに有効な顧客セグメントを発見し、
ターゲットを明確化したところで、
すでにほとんどの顧客は既存類似商品を消費中です。


つまり、現代の消費者は、

「買うか・買わないか」(購入する・しないの問題)

ではなく、

「どの会社のどの商品を買うか」(買い換え商品選択の問題)

が最大関心事。

市場が成熟する以前は、
それほど「ポジショニング」は重要ではありませんでしたよね。

例えばまだテレビが普及していない段階では、極端に言えば

「とにかくどの会社の製品でもいいから、テレビが買いたい」
(購入する・しないの問題)

という消費者が多数を占めており、
商品自体の違いはそれほど重視されなかったのです。


しかし、必要なものは一通り揃ってしまった現代では、
どの製品に買い換えるかというだけの選択の問題になり、

ベストのものが1種類あれば良い。
同じポジションの商品は2種類いらない。

これが消費者の基本的な態度です。

このため、多くの市場でナンバーワン企業のみが
圧倒的勝ちを収める寡占化が進んでいるわけです。


ですから、逆に顧客に選択してもらうためには、
明確な既存商品との「差異」を示さねばならない。

最近のベストセラー、「ブルー・オーシャン戦略」
で説かれているのも、大胆なポジショニングの
「差異化」でした。


ただ、ポジショニングを考えるに当たって、
忘れてはいけないのは、

現代は、

「見える次元」におけるポジションニング

ではなく、

「見えない次元」での独自のポジションニング

を考えることが必須であることです。


「見える次元」とは、機能、性能、価格など、
誰にでもわかりやすい、測定しやすい製品の特徴です。

いわゆる「機能的な価値」のことです。

「見えない次元」とは、デザインやブランドイメージなど、
その優劣が簡単には測定しにくいもの。

「情緒的価値」、あるいは「コンセプト価値」(環境対応など)
が該当します。


このあたりの話は、私も何度か書いてきたことですが、
「見える次元」のポジショニングでは、
すぐに追いつかれ、真似されます。

特に、大手企業は意図的に同じポジションにぶつけることで、
競合商品をつぶしてきます。


一方、「見えない次元」のポジショニング、例えば
デザインは意匠権の問題でおいそれとは真似できませんし、
ブランドイメージは、企業の歴史、文化、風土などが深く
結びついているため、全く同じポジションを攻めることは
実質不可能です。


したがって、ポジショニングの主戦場は「見えない次元」
であるという意識を持つ必要があります。

そして、

「見えない次元」での独自のポジショニング

を確立するための主たる活動、それは

「ブランディング」

ですよね。

「ブランディング」が近年、
ますます重視されるようになったのはごく当然のことでした。


余談ながら、フォード、GMといったアメリカ車が不振を
極めているのは、いまだに「見える次元」でのポジショニング
しか考えていないこと。

長期的な取り組みにならざるを得ない「ブランディング」に
対して、実際、腰が引けています。

しかも、消費者のニーズが低燃費、小型化、環境対応に
向かっていることを考えると、

S:セグメント、T:ターゲティング

も不十分と言わざるを得ないです。

ハリウッドのスーパースターが、トヨタのプリウスを
何台も所有することがステータスシンボルになる時代。

その空気を米自動車メーカーが読めていないのは明らかですよね。

おそらく、この背景には、行き過ぎた短期業績志向や、
見えるものしか考慮しようとしない科学主義、
ロジカルシンキングの弊害があると考えられるでしょう。


その点、BMWを初めとする欧州車は、見えない次元での
ポジショニングを以前から意識してきていますね。

機能・性能と価格との費用対効果や、
故障のしにくさ、サービスの充実度など、
見える次元では、圧倒的に日本車メーカーが上にも関わらず、
欧州車が一定の支持を得続けているのは、まさに、

見えない次元ポジショニング

の成果でしょう。

投稿者 松尾 順 : 10:50 | コメント (0) | トラックバック

消えないウワサ

人のうわさ、つまり口コミはネットによってとんでもない
速さで伝わるようになりましたよね。

良いウワサなら歓迎ですが、悪いウワサが広がると、
最悪の場合、企業の息の根を止めてしまう可能性さえあります。


さて、従来の口コミとネット口コミの決定的な違いは、
おわかりですよね。

それは、従来の口コミは「揮発性」が高く、
ネット口コミは、「揮発性」が低いということです。


従来の口コミは文字通り口伝えでした。

つまり伝えたい情報は、言葉として発声され、
すぐに消えてしまう。(=揮発性が高い)

情報が瞬時に消えてしまうからこそ、
最初の人と最後の人で内容がまるで違ってしまう「伝言ゲーム」
が面白いわけです。


ところが、ネット口コミは、その大半が掲示板やブログなど、
文字データとして発信され伝わっていきます。

すると、良い内容であれ、悪い内容であれ、
長くオンライン上に閲覧可能な状態で残ったままに
なりますよね。(=揮発性が低い)


つまり、昔の口コミと違って、
人のウワサがオンライン上では消えてしまわない。
「人のウワサは75日」ということわざは、もはや成立しない
世の中になったんじゃないかなと思います。

もちろん、どんな出来事でも、時を経つにつれ人々の関心は
薄れていくことには変りありません。

でも、ネットで軽く検索しただけで、当時の情報がいくらでも
出てくる。出来事の記憶がリフレッシュされてしまう。
「忘れ去られてしまう」ことがなくなったといえるわけです。


これ、いい情報ならともかく、
悪い情報の場合だと、大変困ったことなんですよ。


以前、Googleで温泉宿を探していた時のことなんですが、
ある旅館で食中毒を起こしていたという情報が
引っかかってきました。

ニュース記事ではなく、地元の人のWEB日記に書かれていた
情報です。ただ、その食中毒事件は5年も前のことした。


その旅館も、5年後の今は厨房施設を一新しているかも
しれませんし、衛生管理にもには気をつけていて特に
問題はないと思います。それでも、食中毒を起こした旅館と
いう情報を見たら、当方の希望にぴったりの旅館だったにも
関わらず、なんとなく予約する気がなくなりました。

これは、理屈では説明できない感情レベルの問題ですが、
多くの人が、同じような気持ちになるんじゃないでしょうか?


企業側としては、
起こしてしまった事件についての情報が流れるのを防ぐのは
できませんが、その後の対応についての情報や、
根も葉もないウワサ、風説の扱いには、細心の注意が必要
ということになりますね。

しかし、まだまだこのことがわかっていない企業が、
東横インやシンドラーエレベータをはじめとして、
たくさんあるようですけど・・・

投稿者 松尾 順 : 11:11 | コメント (0) | トラックバック

企業の本性

死亡事故を起こしたシンドラー社のエレベータ。

同社日本法人は、
速やかな状況説明や、真摯な態度を見せることができず、
まるで責任逃れをしているように見えますね。

危機対応の最悪の見本が、また生まれました。

シンドラーエレベータは、世界シェア15%の伝統ある大手企業です。
ですが、日本でのシェアは1%に過ぎません。

今回の死亡事故に対する対応で、
もともと希薄だったシンドラー社のブランドイメージは
地に墜ちましたが、
もう日本市場はどうでもいいと考えているんでしょうか。

このような対応を続けるなら、もはや日本市場を撤退するしか
道は残されていないでしょう。

現場でまじめに働いている同社の社員の皆さんはさぞかし
情けない思いと不安な気持ちを抱いてらっしゃることでしょうね。


日本のエレベータ市場は、
三菱電機、日立製作所、東芝エレベータの3社でシェア7割超を
占める寡占市場です。

エレベータは、オフィスビルなどに組み込まれる製品ですから、
ビル建築を請け負う建設会社(ゼネコン)とのつながりや、
保守点検が欠かせないという点で、保守サービスの充実が必要で
あるため、外資の参入は簡単ではありません。

このため、シンドラー社では、入札で決まる官公庁向けを
事業の主体とせざるを得ませんでした。


しかし、今回のような誠意の感じられないずさんな対応を
しているようだと、もはや官公庁としてはシンドラー社を
入札に呼ぶわけはいかない。

つまり、日本市場から実質的に締め出されることになるわけです。

同社経営陣は、会社の将来より自己保身に走っているようですが、
やはり危機において企業の本性が現れますね。


企業の本性とは、企業の経営者そのものの人間性と言えるんじゃ
ないかと、今回あらためて思いました。


一方、シンドラー社と対照的な、
毅然とした態度を取っているのが、ソフトブレーン社です。

同社は、昨年8月に村上ファンドの村上世彰氏を社外取締役に
招いていました。

先日の村上氏の逮捕に際して、村上氏と懇意にしていた
日本企業の経営者や有名人は、マスコミの取材から
逃げ回っています。

しかし、同社だけは、村上氏の問題について
マスコミの取材をすべて受け、誠実に対応しています。

こうした企業姿勢には、
創業者で同社会長の宋文洲氏の意向が反映されているようですが、
中国人である宋氏のリーダーとしての卓越した人間性が
証明された一方で、日本人の経営者の中には、
リーダー失格の人がやはりたくさんいたんだなと、
なんだか情けない思いをさせられますね。

投稿者 松尾 順 : 09:39 | コメント (0) | トラックバック

寸劇プレゼン

マーケティング・リサーチャーに必須のツールは「統計解析ソフト」
ですが、現在日本で、デファクトスタンダードの地位を確立して
いるのが

「SPSS」

です。

私がSPSSのソフトを始めて知ったのは95年頃ですが、
従来の製品と比較して、高度な分析が可能なのに格段に使いやすく、
かつ値段も手頃なので、早速当時の会社で導入し利用していました。

そして、独立した現在も、新規に購入して引き続き利用しています。
私のような個人で活動するリサーチャーにも手の届く金額で購入
でき、たいていの分析ができてしまうのは大変にありがたいです。
(さすがに高度なデータマイニングができるツールは数百万円
しますので、手が出ませんが・・・)


さて、SPSS社の場合、いわゆる4Pで評価すると、

Product:製品が優れている
Price:手頃な値段、コストパフォーマンス高い
Place:基本的に直販、コンサルティンググループ、パートナー
    会社との連携によるソリューション型販売も可能
Promotion:継続的なブランディング、プロモーション(狭義の販促)

となり、
とてもバランスのよいマーケティング戦略が展開されていて、
成功するための必要十分条件が揃っていることがうかがえます。

特に、Promotion(広義の広告・広報、販売促進戦略)に対して、
明確なコンセプトを打ち出し、ブランディングに相応の予算を
毎年安定的に拠出してきている点が、現在の高いブランドイメージ
を構築できた最大の要因だと思います。


SPSS社では、プロモーションの目玉として、
年2回(春と秋)、ユーザーや潜在顧客を集めたセミナーイベントを
開催しているのですが、先日開催された「Data Mining Day 2006」
に私も参加してきました。


この春のイベントでは、昨年から面白い試みをしています。

SPSS社のソフトを採用したソリューション紹介を
社員が演じる寸劇によって紹介する、「寸劇プレゼン」です。

ソリューション紹介というと、普通はプレゼンターがデモ画面を
スクリーンに映し出しながら操作手順を説明するといったところが
定番でしょう。


しかし、「寸劇プレゼン」の場合、架空の会社での特定場面
(ミーティングやコールセンター)を想定して、そこでリアルな
会話を再現しながら、自然な形でソフトの操作や特徴、便益が
紹介されていきます。

今回は、老舗の損保会社と新興の損保会社が対比的に描かれて
いました。

老舗企業では、顧客データ活用がまるでできず、お先真っ暗な
様子が、会議中の上司と部下との情けない会話で示されます。

一方、新興の方は、SPSSのソリューションを積極的に取り入れる
ことで、顧客の利便性が高まったり、コールセンターの負荷が
軽減されるといった成果が、ミーティングでの生き生きした
会話やコールセンターでのオペレーターと顧客との会話で
示されます。(やや理想的すぎる展開と感じないこともない
ですが、設定は架空の会社でも採用されているソリューションは
本物だそうです)


この寸劇プレゼン、昨年も大変好評だったそうですが、
今年も実際「観劇」していて、実に面白いと思いました。

やはり「物語」の魅力でしょう。

一定の文脈があり、演じる役者たちは喜怒哀楽の感情を
交えた会話を交わすのです。ついつい引き込まれてしまいますし、
印象的です。

SPSS製品の特徴、便益を認知させ、理解させ、
かつ記憶に留めさせるという点において「寸劇プレゼン」は
とても効果的だと思います。

「寸劇プレゼン」は、米国本社で最初に採用された方法の
ようですが、こうした先進的な取り組みができるのも、
SPSS社が「マーケティング巧者」であることを物語っていますね。


ほかの会社でも「寸劇プレゼン」を導入するところが
これから増えるでしょうか・・・?

でも、準備は相当大変みたいですね。
寸劇に登場した社員の皆さんは、
ゴールデンウィーク返上で稽古したそうです。

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (0) | トラックバック

記事かと思ったら広告だった

私が読んでいる日刊のメルマガは10誌くらいあるのですが、
その中で、しばらく読み始めてから、

「あれ、これ広告じゃないか」

とわかって、怒りの鉄拳を振り下ろしたくなるものがあります。


いつもとまったく同じ体裁で、本文中に広告コピーが展開されて
いる。なのに、タイトルにも本文にも、
「号外」とも「PR」とも「広告」とも書いてない。

本文と勘違いさせて開封率、精読率を高めようという
魂胆でしょうけど、フェアじゃないですよね。
ユーザーを欺く行為ですから。

記事と広告・PRは区別ができるように明示しなければ
いけないのはメディアの常識、倫理です。
(記事は、本人の判断で書きますが、広告・PRはお金を
もらって書くものですから、読み手が区別できないと、
記事の信頼性が損なわれますよね)

しかし、メルマガのような個人ベースで運営されるマイクロ
メディアの場合、まだうるさく言う人がいない。
なので、知らぬ顔で記事まがいの広告を発行してるんでしょう。


さて、同じようなことがブログの中でも発生してますし、
これから問題となってきそうです。

最近、ブログの本文中に宣伝コピーを
書くことでお金をもらえるサービスが登場しています。

例えば、昨年12月からベンチャー企業、エニグモさんが始めた

「プレスブログ」

では、新商品を紹介するブログの書き手会員を募集しています。

エニグモでは、企業からサービスを受注すると、商品内容の紹介、
文中に必須のキーワードなどを挙げて、執筆を促すメール
マガジンを会員に送ります。

会員がこれを受けてブログを書き、書いたことを同社に報告すると、
1件あたり500円-1000円の報酬が書き手に支払われるそうです。

登録会員は4月末で10万人を突破。

ブログは、いわゆる「ネット口コミ」のメディアです。
企業としては、こうしたサービスの活用にも大いに
期待しているでしょう。


ただ、登録会員は、普段は、広告用のブログだけを
書いているわけじゃないですよね。
(アフィリエイトだけのブログとかたくさんありますが、
 それは初めからそれに徹しているのでなんら問題なし)

エニグモから、記事掲載の依頼があった時だけ書くことに
なるわけですが、まさか、今回は「広告」ですとは
書かないんじゃないでしょうか。

おそらく、いつもの通りの文体で、
たまたま面白い新商品を見つけたかのように書くと思います。
(私が書くならそうしますね。お金もらって「ちょうちん記事」
書いてるということをアカラサマにするのはいやですから)

だとすると、いくら個人の日記であったとしても、
やはりメディア倫理上の問題が発生するんじゃないでしょうか。

*以上は、私の推測なので誤解があったらお詫びします。


「プレスブログ」のWebサイトを見ると、
新商品発売などのプレスリリースを個人ブログで「記事」と
して取り上げてもらうという説明がなされていますが、
内容掲載に対価を払うならば、それを「記事」と呼ぶのは
まずいでしょう。

マスメディアでは、記者がお金をもらって記事を書くことは
ありません。(少なくとも建前としては・・・)

したがって、報酬をもらって書くブログは「広告」であって
「記事」という認識にはならない。
仮に百歩譲っても「ペイドパブ」(PR記事)です。
しかも、そのことは明記される必要があります。


エニグモさんのサービスにケチをつけるつもりは
ありませんが、このあたりの倫理上の問題が今後浮上して
きた時、大企業ほどこうしたサービスを利用しづらくなります。

つまり、倫理上の問題が企業成長の障害になりかねない点、
警鐘を鳴らしておきたいと思います。


今後、ブログも有益な広告媒体として活用したい
われわれマーケターとしては、ネット広告における
メディア倫理基準を確立し、周知する必要がありますよね。

投稿者 松尾 順 : 09:16 | コメント (0) | トラックバック

マーケティングコミュニケーションの冗長率

メシ、

ハイ

フロ、

ハイ

ネル。

・・・。

枯れた夫婦の会話です。(笑)
余分な言葉が一切そぎ落とされたムダのない言葉だけ。

こういうコミュニケーションを「冗長率」が低いと
言うそうです。

長年連れ添ってお互い十分わかりあっている
(またはわかりあえないとあきらめた?)ような関係では、
伝えたいことだけを言葉に出すだけで相手に通じるから、
冗長な尾ひれはいらないんですね。


一方、お互い知らないもの同士がコミュニケーションを
行う時、相手の考え方や反応がわからないので、まずは
「最近雨ばかりですね」などと、当たり障りのない話から
始めて、少しずつ距離感をつめていきますね。

そして、ある程度わかりあえたと感じた段階から、
もっとシリアスな話題、例えば商談に入っていく。

つまり、親密な間柄よりも、お互い知らないもの同士の方が、
冗長率の高いコミュニケーションが必要なんですね。
(中身のないどうでもよい話をヒマにまかせて
 友人とだらだら続けるというのとは、次元の違う話ですよ)


劇作家・演出家の平田オリザさんによると、
夫婦のような親しい関係で行われるコミュニケーションを「会話」、
あまり親しくない関係でのそれを「対話」と呼んで
区別しているそうです。
(英語では、前者は「Conversation」、後者は「Dialogue」です)


「会話」は、基本的に同じ土壌に立つ者同士が、
相手にしてほしいこと、伝えたいことをストレートに言うことが
目的になります。


一方、「対話」は、価値や情報の交換が主な目的になります。
つまり、異なる人格・価値観を持つ同士が、
お互いの考え方をすり合わせることです。

したがって、それぞれが伝えたいことだけを伝えようとして
ガチンコ勝負してしまうと摩擦が生じやすくなります。

そこで、無駄な言葉を挟むことによって、
摩擦を和らげる必要がある。だから、
「対話」では、冗長率が高くならざるを得ないわけです。


この「会話」と「対話」の区別や、冗長率の高低は、
マーケティング・コミュニケーションにおいても十分意識
する必要がありますよね。

よく聴く話ですが、優秀な営業マンは雑談が得意です。

営業とはお客さんとの対話です。
少なくとも最初は親密でもない関係のお客さんに対して

「自社商品はこんなにいいんですよ、買ってください」

という価値観や意思を最終的には伝えなければいけない。

もちろん、このことをストレートに言ってしまったら
拒否されるだけ。

まずは冗長率の高いコミュニケーションを通じて、
相手の考え方や感情、反応パターンを十分に読みきってから
本題に入る必要がある。

営業マンは雑談ができないと基本、うまくいかないわけです。


広告やWebサイト、メルマガでも同じでしょう。

限られたスペース、時間、文字数などの中で、
お客さんとの関係を十分に測った上で、適切な冗長率の
コミュニケーションを図る必要がありますよね。

自社の商品情報満載のメルマガが、読み手からみたら
まるでつまらない理由もこのあたりにありそうです。

投稿者 松尾 順 : 07:00 | コメント (2)

慇懃無礼vsフレンドリー

東急ストア、京王ストアなど、
電鉄系スーパーなどが加盟する共同仕入れ会社、「八社会」では、
共同でレジ販売員(チェッカー)の接客技能向上に取り組んで
います。

そして、各社共通のチェッカーに必要な作業基準を作成するに
当たり、8社の教育担当者が2005年夏から会合を重ね、
次のような合計15項目を策定したそうです。

・金銭を受け取るときアイコンタクトする
・手は前で組む
・体は顧客の方を向いている

などなど。


月間アイ・エム・プレスの有坂記者は、
2006-5月号の「Theふぉーかす」で上記内容を紹介しつつ、

“お金を渡すときにアイコンタクトなんかされては、
 ゾッとすると感じるのは私だけだろうか。”

と率直な気持ちを書いています。


いや、有坂さんだけじゃないと思いますよ。
私も想像するだけでゾッとします。


今のスーパーのレジ係は、いわば「生身のロボット」化
させられていますよね。

並んでいるお客様を待たせないため、レジ作業を最大効率化
しなければならない。そのためには、ムダ口を叩かず、
「感情」を殺して黙々とスキャナーを動かさなければいけない。

ですから、ある意味、意図的に「視線を合わせない」
のが現実だと思います。


そんな現状のまま、「接客動作プログラム」だけ変えられて、
形式的にアイコンタクトされてもねぇ・・・

レジ係の人の「目」に「心」が感じられず、きっと気持ち悪いこと
でしょう。


今回のチェッカーの作業基準策定の詳細な情報がないので、
推測で言っていることをあらかじめお断りしておきたいのですが、
こうした作業基準の背景には、相変わらず

「日本的な接客思想」

が流れているように思います。


それは、「お客さまを敬い、礼儀を重んじる」という思想。

要するに

「お客さまは神様です」

と考えて行動すること。


もちろんこの思想は間違いではないと思いますが、問題は、
しばしば、

「過度に慇懃無礼なサービス」

になりがちなことじゃないでしょうか。


礼儀を重んじるがあまり、まさに「神様扱い」して奉り、
お客さまとの距離をあえて遠ざけてしまう。このため、
人と人とのふれあいが生じにくくなってしまうわけです。


スーパーのレジ係も基本は「慇懃無礼」ですよね。

丁寧で迅速なレジ処理はしてくれるものの、
心のこもらないロボット的対応をしている。
(そう強いられている)

したがって、接客思想を変えないまま、
心のふれあいを示す「アイコンタクト」をやるのは、
むしろ逆効果になる可能性があります。

もし、アイコンタクトを実践するのなら、
接客思想を変え、お客さまとの距離をつめ、
よりフレンドリーな交流を許す環境を
レジ係に提供してあげるべきでしょう。


日本のサービス業全般に見られる「慇懃無礼さ」については、
青山のレストラン、「カシータ」のオーナー、高橋滋さんが
指摘されていたことを思い出しました。

高橋さんが、夜遅く某ホテルにチェックインした。
フロントの係の人が、丁寧に、しかしごく事務的に手続きを
進める。仕事としては申し分ない。

しかし、例えば、なぜ一言、

「今までお仕事ですか。遅くまでお疲れさまでした!
 ごゆっくりなさってくださいね」

とフレンドリーな笑顔で言えないのか。

お客さまの状況や気持ちを的確に「読む」必要があるとは言え、
こうした「心」の感じられるコミュニケーションが、
相手を心地よいものにし、満足度を高め、ロイヤル顧客育成に
プラスになるはずですよね。

まあ、日本人の気質や受けてきた教育ではなかなか自然に
フレンドリーな対応をするのは難しいでしょうけど。


そういえば、仕事の関係で宮崎のシーガイアリゾート
たまに行く機会があるのですが、宮崎の人たちは、
おおむねなぜかフレンドリーです。

タクシーのおじさん、ベルボーイのお兄さん、フロントマン、
バーのバーテンさんなどなど、すべての人とは言いませんが、
相手に対する「心」(思いやり、慮る気持ち)が感じられる
んですよね。

おおらかな南国人気質なんでしょうかね。

投稿者 松尾 順 : 08:56 | コメント (2) | トラックバック

願いははっきり伝えるのだ

“新しい会社案内できましたよ”


お取引先の社長さんが、そう言いながら渡してくれた
会社案内をまずはパラパラとめくってみました。

以前の安っぽいつくりのもの(失礼)と比べると、
上質なコート紙を使ってあるし、レイアウトも洗練されています。

また、内容も、サービス紹介や会社概要だけでなく、
ユーザー企業の声(テスティモニアル)も掲載されました。

誰もが知っている超一流企業社長のインタビューを交えた
ケーススタディです。この企業もユーザーなのか、と思わず
引きつけられてしまうでしょう。

“これなら、御社のブランドイメージがぐっとあがりますね。
 充実した内容なのでおもわず「保存」したくなると思います”

と正直な感想を伝えたんですが、内心ひとつだけ、
思ったことがありました。


“表紙に「保存版」と明記したらもっと良かったのでは?”


まあ、表紙に「保存版」と入れるのはデザイン的には野暮になる
こともあるし、いまさら手遅れですので、あえて社長さんには
伝えなかったんですけど・・・


さて、皆さん、他社からもらった会社案内、
ちゃんと保存してますか。

しばらくなんとなくそのあたりに置いておくとしても、
たいていは、すぐゴミ箱行きですよね。


会社案内は通常、ありきたりのことしか書いてないし、
読み手にとって保存して読み直すだけの価値はまずありません。

そんな会社案内なら作るだけムダです。

Webサイトを充実させて、営業にはWebサイトのプリントアウトを
持参した方がベターじゃないでしょうか。


ただ、会社の信頼や格を上げるために、
相応のお金を投じて会社案内を作った方がいいとお考えなら、
‘保存したくなるような’内容にすべきでしょう。

つまり、こちらの伝えたい情報だけでなく、
読み手(潜在顧客)が喜ぶ、役に立つ情報を盛り込むのです。


そしてもう一つ、あつかましい、ずうずうしいと思われるかなと
考えず、「保存版」、あるいは「ぜひ保存してください」と
表紙に明記したらどうでしょうね。


日経ビジネスなどのの別刷り特集号には、たまに「保存版」と
書いてあることがあります。

内容を見ると‘保存’するほどの価値はないこともある。
でも、「保存版」と書いてあると、不思議に捨てにくい。

相手の勝手な押し付けにも関わらずです。
人間心理はそんなところがあるんですよね。


会社案内ではありませんが、「名刺」で同様の試みをして実際に
成果を上げたケースが昨日の日経産業新聞(2006.04.04)に
紹介されてました。

オフィス用品通販を手がけるベンチャー企業、
カスタネットの植木力社長の名刺(2種類あるうちのひとつ)
には、図々しくも(笑)

「名刺入れに入れておいてください」

の一文が書いてあるそうです。


名刺フォルダーにしまいこまれず、名刺入れに入れたままに
なっていれば、

「何かの機会にオフィス用品の注文をもらえる可能性がある」

と期待してのことです。

さて、植木さんは、本当にこの一文が効果があるかどうか
効果検証をしてみたそうです。

ある忘年会でこの名刺を配り、年末年始を過ぎた頃に
確認したところ、ほとんどの方が名刺入れに残していて
くれたそうです。

年末年始は何かと名刺交換の機会がありますから、
他人の名刺はどんどん増えたはず。

したがって、植木さんのものが名刺入れに残っていたのは、
たまたまそのままにしておいたわけではないでしょう。

やはり、植木さんの「願い」をみんな素直に聞き入れていた
わけです。


マーケティング・コミュニケーション、
特にダイレクトマーケティングでは、

「Call to Action」

という原則があります。

コミュニケーションを行う際には、
相手にして欲しい行動を明確に伝える必要があるということ。

例えば、ダイレクトメールの目的が「資料請求」なら、

「資料請求お待ちしてます」

とはっきり伝えなさいということです。

当然のことのようですが、
意外に、相手に何を求めているかが明確でない広告文が
多いんですよ!


会社案内の「保存版」も、

名刺の「名刺入れに入れておいてください」

も、「Call to Action」ですよね。


自分の願いというものは、はっきり伝えなきゃいけません。
(もちろん、相手が「断ることのできる権利」は
 残しておくんですけどね)

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

ソーシャルマーケティング

宣伝会議最新号(2006.4.1)の特集タイトルは、

「広告で信頼はつくれるか」

です。

今、一通り読んだばかりですが、
宣伝会議の基本的な論点は、信頼をつくる広告のあり方として

「ソーシャルマーケティング」
(および、ソーシャル・コミュニケーション)

が必要であるということです。


「ソーシャルマーケティング」とは、早い話が、

「社会における企業の存在意義や貢献を伝えるコミュニケーション」

です。

もっと具体的に言うと、

「自社は、社会のお役に立つ事業を展開してますし、
それだけじゃなくて、地球環境保護などの社会的問題に対しても
積極的な貢献をしていますよ」

と対外的にアピールすることですね。


確かに、こうしたコミュニケーションは今後極めて重要でしょう。

今の消費者は、「商品」の良し悪しだけじゃなくて、より一層
その商品を製造・販売している「企業」の良し悪しを見極める
ようになってきてますから。

また、良い情報も悪い情報もあっという間に広がる時代、
へたなごまかし、言い訳は通用しないですし。


ですから、

「ソーシャルマーケティング」

は、今後大々的なブームになっていくでしょうね。


‘わが社でも「ソーシャルマーケティング」に
 取り組まねば、競合に負けてしまうぞ!’

と経営者は焦り、猫も杓子もソーシャルマーケティング。


ただ、そうなると、10数年前に流行った「メセナ」や
「フィランソロピー」と同様、
結局のところ、利益を上げるための「経費」としか考えない、
社会貢献活動やソーシャルマーケティングが増殖しそうですよね。

見せかけだけの「ソーシャルマーケティング」です。

こういうものは、業績が悪化すると真っ先にコスト削減対象なる。

‘利益確保が最優先。「ソーシャルマーケティング」なんて後回し’

と経営者が言い出すでしょう。


しかし、これでは、信頼をつくろうとして始めたことが
あだになり、かえって信頼をなくすことになりますよね。

信頼をつくるために大事なことは「一貫性」ですから。

会社の都合でさっさとソーシャルマーケティングを止めたら、
まさに「ご都合主義」です。一貫性ゼロです。

メセナやフィランソロピーの時は、ほとんどの企業が
「ご都合主義」を採用しました。
しかし、当時は、あまり問題にならなかった。
消費者にあまり気づかれずに済んだということが大きい。


でも、今は企業活動の可視化が大きく進んでます。

企業に関する情報は以前よりはるかにオープンになり、
各企業が、どんなことをやり、どんなことをやっていないのか、
大半のことが白日のもとに晒されます。

「ソーシャルマーケティング」に限らず、
企業活動には、明確な理念や社会倫理に基づく「一貫性」
がないとダメな時代なんです。


お題目だけの「社会志向」、でも本音は「利益志向」の企業姿勢は
すぐに見破られてしまうことを肝に銘じておく必要がありますね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

ロールバック? ハァ?

お花見の帰り、「西友」に立ち寄りました。
久しぶりです。

自宅から車で10分ほどなので、たまに行ってたんですが、
最近はちょっと足が遠のいていました。


しばらくぶりの店内はあちこち改装され、ずいぶん雰囲気が
変わっていたのですが、いまだに変わってなかったのが、
エレベーターの脇などに貼ってあるチラシでした。

「ロールバック」

と西友のキャッチフレーズが「誇らしげ」に書いてあります。


「ロールバック」

って聞いてなんのことだかわかりますか?

この言葉、3年前位から店内のあちこちで見かけてたんですが、
いまだにピンときません。
(西友ユーザーの方、いかがですか?)

「ロールバック? ハァ? わけわからん!」

って感じじゃないですか。


さて、この言葉の意味は、

「特定商品を長期的に割り引いて販売すること」

らしい。
世界最大のスーパー、米ウォルマートの販売手法です。

ウォルマートは、2003年、業績不振の西友に出資し、
事実上傘下におさめて、経営の建て直しに乗り出したことは
ご存知ですよね。

それで、鳴り物入りで導入した販売手法のひとつが

「ロールバック」

でした。

ですが、大方の予想どおり「失敗」しました。
西友は相変わらず経営不振にあえいでいます。


まあ、西友がふるわない理由はいろいろあるでしょうけど、
日本の消費者にまるで意味不明で、‘メッセージが伝わらない’

「ロールバック」

をいまだに使い続けていることから、
根本的な問題ははっきりしています。

それは、米国流のやり方を日本にそのまま押し付けていること。
外資企業の典型的なやり方。
つまり、外資系企業の失敗の歴史を繰り返していわけですが、
なぜ、ウォルマートの関係者はいまだに気づかないのか?

不思議ですよね。


一方、西友サイドの人たちは、
きっと忸怩たる思いをしてるでしょう。

「ロールバック」

なんて横文字じゃなくて、

「安売り目玉商品」

でいいじゃないですか?

と心の中では思ってるんじゃないかと思います。


そういえば、やはり米ウォルマートと同様、以前は西友に
「グリーター」という役割の人も導入していました。

この人の仕事は、入り口でお客様を迎えること。

会社の受付のようなもの。お店の「顔」となる方で、
にこやかに挨拶しながら来店客を出迎えて、
お店に対する親近感を持ってもらうのが狙いです。


しかし、出入り口が何箇所もある西友のようなGMS(量販店)
じゃ人員配置に無理があります。
挨拶するだけの人を出入り口の数だけ何人も置くのは
コスト高ですから。

以前、グリーターの人が店内放送で、

「グリーターの○○です。何か御用がありましたら、
 お申し付けください」

などと流しているのを聞いて、「なんかかわいそうだなあ」
と感じた覚えがあります。

ひょっとして、いまだに「グリーターさん」はいるのかも
知れませんが。


さてさて、そろそろ、店舗運営の主導権を日本サイドに返して、
日本の消費者の購買行動に合致した店舗オペレーションに
変えていくべきだと思いますが、

どうなんですか、ウォルマートさん?

投稿者 松尾 順 : 15:23 | コメント (2) | トラックバック

早い話が・・・

稀代の名コピーライター、仲畑貴志さんが宣伝会議に連載中の
エッセイを毎回興味深く読んでいます。

最近の中で面白いと思ったエッセイ(宣伝会議2006.2.15)は、

「早い話が」から発想する方法。


これは、早い話が、

“「早い話が」を枕にする発想法は、
        「核心」を捉えることができる”

というものでした。
おっと混乱させてしまいましたか・・・?

では早い話ではなく順を追って内容をご説明します。


広告表現の基本的視点は、仲畑さんが指摘されているように、

「何を言うか」(What to say)
「如何に言うか」(How to say)

の2点です。

ここで、「何を言うか」というのは、
広告対象となる商品のセールスポイント、つまり
「売り」(競合優位性のある特徴)のことですね。

で、「如何に言うか」というのが、
コピーライターの腕の見せ所になるわけですが、
仲畑さんがやっているコピーの発想法は次のようなものです。


原稿用紙の新しいページを開き、その一行目の最初(左端)に、
「早い話が」と書く。そしてそのまま

「早い話が・・・(なんとかなんとか)」

と続けてコピーを書く。

そして、行を改めて、

また「早い話が・・・(なんとかなんとか)」

と繰り返す。(以下同様)


そして、この「早い話がなんとかなんとか」というコピーを
書き連ねていって、これ以上思い浮かばないところで、
左端の「早い話が」と書かれた部分をすべて切り落とす。

その後、残った右側のコピー部分を一行一行吟味していくと、
その中に「核心」をついた捉え方を発見することが
できるのだそうです。


これは、早い話が、

コピーの

「基本コンセプト」

を明確化する方法だと言えます。(私の解釈です)

「基本コンセプト」が核心をついた明快なものであれば、
それに基づいて作成されたコピーもきっと、
ターゲットユーザーの心を鋭く突くものになるでしょうね。


なお、仲畑さんは、この「早い話が」発想法は、

「何を言うか」

を導き出すことにも使えると書いています。


なるほど、確かに。


売り込みにきた営業マンの要領を得ない説明を聞かされると、
思わず、

“早い話が、オタクの商品の「売り」はなんですか?”

と聞きたくなりますからね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

大企業病とはよく言ったもので

仕事で米国自動車業界の調査を時々やることがありますが、
今の米国自動車メーカーはどこも軒並み不振で、好調なところはないですよね。

原因は分析するまでもなく、買いたくなるような車がないこと。

それは、ようするに「製品開発力の低下」であり、

それは、ようするに「顧客ニーズが把握できていない」のであり、

それは、ようするに「顧客志向ではない」のであり、

それは、ようするに「社内志向である」だということ。

「大企業病」なんですよ、端的には。

米自動車メーカーの中で特に不振を極めるのはGMです。
2005年12月期には、約9900億円の赤字を垂れ流してます。

このGMの大企業病が、相当重症であることをうかがわせるエピソードが
ちょっと前の日経産業新聞のコラムに掲載されてました。
(日経記者の体験を書いたものです)


米GMの開発拠点で働く日本人エンジニアに、取材のお礼と記事を
掲載した新聞を国際で送ったところ、

「宛名不完全との理由」

で太平洋を一往復して戻ってきたそうです。

住所や宛名に間違いはなく、GMのメールセンターまでは
届ていました。

しかし、封筒にGMのシールが貼ってあり、

「メールコードがありません」

というところにチェックマークが入っていた。

つまり、社内郵便物の仕分け用のGM独自のコード(9桁の数字)を
この記者は書き忘れていたので差し戻されてきたわけです。

エンジニアの名刺を改めて見ると、確かに9桁のメールコードが
記載されていたそうです。

しかし、住所も部署名も名前も記載されている国際郵便ですよ。
メール係の運用のためのメールコードがないだけで、
平気で受け取りを拒否してきたというわけです。


メールコードは、あくまで社内の業務効率化が目的。

その実現のために、社外の人間(既存顧客や潜在顧客を含む)の
手間を増やしてくれる企業体質には、あきれてしまいますね。

こういう大企業病は、日本企業にも似たようなところがあるでしょうけど、
やはり米国の方が多いようです。


そういえば、マーケティングや組織運営の理論は米国が進んでいると
よく言われます。実際そうですし、だから米国に学べということが
言われてきたわけです。

でも、そもそも米国企業は、GMのような病気をいろいろ抱えているから
必要に迫られて、その治療方法としての各種理論が発展してきたんだ
ということを忘れちゃいけないと思います。

投稿者 松尾 順 : 09:27 | コメント (0) | トラックバック

受付嬢の復活

会社の受付に呼び出し用の内線電話だけが
ポツンと置いてあるのって、なんだかちょっとわびしいですよね。

来訪者がそれほど多くない企業の場合には、
このような対応もやむをえないことでしょう。


ただ最近、来訪者の多い企業では、
無人だった受付に、再び受付職の人を置くオフィスが
増加しているようです。

近年は、性差別的に受け取られる可能性があるのであまり
おおっぴらに書きにくいのですが・・・とあらかじめ予防線を
張りつつ端的に言うと、

「受付嬢の復活」

が見られるということです。(^-^)


これは、コスト削減のため受付職を廃止、効率化を図るよりも、
「会社の顔」として果たす役割、つまり
「企業ブランド」を強化する役割としての受付職を
重視する企業が出てきたことを物語っています。

受付嬢を復活させた企業としては、「効率」よりも、
企業ブランド強化という「効果」を優先した結果でしょう。


企業ブランドにおいて最も大事なことは、

「企業に対する(理屈抜きの)好感、愛着」

をどれだけ消費者が持ってくれているかだと思うんですが、
好感や愛着は、「モノ」よりも「生身の人間」に対しての方が
持ちやすいですよね。

受付職は、その意味で企業ブランド形成に大きな貢献を
してくれるというわけです。
(オフィスに足を運んでくれた方のみに限定される効果
 ですから、地道なブランディング活動ですけど)


いやあ、それにしても

「受付職を置く人件費はかなりの金額になるよねぇ・・・」

と思われる方もいらっしゃるでしょう。

でも、これからは、「人型ロボット受付」の採用も選択肢に入って
きますよ。研究によると、人型ロボットに対して人は十分に
好感や愛着を持つことがわかってますから。

ただし、映画にでてくるような人間そっくりのアンドロイドじゃ
駄目みたいです。

あまりに人間らしすぎるロボットに対しては、
好感を持たれるどころか、逆に「不気味に思わる」
「気持ち悪がられる」ことも判明してます。

このことは、なんとなく理解できますよね。

命を持たないのに、まるで本物のそっくりの外観と振る舞う
ロボットは、人間だけじゃなく、ペットであってもやっぱり
なぜだか気持ち悪い。

高度なCGを活用した最近のテレビゲームには、
多様なヒーロー、ヒロイン、悪者たちが登場しますが、
彼らを見て正直ちょっと不気味に感じてるのは、
あまりにリアルすぎるためでしょうね。


ちなみに、横軸に「ロボットと人間との類似度」、
縦軸に「そのロボットに対する親近感」を取ったグラフをかくと、
類似度が高まったある地点でストンと親近感が下がるそうです。

突然「親近感」が「不気味さ」に入れわるポイントがある
んですね。これを「不気味の谷」と呼ぶそうです。

さて、話が脱線しましたが、

デパートでは、

「エレベータガール復活」

の兆しもあるようです!

投稿者 松尾 順 : 14:03 | コメント (0) | トラックバック

できるだけリアルな「顧客の仮面」をかぶる方法

「お客様のために」

じゃだめだ、

「お客様の立場で」

考えろ!


と言うのは、確かIYグループ会長の鈴木敏文氏でしたね。


確かに

「お客様のために」

というのは、一見正しい考え方のようですが、
現実には、サービス提供者側の一人よがりに終わることが
多いかもしれません。

お客としては、

「そんな無意味なサービスより安くしろ」

と言いたくなる過剰サービスなどがそうでしょう。
嫌われるだけの結果に終わる押し売りコールもそうですね。


でも、「お客様の立場」になるというのはまこと難しい。

自分が何か買う段になる時には、ごく自然に「お客様」になれるのに、
いったん企業側担当者の立場に身を置くと、
とたんに顧客心理がわからなくなるのは不思議ですよね。


そんなあなたにお勧めしたいのが「ペルソナ法」です。

「ペルソナ法」では、まず、

自社の商品・サービスを使ってくれそうな、あるいは
使って欲しい「典型的な顧客像」をできるだけ具体的に想定します。

つまり、その顧客の名前(海田山男とか)、性別、年齢はもちろん、
職業、住居、年収、家族構成、趣味、レジャー、スポーツ、
ファッション、購読雑誌、結婚観などなど。


あくまでバーチャルな存在ではあるのですが、
あたかも実在の人物であるかのように
できるだけ詳しく書き出します。

そして、この「海田山男さん」は、自社の商品・サービス
に対してどんなことを言いそうか、どんな使い方をしそうか、
考えてみます。


通常、ターゲットの設定は、「20-30代の男性」といった
粗い決め方で走ってしまうことが多いですよね。
でも、こんな粗いターゲット設定だから、
なかなか顧客の立場に立てない。

「ペルソナ法」のアプローチだと、
詳細なプロフィールを設定する段階で、いわば自分が、
「顧客の仮面」をかぶったように感じるところがポイントです。
(ペルソナとは元々「仮面」という意味があります)

本当の意味で、顧客の立場に自分を置いて考えることが
できるわけです。


このペルソナ法、まだあまり知られた手法ではありませんが、
大手企業ではかなり採用されつつあります。

最近だと、日本IBMさんのホームページ作成ソフト
「ホームページビルダー」の最新バージョンの開発に当たって、

“実際には存在しない仮想ユーザー『ペルソナ』を5人ほど
設定し、その人たちが使いやすい設計とは何かを徹底して
考えた”(山崎和彦氏、ユーザーエクスペリエンスデザイン
センター マネジャー)

そうです。


できるだけリアルに「顧客の仮面」をかぶる方法、
それが「ペルソナ法」です。

投稿者 松尾 順 : 00:26 | コメント (3) | トラックバック

人を和ませる天才に満ちた国

最近、日本人のモノの見方・考え方や行動、その背景にある
風土、文化、伝統のすばらしさを讃える人が目立ちます。

マインドリーディングでも何度か触れましたが、例えば、
「国家の品格」を書いたお茶の水女子大教授、藤原正彦氏や、
元財務官で現慶応大学教授、榊原英資氏などです。


さて、もう一人、強力な日本人礼賛論を展開するのは、
ハリウッドで映画プロデューサーとして活躍してきた
マックス桐島氏。

マックス氏は、高校生時代に日本を離れ、
以降30数年を米国で暮らしてきた方です。


彼は日経アソシエ最新号(2006.03.21)で次のように
語っています。(一部抜粋、編集)

“外国人観光客が絶賛するのは、六本木や新宿界隈の
ナイトライフではない。実は、空港やホテルのロビーを
一心不乱に清掃する中年の清掃作業員、交番で丁寧に
道案内する巡査、デパートやレストランで小まめに
接客する店員らの「最善の心で接する」姿勢なのだ”

“初めてのレストランに足を踏み入れること自体が
ギャンブルであるアメリカと違い、
駅前の食堂でも丁寧な味わいが楽しめる日本は、
まさに人を和ませる天才に満ちた国。”

“日本の魅力、そして日本人の魅力とは、もてなし、
親切、思いやりという行動を通じて「和」を極め、
周囲に心の安らぎを提供できること。
そして、相手の心情を考慮した和みの空間を
自然に演出できるところにある気がする”


米国のことは表も裏も知り尽くし、日本を客観的に
眺めることのできるマック氏は、ずばり、
日本人の強みを再認識させてくれていますよね。


ただ、こうした日本の魅力が、
近年、徐々に失われてきていることは否めません。

その最大の原因は、短期的業績と効率化を重視する
「グローバルスタンダード」というルールに
日本人が合わせようとしてきたから。


「グローバルスタンダード」は、
要するに米国型ルールであり、そのルールに
従うということは米国の土俵で勝負すること。
そこで勝つのはなかなかに難しい。

ただ、今のグローバルスタンダードが
生み出す世界は決して理想的なものではありません。
人間性があまりにも欠けている。

おそらく、今後、新たなグローバルスタンダードが
求められるようになってきます。

ですから、私たちは日本人としての誇りを持ち、
マックス桐島氏が指摘する私たちの魅力、強みが
発揮できるルールを生み出し、それを世界に浸透させる
という方向に発想転換すべきじゃないでしょうか。


ちょっと演説調になっちゃいましたが・・・、
国であれ、民族であれ、会社であれ、個人であれ、
「自分たちらしさ」は大切にすべきだし、
簡単に捨ててはいけないものなのです。

投稿者 松尾 順 : 16:17 | コメント (0) | トラックバック

ケガの功名広告

「ナショナルでは古い年式のFF式石油暖房機を探しています。
万一の場合、死亡事故に至る恐れがあります。」

年末に放映されたコマーシャル、おぼえてらっしゃいますよね。

動きのない画面、感情を抑えた女性のナレーターの声が、
大変に‘印象的’でした。


普通のコマーシャルでは絶対に使わない「死亡事故」という言葉。
ちょっとおどろおどろしいナレーションは、
意図せざるものとはいえ、「怖い」という声も上がっていました。

他のコマーシャルとあまりにも異質な存在なので、
思わず、耳をそばだててしまいましたよね。


この告知広告、合計で1万6500回以上繰り返し流されました。
ひたすら低姿勢にお詫びと協力をお願いする姿勢を伝えることが
狙いです。

FF式石油暖房機による死亡事件発生に対する初動の対応がまずく、
松下電器さんに対する批判が高まったための緊急措置でした。


ところが、CM総合研究所の調査によると、
昨年12月では、上記告知広告の到達度(どれだけ見られたか)は
1位、好感度で2位という結果。

消費者の声としては「企業姿勢にウソがない」というコメントが
圧倒的に多かったそうです。

お詫びと協力を依頼する本来はマイナスの広告が、
企業ブランドイメージの中核をなす「信頼性」や「誠実さ」を
高めることに寄与したわけです。


おかげで、松下さんの2005年10~12月の業績は
増収増益。営業利益にいたっては、前年同期比47%の伸びです。

このところ、プラズマテレビなどの競争力のある商品が
相次いで発売されていたことも業績好調の背景にあるでしょう。

しかし、個別製品のプロモーションを一切ストップ、
事故対応の告知コマーシャルに切り替えるいさぎよい姿勢が、
消費者の支持を得ることにつながりました。

まさに、「ケガの功名」ですね。


昔、ジョンソン&ジョンソンが、
頭痛薬の「タイレノール」への毒物混入事件への対応として、
一斉に在庫を回収したというケースがあります。
かかった費用は1億ドルと言われています。

これは、企業の真摯な姿勢を見せることに成功した
企業危機管理の典型的事例としてよく取り上げられますが、
今回の松下さんの対応も、今後、
成功事例として語り継がれていくことになるでしょうね。


*日経ビジネス(2006年2月13日号)の記事を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 05:31 | コメント (3) | トラックバック

持ち上げといて落とさないで

昨年のことです。
某専門誌主催のセミナーに申し込みました。

すると、数日後に

「今回のセミナー参加料は結構(不要)です」

とのメールが送られてきました。

なぜ、私だけに・・・??

ちょっといぶかしく思いましたが、
長年読んでる愛読者だからかな、とか自分に都合のいい解釈をして
「ラッキー!」と思いながら、そのまま当日会場に行きました。

ところが受付では、何事もなかったかのように、
参加料を払わされました。

確認すると、メールの送信先ミス。
別の方に送るつもりのメールを私に送ってしまっていたようです。

参加費は3千円程度でしたから、まあいいかと思ってます。
でも、持ち上げといてがっかりさせられた時の気持ちは
いまだに忘れられません。
(先方からは、後日お詫び状と共にQUOカードを送ってきました)


さて、同じようなミスを大規模にやってしまいました。

日本航空さんです。

先週4日、関西地区限定で実施していたプレゼントキャンペーンで、
応募者全員を含む22,673名に「当選メール」
を送信してしまいました。

本来は補欠当選者1名に送るはずだったメールでした。
担当者の操作ミスです。

当選賞品は何かは公表されてませんが、
高級宿泊券か有名レストランの食事券のようです。
最低でも1万円以上の価値があるものでしょう。

JALさんはすぐに間違いに気づいて、
すぐに訂正メール、お詫びメールを送ったそうですが、
応募者は全員、JAL便に2回以上搭乗したお客さんです。

自分がJALのユーザーであるという意識があるだけに、
当選メールを受け取って大喜びした後で、

「当選は間違いでした」

というメールを受け取った時の落胆と怒りは
私の小さなトラブルの何倍も大きいでしょうね。

大きく持ち上げられて、がんと落とされた感じ。

しかし、実損をしたわけではないので、
一部の過激な人を除いては、怒りをまともにJALさんに
ぶつけるのはなかなかできないと思います。

結局、不愉快な思いがJALの名前とともに刻み込まれて
しまうことになるのです。

その不愉快な感情は、今後航空便の予約をするたびに
思い出され、おそらくJAL便を意識的、あるいは無意識的
に避けることにつながることになるでしょうね。


そんなブランドイメージの危機的な事態を改善するために
JALさんが、今後、どのような顧客フォローをされるのか
とても興味があります。

JALさんのプレスリリースを見ると、
お詫びの文章だけで、詳細がまったく記述されていません。
事件をいたずらに大きくしたくないという気持ちが
感じられますです・・・。


*日本航空グループ関西地区限定キャンペーンにおける
 当選メールの誤送信につきまして

http://www.jal.co.jp/other/info2006_0204.html


ビジネス・生活を便利にさせてくれるITやインターネットは、
一歩使い方を誤ると、大変な損害につながるんですよね。

ホント、注意しないと!

投稿者 松尾 順 : 11:29 | コメント (0) | トラックバック

社長は会社の顔じゃなかったの?

直近のダメダメ社長の話。

不正改造で摘発された大手ホテルチェーン、
東横インの西田社長の記者会見の言動、ひどいですね。

まるで反省の色なし。

建築後に、1階の駐車場をつぶしてロビーを広げたり、
障害者用の客室を会議室に改造したりすることが条例違法
であることは知っていた。

しかし、そもそも、身障者はあまりホテルを使わないとか、
どこもやっていることだとか、開き直り発言。


“時速60キロ制限の道を67~68キロで走っても
まあいいかと思っていたのは事実。”

という言葉にはびっくりしますね。

「すみません」とあっさり非を認めたのは良かったのですが、
その後の人徳を感じさせない態度と言い訳を聞くと、

西田氏の

「コミュニケーションベタ」

ぶりにあきれますね。


収益を上げることに執着してきたはずの西田氏は、
あの自分の発言だけで

どれだけの顧客を失うことになるのか
どれだけの売上げを失うことになるのか

わからなかったんでしょうか。

元雪印社長の「ぼくは寝ていないんだ」発言から、
西田社長は何も学ばなかったんでしょうか。


いまさら指摘するまでもなく、社長は会社の顔であり、
もっと端的に言えば、「会社」そのものですよね。

社会的には、社長がどんな人間かで会社の良し悪しが
判断されてしまう。

内部にいる社員にとっても、
社長の考え方、行動が最大のよりどころ(行動指針)です。


東横インは、地元の主婦を支配人に任命し、
従業員もほぼ全員が女性。
女性ならではの細やかなサービスで高いリピート率を
誇るホテルです。

今回の西田氏の発言を聞いた社員の皆さんたちの
がっかりする顔が目に浮かぶようです。


おそらく、東横インのロイヤルなお客さんたちは、
支配人や従業員の方々との個人的なつながりを
感じているでしょうから、経営危機につながるような
大幅な客離れは避けられるかもしれません。

しかし、新規利用客は確実に減るでしょうし、
現場の社員さんたちのモラールダウンがサービス低下に
つながる可能性は高いでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 11:55 | コメント (2) | トラックバック

自動ドアを廃止して得られるもの?

高級ホテルに行くと、ドアマンがエントランスのドアを
うやうやしく開けてくれますよね。

あれはなんだかいい気分です。(^-^)

偉くもない自分が偉くなったような、一種の優越感。
実にいい。

しかし、

「ドアマンの費用対効果はどうなんだろ?」

などど野暮なことを考え出したら、夜も眠れなくなるでしょう。


ドアマンはホテルの顔であり、お客さまの第一印象を形成する
最も重要な役割を果たしているのは確かです。

ただその効果を定量的には図れませんね。

したがって、「ドアマンは収益に間違いなく貢献する」
という経営者の「信念」が、彼らの存在を支えているのです。


さて、訪問営業をしない高収益ディーラーとして有名な
「ホンダクリオ新神奈川」では、同社のショールームから
自動ドアを撤去しました。

手で開けるドアに戻したのです。
効率優先の自動化時代に逆行してますね。

改装費用は1店200万円以上。
自動ドアの減価償却が終わっていない店舗もありました。

私は自宅が千葉・松戸ですので、同社店舗に行く機会は
ないのですが、おそらく、お客さんが来店すると、
お店のスタッフがすぐにドアを開けて出迎えるのでしょう。

帰り際も当然、ドアを開けてお見送りします。
すると、お客さんも

「ありがとう」

と声をかけてくれるそうです。


自動ドアをなくす改装費用は高額でしたが、
お客さんの大切にされたいという気持ち、つまり「自己尊重感」
をくすぐり、優越感を与えているだけでなく、
ドアを開けるだけで、「借り」(恩)まで作らせています。

ただドアを開けてあげるだけのさりげないことですが、
あからさまに恩を売るより、はるかに無意識に溶け込むでしょう。

そして後になって、なぜだかわからないけれど、
「あの店で車買ってあげなきゃ悪いなあ」という気持ちに
お客さんはなっているでしょうね。


この時代に逆行する投資がどれだけのリターンを生み出すのか、
定量的な評価は無理でしょう。しかし、同社の相沢賢二会長は、
確実にペイするという「信念」を持っているに違いありません。
相沢氏は、人の心理がよくわかっているマインドリーダーの
マスターと言えるんじゃないでしょうか。


似た事例としてこんなのがあります。

都内観光の「はとバス」では、
バスの座席を5cmだけ高くする改装を1台あたり約200万円
かけて行っています。

これは、たとえ5cmでも高いところから周囲を見下ろすことが、
お客さんに心地よい優越感を与えるからという判断です。

これも、やはり経営者の「信念」によって行われていること。


経営者は、優れたマインドリーダーであり、かつ信念を持って
たとえ検証が難しくても、必要な投資を行う胆力が
必要なんだと思います。

*ホンダクリオ新神奈川の事例は日経産業新聞(2006.01.13)より

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

なぜ、人はブログを書くのか?

マインドリーディングのブログを開始する前は、
楽天日記で個人的な内容のブログを書いていました。

でも実は、楽天日記を書いている時は若干の迷いがありました。

それは、私的なできごとや思いをまさに「日記」として書き、
それを公衆の目にさらしてしまうということって、
一体、何なんだろう?という疑問が頭から離れなかったからです。

しかし、最近、これに対する答えのようなものが見えてきました。

私が私淑する編集者、村松恒平氏は、
人が文章を書く動機を次のように述べています。

「自分が何者か知りたい」
「自分が何者であるか証明したい」
「他人に自分のことを理解してもらいたい」

この村松氏の考えに基づけば、ブログはまさにうってつけの
ツールであることが確かですね。

端的に言えば、ブログは、自分らしさ(=アイデンティティ)に
対する理解を深めることができるということです。

人は、頭の中で漠然として考えていることを言葉にすることに
よって、「自分が何者か」を明確に知ることができます。

自分に対する正確で客観的な知識を心理学では、
「私的自己意識」と呼びますが、
従来の紙の日記は、私的自己意識を深める「自己探求」のツール
として有効でした。

しかし、自分で書いて、自分だけのものとしておくだけでは
自分らしさに対する理解を深めるには不十分なのです。

周囲の人間に「自己開示」を行い、理解してもらうこと、
さらに、フィードバックをもらって、相手が自分をどのように
見ているかを知る必要があります。

この、相手が自分をどのように見ているかについての知識を
「公的自己意識」と呼びます。

人は、この2つの意識「私的自己意識」「公的自己意識」
の両方を深めていくことにより、内面的、外面的に整合
の取れた「自分らしさ」を発見していくのです。

ブログは、個人的内容を書くことにより、私的自己意識を
深めることができると同時に、その内容に対して、

「君がそんな柔軟な考えを持っていたとは知らなかった。
 僕は、君はもっと強情だと思っていたよ・・・」

といったコメントをもらうことによって、相手が自分を
どう見ている、感じているか、という「公的自己意識」
をも深めることができます。

こうしたことは、ブログ登場まではなかなかできなかったのです。

したがって、これからもブログを書く人はますます増加していく
ということは間違いないでしょう。

投稿者 松尾 順 : 06:03 | コメント (2) | トラックバック

塩素入り温泉

年に数回、南房総に旅行に行きますが、その際、
通り道からちょっと脇にそれるだけなのでよく立ち寄るのが、
養老渓谷の温泉です。

温泉宿は10軒ほどあり、日帰り入浴で600円~1000円位でしょうか。

先日も、新しくできたばかりの温泉専用施設に行きました。
新しくてきれい。白木の木造にこだわった、なかなか風情のある施設でした。

さて、お風呂から出て体を拭いていて、
脱衣場の壁の「温泉の効能表」にふと目が留まりました。

あの白骨温泉の入浴剤事件以来でしょう、
効能表の表記が非常に詳細になっています。
たとえば、加温しているかどうか、加水しているかどうか、
かけ流しか、それとも循環かどうかなど・・・。

その温泉は、加温、加水なし、循環型。
かけ流しでなかったのはちょっと残念でした・・・

気になったのが、衛生管理のため、

「塩素」

を加えてあると書いてあったことです。

「塩素」といえば、いわゆる消毒剤として、
水道やプールには必ず入っていますよね。

もちろん、体には良くない薬剤ですから、
家庭では浄水器で除去するのが普通になってきています。
あるいは、食用にはミネラルウォーターを購入する。
塩素を除去するシャワーヘッドもあります。

しかし、温泉に塩素が入っているというのは
通常行われていることなんでしょうか。

まあ、私たちは、塩素が入っているということを知りつつ、
水道水を利用しているわけで、たいしたことじゃあないとは
思えるのですが、なんだかちょっと幻滅しますね。

「塩素入り温泉」なんて。

なんにせよ、情報公開は必要だとは思いますが、
こうした情報は、知りたいけれど、あまり知りたくなかった
情報のひとつでしょう。

投稿者 松尾 順 : 14:38 | コメント (0) | トラックバック

年賀状か年賀メールか

個人宛の年賀状は、
いつもお正月になってからたらたら書いています。

一方、会社名義で出す年賀状は、
枚数も多いので早めに準備していましたが、今年はやめました。

手間とお金がかかるわりに、やはり形式的過ぎて気持ちが
伝わらないと思ったんです。

文面は印刷せざるを得ないというのが、
気持ちが伝わらない最大の理由。

末尾に手書きでの一言を必ず添えていましたけれど、
それも、「今年もよろしくお願いします」みたいな決まり文句に
なってしまうんですよね。

それだったら、お金をかけずに手間だけかけて、年賀メールを
個別に出すというのがいいと思いました。
まあ、文面を完全に個別にはできませんけれどね。

ただ、個人宛のメールは、まだまだ年賀状ですね。
手間と金を使うことに意味がありますから。

すでに亡くなった私の祖父は小学校の校長先生だったせいか、
年賀状も千枚とか出してましたが、
すべて毛筆で、宛名も文面も書いていました。
それこそ、1週間くらい時間がかかってましたね。

私なんかはとてもそこまでの手間はかけられないですが、
個と個のつながりを維持するために大切なことはちゃんと
やらないとねと思って年賀状書いています。
(だったら、もっと早く出せよ、という、もう一人の自分の声が
聞こえてくるんですけどね・・・)

投稿者 松尾 順 : 10:24 | コメント (0) | トラックバック

話さないと声が出なくなる?

友人から聞いたんですが。

一人ぐらしの70、80歳代のご老人たちがスペイン語の勉強とかしていて、
特に海外に行く気もないし、学んだことを使う機会はまずないのに
熱心に勉強しているのはなぜかと本人に尋ねたら、

家の中にじっとこもっているだけだと、何日もまったくしゃべることがない。
そうすると声が出なくなるらしいんですね。

声帯の使い方を忘れてしまうんでしょうかね。

しかも、単に声が出ないというだけじゃなくて、
頭もだんだん使わなくなって、ぼけてしまうのがいやなようです。

これから本格的な高齢社会が到来しますが、
これからのお年寄りは全般的にみたら、とても健康で活動的。

激しい運動はできなくなるとか、多少の身体機能の低下はあるにせよ、
老人向けの様々な補助器具とかより、
人とふれあい、言葉を交わすことのできる機会を提供するサービスの方が
ニーズ高そうですね。

投稿者 松尾 順 : 12:02 | コメント (1) | トラックバック

旧型の魅力を高めるための新型

今年の夏、バカ売れしたデジタルカメラは6月4日発売の

「ルミックスDMC-FX8」(松下電器産業)

でした。
解像度は500万画素。手ブレ補正機能が売りです。

同製品は、6月、7月は機種別シェア首位を取り、
8月も同2位と、その強さを維持しました。

さて、松下さんは、8月26日に後継機種「FX-9」を投入します。
画素数は600万画素、液晶画面のきめ細かさが2倍になりました。

通常、デジカメの新型が投入されると、旧機種の価格があっと
いう間に下がり、在庫処分されて生産中止になるところです。

ところが、旧機種「FX-8」は、女性ユーザーの支持を受け、
「FX-9」投入後もほとんど値崩れせず、売れ続けました。

日経ビジネス(2005年12月19日号)の特集記事では、
これは、周到に仕組まれた戦略であったことを紹介しています。

松下さんの戦略のポイントは次の3つです。

1 旧機種(FX-8)と新機種(FX-9)のデザインをほとんど変えず、
  旧機種を持つことの恥ずかしさを感じさせないようにした

2 旧機種だけに、女性が好むマニキュアの色に近い、
  「ミスティピンク」のボディカラーを設定した

3 旧機種の方が5千円安くなるよう、新機種FX9の価格を
  設定した(価格に敏感な女性を意識)
  

実に的確に購買心理を読んでいると思います。

おそらく、小売店の店頭で、FX-8とFX-9を比較してみた女性は
こう考えたに違いありません。

「FX-9の方が新しいけど、ほとんど性能は変わらないし、
 デザインも大きく変わってない。だったら5千円安い
 FX-8でいいよねぇ。ミスティピンクはFX-8しか選べないし」

こうして、松下さんの狙い通りFX-8は売れ続けました。

つまり、FX-9は、FX-9の新規ユーザー層を拡大し、売れ行きを
維持するために、意図的に投入された釣り玉、別の言い方を
すれば、「見せ筋」であったわけです。

レストランなどでも、最も売りたい価格帯のメニューより
ワンランク高いメニューを掲載することで、相対的に安く
思わせるという心理的効果を狙いますが、
松下さんの価格戦略もそうした効果を狙ったものですね。

機種選択におけるデザインの重要性も十分に考慮されています。

デジカメは、既にどの製品も性能的には大差のない成熟商品です。

機能が優れているだけで買ってくれるお客さんは
ほとんどいなくなりました。
しかも、機能の良し悪しを判断できる知識を持たない
一般ユーザーに購入層が広がっています。

デジカメに限らないのですが、松下さんのような、
人間心理の機微を読みきったマーケティング戦略が
ほんとに重要になってきたと思います。

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (0) | トラックバック

客に勧めないカレー

いつもバンド練習をしている都立大学のスタジオのそばにインドカレー屋さんが
あります。

先日そこで、メニューの中で一番辛いと書いてあるビンダール
とかいう名前のカレーを注文しようとしたら、

お店の人が

「止めといた方がいいですよ」

という。

よけいなお世話だと思いましたが、聞くと

「いつもお止めしているんですよ」

だそうで。

メニューに載せときながら、客に食べさせないとは何事だと思い、
店の人の強い制止を振り切って注文しました。


やっぱ、止めときゃ良かったです。(笑)

口に入れた一瞬は、「へっ、この程度か」と思うまもなく、
強烈な辛さが脳天を直撃。

結局、半分しか食べられませんでした。
幸い、おなかをこわしたりはしませんでしたが。

ただ、翌日トイレに行った後、お尻が火を噴いていました。
ホントに。

投稿者 松尾 順 : 10:03 | コメント (0) | トラックバック

相手を楽しませるコミュニケーションのコツ

昨晩参加した、「コミュニケーション集中治療室」の
出版記念パーティは大盛況。
数百人の来場者で会場があふれんばかりでした。

ゲストとして最初に登場したのは、中谷彰宏さん。

5分程度の短いスピーチでしたが、有名人の登場で、
会場は盛り上がりました。

中谷さんに続いて、主役のDr.はるかこと、須子はるかさん、
ナース香織こと、松村香織さんを含むパネルディスカッション。

パネラーの一人は、香取貴信さんという、元ディズニーランド
のキャストで次の2冊のベストセラーを書いた方です。

「社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった」
―そうか、「働くこと」「教えること」「本当のサービス」って
こういうことなんだ! (KOU BUSINESS)

社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった
〈2〉熱い気持ち編(KOU BUSINESS)

どちらもディズニーランドのサービスの真髄がわかる本で
最高に面白い。私だけでなく、家族みんなが大好きな本です。

著者の香取さんの話を聞いたのは初めてでしたが、
さすがに面白い本を書くだけあって話も楽しかったです。

それで、香取さんの話の中で、これはぜひ紹介したいというものが
あったのですが、それは明日に回します。すいません。(笑)

今回は、パーティの主役の須子さん、松村さんが
パネルディスカッションで話してくれた、
相手を楽しませるコミュニケーションのコツについてご紹介します。

須子さんのコツは、「自分が楽しむことを心がけている」と明確。
相手を楽しませるためには、自分が楽しむことが先決だという
ことなんですね。

おお、須子さんも、私が先日書いた「心は共鳴させるもの」と
同じ考えだったのだとわかり、うれしかったです。

須子さんはいつも元気いっぱいですが、生来、明るいキャラクター
であるだけでなく、相手をわくわくさせるために、まず自分が
わくわくしようと意識しているんでしょうね。

だから、

女医&ナースのコスプレによるコミュニケーションセミナー
「コミュニケーション集中治療室(ER)」

みたいな楽しい企画が、次々と生まれてくるんだと
改めて納得しました。

一方、松村さんのコツは、相手が好きなこと、関心があることを
どんどん話してもらうよう仕向けること。

誰だって、自分が好きなこと、関心のあることを話していれば
気持ちいい。楽しい気分になりますからね。

なるほど、わざわざ何か面白いことを言って相手を笑わせようとか
考えなくてもいいんだなあ。

相手が自分で話して、気分が良くなる話題が自然と出てくるように
こちらは聞き役に徹すればいいんです。

コーチングでいう「傾聴のスキル」を使うんですね。

投稿者 松尾 順 : 05:58 | コメント (2) | トラックバック

キャラ立ち娘

日経エンタテイメントが発表した2005年のエンタテイメント分野
の人気者ランキング1位は、「恋のマイアヒ」。

2位「レイザーラモンHG」、3位「電車男」。

日経の分析によれば、上位3つに共通するのは漫画のような
キャラクター性だそうです。

マイアヒの場合、ノマ猫の空耳アニメが面白かったのが、
大ヒットした理由ですし、ラモンの腰を振る様子は
まるで人形のよう。アキバ系の電車男のキャラクターも
漫画チックですね。

最近は、これまで以上に「キャラが立っていること」
が、人気者になる条件になってきてます。

意表をつく個性というんでしょうか。

その意味で、今年のビジネス界の「キャラ立ち娘」と、
私が命名したいのは、先週、

「コミュニケーション集中治療室」(東洋経済新報社)

を出版した、ジャストレード(株)
の須子はるかさんと、松村香織さん。

コーチングをベースとしたコミュニケーションセミナーを
なんと、`ドクター&ナース’のコスプレで講師を務める二人です。

コミュニケーション上で抱える問題を病気と見立て、
この二人が治療してあげます、というのが売り。
よく練り上げられたビジネスセミナーにこのような漫画的面白さを
取り入れたのは素晴らしいアイディアですよね。

このセミナーが始まったのは昨年のことですが、
本が出版されるほどの人気を博したというわけです。

私も、「こりゃ、面白そう!」と思って、一番最初の頃に
受診、治療を受けました。効果ありましたよ。(笑)

コミュニケーションに関わる病気のネーニングも秀逸です。

・伝えたつもりがひとりよがり病
・オレオレ症候群
・会話マンネリ化ウイルス
・ネガティブな思い込みシンドローム
・自己主張不全症候群

などなど。
誰もがみんな、思い当たる症状ばかりです。

実は、須子さんとは5年ほど前からの友人。
当時から元気いっぱいでしたが、会社を設立してからの
アイディア発想力、実行力、バイタリティは、
半端じゃありません。

まだ20代後半ですが、すでに大器の片鱗が。
ブログもやたら楽しい。(眞鍋かおりより面白いと思う)
「夢を実現させる起業日記」

というわけで、キャラ立ちまくりの須子さんと松村さんの
今後の大化けが楽しみです。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (2)

えくぼりんご

ひょうが降ると、りんごに傷がついて売り物にならなくなる。
でも、大きくなる前に傷ついたりんごを取ってしまうと、
栄養分が幹に滞留し、翌年りんごが育たないそうです。

農家の方にとっては、売れないとわかっているりんごを
育てるのはとてもつらいことでしょうね。

ひょうで傷ついたところは、りんご自身がその傷跡を修復
しようとする働きで、えくぼのようになるみたいです。

しかも、そのえくぼのところほどおいしいらしい。

最近は、生協で買ったりんごを毎日のように食べてるんですが、
生協を通じて販売すれば、買う人は多いと思うんですけどね。

現代の流通システムは複雑すぎて、たとえ生協でも
えくぼりんごのような規格外品はなかなか乗せられないんでしょう。

どうにかならないもんでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 22:48 | コメント (4) | トラックバック

カレーのおいしいカレー屋

夕方、仕事の都合で池袋に立ち寄りました。

お腹が空いたので、何か食べようと東口を出ました。
池袋は、学生時代にずっとバイトしていた場所なのですが、
最近はめったに行きません。

あてもなく食べるところを探していたら、

「カレーがおいしい店」

という看板が目に入りました。

見ると、カウンター10席ほどのカレー屋。
おばさん2人が営業している何の変哲もないお店です。
立ち食いそばとほとんど同じレベル。

「やみつきになる味」というチラシも貼ってあります。
つい、ふらふらとその文句に誘われるようにその店
に入りました。

確かにそこそこおいしいけれど、やみつきになる
ほどではない味のカレーを食べながらふと考えました。

「カレーがおいしい」と自ら謳うカレー屋さんてすごい。
カレーしかおいてないカレー専門店で、カレーがおいしく
なかったらどうするの・・・

常識を打ち破る宣伝文句ですね。
普通は矛盾を感じるし、恥ずかしくて書けない。

でも、言ったもん勝ち。

不思議なことに、たとえ売らんがための単なる宣伝文句でも、
厚顔にも、「おいしいよ」「やみつきになるよ」と
言われてしまうと、信用したくなってしまうものなんですね。

このお店、昼間の暇な時間、つまりアイドルタイムには
100円のキャッシュバッククーポン(次回使える)を
渡していたり、紙のメンバーカード(ポイント制)を発行
しているなど、実は、かなりのマーケティング巧者です。

チェーン店とかではなさそうなのに、
しっかり考えて経営しているんだなあ。

投稿者 松尾 順 : 10:11 | コメント (0) | トラックバック

電話かEメールか、それが問題だ!


最近、WEBサイト構築の仕事で、アートディレクターの方と
電話やメールで一日に何十回と連絡を取り合った時、
そのアートディレクターからこんなことを言われました。

「松尾さんは、Eメールでは冷静だけど、電話では感情的になるね。
 逆に、私は、電話で冷静だけど、Eメールでは感情的になる。」

確かに、このアートディレクターさんのEメールは、
たまに「おいおい!」と言いたくなるほど文面がきつい。(笑)
ところが、電話では、私のなだめ役に回っている!
(ちょっと愚痴りたくなる、大変な仕事だったのです・・・)

考えてみれば、日常のコミュニケーションで、話し言葉と
書き言葉をこれほど頻繁に併用するようになったのは、
Eメール登場以降です。

以前の書き言葉は、手紙、ハガキだったわけですが、
私のような悪筆や、面倒くさがりやには使いこなせない
メディアでした。

ですから、普段のコミュニケーションは、直接会って話すか、
電話の話言葉で済ませていたわけです。
(私に限らず、大半の人がそうだったでしょう・・・)

さて、話し言葉、書き言葉という表現方法の違いによって、
気持ちの伝わり方が異なってくる点は、いまさら指摘するまでも
ないことですね。

したがって、気持ち(感情)の伝わり方がどう異なるかを
きちんと理解しておくことは、お客さまとの良好な関係を
維持するためには、必須と言えるのではないでしょうか。

最近は、コールセンター(いわゆる「お客様相談室」)は、
電話、FAX、Eメールを統合して扱うようになっています。

お客様とのやりとりを行うオペレーターには、
お客様の問い合わせ内容や性格などを的確に読み取って、
電話で連絡するのか、それともEメールで返信すべきか、
柔軟に使い分けるスキルが必要というわけです。

おそらく、熟練のオペレーターなら、
こうしたスキルを暗黙知として習得しているのでしょうけど、
新人オペレーターの教育のために、きちんしたノウハウとして
伝えているところはまだあまりないようです。

よく、最近の若手社員は、隣席の社員とまでメールで
やりとりしてるとか、休暇届けをメールで送りつけてくる
とかで憤慨した、みたいな話を聞きます。

しかし、社内のコミュニケーションの問題を云々している場合
じゃなくて、お客さんとのコミュニケーションにおいて、
自分や、自社社員が電話やメールなどをうまく使い分けているか、
確認した方がいいんじゃないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 08:27 | コメント (4) | トラックバック

メールをやるのは無駄な時間・・・?

たまにマスコミで、

「ビジネスパーソンがメールに費やす時間は1日何時間で、
年間XX時間が‘ムダ’になっている」

みたいなう調査結果が報告されますね。

また、記者の取材を受けた人が、

“私には、毎日100通以上のメールが届くので、それを処理するだけで
半日かかってしまうんですよ”

みたいなコメントをしていたりします。

私は、上記のような調査結果やコメントを読んで、
メールがまるで「ムダ」なものであるかのようにみなしている表現に
いつも疑問を感じていました。

遊びの相談とかのメールばかりやっているのならともかく、
仕事では、電話連絡の代わりにメールを使う頻度が増えている
わけです。

電話では、相手が捕まらなくても、メールならとりあえず送って
おいて、返事を待つことができる。お互いに非常に便利になった
のに、ムダと言うのはなぜなんですかね?

ただ、先日、キーボードを打つのが遅いのでメールは苦手だ
という人の話を直接聞いて(苦手な人がいることは知っていましたが)、

そうか、確かにキーボードが苦手な人は、電話で要件を済ませていた
頃に比べて何倍も時間がかかるんだなと納得しました。
たとえ、自分からは電話で済ませられても、先方から来たメールには、
基本メールで返信しないといけないですからね。

また、あまり文字を読むのが早くない人にとっても、
メールは時間を大変食うものみたいです。

そうすると、自分の情報処理能力の限界が原因で、
確かにムダになってしまう時間が出てくることになります。

メールに加えて、ブログもますます盛んになってきましたが、
以前よりもはるかに「文字文化」が浸透してきたということを
意味しています。つまり、文字文化に得意でないと、なかなか
に社会生活がつらいということを意味します。

小中学生の頃から、タッチタイピングや速読の練習を
必須にすることが、これからは必要ではないかと思いませんか。

投稿者 松尾 順 : 07:08 | コメント (0) | トラックバック

検索&共有

ネット時代の消費者の新しい商品購買プロセスモデルとして、
電通さんは「AISAS(アイサス)」を提唱しています。

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A Attention 注意喚起

I Interest 興味

S Search 検索・評価チェック

A Action 購入

S Share 意見・情報の共有
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従来の商品購買プロセスとしてよく知られているのは
「AIDMA(アイドマ)」ですね。

「AISAS」が、ネット以前のプロセスモデル「AIDMA」と
大きく異なる点は次の2点です。

・ネットを活用して、入念な「検索・評価チェック」を
 行う消費者行動が重要なプロセスとして加えられた。

・商品・サービス購入後、実際に利用してみての体験や
 感想、評価をブログなどを通じて積極的に公開する
 プロセスが加えられた。

消費者はネット以前にも、情報収集を行い比較検討・評価を
行ってきたわけですが、インターネットは消費者の情報処理
能力を飛躍的に高めましたよね。

また、カカクコムやECナビ、@コスメなど、
商品の比較検討が簡単にできてしまうネット上のサービスが、
消費者の検索、評価力をさらに強化しています。

「AIDMA」に含まれていたD(Desire:欲求)と
M{Memory:記憶)のプロセスが、消費行動の中から
消えてしまったわけではないと思いますが、

「商品を買うのか、買わないのか」という検討段階

における「検索・評価チェック」という行動が
大きな購買決定要因になってきたのは間違いないですね。


また、以前は、購入した商品やサービスが良かったのか、
悪かったのかといった事後評価は、いわゆる「口コミ」として
周囲の限られた人だけに話していました。

しかし、今は、ブログで体験談を書いたり、
上記の比較サイトに投稿することで、縁もゆかりもない
「大衆」がそうした情報を入手できるようになりました。

マーケティング手法として、「口コミ」が注目されているのは、
意見・情報の共有が、限定されたコミュニティだけでなく、
全日本・全世界レベルで可能になったことがあります。

先日のブログ「自分がやりたいことをして何が悪い」の中で、
他人に影響を受けやすい「シゾフレ人間」がインターネットの
浸透によって増加するだろう、ということを書きました。

AISASの新しい購買行動のモデルを踏まえて、マーケター
が留意しておきたいのは、これからの消費者は、
外部の第三者の情報(特に評価情報)を精力的に収集し、
またそうした評価に依存する傾向が高まることでしょう。

投稿者 松尾 順 : 13:03 | コメント (0) | トラックバック

丁寧という仮面をかぶっている人たち

“「丁寧」という仮面をかぶっている。”

レストランや小売店で、しばしばこの言葉を思い出します。

この言葉は、青山にある‘愛と感動’のレストラン「カシータ」のオーナー、高橋滋氏のお話の中で最も印象的だったものです。

日本のホテルやレストランではよく経験するのですが、サービスをしてくれるフロントマンやウエイター、ウエイトレスの人たちは、てきぱきと仕事はこなすし、言葉遣いは丁寧なんですが、交わす言葉は通りいっぺん、ぜんぜん心が通っていないんですね。

表情も能面で、笑顔もほとんどないですし・・・・

まるで、アンドロイドロボットです。ただ、やるべきことを機械的にやるだけ。高橋氏のおっしゃるとおり、彼らは「丁寧」という仮面をかぶって、あえて人間的な交流やふれあいを拒否しているのです。

いちおう、血の通った人間同士なんですから、ホテルにチェック・インした時なんか、「今日のお仕事はいかがでしたか」なんてことを聞いたらどうなんでしょう。余計なお世話に聞こえないよう、さりげなさのテクニックは必要ですけど。

驚くほど情報化が進んでしまった今だからこそ、人間らしい交流を顧客は求めているんですよ。

ぜひ、「丁寧」という仮面を脱ぎ捨てて欲しいもんです。

投稿者 松尾 順 : 14:45 | コメント (0) | トラックバック