「ディープインサイト」がヒット商品を生む!

「インサイト」とは、

「ありそうでなかったもの」

の開発につながるヒント(手がかり)です。

ただ、そのヒントは、
当初は平凡な発見にしか思えないことが多い。

そのヒントについて深く、ディープに掘り下げ、
具体的な商品コンセプトに役立つ

「ディープインサイト」

へと仕立て上げる必要があります。

------------------

文具・オフィス家具メーカーのプラスが
今年(2012年)1月に発売した新しいハサミ、

「フィットカットカーブ」

のシリーズ(3タイプ、全16アイテム)が、
好調な売れ行き。

8ヶ月で異例の160万本を販売しています。

同社としては、

「10年後のスタンダードとなる圧倒的No.1商品を目指した」

とのことですが、狙い通りスタンダードの地位を
確保できそうな勢いです。


さて、業務用の特殊なハサミはさておき、
汎用的に使われるハサミは、百均でも買える、
ありふれたコモディティのひとつ。

もはや技術革新の余地はそれほどなさそうですし、
どれを買っても大差はないように思います。

そんな現状において、フットカットカーブは、
どのような「インサイト」に基づいて
開発されたのでしょうか?


販促会議(2012.12)の記事によれば、
プラスでは、

家庭でのはさみの利用状況

についてのアンケート調査を
約2700人を対象に実施しました。


その結果、ハサミに対する要望として
多かったのが、

「切れ味」

に関するものでした。

具体的には以下のような要望です。

・切れ味が持続して欲しい(21%)
・負担なく軽く切りたい(6%)
・メンテナンスして永く使いたい(5%)

これらの要望、こういっちゃ失礼ですが、
ごく平凡な要望ですよね。

ぱっと見の企業側の反応としては、

永く使ってればどうしても切れ味が
落ちてくるのは仕方ない。

買い換えるか、刃を研ぎなおすとか
してもらうしかないよねぇ~

みたいなところでしょうか。


しかし、プラスさんとしては、
意外な結果だったようです。

同社のハサミの「切れ味」には、
自信を持っていたからです。

そこで、ヒアリング調査を実施して、
利用実態を掘り下げたところ新たな発見が。

それは、紙以外の多様なもの、
つまり、

プラスチック、ビニール、ダンボール、
布、観葉植物

などを切ることにも使われていたこと。

紙以外の比率はなんと92%でした。

確かに、家庭では1本のハサミでいろいろ
切りますね。切る対象に合わせて、
いちいち専用のハサミを用意しないものです。

私も、観葉植物の剪定に普通のハサミを
使っています。

また、ビニールやダンボールとかだと、
なかなかうまく切れなかったという体験が
確かにある。


プラスではこれらの調査を踏まえ、

「いろいろなものがスパッと切れるハサミ」

の開発に着手しました。

そして、丸くカーブした刃を持ち、
硬いものから柔らかいものまでしっかり切れる

「フィットカットカーブ」

が完成し、ヒット商品となったわけです。


この商品の場合、

「硬いもの、柔らかいもの、なんでもスパッと
 切れるハサミが必要とされているのでは?」

というのが

「ディープインサイト」

だと言えますよね。

ただ単に

「よく切れるハサミが必要とされている」

という「浅いインサイト」からは、
フィットカットカーブは生まれていない
でしょう。

今のハサミはそもそも結構切れ味がいい。

それなのに、こんな要望が出てくるのはなぜだろう?

と疑問を持ち、さらに利用実態を深く調べることで、

「紙以外のいろんなものを切ろうとするから、
 うまく切れないこともあるんだ!」

「だから、いろんなものがスパッと切れるハサミが
 歓迎されるのでは?」

という気づき=発見につながったのでしょう。


ヒット商品を生むためには、
一見、平凡で何気ないことに目を留め、
「なぜだろう」と疑問を持ち、
深く掘り下げてみる必要がありそうですね。

*フィットカットカーブの詳細については、
 販促会議(2012.12)を参考にしました。

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投稿者 松尾 順 : 09:39 | コメント (0) | トラックバック

ありふれた「コモディティ」にも常に革新の余地はある!

コモディティ(ありふれた汎用品)でも、
まだまだ革新の余地がいくらでもあることを
実感させられるのが、バルミューダの高級扇風機、

「グリーンファン(GreenFan)」

です。


2010年に初めて登場した「グリーンファン」は、
3万円を超える価格でした。2011年に発売された
小型化バージョン「グリーンファンミニ」も2万円台。

それでも、「自然風」のような優しい風が評価され、
飛ぶように売れました。

現在も堅調に売れ続けています。


バルミューダ社長、寺尾玄氏によれば、

「高級扇風機」

を開発することは、

「理詰めの決断」

だったそうです。

具体的には、

・冷房器具は必需品である
・地球温暖化の影響で需要はますます高まるだろう
・そして、省エネが叫ばれる時代、エアコンに代わるもの
 として扇風機の人気はたかまるだろう

といったことが開発を決断した理由です。

昨年は、震災後の福島原発事故により、
電力不足が懸念され、全国的に節電が推進されたことは、
同社にとってはまさに「追い風」となったようです。


さて、まるで自然風のような風が作れる

「グリーンファン」

に寺尾氏が取り組むきっかけは、
取引先の工場に行った際、扇風機を工場の壁に
向けて回していたのを見たことでした。

その工場では、扇風機の風を直接当てるのではなく、
壁に当てて一度バウンドさせて人に当たるように
していたのです。

なぜかと聞くと、

「扇風機の風は気持ちよくないから」

という答え。

寺尾氏が研究してみると、
従来の扇風機は、ファンで空気を切り取り、
渦を巻く「旋回風」を前方に送り出す仕組みのため、
肌に刺さるような硬さがあることがわかったのです。

これは、風の「弾丸」を受け続けているような
ものと言えるかもしれませんね。

実際、従来の扇風機にずっと当たり続けていると、
だんだんつらくなってくるものです。

そこで、グリーンファンでは、
ファンの形状を工夫し、風がふわっと広がって
「面」で人に当たるような仕組みになっています。

おかげで、自然のそよ風のような心地よさを
感じることができるわけです。

なお、グリーンファンには、風の心地よさに加えて、
静音性、省電力性といったメリットもあったことが、
高価格でも爆発的に売れた要因でしょう。


それにしても、今や扇風機なんて
1,000-2,000円くらいから買えるありふれた製品、
すなわち、

「コモディティ」(汎用品)

であり、ほとんど革新の余地はなさそうに思えます。

少なくとも、消費者の多くはそう考えています。

「まあ扇風機はこんなもんだろう」

と疑問を持たなくなってしまっている。

どのメーカーも大差ないと思い込んでしまっている。

言われて見れば、
確かに従来の扇風機の風は気持ちよくない。

しかし、自然の風とは違うとわかっているし、
そもそも「心地よい風」が出る扇風機を体験して
いない時点では、扇風機に対するそんな不満は

「顕在化」

しないものです。

したがって、おそらく消費者に対して、

「どんな扇風機が欲しいですか?」

と聞いたところで、

「省エネ」や「音が静か」

といった、既存の扇風機が、
既にある程度実現している機能や性能の延長、
改善点しか出てこないでしょう。


ですから、新製品開発担当者としては、
寺尾氏が、工場の壁に向けて扇風機が回っていたこと
に目を留めたように、日々の生活の中でものごとを
注意深く観察し、

「マイナーな兆し(行動)」

を目ざとく見つけ、それを新製品のヒントとして
拾い上げることが必要なのです。


バルミューダでは、
新製品開発に当たって、いわゆる

「マーケティングリサーチ」

は行なわないとのこと。

寺尾氏は以下のように述べています。(a)

「必要とされているものは、日本で暮らす以上、
 自身で感じ取らなければならない。人に言われる前、
 調査結果が出る前に自分自身で感じ取れないのであれば、
 リサーチャーとしての資格はないのではないかと思う。」

「ブレークスルーは“消費者の声”からは生まれにくい。
 消費者はあくまでも今あるものに対する意見を出すもので、
 ないものを生み出すのが自分たちの仕事。まず自分たち
 自身がユーザーであるという視点に立ちながら、自分たち
 の感覚を信じ、こんなものがあればすごい、という
 プロダクツを思いつき、開発にまい進する。その代わり、
 その感覚が受け入れられなければ…というリスクは常にある。」

ダイソンのファンのない扇風機、

「エアマルチプライヤー」

も革新的な製品ですが、やはり、

「消費者の声」

を直接聞いて生まれたものではないでしょう。


寺尾氏は

「自分はできる」

と信じてとことん真剣に取り組むことで
道は開けると考えています。


「どうせありふれた製品だから」
「高いと売れるわけないよ」

などと固定観念にとらわれず、

「どこかに革新のヒントが必ずあるはずだ」

という強い信念を持つことが、
新製品開発には最も必要なことなのかもしれません。


*当記事は、

・日経ビジネスアソシエ(2012.10)のインタビュー記事

・売り切れ目前の扇風機「GreenFan2」を生んだバルミューダ
 は何をしたのか(日経トレンディネット、2011/05/24)
 

・風を変えることに成功したバルミューダ代表寺尾玄氏に迫る
 (My VAIO MAGAZINE)
 

などを参考にしました。

*引用文(a)は、日経トレンディネットの記事からです。

投稿者 松尾 順 : 11:44 | コメント (0) | トラックバック

ブリリア・ショートショートシアターに見る映画館の未来

先週末、横浜みなとみらいにある映画館、

ブリリア・ショートショートシアター」
http://www.brillia-sst.jp/

に行ってきました。(以下「ブリリアシアター」)

ブリリアシアターは、
俳優の別所哲也氏が社長を務める

「ビジュアルボイス」

が経営している、いわゆる「単館」の映画館です。


映画館のネーミングからおわかりかと思いますが、
最長30分程度までの短編映画(ショートフィルム)
のみを上映する

「ブティックシアター」

というコンセプトで運営されています。


ブリリアシアターに行ってみて
最初に感じたのは、ロビーの心地よさです。

さほど大きなスペースではありません。

しかし、革張りのソファーやテーブルがゆったりと
配され、映画が始まる前、あるいは観終わった後、
くつろぎながらカフェの食事や会話を楽しむことが
できるロビーは、映画を観る喜びをさらに高めて
くれるものでした。


シアターは130席。

パリオペラ座、カンヌフェスティバルホールなどにも
採用されているという、フランスキネット社製のイスは
座り心地が良く、贅沢な気分にさせてくれます。

上映されているショートフィルムは、
1プログラム(1時間)当たり3-5本程度。

小粋な作品、変な作品、わけわからない作品、
多様なショートフィルムが次々と登場しますが、
たとえ自分にとっては

「これハズレだあ~!」

と感じる作品があったとしても、
だいたい5-15分程度で終わってしまいますから、
次の作品に期待すればいい。

少なくとも、短編映画祭でなんらかの賞を獲得した
作品ですから最低限の品質は担保されていますので
「オオハズレ」はさすがにめったにないでしょう。


さて、ブリリアシアターは、
ハリウッド映画のようなメジャーなフィルムが
上映される「シネコン」などと異なり、

「観たい映画を観にいく」

というものではないですね。
(ショートフィルムマニアを除いて)

むしろ、ちょっとした暇つぶし、
気分転換のためにサクッと気楽に出かける場所かなと。

そのためには、映画自体ではなく、
映画館の雰囲気を楽しめることがより大切。

その視点で評価すると、ブリリアシアターは、
館内の洗練された内装や、落ち着いたロビー、
贅沢なシアター内のイスといった、心地よい場づくり
に成功しており、

「また来たい」

と感じさせるものでした。

私はメジャー作品を観るため、
シネコンにも比較的頻繁に足を運んでいますが、
ロビーは単にチケットを購入する場であり、
観賞後にゆっくりできるスペースもありません。

まあ、万人向けの映画上映が主体であり、
ファミリー客も多いわけですから、
効率的に客をさばくつくりになっているのも
仕方がないのかもしれませんね。


とはいえ、家族連れでない大人たちが楽しめる
映画館が非常に少ないのは残念なことです。

やはり単館の映画館、渋谷・東急文化村の
ル・シネマはその数少ない大人のためのシアター
のひとつで、ワインも楽しめます。

しかし、ロビーにゆったりできるスペースはなく、
シアター内は飲食禁止のため、つまみやお酒を
楽しみながら映画を鑑賞することができず、
欲求不満がたまります。(笑)


今は、レンタルショップに加え、インターネットを
通じて、映画が好きなだけ安価に観られる時代。

映画自体を楽しみたいのなら、
大スクリーンがいいのはわかっていながらも、

「まあ自宅の液晶テレビ(そこそこ大型の)で十分かな」

という人も多いでしょう。


シネコン数も過剰気味で過当競争に陥りつつある。
「3D」による集客効果も低下しているとのこと。

ブリリアシアターのような単館・専門型シアターの運営
を既存のシネコン、単館映画館が真似することはもちろん、
簡単なことではないでしょう。

しかし、映画自体、またシアター内だけでなく、
映画館全体として、来場者の

「ビフォア&アフター」

を楽しませる取り組みについて、
ブリリアシアターにはいろいろと学べる点が
あるのではと思いました。


私たち消費者は、わざわざ足を運んで、
それなりのお金を払うだけの価値のある映画館を
期待しているのではないでしょうか?

ブリリア・ショートショートシアター
Brillia SHORTSHORTS Theater
http://www.brillia-sst.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:47 | コメント (0) | トラックバック

「振り返る自己」が楽しむ「ノスタルジック消費」

スポーツクラブNASが、
今年(2012年)8月1日に開業した「西日暮里店」には、

「元気横丁」

と呼ばれる交流スペースが最上階に設けられています。


「元気横丁」は、ひとことで言えば、
『Always 3丁目の夕日』の世界を再現したもの。

昔ながらの喫茶店。スナック風のカラオケルーム。
駄菓子屋。『ローマの休日』などが楽しめる映画館など、
高度成長期の昭和の雰囲気が楽しめる。


スポーツクラブが、
こうした施設を併設するのは珍しいですね。

ただ、スポーツクラブの収益を支える基盤と
なっているのは、まるで「集会場」のような感覚で
毎日通ってくれる

「シニア層」

です。

シニア層の会員を獲得し、維持するために、
「元気横丁」は、一定の効果を発揮するのではないでしょうか。

なぜなら、彼らは、元気横丁に行くことで、
昔の思い出に浸り、束の間の「幸福感」を味わうこと
ができるからです。


さて、行動経済学などの研究によれば、

「幸福感」

については、2つの視点で考える必要があります。

2つの視点とは、

・「経験する自己」(experiencing self)
・「思いだす自己」(remembering self)

です。

経験する自己とは、今この瞬間に経験していることを
自分がどう感じているか、ということ。

例えば、お風呂の湯船の中でくつろいでいるとき、
一種の「幸福感」がありますよね。

また、好きな趣味やゲームに夢中になっているとき、
やはり、幸せな時を過ごしている。

こうしたものが「経験する自己」です。


一方、「振り返る自己」は文字通り、
過去を振り返り、一定の期間について
「幸福」を感じるもの。

例えば、楽しかった学生時代。
スポーツや芸術など、なんらかの分野で
がんばって、1位になるとか、賞をもらった
ことなど。


もちろん、誰の過去においても、
楽しい思い出ばかりではなく、
多くのつらい状況も「経験」してきているはず。

それでも、今現在生きているということは、
それらを乗り越えてきたわけですから、
総括すれば「幸福だった」と感じる過去と
して保持するのが、私たちの記憶のメカニズムです。


このように、経験する自己と振り返る自己が
感じる「幸福感」は種類が異なるもの。

ですから、マーケターとしては、
この2つの視点を元に、対象顧客に対して
提供すべき「幸福感」が何かを考えることは、
とても有益でしょう。

観終った後、気分が爽快になるアクション映画や、
夢中で楽しめるゲーム、癒しを与えてくれる
マッサージ器具やアロマ、ヨガといった
製品・サービスは、

「経験する自己」

に与えることができる「幸せ感」ですね。

一方、スポーツクラブNASの「元気横丁」は、
昭和時代のセッティングによって、

「振り返る自己」

が得る「幸福感」を創出できる仕組みです。


理想を言えば、経験する自己、振り返る自己の
両方に同時に「幸福感」を与えられるほうがいい。

スポーツクラブNASでは、
メインの「フィットネスサービス」を通じて、
「経験する自己」に対する幸福感を与えることが
できるのですが、「元気横丁」を併設することで、
さらに、「振り返る自己」の幸福感をも与えること
を可能にしていると考えられます。

ビールやチョコレートを始めとする製品でも、
しばしば、昔のパッケージデザインをあしらった

「復刻版」

が登場しますが、これは、「経験する自己」と
「振り返る自己」の両方にアピールするからこそ、
消費者に注目され、一定の売上を上げることが
できるわけです。


私は、「思いだす自己」が幸福を味わうために
行なう消費のことを

「ノスタルジック消費」

と呼んでいます。

すなわち、懐かしさを味わうことを
第一目的に、製品やサービスを購入することが、
「ノスタルジック消費」です。

そして、高齢化社会においては、

「ノスタルジック消費」

の重要性が高まると考えられます。

なぜなら、年齢を重ねると、「経験する自己」が
味わうことのできる幸福感はおおむね減少していくから。

体力・意欲がどうしても低下するため、
楽しい経験を求めて、積極的に行動することが
あまりできなくなるからです。

だからこそ、より一層、「昔は良かったなあ」という
「振り返る自己」が味わえる幸福感が大事になっていく。

ですから、高齢化が進展する日本において、
思いだす自己」が楽しめる「ノスタルジック消費」
へのニーズはますます高まるのではないかと思うのです。


<主催セミナーのご紹介>

●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

●深堀り!『影響力の武器』エッセンス(9月12日)

●早分かり!『行動経済学エッセンス』(8月29日) 

           ------------

●英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」(8月26日) 

投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (0) | トラックバック

ピンクが好きですか?

今年5月、マイナーモデルチェンジした、
「大人かわいいクルマ」がコンセプトのクルマ、
ホンダのフィット「シーズ」(She's)。

ホンダ フィット「シーズ」
http://www.honda.co.jp/Fit/webcatalog/type/shes/

シーズ(彼女の)というネーミングでおわかりのように、
女性をターゲットとした特別仕様車です。

2010年に「シーズ」が初めて発売されたきっかけは、
2007年の「先進性」を強調したフルモデルチェンジによって、

「顔がきつい」

と女性の不評を買ってしまったことでした。

そこで、女性仕様の「シーズ」を開発したところ、
販売開始当時は、フィット全体の販売実績の1割を占め、
当初の期待を上回る結果となりました。

そこで、今回のマイナーチェンジでは、
さらに女性仕様を深化させるため、女性社員4人が
開発メンバーとなって主体的に開発を進めたとのこと。


さて、シーズの最大の特徴はボディカラー。
特に、「ピンクゴールド」はシーズ専用色です。

しかも、スマートキーの色は、ボディカラーに関わらずピンクのみ!

どうして、ピングがここまで重視されたかというと、
開発メンバーによるホンダ女性社員を対象とする

「色に関する意識調査」

で、多くの女性がピンクを好むことを突き止めたから。


実のところ、色についての心理学、
つまり、これまでの様々な調査・研究によれば、

「女性はピンクが大好き」

ということは実証されています。

女性は、幼児の頃から、
ピンクに対して明確な好みを示しますよね。

このため、女性によっては「子供っぽい」という
イメージを避けるため、ピンクの服や持ち物を
避ける人もいます。もちろん、ピンクが嫌いに
なったわけではない。

また、興味深いことですが、

「シニアの女性もピンクが大好き」

ということがわかっています。


なぜ女性はピンクが好きなのでしょうか?

ひとことで言えば、「赤ちゃん」をイメージさせるもの
だからですね。赤ちゃんのピンク色の肌。

母性本能をくすぐるだけでなく、おそらく、
赤ちゃんの張りのある、滑らかな肌に対する
「憧れ」もあるのかもしれません。

ですから、あらゆる女性向け製品においては、
ピンクの割合が相当高くなっています。


ただ、ピンクといっても、好まれる色味は微妙です。
男性にはなかなか判断できないもの。

色味の微妙な調整は女性担当者にまかせるべきでしょう。


「色」は、製品、サービス、あるいは
企業のブランドイメージを決める主要素の一つ。

新製品開発に当たっては、注意深く色を選定する
必要があるんですね。


*日経MJ(2012/07/04)の記事を参考にしました。


投稿者 松尾 順 : 12:50 | コメント (0) | トラックバック

機能性の認知限界を考慮せよ!

新商品発売のニュースを見た時、

「そうそう、こんなの欲しかったんだよ・・・!」

と感じる商品がありますよね。


最近こんな声が多く聴かれた商品に、
キングジムの新商品、

デジタルメモ「ポメラ」

があります。


「ポメラ」は、
テキスト入力に機能に特化したデジタルなメモ帳。

スイッチを入れると2秒で起動し、
単4アルカリ電池で約20時間使用できる。

キーボードはノートPCとほぼ同じサイズで
キータイピングもストレスなし。

作成した文章はUSB接続でPCに転送可能。

キーボードをたためば、
文庫本ほどの大きさで370gの軽さ。


「気軽に持ち歩けて、必要な時、
 パッと立ち上げてサクッとメモを取りたい」

「そのテキストデータはPCに移して仕上げたい」

というニーズにジャストフィットした商品だと思います。


私は以前、500gほどの携帯可能な小型ワープロを
利用していたことがあります。

そのワープロはやや大きく厚みがあったため、
バッグに入れると結構かさばりました。

500gでもやはり重く感じましたし、
なにより、キーピッチが小さくてタイピングに
ストレスを感じました。


また、電子手帳もあれこれ試しましたけど、
キータイプはまず無理ですし、手書き入力も面倒。

結局のところ、

外出先等で、デジタルにメモを取りたい、文章を作成したい

というニーズに応える商品は今までなかったんですよね。


私も普段は、ノートPCを我慢して持ち歩いていますが、
簡単な文章作成のためだけにノートPCをわざわざ取り出し、
立ち上げるのはなんともおっくうでした。


しかし、ポメラは、近年のIT技術の進展のおかげで、
上記のような問題点を解消することに成功していますね。


さて、ポメラは一見PCのようではあるけれども、
テキスト入力だけに絞った単機能マシン。

いわゆる「性能破壊型」商品です。


多機能化が進む一般的なPCに背を向け、
意図的に性能(機能)を低下させたアプローチを
採用しています。

こうした性能破壊型商品は、
既存市場のプレーヤーから生まれてくることは
まずありません。

「イノベーションのジレンマ」があるからです

ポメラの場合も、案の定、
PCメーカーではなく、事務機器メーカーから
誕生してますね。


ポメラの開発に当たってキングジム社内では、

「やっぱりネット接続ができてメールは見れたほうがいい」

などと、既存のPCを前提とした、

「多機能化」

への要請が担当者に寄せられたようです。


新製品開発では、しばしば、
そもそものコンセプトを無視したアイディア、
言い換えると、

「思いつきのお節介な意見・要望」

がとりわけ企業上層部から多く投げられます。

この結果、革新的な商品になるはずだったものが、
平凡なものに落ち着いてしまうことが起きますよね。


しかし、キングジムの担当者は、
当初の商品コンセプトを大切に守り切ったようです。

おかげで、ターゲット顧客にとっても
ベネフィットの明快な商品として幸先の良いスタートを
切ることができたといえます。


新商品、特にパソコンや携帯電話などのIT系商品は、

「多機能化への誘惑」

が大きいですね。


しかし、あまりにも多くの機能を
一つの製品に組み込んでしまうと操作が
複雑になりがち。

そうすると、ユーザーの

「認知限界」

を超えてしまう。

つまり、理解、判断、学習能力をオーバーするため、
使い方を学んだり、覚えることが不可能となり、
結果的に利用しなくなってしまうのです。


以前の記事

『機能性と使い勝手』

でご紹介しましたが、ターゲットユーザーは、
使用前のテストでは多機能な商品ほどを高く評価します。

しかし、実際に利用するようになると、
「使い勝手」を高く評価することがわかっています。

私たちは、本来シンプルで使いやすい商品こそを
求めているということなのです。


人の「認知限界」は、

製品の形状、大きさ、重さ

といった目に見えるデザイン分野では
とても重視されています。

「軽薄短小」

が一般的なトレンドとはいえ、
何事も小さすぎればいい、軽すぎればいい
というものではないので、

ジャストサイズ、ジャストウエイト

を慎重に決めています。


ところが、目に見えない「機能性」については

認知限界

があまり考慮されていないようです。

機能てんこ盛りの携帯電話機を考えてみれば、
明白でしょう。

まあ、盛り込める新機能も一段落ついたので
ようやく単機能化へと転じつつありますけどね。


『機能性と使い勝手』

投稿者 松尾 順 : 09:22 | コメント (0) | トラックバック

思わず買いたくなる?佐藤さんCD

‘カクテルパーティ効果’ってご存知ですか?


立食パーティなどでたくさんの人が集まっていて、
ざわつく部屋の中で話している時、
他のグループの話し声はまったく聞こえないものです。

ところが、

“実は、松尾さんがね・・・”

などと、自分の名前が呼ばれると、
突然、鮮明に隣の人たちの話し声が聞こえてきます。


つまり、自分に関係がありそうなことだとわかると、
瞬時に注意を向けることができる働きのことを

「カクテルパーティ効果」

というんですね。

人にとって「自分」が最大の関心事。
自分の名前は聞き逃せません。

また、常連になってるお店に行ってうれしいのは、

「あら、松尾さん、いらっしゃい」

などと、名前を呼んで迎えてくれることですよね。

ですから、

「あなたは私(当店)の大切なお客さまです」

という気持ちを顧客に伝える第一歩は、
そのお客さんの名前を呼んであげることです。

これは、トップセールスパーソンなら
誰もが実践している点です。


さて、こうした「名前」の持つパワーを活かした
CDが1月28日に発売されますね!

『佐藤さんCD』

です。


女性の声優やアイドルが出演する当CDには、

「佐藤さんのことが大好きです」
「佐藤君のバカバカバカ・・・」
「佐藤先輩、尊敬しています」
「私の好きなものは、ケーキと・・・佐藤さん・・・」
「どんな病気も私が治してあげるね、佐藤さん」

などと、佐藤さんをメロメロにするセリフが
たっぷり収録されています。


開発・販売元の「NRPRO」によれば、

“ある佐藤さんという男性に「僕のためのCDを作って」
 となんとなく言われたことがきっかけ”

とのこと。


全国の「佐藤さん」に明確にターゲティングされた
当CDですが、果たしてどの程度売れますかね?


販売価格は、1,200円(税込)。

衝動買いできるギリギリの価格に抑えたそうですが、
「1000円ポッキリ!」が良かったのでは?


佐藤さんの苗字を持つ人は、
全国に約200万人いるそうです。

当CDの内容的には、男性(中学生以上?)が
メインターゲットですから、その半分以下として
100万人弱が潜在市場規模でしょうか。

購入率1%で1万人、2%で2万人くらいの販売数。
初期コストは十分回収できそうな感じです。


「佐藤さんCD」は一見バカバカしい企画ではあります。
しかし、着想は素晴らしいと思います。

佐藤さんの気は確実に引くでしょうし、
このCDを聞けば、くだらないと思いつつも脳内では

「ドーパミン」

が放出され、元気・やる気が高まるのは間違いありません。


なお、2月には「鈴木さんCD」、
3月には「高橋さんCD」が発売予定だそうです。


おそらく、

「松尾さんCD」

は出ないでしょうね・・・
潜在市場規模が小さすぎるから。


*発売元 NR PRO
http://nrpro.co.jp/

*佐藤さんCD

投稿者 松尾 順 : 11:42 | コメント (0) | トラックバック

定額制タクシー

商品開発のヒントは、
世の中の人々が明確に、あるいは漠然と感じている、

・不満
・不便
・不安

の中にある。


このことは、元リクルートで、
創刊男と呼ばれた、くらたまなぶ氏はじめ、
多くの方が指摘していますね。


「タクシー」に関していえば、
いまだに様々な

不満、不便、不安

がありますよねぇ。


たとえば、

・運転手のサービス、マナーが良くない

という不満は大きい。


これを解消したのが

「MKタクシー」

でした。


さて最近、

「料金がいくらになるのかわからない」

という「不安」を解消した
タクシー配車サービスが登場しています。
(日経MJ、2008/03/10)


システム開発会社の「トラン」が運営する

「らくらくタクシー」

は、定額制のタクシー利用を実現。


利用者が予約時に出発地と目的地を指定すると、
距離、所要時間などから自動的に料金を算出します。

そして、実際に乗車した際、
例えば渋滞に巻き込まれて想定時間よりも乗車時間が
延びた場合でも、追加料金が発生することはありません。


なお、こうした定額料金によるタクシーサービスは、

「旅行商品」

とみなされるため、
トランは旅行業者と提携して同サービスを
提供しています。


利用者側としては、
深夜帰宅時の利用がメリット大きいようですね。

例えば、横浜アリーナでのコンサート終了後、
深夜3時に配車を予約して帰宅する消費者の場合、
普通にタクシーを拾ってメーターで加算する方式よりも

2-3割

料金が安くなることもあるそうです。


しかし一方で、タクシー会社側としては、
上記のように1乗車当たりの売上は減る場合が多いでしょう。

それでも、1乗車あたりの売上は減ったとしても、
トランのサービスを通じて予約が増えれば、
乗車率が高まると期待できます。


すなわち、客数を増やすことができて、
結果的に総売上は増えるという計算が成り立つことから、
当サービスに参加しているようです。


「らくらくタクシー」は、
タクシーに関連した不安に着目し、
それを軽減、除去できるようなサービスを
発想・実現した新事例ですね。

投稿者 松尾 順 : 16:27 | コメント (4) | トラックバック

自己流「ペルソナ」・・・ジャガビーのケース

昨日のカルビーつながりで、
もうひとつ取り上げたいと思っていたネタがあります。

今回は、「ジャガビー」の商品開発に、
「ペルソナ法」的アプローチが採用されていたという話です。


新商品やWebサイト等の開発にあたって、
最も重要で象徴的な顧客像(顧客モデル)を詳細に描く

「ペルソナ法」

については、これまでさまざまな形でご紹介してきました。

また、私自身、実際の業務でもペルソナ法を活用して、
Webサイト等を設計してきた経験がいくつかあります。

このところ「ペルソナ法」が注目を浴びているのは、

「体系的な方法論」

として確立され、きちんとした「ノウハウ」として
学ぶことが可能になったからです。


ただ、ペルソナ法のノウハウの確立以前から、
ヒットメーカーとして名を馳せている商品開発者の多くは、
ペルソナ法的なアプローチが有効だとわかっていました。

つまり、漠然としたマスを想定した商品は売れない。

むしろ、ターゲットを絞込み、詳細に規定した
プロフィールを持つユーザーを想定した商品の方が、
結果的に大衆の心を掴むことができるということです。


さて、現在、バカ売れしているカルビーの「ジャガビー」。

確かにおいしいですよね。ポテトチップスとはまた異なる
さくっとした食感が新鮮。私も大好きです!

*ジャガビーのサイト


さて、「じゃがりこ」以来の大ヒット商品になっている
同商品の開発に当たって、開発担当の方は、
ペルソナ法的なアプローチを採用していました。
(ペルソナ法のことは、当時はまだ知らなかったそうです)


「ジャガビー」が狙ったのは、
スナック菓子をあまり買わない20-30代の独身女性。

ただし、単に年齢と性別だけの規定だけでなく、
対象とする顧客のライフスタイルや価値観など、
詳細なプロフィールを作成しています。


具体的には、対象とする女性がよく読む雑誌から、
ライフスタイルを類推、また独身の女性社員とのミーティング
を通じて顧客像を形成していきました。


そして最終的には、

「27歳独身女性、文京区在住、ヨガと水泳に凝っている・・・」

といった記述が並ぶ1枚のプロフィールにまとめています。


このプロフィールには、
顧客像のイメージに近いタレントの写真も貼ったそうです。


カルビーが行った上記の手順は、
標準的なペルソナ法の流れを踏んではいないという点で、

自己流の「ペルソナ」

と呼べますが、「ジャガビー」のヒットに
大いに貢献したものと思われます。


ペルソナ法の最大のメリットは、
ありありとイメージできる顧客像を描くことで、
真の意味での

「顧客の視点」

で、商品開発やマーケティングコミュニケーション展開が
できること。

また、そこに、特定の顧客像という「一本の軸」が
あるため、方向性がブレにくいことにあります。


「ジャガビー」の場合、ペルソナで描いた、
おしゃれで情報感度が高い都心の独り暮らしの女性の部屋に
置かれても違和感がないような「落ち着いたデザイン」が
採用されました。

同商品のサイトも、
ターゲットの部屋をイメージしたデザイン。

また、TVCMに出演しているモデルのヨンア氏。

彼女は、ファッション雑誌「Oggi」で活躍していますが、
ヨンア氏も、「Oggi」もターゲットの視点で評価した結果の
選定だそうです。


「ジャガビー」の販路は、原則としてコンビニのみ。

男性客の多いコンビニに、
独身女性をターゲットとする商品を置くことに対しては、
当初不安視する声もあったようです。

しかし、実際には、
購入者の半数は女性が占める結果となり、
大ヒットへとつながったというわけです。


(参考情報)ITpro CIO情報交差点
カルビー 自己流「ペルソナ」で大ヒット商品生み出す


(ご参考)ペルソナ関連記事

*「ユーザビリティ」から「デザイアビリティ」へ

*ペルソナマーケティング(BtoB事例)

*ペルソナマーケティング(BtoC事例)

*その商品は、どんな奴だ。

*できるだけリアルな「顧客の仮面」をかぶる方法

投稿者 松尾 順 : 11:09 | コメント (4) | トラックバック

ベラドンナ

ぱっと見、まったく同じにしか見えない2枚の女性の写真を
男性に見せ、

「どちらが魅力的か?」

と聞いた実験があります。


その結果、聞かれたすべての男性が、
同じ写真を他方よりも魅力的だと答えました。


2枚の写真の違いはどこだったかわかりますか?

それは、「黒目」(瞳孔部分)の大きさでした。

片方は、ちょっとだけ「黒目」が大きくなるように
修整してあったのです。


そして、実験ではすべての男性が、
「黒目」が大きい方を魅力的だと感じたそうです。

しかし、彼らはその理由を説明することができません。
感覚でそう判断したからです。

でも、答えは不思議に一致していた!


実は、「黒目」は、
好きなもの、関心のあるものを見ると拡大するんですね。

例えば、赤ちゃんの写真を見ると、
女性の黒目は拡大します。

男性の場合は、子供がいない場合は拡大せず、
自分の子供がいる場合にのみ拡大する傾向があります。
(子持ちの男性なら、実感としてうなずける結果ですよね・・・)


男性は、目の前の女性を見た時に、
彼女の黒目が拡大していれば、それは

「自分に関心がある(らしい)」

というメッセージであることを無意識に感じているんです。

だから、男性としても、
自分を好きになってくれそうな女性をより魅力的だと思う。


こうしたことが自分にもわからない無意識のところで
起きているというのが本当に不思議だと思います。


ただ、黒目が大きい方が魅力的に見えるということは
女性たちは知っています。(よね?)


昔、イタリアのコールガール(娼婦)は、
瞳孔を拡大させる作用のある目薬を利用していたそうです。

有毒なイヌホウズキから作られたこの目薬は、
つけるとより美しくなるといわれたので、

「ベラドンナ」(イタリア語で「美しい女」の意味)

と呼ばれていました。

最近では、
ジョンソン&ジョンソンのコンタクトレンズで、
黒目の輪郭を際立たせ、黒目がしっかり見える製品
「ワンデーアキュビューディファイン」が発売され、
結構売れています。

今まで、こうした製品がなかったのが不思議ですよね。


しかしまあ、
人間の行動の8割方は無意識に行われているということが
今回の実験からもよくわかります。


今回の話のネタは、
「裸のサル」のデズモンド・モリスの名著、
「マンウォッチング」でした。

投稿者 松尾 順 : 23:56 | コメント (0) | トラックバック

「病児保育」のビジネスモデル

昨日とはうってかわって、社会的意義の高いお話ですよ!


さて、新しい商品開発のヒントは

「不」

の付く言葉にある、とよく言われます。

つまり、不平、不満、不便など、意識的、あるいは無意識的に
消費者が感じている問題を発見し、その解決策を考えることが
商品開発のネタになるというわけです。


ただ、非常に大きな「不」があるにも関わらず、
まずもって「採算が取れそうもない」という理由で、
ほとんど誰も解決策を考えようとしないで、
放置されてきた問題が相当あるようです。


たとえば、「病児保育」。

体調が悪くなった幼児を預かってくれる「病児保育」サービスは、
非常に少ない数しか存在していません。(全国で数百箇所)
そのほとんどが公的な支援を受けないとやっていけない
赤字運営だそうです。

補助金などの支援を受けても赤字では、
とても民営事業としては取り組めないですよね。


しかし、「病児保育」のニーズは極めて高いのです。

働く女性が増加し、夫婦共働きがごく一般的になってきた現代、
働きながら子育てをすることの難しさが「少子化」を促進
しています。

この「子育てを難しくしていること」のひとつが、
保育所不足であることはご存知だと思います。

でも、保育所の不足が解消されただけでは不十分なんですよね。
なぜなら、病気の幼児は、
通常の保育所では預かってくれないからです。

子供の具合が悪ければ、会社を休まなければなりません。
また、保育所に預けていた子供が急に熱を出した。
この場合も、親がすぐに引き取りにいかなければなりません。

たいていは母親が会社を早退することになるわけですが、
この結果、同僚に迷惑をかけたり、仕事が滞るといったことに
つながるため、仕事を続けていられなくなる。

ですから、病気の子供を預かってくれ、安心して仕事に
打ち込めるサービスを、特に働く母親は切実に求めています。


今、このニーズの存在を知ったある青年が、
社会起業家として、新たなビジネスモデルに基づく
「病児保育」サービスに取り組んでいます。

幼児保育のNPO法人、「フローレンス」代表の
駒崎弘樹さんです。
(日経アソシエにも登場されてましたね)

>>駒崎さんのブログ

さて、病児保育のサービスを立ち上げるに当たっての問題は、
「小児科医のいる保育施設の運営」を前提とすると、
採算が厳しくなる点です。

既存の病児保育サービスが赤字なのも、ここに原因があります。

しかし、駒崎さんは助成金に頼らず、事業収入で運営費を
きちんとカバーできるビジネスモデルを考え出したのです。


それは、まず「非施設型」のサービスとすること。

このため、地域の子育ての経験のある中高年の主婦を
「レスキュー隊」として組織化しました。

病気の子供を預かって欲しいお母さんから連絡を受けると、
都合のつくレスキュー隊のおばさんに連絡し、子供を
迎えに行きます。

そして、かかりつけの小児科医の診察を受けて、預かるのは
問題なしと判断された場合のみ、母親の仕事が終わるまで
「自宅」で面倒を見るという仕組みです。

預かっている間に幼児の病状に異変が起きたような場合には
待機している医療スタッフにすぐ連絡できる体制も築いて
います。


レスキュー隊のおばさんにとって、病気の幼児を預かるのは、
とても気を遣う大変な仕事ですが、自分の経験も活かせるし
それだけにやりがいもある。

私の勝手な推測ですが、自分の子育てが終わってぽっかりと
空いてしまった心のすきまを満たしてくれる、
とても魅力的な仕事じゃないかと思います。

しかも、都合の良い時だけ働けるアルバイトとして
相応の収入が得られるということで、
レスキュー隊のなり手には事欠かないようです。


一方、当サービスは、

入会金2万円、月額4千円の会員制のサービス


となっています。
(この基本料金で、月1回は無料で預かってもらえます)

子供が病気になった時しか預からない「病児保育」ですから、
預かった時だけお金をいただく料金制度では、
運営をまかなえるだけの収入が得られないためです。
(ただ、十分にリーズナブルな価格ですよね。
 一般社会人の方が無理なく支払える水準でしょう)


さて、こうして後付けでビジネスモデルを書いてしまうと、

「なんだ誰でも思いつけるアイディアじゃないか」

と思われる方もいるかも知れません。


でも、事業は、発想・企画することの10倍、いや100倍以上、
実行し継続的に運営できる仕組みを作り上げるのが大変
なのです。

フローレンスの場合は、
これだけの仕組みを作り上げるのに3年かかっています。
年内には黒字運営への転換がほぼ確実だそうです。


以上は、金子郁容先生(慶應義塾大学大学院教授)の
ご講演内容からご紹介しました。

駒崎さんとは面識はありませんが、
この仕組みが全国にも広がっていくよう、
彼にはがんばって欲しいものですね。

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (2) | トラックバック

時間無駄使い型商品

資本主義かつ拝金主義の今の世の中で、面倒なことは、
常に「生産性」を求められることですよね。

「生産性」とは、端的には、

一定時間内にどれだけの価値(換金できる価値)を生み出すか

ということです。

そして、「生産性」を高めるためには、

作業スピードを上げること、無駄な時間を減らすこと

が必要になってきます。


まあ、ビジネスは競争であることは真実ですから、
生産性を高めなければならないことはしょうがない・・・

でも、機械には絶対になれない、動物の一員である人間にとって、
生産性を意識して行動するのって本能に反しています。
だって、生産性を上げようと考えて行動する犬とか猫って
いませんよね。(人間と同じように強制されないかぎりは)


ただし、ゆっくり休息すればいいわけじゃないんですよね。

人間の場合、あえて時間を無駄に使う、
自分のペースで気ままにできる何かが必要です。


最近、大人のための「塗り絵」がちょっとしたブームに
なっているそうですが、

1時間以内に1枚仕上げなければ・・・

なんてことを考える必要のない、
贅沢な時間の使い方ができる趣味として
受け入れられたんでしょう。

こんなマイペースで取り組める趣味として、
「奥の細道」をえんぴつで写し取るための本も
出版されて売れているようです。
これは、まるで写経ですね。


ジャーナリストの川崎由香里さんは、
このトレンドについて

情報の豊かさ、便利さゆえに削られた

「味わう時間」

を買い戻そうという皮肉な心理を思い知らされる

とおっしゃってますが、


時間を節約するための商品

ではなく、時間を味わうため、極端に言えば、

無駄に使うための商品=「時間無駄使い型商品」

は、これからどんどん増えていきそうですよね。

投稿者 松尾 順 : 10:39 | コメント (0) | トラックバック

100ドルパソコン

MITのネグロポンテ教授の構想だった「100ドルパソコン」が実現しそうですね。
途上国やスラム、過疎地の子供たちが入手できる、使えるパソコンとして設計
されているものです。

・基本ソフト(OS)は、リナックス
・カラーディスプレイは安価なリアプロジェクション方式(背面投射型)
・電源は手動発電方式。パソコンについているハンドルを1分間回すと10分間使える
・CPUの動作周波数は500メガヘルツ程度、ハードディスクの容量は小さめ

ただし、1台百ドル以下にするには、100万台の発注が必要とのこと。
途上国の国家予算で購入される量では足りないかもしれません。
そもそも100ドルでも高すぎる国もある。

ということなら、別に途上国だけでなくて日本とかでも小学生のおもちゃとして
発売するという方法もありますね。パソコンに慣れ親しんでもらうために。
ただ、リナックスベースなのであまり使いやすくないかも。かえってパソコン
嫌いを作ってしまわないように注意する必要があるでしょう。

なお、このパソコンは無線LAN方式です。アクセスポイントに近いパソコンから
パソコン同士がどんどん無線でつながると全員がネットに接続できる方式
だそうで、災害で電気が使えないような緊急時、バッテリーがなくなっても
OKなパソコンとしての使い道もありそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

プリンターインクを売る修道士

ご存知の方も多いと思いますが、ヨーロッパでは修道院でビールが製造されてますよね。

修道士たちが、キリスト教の修行の合間にビールの製造を行ってきたわけです。そして、ビールの収益で、修道院の運営費をまかなってきました。

ところが、最近は、ビールの代わりに、プリンターインクやトナー、コピー機、事務用品をディスカウント販売する修道院があります。しかもオンラインで。サイト名は「LaserMonks」、直訳すれば「レーザー修道士」。かなりヤバイ名称ですね。(^o^)

修道士たちは、毎日5時間のお祈りを捧げるため、実際の運営はアウトソーシングです。しかし、修道士は、カスタマーのために祈りを捧げているそうです。また、問い合わせ電話をかけて待つ時には、グレゴリオ聖歌が聞こえてきます。

このように、修道院のイメージや価値観を反映させたオンラインショップは年商250万ドルをあげ、修道院は毎月1万ドルのチャリティ基金を得ています。カスタマーの定着率はなんと「90%」ということなので、今後も安定した売上げが見込めます。

この話は、宣伝会議(10/15)の口コミマーケティングの事例として紹介されていました。レーザー修道士のサイトがこれだけ成長できたのは、社会貢献型のユニークな事業活動がUSAトゥディなどのマスコミに掲載されたことをきっかけに、口コミでユーザーが広がっていったからです。

確かに、インクやコピーを販売している修道士なんてすごく変わってます。思わず口コミしたくなります。しかも、レーザー修道士から買えば、宗教活動やチャリティに直接・間接的に貢献することができます。単にモノを消費するだけでなく、社会的な意義がある。カスタマーの高い定着率も当然でしょう。

さて、ひるがえって日本のお坊さんはどうでしょうか。

日本にはお寺が約7万5千もあります。郵便局の数の3倍です。各お寺は、一定数の檀家(=固定客)を抱え、檀家の葬儀のお布施などで収入を得ています。ところが、上述したように過当競争である上に、地方になると過疎化が進み、檀家の数が減っています。都会でも、逆にお寺とのつながりが弱い人が増えているので檀家の数は減るばかり。経営難により将来的にはお寺の大幅な減少が見込まれます。

だとすれば、お寺もレーザーモンクを見習うべきじゃないでしょうか。

物品販売ではないけれど、寺院内でコンサートを開催するところも出てきていますよね。従来の檀家制度に寄りかかったままでいるのではなく、知恵を絞っていろいろ新規事業を手がけたらどうなんでしょうね?

投稿者 松尾 順 : 11:03 | コメント (0) | トラックバック