商品は「夢」を与えなければならない

人は、商品が実現してくれるかもしれない

「理想」(to be)

を夢見て購入するのであり、

「現実」(as is)

を提示されてもワクワクできないものです。

-------------

このところ、積極的に広告展開している、
サントリーの健康食品、

「セサミンEX」

は、男女2人の後姿のヌードが目を引きますね。

アテンション(注目)効果はバッチリです。

ただ、この男女の引き締まった若々しい
からだつきから見て、おそらく30代前半くらいでしょう。

ひょっとしたら20代かもしれません。

セサミンのメインターゲットは

40代以上

ですから、メインターゲットからは、
10歳以上も若いモデルを登場させている
ということになりますね。


過去のセサミンの広告(テレビCM、新聞広告)は
公式Webサイトで閲覧することができます。

昨年(2011年)は当時45歳の前田典子さんでした。

それ以前は、

・登山家の三浦雄一郎さん(当時78歳)
・女優の浜美枝さん(当時67歳)

など、メインターゲットと同世代の著名人が
登場していました。

ところが、昨年は40代の前田さん、
そして今年はおそらく30代と、広告に起用する
モデルを大きく若返らせています。


健康食品は、体の衰えを感じ始める中高年が、
強い関心を持つ商品カテゴリーであり、

「若くありたい」
「元気でいたい」

といった欲求を充たしてくれそうという

「期待感」

で購入するものですね。

その時、頭の中にイメージしているのは、

「今の自分」(as is)

ではなく、若者のような、
引き締まった体や、ハリのある肌を取り戻している

「理想の自分」(to be)

なのです。

したがって、広告においては、

「理想」=「夢」

を提示してあげたほうが、
より強く購入意欲をそそることができる。

セサミンの近年の広告の背景には
そんな判断があるのでしょう。


ちなみに、衣服の展示用に用いられる

マネキン(人形)

の大手、吉忠マネキン(株)では過去に、

60代シニア

の体型を忠実に再現したマネキンを
製作したことがあったそうです。

これは、おなかがせり出し、全体に小太りな
典型的なシニア体型にも似合うファッションを
展示する上で、最適なマネキンのはずです。

ところが、このマネキンは、
消費者にはそっぽを向かれてしまい、
失敗に終わりました。

ありのままの

「現実の自分」

を提示されたくはないということだったのでしょう。


人間心理はこのように複雑なものです。
現実の自分と理想の自分との間で揺れ動いている。

したがって、ターゲット顧客の心を動かす
クリエイティブ、あるいはメッセージ開発に当たっては、
人間心理を深く洞察しなければならないのです。


★サントリーセサミンEX
(サントリーウェルネスオンライン)

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (0) | トラックバック

「モノ」にも同情するから捨てられない?

人が痛がったり悲しんでいる様子を見ると、
私たちの頭の中にある

「同情ニューロン」

と呼ばれる神経回路が反応して、
その人と同じような気持ちになります。

実は、「モノ」が壊されたりするのを見ても
やはり「同情回路」が活性化するようです。

--------------

コマーシャルで、
タレントがビールジョッキを傾けて
ごくごくと飲み、

「プファー・・・うまい!」

とおいしそうに味わっているのを見ると、
自分もビールが飲みたくなるもの。

このとき、飲んでいる本人の脳と、
それを見ている私たちの脳は同じ部位が
興奮しているのだそうです。

つまり、他人の行動や感情の動きを見ると、
あたかも自分が同じことをしているかのように
脳は感じているわけです。

こうした働きをする神経細胞のことは

「ミラーニューロン」

と呼ばれています。

まるで

「鏡」

のように相手と同じ部位が反応することから
このような名称が与えられています。

このミラーニューロンのおかげで、
人は相手の気持ちに「共感」することができ、
また、「模倣」を通じた学習が可能になっている
と言われています。


さて、ミラーニューロンと同じような働きをする

「同情ニューロン」

の存在も近年確認されています。

ロンドン大学のシンガー博士らの研究によると、
罪のない人が「冤罪」で罰せられているのを見ると、

「島皮質(とうひしつ)」や「帯状皮質」

などの、「不安」や「痛み」に関係する大脳皮質が
強く反応することがわかったのです。

ここが、

「同情ニューロン」

と呼ばれる神経細胞があると
考えられている部位です。

ただし、どんな状況でも、
相手に同情するわけではありません。

実際に悪いことをした人が、
相応の罰を受けているのを見た場合には、
私たちはおそらく、

「自業自得だね」

と考えるからでしょうか、
同情ニューロンの反応は当然弱くなります。

興味深いのは、上記の場合に、
女性では同情反応が40%ほど減るだけなのに対し、
男性の場合ほとんど完全に消失することです。

そして同時に男性は、快感をもたらす部位である、

「側座核」

が活性化します。

つまり、男性は、悪人が罰を受けているのを見て
同情をしないだけでなく、「喜び」を感じているのです。

男性は、数百万年にわたって狩りをしたり、
他部族などと戦ってきました。

獲物や敵に同情を感じていては、
狩りや戦いに失敗します。

したがって、「同情ニューロン」の働きが弱まり、
一方で「側座核」が活性化するように進化してきた
のかもしれません。


余談が過ぎました・・・本題に入りましょう。

池谷裕二氏(東京大学大学院准教授)が
ある研究者から個人的に聞いた話によれば、

「同情回路」

は、人がタンスの角にぶつけて痛がっているような
写真を見るときだけでなく、携帯電話やテレビが
ハンマーで破壊されているシーンを見るときにも
活性化するのだそうです。


私たちは、「動物」や「植物」などの、
生命を持つものたちだけではなく、
単なる「モノ」に対しても、

「同情」

してしまうのです。

池谷氏は、こうしたモノに向けられた同情こそが

「もったいない」

という感情の源になっているのではないかと
述べています。

モノをいわば「擬人化」して、
彼らが感じているであろう「痛み」に対して
同情心を抱いてしまうと想定される。

だからこそ、もはや不要になってしまった
持ち物が、なかなか捨てられないのでしょうね。

近年、

「断捨離」

をはじめとして、
不要なものを思い切って処分するテクニックが
ブームになっていますね。

モノに対してさえ抱いてしまう「同情」を乗り越え、
所有物を処分するのは本当に大変だからこそ起きている

整理整頓ブーム

と言えるでしょう。


そういえば、同情ニューロンについての男女差を考慮すると、
男性よりも、女性の方がモノをなかなか捨てることができず、

「溜め込みやすい」

という仮説が立てられますが、実際どうでしょうね?


*同情ニューロンについては、
 
『脳には妙なクセがある』(池谷裕二著、扶桑社)

を参考にしました。


『脳には妙なクセがある』(池谷裕二著、扶桑社)

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (0) | トラックバック

津波に対する知覚リスクが低下?

津波に対して感じるリスク(知覚リスク)が、
東北地方太平洋沖地震以降、逆に低下している
可能性があります。

------------

行動経済学の研究で明らかになっている

「バイアス」(知覚や思考のゆがみ)

のひとつ、

「アンカリング(係留)」

はご存知でしょうか?

具体例で示すと、

定価「2万円」のところ半額の「1万円」

といったセールの値札を見た時、
2万円が比較の基準となっているため、
1万円が安く感じますよね。

これは、「アンカリング」がもたらす
バイアスです。

値札情報として提示されている

2万円

が基準点=係留点となり、

「2万円に比べたら1万円は安いな」

という、1種の錯覚を起こさせて
いるわけです。

上記の例のように、
アンカリングはマーケティングや
販売の施策でよく活用されています。


さて、話を戻しますが、
2011年の東日本大震災はとりわけ、

「津波」

によって甚大な人的・物的被害をもたらしたにも
関わらず、津波に対して人々が感じるリスクが、
逆に低下している可能性を示唆する調査結果が
あります。


大木聖子氏ら(東京大学地震研究所助教)は、
大震災のちょうど1年前、2010年3月に日本全国
を対象する調査を行い、

津波の高さに対して危険を感じる度合い

を調べていたのです。

設問としては以下のようなものでした。

------------------------

Q.あなたは、どのくらいの高さの津波を
危険だと感じますか?

(1) 10cm以上
(2) 50cm以上
(3) 1m以上
(4) 3m以上
(5) 5m以上
(6) 10m以上


Q.あなた自身は、どのくらいの高さの津波で
 実際に避難行動を開始しますか?

(選択肢は前の設問と同じ)

-------------------------

そして、震災後の2011年4月には、
震災の直接の被害を受けていない地域、
静岡県以西、瀬戸内海に面する17府県の人々に
対して同様の質問をしたところ、

「震災後、津波に対するリスク感度は
 高くなっているだろう」

という予想(仮説)に反する答えが得られたのです。


震災の1年前は17府県の人々は、

・3m未満でも危険と回答:70.8%

でしたが、震災直後は

・同:45.7%

と大きく低下したのです。

また、実際に避難行動を開始する津波の高さに
ついても

・(震災前)3m未満で避難を開始する:60.9%
・(震災後)同:38.2%

とやはり大きく低下。

津波に対するリスク感度は、
全体としては鈍くなっているという結果に
なったのです。


なぜこんな結果になったのでしょうか?

その有力な理由(仮説)として考えられるのが、

「アンカリング」

なのです。

震災後、マスコミ報道では、

「大船渡の津波23m」

「津波37.9m 国内最大級 宮古・田老地区」

といった表現が繰り返し流されました。

いかに「高い津波」が
東北を襲ったかが強調されたのです。

こうした報道を目にした人々にとっては、

3m未満の津波

はそれほど大したことがないように
感じられるようになってしまった。

つまり、23mに対して3mという高さは
アンカリング効果によって過少な数字に
見えてしまっているのではないかと
考えられるのです。

現実には、50cmの津波でも、
人々は立っていることができませんし、
木造家屋は、2mの津波で多くが全壊して
しまうほどの脅威があるのですが。


大木氏は、この調査結果が示すように、
情報の提示のされ方によって、
人々のリスク感度が鈍くなる可能性を
踏まえて、

「1mで木造家屋は半壊、2mでは全壊」

といった平時には伝えられている基本知識を

災害発生時の報道や防災無線の呼びかけ

においても、付け加えるべきこと。

また、「10mを越える大津波」といった
表現をする際には、

「1mでも危険である」

という注意を補足することを提言しています。


アンカリングは、私たちの

無意識の直感的判断

に影響するだけに、単に

「心がける」「気をつける」
だけでは制御することが難しいもの。

適切な情報提供の工夫が必要なのです。


*津波の調査については、

『リスクの社会心理学』

のコラムを引用しました。


『リスクの社会心理学』
(中谷内一也編、夕斐閣)

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

赤青白のサインポールのない床屋なんて・・・

製品・サービス選択時の評価や意思決定を
無意識に行なわせる

「シグナル」(合図)

は極めて重要な働きをしています。


今年(2012年)8月末、事務所(文京区本郷)の近くに

「1,000円床屋」

がオープンしていました。

この理髪店のある通りはほぼ毎日通っているのですが、
開店して数日はまったく気づかなかったのです。

友人に教えられてようやく

「あれ、そうなんだ!」

と驚いた次第。

ちょうど髪を切ろうと思っていたところだったので、
早速入ってみたところ、閑古鳥が鳴いていました(笑)


チェーン店ではなく、個人での開業です。

徒歩10分圏内に同一価格帯の競合店はなく、
また東京大学も近いことから、立地としては

「穴場」

だと思われます。

オーナーさんに髪を切ってもらいながら、
話をしたところ、開業したてだし、夏休み中で
学生さんも少ないので、駅前でチラシを配布する
などの販促はまだ行なっていないとのこと。

まあ、最初から千客万来とは行かないにしろ、
お客さんが少ないのは残念なこと。

もちろん、開店したてで、そもそもの存在が
認知されていないのが最大の原因であるのは、
オーナーも自覚していました。

とはいえ、私自身、毎日前を通っているのに
気付かなかったのは、床屋でおなじみの

「サインポール」(赤・青・白の渦巻き模様)

がまだ手配中で届いていなかったという理由が
大きい。

料金などを表示した「立て看板」は、
外の見えるところに出してありました。

しかし、あのサインポールがないと、
たとえ床屋だとわかったとしても、
なんとなく店に入る気がしないものです。


私たちは小さい頃から、

「あのサインポールは床屋さんだ」

ということを経験などを通じて繰り返し学習し、
無意識に結びつけるようになっています。

「赤青白のサインポール」→「床屋」

という条件反射が形成されているというわけですね。

したがって、サインボールがない場合、
「床屋」であるとの連想が起こらず、

「たぶん床屋なんだろうけど、大丈夫かな・・・」

という不安をかきたててしまうのです。

つまり、床屋にとって、あのサインポールは、

「うちは正真正銘の床屋です」

ということを直感的に知らせることのできる

「シグナル」(合図)

としての重要な役割を果たしているのです。

ちなみに、冒頭の1,000円床屋の店頭には、
先日からサインポールが存在感を示しています。

やっぱりあれがあると違う!
今後、来店客は着実に増えていくことでしょう。


さて、床屋に限らず、私たち消費者はあらゆる場面で、
「評価」や「意思決定」を楽にすばやく行なうため、

「シグナル」

を利用しています。


たとえば、有名ブランドの

「ロゴマーク」

もシグナルの一つ。

私たちは、どれを選んでいいかわからないとき、

「ロゴマーク」

で選択することが多いものです。

有名ブランドは、

「品質」や「安全性」

などが、まず大丈夫であるということが、
過去の経験(本人、他人の経験や伝聞含む)
からわかっています。(そのように学習済みです)

だから、有名ブランドのロゴマークは、

「購入してもまず失敗しない商品」

というシグナルとして機能しているわけです。


また、思わぬものが

「シグナル」

の役割を果たしていることもあります。

ある通信講座のダイレクトメールでは、
資料請求をしてもらうためのレスポンスレター内の

「申し込み欄」(FAX用)

をカットしました。

今や多くの人がFAXは利用せずeメールで申し込んでくる。
だから、FAX用の記入スペースは不要と考えたのです。

ところが、eメール経由を含め、
資料請求数が大きく減ってしまいました。

なぜかというと、
レスポンスレター内の

「申し込み欄」

は、このレスポンスレターは

「資料を請求するためのものである」

というシグナルの役割を果たしていた
からなのです。

すなわち、実際にはeメールで資料請求するに
しても、申し込み欄は、

「資料請求」

という行動を呼び起こす呼びかけ(call to action)
としての働きをしていたのですね。

そこで、この通信講座では、
すぐに申し込み欄を復活させたそうです。


さて、あなたのビジネスにおいては、
ターゲット顧客が好ましいイメージや行動に
結びつけてくれる「シグナル」はなんでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

同調すると「絆」が深まる

私たち人類を含め、「集団(群れ)」で生活する
動物たちは、お互いに相手の動きなどを真似し、
「同調」することを喜んで行ないます。

そうすることが、生き残りに有効であるからです。

また、「同調」は、運命共同体としての集団を
維持する上で不可欠であるだけでなく、お互いの
「絆」を深める効果があります。


動物には、単独で行動するものと、
群れを作って行動するものがいますね。

どちらも、厳しい環境に適応してきた進化の結果
としての行動パターンであり、どちらのほうが、
優れている・劣っているといったものではありません。

それで、群れで行動する動物たちは、
集団で生活し、助け合った方が生き残りに
好ましいということでそうしているわけです。

例えば、集団で飛ぶ渡り鳥たちは、
最も風を受け、エネルギーを消耗しやすい
先頭の役割を交替でこなしています。

そうすることで、目的地に確実に行くことが
可能になる。

また、天敵の大魚に狙われたいわしの群れは、
全体としてまとまり、巨大な球状の固まりと
なることで、大魚を圧倒しようとします。


さて、このようにお互いに助け合うことで
生き残りを図る「運命共同体」における個体
(個々人)は、

「他者と同調すること」

が基本的な行動となっています。

「同調」とは、文字通り相手の動きを
真似したりして同じ行動を取ることです。

同じ行動が取れるからこそ、
いざというとき、力を合わせて外敵に
立ち向かったりすることができる。

すなわち、「同調」は、
お互いを助け合うことにつながっている。

したがって、

「同調しあうこと」

はお互いの関係性=「絆」を深めること
にも役立っているのです。


私たち人間も、小さいころから

「同調すること」

を自然に学び、それを喜びと感じるように
なっています。

例えば、親と子供、あるいは友だち同士で、
リズムに合わせてお互いの手を打ち合わせる
素朴な遊びは世界のあらゆる地域で見られるもの。

また、恋人たちは、一緒に散歩し、
一緒にご飯を食べ、同じ映画を見て
一緒に泣き、あるいは笑い、また一緒に
踊ったりといった

「同調行動」

を通じて「絆」を深めていきます。


ですから、逆に言えば、
自分に対する相手の好感度を高め、
双方の関係性を深めたければ、
積極的に相手に同調しようとすることが
大切だということです。

セールスのテクニックのひとつに、

「ミラーリング」

というものがあります。

これは、相手がコーヒーを飲んだら、
自分もコーヒーを飲む。手を組んだら、
自分も手を組む、といったように、
相手の動きを鏡のように真似をすることです。

すると、相手の自分に対する好意が強まり、
商談に成功する確率が高くなることが
わかっています。

また、飲食店で接客係が客のオーダーを
取るとき、単に「かしこまりました。」
と言うのではなく、

「ご注文は、サーロインステーキですね!」

などと、客の注文内容をそのまま繰り返した方が、
チップの額が多くなるという実験結果もあります。


これは、外国での実験ですが、
チップの習慣のない日本の飲食店においても、

「オーダーの復唱」

はお客様の好感度・満足度を高め、
リピート率向上につながることが期待できます。


「人に合わせるのは苦手」という方も
結構多いと思います。(私もそうですw)

しかし、お客さんの好意を得たかったら、
また、大好きなあの人の心を射止めたかったら、
積極的にその人と同調行動を取る機会を作ること
をおすすめします。


(参考文献)

『共感の時代へ-動物行動学が教えてくれること』
(フランス・ドゥ・ヴァール著、柴田裕之訳、紀伊國屋書店)

投稿者 松尾 順 : 11:19 | コメント (0) | トラックバック

「発ガン物質」に過剰反応してしまうわけ

今年(2012年)4月の発売以来、
「特保」の認定を初めて受けたコーラ系飲料として、
好調な売れ行きを見せていた

「キリン メッツコーラ」

ですが、コーラの着色料として使われる

「カラメル色素」

の副産物として発生する

「4-MI」(4-メチルイミダゾール)

は、米・カリフォルニア州では

「発ガン物質」

として規制の対象となっていることが報道され、
消費者の不安をかきたてていますね。


この報道を受けて、
キリンでは以下のような公式発表を出しています。
(一部抜粋)

-------------------------------------------------

カラメル色素はもとより、商品に含有される4-メチルイミダゾール
の安全性については、国内および海外における各種公的機関の食品中
の4-メチルイミダゾールに関する安全性評価に基づき評価しております。」

当社見解としては、

「体重50kgの大人で、1日約16L(480mlペットボトル30本以上)」

を毎日飲み続けなければ、安全性に問題がないと判断しております。

また、表題の商品は特定保健用食品であり、1日あたり480ml
ペットボトル1本を摂取目安量としていることから、上述の安全性を
確保できるものと判断しておりますのでご安心してお飲みいただけます。

---------------------------------------------------

そして、もちろんメッツコーラは継続販売。
「明日のジョー」のコマーシャルも引き続き流れていますね。


実のところ、「4-MI」は、
コカ・コーラやペプシコーラを含む、
他のほとんどのコーラ系飲料にも含まれているもの。

メッツコーラだけが特別なわけではありません。

そもそも、私たちが普段口にしている天然の食物にも、
発ガン性が認められるものがいろいろとあります。


私たちが気にしなければならないのは、

「どの程度摂取するか・しないか」

ということです。

要するに‘食べ過ぎたら’危ないよということ。

適量であれば、発ガンリスクは極めて低いと
考えられるのです。

例えば、

「アルコール飲料」

もれっきとした「発ガン物質」として認定されている。

だからといって、好きなお酒を完全に止めてしまう人
は少ないでしょう。

多くの人は、過剰摂取しないように注意しながら、
引き続き楽しむのではないでしょうか。
(私もそうします。酒なくして何が人生か!)


しかし、これが理性的な判断・行動であるにも関わらず、
食品の安全性については、消費者が過剰反応してしまう
傾向がありますね。

なぜ、私たちは過剰反応してしまうのでしょうか?

ひとつには、マスメディアが、断片的、一面的な情報
しか伝えないため、いたずらに消費者の不安をあおり
がちであるということがあります。

もうひとつの理由は、古代の祖先にさかのぼります。

医学がまだ発達していない時代、
私たちは生き延びるため、「摂取量」に関わらず、
とにかく「毒」があると判断される食物は食べない
ほうが良い、ということを学んできた。

こうして、私たちは本能的に「毒」と感じられる
ものを避けるようになってしまったのです。

リスク研究で知られる心理学者、
ポール・スロヴィックは、人々の毒に対する
このような反応を

「直感的毒性学」

と呼んでいます。


理性的に考えれば、

「毒は投与量によって決まる」

ものであり、むしろ、

「適量の毒は、病気の治療にも使えるのだ」

といったことも理解・受容できるのですが、
感情的・直感的には、

「毒は少量でも回避したい」

という気持ちを抑えることは無理なのです。


また、私たちは基本的に

「損したくない」

という意識、すなわち「損失回避傾向」が
とても強いため、たとえ極めて低い確率であっても、
なるべくリスクを取らないことを好みます。

以上のような理由から、私たちは

「発ガン物質が含まれている」

と聴いただけで感情的にわさわさして
過剰反応してしまうのです。


したがって、身体の健康に直接影響がある
製品を作っているメーカーとしては、

消費者の反応は感情的・直感的なものであり、
「理屈」があまり通用しないこと

を踏まえて適切なコミュニケーションを
しなければならないということになります。
(難しい課題ですが・・・)


*「キリン メッツコーラ」に含まれるカラメル色素の安全性について
(キリンビバレッジ WEB品質保証室)

(参考文献)

『リスクにあなたは騙される-「恐怖」を操る論理』
(ダン・ガードナー著、田淵健太訳、早川書房)

投稿者 松尾 順 : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

最大のセキュリティホールは「自信過剰バイアス」

どんなに優れたウィルス対策フトがあったとしても、
現場の人間の意識が低いと、簡単にセキュリティが
破られてしまう。

すなわち、

「人の弱さがセキュリティの弱さにつながる」

と、情報セキュリティのプロフェショナル、
佐藤元彦氏(伊藤忠テクノソリューションズ)は
考えています。


このところ、メールなどに添付したウィルスで、
特定の企業・団体の情報システムへの侵入を狙う、

「標的型サイバー攻撃」

が増えていますね。

2011年10月に起きた、参議院議員に送付された
攻撃メールの被害調査を担当した佐藤氏によれば、
最近の情報セキュリティ関連の案件は、

「新規の依頼を断らなければならないほど増えてきた」

とのこと。

佐藤氏の部署に依頼が殺到する理由は、
被害を受けた組織のセキュリティ管理体制など

「人」

の側面からも感染に至った経緯を分析できる
総合力だそうです。


佐藤氏はヒューコムを経てCTCテクノロジーに転職後、
情報セキュリティサービス部門の立ち上げに参画、

「情報セキュリティ」

について貪欲に学んで知識を深めていったのですが、
一方で新たな悩みが生まれてきました。

それは、対策ソフトの導入の重要性を認識していながら

「自分だけは大丈夫!」

とソフトのインストールを怠ってしまう人がいること。

そこで、佐藤氏は「行動心理学」や「社会科学」などの
勉強も開始し、対策ソフトだけでなく、人の側面からも
セキュリティを高める総合的な対策を考えるように
なったのです。

佐藤氏は、

「人がセキュリティの弱点になり攻撃者は常にそこを狙う」

ということを実感しています。

例えば、「標的型攻撃」は意外なことに、
既にウィルス対策のための

「修正プログラム」

が出ている脆弱性を狙うものが多いのだそうです。

人の弱さが、「修正プログラム」を迅速に
インストールすることを妨げてしまうことを
攻撃側はわかっているのです。

システムの脆弱性ではなく、
むしろ、人の脆弱性を突いてくる。

すなわち、最大のセキュリティホールは、
実のところ、現場の「人の弱さ」にあると
言えるのかもしれません。


さて、佐藤氏が「人の弱さ」と指摘する

「自分だけは大丈夫!」

という意識は、行動経済学では

「自信過剰バイアス」(Overconfidence bias)

と呼ばれています。

このバイアスは、

「自分は他人と違う存在でありたい」

という欲求が根底にあると考えられていますが、
現実以上に自分が周囲の情報を十分に把握していると考え、
また、自分の能力に現実以上に自信を持つ傾向のことです。

自信過剰バイアスは、言い換えると

「根拠なき自信」(笑)

と呼んでもよく、起業するときなどには、
大きなリスクを積極的に取りに行く原動力
ともなりえます。

しかし、セキュリティ対策においては、

「自信過剰バイアス」

は、大きな被害をもたらしてしまう
やっかいな意識です。

振り込め詐欺でも、

「自分は絶対に引っかからない」

と「自信過剰バイアス」の強い人ほど、
簡単にだまされているのです。


他のあらゆることにも共通することですが、
システムの整備だけで万全ということは
決してありません。

最後は個々人の「意識・行動」次第であること
を忘れてはいけないのです。

「自信過剰バイアス」は強弱はあれ、
誰もが持っているもの。

これによって大変な失敗をしないためには、

「ひょっとしたら、自分の今の考え方・行動は
 間違ってるかもしれない・・・」
(いつでも自分が正しいということはない


と「健全な危機感・不安感」を
常に持つように心がけておくべきでしょう。


*佐藤元彦氏のお話は、
 日経産業新聞(2012/08/30)の記事から
 引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:35 | コメント (0) | トラックバック

消費者行動の「記述モデル」と「戦略モデル」

消費者の心理や行動の変化についてのモデルには
様々なものがありますね。

最も典型的で良く知られているのは

「AIDMA」

でしょう。すなわち、
消費者の心理・行動は、大きくは以下のような
プロセスを経るというモデル。

-----------------------------

A:Attention(注意)
I:Interest(関心)
D:Desire(欲求)
M:Memory(記憶)
A:Action(行動)

------------------------------

また、インターネットが私たちの生活に
深く根ざしつつある現在において、

「AIDMA」

よりも的確に消費者行動を説明できるモデル
として電通が提唱したのが、

「AISAS」

でしたね。

「AISAS」のプロセスは以下の通り。

------------------------------

A:Attention(注意)
I:Interest(関心)
S:Search(検索)
A:Action(行動)
S:Share(共有)

------------------------------


実のところ、「AIDMA」のモデルが有効で
あった時代においても、AISASで登場した
新たな行動、すなわち

S:Search(検索)
S:Share(共有)

は別の形で‘細々と’行なわれていたわけです。


「検索」について言えば、
パンフレットを企業から取り寄せたり、
ショールームに行くなどの行動をしていた。

これらは、「検索」というよりは

「情報収集」

という言葉が適切ですね。

また、「共有」について言えば、
家庭や職場などで、商品についての評価が
会話を通じて共有されてきたのです。


ただ、インターネットの浸透、
そして、ソーシャルメディアの登場により、

「検索」および「共有」

がとても簡単になった。

その結果、消費者の心理・行動の変化
のプロセスにおいて、

「検索」および「共有」

は多くの消費者が行なう一般的な行動となり、
また、購買行動に大きな影響を及ぼすように
なったことから、

「AISAS」

という新しいモデルが開発されたというわけです。


さて、上記の「AIDMA」「AISAS」などの、
消費行動の「ありよう」を説明するモデルは、

「記述モデル」(Descriptive Model)

と呼ばれています。

現象を観察して主要な「概念」を抽出し

「仕組みやプロセスはこうなっています」

と説明するためのもの。


ただ、マーケターが、
マーケティング戦略・施策を検討する際には、
こうした「記述モデル」を「戦略モデル」に
読み替えて活用しています。

記述モデルはあくまで現象を
ある形で切り取っただけにすぎないもの
だからです。

一方、

「戦略モデル(Strategic Model)」

は、マーケティング戦略・施策を通じて

「消費者の心理・行動をこうする・こうするべき」

という「働きかけ」を説明するモデル。

例えば、「AISAS」であれば以下のようになるでしょう。

------------------------------

A:Attention(注意) →注意を向けてもらう
I:Interest(関心)  →関心を持ってもらう
S:Search(検索)   →検索してもらう
A:Action(行動)   →行動(資料請求や購買)をしてもらう
S:Share(共有)    →共有してもらう

------------------------------

いかがでしょうか?

戦略モデルにおいては、
こうした「動詞的な表現」をすることによって、

「どんなマーケティング戦略・施策を展開すべきか?」

についてのアイディアが出やすくなるのではないでしょうか?


なお、私は、戦略モデルの説明において大事なのは、

「○○してもらう」

という「相手(消費者)寄りのソフトな表現」
にすることではないかと思っています。

というのも、企業寄りの押し付けがましい表現、
例えば

・注意を向けさせる
・関心を喚起する
・検索させる

といった表現にしてしまうと、
企業本位のひとりよがりなアイディアしか
でてこなる可能性があるからです。


マーケターは、消費者の心理や行動を
強制的に変えさせることはできません。

あくまで、消費者自身が

「その気」

になってもらえるように仕掛ける必要がある。

そのためにも、消費者寄りの表現が望ましい
と思うのです。

マーケティング戦略・施策に用いる、
消費者心理・行動の「戦略モデル」を
設定する際にはぜひ気をつけてください!

投稿者 松尾 順 : 13:34 | コメント (0) | トラックバック

「人の目」の威力

知らないうちに、ありとあらゆるところに
設置されている「防犯カメラ」。

防犯カメラの設置には賛否両論ありますね。


ただ、先日の「ガイアの夜明け」(2012/8/7放送)で
紹介された消費者調査の結果によれば、

「防犯カメラで自分が写されていても気にならない」

という回答が約8割となっており、
意外と気にしない人が多いようです。


プライバシー侵害等の不安も確かにあります。

しかし、むしろ、一般市民にとっては、
防犯カメラが設置されていることの

「安心感」

のほうが大きいのではないでしょうか。

防犯カメラには大きくは2つの効用があります。

ひとつは、先日のオウム真理教元信者の高橋克己容疑者
の逮捕で活用されたように、犯罪者を特定したり、
逃亡ルートを追うことで、検挙率を高めることができること。

また、近年進歩が著しい「顔認識技術」を使って、
街頭などの防犯カメラに映った人々の中から、
逃亡中の指名手配犯を探し出すことも可能となっています。

これは、従来の、

「見当たり捜査官」

と呼ばれる刑事が指名手配犯の顔写真を数百人覚え、
雑踏を歩き回り犯人と思われる人物を探し続けるという
地道な方法の代替技術となりそう。

昨今の顔認識技術では、カツラやサングラスなどで
かなり変装していても、同一人物かどうかを判定できる
ようですので、逃亡犯の検挙率も高まることになるでしょう。


防犯カメラのもうひとつの効用は、
防犯カメラの存在自体が犯罪の発生を抑制できること。

文字通り「防犯」効果があることです。

実際、防犯カメラを設置した商店街では、
「落書き」などのいたずらが大幅に減少しています。

犯罪の温床になりがちな公園でも、
防犯カメラを設置することで犯罪の発生が減るなど、
目に見える効果につながっているようです。

すなわち、「人の目がある」「誰かに見られている」
といった意識が犯罪行為に至ることを踏みとどませるわけです。


さて、

「人の目」が私たちの行動に大きな影響を与える

ということは、ビジネスやマーケティングの視点
からも覚えておきたいことです。


例えばこんな実験があります。

ある会社のドリンクコーナーにおいてある、
紅茶、コーヒー、ミルクは有料制です。

社員が飲むたび、
自分でお金を箱の中に入れる仕組み。

オフィス・グリコのようなものですね。


研究者のメリッサ・ベイトソンは、
10週間にわたって、この会社で飲まれた
ミルクの量と箱の中に入っていた金額を
調べました。

なお、その際、1週間ごとに
ドリンクコーナーの目の高さに貼ってある
写真を入れ替えていました。

ある週は「花」の写真。

別の週は、自分を見つめているように
感じられる「人の顔」の写真です。

その結果、花の写真の週は、
飲まれたミルクの量に対して支払われた金額が少なめ。

つまり、ちゃんと払っている人が少なかったわけです。

ところが、「人の顔」の写真の週は、
花の写真の週の2倍から3倍のお金が箱に入っていた。

すなわち、ちゃんとお金を払った人が大幅に増えたと
いうことです。


興味深いのは、社員たちは、ドリンクコーナーに
貼ってあった写真がどんなものであったかほとんど
意識していなかったこと。

毎週、花や人の顔の写真が差し替えられていたのに、
それに気づいていなかったのです。

これは、人の目がまさに‘無意識に’人の行動に
影響を与えていたことを示すものでしょう。

人の目があることが人を‘無意識に’正直者にしたのです。


あなたなら、ビジネス・マーケティングにおいて、
この知見をどのように応用しますか?


そういえば、「オフィスグリコ」では、
カエル(ヨミガエルくん)の代金箱にお金を入れる仕組み。

人ならぬ「カエルの目」があなたを見ていることが、
高い代金回収率を達成できている秘密なのかもしれません。


*参考文献

『隠れた脳 - 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』
(シャンカール・ヴェンダンタム著、渡会圭子訳、インターシフト)

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●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

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投稿者 松尾 順 : 08:52 | コメント (0) | トラックバック

審判があえて誤審してしまう理由とは?

スポーツの審判が、

「誤審」

と見られても仕方のない判定・裁定を
行なってしまう背景にある

「心理的バイアス」

には、昨日ご紹介した

「集団への同調圧力」

によるもの以外にも様々ありますが、
今日は

「不作為バイアス」

を解説しましょう。


「不作為バイアス」は、
自分が行動したことによってネガティブな
結果を招くことを避けようとするため、
意思決定に当たって、できるだけ

「行動しないこと(不作為)」

を選択しようとする傾向のことです。

心理学、あるいは行動経済学の枠組みで
紹介される有名な実験に次のようなものがあります。

被験者は、あるインフルエンザの予防接種を
自分の子供に受けさせるかどうかを聞かれます。

このインフルエンザに感染すると、
3歳未満の子供の場合、命に関わることがあり、
[子供1万人あたり10人]が死亡しています。

予防接種を受けると感染を避けることができますが、
[子供1万人当たり5人]が、予防接種を受けたせいで
亡くなることがわかっているという状況です。

確率論に照らせば、つまり合理的な選択は、

「予防接種を受けさせる」

という判断になるはずです。

ところが、多くの親は、

「予防接種を受けさせない」

を選ぶのです。

なぜなら、予防接種を受けさせて、
万が一、自分の子供が死んだら、
自分の責任だと感じざるを得ないからです。

親としては、そんなことは避けたいと考え、
予防接種を受けさせないことにする。

しかし、冷静に考えれば、

「予防接種を受けさせない」

という選択をした結果、
子供がインフルエンザに罹って
不幸にも死んでしまったらどうでしょうか?

当該インフルエンザによる死亡率の高さを考えると、
予防接種を受けさせないほうが、よほど責任重大です。


ただ、人間心理として一般に、

「行動したことによる結果」

よりも、

「行動しないことによる結果」

のほうが抵抗がない。

結果に対して「自分の意志」が明確に影響を
及ぼしていないように感じられるからでしょう。

そこで、人はなるべく、結果に影響を
及ぼさないように思える

「行動しないこと=不作為」

を選ぼうとする。

これが「不作為バイアス」です。


さて、スポーツの審判の場合、
ゲーム中の自分の判定がその後の展開、
ひいては勝敗に影響を及ぼす立場にあります。

サッカーなどで、残り時間がたっぷりあって、
勝負の行方がまだまだわからないような状況では、
審判はためらいなく判定することができます。

しかし、ここでゴールを決めるか、決めないかが
ゲームの勝敗を決するような状況では、
審判はなるべく、

「(勝敗を決定づけるような)行動をしないこと」

‘無意識に’選ぼうとするようです。

つまり、基本的に、
勝敗は選手たち同士のプレイで決めさせたい。

審判の判定で勝負を決めるようなことはしたくない、
という意図が無意識に働いていると考えられます。


具体例を示しましょう。

野球についてのデータ分析の結果では、
バッターがツーストライクと追い込まれている状況
(ツーストライク・スリーボールのフルカウントは除く)で、
次にピッチャーが投げた球を見送った場合、
本当は「ストライクゾーン」に入っていたにも関わらず、
審判が「ボール」と誤審した割合が39%もありました。

これは、ツーストライク以外で見送った場合の誤審率の
2倍の数値になっています。

また、逆に「スリーボール」の状況で、
次の球をバッターが見送った場合、
本来ボールであったのに「ストライク」と
誤審した割合は20%で、全体の11%のやはり
約2倍の誤審率となっています。


なぜこのような誤審をしてしまうのでしょうか?

要するに、審判はなるべく打席を長引かせ、
バッター自身に打たせて結果(アウトかヒットか)
を決めさせたいという

「無意識の心理」

が働いているのでしょう。

言い換えると、自分の判定によって、
1塁に歩かせたり、ストライクアウトと
いった結果を招きたくないということ。

まさに、審判の誤審の背景には、

「不作為バイアス」

が働いているのだろうと、
考えざるをえないわけです。


どう考えても「ありえない誤審」はさておき、
当事者である選手同士に勝負をつけさせるために、
勝敗を左右するような決定的な判定をあえて行なわない
という審判の

「不作為」

は、ゲームを面白くしますから、
論理的ではないけれど、納得性の高い行動と
言えるかもしれません。


*参考文献

『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』
(トビアス・J・モスコウィッツ、L・ジョン・ワーサイム著、
 望月衛訳、ダイヤモンド社)

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投稿者 松尾 順 : 10:02 | コメント (0) | トラックバック

ホームゲームの勝率が高い本当の理由とは?

多くの競技スポーツにおいて、
地元で行なわれるホームゲームの勝率は、
敵地で行なわれるアウェイゲームよりも高い。

これは明確に数字として示すことのできる事実ですが、
地元開催だと、ホームチームが勝つことが多くなるのは
なぜでしょうか?

よく言われる理由としては、
以下のようなものがありますね。

-------------------------------------

・アウェイチームは遠征の長旅で疲れているから

・アウェイのゲームはしばしば過密日程になりがちで、
 アウェイチームの疲労が蓄積されやすいから

・地元のファンの熱心な応援、あるいは恫喝(笑)で、
 ホームチームのやる気が高まるから

--------------------------------------

ホームチームが勝ちやすい理由はどれかひとつに
絞られるわけではありませんが、直感的に一番影響が
大きいと思われるのは、やはり、

「地元ファンの応援」

でしょうか?

ところが、シカゴ大学ビジネススクール教授、
トビアス・J・モスコウィッツらが、サッカーやアメフト、
野球、アイスホッケー、バスケットボールなど、
過去数十年に及ぶ膨大な試合データを緻密に分析したところ、
上記3つの理由のどれも、ホームチームの勝率に影響を
与えているという結果は得られなかったのです。


では、何がホームチームの勝率を押し上げていたのでしょうか。

それは、審判の「地元びいき」的な判定だったのです。

ホームゲームとアウェイゲームで比較すると、
ホームチームに有利な判定が下されやすく、
一方アウェイチームに不利な判定が下されることが多い
ということが数字として明確に現れてきた。

例えば、野球で言えば、
ホームチームのバッターは見逃し三振が少なく、
フォアボールが多くなるのだそうです。

ストライクかフォアボールかは、
最終的には審判の主観的な裁量に委ねられています。

もちろん、誰が見ても明らかなストライク、
あるいはボールには、主観的判断はほとんど入り込めません。

しかし、ストライクかボールのどちらか微妙なコースの時、
審判は‘無意識に’ホームチームに有利な判定をしてしまう。

つまり、「ボール」とコールすることが多くなるため、
見逃し三振が減り、フォアボールが増える。


サッカーでも、
過去試合データを分析してみたところ、
アウェイチームがファウルを取られる数が
増えることがわかっています


とりわけ面白いのが

「追加タイム(ロスタイム)」

の違いです。

追加タイムは、選手交代や選手の負傷などによるゲーム
の中断時間を主審が裁量し、任意に決定できるゲーム
延長時間ですね。

過去の試合データの分析によれば、
ホームチームが1点勝っている時の追加タイムは
平均で「2分」ちょっと。

逆に、ホームチームが1点負けている時の
追加タイムは平均で約「4分」と、ホームチームが
勝っている時の2倍の長さになるのです。

素直に考えると、ホームチームが勝っている時は、
速やかにゲームを終わらせたい。逆に、負けている時
は、できるだけゲームを長引かせ、ホームチームに
得点のチャンスを与えたいという意図が主審にあると
しか思えないですね。

しかも、1点差の接線でない場合、
つまり2点以上の差でどちらかが勝っている場合、
追加タイムは、常にほぼ一定した長さで違いが
ないのだそうです。

これは、追加タイムで2点以上の差を埋めるのは、
さすがに難しいと主審が判断しているからだろうと
推測できます。


さて、審判の方々の名誉のために解説しますが、
実のところ、審判は、明確に意図して「地元びいき」
の判定・裁量をやっているわけではありません。

審判の方々はできるだけ公明正大にプレーを
見極め、正確な判定をしようと心がけているのです。

それでも、結果として「地元びいき」になってしまう
理由は、モスコウィッツ教授らの分析によれば、

「集団への同調圧力」

の影響だと考えられています。

ホームゲームでは、地元ファンの目が多い。
みな、ホームチームが勝って欲しいと願っている。

彼らは始めから「地元びいき」です。

微妙なプレーは常に、ホームチームに有利な
判定になることを望んでいるわけです!

そうした雰囲気を感じている審判は、
‘無意識’に、ホームチームに対して有利な判定を
してしまいがちになるのです。

つまり、ホームゲームの観衆の「総意」とでも
言えるものに、審判も無意識に同調してしまうというわけ。

逆に、総意に反する判定はとてもやりにくい。
ストレスを感じてしまう。

実際、ホームチームに不利な判定をした審判は、
地元ファンから大きなブーイングを受けることも
少なくないわけですから。


なお、ホームチームの勝率に審判の判定が影響を
与える大きさは、審判の主観による判定部分が多い
サッカーやバスケットボールなどで大きく、
主観的な判定部分が相対的に少ない野球などでは、
小さくなります。

この分析も、審判が「集団への同調圧力」を受けて、
主観的な判断にはバイアスがかかりやすいことを
裏付けるものと言えますね。


オリンピックでも昔から

「主催国効果」(主催国選手が活躍することが多い)

があると言われてきています。

今回のロンドンオリンピックでも、
英国のメダル獲得数が大きく伸びました。


果たして、オリンピックの審判員にも、
なんらかの心理的バイアスが生じたのかどうか、
分析してみると面白そうです。
(オリンピック審判員の方々のスキルや公明正大さに
 疑問を呈する意図はないことをご理解ください!)


*参考文献

『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』
(トビアス・J・モスコウィッツ、L・ジョン・ワーサイム著、
 望月衛訳、ダイヤモンド社)

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投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

『心でっかちな日本人』

今日は書評モードで!


『心でっかちな日本人』は、
社会心理学者、山岸俊男氏の2002年の著作です。

山岸氏には、

『信頼の構造』
『安心社会から信頼社会へ』
『社会的ジレンマ』

などの優れた著作もあります。


さて、山岸氏によれば、

「心でっかち」

とは、心と行動のバランスが取れなくなっている状態。

ひらたく言うと、
様々な社会の問題の「原因」をやみくもに

「心」

に求めてしまうこと。

「心の持ちようさえ変えればなんとかなるさ」

といった「精神論」はその極端な例です。


例えば、最近も再び社会問題化している、
学校での「いじめ」は、

「子供たちの『心』が荒廃しているから」
(ex. 思いやりの心が育まれていないから・・・)

といった紋切り型の考え方にとらわれている人は、

「心でっかちの落とし穴」

にはまった人の典型だと山岸氏は指摘します。


そして、山岸氏は、
いじめが起こる一番の原因は、

「頻度依存行動」

にあると主張しています。

「頻度依存行動」とは、

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

というギャグに代表される行動です。

すなわち、自分が「ある行動」をするかどうかは、
「その行動」を取っている人がほかに何人くらいいるか
によって決まる(依存する)ということです。


「いじめ」はどんな学校・学級(あるいは企業)にも
起こりうるということが言われていますが、それが
広がってしまう、あるいは深刻化する背景には、
「頻度依存行動」がある。

具体的に言うと、いじめをする生徒が増え始め、
ある人数を超えると、いじめを阻止しようとする
行動が取りにくくなるのです。

というのも、阻止しようとした生徒本人が、
新たないじめの対象になる可能性があるからです。

このため、積極的にいじめに加担するか、
または、黙認するしかなくなってしまうわけです。
このため、いじめが深刻化していく。

逆に、そんな状況でも、勇気を持っていじめを阻止しよう
とする生徒が出てきて、「いじめ阻止」に賛同する生徒が
一定の人数を超えると、いじめの加害者たちは、
いじめを続けることが自分にとって不利な状況に
なってくるため止めざるを得なくなる。

このように、私たちは基本的に、
集団監視下において、どんな行動に従う
(=他者の行動を真似する)のが自分にとって
メリットが大きく、リスクが少ないかに基いて、
自らの行動を決める傾向があります。

これは、いわば「集団力学」の問題であって、
いじめの原因を個々人の「心」に求めるのは、
まさに「心でっかち」と言えるというわけです。


頻度依存行動は、社会のあらゆる状況において
観察されることであり、マーケティングの視点では、

個々人のニーズや価値観、パーソナリティ(性格)

などだけでなく、頻度依存行動のような

「社会心理」

が消費行動に与えている影響の大きさを
無視してはいけないということが言えます。


『心でっかちな日本人』を読めば、
思考停止に等しい「思い込み」や「固定観念」を捨て、
現実をありのままに見る力を養うことができるでしょう。


『心でっかちな日本人』
(山岸俊男著、筑摩書房)

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投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (0) | トラックバック

「知覚リスク」をゼロにする返品の送料無料

日経ビジネスが年1回実施している

「アフターサービスランキング」

2012版の結果が日経ビジネス(2012.7.30号)で
掲載されています。

今回も様々なカテゴリー別のランキングが
掲載されている中、目に留まったのが、

「ネット通販部門」

でした。


ネット通販部門で安定して高評価を保っているのが、
セシールです。今回は2位。前回も2位でした。

セシールの高評価の理由は、

「返品の送料無料」

とのこと。

このサービスは、同社に限らず、
一般的なものになりつつありますが、
セシールの場合、他社と大きな違いがあります。

それは、製品の不備について返品送料無料で
受け付けるのは当然として、

「イメージと違う」
「思っていた色と違う」
「サイズが合わなかった」

といった、購入者側の都合でも、
返品送料無料を原則OKとしている点です。


セシールは、

「現物を見ないで購入する」

という「通販」に対する消費者の抵抗感が
まだ強かった時代にカタログ通販を始めており、

「自宅が試着室」

という考えで原則無料を始めたそうです。


さて、消費者が製品・サービスを

「購入するという行動」

は、それによって、
なんらかのニーズ(欲求)を充足できる一方で、
様々な「リスクを取る行動」でもあります。

これは、

「リスク敢行としての消費」(「ニーズ充足としての消費」と同時に)

と言われています。

この「リスク」には大きくは、
以下の6種類あるとされています。

1.機能的リスク・・・機能が十分でないかも、
  品質が良くないかも、すぐ壊れてしまうかも、
  といったリスク

2.心理的リスク・・・自分には合わないかも、
  使いこなせない(着こなせない)かも、
  といったリスク

3.社会的リスク・・・家族や友人に笑われるかも、
  嫌われてしまうかも、といったリスク

4.身体的リスク・・・ケガや病気になるかも、
  肌が荒れるかも、といったリスク

5.金銭的リスク・・・お金を損してしまうかも、
  お金が戻ってこないかも、といったリスク

6.時間的リスク・・・購入に時間がかかるかも、
  手間がかかるかも、といったリスク。


これらのリスクは、購入時に消費者が‘感じる’ものであり、
必ずしも「事実」ではありません。したがって、正確には、

「知覚リスク」(消費者が感じるリスク:Perceived Risk)

と呼ばれています。


販売側としては、
ニーズを充足できる製品・サービスを開発すると同時に、
購入時に消費者が感じる「知覚リスク」を低減できる施策を
整備することで、購入決断の「後押し」をしてあげる必要が
あります。


通販で一般的になりつつある

「返品サービス」

は、6つの知覚リスクのうち、

・機能的リスク
・心理的リスク
・社会的リスク
・金銭的リスク

を引き下げることに有効です。

しかも、セシールのように返品の送料が無料と
なれば、実質的なリスクはゼロになると言えます。


セシール始め、女性をメインターゲットとしている
通販では、ファッション関連製品を数多く扱っており、

「機能的リスク」

以上に、

「心理的リスク」
「社会的リスク」

を強く感じるものです。

ファッション関連製品は、
「感性的な評価」が重要ですからね。


通販で購入したところ、

「試着してみたらちょっと違った!」
「家族に似合わないと言われた・・・」

といった場合に、
気軽に送料無料で返品できるとしたら、
アフターサービスの満足度が高くなるだけでなく、
購入意欲を大いに高めてくれることにもなりますよね。


マーケターとしては、

「ニーズ充足」

だけでなく、

「知覚リスク低減」

にも気を配る必要があることが、
セシールの事例からもよくわかります。

投稿者 松尾 順 : 08:38 | コメント (0) | トラックバック

女性は「清潔さ」に敏感!

またまた「行動観察」に触発されたお話です。


以前、知人女性が、温泉などの脱衣場では、

「爪先立ちで歩くよ」(床が不潔だといやだから)

と言うのを聞いて、

「そこまで気にするのかあ、大げさだなあ・・・」

と思ったのですが、
同じようにしてる女性って多いんですね。


スーパー銭湯での行動観察結果によれば、
女性に特徴的に見られる行動として以下のような
ものがあったそうです。

・脱衣場の床を爪先立ちで歩く
・洗い場のイスやオケを石鹸をつけて洗う
・サウナ内では、自分で持参したマットをお尻の下に敷く
 (マットがない場合に)

私が観察した限り、男性で上記のような行動を
取る人はめったに見たことがありません。


すなわち、男性と比較して、
女性は「清潔さ」に非常にこだわることが明らか。

なぜか?
女性は子を産む性だからですね。

免疫力の弱い赤ちゃんを産み、育てる女性は、
不潔さから来るさまざまな感染の脅威を避けるため、
本能的に清潔さを求めてしまうわけです。

どうりで、トイレがきれいな飲食店は女性に受けがよく、
逆に、厨房がちょっと不潔だったりすると、どうにも
許せないものを感じるんですね。

不潔な格好をした男子を嫌うのも当然。

服は別に新しくなくてもよくて、
きれいに洗ってあって清潔に見えるかどうかが
大事なのだそうです。

なにごとにつけ基本、アバウトな私としては、

「清潔さ」

に十分気をつけたいと思いました。


『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)

投稿者 松尾 順 : 07:31 | コメント (0) | トラックバック

雨女、雨男は錯覚?

あなたは、「雨女」「雨男」という自覚がありますか?
(晴れ女、晴れ男を自認されている方もいらっしゃるでしょう!)

もちろん、本気でそう信じている人はいないと思いますが、

「自分が参加するイベント等の日はいつも雨が降っちゃう!」

などと感じる場合の‘いつも’という言葉には、
風評被害やデマが生まれる状況と同様、

「因果関係の錯覚」

が含まれています。


すなわち、

「自分は雨女・雨男だ」

という思い込みが一度生まれてしまうと、
雨が降った日のことだけが強く印象付けられ
記憶されるのです。

そして、実は晴れた日もあったにも関わらず、
雨女・雨男という認識に反する事実は都合よく無視し、
忘却の彼方に追いやってしまうわけ。


同様の例が他にもあります。

慢性の病気や古傷などが、
雨の日や寒い日になると痛くなる、
という話はよく聴きますよね。

いかにもありそうです。
真実の因果関係に感じられます。


しかし、15ヶ月にわたり、
18人の関節リウマチ患者を対象に、
毎月2回、痛みぐあいを報告してもらった調査では、
「天候」と「痛み」の間に相関は見られませんした。

それでも、患者のうち一人を除いて全員が、
天候変化が自分の痛みに関係していると感じて
いたのです。

そして、たとえ「天候と痛みには関係がない」と
説明されたとしても、患者さんとしては、

「やっぱり自分は、雨の日に痛くなるんだよ」

という思い込みを変えることはなかなか難しいようです。


このように、自分の信じたいことや、
思い込みに合致した事実やデータだけを取り込み、
そうでないものを無視してしまうことを

「選択的マッチング」

と呼びます。

プライベートだけでなく仕事や調査研究などでも、
しばしば、私たちは選択的マッチングによる

「因果関係の錯覚」

を起こし、誤まった判断・結論を導いている
可能性があります。


因果関係の錯覚を起こさないためには、

・先入観を捨てて事実やデータを見ること
・科学的なアプローチで検証すること

2点が必要ですが、少なくとも

「自分の思い込みは、100%正しいとは限らない」

という気持ちを常に持っておくべきでしょう。


*関節リウマチ患者の調査は『錯覚の科学』から
 引用しました。

『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
 木村博江訳、文芸春秋)

投稿者 松尾 順 : 09:10 | コメント (0) | トラックバック

風評被害を生み出さないために心がけるべきこと

今回は、風評被害等は

「誤まった因果関係」

から生み出されているという話です。


私たちは、日々の現象の中に一定の

「特徴」や「パターン」
(いつ見てもあまり変わらないことや、
 同じような現象が繰り返し現れるものごと)

を見つけるのが得意ですね。

例えば、遠くからでも友人が見分けられるのは、
その友人の「体型」や「歩き方のクセ」などの特徴、
パターンを認識しているからです。


また、複数の現象が「前後して」起こる場合には、
それらの間になんらかの「関係性」を見出したくなる
ものです。

とりわけ、前に起こったできごとは、
その後に続いたできごとの

「原因」

に違いないと思い込む傾向が強いのです。

科学的に検証すれば、
それらにまったく関係がないとしても、
なんらかの「因果関係がある」と信じたいのが人間です。

このため、例えば、

「クロネコが目の前を横切るとろくでもないことが起こる」

といった類の迷信やデマがたくさん生まれてしまう。


では、なぜ私たちは、前後に起きた現象に

「原因・結果の関係」

を発見したいと思うのでしょうか。

それは、原因・結果がわかると未来が予測できるからです。

未来が予測できれば、
「えさ」にありつける可能性が高まったり、
あるいは、自分の身に迫る危険を回避することができる。

すなわち、生存能力がアップする。

ですから、周囲で起こる様々なできごとの中に、

「原因・結果関係」

を発見することは、私たちにとって
とても価値あることなのです。


ただ、この心理的な傾向には弊害があります。

前述したように、科学的にはなんの根拠もない、
つまり、ものごとが‘たまたま’前後して起きたに
過ぎない場合にも、非常にしばしば

「因果関係」

を仮定してしまうという問題です。

実際、世の中には、単なる偶然に過ぎないものに
無理やり因果関係を置いた

「誤った因果関係」

が数え切れないほど流布しており、
社会全体を巻き込むような大問題につながることも
少なくありません。


たとえば、欧米では、

「子供が受けるMMRワクチン(はしかなどの予防のための
 3種混合ワクチン)は、自閉症の原因になる」

という「誤った因果関係」を信じる人が相当数います。

これは、イギリスの著名な内科医、ウェークフィールド
博士が1998年に、ワクチンと自閉症の因果関係を発見したと
公表したことが発端です。

彼の報告は、MMRワクチン接種後に自閉症を発症したとされる
子供たち12人のうち、8人の子供の親たちから聞いた言葉に
基づいたものでした。

そもそもサンプルとしての代表性がなく、
かつわずか8人の症例だけで、

「ワクチンと自閉症に因果関係がある」

と言い切るのは、あきらかに間違っていることは
いうまでもないでしょう。

実際、数千~数万人の子供たちを対象とした疫学調査では、
ワクチンと自閉症との間にはなんら関係は見出されなかった
のです。

こうした因果関係が広く信じられてしまった背景には、
ウェークフィールド博士という「権威」が発信した情報と
いうこともあるかと思います。

そして、この誤った因果関係のために
ワクチン接種を拒否する親が増え、その結果、
はしかなどに罹ってしまう子供たちが増加する
事態を招いてしまったのです。


日本でも同じような話がたくさんありますね。

つい最近もネットで拡散されている話として、

「フクシマを食べて応援と言っていた女性が
 脳障害になり大変な事態に・・・」

というものがあります。

昨年の夏から福島産の食べものを積極的に買って
食べていた77歳の女性の脳に障害が見つかり、
「痴呆症」と断定された、という内容です。

つまり、

「放射能のせいで脳障害が起きた」

という因果関係をこの話では示しているのです。


実際に、そうなのかもしれません。
しかし、そうでない可能性も高い。

高齢者ですから、なにもしなくても、
痴呆症というか「認知症」になる確率は高い。

つまり、彼女は、フクシマを食べようが食べまいが、
認知症になっていたかもしれないわけです。

彼女が福島産の食品を食べたこと、
そして認知症になったことはそれぞれ「事実」、
しかし、この間に因果関係があるということは、
現時点では単なる

「仮説」(検証される前の「仮の説」)

に過ぎない。

これが事実かどうかは検証を待たなければ
ならないのです。決して、断定できることではない。


問題は、こうした具体的なできごとが、
厳密な統計分析に基づく科学的な研究論文よりも、
はるかに高い説得力を持つことです。

一般化された話よりも、
具体的なひとつの事例のほうが、
私たちの感情を揺さぶるからですね。

ですから、

・上記のような話は単なる「仮説」であると
 冷静に受け取ることができる人

・そして、もちろん用心にこしたことはないが、
 いたずらに風評被害等を生み出すことになるから、
 無条件に信じてしまうのはやめておこうと
 考えられる人

は決して多くないのではないでしょうか?


私たちは、風評被害等を起こさないため、

「人には、やたらと因果関係を見つけたいという欲求がある」

ことを理解し、
そしてまた「科学的思考法」を学んで、

「誤まった因果関係」

を自ら生み出さない、むやみに信じないという
姿勢を身につけなければなりません。


ワクチンの事例の出所:

『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
 木村博江訳、文芸春秋)

投稿者 松尾 順 : 10:03 | コメント (0) | トラックバック

「感情」で決めて、「理性」で言い訳

嬉しい、悲しい、楽しい、むかつく、幸せ、好き・・・

こうした様々な感情は、何かを見たり聴いたり体験した際、
自然に湧き出てくるものです。

感情は「自然に湧き出てくる」、言い換えると
「無意識」に発生するため、感情の湧出自体を抑える
ことはできません。

というのも、「楽しいな!」などと、
自らの感情を知覚できた時には、当然ながら、
すでにその感情は生まれた後だからです。

(もちろん、湧いてしまった感情が高まり過ぎないように、
 操作することは可能ですね。例えば、怒りの感情が湧いた時、
 深呼吸するなどして、暴言を吐いたりしないように気をつける
 とかです。)


すなわち、私たちはあらゆる状況において、
なんらかの「感情」が「理性(思考)」に先立って
発生しているのです。

消費行動においても同様です。

ある商品・ブランドを見たとき、私たちの心の中には、
「かわいい」とか、「きれい」とか、「ダサい」とか、
パッと無意識に何らかの感情が生まれています。

そして、ある脳科学の実験によれば、
脳の変化を測定し、様々な商品・ブランドを
見た際の感情を捉えることで、

「この商品を欲しい」

と実験協力者が意思表明する以前に、
その人が購入したいかどうかを予測できることが
わかっています。


すなわち、私たちは、無意識の領域で生まれる「感情」
に基づいて、商品・ブランドを購入したいかどうかを
直感的に決めていると言えるでしょう。

ただし、その後、詳細な仕様や価格、アフターサービス
の有無などを比較検討する「理性(思考)」のプロセスが
入りますので、必ず購入に至るわけではありません。
(ガム、スナック菓子など、単価が安く身近な商品では、
 思考プロセスが省略され、多くは感情のみで購入されますが)

ですから、感情レベルで「とても欲しい!」と思っている
消費者は、「購入すべき理由」を無理やり見つけ出そうと
します。(笑)

あるいは、ともかく購入してしまった後で、
「後付けの理由」をもっともらしく語ることもあります。


アンケート調査のような、従来の消費者調査の有効性が
疑われてきた理由のひとつがここにあります。

アンケート調査では、回答者の「言語」によって、
購買理由等を聞きますが、言語化された時点で、
理性のフィルターを通ってくるため、回答者の
本当の感情(=本音)を知ることが難しいからです。


そこで、「直接脳に聴こう」、「感情を測定しよう」と
する試みが、脳科学の技術を利用した、近年注目を
集めている「ニューロマーケティング」です。

ニューロマーケティングについては、
今後、様々な切り口でご紹介していきたいと思っています。


今回、記憶にとどめて欲しいのは以下の点です。

・私たちは、自分の商品・ブランド選択において、
 多くの場合、「感情」で決めて「理性」で言い訳している。

・したがって、マーケターは、まず感情レベルで
 消費者の心を掴まなければならない。


・同時に、理性(思考)を納得させられる「購入すべき理由」
 を提示しなければならない。


*ご参考:

ニューロマーケティング ~消費者は買わされている?~
(NHK BS世界のドキュメンタリー)

投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック

予期しないものは見えない(注意の錯覚)

私たちは、周囲の状況をすべて、
「ありのまま」に見ているわけではありません。

というのも、ありのままを情報として取り込むには、
情報量が多すぎて脳の処理能力を超えてしまうからです。

したがって、その時点で自分にとって
関心がある、重要な情報に「注意」を絞りこんで、

「なんらかの変化の発生」

を予期しながら、
脳内に取り込む情報を取捨選択しています。


このため、「選択的注意」の実験として有名な、

『見えないゴリラ』

のようなことが日常でもよく起きるのです。

*『見えないゴリラ(Invisible Gorilla)』

このビデオをご存知ない方は、まずは素直に

「動画の指示」(白いシャツを着たチームが、
バスケットボールを何回パスしたかを数える)

に従ってみてください。


いかがでしたか?

すでにヒントが与えられているので、
ゴリラを見落とした方は少なかったかもしれません。

しかし、最初に行なわれた当実験では、
ビデオを見た人の半数近くが「ゴリラ」の登場を
見落としたのです。

「パスの回数を数える」という目的のため、
白シャツの人々の動きに「注意」を集めていると、
ゆっくりと横切る「ゴリラ」を見落とすというのは、
驚くべきことですよね。

おそらく、眼球では、ゴリラの存在を知覚していた
はずですが、脳内で情報処理(認知)されなかったので、
「見えなかった」ということになったのです。


ここで、「見えているはずのものを見落とす」

ということについては、

「他のことに注意を向けていたから」

という理由に加えて、もうひとつ
重要なポイントがあります。

それは、

「予期しないできごとは見落としやすい」

ということです。

先ほどの実験では、バスケをやっている人々の動画に
まさか「ゴリラ」が登場するとは予期していなかったことが、
見落とす割合を高めたのだと考えられています。


実は、

「予期していないできごとは見落としやすい」

という私たちの認知の限界(「注意の錯覚」)は、
私たちが遭遇する様々な事故の発生原因ともなって
いるのです。

例えばバイク事故では、自動車ドライバーが、
前方反対車線からバイクが直進してきていることを
見えているはずなのに、強引に左折(日本では右折)
しようとして起きる割合が高いそうです。

ところが、バイク事故を起こしたドライバーは、

「突然バイクが目の前に現れた」

などと証言するのです。

つまり、バイクが来ていることをわかっていながら、
強引に曲がろうとしてわけではないと。これは一見
「言い訳」にも聞こえますが、実際に見落としていた
可能性が高いのです。

なぜなら、自動車ドライバーにとって、
他の自動車に比べて、バイク(自転車等)は、
遭遇する回数がはるかに少ないため、

「予想外」

の存在になっているからです。

すなわち、自動車ドライバーにとって
予期しないバイクの登場は見落としやすいのですね。

ですから、バイクの数が増加すれば、
自動車ドライバーにとって彼らの登場は、
予想外のものではなくなり、事故が減少していく
可能性が考えられます。


近年、日本では趣味や通勤で自転車に乗る人が
増加しており、その結果として、自動車と自転車の
事故が増加傾向にありました。

しかし、最近の統計を見ると減少する傾向にあります。

自転車に乗っている人が、自動車事故に遇わないように
危険を避ける方法を学んだということもあるでしょうが、
むしろ、自動車ドライバーにとっては、自転車が道路上の
ありふれた存在となったため、

「予期できる存在」

になったことが大きいのではないでしょうか?


実際、カリフォルニア各都市と、ヨーロッパ数カ国に
を対象に、歩行者および自転車が遭遇する事故の割合を
調べた調査によれば、歩行者と自転車が事故に遭う件数は、

・自転車・歩行による移動が最も多い都市で最も少なく

・自転車・歩行による移動が少ない都市で最も多かった

であり、直感的な思い込み(自転車・歩行者が多いほど、
事故も多いだろう)と反した結果になっているのです。


さて、これまで述べてきた認知限界=注意の錯覚は、
裏返せば、「集中力」を発揮しているということであり、
それ自体がネガティブなものではありません。

そして、日常生活のほとんどの「見落とし」は、
トラブルになることもなく、取るに足らないものです。

しかし、自動車・自転車等の運転や、危険な工具類を
利用している時など、何らかのトラブルが大事故に
つながりねない状況では、私たちは誰もが、

「注意の錯覚」

を持っているのだ、という自覚が必要となるでしょう。


*以上の内容は、『錯覚の科学』を参考にしました。


『錯覚の科学』
(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ著、
 木村博江訳、文芸春秋)

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (0) | トラックバック

マズローの「欲求‘7’段階説」(2)

マズローが人の行動を駆り立てる「基本的欲求」と
して示した7つの欲求は、以下の通りでした。

---(欲求7段階説)------------------

1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 認知の欲求(知ること、理解すること、探求すること)
6 審美的欲求(調和、秩序、美の追求)
7 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)

(『ヒルガードの心理学』)
------------------------------------

上記7つのうち、次の2つの欲求は、
これまでほとんど紹介されることはありませんでした。

・認知の欲求(知りたい、理解したいといった欲求)
・審美的欲求(調和、秩序、美を求めること)


前回は「認知の欲求」を取り上げました。
今回は「審美的欲求」について考えてみましょう。


マズローは、著作『人間性の心理学』において、

“壁に曲がってかかっている絵を見てまっすぐにしたいという
 強い意識的衝動をもつ場合、それは何を意味するのであろうか?”

と述べています。

「強い」かどうかは個人差があると思いますが、
ほとんどの人が、まっすぐにしたいと思うのではないでしょうか。
おそらく、動物たちで「曲がっているとなんとなく気持ち悪い」と
感じるものはいません。

そういえば、自然界には「直線」は存在しないのです。
私たちが人口的に作る「直線」が日常にあふれているのは、
「秩序」を生み出しやすいからなのかもしれませんね。

興味深いことですが、私たちが調和が取れている、
美しいと感じる形状、音楽にはある程度共通性があります。

たとえば、長方形の形。縦と横の長さの比がある一定の数値の
ものに対して、私たちは無意識に「美」を感じ取ります。

同様に、人の顔が「美しいかどうか」について、
ある程度評価が一致します。よく「均整の取れた顔」と
言いますが、「左右対称性」(シンメトリ)が評価の
ポイントであることが各種研究からわかっています。

そして、そうした均整の取れた顔、また顔色を見て私たちが
感じるのは、肉体の健康さです。(もちろん、外見だけで、
正しい判断ができるとは限りませんが)

つまり、より好ましい伴侶を見つける「手がかり」として、
バランスや色合いといったものに対する、ある程度誰にでも
共通した美的感覚を発達させた可能性があります。

大自然の中に「美」を見出し、それらを愛でる心もまた、
環境変化に対する感受性を磨き、適応能力を高めることに
役立っていると思われます。

さて、なぜ、特に人間だけが、
「審美的な欲求」を持つのか(あるいは強いのか)について、
まだ私自身勉強不足です。

ただ、ひとつ考えられるのは、人間だけが自然に従うのみならず、
人工的な環境を生み出すことができる能力を持っていることが、
「審美的欲求」を発達させたのではないか、ということです。

私たちが生み出した人工的な環境、要するに「人間社会」で
追求するのは、できるだけ安定し、破綻のない構造であり仕組み
です。そのためには、秩序、調和といったものを形成したい、
保ちたいという欲求が必要になる、このことが「審美的欲求」を
私たち人間が持つようになった要因ではないかと考えています。

あなたの考えもぜひ聴かせてください!


『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)

『ヒルガードの心理学』
(スーザン・ノーレン・ホクセマ他著、内田一成訳、金剛出版)

投稿者 松尾 順 : 06:26 | コメント (0) | トラックバック

マズローの「欲求段階説」に対する誤解を解く

マーケターの皆さんが最もよく知っている心理学説は、

「マズローの欲求段階説」

でしょう。

さて、この欲求段階説に対する大きな誤解(間違った思い込み)
の一つは、

「下位の欲求が100%満たされないと上位の欲求は現れない」

というものではないでしょうか。

しかし、現実にはそうではないこと、マズロー自身も
上記のようには主張していないことを、マズローの著作
『人間性の心理学』に基づいて解説しましょう。


まず、欲求階層説とは何かについて復習です。
基本的に、以下の5段階が基本的欲求として示されています。

-------------------

1 生理的欲求(食物、水、空気、性等)
2 安全の欲求(安定、保護、恐怖・不安からの自由等)
3 所属と愛の欲求(集団の一員であること、他者との愛情関係等)
4 承認(自尊心)の欲求(有能さ、自尊心、他者からの承認等)
5 自己実現の欲求(自分がなりうるものになること)

-------------------

そして、一般的には、1番目の「生理的欲求」を最下層に、
5番目の「自己実現欲求」を最上層においた「ピラミッド図」
(もしくは「台形図」)で、階層(上下)関係が示されます。

こうした階層図を見ると確かに、5種類の欲求は

「下から順番に満たされていくもの」

という誤解をしてしまうのも無理はないかもしれません。


しかし、マズローは次のように説いているのです。

“我々の社会で正常な大部分の人々は、すべての基本的欲求に
 ある程度満足しているが、同時にある程度満たされていない
 のである。”

そして、平均的な人のそれぞれの満足度合いについて、
マズローは独断的と言いながら、以下の数字を示しています。

1 生理的欲求:85%
2 安全の欲求:70%
3 所属と愛の欲求:50% 
4 承認の欲求:40%
5 自己実現の欲求:10%

社会としてある程度安定した状況にある国に住む人々、
私たち日本人もそんな幸運な状況にある人々だと思いますが、
上記はある程度納得感のある数字ではないでしょうか?


そもそも、マズローは5つの欲求について、
これらが欠乏したときに優先して満たされるべきもの
つまり「より優勢なもの」の順番を示したのです。

例えば、「食事」と「安定」が両方欠乏している状況では、
生理的欲求がまず優先されるでしょう。(だからといって、
食欲が100%満たされなければ、安定を求めないというわけ
ではないことはおわかりかと思います。)

また、「安定」と「愛情」が両方欠乏している状況では、
多くの場合、「安定」が優先されます。
(とはいえ、どんな状況であれ、安定だけでなく、
ある程度愛情も求めるものでしょう)


マズローは、5つの欲求の「より優勢かどうか」に基づく
上下関係は、決して不動のものではないとも主張していました。

個人や社会、状況によっては入れ替わることもある。

あるいは、しばしば見られることですが、愛・所属の欲求や
承認欲求が十分に満たされている人の場合、空腹や不安などの
下位の欲求が満たされない状況に‘耐える力’があります。

また、生まれながらにして、創造への動機(例えば、絵を描かない
といられないといった、天才芸術家に見られるような衝動)が強い人は、
生理的欲求や安全的欲求が満たされなくとも、ひたすら自己実現的な
欲求を満たそうとします。


さらにマズローは、人の様々な欲求充足行動に対して、
その要因をひとつの欲求から来るものと考えるべきではないとも
述べています。

個人のある行為を分析すると、その中には、その人の生理的欲求、
安全の欲求、愛の欲求、自尊心の欲求、自己実現の欲求の、
それぞれの表れを見い出すことが可能だと、マズローは指摘して
いたのです。


マズローの欲求階層説は、消費者心理・行動を理解する上で
有用な仮説のひとつであることは間違いありませんが、固定的な
枠組みとして把握しない、活用しないようにしたいものです。


『人間性の心理学-モチベーションとパーソナリティ』
(A.H.マズロー著、小口忠彦訳、産能大出版部 改訂新版)

投稿者 松尾 順 : 11:38 | コメント (0) | トラックバック

衝動買いをしなくなってる消費者

従来、主婦の皆さんが、

「今夜作るメニューを何にするか、どの食材を購入するか」

は、スーパーマーケットなどに買い物に出かけ、
店頭であれこれ食材、特売品を品定めしながら決めている
ということが言われてきました。

実際、事前に購入するものを決めていかない、いわゆる
「非計画購買」の割合は、およそ7割-8割とのいう調査結果が
これまでは得られていたのです。


ところが、近年は逆に、メニュー・購入品目を事前に
決めてからお店にやってくる「計画購買」をする主婦が
増加傾向にあるようです。

スーパーの販売促進支援の「アットテーブル」が、
毎年行なっている全国主婦1万人調査によれば、

「事前にメニューを決めている」

という主婦の割合は、全体で6割、
20代~30代だけでみると、7割に上るのだそうです。

なお、60代以上の主婦はあいかわらず、
店頭でメニューを決める割合が高くなっています。


このように、若い主婦を中心として、
店頭での衝動買いが減っているという現実は、
店舗での販売促進活動の効果の低下をもたらす可能性が
あり、マーケターとしては見逃せない消費行動の変化です。


では、なぜ計画購買が増えているのでしょうか?

手軽に迅速に情報収集できるネットの普及が、
この背景にあることはおそらく間違いありませんよね。

また、働く主婦が増え、日々忙しい中、
買い物に当てる時間が十分にないという社会環境の
変化もあるでしょう。


PC、あるいはスマホを使ってネットで検索すれば、
様々な店舗の品揃え、特売情報がすぐに比較できます。

また、どんな献立にするかも、「クックパッド」を
始めとして、様々なレシピサイトがあります。

つまり、事前に十分な情報が入手可能なので、
お店に行く前に購入品目を決めることが簡単にでき、
おかげで、店頭でどれを買うか迷わずに済むので、
買い物時間が短縮できるというわけです。


そもそも、主婦に限らず、ネットを活用している人は

「衝動買い」

をする割合が減っているのではないでしょうか?

テレビショッピングや、ECサイトで特売品を見つけて、
「欲しい」と思っても、すぐに購入ボタンをクリックせず、

「同じ製品でもっと安いサイトが他にあるかもしれない」

あるいは

「類似品でもっとコスパの高い製品があるかもしれない」

と思ってネット検索しませんか?

そして、いろいろ検索して情報を見ているうちに、

「本当にこれ必要かな?」

なんて冷静になって、結局購入しなかったり・・・


ネット普及による、消費者の情報収集力向上によって、
衝動買い、非計画購買が減少しつつあるとすると、
テレビショッピングでよく見られる、表層的な

「煽りテクニック」(限定xx個、タイムセールなど)

の効果も低下していくかもしれません。


*販促会議(2012 July)の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:27 | コメント (0) | トラックバック

デュアルプロセッサ・ブレイン

ご無沙汰しておりました。

1年数ヶ月ぶりのブログ更新となります。
(メルマガも明日2日より再開します)

マインドリーディング、すなわち「マーケティング心理学」に
ついての研究は続けておりますが、やはり継続的なアウトプット
をしたほうが、自分自身の理解や考えが深まりますね。

これから、継続する決意を改めて表明するとともに、
楽しくブログ&メルマガを書いていきたいと思っていますので
よろしくお願いします。


さて、最近の私の最大関心テーマは、

「デュアルプロセッサ・ブレイン」

です。


これは、人間の脳で行われる情報処理は、
近年のパソコンが2個(デュアル)のプロセッサーが
搭載されているように、2つの異なる処理プロセスがあり、
状況に応じて使い分けられているというもの。


ひとつの処理プロセスは、ひとことで言えば

「直感的な処理」

とでも呼べるもので、直感的で、連想を駆使し、
努力を要さず、無意識のうちに行われるもの。


もうひとつは、

「合理的な処理」

とでも呼べるものです。

合理性のある一定のルールや手順に従い、
熟慮と努力を要する処理です。


具体的な消費行動で説明しましょう。

毎朝通勤途中の駅の自販機で「缶コーヒー」
を選択し購入するプロセスはどちらでしょうか?

おそらく、この消費行動はすでに習慣化しており、
購入するブランドもほぼ固定されているでしょうから

「直感的な処理」

です。


では、最新のエコカーを購入する場合はどうでしょうか?

これはもちろん、

「合理的な処理」

が行われるでしょう。

すなわち、購入検討対象となる複数のエコカーの
スペック(仕様)や価格、アフターサービスなどを念入りに
比較検討して、慎重にブランド選択を行うはずです。


このデュアルプロセッサブレインという概念は、
近年注目されている「行動経済学」の基本となる枠組み
だといえます。

行動経済学の領域では、「直感的な処理」を

‘システム1’

と呼び、「合理的な処理」を

‘システム2’

と呼んでいます。


行動経済学では、人の思考や行動は完全に
合理的なものではなく、しばしば非合理な思考・行動を
行うことがあるとみなし、こうした非合理な思考・行動を
生み出す、脳の情報処理のゆがみ=バイアスについての
さまざまな研究が展開されています。

すでにおわかりかと思いますが、

「非合理な思考・行動」

につながるのが、脳が持つ2つの処理システムのうち、

「直感的な処理」(システム1)

なのです。


では、なぜ、私たちは2つの処理方法を持ち、
使い分けるようになったのでしょうか?

端的に説明すれば、できるだけ思考する時間、エネルギーを
減らしたいという本能的な動機があるからです。
(消費するエネルギーが少ないほど、その消費されたエネルギーを
補う新たな労力(お金)が少なくてすみますよね)

「デュアルプロセッサ・ブレイン」については、
さまざまな視点から、今後詳しく解説したいと思います。

投稿者 松尾 順 : 13:25 | コメント (1) | トラックバック

文化と行動経済学

消費者の購買行動に与える「文化」の影響が、
相応に大きいことは、これまでも指摘してきました。

今後は、日本企業の多くが、
これ以上の成長が見込めない日本市場から飛び出し、
世界各国の消費者相手としたビジネスを
本格展開しなければならない。

ですから、各国の文化の特徴を理解すること
の重要性はますます増していると言えるでしょう。


さて、近代の経済学では、
「文化」を基本的に無視してきたことは
ご存知かと思います。

というか、人は経済合理性で行動するものである、
すなわち「得か・損か」で判断して行動する、
という前提を経済学では置いていましたから、
それ以外の要因は、文化も含めほとんど考慮して
こなかったのです。


しかし、近代経済学では人間の行動を
うまく説明できないことがはっきりしてきました。

このため、人間の非合理性にも着目する
「経済行動学」の勢いが近年は増してきています。

経済行動学でよく売れた本としては、

『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』

などがありますね。


実は、私もまだまだ勉強不足でしたが、
行動経済学では、「文化」も重要な要素として
取り込み、各種研究が進んでいるのですね。

本日(2011/03/09)の日本経済新聞「経済教室」では、
行動経済学の枠組みで、「文化の差の影響」について
の研究が進められていることが書かれています。


それにしても、そもそも、文化とは何でしょうか?

今回は深入りすることは避けたいと思いますが、
端的に言えば、特定の国やコミュニティ、組織など
において「共有されている「価値観」や「信条」が
文化です。

「価値観」とは、何を大切にすべきであり、
逆に、何を大切にするべきではないかの判断基準。

また、「信条」とは、何を信じるべきか、行なうべきか、
逆に、何を信じるべきでないか、行なうべきでないかと
の判断基準だと理解すればいいでしょう。

価値観も信条も、ものごとの判断基準ですから、
購買行動にも大きな影響を与える可能性が高いのは
当然ですよね。


本日の経済教室では、日米のそれぞれの国民の世界観に
対する確信度と子育ての厳しさとの関係についての研究が
紹介されていました。

ここで、「世界観」についての確信度とは、

‘死後の世界がある’
‘神様、仏様がいる’
‘人間は他の生物から進化した’

といった信条に対し、どの程度賛成か、あるいは
反対かということです。
(ご存知の方もいると思いますが、欧米では、
 人は神の創造物であり、他の生物から進化した
 という説は認めない、と強く主張する人々がいます。)


調査の結果では、上記のような信条に対して、
明確に賛成・あるいは反対を示す傾向が米国人に強く、
日本人は、あまり明確に賛成・反対を示さない人が
多いことがわかりました。

要するに、日本人は信条があいまいというか、
「どちらともいえない」的な人が多いということですね。

それで、上記の結果と子育ての厳しさとの関係ですが、
確信度が高い、すなわち明確な信条を持っている人ほど、
子育てが厳しいという傾向は日米とも同じでした。

明確な信条を持っているということは、
「こうすべき、こうすべきでない」という判断基準
がはっきりしていることを意味しますから、
良くも悪くも親の信条を子供にも押し付けることに
なるのは容易に推測できますね。

ただ、前述したように、日本、米国それぞれの国民全体
としてみた場合、米国人の方が信条に対する確信度が高い
わけです。

ですから、子供に対するしつけは、
米国のほうが日本よりも厳しくなるはずですね。

これは、他の調査によって裏付けられています。


このように、文化が人々に与える影響の大きさは
様々な切り口で検証されつつあります。

消費者の購買行動に対する文化の影響度合いに
ついても、さらなる研究の進展を期待したいですね。

私も折に触れ、紹介していきたいと思います。


『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』

投稿者 松尾 順 : 14:24 | コメント (1) | トラックバック

不愉快すぎるエレベーター

最近オフィスを移転されたクライアントのビルは、
エレベーターのドアがガラス張りになってます。

つまり「シースルー」なんですけど、
これ、なんともバツが悪い状況を生み出すのです。

それは何かというと、
先方での打ち合わせが終わると、
クライアントのご担当がエレベーターの
ところまでお見送りに来てくれるわけですよ。

そして、「ありがとうございました」などと
言いながら、お互い、エレベータのドアが閉まる
タイミングで頭を下げる。

そこまではいい。

で、頭を上げると、ガラス越しにまた相手と
目があってしまう。その時、どんな表情をすれば
いいのかわからない(笑)

なんとなく恥ずかしげに片手を軽くあげたりして。

つまり、オフィスビルで、エレベーターをシースルーの
ガラス張りにしてしまうのは、ちょっと落ち着かない感情
を生み出しやすいので、あまり好ましくないということが
わかりますね。


次に、東京駅・丸ビルのエレベーター。
(ショッピング・レストラーンゾーンのもの)

こちらは、ちょっとイライラさせられる設計に
なっています。

何かというと、
最近のエレベーターでは大抵ついている、

「カゴが今どのあたりを動いているか」

という表示がないのです。

ですから、エレベーターの前にいても、
いつ自分の階にカゴがくるのかまったく予測できない。


最近、都内のバス停では、次のバスが今どこの停留所
あたりにいて、到着までおよそあと何分かという表示が
ありますよね。

あんな機能があると、10分、15分待たなければならない
としても、心理的にはいらいらせずに待てます。


ところが、丸ビルのエレベーターは、
実際の待ち時間はわずか数秒、数十秒かもしれないけど、
「いつくるかわからない」という状況が軽いイライラを
生み出してしまうのです。

実際、私だけでなく、エレベーターを待ちきれずに、
すぐ後ろにあるエスカレーターに乗る人をよく目撃します。

ひょっとして、エスカレーターを使わせて、
店内を回遊させるための意図的な設計ではないかと
思ってしまうほどです(笑)


昨日のメルマガ&ブログで、日々の生活の中で、
自分の心理の微妙な変化を観察し、その理由・原因を
考えてみる「内観法」のトレーニングをやりましょうと
ご提案しましたが、今日はその具体例を示してみました。

他にも「不愉快すぎるエレベーター」って、
あなたの近くにありませんか?


余談ですが、次のようなクイズというか、
思考訓練があります。


あるホテルでは、エレベーターが一基しかなく、
朝のチェックアウト時にエレベーターが混雑するため、
「なかなかエレベーターが来ない」、といった宿泊客
からの苦情が多いという問題がありました。

施設の制約上、エレベーターは増設できません。

宿泊客のチェックアウトが集中する状況を
変えるのも困難です。

このホテルの苦情を減らす効果的な解決策を考えよ。

というもの。わかりますか?

回答は、

「エレベーターの前に鏡を設置する」

です。鏡が置いてあれば、待つ間に自分の身だしなみを
チェックできるので、待つのが苦にならないというわけです。

投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (0) | トラックバック

マーケティング心理学2つの側面

昨日(1/30)午後は、

「マーケティング心理学セミナー(初級コース)」

を開催させていただきました。

これまで社内研修で行なってきたものを
個人のマーケターさんを主対象に
内容も大幅にバージョンアップしたものです。


マーケティング心理学は私のライフワークです。

今回も相当気合入れて、準備・講義に臨みましたが、
幸い、受講された方にはご満足いただけたようです。
(さらに良いものを目指して随時改訂していきますが!)


さて、セミナーの中でもお話しましたが、
私が考える「マーケティング心理学」には
大きくは2つの側面(狙い)があります。


ひとつ目は、消費者の行動の背景にある、
人間心理のメカニズム(構造)や典型的な
反応パターンを理解すること。

例えば、簡単な例を挙げると、

・「赤」のような暖色系の色を見ると気分が高揚し、
・逆に、「青」などの寒色系の色を見ると気分が沈静する

といった、人間には、ある程度共通した
心理の変化があることを理解するのが狙いです。


2つ目は、上記の人間心理のメカニズムや、
典型的な反応パターンについての理解を下敷きに、
対象消費者の心理や行動に働きかける方法を学ぶこと。

マーケティングの「究極的な目的」は、
自社製品・サービスを販売することですが、
それはマーケティングというよりも、
むしろ、経営的・財務的な目標です。

そして、上記の究極的な目的達成のために、
マーケティング(部門・担当者)として
達成すべき「直接的目的」とは、

「主に各種コミュニケーションを通じて、
 対象消費者に働きかけ、その消費者の心理や行動を
 変えること」

なのです。

例えば、

・自社製品・サービスの名称を知ってもらう
・関心を持ってもらう
・好きになってもらう
・欲しいと思ってもらう
・懸賞に応募してもらう
・資料を請求してもらう
・無料サンプルを試してもらう

といった心理変化・行動変化が起きるように
働きかけるということですね。

以上のことはいわば、

「消費者を説得する技術」

と言い換えてもいいかもしれません。


人を説得するに当たって、
まず、人間心理のメカニズムや典型的な反応パターン
を理解しておくことがどれほど高い成果につながるか、
は言うまでもないですよね。

また、説得する技術そのものも、
既に洗練されたテクニックが数多く開発されています。


「Mindreading」という名称で私が提供する
マーケティング心理学では、以上のことを体系化した
各種コンテンツを開発していきたいと考えております。

ご興味のある方は引き続き、よろしくお願いします。

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (0) | トラックバック

香りのマーケティング

ライオンによれば、
柔軟剤の市場における「香り付き商品」のシェアは、
前年09年の75%から、201年は78%と3%アップ。

衣類からほのかに匂う香りを好む人が
どんどん増加しているようです。
(日経新聞2011/01/26)

また、「ほのか」どころか、「強烈」な匂いを
振りまく、米国ブランド「ダウニー」の日本での
人気も急上昇中ですね。

ある意味、現代の生活の無臭化が進んだおかげで、
逆に自分の好みの香りに包まれていたいという
欲求が強くなったのでしょうか。


この香りに敏感な現代人を対象に、
独特の香りを設計し、ブランディングの
一環として展開する企業が増えています。

ブランド独自の香りのことは、

「ブランドセント(Brand Scent)」

と言います。まだ本当に新しい概念であり、
ブランディングの教科書にもほとんど記載が
ありません。(私の本には収録しましたけど!)


香りは、ダイレクトに脳を刺激します。

実際、匂いを感じる感覚器官は、
他の感覚器官と異なり、脳に直結しているのです。

そして、理屈を超えたさまざまな感情を
香りを通じて喚起することができるのです。

ですから、いわゆる

「エモーショナル・マーケティング」
 (感情マーケティング)

においても中心的な役割を果たすことができます。

さて、香りがエモーショナルマーケティングにおいて
極めて有効であることを示す実験結果があります。

私たちの5感が、感情面にどの程度訴える力があるかを
調べると次のようになったのです。

ここで、「感情面」とは、快・不快、興奮・鎮静、
喜怒哀楽といった、比較的短期しか持続しない感情
のことであり、心理学では「情動(emotion)」と
呼ばれるものです。

-------------------
感覚 | 感情面に
   |与える割合
-------------------
嗅覚 | 8割
味覚 | 6割
聴覚 | 4割
触覚 | 4割
視覚 | 2割
-------------------
(出所:『嗅脳』鳥居鎮夫著、イートハーヴフロンティア)

なんと、「嗅覚」は、
感情を揺り動かす影響力が
8割もあるのです。

一方、マーケティング・コミュニケーションで
主流を占めてきた「視覚」は意外にも2割しか、
感情に訴える力がありません。

現在、PCディスプレイ画面で展開される映像などと
リンクした匂いを自動的に流す仕組みなども研究されて
いますが、香りを活用したマーケティングはこれから、
ますます注目されていくことになりそうです。

投稿者 松尾 順 : 17:03 | コメント (0) | トラックバック

福袋のリスク回避行動

今年のお正月、福袋は買いましたか?

私は最近は、「欲しいものだけ買いたい」
「あんまり冒険したくない」と考えるように
なったのでめったに買いません。


どうやら、同じような人が増えているようです。

・あらかじめ中身が書いてあるもの
・サンプルが展示してあるもの
・袋が透明になっていて中身が見える

といった福袋が主流になってきましたよね。

ECサイトで販売されてる福袋も、
冷静に考えれば、単なる「セット割引販売」です(笑)


まあ、年に1度のお楽しみにケチをつけるつもりはありません。

しかし、本来、何が入ってるかわからないという「サプライズ」
を買うという、福袋の価値がずいぶん変化してきたわけです。


そもそも、人間の購買行動には、何らかの「欲求」
を充足したいという「欲求充足行動」に加えて、
購買に伴う「リスク」を回避したいという、
「リスク回避行動」があります。

おそらく、中国やインドなど成長期にある国の人々では、
あまりリスクを恐れず、欲しいものをどんどん買うという
「欲求充足行動」が強くでます。

一方、ほとんどの欲求は一通り充たされており、
また個人所得が目減りしている日本の現状では、
「リスク回避行動」の方が、「欲求充足行動」よりも
強くなってしまうのは当然なのかもしれません。


ちなみに、「リスク回避行動」は非常に重要な概念だと
思うのですが、これに触れてある本が意外に少ないのです。

ほとんどのマーケティング本でも、
欲求、つまり「ニーズ」「ウオンツ」について
書いてないものはありませんが、
購買に伴うリスク回避を取り上げているものは
あまりないのです。

私のメルマガ&ブログ記事では折に触れ、
リスク回避行動についてご説明しますね。

最後に参考までに、リスク回避行動の6タイプ
について補記しておきます。

------------------------------------------

(1)機能的リスク

   商品の品質や性能が期待通りでないかも
   しれない

(2)心理的リスク

   商品が、自分の価値観やライフスタイルと
   合わないかもしれない

(3)社会的リスク

   その商品の購入に対して、身内や仲間から
   反対、非難、嘲笑されるかもしれない

(4)経済的リスク

   金銭や資産の損失を被るかもしれない

(5)身体的リスク
   
   けがや病気など、自分の身体に悪影響を
   及ぼすかもしれない

(6)時間的リスク

   買い替えや修理などに伴う時間的損失が
   発生するかもしれない

--------------------------------------------

投稿者 松尾 順 : 08:57 | コメント (0) | トラックバック

人間理解のための2方向のアプローチ

東洋経済(2011/01/08)に連載されている佐藤優氏の「知の技法出世の作法」に、
経済学者、中谷巌氏が佐藤氏に語った言葉が紹介されていました。

以下のようなものです。

"
経済学の基本的な知識は、頭の良い人ならば2~3年で習得することができる。ひとたび努力して知識を身に付けると、経済現象をすべて説明できると勘違いしてしまう。

近代経済学の前提となる、完全情報を持っている合理的人間というのは虚構だ。人間が合理性以外の理由で行動することはいくらでもある。

だから私は、各民族の文化とか伝統に目を向けるようになった。

マーケティングもまた、基本的には「合理的な人間」「合理的な判断・行動」を前提とする
アプローチが主流を占めてきました。しかし、現実にはそうではなく、従来の合理性偏重の
マーケティングにも限界があることが、近年はより明確になってきています。

そこで、「合理性」だけでなく、「非合理性」をも併せ持つ人間をよりよく理解するためには、
2方向からのアプローチが必要です。

ひとつは、人間の内面、すなわち心理の原理原則を掘り下げること。
それが人間行動にどのような影響を与えるのかを理解することです。

すなわち内側から外側へという方向。


もう一つは、中谷氏の指摘する、文化、伝統といった人間の外側にある
環境についての掘り下げであり、それらが人間の心理・行動にどのように
影響を与えるのかを理解すること。

外側から内側へのアプローチ。


2011年から本格展開する「マーケティング心理学」では、
「心理学」に軸足があるので、主には内側から外側へのアプローチになりますが、
人間をよりよく理解するためには、外側から内側へのアプローチも取り込みます。
学問分野でいえば、社会学や文化人類学、民俗学などもカバーするということです。


2方向のアプローチを融合することによって、
人間(の心理・行動)に対する理解は着実に深まるのだと、
私は考えています。

投稿者 松尾 順 : 14:08 | コメント (0) | トラックバック

様々なビジネスに活用されるアンカリング効果

前回、アンカリング効果の力を踏まえると、
売り手側が、価格交渉を有利に進めたければ、

「ふっかけた方が得」

ということをお話しました。


では、買い手側が、
売り手のこうした策略を避けるためには
どうしたらいいでしょうか?


最初に相手が提示してきた金額が、
とんでもないものだったら、
具体交渉に入らず、いったん席を立って
時間を置き、改めて再交渉を行うのが正解。


なぜなら、ありえない金額だと
わかっていても、提示された金額に
影響を受けてしまうのです。

なんとか調整しようと交渉を始めたら、
その瞬間から、アンカリング効果の罠に
落ちることになります。

だから、ふっかけられたら、
まず席を蹴って数字をリセットし、
再交渉の機会を持つべきなのです。


さて、アンカリング効果は、
ビジネスのあらゆる場面でまさに
‘効果的に’使われています。


たとえば、寿司屋のメニュー、
にぎり寿司(セット)の価格は
たいてい

「松」「竹」「梅」

の3種類ですね。

価格設定としては、

松・・・2800円
竹・・・2100円
梅・・・1500円

といったところでしょうか。

お客さんの懐の具合もあるでしょうけど、
多くの場合、「竹」が選ばれます。

おそらく、
この選択プロセスの背景には
こんな心理が働いているのです。

「梅」だと、なんだか
安さだけで選んだみたいで、
ちょっと恥ずかしい。

でも、「松」は高いなあ。

それに比べると「竹」は
安いから「竹」のにぎりにするか。

つまり、「松」が基準点(アンカー)
となって、実はそれほど安くもない

「竹」

が安く見えてしまうというわけです。


様々な物販店でも、
客層からみてめったに売れそうもない

値段高めの高級品

を陳列することで、
店舗の格を上げると同時に、
他の本当に売りたい商品を
相対的に安く見せるという手法が
採用されています。

いわゆる

「見せ筋」

ってやつですね。


また、これは倫理的にどうかなと
思いますが、新築の住宅を売り出す際、
最初に短期間だけ、あえて高い価格を
設定して売り出し、顧客の反応を
見ながら徐々に下げていくという
住宅販売を採用するところがあります。


例えば、立地や物件内容的には、
明らかに割高な1億円といった価格で
売り出すのです。

ここでは、1億円が基準点となり、
値下げした場合には、

「3千万円値下げして7千万円で販売」

などとチラシで訴求できます。


すると、お客さんは、

本来、当物件の妥当な価格はいくらか

という判断をする以前に、
元値より3割も安くなってお得だなという
印象を受け、購買意欲が刺激されます。

当初の1億円で売れることはないにしても、
売り手としては、利益の大きい価格で
売れる可能性が高くなるというわけです。


米国の不動産王、ドナルド・トランプは
以前、次のような告白をしたことがあるそうです。

“部下がやってきて、(建築見積)価格は、
 7500万ドルになりそうですという。

 そこで客には、「1億2500万ドルかかりますよ」
 と言っておいて、結局は1億ドルで建ててやる
 わけです。

 要するにずるいことをやってきたわけです。
 でも相手は、いい仕事をしてくれたと思っている。”


アンカリング効果とは、要するに
比較可能な「基準点」を示すことで、
相対的な「差」が際立って見える効果です。

ですから、価格以外にも使えます。

例えば、自分が痩せてるように
見せたければ、自分より太めの友人と
歩くとか(笑)


ただ、アンカリング効果は、
価格において最も顕著に見られることが、
行動経済学では判明しているので、
買い手側はほんと要注意です。


また、商売(売り手)としては、
倫理的な問題をクリアしつつ、
うまく活用したいところです。


(参考文献)

『プライスレス 必ず得する行動経済学の法則』
(ウィリアム・バウンドストーン著、松浦俊輔、小野木明恵訳、青土社)

『経済は感情で動く』
(マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳、紀伊國屋書店)

『予想どおりに不合理』
(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房

投稿者 松尾 順 : 12:36 | コメント (0) | トラックバック

「ふっかけた方が得」のアンカリング効果

近年注目を集めている

「行動経済学」
は、人間が必ずしも‘合理的’に判断したり、
行動したりできるわけではないことを
実験等を通じて検証してきました。


既に「行動経済学」についての書籍が
何冊も出版されていますのでご存知の方も
多いと思いますが、

「人間の意思決定や行動」

に関する様々な「効果」や「法則」が
発見されています。


さて、こうした効果の中で、
最もビジネス、というか商売に
活用されてきたのが

「アンカリング効果」

です。


これは、最初にある数字を示されると、
無意識にそれが基準(アンカー)となってしまい、
その後の判断が影響を受けてしまうというものです。

よく引用される実験としては、
以下のような質問に答えてもらうものが
あります。


---------------------------------------------

a)国連にアフリカ諸国が占める割合は、
   65%よりも高いか、それとも低いか?

   *「65」の数字はルーレットを回して出たもの。
    協力者によっては「10」になるように細工されていた。

b)国連にアフリカ諸国が占める割合は何パーセントか?

----------------------------------------------


a)の質問文には、

65%

という数字が含まれています。

これは、ルーレットを回して出ただけの、
なんら根拠のない数字です。

実験に協力した回答者も、
そのことがわかっています。


それにも関わらず、
ルーレットが「10」=10%となった場合に
アフリカ諸国の国連に占める割合を
推測した結果は、

平均25%

でした。

一方、ルーレットが「65」=65%で
あった場合には、

平均45%

という回答になったのです。


つまり、根拠があろうがなかろうが、
最初に示された数字が無意識に基準と
なってしまい、回答が影響を受けて
しまうわけです。

なお、数字を示さない
(つまりアンカリング効果のない)
b)の質問に対する答えは、

平均45%

でした。
(正解:国連に占めるアフリカ諸国の割合:23%)


興味深いのは、
最初に示される数字が

突拍子もないもの

であったとしても、
影響力を発揮するという点です。

例えば次のような質問。


・サンフランシスコの平均気温は、
 「摂氏292度」よりも高いか低いか。
 サンフランシスコの平均気温は何度くらいか?

摂氏292度なんて、
ありえない平均気温ですよね。

もちろん、
この質問を見せられた実験協力者も、
実際のサンフランシスコの平均気温が、
3桁(100度以上)になるはずはなく、
2桁の数字を推測しました。


それでもやはり、このありえない数字を
示された人の方が、そうでない人よりも
高い平均気温を回答したのだそうです。


アンカリング効果は、
これほどまでに人の判断を左右する力を
持っているわけです。


そして、商売人たちは、
行動経済学で検証されるずっと以前から、
アンカリング効果の存在を経験を通じて
わかっており、

プライシング(価格設定)や価格交渉

において活用してきています。

端的に言えば、
アンカリング効果を考慮するなら、
売り手側が価格交渉を有利に進めたければ、

「ふっかけた方が得」

ということなのです。


外国の個人商店では、
しばしば値札がなく商店主との
価格交渉で購入金額を決めますよね。

この時、よほど善良な人でないかぎり、
商店主が最初に提示する売値は、
あきらかに「ふっかけ」の高過ぎる値段です。

なぜなら、その数字が基準となって、
利益幅の大きい高値で取引が決着する
可能性が高くなるからです。

ですから、買い手の立場からは、
よほど注意して商談しないとバカをみる
かもしれないということでもあります。


今、個人商店を例に挙げましたが、
国際間の企業対企業の大型の商談でも、
同様のふっかけがしばしばみられます。

日本人はある意味正直すぎるため、
不利な価格で契約に至るケースが多い
ようですね。

信頼関係が既にできている相手は
別として、価格交渉では、
最初に提示された数字は、
相当疑ってかかるべきでしょう。

このアンカリング効果、
ほかにも様々な場面で応用されています。

明日も引き続き、アンカリング効果を
活用している具体ケースご紹介します。


(参考文献)

『プライスレス 必ず得する行動経済学の法則』
(ウィリアム・バウンドストーン著、松浦俊輔、小野木明恵訳、青土社)

『経済は感情で動く』
(マッテオ・モッテルリーニ著、泉典子訳、紀伊國屋書店)

『予想どおりに不合理』
(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房)

投稿者 松尾 順 : 16:02 | コメント (0) | トラックバック

『「ワタシが主役」が消費を動かす-お客様の“成功”をイメージできますか?』

女性マーケティングのプロが書いた本。

『幸福の方程式』で示されたような、
新しい「消費者心理・消費行動」について、
女性の視点から具体的に解説されてます。

やはり、マーケター必読書でしょう。


昨日ご紹介した『幸福の方程式』では、

「消費」は、

新しい幸福の物語を完成させるための‘道具’

 =道具消費

に過ぎなくなりつつあるということでした。


『「ワタシが主役」が消費を動かす』の冒頭では、
まさに上記の「道具消費」の実例が紹介されています。


同書によれば、東京・表参道では、

「ゴミのポイ捨てはカッコ悪い」

という呼びかけに、学生やギャルたちが、
ボランティアでどんどん集まってくるとのこと。

そして、おそうじが終わった後、
周辺のカフェは、彼らで賑わっています。


彼らは口々に言うのだそうです。

「ここに参加すると、新しい友だちができるから」

「街をキレイにしながら、おしゃべりもできて、
 終わってからみんなで、カフェでお茶するのが楽しい」

著者の日野氏は次のように付け加えています。


カフェがクーポンを配って、コーヒーやサンドウィッチを
 買ってもらう宣伝にやっきになる一方で、早朝からカフェを
 賑わしているその集団は、「ゴミを拾う」ことを目的に
 集まった若者たちなのです。


『幸福の方程式』流に解説するなら、

「社会に貢献するという物語」
 (街をキレイにすることで社会に役立っているという感覚)

および、

「人間関係のなかにある物語」
 (志を同じくする仲間と集まり自分の居場所を確認する)

を生み出すことを通じて、
彼らは「幸福」を得ているということ、
そして、これを支援してくれる道具として

「カフェ」

が利用されているということになるでしょうね。


しかしながら、企業のマーケティング担当者は
この現実をあまり理解できません。

日野氏は、次のように愚痴っています(笑)


このような事例(表参道でゴミ拾い)があるにも
かかわらず、私たちのようなマーケティング会社が、
企業から集客企画を頼まれたときに、

「朝、街を掃除する活動をしましょうよ」

と提案しても、依頼者の頭の中は「?」マークで
いっぱいになります。

「なんで、それが販促になるんだ?」

「売上げ確保と掃除は、どんな関係があるのか?」

「コーヒーを売りたいのに、コーヒーを飲むかどうかも
 わからない客たちを集めて、労力がかかる一方だ。
 コーヒーを飲みたい、という見込み度のできるだけ
 高い客集めの企画にしてくれよ」

と鼻で笑われてしまいます。


どうやら、消費者の意識変化に、
多くの企業のマーケティング担当者は
まったくついていけていないようですね。


さて同書では、現在の不況下での

「消費者の3大意識」

として、以下を指摘しています。

(1)「いいモノをいかに安く選ぶか」

(2)「持たない、買わない、物欲減退」

(3)「環境など社会的責任意識の高まり」


また、各種調査結果に基づき、
これからの消費者は、

「次の5つの基準すべてを満たしているかどうか」

という判断で買物を決めているという説を
提示しています。

---------------------------------------------------

(1)便宜的価値(価格)
   お得、値ごろ間。この程度なら、この価格で十分。

(2)基本的価値(モノ)
   製品の性能・機能そのもの。品質の良さ、信頼性。

(3)情緒的価値(五感)
   見た目が素敵。香り、デザイン、色、肌触り、音など
   五感を刺激。

(4)個人的価値(ワタシにとって)
   自己実現ができる。ワタシにぴったり。ワタシらしい、
   ワクワクする

(5)社会的価値(共感・つながり)
   環境にも配慮したい。ワタシと誰かがつながる。
   (憧れの人、友達、未来の子供や社会、世界の人々など)
   地域活性に役立ちたい。

-----------------------------------------------------


本書は、事例も豊富です。

『幸福の方程式』と同じく、

これからの消費者心理・消費行動

を解読するための、
たくさんのヒントを与えてくれますよ。


『「ワタシが主役」が消費を動かす-
  お客様の“成功”をイメージできますか?』
(日野佳恵子著、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』

『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
 ディスカバー・トゥエンティワン)

これからの消費者心理・消費行動を解読する上で
たくさんのヒントを与えてくれる本。

マーケター必読書です。


さて、本書に示されている、

消費者心理・消費行動の変化

における最も重要なポイントは、

「消費をすることが幸福を生み出す」

という従来の考え方から、

「幸福を得るために役立ちそうな消費を行う」

という考え方へのパラダイム・チェンジでしょう。


言わずもがなのことですが、
日本の高度成長期には、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、
あるいは、自家用車、クーラーなどを買い揃えることで、
幸福を実感できたわけです。

これは、

「家族が幸福になるという物語」

でした。


その後に続いたのは、
さまざまな「ブランド」を消費することが、
幸福を生み出すという物語を追いかけた時代。

すなわち、

「ブランド消費の時代」

です。


ブランド消費の時代は、
家族ではなく「個人」が主役でした。

一定の幸せが得られるという

「保証」

のついたブランドを購入することで
個々人が幸福感を得てきたわけです。


そして現在。

モノを購入することを通じた家族の幸福物語や、
個人の幸せを保証したブランド消費はどちらも、
まったく消えてしまうことはないでしょう。


しかし、私たちは、

「新しい幸せの形、新しい幸福の物語」

をダイレクトに追求し始めています。


そして、「消費」は、

新しい幸福の物語を完成させるための‘道具’

に過ぎなくなりつつある、

というのが、

『幸福の方程式』

の基本主張です。


例えば、昔ながらの「旅行」は、
旅行そのものが目的であり楽しみでした。

しかし近年は、
東南アジアの某国にボランティアに行き、
社会貢献をすることが目的であり、そのための
ツアーに人が集まるという現象が増えてきています。


つまり、「社会貢献」をサポートするために、

「旅行」(というサービス)

が消費されているのです。


同書ではこのような、

幸福を得るのに役立ちそうだからと
何らかの商品を消費すること

「道具消費」

と呼んでいます。


さて、同書で仮説として示されている

「新しい幸福の物語」

は次の3つです。

-----------------------------------------------------

(1)自分を極めるという物語・・・個人-個人の内的感覚

 端的にいえば、何かにはまって充実した時間を過ごすこと。
 自分の内面に向かう。個人農園で野菜づくりに精を出すなど、
 あえて不便を楽しむ。オタクな世界もこの典型。


(2)社会に貢献するという物語・・・個人-社会の関係

 端的には、社会的な役割を見出し、
 自分が社会に役立っているという納得感を得ること。

 自分はそれなりに豊かな生活をしているがゆえに、
 途上国の貧困や地球環境問題に対してなんらか良いことを
 して、 罪悪感を多少とも軽減したいという
 「ギルティ・フリー」な消費行動も含まれる。


(3)人間関係のなかにある物語・・・個人-個人の関係

 端的には、自分を受け入れてくれる身近な人たちの中で、
 自分の「居場所」を見出すこと。

 従来の「家族」「会社」という、一定の役割が期待され、
 縛りのきつい居場所ではなく、かといって完全に孤立して
 生きるのでもなく、人との距離感を調整し、ちょうどいい
 距離を買う、という選択をする人が多くなってきている。

 考えてみれば、「ツイッター」は、
 人とのちょうどいい距離を自己裁量で調整しやすい
 「道具」ですね。

------------------------------------------------------

なお、上記のような幸福の物語が成立する鍵として、

・時間密度
・手ごたえ実感
・自尊心
・承認
・裁量の自由

の5つがあると同書では解説してあります。
(詳細は、同書をお読みください!)


しかし、結局のところ、
幸福をもたらしてくれる究極のキーワードは

「つながり」

なのです。

実は、これまでの家族の幸福につながる消費、
個人の幸福につながるブランド消費の背景にも、
「つながり」が隠れていました。


しかし、いまはつながりをダイレクトに
実感するために消費を行うという現象が
起きているわけです。

これが冒頭に述べたパラダイムチェンジです。


山田昌弘氏は次のように書いています。

“自分の内側、社会、周りの人々との間につながりを
 つけることが幸福を生み出すスタイルです。そして、
 人々は、つながりを求め、それを維持することに
 お金をかけ始めているのです。”


ですから、
売れる製品・サービスづくりのためには、

「新しい幸福の方程式」

を理解すること、そして人々が、

「つながり」

を生みだし、実感し、また維持することに
役立つためにはどんな製品・サービスが有効かを
考える必要があると言えますね。


『幸福の方程式 新しい消費のカタチを探る』
(山田昌弘+電通チームハピネス著、
 ディスカバー・トゥエンティワン)

投稿者 松尾 順 : 13:03 | コメント (0) | トラックバック

『ナンパを科学する- ヒトのふたつの性戦略』

‘ミラーマン’こと、元大学教授、
植草一秀氏の痴漢行為に対する実刑が確定しましたね。

植草氏自身は、「えん罪」を主張してきましたが・・・


私は、以前から

「なぜ、人(主に男性ですが)は痴漢行為をするのか?」

という疑問で夜も眠れないことがあります。


ほとんどの男性は、

「異性(人によっては同性)に触れたい!」

という性的欲求に起因する思いを
しばしば持つでしょう。


しかし、公衆の場で知らない異性(同姓)の体を
許可も得ず、勝手にタッチするなんて、
良識に照らせばとてもできることではありません。

そんなこと、相手に対してとても失礼だし、
迷惑千万じゃないですか。

痴漢の被害を何度か受けたことのある友人(男性)が
いますが、電車の中などで、知らない手が伸びてきて
局部をまさぐられたりしたら、たとえ男性でも、
ぞっとする体験でしょうね。
(幸い、私は痴漢を受けたことはありません。)


また、痴漢はれっきとした「犯罪行為」であり、
刑罰はそれほど重くはないものの、逮捕されただけでも
家族がいじめを受けたり、勤務先をクビになるなど、
当人の人生に与える影響は極めて大きい。

ですから、大多数の男性は、
実際に痴漢を行うことはありません。

(私を含め!)


結局のところ、痴漢をやる人は、
ある種の病気に罹っているのではないかとも
言われているようですが、

「痴漢の心理」

について詳しい方がいらしたら、
ぜひ教えてください。


さて、痴漢の被害者になりやすい女性の視点で、

「痴漢やナンパを受けやすい女性には、
 何らかの共通した特徴があるのか?」

を研究テーマに取り上げたのが、

坂口菊恵氏(進化心理学者)

です。

渋谷路上などでの実験等を含む、坂口氏の研究の結果は、

『ナンパを科学する- ヒトのふたつの性戦略』
(坂口菊恵著、東京書籍)

に収録されています。


研究結果の中で興味深いのは、
ナンパや痴漢にあいやすい女性の特徴のひとつとして、

“動き方がスムーズではなく、ぎこちない”

という点が浮かび上がってきたことです。

これは、ひったくりなどの
路上強盗の被害にあいやすい人の特徴とも
ある程度共通しているようですが。


また、

“姿勢の悪い歩行者”

が痴漢の標的と見られやすく、
実際によく被害にあっているとのこと。


痴漢にあいやすい人は、

“服装や髪型がファッショナブル”

という点も、
被害者の共通する特徴のひとつとして
抽出されていますが、

「歩き方や姿勢」

が痴漢を誘発している可能性がある
というのは驚きの結果ですよね。


もうひとつ興味深い点は、
一般に、痴漢にあいやすい人として、
イメージされやすいのは

「内向的(神経症的)な女性」

つまり、

「おとなしそうな女性」

ですが、実際に痴漢にあうのは、
そうした人とは限らないことです。


坂口氏は前掲書の中で、研究の目的について、

“自分(女性)が性的な対象として見られる可能性が
 あることを認識させ、どのような状況がリスクを
 高めやすいのかについて客観的なデータを蓄積する
 ことが即効性のある対処法だと思われる”

と述べています。


坂口氏のこれまでの研究では、
まだ確固たる結論は得られてはいないようですが、
痴漢の被害をなるべく避けるための対処法として、
女性の方は、服装・ヘアスタイルだけでなく、
歩き方や姿勢にも留意されることをお勧めします!


おそらく、これは男性にも有効なんでしょうね。
くだんの友人男性にも教えてあげようかな・・・


『ナンパを科学する- ヒトのふたつの性戦略』
(坂口菊恵著、東京書籍)

投稿者 松尾 順 : 17:18 | コメント (2) | トラックバック

裁判員になる方へ・・・目撃証言の信頼性

まもなく(09年5月21日から)、

「裁判員制度」

がスタートしますね。

ひとことで言えば、
米国の「陪審員制度」のような仕組みです。
(もちろん同一ではありません)


最高裁判所のWebサイトでは、
「裁判員制度」について次のように説明されています。

--------------------------------

裁判員制度とは、国民の皆さんに裁判員として
刑事裁判に参加してもらい、被告人が有罪かどうか、
有罪の場合、どのような刑にするのかを裁判官と一緒に
決めてもらう制度です。

---------------------------------

従来、刑事裁判は、
裁判官3人だけで評議し評決していました。

しかし、裁判員制度の実施後は、
裁判官3人に加えて、国民から選ばれた裁判員6人
の合計9人で、評議・評決をすることになります。


裁判員候補者としては、
社会人のほとんどの人が対象となりますね。

もし裁判員候補者に選ばれたら、
所定の理由がない限り辞退することはできません。

ですから、いつかは自分も裁判員になる日が来るかも
しれないという、心の準備はしておいたほうがいいでしょう。


とはいえ、実際裁判員に選ばれて、裁判に参加する際、
結構つらそうなのは、裁判員制度の対象となる刑事裁判は、
殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死などの凶悪犯罪
が中心となることです。

ですから、裁判によっては、
「死刑」を宣告するということもありえるわけです。

たとえ、「死刑」が、被告人が犯した罪に対する
当然の報いであったとしても、人の命を奪うという
決定を下すのは気が進まないことでしょう。


さて、裁判員となれば、事件にまつわる、
さまざまな証拠物件や証言の信頼性を
慎重に判断しなけれなりませんよね。


現場に残されていた物的証拠や指紋、
DNA鑑定など結果は、目に見える明白な事実ですから、
それほど判断に苦しむことはないと思います。
(DNA鑑定の結果が間違うこともありますから、
 100%信頼できると言えないにしても・・・)


しかし、目撃証言は、
目撃者の「記憶」に依存するため、
相当の注意が必要でしょう。

法廷に立った目撃者が、

「私は犯人の顔をはっきり見ました。あいつが犯人です。」

などと自信たっぷりに証言したとします。

おそらく私たちの多くは、
目撃者がそこまで確信を持って言うのなら
間違いないだろうと考えてしまいそうです。


しかし、人の記憶がいかに頼りにならないか、
また、過去の記憶というものは、無意識に
創作されてしまう場合もあることが、
心理学等の研究で検証されているのです。


実際、過去の裁判のうち、
目撃証言が決め手となって有罪判決が下されたものの、
後に真犯人が現れ、無罪となったケースが相当数あります。

つまり、目撃証言は明らかに間違っていたのです。

ということは、真犯人が現れなかったために、
そのまま無実の罪に問われたままの冤罪事件も
あると言えますよね・・・


最後に、心理学者によって行われた
シミュレーション実験を簡単に
ご紹介しておきます。

これは実際の事件に近い状況を
再現してみたものです。


実際の事件とは、
ある政党の本部が時限式火炎放射装置で
攻撃され、炎上したというものでした。

当事件では、残された装置の部品から、
その部品を販売した問屋が割り出されました。

そして、事件から3ヵ月後に
ある問屋が事情聴取を受けた時、
この店で事件が起きた1ヶ月前の某日に
同タイプの部品を購入した客が怪しい
という話をしたのです。

その日応対した店員は、
当日のことを徐々に思い出し、
ついに300人の写真帳から1人の人物を
選びだし、その人物が被疑者となりました。


さて、ミュレーション実験は、
事件発生から数ヶ月も経過した後の店員の記憶が
どの程度信頼できるかを検証するために行われました。

実験協力者(3人)は問屋に電話をかけ、
小売をしてもらえるかを確認した上で
店に出向きます。

そして、名刺を渡し、
品物を現金で購入するのです。

その際、
応対した店員の名前を聞いておきました。

実験協力者はスーツにネクタイのビジネスマン風。
ただし、存在を印象づけるためあえて、左手に
包帯を巻いてもらっていました。

こうして訪問した問屋は、
おもちゃ、スポーツ用品など様々な商品を
扱う125店でした。

さて、それから3ヵ月後、
実験を計画した心理学者らが各問屋を訪ね、
店員に実験の趣旨を説明した後、
3ヶ月前に来た客のことを思い出して
もらったのです。

回答を得られたのは86人の店員でした。

客の性別、年齢、髪型などの特徴について
の平均正答率は43%。

また、事前の電話の有無や販売の様子に
ついての正答率は35%。

3ヶ月前のことにしては
比較的覚えていると言える率ですかね。


しかし、写真帳を見せて、
当日来た客を選び出してもらうように
依頼したところ、86人中、29人は、
もはや顔を覚えていないとして
選ぶことができませんでした。

一方、残りの57人は何らかの写真を
選び出したのですが、なんと正しい写真を
選んだのはわずか8人。

残り49人は、まったく見たこともない人物を
選び出したのだそうです。


つまり、顔写真の正答率は、
回答者全体(86人)をベースに考えると約9%

なんらかの写真を選んだ人(57人)ベースでも、
14%に過ぎませんでした。


記憶は時間とともに急速に減衰しますから、
もっと短い間隔であれば正答率は高くなるでしょう。

しかし、時間が経てば経つほど、
人の記憶は不明瞭になり、間違った答えを出して
しまうことさえあることは忘れてはいけません。


*上記実験の出所:
『「温かい認知」の心理学』
(海保博之編、金子書房)


*裁判員制度(最高裁判所)
http://www.saibanin.courts.go.jp/

*裁判員制度の紹介
http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/index.html

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (0) | トラックバック

男は目で恋をし、女は耳で恋に落ちる

 A man falls in love through his eyes,
 a woman through her ears.

 「男は目で恋をし、女は耳で恋に落ちる」

- Woodrow Wyatt,
English Journalist and broadcaster(1918-1997)


実に洞察に富む言葉です。

イギリスのジャーナリスト、Wyatt氏は、
優れた観察力によって、男性と女性の恋愛の仕方の違いを
的確に指摘していたんですね。

石田純一氏も、
某記者会見でこの言葉を引用していましたが、
さすが稀代のプレイボーイ・・・!


さて、以前の記事、

『男の視線は女性のどこに注がれるのか』

でご紹介しましたが、Wyatt氏のこの言葉は、
脳科学の研究によって裏づけが取れています。

すなわち、男性が好みの女性を選ぶ際、
「視覚」を司る脳の特定部位が活性化します。

一方、女性が好みの男性を選ぶ際には、
「言語」と「記憶」の部位が活性化するのです。


サバンナでの狩猟採集生活が長かった私たちの祖先。

男性は獲物を探し出すために視覚を発達させていました。

そして、女性が自分の子孫を産める健康な体であるか、
また妊娠適齢期であるかを主に外見で判断してきたようです。


女性の場合は、集落に残っている仲間の女性たちと
緊密なコミュニケーションを取りながら、
家事・育児等を行ってきましたので言語能力に加えて、
言葉を聞き取る「聴覚」を発達させました。

ですから、男性を選ぶに当たっては、
男性の「声」を特に重視するようになったようです。

また、妊娠・育児期間の長期間にわたって、
責任を持って家族を守り、食料を貢げるかどうかを
きっちり男性に「言葉」で約束してもらうことを
女性は求めたのです。

ですから、聴覚に加えて、
「記憶力」も強くなったと考えられています。


どうりで、女性は男性がはるか昔に言ったことを
細部までよく覚えていて、

「あの時あなたはこう言ったじゃない」

などと責めたてるのが得意なんですね(笑)


なお、男性が、視覚優位で女性を選ぶという点は、
心理学の実験でも検証されていますね。

先日配信された有料メルマガ

『セクシー心理学GOLD』(2009-05-09号)

では、イギリスで行われた行動学の実験結果が
紹介されていました。

まず、隠しカメラで100以上の学生を対象に、
異性と話をしているところを観察したそうです。

その後、

「今の異性に対してどれだけ好意を抱いたか」

という質問をしました。

すると、男性が、好意を抱いた女性と
目を合わせていた時間は平均8.2秒でしたが、
あまり好意を持たなかった女性と目を合わせて
いたのは5秒弱だったそうです。

(女性は、好意を抱いている・いないに関わらず、
 視線を合わせる時間に変化はなかったそうです)


やはり、男性は(無意識に)視覚を駆使して
女性を選好してしまうということなんですね。


また、聴覚優位の女性にとっては、
男性の声が、好みの男性かどうかを判断する上で
重要であることも検証されていますね。

カナダと米国の研究者らは、
低い声を持つ男性の方が、より女性を引きつけ、
多くの子を持つ可能性が高いという研究結果を
発表しています。


低い声は、男性ホルモンの影響が大きいのですが、
男性ホルモンが多いほど、男性らしい体型となりますし、
女性から見たらたくましく、頼りがいがあり、
獲物を捕まえる能力も高いだろうという「判断材料」
として声が利用されているようです。


まあ、近年は女性の経済力が高まったこともあり、
必ずしも「男性性」が重視されなくなってきた
傾向が見られます。

このことが、「草食系男子」の登場を
促したであろうことも以前指摘しましたね。


*『男の視線は女性のどこに注がれるのか』

*『ユニバーサルカーブと草食系男子』

*『セクシー心理学GOLD』
http://sinri.net/gold.htm

投稿者 松尾 順 : 15:35 | コメント (2) | トラックバック

神童がプロとして大成しないのはなぜか?

以前、今は解説者として知られる、
元プロ野球選手の方が嘆いていたのを覚えています。


なんに対して嘆いていたかというと・・・

せっかく、素晴らしい才能が認められてプロ選手に
なれたのに、練習が嫌いで手を抜くことばかり考えている、
そして、毎日飲み歩くような不摂生な生活を送ってしまう
若手選手が多いことにです。


若い頃は「神童」、あるいは「天才」と呼ばれながら、
プロとして大成するのは一握り。

多くは、才能を腐らせ、
大きな花を咲かせることなく散っていく。


なぜなんでしょうか。
ずっと不思議に思っていました。


実は、「プロ」として成功できるかどうか、
言い換えると、「高みを極めることができるかどうか」
の分かれ目は、

「マインドセット」(心構え)

にあったんですね。


才能に恵まれた人が陥りやすいマインドセットは、

「才能・能力は天性のものである」

というものです。


ですから、彼らにとって「努力すること」は
ダサイこと。なぜなら、努力は才能のないものが
するものだと考えているから。


そして、学校や試合(本番)は、
自分の才能を周囲の人に見せ付ける場です。

才能があるんだから、常に勝ち続け、
また、優秀さを周囲に見せ続けなければならない。

だから、失敗は受け入れられない。
とても恥ずかしいことだから。


でも、努力をしなければ、
持てる才能の上限で能力は頭打ちになりますよね。

しかも、失敗はいやなので、
失敗するリスクのある難易度の高い課題を
わざと避けるようになる。

そして、「やればできるんだけどね・・・」
などと言い訳をして、自分のプライドを守る。

もし万が一、失敗してしまっても、
その原因を他人や環境のせいにすることで、
自分の才能に傷がつかないようにする。

こうして、まさに才能におぼれて自滅していくのです。


テニスの天才、ジョンマッケンローも
若い頃はこうしたマインドセットの持ち主
だったようです。


彼が試合に負けたとき、
決して自分に落ち度があるとは
考えなかったのです。

ある時、友人と対戦して負けたのは、
相手が恋愛中で、自分はそうではなかったから
という言い訳をしたらしいですね。


一方、天性の才能にも恵まれ、
あるいは、それほど才能に恵まれなかったとしても、
それぞれの世界で高みを極め、プロとして成功を
収めた人々もいますよね。


彼らが持っているマインドセットは、

「才能・能力は伸ばせるものである」

というもの。

だから、日々の地道なトレーニングを怠りません。
努力すれば、いくらでも優秀になれると考えている。

彼らにとって、学校や試合(本番)は、
自分の能力をさらに伸ばす場であり、
才能・能力を証明する場ではありません。


そして、「失敗」は自分のできないこと、
わかっていないことを確認できる貴重な体験です。

ですから、失敗するリスクのある難易度の高い課題には、
それを乗り越えればさらに大きく能力が伸ばせるから、
積極的にかつ喜んで取り組む。


こうしてコツコツと努力することによって、
天性の才能をさらに開花させ、あるいは、
生まれつきの才能を上回る能力を身に付けることが
できるのです。


さて、前回の記事「ほめるな、ねぎらえ!」で
ご紹介したスタンフォード大学心理学教授、
キャロル・S・ドゥエック氏は、

「才能・能力は天性のものである」

と考える人のことを

「Fixed Mindset」(邦訳は「こちこちマインドセット」)

と呼んでいます。

そして、

「才能・能力は伸ばせるものである」

と考えている人を

「Growth Mindset」(同、「しなやかマインドセット」)

と呼んでいます。


上記2つの考え方のどちらを持っているかで、
あなたが高みを極めることができるかも決まるのです。

この2つの対極的な考え方はとても面白いですよ。
次回、さらに掘り下げてみたいと思います。


*参考文献
『「やればできる!」の研究』
(キャロル・S・ドゥエック著、今西康子訳、草思社)

投稿者 松尾 順 : 12:35 | コメント (2) | トラックバック

ほめるな、ねぎらえ!

共に働く部下・スタッフたちのやる気を高め、
また維持するためには、

「ほめるな、ねぎらえ!」

ということが重要だといわれますね。


「えーと、「ほめる」と「ねぎらう」はどう違うの?」

という疑問が湧きましたか?

認める対象が異なるんです。

「ほめる」の対象は、「結果」や「能力」です。
一方、「ねぎらう」の対象は、「プロセス(過程)」です。


つまり、

「よくやった!君は優秀だ!」

などというのがほめること。

一方、

「毎日、粘り強くがんばってるな!」

というのがねぎらうことです。


所定の成果を出さない限り、
「ほめること」はそうそうできませんよね。

しかし、日々の努力は、
成果が出る・出ないに関わらず、
「ねぎらうこと」が可能です。


もちろん、部下・スタッフたちには、
所定の成果を出してもらわないと困りますから、
成果は出なくてもいいということではありません。

しかし、「ほめる」ことよりも、「ねぎらう」こと
のほうが「やる気」の維持には効果的なのです。


この理由のひとつには、
自分のことを見てくれている、気にかけてくれている
という「心の支え」を与えられることがあります。

もうひとつは、努力し続けることの重要性を認識し、
常に新たなチャレンジに立ち向かえる

心構え(マインドセット)

を醸成することができるからです。


一方、成果や能力を「ほめる」ことは、
短期的にはやる気を高めることが可能です。

ですが、長期的には自信を低下させ、努力を放棄し、
新たなチャレンジを避けるといった、

好ましくない心構え

を醸成する、マイナスの影響があることが
わかっています。


ビジネスではなく、学校教育における研究ですが、
成果や能力をほめる行為にはマイナスの影響がある
ことが実証された実験をご紹介しましょう。


スタンフォード大学心理学教授、
キャロル・S・ドゥエック氏が、思春期初期の
数百人の子どもたちを対象に行った実験です。

まず、生徒全員に、
知能検査のかなり難しい問題を
10問解いてもらいました。

ほとんどの生徒が、
まずまずの成績を取ったそうです。


テストが終わったあとで、
子どもたちに「ほめ言葉」をかけるのですが、
この時、生徒たちを2つのグループに分けました。


そして、一方の子どもたちには、
その子の「能力」をほめたのです。

「まあ、八問正解よ。よくできたわ。頭がいいのね」

といった具合です。


もう一方のグループでは、彼らの「努力」をほめました。
(これが、「ねぎらう」ということです)

「まあ、八問正解よ。よくできたわ。頑張ったのね」

といった感じ。

グループ分けした時点では、
子供たちの能力は全く等しかったそうです。


ところが、「頭がいい」と能力をほめられた子供たちは、
その後、新しい問題にチャレンジすることを避けるように
なったのです。

なぜなら、万が一、いい点が取れなかったら、
ほめられないから。そして、「自分は頭が良くない」
という判断材料になってしまうからです。

実際、その後、別の難しい問題を出されて、
あまりいい点が取れなかった時、

「自分は頭が悪いのだ」

と思い込んでしまったそうです。
(そのため自信を失ってしまい、努力しなくなった)


一方、「がんばったね」と努力をほめられた生徒たちは、
その9割が新しい問題にチャレンジすることを選んだのです。

いい点が取れるかどうかに関わらず、
難しい問題に取り組んだ「努力」が評価されることが
わかっていたからです。

ですから、難しい問題がなかなか解けなくても、
それは頭が悪いからと考えるのではなく、

「解けるようになるまでもっと頑張らなきゃ」

と考えて取り組むのです。


さて、上記の2つのグループのうち、
その後、能力がぐんぐん伸びて、結果的に
知能検査で高い成績を取れるようになったのは
どちらだったと思いますか?

もちろん、努力をほめられた、
つまりねぎらわれた子供たちでした。


この実験結果をまとめると、以下のことが言えます。

能力をほめると生徒の知能が下がり、
努力をほめると生徒の知能が上がったことになる。


この文章、「生徒」を「セールスパーソン」、
「知能」を「販売成績」に置き換えることも可能ですよね。


その本来の意義が十分理解されず、

「結果主義」

に走ってしまった企業の「成果主義」のほとんどが
失敗に終わったのは、こうした実験結果を踏まえると
必然だったのかもしれません・・・


*参考文献
『「やればできる!」の研究
 -能力を開花させるマインドセットの力』
(キャロル・S・ドゥエック著、今西康子訳、草思社)

投稿者 松尾 順 : 12:08 | コメント (0) | トラックバック

確証バイアスにご注意!

UFOや宇宙人の研究家たちが集まるコンファレンスに
先日出席した、米航空宇宙局(NASA)の元宇宙飛行士、
エドガー・ミッチェルさんが、

「地球外生命体は存在する」

と断言したそうです。
(CNN.com)


エドガーさんは、1971年、アポロ14号に搭乗して
月の上を歩いた6番目の人間なんですね。

エドガーさんによれば、
地球外生命体がいるという事実は、
米国政府を始めとする各国政府が隠し続けているとのこと。


まあ、これはなかなかうまい説明だと言えます。

なぜなら、政府が巧妙に隠し続けてきているから、

「地球外生命体の存在を実証できる確たる証拠を示せない」

のだという言い訳ができるからです。


世界中にはたくさんのUFOの目撃や
宇宙人との遭遇事件が報告されています。

しかし、万人を納得させる証拠を
今のところ誰も示せていないのが現実ですね。

いくら政府とは言えども、
証拠を隠しとおせるとは思えません。


それでも、エドガー氏のように、
地球外生命体の存在を本気で信じている人が
いるのはなぜでしょうか?


それは、人は自分の考え方や信じたいことを
支える情報のみを積極的に受けいれ、反対意見を
意識的・無意識的に抹殺する心理的傾向があるからです。


この心理的傾向のことは、

「確証バイアス」

と呼ばれています。

最近売れている行動経済学関連の本では、
「確証バイアス」の説明が必ず登場しますね。


先日書いた、雨男・雨女の記事、

「過度の因果関係づけにご注意」

も実は、確証バイアスの話でした。

本当に関係があるかどうかわからない
2つの現象の間に勝手に因果関係をつけて
しまうわけですから。


さて、「確証バイアス」は、
もっとベタな言い方をすれば、

人間はみな、多かれ少なかれ、
主観的に物事を判断するということ

だと言えます。

「なんだ、そんなの当たり前じゃないか!」

と思われたかもしれませんが、
物事や人々に対する偏見や固定観念を生み出し、
差別やいじめ、無実の人を有罪にしてしまう「冤罪」
のような様々な問題を引き起こす根本的な原因に、
しばしばなっているのが「確証バイアス」なのです。


だからこそ、私たちは、

・自分の考えや判断は主観的になりすぎていないか、
・自分の考えと反対の意見をろくに検証もせず、
 むげに退けていないか

という自問自答を忘れないようにすべきでしょう。


では、確証バイアスの危うさがわかる、
興味深い実験をひとつご紹介しておきましょう。


プリンストン大学のダーリーとグロスが行った実験です。

実験の協力者は、
小学校4年生のある女の子のビデオを見て、
その子の学力を判断することが求められました。

まず、ビデオの前半では、
半数の協力者に、女の子が

「劣悪な家庭環境に育った子ども」

であることが説明されました。

そしてもう半数には、

「中流階級の家庭の子ども」

であることが説明されたのです。


すなわち、
彼女が劣悪環境で育った子どもだと
知らされた人は、

「彼女は学力が低いだろう」

ということを予期し、
一方、中流階級の子どもだと知らされた人は、

「相応の学力があるだろう」

ということを予期するように仕組まれていたのです。


後半のビデオは、
協力者全員が同じものを見ました。


そのビデオは、
教室内で女の子が先生の質問に答える様子を
撮影したもの。

女の子は、難しい質問にも簡単な質問にも
同じように、正解したり間違ったりしていました。

また、快活に見えることもあれば、
やる気がなさそうに見えることもありました。

つまり、後半のビデオだけを見ただけでは、
彼女の学力が高いかどうかは判断できないように
注意深く作られていたのです。


こうして後半のビデオを見た後、
実験の協力者たちは、彼女の学力について、
読解力、知識、算数能力などいくつかの項目で
評定しました。


その結果、すべての項目で、
彼女の学力をより高く評価したのは、
ビデオの前半で中流家庭に育ったことを
知らされた人たちだったのです。

これは、同じビデオを見たにも関わらず、
協力者はそれぞれ、事前に自分が感じた考え(仮説)を
支持するような情報を積極的に選択したということを
意味します。


私たちは、既に物事に対して様々な事前の知識や
一定の評価(レッテル)を与えていますよね。

おそらく私たちは、毎日の生活の中でも、
自分が今持っている知識や評価を支えるような情報
ばかりを見ていて、反証するような情報は見て見ぬふり
を多かれ少なかれしているのです。


*上記実験は下記文献を参考にしました。

『超常現象をなぜ信じるのか』
(菊池聡著、講談社ブルーバックス)

投稿者 松尾 順 : 16:32 | コメント (0) | トラックバック

先が見えない「不安」、先が見えすぎる「絶望」

私は、メインのマーケティング関連のサービス
以外に、キャリアデザイン関連の仕事もやっています。

キャリアデザインの仕事に関わっていると、
人々のキャリアについての様々な悩みを聞いたり、
知る機会が当然ながら多くなるんですが・・・


このところの景気後退で増えている悩みは、

いつ現在の仕事を失うかわからない

といった、キャリアの先行きについての「不安」ですね。


まるで霧がかかっているような感覚。
人によっては真っ暗に感じているかもしれません。

前が見えないので、怖くて立ちすくんでいる、
どうしていいかわからない、ということなのです。


とはいえ、不景気になる前は、
不安がなかったかというとそんなことはないのです。

まだ、深刻な問題として顕在化していないため、
あえて不安を感じることを避けていたという人が
多いと思われます。

基本、人はばら色の未来を夢見たい。

「不幸な未来を考えたくない」

という心理があるんですよね。


さて、「不安」という心理は、

「解雇」や「降格」「減給」

のような具体的な問題として顕在化した時点では、

「焦り」や「あきらめ」

をもたらすことが多く、
不安を払拭するための行動につながりにくいと
言えます。

したがって、いたずらに
「不安」を感じないようにしたほうがいい。


しかし、平時において、
将来に対する一定の「不安」を感じていることは
むしろ必要で有意義なことです。

例えば、

「いつかこの先、もしかしたら首になるかもしれない」

という気持ちがあれば、
その時に備えて資格取得に挑戦するなど、
実際の行動につながりやすくなるからです。


さて、「今」にしか生きていない他の動物と異なり、
「未来」を予想することができる人間の心理は実に
複雑です。

先行きが見えすぎてしまってもダメなんですよね。


自分の上司の仕事内容を見て、

「この会社でがんばって昇進したところであの程度か・・・」

などと感じてしまい、
絶望したり、やる気を失った経験はありませんか?

この先がどうなるか、
あまりにもはっきりわかってしまうのは、
つまらないものです。


まあ、こんな見方しかできないのは、

「若さゆえの未熟さ」

から来ている面も大きく、
表面的には単純・簡単に思えた仕事の奥行きが、
実は意外に広いことに後になって気づくんですけどね。


先が見えないことによる「不安」
一方、先が見えすぎることによる「絶望」

どちらもネガティブな心理状態ではありますが、
前述したように、早めの不安、そしてまた絶望は、
それが未来に現実とならないためのポジティブな行動を
誘発してくれるので、勇気を持って向き合うべきなのです。


今回、キャリアをテーマに

「不安」「絶望」

といったネガティブな感情を取り上げましたが、
近年の消費行動には、ニーズ充足よりもリスク回避や
不安解消を動機とするものが多く見られます。

これについては別の機会に取り上げたいと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:18 | コメント (3) | トラックバック

サブリミナルマインド&サブリミナルインパクト

神経科学的アプローチ、
つまり脳内の反応を直接測定するメリットは、

「人のホンネが正確に読める」

ということでした。

逆に言えば、

人が言葉で語ることはあまり当てにならない

ということですね。


ただ、こう言い切ってしまうと、

「じゃあ、なんのためにアンケート調査なんかやるの?」

と言われてしまいそうです。

これに対する答えは3つあります。

1 調査対象者の行動は、「事実」としてある程度正確に把握できる。

2 購入意向などの心理状態(気持ち)についての回答も
  ある程度は信頼できるという前提に立っている。

3 他の方法よりも時間・コスト的に優位性がある


要するに、従来採用されてきた各種調査手法も、
限界はありつつも、相応の価値があるのだと言わせてください(笑)


さて、

人の言葉がいかに当てにならないか

もっと言えば、

自分の「意識」がいかにいいかげんなものか

について理解するためには、
下記の2冊の本がとても役に立ちます。


『サブリミナルマインド』
(下条信輔著、中公新書)

『サブリミナルインパクト』
(下条信輔著、ちくま新書)


どちらもタイトルに

‘サブリミナル’

という言葉がついていますが、これは

「潜在意識」

のことですね。

つまり、自分が意識できない無意識の世界。

私たちの行動の多くは、
無意識の世界の働きに影響を受けているのです。


著者、下條氏は次のように述べています。

“人は自分で考えているほど、自分の心の動きをわかっていない。
 人はしばしば自覚がないままに意思決定をし、自分のとった
 行動の本当の理由に気づかないでいるのだ”


上記2冊の本はこの意外な真実を実感させてくれる

各種実験

を示しつつ、広告などマーケティングの世界でも、
巧妙に活用されていることを解説しています。


例えば「偽の心音実験」。

これは、男子大学生のヌード写真に対する興奮度合いに対して、
自分がそれをどの程度認知しているか(意識しているか)を
調べるものでした。


被験者には測定機器をつけてもらい、

「これから10枚にスライド(ヌード写真)を
 1枚ごとに見せながら、心拍数を測定します」

と伝えます。


その心拍音は、
被験者にも聞こえるようにしてありました。

でも、実は測定機器はダミーで、
心拍音は実験者が鳴らしている機械音でした。

そして、被験者ごとに特定のスライドにおいて、
この偽の心拍音を速くしたり、遅くしたりしたのです。


この流れを2回繰り返した後、
被験者に、それぞれの写真の魅力度を聞きました。

すると、偽の心拍音が速くなった時に見ていた写真に対する
魅力度が他のものよりも著しく高かったのです。


これは何を意味しているのでしょうか。

本当は自分の心拍音でないにも関わらず、
自分の心臓の鼓動が速くなったと思い込んだだけで、
本人は、

この写真を見て自分は生理的に興奮している
(だってドキドキしているから)

と無意識に認知し、結果としてその特定の写真に
とても魅力を感じるようになってしまったというわけです。


なんともはや、私たちの意識・無意識は
頼りないもの、操作されやすいものなんですね。


最近注目を集めているニューロマーケティング、
ニューロエコノミクス、あるいは行動経済学をより深く
理解するためのバックボーン的知識を得たい方は、
この2冊の本をお読みになることを強くお勧めします。


『サブリミナルマインド』
(下条信輔著、中公新書)

『サブリミナルインパクト』
(下条信輔著、ちくま新書)

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (0) | トラックバック

ホンネが読める?ニューロマーケティング(2)

ニューロマーケティングの研究事例としては、

コカ・コーラvsペプシコーラ

の事例が有名ですね。

これは以前ご紹介*しましたので別の例を。
(『買い物する脳』より)


プリンストン大学が行った

「アマゾンギフト券」

についての実験です。


同実験では、
被験者に対して次の2種類のプレゼントを提示して、
どちらかを選ぶよう依頼しました。

・今すぐもらえる15ドルのアマゾンギフト券
・2週間後にもらえる20ドルの同ギフト券


この際、被験者の脳内がどのように反応しているかを
「fMRI」で測定したところ、

・今すぐもらえる15ドルのアマゾンギフト券

を提示された場合に、

「大脳辺縁系」

が異常に活性化したそうです。


大脳辺縁系は感情や記憶の形成を司るところです。

つまり、今すぐもらえるプレゼントに対して、
被験者は感情的な興奮を示していたというわけですね。


理性的に考えれば、
2週間待って20ドルもらったほうがお得。

しかし、「今欲しい」という感情的興奮を我慢できず、
思わず目の前の15ドルのギフト券をもらうという選択を
しまうのです。


生物全般に言えることですが、
基本的に、‘長期的’な利得よりも‘短期的’な利得を
優先する傾向があります。

「手の中の一羽の鳥はやぶの中の二羽の鳥に値する」

という言葉がありますが、今目の前の獲物を逃せば、
いつ次の獲物が手に入るかわからないという毎日を
送っている生物にとって、目先の利得を優先するのは、
当然の行動かもしれません。


人間においても短期的思考が強いことは、
過去に行われた様々な実験でわかっていました。

そして、アマゾンギフト券の実験では、
なぜ短期的利得を優先するのかという理由が
脳科学的にわかったということです。


さて、もうひとつの事例は、カネボウが、
脳科学者、茂木健一郎氏と共同で実施している研究の
第一弾。(日経ビジネス、2009年2月2日号)

20代と30代前半の女性17人に

・自分の素顔
・自分の化粧顔
・他人の素顔
・他人の化粧顔

の4枚の写真を2秒間隔で見せた時に、
脳のどの部位が活性化したかをfMRIで調べました。


その結果、「自分の化粧顔」を見た時、
他人の顔を見た時に活性する部位が反応したそうです。

つまり、自分の化粧顔は、

あたかも他人であるかのように客観的に認識している

ということが、脳内を見たらわかったということです。

日経ビジネスの記事中に書かれていますが、
自分の化粧顔を見せられて、

「これは自分の顔ですか?」

と聞かれたら、当然ながら「はい」と答えるでしょう。

しかし、脳では他人として認識しているわけです。

当人が言葉で語ることと、実際の感覚や認識には
違いがあるということがわかる貴重な実験ですね。


それにしても、化粧品は、文字通り

「化ける」

ためのものなのかなと思いますが、

「素の自分」

とは似ても似つかぬ、他人としか思えない顔に化ける
からこそ「他人」と認識してしまうんでしょうかね・・・?


*ニューロマーケティング:コークvsペプシ

『買い物する脳 驚くべきニューロマーケティングの世界』
(マーティン・リンストリーム著、千葉敏生訳、早川書房)

投稿者 松尾 順 : 13:07 | コメント (2) | トラックバック

男の視線は女性のどこに注がれるのか?

先日の記事(09/01/26)、

「できそこないの男たちが美しくなろうとするのはなぜか」

で書きましたが、
人間の場合、メスがオスを選ぶ他の多くの動物たちと違い、
男性が女性を選ぶ立場でした。(いまでも大勢はそうですが!)


おそらくこのためでしょうか、
最新の脳科学研究によれば、男性が好みの女性を選ぶ時、

「視覚」

に関係する脳の特定部位が特に活性化するのだそうです。


ちなみに、女性の場合、好みの男性を選ぶ際、

「言語」と「記憶」

に関係した部位が活性化します。


さて、男性が女性を選ぶ際に

「視覚」

を重視するということについては、
男性の方なら素直に「確かに!」とうなずけるでしょう。


では、男性は、特に女性の「どこ」に
視線を注ぐのでしょうか?

それは基本的には

「腰のくびれ度合い」(ウエストライン)

です。


人によって、

太めが好き、細い方が好き・・・

と体型に対する好みの個人差はあっても、

「腰がくびれているかどうか」

を男性はとても重視するのです。
(意識的にも、無意識的にも)


なぜ腰のくびれを男性が重視するのか?

これは、くびれ度合いが

「妊娠適齢期」

を表わすサインになるからだと考えられています。


女性は成長するにつれ、
女性ホルモンの影響によって、

「ボン(バスト)、キュ(ウエスト)、ボン(ヒップ)」

の体型へと変化していきます。

ただ、中年期以降は女性ホルモンが減少するため、
こうしたメリハリは残念ながら失われていきます。


したがって、最も腰が‘キュッ’となっている年齢が
ちょうど妊娠に適した時期となることから、
自分の遺伝子をデリバリーしたい男性は、
女性の腰のくびれ度合いで最適なタイミングを判断し、
求愛する女性を選ぶというわけです。


長い間、「選ばれる性」であり、したがって
「見られる性」であった女性が、とりわけ

「ウエストライン」

を磨くことに命を懸けてきたのも、
当然の成り行きだったと言えますかね。


ところで、長い間「オス優位」が
続いてきた人間社会において、

「見られる性」

としての女性は、どうしても

「身体的外観」

に関心を集中しがちになります。

この傾向のことを心理学では

「自己対象化」

と呼びます。


これは、別の言い方をすれば、

「自分が第三者からどう見えているか」

を常に考えてしまうということです。

この傾向が行き過ぎると、
しばしば外見を良く見せようとすること
以外の活動への関心を低下させる結果に
つながることがわかっています。


こんな心理学の実験があります。

さまざまな衣料品(厚手のセーターから水着まで)
を試着室で着てもらった後で、難しい数学試験を
受けてもらうというものです。


実験に参加した人たちのうち、
水着を着た人は、男性、女性のどちらも

「自意識過剰状態」(=自己対象化)

が見られました。

裸に近い状態ですから、どうしても

自分の体型

がどう見えるかに関心が向かってしまったわけですね。


さて試着後の数学の試験の結果ですが、
男性の場合、厚着だろうが薄着だろうが、
試験の点数に差はありませんでした。

ところが、女性の場合、
薄着になればなるほど点数が低下したのです。

外見を気にする意識が、
他のことに集中する気持ちを低下させてしまう
自己対象化の傾向は、女性において顕著なことが
検証されたわけです。


よく、難しい資格試験等の勉強のため一時的に

‘女を捨てて’(=外見にかまわない)

がんばったという女性がいますが、
女性の場合、まさにそうしないと他の活動への集中が
難しいということなんでしょうね。


そういえば、男性の場合、

‘男を捨てて’

何かをがんばるということはありませんね。


さて、女性の地位向上により、男性が

「選ばれる性」、すなわち「見られる性」

へとなりつつある現在、
外見ばかりに気をとられて他のことに身が入らない
男性も増えつつあるんでしょうかね?


(参考情報・文献)

*NHKスペシャル
 シリーズ 女と男 最新科学が読み解く性
http://www.nhk.or.jp/woman-man/

*『ヒルガードの心理学(第14版)』

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (4) | トラックバック

ワニの肉はおいしいか?

いや実際、ワニの肉は結構いけますよ。

以前、レッドロブスターで

「オーストラリア料理フェア」

をやっていた頃、

「ワニ肉の串焼き」

みたいなメニューがあったので、
たまにオーダーしてました。

淡白で癖のない味、
鶏肉に近い食感だったことを覚えています。

鶏肉に近いと言えば、
食用カエルの肉もそんな感じですね。


静岡では「食用ワニ」の養殖も行われているとか。

ワニ肉は高たんぱく、低カロリー、コラーゲン、
DHA(ドコサヘキサエン酸)も豊富で、
身体にいいとされている成分が多いのだそうです。
(R25、2008.12.11)


とはいえ、多くの人は、
あのワニのグロテスクな肢体を想像してしまうと、

「おいしくなさそう」

という先入観を持ってしまいそうですね。

そして、この先入観があるがゆえに、
食べてもあまりおいしく感じないということに
なりそうです。


ではワニ肉の普及のためにはどんな工夫を
したらいいでしょうか?


『予想どおりに不合理』
(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房)

には、この答えのヒントになりそうな実験が
紹介されています。


MIT(ミシガン工科大学)内にあるパブ

「マディー・チャールズ」

において行われた実験です。

アリエリー教授は、やってきた客(学生たち)に
以下の2種類のビールを試飲してもらい、
もし大きなグラスで飲むならどちらがいいか選ばせました。

・バドワイザー
・MITブリュー


MITブリューは、
バドワイザーにバルサミコ酢を1オンス(30ml)当たり2滴
加えた実験用オリジナルビールです。


MITブリューが

「バルサミコ酢入りビール」

だと事前に知らされないで飲んだ学生の中には、喜んで

「MITブリュー」

を選んだ者がいました。
(つまり、酢によってビールの味がまずくなっていたわけでは
 ありません。むしろ、かくし味でおいしく感じる可能性もありました。)


ところが、試飲する前に

「バルサミコ酢入り」

だと言われた人は「MITブリュー」を飲むとき
いかにも酸っぱそうな顔をし、大きなグラスに入れてもらう
ビールとしては、ノーマルなバドワイザーを選んだのです。


この実験は、人は自分が予測したとおりに認識してしまうこと、
今回で言えば、

「酢入りのビールなんてまずいに違いない」

という先入観に引っ張られた反応をしてしまうということが
実証されたということですね。


アリエリー氏はさらに追加の実験をしました。

まず何も教えずに「MITブリュー」を飲んでもらいます。
その後、これは実はバルサミコ酢入りなんだと伝えるのです。

すると、酢入りと聞いた後でも、
何も知らないで飲んだ時と変わらずに

MITブリュー

を気に入って選んだのです。

つまり、先入観なしで飲んで「おいしい」と思ったら、
その後で「酢入り」の事実を聞かされてもその認識は
変わらなかったということです。


さてこの実験に基づくなら、ワニ肉の普及のためには、

「ワニ肉と教えないでともかく試食してもらう」

という工夫が望ましいことがわかりますね。


考えてみれば、ウニ、ナマコなど、
冷静になって眺めてみれば見た目気持ち悪い生き物を
私たちは喜んで食べていますよね。
(私は苦手ですけど・・・)

まずは、否定的な予測をさせないで試してもらう、
というのがワニ肉の本当のおいしさを味わってもらうために
有効なのです。外見はじきに慣れる。


なお、上記の実験は、

「ブランディング」

の有効性を支持するものでもありますね。


ペプシ・コーラがコカ・コーラになかなか勝てないのは、
長年のブランディングを通じて、

「コカ・コーラのほうがおいしい、ほんもの」

という予測(ブランドイメージ)を
多くの消費者に持たせることに成功しているからです。


『予想どおりに不合理』
(ダン・アリエリー著、熊谷淳子訳、早川書房)

投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (1) | トラックバック

「不気味の谷」は本当にあるのか?

ディズニー映画、

『WALL-E ウォーリー』

はご覧になりましたか?


ゴミ処理ロボットの

「ウォーリー」

と、彼が一目ぼれした卵型の美しいロボット

「イブ」

のラブストーリー。


どちらも見かけはいかにも「ロボット」ですが、
とても愛らしいですよね!

2体の顔には「目」しかなく、
口は持たないため言葉はしゃべれません。
(機械音は出せますが)

でも、目の動きだけで、
不思議と十分に気持ちが伝わるんですよね・・・

思わず泣いちゃった人もいるのでは!


同映画では後半、
CG(コンピュータグラフィックス)で制作された

未来の人間たち

が登場します。

生活の全てにおいて、
コンピューターと各種ロボットたちが面倒をみてくれるため、
皆、移動可能なチェアに座りっぱなしの毎日。

このため、ぶくぶくと太り、
すっかり堕落してしまった人々という設定になっています。

ただ、映画を見た方ならお分かりいただけると思いますが、
CGの人間たちはかなり「リアル」に描かれているため、
ちょっと気持ち悪いですよね。


さて、人型ロボットやアニメのキャラクターが、
本物の人間のイメージにかぎりなく近くなればなるほど、

「不気味だ・・・」

と感じられてしまい、
そのロボットやキャラクターに対する親しみやすさが低下する
現象のことを

「不気味の谷」

と呼びます。


この考え方を提唱したのは、
ロボット工学者の森政弘氏でした。

森氏は、人型ロボットを制作するに当たっては、

「不気味の谷」

に落ちないよう、むしろ人間そっくりになるのを
避けるべきだと提唱したのです。


ところが最近は、技術力が向上したこともあり、
この「不気味の谷」の理論を無視して、

「人間そっくりのロボット」

が制作されるようになってきているそうです。
(日経サイエンス、2009年2月号)

実際、本物の皮膚のようなシリコーン樹脂を利用した
6,500ドルもするセックス人形が誕生しているとか。


最近の研究では、「不気味さ」を感じる度合いは、
ロボットやキャラクターのリアルさとは関係していない
という実験結果もあるそうです。

「不気味の谷」

とは矛盾する結果ですよね。


とはいえ、
ロボットやキャラクターがリアルになればなるほど、

「目や頭などの大きさを変えられる許容範囲が狭くなる」

こともわかっています。

これは、

「不健康や生殖不能」

を示すような異常な形質を
人が本来的に忌避するようにできているためではないか
と考えられています。


ウォーリーと同じCGアニメ映画、

『ポーラー・エクスプレス』

でも、リアルな人のキャラクターが薄気味悪いと
批判されました。

そこで、同映画製作責任者を務めたソニー・ピクチャーズ・
イメージワークスのマクドナルド氏は、今後の作品では
「眼球の動き」を工夫することにしています。

“目さえちゃんとしていれば、ほかはどうでもいい”

とのこと。

どうやら、不気味さを避けるポイントは

「目の動き」

だと経験的にわかったようです。


「不気味の谷」が本当に存在するのかについては、
まだ結論は出ていませんが、なかなか興味深いですよね。


WALL-E ウォーリー公式サイト
http://www.disney.co.jp/movies/wall-e/

(参考)
日経サイエンス(2009年2月号)
ニューススキャン

投稿者 松尾 順 : 12:59 | コメント (0) | トラックバック

回転寿司で「バリュー・フォー・マネー」を考えた!

あなたがよく行く回転寿司チェーンはどこですか?


我が家の場合は、

「無添くら寿司」または「かっぱ寿司」

ですね。


やはり、1皿100円という安さが魅力!

「味」に対して過剰な期待はもちろん持ってませんが、
1皿100円にしては悪くない。

値段相応、あるいはそれ以上の品質だと感じます。


いわゆる、

「バリュー・フォー・マネー」

が成立しているんじゃないでしょうか。

ですから、上記チェーンは、
どの店舗もおおむね繁盛してますよね。


さて先日、10年ほど前に住んでいた家の近くにあり、
当時よく行っていた別の回転寿司チェーンの店に入りました。

ここは一皿最低130円から。
皿の柄によって180円、250円などと値段が変わる
昔ながらの価格設定を採用している店です。


このお店、休日の夜7時頃でしたから、
一番の稼ぎ時のはずなのに、店内には2、3組しか
お客さんがいませんでした。

まさに閑古鳥が鳴いている状態。
以前の繁盛していた頃を思うとなんとも寂しい限り。

客が少ないため、
鮮度が落ちて廃棄処分になるのを嫌ってか、
寿司の乗った皿もあまり回してません。

これもまたなんとも寂しい限り。


しかも、1皿300円、あるいは500円位の、
値段高めの寿司を注文してみても、
たいしておいしくない。

これだったら、1皿100円の回転寿司が
よほどマシと感じさせる味でした。


つまり、このチェーンではもはや

「バリュー・フォー・マネー」

が成立していなかったわけです。

当チェーンが撤退するのも時間の問題だろうと
勝手に思ってしまいました。


同様の状況は、

「ファミリーレストラン」

でも見られますね。


中国産ピザ生地のメラニン混入問題で、
見事な対応を取って消費者の信頼を維持した

「サイゼリヤ」

が1人勝ちです。

従来のファミレスチェーンは、
軒並み、さらなる業績悪化に苦しんでいますね。


サイゼリヤもまた、
圧倒的な安さと十分に満足できる味を
提供できているからこそ、
消費者から支持されているわけです。


一方、他のチェーンのほとんどは、

・中途半端な価格設定
・中途半端な味

しか提供できていないため、

「バリュー・フォー・マネー」

が感じられない。

このため、消費者から支持されなくなって
しまっているのでしょうね。


1皿100円の回転寿司チェーンや
サイゼリヤに共通しているのは、ひとつには、
食材段階から自社経営に乗り出すなど、

「垂直統合」

による品質管理と食材原価の低減。


もうひとつは、ITも最大限活用した、

「徹底したローコストオペレーション」

にあります。


おかげで、驚くほどの安さでありながら
一定以上の品質を維持した食事が提供できています。


他の回転寿司、ファミレスチェーンは、
もはや小手先の経営改革ではとても太刀打ち
できないのが現状です。


景気が下降気味の今、
消費者の内食(うちしょく)傾向も強まってますし、
外食産業の勝ち負けは一層はっきりしていくことに
なりそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:27 | コメント (0) | トラックバック

買い物の陰にも女あり

“歴史の陰に女あり”“買い物の陰にも女あり”


これは、

『彼女があのテレビを買ったわけ』
(木田理恵著、エクスナレッジ)

に書かれていた言葉です。


同書でも述べられているのですが、
男性が買い物をする目的は、多くの場合、

「女性にもてたいから」

ですよね。

つまり、男性は、女性に評価されるようなモノ・コトを
購入しようとするわけですから、買い物の陰には確かに
「女性」がいます。


また、家族全般に関わる商品、
例えば、住居・家具関連、自家用車、家電製品などにおいて、
金を出すのはたいてい夫ですが、どの製品を買うかの選択に
最も大きい影響力を行使するのは妻(主婦)です。

したがって、やはり買い物の陰には女性がいますね。


以上は、指摘されてみれば素直にうなずけることです。

しかし、実際に製品設計や、
マーケティング・コミュニケーションにおいて
女性の心理傾向や嗜好が十分に考慮されているか
と言えば、必ずしもそうではありません。

男性目線でしか考えなかったために、
男性の心はつかめても、女性の心をつかむことに失敗し、
結果的に選択されない商品がたくさんあるのではないでしょうか?


さて、商品選択時において、
男性と女性で最も顕著な違いがあります。

それは木田氏の本によれば、

・男性は「スペック」にこだわる
・女性は「イメージ」にこだわる

ということです。


男性は、商品の細かい特性、つまり仕様を比較し、
客観的にみて正しい選択しようとします。

一方、女性は、全体的なイメージをとらえ、
主観的な判断で商品を選択する傾向が強いのです。


このことは、
つい最近私が関わった某商品カテゴリーについての
グループインタビューでも明確に現れていました。

男性グループでは、商品の構造や仕様にこだわり、
細かく比較検討するという声が聞かれました。

ところが、女性グループでは、
やはりイメージを気にする人が多かったのです。

また、昨日たまたま見る機会があった保険商品の
プロモーションビデオは、父親と息子が登場する
ヒューマンドラマ風の展開で、私を含む男性陣の涙腺を
ゆるませたのに、同席していた女性陣の中には、

「よく分からない」「演出が変で、笑ってしまった」

という人がいたんですよね。


単純に男性、女性に分けて考えるだけでは不十分ですが、

「買い物の陰にも女性がいる」

ことはマーケターは忘れてはいけません。


『彼女があのテレビを買ったワケ』
(木田理恵著、エクスナレッジ)

投稿者 松尾 順 : 13:25 | コメント (2) | トラックバック

「なんとなくスキ」「なんとなくイヤ」

私は、電子マネーのエディを普段の生活では多用しています。

ですので、コンビニも、エディが使える

サンクス、AM/PM、ローソン(ナチュラルローソン)

になるべく行くようにしてます。


幸い、事務所の近くに上記3店舗ともありますので、
その日の気分で行く店を決めてるんですが。

ただ、不思議なことに、
ナチュラルローソンに行くのだけは、
なんとなく気が進まないのです。
(駅前で一番便利なのですが)


どうしてなのか、その理由を考えてみました。

どうやら、他のコンビニと比べて、

「ちょっとだけエディでの決済時間が長いように感じるから」

ということに気付きました。

つまり、レジのカードリーダーに自分のカードを置いてから

「シャリーン」

となるまでの間の時間がコンマ何秒か遅いように感じるのですね。
それで、ちょっとだけイラっとする。


気のせいかもしれません。

でも、この実に些細なことがもたらす軽い不快感が
記憶に残っていて、ローソンに行きたいという気持ちを
邪魔しているようです。


私たちは、自分が購入・利用する商品や店舗を選択するに
当たって、常に明確な理由に基づいて決めるとは限りません。

しばしば漠然とした理由で、特定の商品や店を選んだり、
あるいは避けたりしていることも多いですよね。

これは、

「なんとなく好き」「なんとなくイヤ」

という状況です。


この「なんとなくスキ」「なんとなくイヤ」に
影響を与えているのは、実はかなり細かいレベルの要因です。

競合商品を見比べて、どちらを選んでも大差がない時、
つまり、明らかに優れたところ、劣ったところがない場合でも、
私たちはなんらかの基準で商品や店舗を選ばざるを得ない。

そんな時、私たちは「なんとなく」の感覚的判断を
優先してしまうのでしょう。


別のやはり些細なことですが、
「なんとなくイヤ」な例をご紹介しましょう。


房総半島の中ほどにある「養老渓谷」には、
ひなびた温泉郷があります。

我が家では、房総半島の太平洋側に面した勝浦、鴨川などに
よく旅行に行きますので、その行き帰りに養老渓谷に立ち寄る
ことがあります。


数年前、この温泉郷に総ヒノキ造りの立派な温泉ができました。

私はオープンしたばかりの頃行ったのですが、
建物から浴槽まですべて「天然木」でできているというのは、
なんとなく気分がいいものですね。

脱衣所から浴室までの廊下には、

「ヒノキを守るため通気をよくしてあります。
 お客さまには寒い思いをさせてしまいますが、
 ご了承ください」

なんてチラシが貼ってありましたが、
まあ、確かに寒いけれど仕方がないかと思いました。


さて、ヒノキ造りの贅沢な風呂でしばらく温まった後、
体を洗おうと洗い場に行って桶を持ったら、
なんとこれが、ヒノキを模したプラスチック製でした。

たいしたことじゃありませんが、

「なんだかなあ・・・」

ですよね。
ヒノキ風のデザインだけになおさらガッカリ。

プラスチック製にするなら、
いっそケロヨンの洗面器でも置いてあったほうが、
ノスタルジックで良かったと思いました。


結局、この温泉には2度と行っていません。
いいお風呂だったんですけどね。

「なんとなくイヤ」

なんですよね。


さて、企業側から見れば、この

「なんとなくイヤ」

というのはやっかいです。

といのも、顧客側としては、
不快な感情をあまり思い出したくないために、

「なぜ不快な感情を覚えるようになったのか」

という理由を封印してしまうからです。


ですから、例えばアンケートで不満や問題点を挙げて
もらおうとしても、なかなか真の原因が浮かび上がってこない。

このため、なぜ売れないかという原因がはっきりしないまま
どんどん顧客離れが進んでしまうのです。


「神は細部に宿る」

と言いますが、商品設計、店舗設計には、
些細な要素によって動く人間心理の機微をキャッチできる
優れた感受性が重要なのです。

投稿者 松尾 順 : 13:16 | コメント (3) | トラックバック

体験談は全てさらけ出せ!

以前、主婦の方を対象としたグループインタビューの中で、

「利用者の体験談」

を掲載しているパンフレットについての感想を聞いたところ、

・良いことだけを選んで掲載しているのではないのか?
・本当に利用者のコメントなのか(捏造ではないのか)?

といった疑念を持ちつつ読むというコメントを
多くの方が口にしていました。


まあ実際、新聞の折込や雑誌広告に掲載されている

「幸運の●●●」

といった怪しい系商品の体験談(大抵ぼやけた顔写真付)、
例えば、

・これを買ったら、翌日に彼女ができました!(25歳、男性)
・持ち歩いていたら、宝くじで1千万円当選!(40歳、主婦)

といった話は全て捏造だと言われていますね。

こうしたビジネスを「体験談商法」と言います。


また、通信販売事業で成功し、現在多数の著作を持つ某氏は、
自著の中で、売り出したばかりのダイエット食品の体験談を
初期のころは自分で創作したことを白状しています。


ただ、明らかに「この体験談はうそっぽい」と感じても、
信じたくなるのが人間心理の不思議。

「溺れるものは藁をもつかむ」

というところでしょうか。
つらい状況にいる人の弱みにつけこんでいるわけです。


最近は、ネット上でも、

「体験談商法」

が横行しているそうです。

真偽のほどが疑わしい体験談を前面に打ち出して、
商品の購入に誘う「体験談商法」は、特に健康食品関連に
多いですね。

なぜなら、効能をうたうことが薬事法で禁止されているため、
利用者の声を借りて効用を伝えるしかないからです。


もちろん、ありのままのユーザーの声を紹介するのなら
基本的に問題ありません。
(それでも、薬事法に抵触する可能性がゼロではない点ご注意)

しかし、企業側が販売促進を目的として
架空の体験談を捏造したら、当然ながらそれは「詐欺」ですね。


さて、こうした状況の中、
真っ当な商品を出している企業が考えるべきことは、
悪質な業者によって信頼性の低下してしまった

「体験談」

をどのように活用すればいいのかということです。


その答えは、明らかな誹謗中傷を除いて
全ての体験談を未編集状態で公開することでしょう。

良いこと、お褒めの言葉だけなく、
厳しい意見、批判、クレームも思い切ってさらけ出してしまう。


ネガティブな声を公開することは、
自社の評判を低下させることにもつながりかねないので
なかなか踏み切ることができません。

しかしながら、
ありのままを公開することによって

・この企業は正直である
・利用者に真摯に向き合おうとしている

というメッセージを一方で伝えることができます。


どちらにしても、インターネットのおかげで

「くさいものにフタをする」

ことがもはやできなくなった今、
いさぎよく全て公開してしまう以外の選択肢が
ないように私は思うのです。


ちなみに、ご存知の方も多いと思いますが、
売り手が見込み客に対して良いことだけを伝えることを

「片面提示」

と呼び、ネガティブなことも同時に伝えることを

「両面提示」

と呼びます。

心理学の実験では一般に

「両面提示」

の方が信頼されやすいということが
わかっています。

「両面提示」のテクニックは、
マーケティングやセールスの現場では、
長年実践されてきているんですよね。


(関連記事)
『両面提示広告:新生銀行のケース』

『シンプルマーケティング(19)DCCM理論』

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (4) | トラックバック

やっぱり「くびれて」なきゃね!

日経デザイン最新号(June 2008)に掲載されている
消費者アンケート調査結果によると、

500mlペットボトル入りのミネラルウォーター10製品のうち、
パッケージデザイン(ペットボトルの形状)で選んで買うとしたら、
どれを選びますか?(択一)

という設問に対する回答で、
人気が高かった製品は以下の2つでした。

・アクアセラピーミナクア(日本コカ・コーラ)18.3%
・コントレックス(コントレックス)15.3%


上記2つの製品とも「ボトルの形が良いから」ということで
選ばれています。

現物を見てもらうとわかりますが、
両者の共通点は、腰の部分がくびれたヘチマ形ということです。


こうした形状は俗に

「ウーマンズボディ」

と呼ばれます。
典型的なのは昔のコカコーラの瓶の形ですね。


腰がくびれているデザインは、
手に取りやすいというメッセージを私たちに送っているので、
無意識に好んでしまうのです。
(これは「アフォーダンス」と呼ばれます。)

同時に、やはり性的な連想・刺激があることも
否めないのではないかと・・・


サントリーの「伊右衛門」が大ヒットした理由のひとつとして、
やはり竹を模したあの「くびれたボトルデザイン」があります。
(と私は思っています)


関連記事を以前書きました。

『下すぼまり形状』

この記事では、台所用洗剤のパッケージデザインについての
日経デザインのアンケート調査結果をご紹介したのですが、
やはり、くびれたデザイン(=下すぼまり形状)が好まれる結果に
なっています。


ミネラルウォーターにしろ、緑茶飲料にしろ、台所用洗剤にしろ、
くびれたデザインかどうかで売上に大きな差が出るじゃないかと
思いますが、現実には多様なデザインが存在していますよね。

デザイナーさんとしては、
上記のような人間心理よりも自分の発想やオリジナリティを
優先したいということなのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 16:08 | コメント (2) | トラックバック

三越な人 vs 伊勢丹な人

本日(2008/04/25)の午後、
有楽町電気ビル北館20Fの「日本外国特派員協会」の
会議室で開催された、

『ブランドの達人[改訂版]』出版記念セミナー

に出席してきました。


本稿はその速報レポート!


『ブランドの達人[改訂版]』
(ブランドデータバンク著、ソフトバンククリエイティブ)

は3万人の消費者アンケート調査である、

「ブランドデータバンク」

の分析結果を元に書かれた本です。


同書では、様々なブランドに対する人々の好みの違いに
着目した消費者のタイプ分けと、それぞれのタイプ別の消費行動や
価値観などの特徴を豊富な図表とともに解説してあります。

例えば、

・ユニクロな人(ユニクロが好きな人たち)
・日産スカイラインな人(スカイラインが好きな人たち)

といった人がどんな人たちなのかが理解できます。

消費者分析に興味がある方だけでなく、
有名ブランド(モノだけでなく、サービスや場所、キャラクター、
有名人なども含む)に興味がある方なら楽しく読める本でしょう。


さて、肝心のセミナーですが、ひとことで言えば

「消費者アンケートデータベースとその分析システム」

を「ASPサービス」として提供している

「ブランドデータバンク」

の紹介を目的として行われたものでした。


ブランドデータバンクは、毎年6月と12月の年2回、
全国の消費者3万人を対象として行われる
オンラインアンケートのデータベースです。


当アンケートでは、車、化粧品、金融、小売店など、
消費者が購入・利用、あるいはメディアで目にする様々な

「もの」
「店」
「サービス」
「場所」(繁華街、旅行先など)
「ひと」(アニメキャラクターやタレント、有名人など)


等を含む、全部で130ジャンルについての所有・利用有無や
好意度に加えて、

・消費に関わる価値観(新しい商品はチェックせずにいられない等)
・各種メディア(広告接触)に対する信頼度

を聞いています。

これによって、前述したように、
例えば「ユニクロを好きな人」は、
他にどんな商品(ブランド)が好きなのか、
どんなライフスタイルや価値観を持っているのか、
また信頼しているメディアは何なのかをオンラインベースで
簡単に把握することができるようになっています。


セミナーでは、昨年(07年12月)に行われた第7期調査結果から、

・三越な人(三越が好きな人)
・伊勢丹な人(伊勢丹が好きな人)

のそれぞれの消費者像の違いを対比させて説明していました。


説明の詳細は、
ブランドデータバンクのWebサイトから誰でも
自由にダウンロードできる

「プレゼン資料」

を見ていただくとして、ここでは、
プレゼン資料にもまとめとして掲載されている

「三越な人」「伊勢丹な人」

それぞれの特徴のみ、簡単にご紹介しておきましょう。

----------------------------------

【三越な人】

●格式を備えた、保守的なブランド嗜好性を持つ

サンプル数:1600サンプル
平均年齢:46.08歳(全体平均:40.41歳)
平均世帯年収:753万円(同:673万円)
平均お小遣い:4.41万円(同:3.87万円)

・50代以上の比率が高い
・能動的な情報摂取は少なく、
 TVや新聞のような旧来のマススメディアを強く信頼
・彼らが選ぶブランドは、長い歴史や格式が高いブランドである


【伊勢丹な人】

●求めるのは時代のセンス、洗練されたブランド嗜好性を持つ

サンプル数:2494サンプル
平均年齢:42.26歳(全体平均:40.41歳)
平均世帯年収:773万円(同:673万円)
平均お小遣い:4.85万円(同:3.87万円)

・中高年比率は高いが、幅広い年代から支持されている
・口コミや交通広告に対する信頼度高い。携帯サイトなども
 活用し、幅広く、また能動的に情報をキャッチ
・海外ブランドに目がない

-------------------------------------

なお、三越な人、伊勢丹な人がそれぞれ好きなブランドで、
際立って違うものとしては、以下のようなものがあります。
(私が適当にピックアップしました)


●男性のお気に入りの腕時計

 三越人・・・ダンヒル、セイコー/クレドール
 伊勢丹人・・・カルティエ、セイコー/グランドセイコー

●女性のお気に入りの服

 三越人・・・シャネル、クリスチャン・ディオール
 伊勢丹人・・・セオリー、カルバンクライン

●女性のお気に入りの腕時計

 三越人・・・ブルガリ、シャネル
 伊勢丹人・・・ロンジン、コーチ

●所有している車

 三越人・・・トヨタクラウン、プリウス
 伊勢丹人・・BMW3シリーズ、フォルクスワーゲンゴルフ

●購読しているファッション・ライフスタイル誌(女性誌)

 三越人・・・婦人公論、家庭画報
 伊勢丹人・・SPUR、25ans、ELL JAPON

●好きな有名人

 三越人・・・小泉純一郎
 伊勢丹人・・・佐藤浩一


まあ、うなずける結果ではありますが、
人それぞれの生きかたやこだわりといったものが、
ブランドに対する態度(心理)や行動を通じて
よく見えてきますね。


*三越な人 vs 伊勢丹な人(セミナーで使われたPDFプレゼン資料)

*ブランドデータバンク
http://www.branddatabank.com/

『ブランドの達人[改訂版]』
(ブランドデータバンク著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 18:53 | コメント (0) | トラックバック

「タスポ」の導入がビジネスに与える影響と消費行動・心理

数年前、飲酒運転に対する罰則が強化された際、
その影響で業績が悪化した業界として

「居酒屋」

がありました。

とりわけ、郊外に展開する店舗の売り上げが落ちたんです。


街中で飲み、電車で帰宅することの多い方には
あまりピンと来ないと思いますが、東京近郊や地方に行くと、
駐車場付の居酒屋って結構多いんですよね。


こうした郊外型居酒屋は、
主にファミリー客をターゲットとしており、
近年その数が増加していた業態です。

しかし、業績が落ちたところを見ると、
以前から、運転手も酒を飲んでいたケースが多かったことが
うかがえますね。

実は白状すると、私もその一人でした。

まだ妻がペーパードライバーだった10年以上前のことですが、
家族で某郊外型居酒屋に立ち寄った際、我慢できずにビールを
1杯飲んでしまい、ほろ酔いで運転して帰ったことがあります。
(自宅まで3分ほどの道のりでしたが)


また、路上駐車に対する罰則が強化された際も、
道路に面した駐車場のない飲食店(ラーメン屋など)の
売り上げが低下しました。

まあ、飲酒運転も路上駐車も本来法律違反です。

違反者からの売上分が減ったとしても、
それはまっとうな水準に戻ったということではあるのですが。


さて、上記と似たような現象が今、

タバコ業界

でも起きています。


今年から、自動販売機では、

「タスポ(taspo)」

と呼ばれる、顔写真付きの

「成人識別カード」

を持っていないとタバコが購入できなくなりますよね。


上記制度の導入時期は地域によって異なるのですが、
いち早くこの3月から導入された鹿児島県や宮崎県では、
売り上げが導入前の3割、つまり

7割減

と大きく落ち込んでいるようです。
(日経ビジネス、2008年4月21日号)


現時点でのタスポの普及率は、

鹿児島県で26%(宮崎は同29%)

ですから、普及率に連動して売上げが低下しているのです。


このため、必要経費を賄えるだけの売上げが確保できなくなり、
廃業を決めたタバコ屋さんも出てきています。


私は以前、各種タバコ銘柄の販売動向調査で
タバコ屋さん巡りをしていた時期がありましたので、
比較的この業界には詳しいのですが、
たばこの販売手数料は10%に過ぎないため、
基本「薄利多売」、つまりたくさん売らないと
商売としては成立しないんですよね。

今回の「タスポ導入」という販売規制強化によって、
予想されたことではありましたが、自販機に依存してきた
タバコ販売店が苦境に立たされてしまったというわけです。


一方、タスポのおかげで特需に沸いているのがコンビニです。
対面販売のため、タスポの提示が不要だからです。

鹿児島のあるコンビニ店では、

“盆と正月が一緒にきた。
 タバコの売上げは以前の2倍以上。8万円になった。”

とのこと。


さて、以上のような状況は、

「タスポの普及が進めば平準化する」

と日本たばこ産業(JT)では考えているようです。

しかし、タスポカードの取得手続きはかなり面倒です。
そうそう進まないでしょうね。
(私は非喫煙者なので関係ありませんが・・・)


しかも、鹿児島の某たばこ店主によれば、
店頭での反応で、

想定していなかった喫煙者の層

が、2つあることが分かったのです。


ひとつは、隠れ喫煙者層、つまり、
家族に内緒でたばこを吸っている人たちです。

具体的には、主婦や、子供の誕生を機に
禁煙したことになっているはずの男性などが該当します。
(自宅外でこっそり吸ってるんですね)

彼らは、自宅にしか送ってもらうことのできない
タスポカードを申請するわけにはいかないのです。


もうひとつは、やめたいのにやめられない層。

彼らは、タスポカードを保有することは、
喫煙を続ける意思表示をしたことに等しいと感じるために、
タスポカードの入手をためらってしまうのです。


タバコに対する販売規制の強化が、
さまざまな形でたばこビジネスに影響を及ぼしている
だけでなく、消費者の意外な消費行動や心理が浮き彫り
になったんですね。

投稿者 松尾 順 : 11:54 | コメント (3) | トラックバック

「技術の独善」を捨てられない日立

他人とうまくやっていくための最重要ポイント。
それは、次の2つでしょう。

・自分のことをよく理解してもらう
・相手のことをよく理解する

わざわざ言うまでもない基本的なことですね。


でも、私たちはしばしば、

「自分のことをよく理解してもらう」

ことにばかり気を取られ、

「相手のことをよく理解する」

ということを忘れがちです。


誤解を恐れずに言えば、
この傾向は男性に多いように思います。

「どう、俺ってこんなにすごいんだよ!」

と、自分の知性の高さや見た目の良さ、血筋の良さ、
金持ちであること、ナニの大きさなどを誇らしげに語るのです。

しかし、実際にすごいかどうかを評価するのは、
意中の女性の役目ですよね。

しばしば男性は、

相手が「すごい」と思ってくれるのは何か

をよく理解しようとせず、独善的に振舞ってしまう。
この結果、あっさりふられてしまうのです。
(恥ずかしながら、自分のことも語っています・・・)


日経ビジネス最新号(2008年4月14日号)の日立の記事を
読んでいたら、日立は上記のような「男性的」な発想が強い会社
だなと思わず感じてしまいました。


日立は年間売上10兆円、
日本人で知らない人はいない大企業です。

しかし、民生用、
つまり一般消費者向け製品における存在感は極めて薄いですね。

はっきり言って、強いカテゴリーは一つもありません。

我が家の家電製品、AV製品を調べてみたら、
松下、ソニー、東芝、シャープ、サンヨー、パイオニア。
日立の影はやはり薄い。かろうじて10年以上前から使っている
テレビ1台だけが日立製でした。


日立の技術力の高さには定評があります。

例えば、洗濯機では2004年に、

「ビート式」

の洗濯機を世界で初めて発売しています。


日立は、この方式を採用した洗濯機のことを

「第3世代の洗濯機」

と位置づけていました。

というのも「ビート式」は、
洗浄力は強いが水の使用量が多い従来の「うずまき式」や、
節水能力は優れているが洗浄力が弱く時間がかかる「ドラム式」
とは異なる新しい方式であり、

水の使用量、洗浄力、洗浄時間

といった主な性能面で他の方式を凌駕する

「すごい洗濯機」

だったからです。


ところが、当時洗濯機で大ヒットしていた、
言い換えると、主婦の心をつかんでいたのは、
2003年に松下が初めて発売した

「ななめドラム式」

のような、洗濯物の取り扱いの容易な洗濯機だったのです。


日立の人たちは、

「どうしてこの技術のすごさがわかってくれないんだ・・・」

と嘆いたことでしょう。

しかし、そうやって嘆く以前に、
そもそも相手(消費者)が求めていることを理解しようとしない、

「技術の独善」

を捨てるべきではないでしょうか。


自分がどんなに「すごい」と思っていても、
相手が「すごい」と思ってくれなければ受け入れられない。

このあまりにも当たり前のことが実践できない
独善的な企業(人)は日立に限らずたくさんありますが、
この発想を捨てない限り、狙った相手にそっぽを向かれるだけだ
という厳しい現実を自覚すべきでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 09:22 | コメント (2) | トラックバック

「無料」というならホントに無料にしてほしい

これまで5年間ほど弊社で採用してきた

「ふで文字名刺」

がちょうど年末で切れたので再発注したところ、
発注先から、サービスを停止したため

「増刷できません」

という返事が戻ってきました。

「ふで文字名刺」、結構気に入っていたんですけどね。
残念です。


そこで、早速新しい名刺を作成することにしたのですが、

「さて、どこに頼もうかな・・・」

と思った時に某サイトでたまたま目に入ったのが、

「無料お試し名刺」

のバナー広告でした。


やはり

「無料」

という言葉にはパワーがありますね。

早速クリック。

飛び先のWebサイトで台紙のデザインを選び、
名刺の表に表示する会社名や所在地、役職などを入力。

名刺の出来上がりイメージを確認して、
決済ページまでとりあえず進んでみました。


名刺代は確かに「0円」でした。

しかし、次のぺージに進むと

「送料」、そして「プロセス料」

というよくわからない費目が表示されます。


「送料」はまあいいとして、

「プロセス料」って翻訳すれば、

「手数料」

ですよねぇ・・・


この「送料」+「プロセス料」は、
発注から納品日までのリードタイムで値段が違います。

例えば、お試し名刺を250枚作成するとして、
納品日が3週間後だと900円弱、
1週間短い2週間後の納品の場合で約1600円です。


まあ、細かいことはいわずに、
単純に値段だけ見れば大バーゲンセール。
メチャクチャ安い!

とてもいいんですけどね。


でも、結局発注はしませんでした。
なんだか気分がすっきりしなかったからです。


「お試し名刺」は本体分はタダですが、
送料だけは別途ください

ということなら

「無料」

と謳うのも納得します。


しかし、「プロセス料」という手数料が
加算されるのであれば、それはやっぱり

「無料」

じゃないだろうというのが、
エンドユーザーとしての率直な感想ではないでしょうか。


まあ、このようなセールステクニック、
このケースでは、

「ローボールテクニック」
(最初に相手が承諾しやすい提案をして、
 後から別のオプションや費用を追加していく方法。
 一度その気になったら、なかなか途中で止めにくいという
 「一貫性」の心理を突いたものです。)

が使われていますが、
従来からよく行われてきたものですし、
法的、あるいは倫理的に大きな問題があるとは思いません。


しかし、このところの一連の偽装事件の発覚のために
人々が、企業の言動に対して疑り深くなっている昨今、

『影響力の武器』や『亜玖夢博士の経済入門』

で紹介されている、
人間心理の盲点を突いたセールステクニックの利用は
なるべく避けた方が賢明ではないかと思うのですが・・・


ところで、最終的に私が名刺を発注した会社は、
3年ほど前にキャリアカウンセリング用のカードを
作成をお願いしたところでした。


当時から、ずっとこの会社のメールマガジン(週刊)を
受け取っていたのが発注を決めた理由です。

費用的にもそこそこ安かったこともありますが。


もし、メルマガがなければ、
以前利用したことなどすっかり忘れてしまっていて、
おそらくほかの会社に発注していたんじゃないかと思います。

メルマガ発行の最大メリットは、
いざ(ニーズ発生)という時に思い出してもらえるという

「リマインダー効果」

だと、常日頃から私はクライアントにお伝えしてるのですが、
図らずも自分自身の行動が、この主張を裏付けるものとなりました。


『影響力の武器[第二版]』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会翻訳、誠信書房)

『亜玖夢博士の経済入門』
(橘玲著、文藝春秋)

投稿者 松尾 順 : 17:37 | コメント (2) | トラックバック

『亜玖夢博士の経済入門』

今日は、最近読んだ風変わりな本をご紹介します。


『亜玖夢博士の経済入門』

は、端的にご紹介するなら、

専門書の解説では厳密すぎて理解困難な、

「経済関連の理論の基礎」

を物語仕立てでわかりやすく解説している本

ということになるでしょうね。


同書には5編の独立したストーリーが収められています。
ただし、それぞれに関連を持たせてあり、
最後には全体が結びつくのですが。


各編では、最近注目されている以下の理論が一つずつ
取り上げられ、それぞれの理論を軸にしながら、
相当ぶっ飛んだ、奇妙な話が展開していきます。

・行動経済学
・囚人のジレンマ
・ネットワーク経済学
・社会心理学
・ゲーデルの不完全定理


主人公は、70歳の亜玖夢(あくむ)博士です。

万巻の書物を読破した亜玖夢博士は、
己の学識全てを傾け衆生を救済するため、
東京・歌舞伎町裏、風俗街の怪しげなビルに

「亜玖夢研究所」

を開設。

歌舞伎町のポン引きがばらまく勧誘チラシを
頼りにやってきた相談者たちが抱える問題を
中国人の助手の手を借りて解決してあげるという設定です。

そのチラシには次の一文が。

「相談無料。地獄を見たら亜玖夢へ」


私が特に楽しかった章は、
やはり私の最大の関心領域である「社会心理学」を
取り上げた第4章(同書では「第4講」)です。


この章では、あらゆる病気に効果があると謳う

「スーパー・バイオニック・ウォーター」

といういかにも怪しげな水を製造するマシン

「ミラクルSBW」

を売りまくるトップセールスマンが、
亜玖夢研究所にやってきます。

そして、あらゆるセールステクニックを用いて、
亜玖夢博士に「ミラクルSBW」を売りつけようとします。


しかし、人類の英知を知り尽くした亜玖夢博士は、
彼が次々と繰り出すセールストークを社会心理学的に
解説してみせることによって、セールスマンを完全に
打ちのめし、無力化してしまうのです。

ただ、結局のところ1台100万円のマシンを
亜玖夢博士は購入します。その後、セールスマン自身は
まんまとある罠にはめられて地獄を見ることになるのですが、
ことの顛末は本書をお読みください。(笑)


なお、4章で亜玖夢博士が示した社会心理学の理論とは、
具体的には、「コールドリーディング」を始め、
名著『影響力の武器』で紹介されている理論である、

・権威に対する服従
・社会的証明
・希少性の原理
・一貫性
・返報性

の5つです。


『影響力の武器』にはより詳細な説明があり、
文章も読みやすいのですが、
なにしろ分厚くボリュームのある本です。

『影響力の武器』をまだ読んでいない方は、
まずは本書での亜玖夢博士の解説を読んで、
社会心理学で解明されている

「相手に影響を及ぼすテクニック」

のポイントをつかんでおくのがいいかもしれません。


『亜玖夢博士の経済入門』は280ページありますが、
軽い文体ですので、通勤時間の1-2時間でさくっと読めます。

とっつきにくい印象のある理論も、
実は人間の行動を理解するために役立つこと、そして
理論の本質は、それほど複雑ではないことがわかりますよ。


『亜玖夢博士の経済入門』
(橘玲著、文藝春秋)

(関連図書)
『影響力の武器[第二版]』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会翻訳、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 07:35 | コメント (0) | トラックバック

乳児でも区別する「良い人」「悪い人」

私たち人間は、「群れ」(集団)を作り、
共同生活をすることで世代をつないできた社会的動物。


共同生活を維持するためには「相互扶助」の関係が必要です。

ですから、茂木健一郎氏も述べていますが、

「他人のため」

に何かをすることを

「喜び」

とするように脳の報酬系ができあがっています。

つまり、誰かのために役立つこと(利他的行動)が、
脳に「快感」を与える仕組みが組み込まれています。


そしてまた、私たちは生まれながらにして、

・誰かを助ける人は「良い人」(好きな人)
・そうでない人は「悪い人」(嫌いな人)

と区別することが、
イェール大学のハムリン博士の実験から
わかっているのだそうです。


以下の実験内容は、脳研究者の池谷裕二氏が、
日経新聞夕刊(2007/12/05)の「あすへの話題」で
紹介されていたものです。


生後6カ月の乳児に、円盤に2つの目が描かれた
かわいいキャラクター「クライム君」を見せます。

クライム君は、斜面を登ろうと努力しているところ。


ここで、別のキャラクターAとBが登場します。

Aは、クライム君を後ろから押して
坂を登るのを手伝います。

一方、Bは坂の上にいて、
登ってくるクライム君を押し戻そうとします。
つまり、クライム君の邪魔をするのです。


この様子を見ている乳児はといえば、
Aを長く眺めたり、Aに手を伸ばそうとします。

言葉をまだ話せない赤ん坊ですが、
こうした態度・動きによって、

「BよりもAが好き」

ということを示しているわけです。


そもそも、クライム君の動きを見た乳児は、

「クライム君は坂を登りたいのだ」

という他者の欲求を理解しているらしい点も
驚きですよね。

これは、おそらくミラーニューロンの働きでしょう。


そしてまた、他人の欲求を叶えるために援助できる人を

「好き」

と感じるのもミラーニューロンの働きなのかもしれません。

他人を助ける人は、
自分に快感をもたらしてくれるわけですから。


さて、当然のことながら、
逆に利己的な行動を取る人は他者に不快感を与えるため、
嫌われ、社会から疎外される結果をもたらします。


ところが、このことがわかっていながら、
私たちはしばしば、「利己的」に振舞ってしまいますよね。

なぜなのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 07:26 | コメント (3) | トラックバック

「お約束」の偽装

いまさら言うまでもなく、「偽装」は良くないこと。
やってはいけないことです。


でも、提供する側受ける側の両者が了解済みの

「お約束」

の偽装ってありますよね。

その一番卑近な例は、駅前の立ち食いそば店で出される

「えび天ぷら」

でしょう。

私は、若いころ福岡から東京に出てきて初めて、
駅の立ち食いそば屋の

「えび天うどん」

を食べた時、うどんの上に鎮座しているえび天の衣の大きさと、
中に入っているえびの身の「小指並の小ささ」の落差に愕然と
したものです。(オオゲサですけど)


これじゃあ、「えび天」というより、

「シュリンプ天」

と呼んだほうが正確だよなあ!

当時はそう思いました。

まあ、今でも立ち食い店に行くたびに、
あんな小さいエビの身に、あれだけ巨大な衣を着せることが
できる職人芸には感心していますが。


でも、別に文句を言ったりはしません。

あの「えび天」に文句を言う人は、
外国人旅行者とかでもない限りたぶんいませんよね。

実質的な「偽装」とわかっていて受け入れています。


そもそもエビ1尾200円そこらの値段で、
まともなエビが食べられるはずもありません。

それでも、食べる側の心情としては、
トッピングの天ぷらは丼からはみ出すくらいの大きさがうれしい。
たとえ、中身は小指大でも・・・

バカ正直に、エビの真実の大きさ通りの天ぷらを揚げたら、
見かけが貧相となってしまい、注文する人が激減しますよね。

こうした、消費者心理を踏まえた上で、
「お約束」のエビ天偽装は続けられているということでしょう。


まあ、ほかにも贈答用のお菓子箱などの

「上げ底」

も、両者が握り合った「偽装」ですね。

実質よりも、見栄えを優先することの必要性を
贈り手、貰い手の双方が納得しています。


そういえば、古典落語の名作のひとつ、

「長屋の花見」

は、貧乏長屋の連中が花見に出かけたはいいが、
先立つものはないので、番茶を薄めたものを「酒」、
かまぼこは「大根」、卵焼きは「沢庵」で代用して、
見かけだけでも立派な花見を楽しもうとする話でした。


日本には、昔から「上げ底文化」(偽装を許容する文化)
とでも呼べるものが脈々と続いてきており、これが近年、
次々と明らかになっている食品などの偽装問題の背景にある、
というのは飛躍しすぎでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 06:30 | コメント (0) | トラックバック

「第1感」・・・考えない力

最近、「直感」のことばかり取り上げてる私ですが、
畳み掛けるようにこのテーマについて書かれた良書を
ご紹介します。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコムグラッドウェル著、沢田博・阿部尚美訳、光文社)


2006年初版の本書は、
この数年に出たマーケ本の中では、
ベストテンに入るくらいの優れた本だと思っています。

しかし残念ながら、
ベストセラーとまでは行かなかったようです。


ケチをつけるつもりはないのですが、

『第1感』

という邦題が、正直あまりピンとこないんですよね。
直感的には、あまり惹かれないタイトルだと思います。


本書の原題は、

『blink - The Power of Thinking Without Thinking』

です。

実は私は、翻訳本が出る1年ほど前に原書を買っていたのですが、
購買意欲を刺激したのはこの原題のサブタイトル、

「考えないで考える力」
(The Power of Thinking Without Thinking)

という面白い表現でした。


ですから、邦題でも、

『非思考力』

とか

『考えない力』

とでもしたほうがもっとキャッチーだったかなと思います。


まあ、第三者はいくらでももっともらしいことが
言えますので、タイトルの話はこのくらいにしときます。


さてこの本では、
最初のわずか2秒ほどで感じた結論が、
多くの場合に正しい判断であるということを
様々な具体例を交えて解説しています。


本書冒頭には、
次のような話が紹介されています。

紀元前6世紀に作られたというギリシャ彫刻の大理石像、

「クーロス像」

が、ある美術商によって、
カリフォルニア州のゲッティ美術館に持ち込まれました。

ゲッティ美術館では、この像の真偽鑑定のため、
14カ月かけて科学的な分析を含む徹底的な調査を
行いました。

その結果、同像は数百~千年以上前の作品であることが
確認できたため、同美術館はクーロス像の購入しました。


ところが、美術史や彫刻に詳しい専門家たちは、
この像を見た瞬間に、

「どこかおかしい」

とか、

「新しい」(2千年以上も前のものであるはずなのに)

と感じたのだそうです。

ただし、そのように感じた理由を彼らは
言葉ではうまく説明することができませんでした。

まさに、「直感」が働いていたわけです。


そして再調査の結果、
現在ではこの像は近年に作られた

「模造品」

だとみなされているそうです。


本書によれば、
このように一瞬にして真偽を見分けることが
できるような脳の働きは

「適応性無意識」

と呼ばれており、
心理学で最も重要で新しい研究分野のひとつ
なのだそうです。


この「適応性無意識」こそが、
俗に「直感」と言われているものです。


心理学者、ティモシー・D・ウィルソンは、
「適応性無意識」について次のような説明を行っています。

「高度な思考の多くを無意識に譲り渡してこそ、
 心は最高に効率よく働ける。最新式のジェット旅客機が、
 <意識的>なパイロットからの指示をほとんど必要とせず、
 自動操縦装置で飛ぶのと一緒だ。
 適応性無意識は、状況判断や危険告知、目標設定、行動喚起
 などを、実に高度で効率的なやり方で行っている」


この本には多様な分野のエピソードが掲載されているため、
正確には「マーケ本」と呼べるかどうか微妙です。

ただ、新商品のブラインドテストの例などを示して、
直感的(=無意識的)には優れた商品、好きな商品を
正しく選択できるにも関わらず、現実には、
強いブランドイメージに引っ張られて、

「このブランドだから、良い商品に違いない」

と、実際には好きでもない有名ブランド商品を選んでしまう
傾向が一般消費者にはあることが指摘されています。


これは、「直感的判断」を
「理性的(観念的)判断」が覆してしまうということですね。

明らかに優れているはずの新商品が、
以前からあるパワーブランド商品になかなか勝てない理由
のひとつがここにあります。


「第1感」は、
純粋に読み物としてもなかなか楽しめる本ですよ。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
(マルコムグラッドウェル著、沢田博・阿部尚美訳、光文社)

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (2) | トラックバック

相手の心が読めるメカニズム・・・ミラーニューロン

私たちは、他人が何を考えているのか、あるいは
何を感じているのかをあれこれ複雑な推論をすることなく、
ほぼ瞬時に理解することができます。

これって、よく考えれば不思議なことですね。


なぜこんなことができるのでしょうか。

この不思議を解く鍵は、

「ミラーニューロン」

と呼ばれる脳の神経回路にあります。


他人が、何かものを食べています。

それをあなたが見ている時、あなたはただ見ているだけなのに、
食べている人と同じ箇所の脳の神経回路が活性化しています。

つまり、相手の脳内の動きが、
まるで鏡のようにあなたの脳内にも反映されている。


これは、端的に言えば、他人の体験を観察することで、
あなたの脳内では「疑似体験」をしているということです。

だから、まるで自分ごとのように
相手の気持ちが理解できるわけですね。


先日の米大統領予備選において、
ヒラリー・クリントン氏が涙を見せた時、
おそらくミラーニューロンの働きによって、
彼女の苦渋の表情を見ていた支持者の脳内でも、
ヒラリー氏と同様の感情が湧き起ったはずです。
(ただし、その感情を支持者がポジティブに解釈するか、
あるいはネガティブに解釈されるかは別の問題ですが)


ミラーニューロンは、過去の実験から、
サルや人などの霊長類に存在することがわかっています。
(他の動物たちにもあるかどうかは不明)

いわゆる霊長類のほとんどは、
群れを作って共同生活する社会的な動物です。

この社会という集団の中で適応するためには、
相手の感情をすばやく理解し、適切な対応ができることが
求められます。

このためにミラーニューロンが発達したのだと
考えられます。


ミラーニューロンは、他人の感情を理解する力、
つまり「共感力」だけでなく、また、相手の行動を観察し、
模倣することによって何らかのスキルを身につける
「学習力」とも関係があるようです。


ミラーニューロンは、
発見されてからまだ10年そこそこしか経っていません。

人と人とのコミュニケーションに大きな役割を
果たしていると考えられるミラーニューロンについての
新たな発見がこれからも続々と出てくるでしょうね。


(参考文献)
*他人を映す脳の鏡
 (日経サイエンス別冊、脳から見た心の世界 Part3)

投稿者 松尾 順 : 11:36 | コメント (4) | トラックバック

情動優位の時代!?

先日、マスコミにもよく登場される精神科医、
香山リカさんの講演に参加する機会がありました。


香山さんのお話の中で、私が一番引っかかったのは、

“現代は、「知性や理性」といったものよりも「感情や感性」
といった「情動的」なものが人々の行動において目立つように
なってきた。”

ということでした。


キャッチフレーズ的に言えば、

「情動優位の時代」

ということになるのでしょうか。


香山さんは、以前から、そして今でも、
臨床医として精神科の患者さんの治療を行っています。

患者さんはうつ病などの病気に罹ってますから、
当然ながら精神的に不安定です。

従来、患者さんとしか接していなかった香山さんは、

「病気だからこうなんだ、元気がなかったりするんだ」

と思っていたそうですが、近年、大学教授として学生に
接するようになって、この認識が間違っていたことに気づきました。


なぜなら、恵まれた環境にいる、ごく普通の学生たちもまた、
ちょっとしたことですぐに落ち込んだりメソメソしている。
あるいは逆に、ちょっとしたことにイライラし、むかついている。

つまり、香山さんは、
病人ではない、健康な一般人が感情の大きな起伏を日常的に
表に出していることに驚いたのだそうです。

考えてみれば、

泣ける本、泣ける映画

などが最近はやたら人気です。

逆に、大笑いできる漫才の人気も根強いものがありますね。

突然、「切れる」人も増えてます。

泣く、笑う、怒るといった感情を以前よりも
遠慮なく表出できるようになったということでしょう。


今は「心」の時代とも言われてもいますね。

「人間脳」と称される「大脳新皮質」を駆使して物事を
科学的に見ようとするアプローチが主流だった20世紀は
「脳」の時代でした。


一方、「心」の時代はいわば先祖帰りです。

つまり、「動物脳」とも称される大脳辺縁系を駆使して、
感情や感性で物事を全体的に捉えようとするアプローチが
主流になりつつあります。


これは、良い・悪いの議論ではありません。
そのような傾向が顕著になっているという現状認識を
お伝えしているだけです。


ただ、情動優位の時代になったのは、逆に言えば、
理性・悟性による感情コントロール力が低下したからと
言えるのかもしれません。

つまり、現代人、特に若い世代は、
自分の感情をうまく扱うことができなくなりつつある
のではないかということです。

このことが、昔は中年期以降の病気だった
「うつ病」が若い人に増えている背景にあるのではないかと
私は感じています。


マーケティングの世界でも、

「感情や感性」

をどう刺激するかということが、
近年ますます大きな関心事となってきてますよね。


(関連記事)
*わがままな3人の王様たち

投稿者 松尾 順 : 11:16 | コメント (2) | トラックバック

もてたい、恋したい

「オヤジだってもてたい!」

という男性の本音をアカラサマに刺激して成功したのは、

「LEON」

でした。


実際「LEON」では、

「もてる」「口説く」

ために有効な商品を見立てる、つまり

「もてたい軸」

という切り口に沿って掲載する商品や記事を厳選することで
中高年のスケベオヤジの心を掴んだわけです。


さて、もてたいのは若い人も一緒です。
というか、もっとギラギラしてますが・・・(笑)

今年(07年)3月に発売されたユニリーバの男性用オーデコロン、

「AXE(アックス)フレグランスボディスプレー」

もまた、

「吹きかけるだけで女性にもてる」

という単純明快なメッセージを前面に打ち出して、
男性の本能への直球勝負を挑みました。(日経MJ、2007/12/07)

*THE AXE EFFECT
http://www.axeeffect.jp/index.html


キャッチコピーは

「女を虜(とりこ)にする香り」

ですし・・・

展開された一連のTVコマーシャルも、
なんとも直截的というか、

「俺もこれ一本欲しい!」

と男性の欲情を掻き立てるものでした。


この結果、「AXE」は、あっという間に
トップブランドに登りつめていますね。

男性用オーデコロンの売れ筋ベスト10を見ると、
上位3位までをAXEが独占してます。
(日経POSデータ、2007年8月1日~10月31日)


現代の日本は、従来秘めてきた欲望を
表沙汰にすることに抵抗がなくなってきていると
言われてますが、これに呼応してか、
マーケティングコミュニケーションも過激さを
増しつつあるようです。

ちなみに、欧米のTVコマーシャルをご覧になったことが
ある方はご存知だと思いますが、あちらでは昔から、
性本能ダイレクト刺激系のクリエイティブが多いですよね。


ところで、女性だってやっぱりもてたい。
ただし女性の場合、「もてたい」という表現ではなく、

「恋したい」

というのがしっくりくるようですが。


実は、こうしたコンセプトに沿って開発されたのが、
今年4月発売の花王のヘアケアブランド、

「セグレタ」

です。

30代後半から40代がメインターゲットの同商品は、
半年で計画の2倍に当たる800万本超えるヒットを
記録してます。(日経MJ、2007/12/07)

*花王セグレタ
http://www.kao.co.jp/segreta/


「セグレタ」のコンセプトワークやリサーチを
担当した同社の海老澤香織さんによれば、
150近くあったコンセプト案からの絞込む際、
当初アンケートで高い支持を得た

「これからも人生を楽しみ、前向きに生きたい」

という回答に疑問を抱き再調査を行ったそうです。


すると、最初の調査ではそれほど評価されなかった、

「恋こそ究極のアンチエイジング」

を内心では支持している人が多いことに気づいたそうです。


こうして、消費者の表面的な態度の奥に隠された

「インサイト」

をうまく発見できたことが
セグレタがヒットした背景にあるようです。


やはり、男性も女性も老いも若きも、

「愛こそがすべて」 -All you need is love-

ですかね。


(LEON関連記事)

*生まじめに遊ぶ

*シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル

投稿者 松尾 順 : 14:33 | コメント (0) | トラックバック

いびつな協調性-「KY」を恐れる心

臨床心理士であり、
心理カウンセリング関連の著作で知られる

諸富祥彦氏(明治大学文学部 教授)

によれば、現代の若者の行動には、

「いびつな協調性」

が見られるそうです。


特に男子学生同士の間でそれは顕著です。

彼らは、

「KY」(空気が読めない)

を極度に恐れており、友人から

「お前はKYだな」

と言われないことに命を懸けているらしい。(笑)


また、ゲイだからというわけではないと思いますが、
ペアルックを着てくる男子学生がいるそうです。

そして、彼女よりも男友達の方が大切。

友人の交友関係を気にして、
携帯のメールをこっそりチェックするとか。

自分以上に親密な友人が他にいるかもしれない・・・
と心配なのです。


まあ、これはかなり極端なケースだと思います。

しかし、過去数十年、
欧米に習って個人主義が志向されてきたはずの日本で、
再び、昔ながらの

「日本的集団志向」

に大きく振り子が戻っているように感じるのは、
私だけではないようです。


さて、諸富氏が示した「いびつな協調性」、
すなわち、過度に相手に合わせようとする行動は、
TVプロデューサーのおちまさと氏が発見した

「鉄板病」

の症状に他なりません。


「鉄板病」とは、常に

「正解ゾーン」

にいることにこだわる病気です。

言い換えると、

「ハズしたくない」「間違いたくない」

という思いに囚われていること。


この結果、

「過度に多数側にいる」

ことを志向します。

そして「予定調和」を好み、
場の雰囲気を壊すことをできるだけ避けようとする。

また、世の中の常識や通説、
多数派の意見を鵜呑みにするため、

「思考停止」

に陥りがち。


おちまさと氏は、
こうした鉄板病に罹った人たちが増えてきたことに
警鐘を鳴らしています。

私も、従来の日本社会に見られた、
ウチとソトを厳密に区別し、ルールも使い分ける

「閉鎖的な集団行動」

を過度の協調性が再び強化し、
社会をよりよいものにしていくために必要な
異端なアイディアや創造性、そして
現状を変えようとする意欲を阻害するのではないか
と心配しています。


それにしても、なぜ、

「鉄板病」

はこれほどまでに勢力を増してきたのでしょうね・・・?


『鉄板病』
(おちまさと著、NHK出版)

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

人工生命体Boidsの基本ルール

空を飛ぶ鳥の群れや、あるいは
水の中の魚の群れとそっくりの動きをする
コンピュータ・シミュレーションがあります。


これは、ソニーコンピュータエンタテイメントの
米国研究開発部門で働く、クレイグ・レイノルズ氏が
開発した「人工生命体」です。

「Boids」(ボイド)

と名づけられています。

*シミュレーションはこちらで見ることができます。

まるで生きているかのように、
群れをなして飛び回るボイズの動きは、
次のわずか3つの行動ルールに基づいているだけです。


-----------------------------------

1 セパレーション(Separation):分離

  →仲間に近づきすぎたら離れる

2 アラインメント(Alignment):整列

  →仲間と同じ方向に同じ速度で飛ぶ

3 コアージョン(Cohesion):凝集

  →仲間の中心方向に飛ぶ

------------------------------------


「Boids」の動きは、
鳥でいえば「飛行」を模したものになっていますが、
鳥と同じく

「群れる動物」

である「人間」の社会的活動の多くは、
こうした基本的なルールが背景にあると考えても
いいのではないでしょうか。


以前から何度か書いてきたように、人間の3大本能は、

・食欲
・性欲
・集団欲

です。つまり、食欲、性欲と並んで、

「群れたい」

というのはDNAに埋め込まれた本能です。


これは、上記の3つのルールの中では、

・コアージョン:凝集

に該当する行動になるかと思います。


要するに、仲間同士で寄り集まること。

こうして、外敵から身を守ったり、
お互いに助け合って生きていこうとするわけです。


さて、集団を維持するためには、
構成員があまり身勝手な動きをするわけにはいきません。

そこで、お互いの動きを見ながら同調しようとします。


これは、

・アラインメント:整列

のルールに該当しますね。

社会現象におけるトレンド、ブームの発生は
結局のところ、こうした、他の人に合わせようとする
行動が根底にあるということだと思います。

ついでながら、他の人の意見や行動に基づいて
物事を判断したり、自分の行動を決める傾向のことを
社会心理学では、

「社会的証明」

と言います。


さて、人は群れたがるとはいえ、
一方で「個」としてのアイデンティティを維持したいとう
欲求もあります。

自分という存在を他と明確に識別したいということです。
このため、必要以上に近づきすぎるのを避けようとする。

これは、

・セパレーション:分離

というルールに基づく行動として現れることになります。


「群れたい」という「コアージョン」(凝集)と
「離れたい」という「セパレーション」(分離)は、
相反する行動ですが、鳥にしろ、人間にしろ、

くっついたり離れたり
(同調したり、しなかったり)

を繰り返しながら集団生活をしているということでしょう。


そして、この行動のブレは、
当然ながら消費行動にも反映されてきます。


・新商品が出たばかりのころに手を出すのは、
 集団の変わり者だけ。

・でも、買う人が増えてくると、
 「みんな買っているから」というだけで買いだす。

・そうして、多くの人に行き渡ってしまうと、
 みんな同じだと、つまらなく感じてしまって買わなくなる

投稿者 松尾 順 : 11:11 | コメント (0) | トラックバック

ソーセージは赤いもの

先日、日本ハムで多数のヒット商品の開発を手がけた
伝説のマーケターの方の話を聞きました。


私くらいの年代(40代)が小さかった頃、
つまり昭和40年代に、お弁当などに入っているソーセージと言えば、

「赤いもの」

でしたよね。

あの色はもちろん合成着色料の色です。

そして、中身は、魚肉、豚肉、牛肉などを
ミックスしたものが主流でした。


当時、その伝説のマーケターは、
品質にこだわった商品を開発しようと、
着色しない自然のままのソーセージ、
また中身はポーク100%など、高品質の製品を
いろいろと出したそうです。

ところが、手を変え品を変え、
どんなに優れた高品質の製品を出しても、
見た目の色が「赤」でなければまるで売れなかったのです。


食品の添加物には敏感な今の私たちには、
とても信じられない驚愕の話ですよね。


さて、ユーザーが購入に当たって重視する品質のことを

「知覚品質」

と呼びます。

これは、製品の「客観的な評価」ではなく、
ユーザーがどう感じているかという「主観的な評価」のこと。


昭和40年代のソーセージの場合、

「色が赤いこと」

というのが、ソーセージ選択における
最も重要な「知覚品質」だったというわけです。


新製品開発に当たっては、

ターゲットユーザーの「知覚品質」を
的確に理解していないと売れる商品は作れない

ということをこの話は教えてくれますね。


類似の話では、以前もちょっと書きましたが、
米国進出に失敗した化粧品メーカー、

「ファンケル」

の例がありました。


日本では、ファンケルの無添加化粧品は、

「肌に優しい」

ということが評価されて、
瞬く間に大手化粧品ブランドの地位を確立しました。


ところが、米国の女性には受け入れられませんでした。

その理由のひとつが、

「刺激が少なすぎて使った気がしない」

ということらしいです。

実は、化粧品のピリピリする刺激は、
配合されている添加物のせいなんですが。


ユーザーの「知覚品質」って、
どちらかといえば右脳的・感覚的な判断ですから、
必ずしも合理的なものではないということがよくわかりますね。
(もちろん、食品にせよ、化粧品にせよ、
 添加物は一律に良くないと考えるべきではないでしょうけど)

投稿者 松尾 順 : 09:59 | コメント (0) | トラックバック

もうひとつの「基本的欲求」

人の「心」をより的確に読むための第一歩、それは、人が持つ

「基本的欲求」

にはどんなものがあるかを理解しておくことです。


「基本的欲求」と言えば、誰もが思いつくのは

「マズローの欲求階層説」(「欲求5段階説」などとも言う)

でしょう。


この理論を簡単に説明すると、

人の欲求には、低次元から高次元へと
以下の5つの基本欲求があると考えます。

------------------------------------

1.生存の欲求(食欲、性欲など根源的な欲求が満たされたい)
2.安全の欲求(生命が脅かされない、安全に暮らしたい)
3.社会的欲求(所属や愛が欲しい)
4.自我(自尊)の欲求(社会の中で承認、尊敬を得たい)
5.自己実現の欲求(自分らしさを発揮したい)

------------------------------------

そして、低次元の欲求が満たされることで、
初めて次の高次元の欲求へと移行するというものですね。


この理論は、

売れる商品の開発や、
人の琴線に触れるコミュニケーション施策

を考えるに当たっても確かに有用ではあります。

しかし、もうひとつ使いにくいと感じたことはありませんか。

たとえば、

「自己実現の欲求」

は、私は正直、詳しい解説をいくら読んでも、
わかったようでよくわかりません。
(それは、私の勉強不足ですね・・・確かに。すいません!)


また、マズロー説では、
エンタメ系のヒット商品が売れる理由が
うまく説明できないのです。

たとえば、

「ゲームなどをして楽しみたい」

という欲求は、上記の5つの欲求のどれにも
該当しないように思います。


というわけで、マズローの

「欲求階層説」

は、理論としては学ぶ価値があるものの、
現実への適用にはやや無理があると
私は考えています。


さて、実はもうひとつの

「基本的欲求説」

があります。


それは、

「リアリティセラピー」(現実療法)

の考案者として知られる米国の精神科医、

ウイリアム・グラッサー博士
が提唱しているものです。


グラッサー博士によれば、
人は次の5つの基本的欲求を持っています。

------------------------------------

1.生存の欲求
空気や水、食べ物、住居、睡眠など、
  生きていくために必要なすべてに対する欲求

2.愛と所属の欲求
  家族、友人、会社などに所属し、愛し愛される
  人間関係を保ちたいという欲求

3.自由の欲求
  自分の考えや感情のままに自由に行動し、物事を運び、
  決断したいという欲求。誰にも束縛されずに自由でありたい
  という欲求

4.楽しみの欲求
義務感にとらわれることなく、自ら主体的に喜んで何かを
  行いたいという欲求

5.力の欲求
  自分の欲するものを、自分の思う方法で手に入れたいと
  思う。人の役に立ちたい、価値を認められたいという欲求

------------------------------------

そして、人は、
これらの内面から来る欲求に動機付けられて
行動するということです。

なお、5つの欲求のうち、

「力の欲求」

は「人類」だけが持つ欲求だそうです。


上記の欲求は、
マズロー説と一部重複していますね。

しかし、グラッサー説独自の

・自由の欲求
・楽しみの欲求
・力の欲求

の捉え方は、人間のさまざまな行動の背景にある心理を
もっとうまく説明できると思いませんか?


グラッサー博士の諸理論は、私もまだ学習中ですので、
今はまだ聞きかじり程度のお話しかかできませんが、
今後も記事のテーマとしてご紹介していきたいと思います。


なお、マズロー説の

低次元から高次元へと欲求が移行する

という考え方(仮説)は、
現在の心理学では否定されており、
マズロー自身も、この点は間違いだったと認めています。

実際には、
5つの欲求の強弱の度合いが人によって異なる
というのが現在の見方です。

グラッサー説も、
5つの基本的欲求があるということは言っているだけで、
欲求を段階的に移行するようなものとは見ていません。


*グラッサー説の説明は、

『グラッサー博士のモチベーション・フォーラム2007』

のWebサイトの内容、
および私が直接聴講したグラッサー博士の講演内容を
元にしています。

投稿者 松尾 順 : 12:34 | コメント (0) | トラックバック

だまされない心

米国、および日本でロングセラーとなっている名著、

『影響力の武器』

の著者、ロバート・チャルディーニさんが、
日本心理学会の大会での招待講演のため9月に来日されていました。

私は残念ながら同講演を聞くことはできませんでしたが。


日経夕刊(07/10/11)にチャルディーニさんの
来日中に行われたインタビュー記事が掲載されていましたね。


そもそも、チャルディーニさんが、

「あの手この手で買わせようとするテクニック」

を研究することにしたのは、自分自身が

「だまされやすい人間だったから」

だそうです。


実は、私もかなりだまされやすい人間でした。

学生時代に「キャッチセールス」に引っかかったのを手始めとして、
あれこれと敵の術中にはまり、数十万円をどぶに捨てるような
経験を重ねてきたので、

「なんだ、チャルディーニさんも押しに弱い人だったか」

となんだかちょっとホッとしました。


もちろん、私も、人生経験を十分に積んだ今は、
そうそう簡単にだまされることはなくなってきました。

むしろ、たいして金のない若い頃に、
取り返しのつく範囲でだまされたのは、将来の大損を防ぐ

「免疫」

づくりになったと自分では思っています。


私よりも人生経験の長い中高年の方々が、

「出したお金が、半年で2倍になりますよ」

なんて、ありえない話にコロっとだまされ、
なけなしの老後資金等を巻き上げられる事件が
相変わらず頻発していることを考えると、若い頃に適度に

「だまされる経験」

も必要じゃないかと思いますが、どうでしょうか?


さて、チャルディーニさんが

『影響力の武器』

で研究の成果としてまとめている武器(原理)は次の6つです。

・返報性
・一貫性
・好意
・社会的証明
・希少性


それぞれの詳しい説明は、

「INSIGHT NOW」で泉本貴さんが書かれている

[もう一度読み返したい本:影響力の武器]

がわかりやすいですよ。


チャルディーニさんによれば、
社会の情報化、グローバル化が進む中で、
特に影響力を強めているのは

「社会的証明」

の原理だそうです。


ネット社会では、
情報が即時に広範囲に伝わるようになりました。

この結果、口コミの影響力の背景にある

「社会的証明」

のパワーが高まっているという主張にはうなずけます。


この「社会的証明」とは、
多くの人がやっていることに引きずられること、
いわゆる「付和雷同」のことです。


チャルディーニさんが取材の中で明らかにした
「社会的証明」の影響力の実験が興味深いです。

これは、ホテル側が、連泊する宿泊客に対して、
タオルを毎日替えないで、継続使用をお願いする際、
どんな文面を掲示するが効果的かを調べる実験でした。


文面は次の4パターン。

1「継続使用で節約したお金を環境保護団体に寄付する」

2「環境保護のためご協力を」

3「未来の世代のためにご協力を」

4「当方の大多数のお客さまに継続使用を
  ご協力いただいています」

この実験では、前の3つに比べて、
「社会的証明」の原理を盛り込んだ4番目の文面が

[34%]

も多くの客がタオルの再利用に協力することが
分かったそうです。


「社会的証明」の実験は、
日本でやればもっと大きな差異が出そうですよね。

「空気を読む」ことが重視される日本では、
おそらく、他の国以上に「社会的証明」の影響力が強い
でしょうから。


では、インタビューの中でも、
また『影響力の武器』でも説明されているのですが、

「だまされない心」

を持つ人になるコツを最後にご紹介しましょう。


ひとつは上記6つの「影響力の武器」(原理)
を十分理解しておくこと。

売り込もうとしてくる敵が、
どんな武器で攻めてきているかがわかれば、
簡単に乗せられてしまうことはないですよね。


もうひとつは、購入を決める際に、
相手が使う影響力の武器を、
「自分とモノやサービスとの関係」から切り離すことです。


たとえば、テレビショッピングなどで

「本日限りの限定価格!」
「先着100名さま限り!」

といった「希少性」の武器で相手が攻めてきた時。


この口車に乗せられているだけだと、

「今買わないと後悔するかも・・・」

とつい考えてしまいますね。


しかし、

「ちょっと待てよ、そもそもこの商品は
 自分にとって本当に必要だろうか?」

「自分とモノ・サービスの関係」

だけに焦点を当てるようにするのです。


こうすれば、勢いで買ってしまい、後になって

「後悔する」

ことが幾分か減らすことができるでしょう。


『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 11:45 | コメント (0) | トラックバック

高層階の部屋ほど不人気な国

近年、首都圏では「高層マンション」が
ガンガン建設されてますよね。

当然ながら、日当たりがよく、
眺望の良い「高層階」ほどお値段は高い。


最近は、花火大会で打ち上げられる花火を
自宅で居ながらにして鑑賞できる部屋もあるそうです。

なにしろ、花火の上がる高さと同じくらいの部屋も
あるでしょうから、相当な迫力でしょう。

やはり当然ながら、こうした部屋は希少価値が高いせいか、
人気も高く、さらにお高くなりますね。


さて、日本や欧米では、おおむね

「マンションは高層階ほど人気」

というのが常識ですから、

「当然ながら・・・」

というまくら言葉をつけてしまいます。


しかし、世界を見渡してみると、

「高層階の部屋ほど不人気」
というところもあるのです。


経済発展著しいベトナムのハノイ。

ここでは、ある賃貸アパートを見に来た夫婦が、

「このアパートには5階以上の部屋しか
 空いていなかったから他のところを探す」

とコメントするほど。その理由は、

「怖いから」

だそうです。


地元の不動産屋の話によると、
ある新築アパート最上階の家賃は、
日本円にして月額約2万3千円。

一方、同じアパートの1階、
間取りはほぼ同じで、同3万円強。

高層階の方が7千円/月も安い価格設定です。
日本などと逆ですね。

それでも5階以上の部屋の借り手は
見つからないのだそう。


国内が戦場となった激しい戦争を経験し、
まだその記憶が生々しいベトナム人にとって、

「高層階の部屋は、
 いざという時にすぐに逃げ出せない」

という点が、精神的な壁になっているようです。


上記のベトナムの話は、日経夕刊に
たまに掲載されるコラム

「ところ変われば・・・」

がネタ元です。

このコラムでは、
海外のさまざまな生活習慣や風習が紹介されているので、
毎回興味深く読んでいます。

こうしたコラムを読み、自分たちの基準からは大きく
異なる考え方や暮らしをしている人々のことを知るのは、
固定観念に縛られがちな頭脳を柔らかくするのに効果が
あるように思います。


蛇足ながら、確かに高層階の部屋は、
何事もなければ快適な暮らしが送れると思います。

窓を開ければ涼しい風が吹き抜け、
猛暑の夏でも冷房不要だったとも聞きますし。


でも、いざなんらかの災害が発生し、
エレベータが停止してしまったら本当に大変です。

たとえば、地上38階に買った部屋に行き来するのに、
毎回階段を上り下りしなければならないとしたら、
気が遠くなりそうですよね。

食料の調達とかもままなりません。


実際、災害時における

「高層マンション難民」

の発生が首都圏では危惧されていますね。

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(13)受け手の反応レベル

いつものように長々と続けてしまった

『影響力を解剖する』

ロングレビューですが、今回が最終回です。


内容は、影響の受け手の反応についてです。


受け手が、どの程度深く影響を受けているのかという

「反応の深さ」

は、3つのレベルに分類できます。
(米国の社会心理学者、ケルマンの説)


・表面的服従
・与え手に対する同一視
・価値観の内面化


[表面的服従]

いわゆる「面従腹背」です。

表面的には相手に従っているけれども、
心から従っているわけではない。

態度や信念まで変えるまでに至っていないレベル。


単に「賞」が欲しい、または「罰」を回避したいから
仕方なく従っているだけというケースが多いでしょう。

ですから、もし賞や罰影響力がなくなれば、
影響の与え手に従わなくなる可能性が高いでしょうね。


[与え手に対する同一視]

これは、与え手との満足な人間関係を確立したり、
維持するために与え手の影響を受け入れる場合です。

そして、受け手が自ら進んで
意識的に与え手の考え方や行動を模倣したり、
与え手が期待するような役割を果たそうとします。


たとえば、武道や芸事の世界で、
憧れの師への弟子入りが許された人は、
師匠の指示があろうがなかろうが、おそらく、
師匠が期待する行動を進んで取ろうとするはずですよね。

ただ、これはあくまで師匠と弟子という人間関係に
基づくものです。


[価値観の内面化]

これは、受け手自身の態度や価値観が、
与え手のそれと合致するがゆえに、与え手からの働きかけに
応じるもの。

また、十分納得した上で、
与え手から言われた通りに考えを変えたり、
行動したりする場合です。

そして、影響を受ける前にまでに持っていた
態度や価値観は、受け手が納得した上で修正されます。


このため、影響を受けたことの持続力が高く、
与え手が受け手を監視しなくても、新しい考え方や行動を
自発的に取り続けます。

すなわち、「価値観の内面化」は、
もっとも深いレベルで影響を受けた場合ということです。


さて、企業などの組織運営においては、
成員が、目先の報酬(昇給、昇進)や罰(減給、降格)で
表面的に動くのではなく、会社の考える価値観に沿い、
自主的・自律的に動ける組織のほうが当然ながら強いですよね。

だからこそ、経営理念やビジョン、行動指針を明確に掲げ、
常日頃から繰り返し成員に伝え続けることによって、
企業の価値観を成員に内面化させることに最大限の努力を
注ぐ必要があります。

この超有名な事例としては、
ザ・リッツ・カールトン・ホテルの

「クレド(信条)カード」

がありますね。

リッツカールトンの全スタッフは、
常にクレドカードを携帯して、時間があれば何度も読み返す。

そしてまた、朝礼では、本社から毎日送られてくる課題
(例えば、無理な注文をしてきた顧客にはどう対処すべきかなど)

をクレドに書かれた内容をベースに考えるという方法を通じて、

「価値観の内面化」

を徹底しているというわけです。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 09:28 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(12)コントロール感-2

前回書きましたが、

「自分の周囲の世界を主としてコントロールしているものは何か」

ということについての私たちの見方(認識)には、
大きくは、次の2つの傾向があるのでした。

・外的コントロール型
・内的コントロール型


「外的コントロール型」とは、
自分の行動や能力よりも、外的な要因、
すなわち運命や他者の存在によって、
自分にもたらされる結果が大きく異なってしまうものだと
考える見方。

一方、「内的コントロール型」は、
外的な要因よりも、自分の行動や能力、性格によって、
自分にもたらされる結果が大きく影響を受けると
考える見方です。


そして、自分にとって良い結果をもたらすのは、

「内的コントロール型」

の見方であるとも書きました。

「内的コントロール型」の人は、
自分の人生は自分の考え方や行動次第なのだという
いわばポジティブな思考が、「運」をも呼び寄せるからです。


逆に「外的コントロール型」の思考を持っていると、

「どうせ努力しても無駄だ」

という投げやりな態度に陥りがちで、
その自然な結末として、ますます不幸になっていきます。


なんだか、ちょっと自己啓発的な話になってますが、
今回取り上げたいのは、

「過去の経験の結果が、
 こうしたネガティブな見方を形成してしまう」

という点です。


それは、

「学習性無力感」

と呼ばれるもの。

これは、「コントロール感」を
剥奪された状態を意味します。


この存在を検証するために行われた、
犬に電気ショックを与えるちょっと可哀想な実験が

『影響力を解剖する』

で紹介されています。


実験1日目、電気ショックを与えられた犬のうち、
ある犬は目の前の板を鼻で押すとショックを止めることが
できました。

別の犬は、電気ショックを止めるための仕掛けはなく、
ただひたすらショックに耐えるしかない状況に
置かれました。

また別の犬は、
いっさい電気ショックを与えられませんでした。


実験2日目、今度は柵で2つに区切られた部屋に犬が
入れられました。この部屋は、天井にある電灯が消えたら
10秒後に電気ショックが与えられる仕組みになっています。

ですから、電灯が消えたらすぐに柵を飛び越え、
隣の部屋に移れば電気ショックを回避することができました。


さて、前日、電気ショックを鼻で止めることのできた犬と、
最初から電気ショックを与えられなかった犬は、
すぐにこの仕掛けを理解し、電気ショックを回避することを
学習しました。

ところが、前日電気ショックを耐えるしかなかった犬は、
自分が動きさえすれば電気ショックから逃げられたのに、
動こうとせず、電気ショックを受け続けたのです。


この実験が示唆するところは、深いものがありますよね。

動物は、自分がコントロールのできない不快な状況を
体験させられ続けると

「無気力」

となり、後に不快さを自分で解決する力を与えられても
自ら動こうとしなくなってしまうのです。


「学習性無力感」の実験が与える示唆が「深い」と
思うのは、現代社会が、何か自分とは関係のないところで
大きく発展(進化)し続けていて、その複雑で高度な変化に
私たちは翻弄されているという感覚を持たざるを
得なくなってきたからです。

こうした変化に対し、なんとか適応しようとがんばり、
自分の人生のグリップを握り続けている人はいいのです。


問題は、さまざまな理由で
人生のグリップを手放してしまった人たちです。

彼らは、社会への適応に失敗し続けるうちに、文字通り

「学習性無力感」

に陥ってしまい、現状にただ流されるだけとなり、
自暴自棄の生活を送る可能性が高くなります。


最近の若者たちの動向を見ていると、

「ひょっとして、若年層にこんな人々が増えているのではないか?」

という危惧を感じざるを得ませんよね。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 12:55 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(11)コントロール感-1

なぜ、そもそも人は

影響力を持ちたい、与えたい

と思うのでしょうか?

それは、

「コントロール感」

を持ちたいという人間の欲求が根底にあるからです。


「コントロール感」とは、

自分の判断で行った行動が予期した結果を生み、
自分に取って望ましい状況を自分で作り出せた

という認識のこと。

わかりやすく言い換えると、

「自分が世界の中心にいて、世界を思いのままに動かしている」

と思いたいという「自己チュー的感覚」のことです。


ただし、私たちは、この世に誕生して以来、
社会に揉まれながら育っていく過程において、

「自分の周囲の世界を主としてコントロールしているものは何か」

という問いに対する答え(見方)を形成していきます。


この見方には大きく次の2つの傾向があります。

・外的コントロール型
・内的コントロール型


「外的コントロール型」とは、
自分の行動や能力よりも、外的な要因、
すなわち運命や他者の存在によって、自分にもたらされる結果が
大きく異なってしまうものだと考える見方。

なにかがうまくいかない時、常に「周りが悪い、運が悪い」
と考える人は、

「外的コントロール型」

の見方をする傾向が強いと言えますね。


一方、「内的コントロール型」は、
外的な要因よりも、自分の行動や能力、性格によって、
自分にもたらされる結果が大きく影響を受けると考える見方です。

失敗した時、「自分の努力が足りなかった」
と考える人は、

「内的コントロール型」

の見方が強いです。


もちろん、人はそれぞれ、この2つの見方のどちらか
一方しか持たないというわけでなく、両方を使い分けることが
ありますし、時代や状況によっても変化していきます。


たとえば、2001年の米国の同時多発テロ事件、
いわゆる「9・11」が発生した時、あっけなく崩壊した
ワールドトレードセンターを目撃した人の多くは、

「この世には自分ではどうしようもできないことがある」

という「悲観的外的コントロール型」の思考に大きく傾きましたよね。


一方、たまたまバブル期だったから、
どの株を買ったところでほぼ確実に儲かったにすぎないのに、
株式投資で大金を稼いだ人の中には、

「自分は株の天才だ」

などと、「妄想系内的コントロール型」に陥った人がいました。


さて、基本的には、
人生においてよい結果につながりやすいのは、

「内的コントロール型」

です。

要するに、自分に対して影響力を行使し、
怠けがちな自分を叱咤激励して行動を起こさせる。

自分の能動的な行動こそが、
外的要因である「幸運」をも呼び寄せるというのは
成功した人はよくわかっています。


「外的コントロール型」は、

「自分でどうしようもならないことをうじうじ考えても仕方がない」

という「健全な諦念感」につながるのならいいのですが、

どうせ自分がどんなにがんばっても、どうせ浮かばれない」

という「逃げ」(行動しないことの言い訳)に陥ってしまうと、
まさに、自分の思うとおりますます事態は悪化していきます。


ちなみに、私はキャリア・アドバイザーとして、

「キャリアデザイン研修」

も業務のひとつとして行っています。


その研修の中で、私は、
キャリアづくりにおける基本的な心構えとして
次の3点を強調しています。

・健全な自己中心主義
・健全な危機意識
・健全な諦念感


「健全な自己中心主義」とは、
人様に迷惑をかけない限り、周囲がなんと言おうが、
自分のやりたいことを貫こうとする意識。

「健全な危機意識」とは、
現状のままでいいはずがない、という現状に安住しない意識。
(うぬぼれを防ぎ、謙虚さをもたらします)

「健全な諦念感」とは、
前述したように、自分がコントロールできないことについては、
考えない。「人事を尽くして天命を待つ」という意識のことです。


ちょっと話が飛びましたが、

「外的コントロール型」と「内的コントロール型」の
適切な組み合わせ(バランス)

が、この大変な世の中を渡っていく上で有効なのです。


*キャリアの心構えについては下記サイト参照

『キャリアデザイン基礎講座』(第4章)
(A・ヒューマンキャリア塾)


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 12:47 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(10)影響方略-3

相手に影響を与えるための具体的な「働きかけ方」のことを

「影響方略」
(Influence tactics、Influence strategy)

と呼びます。


この「影響方略」においては、
これまで紹介した6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

を有効に活用することにより、
相手に影響を与えることに成功しやすくなります。


『影響力を解剖する』

では、18種類の「影響方略」が挙げられていますが、
これら18種類を

・賞影響力に関連する影響方略
・罰影響力に関連する影響方略
・賞罰に関連しない影響方略

の3つに分類して説明が行われています。


今回は、

「賞罰に関連しない影響方略」

の9項目をご紹介します。


[単に頼み込む]

影響の受け手にとって依頼に応諾することに
たいしてコストがかからない場合、シンプルに依頼
するだけで十分な場合があります。


まあ、わざわざ説明するまでもないことのようですが、
「断られたらいやだな」とか、「頼むのが恥ずかしい」
といった理由で頼めないことってありますよね。

ところが、実際頼んでみたら、
拍子抜けするほど簡単に承諾してくれることが
多いものです。

その結果、頼まなかった場合より、
ずいぶん得することもあります。

なにか頼みごとがあったら、
あまり深く考えずに、ダメモトで頼んでみるのが
いいんじゃないでしょうか。
(相手との間合いとか図りつつ)


[受け手が応じるまで依頼を繰り返す]

ようするにしつこく頼み続ける。
昔の押し一手の営業マンのやり方でした。

熱意が伝わるという意味で相応の効果が
ありますが、いまは大変いやがられますね。


でも、あなたが、落語家に弟子入りしたかったら、
これしかありません。あなたの熱意と決意が
試されているからです。


[理由をつけて頼み込む]

これもわざわざ説明しなくても良さそうですが、
そうでもありません。

依頼の理由が必ずしも正当なものでなくても、
効果があるのです。


「影響力の武器」でも紹介されていますが、

「コピーを取らなくてはならないので、
 割り込ませてくれませんか」

といった、全く理由になっていない理由をつけても
割り込ませてくれる可能性が高いのです。

このあたりは人の心理をうまく突いているんですね。
(詳細説明は、「影響力の武器」をご参照ください)


[与え手と受け手の役割関係を指摘する]

お互いの役割関係を強調、つまり思い出させて
影響力を行使しようとするもの。

上司・部下の関係などにおいて存在する

「正当影響力」

を背景に、

“上役である私の命令には逆らえないはずだが・・・”

などと言う。
セクハラ、パワハラの現場を思わず連想してしまいます。


しかし、こうして自ら役割を強調しなければならないのは、
受け手がその人を認めていないことの裏返しでもあります。

尊敬に値する上司なら、

「私が上司なんだから・・・」

などとわざわざ言われなくても、素直に従うものですよね。


[第三者から支援してもらう]

自分よりも正当影響力や専門影響力が大きい人の
パワーを借りる方法。

恩師などに「推薦状」を書いてもらうといったことが
これに該当するでしょうね。

この方法は常日頃の人脈づくりが鍵になります。


[社会的な規範の存在を指摘する]

「困っている人がいたら、助けてあげるというのが
 人の道というものではないでしょうか」

などと、社会的に共有されている考え方や常識を
持ち出して相手を説得しようとするもの。

このテクニックは、代議士先生が多用しますね。


[頼みたいことを暗にほのめかす]

影響の受け手に対して、
頼みたいことを直接言わず、相手が察してくれるような
表現をする方法。


たとえば、窓を開けてほしい時、

「この部屋ちょっと暑いね」

と相手に言うのはこれです。

直接依頼事項を伝えてしまうと
角が立ってしまったりする場合によく使いますね。


逆に言えば、これがうまく使えないと、

「きつい人」(ストレートすぎて)

という印象を周囲に与えてしまう可能性がありますね。


[受け手をだます]

にせの依頼事項を伝えたり、嘘の理由を述べたりするもの。

明らかなにせもの、嘘だとわかる真性ブラックな話なら、
受け手もだまされることは少ないでしょう。


しかし、霊感商法的なもので、

“この「壷」を床の間に置いておくと
 幸運がやってきますよ”

などといった話は、その効果の検証が不可能です。

つまり、受け手がこの話を信じるかどうかにかかっているため、
周囲から見ると、明らかにだまされているとしか思えませんが、
本人はだまされているとは感じていないという点が厄介ですね。

ビジネスのシビアな交渉でも、
自分たちにとって有利な条件を引き出すため、
結構平気で嘘をつきあってますね。


[受け手と話し合い、妥協点を見つける]

お互いに歩み寄るやり方。

ピアノの音がうるさいと文句を言いにきた隣人と話し合い、
夕方6時以降は練習をしないと取り決めるといったことです。

民主的な方法ですよね。


ただ、駆け引きが発生しますから、
人間心理をよくわかっている交渉上手が相手だと、
自分にとって不利な依頼を飲まされてしまうということが
多々あります。

『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 10:46 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(9)影響方略-2

相手に影響を与えるための具体的な「働きかけ方」のことを

「影響方略」
(Influence tactics、Influence strategy)

と呼びます。


この「影響方略」においては、
これまで紹介した6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

を有効に活用することにより、
相手に影響を与えることに成功しやすくなります。


『影響力を解剖する』

では、18種類の「影響方略」が挙げられていますが、
これら18種類を

・賞影響力に関連する影響方略
・罰影響力に関連する影響方略
・賞罰に関連しない影響方略

の3つに分類して説明が行われています。


前回は、

「賞影響力に関連する影響方略」

に分類されている5項目をご紹介しました。

*影響力を解剖する(8)影響方略-1

今回は、

「罰影響力に関連する影響方略」

に4項目をご紹介します。


[罰を与えると警告する]

罰の基本的な使い方。

親が子供に対して、

「宿題をやらなければ、今日のおやつはなしよ!」

はこれですね。


罰を与えてまでも影響の「受け手」にやらせたいことは、
多くの場合、受け手があまりやりたがらないこと。

このため、影響の「与え手」の指示・命令などに対して、
受け手は表面的に従っているだけに過ぎない、

という点が問題ですね。


これについて、具体例を思い出しました。

在籍した中学の陸上部から、何人もの日本一を輩出したことで
有名なカリスマ体育教師、原田隆史氏は、若いころは
大変なスパルタ先生だったそうです。

「学校では、生徒は先生に従わなければならない」

という正当影響力を背景に、

「ヒットラー」

と影で呼ばれるほど生徒に恐れられました。

ですから、原田先生がいるところでは生徒たちは従順。
まじめに部活動に精を出す。

ところが、原田先生が出張でいなかったりすると、
さぼりまくり。まさに「鬼の居ぬ間に洗濯」。


原田先生は、一度出張したふりをして、
グラウンドが見えるマンションからこっそり
生徒たちを観察して、この現実を知ったそうです。

以来、たとえつらい練習であっても、
生徒たちが自発的に取り組むための工夫を始めた
ということでした。

罰影響力の「持続力のなさ」を原田先生は
身をもって知ったということですね。


[受け手が応じるまで罰を与える]

罰を警告したり、脅かすだけでは、
相手はそう簡単に応諾しないこともあります。

そこで、相手が応じるまで「罰」を与え続ける

「継続的な罰の付与」

が使われることがあります。

これの極端な例は、「拷問」です。

人気テレビドラマの「24」を
好きな方はおわかりになると思いますが、
容疑者の事情聴取の場面が頻繁に登場しますね。


そして、容疑者が筋金入りのワルの場合、

「さっさと吐かないと痛い目にあうよ」

といった単なる脅かしでは通用しないことが
わかっているジャック・バウワーは、
周囲の制止を振り切り、強引な体罰を与え続けますね。
相手が自白するまで。


[第三者から罰が与えられることを指摘する]

母親が、電車内で騒ぐ子供に対し、

「ほかの人に怒られるよ」

というのはこれ。


会社であれば、

「この仕事に失敗したら、社長がどんなに怒ると思う?」

などと、より権威のある、立場の強い存在からの罰を
ほのめかすものです。


自分に罰を与えるだけのパワーがない場合に
有効な影響方略ですが、なんとも陰険なやり方ですね。


[受け手が与え手にかけた迷惑を思い出させる]

過去において、
受け手が与え手に与えた迷惑を思い出させ、

「罪の意識」

を感じさせることによって、従わせようとするもの。

これは、受け手に「負い目」を感じさせることが、

「罰」

を与えていることに等しいと考えられます。


ただ、相手によっては、

「過去のことなんか持ち出して・・・」

と逆に反発を招く可能性があります。


また、

「過去は過去、今は今でしょ」

と開き直る人には効果が減少します。


以上ご紹介した「罰影響力」を使った4つの影響方略は、
基本的に、人のネガティブな感情を突くものですから、
他に方法はない時以外は、利用しないほうがよさそうです。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 11:07 | コメント (0) | トラックバック

「法事」の深い意味

日本では、親族が亡くなった後、

初七日、四十九日、初盆・・・

と、かなり頻繁に遺族が集まる風習(法事、または法要)
がありますよね。


これにはどんな「意味」があるのか、
考えたことがありますか?


“昔からそうするしきたりになっているから、
 今も続けているだけに過ぎない「形式的な仏事」だよね? 
 だから、その「意味」など考えたこともないよ。”

という方が多いんじゃないでしょうか。

私もそうでした。


しかし、実は、「法事」には深い意味があったのです。


話が飛びますが、欧米の病院では近年、

「遺族ケア」

が試みられているそうです。


遺族ケアは、末期と診断された患者さんを
定期的に小さなパーティに招待するもの。

このパーティは、患者の家族や友人、医師、僧侶などを含む
10-15人の集まりです。そして、患者の話したいこと、
歌いたい歌、流したい涙、なんでも受け止めるのです。

パーティは7-8回繰り返され、
3カ月もすると患者さんは天国に召されます。


遺族ケアの要諦は、その後にあります。

患者さんが亡くなった後も、
同じメンバーが集まってのパーティ(患者さんは写真で参加)が
3-4回開催されるのです。

これには、部屋代もお菓子代もかかる。
医師も参加することがありますが、
この場合の実質的なコストは相当高いものになります。


ドライに考えれば、死んでしまった方のために
さらにお金をかけるのは、ある意味「無駄」なことですよね。

にもかかわらず、効率を徹底的に追求する欧米の病院で、

「遺族ケア」

が行われているのはなぜでしょうか?


その理由は、結果的に

「安上がり」

だからです。

つまり、経済合理性の観点から

「遺族ケア」

は行われています。


実は、「遺族ケア」をしなかった家族を
追跡調査してみると、患者さんの死から1-2年のうちに

急病、突然死、精神異常、自殺未遂、交通事故

など、多くの不幸が起こる確率が跳ね上がることが
事実として把握されているのだそうです。

家族の死は、人にとって

「最大のストレス」

であるということを聞いたことがありますよね。

おそらく、このストレスによって、
遺族は精神的・肉体的に不安定になり、結果として、
さまざまな不幸につながっていくのでしょう。

そうした不幸は、社会的には新たなコストの元です。


したがって、

「遺族ケア」

は遺族に降りかかる不幸を未然に防ぐことができる
(そして、新たな社会的コストも抑えられる)

「優れた公衆衛生学的な方法」

だと、欧米では認められているのです。


さて、日本に話を戻しましょう。

身内の死後、
残された家族にさまざまな不幸が起きることは、
日本でも経験的にわかっていました。

これを私たちは

「死者のたたり」

と呼んで恐れました。


ここまで書けば、

「法事」

の深い意味がもうおわかりでしょう。


死者の「たたり」を鎮め、不幸を予防するための

「仕組み」

として確立されたのが、

初七日、四十九日、初盆

といった法事だったのです。


一見、単なるしきたり、風習、伝統としか思えない
私たちの行動の奥には、しばしば深い意味が潜んでいます。


心理学には、

「文化心理学」

という研究分野が存在するのはご存知でしょうか?


「遺族ケア」の話は、
人の行動をよりよく理解するためには、私たちが持つ様々な

「文化や伝統」

についても深く掘り下げる必要性を感じさせてくれますね。


「遺族ケア」の出典:ドクターズマガジン No.94 September 2007

柏木哲夫氏(淀川キリスト教病院名誉ホスピス長/
金城学院大学学長)とカール・ベッカー氏
(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)の対談

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (2) | トラックバック

ワカマル君、がんばれ!高いけど・・・

「家庭用」としての市場開拓には
失敗してしまった人型ロボット「ワカマル」。

*参考:ヒューマノイドロボットの過去・現在・未来


将来的には、やはり市場規模が大きい「家庭需要」を狙いつつも、
当面は「業務用」に展開して命脈をつなごうとしてます。


そこで、「ワカマル」君を企業や病院などに

‘派遣’

する事業を始めてるそうなんですが・・・
(日経MJ、2007/08/12)

しかし、料金がなにぶん高い。

基本料金1日12万円、1ヵ月160万円、1年間で300万円。


ワカマル君ができることと言えば、
受付で来訪客を出迎え、視線を合わせて会話できること。

また、応接室の見取り図をあらかじめ入力してあれば、
応接室の入り口まで案内する程度。


しかし、それだったら、生身の人のほうが、よほど割安だし、
かつ、やはり‘生きてる人’ですから良いですよねぇ・・・

投稿者 松尾 順 : 00:08 | コメント (2) | トラックバック

非常事態時のリーダー

先日(07年08月20日)に
那覇空港で発生した、中華航空機の炎上事故。


乗員乗客165人全員が無事避難できたことから

「奇跡の脱出劇」

などと言われていますね。

一歩間違えば、
多数の死者が出た大惨事になっていたところでした。


さて、今回の脱出がうまくいった理由として

「90秒ルール」

が挙げられていたのを
お聞きになった方もいらっしゃるでしょう。


これは、アメリカ連邦航空局が制定した規則です。
具体的には、

「緊急時に乗客乗員全員が、
 航空機のすべての脱出口のうちの半分を使用して
 90秒以内に脱出が可能でなければならない」

というもの。

そして、航空機の非常口の数や位置は、
この90秒ルールが守られるように設計されている
というわけです。

炎上した中華航空機からの実際の脱出時間は、
1分とも2分とも言われていますが、ともあれ、
極めて短時間に、脱出が完了したことには違いありません。


さて、こうした非常事態時にもうひとつ重要なのが、
適切な指示を出せるリーダー(あるいはガイド役)の存在です。

中華航空機の場合、機長や客室乗務員の的確な誘導・指示が
あったと報道されていますね。(ただし、この点については、
乗客の話との食い違いが指摘されていますが)


人や車などが引き起こす

「渋滞」

について横断的な研究成果をまとめた本、

『渋滞学』(西成活裕著、新潮社)

には、建物内で火災が発生した場合に、

「どの方向に逃げるか」

を聞いたアンケート結果が紹介されています。

---------------------------------------

1位:放送や指示に従う(47%)

2位:煙の危険から遠ざかる方向(26%)
3位:非常口や階段の方向(17%)
4位:他の人の逃げる方向についていく(3%)
4位(同率):人の空いている方向にいく(3%)

---------------------------------------

ほぼ2人に1人が、

「放送や指示に従う」

と回答している点が興味深いですね。


同書では、

パニックになると人間は的確な判断ができなくなり
他人に追従する傾向が強くなること

を示し、だからこそ、

リーダー(ガイド役)の的確な「指示」の有無が、
危険から安全に逃げられるかどうかの鍵を握っていること

を強調しています。


話が飛躍するようですが、
企業が直面するさまざまな危機発生時において、
リーダー自身が右往左往してしまい、
的確な指示を出せなかったらどうなるでしょうか?

言うまでもなく、危機から無事脱出できる可能性は
限りなく低くなりますよね・・・


*「渋滞学」は、やや高度な内容ではありますが、
 切り口が実に面白い良書ですよ。
 聞きなれない専門用語・学術用語が頻出しますが、
 文章自体は平易に書かれています。

『渋滞学』(西成活裕著、新潮社)

投稿者 松尾 順 : 09:59 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(8)影響方略-1

相手に影響を与えるための具体的な「働きかけ方」のことを

「影響手段、影響方略」
(Influence tactics、Influence strategy)

と呼びます。

なお、今後は「影響方略」で統一します。

「影響手段」よりもイメージが高尚で、
もっともらしく聞こえるからです。

これも、「影響力」を意識した言葉の選択です。(笑)


また、「影響方略」においては、
これまで紹介した6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

を適切に活用することにより、
相手に影響を与えることに成功しやすくなります。


さて、

『影響力を解剖する』

では、18種類の「影響方略」が挙げられていますが、
これら18種類を

・賞影響力に関連する影響方略
・罰影響力に関連する影響方略
・賞罰に関連しない影響方略

の3つに分類して説明が行われています。


今回は、

「賞影響力に関連する影響方略」

に分類されている5項目を簡単にご紹介します。


[賞を与えることを約束する]

母親が、夏休みの宿題をやったらアイスクリームをあげる
と子供に言うのはこれ。最もシンプルな方略ですね。


[第三者から賞がもらえることを指摘する]

自分の部下に対して、「この仕事を成功させれば、
きっと部長も喜ぶだろう」などと言うのが該当します。

自分よりも、相手に影響力の高い第三者を引き合いに出すこと
が有効な場合もありますね。


[依頼をする前に賞を与えておく]

以前、紙のアンケートを送付する際、
協力依頼状と共に、事前に謝礼のテレフォンカードを
同封しておくという方法をやったことがあります。

これは、相手に強引に「貸し」を作らせ、
アンケートに答えないと悪いなと思わせることで、
回収率を高めることが狙いでした。
(確かに効果ありました)

こうした

「依頼する前に賞を与える」

というのは、いわゆる

「返報性の規範」
(人から受けた恩義には、お返しをしなければならない)

を活用したものです。


[以前に与え手が受け手にしてあげたことを思い出させる]

「昔の恩義を忘れてるんじゃない?
 思い出したら、今回は私のお願いを聞くしかないでしょ!」

などと言われた経験は誰でもあるでしょう。

あなたが、何か頼みごとをしたい相手がいたら、
以前、その人に何か「貸し」がなかったかどうかを考え、
それをネタに相手を揺さぶるのです。
(言われなくてもこの影響方略はよく使ってるよ、
 ということでしたら大変失礼しました)


[受け手をよい気持ちにさせる]

「賞」には、金銭的なものと心理的なものがあるのでした。

相手をほめたり、持ち上げたりして

「よい気持ち」

にさせるのは心理的な賞=「心理低報酬」です。

端的に言えば、「ゴマをする」ことです。
でも、効果は高い。

ちょっと社内を見回してみたら、

「ゴマすりの才能だけで昇進した人がいかに多いか」

ということを実感される方もいるでしょう。


人は、自分が大切にされること、すなわち

「自己尊重感」

や、他人に認められること、すなわち、

「承認欲求の充足」

にいかにメロメロになるかということでもあります。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(7)影響力の源-3

過去2回でご紹介してきた6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

は、影響の与え手が、なんらかの

「資源」

を持っていることによって発揮されるものです。


ここで、「資源」とは、その人固有の

「強み」

と言い換えることができるでしょう。

たとえば、

・「賞」、あるいは「罰」を与えることができる(賞、罰影響力)
・地位が高い(正当影響力)
・専門知識がある(専門影響力)
・尊敬に値する行動力や好意を抱かせる魅力がある(参照影響力)
・理路整然と話せる、具体例を示せる(情報影響力)

といったことです。


しかし、こうした「資源」を持たなくても
影響力を行使することが可能です。


『影響力を解剖する』

では、与え手が「資源」を持っていない場合の影響力の源
として、次の3つが示されています。

・対人関係影響力
・共感影響力
・役割影響力


[対人関係影響力]

これは、ことわざで言えば、

「虎の威を借る狐」

のようなものです。

つまり、影響力を持つ他人を自分の見方につけて、
影響を与ようとすること。

企業内では、実力のある上司や同僚などに
あらかじめ根回ししておくことで、会議で自分の意見を
首尾よく通そうと画策することがありますが、これは

「対人関係影響力」

の駆使にあたります。


[共感影響力]

端的にいえば、

「泣き落とし作戦」

のこと。


自分の苦境を訴えることによって、
相手の共感(というより「同情」ですかね)を得て、
相手の行動を引き出そうとすること。

たとえば、資金繰りに行き詰まり、倒産目前といった時、

「今の私では、なにもお返しできませんが・・・」

と開き直って頭を下げるしかありませんが、
変にやせ我慢するよりも、
かえって相手が受け入れてくれやすいのです。


この意味で、

「共感影響力」

は、逆説的な影響力です。


[役割影響力]

これは相手との社会的な関係に基づいて、
影響を働きかけること。


たとえば、市民が市役所に対して、
駅前に駐輪場を設置するように要求したり、
あるいは、会社の上司に対して、部下たちが
新規事業の行く末について、明確な方向性を
示してほしいと依頼すること。


すなわち、市役所や上司といった立場において
一般に要求される役割や義務が果たされていないような時に、
市民や部下は、彼らよりもある意味、弱い存在でありながらも、
影響を与えることができます。

もちろん、相手が聞く耳をもっていなければ効き目がありません。


しかし、役割影響力を無視し続けてしまうと、
国(企業)によっては、反乱が勃発し、

「革命」

という体制側にとって最悪の事態を生んでしまうわけですけど。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 13:34 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(6)影響力の源-2

「影響力の源」は次の6つでした。
(米国の社会心理学者、フレンチとレイヴンの説)


・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力


今回は、後半の3つについて簡単に解説します。


[専門影響力]

医者から、

“「タバコ」を吸うのは体に良くない”

と言われたので、長年吸い続けてきたタバコをやめることにした。


学問、スポーツ、料理、芸術など、
さまざまな領域において、人よりも豊富な専門的知識や技能を
身につけていることによって生じるのが

「専門的影響力」

その道のプロの言葉なら、素人の自分よりも信憑性が高いだろう
と影響の受け手が考えやすい。だから、影響力が高くなるわけです。


健康関連商品の広告では、よくお医者さんが登場しますが、
これは「専門的影響力」を購買意欲の喚起に活用しているわけです。


さて、「専門的影響力」が効果を発揮するためには、
影響の受け手が、相手の「専門性」を認めていることが前提です。

医師のように国家資格の場合は、
資格を取得していることで「専門性」が担保されますから、
上記の点は問題なりません。

しかし、たとえば「経営コンサルタント」のような職業の場合、
「専門性」を担保されるような資格は実質存在しません。

MBAホルダー=名経営コンサルタント

とは限らないのは言うまでもないですよね・・・


そこで、『影響力を解剖する』には、
専門影響力を高める方法として、

受け手に対し、折に触れて

「自分の専門性の高さ」

を呈示していくことが挙げられています。

こうした機会を積み重ねることによって、
「専門性の高い人」というイメージが強化されていくわけです。


ですから、様々な分野の専門家が、
現在、ブログやメルマガで積極的に情報発信を
行っているのは、

「専門的影響力」

を向上させるためなのです。


逆に言えば、
どんなに自分では専門性が高いと思っていても、
情報発信を通じた「専門性」の呈示が十分でない場合、
専門的影響力は高まりません。
(誰もが認める専門的な資格を取得している場合を除いて)

結果的に、

「話を聞いてもらえない、信頼されない」(=仕事が来ない)

ということになりますね。


なお、「専門的影響力」を
自分の利益誘導のためだけに活用した場合、
相手からの信頼を失ってしまうことも忘れてはいけません。

たとえば、私の経験ですが、以前通っていた歯医者さんで、
保険の効かない高額の金歯をかなり強引に勧められたことが
ありました。

金歯の方が良いのはわかりますが、
その歯医者さんは「金儲け主義」に走っている印象が強くて、
治療途中で、別の歯医者さんに切り替えてしまいました。


[参照影響力]

「参照影響力」は、

「無意図的な影響力」

のひとつとしても、すでにご紹介しました。

*影響力を解剖する(2)無意図的影響力-2


私たちは、小さいころから、
親をはじめとする周囲の人々の「考え方」や「行動」を
真似ることによって、「生き方」を学んできています。

ですから、

「あのような人になりたい」

という願望が、
心の奥深く植えつけられているんじゃないかと思います。

このため、命令されたわけでもないのに、

「あこがれの人」(理想像)の

しぐさや服装を勝手に真似したりするわけです。


そしてまた、こうした尊敬や好意を抱いている人からの

依頼や指示・命令

だったら、私たちは喜んで聞きますよね。


最近、ビジネスでは

「人間力」

という言葉がキーワードになっています。


優れたビジネススキルを有しているだけでなく、
明確なビジョン、ぶれない決断力や危機対応能力、
部下育成能力、そしてまた

「人としての魅力の高さ」

を備え持つリーダーは、
あえて「賞影響力」や「罰影響力」を駆使しなくても、

「あの人のためにがんばりたい」

といった「自発的」で
高いモチベーションを部下に与えることができるからです。


[情報影響力]

これまで紹介してきた5つの影響力は、

「外的な刺激(賞、または罰を与える)」

または

「誰が言うか」

ということが影響力を左右してきました。


しかし、「情報影響力」は、語られる言葉、文字そのもの、
すなわち「内容」(コンテンツ)自体が持つ影響力です。

理路整然とした展開、様々な具体事例を挙げながらの話って、
語り手が誰であるかにかかわらず、

「なるほど、そうなんだ」

という印象を持ちますよね。


つまり、内容自体が優れていると
それだけでも高い説得力を持ちうるわけです。

実際、狂信的なカルト団体のメンバーを
その団体から脱会させる時に有効なのは、
強い「参照影響力」を持つ教祖の話の論理的矛盾を突いたり、
メンバー本人の思考や行動の不合理さを会話を通じて
自覚させるといった、

「情報影響力」

活用のアプローチだと聞いたことがあります。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(5)影響力の源-1

影響の与え手が、
なんらかの目標(意図)を持って受け手に働きかけ、
首尾よく目標を達成するために重要、あるいは有効なこと。

言い換えると、影響力をもたらしているもの。

それを

「影響力の源」

と呼ぶことにします。


これまでの研究では、
影響力の源は次の6つがあるとされています。
(米国の社会心理学者、フレンチとレイヴンの説)


・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力


今回は、最初の3つについて簡単に解説します。


[賞影響力]

“夏休みの宿題やったら、おこづかいあげる”

お子様のいらっしゃる家庭では、
こんな会話が交わされているところもあるでしょう。

なんらかの「賞」=「報酬」で
相手を動かそうとするのが「賞影響力」ですね。

「アメとムチ」のアメのほうです。


さて、賞(ごほうび)は、

・金銭的報酬
・心理的報酬

の2つに大別できます。

「金銭的報酬」は、現金や物品などの金で換算できるもの。
「心理的報酬」は、賞賛や承認などの金で換算しにくいもの。


ただ、私の個人的な見解ではありますが、
‘社会的動物’である私たち人間にとって、

「認められたい」(存在を認知されたい、必要な人間と認められたい)

という欲求、すなわち「承認欲求」が対人関係における行動
においてもっとも大きな要因となっていると考えています。
(「金銭的な成功」を目指している人も、結局は、
 承認欲求を金銭的に満たそうとしているのです)

したがって、「賞」(報償)としては、

「承認」(あなたはかけがえのない人間である)

をしてあげることがもっとも有効でしょう。

ちなみに、ビジネスのためのブログは除き、
世の中の多くの個人ブロガーがコツコツとブログを書く原動力と
なっているのは、この「承認欲求」だと考えてます。

ブログにつくコメントやトラックバックは、

「承認」

の目に見える形だと思います。(好意的であれ敵意的であれ)

読み手の反応が目に見えにくい従来のホームページ式日記と
違ってブログが爆発的に増えたのも当然でした。


[罰(強制)影響力]

「アメ」と「ムチ」の「ムチ」のほうですね。

「私の言うことを聞かないのなら、
 身体的、または精神的な苦痛を与えるよ」

というのは罰影響力を行使している状況です。


なお、「賞を与える」(アメ)、逆に「罰を与える」(ムチ)は
両極端の影響力の源ですが、どちらも、
「賞」か「罰」を相手に思いのままに与えられる状況
(双方が属している家庭とか、会社などの組織・集団)に
あるからこそ影響を及ぼすことができるわけです。

したがって、上記のような「縛り」が弱い関係では、
当然ながら、賞影響力、罰影響力は低下してしまいます。
(別のところから賞を得られる機会や、あるいは
 罰を回避できる可能性があるからです)


[正当影響力]

組織の中では、指示系統がはっきりしています。
もっとも明快なのが「軍隊」でしょう。

子の場合、部下は上司(上官)の命令に
原則として従わなければなりません。

あるいは、公的な場においては、
治安の維持のために働く警察官の指示に、
われわれ一般市民は原則として素直に従います。


上司(上官)や警察官は、社会的な規範に基づく

「正当影響力」

を行使することができるわけです。


このほかにも「正当性」をもたらすものとしては、

・血筋(王家の血を受け継いでいる等)

が挙げられますね。


また、『影響力を解剖する』では、
他の人より多くの賞や罰を持っていることで、

「正当性」

が高めていくことにつながる述べられています。


確かに、賞や罰を与える側が、
ある意味「受け手」よりも「偉い」という感覚が
生じてくるものですよね。

自然発生的な「番長」が、周囲が認める

「正当影響力」

を行使できるようになるのは
端的にいえば、最もケンカが強い、
つまり最大の罰を与えることができる点と関係しています。


なお、お気づきだと思いますが、
企業・組織内で「正当影響力」を悪用するのが、

「セクハラ」や「パワハラ」

と呼ばれる行為ですね。
(実質的には、「罰影響力」を背景にしてますが)


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 11:01 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(4)意図的な影響

今回は「意図的な影響」についてです。


意図的な影響の場合、
影響の与え手には、何らかの「目標」(意図)があって、
受け手に影響を与えようとします。


この時、与え手が持つ「目標」(意図)を受け手に

・わかるように見せる(明示的)
・わからないようにする(隠ぺい的)

という目標の見せ方の違いで、
影響力を2つに細分することができます。


目標を明示して意図的に影響を与えることは、
私たちが日常的にやってることですね。

(友人に)「荷物を運んでくれるかな?」・・・依頼
(部下に)「明日までに企画書を作成するように」・・・指示

など。


一方、「隠ぺい的」な影響とは、
受け手が気づかないうちに、
与え手の望むような態度の変化や行動を
取らされてしまうことですから、

「策略的」

な意味合いがありますね。
直截に言ってしまえば、「相手をだます」こと。
(行き過ぎると「犯罪」になりますね)


実は、

「相手を思いのままに動かす法」

みたいな傲慢系の本で紹介されている

「説得テクニック」

の多くは、この「隠ぺい的影響力」の使い方です。


さて、この隠ぺい的影響力の行使方法として、
『影響力を解剖する』では、

・テクニカルな依頼法
・議題のコントロール
・情報操作
・環境操作

などがあると述べられています。


[テクニカルな依頼法]

「テクニカルな依頼法」は、
『影響力の武器』にもさまざま紹介されています。

例えば、最初に断られるのを承知で、
大きめの依頼(例:10万円貸して!)をしておいて、次に、
承諾させたい真の依頼(例:じゃあ、1万円でいいから貸して!)
をするテクニックがあります。


「ドア・イン・ザ・フェイス」

と呼ばれるものです。

これは、依頼する側が意図的に譲歩(10万円→1万円)することで、
相手にも「こちらも譲歩しないと悪いな」と思わせることによって、
相手からの承諾を引き出す方法。

こうしたテクニックは、
何段階かのコミュニケーションが行われるので、

「段階的依頼法」

と呼ばれています。


セールスマンが頻繁に活用しているテクニックですよ。
詳しくは、『影響力の武器』をご覧になることをお勧めします。


[議題のコントロール]

「議題のコントロールは、
会議を開く際に、あらかじめ議題を選んでおくことによって、
やっかいな話になりそうな議題を避けたり、
問題の起きないように議題の順番づけをすることです。


[情報操作]

「情報操作」は、
自分に都合のよい情報だけを伝えたり、逆に
都合の悪い情報は流さない、といった行動のこと。

「広告」の信頼性が疑われるのは、
消費者が、広告における「情報操作」のにおいを
かぎとってしまうことにあると言えます。


[環境操作]

スーパーのBGMにテンポのよい音楽を流すことで、
来店客の購買意欲を高める、

といったように「環境」を操作することによって、
受け手が影響を受けやすくすることです。


「環境」とは、具体的には、

環境音楽(BGM)、香り、照明、室内のレイアウト
(机の配置など)

のこと。


異性を口説く際に、
照明を落とした落ち着いた雰囲気の店を選ぶのも、

「環境操作」

であることは言うまでもありません。


「香水」をつけるのも環境操作と言えますね。

コマーシャルやWebサイトを見る限り、

「一瞬にして女性を虜(とりこ)にしてしまう」

と期待させる男性用フレグランスボディスプレー

「AXE」

の効き目は実際どんなもんでしょうね?


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(3)無意図的影響力-2

「人に影響を与えること」は、大きくは

「意図的」と「無意図的」

に分けることができるということでした。


そして、無意図的な影響力は、

『影響力を解剖する』

では、次の6種類が挙げられています。

・参照影響力
・行動感染
・観察学習(モデリング)
・傍観者効果
・社会的促進・社会的手抜き
・漏れ聞き効果


今回は、このうち後半の3つについてご紹介します。


[傍観者効果]

高齢者や妊婦が社内に乗り込んできても、
誰も席を譲ろうとしないので、自分も寝たふりをしてしまった。

これが傍観者効果。


周囲に人がいると、

「自分以外の誰かがやってくれるだろう」

と考え、文字通り「傍観者」になってしまうことです。


他人の存在が、無意識に自分の

「見て見ぬふり行動」

を誘発してしまうのですね。


実は、傍観者効果が見られる出来事は、
かなり頻繁に起きています。

ちょっと前のことですが、
列車内で隣に座った赤の他人の男性に脅され、
暴行された女性を満員の乗客の誰も助けなかった
という事件がありました。


また、以前友人から聞いた話ですが、
ある外国人の方が空港の待合室で気分が悪くなった。

ところが、明らかに具合が悪いことが見てわかるのに、
誰も声をかけてくれなかったそうなのです。


傍観者効果は、残念ながら
個人の倫理観では防げない問題です。

しかし、自分が当事者というか、
例えば、街中で倒れてしまった時に誰も助けようと
してくれなかったら大変ですね。


こんな時の解決策は、通り過ぎる特定の人に向けて、

「そこの赤い服の人、助けてください」

などと呼びかけることなのだそうです。

こうすることで、多数の人がいることによって
分散してしまった「社会的責任」を特定の人に
押し付けてしまう。

さすがに、名指しされて無視する人は少ない。
そして、一人が助けると周囲の人も寄ってきてくれます。


[社会的促進・社会的手抜き]

一緒に勉強する仲間がいると勉強がはかどる。


こんな現象が、「社会的促進」です。


他者(観察者や共行動者)の存在が、
自分の作業の量(増加することも減少することもある)に
影響を与えてしまうのですね。

社会心理学者のザイアンスによれば、
他者(観察者や共行動者)がいることによって、

慣れている仕事の場合には作業量が増加し、
慣れていない仕事の場合には作業量が低下する

ことがわかっています。


一方、「社会的手抜き」とは、
単純作業を何人かで一緒にしているときに起きる現象。

これが「社会的手抜き」です。
傍観者効果に近い心理があるように思いますが、
集団で同じことをやろうとすると、一人ひとりの
モチベーションが下がってしまうのです。


たとえば、運動会の綱引きの時、
自分だけ力を入れているふりをしませんでしたか。

周りが力を出してくれるから、
自分くらい手を抜いても大丈夫だろうと
考えてしまうのですね。
(こんな人が多かったら負け確実・・・)


私の勝手な推測ですが、綱引きの勝敗は、

・どっちが力持ちの人間が多かったか

ということではなく、

・どっちが「社会的手抜き」をする人が多かったか

で決まるんじゃないかと思います。


なお、会社の会議などにおいても、
この社会的手抜きは発生しています。

ブレストみたいにある程度全員発言を義務付けないと、
他人にしゃべらせといて、

「自分はただ聞いてることにしよう」

と考える人が発生してしまいます。


『影響力を解剖する』では、
社会的手抜きを防ぐ方法として次の3点が紹介されています。

(1)単純作業ではなく、挑戦的な多少難しい仕事にする
(2)各人に少しずつ異なる作業を与える
(3)各人の責任の分担を明らかにしておく


[漏れ聞き効果]

電車に乗っていて

「○○銀行は危ないんじゃないの」

と話しているのをたまたま聞いて、なんとなく不安になり、
口座から金を引き出した。


こうした、いわゆる「うわさ」を偶然聞いたことで、
自分の行動に変化が生じてしまうのが

「漏れ聞き効果」

です。


なぜ偶然聞いた話に影響を受けてしまうのでしょうか。
その理由として、次の3つが挙げられています。

(1)偶然に会話に接するので、面と向かって話されるときよりも
   受け手に構えが生じにくい
(2)聞こうと思って会話に接したわけではないので、
   その内容から受ける衝撃が大きいこと
(3)会話をしている人が受け手に影響を及ぼそうという意図が
   ない(ように見える)ので、受け手に反発が生じにくい

考えてみれば、「ブログ」は、

「漏れ聞き効果」

が高い媒体ですね。

個人発ながら、「口コミ」と異なり、
不特定多数に向けられた情報発信です。

とはいえ、偶然に目にする機会がありますし、
作為的なものも増えてきたとはいえ、基本的には自然な内容
ですので。

ブログの影響力が増しているのもむべなるかな、です。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 13:12 | コメント (1) | トラックバック

影響力を解剖する(2)無意図的影響力-1

「人に影響を与えること」は、大きくは

「意図的」と「無意図的」

に分けることができます。


変な例ですいませんが、あなたは、ある晩、
酒を飲みすぎて金を使い果たし、
帰りのタクシー賃がなくなってしまいました。
(1回くらいこんな経験ありますよね・・・)

そこで、一緒にいた友人にお金を貸してもらおうと、
丁寧な言葉で頼んだところ、渋々ながらもお金を貸してくれた
とします。


この場合、あなたは、友人に対して

「意図的」

に影響力を行使したということになります。
つまり、意図的な言葉によって、相手から「金を貸す」
という行動を引き出したわけです。


一方、本人が意識しないのに、他の人に影響を与えてしまう、
また逆に、頼まれもしないのに、他の人の影響を受けてしまう
ということがあります。

「無意図的」な影響力です。


さて、無意図的な影響力は、

『影響力を解剖する』

では、次の6種類が挙げられています。

・参照影響力
・行動感染
・観察学習(モデリング)
・傍観者効果
・社会的促進・社会的手抜き
・漏れ聞き効果

今回は、このうち最初の3つについてご紹介します。


[参照影響力]

これは、たとえば、
好きなタレントや、尊敬する上司・先輩の服装や行動などを
真似することです。


参照影響力は、男性より女性のほうが大きいと
別のところで聞いたことがあります。

女性ファッション雑誌から、カリスマスーパーモデルが
次々と登場するのはそのひとつの現れでしょう。

女性は、スーパーモデルのような女性の理想像に憧れ、
彼女たちと同じ服やアクセサリーを身に着けたいと願う
気持ちが強いのです。

一方、男性ファッション雑誌のスーパーモデルは
それほど注目されませんよね・・・


[行動感染]

「空を見上げていると一群の人たちがいると、
 ついその人たちと同じ行動をとってしまう。」

「一人が信号無視をして横断歩道を渡り始めるのを見ると、
 自分も横断し始める。」

上記のような例が、行動感染です。


なぜ、無意識レベルで他人の行動を真似してしまうのでしょうか?

ひとつは「好奇心」から、もうひとつは、

「他者と同じような行動をしておけば間違いない、
 とがめられることはない」

という付和雷同的心理が働くからです。


これは、『影響力の武器』では、

「社会的証明」

という言葉で説明されています。


「社会的証明」とは、

「私たちは、他人が何を正しいと考えているかにもとづいて
 物事が正しいかどうかを判断する」

というものです。


「周りが買ってるから、自分も買わなきゃ」

という消費者心理が生み出す

「ブーム」

も「行動感染」のなせる業ですね。


[観察学習(モデリング)]

「お茶の心得がないのに茶会に呼ばれ、
どのように振舞ってよいのかわからないので、
作法を知っていそうな人の振る舞いをそのまま真似をする」

こんな例が「影響力を解剖する」に挙げられています。


人は、自分自身の体験からだけでなく、
人の行動や体験からも学ぶことができます。


ちなみに、

「人の振り見て我が振り直せ」

ということわざは、「観察学習」が下手な人に
向けられた言葉です。(笑)


また、子供は、親の背中を見て育ちます。

すなわち、子供は最も身近な自分の「親」を
観察することによって、自分がどのように考え、
行動すべきかを学ぶ(真似る)のです。


本当に親の責任って、大きいですよね。

意図的にも、また無意図的にも、
子供に最も大きな影響力を行使しているのは

「親」

なんですから。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 14:02 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(1)イントロダクション

今日からしばらく、「影響力」とは何かということを
文字通り徹底‘解剖’した本、

『影響力を解剖する』

の内容を「徹底的」にご紹介していきたいと思います。


「影響力」といえば、ロングセラー本となっている

『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』

がありますね。


『影響力の武器』は、

‘相手からどうやって「YES」を引き出すか’
 (つまり「どうやって影響を与えるか」)

について、さまざまな分野の実践家(営業マンなど)の観察
を元に、実践的な説得テクニックが紹介されているものです。

ビジネスパーソン必読書と言っていいでしょう。


一方、

『影響力を解剖する』

は、説得テクニックにも多少触れられていますが、
より学術的に、「影響力」そのものを掘り下げています。

したがって、「影響力」の背後にある

「原理・原則」

を理解することに役立つ内容です。


アマゾンで見ると、現在本書は古本でしか入手できません。
おそらく絶版になっているものと思われます。

しかし、本書は、
高度な内容がわかりやすく記述されている良書です。
もったいないので、このブログ&メルマガでポイントを
しっかりお伝えしたいと考えています。


さて、

「人が、他の人に対して何らかの働きかけを行うこと」

すなわち「他者に影響力を与えること」は、
社会心理学の分野では、

「社会的影響」

と呼ばれています。


「社会的影響」とは、

・個人と個人の間

または、

・集団と集団の間

で影響を及ぼしあうことです。


ここで、「影響を及ぼす」というのは、

個人(集団)が、
他の個人(集団)の態度、行動、感情などを
前者の望むように変化させるために、
何らかの形で後者に働きかけること

です。

営業担当者が、見込み客に「購入」を
踏み切らせる「営業行為」はその典型例ですね。


したがって、
「影響力」を解剖するためには、

・影響の与え手(Influence Agent)
・影響の受け手(Influence Target)

という2者の関係があること、
そして、与え手から受け手へと影響を及ぼす

「働きかけ」(影響行動)

があるということを

「基本的な枠組み」

としている点をまずご理解ください。


---------------------------------------------
   「影響力」解剖のための基本的な枠組み
---------------------------------------------

影響の与え手 →→→→→→→→ 影響の受け手
         (働きかけ:影響行動)

---------------------------------------------


なお、本書では、集団ではなく、主に個人間での

「影響の及ぼしあい」

に焦点があてられています。

では、次回から本格的にこの本を読み込んでいきます。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 14:12 | コメント (3) | トラックバック

苦情学

西武百貨店で8年間にわたって

「お客様相談室」

を担当した関根眞一氏の著書、

「苦情学 クレームは顧客からの大切なプレゼント」

は読みましたか?


この本では、
顧客から寄せられる様々な苦情の適切な対処方法など、
関根氏が現場の体験からつかんだ

「実践的なノウハウ」

をわかりやすく紹介してくれています。


また、この本には、
常軌を逸した、とんでもないクレーマーたちと、
関根氏との壮絶なやり取り(闘い?)がリアルに
再現されているのですが、

「こんなやつらが世の中にはいるのか!」

と唖然とさせられますよ。


さて、関根氏によれば、
苦情対応には絶対に欠くことのできないものが
一つだけあるそうです。

それは、お客様の

「心理を察する」

ことです。


関根氏は、お客様相談室を担当してから、

「お客様の心理」

が読めるようになるまで5年かかったそうです。


そして、この5年間の関根氏の考え方の変化が、

「予測する力養成講座」(講談社MOOKセオリーVol.11)

のインタビュー記事で語られています。


“お客様相談室に配属されると、まずは会社の利益を
 保護する立場に立とうとするものです。
 会社や店舗のリスクにならないように、
 自分の言葉や態度に気をつけて対処する。”


これは間違いではないそうですが、
しかし「限界がある」と、関根氏は指摘します。

苦情を言う人たちをただ撃退するだけで終わっては
いけないからです。


関根氏の場合、お客様相談室に配属されてから1年ほどして

「店舗と顧客の中立の立場」

に立った考え方ができるようになりました。

関根氏は、

“そうすると、前よりも多くのことが見えてきたのです。
 でもそれでもまだ不十分でした。”

と答えています。


関根氏の考え方に
さらなる変化が起きたのは3年後のことでした。


“その頃から、ほぼお客様側の立場に立って
 物事を考えることができるようになりました。
 つまり、困っているのはお客様で、
 一刻も早く問題を解決したいのはお客様側なのだ、
 ということがわかったのです。”


そうすると、不思議なことに、

“苦情の約8割は電話での対応だけで
 解決できるようになりました”

とのこと。


続けて関根氏は、

「マーケティングの要諦」

にも通じるコメントをしています。


“大切なのは、
 お客様 を 満足させるのではなく、
 お客様 が 満足することなのです。”

“百貨店におけるゴールは、お客様を離さないことだと
 私は思います。そのために、お客様の立場に立って
 それぞれが満足する解決策を探っていくことが大切
 なのです。”


お客様を自社と相対する側に置いて考えるのでなく、
お客様側と同じ場所に自分を置いて考える。

これが、顧客の心理を的確に読むことを可能にし、
優れた苦情処理だけでなく、売れる商品づくりにも
つながっていくんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (8) | トラックバック

開発者側とユーザー側の意識差

マーケティング巧者、小林製薬のネタは、
これまで何度か取り上げてきました。


*インパクトか上品か

*良さそうに見えなきゃ売れないョー


小林製薬は、
ユーザーの潜在ニーズを見抜くことにかけては、
最も優れた会社のひとつです。

それでも、
ユーザーの心に刺さるメッセージを生み出すのは
簡単ではない、ということがうかがえる最新事例がありました。


同社は今年(07年)3月発売の

「ホットクレンジングジェル」

でメイク落とし市場に新規参入しています。

上記製品は、発売1ヶ月で20万本以上を出荷して
年間売り上げ目標4億5千万円の3分の1をすでに達成。
現在も順調に出荷を伸ばしています。
(日経情報ストラテジー、SEPTEMBER 2007)


この製品の開発に当たっては、
SNSを活用して多数の消費者の意見を集め、
パッケージデザインや売り場作りなどに活かしたそうです。


具体的には、昨年(06年)12月、
SNS最大手の「ミクシィ」内に公認コミュニティサイト、

「あっためてつる肌委員会」

を開設しています。

開設後半年(今年5月末)で、
上記コミュニティメンバーは5千人を突破。

小林製薬では、この反響の大きさを考慮して、
コミュニティ開設期間を8月いっぱいまで延長を決めました。


さて、このコミュニティで出されたアイディアのうち、
実際の商品開発に反映されたのは、
パッケージに記載された次のキャッチコピーでした。

「蒸しタオル効果でお肌つるつる」


実は、小林製薬内では当初、

「温かさ」

をキャッチコピーにすべきという声が強かったそうです。

というのも、

「ホットクレンジングジェル」

のウリは、単なるメイク落としではなく、
肌を温めて毛穴を開かせ、毛穴に入り込んだ化粧品まで
落とすことにあったからです。


すなわち、既存他社製品との最大の差別化ポイントは、

「肌を温める」

ということであったわけです。


ところが、
SNSを通じてユーザー500人にサンプル(試供品)を
配って感想を聞いたところ、

“つるつるになって気持ちいい”

という意見が一番多かったのです。


開発者と、ユーザーのこの意識の差に驚きませんか?


開発者側である小林製薬が重視した「温かさ」は、

「機能価値」(規格・仕様)

ですよね。すなわち、「なにができるか」ということ。


しかし、ユーザー側は正直ですね。
女性にとって、とてもうれしい「つるつるになる」という

「便益価値」(ベネフィット)

を実感していた。


小林製薬でさえ、ついつい
自社の強み(機能)を訴求したいという欲求が先立ち、
ユーザーが一番知りたい、

「その製品を使えば、どんないいことがあるのか」

というベネフィットを伝えることを
忘れそうになってしまうというのは、実に興味深いです。


やはり、ユーザーが真に求めているのは、

「ドリル」

ではなくて、

「穴」

なのです。


このケースは、
ユーザーの意見を愚直に聴くことの意義を
改めて感じさせてくれますね。

投稿者 松尾 順 : 10:18 | コメント (0) | トラックバック

リンガーハット・・・体感価格の読み違い

「長崎ちゃんぽん」

って、九州以外の方にはあまりなじみのない料理だと思います。

うどん、そば、ラーメンのように
どこでも食べられるものじゃないですからね。


でも、福岡生まれの私にとっては、

「長崎ちゃんぽん」

は、小さいころから
うどん、ラーメンと同じくらい慣れ親しんだ味です。
(「そば」は年に1回、年越しそばの時に食べるくらいでした)


ですから、18歳で東京に出てきてからも、
渋谷や銀座にあるチェーン店の「リンガーハット」に
わざわざ足を運んでいました。

今は、事務所から近い御茶ノ水店ができたので、
週1ペースで通っています・・・(^_^;


さて、リンガーハットは、
昨年(06年)9月に若干の値上げをしたんですが、
以来、客数の落ち込みが激しく業績悪化に苦しんでいます。


値上げ前のレギュラーちゃんぽんの値段は、

399円(税込み)、値上げ後は450円。


海鮮、肉、野菜がたっぷり入った健康的でおいしい料理が
400円未満で食べられるのは格安。大変お得でしたし、
値上げ後の450円でも十分安いと思いませんか?
(逆に、具がちょこっと乗っただけの普通のラーメンが、
 東京では600円以上するのが信じられません・・・)


リンガーハットの経営陣も、
「450円でも通用するだろう」という自負があったようですが、
ふたを開けてみたら大誤算!

今、慌てて割引クーポンを発行して客を呼び戻そうと
がんばっています。


まあ実際に、ひとりのユーザーの立場で考えると、
約400円から450円への値上げというのは、
絶対的な価格としては安いけれど、値上げ率は10%以上に
なりますから、「体感価格」としては「大幅値上げ」です。


リンガーハットの場合、味のおいしさだけでなく、
安さに惹かれていたユーザーも多かったと思いますから、
この価格差の大きさが客足を遠ざけることになったのでしょう。


リンガーハットの誤算は、
「プライシングの難しさ」を教えてくれますよね。

絶対価格じゃなくて、
元の価格(基準価格)との相対的な差が重要だ

ということをうまく読めなかったということでしょう。


まあ、後付け講釈ですから
いくらでももっともらしいことは言えますけど。

私の場合は、値上げ後もリンガーハットに
足繁く通ってますから多少の批判はお許しを!

大好きなリンガーハット、がんばれ!


余談ですが、マクドナルドは、
今年(07年)6月から地域別価格を導入してますね。
東京では3-5%の値上げ。

当初、ユーザーに受け入れられるか心配されましたが、
あまり客足に影響は出ていないようです。


マクドナルドの場合、かなり綿密なシミュレーションに
基づいて地域別価格を決定したようです。

さすが外資系企業。

リンガーハットのように、
「原材料の価格高騰」を理由に、経営側の思い込みだけで
値上げしてしまうのとは違います。


ただ、マクドナルドの場合、
ここ数年、あまりにも価格改定が頻繁でしたから、
そもそも元の価格(基準価格をどこにおくべきか、
ユーザーがよくわからなくなっています。

マックの価格に対する感度は、いわば

「マヒしている状態」

と言えます。

100円マックが維持されているのも、
値上げを感じさせないことに寄与していますね。

投稿者 松尾 順 : 11:14 | コメント (9) | トラックバック

態度データの活用

アウディジャパンでは、
「顧客の生活様式」に関する情報を
現在より詳細に管理できる情報システムを
2008年以降、全国の販売店に導入する予定です。
(日経産業新聞、2007年7月12日)


具体的には、従来顧客データとして管理していた

保有車両

サービス関連情報(オイル交換や車検などのことでしょう)

に加えて、

趣味や習慣、嗜好(しこう)

など、

「日本人顧客の生活様式」

に関する情報を詳細に収集・管理するシステムを
開発済み。


アウディジャパンでは、収集したデータに基づいて
日本市場で販売する車種の選定や広告、
イベント、サービスなどの施策を連動させて
展開することを考えています。


この同社の動きは、従来、主に活用されてきた

「デモグラフィック属性」(性別、年齢など基本属性)

や、

「行動履歴」(商品・サービスの利用履歴)

だけでは、顧客心理や消費行動を理解するには
十分ではないということが(ようやく)わかってきたからだと、
私は見ています。


さて、趣味や習慣、嗜好といった顧客情報は、

「態度データ」

と一般に呼びますが、米国の調査会社、
フォレスター・リサーチは次のようなことを述べています。

----------------------------------------

・態度データを利用したセグメンテーションの利点は、 
 (顧客行動の)予測のための確実なパワーを与える

・一般消費者の場合、特定の行動よりも態度の方が
 変化しずらいので、長期間にわたり予測要素として
 活用できる

・企業が顧客のライフスタイルデータを収集する場合、
 「態度データ」によるセグメンテーションは、
 「属性データ」、「行動データ」によるセグメンテーション
 よりも優れている。

----------------------------------------


態度データの収集は、
属性データや行動データほど容易ではありません。

しかし、「態度」とは、
顧客の行動の背景にある「心理状態」のことです。

基本的に、好き、欲しい、といった気持ち(心理)が
あって、初めて行動に結びつきくわけです。

ですから、今後、顧客の「態度」についての情報を
収集・蓄積・分析・活用することがますます重要に
なっていくと思います。


なお、ご参考までに・・・

顧客を深く理解するために有効なデータは、
大きくは次の4つに分けられます。

・属性データ
・行動データ
・インタラクションデータ
・態度データ

それぞれどんなデータが具体的には該当するのかを
以下に記載しておきます。

----------------------------------------

・属性データ

-性別
-年齢
-職業
-居住地 など


・行動データ

-注文
-取引履歴
-支払い履歴
-利用履歴 など


・態度データ

-意見
-嗜好
-ニーズ
-要望 など


・インタラクションデータ

-オファー
-キャンペーンの結果
-コンテキスト(文脈)
-クリックストリーム(Web上の動線) など

----------------------------------------


*今回の記事は、
 
「SPSS Data Mining Day 2007」(7月12日開催)

において行われた

“The Power of Words ~ 
 データマイニングのビジネス価値を高める言葉の力”

 SPSS Inc. Vice President, Market Strategy
 Mr. Olivier Jouve

の講演内容を一部参考&引用させていただきました。

投稿者 松尾 順 : 11:29 | コメント (1) | トラックバック

なぜ人はツイッターにはまるのか?

最近、ブログ・SNSのお手軽版と呼んだらいいのか、
短いメッセージを気楽に何度でも投稿できる新サービスが
ユーザー数を伸ばしていますね。


代表的なサービスは、米国生まれの「Twitter」
(ツイッター、ついったー)です。


私は、日本生まれの類似サービス「もごもご」


を試していますが、まだその面白さがよくわかりません・・・


上記のようなサービスは、日本では

「リアルタイム日記」

とも呼ばれていて、携帯電話からの投稿も可能なので、
10代ユーザーの伸びが特に大きいようです。


さて、このサービス、やってみた人の半分くらいは

「はまる」

と言われているそうですが。


すでに「はまっている」らしい、
SNSライターの高橋暁子さんによれば、

“ついったーは、きちんとやってみないと
 面白さが分からないサービス”

なんだそうです。


そして、

“「一言言いたい!でもわざわざメールしたり
  日記書くほどじゃない!」という気持ちに従って書くと、
 ついったーはかなり楽しめるんですよね。

 基本独り言だから気軽な上に、思わぬところから
 反応がいただけたりします。”

とのこと。

なるほど、そういうことなんですね。

*以上は、高橋さんのブログから引用させていただきました。
「twitter(ついったー)の面白さを知る方法」


しかし、それにしても、「独り言」なら、
公開しなくてもいいじゃん!

なんて思ったりします。

まあ、以前から、掲示板にしろ、ミクシィーの日記にしろ、
「独り言」的メッセージがかなり多かったわけですけど。


ですから、私としては、

「なぜ人はツイッターにはまるのか?」

ということが気になるわけです。

そして、この疑問を解く上でヒントになる情報が
いくつかありますのでご紹介してみたいと思います。


ひとつは、イッセー尾形の演出をやってる森田雄三氏の話。

家族のコミュニケーションについて、森田氏は、

“夫婦はそもそも話をしない”

という事実を指摘しています。確かにそうです。(笑)

“子供が小さいころは育児の話題が口の端にのぼるが、
 育ってしまうと、連れ添った二人には格別の話題は
 ない。雑事も「あ・うん」の呼吸でわかり合ってしまう”


つまり、近い存在になればなるほど、相手を理解するための
言語コミュニケーションの重要性は軽くなっていくということ
でしょう。

そしてまた、

“相手が真剣に聞かないから、遠慮のない話ができるのが身内だ。
 「話を聞かない態度」と「聞いてくれない話のできるありがたさ」
 のふたつに支えられて、身内の親密さは成立する”

という面白い視点を提供しています。

この意味は、愚痴をこぼす妻が、
単に聞き流せばいいのにまともに受け答えてしまう夫に
対して、逆ギレするシーンを思い浮かべていただければ、
おわかりになるでしょうか。


端的にいえば、人は、

「単に聞き流して欲しいこと」

をしばしば言いたいのであり、

それを聞いてくれる相手として、
真剣な、意味のある対話に持ち込むのではなく、

「あいづちを打つけれど、実は真剣には聞いていない」

相手を必要としているということです。


この状況を仕組みとして備えているのが、
まさに「ツイッター」と言えるんじゃないですかね。

こうしたサービスでは、投稿できるメッセージの長さが
極端に短く制限されていますから、真剣な意味のある対話
には決してならない。

せいぜい、適当な合いの手を入れるだけしかできないからこそ、
必ずしも身内ではないし、近い存在でもないかもしれないけれど、

「聞き流して欲しい人」と「聞き流してあげる人」

をうまく結び付けているということでしょうか。


一方、ITの普及による若者の言語能力の低下という点も
背景にあるかもしれません。

キッシンジャー博士が、
最近次のようなことを言っていたそうです。

“私の孫は、私よりインターネットを駆使して世界中の情報を
 集めて整理するのが上手だ。しかし、自分の考えを書かせると
 二行しか書けない”


今は、ネットを使って実に簡単に情報が手に入りますよね。

ほぼあらゆることに対する答え(らしきもの)が、
ネットで探せば見つかります。

したがって、自分自身で考えることをしなくても済みます。
その答えらしき情報を参照すればいいわけですから。

そしてまた、自分の言葉で語り合う機会が減っているのかも
知れません。


きっちりと自分の考えを伝えるために構成された長い文章は、
仕組み的に書けない「ツイッター」は、現代の若者にとって
実に使い勝手のよいコミュニケーションツールであることは
確かでしょう。


森田雄三氏の話は、下記新書から。

「間の取れる人、間抜けな人」
(森田雄三著、祥伝社新書)

投稿者 松尾 順 : 11:06 | コメント (1) | トラックバック

つぶれる店と繁盛する店

私の事務所の隣のビル1階にあったスペイン料理店が、
最近店を閉めたようです。

まだ、開店して2年ほどでした。

このお店は奥にちょっとしたステージがあり、
月何回かフラメンコやフラメンコギターのショーを
やっていて、そこそこ流行っていると思ってたんですが。


まあ、そういいながら、私自身は、都合3回くらいしか
この店には行ってませんでしたけどね。

今振り返ってみると、
料理はそこそこおいしかったし、値段も決して高くはなかった。

でも、いつ行っても、どうも気分が晴れないというか、
何かが欠けているという感覚と共にお店を出てました。

それで、近いのになんとなく行く気がしなかったというわけです。

気分が晴れなかった理由は、実ははっきりしてます。

それは、「スタッフの人」だったんですよね。
感情のないロボットのような、抑揚のない平坦な挨拶と受け答え。
笑顔ゼロ。過不足はないけれど、義務的・形式的なサービス。

ホスピタリティあふれるサービスを
スタッフ全員に周知徹底させるのは難しいとしても、
せめて、会計を済ませた時に、店の責任者が、
心のこもった笑顔や挨拶で見送ってくれていたなら、
もっとリピートしたのになあと思います。

そういえば、このお店、責任者が誰なのかよくわからなかった。
リーダーの存在感が希薄でした。


一方、友人が絶賛していたのでなにげにチェックしていた
新宿のイタリア家庭料理店、

「プレゴ・プレゴ」

先日、機会を見つけて行ってみたところ、期待以上の満足度でした。

「プレゴ・プレゴ」は、新宿東口から徒歩3分程度。大塚家具iDCの近く。
ベアムス!(BEAMS)の真向かいの雑居ビルの4階。

こなれた値段ながら、どの料理もおいしい。
なにより、スタッフの人たちのきびきびした動きが気持ちよく、
心地よい雰囲気にあふれていました。

周囲を見渡すと女性グループが大半でした。(こちらはオヤジ3人・・・)

新宿駅近くで地の利もいいのですが、それだけに激戦区でも
あるわけです。しかし、このお店なら、おそらくリピーターが
多いんじゃないかと感じました。

庶民的な雰囲気ですので、接待などには向きませんが、
友達同士でわいわいやるお店としては最適でしょう!

私も、また近いうちに行きたいと思ってます。

あ、そうそう、デザートで、

「焼きアイスクリーム」

というのを頼んだのですが、これも最高でした!


結局のところ、味、値段、サービスのそれぞれが平均点以上で
かつバランスが取れていることが、飲食店が繁盛するポイント
なんでしょうね。(当たり前だけど、実現はそう簡単じゃない・・・)

プレゴプレゴの手作りのHPを見ると、リーダー(店長)はじめ、
スタッフみんな若いですね。

スタッフ目当ての女性客も相当多いのかも!

投稿者 松尾 順 : 21:01 | コメント (3) | トラックバック

客が客を呼ぶ・・・四万温泉のスマートボール

ディスコの「センターピン」(成功要因)は、

「混んでいること」

と見抜いたのは、ジュリアナ東京、ベルファーレなどを
プロデュースした折口雅博氏でした。

人が集まるからこそ、その場に「活気」が生まれ、
楽しさを倍増させてくれるからです。


同様の理由で、周囲の反対を押し切り、
無料券をばらまいて新潟スタジアムを一杯にしたのが、
Jリーグ、アルビレックス新潟の代表取締役会長、池田弘氏。


上記の例はどちらもスケールの大きい話ですが、
店舗、とくに娯楽施設は規模の大小にかかわらず、

「客が客を呼ぶ」

というのは同じだなあと改めて思ったのが、
先日行った群馬の四万(しま)温泉の温泉街でした。


四万温泉は、近くにある伊香保や草津ほどの知名度はなく、
歓楽街もないため、温泉街はちょっと寂れた感じです。
(そこが逆に言えば魅力にもなってますが・・・)


さて、車1台がやっと通るくらいのある細い通りに入ると、
いくつかのそば屋などと並んで、スマートボール屋さんが
2軒、斜め向かいに並んでいました。

スマートボールは、私も今回始めて経験したのですが、
ピンボールのような斜め横置きの台で、ちょっと大きめの
ビー玉のような玉をはじき、5とか15とか書かれた穴に
入ると、その数だけ玉が出てくるもの。

まあ、ピンボールとパチンコの「アイノコ」と
思ってもらえればいいです。


この2軒のうち、1軒は、スマートボールとパチンコ、
もう1軒は、スマートボールと射的の複合店。

どちらも店舗面積はは同じくらいです。

でも、一方は先客万来なのに、もう一方は
ガラガラ、というか人っ子ひとりいないんです。


私たち家族は、たまたま最初に混んでいる方に入りましたが、
BGMには「ド演歌」が流れています。

「ド昭和」の香りがしました。

店主は、“若く見積もって”50歳過ぎのおばはん。
へたに声をかけるのがためらわれる「ド迫力」をお持ちでした・・・

土曜日の午後でしたが、この店には次から次へと客が入ってきます。

千客万来

*ガラス越しでちょっとわかりにくいですが、混んでるのはわかりますよね。


そして、その店を出たらすぐ反対側にあったのが、
ガラガラの2軒目の店。

スマートボールだけじゃなくて「射的」もあったので、
ちょっとやってみたいと思ったのです。

ガラガラ

しかし、店内に客が誰もいないので入る勇気が出ません。
素通りしてしまいました。


この2軒、経営センスの差と片付けてしまうのは簡単ですが、
ガラガラ店のオーナーさんは、「サクラ」でもなんでも、
できることをやればいいのにと思ってしまいました。

1組でも先客がいれば、みな安心してお店に入れるんですけど!

こう明暗がはっきり分かれている実例も珍しいですよねぇ・・・


なお、ついでながら、今回の四万温泉の宿泊先は
老舗の「四万たむら」という旅館です。

→四万たむら Webサイト

ただし、部屋は、四万たむらの中でも最も古い施設である、
「花涌館」(かようかん)を選びました。


「花涌館」は、全体的な高級イメージを壊すためか、
Webサイトではおおっぴらには紹介されていません。

古い旅館にありがちなトイレ・バスなしの部屋でしたが、
掃除が行き届いているようで、清潔感がありました。


なにより、たむらの全施設内には源泉掛け流しの風呂が
10種類ほどもあって、どれも趣があってすばらしいもの。

また、夕食はいわゆる懐石料理でしたが、
値段を考えると十分な品数があり、かつどれもおいしい。

これで休前日でも、1泊2食付1人1万円弱です。


もちろん、この宿には、1泊2-3万円を超えるグレード
の高い部屋もいろいろとあるのですが、私たちが選んだ
最安値パックではお得感があるし、満足度も高い!

久々にリピートしたいと感じた宿でした・・・


以下、いくつか写真をご紹介。


 *たむら 前景 
  萱葺き屋根の日本家屋風のたたずまいがいいですね。
たむら前景

 *たむら玄関
  玄関を入ると正面はこんな感じ。
  奥のほうには、田村家に代々伝わる家宝の人形が展示されてます。
たむら玄関

 *たむら帳場(フロント)
  文字通り「帳場」と書いてあり、ここでチェックイン・チェックアウトの手続きをします。
たむら帳場

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (2) | トラックバック

「ヒット商品を最初に買う人たち」

今回は、純粋な書評です。


マーケティング戦略において、
ターゲットを考える際に最も役立つ理論が

「イノベーター理論」

です。


マーケティングコンサルタント、森行生氏の最新作、


「ヒット商品を最初に買う人たち」
(森行生著、ソフトバンク新書)

では、まるごと一冊、この「イノベータ理論」、
特に、流行を生み出す「イノベータ」に焦点を当てた議論が
展開されています。


「イノベータ理論」とは、新しい商品を誰が買い、
それがどのように広がっていくかを説明するもの。

本書では、新商品に真っ先に手を出す少数の人たちを
「イノベータ」、イノベーターに続く人たちを
「アーリーアダプタ」、最後に買う人たちを「フォロワー」
と3つのセグメントに分けます。

さらに、森氏のイノベータ理論では、
これまでイノベータ層の中に含まれていた

「マニア」層

を区別し、

「マニア層」と従来の「イノベーター層」

の心理や行動面の違いを指摘しています。


新商品が売れるためには、まず「イノベーター層」が
飛びついてくれることが必要ですよね。

しかし、いわゆるオタク的な心理や行動を持つ「マニア層」
だけにしか受け入れられなかった商品は、大ヒットに結びつく
ことはありません。

したがって、新商品の初期購入者がマニア層にとどまっているか
どうかを見極めることは、新商品の将来性を占う最初の試金石と
なります。

本書では、こうした森氏オリジナルのイノベータ理論に基づき、
花王ヘルシア、ニンテンドーDS、アップルのiPODなど、
具体的な事例を挙げながら、なぜ、ある商品は成功し、
あるいは失敗したのかを明快に分析しています。


また、森氏は、「従来型イノベータ」とは異なる行動を取る

「革新型イノベータ」

と呼べる層が存在していることを本書で初めて明らかに
しています。


「革新型イノベータ」は、従来の常識や商品のイメージに
とらわれず、新たなルールで行動する人たち。

逆に言えば、これまでのルールを壊してしまいます。

ですから、「革新型イノベータ」の心をつかむことができれば、
従来のルールにおいては最強だった競合他社商品を打ち負かす
新たなヒット商品を生み出すことができるかもしれません。


著者の森行生氏は、代表作の

「シンプルマーケティング」
(森行生著、ソフトバンクリエイティブ)

や、長年にわたって発行されているメールマガジンでは、
極めて濃厚な議論を展開してきました。

文章はとても読みやすいのですが、書かれている内容自体は、
高度で緻密なため、読み手にも相当の覚悟が必要です。(笑)


しかし、本書は、初心者向けにさらにわかりやすく、
平易に書かれています。

ですから、上記「シンプルマーケティング」を読まれたこと
のない方には、準備体操的なものとしてお勧めできます。

本書を読んだら、さらに本格的な森理論が学べる
「シンプルマーケティング」がきっと読みたくなります。


一方、森氏の本に既にどっぷりはまっている方にとっては、
「これで終わりなの・・・」と感じるほどあっさりしているため、
さっと読んだだけでは空腹感を感じるかも知れません。


しかし、実は内容自体はかなり高度なもの。

玄米のようにゆっくり噛み締めて飲み込み、
また牛のように反芻することをお勧めします。


なお、「ヒット商品を最初に買う人たち」をベースに、
著者の森さんが講演をされます。

4月25日(水)です。
森さんの話は、お世辞抜きでメチャクチャ面白いですよ。

↓詳細・お申し込みはこちらからどうぞ!

*シナプス・マーケティング・コミュニティ

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

銀座ユビキタス実験

1月から実施されていた「銀座ユビキタス実験」のこと、
ご存知でしたか。3月10日でいったん実験は終了したようです。
(日経新聞2007/03/10)


実験参加者は、専用の携帯情報端末を持って銀ブラ。
そして、たとえば銀座四丁目交差点の三越前を通ると、

「三越は、1930年に誕生しました・・・」

などとガイド音声や画像が自動的に端末に流れます。


これは、銀座の要所要所に設置したICタグや赤外線発信装置から
流れている情報を、近くにある端末がキャッチできる仕組みに
なっているからなんですね。


この仕組み、ぱっと聞いた印象ではとても便利そう。
特に、観光客には喜ばれそうなサービスです。

歌舞伎や美術館などで、音声の説明が聞ける小型の機器を
貸し出しているところがありますよね。

あれと同様、このユビキタスサービスは、その場所に不案内な人
にとってはありがたいサービスに違いありません。


と思ったら、実はそうではなかったんですね。
実験参加者の評判はあまり好ましいものではなかったようです。
また、申し込んだものの、実際には参加しなかった人が9割も
いました。


この端末、首から下げるスタイルですが重さが300グラム。
ちょっと重いですね。

また、屋外で使用するため、液晶画面が見づらいという
ハード設計上の問題もあったようです。


しかし、実験参加者が評価しなかった主な理由は、

「音声などに気をとられ、気楽に銀ブラできない」

ということでした。


また、

「知りたくない情報まですべて受信してしまう」

という声も・・・


つまり、この端末の最大の問題は、
情報受信の「選択権」が利用者側になかったことでしょう。


「ユビキタス」のコンセプトは、もしそれが完全に実現したら
さまざまな情報が、まるで「空気」のように世界を満たしている
状態と言えます。

ですから、こうした情報を人がすべて摂取していたら、
それこそ情報過多で頭がおかしくなりそうです。


ユビキタスに限らず、新しいコミュニケーションテクノロジーは、
どうしても情報発信側寄りの発想が強くなってしまうものですが、
情報受信側の心理理解も大切ですよね。


「情報は自分で取捨選択したい」

現代の消費者の、最も切実な願いはこれじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 13:57 | コメント (2) | トラックバック

欲望解剖:「水戸黄門」に見る偶有性

ドーパミン(脳内麻薬性物質)のドバー放出以外に、
もうひとつ脳が喜ぶ、大好きなことがあります。

それは、

「偶有性」

と呼ばれるものです。


「偶有性」は、このメルマガ&ブログでも一度取り上げました。

「先が読めないからうれしい」


偶有性は、半ば規則的、半ば偶然に起こる出来事のことです。

人は、物事の展開がすべてわかっていたら退屈になりますし、
かといって、展開がまったくわからないのは不安になるだけ。

半分分かっていて、半分分からない、
そんな世界が一番ワクワクできて楽しめるということでしょう。
(人生も、「偶有性」そのものですね・・・)


さて、「欲望解剖」*の中で、茂木健一郎氏は、
「偶有性」を備えていることが人気の鍵となっている例として、

「水戸黄門」

を挙げています。


「水戸黄門」では、黄門さまが全国を旅する途中で
さまざまな事件に遭遇しますが、最後は、必ず

「この印籠が目に入らぬか!!」
「ははーっ」

で無事一件落着しますよね。


この印籠が「規則性」であり、
一話ごとに異なる事件(ストーリー)が「偶然性」です。

水戸黄門の「印籠」は、偉大なるワンパターンですが、
これが見ている人に安心感を与えると同時に、
黄門さまを移動させることでディテールに変化を与えています。

こうして、規則性と偶然性をうまく混ぜ合わせることで
面白さを作り出している。

だから、ついつい毎回見てしまう。
水戸黄門中毒になるというわけです。


考えてみれば、

「ウルトラマン」シリーズ
「仮面ライダー」シリーズ

なども、毎回、奇妙な怪物が登場してくるけれど、
最後には、決め技の光線やキックでやられて正義が勝つ
という点では、水戸黄門と同様、偶有性を備えていますね。


ある一定のパターンを維持しつつ、
ディテールを変えていくというのが、長く支持される
ロングセラー商品を生み出すポイントと考えることが
できるんじゃないでしょうか。


ちなみに、ご存知「スターウォーズ」は、
多くの神話に共通するパターンに基づいて制作されています。

それは、神話学者のジョゼフ・キャンベルが、
神話に共通するマザー(母型)として抽出した

「英雄伝説」

です。


具体的には、

「英雄は旅立ち、成し遂げ、生還する」

ということ。

つまり

・セパレーション(旅立ち)
・イニシエーション(試練)
・リターン(帰還)

という3ステップを踏むパターン。

日本のおとぎ話では、「桃太郎」が典型的ですよね。


スターウォーズが大ヒットし、長く愛される理由には、
やはり同シリーズが「偶有性」を備えていたからなのかも
しれません。

*「欲望解剖」
(茂木健一郎、田中洋、
 電通ニューロマーケティング研究会編、幻冬舎)

投稿者 松尾 順 : 11:22 | コメント (0) | トラックバック

欲望解剖

今、マーケティングの最先端の研究は、

「ニューロマーケティング」

でしょうか。

「ニューロ・・・」という語感のためか、
かなり怪しい響きがしますが別に怪しいものではございません。


ニューロマーケティングは、
脳神経科学(ニューロサイエンス)分野の成果や、同分野で
使用される機器(fMRI:機能的磁気共鳴画像法など)を活用して、
消費者の心理・行動の背後で、脳がどのような反応を示すのかを
明らかにしようとするものです。


ちなみに、私も昨年10月に

「ニューロマーケティング:コークvsペプシ」

という記事を書いています。


また、この研究に関連する他の分野としては、

「ニューロサイエンス」
「行動経済学」

などがありますので、
ご興味のある方はこちら方面も当たってみられると
いいかと思います。


とはいえ、ニューロマーケティングについては、
まだまだ日本語の文献は少ないのですが、
まったくの初心者の方の入門書として紹介したいのが次の本です。

「欲望解剖」
(茂木健一郎、田中洋、
 電通ニューロマーケティング研究会編、幻冬舎)


本の題名はやはり怪しい(笑)ですが、
専門書ではありませんし、読みやすく書かれています。


本書で、茂木健一郎氏は、

人が「欲望」を感じている時、脳内では「ドーパミン」が出ている

ということを教えてくれています。


「ドーパミン」は、

「脳内麻薬性物質」

と呼ばれることもありますが、
脳が気持ちよくなる、つまり快楽を感じさせてくれる物質です。


そして、人が何かにはまる(=中毒になる)ということは、
ドーパミンをより多く放出する神経回路が強化されるから
なんですね。

たとえばビールが大好きな人は、
ビールを飲むとドーパミンがドバっとでる。気持ちいい。
だからもっとビールが欲しくなるわけです。

ビールの場合、もともとアルコールという習慣性のある物質が
含まれていますから、行き過ぎると、本当の意味での中毒に
なりますよね。


でも、中毒の対象は、アルコールに限りません。

高級ブランドや有名タレント、音楽、マンガ、何だろうが、
人が何かに熱中している時、脳内ではドーパミンがドバドバ
出ているというわけです。


ですから、マーケティングの課題を神経科学的に再定義すれば、

「どんな製品やコミュニケーションであれば、
 人にドーパミンを放出させ、中毒にさせることができるか」

ということになるのかもしれません。


しかし、この表現はかなりヤバイですよね。
ニューロマーケティングにおける倫理についても
一緒に考えないと・・・!

投稿者 松尾 順 : 14:58 | コメント (0) | トラックバック

メディアミックスショッピング:ジャパネットたかた

先週土曜日(27日)、「ジャパネットたかた」
の新聞折込チラシが全国で配布されたようですが、
お気づきになりましたか?

千葉・松戸の我が家の日経新聞にも入ってました。

「ジャパネットたかた」のチラシが我が家にも入ったのは
たぶん始めてです。相当大規模なチラシ攻勢なんでしょう。

ざっと眺めてみましたが、Windows Vista搭載パソコンと
ハイビジョンテレビを中心とした紙面構成です。

パソコンの仕様や価格設定は、さすがにツボを抑えていました。


さて、同社の中心顧客層は、

電気製品に弱く、通信販売で商品を購入することに抵抗がなく、
一方で、受動的でウィンドウショッピングが苦手という人たち

です。


「ジャパネットたかた」は、全国のこうした顧客層に対し、

絞り込まれた商品をテレビ、ラジオ、チラシ、カタログ、
Webサイトなどあらゆるメディアを駆使して訴求する

「メディアミックスショッピング」

によって、成功を収めてきました。


よく考えてみれば、同じ商品をさまざまなメディアで
ほぼ同時に横展開するわけですから、あまり効率が
よくないように思います。

ただ、それぞれのメディアの特性を活かし、
手を変え品を変えて商品の魅力を伝えることで、
説得力を高め、爆発的な販売力を可能にしています。


実際、高田社長によれば、

「ご老人は、テレビに言っただけのことは信用しない。
 紙に書いてあることでなければ信用しない人も多い」

のだそうです。


また、高田社長は消費者心理をよく理解しています。


消費者にとって一番大切なことは、

「どんな商品が、いくらで買えるか」

ということです。

すべての消費者が
フル装備の多機能商品を求めているわけではありません。

機能が少ない商品でも、
それに見合った価格が設定されていれば買う人がいます。


つまり、

「商品の価値は、使う人の満足度で決まる」

ということ、そして、使う人の「満足度」は、

「本当に必要で、使いやすい便利な機能かどうか」

「値段が適正かどうか」

で決まるということです。


ところで、本日付の日経MJ(2007/01/29)には、
高田社長のインタビュー記事が掲載されていますね。

ジャパネットたかたは、2004年の顧客情報流出事件の際、
1月間半の販売自粛を行った影響で減収減益になりました。

しかし、直近の2006年12月期には年商1千億円を突破。
再び成長軌道に乗ってます。

長崎に本社を置く地方企業が、
全国の消費者の心をこれほど掴むことができたのは
すごいことですよね。


余談ですが、通販企業の大手は地方、
つまり関東以外で誕生していることが多いように思います。

これって何か理由があるのかなと気になっていたんですが、
神戸に本社のあるフェリシモについての記事
(日経ビジネス、2007/01/29)の中にその答えを見つけた
ような気がしました。


それは、同社のカタログを精読している地方在住の
フェリシモの顧客が口にした一言です。

「私たちにとって、市販されている女性誌なんて
 生活に関係のないことばかりです。東京のレストランや
 衣料品のことが出ているけれど、地方に住む私たちには
 何の関係もない。でも、このカタログは違うでしょう」


全国をターゲットにする企業の本社が東京にあると、
地方にすむ消費者の心理やニーズが見えなくなってしまうんじゃ
ないでしょうかね?

投稿者 松尾 順 : 13:38 | コメント (1) | トラックバック

ニューロマーケティング:コークvsペプシ

今週もシンプルマーケティングを取り上げてく予定ですが、
ちょっと「ニューロマーケティング」の話題を。

情報源は、

「こころのサイエンス」
(日経サイエンス2006年12月号臨時増刊)

の記事です。


ニューロマーケティングとは、一言でいうと、
最先端の機器(fMRI:機能的磁気共鳴画像法)などを用いて
脳の活動を測定することで、消費者心理や行動の仕組みを
脳神経科学の視点から解き明かそうとする試みです。
(うーん、説明が難しい・・・)


2004年、米ベイラー医科大学の神経科学者、
P・リード・モンタギューのグループがある実験を行いました。

それは、コカ・コーラ(コーク)とペプシに対する消費者の好み
をfMRIを使用して把握したのです。

具体的には、実験の被験者にコークかペプシのどちらか
わからない、ラベルなしの飲料を渡し、
飲んでいるときの脳の活動をfMRIで調べました。

この実験の結果では、
被験者の反応にはどちらの飲み物も差がありませんでした。

いずれも、脳の「腹側被殻」という部位で強い反応を
引き起こしていました。満足感に関わる部位です。


次に、コーク、またはペプシのラベルのついた飲料を渡して、
同様の測定を行いました。

この結果では、なんと
4人に3人が「コーク」の方がおいしいと答えたのです。


fMRIの画像を見ると、最初の実験と同様、「腹側被殻」は
どちらも同じように活性化していました。

ところが、コークがおいしいと答えた被験者の脳では、
コークを飲んでいるとき、「内側前頭前野」という部位も
活動していました。

この部位は、複雑な思考や評価、自己イメージにかかわる
分野です。

つまり、純粋な「味覚」の評価ではコークもペプシも
同じでしたが、イメージ連想がコークの味覚をより
「おいしい」と感じさせていたということです。


モンテギューの結論。

「コークの広告メッセージは長年をかけて消費者を感化し、
 個人の選択に関わる脳の領域に影響を与えたのだ」


ブランド名によって、消費者の製品に対する評価が変わることは、
これまでの様々な調査でもわかっていたことでした。

ただ、脳の活動を測定することによって、
目に見える客観的な現象として「実証」できるという点で
ニューロマーケティングの意義は大きいですよね。


今後のニューロマーケティング研究の進展については、
注意深くウオッチしていこうと思ってます。

投稿者 松尾 順 : 12:00 | コメント (7) | トラックバック

生体認証の負の側面

みずほ銀行のATMに行くと、最近
見慣れない装置が操作画面のそばにありますよね。
(他の銀行でも、似たような装置を見かけます)

最近といっても、春先くらいには設置されていましたけど。


どうやら、日立製の「指静脈認証装置」のようです。

すでに使えるのか、
それとも利用開始を待っているのかよくわかりません。

通常の利用には差し支えないものの、
わけのわからない装置をいきなり設置しておいて、
なんの説明もないのは銀行らしい「不親切さ」ですね。


さて、上記のような装置は、いわゆる

「生体認証」

の仕組みですね。

一人ひとりで異なるパターンを持つ人体上の特徴を
本人認証のための「パスワード」として利用するものです。


生体認証に使う特徴として古典的なのは「指紋」ですが、
日立の装置は「指静脈」ですし、「手のひら静脈」を
使う銀行もあります。

映画なんかでよく見ますが、
金庫やサーバールームなどへの入室に使うのは
「眼球の虹彩」が多いですよね。


この生体認証、基本的に偽造が困難で、
また本人しか持ち歩けない(体の一部なので)という点で、
パスワードよりも本人認証が確実にできるというメリットが
あります。

近年、悪質な偽造や詐欺、盗難が相次いでいて、
銀行としては「預金者保護」のためには、
「生体認証」を導入するしかないという判断なんでしょう。


ただ気になるのは、生体認証のメリットのみが強調されて、
その負の側面についての情報があまり伝わってこないことです。

専門家ではないので体系的な議論はできませんが、
最低でも、3点、生体認証導入に伴って解決すべき課題が
思い浮かびます。


1.万が一偽造されてしまったらどうしましょ?

困難とは言え、偽造は不可能ではありません。
生体認証に使われる人体上の特徴は唯一無二であるために、
偽造されてしまうと、逆に手の打ちようがありません。

従来のパスワードなら、すぐに変更することで対応
できますが、生体認証ではそれができないわけです。

そういえば、映画「マイノリティレポート」では、
主演トムクルーズの眼球をくりぬいて棒に刺し、
セキュリティを突破してましたね。


2.身体障害者の方はどうすればいい?

何らかの理由で指や手がない方への対応はどうするので
しょうか。従来のパスワードも併用できるのなら、
そもそも生体認証の導入の価値がさがりますよね。


3.外出が大変な高齢者の方はどうすればいい?

寝たきり、あるいはそうでなくても足腰が弱って外出が
大変なお年寄りは、家族や、信頼できる介護者の方に
通帳とカードを預けて、お金の引き出し・振込みなどを
お願いしている人が多いと思います。

生体認証で本人しかお金をおろせないとなったら、
上記のような高齢者はどうしたらいいんでしょうか?


もちろん、以上のような課題に対する解決策を
いろいろと考えられているんだと思います。

ただ、生体認証にかかわる

・メリット
・デメリット
・対応策

といったことを対外的にきちんと説明して欲しいですよね。


金融業界もいまだ消費者不在の自己中心的思考が強いように
思います。

投稿者 松尾 順 : 13:01 | コメント (0) | トラックバック

体験情報の価値

先週後半は福岡出張後、福岡・八女の実家に立ち寄り、
さらに、「吉野ヶ里歴史公園」に足を伸ばしてみました。


「吉野ヶ里歴史公園」

同公園は佐賀県にありますが、実家からは車で40分の近さです。


「吉野ヶ里」といえば、
弥生時代の大規模な遺跡発掘現場として有名ですよね。

ただ、そこが歴史公園として整備されていることは
恥ずかしながら知りませんでしたし、
それほど歴史に対して強い関心があるわけではなかったので、
たいして期待してませんでした。

でも、行ってみたらなかなか良かったんですよ!


広大な敷地に点在する、復元された当時の集落跡。

物見櫓や竪穴住居、高床式住居などが、
合計で十数棟建てられており、なかなか壮観です。

以前、1棟だけの竪穴式住居などは見たことがありますが、
村として大規模に再現されていると迫力が違いますね。

「当時の暮らしはこんなだったんだろうな・・・」

などと、当時の様子がリアルにイメージできて
とてもわくわくします。


また、当時の建物が見られるだけでなく、集落の広場では、
弥生時代の服装をしたボランティアガイドの人たちが
焚き火をしています。

そして、集まってきた来客に串に刺した里芋を
ふるまっていました。

めいめい自分で、火にあぶって食べるのです。
ちょっと肌寒い日だったので、ほおばると
あったかくて甘くて、とてもおいしかったです。


おや、あちらでは、当時の素朴な機織り道具を使って、
植物を原材料にした布を織っています。

1枚の布を織るのにどれだけの時間がかかったんでしょう。

当時の農耕の道具として使われていた、
木製のすき、くわを作っているおじさんもいました。

さすがに、木を削る道具は現代の「かんな」を使っている
という、時代考証を無視した矛盾がありましたが(笑)


もちろん、同公園には、
発掘された土器などを展示してある展示室もあります。

また、なぜだかディスクゴルフのコースがあり、
無料で遊べるそうです。バーベキューができるエリアも
ありました。

今回は年老いた両親と行きましたので
どちらも体験できなかったですけど・・・


「吉野ヶ里歴史公園」は、名前は固いですが、
自然がいっぱいの広大な公園で開放感を味わえるし、
家族連れで来れば、歴史の勉強、加えて
誰でもできる軽いスポーツ(ディスクゴルフ)、
そして、みんなでわいわいいいながら楽しめる
バーベキューと、一日を満喫できそうです。

公園の近くには、「吉野ヶ里温泉」もあります。
車で5分ほど。こちらも入ってみました。

中は、いわゆる「スーパー銭湯」です。
本物の温泉に入れて、一人500円でゆっくりできます。
まだできて3年目でしたので、きれいで清潔でした。

今度来るときは、歴史公園で一日遊んで汗かいて、
温泉で汗を流してさっぱりのコースがいい感じです。

今度は自分の家族連れで来ようと思いました。


さて、上記に書いた私の「体験談」、
ちょっとライターっぽいわざとらしい書き方をしてますが、
吉野ヶ里の良さが多少は伝わったでしょうか。


一方、吉野ヶ里歴史公園のホームページを見てください。
なかなかよくできたサイトです。特に問題はありません。

しかし、私が紹介したような楽しさや面白さは
あまり伝わって来ないですよね。


なぜでしょう・・・?


情報は客観的で、かつ構造化、体系化されています。
ですから、情報のわかりやすさや検索性は確かに優れたものに
仕上がっています。

しかし、しょせんは、

・そこに何があるのか
・何ができるのか

といった「機能的な価値」しかほとんど表現されていません。

肝心の、

・そこにいけばどんないいことがあるのか(便益価値)
・どんな気持ちになれるのか(情緒価値)

は伝えようとしていない。

ただ、サービス提供者側がこうした、
ユーザーが本当に知りたい価値を伝えることは難しいですよね。

わざとらしいし、へたをすると自画自賛になってしまいますから。


だからこそ、ユーザーの体験情報に価値があるわけです。

ユーザーによる生の体験情報は主観的で、構造化も体系化も
されていません。でも、人それぞれながらも、何がよかったのか、
どんな気持ちになったかがちゃんと伝わる。

同じ立場のユーザーの共感を得ることができますよね。


カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA)の
代表取締役社長、増田宗昭氏は次のようなことを言っています。
(日経情報ストラテジー、JULY 2006)

“僕が理解しているWeb2.0はこういうことです。
 今や世の中に食べたり見たりという体験情報が存在していますが
 実は消費者はこうした情報にこそ価値を置いています。(中略)
 体験情報が世の中を動かす社会になっており、それを実現する
 技術がWeb2.0だと思います。”


体験情報、これは要するに「口コミ」です。

ネット以前は、ごく近い存在の人たちからしか体験情報は
得られませんでした。

たとえば、直接「吉野ヶ里歴史公園」に行った話を聞ける人は
あなたの周りにそうはいないはずです。(笑)

しかし、私たち消費者は、ネットに行けば多種多様のあらゆる
体験情報があふれていることを知っています。


そして、この体験情報こそが、
最も「行動するかしないか(購入判断など)」に参考になる
役立つ情報であることも私たちはわかっていますよね。

投稿者 松尾 順 : 09:28 | コメント (0) | トラックバック

女の人は鼻毛をどうやって処理しているのか?

「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」
(北尾トロ著、幻冬舎)

という奇妙なタイトルの本があります。

私の事務所の積読・未読本の山の中にも1冊あります。
今となってはなぜこの本を買ったのかよく覚えていません。(笑)


ま、確かに、ミーティングなどで目の前に座った人の鼻穴から
鼻毛がのぞいていたら、どうにも気になってしまうものですが、
面と向かって「出てますよ」とは言えないものです。

そんなわけで、私なんかも鼻毛切り用小さいハサミを
使って時々「処理」してるんですが・・・


「そういえば、女性だって鼻毛伸びるよなあ、
 どうやって処理してるんだろう?やっぱり小さいハサミ?」

男性でこんなギモンを持った人もいるかもしれません。

男でも、あそことかとかあそことかあそこの毛は、
ナショナルの「ソイエ」のような、バリカンに似た脱毛器を
使うことは知ってますが、まさかあれを鼻につっこんだり
してないでしょう。(ゴリラくらい鼻穴が大きくないと
物理的にムリ)

いわば、鼻毛処理は、
隠された女性行動のひとつであったわけです。(オオゲサ)

しかし、データ捕捉が容易なネット販売によってその秘密が
明らかになろうとしていますね。


アマゾンのヒット商品ランキングで、
05年度の「ホーム&キッチンストア」部門の年間第一位は
なんと、「鼻毛カッター」だそうです。
今年、06年度の上半期でも同部門約4万点の中で一位に輝いて
います。(Mainichi Interactive Mail、2006/09/12)

鼻毛カッターの05年度の出荷台数は、電気かみそりの780万台に
対して50万台程度だということで、全体としてみればそれほど
需要が大きいわけではない。どうやら、オンラインでのみ、
やたらと売れているのです。

そこで、このヒットの原因を探ってわかったのは、
「鼻毛カッター」のオンライン購入者には「女性」が多いらしい
ということ。

その理由は、家電店の店頭で、女性が「鼻毛カッター」を
買うのは恥ずかしいから。

鼻毛カッターは、元々男性向けのイメージがありますが、
オンラインでは女性も気兼ねなく買えるので、
その分販売量が押し上げられているということらしいです。


アマゾンの同部門担当者によれば、
家電店では、たいてい隅の方にあって見つけにくく、
かといって店員に聞くのもためらわれるけれど、
アマゾンのランキングで「鼻毛カッター」を見つけた女性は、

「こんなのがあるんだ!」

とこうした商品の存在を知り、購入者の感想コメントを読んで
買ってしまうのだろうと分析しています。

実際、コメントの文面から推測すると、男女比率は6:4くらい
だと考えられるそうです。


ネットのおかげで、女性のニーズが顕在化しただけでなく、
ネット特有の現象ですが、

「売れるからますます売れる」

という循環に「鼻毛カッター」も入っているようですね。


ところで、興味深いのは商品自体のコンセプトの変化です。

第1号の鼻毛カッターは90年代に日立から発売されました。
当初は紺色で四角いデザイン、あくまでも男性向けでした。
(そういえば、当時、私も何かでもらって使ってました・・・)

しかし、02年、「女性も使うのでは」という家電量販店の
バイヤーの提案に基づき、「男女兼用」をイメージした
現在のシルバーと水色のデザインに変更されています。

そして、日立では、さらに「女性向け」を開発しようとした
そうです。

ところが、今度はバイヤーに止められた。

「女性用は『自分が使う』とバレるから、店では売れない」

と指摘されたのだそうです。

このバイヤーは、女性心理をよく理解していたんですね。


この話で思い出したのが、同じくちょっと恥ずかしい系商品の代表、
毛生え薬のベストセラー「リアップ」の女性版(リアップレディ)
の売れ行き不振です。

「日本発、女性用発毛剤誕生」

と銘打って発売された「リアップ・レディ」ですが、
期待に反して売上げの伸びがもうひとつなんですよね。


女性向けの発毛剤のニーズは確かに存在しています。
しかし、やはり店頭では買いにくいですよね・・・
(そうですよね、女性の皆さん?仮に自分がそんな悩みを
 抱えていたとしたら)

「リアップレディ」は、対象者である女性の購買心理を十分に
読みきれていなかったと言えるのかもしれません。

鼻毛カッターの事例を参考にすれば、
通販に力を入れれば、もっともっと売れるはずです。
(医薬品ですからちょっと壁があるかな)

投稿者 松尾 順 : 10:10 | コメント (0) | トラックバック

量が質に転化する時

たまに新聞折込で入る「幸運の○○○」チラシ。

財布やお守り、ペンダント、○○○に入るのはいろいろ
ありますが、紙面には成功者のコメントがテンコ盛りですよね。

「この財布のおかげで1億円の宝くじが当たりました!」
「このリングを手に入れてから、毎日もてまくりです!」

などなど。

一応「成功者」の顔写真入りのことが多いですし、
万札がはみ出している財布を持っていたりして、
シズル感があります。(笑)


しかし、どう考えてもイカサマですよね。
全部が全部、コピーライターの作り話であることは
まず間違いありません。

それでも、不思議なことに、何十もの成功コメントを見ていると
なんとなく信じたくなる気持ちが湧いてきます。

もし、経済的に厳しい状態にある人なら、
わらをもつかみたい気持ちでしょうから、思わず注文してしまう
ことでしょう。おそらく騙されていると気づきながらも・・・


さて、普通、出所が不明の怪しい情報を簡単に信じることは
ありませんよね。ところが、そうした情報を10も20も提示
されたらどうでしょうか?

心理学の実験によれば、たとえ信頼性の低い情報であっても、
多数の情報にさらされると、その情報を受け入れやすくなることが
わかっているそうです。

「うそ」は1個でも、100個でも、1000個でも「うそ」のはずですが、
人間心理は不思議なものですねぇ。情報量が増えると、
「うそ」でさえ「真実」として捉えるようになってしまう。

すなわち、量が質に転化する時があるというわけです。

これが、「幸運の○○○」のやらせチラシが成立する背景に
あります。


インターネットでも、
例えばアマゾンなどのオンライン書店の書評には、
おそらく内部関係者(著者本人かも)によるものと思われる
自画自賛コメントが並んでいるものがありますよね。

でも、怪しいなあ、やらせ・さくらだなあ、とわかっていながら、
それなりに参考にしてしまうのが悲しい人間の性(さが)。

こうした心理傾向を自覚することで、
うかつにだまされないようにしたいものです。


一方、マーケターとしては、

口コミ、利用者の声といった類の情報は、
多ければ多いほど効果が高い

ということが言えますよね。
ですから、この知見をうまく施策に反映させるべきでしょう。

もちろんうその情報を捏造してはいけません!

投稿者 松尾 順 : 10:32 | コメント (0) | トラックバック

地縁の再現としてのSNS

今週はお盆ウィークでしたから、
実家に帰省されていた方もいらっしゃると思います。

あなたのふるさとはどんなところですか?

地方でも、福岡市や札幌市のような大都市に住んでいれば、
東京あたりとさほど違いはないでしょうけど、
そうした大都市からちょっと外れると、
昔ながらの集落的なつながりの中で生活をしてるところが
まだまだありますよね。


集落のほぼ全員と顔見知り。仲のいいお隣さんも、疎遠な
お隣さんもいるけど、冠婚葬祭ではお互い助け合う。

塀越しにそれぞれの家の動向がしっかりチェックされているし、
近所のおばさんたちが、あちこちで長々と油を売るおかげで、
「誰がこうした、ああした」という情報はあっという間に広まる。
(私の実家の集落をイメージしながら書いてます・・・)


こうした集落は、「地縁」と呼ばれるコミュニティですよね。

やたらお節介な人がいたりして、たまに
濃い人付き合いがわずらわしいと思わないでもないけれど、
所属欲求を満たしてくれる安心できる場所。


最近、ミクシィのようなSNSに同じ安心感を感じることがあります。

SNSでつながっている人たちは、
すごく親しい人もいるし、それほどでもない人もいるけれど、
基本的に顔見知り。お互い、相手の日記をのぞくことで
相手の様子を垣間見ることができる。

もちろん、つながっている人たちは、
それぞれ自分のネットワークを持っているから、
そのネットワークを辿っていけば、自分とは関係のないところに
出てしまうセミクローズな世界です。

でも自分を起点としたネットワークの中では、
わずらわしいことが起きることもあるけれど、
わけもなく戻りたくなってしまう、そんな空間に思えるのです。

あなたはどう感じますか?


そして、まだ仮説に過ぎませんが、
SNSは、都会人ほど必要性が高いオンラインサービスでは
ないかと思うのです。

なぜなら、都会人の多くが、自分の故郷、
すなわちリアルな「地縁」から離脱してしまっているから。

それによって失われた安心感を回復させてくれるのが、
「SNS」になっているように感じます。

今までも各種のバーチャルなコミュニティモデルが提唱され、
実際に運営されてきましたけど、リアルな「地縁」に
最も近いのが「SNS」のように思います。


20年も前ですが、養老孟司さんは次のようなことを
書いているんですよ。(「脳の見方」、ちくま文庫
ちょっと長いのですが、引用します。

---------------------------------------------------
動物園で、狭いところにタヌキをたくさん飼う。
そうすると、野生状態で持っている縄張り意識を失う。

自分ダヌキが、始終、他人ダヌキに出会う。
そのつどまともに反応していたら、タヌキだって疲れる。
身がもたない。仕方がないから、現在の環境に適応して
タヌキも縄張りを捨てる。

都会の生活は、縄張りのないタヌキを量産する。
一日に出会う人数が増えすぎたから、ヒトもタヌキも、
相手の各個人(個体)に対する関心を薄めざるをえない。
電車に乗れば、まわりは一期一会ばかりである。
・・(中略)・・

現代人の孤独は、人疲れの孤独である。
あるいは、縄張りを失ったタヌキの孤独である。
モンテーニュには、帰る館と領地があったが、
あるべきそうしたものが失われた状況を、
いまでは孤独と呼ぶことがある。
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都会人が失ってしまった縄張り(意識)を取り戻し、
孤独感を埋めてくれるツールが20年後の今、
ようやく登場したといえるのかも・・・

投稿者 松尾 順 : 10:40 | コメント (3) | トラックバック

最強の購買理由・・・大義名分

お宅では、食器洗い機(食洗機)を利用してますか?

食洗機って、実際使ってみると便利ですし、
手洗いよりも水の使用量が節約できるという実利もあります。


でも、なんとなく、

「自分で手洗いできるのに何万円もする食洗機を購入するなんて!」

と購入を躊躇する気持ちがどこかにありませんか。

食後の食器洗いの時間が浮いて別のことが出来るようになるし、
かつ、水道代も安くなるということを考えると、
食洗機を購入するのは合理的な判断であるにも関わらず、
人間心理とは不思議なものです。

おそらく、利用者である主婦に、
「手抜き」とか「らくしすぎ」といった、
ちょっと後ろめたい感情が湧くからでしょうね。

我が家では、妻が出産のために実家に戻っていたころ、
1人暮らしで食器洗いは面倒だと、私が勝手に購入したのですが、
そうでもなければ、食洗機をいまだ利用していなかったかも
知れません。


さて、食洗機市場は、2003年度に急成長したものの、
04年、05年と2年連続で前年を下回り普及が停滞気味でしたが、
今年6月に松下電器産業が発売した製品「NP-BM1」

が好調な売れ行き。
発売以来、食洗機ランキングでずっとトップを独走しており、
市場回復の起爆剤になるのではと期待がかかっているそうです。
(日経産業新聞、2006.08.08)


この新製品成功の秘密は、ひとつには
懐に余裕のある中高年層ではなく「若年層」に
ターゲットをシフトしたこと。

つまり、まだ十分に開拓されていない市場であった
年代を狙ったわけです。


もうひとつは、ターゲットとした若年層に対して、

「新・子育て家電」

というキャッチコピーを前面に出して、

「食洗機を使えば、子育てに回せる時間が増える」

という「大義名分」を訴求したことです。


これは、食洗機という製品がもたらしてくれる本質的な
「ベネフィット」をおそらく初めて明確に伝えた事例
じゃないでしょうか。


私がウオッチしてきた限りでは、これまでの食洗機は、

・サイズが小さい
・ごはんのような粘つく汚れが落ちる
・利用水量が少ない
・高温で汚れを落とす
・洗剤ではなく塩で汚れが落とせる

など、機能や性能といったスペック面の特徴を伝えるものが
ほとんどでした。

しかし、

「結局、食洗機を使うことは、私(ユーザー)に
 どんな幸せ(Peace of Mind)をもたらしてくれるの?」

という消費者の根本的な問いに対する答えを伝えていなかった
わけですね。

たまに、

家事が楽になる、食器洗いの時間が浮く

といったベネフィットを訴求した製品もありましたけど、
これは本音としては共感できても、主婦の感じる「後ろめたさ」
とのバッティング、ジレンマが生じていました。

その点、今回の松下の「子育てに効く!」というメッセージは、
「育児」という、誰もが否定できない最強の購買理由・・・
「大義名分」を打ち出した点が実に巧妙ですね。


松下電器産業は、このところ様々な製品カテゴリーで
ヒット商品を連発していますが、本当の意味で、

生産者志向から、消費者志向への発想転換

に成功したのかも知れません。


例えば、エアコン市場でも、松下の新製品

「新・フィルターお掃除ロボットエアコン」

が、ダイキン工業を抜いてトップシェアを獲得しています。

この製品の場合、現時点では他社が追いつけない最新技術
(フィルターが自動で清掃される機能)が最大のウリであり、
面倒なフィルター掃除(どちらかと言えば、これはダンナの
役割じゃないでしょうか)の手間・時間を省く(Time Saving)
という本質的なベネフィットを

「10年、さよなら、お掃除。」

という、やはり消費者のハートにササるコピーで
訴えることに成功しています。


近年のエアコン市場は、愛らしいキャラクターの「ぴちょんくん」
のおかげでダイキン工業のエアコンが独走してきてましたが、
さすがに、いくら可愛くても「ぴちょんくん」がフィルター掃除
をしてくれるわけではありませんし、
本質的なベネフィットを得られる松下の製品には
勝てなかったのでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:23 | コメント (2) | トラックバック

オンライン・ローボール・テクニック

Skype、使ってます?

(知らない方のためにちょっとだけ)
Skypeは、無料の通話ソフトです。いわゆるインターネット電話。
SkypeがインストールされているPC同士なら、
世界中の誰とでも無料で何時間でも話せます。


Skyepは音質がクリアですし、使いやすいこともあって
あっという間にユーザーが拡大しましたよね。

私もたまに使っています。


さて、Skypeのビジネスモデル。

Skype同士の通話は無料とすることで登録ユーザーを増やし、
次に、登録ユーザーが、Skypeから普通の電話にかける場合の
通話料を有料にすることで収益を得ています。

このSkypeから普通の電話にかけることのできるサービスは、

「Skype Out」

といいますが、この利用が進まないことには、
Skypeは儲からない・・・


とうわけで、日本では先月(6月)に

Skype Outのトライアル(お試し)キャンペーン

をやっていましたね。
言うまでもなく、キャンペーンの目的は「新規ユーザーの獲得」。


Skypeユーザーの方は、次のような件名のキャンペーン告知メールが
届いたのを覚えてませんか。

「60分間無料通話クレジットを今すぐゲット!」

本文のキャッチコピーは、

“普通の電話へ1時間タダでかけられる”

となっていて、続く本文の説明は次のようなものでした。

------------------------------------------------------------

普通の電話への通話ができるクレジット、なんと1時間分を差し上げます。
Skypeから普通の電話への通話発信はSkypeOutと言います。

何の裏も難しいこともありません。2006年6月30日までにSkypeから
普通の電話・携帯電話へ1回以上通話を発信するだけで、
その後電話をかけるときに使える1時間分のSkypeクレジットが自動的に
無料でアカウントへ追加されます。

------------------------------------------------------------

「おっ、これはいいじゃん、早速ゲットしなきゃもったいない!」

なんて喜びいさんでSkypeを立ち上げた方がどの程度いらっしゃるか
わかりませんが、その人たちは結構がっかりしたんじゃないでしょうか。


Skype Outをともかく6月中に1回利用すればいいんだね!
と思って、Skypeの画面をクリックしていくと、

「skypeクレジットの購入画面」

につきあたります。

どうやら、通話料金を前払いしなければならないようです。
最低料金は10ユーロ(日本円で1500円程度)です。

つまり、キャンペーンの無料通話1時間分をゲットするためには、
1500円分の支払いがこちらに発生するということになります。


「なあんだ・・・(ガッカリ)
 やっぱり‘裏’があるじゃないか!!」


もちろん、Skype Outをフルに活用するのであればいいのでが、
Skypeクレジットには有効期限がありますので、
こちらが払った1500円分と無料通話分を使い切るだけの時間分
とても利用しそうにないなと感じた方が多いんじゃないでしょうか。
(1分当たりの通話料金が安いだけに、使いでがありそうですし)


さて、このキャンペーンで問題なのは、

無料通話1時間分をゲットするためには、
ユーザー側に10ユーロの支払いが発生することを
明記していなかったことです。

キャンペーンメールにも、Skypeの手続き画面にも
そうした説明は一切ありませんでした。

このため、期待を持って手続きしようとしたユーザーを
ある意味、「あざむく」ようなコミュニケーションになっています。


このような、最初に魅力的な条件だけを提示して相手をその気に
させた後で、相手にとってあまりうれしくない条件をおもむろに
提示する説得技法を

「ローボール・テクニック」

と呼びますが、

Skypeの今回のキャンペーンは、
意識的にこのテクニックを使ったのかどうかはともかく、

「ローボール・テクニック」的コミュニケーション

になっていますね。


ローボール・テクニックは、
営業マンのリアルなコミュニケーションでよく利用されて
きました。

ローボール・テクニックは、上述したように
相手の裏をかくようなところがあり、
冷静に考えてみるとおかしいことがわかるはずなんですが、
言葉だけのコミュニケーションの場合には、
結構営業マンのペースにはまってしまいがちです。


しかし、オンラインの場合、文字情報ベースですので、
読み手がじっくり検討する時間がある。

このため、そうそう簡単には裏をかけないわけです。

また、裏をかけないどころか、怒りや落胆といったネガティブな
感情を与えてしまいますので、ブランドイメージ低下につながる
可能性を持っています。

どうやら、

「オンライン・ローボール・テクニック」

はあまり通用しないと考えたほうがよさそうです。


糸井重里氏ではないですが、

「正直が最大の戦略」

だと思います。


なお、上記のSkypeのキャンペーンは
あまり成果を上げなかったのかわかりませんが、

今月は、

「普通の電話への通話10分を無料プレゼント」

のキャンペーン・メールが来ました。

でも、どうやって手続きすればいいのかよくわかりませんでした。
説明が不十分でした。


余計なお世話ですが、Skypeのマーケティング、大丈夫?

投稿者 松尾 順 : 12:43 | コメント (0) | トラックバック

エロ本と同じくらい買うのが恥ずかしかったもの

ここで私のちょっとした秘密を明らかにします。
(「秘密」というほどたいしたことはなくて、
 実は、書くのが恥ずかしいだけなんですけど・・・)


私は甘いものが好きで、
毎日のように「シュークリーム」や「大福」、「アイスクリーム」
などを近くのコンビニ(サンクス)で買っています。

また、別のコンビニ(AM/PM)では、しばしば
ソフトクリームをレジで頼んで買います。
「コーン」を指定して。

これだから、ダイエットも続けなきゃいかんのですが・・・(笑)


さて、私と同じ年頃の甘いもの好きの貴方(男)、

そんな貴方なら身に覚えがあると思いますが、レジに並んでいる時、

「このシュークリームや大福は、子供に買ってきてと
 頼まれたものなんですよ・・・」

と無意味な弁解を心の中でしていませんか。してますよね。

いい年をしたオヤジがシュークリーム食べんのかよ、

なんて若い店員に思われるのが恥ずかしい。

ですから、いかにも「これは私が食べるのではありません」
という顔つきをしたいわけですよね。

私はそうです。もちろんこの弁解は大ウソで、
事務所で一人密かに楽しんでいるんですが。


甘いもの系のお菓子は、固定観念として「女子供の食べ物」
というイメージを大方の男性(特に中高年)は持っています。

でも、やはり大人になっても好きなものは好き。
食べたいものは食べたい。
ですから、多少の恥ずかしさは我慢できます。

しかし、さすがにパッケージに幼児の絵が描かれた「ビスコ」
は買えません。心の中の弁解も通用しないんですね。


さて、こんな男性の隠されたニーズを掴んだのが、
「オフィスグリコ」でした。

これまでも何度か取り上げてきてますが、
「オフィスグリコ」は、富山の置き薬方式の職域お菓子販売です。

手で抱えられるくらいの小さめのプラスチックボックスに
お菓子が入れてあります。お菓子が欲しい人は、
100円玉をカエルの貯金箱のようなものに自分で投入し、
好きなお菓子を取り出す仕組みです。

このビジネスモデルでは、
お菓子の補充や代金の回収はすべて人手でやっていいます。
大変な労働集約型業務ですので事業開始時は採算性が疑問視
されましたが、やはり

「規模の経済」

の考え方が通用したようです。


現在、事務所に置かれているボックス総数は、
69000台(2006年3月松)です。年商約20億円。

ここまで台数が出ると、

1ボックスあたり1日100円(お菓子1個分)の売上げ

で採算が合うそうです。

グリコの「置き薬」ならぬ「置き菓子」は
なんとも原始的な販売方法ですが、
結構すごいですよね。


実は、このオフィスグリコ、当初のターゲットは

「OL」

でした。

グリコでは、

「男性より女性の方が、お菓子が好きなはず」

という常識(実は検証されていない「仮説」に過ぎない)
をベースにビジネスモデルを考え、事業展開したわけです。


ところがいざフタを開けてみると、購入者の70%が
男性。しかもそのコア層は30-40歳だったそうです。

彼らは、いままでコンビニではエロ本を買うくらい
お菓子を買うのは恥ずかしかったのです。

一方、事務所では空腹を我慢しながら
残業を続けていることが多い。

そこに、「オフィスグリコ」は救世主のように登場した。
(オオゲサですが)

これなら、大好きな「ビスコ」だって、こっそり買える!
家で食べたら、カミサンや子供に笑われてしまうけど、
自分のデスクならそんな心配もない。ちょっと空腹を
満たすという正当な理由がある。


要するに、「オフィスグリコ」は、
残業続きの男性社員の心を掴んだのです。

グリコさん側としては意図せざる結果でしたが。


よく、

「恥ずかしい系商品」

の典型として、エロ本などのセックス関連商品や
「ズラ」などが取り上げられますよね。

でも、ユーザーの属性や状況によっては、

「お菓子」

でさえ恥ずかしいものになりうるという点は、
マーケティングのヒントになりそうじゃありませんか?


*今回の内容は、I.M Press 2006-7の記事を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (2) | トラックバック

リセット願望?

いまお使いの手帳、以前からずっと同じものですか?
それとも毎年、変えていますか?

まあ、どちらにせよ手帳を新調するのは、
年末か、年度末の3月ですよね。普通は・・・


ところが最近は、年末でも年度末でもない時期に、

「今月から始まる手帳が欲しい」

という客が増えてきてるようです。(日経MJ、2006.06.19)


そこで、渋谷ロフト店では夏場の6-8月も手帳売場を設置し、
「5月始まり」「7月始まり」の手帳も開発して販売してみたら
予想を上回る売れ行き。


面白いのは、
購入者の4人に3人が「20-30代の女性」である点です。

「1月から使い出した手帳が使いづらくて・・・」
「携帯を手帳代わりにしていたが不便なので・・・」
「手帳を変えて心機一転がんばろうと思って・・・」

など、購入動機は様々のようですが、基本的には、

「いったんリセットして、白紙状態から再スタートしたい」

という「リセット願望」を充たす儀式の道具として
買われているんでしょう。

女性の場合、失恋すると髪を切ったり、旅行したりして、
一区切りつける儀式をやりますよね。

それと同じではないかと!


男性の場合、やけ酒とか飲んでも、
それは忘れるためではなくて、うじうじと思い出すためのもの。
リセット願望は、女性と比較すると非常に低いように思います。

だから、例えば夏に転職したからといって、
気分一新のために手帳を新調したりすることはまずないでしょう。
私も夏頃の転職を何度もしましたが、手帳を買い換えたことは
ありません。

正直、男である私には、年の途中に手帳を買い換える心理は
あまり理解できません。

手帳ひとつとっても、「おんなごころ」と「おとこごころ」
の違いが読めるように思います。


余談ですが、日経MJの記事によると、
女性に人気の手帳は「ほぼ日手帳」だそうです。

糸井重里氏が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」から生まれた
オリジナルの手帳。


いろいろと工夫されていて使いやすそう。
実は私も、2006年度版を購入しようかと考えたんですが、
今の手帳に慣れているせいか踏み切れませんでした。
結構いい値段しますし。(ナイロンカバー製のもので1冊3500円)

で、この手帳を担当しているのが、
東京糸井重里事務所の富田裕乃さんということで
コメントが掲載されていましたが、
彼女は、以前勤めていた広告会社の元同僚なんですよ。

ずいぶん前に糸井事務所に転職したことは聞いていましたが、
今も元気にがんばってるのを知ってちょっとうれしかったです。

投稿者 松尾 順 : 10:02 | コメント (0) | トラックバック

あのヒトは、一人じゃない。

これ、コピーライターの仲畑貴志さんの言葉です。

次のようなエピソードがぶらさがってます。
(宣伝会議、2006.3.1)

即席ラーメンの新商品開発のために行った事前調査で、

「減塩ラーメンを選びますか?」

という問いに対して、大多数の「賛同」というデータが出た。
ところが、この数字に背中を押されて売り出した

「減塩ラーメン」

は売れず、

その真逆の価値である

「激辛ラーメン」

が売れたそうです。

これはどう捉えれば良いのでしょうか?


仲畑さんの答えは、

「ひとりの人間の中には、複数の人格価値観が存在している」

ということです。

「減塩ラーメンを選びますか?」

という問いに好意的な反応を示したのは、健康に留意するという、
その人の中の「理性的」な人格。

ところが、即席ラーメンを食べるときのその人は、

「腹へった、とりあえず、なんか食お」

というゆるい価値観で行動しています。

したがって、ゆるい価値観で選択されているラーメンという
商品を理性反応の数字の集積で判断したのが間違い、

だというのが仲畑さんの考え。


まあ、まったくもってその通りです。
調査のやり方、データの解釈の仕方が適切じゃなかった
ということです。


こうした、

消費者の言ってること(調査結果)と
やること(購買行動)は違うじゃん

という悲劇はかなりの頻度で起きているようですが、
そもそも仲畑さんが指摘されているように、

「ヒトは複数の人格を持っている」

という点を忘れがちな点が問題でしょうね。

ただ、「複数の人格」を持っているといっても
精神が分裂しているということじゃありません。

より正確に言うと、

「消費者は市場というステージで様々な役を演じている」

ということです。

会社員、夫(妻)、親、子、ミュージシャン、ゴルファー

など、時と場合、相手との関係によって、
私たちは、まるで俳優のように複数の役を使い分けています。

もちろん、それぞれの立場で、価値観も違う。
購買行動だって変わってきます。

これは専門的には、

「Role Theory」(役割理論)

と呼ばれるものですが、

よく引き合いに出される、

高級車に乗り、100円ストアで買物をする

といった一見、一貫性に欠けた行動に見えることも、
一人の人間が複数の自分の役を使い分けていることを
考えると、なんら不思議ではないわけです。

ちなみに、即席ラーメンを食べる時の自分は、欲望のままに生きる
「素の自分」を演じているんだと考えられるでしょうね。(笑)

投稿者 松尾 順 : 10:24 | コメント (0) | トラックバック

キャリアとは・・・?

週末なのでテーマ、ちょこっとずらします。

以前、あるキャリア論の講座の最終課題として「私の考えるキャリアの定義」というものを
書きました。今まで公表したことがないので、ここで公表させていただきます。
(知恵市場にも掲載)

「である調」で書いた、ちょっと固めの文章でですがご勘弁ください。

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● 関係性視点でのキャリア

 トム・ハンクス主演の映画「キャスト・アウェイ」は、FEDEXの社員である主人公が、
輸送機の事故によって無人島にたどり着き、それから約4年もの間、
たった一人だけの生活を送る姿を描いた、現代版ロビンソン・クルーソーである。

彼は、遭難するまでは、FEDEXという優良企業の中で順調なキャリアを歩んでいた。
残念ながら、運命のいたずらで、それまでのFEDEXでのキャリアは断ち切られたのだが、
では、無人島での生活の4年間というものを振り返るとき、そこには「キャリア」という
意味合いを与えることはできるだろうか?

 私は、また大半の人が同意すると思うが、無人島の生活に「キャリア」という言葉を
あてはめることはできないと思う。なぜなら、無人島で彼は、ただ生きるためにだけの
毎日を送った。雨水をためたり、魚を釣ったりしたが、それは自分が生きる目的だけ
のための行為であり、「仕事」ではない。したがって、彼は、無人島の生活では、
「生きる」という以上の意味を見出すことができなかった。

彼はそのことに絶望し、自殺を図ろうとしたこともある。(結局、自殺できなかったが)
また、彼はまったくの孤独が耐えられず、遭難時に流れ着いたバスケットボールに
自分の血で顔を書き、'ウイルソン'と名づけて、まるで友人同様に扱った。

 「キャスト・アウェイ」はフィクションだが、私には「キャリア」、あるいは「人間」と
いうものについて深い洞察を与えてくれた。それは、人間は、人との関係、
もっと抽象的な概念でいえば「社会」との関係で自分の存在を確かめる、という点
である。

「キャリア」についても同様である。社会、会社、家族、地域、といった、
なんらかのコミュニティ(共同体)における自分の立場・役割という関係性視点に
おいて、初めてキャリアとう概念が意味を持つ。

 ところで、「キャリア」を形成する中核要素である、「仕事」の本質を考えると、
それは、他者(社会)に対して何らかの価値を提供することによって、
その対価を得る行動である。「対価」は通常金銭だが、よく考えると金銭は
交換手段に過ぎず、生活を送るための衣食住娯楽などが、何らかの形で相応に
満たされればよく、必ずしも金銭である必要はない。

つまり、「仕事」とは、「社会」という人の人との関係性の中で、存在を許される
(生かされる)ための価値の創出行動である。もし、周囲の誰に対しても一切の
価値を与えていないにも関わらず、人並みの生活を送っている人間がいたら、
その人はいわゆる'ごくつぶし'と形容される存在である。そう考えると、
「仕事」というものは、会社勤め、自営業だけでなく、専業主婦の家事や
ボランティアワークなど、明確な金銭的対価を得られないものも「仕事」の範疇に
含めることができるだろう。彼らは、社会の中で受け入れられるにふさわしい
価値を創出しているとみなされるからである。

もちろん、いわゆる生活水準の差は、どんな仕事をやるかによって左右されるのだが、
「仕事」(上記のような広い意味での仕事)を通じて、人は社会の中での自分の
存在意義・存在価値を確かめることができる。

●センスメイキングとしてのキャリア

 「キャリア」というものを考える時、「過去に経験してきた仕事、職歴」といった捉え方を
することを否定するわけではないが、現実にキャリアに悩んで、今どうすればいいのか、
という人にとって、より役にたつであろうキャリアの定義というものを私は提唱したいと思う。

それは、「センスメイキング」、つまり、「意味生成活動」としてキャリアを捉えるという捉え方である。
この場合、意味を生み出す主体は、それぞれのキャリアを歩む本人自身であり、今現在、
そして未来に向けて、仕事に対して「意味」を見出していこうとするプロセスがキャリアである、
と定義したい。ここで、「意味」とは自分の存在意義、もっとわかりやすく言えば、結局のところ
「やりがい」ということになる。

ただ、前述したように「意味」は、基本的に人、社会との関係性の中で生まれるものであり、
またそうでなければ、社会の中での存在意義・存在価値を認めることが困難であるため、
外的基準における仕事の意味をまず考える必要があるだろう。これは、

「この仕事を通じて、自分は社会にどんな役割を果たしているのか」

という質問で明らかになる。この場合、「社会的意義」と言い換えることが可能であろう。
そして、大事なことは、この意味(社会的意義)が自分の価値観、つまり内的な基準に
照らした時、価値を認めることができるか、という評価をすることである。これは、

「この仕事は自分らしさを発揮できているか」

という質問に答えてみることでわかる。

そして、外的基準に照らした自分の仕事の意味(意義)が感じられ、それが
内的基準においても、価値あるものだと認めることができる時、あるいはできるように
なった時、今の一瞬一瞬の時間が輝きのある、充実したものとなる。また、未来は
無限の可能性を秘めたものと感じられるようになる。

 このように、私は、キャリアを今と未来に向けた意味生成活動と定義するが、
内的基準に基づくキャリアの意味は、あくまで自らが能動的に見出すべきもの
である点を強調すべきだろう。外的基準たる社会的意義にはある程度の客観性が
あるが、内的基準は主観的なものである。しかし、生きるということは、自分らしさの
発現であり、己の主観を尊重しなければ、自分でいることはできない。

なお、幼少時の経験や過去の仕事・職歴を振り返ることは、自らの過去の行動から、
帰納的に自分の内的基準、つまり価値観を自己認識するというために役立つ。

投稿者 松尾 順 : 18:57 | コメント (0) | トラックバック

理想の自分で行動する

以前、女性衣料品店を経営していた友人から、

「ターゲット顧客が40代だったら、40代に似合うデザイン
ではなくて、30代に似合うデザインで品揃えをする」
(そうすると40代のお客さんが集まる)

と聞いて「へぇー」を連打したことを覚えています。

自分の本当の年齢よりも一回り若い
「こうありたい自分=理想の自分」に基づいて商品を
選ぶのが女性なんですね。


もちろん、女性だけでなく男性も同じようなものです。

ちょっと前に書きましたが、
リクルートのR25の創刊に当たってビジネスマン対象の
調査をやった時、事前のアンケートでは「新聞を読んでいない」
と答えていたのに、グループインタビューでは、
「日経新聞?もちろん読んでいます」
とみんな答えたそうですから。

「虚栄心」でしょうね。
虚栄心が、本当の自分じゃなくて、理想の自分で
答えさせるのでしょう。


さて、女性の服の話に元を戻すと、服は自分をよりよく
見せるという役割を持っているのですから、本来は、
「本当の自分」を直視したほうがいいと思うのですが、
自分の「虚栄心」を満たすことの方が重要のようです。


この人間心理を利用しているのが、

「バニティサイジング」。

米国のアパレル業界で流行っているサイズ表示法だそうです。

この英語、日本語に訳せば

「虚栄心を満たしてくれるサイズ表示」

となりますね。

これは、自社のサイズ表示だけ標準的なサイズ表示法よりも
小さめにするものです。
わかりやすく言うと、標準サイズでは「L」と表示すべき
ところを「M」と表示します。

すると、Lサイズの消費者としてはうれしい。
というのも、このお店・ブランドではMサイズが入るので、

「あれ、私って、やせたのかしら・・・」

と好ましい勘違いをもたらしてくれるからです。

あるいは、本来Mサイズの人は、Sサイズが着れるので、
標準より痩せている自分に対する勘違いの肯定感を
味わわせてくれる。

しかし、よく考えると「バニティサイジング」は、
サギみたいなもんですよね。

でも、おそらく女性(男性)は、仮に
バニティサイジングを採用しているということを知っていても、
よろこんでだまされるんじゃないでしょうか。

だから、米国のアパレル業界も堂々とやってるんでしょう。


日本でも「バニティサイジング」ってやってるところ
あるんでしょうか。

最近は小学女児向けの服を成人女性が着るのが流行ってる
そうですし、きっとどこかやってるメーカーあるでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 07:29 | コメント (5) | トラックバック

「購買動機」を読むのは簡単じゃない


博報堂買物研究所の所長、長谷川宏氏の話です。
(販促会議2006.6)


ある流通の売り場担当の方が、自店の売り場について、

「この売り場に来るお客さまは、自分の買いたい商品を
 パッと手にとって、すぐにレジに向かう。
 ここは、とても買いやすい良い売り場なんだ。」

と語ったそうです。


ところが、お客さまの気持ちを調べると、

「あの売り場は何の発見もないし、とてもつまらない。
 とにかくすぐに立ち去りたい」

というものだったのです。


要するに、

「お客さまがすぐに買うものを決めてレジに向かう」

という行動の背景にある「購買動機」は、

「その売り場にいたくなかったから」

であって、

「良い売り場だから」

ではなかったということです。


長谷川氏は、

「同じ行動、同じ状況を見たとしても、売り手と買い手では
 全く受け取り方が変わってくる。常にその前提に立って、
 売り場のリサーチをすることが必要です。」

と述べています。


私たち人間は、相手の「行動」を手がかりに
相手の「心理」(気持ち)を解釈(推測)する力を持ってます。
(他の動物にはこの力はほとんどありません)

しかし、売り手という立場になると、
不思議と「行動から心理を解釈する力」が低下します。

行動を解釈するための「枠組み」(フレーム)が
ゆがんでしまうようなんですね。


この「枠組み」とは、わかりやすく言い換えると、

自分に都合のいい「思い込み」

のことですが、これが、
お客さまの行動の奥にある本当の心理(購買動機)を曲解してしまう。


そこでよく、「思い込み」を捨て、「買い手の立場」に立って
考えろと言います。

また、買い手としての自分の気持ちを振り返ってみる「内観」
というリサーチ手法もあるのですが、「思い込み」を消し去るのは
なかなか難しい。


そこで、買い手に対するリサーチをやらざるを得ないのですが、
最近、「3秒間動機」という面白い調査があるのを知りました。

調査会社のドゥハウスさんが提供しているサービスです。

「3秒間動機」の調査とは、実際に買う商品を決めている売り場で、
お客さまがどうしてその商品を買うのか、その「購買動機」を探る
ものだそう。

下記の本で詳細が紹介されてました。

「買う気にさせる3秒ルール」
(喜山荘一&ドゥハウス著、中経出版)

投稿者 松尾 順 : 14:39 | コメント (0) | トラックバック

デジタル化する感性

先日、コンガのレッスンを受けているプロのパーカッショニストの
先生との雑談で、最近の音楽業界事情が話題に上りました。

このところCDが売れない状況が続いているので、
相応の販売が見込めるトップアーティストでもない限り、
レコード会社も簡単にはCDを出してくれない。

したがって、仕方なくCDを自主制作するアーティストが
増えているのが現状。また、あえてCD化せずに、Podcasting
のような仕組みを使って、MP3化した音源をオンラインで
バラ売りすることも増えている。


ただ、オンラインでの音楽販売をやる場合に気になったのが、
MP3(あるいは他の圧縮方式)化することによる
「音質」の低下です。

特に、パーカッションを初めとするアコースティックな楽器は
音の厚み・深みが失われてしまいますので、
音質の悪さを理由にMP3プレーヤーを使わない人もいますから。


しかし、コンガの先生によれば、
最近は、MDやMP3プレーヤーからしか音楽を聴かない人が
多くなってきたので、高品質な音、本物の音を知らない。

だから、そもそも「音質の良し悪し」を聞き分けることが
できないので、「音質」はあまり問題とはならなくなってきた、
とのことでした。

デジタルな音に慣らされた耳は、アナログ的な微妙な音の違いを
聞き分ける能力を失いつつあると言えるでしょうね。


同じことは、「目」についても言えるようです。

パソコンモニターやテレビゲームのコントラストの強い、
派手な画面に慣れた目は、階調が豊富で自然に近い写真は、
「地味」に映るため好まれなくなってきたのだそうです。

このため、こうしたユーザー側の感性の変化に合わせて、
印刷媒体の写真は単調になってきている。

つまり、プロに言わせると、
写真の「品質」は、意識的に低下させられているわけです。


とても残念なことですが、自然な音や画像に近づけようとする努力
が徒労に終わるだけでなく、逆にユーザーの受けが悪くなること
さえある。

デジタル化社会が生んだ功罪といえるのでしょうけど、
こうした「デジタル化する感性」に対して、
様々な表現形式を駆使するマーケターも十分な注意を払う必要が
ありますね。

投稿者 松尾 順 : 07:39 | コメント (4) | トラックバック

「いい人」の適職

先週のNHK プロフェッショナル仕事の流儀は、
キリン飲料の商品企画部長、佐藤章さんでした。

ご覧になりましたか?

NHKですから、メーカー名をおおっぴらに出さないのですが、
取材中のミーティングテーブルには「生茶」がずらりと
並んでましたね。

ヒットする新飲料は1000に3つとも言われる厳しい業界の
商品開発の舞台裏が見れてなかなか面白かったです。


さて、佐藤部長が言った言葉の中で一番引っかかったのが、

“売れる商品は、「いい人」にしか作れないんですよ”

というもの。

「いい人」の意味は、周りの人に対する気配りや思いやりを
持っている人ということらしいです。

ははん、なるほど、と私はひざを打ちました。

つまり、相手の気持ちを知ろうとする努力や
相手を喜ばせようとする気持ちがあればこそ、
消費者に「これが欲しかった」と言わせる商品コンセプトが
生み出せるとういことでしょう。

我田引水(笑)ですが、

「いい人」とはマインドリーディング力がある人

ということじゃないでしょうか。

ただ、「いい人」でも、「野心」がある人とない人が
いますよね。なにかを成し遂げたいという強い気持ち。


慮る力を持つ「いい人であるだけじゃなくて、「野心」を
伴っている人こそが、売れる商品づくりができるんじゃないかと
思います。

「いい人」だと自認する方、商品開発はきっと「適職」ですよ。


ところで、将棋名人の谷川浩司さんも
次のようなことを言ってますね。

文脈は違いますが、上記のことと通じるものがあります。

“将棋界でもこの人に勝ってほしいと思わせる棋士が
 活躍し続けている。・・・
 羽生善治さん、森内俊之さん、佐藤康光さんだ。
 以前からこの三人は勝ち続けると思っていたが、
 それは将棋の強さだけではない。いつでも、周りの人の
 ことも考えられる人が本当に強い人だと思うからだ。”

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

どんな家が欲しいのか、依頼者にはわからない

脳科学者、茂木健一郎さんが司会を務めるNHK
「プロフェッショナル仕事の流儀」は、毎回いろんな業界の
「職人」が登場してなかなか良いのですが、ご覧になってますか?

先週は、建築家、中村好文さんでした。

暖かい人柄を感じさせる方で、
仕事を楽しんでる様子がほのぼのと伝わってきました。


さて、中村さんは、「人の生活が好き」だから、
という理由で個人向け住宅設計しか手がけないそうです。

中村さんが設計を引き受けたら、
まず施主のご家族と打ち合わせをするんですが、

「どんな家が欲しいですか?」

とは決して聞かないんですね。


「ご主人は、朝何時に起きるんですか?」

「で、朝食はご家族で?」

などと、家族の行動をざっくばらんに聞いていきます。

中村さんは、そんな雑談のような会話の中から、
この家族が心地良いと感じる家は、
具体的にはどのようなものなのかを探っていくわけです。


番組の中で、中村さんに設計を依頼した家族の8歳の男の子が、
カメラを向けられて「どんな家が欲しい」とNHKの人に
聞かれていたんですが、この子はこう応えたんですよ。

「家族が安心して・・・楽しく暮らせる家」

ふーむ、実に優等生的回答です。(^-^)

しかし、彼の回答は本質を突いています。

つまり、人にとって、「家」というモノから、
どんなベネフィット(この子の場合、安心、楽しさ)が
得られるかが大事だということです。


しかし、自分の求めているベネフィットを享受するために、
具体的にどんな家の造りが適しているかは、
素人なので実はよくわからないのです。

たとえ自分はわかっているつもりでも、
それは単に表面的な知識や流行に左右されていただけで、
実際に建ててみたら、住み心地が悪くて後悔することが
ありますしね。

だからこそ、家の構造や機能、性能に詳しいプロの助けが
必要なわけです。


つまり、中村さんは、

「どんな家が欲しいのか、依頼者にはわからない」

ということを踏まえて、

家を建てようとする家族が求めているベネフィットを
彼らの行動や意識から「洞察」し、
建築のプロとしての知識と経験を活かして、
具体的な設計に落とし込んでいるんですね。


このアプローチ、建築だけの話じゃないですよ。

前も書いたような気がしますが、
ターゲットユーザーに、「どんな商品が欲しいですか」
なんてアホな質問をしてはいけません。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

人は無意識にウソをつく

R25、面白いですよね。

メディアの空白地帯だった、25-35歳の男性が
メインターゲットです。
(「日経アソシエ」もほぼ同じターゲットでがんばってますね)


発行部数60万部という巨大メディアですが、
発行されるとあっという間になくなりますよね。

事務所近くの文房具店前にR25のラックが置いてあるんですが、
ちょっと気を抜いているとすでに空になっていて、
読めない週も度々あります。
わざわざ別のラックまで探しに行くことはさすがにしない。(笑)


さて、昨日の日経夕刊(2006.04.18)では、
R25の編集長、藤井大輔さんのインタビュー記事が掲載
されていましたが、マーケティング的に示唆に富む内容でした。

R25の企画段階、
まずグループインタビューで200人以上のビジネスパーソンに
話を聞いたそうです。

ただ、藤井編集長さんが違和感を感じたのが、誰に聞いても、

「新聞をちゃんと読んでいる」

と答え、しかも、例外なく「日経新聞」だったこと。

また、好きなテレビ番組は「ニュース番組」だと、
優等生的な答えばかり。


こうした回答に納得できない藤井編集長は、

「なりたい自分像」を念頭に少し見栄を張っているのでは?

という仮説を立てました。


まあ、仮説というか、
調査業界では、このような回答が見られることは、
調査データの信頼性を左右する問題として認識されてきたことです。

真実の自分の行動や気持ちをさらすのは恥ずかしい、
情けないという気持ちから、
「理想の自分」の立場でウソの答えを無意識(悪気なく)に
してしまうんですよね。

女性が、年齢を聞く設問にサバを読んだ回答をするのも同じ。

特に、対面での調査において、
こうした無意識のウソをつく可能性が高くなります。


藤井編集長が偉かったのは、上記の仮説を検証したこと。

事前調査で「新聞を読んでいない」と答えた人だけ集めて、
同じことを聞いたら、

「新聞?もちろん読んでいます!」

と答えた。やっぱりウソをついていたのだ!(笑)


というわけで、R25は、

「なりたい自分像」になれる手助けをする雑誌

を作ろうという方向で企画をつめていったそうです。


藤井編集長は次のようなことを言っています。


“言葉にしても数字にしても、裏側の事情や心理をあれこれ
 想像して、自分なりに仮説を立てることが大事だと思います。
 いわば、言葉にならない皆の気持ちを浮き彫りにする作業。
 マーケティングとはそういうことではないでしょうか”


そうそう、そういうことですよね、マーケティングとは。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (4) | トラックバック

仕事のやりがいは探すものじゃなくて見出すもの

今日は休日なので、マインドリーディングとは関係のない話題。
でも、考え方を切り替えるという点では心理学的にも
意味のある話ですが。(知恵市場にも同じ内容を投稿してます)

福岡生まれの私にとって、プロ野球の旧ライオンズ
(西武ライオンズとなって埼玉に移る前)は特別の思い入れがあります。
小さい頃から毎年1-2回は、福岡の平和台球場にライオンズの
試合を見に行っていたからです。

当時は、すでに弱小チームとなっており、まともに勝ったゲームを
見た覚えがないのですが(⌒o⌒;

それでも、球場で食べるおいしい「丸天うどん」が楽しみでした。
(丸天うどんは、どんぶりが隠れるくらいの大きさの丸いさつま揚げを
乗せたうどんです)


さて、私が知らない黄金時代のライオンズで、「神様、仏様、稲尾様」と
呼ばれた鉄腕ピッチャー、稲尾和久さんは、最初から大きな注目を浴びて
プロ野球界に入ったわけではないことは、私くらいの年代ならだいたい
ご存知かと思います。
(確か、数年前に日経新聞の「私の履歴書」に登場されましたよね)

稲尾さんの西鉄ライオンズ入団時の契約金は50万円、月給は3万5千円。
当時の大卒の初任給が8000円くらいだったそうですから、すごい高給ですね。
猟師をしていた実家は貧乏でしたので、契約金をみたお母さんは失神したそうです。

ところが、甲子園で活躍し、鳴り物入りで入団した同期の畑隆幸投手の契約金は
800万円だったそうですから、稲尾さんに対する期待度はそれほどでなかったことが
わかります。


そんな稲尾さんが入団してからやらされたことは、来る日も来る日も打撃投手。
打撃練習のためにひたすらボールを投げ続ける仕事です。

先輩からは、「おい、手動式練習機!」と呼ばれる始末。
(当時は、そもそも機械式の打撃マシンはなかったんですが)

打撃投手は、バッターの練習のために投げますから、自分の練習にはならない。
そう最初は思っていたので全然面白くない。やりがいを感じるはずもない。


でも稲尾さんは、この状況からなんとか這い上がることを考えました。
そして、稲尾さんはあることに気づいたのです。

打撃投手が2球連続でボールを投げると怒られます。
でも、ストライクばかりを投げてもやはり怒られる。
なぜなら、ストライクばかりだと、打ち続けなければならず、疲れてしまうから。
たまにボールが来てくれた方が、バッターも適度に休めるのです。

だから、一番バッターに喜ばれるのが、3球ストライク、1球ボールのパターン。

そこで、稲尾さんは、こう考えたそうです。

「4球に1球、自分の練習ができる」

それから、3球は、バッターが打ちやすいど真ん中のストライク。
残り1球は、外角低めギリギリ、内角高め、とコントロールを
磨く練習にしたのです。

打撃投手は、毎日480球も投げるそうですから、4球に1球としても、
120球は、自分の練習になる。
これでも、ほぼ1試合分の投球数に匹敵する数です。

おかげで、高校時代はノーコンだったのに、
プロのピッチャーとしては、

「針の穴をも通すコントロールの持ち主」

と呼ばれる制球力を身につけ、
以降ライオンズの黄金時代の最大の立役者となっていくのです。


次に、稲尾さんと比べたらちっぽけな私の体験に話を飛ばします。(笑)
私が旅行会社を辞めてしばらくフリーター(そんな言葉はまだなかった頃)
をした後、あるマーケティングリサーチ会社に入りました。

最初の仕事は、現場の調査員でした。
毎日毎日、関東の様々な小売店の在庫調査を行いました。

例えば、ダイエーのようなお店に、パートの調査員たち含め10名ほどで
訪問し、各担当の売り場に散らばり、棚にある商品が何個あるかを数えて、
手元の調査票に記入します。

調査対象の品目は決まっているのですが、シャンプー、リンスなどの
ヘアケア商品などは、ほぼ全品目が調査対象。

したがって、棚の右から左まで、上から下まですべてを一品ずつ数えます。
大規模な店舗だと、一人で数百品目の在庫数を数えることを繰り返すわけです。

いわゆる「たな卸し」を毎日やっているようなものですね。
傍目から見れば、極めて単純な作業です。

人によっては、つまらない、「やりがいのない仕事」と考える人も
いたかもしれません。

私もそんな気持ちを感じなかったわけではないことを正直に告白します。

ただ、楽観主義で実はあまり深く考えないのが私の性格。
とりあえず職を得てがんばるしかないので、まじめにやりました。

しかし、途中から稲尾さんと同様気づいたのは、
確かに作業は単純だが、

・一般消費財の幅広い商品知識やトレンドを得ることができる
・小売店の売り場の構成や運営、販売促進施策を肌で知ることができる

というメリットでした。
これは、私の強い「好奇心」を満たしてくれる仕事であり、
実に「やりがいのある仕事」だったわけです。

当時私が調査に関わった消費財分野は、日用品・雑貨、食品、飲料、
化粧品、タバコ、酒といった多岐にわたるもので、残念ながら、家電や
自動車といった耐久消費財は調査する機会がありませんでした。

それでも、後に転職したシンクタンク、広告会社において、上記のような
分野の知識は私の強みとして大いに活用できたのでした。


稲尾さんのお話、また私の体験を元に私が伝えたいメッセージは
次のようなことです。


「やりがいのある仕事」を探そうとするのは結構ですが、
必ずしも最初から「やりがい」を感じられる仕事をやれるとは限らないのが現実。

どんな仕事であれ、稲尾さんのように視点を変えれば、自分を磨く機会になりうる
ことを考えれば、「やりがい」は、仕事の中から自分で見出すものです。

傍目からは、きつい仕事、単純な仕事、つまらない仕事に見えるけれども、
どんな仕事だって、極めようと思えばいくらでも工夫しがいが
あるんじゃないでしょうか。

いつでもどこでも、いくらでも自分を高める機会はあると思います。

*稲尾さんの話は、日経アソシエ(2006.04.04)の記事を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 16:12 | コメント (0) | トラックバック

マイスペースの入り込むスペースはあるかなあ?

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の米国最大手、

「マイスペース」

がついに日本に進出しますね。
(日本経済産業新聞、2006/04/06)


会員数は6000万人超!
日本の最大手mixiの会員数が「345万人」ですから、
マイスペースの規模はケタが違う!

ソフトの日本語化などのローカリゼーションはこれからなので、
サービスリリースは今年末を予定。
まあ、ソフト開発の納期は後ろにずれるのが常識ですので、
実際には来年早々サービス開始ってところでしょうか。


しかし、日本では、mixi、greeの独立系大手以外に、
Yahoo、楽天もSNS市場に参入済みです。

もうすでに役者は出揃ってしまってるという感じがします。
ちょっともう遅いんじゃない?という印象です。


果たしてマイスペースが日本のSNS市場に入り込む
「スペース」は残されているでしょうかねぇ・・・

マイスペースの進出のニュースを聞いて、
数年前、当初の下馬評通り見事に日本市場進出に失敗した、
オンラインオークションの「eBay」を思い出してしまいました。

グローバルなネットの世界とはいえ、日本は日本語の壁で
外界からほぼ閉じたネットワークです。

英語、あるいは他の外国語でも同じですが、
あちらで開発されたサービスが自然に日本にまで波及して、
かつ、自己増殖してくれることはめったにありません。

日本市場の特殊性をことさら強調すべきではないと思いますが、
世界最大規模であっても、日本市場で成功するのは簡単ではない。


人が人を呼んで、倍倍ゲームで規模が拡大し自己増殖を始める
「ネットワーク効果」が発動する大きさを「クリティカルマス」
と呼びますが、既に厳しい競争が始まっているSNS市場で、
意識的に仕掛けていってクリティカルマスまで到達するには、
莫大な金と時間が必要です。


「eBay」もそのあたりの読みが非常に甘かったようです。

「マイスペース」も同じ轍を踏みそうな気がしますね。


実は、昨年12月には、韓国最大手のSNS「サイワールド」が
日本でのサービスを開始しています。

しかし、ほとんど話題にも上りません・・・
まだなにもマーケティングやってないでしょうかね。

仮に大規模な利用者増加キャンペーンをやったとしても、
費用対効果は低いでしょう。

SNSのユーザーの一人として考えても、
もうこれ以上新しいSNSへの参加は止めとこうと思いますし。

友人・知人の動向はやはり気になるので、
毎日のように主なSNSにはアクセスしますが、
あちこちのSNSを渡り歩くほど暇じゃないですから。
(というか、はまると大変!!)

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

ローボールに気をつけろ!

ちょっと前の日経新聞に掲載されていた
マンション販売についての実例です。

高野道代さん(65歳)は、チラシに「デザイナーズマンション」
と謳われていた東京練馬区のワンルームマンション(中古物件)
を約500万円で購入しました。

築年数は20年を超えていたけれど、床や壁は大理石風の造り、
自宅から100メートルと近いことも気に入ったのです。

建物の壁にはヒビが入り、屋上に上がるハシゴなど至る所に
サビを見つけたけれど、仲介業者に聞くと、

「修繕積立金は、すでに1000万円あります」

という返事。

そこで、高野さんがほぼ購入を決めかけたところで、
業者は、「修繕積立金の額は、実は100万円台です」
と訂正してきました。

でも、高野さんは「なんとかなるだろう」と
購入に踏み切ったのが「後の祭り」でした。


実際、当マンションのオーナーになってみると、
あまりにもひどい実態に直面します。

清掃ひとつとっても手抜きされますし、
マンション組合の総会も18年間にわたって一度も開催されて
いなかったのでした。管理費の使途も不明。

要するに、所有者の無関心を逆手にとった

「管理会社にいいようにされた物件」

だったということです。


さて、最初に「修繕積立金は1000万円」と応えた仲介業者
ですが、意図的に嘘をついたことがおわかりでしょうか。

これは、販売テクニックとしては常套手段のひとつ、

「ローボールテクニック」

です。

最初に相手がとりやすい低い球(有利な条件)を投げておいて、
その気にさせた後で、その有利な条件を不利なものに変更する。
まあ、文書に残してあれば詐欺罪成立しちゃいます。

しかし、人間心理とは不思議なもので、
いったん決断してしまうと、その取引を打ち切ることよりも、
物事を都合よく解釈して自分を納得させてしまいがち。

高野さんのように、

「なんとかなるだろう」

と思っちゃうわけです。


販売の現場では、
こうした顧客心理のモロさを突いた様々なテクニックが
日々実践されていることがわかりますよね。

他にもいろんな販売テクニックがありまして、
知っておくと騙されずにすむんですけれど、

まずは

ローボールに気をつけろ!

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (3) | トラックバック

「甘えてくださいね!」


最近人気の癒し系サービス、例えば、
マッサージ、リフレクソロジー、アロマセラピーやメイドカフェ!
などの魅力は、ある意味、

「相手に身を委ねることにある」

と思いませんか。

体も心も無防備にして、「おまかせするわ!お願い」
ということです。


そう考えると、癒し系サービスは、要するに

「堂々と甘えられる」

というベネフィットを提供しているわけです。

世の中の変化があまりに早くて、毎日追い立てられるようだし、
人との関わりもずいぶん希薄になってきてる昨今、
「心の平安」を少しでも取り戻すために、

「気を許して甘えられる」相手と時間を持ちたい

というのは当然のことでしょう。


ただ、この「甘えられる」というキーワードは、
癒し系サービスに限定して考えるのではなく、
商品・サービス全般に拡張してもいいんじゃないでしょうか。


具体的には、これからは、

「消費者ニーズ」

ではなくて、

「消費者甘え」

と呼ぶようにしましょう!(⌒o⌒;

すると、ずいぶん新商品・サービスのアイディアが
ずいぶん柔軟に出やすくなるようにと思います。

「消費者ニーズ」というのは、どうも固い表現だし、
わかりにくい。思考が広がらないです。


でも、

“「消費者甘え」を満たしてあげる商品・サービスって
 なんだろうね?”

というテーマのブレストなら、
なんだか楽しそうじゃないですか?


「甘えたい」という言葉の裏にある真の欲求は、
「気持ちよくさせて」「楽させて」ということです。

欠乏の充足という側面の強い「消費者ニーズ」は、
高い生活水準を達成した日本ではそうそうありませんよね。

でも、常に「快」「楽」を追求したいのがヒト。
その欲求に限度はありません。

ありがたいことに、精神科医の和田秀樹さんが
おっしゃってますが、相手の心情に配慮する日本人は、
相手の甘えを満たしてあげることが得意です。


消費者(顧客)に対して、もっと

「甘えてくださいね!」

と言える商品やサービスのネタはいくらでもあります。

ただ、社会・企業倫理や地球環境への配慮は
忘れずにお願いしますね。

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (2) | トラックバック

匂いのマーケティング

最近、うちのカミさんから「臭い」と言われてしまいました。

「オヤジ臭」があると言うのです。(i_i)

私は、自分のことをオヤジだとはちっとも思ってませんから、
たとえ身内からでも、こんなことを言われるのはショックです。


でも、そんな私を救ってくれそうなお菓子がありました。

カネボウフーズの機能性菓子、「フワリンカ」です。


このお菓子(ガム、キャンディ)は食べると、
カラダの内側からほのかな香(ローズやシトラスなど)が
漂うらしいんですね。

試してみた方いらっしゃいますか。

デザインとかキャッチコピーを見ると、
女性がメインターゲットのようですが、ぜひ中年男性が
買いやすいデザインも欲しいです。


しかし、最近は「匂い」がブームですね。
アロマテラピーの人気も相変わらず持続しているようですし。

この背景には、
5感を刺激する経験価値マーケティングの効果が強調されている
こともあるんでしょう。


事務用品でも、スティックのり「ピットのり」に香りを
練りこんだ製品が登場しますね。

トンボ鉛筆から、

「ピットハイパワーTフレッシュ(キウイ・ミントの香り)」
「ピットハイパワーTリラックス(クラリセージの香り)」

の2種類。発売日は3月3日です。

これも女性ターゲットです。
会社でスティックのりを使用しているのは、
女性が半数を占めるそうですから、
匂いを付加することによってメインユーザーの女性を
心地よくさせ、リピート率を高めるのが狙いでしょう。


そういえば、JCBの女性専用カード「LINDA」にも
香り付きカード(限定2万枚)が登場してました。

さて、匂いを感じる私たちの鼻、つまり嗅覚器は、
目や耳といった他の感覚器と違う仕組みなんだそうです。

簡単に言うと、嗅覚器だけは脳と直接つながっているんです。

このため、理性的な判断をする前に感情を引き起こす脳
(大脳辺縁系)を刺激して、考えることを後回しにして
ただちに行動をしてしまうようになっているのです。

ヒトを含め、動物は、まず「匂い」によって食物が
食べられるものかどうかを判断してますよね。

もし判断を誤って、毒のある食物を食べてしまったら
命に関わります。だから、嗅覚は、
無意識に行動に影響を与えてしまう仕組みになってるんでしょう。

また、異性を呼び寄せたり、発情を刺激するフェロモンも
主に嗅覚に作用するもので、本能的な働きですね。


性能が優れてるとか、安いとか合理的・理性的な判断じゃなくて、
とにかくこの商品が「好き」と言わせたいマーケターなら、
嗅覚に訴えるのは、かなり有効な手段でしょう。

まもなく、パソコンのUSB対応の香り発生装置も実用化
されるようですし、「匂い」のマーケティングも
ますます盛んになるんじゃないでしょうか。


とりあえず、私は「フワリンカ」を買いに行きます。(笑)

投稿者 松尾 順 : 12:02 | コメント (0) | トラックバック

「いい汚れ」と「悪い汚れ」

小中学生の頃に学校で使ってた学習机、
どんなだったか覚えてますか。

思い出すだけでなんとなくなつかしくなりませんか。
天板にいろいろ落書きしたり、彫刻刀で傷をつけたり
しましたよね。


そんな使い古しの学習机の天板から作られた
フォトフレーム(写真立て)があります。

セレクトショップ‘D&Department’の

「re-school PHOTO FRAME」

という商品です。

このフォトフレーム、当然ながら引っかき傷や、
テープをはがした跡、落書きなどがあちこち残っています。

新品なら不良品扱いです。

しかし、廃材として処分される運命だった学習机から再生された
「フォトフレーム」の傷は、価値を下げるどころか、
むしろ新たな価値を付加しています。

それは、自分の子供の頃を思い出させてくれる
ノスタルジーあるれる情緒的な価値であり、また
同じものが2つとないオンリーワンの価値なんですね。


D&Departmentの経営者、ナガオカケンメイ氏は、

“汚れの中には「いい汚れ」と「悪い汚れ」があり、
 いい汚れには「汚れていてありがとう」と
 感謝されるくらいの需要がある”

と言っています。(日経デザイン、March 2006)


これは、新品にわざわざ穴を空けたり、石と一緒に洗濯して
傷をつけるストーンウオッシュ加工のジーンズに価値を
感じる消費者心理が生み出す需要と同じですね。


高齢化が進む日本では、自分自身については

「アンチエイジング」(抗老化)

の商品がもてはやされているのに、

身の回りのものには、むしろ

「エイジング・ビューティ」(経年美)

がありがたがられるのは不思議な感じですね。

なぜなんででしょうか・・・?

投稿者 松尾 順 : 11:30 | コメント (0) | トラックバック

詐欺免疫の作り方

先日、フィッシング詐欺で逮捕された男性の報道がありました。
フィッシング詐欺が摘発されたのは初めてだったんですね。

「フィッシング」とは、メールを送り付け、
偽造したホームページ(HP)に誘導、ID、パスワードなどの
個人情報を盗み取ることです。

逮捕された男性は、ネットオークションの参加者にヤフーを装って
メールを送り、ヤフーのHPに似せた偽HPで
ヤフーオークションのID、パスワードを入力させて
不正入手したようです。


興味深いのは、この男性は、偽メールを約5500件送信し、
結果として約500件のID、パスワードを入手していた点です。

これは、いわゆる「回答率」では9%で、ダイレクトマーケター
にとっては夢のような高いレスポンスなんです!

フィッシングではありませんが、いわゆる典型的なスパムメールで、
アダルトサイトへの入会を促すやつがありますね。
どこかで読んだ話では、あれも10%近くの反応があったと思います。

それで、1スパム(数万~数十万通の迷惑メール一斉送信)
当りの売上は、500万円とかあるらしいです。

メールを大量に送るだけ、楽してこれだけ儲かるのなら、
迷惑メールが一向に減らないはずですよね。


さて、オンラインでも、次々と詐欺の新手が登場するとはいえ、
そうした情報がネットによって伝達されやすくなっています。

それにも関わらず、フィッシング詐欺で言えば9%もの人が
だまされてしまうのは驚きです。

「誰かがこんな風にだまされた」とかという話が流れていても、
普段は他人事のように聞き流してしまって、腑に落ちていない。

つまり、詐欺に対する免疫ができていないってことでしょう。

ちなみに、私は若くてもっとウブだったころに、
いろいろとリアルな場面でだまされました。(⌒o⌒;
幸い、被害は小額でした・・・

ただ、おかげで強力な「詐欺免疫」ができていて、
今はまずだまされることがありません。


皆さんの中にも、オンラインの巧妙な詐欺でうっかり
騙されてしまったという方がいらっしゃるかもしれませんが、
被害がたいしたことがなかったのなら、
いい詐欺免疫ができたとお考えになったらいかがでしょうか。


ただ、被害にあわないで免疫を作る方法はないのでしょうか。
つまり、オンライン、オフラインに関わらず、
相手の言うことを簡単に信じてしまわない方法ということです。

もちろん、「人を見たら泥棒と思え」じゃないですよ。(笑)


こうしたことを研究した心理学者のMcGuireさんの考えを
ご紹介すると、


・日ごろから自分の信念や態度を自明のものとせず、
 一度疑問を持ってみる・・・端的には「常識を疑ってみる」

・人の話に対して、一度疑問を投げかけたり他者と意見を
 交換して、多様な考え方があることを理解しておく。


のが免疫づくりになるのだそうです。

大事なのは、相手の言うことに疑問を持つだけじゃなくて、
自分自身が今持っている考えや信念、価値観など客観的に
考えてみることですね。

盲目的に作り上げられた自分の信念や態度は、
相手が巧妙な手口を使ってくると簡単に覆されてしまうからです。

投稿者 松尾 順 : 13:15 | コメント (0) | トラックバック

一般人の感覚

東横インの西田社長、
今週月曜日の記者会見では、先日の軽率な態度から一転して、
しおらしい態度に終始しました。

今頃になって、ようやく広報コンサルタントの指導でも
受けたんでしょうか。(笑)

ただ、最初の態度があれでは、
今回のは単なるポーズにすぎないとしか思えない。
「初動」を間違うと、
取り返しがつかないこともあるんですね。


西田氏は、「内観」を実践していたようです。

「内観」は、素直な心で自らと対話し、
自分を客観的に見れるようになることが狙いです。

ところが、西田氏自身によると、

「自分は上等な人間だ」

と自分を自分で祭り上げていたようです。

これは「内観」ではありません。
ワンマン社長の単なる思い上がりです。

なぜ、ここまで自分を見失うことになるのか、
どうしても理解できないですよね。


ところで、再建の神様で、やはりワンマン社長の日本電産、
永守重信氏は、ライブドア事件に関連して、
こんなコメントをしています。

「一般の人の感覚というのは経営の上で参考になる。
 当社も過去に様々な失敗をしてきたが、振り返ると
 常識に立って判断していれば避けられた問題も多い。
 妻や妻の友人の意見にはっとさせられることも多い」

このコメントを見る限り、永守社長もかなり一般人の
感覚からずれてしまっているようです。


どうやら、

「自分は一般人とは違う、特別な人間だ」

という思い込みが感覚を鈍らせてしまうのでしょう。

そして、こうした思い込みを生み出しているのは
おそらく、これまでの成功体験ということでしょうね。


この一般人の感覚を失ってしまうという傾向は、
個人だけでなく、成功した企業全体が陥りがちな罠でもあります。

ただ、この傾向を避けようと思っても、
当事者にはなかなか難しいことです。

平凡ながら最もよい対応策は、
苦言を呈してくれるよき友、妻(恐妻?)、夫を
持つことでしょうか。(^-^)

投稿者 松尾 順 : 09:37 | コメント (0) | トラックバック

じらして欲しい

「いいこと教えてあげようか?」

「え、なになに?」

「ひ・み・つ」

「なんだよ、ずるいよ、教えてよ・・・」


こんな微笑ましい会話、私は久しくしたことがありませんが、
じらされるとよけい知りたくなるものですよね。

かといって、簡単に教えられてもつまらない。

ちょっとは「じらして欲しい」という気持ちも
無意識に持ってるんじゃないでしょうか。


こんな人間心理を突くマーケティング・コミュニケーションが、
「ティーザー広告」(じらし広告)です。

この「ティーザー広告」、国内の具体事例が表に出ることは
それほど多くありません。

でも、先日の日経産業新聞にはかなり詳しく紹介されていました。
簡単にご紹介しますね。


東京三菱自動車販売 高井戸店では、
約1年間かけて潜在顧客をじらしにじらしました。

新型車アウトランダーの発売を三菱自動車が公表したのは、
昨年の1月28日。

ところが、高井戸店の全国顧客2600人には、
公表日前のお正月に「こんな新型車が出るみたいですよ」という
「ほのめかし」のDMを送りました。

まだ誰も知らない時点で、いち早く新車情報をばらしたんです。
基本的にルール違反ですが、こうした秘密情報の共有は、
お客さんとの親密感を高めますね。


それから発売開始の昨年10月まで、DMを合計5回送付しました。

「どうもアルミルーフを使っているらしい」

「オーディオがすごいらしい」

手の内をちょっとだけ見せることで
お客さんの期待感をあおりました。

アウトランダーの外観が発表されてからも、
写真には頼らず、言葉によるウワサ情報風の文面を
展開しました。

発売日直前のDMには購入アンケートを実施。

「アウトランダーに興味ありますか?」
「試乗したいですか?」
「買いたいですか?」

こんな直裁なアンケートには約50人が反応。
うち7、8人が購入に至ったそうです。

結果的に、同店では昨年末までに目標を上回る62台を販売し、
1店舗当たりでは全国トップとなりました。

既存客の買い替えが売上げのベースにはあるでしょうけど、
ティザー広告(DM)が明確な成果につながった身近な成功事例
として特筆に値すると思います。


ポストモダンマーケティング(ダイヤモンド社)の著者、
スティーブン・ブラウン氏は、次のようなことを
述べています。

“企業は、顧客を追いかけるのを止めて、
 その代わりに顧客に追いかけられるようにすべきだと
 主張します。

 顧客にペコペコ追従するよりも、顧客を困らせるように
 (あまりにも困って嬉しいくらいに)するべきだと
 断定します。

 顧客志向がどこにでも存在しているユビキタス状態に
 おいては、顧客から何かを奪うことが、競合優位に
 つながるという意見なのです”

顧客志向は大切だとは思いますが、
ただ単にお客さんの‘表面的な’望みの言いなりになるべきでは
ないということをブラウン氏は言いたいのでしょう。


「たまにはちょっといじわるして頂戴!」という
複雑な顧客心理を汲み取ることも必要ですよね。

投稿者 松尾 順 : 12:15 | コメント (0) | トラックバック

「もてないパターン」を回避する

「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏(東京大学名誉教授)は、
本来は、新しいアイディアを生み出す「創造の方法」を
追求してきました。

失敗学はその過程でうまれてきた副産物だったようです。

さて、畑村氏によれば、創造であれ、失敗であれ、
何かを考えようとするなら、まずモノゴトをしっかりと
理解すべきだそうです。つまり「本質」をつかむということです。


畑村氏は、本質をつかむための発想法をいくつか挙げていますが、
私が、これは使えるなと思ったのが「逆演算の思考」です。

企画、設計、計画などは、通常「順演算」で進められます。
まず目標を決めて、それを分析し、一つひとつ
やらなければいけない課題に落とし込んでいきます。

つまり、「順演算」とは、定められた定式やシナリオどおりに
ものを考えて答えを出す思考法です。

ただ、順演算だけの思考法だと必ず「想定漏れ」が発生します。
そして、この想定漏れが、後々事故や失敗の原因に
なるのだそうです。

そこで、「逆演算」の思考を組み合わせます。

「逆演算」は、最初に起こりうる事故や失敗を想定して、
そこからだんだんとさかのぼり、最後に設計、企画の中に
生かすという考え方です。


実際、これはWebサイト設計などに応用できます。

Webサイト設計では、例えば

「目的のコンテンツに最短で到達できる使いやすいサイト」

といった目標を置いて設計するのは常識です。

ですが、さらに逆演算の思考法で、

「サイト訪問者が、もし迷ってしまったら?」
「注文途中で停電してしまったら?」

といった、サイトで起こりうる問題を最初に検討し、
そうした問題を回避するところまで踏み込めば、
さらに完成度の高いWebサイトが設計できるでしょうね。


いかがでしょう。
順演算だけでなく、逆演算の思考を組み合わせることの
重要性がご理解いただけたでしょうか。

実は、上記の思考法は、なかなか説明が難しいなあと
思っていたんですが、とてもわかりやすい説明を発見しました。

ワイキューブという人材コンサルティング会社の社長、
安田佳生氏のメルマガ「さるならわかる経営の真実」にあったのです。

ここで当該箇所を引用させていただきます。


“女性にモテたいと思う男性は多く、みな一様に
「どうすれば女性にモテるか」ということを一生懸命考えます。

 しかし、パターンが多く、誰にでも当てはまるわけではない
「モテるパターン」を考えるよりも、ある程度共通している
「モテないパターン」を考えて、その「モテないパターン」
 を回避するほうが簡単なのです。

 「ケチ」「下品」「フケツ」などが代表的な要素として
 あげられそうです。”


まさに、これこそ逆演算思考ですね。(^-^)

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (0) | トラックバック

見なけりゃ欲しくならなかったのに!

富山の置き薬方式お菓子販売と言えば・・・?

そうです、「オフィスグリコ」!

事務所の片隅に、グリコのお菓子が入った小さなボックスを
置いてもらいます。お菓子は100円均一。
社員が自分で好きなお菓子を取り、カエルの口を模した投入口に
代金を入れるセルフサービス式です。

サービスを開始した1999年当初は、「成功するかなあ・・・」
と思ってましたが、2006年3月期は、前年比6割増しの18億円
の売り上げを見込んでいます。
ボックス設置数は6万6千個。

1個100円のお菓子であることを考えると、
当事業は大成功と言えそうですね。

さて、お菓子が嫌いな人ってまずいないと思うんですが、
大人になるとそれほど食べなくなりますよね。

もちろん、毎日お菓子は欠かしたことがない!
という人もいるでしょうけど。

ともあれ、お菓子を食べないと禁断症状が起きるような人は
少数派でしょう。
要するに、大人にとって、お菓子は、なければ無いで困らないもの。
コンビニに行っても、弁当・パンのコーナーには立ち寄っても
お菓子のコーナーは、だいたい素通りしますよね・・・

でもね、小さいころからお菓子を食べてきて、おいしかった
という「快」の感情は強く刻み込まれているわけです。

で、夕方頃とか、仕事の疲れを感じた時、ふとオフィスグリコ
のボックスが目に入ると、たちまち、「快」の感情が
よみがえり、食欲に結びついてしまうのです。

「そういえば、お腹がすいていたんだな」

こうやって毎日、ついついおオフィスグリコに手を伸ばして
しまう・・・


お菓子のような商品は、本能的欲求を刺激する外的誘因に
なり得るわけですから、消費者の目に触れさせたら
「勝ち」なんですね。

「オフィスグリコ」は、商品の補充業務が労働集約的ですし、
利益率はあまり高くないでしょうけど、
ビジネスシーンでのお菓子の潜在ニーズにうまく応えた事業
であったわけです。

しかし、オフィスグリコのおかげで、
ボックスの置いてある事務所の社員の平均体重は
確実に増加しているんじゃないでしょうか。(笑)

「ボックスを見るとつい欲しくなるんだよね、
見なきゃ食べなくてすむのなあ」

と感じる方が多いでしょう。
(かといって、決して撤去は求めないと思います・・・)


ちなみに、冒頭で書いたように、お金は社員が自分で支払って
もらうのですが、代金の回収率はほぼ100%だそうです。
さすがに100円を誤魔化すほど、せこい人はあまりいなかった。


また、子供向けビスケット菓子「ビスコ」がよく売れるそうです。

コンビニなどではあまり置いていないこともあるのでしょうけど、
セルフサービス式だからこそ売れるんでしょうね。

ビスコは、オトナが食べてもやはりとてもおいしい!

でもあの幼児の絵の描かれたパッケージを持って、
お店のレジに並ぶのは恥ずかしいですから。

最近は大人を意識した、小麦胚芽入り「白ビスコ」も発売
されていますけど、せっかくですから、

「オトナのビスコ」

を発売して欲しいです。
もちろん、パッケージデザインはさわやかな青年の笑顔で。

投稿者 松尾 順 : 13:02 | コメント (1) | トラックバック

思い出す手がかりが弱くなっちゃった

今日は休日出勤。

電車の中で、着物姿の女性をちらほら見かけました。
そうそう、成人の日でした。

おじさんの私にははなから関係のない行事ですが、
以前に比べると、ずいぶん華やかな感じが薄れたような印象を
受けます。

たぶんこの印象は、連休を増やす目的で2000年に施行された
「ハッピーマンデー法」のせいじゃないかと思うのです。

同法施行前は、成人の日と言えば1月15日。
開催日が明確でしたから、近づくにつれて社会全体で
なんとなくの高揚感があったんじゃないかと思います。

でも今は、成人式は、1月の第2月曜日と決められているので、

「えっと、今年の成人式はいつだっけ・・・?」

なんて感じになっちゃって、だんだん関心が薄れていった。

体育の日もそうでしょう。10月10日。
実に思い出しやすかったですよね。

でも、今は、えっと・・・やっぱり10月の第二月曜日でしたっけ。
こんなんじゃ、盛り上がり感を作っていきづらいように思います。

連休が増えるのは結構ですが、
毎年の祝日の日付が流動的になったということは、
思い出す手がかりが弱くなったということですし、
それだけ関心も薄れていくといえるんじゃないでしょうか。
(単なる仮説ですけど)

投稿者 松尾 順 : 13:11 | コメント (0) | トラックバック

ダイエットの心理学

ダイエット中の方にとって年末年始は悩ましい時期ですね。

せっかくの「ハレ」の時期です。
朝からガンガン飲み食いし、一日中ごろごろ‘トド’していても
許される唯一の機会なのに、ダイエット中だからといって
禁欲的な生活を送るのはとてもつらい。

おいしい料理を目の前にして、
カロリー制限をするのはむなしすぎます・・・

「正月くらいはダイエットお休みでいいや」

と、長期ダイエット中の私もバクバクいきました。(笑)
おかげで体重計は乗るのも見るのも怖い、というのが今です。


さて、いわゆるダイエット(減量)は、肥満を解消して理想体重
を維持するのが目的ですよね。リバウンドしては意味がない。

では、最も効果的なダイエットプログラムはどんなものでしょう?

以前行われた、こんな実験をご紹介します。

肥満の人を対象に、6ヶ月のダイエットプログラムが
提供されました。プログラムは3種類あります。

1 食事(カロリー制限)と運動習慣を指導される「行動変容法」
2 食欲抑止薬を服用する「薬物療法」
3 「行動変容法」と「薬物療法」の組み合わせ

各プログラムに参加した人の体重減少を6ヵ月後、および
1年後に測定したところ興味深い結果になりました。

実験が終了した6ヵ月後に最も減量できたのは
3の「行動変容と薬物療法の組み合わせ」のプログラム、そして
2の「薬物療法のみ」のプログラムです。

ところが、1年目に再測定したら、
最も減量していたのは、1の「行動変容法」の人たちでした。

薬物に頼っていた人たちも、当初の体重より減量した状態を
維持してはいましたが、体重の減少量の大きさでは、
行動変容法の人たちが逆転してしまったのです。

この結果について心理学者は、

行動変容法をやった人々は、減量は自分の努力の結果である、
やればできるという自信・確信(「自己効力感」と言います)と
自分の行動を制御できるという「自己制御感」が生じたために、
1年後も減量を続けることができた、

と解釈しています。

一方、薬物に頼ったプログラムの人たちは、減量できたのは
自分の努力の結果ではないことをわかっていますから、
ダイエットを続ける自信も、うまく自分の行動を制御できるという
感覚も持てなかったんですね。

そして、ずるずると以前のライフスタイルに戻ってしまった。

要するに、ダイエットに王道なし、ということです!

自分で努力して、食事制限と運動をするのが
効果的なダイエット法なんです。

ちょっと当然すぎてがっかりしますが・・・(^^;;

あと、努力が続けられない意思が弱い私はどうしてくれるんだ、
という声が聞こえてくるようです。


世の中には、飲むだけとか、貼るだけ、ブルブル振動させるだけ、
ゴロンと横になって施術してもらうだけ、なんて売り文句の
お手軽ダイエット法が氾濫していますよね。

どれもそれなりに効果があるのかも知れませんが、
上記実験の知見を踏まえると、自分の努力が入らないので、
止めたらもとに戻ってしまうのは自明の理ですね。

つまり、お手軽であればあるほど、そのダイエット法を
利用し続けなければならないということです。

ダイエットビジネスが儲かるのは、ここに秘密があったんですね。


(出所)ヒルガードの心理学 第14版、ブレーン出版

投稿者 松尾 順 : 12:19 | コメント (2) | トラックバック

照れ笑いのメッセージ

先日、事務所に若い男性2人連れがやってきました。

「こんにちは、雑貨屋のウエンディと申します。
 雑貨の訪問販売で、このあたりを回っているんですが。
 いかがですかあ? えへっ・・・(照れ笑い)」

訪問販売で「雑貨」を売るのは珍しいのですが、
年に1、2回はこうした人たちがやってきます。

おそらく、販促品か何かの在庫処分が目的でしょうね。
マルチドライバーセットとか、ラジオ付非常用ライトとか、
一見便利そうなもの。あれこれつけて千円、というのが
お決まりのパターン。

実は、私は以前1回だけ、つい買ってしまったことがあります。
販売員のお兄さんの説明のノリが良く、
うまく乗せられてしまいました。

その時、何を買ったのかもはや覚えていませんが、
どんなモノであったにせよ、役に立っていないことは確かです。
(笑)


さて、今回の2人。
スーツを着ていたものの、学生アルバイトのような印象。

彼らのセールストークの語尾の

「いかがですかあ?えへっ・・・」

という照れ笑いがポイントでした。

言葉で表現しづらいのですが、この「えへっ」は明確な
メッセージを発信していました。

この照れ笑いの表情を見た瞬間、私は、
彼らに次のような心情があるのが読めてしまったのです。

(すいません、仕事の邪魔しちゃって。
ろくでもないものを売りに来ました。
私たちも、仕事の命令で仕方なくこうやって回ってるのです。
買ってくれなくてもいいんですよ・・・)

ですので、私も間髪入れずに、にっこり笑って返しました。

「いえ、結構ですよ!」

彼らもほっとした表情で、

「あ、そうですか、失礼しました!」

とあっさり引き下がりました。

彼らと私の心が通じ合った瞬間でした。(笑)

売り手は売る気がなく、買い手も買う気がない。
お互いにそんな心を見透かしつつ、
トラブルに発展しないよう、穏便な社交的会話を行った。


彼らが帰った後、
私は、ノンバーバル、つまり言葉以外の態度や表情、
といったものが持つコミュニケーション力は
すごいなと思ったものでした。

相手の気持ちを言葉や非言語など、あらゆるものを
手がかりに推量しようとするのが「心の理論」と
呼ばれるものです。

ただ、「心の理論」といってもとっつきにくいので、
私は、あえて超能力、第六感と誤解されてしまうことを
承知の上で、「マインドリーディング」(心を読む能力)
と呼ぶことにしています。

上記のやる気のない販売員との会話でもわかるように、
私たちは小さいころから他人との交流を通じて相手の
気持ちを読む力を高めていきます。

人の心が的確に読めるようになればなるほど、
社会生活も円滑になるからですね。
(たまに、大人になってもこの能力のない、
 天上天下唯我独尊の人もいますけどね)

さて、この先日の出来事のおかげで、
「マインドリーディング」、つまり相手の心を的確に読む力を
高めるための理論や方法論をきちんと体系化することは
やはり皆さん、特にマーケターの方々に有益だという思いを
強くしました。

今年は、よりいっそう、「マインドリーディング」に
力を注いでいきたいと思っています。

投稿者 松尾 順 : 08:03 | コメント (0) | トラックバック

ワガママな3人の王様たち

人の心理を的確に読む、つまり「マインドリーディング」
するためにぜひ知っておきたいことに、

「脳の3層構造」

があります。

この「脳の3層構造」とは、人の脳は次の3つの異なる性質を
持つ脳で構成されているというものです。

・爬虫類脳(脳幹)
・動物脳(大脳辺縁系)
・人間脳(大脳新皮質)

進化論の考え方では、まず、体を動かす神経が発達して、
生命を維持するための本能をつかさどる「爬虫類脳」ができ、
次に、その外側に感情・情動をつかさどる「動物脳」が、
さらにその外側に、理性や思考を司る「人間脳」が
発達していったとされています。

つまり、人は、

「爬虫類の心」「動物の心」「人の心」

の3つを同時に持っているのです。

爬虫類の心は、食欲や性欲などの本能的欲求の命ずるまま
行動することを求めます。

動物の心は、感情のまま、気分のまま行動したがります。

人間の心は、言語を駆使して思考した上で行動を起こす
冷静な心です。

人の社会では、爬虫類の心、動物の心のまま行動すると
大迷惑を引き起こします。

例えば、周囲を振り回す気分屋の人って、
おそらく動物の心が強いんでしょうね(笑)

そこで、人間の心が爬虫類、動物の心をなだめたり、
時に強引に押さえ込むことで、良識のある社会的行動を
維持しているわけです。

しかし、しばしば押さえ込まれた欲求が爆発して外に
出てしまうことがあります。それが、犯罪行為や
心理的な病気につながったりします。

今まで、マーケティングや経営の世界では、
人間脳が得意な合理的・論理的な判断、思考を重視してきました。

しかし、最近はこんな脳科学の研究の成果の影響もあって、
感情や情動、本能的な欲求がどのように消費者行動に
影響を与えているのかに注目が集まるようになっています。
 
そうでないと、人の行動の要因が的確に理解できないことが
はっきりしてきたからなんですね。

ですから、私たちは、人の心理を理解する出発点として、
人の頭の中にはワガママな3人の王様たちが住んでいるのだと
いうことを念頭に置く必要があります。

このワガママな3人の王様の領土はそれぞれ、
爬虫類脳、動物脳、人間脳であり、それぞれ自分の欲求のまま
振舞おうとするため、この3人は常に葛藤を起こしているのです。

この葛藤の結果として、様々な人間の行動が生まれているのです。


*「ワガママな3人の王様」のたとえは、脳の3層構造について
わかりやすい説明をしてくれている本から借りました。

ジュラシックコード(渡邊健一著、詳伝社)

これは、なかなか面白い本ですよ。

投稿者 松尾 順 : 11:53 | コメント (0) | トラックバック

面白いと人が寄ってくる

元ディズニーランドのキャストで、
現在は「香取感動マネジメント」というコンサルティング会社を
立ち上げてらっしゃる、香取貴信さんの昨日の話です。

香取さんの知り合いの会社(制作会社かなにからしい)では、

「俺たちはクリエティブなことをやっているんだから、
 電話の出方もクリエイティブにしよう!」

ということで、毎日枕詞を変えることにしたそうです。

例えば、私の会社名を使ってみると、

「はい、いつもニコニコ、シャープマインドです。」
「はい、真心のサービス、シャープマインドです。」
「はい、いつもおそばに、シャープマインドです。」

みたいに、社名の前につける一言を365日変えていく。

これは、やる社員の人たちも楽しいでしょうけど、
お客さんの方も面白がって、周囲の人に口コミするらしい
んですね。

それで、ぜんぜん知らない人が、この枕詞を聞くためだけに
電話してくるそうです。これはちょっと迷惑でしょうけど。

また、よっぽど暇なのか知りませんが、
この枕詞のウオッチャーみたいな人もいて、
用も無いのに毎日電話してくる。

そして、

「今日の枕詞は、X月X日の言葉に似てますね・・・」

とか指摘するらしい。

この会社では、自分たちが仕事を面白がるために
こんなことを始めたらしいんですが、実は、
この枕詞のおかげで、これまで3本も仕事が受注できたらしいです。

365日枕詞を変えるなんて、よく考えるとたいしたことじゃない
ですけど、面白いことはみんな好きだし、人が集まってくるし、
口コミしたくなる。

そんなことから、仕事につながることもあるんですね。

投稿者 松尾 順 : 06:18 | コメント (0) | トラックバック

頭痛か胃痛か


バンド仲間でもある阪本啓一さん( http://www.palmtr.com/ )
から、つい先日聞いたばかりの話です。

日本人はストレスがかかると胃が痛くなる。
一方、米国人は頭痛が起きるそうです。

そういえば、ハリウッド映画やTVドラマで、
あっちの人は、よく「アスピリンちょうだい!」って
言ってますよね。

仕事や人間関係など、ストレスの元を「ストレッサー」、
ストレッサーの結果として現れるものを「ストレス反応」
と呼びますが、同じようなストレスに対して、
日本人と米国人で身体的なストレス反応は異なるんですね。

でも、よく考えるとこれは変です。

インフルエンザのようなビールス性の病気の場合、
感染すれば全世界のだれでもほぼ同じ症状を示すのに、
ストレス反応の初期段階は、国によって異なるなんて。

興味深いのは、日本に長く住んでいる米国人は、
ストレスがかかると「胃」が痛くなるようになるらしいこと。
日本人が米国に住んだら、逆に頭痛がするようになるんでしょう。
(全員そうなるとは限らないでしょうけど)

私の勝手な推測ですが、ストレス反応は、

「このままの状態が続くとヤバイぞ」

というシグナルを自分、および周囲に伝える役目を
果たしていると考えられるわけです。

すると、各国の文化的背景の中で、最も効果的にそのシグナルを
伝える方法が選択されるようになる。

したがって、米国は頭痛文化、日本は胃痛文化と言えますが、
住んでいる場所に応じて、「ストレス反応」も適応してしまう
んでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 05:01 | コメント (0) | トラックバック

心のふれあいの対価

最近、ガソリン代や灯油が高騰してるおかげで、
家計が圧迫されていやですよね。

寒さも本格的になってきましたし。

我が家では、自動車のガソリンは、いつもセルフ式スタンドです。
自分で入れるのはたいして面倒でもないし、やっぱり安いほうがいい。

それで、ふと思い出したのですが、松戸のあるガソリンスタンドは
地域で最も高い店と言われていたそうです。

しかし、そこにはしっかり固定客がついていて、なじみにの
お客さんが、オーナーに旅行のおみやげを持ってきたりする。

そして、ガソリンを入れるついでに与太話をしていったそうです。

よく考えてみれば、個人で自動車に乗ってる場合、
安いガソリンスタンドに行ったところで節約できるのは
月々せいぜい数千円にもいかないでしょう。

そのくらいのお金は、気のいいスタンドオーナーとのふれあいの
対価としては、決して高くなかったのかもしれません。
(お客さんはそんなお金に換算するような意識を持っていたわけでは
ないでしょうけど)

いまそのオーナーは引退して悠々自適の生活を送っています。
しょっちゅうあちこちに旅行に行ってますが、オーナーの人懐こさ
であちこちに友人を増やしているようです。

投稿者 松尾 順 : 19:44 | コメント (0) | トラックバック

心は共鳴させるもの

ずいぶん前ですが、「フィリピンパブ」に行ったことがあります。

あまりに昔のことなので、誰に連れて行ってもらったのか、
場所がどこだったのか思い出せません・・・(遠い目)

ただ、はっきり覚えているのはショータイムの時間。

過激な内容ではなくて、フィリピン人の女性が、
きれいな衣装を着て踊るというだけのものだったんですが・・・

残念なことに、そのダンサーの女性は仏頂面のまま、
本当にいやそうに踊っていたんです。

「私は本当はこんなことしたくない、
 こうするしか生きていけないから、しぶしぶやってるだけなの」

という気持ちが120%伝わってきて、
悲しくなったことを覚えているんです。

ショータイムは、お客さんを楽しませるためのものですよね。
でも、逆に悲しくさせられてしまった。
だって、ダンサー本人が、悲しみの心を抱えていて、
ぜんぜんショーを楽しんでいなかったからです。

さて、ところ変わって高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン大阪」

40代の夫婦が、結婚記念日に宿泊予約を入れました。
さっそく、ホテル内の中国料理レストラン「香桃(シャンタオ)」
の従業員たちは、有志を募りアイディアを出し合いました。

当日、夫婦は食事後、1階上の教会に案内されました。
教会の中では、従業員が扮した司祭や聖歌隊など総勢40名以上
が歌うゴスペルが夫婦を包んだのです。

この夫婦が、深い感動に打ち震えたのは間違いありません。

そして、従業員たちも、このような演出を楽しみながら準備し、
心からの祝福を夫婦に捧げたのではないでしょうか。

だからこそ、夫婦に大きな感動を与えることができたのでしょう。

相手の心は、動かそうとするものではないと思います。

まず、自分が心から信じる、楽しむ、愛する、捧げる
そうしたことで自分の心が先に動く。

そして、その自分の心の動きに、お客さんが共鳴するんです。
心は動かすものではなくて、「共鳴させるもの」だと思います。

投稿者 松尾 順 : 11:50 | コメント (3) | トラックバック

顔見なきゃ、安心できない

一度も会ったことのない人と、メールや電話だけで仕事するのは、
なんだか胸のあたりがもやもやしませんか?

先日、神戸在住のWEBデザイナーの方と初めて仕事をする機会が
ありました。
それまで、お会いしたことのない、名前さえ知らなかった方です。

最初のうち、メールだけでやり取りしている間は、
彼との心理的距離がすごく遠く感じましたね。

その後、電話やり取りして彼の肉声を聞くようになると、
少し心理的距離が短くなり、彼が上京した折に直接会ったら、
いっきょにその距離が短くなったのを感じました。

胸のもやもや感が、直接会うことでようやく払拭されたんです。

結局、デザイナーの彼とは1度しか直接お会いしてませんが、
メールなり電話でやりとりしているときも、無意識に相手の顔を
浮かべていることに気づきます。

メールの人格、電話の人格、本人(に会った時)の人格は
それぞれ微妙に違いますよね。

そもそも、情報の質がまるで違います。

・メールだと、基本的に言語情報だけ。

・電話だと、言語情報に加えて、音声情報から得られる相手の感情
 を読む手がかりがある。

・直接会うと、言語情報、音声情報に加えて、顔の表情やしぐさ、
 着ている衣服など、感情や性格、価値観までも知ることのできる
 豊富な情報が入手できます。

特に、顔の表情や体の動きは、無意識に出てくることが多く、
コントロールが難しいのです。端的に言えば、うそをつけない。
ごまかせない。

また、人はそうした表情や体の動きから、相手の真意を敏感に
感じ取る能力を持っています。例えば、私たちは、
つくり笑いと本当の笑顔の違いがすぐにわかりますよね。

だから、本当の意味で相手を信頼し、安心して付き合うためには
直接会う必要があると私たちは(意識的、あるいは無意識に)
考えているのです。

一度でも会えば(もちろん繰り返し会う方がさらに良いのですが)、
相手の真意が現れる顔の表情や体の動きのパターンを学習すること
ができるからなんです。

要するに「顔見なきゃ、安心できない」ということなんですね。

では、インターネット上で積極的に面識のない人たちと
つながりあい、コミュニケーションしあうという行動は
どう説明できるのか。

私も考えてみますが、どなたか教えてください。(^o^)


そうそう、今日の話は、

ハーバード大学の心理学の先生、スティーブン・ピンカー氏の著作、

「心の仕組み」(NHK出版)

という本にインスパイアされて書きました。

投稿者 松尾 順 : 10:59 | コメント (2) | トラックバック

JOY(楽しさ)という報酬

販売促進につきものなのが、「おまけ」。

専門用語では「インセンティブ」、つまり、
購入や試供品・資料請求、メルマガ登録などを促進するための
動機付けとなるオファー(プレゼント)です。

リピート購入を促したい場合は、ポイントシステムが定番ですね。

こうしたインセンティブは、要するに、

「何かあげますから、こちらの望む行動(購入、資料請求など)
 をしてくれませんか?」

という交換条件をお客様に提案しているわけです。

これは、お客様も企業の両者に取ってメリットのある結果に
つながるのであればなんら問題はないと思います。

ただ、プランナーとして私が留意しとかなきゃと思うのは、
ただ、「何かあげます」じゃ効果は低く、その仕掛けの中に
「面白さ」「楽しさ」の要素を付加する必要があるということです。

なぜなら、単なる交換条件になってしまうと、
そのインセンティブがどれだけ価値(特に金銭的価値)があるか
という判断をされてしまうため、
価値を感じないお客さんにとっては魅力に乏しいからです。

むしろ、インセンティブ自体に実質的な価値はなくても、
面白そう、楽しそうと思わせる仕掛けがあると、思わず
反応してしまうんじゃないでしょうか。

人は金銭に換算できるようなものでは必ずしも動かないし、
慣れが生じて反応が低下してしまいます。

こんな話はご存知でしょうか。

ユダヤ人が経営する商店に、いつも子供たちがやってきて、

「やーい、ユダヤ人!」

とはやし立てるのに業を煮やした主人は、

子供たちに、1回はやすたびに1ドルあげようと約束します。
もちろん、子供たちは喜んではやし立てました。

翌日、主人は金がないからとか言って、1回50セントに
値下げしました。さらにその翌日は25セントに。

子供たちは、そんな安いお金じゃやってられないと言って
はやし立てるのを止めたというのです。

逆にこんな心理学の実験もあります。

ゲーム的な面白さのある作業を
あるグループには金銭的報酬なしでやってもらい、
別のグループには金銭的報酬をあげました。

作業の合間に休み時間があったのですが、
報酬なしのグループは、休み時間もその作業を続けたのに、
報酬ありのグループは、休み時間になると、
すぐに作業を止めてしまったのです。

単にモノで釣ろうとするのでは、ダメなんですね。

阪本啓一氏( http://www.palmtr.com/ )も提唱する

「JOY」(喜び、楽しさ)

という、非金銭的な報酬も必要なんです。

投稿者 松尾 順 : 08:58 | コメント (3) | トラックバック

先が読めないからうれしい

金儲けが主目的でなくて、純粋に楽しみのためにギャンブルを
やっている時、100戦100勝、いつでもあなたが勝つとしたら
そのギャンブルは楽しいと思いますか?

おそらく、最初は勝ち続けるとうれしいでしょうけど、
そのうちうんざりして止めてしまうんじゃないでしょうか。

スポーツの試合なども同じですよね。
自分がプレーヤーであれ、観客であれ、どちらが勝つか負けるか
わからないから、ハラハラ・ドキドキの興奮が楽しいんですよね。

逆に、今の大相撲の朝青龍のように、ずば抜けて強い力士だと、
どの取り組みもほぼ彼が勝つだろうと思ってしまうので
なんだかつまらない・・・

以前のブログで、人は、安定した、変わらない部分を求める一方、
変わる部分、つまり不確実で予測できないことを期待している
のだと書きました。

これは、最近の脳科学では「偶有性」と呼ぶそうです。

「偶有性」についての詳細は、私の知っている限りでは、
脳科学者、茂木健一郎氏の本「脳」整理法(ちくま新書)が
わかりやすいので、この本をごらんいただくとして、

茂木氏は、

「偶有性、すなわち、半分は規則的で半分はランダム(不規則)
な状態が、脳にとってもっともうれしい体験だ」

と述べています。

個人差はあるでしょうけど、人はあえて結果の読めないリスク
を取ることに快感を感じるということが
脳科学レベルで検証されているわけです。

商品やサービスについても常に変わらぬ良さを維持しつつも、
お客さんの期待をいい意味で裏切る、
新たなことを仕掛けていくことが、お客様の愛顧を
得つづける秘訣であることは間違いありません。

ついでに言えば、人生だって、どう転ぶかわからないけれど
あえてやってみるという生き方が、おそらくもっとも楽しい
んじゃないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 13:36 | コメント (3) | トラックバック

いい気分

このメルマガを読んでいる今この瞬間、
あなたはどんな気分ですか?

普通? ウキウキ? 落ち込んでる?

「気分」って、変わりやすいものですよね。
ちょっとしたことで、良くなったり悪くなったりします。

気分は、生まれつきの性格などとの関係は弱く、
自分の身の回りの出来事や、今自分がいる環境によって
決まってくることが多い一時的な感情です。

さて、心理学研究でこんな実験が行われました。

ある教授が、大学の講義を2つの教室で行います。
講義内容はまったく同じです。

しかし、教室の環境を変えてありました。
ひとつは、ごく普通の殺風景な教室。

もうひとつは、床にはじゅうたん、壁には絵を掛けました。
観葉植物を黒板の隣に置きました。
つまり、教室の環境を心地よいものにしたのです。

そして講義の後で、学生たちに講義の評価を行ってもらいました。
すると、まったく同じ講義なのに、
心地よい教室の学生たちの評価が、
殺風景な教室の学生たちよりも良かったのです。

この実験結果は、気分の良い環境を作り出すと、
人の物事に対する受容性が高まるということを示唆しています。

つまり、気分が良い時には、
言われたことを受け入れやすくなるのです。

昔から、人を落としたいなら(ビジネスであれプライベートであれ)
食事をしながらやるのがベターだと言われていますね。

食事は食欲を満たしてくれるわけですから、
「快」の気分をもたらします。
そんな気分の時だと、相手の言うことにも
ついついうなずいてしまうわけです。

同様に、実は「心地よい気分」を作り出すことが、
リアル、オンラインに関わらず、店舗やコミュニティが
繁盛する鍵を握っているようなのです。

ただ、「気分」というのはなんともつかみがたいものですね。
全体的な雰囲気が生み出すものですし、
環境の構成要素を分析すれば、
いい気分を生み出す方法がわかるといものではないでしょう。

「心地よい気分を作り出すこと」

こればっかりは、「ロジカルシンキング」(論理力)では
解決できそうもありませんね。

「エモーショナルフィーリング」(感応力)を
磨くしかなさそうです。

投稿者 松尾 順 : 06:16 | コメント (2) | トラックバック

信頼と好意 Part4

人の好意を得るために重要なキーワードの最後は、
「自己尊重感」です。

「自己尊重感」とは「大切に思われたい」という感情のことです。
人は誰でも、この「自己尊重感」を持っています。

したがって、この「自己尊重感」を高める言葉や行為を行えば、
人は、そうしてくれるあなたに好意を持つのです。

では、お金も手間もかからないけど、相手の「自己尊重感」を
高める、とても効果の高いことは何でしょう?

それは、相手にとって最も心地よい言葉、
つまり「相手の名前」を呼ぶということです。
しばらく会っていなかった人が、自分の名前を呼んでくれた時って
すごくうれしくないですか?うれしいですよね。

人の名前を忘れやすい私には苦手なことなのですが、(^^;;、
トップ営業マンは、相手の名前を呼ぶことの重要さを十分に
わかっています。会話の中に意識的に相手の名前を織り込むことで、
相手の感情を心地よく刺激しているのです。

さて、自己尊重感を高めるほかの方法は、「贈り物」をすること。
下心見え見えのギフトでは当然だめですね。贈り物をする目的は
相手にこびることではありません。

相手に対する愛情や尊敬、感謝の気持ちを「形」に表すことが
贈り物に本当の価値を与えてくれます。もちろん、高価なモノで
ある必要はなく、相手の趣味嗜好に合致したちょとした小物でも
いいし、手書きのカードでもいい。

「あなたを大切にしたい」

という気持ちがきちんと伝わることが大事なんですね。

大企業がこの「自己尊重感」の重要性に気づいたのはついこの
10年間ほどのことでした。

コンセプトとしては、

CRM(Customer Relationship Management)

という3文字英語でカッコつけて話されてますけど、
要するに、お客様の自己尊重感を高めることが最大の目的であり、
そのことで「好意」を勝ち取り、長期的な取引関係を構築する
ことなんです。

投稿者 松尾 順 : 10:49 | コメント (0) | トラックバック

信頼と好意 Part3

「外見」に続く、人の好意を得るために重要なキーワードは、
「単純接触効果」です。

これは、一般向け心理学の本で良く取り上げられていますので
聞いたことのある方も多いでしょう。

社内結婚が多くなる理由でもあります。(^o^)
つまり、毎日顔を合わせていると、それだけで、
相手に対する好意が高まっていくという心理のことです。

心理学者の実験によって証明されている効果なのですが、
体験的にも納得できますよね。

営業マンが頻繁にお客さんところに顔を出すのは、
熱意を行動で示すということもありますが、やはり、
繰り返し会っているだけで、だんだん自分に馴染んできてくれる
という効果を狙っているわけです。

メルマガだって、月1回より、週1回、週1回より毎日発行される
ものの方が、より親しみを感じませんか?

ただ、そもそも双方の間に好意を形成できる素地が必要なことを
忘れてはいけません。

前回お話した「外見」に無頓着だったり、
残念ながら、相手とまったく性格や価値観が合わないような場合、
会う回数が増えることは、逆に嫌悪感を増幅させるだけに
なりますから。

メルマガも、売りつけたいだけのセールストーク満載の内容なら
しつこいと感じるだけですよね。

「去るもの日々に疎し」

ということわざがありますけど、人間は忘れっぽい動物。
しばらく音沙汰がないだけでどんどん相手との距離感が
遠ざかっていくものですよね。

逆に言えば、頻繁に会えば会うほど相手との距離感が近くなる。
相手の好意を得るためには、いろんな手段で、間をあまり
おかずに接触することが必要なのです。

さて、さらに続いて「親近効果」。

これについては、私は

「自己開示を通じた親近効果」

という視点でご説明しています。

ちょっと恥ずかしさが先に立つので、なかなかやりにくい方も
いらっしゃると思いますが、自己開示、
すなわち自分の生い立ちや興味関心、価値観、考えていること
などをどんどんさらけだしてみてください。

そうすると、相手は、あなたのことを深く知るにつれ、
親近感を持ってくれるようになります。

誰だって、知らない人に対しては警戒感を持ちますよね。
しかし、より相手を理解するにつれ、警戒感が薄れ、
好意を持つようになるわけです。

たとえば、会ったこともないブログ、メルマガの作者の中で、
すごく好意を持っている方はいませんか?

それは、しょっちゅうブログ、メルマガを見ているという
単純接触効果に加えて、
その作者の方の書いた文章を読むことによって
より深くその方を理解するようになった結果です。

そして、おそらく、その作者のなにかに自分との共通点や
類似点を見つけて喜んでいるはずです。

自己開示によって、自分についての様々な情報を提供すると、
いろんなところで共通点や類似点を発見しやくすくなる。

人は、同郷や同窓、同じ趣味といった共通点、類似点を
持つ人にも親近感を感じるし、積極的にそうした仲間を
探しているんですよ・・・

さて、次回は最後のキーワード、「自己尊重感」です。

投稿者 松尾 順 : 07:08 | コメント (0) | トラックバック

信頼と好意 Part2

「相手のハートをゲットする方法」の続きです。

「お客さんのハートをゲットする」と言うのは、
お客さんが自分の販売する商品を喜んで購入してくれる、
また繰り返し購入してくれるような、
「長期的な付き合いになる取引関係」を築くことでした。

そして、「長期的な付き合いになる取引関係」を築くための
2つのキーワードが、「信頼」と「好意」です。

前回は、信頼」を得る方法をご説明しました。
これは、一言で言えば「約束を守る」ことに尽きます。

では、相手の「好意」を得る方法です。
ポイントをキーワードで言えば次の4つ。

「外見」
「単純接触効果」
「親近効果」
「自己尊重感」

まず、「外見」
外見に気を配ることが、好意を得るために重要ってことです。

これは、言わずもがなのところありますが、

「中身さえよければ外見はあまり関係ない」

と気楽に考えている人が結構多いように感じます。

しかし現実には、人は、相手の外見だけで好き嫌いを
決めてしまう割合が高いんです。

好意、つまり好き(嫌い)という感情は、非合理的・直感的な
評価です。普通、美しいものを見ると心地よい感情が生まれ、
逆に、不潔なものを見ると不快な感情が出てきますよね。

もし、あなたに会いにきたセールスマンが不潔な格好を
していたとすると、無意識に不快な感情が湧き起こります。

すると、どんなに、その人が素晴らしい商品を売っていたり
弁舌さわやかだったとしても、まずうまくいかない。

頭では受け入れられても、心(感情)で受け入れられないと
いうことになるわけです。

もちろん、外見といっても、生まれつきのものは基本的に
どうしようもないわけですから、みだしなみや、姿勢、
ジェスチャー、表情の豊かさといったことに注意して、
相手に好印象を与える努力をするということになります。

このあたりのことは、社会心理学で「印象管理」と
呼ばれる領域で研究されてきたところです。

そうそう、実は生まれつきの外見のおかげで、
いい思いをしている人って実際いるんですよね。

例えば、アメリカの大統領選で勝利を収めた人のほとんどは
相手よりも背が高かったそうです。

また、童顔の人(実は私もそう)は、コドモっぽくみられるのが
いやで、ひげを生やしたりするわけなんですけど、実は、
コドモっぽくみえると、人は無意識に庇護意識が生じるのです。
特に女性はそうで、童顔の人は、赤ちゃんを連想させるので
いわゆる「母性本能」をくすぐるんですね。

以前、クリントン大統領が不倫スキャンダルを起こしたのに、
政治生命を絶たれるまでの大問題にならなかったのは、
彼が童顔だったからという説もあります。

こうした外見のことを見聞きすると、私はいつも小学生の頃に
読んだ一休さんの話を思い出します。

お金持ちの家に、みすぼらしい袈裟を着ていったら追い返され、
次に豪華な袈裟を着ていったら歓待された。
それで一休さんは、「あなたは衣装で相手を判断するのか」と
説教するという話です。

たしかに、中身の良し悪しをちゃんと評価できることが重要。

でも、中身をちゃんと評価してもらうために、まず中身を
くるんでいるパッケージ、つまり外見に気を配るというのは
やむを得ないことだと考えるべきでしょうね。

別の言い方をすると、たかが外見で相手に不快な思いをさせて、
好意を割り引かせてしまうのはのは、もったいないことだと
思いませんか。

長くなりましたので、残りのキーワードの説明は次回に。

投稿者 松尾 順 : 05:29 | コメント (0) | トラックバック

信頼と好意 Part1

今年度前期(4-7月)、私は、ある大学の2年生対象の必修科目
「キャリア・デザイン」の講義をやる機会がありました。

3年生から始まる就職活動に備え、学生さんたちに
仕事とは何か、働くとはどういうことか、を考えてもらいました。

カリキュラムの方向性は決まっていましたが、
実際の内容については、講師の裁量でかなり自由にできました。
そこで、硬軟いろいろな話を織り交ぜ、たまには結構脱線(^o^)
したのですが、学生さんたちの受けが良かった話に

「相手のハートをゲットする方法」

というのがあります。

相手というのは、お客さん、友人、あるいは付き合って欲しい
好きな異性でも良くて、要は、

社会の中でいい人間関係を築くためのコツを説明したのです。

いい人間関係を築くコツがわかっていれば、仕事もプライベートも
うまくいくし、幸せな毎日が送れるわけですから、
キャリアデザインの講義としては適切なトピックだったと、
私は思っています。

で、このメルマガでは、「お客さんのハートをゲットする方法」
として2回に分けてご説明したいと思います。

「お客さんのハートをゲットする」とはどういう状態かと言うと、
お客さんが自分の販売する商品を喜んで購入してくれる、
また繰り返し購入してくれるような、
「長期的な付き合いとなる取引関係」を築くことです。

けっして、巧みなセールストークとか手練手管で
「お客さんを落とす」ということではありません。

そして、「長期的な付き合いとなる取引関係」を築くための
2つのキーワードが、「信頼」と「好意」です。

まず、相手が私を「信頼」してくれなければ、
取引は始まりません。仮に、初回は購入してくれたとしても
信頼がなければ繰り返し購入はしてくれません。

ただ、「信頼」だけでは、長期的な付き合いは難しい。
他にも、同じくらい「信頼」できる人はたくさんいるから、
浮気されてしまう可能性があるんです。

したがって、「信頼」に加えて「好意」を得る必要があります。

では、まず相手の「信頼」を得る方法から説明します。

それは、相手が自分に基本的な要求や期待を満たしてあげること。

商品で言えば、相手が求める機能、性能、品質、価格のものを
提供することです。
また、あなた自身についていえば、約束の時間を守る、
納期を守るといったことです。

こうして得た「信頼」は、おおむね合理的・理性的な評価です。
実際のところ、やって当たり前のことですね。
だから、それだけでは足りない。

非合理的・感情的な評価である「好意」を勝ち得ていくことが
必要なのです。

では、どうやって「好意」を得るのか。

次のメルマガ(月曜日のブログ)でコツをご説明しますね。

投稿者 松尾 順 : 05:50 | コメント (0) | トラックバック

音入りじゃないとね・・・

最近リリースされた、電子ブック「万葉」はご存知ですか。
http://man-yo.com/index.php

紙の雑誌をそのままオンラインに持ち込んだイメージ。
このスタイルは、数年前からいろいろ試されてきましたが、
なかなかうまく離陸しませんね・・・

電子ブックは、普通のWebサイトよりデータが重くなるので、
ブロードバンド化が浸透してきたこれからが勝負でしょう。

さて、万葉の特徴は、専用Viewerにあります。
「Flipbook」というソフトウェアですが、パラパラ・・・という
ページをめくる「効果音」が入っています。

たいした仕掛けじゃないというか、そんな効果音が必要かな?
と最初は思っちゃいますよね。

でも実際試してみると、雑誌を読んでる実感があります。

紙質を感じる、つまり「手触り感」は実現難しいでしょうけど、
この音触り感が、電子ブックには必要だったのかも知れません。

これで思い出したのが、IBMが電子タイプライターを
開発した頃の話です。

当時の最先端の技術で実現したタイプライターは、
打音をほぼ無くすことに成功しました。
タイプライターの音でオフィスがうるさくならないですよ!
というわけです。

ところがぜんぜん売れなかった。
タイピストによると、打音が聞こえないので使用してる実感が
得られなかったんですね。実用には差し支えないのに、
なんか物足りないということだったんでしょう。

結局、IBMさんは、合成音の打音入りタイプライターを
再発売したということでした。

さて、話を戻します。

松岡正剛氏によれば、何千年もの伝統を持つ紙ベースの本は
メディアとして非常にパワフルであることを説いています。
つまり、人の生活・思考パターンに最も深く根付いている
メディアだということです。

したがって、他のメディア、特に近い表現が可能なWebサイトの
場合、いかに本というメディアに近い表現(音も含め)を実現
するかが成功の鍵になってくるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 05:56 | コメント (0) | トラックバック

目に注目!

先日、車を運転していた時に、どこかの中古車の販売店の看板に
に目を奪われました。

でっかい人の目が描かれているものでした。
ちょっと気持ち悪いけれども、思わず注目してしまいます。
まさに無意識にです。

そういえば、あるクリーニングチェーンの看板には、30歳くらいの
知性的な、でもちょっと近寄りがたい美人女性の顔が描かれて
いますが、これも「目」がとても印象的なんです。

人間の赤ちゃんは、生まれてわずか30分で、親の複雑な体や
顔の中から、「目」を認識することができるようになるそうです。

以前も書きましたが、誰かを文字通り注目させたかったら、
こちらも「目」を使うことが有効といえそうです。

このことについては、また日を改めてちゃんと書きたいと思います。

投稿者 松尾 順 : 21:28 | コメント (0) | トラックバック

誇らしさ

森ビルが実施した、六本木ヒルズに働く人対象の調査で
興味深い結果が出ていました。

「意欲や成果など、仕事にどの程度影響を与えているか」

という設問に対して影響度が高いのは、

高い順に、

「眺望の良さ」
「外観のデザイン性」
「社外からの評価」
「ステータス性」

となっています。

ビル供給業者として力を入れてきたハード面(機能、性能)
の評価である、

「オフィスビルの快適さ」

が低い評価であったことに、森ビルさんは当惑を隠せないそうです。
(日経産業新聞2005/11/09)

しかし、実は不思議な結果ではありません。

「オフィスビルの快適さ」は、先日書いた満足度レベルでいくと
「不満足要素」です。

つまり、快適でなければ不満足になりますが、快適であるから
といって満足が高まる、働く意欲がよりいっそう高まると
いうものでは本来ないのです。

慣れてしまえば、それが当たり前ということになるからですね。

さて、私は、むしろ、影響度が高かった項目「眺望の良さ」
「外見のデザイン性」などに興味を惹かれました。

これらは、ぶっちゃけ、他人に自慢できる点なのです。

「私のオフィスは六本木ヒルズなんですよ。」
(こんなオフィスで働ける私ってすごい・・・)

というわけです。

人々のライフスタイルや消費行動の背景には、

「外部に対する自分の評価を高めたい」

という欲求が強く働いているということが、
こうした調査でも明確に現れています。

これは、言い換えると、自分が持つ製品、関わるもの・ことに
「誇らしさ」を持ちたいということです。
誇れるものがあることが、自分の評価を高めてくれるからです。

元東大教授、現在丸の内ブランドフォーラム代表の片平秀貴氏の
ブランド論によれば、「誇らしさ」が感じられることが、
パワーブランドであるための要件のひとつなんだそうです。

「六本木ヒルズ」は、確かにその立地やデザイン性のおかげで、
他人に自慢したくなる、オフィスビルのパワーブランドと
なっていますね。
(回転ドアの事故で汚点がついてしまいましたが・・・)

投稿者 松尾 順 : 12:30 | コメント (2) | トラックバック

子供に対する、親の無条件の愛

「ザ・ウインザーホテル洞爺」をご存知でしょうか。

洞爺湖を見下ろす北海道のリゾートホテルです。

千歳空港から電車で70分、さらに駅から車で20分。
交通不便な立地ではあるものの、バブル時代に665億円を投じて
建設された一流の豪華施設と雄大な自然環境が魅力です。

ウインザーホテルの前身は、「ホテルエイペックス洞爺」。
92年に、一口3千万円の会員制のリゾートホテルとして
開業しました。しかし、バブル崩壊ため会員が集まりません。
あわてて一般客にも開放し、料金の引き下げを図ったものの、
96年には客室稼働率が22%まで低下していました。

そこで、当時、長崎ハウステンボスのホテル立ち上げを
成功させた伝説のホテルマン、窪山哲雄氏が同ホテルの
運営を引き受けることにしたのです。97年のことでした。

ところが、ホテル名をウインザーホテルに変更し、窪山氏が
さあこれからだと思った矢先の同年11月、実質的な同ホテルの
オーナーだった拓殖銀行が破綻しました。
その結果、ウインザーホテルは閉鎖を余儀なくされました。

苦渋の閉鎖後、窪山氏は、同ホテルの再生のために駆けずり回り、
2002年6月、ようやく営業再開(グランドオープン)を果たします。

その頃、グランドオープン直前に窪山氏が書いた本があります。
「プロジェクトホテル」(小学館)という題名です。

さらに、グランドーオープン1年後の2003年7月には、
「サービス哲学」(オーエス出版)を上梓されています。

当時、私はこの2冊の本を読み、窪山氏のホテルマンとしての
熱い思いと、確固たるサービス哲学に深い感銘を受けました。

窪山氏は、社会におけるサービスの真髄を

「子供に対する、親の無条件の愛」

だと考えています。

すなわち、「サービス」とは母性なのです。
ほぼすべてにおいてお客さまを受け入れ、恥をかかせず、
ノーと言わない姿勢。

これが、窪山氏の考える、サービス業のあるべき姿です。

私たち素人はこんな考えを聞くと、

「すべてを受け入れていたら、客がつけあがらないだろうか」

とか、

「言われたとおりのことをやっていたら赤字になるんじゃないか」

とか思っちゃいませんか。

ところが、実際はそうではないのです。
図に乗ってわがままし放題のお客さんは、ほんの一握りです。

大多数の人は、相手から受けた愛に対して、私も相応の愛を
お返ししなければと思わずにいられなくなります。

その結果、繰り返し訪れるロイヤル顧客となり、
また友人知人に口コミしまくるようになるのです。

これは、人間が集団生活を営む上で、生得的に備わっている

「互酬性」(受けた借りは返すさずにはいられないということ)

のなせる業でしょう。

実際、サービス業で成功しているところは、まず間違いなく
この「NOと言わない」というサービス哲学を持っています。
たとえば、大阪のリッツカールトン、
そして‘愛と感動のレストラン’青山の「カシータ」です。

リッツカールトンには宿泊したことはありませんが、
カシータのサービスは体験したことがあります。
確かに、ずば抜けた「母性」を感じました。

さて、ウインザーホテルの話題を取り上げたのには
理由があります。

ウインザーホテルは今年、遂に復活したのです。
先日掲載された日経産業新聞の記事によると、
今年、単年度黒字を達成できる見通しになったそうです。

直近の実績を見ると、今年8月の稼働率は89.9%、
ほぼ満室状態ですね。
客室単価43700円、一人当たりの消費額は51000円でした。

親の愛のサービスに対して、宿泊客はたっぷりと「お金」で
借りを返してくれています。(^o^)

私は常日頃思うのですが、サービス業にかかわらず、
すべてのビジネスは、こちらが先にお客さまに「愛」を
注ぐことではないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

自分がやりたいことをして何が悪い

「ディレクターズマガジン」という、WEBデザイナーや
コピーライターなどのクリエイター向けの専門誌があります。

私も同誌を購読しているのですが、オーストラリアで活躍する
デザイナーさんのエッセイ的な記事が最近掲載されてまして、
あちらでのマイペースな日常生活をうらやましいと思いながら
読んでいます。

さて、オーストラリアは南半球ですから、日本とは季節が反対、
こちらが夏の頃、あちらは冬ですね。

オーストラリアと聞くと温暖なイメージがありますが、
冬はあちらでもそれなりに寒く、コートが必要だそう。

ところが、真冬にTシャツ1枚で歩いている人がいたり、
自宅の屋外プール(温水じゃないですよ)で平気で泳いでいる人
を見かけるそうです。日本では考えられないですね。

この記事を読んで考えたのが、日本人なら「他人がどう思うか」
という意識が先に立つだろうということです。つまり、他人の
評価を気にするし、それが自分の行動を左右します。

「他人指向」が強い人が多いのが日本人のようです。

一方、いわゆる欧米人は、「内的指向」が強い人が多いと
言われてきました。他人の目はあまり気にしない。自分が
やりたいかどうかという意識で行動します。

自分がやりたいことをして何が悪い、というわけです。
「自分指向」と呼ぶと、もっとわかりやすいかも知れません。

これまでの話をまとめると、欧米人は、自分の価値観により忠実、
しかし日本は他人に影響されやすい、ということです。

さて、心理学者の和田秀樹さんは、

内的指向の強い人を「メランコ人間」
他人指向の強い人を「シゾフレ人間」

と呼んでいます。

メランコ人間は、明確なアイデンティティを持っており、
1955年以前に生まれた人が多い。

シゾフレ人間は、自分がなく、周囲に合わせる傾向が強い人で、
1965年以降に生まれた人が多い。

若い人のせつな的で、流行に影響されやすい消費行動を
見ていると、なるほど若年層はシゾフレ人間だということが
うなずけます。

ここで、気になるのはインターネットや携帯電話の影響です。
大量の情報が簡単に入手可能で、世界中の人と24時間いつでも
コミュニケーション可能なツールの進展は、明らかに他人指向
を強めることになります。

これからますます、自分のない、他人に影響を受けやすい
シゾフレ人間が増えていくことになるのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 12:15 | コメント (0) | トラックバック

いいものは、ちょっと怪しい

魅力とは、「謎を探りたいと想う力」(原崎裕三氏)ということですから、
商品とかサービスは、ちょっと謎めいているといい。

こんな商品・サービスは、お客さんから見ると「ちょっと怪しい」と
感じるものになりますね。

変わったネーミングや怪しげなキャッチフレーズとか、要は、
これまでの知識では理解できない何かを感じる商品やサービス。

でも、結局、怪しいと感じるのは馴染んでいないからであって、
いったん商品やサービスが人気を博して有名になり始めると、
怪しさはだんだん薄まってきます。

むしろ、逆に、その怪しさをかもしだしていたネーミングが、
独自性や信頼の証しになる。

‘マインドリーディング’というネーミングというか、コンセプトも
「ちょっと怪しい」というところを狙っているんですが、実際、
どうでしょうね・・・?

あまり、怪しすぎると、当然お客さんが寄ってこないですから・・・(笑)

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (0) | トラックバック

スイッチオフ

携帯とかPCとかって、人間のコミュニケーション能力を
何倍にもしてくれる便利なツールですよね。

で、こうしたツールを活用して、やらなきゃいけないことをさっさと終わらせて、
空いた時間を自由に使えるのが理想のはずでしたけど・・・

実際にはツールが進化すれば進化するほど、時間に追いまくられてます。

携帯もメールもない時代、会社を出れば、
まず追いかけられることはなかったのに。

出張に行けば、仕事が終わった空き時間で羽伸ばしができたのに。
今はまず、携帯チェック、メールチェックです。どこにいても。

以前は、携帯できるコミュニケーションツールがほとんどなかったので、
会社とかを離れると強制的にスイッチがオフになったけれど、今は常時
オン状態ですね。

となると、自分でスイッチをオンにする意志が必要。
しかし、意志が弱い人にはなかなかできないことですけどね・・・

そういう私も、土曜日の朝からオン状態です・・・(^^;;

投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (0) | トラックバック

可能性を感じさせること

作詞家、秋元康さんの先日の講演の中で、ドラマや番組出演者を
決めるオーディションの話が出ました。

そういうオーディションには、「オーディションの常連さん」と
いう人たちがいるんですね。「常連さん」という意味は、
いつも応募してくるけれど、いつも落とされてしまう人。
ちょっとかわいそうですが・・・

秋元さんによると、常連さんは、自分の魅力が十分に
わかっています。だから、例えば、脚がきれいな女性なら、
審査員の前でこれみよがしに足を組んでみせてアピールする。

でも、審査する側にとっては、彼女のセールスポイントが
最初から見えてしまっているので、かえって採用する気に
ならないそうです。ある意味、できあがってしまっているから。

むしろ、

「この子が洗練された身のこなしを身に付けたら、
 ひょっとして、大化けするかも!」

と感じてしまうような、垢抜けない田舎娘の方が、
彼女の潜在能力を引き出せる可能性に期待して、採用してしまう
ということがあるそうです。

「マイフェアレディ」のイライザを思い出しますね。


先日書いた「積分する経験」に対する、TJさんのコメントで、

「それは、まだ不十分なサービスをお客さんがクレームつけて
 育てていくようなものですか」

というのをいただきましたが、確かにそんな顧客と商品・サービス
の関わり方も、積みあがっていく利用経験としてあると思います。

PCのソフトウェアなんかは、もろそうですね。

当初はバグだらけだけど、お客さんからのクレームを
受けてバージョンアップを繰り返していく。
そうして、ソフトも洗練されていくし、お客さんも
自分が育ててきた「愛いヤツ」という気持ちが生まれます。

あまりにも完成された、つけいるすきのない製品やサービスは、
かえって面白みがないですよね。

高く評価するかもしれないけれど、愛着はわきにくい。

むしろ、多少不具合や欠点があったりする方が、
さらに良くなる可能性を感じさせてくれる分、より深く
関わってみようという気持ちになれるように思います。

これに近い話だと思うのが、販促クリエーターの原崎裕三さん
の考え方です。

原崎さんは、「円」と「球体」のどちらが魅力的かという問いに、
それは「球体」である。なぜなら、「奥行きがあるから」という
説明をしています。

つまり、原崎さんは、魅力とは「謎を探りたいと思う力」であり、
あなたの商品や企業、あなた自身を魅力のあるものにするためには、
謎めいた、奥行きを感じさせる必要があるとおっしゃっています。

一定以上のクオリティは当然クリアしている必要がありますが、
深い可能性を感じさせるものに、人は惹かれるんでしょう。

投稿者 松尾 順 : 12:14 | コメント (0) | トラックバック

慣れると好きになる

焼肉を食べるのは、人類だけですね。

「人類」というのはオオゲサですが、実際、食べ物を火で
焼いたり煮たりするのは人だけです。

もちろん、「火」を扱えるだけの知能があるからこそですが。

しかし、人類という種が誕生して間もない頃は、食べ物は
「生」でのみ食べていたはずです。焼いたり、煮たりする
という発想は、当初は生まれなかったでしょう。

新鮮な生肉、刺身、野菜、果物は、今では最高のごちそう。
しかし、昔はそれが当たり前の食べ方でしたから、
わざわざ調理する必要性は感じなかったでしょう。

しかし、山火事などで焼けた動物の肉があり、それしか食べる
ものがなくて、いわゆる「焼肉」を「試食」してみた。たぶん、
案外いける味だった。(笑)

こうした経験が、人類が、火を使って調理する始まりだったと
考えられています。生肉もいいが、焼いた肉の味にも慣れ、
そして好きになったということです。

なぜこんな大昔の話を始めたかというと、人は慣れると好きに
なるという心理原則を説明したかったからです。

大昔じゃない、最新のケースとして次のような新聞記事を
見つけました。ポイントをご紹介します。

あんパンで有名な東京・銀座の「銀座木村屋」の長男、
木村周一郎さんは、ニューヨークやパリでパン作りの修行を積み、
2001年7月、東京高輪でフランスパンの店を開店しました。

ところが、当初はまったく売れず、お客さんからは
「あんパンが欲しい」と言われる始末。

そこで、木村さんは、毎日20本のフランスパンを焼き、
店頭でお客さんに配ったそうです。

おかげで、開店の年のクリスマスには、行列ができるほどの
繁盛店となりました。

これは、21世紀の実話ですよ。
フランスパンって、案外売れないものなんですね。
私はけっこう驚きました。

よく考えてみれば、フランスパンもまだまだ一般消費者に
広く浸透しているとは言えないですよね。
普段、私たちがよく食べるのは、食パンや調理パンじゃない
でしょうか。

結局、東京都心の住民でさえ、フランスパンにあまりなじんで
いなかった。だから、木村さんはフランスパンを毎日試食して
もらって、味に慣れてもらったのです。そしてフランスパンが
好きになったお客さんが木村さんの店に押し寄せるようになった
のです。

食べ物に限らず、試したことがないから、慣れていないから
購入しないという心理傾向が人にはあるわけですから、
なんとかして、

トライアルしてもらう工夫

がとても重要なんです。

投稿者 松尾 順 : 12:09 | コメント (4) | トラックバック

人の集まるところに人は集まる

ジュリアナ東京、六本木ベルファーレをプロデュースした方を
ご存知でしょうか?

グッドウィルグループを率いる折口雅博氏です。
グッドウイルグループと言えば、介護サービスのコムスンが
ありますね。

折口さんは、多少強引な事業手腕がマスコミに叩かれることも
ありますが、事業家としては、事業成功のツボを見極める
‘天才’だと思います。

この事業成功のツボのことを折口さんは、ボウリングの

「センターピン理論」

と呼んでいます。センターピンに当てれば「ストライク!」
となるからです。

では、飲食店の「センターピン」は何でしょう?

「クレンリネス」(清潔さ)です。

どんなに味やサービスが優れていても、床にほこりが
落ちていたり、トイレが汚かったらまず流行りません。
客の立場としては、味やサービスはそこそこでも価格相応
であればまあ許せますが、汚いのはちょっと勘弁ですよね。

それでは、折口氏が大成功させたディスコの「センターピン」は?

それは、

「混んでいること」

だそうです。

確かに、ダンスフロアに数人しかいないようなディスコでは、
しけた感じがして行く気がしないですよね。

だから、ジュリアナ東京、ヴェルファーレのオープン時には
無料入場券をがんがん配って(女性中心に)、とにかく毎日
フロアを一杯にすることに注力したそうです。

ディスコにタダで入れるとなれば人が集まるのは当然です。
これは折口さんが‘仕掛けた’こと。しかし、一般大衆は、
「あそこは流行っているらしい」ということでますます人が
集まるようになる。

人は、人が集まるところに集まるんですね。

娯楽施設の場合、この「混んでいること」というセンターピン
はかなり普遍的な法則だと言えます。

旧ダイエーホークスの本拠地、「福岡ドーム」がたくさんの人を
集めるようになったのも、やはり当初タダ券を配ったから。

Jリーグのアルビレックス新潟の本拠地「新潟スタジアム」
の成功も同様。

どちらもトップの決断でしたが、周囲は

「タダ券配ってどうするんだ、売上がたたないじゃないか」

という反応だったそうです。

センターピンを見極めること、それはまさに顧客心理を
的確に解釈できること、マインドリーディング力にかかって
いると、我田引水ですが思います。

ちなみに、折口さんによれば、センターピンがわかるように
なるコツは「常に当事者意識を持つこと」です。

つまり、どこかレストランとか娯楽施設に行ったら、事業者側
の立場に、あるいは一人のユーザーの立場から、

「自分だったらどうするか(どう改善するか)、
 どうあってほしいか」

と考える癖をつけることだそうです。

まあ、いつもこうしていると、純粋に料理を楽しむということが
できなくなりそうですけどね。

投稿者 松尾 順 : 12:25 | コメント (1) | トラックバック

積分する経験

日経MJが実施した「わくわく消費調査」。

これは、消費者を対象に、ブランドに抱く感動の度合いを
調査したランキング化したもの。

品質や利便性だけでなく、心地よさや楽しさなどの感情、
デザインなど感性の評価などを含む18項目で測定し、
ブランドが消費者にどんな経験や体験を提供する魅力があるかを
指標化しました。日経MJでは、これを「経験価値指数」と
呼んでいます。

さて、この調査、店舗・施設、および消費財のそれぞれの
カテゴリーのブランド(商品・サービス)を調べたんですが、
総合ランキング一位のブランドは何かおわかりでしょうか?


そうです。「東京ディズニーランド・シー」です。

日経MJを読んでなくても、すぐにおわかりに
なったんじゃないでしょうか。

東京ディズニーランド・シーは、いまさら言うまでもなく、
わくわく、ドキドキの感動体験を与えてくれる場所としては、
文句なしのナンバーワンです。

確かに園内では、クオリティの高いサービスを提供してくれる
のですが、他のエンタテイメント施設と大きく違うのは
リピーター比率の高さ。

近年では、園内に来ている人の9割がリピーターだということを
聞いたことがあります。それであれだけ混雑しているのは、
リピートも1回や2回じゃなくて、何回も繰り返し訪れている
ということです。

実際、私もこれまで6-7回は行っています。

なぜ、ディズニーランドには繰り返し行きたくなるのでしょうか。
逆に言えば、なぜ、何度行っても飽きないのでしょうか。

他のテーマパークは大体1回か2回行けば、「もういいかな」
と感じて、二度と行くことがありません。いきおい、リピーターを
獲得するためには、絶叫マシーンなどの新しい施設を継続的に
投入していく必要があります。そのための投資は莫大。
それでも、やはりお客さんはすぐに飽きてしまうのです。

結局のところ、他のテーマパークでの経験は消費するもの、
使い尽くす経験になってしまっているのです。
繰り返し行くたびに、ワクワク感が減衰していく。

これは、「微分する経験」(右下がりに感動が減っていく)
と言えます。

ところが、ディズニーランドは「積分する経験」なのです。

行くたびに、右肩上がりに思い出が積みあがっていく。
消費してしまうのではなく、蓄積されていく。

例えば、家族で訪れ、はしゃいでいる子供を見ながら、

「前回は、身長制限で引っかかってスペースマウンテンに
乗れなかったけど、今回は乗れるようになったんだな・・・」

とか感慨に浸る、ということがおそらくあちこちの家族で
起きています。

この‘ディズニーランドでの経験は「積分する経験」である’
という考え方(仮説)は、一橋大助教授、楠木建氏から
1年ほど前に聞いた話です。

以来、この言葉がずっと引っかかっています。「積分する経験」
となる要因が明確にできれば、それは、他の商品やサービスの
リピーター率向上の特効薬になるからです。

残念ながら、今はまだ、私の中に明確な答えはありません。
一緒に考えてみませんか?

投稿者 松尾 順 : 20:26 | コメント (2) | トラックバック

並存する欲求

人間の欲求にはどんなものがあるんでしょうか・・・?

どんな欲求があるのかわかれば、それをうまく刺激する
ことで、購買意欲を喚起することに役立てることができる
はずですね。

さて、マーケティングで必ずといっていいほど紹介されるのが、
「マズローの欲求五段階仮説」です。

これは、人間の欲求は、

1 生理的欲求(食べたい、やりたい・・・)
2 安全と安定の欲求(危険にさらされたくない)
3 所属と愛情の欲求(仲間が欲しい、愛されたい)
4 尊敬の欲求(尊敬されたい、大切にされたい)
5 自己実現の欲求(自分らしさを発揮したい)

という5段階があり、1段階が満たされて初めて2段階、
2段階が満たされて3段階目へと欲求が高度化していく
というものです。

まあ、けっこう納得できるし、妥当性のある理論ではあります。
しかし、いいかげん耳タコ状態ですね。

また、本当にそうなんだろうか、という違和感があります。
自己実現欲求」と言う言葉の意味もどうもピンとこない。
(正直に告白しますが・・・(^^;;)

マズローの理論に違和感を強く感じるようになったきっかけは、
心理学者、フランクル氏の「夜と霧」という本を読んだこと
でした。

この本は、第二次世界大戦中のアウシュビッツ収容所に
ユダヤ人であったがために収容された彼の体験記です。
アウシュビッツの地獄からかろうじて生還したフランクル氏は
後に、「フランクル心理学」という領域を打ち立てます。

それはさておき、アウシュビッツでは毎日過酷な重労働を
やらされます。ぎりぎり死なない程度のわずかな食事
が与えられ、ガス室に送られる順番を待つだけの毎日です。

マズローの仮説で言えば、第一段階の生理的欲求でさえ
満たされていません。しかし、彼は驚きとともにこんな
出来事を観たことを記しているのです。

重労働に向かう道をとぼとぼと歩いている人々が、
道端に咲く花を決して踏み潰さず、大切に愛でていること。

あるいは、夕日の美しさに皆が集まり立ちつくしたこと。

つまり、死を待つだけの絶望的な状況であっても、
最低限の欲求さえ満たされいなくても、
より高次の欲求を求めることがあるということです。

実際、人は「愛」のために死ねるじゃないですか・・・

そこで、マズローほど知られていない理論をご紹介します。
アルダファという心理学者が提唱する「ERG理論」です。
ERG理論では、人の欲求を3つに分けています。

               (マズロー論との関係)
1 生存の欲求 Exsistence  =生理的、安全、安定欲求
2 関係欲求  Relatedness =所属、愛情、尊敬欲求
3 成長欲求  Growth    =自己実現欲求

これらの欲求は、右側に対比させたようにマズローの5段階
とも内容においてはほぼ同じなのですが、ERG理論における
ポイントは、この3つの欲求が並存するということです。

どれが低次の欲求、高次の欲求ということでなくて、
この3つの欲求が同時に存在しており、人によって、
また状況によってそれぞれの欲求の強さが異なってくる
ということです。

人間の行動を見ていると、ERG理論の方がマズロー
よりもより妥当性があるように思いませんか。


*本日の内容は、人材コンサルティング会社、ワトソン
ワイアットのコンサルタント、川上真史氏のお話を元に
しました。この場を借りてお礼申し上げます。
(川上氏は早稲田大で心理学の講師もやられています)

投稿者 松尾 順 : 05:47 | コメント (0) | トラックバック

意味のある行動

「君たちは、ただ生きるために生きているね、たぶん悩みなんか
 ないよねぇ。いいなあ」

日のあたる縁側で気持ちよさそうに手足を伸ばしている猫や
ボールを追いかけて元気に遊んでいる犬を見ると、
いつもこんなことを思います。(笑)

犬や猫に感情がないとは思いませんが、少なくとも、

なぜ自分はここにいるのか、またなんのために生きるのか」

といった自問はしないでしょうね。

幸か不幸かわかりませんが、人間だけがこんな哲学的な問いに
悩まされるんだと思います。ようするに、自分の生きる意味や
価値を求めずにはいられない。

だから、モノを買う、サービスを受けるといったことにも、
金を使う、消費する以上の何かの意味を求めます。そして、
衣食住の最低限の欲求がほぼ満たされている欧米や日本では
特に、この「消費行動に意味を求める」傾向が強くなっています。

先日ご紹介しましたが、修道士が運営するオンラインショップ
から物を買うのは、ただ安いだけじゃなくて、それが修道院
の運営やチャリティに貢献できるという、大きな意味が付加
されているからなんですね。

モノがあふれる今の世の中、‘何を’買うかではなくて、
‘どこから’買うかが重要。したがって、自社製品・サービスに、
「消費以上の意味」を与えることが必要なんです。


さて、これに成功した企業のひとつが、高級腕時計ブランドの
「オメガ」です。150年の歴史を持つオメガは、最近びっくり
するほど売れているそうです。老若男女、幅広い層に支持
されています。

ところが、ほんの10年ほど前はどん底にあえいでいました。
中高年層が支持するだけの時代遅れのブランドであり、また
日本ではブランドイメージ自体が希薄でした。

こんな状況だと普通は大々的な販売促進活動に
乗り出すところですが、オメガは違いました。

環境保護活動に積極的に時間と金を投じたそうです。
皮切りは、ジャックマイヨールの起用でした。

ジャックマイヨールは、映画グランブルーの主人公のモデルと
なった人で、素潜りの天才。オメガは彼と一緒に、海洋保護の
ための様々な活動に取り組みました。

以来、ジャック以外にも、一般には知られていないけれど、
海洋関係の有名人と組んだり、日本では、「地球交響曲」
(ガイアシンフォニー)の映画製作にも協力してきたそうです。

環境保護活動自体は、オメガに直接の収益をもたらしません。
それどころか、利益が減る元となる金食い虫です。トップの
信念がなければ、とても続けられなかったそうです。

しかし、オメガが環境保護活動に本気であることは、着実に
人々の心に伝わっっていきました。そして「本物」「信頼」
「真面目」といったブランドイメージを構築することに
成功したのです。

オメガは、自らのコミュニケーションを「間接話法」と
呼んでいます。自らの声で製品を積極的に売り込んだりする
ことは控え、環境関連のオピニオンリーダーとの協調によって
間接的に「オメガの思い」を伝える方針を貫いてきました。

オメガがやったことは、一見遠回りに見える活動ですが、
オメガを購入することに、環境保護への支援という意味を
付加することに成功し、長期的なブランドイメージの向上と、
結果的に業績の回復につながりました。

今回紹介した事例はまだまだ特殊なものかもしれません。

しかし、いつまでもただ、製品の優秀さや安さを訴えるだけでは、
消費者は振り向いてくれなくなるかも知れませんよ。

投稿者 松尾 順 : 12:12 | コメント (2) | トラックバック

感覚優位性

松下電器がヒット製品を連発しています。
おかげで業績も絶好調、V字回復を成し遂げました。

この背景には、中村邦夫社長の強烈なリーダーシップや
マーケティング部門の再編があるのですが、もう1つ、
デザインの要素があると私は考えています。

松下の製品は、以前より明らかにセンスの良いデザインが
増えていますね。特にパナソニック製品(テレビ、DVD、
デジカメなど)には、一貫したブランドイメージが反映されて
いることが感じられます。

ソニーも安閑とはしていられない高いレベルのデザインです。

実は、パナソニックには、門外不出の「デザイン原器」と
いうものが研究所に置かれています。この「デザイン原器」は、
パナソニック製品のデザインに一貫性・統一感を与えるための
「デザインのひな型(プロトタイプ)」です。

この「デザイン原器」の特徴は、

“遠くから見ると単純明快なフォルムながら目を引く特徴を
 持つこと、そして近くで見れば細部へのこだわりと
 高い感性品質を持ち、全体と部分が絶妙なバランスを
 保っている”(*1)

だそうです。

「デザイン原器」が製作されたのは3年ほど前のようですが、
すべてのパナソニック製品は、このデザイン原器と照らし合わせて
チェックされます。もし、デザイン原器とかけ離れたデザインで
あった場合はやり直しになるのです。

企業のブランド構築において、デザインの重要性はこのところ
急激に大きくなってきていますが、松下もまた、デザインの重要性
に目覚め、こうした取り組みに積極的に取り組んだわけです。

結果として、ヒット製品を連発できる成果につながったのでしょう。

デザイン、それは、前日も書いた五感を刺激します。そして理屈
を超えた感情をわきあがらせます。ブランド力とは、信頼に加えて
感情的なつながりのことです。好ましい感情を引き出すデザイン
でなければ、ブランド力は強化できません。

他の業界の例を紹介すると、自動車メーカー、マツダの最近の
ブランド力復活の背景にあるのも、優れたデザインへの投資でした。

私は、デザイン(形状のデザインだけではなく、音、香り、肌
ざわりなどのデザインも含みます)に注力することは、言い換えると

「感覚優位性」

を確立することを目指しているのだ、と定義したいと思います。

本来、人は、機能・性能といった理性で評価・判断するだけ
でなく、デザインのような感覚を通じてメッセージを受け取り、
無意識のレベルで評価を下しています。

ですから、今までのように機能・性能レベルの次元だけでは、
優位性を確立することはできません。

「人の感覚に訴えるという視点での優位性を確立すること」

これからの企業はこれが求められていると思いませんか。


(*1) 日経デザイン2004年2月2日の記事より引用

投稿者 松尾 順 : 11:51 | コメント (0)

新車の香り

自動車販売店のショールームに展示してある車に乗ってみる。
真新しいシート、輝くフロントパネル。

「やっぱ、新車はいい!」

と思いますよね。購買意欲がめちゃくちゃ刺激されます。
先立つものがないと行動に移せませんが・・・

さて、新車の魅力に、あのなんともいえない「香り」があります。

「あの新車の香りが好きなんだよ」と明確に意識されている方も
いるでしょう。しかし、香りのおかげで新車に対する魅力が
さらに高まっていることに、自分では気づかない人も多いんです。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚(皮膚感覚)のいわゆる「五感」
で感じた情報は、人に「心地よい」「楽しい」「不快だ」などの
感情を呼び起こします。

ここで着目したいことは、どうしてそんな感情が出てきたのか、
あまり自分で意識しないことが多いのです。理由を聞いても、

「なんとなくね・・・気持ちいいんだよ」

といった答えしかこないでしょう。

でも、五感が呼び起こした感情が、消費行動に大きな影響を
与えています。

だから、実は「新車の香り」は、工場で出荷される時に、
車のブランドごとに独自の香りを人工的に植えつけられています。
香りの効果は6週間ほど続くそうで、新車を買ったお客さんは、
その香りに包まれて幸福感を味わうんですね。

もちろん香りだけではありません。

エンジンの音、ドアを開閉する音。

これらも、注意深くチューニングされています。
どの自動車メーカーにも、微妙な音を聞き分け、車に乗る人を
心地よくさせる音、ブランドイメージに調和した音に調節する
調音の専門家がいるのです。

考えてみれば、日本でもガンガン売れているオートバイの
ハーレー・ダビットソンの場合、あの独特のエンジン音が
ハーレーというパワーブランドの大きな要素になっていますね。

理性で判断する機能・性能だけでは製品の優位性が確保
できない現在、お客さまの5感にどんな刺激を与えるのが
有効か、ここでもマインドリーディング力が重要になって
きているんです。

話飛びますが、ミニシアターでは、上映されている映画に
よって客層が違ってきますけど、それぞれの客層に応じて
シアター内で販売するポップコーンの味を微妙に変えている
そうです。

そこまでやるか、と思いますけど、そこまでこだわる企業が
お客様の心をつかむんでしょう。

投稿者 松尾 順 : 10:31 | コメント (0) | トラックバック

矛盾した欲求

女性にとって、ファッションは大事な自己表現の手段です。

もちろん、男性にとっても大事ですけれど、女性のこだわりは半端じゃないですよね。
女性の場合、新しく服を買う時たっぷりと時間をかけますが、矛盾した欲求のはざまで悩むせいじゃないでしょうか。それは、ひとつは、「他の人と違う、自分らしさを演出したいという気持ち」、もう1つは、「あまり他の人と違い過ぎたくない」という気持ちです。

自分らしさを演出したいという気持ちは、認められたいという欲求(承認欲求)につながるものです。つまり、集団の中でその他大勢として埋没したくはない、だれかに自分の存在を認知して欲しいということ。

一方、あまり他の人と違い過ぎたくない」というのは、違いすぎると異端扱いされてしまうので、そうならないよう、周りの人とうまくやっていきたいという欲求(同調欲求)が働いています。

人はそれぞれ異なる人格を持つ独立した存在でありながら、集団を作ってお互いに助け合いながら生活する社会動物です。このため、個人としての存在と社会の中での存在がしばしばぶつかることがあるわけですね。

こうした矛盾が発生するのは、そもそも自分と他人という区別を人間が意識するようになったからでしょう。

「えっ、それはどういう意味?」と疑問を持たれるかも知れませんが、たとえば、アリや蜂などはおそらく自分と他の仲間の違いを意識していません。もちろんお互いに触覚を突き合わせてコミュニケーションを取りあいますが、それは、一人の人間の頭脳が自分の手足や胃などの各器官とコミュニケーションを取り合うようなものです。つまり、アリや蜂の巣全体がひとつの生命体であり、一匹いっぴきのアリや蜂は、個別に自由に動ける器官にすぎない、と考えることができるからです。あの人間に近い知能を持つイルカでさえ、実は、自分と他の仲間が違うという意識を持っていないそうですよ。

「自我」の芽生えが、いろんな面で人を悩ませていますね。

もっとも、スーパーモデルのナオミキャンベルくらいになると、同調欲求は不要ですね。突出した存在であることに価値がありますから。また、彼女の承認欲求の強さがトップにのし上がる上で大事な要素になっています。先日は、自分と似たドレスを着ていたからという理由で、モデルのイヴォンヌ・スキオに殴るけるの暴行を加えたくらいです。

投稿者 松尾 順 : 09:35 | コメント (0)

目は口ほどに・・・

「目は口ほどにモノを言う」という言葉がありますね。
実際、お客さま(あるいは、恋人の心!)の心を読む、つまりマインドリーディングするのに、目の変化をしっかり観察することが大切です。

実際、生まれながらにして、人は「目」に関心が高いようです。
心理学者の実験によると、生まれたばかりの赤ちゃんでも、すでに人の顔の造作(目、鼻、口の配置)を意味なるものとして認識できます。また、赤ちゃんのお母さんに対する目の動きを調べると、特に目に集中することがわかっています。相手とのコミュニケーションにおいて、「目」が重要な働きをすることを本能的にわかっているんですね。

そういえば、ちょっと前のセミナーに参加し、実演販売のプロの方のお話を聞いた時、ちょっとしたゲームをやりました。2人1組となり、言葉を使わず、顔の表情だけで「ありがとう」だとか、「愛してます」とかのメッセージを伝えてみるというものです。「そんなことできるのかな」、とか思いつつ、実際やってみると、結構相手のメッセージがわかるものです。で、どこを見てるかと言うと、やっぱり相手の目の変化を追っていました。

実演販売プロの方は、周囲に集まってきたお客さんの気持ちを敏感に察して柔軟に話を転がしていくテクニックがないと、人をひきつけられないし、その場でがんがん売ることはできないのでしょう。おそらく、お客さんの目をよく観察しているのだと思います。

また、いわゆる、営業マンが、商談において気をつけるべき第一のポイントも、相手の目を良く見て、お客さんの気持ちの微妙な変化を的確に判断することだと言われていますね。

では、目のどんな変化に注目したらいいのでしょうか。まずは瞳孔の大きさの変化でしょう。人は関心のあるものを見ると瞳孔が拡大するからです。これについては有名な実験があります。男子学生に対して、様々な写真を見せて瞳孔の変化を測定したのですが、最も大きくなったのは「トップレスの女性」、次いで「シャワーを浴びている女性」、逆に最も瞳孔が小さくなったのは「ボディビルダーの男性」でした。

まあ、納得です。しかし、「もしゲイの男子学生だけ集めて実験したら、逆の結果になったんだろうか?」なんてくだらない考えが浮かびました。(笑)

投稿者 松尾 順 : 06:31 | コメント (0) | トラックバック

右脳で見る映画

グロービスのセミナーで、スタジオジブリの鈴木俊夫プロデューサーのお話を聞いてきました。

鈴木さんは相当おしゃべり好きなようですね。話し方も、映画のストーリーっぽい語り口でして、聞いている人をわくわく楽しませてくれます。

鈴木さんと宮崎駿監督は、実に27年間のつきあいですが、とにかく毎日べったり一緒にいるそうです。それだけ相性が良い二人とういことなんでしょうけど、質問コーナーで、あの天才宮崎駿とコントロールしているのか、という質問がでました。

鈴木さんによれば、コントロールするとかじゃなくて、うまくやれてこれたのは、2人が「友だちだから」というのが答えです。なんかいいですね。ただ、鈴木さんは、宮崎監督はビジネスパートナーであるという意識も持っているそうですが、宮崎さんは、鈴木さんを純粋な友達と考えているようです。だれかに鈴木さんを紹介する時、たとえ仕事の場面でも、宮崎さんは「こちら、友だちの鈴木さんです。」と言うそうですから。

強い信頼関係で結ばれている2人だから、いろいろとあってもこれまで一緒にやれてきたんでしょう。
ああ、美しき男の友情!!

さて本題は、日本で大成功を収めているジブリ作品ですが、なぜ海外ではあまり良い興行成績を収められないのか、ということです。

一番の原因は、上映される映画館数が少ないということかもしれません。

ただ、日本人と欧米人の文化的な違いも大きいようです。「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などで展開された世界、あれは私たち日本人にとってはとってもなつかしさを感じるものです。どっかで見たことがある、記憶に残っている原風景です。田舎育ちの人なら実体験として感じるものがあるでしょう。都会育ちの人でも、旅行で地方に行ったり、テレビで見たりして、なじみがあることには変わりがない。

ですが、ジブリ作品の風景は、欧米人にとっては異質な世界です。基本的に異質な世界は災いをもたらす存在としてありますから、恐怖感や忌避感を無意識に感じてしまうのじゃないでしょうか。

映画、またさまざまな芸能、小説もそうですが、話が展開される基本環境設定を「ワールドモデル」と呼びます。このワールドモデルがまず頭にすんなり入ってくるかどうかが、さまざまなエンタテイメントを楽しめるかどうかの鍵なんですね。

また、ジブリ作品が欧米人にとって違和感を感じるだろうと思える原因は、ストーリー性の弱さでしょう。

「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」など、最近の作品は特にそうですが、ストーリー的には、何がなんだかわからないと思いませんか。何も考えず没入すると、実に楽しい映画です。しかし、頭で理解しようとするとつじつまが合わないことが多いですね。このあたりが論理性を重視する欧米人にはなかなか受け入れがたいのかもしれません。

このストーリー性の弱さにはそもそも理由がありました。鈴木さんの話でわかったのですが、宮崎作品にはシナリオが存在しないからです。全体の流れとかまったく決まっていない状態で、キャラクターが何を持つか、なんて、すごくミクロな部分から初めて、自由にストーリーを展開させていく。だから、奥深い作品になる一方で、全体としてはつかみどころのないものになる。また、とても感性的な仕上がりになるのでしょう。

個人的には、ジブリ作品は右脳で見る映画であり、それでいいと思います。
無理に海外で受けるために、きっちりシナリオをつくるとか、してほしくないですね。
(絶対しないでしょうけど)

投稿者 松尾 順 : 10:11 | コメント (0) | トラックバック

微妙な年頃

私の通勤電車は、常磐線直通千代田線です。松戸から乗り、大手町で乗り換えます。
千代田線は常磐線快速ほどには混みませんが、当然ながら始発を待たない限り、座席を確保できることはまずありません。

先日、優先席の前に立っていた時、北千住で私の前の席に座っていた人が降りていきました。これ幸いと座ったら、たぶん50代の女性が目の前にいました。私は思わず「どうぞ」と席を譲ってしまったのです。女性は遠慮しながらもお礼を言って座りました。

これね、私、今でも半分申し訳ないことをしたかなと、後悔しつつ悩んでるんですよ。

私が席を譲ったのは、決して相手がお年寄りだからというわけじゃなくて、私の方が中年とはいえ、男だし体力はあるから、という、まあいわゆる「レディーズファースト」の精神だったわけですよ。

でも、ひょっとしたら相手の女性は、「えっー、まだ私、席を譲られるほどの年じゃないのに!!」と内心思ったんじゃないかと。職場に行って、同僚の女性かなんかに、「今日ショックなことがあったの、電車で優先席を譲られちゃったのよ・・・!」なんて話したんじゃないかと。

でもまさか、譲るとき、「別にあなたが高齢だからというわけじゃないんですよ、私の方が男で元気だからなだけなんですよ」とか言い訳するのも変ですよね。

優先席に限らず、座席に座っていて目の前に高齢の方が立った時、同じような悩みを持ちませんか。この人は微妙な年齢だな、譲ったらかえって失礼じゃないだろうか、なんて。特に相手が女性の時。

女性の場合、年齢ってとても敏感な問題ですよね。

私の友人に以前、婦人服を経営していた社長がいますが、もし40代の女性をターゲットにするのなら、30代の女性向きのデザインの服を品揃えするので丁度いいんだと言っていたことを思い出しました。

女性の実年齢と精神年齢のギャップは、女心を読む上でとても大事なことのようです。

投稿者 松尾 順 : 08:53 | コメント (0) | トラックバック

ウソでもいいから信じたい

「アガリクスで癌が治った!」という体験談はライターのでっちあげだった、という最近の某出版社の事件がありました。病気の人をだますなんて最低のやり方ですね。

人が信頼を寄せやすいのは、当然ながら売り手の企業の広告文じゃなくて、実際のユーザーの言葉です。さらに、本というメディアを利用すればさらに信頼性が高まります。そこをうまく利用するのはマーケティングでは常套手段ですが、ウソはいけません。

しかし、消費者心理としては、基本的にわらをもつかみたい心境なわけで、多少うさんくさくても、信じたいという気持ちが強くなっています。

よく新聞の折込チラシに見られる「幸運の財布」「幸運のペンダント」。

ここにも財布を買ったら、宝くじが当たったとか、彼女ができたとかの体験談が写真入りで載っています。これはあきらかなやらせです。つまりほとんどがウソ。

読む方だって、「そんな馬鹿な、信じられない」と感じているはず。それでも相当数の人が購入してしまうんですね。結局のところ、たとえウソでも信じたいという気持ちが強ければ、怪しいけれどたぶん真実もあるだろう、という都合の良い解釈をしてしまうんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:35 | コメント (5) | トラックバック

天性の魅力

外見の話を続けますね。

生まれつきの美男・美女っていますね。
ようちえんの頃から、やたらともてまくってた友達がいませんでしたか。

歌手の美輪明宏さんも、若い頃の写真を見ると、この世のものとは思えない美しさです。女性にももてたんでしょうけど、とりわけ男性にもてたようです。美輪さんもどちらかといえば男性に興味があったようですが。

まあ、なんだかんだいって美男・美女は得ですわ。生き残るのに都合のよい子孫を残していきたいという遺伝子の命令によるものでしょう。性的な本能が背景にあるということですね。

もうひとつ、男性の場合、特に女性にもてるのは童顔の人です。社会心理学の研究でも、童顔の人の方が、より好意を持ってもらえるし、またその人の発言を信頼するという結果が出ているんですよ。

なぜでしょうね。童顔とは英語でベビーフェイス、つまり、赤ちゃんを連想させるからなんです。これもまた本能的に子孫を残していくために赤ちゃんは大切にしなければならないという意識が背景にあるんですね。

例えば、クリントン元米大統領があのハレンチなスキャンダルにも関わらず失脚することがなかったのは、スピーチのうまさもさることながら、彼のベビーフェイスがプラスだったということらしいです。

日本でいえば、ライブドアの堀江さん、丸顔の童顔で憎めない印象がありますね。行動が過激でもそれほど反発を受けないのはあの外見のおかげでしょう!

投稿者 松尾 順 : 09:46 | コメント (0) | トラックバック

持っててうれしい!

アップルコンピューターの広報部長のお話を聞いてきました。

爆発的なヒットを続けている「iPod」の成功秘話でして、非常に興味深い内容だったんです。
ところが、最後に広報部長から、ブログなんかには書かないでくださいね、ここだけの話にしておいてください!、と釘を刺されてしまったので、残念ながら書けません・・・

直接お会いする機会にこっそりお話したいと思います。

それでも、差し支えないところでちょっとアップル製品のことを書きます。
いまさら言うまでもなく、アップルの製品の特徴はデザインが洗練されてることですね。いわゆる、インダストリアルデザインにものすごくお金かけてます。その基本コンセプトは、「お客さまが持っててうれしい」と思えるような仕上がりにすることなんです。

iPODを見るとわかりますが、機械を感じさせるネジがまったく外面に出てませんね。あるいは、ノートPCのパワーブックも目に見えない裏側までしっかり仕上げてあります。また、パワーブックを閉じて、スリープモードになると、小さいライト(LED)が点滅しますが、まるで寝息を立てているような見え方をします。

しょせん鉄などの無機物で作られた機械に「持っててうれしい感」を与えるには、暖かみ、柔らかさ、人くささを感じさせるデザインじゃなきゃダメなんですね。

政治家、あるいは政党の政策も同じですが、中味、つまり機能、性能といったものに競合製品間でほとんど差がない時代。あるいは差があったとしても、素人ではなかなか、どちらが良いか判断できない時、やはり外見、すなわちデザインが重要な手がかりになるんです。ただし、中味も伴っていないと長期的には客離れを招きますけど。

アップルの場合、中味、つまり品質もずいぶん向上しました。逆に、ソニーさんは、中味の低下がこのところ顕著だったと思います。端的にいうと、壊れやすかった。ソニー製品のデザインも一級品で、私もそれに引かれて以前は良く買ってました。でも、結構すぐに壊れてしまうので最近は、どんなにデザインが良くても買うのにためらってしまうようになったんです。

投稿者 松尾 順 : 09:16 | コメント (0) | トラックバック

印象って大事!

いまさら先日の総選挙の話題を蒸し返すことはしたくないけど、小泉首相の見せ方のうまさには感心しますね。(政治手腕についてはここでは立ち入らないことにします)

小泉さんは、大衆受けするには、何よりも表面的なこと、つまり印象が大事なことをよくわかっていますね。

細身の小泉さんは従来の政治家のイメージとは違って年の割りに若々しく見えますし、ファッションセンスも悪くない。実際、米国エスクワイヤ誌のベストドレッサーで12位に選ばれています。

中味、つまり本質も大事だけれど、それを判断するのは相当難しいです。政治問題ならなおさら。

だから、中味くるむパッケージ、つまり外面の印象を中味の良し悪しの判断材料に無意識にしてしまうのが一般の人たちなんですよ。

野党の政治家が、小泉さんに勝とうと思うのなら中味と外面の両方の充実が必要ということを本当に理解して、実行しないといけないです。

投稿者 松尾 順 : 09:46 | コメント (0) | トラックバック