ブランド構築、製品が全てか?

「ダナ・キャラン」「ペプシ」などのブランディングを
手がけているデザイナー、ピーター・アーネル氏は、
日経産業新聞(2011/01/13)の記事の中で以下のように
答えています。

“私は32年間この業界に携わってきたが、広告や
 マーケティング、コミュニケーションはもう古い。”

“優れたブランディングとは、あらゆる戦略が製品に
 統合されている状態を指す。”

まあ、この意見は、アーネル氏が「デザイナー」と
いう立場だからこその極論ですね。

ただ、実際のところ、製品自体が競合製品とは
明確に異なる際立った機能や特徴を持っていれば、
以前ほどは広告費を投入しなくても、売れる可能性
が高くなったことは確かです。

というのも、消費者同士が横につながる
オンラインのソーシャルネットワークを通じた
伝播力(口コミパワー)が大幅に増加したからですね。

独自の機能やデザインを持つ製品は、
ユーザーが、友人・知人などに「いいよ!」と
積極的に勧めてくれるのです。

逆に、特徴のない平凡な製品は、
どんなに広告費を投じても、膨大な情報に埋もれてしまい、
消費者になかなか見つけてもらえず、日の目を見ないと
いう可能性も高まっていると言えます。


さて、アーネル氏は「広告は不要ということか?」
という質問を受けて、次のように述べています。

“製品が機能的でデザインに優れ、経済的な価格なら、
 広告費は要らない。消費者は競って買い、語り、もっと買う。”

“アップルの『iPhone』や『iPad』が好例だ。日本では
 ユニクロが際立っている。消費者が求める現実的な
 商品を信じられない高品質・低価格で実現している。”

この意見も確かにそうだなと同意できる点もあります。

そういえば、三洋電機のおコメからパンが作れる、
まさに画期的な新商品『ゴパン』は、
発売前から大変な人気となり、今のところ広告は
ほとんど不要という況になってますね。


しかし、製品担当の方なら、
次のように反論したくなるでしょう。

「言うは易し。独自性の高い、画期的な製品は、
 そう簡単には開発できないよ。」

実際、上述の『ゴパン』だって、
製品化までに何年もかかっているのです。


確かにゴパンのようにこれまでになかった、
新たな「機能的価値」を生み出すのは半端ではありません。


でも、主にデザインの改善・革新を通じた「情緒的価値」
を生み出すことは、技術的には比較的簡単です。

必要なのは、消費者の隠れたニーズを発見することです。

例えば、パナソニックの電動歯ブラシ、『ポケットドルツ』
マスカラのようなおしゃれな細身のデザイン、
携帯性に優れていることから、大ヒットしていますね。

これは、従来の電動歯ブラシのメインターゲットを
男性から女性にシフトし、女性のニーズを洞察したこと
によって高い「情緒的価値」を生み出したものです。
(もちろん、機能的にも優れている点もあるとは思いますが、
 利用者の立場からは実感できるほどの差ではないと思います)


また、昨年11月に発売され、女性中心に好調に売れている
サンスター文具のハサミ『スティッキールはさみ』
「ペンのように携帯するハサミ」というコンセプトに
基づくおしゃれなデザインが魅力的。

おそらく、「ものを切る」というハサミとしての
機能的価値の面では従来製品と大差ないでしょう。

やはり、これまでになかった独自の形状、
つまりデザイン面での革新がヒットの最大の要因に
なっているものと思われます。


デザインは、機能よりも比較的真似しやすいため、
どんなに独特のデザインであってもすぐに類似の競合品
が登場する現状にあっては、マーケティング・コミュニ
ケーションの必要性も十分にあると思います。
(とりわけ、「売れ続ける」ためには!)

ですから、「ブランディングは、製品が全て」とする
アーネル氏に、完全には同意することはできません。

しかし、製品開発における革新を簡単にあきらめ、
お金さえあれば実施できる広告や各種コミュニケーション
に過度に依存することは止めるべきでしょう。

投稿者 松尾 順 : 2011年01月14日 09:55

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コメント

ブランドは少なくとも「体験」であるはず。

体験の中には「製品」もあり、「クチコミ」もあり、「広告」もある。
【優れたブランディングとは、あらゆる戦略が「体験」に統合されている状態を指す】の方が現代的では???


製品(特にデザイン)は体験を構成する要素であり、それをデザイナーは一番分かっているはずなのだが。

さらに言えば「成長」(企業の成長ではなく、人の成長や縁の成長)まで組み込まれていれば3.0的なブランドとして成り立つのでは?
【優れたブランディングとは、あらゆる体験がそれを通じて仲間づくりや人の成長に結びつく】

投稿者 コイデ : 2011年01月16日 21:58

コイデさん、まいど!

>体験の中には「製品」もあり、「クチコミ」もあり、「広告」もある。

>【優れたブランディングとは、あらゆる戦略が「体験」に統合されている状態を指す】の方が現代的では???

まったくおっしゃるとおりです。

ただ、より「直接的な体験」が重要であるということは
言えるのかな、そのあたりをプロダクトデザイナーという
立場もあって、アーネル氏は強調したのでしょうね。

投稿者 松尾順 : 2011年01月17日 12:31

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