「法事」の深い意味

日本では、親族が亡くなった後、

初七日、四十九日、初盆・・・

と、かなり頻繁に遺族が集まる風習(法事、または法要)
がありますよね。


これにはどんな「意味」があるのか、
考えたことがありますか?


“昔からそうするしきたりになっているから、
 今も続けているだけに過ぎない「形式的な仏事」だよね? 
 だから、その「意味」など考えたこともないよ。”

という方が多いんじゃないでしょうか。

私もそうでした。


しかし、実は、「法事」には深い意味があったのです。


話が飛びますが、欧米の病院では近年、

「遺族ケア」

が試みられているそうです。


遺族ケアは、末期と診断された患者さんを
定期的に小さなパーティに招待するもの。

このパーティは、患者の家族や友人、医師、僧侶などを含む
10-15人の集まりです。そして、患者の話したいこと、
歌いたい歌、流したい涙、なんでも受け止めるのです。

パーティは7-8回繰り返され、
3カ月もすると患者さんは天国に召されます。


遺族ケアの要諦は、その後にあります。

患者さんが亡くなった後も、
同じメンバーが集まってのパーティ(患者さんは写真で参加)が
3-4回開催されるのです。

これには、部屋代もお菓子代もかかる。
医師も参加することがありますが、
この場合の実質的なコストは相当高いものになります。


ドライに考えれば、死んでしまった方のために
さらにお金をかけるのは、ある意味「無駄」なことですよね。

にもかかわらず、効率を徹底的に追求する欧米の病院で、

「遺族ケア」

が行われているのはなぜでしょうか?


その理由は、結果的に

「安上がり」

だからです。

つまり、経済合理性の観点から

「遺族ケア」

は行われています。


実は、「遺族ケア」をしなかった家族を
追跡調査してみると、患者さんの死から1-2年のうちに

急病、突然死、精神異常、自殺未遂、交通事故

など、多くの不幸が起こる確率が跳ね上がることが
事実として把握されているのだそうです。

家族の死は、人にとって

「最大のストレス」

であるということを聞いたことがありますよね。

おそらく、このストレスによって、
遺族は精神的・肉体的に不安定になり、結果として、
さまざまな不幸につながっていくのでしょう。

そうした不幸は、社会的には新たなコストの元です。


したがって、

「遺族ケア」

は遺族に降りかかる不幸を未然に防ぐことができる
(そして、新たな社会的コストも抑えられる)

「優れた公衆衛生学的な方法」

だと、欧米では認められているのです。


さて、日本に話を戻しましょう。

身内の死後、
残された家族にさまざまな不幸が起きることは、
日本でも経験的にわかっていました。

これを私たちは

「死者のたたり」

と呼んで恐れました。


ここまで書けば、

「法事」

の深い意味がもうおわかりでしょう。


死者の「たたり」を鎮め、不幸を予防するための

「仕組み」

として確立されたのが、

初七日、四十九日、初盆

といった法事だったのです。


一見、単なるしきたり、風習、伝統としか思えない
私たちの行動の奥には、しばしば深い意味が潜んでいます。


心理学には、

「文化心理学」

という研究分野が存在するのはご存知でしょうか?


「遺族ケア」の話は、
人の行動をよりよく理解するためには、私たちが持つ様々な

「文化や伝統」

についても深く掘り下げる必要性を感じさせてくれますね。


「遺族ケア」の出典:ドクターズマガジン No.94 September 2007

柏木哲夫氏(淀川キリスト教病院名誉ホスピス長/
金城学院大学学長)とカール・ベッカー氏
(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)の対談

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (2) | トラックバック

脱ノルマ・・・資生堂の挑戦

「売上」は、会社の「通知表」ですよね。

具体的に言えば、

「自社(社員)や自社の商品が、顧客に受け入れられているか」

を数値として把握できるのが「売上」です。


すなわち、「売上」とは、

「日々の企業活動」

が有効であったかどうかを
最終的に評価するための結果に過ぎない。

ですから、

個々の社員の「直接目標」として「売上」を掲げること

は本来変だと私は思っています。


むしろ、「目標」として掲げるべきは、

「お客様に自社(社員)や自社商品が受け入れられるためには、
 どんな行動(プロセス)が必要か」

を明らかにし、その行動を直接評価できる「指標」では
ないでしょうか?

ちなみに、その最も典型的な指標のひとつが

「顧客満足度」

です。


もちろん、「売上」はわかりやすい数字ですし、
そうした明確な目標があったほうが、
やる気が高まるという効果を否定はしません。


ただ、売上を重視しすぎると「顧客不在」の思考に陥ります。

そして、詐欺まがいの押し売りや偽装行為など、
巷をにぎわす不祥事にいつかは確実につながりますよね。


また、短期的には業績を伸ばすことができても、
長期的には顧客からそっぽを向かれ、事業の継続ができません。


最近は、こうした考えに基づき、「売上」を目標にしない、
すなわち「ノルマ」を廃止する企業が大手にも出てきました。


たとえば、資生堂は、
06年春から美容部員の売上ノルマを人事評価から
外しています。(日経MJ、07/08/27)

この結果、美容部員が販売を担当する

「カウンセリング化粧品」

の07年3月期の売上高は、

前期比3.5%減の2千306億円

に低下しました。


これは、従来であれば

「販売力の低下」

とみなされたところです。

しかし、真実は、
押し売りに近い形で商品を買わされてしまい、
家に戻ってから悔しい思いをしていた

「不満足客の減少」(これは良いこと!)

を意味すると考えるのが
正しいんじゃないでしょうか。


実際、売上ノルマを外すことで、
売らんかなの強引な接客が影を潜め、

「どうすれば顧客に喜んでもらえるか、を
 個々の美容部員が必死に考えるようになった」

(都内のある百貨店の責任者)

とのことですから、売り上げ低下は

「適正な企業行動(美容部員の接客行為)」

を正確に反映しているだけなのです。


現在の資生堂の美容部員の主な評価項目(評価指標)は
次のとおりです。

・顧客からのはがきの採点(接客態度を評価するもの)
・接客した人数
・再び来店した客数
・顧客の肌に触れた回数
・肌診断など美容機器を使った回数


そして、確かに目先の売上は減少したものの、
過去10年間減り続けてきた会員組織、

「花椿会」

の会員数は、昨年春の550万人を底に増加に転じ、
毎月5%のペースで増えているそうです。


売上ノルマを撤廃するという資生堂の挑戦が、
最終結果である、

「売上の増加」

に反映されてくるまでにはまだ時間が必要でしょう。

しかし、正しい方向に向かっていることは
間違いないと思います。


資生堂の前田社長も、

「5年間は売上が落ちてもかまわない」

と腹を括っています。

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

愛想がいい人型ロボット

「客と顔見知りになる機能」

が搭載されたロボットが話題になってます。
(日経産業新聞、2007/08/23)


国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の実証実験だそうですが、
このロボットには、

「イオン高の原ショッピングセンター」(京都市木津川市)

に行けば会えますよ。


このロボット君(名称不明)は、

‘顔見知り’の客

が近づくと、

「またお越しいただきました」
「きょうはどこをご案内しましょうか」
「前回はアイスクリームを買われたようですが、
 きょうは新メニューが出ましたよ」

などと、気の利いた会話を交わすことができる
愛想のいいロボットなのです。


なんでこんなことができるのでしょうね?


秘密は、300人以上の買い物客に配った携帯ストラップ型の

「電子タグ」

にあります。

ロボットと会話する際、この電子タグを客が示すと、
電子タグに埋め込まれた識別場号(ID)をロボットが認識し、
その客との過去の会話を思い出して適切な受け答えを返すことが
できるというわけです。

おそらく、ロボットに内蔵されたDBから、IDに紐付けられた
過去会話データを引き出しているということなんでしょう。


このロボット君との会話がどのくらい楽しいのか、
実際体験してみないと見当もつきませんが・・・

しかし、上記ショッピングセンターでは、連日、
5、6人がわざわざ10分以上並んでロボットとの会話を
楽しんでいるらしいのです。

彼には、ぜひ東京にも来て、
愛想の良い会話を披露してもらいたいですね。


さて、この実験のことを読んで、
私が感じたのは、次のようなことです。

----------------------

顧客の「好意」を得ることのできる
優れたCRM的コミュニケーションを行うためには、

「顧客についてのより深い理解」

が必要である。


その深い理解は、ほとんどが

「顧客との会話を積み重ねること」

によって得られる。


だから、顧客との過去の会話内容をしっかり

「記憶・保持すること」

が、対顧客コミュニケーションの基盤である。
----------------------


実際、トップセールスパーソンは、
例外なく、並外れた記憶力の持ち主ですよね。

数百人もの顧客一人ひとりの家族構成や趣味、関心事、
そして過去の購買履歴まで、

「よくそこまで覚えてられますね」

と驚くほどスラスラと空で話すことができます。


もちろん、「灰色の頭脳」だけで覚えられるはずもなく、
顧客台帳(ノート)などに基本的な事項、
そして過去の会話の内容をきちんと記録している方が
多いです。(記録することで、頭脳の「記憶」として
定着しやすくなりますし)


たとえば、岡山の化粧品店「安達太陽堂」の
カリスマ販売員、長谷川桂子氏の場合もやはり

「優れた記憶力」(顧客台帳の活用含む)

が対顧客コミュニケーションの基盤になっています。


(ご参考)

*4色ボールペンによる顧客管理法

*「あら、○○さん、お帰りなさい!」

私は思うのですが、
何回行っても「一見さん」扱いしかしてくれない
ファーストフード店に

「CRM」

が導入されるとしたら、上述のロボット君を
生身の人間の代わりに採用するのが得策かも知れません。


多少「人件費」、いや「ロボット件費」が高くても
元が取れそうじゃありませんか?

投稿者 松尾 順 : 13:51 | コメント (2) | トラックバック

「差別化」こそが、経営、そしてマーケティングの本質だ!

日本一、休日が多く、日本一、差別化を図る会社、未来工業。

同社の創業者(現取締役相談役)、山田昭男氏は、

“我が社の製品は、他社も作っているものばかり。
 それでも他社とまったく同じものは作らない。
 どこかに違いをつける差別化が鉄則です。
 でなければ、価格競争になる。”

とおっしゃってます。
(YOMIURI ONLINE 中部発、グローカルより)


まことにごもっとも!

同じ製品を作るのなら、2社は必要ない。
安いほうが選ばれるに決まってるので、1社しか生き残れない。


「差別化」こそが、経営、そしてマーケティングの本質だ!


そうそう、山田昭男氏の講演(動画)が
‘Wisdom スペシャルセミナー’で閲覧できます。

*閲覧は無料ですが、メンバー登録が必要です。

投稿者 松尾 順 : 00:11 | コメント (0) | トラックバック

ワカマル君、がんばれ!高いけど・・・

「家庭用」としての市場開拓には
失敗してしまった人型ロボット「ワカマル」。

*参考:ヒューマノイドロボットの過去・現在・未来


将来的には、やはり市場規模が大きい「家庭需要」を狙いつつも、
当面は「業務用」に展開して命脈をつなごうとしてます。


そこで、「ワカマル」君を企業や病院などに

‘派遣’

する事業を始めてるそうなんですが・・・
(日経MJ、2007/08/12)

しかし、料金がなにぶん高い。

基本料金1日12万円、1ヵ月160万円、1年間で300万円。


ワカマル君ができることと言えば、
受付で来訪客を出迎え、視線を合わせて会話できること。

また、応接室の見取り図をあらかじめ入力してあれば、
応接室の入り口まで案内する程度。


しかし、それだったら、生身の人のほうが、よほど割安だし、
かつ、やはり‘生きてる人’ですから良いですよねぇ・・・

投稿者 松尾 順 : 00:08 | コメント (2) | トラックバック

ラテンライブon屋形船

「隅田川に浮かぶ屋形船の船上でラテンバンドのライブを楽しむ」

という企画があります。

9月16日(日)PM6時半~

屋形船でライブなんてこと、
たぶん今まで誰もやってないでしょうねぇ・・・


このラテンバンド「SON四郎」は、
キューバのストリートミュージックをメインでやってまして、

ボーカル、アコースティックギター、ベース、ボンゴ

のアコースティック編成だから実現したんだと思います。

なお、当企画の主催は、このバンドのリーダーであり、
私のパーカッションの先生です。


興味のある方は、詳細をお知らせしますので、
私のメールアドレス( jmatsuo@sharpmind.co.jp )
までご一報ください。

先着50名だそうです。

投稿者 松尾 順 : 00:54 | コメント (0) | トラックバック

非常事態時のリーダー

先日(07年08月20日)に
那覇空港で発生した、中華航空機の炎上事故。


乗員乗客165人全員が無事避難できたことから

「奇跡の脱出劇」

などと言われていますね。

一歩間違えば、
多数の死者が出た大惨事になっていたところでした。


さて、今回の脱出がうまくいった理由として

「90秒ルール」

が挙げられていたのを
お聞きになった方もいらっしゃるでしょう。


これは、アメリカ連邦航空局が制定した規則です。
具体的には、

「緊急時に乗客乗員全員が、
 航空機のすべての脱出口のうちの半分を使用して
 90秒以内に脱出が可能でなければならない」

というもの。

そして、航空機の非常口の数や位置は、
この90秒ルールが守られるように設計されている
というわけです。

炎上した中華航空機からの実際の脱出時間は、
1分とも2分とも言われていますが、ともあれ、
極めて短時間に、脱出が完了したことには違いありません。


さて、こうした非常事態時にもうひとつ重要なのが、
適切な指示を出せるリーダー(あるいはガイド役)の存在です。

中華航空機の場合、機長や客室乗務員の的確な誘導・指示が
あったと報道されていますね。(ただし、この点については、
乗客の話との食い違いが指摘されていますが)


人や車などが引き起こす

「渋滞」

について横断的な研究成果をまとめた本、

『渋滞学』(西成活裕著、新潮社)

には、建物内で火災が発生した場合に、

「どの方向に逃げるか」

を聞いたアンケート結果が紹介されています。

---------------------------------------

1位:放送や指示に従う(47%)

2位:煙の危険から遠ざかる方向(26%)
3位:非常口や階段の方向(17%)
4位:他の人の逃げる方向についていく(3%)
4位(同率):人の空いている方向にいく(3%)

---------------------------------------

ほぼ2人に1人が、

「放送や指示に従う」

と回答している点が興味深いですね。


同書では、

パニックになると人間は的確な判断ができなくなり
他人に追従する傾向が強くなること

を示し、だからこそ、

リーダー(ガイド役)の的確な「指示」の有無が、
危険から安全に逃げられるかどうかの鍵を握っていること

を強調しています。


話が飛躍するようですが、
企業が直面するさまざまな危機発生時において、
リーダー自身が右往左往してしまい、
的確な指示を出せなかったらどうなるでしょうか?

言うまでもなく、危機から無事脱出できる可能性は
限りなく低くなりますよね・・・


*「渋滞学」は、やや高度な内容ではありますが、
 切り口が実に面白い良書ですよ。
 聞きなれない専門用語・学術用語が頻出しますが、
 文章自体は平易に書かれています。

『渋滞学』(西成活裕著、新潮社)

投稿者 松尾 順 : 09:59 | コメント (2) | トラックバック

日本で一番差別化を図る会社

日本一休みが多い会社はどこか、ご存知ですか?


年末年始20連休。夏休みとゴールデンウィークは各10連休。
祝日が木曜か火曜なら、中日を休みにして4連休。

その結果、年間休日は140日。

就業時間は、朝8時半~午後4時45分。
残業原則禁止です。

世の中にこんな会社があるのかと驚きますよね。


質問の答えは、メディアでも紹介されることの多い

「未来工業」

です。

ちなみに、「未来工業」という社名は、
同社創業者、山田昭男氏が若いころ結成した

「未来座」

という劇団からきています。


同社では、建物の電気工事に使う各種機器や工具等を
開発・販売しています。

直接の販売先は、主に2次問屋。
そこから、電気工事業者、ユーザーへと製品は流れていきます。

そして、最大の競合は、


“世界のナショナル”松下電工

です。


失礼ながら、未来工業は、
岐阜に本社を置く地方の中堅企業に過ぎません。

しかし、70-80%のシェアを誇る製品を多数有し、
経常利益率15%以上をキープしている

「エクセレントカンパニー」

なのです。


さて、同社が製造する「電気設備資材」は、
材質やつくり方(仕様)が、法律(電気用品取締り法)で
細かく決められています。

仕様を変えすぎると「法律違反」になります。

このため、どの会社も同じような製品しか作れない、
差別化のきわめて困難な事業分野です。


ところが、同社では、

「未来工業は、よそと同じものはつくらん」

と決めたそうです。

そして、法律で縛られた仕様の範囲内での細かい工夫、
すなわち「差別化」をとことん追求していったのです。


たとえば、壁の裏側に取り付ける

「スライドボックス」

という製品があります。

これには、従来「15ミリのビス」が付属していました。
しかし、壁が厚い場所があると15ミリのビスでは
取り付けられない。

このため、職人さんは、わざわざ長いビスを買いに
工具店に走っていました。

そこで、未来工業では、

「20ミリのビス」

を付けることにしたのです。


「長いビスがついているのは未来工業にしかないよ。
 日本で初めてだよ」

「本当だ、それは買いたい」

というわけで、
みんな未来工業の製品を買ってくれるように
なったのです。


これこそ

「コロンブスの卵的アイディア」

ですねぇ。

しかし、こうした差別化の積み重ねが、
松下電工をも凌駕する製品開発につながっています。


私が興味深いと感じたのは、
山田昭男氏の次の言葉です。

“ある日突然、差別化しろといってもできるもんじゃない。
 ものづくりという本番に向けて「常に考える」という
 スローガンのもと、あらゆるものを差別化し、訓練を
 しておく。芝居と一緒で大切なのは稽古だ”


なるほど。「差別化の訓練」ですか。
休日が長いのもその差別化のひとつですね。


同社内には、

「常に考える」

というスローガンが、階段の踊り場、廊下の壁、
防火扉など、10メートルごとに貼ってあります。

そして、どんなくだらないアイディアに対しても、
500円を現金で払う「報奨金制度」を設けることで

「常に考えること」

を動機付けています。


こうして、未来工業は、

「日本で一番差別化を図る会社」

となったわけです。


山田氏は言います。

“一見バカげたことでも、一生懸命、継続していれば、
 すごいパワーを発揮するようになるものだ”


「うちの事業・製品は、差別化が難しいんだよな・・・」

と嘆いている他の企業さんは、

「差別化の訓練」

が足りないんじゃないでしょうか?


(参考文献)

・『楽して、儲ける』
(未来工業・創業者 山田昭男著、中経出版)

・[野中郁次郎の成功の本質](Works Aug.-Sep. 2007)

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(8)影響方略-1

相手に影響を与えるための具体的な「働きかけ方」のことを

「影響手段、影響方略」
(Influence tactics、Influence strategy)

と呼びます。

なお、今後は「影響方略」で統一します。

「影響手段」よりもイメージが高尚で、
もっともらしく聞こえるからです。

これも、「影響力」を意識した言葉の選択です。(笑)


また、「影響方略」においては、
これまで紹介した6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

を適切に活用することにより、
相手に影響を与えることに成功しやすくなります。


さて、

『影響力を解剖する』

では、18種類の「影響方略」が挙げられていますが、
これら18種類を

・賞影響力に関連する影響方略
・罰影響力に関連する影響方略
・賞罰に関連しない影響方略

の3つに分類して説明が行われています。


今回は、

「賞影響力に関連する影響方略」

に分類されている5項目を簡単にご紹介します。


[賞を与えることを約束する]

母親が、夏休みの宿題をやったらアイスクリームをあげる
と子供に言うのはこれ。最もシンプルな方略ですね。


[第三者から賞がもらえることを指摘する]

自分の部下に対して、「この仕事を成功させれば、
きっと部長も喜ぶだろう」などと言うのが該当します。

自分よりも、相手に影響力の高い第三者を引き合いに出すこと
が有効な場合もありますね。


[依頼をする前に賞を与えておく]

以前、紙のアンケートを送付する際、
協力依頼状と共に、事前に謝礼のテレフォンカードを
同封しておくという方法をやったことがあります。

これは、相手に強引に「貸し」を作らせ、
アンケートに答えないと悪いなと思わせることで、
回収率を高めることが狙いでした。
(確かに効果ありました)

こうした

「依頼する前に賞を与える」

というのは、いわゆる

「返報性の規範」
(人から受けた恩義には、お返しをしなければならない)

を活用したものです。


[以前に与え手が受け手にしてあげたことを思い出させる]

「昔の恩義を忘れてるんじゃない?
 思い出したら、今回は私のお願いを聞くしかないでしょ!」

などと言われた経験は誰でもあるでしょう。

あなたが、何か頼みごとをしたい相手がいたら、
以前、その人に何か「貸し」がなかったかどうかを考え、
それをネタに相手を揺さぶるのです。
(言われなくてもこの影響方略はよく使ってるよ、
 ということでしたら大変失礼しました)


[受け手をよい気持ちにさせる]

「賞」には、金銭的なものと心理的なものがあるのでした。

相手をほめたり、持ち上げたりして

「よい気持ち」

にさせるのは心理的な賞=「心理低報酬」です。

端的に言えば、「ゴマをする」ことです。
でも、効果は高い。

ちょっと社内を見回してみたら、

「ゴマすりの才能だけで昇進した人がいかに多いか」

ということを実感される方もいるでしょう。


人は、自分が大切にされること、すなわち

「自己尊重感」

や、他人に認められること、すなわち、

「承認欲求の充足」

にいかにメロメロになるかということでもあります。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 10:58 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(7)影響力の源-3

過去2回でご紹介してきた6つの影響力の源、すなわち、

・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力

は、影響の与え手が、なんらかの

「資源」

を持っていることによって発揮されるものです。


ここで、「資源」とは、その人固有の

「強み」

と言い換えることができるでしょう。

たとえば、

・「賞」、あるいは「罰」を与えることができる(賞、罰影響力)
・地位が高い(正当影響力)
・専門知識がある(専門影響力)
・尊敬に値する行動力や好意を抱かせる魅力がある(参照影響力)
・理路整然と話せる、具体例を示せる(情報影響力)

といったことです。


しかし、こうした「資源」を持たなくても
影響力を行使することが可能です。


『影響力を解剖する』

では、与え手が「資源」を持っていない場合の影響力の源
として、次の3つが示されています。

・対人関係影響力
・共感影響力
・役割影響力


[対人関係影響力]

これは、ことわざで言えば、

「虎の威を借る狐」

のようなものです。

つまり、影響力を持つ他人を自分の見方につけて、
影響を与ようとすること。

企業内では、実力のある上司や同僚などに
あらかじめ根回ししておくことで、会議で自分の意見を
首尾よく通そうと画策することがありますが、これは

「対人関係影響力」

の駆使にあたります。


[共感影響力]

端的にいえば、

「泣き落とし作戦」

のこと。


自分の苦境を訴えることによって、
相手の共感(というより「同情」ですかね)を得て、
相手の行動を引き出そうとすること。

たとえば、資金繰りに行き詰まり、倒産目前といった時、

「今の私では、なにもお返しできませんが・・・」

と開き直って頭を下げるしかありませんが、
変にやせ我慢するよりも、
かえって相手が受け入れてくれやすいのです。


この意味で、

「共感影響力」

は、逆説的な影響力です。


[役割影響力]

これは相手との社会的な関係に基づいて、
影響を働きかけること。


たとえば、市民が市役所に対して、
駅前に駐輪場を設置するように要求したり、
あるいは、会社の上司に対して、部下たちが
新規事業の行く末について、明確な方向性を
示してほしいと依頼すること。


すなわち、市役所や上司といった立場において
一般に要求される役割や義務が果たされていないような時に、
市民や部下は、彼らよりもある意味、弱い存在でありながらも、
影響を与えることができます。

もちろん、相手が聞く耳をもっていなければ効き目がありません。


しかし、役割影響力を無視し続けてしまうと、
国(企業)によっては、反乱が勃発し、

「革命」

という体制側にとって最悪の事態を生んでしまうわけですけど。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 13:34 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(6)影響力の源-2

「影響力の源」は次の6つでした。
(米国の社会心理学者、フレンチとレイヴンの説)


・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力


今回は、後半の3つについて簡単に解説します。


[専門影響力]

医者から、

“「タバコ」を吸うのは体に良くない”

と言われたので、長年吸い続けてきたタバコをやめることにした。


学問、スポーツ、料理、芸術など、
さまざまな領域において、人よりも豊富な専門的知識や技能を
身につけていることによって生じるのが

「専門的影響力」

その道のプロの言葉なら、素人の自分よりも信憑性が高いだろう
と影響の受け手が考えやすい。だから、影響力が高くなるわけです。


健康関連商品の広告では、よくお医者さんが登場しますが、
これは「専門的影響力」を購買意欲の喚起に活用しているわけです。


さて、「専門的影響力」が効果を発揮するためには、
影響の受け手が、相手の「専門性」を認めていることが前提です。

医師のように国家資格の場合は、
資格を取得していることで「専門性」が担保されますから、
上記の点は問題なりません。

しかし、たとえば「経営コンサルタント」のような職業の場合、
「専門性」を担保されるような資格は実質存在しません。

MBAホルダー=名経営コンサルタント

とは限らないのは言うまでもないですよね・・・


そこで、『影響力を解剖する』には、
専門影響力を高める方法として、

受け手に対し、折に触れて

「自分の専門性の高さ」

を呈示していくことが挙げられています。

こうした機会を積み重ねることによって、
「専門性の高い人」というイメージが強化されていくわけです。


ですから、様々な分野の専門家が、
現在、ブログやメルマガで積極的に情報発信を
行っているのは、

「専門的影響力」

を向上させるためなのです。


逆に言えば、
どんなに自分では専門性が高いと思っていても、
情報発信を通じた「専門性」の呈示が十分でない場合、
専門的影響力は高まりません。
(誰もが認める専門的な資格を取得している場合を除いて)

結果的に、

「話を聞いてもらえない、信頼されない」(=仕事が来ない)

ということになりますね。


なお、「専門的影響力」を
自分の利益誘導のためだけに活用した場合、
相手からの信頼を失ってしまうことも忘れてはいけません。

たとえば、私の経験ですが、以前通っていた歯医者さんで、
保険の効かない高額の金歯をかなり強引に勧められたことが
ありました。

金歯の方が良いのはわかりますが、
その歯医者さんは「金儲け主義」に走っている印象が強くて、
治療途中で、別の歯医者さんに切り替えてしまいました。


[参照影響力]

「参照影響力」は、

「無意図的な影響力」

のひとつとしても、すでにご紹介しました。

*影響力を解剖する(2)無意図的影響力-2


私たちは、小さいころから、
親をはじめとする周囲の人々の「考え方」や「行動」を
真似ることによって、「生き方」を学んできています。

ですから、

「あのような人になりたい」

という願望が、
心の奥深く植えつけられているんじゃないかと思います。

このため、命令されたわけでもないのに、

「あこがれの人」(理想像)の

しぐさや服装を勝手に真似したりするわけです。


そしてまた、こうした尊敬や好意を抱いている人からの

依頼や指示・命令

だったら、私たちは喜んで聞きますよね。


最近、ビジネスでは

「人間力」

という言葉がキーワードになっています。


優れたビジネススキルを有しているだけでなく、
明確なビジョン、ぶれない決断力や危機対応能力、
部下育成能力、そしてまた

「人としての魅力の高さ」

を備え持つリーダーは、
あえて「賞影響力」や「罰影響力」を駆使しなくても、

「あの人のためにがんばりたい」

といった「自発的」で
高いモチベーションを部下に与えることができるからです。


[情報影響力]

これまで紹介してきた5つの影響力は、

「外的な刺激(賞、または罰を与える)」

または

「誰が言うか」

ということが影響力を左右してきました。


しかし、「情報影響力」は、語られる言葉、文字そのもの、
すなわち「内容」(コンテンツ)自体が持つ影響力です。

理路整然とした展開、様々な具体事例を挙げながらの話って、
語り手が誰であるかにかかわらず、

「なるほど、そうなんだ」

という印象を持ちますよね。


つまり、内容自体が優れていると
それだけでも高い説得力を持ちうるわけです。

実際、狂信的なカルト団体のメンバーを
その団体から脱会させる時に有効なのは、
強い「参照影響力」を持つ教祖の話の論理的矛盾を突いたり、
メンバー本人の思考や行動の不合理さを会話を通じて
自覚させるといった、

「情報影響力」

活用のアプローチだと聞いたことがあります。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 11:20 | コメント (2) | トラックバック

追い越し車線、走行車線、どっちが早く着く?

お盆のこの時期、帰省や旅行に車で出かけられる方は、
とんでもない高速の大渋滞に巻き込まれますよね・・・


さて、我が家では、

(妻)「ほら、追い越し車線が空いてるじゃない、移ったら!」

(私)「う、うん」

(妻)「あ、今度は走行車線が空いたよ」

(私)「あーうるさいなあ、もう。こせこせ動いたって、
    どうせ到着時間は何分も変わらないよ・・・」

などという会話を毎回、高速渋滞上で交わしています。


ただ、結局のところ、
渋滞時には追い越しと走行車線のどちらが早く着くのか、
夜も眠れないほど何年も前から気になっていました。


ところが、ちゃんと答えは出ていたんですね。

高速道路での実地調査の結果によると、
渋滞しているときは、走行車線の平均速度のほうが、
追越車線より速いことがわかっています。

つまり、「走行車線」のほうが早く目的地に着くのです!


こうした結果になる理由は、一言でいえば、

「合成の誤謬」

ですね。


一人ひとりの行動が、全体としては悪い結果を招くのです。

すなわち、みんな早く着きたいと思い、
追い越し車線に変更するために追い越し車線が過密となり、
1台あたりの平均速度が低下してしまう。


しかし、この

「走行車線の方が速い」

という真実をみんなが知ってしまうと、
誰も追い越し車線に変更しなくなるので、
今度は走行車線のほうが遅くなってしまうでしょうね。


集団行動は、振り子のように左右に大きく振れるもの。
ちょうどいいというのはなかなかありません。

投稿者 松尾 順 : 05:08 | コメント (2) | トラックバック

ブラウザー認知度ランキング

インターネット閲覧ソフト(ブラウザー)に
ついての最新の調査結果によると、「ソフト名を知っている」、
すなわち、「認知度」のランキングは次の通りです。
(日経新聞夕刊、2007/08/14)

-------------------------------------------------

1 インターネット・エクスプローラー(IE) → 94.1%
2 ネットスケープ・ナビゲーター → 45.6%
3 ファイヤーフォックス → 25.6%
4 オペラ → 25.4%
5 スレイプニール → 13.0%
6 サファリ → 11.7%
7 ルナスケープ → 9.2%

--------------------------------------------------

すでに4年以上バージョンアップがストップしている
「ネスケ」を、今でもほぼ2人に1人が知っている
(覚えている?)のは面白いですね。

一方、ファイヤーフォックスを始めとする
新興勢力ソフトは、せいぜい4人に1人くらいしか知りません。


今後、こうした新興勢力の認知度が高まったしても、
実際に利用してもらうハードルはさらに高いですよね。

私自身、「ファイヤーフォックス」や「サファリ」は
一応インストールしてます。

でも、ブックマークを移したりするのが面倒で、
結局「IE」に戻ってしまいます。


また、使い勝手の良さから、タブブラウザーの

「スレイプニール」

を一時期使ってましたが、
長々と回答した「オンラインアンケート」が
送信できなかったという経験をして以来、
スレイプニールは使う気になれません。

上記のがっかりした経験は2年ほど前のことですが、
当時はスレイプニールだと

「送信フォーム」

が機能しないサイトが結構ありました。

今は改善されているんでしょうかね。


<調査概要>
実施日:2007年8月6-7日
対象者・数:全国の18歳以上のネット利用者1030人(男女同数)
調査実施:マクロミル

投稿者 松尾 順 : 09:03 | コメント (2) | トラックバック

自宅最寄り駅前の「ファミマ」。

最近、警察官の

「実写原寸大パネル」

が入り口に置いてあることに気づきました。


「警察学校出たてです!」

といった感じの凛々しい若者がモデル(たぶんホンモノ)なので、

「威圧感」

はありません。


でも、写真とは言え、
警察官の制服姿には一瞬ギョっとしますね。


このパネル、強盗撃退が目的なんでしょうか?

心理的な予防効果が多少はありそうですけど、
カラスの撃退法と同様、一時的な効果しかないのでは?


それと、このパネルはこの店だけのアイディアなのか、
それとも、ファミマ本部が制作して、
全国の店舗に配布しているのかどうか気になってます。


あなたの近くのファミマには、

「警察官実写原寸大パネル」

立ってますか?

投稿者 松尾 順 : 08:59 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(5)影響力の源-1

影響の与え手が、
なんらかの目標(意図)を持って受け手に働きかけ、
首尾よく目標を達成するために重要、あるいは有効なこと。

言い換えると、影響力をもたらしているもの。

それを

「影響力の源」

と呼ぶことにします。


これまでの研究では、
影響力の源は次の6つがあるとされています。
(米国の社会心理学者、フレンチとレイヴンの説)


・賞影響力
・罰(強制)影響力
・正当影響力
・専門影響力
・参照影響力
・情報影響力


今回は、最初の3つについて簡単に解説します。


[賞影響力]

“夏休みの宿題やったら、おこづかいあげる”

お子様のいらっしゃる家庭では、
こんな会話が交わされているところもあるでしょう。

なんらかの「賞」=「報酬」で
相手を動かそうとするのが「賞影響力」ですね。

「アメとムチ」のアメのほうです。


さて、賞(ごほうび)は、

・金銭的報酬
・心理的報酬

の2つに大別できます。

「金銭的報酬」は、現金や物品などの金で換算できるもの。
「心理的報酬」は、賞賛や承認などの金で換算しにくいもの。


ただ、私の個人的な見解ではありますが、
‘社会的動物’である私たち人間にとって、

「認められたい」(存在を認知されたい、必要な人間と認められたい)

という欲求、すなわち「承認欲求」が対人関係における行動
においてもっとも大きな要因となっていると考えています。
(「金銭的な成功」を目指している人も、結局は、
 承認欲求を金銭的に満たそうとしているのです)

したがって、「賞」(報償)としては、

「承認」(あなたはかけがえのない人間である)

をしてあげることがもっとも有効でしょう。

ちなみに、ビジネスのためのブログは除き、
世の中の多くの個人ブロガーがコツコツとブログを書く原動力と
なっているのは、この「承認欲求」だと考えてます。

ブログにつくコメントやトラックバックは、

「承認」

の目に見える形だと思います。(好意的であれ敵意的であれ)

読み手の反応が目に見えにくい従来のホームページ式日記と
違ってブログが爆発的に増えたのも当然でした。


[罰(強制)影響力]

「アメ」と「ムチ」の「ムチ」のほうですね。

「私の言うことを聞かないのなら、
 身体的、または精神的な苦痛を与えるよ」

というのは罰影響力を行使している状況です。


なお、「賞を与える」(アメ)、逆に「罰を与える」(ムチ)は
両極端の影響力の源ですが、どちらも、
「賞」か「罰」を相手に思いのままに与えられる状況
(双方が属している家庭とか、会社などの組織・集団)に
あるからこそ影響を及ぼすことができるわけです。

したがって、上記のような「縛り」が弱い関係では、
当然ながら、賞影響力、罰影響力は低下してしまいます。
(別のところから賞を得られる機会や、あるいは
 罰を回避できる可能性があるからです)


[正当影響力]

組織の中では、指示系統がはっきりしています。
もっとも明快なのが「軍隊」でしょう。

子の場合、部下は上司(上官)の命令に
原則として従わなければなりません。

あるいは、公的な場においては、
治安の維持のために働く警察官の指示に、
われわれ一般市民は原則として素直に従います。


上司(上官)や警察官は、社会的な規範に基づく

「正当影響力」

を行使することができるわけです。


このほかにも「正当性」をもたらすものとしては、

・血筋(王家の血を受け継いでいる等)

が挙げられますね。


また、『影響力を解剖する』では、
他の人より多くの賞や罰を持っていることで、

「正当性」

が高めていくことにつながる述べられています。


確かに、賞や罰を与える側が、
ある意味「受け手」よりも「偉い」という感覚が
生じてくるものですよね。

自然発生的な「番長」が、周囲が認める

「正当影響力」

を行使できるようになるのは
端的にいえば、最もケンカが強い、
つまり最大の罰を与えることができる点と関係しています。


なお、お気づきだと思いますが、
企業・組織内で「正当影響力」を悪用するのが、

「セクハラ」や「パワハラ」

と呼ばれる行為ですね。
(実質的には、「罰影響力」を背景にしてますが)


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 11:01 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(4)意図的な影響

今回は「意図的な影響」についてです。


意図的な影響の場合、
影響の与え手には、何らかの「目標」(意図)があって、
受け手に影響を与えようとします。


この時、与え手が持つ「目標」(意図)を受け手に

・わかるように見せる(明示的)
・わからないようにする(隠ぺい的)

という目標の見せ方の違いで、
影響力を2つに細分することができます。


目標を明示して意図的に影響を与えることは、
私たちが日常的にやってることですね。

(友人に)「荷物を運んでくれるかな?」・・・依頼
(部下に)「明日までに企画書を作成するように」・・・指示

など。


一方、「隠ぺい的」な影響とは、
受け手が気づかないうちに、
与え手の望むような態度の変化や行動を
取らされてしまうことですから、

「策略的」

な意味合いがありますね。
直截に言ってしまえば、「相手をだます」こと。
(行き過ぎると「犯罪」になりますね)


実は、

「相手を思いのままに動かす法」

みたいな傲慢系の本で紹介されている

「説得テクニック」

の多くは、この「隠ぺい的影響力」の使い方です。


さて、この隠ぺい的影響力の行使方法として、
『影響力を解剖する』では、

・テクニカルな依頼法
・議題のコントロール
・情報操作
・環境操作

などがあると述べられています。


[テクニカルな依頼法]

「テクニカルな依頼法」は、
『影響力の武器』にもさまざま紹介されています。

例えば、最初に断られるのを承知で、
大きめの依頼(例:10万円貸して!)をしておいて、次に、
承諾させたい真の依頼(例:じゃあ、1万円でいいから貸して!)
をするテクニックがあります。


「ドア・イン・ザ・フェイス」

と呼ばれるものです。

これは、依頼する側が意図的に譲歩(10万円→1万円)することで、
相手にも「こちらも譲歩しないと悪いな」と思わせることによって、
相手からの承諾を引き出す方法。

こうしたテクニックは、
何段階かのコミュニケーションが行われるので、

「段階的依頼法」

と呼ばれています。


セールスマンが頻繁に活用しているテクニックですよ。
詳しくは、『影響力の武器』をご覧になることをお勧めします。


[議題のコントロール]

「議題のコントロールは、
会議を開く際に、あらかじめ議題を選んでおくことによって、
やっかいな話になりそうな議題を避けたり、
問題の起きないように議題の順番づけをすることです。


[情報操作]

「情報操作」は、
自分に都合のよい情報だけを伝えたり、逆に
都合の悪い情報は流さない、といった行動のこと。

「広告」の信頼性が疑われるのは、
消費者が、広告における「情報操作」のにおいを
かぎとってしまうことにあると言えます。


[環境操作]

スーパーのBGMにテンポのよい音楽を流すことで、
来店客の購買意欲を高める、

といったように「環境」を操作することによって、
受け手が影響を受けやすくすることです。


「環境」とは、具体的には、

環境音楽(BGM)、香り、照明、室内のレイアウト
(机の配置など)

のこと。


異性を口説く際に、
照明を落とした落ち着いた雰囲気の店を選ぶのも、

「環境操作」

であることは言うまでもありません。


「香水」をつけるのも環境操作と言えますね。

コマーシャルやWebサイトを見る限り、

「一瞬にして女性を虜(とりこ)にしてしまう」

と期待させる男性用フレグランスボディスプレー

「AXE」

の効き目は実際どんなもんでしょうね?


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (2) | トラックバック

影響力を解剖する(3)無意図的影響力-2

「人に影響を与えること」は、大きくは

「意図的」と「無意図的」

に分けることができるということでした。


そして、無意図的な影響力は、

『影響力を解剖する』

では、次の6種類が挙げられています。

・参照影響力
・行動感染
・観察学習(モデリング)
・傍観者効果
・社会的促進・社会的手抜き
・漏れ聞き効果


今回は、このうち後半の3つについてご紹介します。


[傍観者効果]

高齢者や妊婦が社内に乗り込んできても、
誰も席を譲ろうとしないので、自分も寝たふりをしてしまった。

これが傍観者効果。


周囲に人がいると、

「自分以外の誰かがやってくれるだろう」

と考え、文字通り「傍観者」になってしまうことです。


他人の存在が、無意識に自分の

「見て見ぬふり行動」

を誘発してしまうのですね。


実は、傍観者効果が見られる出来事は、
かなり頻繁に起きています。

ちょっと前のことですが、
列車内で隣に座った赤の他人の男性に脅され、
暴行された女性を満員の乗客の誰も助けなかった
という事件がありました。


また、以前友人から聞いた話ですが、
ある外国人の方が空港の待合室で気分が悪くなった。

ところが、明らかに具合が悪いことが見てわかるのに、
誰も声をかけてくれなかったそうなのです。


傍観者効果は、残念ながら
個人の倫理観では防げない問題です。

しかし、自分が当事者というか、
例えば、街中で倒れてしまった時に誰も助けようと
してくれなかったら大変ですね。


こんな時の解決策は、通り過ぎる特定の人に向けて、

「そこの赤い服の人、助けてください」

などと呼びかけることなのだそうです。

こうすることで、多数の人がいることによって
分散してしまった「社会的責任」を特定の人に
押し付けてしまう。

さすがに、名指しされて無視する人は少ない。
そして、一人が助けると周囲の人も寄ってきてくれます。


[社会的促進・社会的手抜き]

一緒に勉強する仲間がいると勉強がはかどる。


こんな現象が、「社会的促進」です。


他者(観察者や共行動者)の存在が、
自分の作業の量(増加することも減少することもある)に
影響を与えてしまうのですね。

社会心理学者のザイアンスによれば、
他者(観察者や共行動者)がいることによって、

慣れている仕事の場合には作業量が増加し、
慣れていない仕事の場合には作業量が低下する

ことがわかっています。


一方、「社会的手抜き」とは、
単純作業を何人かで一緒にしているときに起きる現象。

これが「社会的手抜き」です。
傍観者効果に近い心理があるように思いますが、
集団で同じことをやろうとすると、一人ひとりの
モチベーションが下がってしまうのです。


たとえば、運動会の綱引きの時、
自分だけ力を入れているふりをしませんでしたか。

周りが力を出してくれるから、
自分くらい手を抜いても大丈夫だろうと
考えてしまうのですね。
(こんな人が多かったら負け確実・・・)


私の勝手な推測ですが、綱引きの勝敗は、

・どっちが力持ちの人間が多かったか

ということではなく、

・どっちが「社会的手抜き」をする人が多かったか

で決まるんじゃないかと思います。


なお、会社の会議などにおいても、
この社会的手抜きは発生しています。

ブレストみたいにある程度全員発言を義務付けないと、
他人にしゃべらせといて、

「自分はただ聞いてることにしよう」

と考える人が発生してしまいます。


『影響力を解剖する』では、
社会的手抜きを防ぐ方法として次の3点が紹介されています。

(1)単純作業ではなく、挑戦的な多少難しい仕事にする
(2)各人に少しずつ異なる作業を与える
(3)各人の責任の分担を明らかにしておく


[漏れ聞き効果]

電車に乗っていて

「○○銀行は危ないんじゃないの」

と話しているのをたまたま聞いて、なんとなく不安になり、
口座から金を引き出した。


こうした、いわゆる「うわさ」を偶然聞いたことで、
自分の行動に変化が生じてしまうのが

「漏れ聞き効果」

です。


なぜ偶然聞いた話に影響を受けてしまうのでしょうか。
その理由として、次の3つが挙げられています。

(1)偶然に会話に接するので、面と向かって話されるときよりも
   受け手に構えが生じにくい
(2)聞こうと思って会話に接したわけではないので、
   その内容から受ける衝撃が大きいこと
(3)会話をしている人が受け手に影響を及ぼそうという意図が
   ない(ように見える)ので、受け手に反発が生じにくい

考えてみれば、「ブログ」は、

「漏れ聞き効果」

が高い媒体ですね。

個人発ながら、「口コミ」と異なり、
不特定多数に向けられた情報発信です。

とはいえ、偶然に目にする機会がありますし、
作為的なものも増えてきたとはいえ、基本的には自然な内容
ですので。

ブログの影響力が増しているのもむべなるかな、です。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 13:12 | コメント (1) | トラックバック

影響力を解剖する(2)無意図的影響力-1

「人に影響を与えること」は、大きくは

「意図的」と「無意図的」

に分けることができます。


変な例ですいませんが、あなたは、ある晩、
酒を飲みすぎて金を使い果たし、
帰りのタクシー賃がなくなってしまいました。
(1回くらいこんな経験ありますよね・・・)

そこで、一緒にいた友人にお金を貸してもらおうと、
丁寧な言葉で頼んだところ、渋々ながらもお金を貸してくれた
とします。


この場合、あなたは、友人に対して

「意図的」

に影響力を行使したということになります。
つまり、意図的な言葉によって、相手から「金を貸す」
という行動を引き出したわけです。


一方、本人が意識しないのに、他の人に影響を与えてしまう、
また逆に、頼まれもしないのに、他の人の影響を受けてしまう
ということがあります。

「無意図的」な影響力です。


さて、無意図的な影響力は、

『影響力を解剖する』

では、次の6種類が挙げられています。

・参照影響力
・行動感染
・観察学習(モデリング)
・傍観者効果
・社会的促進・社会的手抜き
・漏れ聞き効果

今回は、このうち最初の3つについてご紹介します。


[参照影響力]

これは、たとえば、
好きなタレントや、尊敬する上司・先輩の服装や行動などを
真似することです。


参照影響力は、男性より女性のほうが大きいと
別のところで聞いたことがあります。

女性ファッション雑誌から、カリスマスーパーモデルが
次々と登場するのはそのひとつの現れでしょう。

女性は、スーパーモデルのような女性の理想像に憧れ、
彼女たちと同じ服やアクセサリーを身に着けたいと願う
気持ちが強いのです。

一方、男性ファッション雑誌のスーパーモデルは
それほど注目されませんよね・・・


[行動感染]

「空を見上げていると一群の人たちがいると、
 ついその人たちと同じ行動をとってしまう。」

「一人が信号無視をして横断歩道を渡り始めるのを見ると、
 自分も横断し始める。」

上記のような例が、行動感染です。


なぜ、無意識レベルで他人の行動を真似してしまうのでしょうか?

ひとつは「好奇心」から、もうひとつは、

「他者と同じような行動をしておけば間違いない、
 とがめられることはない」

という付和雷同的心理が働くからです。


これは、『影響力の武器』では、

「社会的証明」

という言葉で説明されています。


「社会的証明」とは、

「私たちは、他人が何を正しいと考えているかにもとづいて
 物事が正しいかどうかを判断する」

というものです。


「周りが買ってるから、自分も買わなきゃ」

という消費者心理が生み出す

「ブーム」

も「行動感染」のなせる業ですね。


[観察学習(モデリング)]

「お茶の心得がないのに茶会に呼ばれ、
どのように振舞ってよいのかわからないので、
作法を知っていそうな人の振る舞いをそのまま真似をする」

こんな例が「影響力を解剖する」に挙げられています。


人は、自分自身の体験からだけでなく、
人の行動や体験からも学ぶことができます。


ちなみに、

「人の振り見て我が振り直せ」

ということわざは、「観察学習」が下手な人に
向けられた言葉です。(笑)


また、子供は、親の背中を見て育ちます。

すなわち、子供は最も身近な自分の「親」を
観察することによって、自分がどのように考え、
行動すべきかを学ぶ(真似る)のです。


本当に親の責任って、大きいですよね。

意図的にも、また無意図的にも、
子供に最も大きな影響力を行使しているのは

「親」

なんですから。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

投稿者 松尾 順 : 14:02 | コメント (0) | トラックバック

影響力を解剖する(1)イントロダクション

今日からしばらく、「影響力」とは何かということを
文字通り徹底‘解剖’した本、

『影響力を解剖する』

の内容を「徹底的」にご紹介していきたいと思います。


「影響力」といえば、ロングセラー本となっている

『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』

がありますね。


『影響力の武器』は、

‘相手からどうやって「YES」を引き出すか’
 (つまり「どうやって影響を与えるか」)

について、さまざまな分野の実践家(営業マンなど)の観察
を元に、実践的な説得テクニックが紹介されているものです。

ビジネスパーソン必読書と言っていいでしょう。


一方、

『影響力を解剖する』

は、説得テクニックにも多少触れられていますが、
より学術的に、「影響力」そのものを掘り下げています。

したがって、「影響力」の背後にある

「原理・原則」

を理解することに役立つ内容です。


アマゾンで見ると、現在本書は古本でしか入手できません。
おそらく絶版になっているものと思われます。

しかし、本書は、
高度な内容がわかりやすく記述されている良書です。
もったいないので、このブログ&メルマガでポイントを
しっかりお伝えしたいと考えています。


さて、

「人が、他の人に対して何らかの働きかけを行うこと」

すなわち「他者に影響力を与えること」は、
社会心理学の分野では、

「社会的影響」

と呼ばれています。


「社会的影響」とは、

・個人と個人の間

または、

・集団と集団の間

で影響を及ぼしあうことです。


ここで、「影響を及ぼす」というのは、

個人(集団)が、
他の個人(集団)の態度、行動、感情などを
前者の望むように変化させるために、
何らかの形で後者に働きかけること

です。

営業担当者が、見込み客に「購入」を
踏み切らせる「営業行為」はその典型例ですね。


したがって、
「影響力」を解剖するためには、

・影響の与え手(Influence Agent)
・影響の受け手(Influence Target)

という2者の関係があること、
そして、与え手から受け手へと影響を及ぼす

「働きかけ」(影響行動)

があるということを

「基本的な枠組み」

としている点をまずご理解ください。


---------------------------------------------
   「影響力」解剖のための基本的な枠組み
---------------------------------------------

影響の与え手 →→→→→→→→ 影響の受け手
         (働きかけ:影響行動)

---------------------------------------------


なお、本書では、集団ではなく、主に個人間での

「影響の及ぼしあい」

に焦点があてられています。

では、次回から本格的にこの本を読み込んでいきます。


『影響力を解剖する』
(今井芳昭著、福村出版)

『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、誠信書房)

投稿者 松尾 順 : 14:12 | コメント (3) | トラックバック

フライドチキン70円事件

毎日のように立ち寄る事務所近くの某コンビニ。


昨日、レジの後ろに貼ってあった

「フライドチキン70円-数量限定-」

というのを見て2個注文したんですよ。


ところが、レジにいたオヤジさん(店長)が、
110円(通常価格)x2と打っていたので、

“あれ、1個70円じゃないんですか?”

と聞いたら、

“あ、それはもう終わりました・・・”

との答え。


“だって、後ろにデカデカとチラシ貼ってあるじゃないですか!”

というと、その場でチラシをはがし、チキンを渡しながら

“すいません”


はあ・・・

あなたは、“すいません”だけで終わりにするんですね!

と思わず口に出しそうになりました。


その場で、オヤジさんに、

「チラシがまだ貼ってあったんだから70円にしなさいよ」

あるいは、

「不愉快だから返品するよ」


と言っても良かったのですが、
気弱な私は黙って受け取ってきました。


実はこの店、長年使ってるのである程度事情が
わかってるのですが、オーナー店長のオヤジさんは、

「いらっしゃいませ」

もろくに言えない人。商売に向いてないんですよ。


一方で、奥さんの方はとても気さくな方で好感度120%。

「来週、フライドチキンの70円セールがありますよ!」

なんて教えてれたのも奥さんでした。


たぶん酒屋転業組のご夫婦。

昔ながらの酒屋だったら、
奥さんが店を切り盛りして、無愛想なオヤジさんは
酒の配達に出かけるという役割分担で
うまくいってたんんだろうなあと思います・・・

投稿者 松尾 順 : 00:59 | コメント (0) | トラックバック

昨日、帰宅中に松戸駅で途中下車し、

「みどりの窓口」

に立ち寄りました。

夜9時過ぎなのに、結構込んでるんですね。
番号札を取るとき、9人待ちでした。


自分の番がやってきたのは、結局15分後。
こんな時、私は本か雑誌を読むことにしています。

ですから、あっという間に自分の番号が呼ばれる感じです。
後ろの用事がなければあと30分待たされても平気!


ところが、周囲で同じように待ってる人を見ると、
一人だけ携帯を操作していた以外は、
漠然と窓口を凝視しながら、なにもしないで、
‘ただ’待っていました。

おそらく、

「早く自分の番が来ないかなあ」
「こいつ、ずいぶん時間かかってるなあ」

とか考えながら。


それぞれ、自分の時間をどうしようと本人の勝手ですから、
よけいなお世話ですが、なんかしたらどうでしょう?

読書じゃなくても、ゲームでもなんでもいいから。
なんかすごくもったいない。


「待ち時間」だからと、
受動的に時間が流れるままにしておくのではなくて、
能動的に考えて、自分がやれることをやれば、
単なる待ち時間でさえ、有効に活かせたことになりますよね。


いや、ほんと、人に取ってなにより大切にすべきものは、

「時間資源」

なんだと思うんですけど・・・


人生は有限。
40歳過ぎてから痛感しています。

投稿者 松尾 順 : 00:56 | コメント (0) | トラックバック

黒ひげUSBハブ

おなじみ、「黒ひげ危機一髪」に「4ポートUSBハブ」が、
‘単純にくっつているだけ’の製品が最近発売されてますね。

仕事の気分転換に、
黒ひげでちょっと遊べるというのはなかなか魅力的!


黒ひげの樽から伸びたUSBコネクターをパソコンにさすので、
このゲームはUSB電源駆動と思いきや、
そもそもこのゲームは電源不要なんですよねぇ・・・

でも、たとえ会社のデスクに置いていても、
普段は、USBハブとして使ってるわけですから、
誰も文句は言えません。


全然異なるものを単純に組み合わせただけでも、
魅力的な新商品になりえる好事例だと思います。

普通の黒ひげは、もはや買いたいと思いませんが、
「USBハブ」というゲームとは全然関係ない「実用性」が
付加されただけで、物欲が刺激されてしまうのは不思議です。


そうだ、次回作は

「人生ゲームUSBハブ」

というアイディアはいかがでしょうか?

デスクのスペースを取りすぎるという難点がありますけど・・・

投稿者 松尾 順 : 07:32 | コメント (0) | トラックバック

リクルートの

「R25」

は、先月(7月)で3周年を迎えましたね。


通勤帰りの時間つぶしとしては、
あいかわらず唯一の使えるフリーマガジンです。

欠かさず読んでます。


ただ、以前よりも、
ラックの減り方が遅くなってきたようです。

以前は、配布日の木曜日中に
あっというまになくなってました。

でも、いまは土曜日くらいまで残っていることが
多いです。(配布部数を増やしたのかな・・・)


さて、「R25」は、いまだ
東京京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏だけに配布場所が
限られていて、事業としては成長の限界、いわゆる

「踊り場」

にあるのかなと思います。


そこで、その打開策のひとつとして始めたと思っていた、

「R25デジタル版」

ですが、07/08/30号で休刊だそうです。


デジタル版であれば、配布場所の制約を超え、
飛躍的に配布部数が伸ばせると考えたんだろうな、
と私は解釈してました。

わずか1年足らずでデジタル版を休刊する理由は
現時点では明確にされてません。

なぜでしょうねぇ・・・?

投稿者 松尾 順 : 07:30 | コメント (5) | トラックバック

私は学生時代にちょっとの間だけ

「たばこ」

を吸っていました。

結局、あまり好きになれなかったので、
以来喫煙はしていません。


ただ、調査会社にいた時は、
タバコの販売動向調査に関わっていましたので、
日本で販売されていた全銘柄名を暗記していましたけど・・・


さて、先日、デザイン関連の話でタバコのことを調べるため、
JT(日本たばこ産業株式会社)のWebサイトにアクセスしようと
したら改めて驚きました。


「JTたばこブランド Webサイト」

を閲覧するには、専用のIDとパスワードが必要なんですね。


しかも、その登録手続きがきわめて面倒。

PC/ケータイサイトからプロフィールを登録した後、
専用の電話番号に電話をかけて、

「私は成人喫煙者です」

と「成人喫煙者宣誓」をしなければならんのです。


タバコの広告に対する規制は、年々強化されてきてましたが、
ネットでの情報提供もここまで厳しく制限していたとは!

投稿者 松尾 順 : 07:27 | コメント (2) | トラックバック

「切る」「捨てる」発想(2)

今回は、スーパーマーケター、森行生さんが説く、

「ヒット商品の生み出し方」

の手順のご紹介です。


まずは、新商品のアイディアを200-300くらい出します。

それを、次の段階で150案、さらに50案、
そして最終的に「10案」程度まで絞り込んでいきます。


これこそが「ヒット商品」を生むために、
ばっさりと

「切る」「捨てる」

作業です。


森さんによれば、この作業において
アイディアの良し悪しを判断する「ポイント」は、
次のたった二つだけです。

・「好きか・嫌いか」(優位性)
・「ありきたりか・ありきたりでないか」(差別性)

この2つの軸は、

「5段階評価」
(ex. かなり好き、やや好き、どちらでもない、
    やや嫌い、かなり嫌い)

で評価します。


そして、様々なアイディアを評価した結果を

縦軸:「好き-嫌い」(優位性の軸)
横軸:「ありきたり-ありきたりでない(差別性の軸)

のマトリックスに展開し、
「ポジショニンブマップ」(分布図)を作成するのです。
(いわゆる「ポートフォリオモデル」)


このマトリックスを大きく4つの象限に分けて
それぞれの象限に入ったアイディアの評価を表現すると
次のようになります。(右上から時計回り)

------------------------------------------------

◎第1象限(好き・ありきたりでない):スター企画

優位性も差別性も共に高いアイディアですね。


◎第2象限(嫌い・ありきたりでない):偏屈企画

優位性は低いが、差別性は高い。
くせのある企画という言い方もできそうです。


◎第3象限(嫌い・ありきたり):クズ企画

優位性も差別性も、共に低いアイディア。
売れないアイディア。


◎第4象限(好き・ありきたり):定番企画

優位性は高いが、差別性は低い。
どの企業も参入してきやすいので競争が激しい
ことが予想されるアイディア。

------------------------------------------------

これらのうち、当然ながら

「スター企画」

は最終候補に残します。


一方、言うまでもなく、

「クズ企画」

は早々と捨てる。


残る2つのうち、

「定番企画」

は、競争が激しいだけに大手じゃないと
体力的に戦えない。


そこで、森さんが最も注目するのが

「偏屈企画」

です。

ここにこそ、

「ヒット商品のねらい目」

が眠っていると、森さんは指摘しています。


さて、こうして絞り込んだアイディアは、さらに

「下線分析」

と森さんが呼ぶ調査にかけます。


これは商品コンセプトをA4数枚に、
詳しく書いて、消費者に読んでもらいます。
そして、読んだ人が気になった部分に

「アンダーライン」

を引いてもらうという調査手法だそうです。


この調査結果は、クロス集計してグラフ化。
すると、消費者が気になっていること、
求めていることが浮き彫りになってくる。

そのうえで、アイディアをさらに絞ったり、
似ているものを統合したり、男性と女性向けに
う分割するなど「洗練」させていくのだそうです。


以上のプロセスを森さんは、
次のように簡潔にまとめてくれています。

1 まずはアイディアを徹底的に「広げる」
2 次にそれを無慈悲に「切る」
3 そして残ったものを作り込む、すなわち「洗練させる」


ちなみに、この3つのプロセスのうち、
2の「切る」が最も重要なのだそうです。

あれやこれやと「付加価値」をつめこむのではなく、
ターゲットを明確にして「切る」という

「減産価値」

こそ重視すべきだからです。


なお、2回にわたってご紹介した森行生さんによる、

「ヒット商品の見極め方、生み出し方」
について詳細を知りたいかたは、

『予測する力養成講座』
(講談社MOOKセオリーVol.11)

を読んでみてください。


*(ご参考)森行生さん主要著作

『シンプルマーケティング』
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

『ヒット商品を最初に買う人たち』
(森行生著、ソフトバンク新書)

投稿者 松尾 順 : 12:15 | コメント (2) | トラックバック

「切る」「捨てる」発想(1)

「シンプルマーケティング」

の著者であり、近著の

「ヒット商品を最初に買う人たち」

も好調に売れているスーパーマーケター、
森行生さんが、珍しくムック本に登場されていました。


森さんは、

「予測する力養成講座」(講談社MOOKセオリーVol.11)

の中で、上記の本には書かれていないノウハウを
明かしてくれています。

そこで、ポイントを2回に分けて簡単にご紹介しておきます。


テーマは、

「ヒット商品の見極め方」

です。


森さんによれば、商品がヒットするかどうかは、

“ヒットしない要素をしっかり削ってあるかどうか”

で見極めることができるのだそうです。


なぜなら、ある商品がヒットするかどうかがわかる
(予測できる)確率は、せいぜい5-7割。
しかし、ダメな商品、ヒットしない商品は100%わかる。

ですから、

“商品からヒットしない要因を消してしまえば、
 ヒットする確率は大幅にアップするというわけです。”

とのこと。

そして、ここで大切なのが、

「切る」あるいは「捨てる」という発想

です。


商品のターゲットを設定するとき、
売る側としてはついついたくさん売りたいものだから、
ターゲットを広げすぎてしまいやすいですよね。

しかし、そうすると、ターゲットが広い分、
商品の訴求ポイントも拡散し、
何がなんだかわからなくなってしまいます。

ですから、まずは

「買って欲しくない層」

をきっちり決めることが大切。


「切る」「捨てる」発想によって
ターゲットを絞り込み、せいぜい3つまでにする。
これがマーケティングの基本であり極意。

この作業によって、ユーザーが分かりにくい要素が
すっきりと排除されると、森さんは指摘しています。


そして、この基本ルールを端的に言い表したのが、

「一目、一言、なるほど」

というフレーズ。


具体例としては、花王の「ヘルシア緑茶」。

一目で、「お茶」とわかる。

一言は、「カテキンが脂肪を燃やす特定健康用食品」

そして、メタボリック症候群を気にしている肥満の人に

「なるほど、身体にいいんだ」という共感をもたらす。

このように、ヘルシア緑茶の特徴やベネフィットが、
「シンプルでわかりやすい形」で消費者に伝わったから
ヒットしたのだそうです。


確かにヒットする商品は、
その魅力がシンプルに伝わってきます。

大ヒットしている任天堂のゲーム機、

「Wii」

なんかもそうですね。

投稿者 松尾 順 : 12:42 | コメント (0) | トラックバック

苦情学

西武百貨店で8年間にわたって

「お客様相談室」

を担当した関根眞一氏の著書、

「苦情学 クレームは顧客からの大切なプレゼント」

は読みましたか?


この本では、
顧客から寄せられる様々な苦情の適切な対処方法など、
関根氏が現場の体験からつかんだ

「実践的なノウハウ」

をわかりやすく紹介してくれています。


また、この本には、
常軌を逸した、とんでもないクレーマーたちと、
関根氏との壮絶なやり取り(闘い?)がリアルに
再現されているのですが、

「こんなやつらが世の中にはいるのか!」

と唖然とさせられますよ。


さて、関根氏によれば、
苦情対応には絶対に欠くことのできないものが
一つだけあるそうです。

それは、お客様の

「心理を察する」

ことです。


関根氏は、お客様相談室を担当してから、

「お客様の心理」

が読めるようになるまで5年かかったそうです。


そして、この5年間の関根氏の考え方の変化が、

「予測する力養成講座」(講談社MOOKセオリーVol.11)

のインタビュー記事で語られています。


“お客様相談室に配属されると、まずは会社の利益を
 保護する立場に立とうとするものです。
 会社や店舗のリスクにならないように、
 自分の言葉や態度に気をつけて対処する。”


これは間違いではないそうですが、
しかし「限界がある」と、関根氏は指摘します。

苦情を言う人たちをただ撃退するだけで終わっては
いけないからです。


関根氏の場合、お客様相談室に配属されてから1年ほどして

「店舗と顧客の中立の立場」

に立った考え方ができるようになりました。

関根氏は、

“そうすると、前よりも多くのことが見えてきたのです。
 でもそれでもまだ不十分でした。”

と答えています。


関根氏の考え方に
さらなる変化が起きたのは3年後のことでした。


“その頃から、ほぼお客様側の立場に立って
 物事を考えることができるようになりました。
 つまり、困っているのはお客様で、
 一刻も早く問題を解決したいのはお客様側なのだ、
 ということがわかったのです。”


そうすると、不思議なことに、

“苦情の約8割は電話での対応だけで
 解決できるようになりました”

とのこと。


続けて関根氏は、

「マーケティングの要諦」

にも通じるコメントをしています。


“大切なのは、
 お客様 を 満足させるのではなく、
 お客様 が 満足することなのです。”

“百貨店におけるゴールは、お客様を離さないことだと
 私は思います。そのために、お客様の立場に立って
 それぞれが満足する解決策を探っていくことが大切
 なのです。”


お客様を自社と相対する側に置いて考えるのでなく、
お客様側と同じ場所に自分を置いて考える。

これが、顧客の心理を的確に読むことを可能にし、
優れた苦情処理だけでなく、売れる商品づくりにも
つながっていくんだと思います。

投稿者 松尾 順 : 11:48 | コメント (8) | トラックバック

自論力を磨け!

ビジネスの成功者、あるいは、その道の第一人者と言われる
様々な分野のプロフェショナルは、皆、
自分の経験や学んだことから、独自の

「ロジック」

を構築しています。

そして、日々直面するさまざまな課題や問題に対して、
その「ロジック」を元に判断を下しています。


このロジックのことを「持論」または「自論」と呼びます。
(以下は、自分なりの理論という意味で「自論」に統一します)


「自論」は、端的に言えば各自が持つ

「哲学」や「価値観」

のことです。


さて、

「自論が、客観的に正しいかどうか」

はあまり重要ではありません。


重要なのは、

「自論を持っているかどうか」

です。


なぜなら、自論を持っているというのは、
物事の「判断基準」がはっきりしているということです。

つまり、自分のよりどころとする主軸が明確です。
このため、行動に一貫性が生まれます。
ブレがありません。迷いがありません。

こうして、一貫した行動を続けることによって、
周囲の評価が高まり、成功を収めることができるからです。
(もちろん、全員が成功するわけではありません)


逆に、自論を持っていなかったらどうなるでしょうか。

すると、直面する課題や問題に対して、
自分では判断ができない。

したがって、他人の動きを真似するか、
他人の意見に盲従するしかありません。

この場合、自分の主軸に基づかない判断であるため、
その時々で判断がブレます。一貫性がありません。


この結果、運がよければ一時的に成功することも
ありますが、長期的には成功できないで終わるのです。


以前のように、経済・社会の変化が緩やかで、

「こうすれば、ほとんどの人がうまくいく」

といった答えがあった時代であれば、自論を持たず、
他人に追従するだけで一定の成功を収めることもできました。


しかし、今は「答えのない時代」です。

自分なりの哲学、価値観を明確に打ち立てること、
すなわち、

「自論力」

を磨くことが必須ではないかと思います。


しばしば、自論が強すぎて暴論に聞こえることもある(失礼)、
大前研一氏も次のようなことをおっしゃっています。

“21世紀に最も重要なのは、答えがなくても自分は
 こうだと思う、と言えることです。しかも単なる意見
 ではなくて、証拠とか、データとか、分析に基づいて
 論旨を展開した結果、自分はこう思うと打ち出す。
 クラスに20人いたら、20人が違うものを持ち寄ってきて、
 じゃあ、どうしようかということを考えられる。
 これが非常に重要な21世紀を生き抜くスキルになります。”

なお、先ほど、

「自論が、客観的に正しいかどうか」

はあまり重要ではないと書きました。

しかし、あまりに利己的な自論は、
いつかは社会から「NO」を突きつけらます。

したがって、決して

「長期的な成功」

にはつながることはないと認識しておくべきでしょう。


企業の不祥事が毎日のように暴露される昨今、

「金儲けのためなら何をしてもよい」

という自論を持つ経営者は実に多いことがわかりますが、
そうした人たちはほぼ100%没落していますね。


*大前研一氏のコメントは、
 日経コンピュータ創刊25周年記念セミナー
 「ITがもたらすビジネス・イノベーション」の基調講演から

投稿者 松尾 順 : 11:06 | コメント (4) | トラックバック

パソコン・サポートランキング企画の休止

日経パソコンが過去8年にわたって特集してきた、

「サポートランキング」

が今年2007年から休止することになったそうです。


この企画は、

「パソコンメーカーのユーザーサポートの実態」

をアンケートで探るものでした。


なお、このアンケートでは、

サポートを利用したユーザーに対して、
各メーカーからアンケートの告知文を送付し、
アンケート対象者(協力者)を募集する

というやり方が取られていました。


さて、このランキングが休止になった理由ですが、
上記のアンケート対象者の抽出に、
一部のメーカーが協力しないことを決めたためです。

彼らの理屈は、

「個人情報保護」の厳密な運用のため、
告知文をユーザーに送付するのはよろしくない

と判断したからということらしいのですが・・・


しかし、メーカーはユーザー名簿を
日経パソコンに直接渡していたわけではありません。

あくまで、メーカーを通じてアンケート協力者を募集し、
協力してもよいというユーザーが、自発的にアンケートに
回答する方法でした。

つまり、個人情報保護上はなんら問題はないはず。
どうも腑に落ちません。


ところが、メーカーからは次のような指摘も受けたそうです。

“毎年サポートランキングを実施しているために競争が過熱し、
 サポートへのコストが増大、パソコン事業を圧迫している”


私には、これが、ランキングへの協力を止めたメーカーの

「本音」

に聞えます。


「ユーザーサポート」、すなわち、

「カスタマーセンター(コールセンター)」

の運営コストは、確かに莫大なものでしょう。


しかし、製品本体の「機能上の違い」を
ほとんど感じることのできないパソコンにおいて、

「ユーザーサポートに対する満足度の高さ」

は、自社製品が選ばれるための重要な差別化要因では
ないんでしょうか?


もはや日用品化したパソコン事業では、
「長時間駆動」や「耐久性の高さ」をウリにする
パナソニックの「Let's Note」のような独自のコンセプトを
打ち出せない限りは、価格競争に陥るしかありません。


つまり、利益を削って値段を下げないと勝てない。
だから、ユーザーサポートの莫大なコストが重荷なんだ。

ということなら、

パソコン事業自体の存続の意義

を見直したほうがいいように思いますが、いかがでしょうか?


*参考にした記事:『サポートランキングを休止する理由』

投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (6) | トラックバック

宮崎シーガイア・オーシャンドーム閉鎖

うーん、残念です。

宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートにある
世界最大の屋内プール(ギネスブックにも登録)、

「オーシャンドーム」

が今年(07年)9月末で営業打ち切り、閉鎖されるんですね。
今後の再開の見込みはないようです。


オーシャンドームには、
私はこれまで2回行ったことがあります。
直近は、昨年の夏でした。

さすがに420億円かけただけあってスケールが大きく、
さまざまな形のスライダーも楽しい。

人工の波の上でやる「サーフィンショー」も、
オーシャンドームの規模だからこそ実演できるものでした。


経営再建中のシーガイアは、全体としては、
2007年3月決算で、1993年の営業開始以来で初の営業黒字を
達成したそうです。

ところが、オーシャンドームの年間来場者数は
前年度は過去最低の26万人まで減少して、シーガイア全体の
業績回復の足を引っ張る存在となっていましたから、

「オーシャンドームの閉鎖」

は、やむをえない経営判断ということでしょう。


おや、しかし「26万人」と言えば、
旭山動物園が96年に記録した、最低年間入場者数と同じです。

ところが、わずか10年後の昨年度には、
同園の入場者数が300万人を突破したのはご存知ですよね。


そこで提案ですが、
旭山動物園の「行動展示」を見習い、
シロクマ、ペンギン、アザラシ等をオーシャンドームに

「放し飼い」

にして、人間も一緒に泳ぐというのはどうでしょうか。
(結構マジメな提案のつもり)


ただ、ペンギン、アザラシはともかく、
シロクマと一緒に泳ぐのはちょっと、いやかなり危険ですかね!

投稿者 松尾 順 : 08:48 | コメント (0) | トラックバック

玄人筋には、あまり評判の良くない

「DoCoMo 2.0」

のコマーシャル。


しかし、CM好感度調査(CM総合研究所)の結果を見ると、

「DoCoMo 2.0」

のCMの好感度は非常に高く、
5月の放送開始以降、ずっと1位の座を占めていました。
(ただし、最新の調査(7月後期)では、10%差で、
 ソフトバンクモバイルにトップを奪われています。)


また、“商品にひかれた”要因の高かったCMでも、
6月、7月と連続して1位を獲得してます。


「DoCoMo 2.0」は、

若年層、素人筋

に向けて制作されたものですが、
どうやら、これら「ターゲットユーザー」の受けはいいようです。


もちろん、究極の目的である

「業績向上」

につながるかどうかは、
あとしばらく待たねばなりませんが・・・

投稿者 松尾 順 : 08:45 | コメント (0) | トラックバック

テキストマイニングの進化・・・感性表現の分類

「テキストマイニング」とは、企業ユースとしては、
主に、コールセンターやWebサイトなどに寄せられた
顧客の意見や感想、クレームなどの

「生の声」

を分析する方法です。


「生の声」は、「自然文」です。
すなわち、語られた言葉そのままの文章。

このため、そのままでは、

「満足という意見は、55%、不満足は45%」

といった数値で把握すること(定量化)が困難です。


ですから、こうした生の声は、

「定性情報(データ)」

と呼ばれています。


逆に、アンケート調査のように、
設問に対する答えが、


1.はい
2.いいえ

といった選択肢で示されていて、
数字(1or2)の数値データとして扱うことができ、
集計・分析が容易なものを

「定量情報(データ)」

と呼んでいます。


さて、「テキストマイニング」ですが、
その本質は、端的に言えば次のようになります。


「生の声」(自然文)という
「定性情報」を「定量情報」化すること


定性情報を定量化する具体的な手順は、
技術的・専門的になりすぎますので説明は省きます。

むしろ、実際にどんな分析結果が
テキストマイニングから得られるのかをご紹介します。


出典は、テキストマイニングの活用面に焦点を当てた新刊、

『顧客の声マネジメント テキストマイニングで本音を「見る」』
(三室克哉・鈴村賢治・神田晴彦共著、オーム社)

からです。(分析に詳しくない方にも理解しやすい良書ですよ。)

なお、以下の分析例は、化粧品クチコミ情報サイト
「@コスメ」のデータを利用したものです。

肌とか化粧関連の言葉が出てきてますね。


テキストマイニングでまず最初に行う分析は、

「単語分析」

です。

具体的には、生の声の中から、
「単語」を抽出し、その出現頻度をカウントします。


(単語出現件数ランキング例)

順位 / 単語 / 品詞の種類 / 頻度(件)
1位 / 使う / 動詞 / 2503
2位 / 良い / 形容詞 / 1300
3位 / 肌 / 名詞  / 992


これは、人々がどんな単語を多く口にしているかの
全体傾向をつかむための「定量化」(頻度のランキング)
ですね。


つぎに行うのが

「係り受け分析」

です。主語と述語の関係を取り出します。

これは、ユーザーが、何(主語)に対してどんなこと(述語)
を言っているかの「組み合わせ」を把握するということです。


(係り受けランキング例)

順位 / 係り受け / 頻度(件)
1位 / 香り・良い / 90
2位 / 香り・好きだ / 73
3位 / 香り・リラックスする / 10


上の分析例を見ると、特定の化粧品に対する声として、
「香りが良い」と書いている人がもっとも多く、
次に「香りが好きだ」という答えが続いているということが
わかります。

係り受け分析によって、顧客の意見や感想、評価などが
それぞれどの程度の多いかが数値で正確に把握できますね。


そして、さらに上記のような分析を
回答者の基本属性(性、年齢、職業など)で切る

「クロス分析」

を行い、性別、年齢別、職業別に
それぞれ生の声がどのように違っているかを深く探ります。

また、さらに高度な分析方法として、
似たような発言をしているユーザーをグループ化する分析
(クラスター分析)などを行います。


さて、ここまでは、
従来のテキストマイニングの典型的な分析方法です。


ただ、これらの分析だけでは、
知りたいけれど、実際の分析は困難なことが一つありました。

それは、

回答者の「感情(感性)」を定量化できない

ということです。


もちろん、たとえば「香りが良い」というのは
好意的な感情表現だから

「ポジティブ」

である。

逆に、「香りが好きじゃない」という発言が
あったとしたら、これは

「ネガティブ」

な感情表現であるという2分法の分類までは
おおむねやります。


すなわち、

ポジティブ(好意的)-ネガティブ(否定的)

という感情の両極で見て、
ある製品に対する評価を定量化するわけです。


しかし、この作業は基本的に手作業です。
ひとつひとつ生の発言を見ながら、これはポジティブ、
次のはネガティブと分類しなければなりません。

したがって、ポジティブ・ネガティブの2つに分けるので精一杯。
それ以上細かなニュアンスを分類するのは実質不可能でした。

ここで、細かなニュアンスというのは、

・意見
・願望
・不満
・後悔
・要望

といったことです。


さすがにこれだけ細かいニュアンスがわかるように、
生の声を分類するのは、手作業では実質不可能でした。


しかし、テキストマイニングの研究も日進月歩。
進化のスピードは速く、最近、
細かな感情表現の分類が可能なツールが登場しています。


それは、(株)NTTデータが開発・販売する

『なずき』

です。

「なずき」とは、“人の脳”の古称だそうです。


このツールを使うと、
最大「81種類」の感情表現別の回答件数を
把握することができます。

たとえば、顧客の生の声を分析して、

・好評 40件
・苦情 25件
・要望 18件

といった形で顧客の声の感情表現を把握することが可能です。


上記Webサイトを見ると、

日本語意味理解製品『なずき』

というタイトルが使われていますが、

文字通り、言葉の表面的なつながりだけでなく、
発言者の感情を抽出し、定量化することができる点で
画期的なツールだと思います。


私は、先日のSPSS Data Mining Dayにおける
『なずき』担当者によるご講演で初めて、
その先進性を理解することができました。
(感性表現の分類というのは説明が難しいんですよね。)


この拙文もちょっと難しくなっちゃいました。
説明に失敗していたらすいません。


ご興味のある方は、
上記講演のレポートをご覧になってみてください。↓

@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート後編

「テキスト情報から『次の一手』を決めるマーケットの
 本音を探索 ~ 『なずき』による感性分析を主軸と
 した新たなテキストマイニング ~」

投稿者 松尾 順 : 13:17 | コメント (0) | トラックバック

メタ認知力を磨け!

いい仕事、とりわけ、新商品開発やコピーライティングなど、
「創造的な仕事」、「表現する仕事」で成果を出すために
欠かせない基礎能力、それは、

「メタ認知力」

です。


これは、自分の行動や生み出したものを

「客観視」

できる力のこと。


イメージ的には、もう一人の自分が身体から離脱して、
斜め後ろ上方から、自分を眺めているような感覚ですね!

ですから、人によっては、「メタ認知」のことを

「幽体離脱」

などと言う方もいます。


かくいう私も、

「メタ認知力」

をできるだけ高めたいと長年意識してきたんですが、
最近、改めてこの重要性に気づかされました。

それは、私が参加しているゴスペルグループで
歌の練習をしていた時でした。


私はこれまで、ちゃんとした歌のレッスンを
受けたことはなかったのでよく知らなかったのですが、

「歌う技術」

も、実に奥が深いんですね。


練習では、プロの先生の指導を受けつつ、
たとえば「声を出す方向」をいろいろと変える練習をします。


・まっすぐ前に出す
・斜め上にほうり投げるように出す
・斜め後ろにだす
・真下に落とす
・頭の真上に、もやもやとけむりが立っているように出す

など、確かに、このような声の方向をイメージをしながら
声を出すと、声の方向が変わるのが実感できます。


プロのボーカリストは、こうしたテクニックを駆使し、
声の「音色」や「強さ」にメリハリをつけることで、
聴き手を感動させる歌を歌うことができるというわけです。


ただ、こうしたスキルがどんなに上達したとしても、
優れた歌い手になるためには、

「歌に没入している自分を、
 もう一人の冷静な自分が見ていなければならない」

ということを先生から指摘されたのです。


逆に言えば、単に、自分の感情のおもむくまま、
好き勝手に歌うのではダメだということなのです。
(どうせ誰も聞いていないカラオケならOKでしょうけど。)


優れた歌い手は、メロディや歌詞を自分なりに解釈し、

「私はこのように歌いたい」

というイメージ(ゴール)を明確化し、その上で、

「そのイメージを実現するためには、
 どんな歌い方をするのが最適か」

をもう一人の冷静な自分がモニタリングしながら歌う。

もし、ライブステージで歌っているのなら、
会場の音の反響の様子や、聴衆の反応をリアルタイムで
チェックして、臨機応変に表現のスタイルを変えていく。

これは、もう一人の冷静な自分がいなければできないこと。


いわば、

「熱くなっている自分」

「冷静な自分」

が対話しながら、歌という表現を作っていく。


これこそが「メタ認知力」です。
そして、これができるのが「真のプロ」だと言えます。


新商品開発などでも同様ですよね。

開発担当者は、自分が手がけている新製品に対して
とことん惚れ込む必要がある。


でも、同時に、

「この製品は本当にユーザーに受け入れられるか?」

をちょと突き放したところから考えている必要があるのです。


NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場された
工業デザイナー、奥山清行氏もまた、同様のことを
おっしゃっています。(宣伝会議、2007.7.1)


“『仕事と人』、『モノと自分』を分けて考えることは 
 プロの最低条件です。”

“とりわけデザインは、自分の身を切り売りするような行為
 ですし、お客さんも人間性の表れた「顔の見えるもの」を
 好む。だからこそ、クリエーターは自分の生み出したものを
 客観的に見られる技術を身につけないといけない”

“自分のデザインしたものはいずれ自分の手を離れ、
 一人歩き していきます。それを誰よりも冷たく見られれば、
 どんな批判にさらされても、その批判は自分の中に既に準備
 できている”

“僕自身はそうやって、自分のデザインしたものとの距離を
 とってきました。”

投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (4) | トラックバック

ブランディングの感性工学的アプローチ

今日は、主に製品デザインに活用されている

「感性工学的方法」

「ブランディング」

にも応用してみたという事例です。


この取り組みをやっているのは、セイコーエプソン(株)。
SPSSの「Data Mining Day」(2007年7月12日開催)における、
同社担当者の講演から、ポイントをご紹介します。


さて、そもそも製品開発に活用される「感性工学的方法」
ですが、セイコーエプソンでは、次の3層構造を
基本の枠組みとしています。

・態度(最上層)
・イメージ(中位層)
・認知部位(最下層)


「態度」とは、消費者が製品を見た時の「評価」のこと。

「かっこいい」「買いたい」といったポジティブな気持ち、
あるいは、「ダサイ」「買いたくない」といったネガティブな
気持ちです。


「イメージ」とは、製品から消費者が受ける「印象」のこと。

「斬新」「スタイリッシュ」「上品な」「柔らかい」

などといった形容詞で表現されることが多いでしょうね。


「認知部位」とは、製品の「形」や「色」のこと。

セイコーエプソンの基幹商品であるプリンターで言えば、
プリンター全体の形、色(の組み合わせ)、液晶画面の形、
操作ボタンの形状などのことです。


そして、この3つの関係を説明すると、
「認知部位」、すなわち「製品の形状や色」を見た消費者は、
それに対してなんらかのイメージを抱く。さらに、
そのイメージが、最終的にその製品に対する評価である
「態度」の形成に影響を与えるということになります。

要するに、消費者心理の変化は、
最下層から最上位へと移ります。つまり、

認知部位→イメージ→態度

となるわけです。


感性工学的アプローチでは、

「認知部位」と「イメージ」の因果関係

「イメージ」と「態度」の因果関係

をアンケート調査などに基づいて分析します。


そして、たとえば同社のターゲットユーザーが

「買いたい」

と思わせるプリンターを開発するには、

・彼らがどんな「イメージ」を製品から受けるべきなのか
・そして、そんなイメージを彼らに与えるためには、
 プリンターの「形状や色」はどんなものが望ましいのか

を探り、製品デザインに活かすというものです。


さて、この感性工学的アプローチの研究に
取り組んでいた同社担当者は、

「ブランディング」(コーポレートブランドの確立)

にも応用できるのではないかと考えました。


感性工学的アプローチに基づくブランディングの
基本的枠組みは次の3つの要素からなります。

・態度(最上層)
・ブランドイメージ(中位層)
・アクセスポイント(最下層)

「態度」は、企業に対する「好き」「嫌い」といった評価。

「ブランドイメージ」は、
「先進的」「伝統的」といった企業に対する印象ですね。

そして、「アクセスポイント」とは、
企業が、広報・広告などを通じて行う

「マーケティング・コミュニケーション」

や、店舗等において発生する消費者と店員との

「リアルなコミュニケーション」

などを含む、マーケティング活動全体を意味します。


つまり、この応用例では、

・消費者に好ましいブランド評価をしてもらうためには、
 どんなブランドイメージを与えるべきか

そして、

・そうしたブランドイメージを与えるためには
 どんなマーケティング活動が望ましいか

を科学的に分析していこうというわけです。


セイコーエプソン担当者の方の先日の発表によれば、
まだまだ研究途上ということでしたが、このアプローチ、
なかなか面白いと思います。


*上記講演のレポートが下記サイトで閲覧できます。


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SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート後編

ついでながら、上記イベントレポート前編では、
基調講演に立たれた石井淳蔵氏(神戸大学大学院教授)の
お話が特に面白いです。講演タイトルは

「経験価値思考マーケティングとデータマイニング」

でした。

@IT Special PR:
SPSS Data Mining Day 2007 イベントレポート前編

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック