マーケターは「感情」の研究に取り組め!

マーケティングで高い成果を出すためには、
マーケターは、人の「感情」をより深く
理解しなければならない!

私は最近、ますますこのことを
強く感じるようになってきました。


私が、マーケターは人の「感情」を
より深く理解すべきと感じる理由は2つあります。

ただ、この2つの理由に入る前に、
そもそも「感情」とは何かについて、
ごく簡単に説明しておきたいと思います。


「感情」とは、

「人、物、できごと、環境などに対する評価的な反応」

と考えられています。

ここで、‘評価’とは、

・危険(恐怖)⇔安全(安心)
・快⇔不快
・好き⇔嫌い

といった軸で、対象を位置づけ認識することです。

例えば、街中でナイフを持った人に出会ったら、

「怖い」(危険だ)

といった感情が湧き起こりますよね。

そして、あれこれ考える前に、
とっさに「身構える」、あるいは「逃げる」と
いった行動をすばやく取ることができます。

このように、「感情」は、
私たちが変化する状況に‘迅速に’適切に対応する
ための行動を引き出す役割を果たしていると言えます。


では、マーケターが「感情」を
より深く理解すべき理由に移りましょう。


ひとつには、「感情」は商品選択の拠り所と
して用いられるからです。

人はしばしば、ものごとを判断するとき、

「それについて自分はどのように感じるか」

自問自答することがあります。
(これを無意識で高速に行なっている場合もある)

そして、対象に対して

「良い感情」

が得られるなら選択します。

逆に、

「好ましくない感情」

が湧いたらそれを選択しない。

これは、

「アフェクト・アズ・インフォメーション仮説」
(「情報」としての感情仮説)

と呼ばれているものです。


この仮説に基づけば、私たちは、
複数の競合商品から選択しようとするとき、
それぞれの商品の特徴やメリット・デメリット、
口コミなど多様な「情報」を収集し、検討する
ものですが、

「感情」

もまた判断のためのひとつの情報として
用いていると考えられます。

多くの場合、現実にもそうでしょう。
例えば、極端な例ですが、

・「好き」だから買う。
・「好きじゃない」から買わない。

というのは、まさに感情のみを判断のための
情報として用いている場合です。


ですから、マーケターとして消費者に働きかけ、
自社ブランドを選択してもらうためには、

「商品情報」や「クチコミ情報」

を提供をするだけでなく、

「好ましい感情」

を消費者に生成させる必要がある。

そして、このためには、

「好ましい感情を生成させるためには
 なにが有効なのか」

を把握しなければなりません。

となれば、「感情」そのものに対する
より深い理解が必要となってくるのでは
ないでしょうか。


さて、「感情」をより深く理解すべき
もう一つの理由。

それは、現在の環境においては、
私たちの商品選択が以前よりもますます

「感情優位」

になってきている可能性が高いからです。

私たちは何を買うにしても、
多数の競合商品の中から選択しなければ
なりません。

商品情報、関連情報も巷にあふれており、
ネットを使えばいくらでも簡単に大量に
入手できます。

しかし、私たちはもはや大量の情報を
‘論理的’‘合理的’に処理できません。

複雑すぎて手に負えないのです。
大量の情報を時間をかけて処理する余裕もない。

私たちは、選択肢が多すぎると、
処理しなければならない情報も増えて
どれを選んでいいかわからなくなり、

「どれも選択しない」

という「選択のパラドックス」に
陥ってしまうことがわかっています。

それでも、どれかを選択しなければならないとき、
私たちはもはや、もっとも手近でわかりやすい情報、
すなわち

「感情」

に大きく依存せざるを得なくなる。

したがって、マーケターとしては、
より一層「感情」に着目する必要が高まっている
と言えます。


まとめましょう。

そもそも、感情が商品選択のための判断材料の
ひとつとして利用されていること。

加えて、現在の情報過多な環境が、
感情以外の情報処理を困難にし、
結果として「感情」がより重要な情報となって
しまっていること。(だからといって感情以外の
情報が不要ということにはなりませんが)

これが、マーケターが、
「感情」をより深く理解すべき理由です。


一時期、

「エモーショナル・マーケティング」
(感情マーケティング)

という概念が流行ったことがありますが、
その内容は、

「小手先のテクニック」

的なものが多かったように思います。

しかし、これからは、
人の「感情」についての深い理解に基づく

「ニュー・エモーショナル・マーケティング」

が必要とされていると思います。

投稿者 松尾 順 : 11:17 | コメント (0) | トラックバック

最大のセキュリティホールは「自信過剰バイアス」

どんなに優れたウィルス対策フトがあったとしても、
現場の人間の意識が低いと、簡単にセキュリティが
破られてしまう。

すなわち、

「人の弱さがセキュリティの弱さにつながる」

と、情報セキュリティのプロフェショナル、
佐藤元彦氏(伊藤忠テクノソリューションズ)は
考えています。


このところ、メールなどに添付したウィルスで、
特定の企業・団体の情報システムへの侵入を狙う、

「標的型サイバー攻撃」

が増えていますね。

2011年10月に起きた、参議院議員に送付された
攻撃メールの被害調査を担当した佐藤氏によれば、
最近の情報セキュリティ関連の案件は、

「新規の依頼を断らなければならないほど増えてきた」

とのこと。

佐藤氏の部署に依頼が殺到する理由は、
被害を受けた組織のセキュリティ管理体制など

「人」

の側面からも感染に至った経緯を分析できる
総合力だそうです。


佐藤氏はヒューコムを経てCTCテクノロジーに転職後、
情報セキュリティサービス部門の立ち上げに参画、

「情報セキュリティ」

について貪欲に学んで知識を深めていったのですが、
一方で新たな悩みが生まれてきました。

それは、対策ソフトの導入の重要性を認識していながら

「自分だけは大丈夫!」

とソフトのインストールを怠ってしまう人がいること。

そこで、佐藤氏は「行動心理学」や「社会科学」などの
勉強も開始し、対策ソフトだけでなく、人の側面からも
セキュリティを高める総合的な対策を考えるように
なったのです。

佐藤氏は、

「人がセキュリティの弱点になり攻撃者は常にそこを狙う」

ということを実感しています。

例えば、「標的型攻撃」は意外なことに、
既にウィルス対策のための

「修正プログラム」

が出ている脆弱性を狙うものが多いのだそうです。

人の弱さが、「修正プログラム」を迅速に
インストールすることを妨げてしまうことを
攻撃側はわかっているのです。

システムの脆弱性ではなく、
むしろ、人の脆弱性を突いてくる。

すなわち、最大のセキュリティホールは、
実のところ、現場の「人の弱さ」にあると
言えるのかもしれません。


さて、佐藤氏が「人の弱さ」と指摘する

「自分だけは大丈夫!」

という意識は、行動経済学では

「自信過剰バイアス」(Overconfidence bias)

と呼ばれています。

このバイアスは、

「自分は他人と違う存在でありたい」

という欲求が根底にあると考えられていますが、
現実以上に自分が周囲の情報を十分に把握していると考え、
また、自分の能力に現実以上に自信を持つ傾向のことです。

自信過剰バイアスは、言い換えると

「根拠なき自信」(笑)

と呼んでもよく、起業するときなどには、
大きなリスクを積極的に取りに行く原動力
ともなりえます。

しかし、セキュリティ対策においては、

「自信過剰バイアス」

は、大きな被害をもたらしてしまう
やっかいな意識です。

振り込め詐欺でも、

「自分は絶対に引っかからない」

と「自信過剰バイアス」の強い人ほど、
簡単にだまされているのです。


他のあらゆることにも共通することですが、
システムの整備だけで万全ということは
決してありません。

最後は個々人の「意識・行動」次第であること
を忘れてはいけないのです。

「自信過剰バイアス」は強弱はあれ、
誰もが持っているもの。

これによって大変な失敗をしないためには、

「ひょっとしたら、自分の今の考え方・行動は
 間違ってるかもしれない・・・」
(いつでも自分が正しいということはない


と「健全な危機感・不安感」を
常に持つように心がけておくべきでしょう。


*佐藤元彦氏のお話は、
 日経産業新聞(2012/08/30)の記事から
 引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:35 | コメント (0) | トラックバック

「価値観」「性格」も浮き彫りになるビッグデータ分析

昨日(2012/08/28)、
秋葉原で開催された第29回JMRX勉強会、

「マーケティングアナリシス最前線」

に出席してきました。

とても充実した内容で、
今後のマーケティングリサーチや
ビッグデータ分析の方向性・可能性について、
多くのヒントを得ることができました。


以下、講演タイトル&講師をご紹介しておきます。

----------------------------------

<「マーケティングアナリシス最前線」講演タイトル&講師>

『データで予測する2012年第4回AKB選抜総選挙』
(株式会社ルグラン 代表取締役 共同CEO 泉 浩人氏)

『ビッグデータ時代に必要なアナリストのスキルと組織』
(株式会社マイクロアド 未来広告研究所 所長 中川 斉氏)

『次世代を見据えた統合マーケティングプラットフォーム』
(株式会社ボーダーズ クライアントサービスグループ
    マネージャー 中島 慶久氏)

『Mobageの大規模データマイニング活用』
(株式会社ディー・エヌ・エー
    ソーシャルプラットフォーム事業本部 濱田 晃一氏)

『データ分析をビジネスプロセスにどう組み込むか』
(トランスコスモス・アナリティクス株式会社
    取締役副社長 萩原雅之氏)

-----------------------------------

さて、今日は、
マイクロアド、中川氏のご講演の一部を基に、
ビッグデータ分析で、

「価値観」や「性格」

さえも推測できるようになるかも・・・
という話をしたいと思います。


米心理学者、ヤンケロビッチ博士は、
消費者の心理・行動を理解することに役立つ

「価値観ヒエラルキー」

を生み出しています。

これは、「行動」とその背景にある

「心理の構造」

を概念化したものです。

具体的には、一番深いところにある「性格」から、
「行動」に直接結びつく「趣味・嗜好」を以下の
ように5段階で階層化しています。

-----------------------------------

<ヤンケロビッチの価値観ヒエラルキー>

(1)性 格
   ↓
(2)価値観
   ↓
(3)ライフスタイル
   ↓
(4)趣味嗜好
   ↓
(5)行動

-----------------------------------

中川氏は、この価値観ヒエラルキーの図を示しつつ、

「Web行動履歴」や「(SNSなどの)書き込みテキスト」

の分析によって、行動の背景にある

「心理」

がかなり深いところまで読める可能性を示しました。


まず、「Web行動履歴」の分析ですが、
これは文字通り、アクセスログデータ等を
分析することでインターネット上の「行動」を
把握するものです。

もちろん、「1セッション」だけの行動履歴では
どのページを回遊し、何を購入したかといった、
直近の行動しかわかりません。

しかし、同一人物の行動履歴を1週間ほど追っていると、
その人(基本的に人物は特定できません)の

「趣味・嗜好」

が見えてくるというのです。


実際、例えば訪問・閲覧頻度や滞在時間などを
分析すれば、

「どんなサイトやページを頻繁に訪れているのか」

がわかることから、その人の趣味・嗜好が
推測可能でしょう。


さらに、中川氏によれば、
引き続き1ヵ月ほどのデータを追いかけ
分析すると、その人の

「ライフスタイル」

がかなり浮き彫りになってくるとのこと。

確かに、例えば、ネット接続開始時間で

「起床時刻」

がおおよそわかりますね。

また、Web行動履歴ではありませんが、
GPSのデータが入手できれば、その人の行動範囲から、

・休日には外出することが好きなのか、
・逆に、まったり家にいることが好きなのか

といったこともわかるでしょう。


また、「SNSなどの書き込みテキスト」の分析も同様に、

「1投稿」

だけでは、投稿時点での、その人の意見や評価、感情等が
捕捉できるのみです。

しかし、1週間、1カ月分の投稿を分析すればやはり

「趣味・嗜好」
「ライフスタイル」

が浮き彫りになってくると中川氏は指摘します。


私は、「生の声」がわかる

「書き込みテキスト」

には、しばしば、「価値観」や「性格」が
明確に反映されている投稿も見られるため、

「Web行動履歴データ」と「書き込みテキスト」

を長期的にデータ蓄積し、
さらに両者を統合して適切な分析を行なえば、
「趣味・嗜好」、「ライフスタイル」に加えて、

「価値観」
「性格」

についても、かなり高い精度で推測できるように
なるのではないかと考えています。


従来、消費者の行動の背景にある「心理」は、
アンケートやインタビューを通じて直接聴くしか
ありませんでした。

そもそも、「行動」自体も、長期的に追いかける
のは手間・コスト的に困難でした。

しかし、今は、1日中身に着けているデジタル端末を
通じて、人々の詳細な行動履歴がデータとして
蓄積されています。

しかも、SNSやブログで消費者の生の声が簡単に手に入る。

時系列で蓄積された膨大なデータを分析するのは、
極めて高度なテクニックが要求されますが、
これまでは実現が難しかった

「サイコグラフィック・セグメンテーション」
「サイコグラフィック・ターゲティング」

*消費者の心理(性格、価値観、趣味嗜好)に
 基づくセグメンテーションやターゲティング

が具現化する日も近いのではないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (1) | トラックバック

人力マイニングのすすめ

大量のテキストデータ(生の声データ)を
‘定量的’に処理できるように加工し、
分析を行なうのが

「テキストマイニング」

すが、テキストデータを定量的に処理せず、
そのまま人が読んで分析する

「人力マイニング」

を併用する企業もあるようです。


アサヒビールの品質保証部お客様相談室では、
顧客から寄せられる1日10件ほどの応対内容を要約せず、
そのままシステムに入力。

担当者の羽鳥敏彦プロデューサーが、
その記録された内容全文を読み、文言の強さや
独自のキーワードに応じて手作業で

「ランク付け」

して、一覧情報として役員に毎日送付しています。

羽鳥氏によれば、

“1人の人間が一定の感性でやったほうが伝わりやすい。”

とのこと。


同社では、当初テキストマイニングでの分析も
試みたそうですが、うまくいかなかったのです。

大量の情報から仮説を立て、特定の傾向を知るには、
テキストマイングは有効であるものの、
日々課題が変わっていくような分析をするには
向いていないからです。


さて、テキストマイニングに限らず、
情報を‘数値的’に処理し、集計・分析すると、
物事の実態が明快に把握できます。

集計・分析とは、端的に言えば、
情報を圧縮、要約することです。
だから、集計・分析結果は理解しやすい
ものになるわけです。

これは、確かに仮説検証には向いている。


しかし、ものごとの背景で働いている
大きなメカニズム、言い換えると「法則性」
のようなものが見えにくくなります。

私たちは、数字を見ると、
細部に入り込んでしまうからです。


ものごとの因果関係を規定しているような

「大きなメカニズム(ある種のパターン)」

を発見するためには、ちょっと引いて
全体をマクロに眺めなければならない。


この場合、コンピュータよりもはるかに優れた

「パターン認識能力」

を持っている、人の脳に生データを処理させた
ほうがいいのです。(パターン認識とは、
あいまいでばくぜんとしたものをそのまま
処理できる能力といってもいいでしょう。)


実際、マーケティングリサーチャーは
しばしば、集計・分析結果を読むだけでなく、
それ以前の

「生データ」(エクセル表で展開可能なもの)

や、あるいは郵送調査などであれば、

「調査票原票」

に立ち戻ってデータ全体を俯瞰的に
眺めることがあります。

そうすると、不思議なことに、
新たな切り口や課題が浮かび上がってくるのです。


今、ビジネスの現場では、日々増殖する

「ビッグデータ」

をどうやって効率的に処理し分析するかが
大きな課題のひとつです。

しかし、データ処理・集計ソフトに依存しすぎる
ことなく、できるだけ生データに近いレベルで

「人力マイニング」

を行い、コンピュータはまず教えてくれない

「深い洞察=Insight」

を発見しようとする努力も必要でしょう。


*アサヒビールの事例は、

 『日経情報ストラテジー』(OCTOBER 2012)

 から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:45 | コメント (0) | トラックバック

ブリリア・ショートショートシアターに見る映画館の未来

先週末、横浜みなとみらいにある映画館、

ブリリア・ショートショートシアター」
http://www.brillia-sst.jp/

に行ってきました。(以下「ブリリアシアター」)

ブリリアシアターは、
俳優の別所哲也氏が社長を務める

「ビジュアルボイス」

が経営している、いわゆる「単館」の映画館です。


映画館のネーミングからおわかりかと思いますが、
最長30分程度までの短編映画(ショートフィルム)
のみを上映する

「ブティックシアター」

というコンセプトで運営されています。


ブリリアシアターに行ってみて
最初に感じたのは、ロビーの心地よさです。

さほど大きなスペースではありません。

しかし、革張りのソファーやテーブルがゆったりと
配され、映画が始まる前、あるいは観終わった後、
くつろぎながらカフェの食事や会話を楽しむことが
できるロビーは、映画を観る喜びをさらに高めて
くれるものでした。


シアターは130席。

パリオペラ座、カンヌフェスティバルホールなどにも
採用されているという、フランスキネット社製のイスは
座り心地が良く、贅沢な気分にさせてくれます。

上映されているショートフィルムは、
1プログラム(1時間)当たり3-5本程度。

小粋な作品、変な作品、わけわからない作品、
多様なショートフィルムが次々と登場しますが、
たとえ自分にとっては

「これハズレだあ~!」

と感じる作品があったとしても、
だいたい5-15分程度で終わってしまいますから、
次の作品に期待すればいい。

少なくとも、短編映画祭でなんらかの賞を獲得した
作品ですから最低限の品質は担保されていますので
「オオハズレ」はさすがにめったにないでしょう。


さて、ブリリアシアターは、
ハリウッド映画のようなメジャーなフィルムが
上映される「シネコン」などと異なり、

「観たい映画を観にいく」

というものではないですね。
(ショートフィルムマニアを除いて)

むしろ、ちょっとした暇つぶし、
気分転換のためにサクッと気楽に出かける場所かなと。

そのためには、映画自体ではなく、
映画館の雰囲気を楽しめることがより大切。

その視点で評価すると、ブリリアシアターは、
館内の洗練された内装や、落ち着いたロビー、
贅沢なシアター内のイスといった、心地よい場づくり
に成功しており、

「また来たい」

と感じさせるものでした。

私はメジャー作品を観るため、
シネコンにも比較的頻繁に足を運んでいますが、
ロビーは単にチケットを購入する場であり、
観賞後にゆっくりできるスペースもありません。

まあ、万人向けの映画上映が主体であり、
ファミリー客も多いわけですから、
効率的に客をさばくつくりになっているのも
仕方がないのかもしれませんね。


とはいえ、家族連れでない大人たちが楽しめる
映画館が非常に少ないのは残念なことです。

やはり単館の映画館、渋谷・東急文化村の
ル・シネマはその数少ない大人のためのシアター
のひとつで、ワインも楽しめます。

しかし、ロビーにゆったりできるスペースはなく、
シアター内は飲食禁止のため、つまみやお酒を
楽しみながら映画を鑑賞することができず、
欲求不満がたまります。(笑)


今は、レンタルショップに加え、インターネットを
通じて、映画が好きなだけ安価に観られる時代。

映画自体を楽しみたいのなら、
大スクリーンがいいのはわかっていながらも、

「まあ自宅の液晶テレビ(そこそこ大型の)で十分かな」

という人も多いでしょう。


シネコン数も過剰気味で過当競争に陥りつつある。
「3D」による集客効果も低下しているとのこと。

ブリリアシアターのような単館・専門型シアターの運営
を既存のシネコン、単館映画館が真似することはもちろん、
簡単なことではないでしょう。

しかし、映画自体、またシアター内だけでなく、
映画館全体として、来場者の

「ビフォア&アフター」

を楽しませる取り組みについて、
ブリリアシアターにはいろいろと学べる点が
あるのではと思いました。


私たち消費者は、わざわざ足を運んで、
それなりのお金を払うだけの価値のある映画館を
期待しているのではないでしょうか?

ブリリア・ショートショートシアター
Brillia SHORTSHORTS Theater
http://www.brillia-sst.jp/

投稿者 松尾 順 : 09:47 | コメント (0) | トラックバック

消費者行動の「記述モデル」と「戦略モデル」

消費者の心理や行動の変化についてのモデルには
様々なものがありますね。

最も典型的で良く知られているのは

「AIDMA」

でしょう。すなわち、
消費者の心理・行動は、大きくは以下のような
プロセスを経るというモデル。

-----------------------------

A:Attention(注意)
I:Interest(関心)
D:Desire(欲求)
M:Memory(記憶)
A:Action(行動)

------------------------------

また、インターネットが私たちの生活に
深く根ざしつつある現在において、

「AIDMA」

よりも的確に消費者行動を説明できるモデル
として電通が提唱したのが、

「AISAS」

でしたね。

「AISAS」のプロセスは以下の通り。

------------------------------

A:Attention(注意)
I:Interest(関心)
S:Search(検索)
A:Action(行動)
S:Share(共有)

------------------------------


実のところ、「AIDMA」のモデルが有効で
あった時代においても、AISASで登場した
新たな行動、すなわち

S:Search(検索)
S:Share(共有)

は別の形で‘細々と’行なわれていたわけです。


「検索」について言えば、
パンフレットを企業から取り寄せたり、
ショールームに行くなどの行動をしていた。

これらは、「検索」というよりは

「情報収集」

という言葉が適切ですね。

また、「共有」について言えば、
家庭や職場などで、商品についての評価が
会話を通じて共有されてきたのです。


ただ、インターネットの浸透、
そして、ソーシャルメディアの登場により、

「検索」および「共有」

がとても簡単になった。

その結果、消費者の心理・行動の変化
のプロセスにおいて、

「検索」および「共有」

は多くの消費者が行なう一般的な行動となり、
また、購買行動に大きな影響を及ぼすように
なったことから、

「AISAS」

という新しいモデルが開発されたというわけです。


さて、上記の「AIDMA」「AISAS」などの、
消費行動の「ありよう」を説明するモデルは、

「記述モデル」(Descriptive Model)

と呼ばれています。

現象を観察して主要な「概念」を抽出し

「仕組みやプロセスはこうなっています」

と説明するためのもの。


ただ、マーケターが、
マーケティング戦略・施策を検討する際には、
こうした「記述モデル」を「戦略モデル」に
読み替えて活用しています。

記述モデルはあくまで現象を
ある形で切り取っただけにすぎないもの
だからです。

一方、

「戦略モデル(Strategic Model)」

は、マーケティング戦略・施策を通じて

「消費者の心理・行動をこうする・こうするべき」

という「働きかけ」を説明するモデル。

例えば、「AISAS」であれば以下のようになるでしょう。

------------------------------

A:Attention(注意) →注意を向けてもらう
I:Interest(関心)  →関心を持ってもらう
S:Search(検索)   →検索してもらう
A:Action(行動)   →行動(資料請求や購買)をしてもらう
S:Share(共有)    →共有してもらう

------------------------------

いかがでしょうか?

戦略モデルにおいては、
こうした「動詞的な表現」をすることによって、

「どんなマーケティング戦略・施策を展開すべきか?」

についてのアイディアが出やすくなるのではないでしょうか?


なお、私は、戦略モデルの説明において大事なのは、

「○○してもらう」

という「相手(消費者)寄りのソフトな表現」
にすることではないかと思っています。

というのも、企業寄りの押し付けがましい表現、
例えば

・注意を向けさせる
・関心を喚起する
・検索させる

といった表現にしてしまうと、
企業本位のひとりよがりなアイディアしか
でてこなる可能性があるからです。


マーケターは、消費者の心理や行動を
強制的に変えさせることはできません。

あくまで、消費者自身が

「その気」

になってもらえるように仕掛ける必要がある。

そのためにも、消費者寄りの表現が望ましい
と思うのです。

マーケティング戦略・施策に用いる、
消費者心理・行動の「戦略モデル」を
設定する際にはぜひ気をつけてください!

投稿者 松尾 順 : 13:34 | コメント (0) | トラックバック

高まる「色」のカスタマイゼーションニーズ

なにか製品を購入するとき、
自分の「好きな色」が選べるのはうれしいもの。

ガラケー・スマホ、デジカメ、ノートPCなどでは、
カラーバリエーションが豊富な機種も多く、
選ぶ楽しさがありますね。

従来、カラーバリエーションは、
競合製品との機能的な違いを生み出しにくい状況に
おいて、差別化戦略の最後の切り札的に展開されて
きました。

しかし、現在ではむしろ、

「自分らしさを表現したい」

という消費者のニーズに対応するための

「マイナーなカスタマイゼーション」

の手法として採用されています。


さて、比較的小型の「デジタル機器・端末」の
カラーバリエーションが豊富になってきた一方で、
いわゆる、

「家電品」

については、従来とさほど変化がありません。

とりわけ「白物家電」と呼ばれている、
冷蔵庫や洗濯機などの大型家電品はその名の通り、

「白色」

が基本ですね。

カラーバリエーションが提供されているのは、
ほんの一握りのブランドのみです。


なぜ、大型家電でカラーバリエーションが
提供されないのかという理由については、

・購入者の多くは、実際には「白色」を選ぶから。

・カラーバリエーションを増やすと流通在庫が
 膨らみ、売れ残りリスクが高くなる。
 (他の家電品やデジタル機器以上に)

という現実があります。

このため、白以外の色を選択したいという少数派は、
ガマンするしかなかったわけです。

というのも、大型家電は容量や重量など、
機能・性能などの「仕様面」において、


「自分のニーズ」(家族数など)

に合うことが最優先であり、
「色」は後回しにせざるを得ないからです。


ところが、こうした少数派のニーズに応える
サービスが浸透する兆しがあります。

ビックカメラ新宿東口店では、
購入する冷蔵庫のドアなどの表面に、
カラーフィルムを貼って自分の好きな色や柄の
家電に仕立て上げる

「オーダーカラー家電サービス」

を今年(2012年)から開始しています。

まだ始めたばかりでそれほど実績はないようですが、
他店をさんざん探して思うようなものがない客が
噂を聞きつけて足を運ぶなど、認知度が少しずつ
高まりつつあるとのこと。


また、香川県の

「リビングカラーズ」
(サイト名は、「ラシックカラーズ」)
 http://rashic.jp/com.html

では、冷蔵庫の塗装サービスを提供しています。

家電量販店などで購入した冷蔵庫を同社に送ると、
1台丸ごと好きな色に塗装してくれるというもの。

塗装料金は10万円前後の冷蔵庫の場合で

約8万円

と決して安いものではありません。

それでも、ホームページに問い合わせた客のうち、
約2割が注文に至り、月間20台ほどの注文がある
とのこと。

注文の絶対数としては少ないとはいえ、
本体価格に匹敵する塗装料金を支払っても、
自分好みの色に冷蔵庫を仕上げたいという顧客が
相当数存在しているというのはちょっと驚きでは
ないでしょうか?

同社に塗装を依頼する顧客は、
デザイン性の高い、(高額な)海外製の冷蔵庫を
検討していることが多いということですから、
多くは「富裕層」の人々なのかもしれませんね。


基本的に、日本の家電メーカーは、
生産・販売効率を重視し、

「良いものをより安く」

という発想が強いため、消費者に対し、
「色」を始めとして選択肢をあまり与えない
戦略を採用してきました。


しかし、今後ますます高まると思われる、

「自分らしさ実現ニーズ」

とでも呼べるものに対応するため、
生産・販売効率を犠牲にしたり、在庫リスクを
高めないようにしつつ、カラーバリエーションを
を始めとする、

「マスカスタマイゼーション」

を実現する方法を見つける必要があるのでは
ないでしょうか?


*ビックカメラ、およびリビングカラーズのケースは、
 『日経デザイン』(September 2012)から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

誰でもわかるビッグデータ

今朝の日経産業新聞(2012/08/22)のコラム、
「Smart Times」では、ビッグデータの

「革新性」

について、石黒不二代氏(ネットイヤーグループ社長)
がとてもわかりやすい解説をしてくれていました。

石黒氏自身が心がけられたようですが、
まさに「誰でもわかるビッグデータ」という内容でした!

そこで、今日は当記事を紹介しつつ、
私なりの考えを付け加えたいと思います。
(もしわかりにくくなっていたら私の責任です・・・)


従来、企業が(比較的容易に)取得できるデータは
とても限られていました。

ユーザー関連データについて言えば、
実質的には営業パーソンや店頭の販売員の手入力で
収集される「顧客データ」、およびレジを通過することで
自動的に記録される

「販売データ」

のみだったのです。

レジのスキャナーで記録されるデータは

「POSデータ」

と呼ばれることはご存知ですよね。


企業では、社内にある商品属性データと、
販売時に取得した顧客データ、販売データを統合し、

・いつ(When)
・どこで(Where)
・誰が(who)
・何が(What)
・どれくらい(How many)
・いくらで(How much)

といった分析は当然行なってきました。

ただし、‘POS’が

‘Point of Purchase’(販売時点)

の略であることからおわかりのように、
販売データは、

「販売時点」

でのデータに過ぎないわけです。

したがって、ユーザーが購買に至るまでの

「情報収集から始まる意思決定のプロセス」

や、購買後の

「利用状況や廃棄状況」

は把握が困難でした。

そして、もし購買前、購買後のユーザー行動を
把握したければ、相応の予算をかけ、限られた
サンプルを対象としたマーケティングリサーチを
実施するしかなかった。


ところが現在は、
ユーザーがWebサイトや携帯・スマホなどの
デジタルデバイスを日常的に使用するように
なったことで、購買時点だけでなく、購買前、
そして購買後のユーザー行動のほとんどが、
データとして捕捉可能となっています。


おかげで、石黒氏曰く、

「企業活動はがぜんデータオリエンテッドになる。」

という状況を迎えました。

すなわち、これまでは

結果としての「販売データ」

しか入手できなかったので、
どのようなマーケティング施策を展開するかは、

「勘とセンス、経験」

にかなりの部分依存していた。

ところが、ユーザーの消費行動プロセスが、
あらゆる顧客接点からデータとして吸い上げられる
ようになった今、データの裏づけのある科学的な
アプローチによってマーケティングを展開できるよう
になったということなのです。


さて、石黒氏は、ビッグデータの意味(価値、意義)に
ついて以下の4つを示しています。

---------------------------------------

1.データ量が多いこと

アマゾンのレコメンデーションが高い効果を発揮しているのは、
顧客数が多くデータ量が豊富であり、「オススメ」の正確性が
高いから。

ビッグデータはサンプルデータではなく実質的にユーザーの
「全数データ」です。したがって、代表性やサンプル誤差の
問題はなく、データ量が多ければ多いほど分析精度が高まる。

例えば、レコメンデーション(これは、顧客が欲しいと考え
られる商品を予測し、提示する予測モデルのひとつ)の正確性
は増すのです。(松尾注)


2.購買以前のデータが取れるようになったこと

購買以前のユーザーの行動は以前は簡単に把握できなかった。
しかし、ソーシャルメディアの投稿や、自社サイトでのサイト
内行動分析などを通じて、購買前の

「潜在消費」(例えば、どんな商品に「関心」が集まっているか)

の動向が(容易に)わかるようになった。


3.コンテクストや文脈がわかること

要するに、ユーザーが

「なぜ(why)この商品を購買するに至ったのか」

が把握できるようになったということです。

石黒氏が挙げている例は以下のようなものです。

○○さんはスカートを購入した。

しかし、実は予算が限られていたので、
スカートではなくて本当はブラウスが欲しかった。

ところが、マーケターは従来、

「○○さんがスカートを買った」

という顧客・販売データだけに基づいて、

「○○さんにスカートのカタログを送る」

という施策を打つしかなかった。

これが的外れな施策であることは一目瞭然。

しかし今なら、
ソーシャルメディアで○○さんが

「今度はブラウスが買いたい」

という投稿を見て、
ブラウスのカタログを送ることができる。

今は、このように、
ユーザーについての多面的な情報をもとに、

「ユーザーの好き嫌い、購入理由」

についてのデータを収集・分析して、
より効果の高い施策を打てるわけです。


4.リアルタイムであること

人の気持ちは移ろいやすいものです。

日々データが更新されるソーシャルメディアの
コメントやサイト行動を分析することによって、
最新のユーザーニーズを把握し、
すばやく、営業や商品開発にフィードバック
できるようになっています。

-------------------------------------

石黒氏は、

“このどれもが企業にとって革新的なことなのだ。
 もし革新的だと思わない人がいたとすれば、それは
 日本企業が今まであまりにデータをおろそかにして
 きた名残だろう。”

と述べています。

実際、欧米企業と比較して日本企業は、

「データ分析・活用」

に対して及び腰だったことは確かです。

しかし、データ分析を最大限駆使して、
勝負してくるグローバル企業に対抗するためにも、
日本企業も、

「ビッグデータの分析・活用」

に本腰を入れなければならないでしょう。

投稿者 松尾 順 : 10:37 | コメント (0) | トラックバック

「擬似相関」に気をつけろ!

近年注目されている「ビッグデータ」の活用において
最も期待されているのが、

「未来予測」

ですね。

商品の売れ行きの予測や、
消費者・顧客の行動予測が高い精度で行なえれば、
的確な事業計画やマーケティング施策の立案・展開が
可能になります。


さて、将来の変化を予測するためには第一に、
現象の

「因果関係」

を把握しなければなりません。

昨日のブログでご紹介した

「気温が高くなると、整腸剤が売れる」

という現象の場合、
以下のような因果関係が推定できました。

------------------------

気温が上昇する

体が火照る・のどがかわく

冷たいものが欲しくなる

冷たい飲料や冷菓を過剰に摂る

腸の働きが過剰になる

お腹を壊す

整腸剤を飲む

-----------------------

この一連の因果は自然なものであり、
納得できるものですね。

そして昨日の記事でも書いたように、
現象の背景に存在していると思われる

「因果関係が何か」

を考えてみるのは論理思考力を養い、
ビッグデータから優れた

「予測モデル」

を構築するためにとても役に立ちます。


ただ、ひとつ気をつけたいことがあります。

それは、

「擬似相関」

に惑わされないようにすることです。

「擬似相関」は「みせかけの相関」とも、
言われます。

複数の現象の間に「比例・反比例」のような
関係が認められる。しかし、実は直接の関係性
はなく、別の要因が隠れている場合もあるのです。

しかし、その隠れた別の要因によって、
あたかも両者に相関関係があるように見えるので

「擬似相関」あるいは、「みせかけの相関」

と呼ばれるわけです。


例えば、

「血圧が高い人ほど年収が高い」

という記述を見てみましょう。


ここでは、「血圧」と「年収」に相関があり、
「血圧の高さ」が、年収を押し上げる

「原因」

と推定されているわけです。

もちろん、逆の因果関係を推定することも可能ですね。

「年収が高い人ほど、血圧が高い」

どちらにせよ、もっともらしい説明が可能でしょう。

「血圧が高い人ほど年収が高い」については、

「朝から活発に行動できる人はおおむね血圧が高めであるが、
 そんな人は、仕事に積極的に取り組み、成果を出しやすく
 なるため、高い年収を達成できるのである。」

「年収が高い人ほど、血圧が高い」については、

「高い年収の人はそれだけのプレッシャーにさらされるため、
 ストレスも高くなる。酒の量も増えたりするだろうから
 血圧が高くなるのである。」


上記の「血圧」と「年収」の関係は直感的にもおかしいと
わかるため、どちらの因果関係の説明にしても、単なる

「こじつけ」

としか考えられないかもしれません。
(実のところ、「血圧」と「年収」の間に相関があるように
 見えるのは、両者に「年齢」が直接関係しているからです。)


しかし、世の中の様々な新聞、雑誌、書籍、ブログなどを
見回してみると、

「みせかけの相関」

に基づく

「こじつけの因果関係」

が巧妙に解説されており、
ぱっと読んだだけではすぐに「みせかけの相関」だと
わからないことも多いですね。


欧米の心理学初級の教科書には、

「アイスクリームの消費量がなぜ水難の割合と
 関係があるのか、その理由を考えなさい。」

という課題があるそうです。


アイスクリームの消費量が高い日は、
水難の割合が高くなる。逆に、アイスの消費量が
低い日は、水難の割合も低くなる。

見かけ的には、

「アイスクリーム消費量」と「水難の割合」

の間には相関が認められます。

しかし、すぐにおわかりかと思いますが、
アイスクリームの消費量と水難の割合の間に

「見せかけの相関」

が生まれている背景には「気温の変化」があります。


もちろん、これは、あえて極端な例を示すことで、

「みせかけの相関」

の罠に落ちないようにするための思考訓練を
教科書の読み手に与えているのですが。

それだけ、私たちは「見せかけの相関」に
だまされやすいということでもあります。

ですから、身の回りの様々な現象を引き起こしている

「因果関係」

を推定してみるだけでなく、
すでに出回っている、

「もっともらしい因果関係についての説明」

が本当は「みせかけの相関」によるものでないか?と
疑ってみることも、「論理思考力」を養う良い訓練になるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 10:10 | コメント (0) | トラックバック

暑い夏は整腸剤が売れる?

今朝の日経産業新聞(2012/08/20)に、
ちょっと面白い記事が掲載されていました。

記事の内容は、端的には

「暑くなるほど整腸剤がよく売れる」

という因果関係があるというもの。


大幸薬品の「セイロガン糖衣A」の過去12年間の
販売データを見ると、気温上昇に比例して売り上げ
が伸びています。

そして、4~11月の間では、摂氏23度を越えると、
温度が1度上がるごとに、売り上げが約5%増えること
がわかっているそうです。


もちろん、気温が上昇するとのどが渇きやすくなる、
だからミネラルウォーターの消費量が増えるといった
シンプルな因果関係ではありません。

整腸剤の利用が増える理由は、さらにその先にあります。

夏場になると水分を多くとる、また冷たいものを食べる
機会も増える、すると腸の働きが過剰になり腹を下す
可能性が高まる。

結果として、セイロガンが必要になってしまうという
わけですね。

言われてみればなるほど、私も小さいころは、
冷たいものの食べすぎ・飲みすぎでよくお腹を
壊していました(笑)


それで、去年(2011年)の夏は、
福島原発事故の影響を受け「節電」が奨励されたため、
水や冷たいものを食べて暑い夏を乗り切ろうとした
人が多かったため、整腸剤の売り上げが大きく伸びた
ようです。

今年も猛暑気味ですし、

「節電意識」

も依然として高いことから、
整腸剤の需要は伸びるだろうと予測されています。


さて、夏場に整腸剤の売り上げが伸びるということは
業界の方であれば経験則としてもわかっていたことでしょう。

ただ、近年は、POSデータを始め、いわゆる

「ビッグデータ」

の蓄積・活用が進んで、比較的精緻な

「予測モデル」

の構築が可能になってきています。

記事にも書かれていたように、
摂氏23度を越えると、1度の上昇で売り上げが5%伸びる、
といった

「法則性」

を‘定量的’に把握するのが予測モデルです。

予測モデルによって、気温などの変化に応じ、
商品の需要がどの程度増減するかを高い精度で
推定できれば、工場の生産量や市中在庫量の調整、
また販売促進施策の立案にも役立ちます。


最近注目を集めているビッグデータの活用において
最も期待されているのは、「未来予測」の分野。

・将来において、商品の需要がどのように増減するのか?
・ターゲット顧客は、販促施策に対してどのような反応を示すのか?

こうしたことが予測できれば、適切な事業計画、
マーケティング施策が立案・展開できるからです。


私自身、各種予測モデルの構築に携わってきていますが、
高い予測精度を達成するのは、なかなか難しいというのが
実感ではあります。

それでも、ものごとの「因果関係」を探るのは、
実に面白い作業です。

整腸剤以外に、気温変化によって需要が増減する、
考えもつかない商品がないか、あるとしたら、
その因果関係はどうなっているのかを考えてみるのは、

「論理思考力」

を養う良いトレーニングですよ!

投稿者 松尾 順 : 11:04 | コメント (0) | トラックバック

「人の目」の威力

知らないうちに、ありとあらゆるところに
設置されている「防犯カメラ」。

防犯カメラの設置には賛否両論ありますね。


ただ、先日の「ガイアの夜明け」(2012/8/7放送)で
紹介された消費者調査の結果によれば、

「防犯カメラで自分が写されていても気にならない」

という回答が約8割となっており、
意外と気にしない人が多いようです。


プライバシー侵害等の不安も確かにあります。

しかし、むしろ、一般市民にとっては、
防犯カメラが設置されていることの

「安心感」

のほうが大きいのではないでしょうか。

防犯カメラには大きくは2つの効用があります。

ひとつは、先日のオウム真理教元信者の高橋克己容疑者
の逮捕で活用されたように、犯罪者を特定したり、
逃亡ルートを追うことで、検挙率を高めることができること。

また、近年進歩が著しい「顔認識技術」を使って、
街頭などの防犯カメラに映った人々の中から、
逃亡中の指名手配犯を探し出すことも可能となっています。

これは、従来の、

「見当たり捜査官」

と呼ばれる刑事が指名手配犯の顔写真を数百人覚え、
雑踏を歩き回り犯人と思われる人物を探し続けるという
地道な方法の代替技術となりそう。

昨今の顔認識技術では、カツラやサングラスなどで
かなり変装していても、同一人物かどうかを判定できる
ようですので、逃亡犯の検挙率も高まることになるでしょう。


防犯カメラのもうひとつの効用は、
防犯カメラの存在自体が犯罪の発生を抑制できること。

文字通り「防犯」効果があることです。

実際、防犯カメラを設置した商店街では、
「落書き」などのいたずらが大幅に減少しています。

犯罪の温床になりがちな公園でも、
防犯カメラを設置することで犯罪の発生が減るなど、
目に見える効果につながっているようです。

すなわち、「人の目がある」「誰かに見られている」
といった意識が犯罪行為に至ることを踏みとどませるわけです。


さて、

「人の目」が私たちの行動に大きな影響を与える

ということは、ビジネスやマーケティングの視点
からも覚えておきたいことです。


例えばこんな実験があります。

ある会社のドリンクコーナーにおいてある、
紅茶、コーヒー、ミルクは有料制です。

社員が飲むたび、
自分でお金を箱の中に入れる仕組み。

オフィス・グリコのようなものですね。


研究者のメリッサ・ベイトソンは、
10週間にわたって、この会社で飲まれた
ミルクの量と箱の中に入っていた金額を
調べました。

なお、その際、1週間ごとに
ドリンクコーナーの目の高さに貼ってある
写真を入れ替えていました。

ある週は「花」の写真。

別の週は、自分を見つめているように
感じられる「人の顔」の写真です。

その結果、花の写真の週は、
飲まれたミルクの量に対して支払われた金額が少なめ。

つまり、ちゃんと払っている人が少なかったわけです。

ところが、「人の顔」の写真の週は、
花の写真の週の2倍から3倍のお金が箱に入っていた。

すなわち、ちゃんとお金を払った人が大幅に増えたと
いうことです。


興味深いのは、社員たちは、ドリンクコーナーに
貼ってあった写真がどんなものであったかほとんど
意識していなかったこと。

毎週、花や人の顔の写真が差し替えられていたのに、
それに気づいていなかったのです。

これは、人の目がまさに‘無意識に’人の行動に
影響を与えていたことを示すものでしょう。

人の目があることが人を‘無意識に’正直者にしたのです。


あなたなら、ビジネス・マーケティングにおいて、
この知見をどのように応用しますか?


そういえば、「オフィスグリコ」では、
カエル(ヨミガエルくん)の代金箱にお金を入れる仕組み。

人ならぬ「カエルの目」があなたを見ていることが、
高い代金回収率を達成できている秘密なのかもしれません。


*参考文献

『隠れた脳 - 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』
(シャンカール・ヴェンダンタム著、渡会圭子訳、インターシフト)

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●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

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投稿者 松尾 順 : 08:52 | コメント (0) | トラックバック

審判があえて誤審してしまう理由とは?

スポーツの審判が、

「誤審」

と見られても仕方のない判定・裁定を
行なってしまう背景にある

「心理的バイアス」

には、昨日ご紹介した

「集団への同調圧力」

によるもの以外にも様々ありますが、
今日は

「不作為バイアス」

を解説しましょう。


「不作為バイアス」は、
自分が行動したことによってネガティブな
結果を招くことを避けようとするため、
意思決定に当たって、できるだけ

「行動しないこと(不作為)」

を選択しようとする傾向のことです。

心理学、あるいは行動経済学の枠組みで
紹介される有名な実験に次のようなものがあります。

被験者は、あるインフルエンザの予防接種を
自分の子供に受けさせるかどうかを聞かれます。

このインフルエンザに感染すると、
3歳未満の子供の場合、命に関わることがあり、
[子供1万人あたり10人]が死亡しています。

予防接種を受けると感染を避けることができますが、
[子供1万人当たり5人]が、予防接種を受けたせいで
亡くなることがわかっているという状況です。

確率論に照らせば、つまり合理的な選択は、

「予防接種を受けさせる」

という判断になるはずです。

ところが、多くの親は、

「予防接種を受けさせない」

を選ぶのです。

なぜなら、予防接種を受けさせて、
万が一、自分の子供が死んだら、
自分の責任だと感じざるを得ないからです。

親としては、そんなことは避けたいと考え、
予防接種を受けさせないことにする。

しかし、冷静に考えれば、

「予防接種を受けさせない」

という選択をした結果、
子供がインフルエンザに罹って
不幸にも死んでしまったらどうでしょうか?

当該インフルエンザによる死亡率の高さを考えると、
予防接種を受けさせないほうが、よほど責任重大です。


ただ、人間心理として一般に、

「行動したことによる結果」

よりも、

「行動しないことによる結果」

のほうが抵抗がない。

結果に対して「自分の意志」が明確に影響を
及ぼしていないように感じられるからでしょう。

そこで、人はなるべく、結果に影響を
及ぼさないように思える

「行動しないこと=不作為」

を選ぼうとする。

これが「不作為バイアス」です。


さて、スポーツの審判の場合、
ゲーム中の自分の判定がその後の展開、
ひいては勝敗に影響を及ぼす立場にあります。

サッカーなどで、残り時間がたっぷりあって、
勝負の行方がまだまだわからないような状況では、
審判はためらいなく判定することができます。

しかし、ここでゴールを決めるか、決めないかが
ゲームの勝敗を決するような状況では、
審判はなるべく、

「(勝敗を決定づけるような)行動をしないこと」

‘無意識に’選ぼうとするようです。

つまり、基本的に、
勝敗は選手たち同士のプレイで決めさせたい。

審判の判定で勝負を決めるようなことはしたくない、
という意図が無意識に働いていると考えられます。


具体例を示しましょう。

野球についてのデータ分析の結果では、
バッターがツーストライクと追い込まれている状況
(ツーストライク・スリーボールのフルカウントは除く)で、
次にピッチャーが投げた球を見送った場合、
本当は「ストライクゾーン」に入っていたにも関わらず、
審判が「ボール」と誤審した割合が39%もありました。

これは、ツーストライク以外で見送った場合の誤審率の
2倍の数値になっています。

また、逆に「スリーボール」の状況で、
次の球をバッターが見送った場合、
本来ボールであったのに「ストライク」と
誤審した割合は20%で、全体の11%のやはり
約2倍の誤審率となっています。


なぜこのような誤審をしてしまうのでしょうか?

要するに、審判はなるべく打席を長引かせ、
バッター自身に打たせて結果(アウトかヒットか)
を決めさせたいという

「無意識の心理」

が働いているのでしょう。

言い換えると、自分の判定によって、
1塁に歩かせたり、ストライクアウトと
いった結果を招きたくないということ。

まさに、審判の誤審の背景には、

「不作為バイアス」

が働いているのだろうと、
考えざるをえないわけです。


どう考えても「ありえない誤審」はさておき、
当事者である選手同士に勝負をつけさせるために、
勝敗を左右するような決定的な判定をあえて行なわない
という審判の

「不作為」

は、ゲームを面白くしますから、
論理的ではないけれど、納得性の高い行動と
言えるかもしれません。


*参考文献

『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』
(トビアス・J・モスコウィッツ、L・ジョン・ワーサイム著、
 望月衛訳、ダイヤモンド社)

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投稿者 松尾 順 : 10:02 | コメント (0) | トラックバック

ホームゲームの勝率が高い本当の理由とは?

多くの競技スポーツにおいて、
地元で行なわれるホームゲームの勝率は、
敵地で行なわれるアウェイゲームよりも高い。

これは明確に数字として示すことのできる事実ですが、
地元開催だと、ホームチームが勝つことが多くなるのは
なぜでしょうか?

よく言われる理由としては、
以下のようなものがありますね。

-------------------------------------

・アウェイチームは遠征の長旅で疲れているから

・アウェイのゲームはしばしば過密日程になりがちで、
 アウェイチームの疲労が蓄積されやすいから

・地元のファンの熱心な応援、あるいは恫喝(笑)で、
 ホームチームのやる気が高まるから

--------------------------------------

ホームチームが勝ちやすい理由はどれかひとつに
絞られるわけではありませんが、直感的に一番影響が
大きいと思われるのは、やはり、

「地元ファンの応援」

でしょうか?

ところが、シカゴ大学ビジネススクール教授、
トビアス・J・モスコウィッツらが、サッカーやアメフト、
野球、アイスホッケー、バスケットボールなど、
過去数十年に及ぶ膨大な試合データを緻密に分析したところ、
上記3つの理由のどれも、ホームチームの勝率に影響を
与えているという結果は得られなかったのです。


では、何がホームチームの勝率を押し上げていたのでしょうか。

それは、審判の「地元びいき」的な判定だったのです。

ホームゲームとアウェイゲームで比較すると、
ホームチームに有利な判定が下されやすく、
一方アウェイチームに不利な判定が下されることが多い
ということが数字として明確に現れてきた。

例えば、野球で言えば、
ホームチームのバッターは見逃し三振が少なく、
フォアボールが多くなるのだそうです。

ストライクかフォアボールかは、
最終的には審判の主観的な裁量に委ねられています。

もちろん、誰が見ても明らかなストライク、
あるいはボールには、主観的判断はほとんど入り込めません。

しかし、ストライクかボールのどちらか微妙なコースの時、
審判は‘無意識に’ホームチームに有利な判定をしてしまう。

つまり、「ボール」とコールすることが多くなるため、
見逃し三振が減り、フォアボールが増える。


サッカーでも、
過去試合データを分析してみたところ、
アウェイチームがファウルを取られる数が
増えることがわかっています


とりわけ面白いのが

「追加タイム(ロスタイム)」

の違いです。

追加タイムは、選手交代や選手の負傷などによるゲーム
の中断時間を主審が裁量し、任意に決定できるゲーム
延長時間ですね。

過去の試合データの分析によれば、
ホームチームが1点勝っている時の追加タイムは
平均で「2分」ちょっと。

逆に、ホームチームが1点負けている時の
追加タイムは平均で約「4分」と、ホームチームが
勝っている時の2倍の長さになるのです。

素直に考えると、ホームチームが勝っている時は、
速やかにゲームを終わらせたい。逆に、負けている時
は、できるだけゲームを長引かせ、ホームチームに
得点のチャンスを与えたいという意図が主審にあると
しか思えないですね。

しかも、1点差の接線でない場合、
つまり2点以上の差でどちらかが勝っている場合、
追加タイムは、常にほぼ一定した長さで違いが
ないのだそうです。

これは、追加タイムで2点以上の差を埋めるのは、
さすがに難しいと主審が判断しているからだろうと
推測できます。


さて、審判の方々の名誉のために解説しますが、
実のところ、審判は、明確に意図して「地元びいき」
の判定・裁量をやっているわけではありません。

審判の方々はできるだけ公明正大にプレーを
見極め、正確な判定をしようと心がけているのです。

それでも、結果として「地元びいき」になってしまう
理由は、モスコウィッツ教授らの分析によれば、

「集団への同調圧力」

の影響だと考えられています。

ホームゲームでは、地元ファンの目が多い。
みな、ホームチームが勝って欲しいと願っている。

彼らは始めから「地元びいき」です。

微妙なプレーは常に、ホームチームに有利な
判定になることを望んでいるわけです!

そうした雰囲気を感じている審判は、
‘無意識’に、ホームチームに対して有利な判定を
してしまいがちになるのです。

つまり、ホームゲームの観衆の「総意」とでも
言えるものに、審判も無意識に同調してしまうというわけ。

逆に、総意に反する判定はとてもやりにくい。
ストレスを感じてしまう。

実際、ホームチームに不利な判定をした審判は、
地元ファンから大きなブーイングを受けることも
少なくないわけですから。


なお、ホームチームの勝率に審判の判定が影響を
与える大きさは、審判の主観による判定部分が多い
サッカーやバスケットボールなどで大きく、
主観的な判定部分が相対的に少ない野球などでは、
小さくなります。

この分析も、審判が「集団への同調圧力」を受けて、
主観的な判断にはバイアスがかかりやすいことを
裏付けるものと言えますね。


オリンピックでも昔から

「主催国効果」(主催国選手が活躍することが多い)

があると言われてきています。

今回のロンドンオリンピックでも、
英国のメダル獲得数が大きく伸びました。


果たして、オリンピックの審判員にも、
なんらかの心理的バイアスが生じたのかどうか、
分析してみると面白そうです。
(オリンピック審判員の方々のスキルや公明正大さに
 疑問を呈する意図はないことをご理解ください!)


*参考文献

『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』
(トビアス・J・モスコウィッツ、L・ジョン・ワーサイム著、
 望月衛訳、ダイヤモンド社)

---------------------------------

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投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

「ネガティブなクチコミ」を減らす方法

企業にとって一番頭が痛いのは、
自社商品の購入者が、当該商品や企業についての
不平不満や悪口を言いふらすこと、すなわち、

「ネガティブなクチコミ」

ですね。

もちろん、そうした不平不満は、商品やサービス改善の
ヒントであり、貴重な情報ではあります。

しかし、ネガティブなクチコミが拡散することよって、
売上が抑制されてしまう点が頭が痛いわけです。

実際、心理学の研究によれば、
人は良いクチコミよりも、悪いクチコミに対して
強い印象を受けやすく、結果として記憶にも残りやすい
ことがわかっています。

したがって、よいクチコミが「買う気を高める効果」よりも、
悪いクチコミが、「買う気を失くさせる効果」のほうが、
より大きいと言えるでしょう。

しかも、ソーシャルメディアの浸透によって、
クチコミがより拡散されやすくなっている昨今、
ネガティブなクチコミが持つ、

「購買意欲抑制効果」

はますます大きくなっていると思われます。


では、ネガティブなクチコミをできるだけ減らすため
にはどうしたらいいのでしょうか?

購入した商品に対して不満を持った消費者は、
以下の行動をどれか、または複数同時に取ります。

-------------------------------------------------

1.他の商品に切り替えてしまう(ブランドスイッチ)
2.当該企業に直接苦情を言う(苦情行動)
3.不満足な経験を他人に話す(ネガティブなクチコミ)

-------------------------------------------------

実のところ、何も言わず、黙ってブランドスイッチ
する消費者が相当数存在していて、こうした、

「もの言わぬ離反者」

こそが、企業にとって何のリカバリー策も打てない、
最も頭の痛い消費者かもしれません。


さて、消費者行動の研究者、
マーシャ・L・リッチンズの研究によれば、
不満が小さければ、消費者は特になにもしません。

多少の不満は我慢してしまうということでしょう。
ただし、次回購入時は、ブランドスイッチされてしまう
可能性は高いわけです。

一方、極めて大きな不満を感じた場合は、
企業に対して直接的な苦情を申し立てます。

その結果、なんらかの形で解決に至ることになります。
(訴訟にまで発展することもありますね。)

もし、直接的な苦情に対して、
企業側が迅速に、適切に対処できれば逆に満足度が高まり、
「良いクチコミ」が拡散することもあります。


「ネガティブなクチコミ」が発生しやすいのは、
上記2つの間のレベルです。

すなわち、人が相応の不満を感じていて、
我慢はしていられない。

ところが、直接的な苦情行動がとりにくい時や、
企業が、苦情を軽くあしらうような態度を取るとき、
消費者は、不満のはけ口として、

「ネガティブなクチコミ」

をばら撒いてしまうわけです。


したがって、

「ネガティブなクチコミ」

を減らす方法は基本的には以下の2つです。

-------------------------------------------------

1 直接的な苦情を言いやすくする仕組み・体制をつくる
2 苦情に対して真摯に対応する

-------------------------------------------------

従来、多くの企業では、

「臭いものにはフタ」

の考え方が強く、苦情を受け付ける仕組み・体制に
十分な予算を割かず、問い合わせ先の情報をあえて
目立たなくしたり、また、実際の苦情に対しても、
心のこもらない、型どおりの対応で受け流すことが
みられました。
(消費者は泣き寝入りするしかなかったわけです)

しかし今や、消費者誰もがネットを通じて情報発信でき、
企業が「泣き寝入り」させることができなくなったばかりか、

「ネガティブなクチコミ」

あるいは、さらに極端な場合には、

「組織的な不買運動」

を起こすことさえ容易になっています。


企業としては、気の進まないことではありますが、

「苦情」

を真正面から受け止め、真摯に対応するしか道はありません。


*参考文献

『雑談力 おしゃべり・雑談のおそるべき効果』
(川上善郎著、マイコミ新書)

---------------------------------

<主催セミナーのご紹介>

●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

●深堀り!『影響力の武器』エッセンス(9月12日)

●早分かり!『行動経済学エッセンス』(8月29日) 

           ------------

●英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」(8月26日)

●【マスターコース(全10回)】英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」

投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (0) | トラックバック

人はなぜ「クチコミ」するのか?

インターネットは、一般庶民の私たち誰もが、
いつでもどこでも、様々な情報を簡単に収集すること
を可能しました。

同時に、私たち個人がそれぞれ自由に、
社会に向けて「情報発信」することを簡単にしました。


さて、いち消費者、いち生活者としての個人が
発信する情報は、他者からみれば

「クチコミ」

にほかなりません。

クチコミは、
消費者行動に大きな影響を与えます。

なぜなら、私たちは、

「他の人々はどんなものを購入しているのか」

また、

「人々は、購入した商品についてどのような評価を
 しているのか」

を大いに参考にして、
自分が購入する商品の選択を行なうからです。

「なぜクチコミを参考にするのか」という
理由としては、大きくは2つあります。

------------------------------

1 失敗が少ない

他者の評価が高ければ、自分にとっても
満足できる商品である可能性が高い。


2 嘲笑されたり、非難されることが少ない

みんなが購入しているものなら、
多くの人に受容されているということであり、

 「変なもの買っちゃって!」

などと笑われたり非難される可能性が低い。

------------------------------

要するに、「長いものに巻かれる」ほうが、

「安心」

という心理が働くからです。

ちなみに、これは『影響力の武器』で
解説されている「カチッ・サー理論」では、

「社会的証明の原理」

と呼ばれているものに含まれます。


では、そもそも人はなぜクチコミをするのでしょうか?

クチコミをする、したくなる理由については、
これまでの心理学の研究によれば、
以下の4つの理由が提示されています。

------------------------------

1 購入した商品を好きになるしかないから

複数の競合商品から一つの商品を選んだら、
少なくとも、当面その商品を利用するしかありません。

せっかく貴重なお金を投じて購入した商品ですから、

「失敗した」

などと後悔はしたくない。むしろ、自分が購入し
所有している商品をできるだけ価値あるものと考えたい。

そのために、

「その商品がどれだけいいか、満足しているか」

を周囲の人に対して語る、示すことによって、
本人が購入後に(無意識に)感じている

「この商品選択は正しかったのか?」

という不安や緊張を解消しようとするのです。
(心理学では「認知的不協和の解消」と言われるもの)

すなわち、この口コミは、他人のためでなく、
あくまで、自分で自分自身を納得させる、
安心させるための情報発信です。

これは、じっくり比較検討する商品、
購入金額が高い商品においてとりわけ起きやすい
クチコミ発生の動機であり、最も基本的なものだと
言われています。

なお、購入した商品が大きく期待はずれだった場合、
「かわいさあまって憎さ百倍」ではないですが、
極めて強い、ネガティブな口コミが撒きちらされる
可能性が高くなります。


2 「良いものを選んだ自分は偉い」という自己顕示をしたいから

人は、各自の好み、価値観や感性に基づいて、
なんらかの製品を選択します。

したがって、ある製品を購入することは、
その人自身のパーソナリティやセンスの良し悪し
を示すものだと言えます。

映画や音楽、演劇などについて、
積極的にクチコミをしたがるのは、

「こんな良いものを楽しんでる私ってセンスいいでしょう?」

ということを周囲に知らしめたいという

「自己顕示欲求」

が根底にあります。

これは、フェイスブックなどのソーシャルメディア
において頻繁に観察されるクチコミですね。

自己顕示は、自分を良く見せたい、
認められたいという心理から行なわれるもの。

誰もが持つ

「社会的欲求」

であり、これを否定するものではありません。
(振り返ってみれば、私自身結構やってますw)


3 相手を喜ばせたい、相手の役に立ちたいから

1や2の理由のように、自分のためではなく、
他の人に教えてあげることで、

「相手に喜んでもらいたい、役に立ちたい」

という「利他意識」からもクチコミが行なわれます。

これもまた、社会という集団を形成・維持するために、
お互いを助け合うことが必須であることから、
私たちのDNAに深く刻み込まれた心理です。


4 その情報がとても興味深い、面白いから

オリンピックで、

「○○選手がメダルを取った」

といったことがクチコミされやすいのは、
オリンピック自体が4年に1度のスポーツの祭典
という希少価値あるテーマであり、そこで
「メダルを取る」というニュースは、
とても興味深く、面白い情報だからです。

あるいは、ソフトバンクの「犬のお父さん」
のような奇妙なテレビコマーシャルがクチコミ
されやすいのは、純粋に面白いからです。

要するに、とても興味深い情報や面白い情報は、
誰かに語らずにいられない力を持っています。

言い換えると、上記のような情報や広告こそが、

「話題性のある(クチコミされやすい)
 コンテンツやクリエイティブ」

と呼ばれるわけです。

--------------------------------

なお、近年は、

「クチコミに対してなんらかの報酬を支払う」

という仕組み・仕掛けが展開されているため、
口コミをする第5の理由として

「金銭的報酬が支払われるから」

も上がるようになっています。

ただ、前述した4つの理由は、
人の内側からわきおこる欲求に動機づけられたもの
であるのに対し、「金で買う」クチコミは、
外側から与えられる動機付けです。

したがって、どこか白々しく、本人の思いの弱い、
説得力に欠けたクチコミになりやすいため、
その効果はあまり高いとはいえません。


冒頭に述べたように、
クチコミは消費者行動に大きな影響力を
有しています。そこで、

「いかにクチコミを発生させるか、拡散させるか」

というのがビジネスにおける大きなテーマになっていますね。

ただ、いわゆる「クチコミマーケティング」や、
「バズマーケティング」と呼ばれる施策では、

「金で買うクチコミ」

で手っ取り早くクチコミを発生させようという風潮があります。

しかし、それ以前に、
人がクチコミをする基本的な4つの理由を理解し、
人が自然にクチコミしたくなるようになるためには、
どのような商品づくりや、コミュニケーションが
有効かをじっくり考えるべきでしょう。


*関連記事

カチッ・サー理論とは?

*参考文献

『雑談力 おしゃべり・雑談のおそるべき効果』
(川上善郎著、マイコミ新書)

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投稿者 松尾 順 : 10:36 | コメント (0) | トラックバック

幸せのコミュニケーション

誰かを一瞬にして幸せにする方法。

それは、その人の良いところを見つけて

「ほめる」

ことです。

「ほめること」は簡単なようで、
実は慣れないとなかなか難しいもの。

とはいえ、たとえ歯の浮くような

「お世辞」

であったとしても、
言われた方は悪い気はしないものですね。

結果、人間関係がより良いものとなり、
ほめた人も幸せを感じることができます。


自動車ディーラーの営業担当者、
および彼らの顧客両方を対象にして行なわれた
アンケート調査によれば、成績の良い営業担当と、
あまり良くない営業担当の大きな違いの一つとして、

「お客さんのことをほめること(お世辞が言えること)」

が抽出されています。

お客さんのことをうまく「持ち上げること」が
できる営業パーソンほど、よりたくさんの車を
販売できているのです。

ほめることで、お客さんを幸せな気持ちにさせ、
購買意欲を高めているということでしょう。

お客さんもハッピー、
営業パーソンもクルマが売れてハッピー。

この結果を受けて、そのディーラーでは、
営業パーソンを対象とした

「お世辞研修」

を開催しているそうです!


さて、ほめることは、
相手を肯定的に認めることであり、
いわゆる「承認欲求」を充たすものです。

そして、認められた人は幸福感を得るだけでなく、
日々積極的に活動できる

「動機づけ」

ともなることがわかっています。

ですから、お互いにほめあうような文化が
定着している企業は、高い業績を維持すること
ができるわけです。


ただ、職場にしろ、家庭や友人関係にしろ、
お互い身近になればなるほど、
「良い点」よりも、「良くない点」のほうが
気になってくるものですね。

いつもついつい粗探し、

「こうすればいいのに」「こうすべきだ」

といった批判的な言葉が口に出てしまいがち。

批判的な言葉は、もしそれが相手の改善すべき点を
指摘するものであれば、その人の成長を促すきっかけ
にもなりますので時に必要ではあります。


大事なのは、「ほめること」と「批判すること」の
バランスです。

夫婦間のコミュニケーションについての心理学研究に
よれば、夫婦関係が円満な男女の場合、お互いに、
ほめあう回数が、批判の5倍も多かったそうです。

つまり、

ほめる(肯定的発言):5 批判する(否定的発言):1

ということです。

この割合が縮小すればするほど夫婦間の危機は
高まります!

夫婦が同席する15分間ほどのインタビューを見れば、
両者の会話における肯定・否定の比率から、
将来の離婚率が90%の確率で予測できるのだそうです。


私自身も、過去の失敗(!)を踏まえ最近は、
身近な人ほど積極的にほめようと心がけています。

もし批判的なことを言わざるを得ないときは、

ほめる⇒批判する⇒ほめる

というように、ほめ言葉でサンドウイッチする。

また、ほめる言葉がうまく見つからないときは、

「がんばってるね」

と「ねぎらい」の言葉をかける。


ちなみに、子供に対しては、

ほめる:3 叱る:1

の比率が良いとのこと。


「幸せのコミュニケーション」のために、
周囲の人を積極的にほめまくりましょう!

最後に、ロンドンオリンピックに出場された選手の皆さん、
皆さんは本当に素晴らしかった。
たくさんの感動を与えてくれました。
ありがとう!

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投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (0) | トラックバック

『心でっかちな日本人』

今日は書評モードで!


『心でっかちな日本人』は、
社会心理学者、山岸俊男氏の2002年の著作です。

山岸氏には、

『信頼の構造』
『安心社会から信頼社会へ』
『社会的ジレンマ』

などの優れた著作もあります。


さて、山岸氏によれば、

「心でっかち」

とは、心と行動のバランスが取れなくなっている状態。

ひらたく言うと、
様々な社会の問題の「原因」をやみくもに

「心」

に求めてしまうこと。

「心の持ちようさえ変えればなんとかなるさ」

といった「精神論」はその極端な例です。


例えば、最近も再び社会問題化している、
学校での「いじめ」は、

「子供たちの『心』が荒廃しているから」
(ex. 思いやりの心が育まれていないから・・・)

といった紋切り型の考え方にとらわれている人は、

「心でっかちの落とし穴」

にはまった人の典型だと山岸氏は指摘します。


そして、山岸氏は、
いじめが起こる一番の原因は、

「頻度依存行動」

にあると主張しています。

「頻度依存行動」とは、

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

というギャグに代表される行動です。

すなわち、自分が「ある行動」をするかどうかは、
「その行動」を取っている人がほかに何人くらいいるか
によって決まる(依存する)ということです。


「いじめ」はどんな学校・学級(あるいは企業)にも
起こりうるということが言われていますが、それが
広がってしまう、あるいは深刻化する背景には、
「頻度依存行動」がある。

具体的に言うと、いじめをする生徒が増え始め、
ある人数を超えると、いじめを阻止しようとする
行動が取りにくくなるのです。

というのも、阻止しようとした生徒本人が、
新たないじめの対象になる可能性があるからです。

このため、積極的にいじめに加担するか、
または、黙認するしかなくなってしまうわけです。
このため、いじめが深刻化していく。

逆に、そんな状況でも、勇気を持っていじめを阻止しよう
とする生徒が出てきて、「いじめ阻止」に賛同する生徒が
一定の人数を超えると、いじめの加害者たちは、
いじめを続けることが自分にとって不利な状況に
なってくるため止めざるを得なくなる。

このように、私たちは基本的に、
集団監視下において、どんな行動に従う
(=他者の行動を真似する)のが自分にとって
メリットが大きく、リスクが少ないかに基いて、
自らの行動を決める傾向があります。

これは、いわば「集団力学」の問題であって、
いじめの原因を個々人の「心」に求めるのは、
まさに「心でっかち」と言えるというわけです。


頻度依存行動は、社会のあらゆる状況において
観察されることであり、マーケティングの視点では、

個々人のニーズや価値観、パーソナリティ(性格)

などだけでなく、頻度依存行動のような

「社会心理」

が消費行動に与えている影響の大きさを
無視してはいけないということが言えます。


『心でっかちな日本人』を読めば、
思考停止に等しい「思い込み」や「固定観念」を捨て、
現実をありのままに見る力を養うことができるでしょう。


『心でっかちな日本人』
(山岸俊男著、筑摩書房)

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投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (0) | トラックバック

オフィスグリコに見る「バラエティ・シーキング」

オフィスにお菓子の入ったボックスを置き、
「富山の薬売り」方式で販売する

「オフィスグリコ」

の成功の最大の要因は、

「オフィスでも、堂々とお菓子が食べたい」

という潜在ニーズに応えたことにあります。


基本的に日本企業では、
お客さんや出張帰りの同僚が買ってくる時折の
お土産を除き、仕事中にお菓子を食べるのは

「タブー」

というか、あまり好ましくないという空気があります。
(ベンチャー企業とかではその限りではないですが)

なので、私なども、会社勤めのころは、
机の引き出しなどに隠して、こっそりと口に
入れていたものです。


そこで、オフィスグリコでは、

「お菓子はリフレッシュに役立つ」

というメリットを強調し、
お茶を飲んで一休みできるオフィス内の
リフレッシュスペースに置いてもらうことを
狙ったのだそうです。

オフィスグリコのボックスは、
会社が承認して設置してあるもの。

すなわち、ある意味「会社公認」ですから、
女性も男性も、遠慮なくオフィスで毎日お菓子を
口にすることができるようになったわけです。

さて、もうひとつ、成功要因として面白いのが、
ホームセンターでみかけるような小型の透明の箱、

「リフレッシュボックス」

にお菓子を入れた点です。

このボックスには3つの棚があり、
それぞれ8個づつ計24個のお菓子が
入っています。

そして、売れ残りがあっても、
中身を3週間かけて総入れ替えすること
になっています。


素人考えでは、「自動販売機」にしてしまえば、
代金の回収の問題もなくなるし、それほど頻繁に
商品を入れ替えなくて済み、コストが下がるのでは?
と考えてしまいます。

しかし、実際には、

「頻繁に商品を入れ替えること」

が成功の鍵なのです。

というのも、低価格の食品の購入において
しばしば観察されるのですが、いつも同じもの
ではなく、気分に応じていろんなブランドや、
異なるフレーバーを楽しみたいという、

「バラエティ・シーキング」

を消費者が行なうからです。

「バラエティ・シーキング」は、
例えば、カップヌードルを食べるとき、
いつも定番の「しょうゆ味」だけを選ぶのではなく、
たまには気分を変えて「カレー」や「しお」を
選ぶようなこと。


オフィスグリコの担当者によれば、
お菓子の自動販売機は、多くの人が行き交う、
ボーリング場や高速道路のサービスエリアなど
では成立するそうです。
(鉄道の駅構内にもよく見かけますね)

しかし、いつも決まった人が利用するオフィスでは
すぐに売れなくなる。商品の種類(バラエティ)が
固定的なためです。


そこで、オフィスグリコでは、
代金の回収も兼ね、毎週お菓子を入れ替ていく
仕組みとした。しかも、グリコの商品だけでなく、
他社商品も積極的に取り揃えて多様性を確保している。

こうして、オフィスグリコ利用者の「飽き」を防ぎ、
継続的な売上を確保しているというわけです。


*当記事は、以下の記事を参考にしました。

・オフィスグリコ、ヒントは富山の薬売りじゃないです
 相川昌也 江崎グリコ オフィスグリコ推進部部長(前篇)
 (日経ビジネスオンライン)

・オフィスグリコ、「カエルの集金箱」の秘密
 相川昌也 江崎グリコ オフィスグリコ推進部部長(前篇)
 (日経ビジネスオンライン)


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投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (0) | トラックバック

企業は、プロとしての専門的情報をネットに流し、見つけてもらいやすくしろ!

ヤマハのフェイスブックページ、

「ヤマハ音楽部」

では、ヤマハ社内で餅を食べるイベントの写真を
投稿したらファンが減ってしまったとのこと。
(日経MJ、2012/08/06)

同ページでは、顔出ししている運営者3名が、
それぞれニックネームを持ち、音楽に関連した情報や
メンバーの音楽関連の活動を紹介しています。

現時点(2012/08/07)でのファン数は5,200人です。


ヤマハとしては、自社宣伝をやりすぎないように、
また話題を音楽に限定せず、幅広い投稿をしてきた。

しかし、ひとつ大きな勘違いをしていたのです。

それは、フェイスブックページに「いいね」を
してくれている人たちは、

「音楽部のファンではなかった


だということ。

失礼ながら、運営されていた3人の方は、
それほどキャラが際立っているわけではない
のかもしれません。(ごめんなさい)


「音楽部」ページが、音楽好きが集まっている
ページであることは間違いないでしょう。

しかし、「音楽部」自体に対するロイヤルティは、
まだ十分に形成されていなかったものと思われます。


そこで、ヤマハは運営方針を転換。

投稿内容を「音楽」に絞り、
1日当たりの投稿本数も5本から3本に減らしました。

ネタを厳選し、ファンからの投稿数などの活性化度を
示すエンゲージメント率を高めるのが狙いとのこと。


さて、フェイスブックや、ツイッターなど、
ソーシャルメディアにおける自社公式アカウントの
運営方針については、ヤマハさんに限らず、
まだまだ手探り状態という企業が多いかと思います。

ただ、おおむね、「視聴者(!)受け」を狙って、
軽い内容、おちゃらけたスタイルがベストという
思い込みがあるようです。


このこと自体は、決して間違ってはいません。

ただ、軽い内容、おちゃらけたスタイルで
ファンの心を掴むのはとても難しい。

芸人並みの、高度なお笑いのセンスが
必要になってくるからです。


私が思うのは、「芸人ぶる」以前に、
なぜ、それぞれの企業が持つ専門分野の知識を
積極的に提供することで

「お役に立つ」

という方向を狙わないのかということです。

企業はそれぞれの分野の専門家であり、
豊富な知識を抱えている。当事者にとっては、
当たり前でも、一般の消費者にとっては

「目から鱗(うろこ)」

の情報がたくさんある。

そうした情報を提供している企業こそが、
消費者から感謝され、信頼や尊敬を勝ち取り、

「ブランド(企業)ロイヤルティ」

を高めていけるのではないでしょうか。

その上で、軽いタッチの投稿を行い、

「親近感」

を高めることができればさらに良い。


そもそも、従来の企業のネットでの情報提供は、
「買って買って!」という下心見え見えの、

「商品情報」「キャンペーン情報」

ばかりが目立ち、対象顧客のお役に立つ情報の
掲載に積極的な企業は少数派です。
(コストがかかる割に、売上に直結するわけでは
 ないというのが最大の理由。)

また、せっかく対象顧客に有益な情報を掲載して
いても、検索エンジン対策(SEO対策)が不十分で、
利用者が必要としている時に

「うまく見つけてもらう」

ことにもあまり成功していません。

残念ながら、見つけてもらえない情報は、
「存在しない」に等しいのです。


実のところ、検索エンジン対策が最優先でもない。

『ウェブで儲ける人、損する人の法則』の著者、
中川淳一郎氏は、

“適切な広報活動はSEO対策に勝る”

と喝破しています。


中川氏は、その分野の専門集団である企業が、
プロとしての情報を広報的に流せば、

「ヤフー・トピックス」

のようなニュースサイトに掲載され、
多くのアクセスを集めることができると主張しています。
(しかも、その結果、多くのリンクが貼られるため、
 検索エンジン対策に結びつきます。)


玉石混交の情報、真実か嘘かわからない情報があふれる
インターネットにおいて、その道のプロである企業が
提供する情報は、基本的に信頼できる情報として、
消費者に大いに喜ばれるでしょうし、また、競合との
差異化を実現することにもつながる。

そろそろ、企業は、ネットを通じて提供する情報の
「内容のあり方」および「情報の見つけられ方」を
厳しく見直す必要があるのではないでしょうか?

*ヤマハのケースは、日経MJ(2012/08/06)の記事を
 引用しました。

『ウェブで儲ける人、損する人の法則』
(中川淳一郎著、ベストセラーズ)

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投稿者 松尾 順 : 08:51 | コメント (0) | トラックバック

「振り返る自己」が楽しむ「ノスタルジック消費」

スポーツクラブNASが、
今年(2012年)8月1日に開業した「西日暮里店」には、

「元気横丁」

と呼ばれる交流スペースが最上階に設けられています。


「元気横丁」は、ひとことで言えば、
『Always 3丁目の夕日』の世界を再現したもの。

昔ながらの喫茶店。スナック風のカラオケルーム。
駄菓子屋。『ローマの休日』などが楽しめる映画館など、
高度成長期の昭和の雰囲気が楽しめる。


スポーツクラブが、
こうした施設を併設するのは珍しいですね。

ただ、スポーツクラブの収益を支える基盤と
なっているのは、まるで「集会場」のような感覚で
毎日通ってくれる

「シニア層」

です。

シニア層の会員を獲得し、維持するために、
「元気横丁」は、一定の効果を発揮するのではないでしょうか。

なぜなら、彼らは、元気横丁に行くことで、
昔の思い出に浸り、束の間の「幸福感」を味わうこと
ができるからです。


さて、行動経済学などの研究によれば、

「幸福感」

については、2つの視点で考える必要があります。

2つの視点とは、

・「経験する自己」(experiencing self)
・「思いだす自己」(remembering self)

です。

経験する自己とは、今この瞬間に経験していることを
自分がどう感じているか、ということ。

例えば、お風呂の湯船の中でくつろいでいるとき、
一種の「幸福感」がありますよね。

また、好きな趣味やゲームに夢中になっているとき、
やはり、幸せな時を過ごしている。

こうしたものが「経験する自己」です。


一方、「振り返る自己」は文字通り、
過去を振り返り、一定の期間について
「幸福」を感じるもの。

例えば、楽しかった学生時代。
スポーツや芸術など、なんらかの分野で
がんばって、1位になるとか、賞をもらった
ことなど。


もちろん、誰の過去においても、
楽しい思い出ばかりではなく、
多くのつらい状況も「経験」してきているはず。

それでも、今現在生きているということは、
それらを乗り越えてきたわけですから、
総括すれば「幸福だった」と感じる過去と
して保持するのが、私たちの記憶のメカニズムです。


このように、経験する自己と振り返る自己が
感じる「幸福感」は種類が異なるもの。

ですから、マーケターとしては、
この2つの視点を元に、対象顧客に対して
提供すべき「幸福感」が何かを考えることは、
とても有益でしょう。

観終った後、気分が爽快になるアクション映画や、
夢中で楽しめるゲーム、癒しを与えてくれる
マッサージ器具やアロマ、ヨガといった
製品・サービスは、

「経験する自己」

に与えることができる「幸せ感」ですね。

一方、スポーツクラブNASの「元気横丁」は、
昭和時代のセッティングによって、

「振り返る自己」

が得る「幸福感」を創出できる仕組みです。


理想を言えば、経験する自己、振り返る自己の
両方に同時に「幸福感」を与えられるほうがいい。

スポーツクラブNASでは、
メインの「フィットネスサービス」を通じて、
「経験する自己」に対する幸福感を与えることが
できるのですが、「元気横丁」を併設することで、
さらに、「振り返る自己」の幸福感をも与えること
を可能にしていると考えられます。

ビールやチョコレートを始めとする製品でも、
しばしば、昔のパッケージデザインをあしらった

「復刻版」

が登場しますが、これは、「経験する自己」と
「振り返る自己」の両方にアピールするからこそ、
消費者に注目され、一定の売上を上げることが
できるわけです。


私は、「思いだす自己」が幸福を味わうために
行なう消費のことを

「ノスタルジック消費」

と呼んでいます。

すなわち、懐かしさを味わうことを
第一目的に、製品やサービスを購入することが、
「ノスタルジック消費」です。

そして、高齢化社会においては、

「ノスタルジック消費」

の重要性が高まると考えられます。

なぜなら、年齢を重ねると、「経験する自己」が
味わうことのできる幸福感はおおむね減少していくから。

体力・意欲がどうしても低下するため、
楽しい経験を求めて、積極的に行動することが
あまりできなくなるからです。

だからこそ、より一層、「昔は良かったなあ」という
「振り返る自己」が味わえる幸福感が大事になっていく。

ですから、高齢化が進展する日本において、
思いだす自己」が楽しめる「ノスタルジック消費」
へのニーズはますます高まるのではないかと思うのです。


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投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (0) | トラックバック

トップセールスパーソンは、第一印象に85%のエネルギーを注ぐ!

もう一つだけ、行動観察ネタ。

抜群の成果を残すトップセールスパーソンの秘密、
本人に聞いても、

「さあ、なぜか売れちゃうんだよね」

としか答えられないことが多いのです。

しかし、トップセールスパーソンの接客や商談の様子を
「行動観察」してみると、以下のような特徴が判明したそうです。

------------------

・ファーストコンタクト(第一印象)を大事にしている。

・お客様の話す時間が長い⇒セールスパーソンは、
 話すのではなく、カウンセラーのように客の話を上手に聞きだす。

・お客様の様子をよく観察して、個別のニーズを把握、
 適切な提案を行なう。

・お客さんに何か必ず、親切なことをする。

------------------

上記の点は、当たり前のことばかりじゃないかと、
感じられるかもしれませんが、大事なのは「行動」として
やれているかどうかなんですよね。


さて、上記のような行動がなぜ成果につながるかについては、
行動経済学や、社会心理学の知見で理論的に説明できます。

例えば、最後の

「お客さんに親切にする」

は、影響力の武器』で解説された「カチッ・サー理論」のうち、

「返報性の原理」(人は借りができたと感じると、
返さなければならないと無意識にも感じてしまうこと)

を活用したもの。

また、一番最初の

「ファーストコンタクトを大事にする」

は行動経済学における「初頭効果」です。

最初の印象が、その後の評価に大きく
影響を与えてしまうということ。

例えば、第一印象で「いい人そう」と感じたら、
その後のやりとりも「やっぱりいい人だった」と
最初の印象を裏付けるように物事を解釈してしまう。

逆に、「なんかいやな人」と第一印象で思われたが最後、
その後も、「やっぱりいやな人だった」と最初の印象を
裏付ける証拠集めばかりをしてしまうのです。

こうした、最初の印象(先入観)に合致する情報だけに
着目してしまいがちな傾向のことは、

「確証バイアス」

と呼ばれています。


だから、あるセールスパーソンは、

「ファーストコンタクトに全エネルギーの85%を注ぎ込む」

と言っているほど。


セールスパーソンに限らず、
第一印象は大切にしたいものです。


『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)

投稿者 松尾 順 : 15:05 | コメント (0) | トラックバック

「ゴールデンライン」ならぬ「シルバーライン」

以前よく唱えられていた、

‘お客様のために(For the Customer)’

という考え方は、しばしば企業側の
独りよがりな製品・サービスの押し付けに
なることがあります。

そうではなく最近は、

‘お客様の立場で(from the customer's point of view)’

で考えるべきだと、
言われることが多いですね。


確かに、この主張は正しいと思います。

ただ、‘お客様の立場で’考えることは、
決して簡単なことではありません。

例えば、男性が女性の立場になって物事を
評価したり、判断できるようになるのは大変。

ユニ・チャームの創業者、高原慶一朗氏は、
自社製品の生理用ナプキンを自分で着用してみた
という話がありますが、そんな努力が必要なんですね。


また、高齢化社会へと突入した日本において、
高齢者に優しい製品・サービスの開発が不可欠ですが、
若い人が

「高齢者の立場」

で考えるのも容易ではありません。

私自身、いわゆる「老眼」を実感する最近になって初めて、
小さい字を読む「つらさ」が理解できるようになってきました。


結局のところ、‘お客様の立場’で考えられるように
なるためには、ユニ・チャームの高原氏のように、
お客様の持つ具体的な特性や状況を疑似体験してみるのが
最も有効です。

食品スーパーのマルエツでは、
視野が狭くなる「白内障ゴーグル」を装着したり、
おもりを体につけるなどして、
自店内で買い物をしてみる、

「高齢者疑似体験」

を売場に出る店長からアルバイトまで16,000人を
対象に実施。この体験からの「気づき」を元に、
改善提案を募集しました。

これまで300件の提案が寄せられ、
各店で様々な取り組みが行なわれているそうです。


例えば、100円均一のお菓子売場の「陳列方法」は、
従来は大容量のものを下段に、
上段にいくほど少容量のお菓子を並べていました。

この方法は、「見栄え」を優先した陳列でした。

しかし、高齢者は高いところに手が伸ばしにくいこと、
視線が下方向に行きがちなことを発見。

これは、背が曲がり始め、また肩関節の可動領域が
狭くなって、手を高くあげることが困難になりつつある
高齢者だからこそ起きることでしょう。

そこで、高齢者が好む和風や小袋の商品を
最下段に置き、大容量のポテトチップを最上段に
置くなど、商品陳列を上下入れ替えています。

同様の商品陳列の入れ替えは、
他の売場でも実施されたそうです。

結果として、目に見える販売促進効果が
あったとのこと。


従来、目線の高さにある棚は、

「ゴールデンライン」

と呼ばれ、最も商品が手に取られやすく、
売れやすいため、ゴールデンラインには
売れ筋商品が並べられていました。

しかし、高齢者が
メインターゲットのお店ではもはや、

「ゴールデンラインの法則」

は通用しない可能性が高いわけです。


一方、マルエツでは、最下段を

「シルバーライン」

と呼んでいます。

そして、シルバーラインには、
高齢者向けの商品を配置する工夫を
行なっているというわけです。


「疑似体験」で得られるような気づきは、
アンケートやインタビュー調査などを通じて、

「言葉で聴き、言葉で答えてもらう方法」

ではなかなか得られないもの。

「行動観察」と並んで、

「対象顧客の疑似体験」

もまた、消費者についての有益な

「洞察」=「インサイト」

を発見する手段としてもっと活用すべきでしょう。


*マルエツのケースは、
 日経MJ(2012/08/03)の記事から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (0) | トラックバック

「知覚リスク」をゼロにする返品の送料無料

日経ビジネスが年1回実施している

「アフターサービスランキング」

2012版の結果が日経ビジネス(2012.7.30号)で
掲載されています。

今回も様々なカテゴリー別のランキングが
掲載されている中、目に留まったのが、

「ネット通販部門」

でした。


ネット通販部門で安定して高評価を保っているのが、
セシールです。今回は2位。前回も2位でした。

セシールの高評価の理由は、

「返品の送料無料」

とのこと。

このサービスは、同社に限らず、
一般的なものになりつつありますが、
セシールの場合、他社と大きな違いがあります。

それは、製品の不備について返品送料無料で
受け付けるのは当然として、

「イメージと違う」
「思っていた色と違う」
「サイズが合わなかった」

といった、購入者側の都合でも、
返品送料無料を原則OKとしている点です。


セシールは、

「現物を見ないで購入する」

という「通販」に対する消費者の抵抗感が
まだ強かった時代にカタログ通販を始めており、

「自宅が試着室」

という考えで原則無料を始めたそうです。


さて、消費者が製品・サービスを

「購入するという行動」

は、それによって、
なんらかのニーズ(欲求)を充足できる一方で、
様々な「リスクを取る行動」でもあります。

これは、

「リスク敢行としての消費」(「ニーズ充足としての消費」と同時に)

と言われています。

この「リスク」には大きくは、
以下の6種類あるとされています。

1.機能的リスク・・・機能が十分でないかも、
  品質が良くないかも、すぐ壊れてしまうかも、
  といったリスク

2.心理的リスク・・・自分には合わないかも、
  使いこなせない(着こなせない)かも、
  といったリスク

3.社会的リスク・・・家族や友人に笑われるかも、
  嫌われてしまうかも、といったリスク

4.身体的リスク・・・ケガや病気になるかも、
  肌が荒れるかも、といったリスク

5.金銭的リスク・・・お金を損してしまうかも、
  お金が戻ってこないかも、といったリスク

6.時間的リスク・・・購入に時間がかかるかも、
  手間がかかるかも、といったリスク。


これらのリスクは、購入時に消費者が‘感じる’ものであり、
必ずしも「事実」ではありません。したがって、正確には、

「知覚リスク」(消費者が感じるリスク:Perceived Risk)

と呼ばれています。


販売側としては、
ニーズを充足できる製品・サービスを開発すると同時に、
購入時に消費者が感じる「知覚リスク」を低減できる施策を
整備することで、購入決断の「後押し」をしてあげる必要が
あります。


通販で一般的になりつつある

「返品サービス」

は、6つの知覚リスクのうち、

・機能的リスク
・心理的リスク
・社会的リスク
・金銭的リスク

を引き下げることに有効です。

しかも、セシールのように返品の送料が無料と
なれば、実質的なリスクはゼロになると言えます。


セシール始め、女性をメインターゲットとしている
通販では、ファッション関連製品を数多く扱っており、

「機能的リスク」

以上に、

「心理的リスク」
「社会的リスク」

を強く感じるものです。

ファッション関連製品は、
「感性的な評価」が重要ですからね。


通販で購入したところ、

「試着してみたらちょっと違った!」
「家族に似合わないと言われた・・・」

といった場合に、
気軽に送料無料で返品できるとしたら、
アフターサービスの満足度が高くなるだけでなく、
購入意欲を大いに高めてくれることにもなりますよね。


マーケターとしては、

「ニーズ充足」

だけでなく、

「知覚リスク低減」

にも気を配る必要があることが、
セシールの事例からもよくわかります。

投稿者 松尾 順 : 08:38 | コメント (0) | トラックバック

飲食店は原価率5割が繁盛のカギ?

レストラン、居酒屋などの料理がメインの飲食店では、
一般に、売上に対する食材・飲料の仕入原価の割合、すなわち

「原価率」

は30%程度に抑えるのが適正とされてきました。

原価率が30%程度でないと、

地代・家賃、光熱費、人件費

といった他の諸経費をカバーしつつ、
相応の利益を出すことができないからです。


ただ、客の立場から言わせてもらうと、
30%程度の原価率だと、

「まあ、価格並みの味だな」

という感想に落ち着きます。
言い換えると、

「可もなし、不可もなし」

といったところ。

満足度調査をやったとしたら、

「どちらでもない」

と答えるか、ちょっとお世辞が入って、

「まあ満足」

と答えてくれるのがせいぜいではないかと思います。


飲食店も立地型ビジネスです。

出前でもしない限り、
基本的にこちらからお客さんのところに
出向いていくことは難しい。

となれば、いかに「リピーター」を
増やしていくかが重要です。

そして、このためには、料理の質を上げ、

「価格の割にとてもおいしい!」

という感想をお客様からいただけることが
大事なのではないかと思うのです。

というのも、料理がおいしければ、
多少サービスの質が低くても我慢できますが、
料理がまずければ、どんなにサービスが手厚くても
リピートする気にはならないからです。


さて最近、本格的なフランス料理が
立ち食いスタイルで楽しめる

「俺のフレンチGINZA」

が連日行列ができる人気を集めています。

俺のフレンチは、今年7月には3号店となる

「俺のフレンチEBIS」

をオープンしていますが、
こちらもたちまち人気店になったようです。

人気の秘密は、
一流レストランで働いていたシェフがつくる
本格フレンチ料理が他店の半額以下で楽しめること。

日経本紙の記事(2012/08/01)によると、
来店客の20代女性は次のようにコメントしています。

“このおいしさで、この価格ならまた来たい!”


同店の原価率は50%とのこと!

一般に、原価率40%を越えると、

「値段のわりにおいしいな!」

という、「大満足」と答えたくなるレベルに
なりますが、原価率が50%ともなると、

「値段のわりにこのおいしさはすごい!」

という「感動」レベルまで満足度が上がってきます。


上記の「俺のフレンチ」では、
立ち食いスタイルを採用するなど諸経費を
抑えつつ、回転率を高めることで、
高い原価率でも利益を確保できるような工夫を
しています。


ちなみに、回転寿司チェーン大手の、

「あきんどスシロー」

も原価率50%。

やはり、他のチェーンと比較して
群を抜く「おいしさ」が人気ですね。


長引く景気低迷と所得の低下によって、
家食べ・家飲み頻度が高まり、
外食比率が低下し続けている昨今、
一般消費者向けの飲食店は、

「絶対的な安さ」
(味はそこそこであきらめてもらう)

か、あるいは、

「値段のわりに驚くほど美味しい」
(利益を確保するための様々な工夫が必要)

のどちらかを目指すしかないと思うのですが、
いかがでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 14:12 | コメント (0) | トラックバック