笑顔.COM

先日書いたファミレスの話(未来はあるのか)を読んだ知人から、
メールをもらいました。

彼が立ち上げた会社

「セブンシーズ・アンド・パートナーズ」


では最近、サービス業を評価するビジネスを
始めていたんだそうです。


[ サービス業界をホスピタリティの視点から分析・ランキング ]
~ホスピタリティな人々~ 『 笑顔.COM 』

http://www.e-ga-o.com/


Webサイトを見ると、現在評価対象としているのは、

・ファミリーレストラン
・ファーストフード
・カフェ

の3業態です。

ランキングはWebサイトで公開されてます。
ちなみに、ファミレスの総合得点トップ3(03年3月現在)は、

1位 華屋与兵衛
2位 ジョナサン
3位 とんでん

となってますね。


知人の同社代表取締役、續池(つづいけ)さんによれば、
「ホスピタリティスクール」も開始する予定。

ホスピタリティを中心とするカリキュラムを提供して、
受講生には海外のホテルに派遣。1年間の研修終了後は、
日本のホテルに就職させるという仕組みだそう。


「笑顔.com」、「ホスピタリティスクール」のどちらも、
とても有望な分野ですし、今後の展開が楽しみです。

投稿者 松尾 順 : 17:10 | コメント (0) | トラックバック

それがぼくには楽しかったから・・・

現在、LINUXのネットワークプログラミングを学習中・・・

熊本大学大学院(修士課程)2年次、2007年前期の科目
として選択しました。

いや、最初は取るつもりはなかったんですけどね、
単位が足りないので。(笑)


昨年入学したこの大学院、専攻は、

社会文化科学研究科 教授システム学専攻

というんですが、一言で言えば、

「eラーニングの企画・設計・運営方法」

を学ぶWeb大学です。


eラーニングのコンテンツの制作やデリバリーには、当然ながら、
ICT(Information Communication Technology)、
とりわけインターネット技術が最大限に活用されるため、
当大学院選択科目としてUNIXのネットワークなんぞも
用意されているというわけです。
(昨年度は、HTML/JAVAの基礎もやりました)


まあ、エンジニアになるための科目ではないので、
基本的なことをさらっとやるだけでしょうし、
学習の目的は、eラーニングの基盤構築についてエンジニアと
意思疎通ができるようになることだと思いますので、
がんばればなんとかなりますよね。
(なんて他人に聞いてどうする>自分)

ともあれ、「いやいや」じゃなくて、楽しんでやろうと思ってます。
大学院自体、私が望んで入学したわけですし。

実際、知らないことを知る、
できなかったことができるようになるというのは楽しいんですよね・・・


さて、私のWindowsマシンに、
仮想ソフトを利用してLINUXをインストールしながら、
ふと、6年前のことを思い出しました。

「そういえば、2001年に、LINUXの開発者、
リーナス・トーバルズさんにインタビューしたんだよなあ」

リーナスさんは、当時和訳されたばかりの自著

「それがぼくには楽しかったから」

のプロモーションのため来日されました。

そして、私は、某オンライン書店の仕事で、
彼にインタビューする幸運な機会に恵まれたのです。
(サインもらっとけばよかったなあ・・・)


リーナスさんは、なぜLINUXを開発したのか?

もちろん本の題名どおり、

「それが僕には楽しかったから(just for fun)」

です。


また、直接的にはお金が儲からないのにも関わらず、
なぜ、世界中のプログラマがLINUXの開発に喜んで参加しているのか?
(現在、LINUXの全プログラムのうち、リーナスさんが開発した部分は
 わずか2%なんですよね。残りは他のプログラマがボランティアで開発
 しているということです)

本にも書いてあったんですが、インタビューの中でもリーナスさんは
次のような明快な答えを用意していました。

“私たちが生きる意味とは、

「生き残り」、「社会性」、「娯楽」

であり、リナックスはそのショートバージョンを提供しているんだと考えたんだ。

リナックスは、

「社会性」と「娯楽性」

の両方の側面を与える。”

“リナックスには世界中の最高のプログラマーたちが参画しているんだけど、
それを最も簡潔な言葉で表すとしたら、リナックスをやることは、

‘チームスポーツ’

だと言える。実際にボールを蹴ったりはしないけどね。

リナックスをやることは、大きな楽しみであると同時に、
社会の一員としての「チームスピリット」を感じることのできる機会なんだ。”


リーナスさんだけじゃなくて、LINUXに関わっているプログラマの人たちもまた
なによりも、「楽しいから」という理由で参画していること、
同時に、それは仲間とともにLINUXをより良いものにしていくという共通の目標に
向かって協同できるという充実感を与えてくれるということなんでしょうね。


私は、キャリアアドバイザーとしても活動していますが、
そうした立場で今振り返ってみると、リーナスさんは、

一流の「キャリア論」「人生論」

を展開していたことを改めて実感しました。


人生、そして仕事も、楽しむためにある。


私もこう思います。

ただし、リーナスさんは次のようにも言っています。

“楽しむためには努力しなきゃいけないんだよ”

逆説的ですが、

「楽(らく)なこと」は「楽しいこと」

につながらないのが人生の真実なんですよね。

ちょっとがんばらないと解けない(人生や仕事上の)問題
にうんうんいいながら取り組んで、解けた時に「楽しかった」
という気持ちと充実感を得るものなんです。

投稿者 松尾 順 : 08:21 | コメント (2) | トラックバック

400億円の男

私のグル(導師)である、マーケティングコンサルタント、
森行生さんの講演会が4月25日(水)に開催されました。

当日は、約100名の方が参加し盛会に終わりました。


さて、森さんは、JT(日本たばこ)から始まり、
マスターフーズ、コンサルティング会社などマーケティング・
スキルを磨いた後、「シストラット」を設立されたんですが、
実は、かなり周到にキャリアメイクされたと以前聞いたことが
あります。

たとえば、若いころから将来の独立を考えていたので、
会社設立時に必要となる法人名義の銀行口座がスムーズに
作れるよう、個人名義の銀行口座は最初から1行に絞って、
各種引き落としなどの取引を集中して信頼作りに努めたほど
なんですね。


ところで、森さんのマーケターとしての基盤は、
特にJT時代の経験が大きいとのこと。JT在籍中に、
ブランドマネージャーなどの立場で投じたマーケティング予算は、
実に400億円(自腹じゃないよ、会社のお金♪)に上ります。

ある調査では、合計400名のグループインタビューを敢行。
通常はせいぜい6名x5グループ(合計30名)ですから、
唖然とするほど大規模で贅沢なグルインですよね。


別の調査では、グルイン参加者の発言を活発化させるために、
吉本のお笑い芸人をモデレーター(司会)に使ったらどうか、
というアイディアを実行に移してみたそうです。

しかし、これは失敗。(>_<)

悲しいかな芸人の性、グルイン参加者を笑わせてばかりで、
まるでインタビューにならなかったそうです・・・


それにしても、JT時代はマーケティング予算を400億円も使わせてもらって、
もちろん会社の売り上げにも貢献されたんでしょうけど、
マーケターとしてのスキル・経験を蓄積できたというのはうらやましい。

昔、事故で瀕死の重傷を負った男性を半サイボーグ化して、
超人的な能力を持てるようになった「600万ドルの男」という米国の
テレビドラマがありましたが、あれをちょっと連想してしてしまいました。

森さんは400億円の男。

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (2) | トラックバック

田園調布の物流拠点

昨日、4月26日、
コーヒーチェーン大手、ドトールとの経営統合を発表した

「日本レストランシステム株式会社」。

この企業名にはあまりなじみがないと思いますが、

・洋麺屋五右衛門(お箸で食べるスパゲティ)
・にんにく屋五右衛門(文字通り、にんにくたっぷり料理)
・卵と私(オムレツなど卵料理)

といったさまざまな業態のレストランを運営しています。
関東にお住まいの方ならおそらくご存知ですよね。


さて、この企業のすごいところは、直近年度の経常利益率が

21%

と、業界他社を大きく引き離している点です。

あの吉野家の経常利益率2%足らず。
大手ファミレスでも10%を超えているところはありません。

個人経営の店ならともかく、
連結売上高278億円の大手レストランチェーンで、
これだけの高利益率を達成するのは半端じゃないですよね。


この利益率の秘密は、ひとつは「機動力」のようです。
別の言い方をすれば「変り身の早さ」。

新しくオープンした店舗の客足が伸びないとみるや、
わずか半年でも、さっさと別の業態に鞍替えしてしまいます。

また、たとえ人気のある店舗でも、
長年やってるとお客さんの飽きがくるもの。

そこで、同じ場所をそのまま使いながら、次々と別の業態に
変えていきます。


つまり、うまくいかなかった、あるいは
うまくいかなくなってきたことが数字に表れていたら、
すぐに別の方法を試してみる。

要するに、「トライアル&エラー」で
新業態・新店舗展開を行っているのです。


レストラン業界も、近年は流行りすたりが激しく、
また競争も厳しいですから、何が当たるかわからない。

失敗を恐れずに新しいことにチャレンジするのが
ベストの戦略なんですね。

ただし、「失敗」から学んで、同じ過ちを2度と犯さないこと
が必要ですが。


同社では、こうした迅速な業態転換を可能にするため、
店舗設計・施工、メニュー開発など、
他社では通常、アウトソースしている業務を内製化。
すなわち、同社の社員が店舗づくりの関連業務をほぼすべて
行う体制になっています。


この仕組みは、おそらく
短期的に見たら人件費増につながります。

しかし、長年同社に勤め、こうした同社独特の方法を
熟知した社員がやることで、極めて短期間(数ヶ月)で
新業態を立ち上げることが可能になっているんですね。

結果として、

「効率(生産性)」(単位時間あたりのアウトプット)

は高くなるのです。


同社は、基本的に非常に合理的な考え方を重視した経営を
行っていますが、だからといって、やたらとコストを
切り詰めるといったことはしていません。

むしろ、上記内製化の例にあるように、
表面的・短期的なコストにとらわれていない点が強みです。


このため、同社のやり方は業界では

「非常識」

と思われてしまうことばかりになっています。

というのも、競合他社は、
表面的・短期的なコストにとらわれているところが
多いからです。


その最も顕著な例は、
都心の一等地、田園調布に同社の物流センターを
置いていることでしょう。


物流センターの立地は、業界の常識では郊外です。
土地代が安いですからね。

でも、日本レストランシステムの物流拠点、
つまり、「倉庫」は、田園調布をはじめとして、
すべて都心に設置してあります。


「固定費が高い場所に倉庫を置くなんて」

と軽率な人は考えてしまう。

しかし、実は合理的な正しい選択です。


なぜなら、郊外に物流センターを置いてしまうと、
関東の各店舗に配送する際、首都高の渋滞に
ひっかかってしまうからです。(上り方面の渋滞)

ところが、田園調布にセンターがあれば、
中心から外へ向かうことになりますから、
渋滞に巻き込まれることなくスイスイと動ける。


このため、配送効率がまるで違う。

つまり、「効率」(生産性)でみたら、
田園調布立地の方が、郊外立地よりもベターなんですね。


消費者ニーズの変化への対応のための「変わり身の早さ」
といい、表面的なコストにとらわれない「物流拠点」といい、

「日本レストランシステム」

は、ウオッチする価値のある企業でしょう。

投稿者 松尾 順 : 12:13 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(5)14枚のスケッチ

旭山動物園復活の契機となったのは、
1997年(平成9年)の「こども牧場」の誕生です。

実に16年ぶりに旭川市が計上してくれた予算で、
ようやく作れた待望の新施設でした。


「こども牧場」は、
こどもたちが、小動物(うさぎ、やぎなど)と触れ合える施設。

従来の動物園のように、檻で隔たれた動物たちを遠くから
眺めるのでなく、人と動物たちの距離をできるだけ近くして、
てざわりやにおいなども含めた5感で「命」を実感させることが
狙いでした。


旭山動物園の復活の軌跡をドキュメンタリー風に描いたドラマ
(06年にフジテレビで放映、現在はDVD化されてます)

「奇跡の動物園~旭山動物園物語~」
(出演者:山口智充、戸田恵梨香、津川雅彦、伊藤四朗など)

は、ご存知ですか?

このドラマでは、全編を貫く「基本メッセージ」として
次のような言葉が出演者たちによって語られます。

「命ってね、あったかいんだよ!」


「こども牧場」は、まさに、「命のあったかさ」を
感じることができるものだったわけです。


そしてその後、次々と新設された施設もまた、
動物の生き生きとした「命」をできるだけリアルに感じさせる
工夫がこらされたのですが、その実現の元になったのは、

「14枚のスケッチ」

でした。


旭山動物園の人たちは、低迷期にあってもめげることなく、

「理想の動物園とは?」

についてとことん議論を戦わせました。

その結果を絵の得意な飼育係(現在はプロの絵本作家)が、
手書きのスケッチにまとめていたのでした。


この14枚のスケッチには、前述の「こども牧場」だけでなく、

・ととりの村(こども牧場と同年にオープン)
・もうじゅう館(1998年オープン)
・ぺんぎん館(2000年オープン)
・ほっきょくぐま館(2002年オープン)
・あざらし館(2004年オープン)

などの人気施設の原型が描かれています。

つまり、描かれた当時は、おそらく叶わぬ夢物語にしか
思えなかったであろう「理想の動物園」が、着実に現実化
していったのです。

そもそも、16年ぶりの予算がついたのも、
当時の市長に対して、この14枚のスケッチを見せながら、
熱く「理想」「夢」を語ったことがきっかけなんだそうです。


なんというか、

「どんなときだって夢や理想を失なってはいけないんだ」

とじーんとくるものがありますよね。


ちなみに、旭山動物園の小菅園長が7月26日(木)、
東京で講演(夕学五十講)されます。

道外での講演は基本的にお断りされているらしく、
この機会を逃したら、関東の方は、当分生の話は
聞けないでしょうね。


ご興味のある方は、下記サイトをご覧になってみてください。
もちろん私は申し込み済みです!

→夕学五十講

投稿者 松尾 順 : 15:19 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(4)リサーチャーになった飼育係

1967年(昭和42年)に開園した旭山動物園の来園者数は、
1983年(昭和58年)の59万7千人をピークに減少し始めます。


ジェットコースターなどの大型遊具施設を導入して、
一部を遊園地化したのは、1991年(昭和63年)のことでした。

同年、入園者は前年の46万人から2万5千人増の48万5千人に。
ところが、翌年には45万2千人へと逆戻り。

昭和から平成になってからも、減少に歯止めがかかりません。

それでも、当時の旭川市は動物園の改善には興味を示さず、
予算がまったくつかない年が続きました。

しかし、旭山動物園の人たちは、

「カネがないから何もできない」

と考えるのではなく、

「カネがなくてもできることがある」

と頭を切り替えたのです。

そこで、まず次の3つの戦略を立てました。

・市民を味方につける
・マスコミを味方につける
・飼育係が打って出る


この中で、後の奇跡的な復活の布石として最も意義があったのは

「飼育係が打って出る」

ことだったようです。


具体的には、本来裏方の飼育係自らが、来園者に対して動物たち
についての説明をする「ワンポイントレッスン」をやることに
したのです。

ただ、そもそも人と話すのが苦手だから動物相手の仕事を選んだ
という飼育係もいたそうですから、当初は皆やりたがらず、
「やってみよう」と決断させるための説得も半年がかりでした。


でも実際始めてみるとさまざまな気づきや効果があったのです。

たとえば、

「オランウータンの握力は300キロ以上もありまして・・・」

などと教科書的な話をしてもお客さんは喜ばない。


「モモ(オランウータンの名前)はとても甘えん坊で、
 昨日飼育していたら、こんなことがあったんですよ」

とか、

「あそこのトラはね、昨日仲間と喧嘩しましてね、
 ほら、あそこに傷跡があるのわかるでしょう?」

などと、目の前にいる「個体」の話をしてあげると喜ぶと
いうこと。

また、それぞれの動物たちにはまだまだ知られていない
習性や特徴があり、それは子供だけでなく大人が聞いても
興味深いものであること。

こうして、飼育係は表舞台に出て来園者と対話することを通じ、
彼らが動物園に何を望んでいるのか、あるいは、どんな話が
受けるのか、受けないのかといったことを肌で知ることが
できるようになりました。


要するに、飼育係が「リサーチャー」になったわけですね。

そして、ワンポイントレッスンで収集できた来園者のニーズは、
新施設づくりに十分に反映されてきたということなのです。


なお、ワンポイントレッスンは、市場調査的な効果だけでなく、
旭山動物園のファンを作ることにも貢献してきています。

1994年(平成7年)にエキノコックス症によって、
同園のゴリラやキツネザルが死亡をしたことをきっかけに
休園を余儀なくされた時、運営体制に批判が集まる最中でも
陰ながら応援してくれる市民がいたそうです。

これは、ワンポイントレッスンを通じて、
飼育係と来園者との間に、いわゆる「One to One」な関係を
地道に作っていたからでしょう。


ついでながら、飼育係の人たちは、
ワンポイントレッスン以外にも、予算がないという理由で、
手書きのPOP(説明が書かれたパネル)をしこしこと
作成しました。

これも、やむを得ず取った方法だったにも関わらず、
実は、印刷された立派なパネルよりもはるかにメリットが
ありました。


ひとつには、動物の赤ちゃんが生まれたというニュースや、
新しい動物がやってきたといった最新の情報をすぐに
パネル化できたことです。

手書きだからこそ、常に新鮮な情報を届けることが可能でした。


また、お客さんは、印刷された文字よりも、
むしろ手書きのパネルの方をよく読んでくれるのだそうです。

手書きには人の温かみが感じられますし、また、
飼育係の動物に対する愛情がにじみ出ているからなのかも
知れません。

投稿者 松尾 順 : 07:40 | コメント (4) | トラックバック

旭山動物園の必然(3)「生」への共感

旭山動物園の人たちは、長い低迷が続いていた時、

「そもそも動物園はどのようなものであるべきか」

すなわち、「動物園の存在意義」について徹底的に議論し、
次の4つの役割を再定義しました。

・レクリエーションの場
・教育の場
・自然保護の場
・調査研究の場

それからの再生の道のりも長いものでしたが、
役割を再定義することによって、様々なアイディアが生まれる
きっかけになり、また実現の原動力にもなったのでしょう。


さて、この4つの役割の中で最も重要なのは
やはり1番目のレクリエーションの場です。

小菅園長の言葉を引用すれば、

「動物たちと一緒の楽しい時間をすごし、
 その中で動物たちの素晴らしさを感じてもらう」

ということです。


この役割、言い換えると「基本コンセプト」に基づいて
発想されたのが、既によく知られた

「行動展示」や「立体展示」

といった見せ方です。


例えば、陸上ではよちより歩きのペンギンたちが、水中では
まさに鳥類の仲間らしくスイスイと飛んでいるように泳げること。

あるいは、樹上生活者のオランウータンが地上17mの高さに
張ったロープを危なげなく軽快に渡ること。

旭山動物園では、そんな生き生きとした動物の姿を見ることが
できるような工夫が随所にこらしてあります。


こうして、動物たちが生まれ持った能力や習性を活かした自然な
動きをさまざまな角度から立体的に見せることによって、
それぞれの動物が持つ固有の能力や個性、魅力を伝えることに
成功したというわけです。


「この動物園では、アザラシはアザラシを生きている、
 ペンギンはペンギンを生きている。」

とは、小菅園長との対談中の立松和平氏の言葉。
(「旭山動物園のつくり方」より)


動物園で飼育されている彼らは、確かに野生ではないけれども、
自らが持てる能力を発揮できる環境を与えられています。
むしろ、自然の脅威(天敵)がいない分、より幸せかもしれない。

そんな中で生き生きと活動する彼らを見ていると、
まぎれもない「生」を謳歌していることが人間にもわかる。

おそらく、「生きること」への共感を得ている。
そして、なかなか自分らしく生きることのできない自分への
励ましや勇気をもらっているんじゃないでしょうか。


一方、従来の動物園を振り返ってみると、
そこには、まさに「不自然」な環境におしこまれ、
やることもなく退屈そうに寝転がる動物ばかり。

終身刑を宣告されて、「死」をまつばかりの囚人のような姿。

そんな動物たちを見る人間もまた、
彼らに、自分自身の社会の中での窮屈な立場を投影し、

「お前たちも哀れだけど、俺も一緒だよ・・・」

みたいな、みじめな気分を味わうことになっていたんじゃないで
しょうか。(ちょいと大げさですね・・・)

つまり、「娯楽の場」というよりは、むしろ「落ち込む場」(笑)
になっていたのが、これまでの動物園だったと思います。


しかし、旭山動物園は、動物たちが「生」の充実を全うできる
環境を作り上げたことによって、基本のコンセプトどおり、
「生きること」の素晴らしさ・感動が伝わる場所になったのです。

投稿者 松尾 順 : 10:16 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(2)コンセプトのリメイク

動物園って何のために必要なんでしょうね?

硬い言い方をすれば、

「動物園の存在意義」

は何かということです。


動物園の起源は調べていませんが、
おそらく、自国には生息していない珍しい野生動物を眺めて、

「へぇー、世の中にはこんな変わった動物がいるんだねぇ・・・」

と驚いて楽しむことから始まったんだと思います。


つまり、一言で言えば、

「珍獣の見世物小屋」

これが、そもそもの動物園の「コンセプト(基本思想)」
だったと言えるんじゃないでしょうか。

ただ、従来の動物園は、このコンセプトの枠を出ることは
ほとんどなかったように思います。


しかし、このコンセプトには問題があります。

それは、「珍しさ」が最大のウリであるために、
珍しさが薄れてしまうとすぐに人気が低下してしまうという点。

このため、次々と新たな珍獣を導入し続ける必要があります。

上野動物園に日本で初めて「パンダ」がやってきた時の
フィーバーぶりを覚えている方も多いんじゃないでしょうか。

とはいえ、珍獣を紹介し続けるのは限界がありますよね。
また、そもそも資金力のない地方の動物園にはできない相談。

旭山動物園もまた、例外ではありませんでした。
同動物園には昔から、「パンダ」はもちろん、「ラッコ」
さえいない。

飼育されているのはどこの動物園でも見ることのできる、
もはや珍しくない野生動物たち。
珍獣を揃えることで、人をひきつけることはできなかった
のです。


旭山動物園では、低迷する人気を回復させるため、
大型の遊具を導入し、敷地の一部を遊園地化したことも
ありました。

しかし、遊園地も結局、新しい遊具を次々と導入しないと
すぐに飽きられてしまうもの。同動物園内の遊園施設も
短期間しか効果のないカンフル剤で終わりました。


こんな、動物園の存在意義が揺らぎ、またいつ廃園になるかも
知れない不安な日々が続く中、旭山動物園の人たちは、
内部での勉強会を熱心に続けていましたが、この勉強会で
まずやったことは、

「そもそも動物園はどのようなものであるべきか」(存在意義)

について徹底的に議論することでした。

つまり、動物園の基本コンセプトのリメイクを行ったわけです。


そして、

・レクリエーションの場
・教育の場
・自然保護の場
・調査研究の場

という、4つの役割を再認識しました。


上記の役割について、小菅園長は具体的には
次のように説明しています。(<旭山動物園>革命より)

--------------

動物たちと一緒の楽しい時間をすごし、
その中で動物たちの素晴らしさを感じてもらい、

それがきっかけとなって、
『動物たちを保護したい』、

あるいは、

『動物の生きる地球環境を守るためには、
 何をすべきなのか』

などを考える意識を育てる。

また、動物園は、『希少動物の保護・繁殖』に関わり、
さらには野生動物医学など、『学術研究の場』でもある。

--------------


小菅園長によれば、この4つの役割は、

「動物園に携わる者としての基本スタンス」

であり、いまでも朝礼や勉強会など、
さまざまな機会で徹底し、確認しているそうです。


言うまでもなく、旭山動物園の現在の姿は、
この4つの役割を基本において作られてきたものです。

マーケティングにおいては、優れた製品を生み出すために、

「明確なコンセプト」

を定めること重要性が強調されます。

旭山動物園は、その成功事例のひとつと言えますよね。


では、実際にどんな動物園づくりが行われていったのかは
次回以降で!

投稿者 松尾 順 : 11:44 | コメント (0) | トラックバック

ポッドキャストラジオ放送局に出演中

というわけで、よろしければ下記Webサイトへおいでください。

ウーマンライフ ポッドキャストラジオ放送局
http://womanlife.sakura.ne.jp/


女性がターゲットのポッドキャスティングということで、
多少女性聴取者を意識しながら、

「自分探し」と「他人探し」

というテーマでお話ししました。
ただし、男性の方にも参考にしていただける内容ではあります。


「自分探し」という言葉は最近よく聞きますが、その意味はおおむね

今の自分じゃない「理想の自分」がどこかにあると信じて探しにいく

という感じですよね?

でも、もし「自分探し」を上記のような意味で考えているとしたら、
おそらく幸せにはなれないんじゃないでしょうか?

幸せの青い鳥を外に探しにいっても絶対に見つからないのと同じです。


むしろ、幸せにつながる「自分探し」は、

自分のありのままの個性を知ること、そして、
その個性を素直に受け入れることでしょう。

まあ、自分だけが持つ個性は、本来ありのまま受け入れるしかないのに、
素直に受け入れられることができないから、本当は存在しない理想の自分を
探しに出かけたくなるのかもしれませんが。

そして、自分だけが持つ個性を知る一番の方法が、
さまざまな異質な人に出会い、相手の個性を理解することです。

これを「他人探し」と呼びます。

自分とは異なる個性の存在を知ることで、初めて自分自身の
個性が見えてきます。

「この人は、気が強いな」と感じたとしたら、逆に

「自分は、この人ほど気が強くない」

ということに気づくというわけです。

自分の身長が高いか低いかは、相対的なことなので、
別の誰かと比べて初めてわかるのと同様です。
(個性の違いも相対的なもの)


ざっと、こんなことをお話しています。

なお、幸せにつながらない「自分探し」を何かに喩えるなら、

犬が自分の尻尾をくわえようとして
同じところをぐるぐると回っているようなもの

というイメージが近いですね。
これは、私が尊敬する東大教授、
妹尾堅一郎先生から聞いた喩えです。

投稿者 松尾 順 : 03:16 | コメント (0) | トラックバック

スタッフのやる気を高める方法

「シンプルマーケティング」「ヒット商品を最初に買う人たち」

などの著作で有名なマーケティングコンサルタント、
森行生さんから、先日聞いた話です。


森さんの会社、「シストラット」は、
10人弱のスタッフを雇用してきましたが、これまでほとんど全員が
女性でした。(意図した結果ではないそうです・・・)

女性の場合、一般に結婚や出産など女性特有の事情で
退職することが多いので、森さんのところもそうかと思ったら、
離職率は低いのだそうです。


業務内容(リサーチなど)によっては在宅での作業も可能だから
ということでしたが、やはり居心地のいい会社であり、また、
マーケティングのプロ、そして経営者しての森さんの魅力が
大きいのでしょう。


そこで、スタッフのやる気を高めるためのコツを聞いたら、
森さんの答えは次のようなもの。

「それは、仕事を楽しくやってもらうこと」


私は、ちょっといじわるな突っ込みを入れました。

「仕事が楽しいというのは、スタッフ本人がそう思わなければ
 ダメですよね?」


これに対する森さんの切り返しは、

「私が仕事を楽しんでやれば、スタッフも楽しんでくれますよ」

でした。


森さんは、リサーチの結果をパソコンで見ていて、
興味深いデータを発見したりすると、

「これ面白れぇ・・・!」

と叫ぶのだそうです。

また、仮説通りの結果が出ていた時には、

「やった!いいぞ!」

などと、拳を突き上げてガッツマーク。


「経営者自ら、率先して仕事を楽しめば、
 スタッフだって楽しくなる」

というのが森さんの動機付けの考え方なんですね。


うちの社員はつまらさそうに仕事してるなあ、
とお感じの経営者の方、ご自身が一番つまらなさそうに
働いてませんか?

投稿者 松尾 順 : 10:01 | コメント (0) | トラックバック

旭山動物園の必然(1)

日本最北の動物園、北海道旭川市の「旭山動物園」は、
ご存知ですか。行かれたことあります?

私はまだなんですが、ぜひ近々行きたいなと思ってます。
とにかく動物たちの動きが迫力満点。楽しいらしいですよね。


さて、同園の直近平成18年度の年間入園者数は、
ついに300万人を突破。上野動物園の同350万人も、じきに
追い越しかねない勢いです。

北海道の片田舎といっては失礼ですが、
地方の一動物園が、これだけの入園者を集めるのは驚異的なこと。


というわけで、最近、「旭山動物園」を取り上げるマスコミが
増えていますね。皆さんも、あちこちで見聞きしてらっしゃると
思います。

このため、一見「ブーム」のような印象をお持ちかも知れません。
でも、決して一過性のブームではないんですね。


長年にわたる地道な工夫・努力の積み重ねの結果として
ここまで到達したのであって、マスコミが取り上げたせいで
ブームになってるわけじゃないのです。
(もちろん、ここ数年のマスコミ報道が来園者数をさらに
押し上げることに寄与しているとは思いますが)


ですから、よく「旭山動物園の奇跡」という言われ方をしますが、
私には、

「旭山動物園の必然」

に思えます。

同園についてのさまざまな本を読んでみると、
実に多くの経営・マーケティングに役立つヒントがあることに
気づきますよ。

というわけで、しばらく旭山動物園特集です。(笑)


まずは、Works81号(2007.04.05)の同園についての記事内に
掲載されていた「成功の軌跡」(時系列のできごと)を要約して
ご紹介します。


1967年 道内3番目、日本最北の動物園として開園
1983年 この年度59万7000人をピークとして来園者が減少
1994年 エキノコックス病のため一時期閉園を余儀なくされる
1995年 現園長、小菅正夫氏が就任
1996年 入園者が過去最低の26万人に落ち込む
1997年 子供たちが動物と触れ合える「こども牧場」誕生
2000年 入園者54万人。「ぺんぎん館」誕生
2006年 入園者270万人を超える(*最終的に300万人超)


94年の一時閉園、そしてその2年後の96年に最低の入園者数を
記録した時期はまさに崖っぷち。

上記年表では、翌年97年の「こども牧場」誕生をきっかけに
奇跡の復活を果たしたように思えますが、実は同園の人たちは
それ以前からさまざまな工夫を重ねてきていました。

つまり、ここまで来るまでには、過去20年くらいの積み重ねが
あるんです。

ですから、繰り返しますが決して一過性のブームではありません。


次に同園についての関連本をご紹介!


小菅園長の経営観、というか動物園観をしっかり知りたいなら

・<旭山動物園>革命

がお勧めです。

さらっと全体を把握したいなら、動物たちの写真も楽しい

・旭山動物園の奇跡

を、もう少し詳しく園内の仕組みを知りたいなら、

・旭山動物園のつくり方

がいいです。(こちらも動物の写真が豊富)

また、経営論的考察が加えられているのは、先ほどご紹介しましたが、

・Works 81号(リクルート)  「野中郁次郎の成功の本質」(P37-41)

です。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

ファミレスに未来はあるのか?

先日の夕方、仕事の合間に夕食を取るため、
都内某所のファミレス「D」に入ったんですよ。

夜のピーク前の6時台で、お客さんはパラパラといる程度。
ホール係のスタッフは3人くらいいました。


最近のファミレスには、最初からあまり期待していないのですが、
それにしても、がっかりすることが多いですね。

今回の場合、いつまでもお冷、おしぼりが出てきません。

しばらくメニューを眺めている間も、パスタを注文した後に
フォーク・スプーンをセットしに来た時も、
私のテーブルにお冷、おしぼりがないのに気づかなかったようです。

明らかにサービスの適性に欠けているスタッフ・・・

やっぱり、こちらから頼むしかないかと思ったころ、
社員らしき男性スタッフが気づいて持ってきてくれました。


そして、頼んだパスタの味はごく普通。
でも、値段は一丁前に高い。

そもそも、ファミレスのメニューは変わり映えがしない。

食べたくなるものがなく、選ぶのに困ったあげくの料理が
これかい!と再びがっかりです。(+_+)


1ヶ月ほど前に、家族で入った別のファミレス「S」では、
土曜日のお昼直前でしたがホール係が1人しかいませんでした。

しかも、なぜだか厨房に引っ込んでいることが多く、
お客さんがそれほど多くないにもかかわらず、
あちこちのテーブルにまだ片付けられていない食器が
放置されたままでした。


このところ、ファミレスを始め飲食業界は空前の人手不足です。
教育もままならないのでしょうね。

どのファミレスにいっても、
上記のようなサービス低下をはっきりと感じます。


あなたも経験ありますよね。こんながっかりすること。
外食に行く時、ファミレスはなるべく避けたいなあと
思い始めてませんか?


ファミレスといえば、ハレの日にワクワクして出かける場所
だった時代が懐かしいです。

顧客の立場ながら、現在のファミレスの凋落ぶりには
情けないものを感じますね。


実は、このサービス悪化に拍車をかけているのが、

「多店舗展開」

だそうです。

人手が足りない状況で、なぜ店を増やさなければならないのか。

それは。上場企業の場合に特に顕著ですが、
売上を維持、また向上させ続けない株価が下がるためです。

また、上場していなかったとしても、
企業として成長し続けようと思ったら、店舗を増やすしかない。

ところが、個店では先に紹介したようなサービス品質が
ますます低下するので来店客が減り、店舗あたりの売上が下がる。

それを補うために、さらに店舗数を増やさなければならない
というドツボの悪循環にはまっていると言えそうです。


ですから、すかいらーくグループが、
収益を求めるだけの株主の意向に左右されず、長期的な視点で
抜本的な改革を行うため、MBO(経営陣による買収)で
非上場化に踏み切ったのは英断だったと思います。


それにしても、ファミレスに未来はあるんでしょうかねぇ・・・?

投稿者 松尾 順 : 08:18 | コメント (4) | トラックバック

宮崎駿作品・創作の秘密

唐突な質問で恐縮です。(^_^;

伝統的な日本建築と西洋建築の違いをご存知ですか?


以前ある講演会で、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが、
次のようなことをおっしゃってました。


西洋建築の場合、全体設計図をまずかっちり作成する。
そして、実際の施工を始める。

一方、伝統的、つまり古来の日本建築では、全体設計図なしで
いきなり、お座敷のような部屋を一つどんと作ってしまう。

そして、その部屋を出発点にして横に部屋を増やしたり、
廊下をつけたりして、大きくしていく。

つまり、西洋では「全体」ありきなのに、
昔の日本では、「部分」からスタートしていくやり方だった
というわけです。


なぜ、鈴木敏夫氏がこんな話をされたのかというと、
スタジオジブリの一連の作品の映画製作方法は、
こうした、伝統的日本建築のやり方に近いからです。

スタジオジブリ、というより宮崎駿監督のやり方が
そうだということなんでしょうけど。


先日のNHKプロフェッショナルでは、
数ヶ月に渡り宮崎監督に密着取材しており、現在製作中の新作、

「崖の上のポニョ」

がどうやって作られていくのかを知ることができました。


同番組をご覧になったかたはお分かりだと思いますが、
まさに、伝統的日本建築的でしたね。

まず最初に「1枚のイメージボード」が
出来上がらないと、映画製作が始まらないのです。


新作の主人公「ぽにょ」というのは、人面魚です。
宮崎作品としては初めて海が舞台になる。

宮崎監督は、ぽにょのいわば「本質」を表わしている

「1枚のイメージボード」

が描けるまで、さんざん悩み試行錯誤をします。

そして、ようやくその1枚ができると、
そこからイメージを膨らませ、ストーリーボードを
追加していく。

その後、スタッフとともに怒涛の映画製作に入るのです。


なぜ、宮崎監督は、このような方法を取るのか。

それは、ありきたりのストーリー展開で
先が読めてしまうのを避けるためのようですね。

「わかんないけど、面白いというのが一番いい」

のだそうです。


そんな、「謎解き」のような映画を作るためには、
理屈・論理でつくってはだめ。

だから、あえて全体を見据えることをせず、
「部分」からスタートする。


実際、宮崎作品のストーリーは呆然とするような展開を見せ、
頭(理性)で理解しようとするとよくわからないことが多い。

でもなぜだか不思議な魅力がある。


人は、本能的に好奇心が強く、

「よくわからないもの」

が好きなんですよね・・・

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (2) | トラックバック

マイヌードルカップの深慮遠謀

3月末に関東地方1都9県で新発売された
日清食品のカップヌードル詰め替えセットを購入してみました。


正式な商品名は、

「カップヌードル リフィル スターターパック」

です。


内訳は、

・プラスチック製のマイヌードルカップ
・カップヌードル リフィル(詰め替え用)
・シーフードヌードル リフィル(〃)

の3点セット。


アピールポイントは、

・マイヌードルカップは繰り返し洗って使える。
・リフィル(詰め替え)は、食べた後のゴミの量が4割減る。

だから、環境に優しい。

また、マイヌードルカップは二重構造になっていて、
商品名が印刷されたデザイン紙を好きなもの
(お気に入りの絵とか)に差し替えることが可能。

だから、自分だけのオリジナル「マイカップ」が楽しめる。


キャッチコピーは、

-楽しく食べてエコスタイル-

です。わかりやすいコンセプトですね。


スターターパックの販売価格は570円程度。

リフィルが1個100円強ですから、
プラスチック製マイヌードルカップは、300円強もするんですね。

ちょっと高いかなという印象を受けます。


でも、プラスチック製なのでしっかり持つことができます。
既存の発泡スチロール容器のようにふにゃふにゃしないため、
安心感があります。

既存のパッケージより一回り大きいので、
女性の小さい手ではやや持ちにくいかもしれません・・・


さて、この新商品、エコロジーの流れにうまく乗った商品では
あるのですが、表だって語られない深慮遠謀があるのは
マーケターの方なら、おわかりですよね。


そう、「マイカップ」を持つことによる

「ブランドロイヤルティ向上」

です。

これは、ベタに言えば、マイカップ保有者の場合、
一人当たりのカップヌードル消費量が増えるということです。

マイカップがあると、いつもカップヌードルを
思い出してしまって、すぐに食べたくなってしまうから。


また、マイヌードルカップに、別のメーカーのカップ麺、
「マルちゃん」とかを入れて食べる人は少ないでしょう。
(気分的な問題もありますが、ゴミの量が減らず、
 エコに寄与しないからです)

つまり、ブランドスイッチも防げる。

こうした商品は、爆発的に売れるものではありませんが、
ヘビーユーザーをさらにロイヤル顧客に育成していく
ひとつの手段として有効でしょう。

私もその一人・・・(苦笑)


ついでながら、上記の類似サービスとして、

「マイマグカップ」

を預かるサービスをスターバックスの井の頭公園店が
実施していますね。

顧客としては、マイカップを持ち歩く手間が省けるし、
容器持参者に適用される20円の割引も受けられる。

自分専用なので気分的にも安心ですし。


一方、スタバの深慮遠謀としては、顧客のマイマグカップは、
いわば「人質」(あまりいい表現ではないですね・・・)。

来店頻度が増えるでしょうし、他店への浮気も阻止できる。

スタバ井の頭店がこのサービスを開始したのは2003年でしたが、
口コミで広がり、現在の利用者は約300人だそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:21 | コメント (0) | トラックバック

「コブクロ」に学ぶ顧客志向

小渕健太郎と黒田俊介

二人の姓(コブチ、クロダ)を組み合わせたから、

「コブクロ」

なんですね。

一度聞いたら忘れられない奇妙なネーミング。
マーケティング的センスとしては最高ですよね。
(彼らは、意識してなかったんでしょうけど)


コブクロの結成は、1998年です。
二人は、堺東の商店街の路上ライブで知り合いました。


地元大阪出身の黒田は、数年前からこの商店街で一人、
路上ライブをやっていたのです。

一方、宮崎出身の小渕は、関西に就職のために出てきており、
毎週土曜日だけ、この商店街で路上ライブをやりに来てました。


小渕の才能を高く買っていた黒田はある日、小渕に

「何かオリジナル書いてくれ!」

と頼んだそうです。

「いいよ、君のために1曲書いてあげる」

小渕は快諾。


1週間後に、黒田は、ギタコード付の楽譜を受け取りました。

しばらくして、小渕が黒田のライブを見に行くと、
歌は歌っているけれど、手元のギターはちゃんと鳴っていない。


「黒田はろくにギターが弾けない」という事実を
小渕はその時初めて知りました。
(ギター弾けないのに、よく弾き語りやってたもんですねぇ!)


「じゃあ、俺が弾いてあげるよ」

小渕が黒田のギターを持ち、黒田はボーカルに専念。
2人で適当に合わせて歌い始めました。

「コブクロ」誕生の瞬間です。

そしてこの曲の名こそ、あの「桜」。


さて、コブクロは、2001年に

”YELL~エール~/Bell”

でメジャーデビューを果たしました。


この1stシングルはそこそこの成功を収めます。

ところが、以降のCDはなかなか最初のシングルを
超えることができなかったそうです。

CDに対する顧客の反応は、いい時はいろいろ
書いて送ってくるけれど、良くない時は無反応
なんだそうです。

このため、曲作りに多少行き詰まりを感じたことも
あったようです。


しかし、救いは「ライブ」でした。

彼らがライブをやる時、イントロをちょっと短くするなど
曲のアレンジを変えてファンの反応を見たのです。

そうやって、曲のこの部分はやっぱり長すぎるねとか、
こう変えたほうがいいという工夫を重ねた。

「コブクロ」が生み出す「楽曲」いう商品を、
顧客の反応を見ながら磨き上げていったわけです。


こうした努力の結果が、今の爆発的な人気を
もたらしたのは間違いありません。


彼らもアーティストとして、
曲づくりには、自分たちの強い想いを込めているでしょう。

しかし、それだけでは一人よがり。

ファン(=顧客)の声・反応を受け止め、
微調整を躊躇しないことが、メジャーとして成功を
収めるためのマーケティングとしては重要になってきます。


コブクロからは、

「顧客志向の大切さ」

を学ぶことができると思いませんか?


*以上は、NHKトップランナーに出演したコブクロの話を
 ベースにしました。

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (0) | トラックバック

提案、提案、提案!

来る4月27日にグランドオープンする「新丸の内ビルディング」、
通称「新丸ビル」に入居している飲食店のビールは、
キリンビールが独占しているんだそうですね。

新丸ビルのオーナーは三菱地所、そしてキリンも三菱グループ。
ですからそもそも有利な戦いではありましたが。


しかし、キリンは近年、小学生だってできる値引き主体の

「価格型営業」

から、飲食店の収益増につながる価値ある提案を行う

「価値型営業」

への転換を図ってきました。


ですから、キリンの営業さんは、このところ
「提案、提案、提案」としつこく言われるそうです。

新丸ビルの成果も、そうした価値型営業が認められた側面も
大きいんじゃないでしょうか。


なお、キリンの場合、価格型営業から価値型営業に切り替えて、
相応の成果が見え始めるまでに3年くらいかかったそうです。


当初、価格型営業をやめる、つまり値引きをしなくなるだけでは、
ライバルにどんどん負けてしまう。

結果として売り上げがどんどん下がっていくのですが、
このつらい時期をぐっとこらえ、価値型営業への転換に
成功したのは、トップのゆるがない信念のおかげでしょう。


ついでながら、2002年にグランドオープンした、
新しい「丸ビル」(新・丸ビルと呼ぶ人がいました)と、
今回の「新丸ビル」は、道路をはさんで向かい合う別々のビル。

旧・新丸ビルが建て替えに入る前、この2つのビルを
ごっちゃにする人が多かったそうです。

しかし、今回、「新・新丸ビル」のオープンで、
「新・丸ビル」と、「新・新丸ビル」を再び混同する人が
増えそうですね。


こうして書いてるだけでも混乱してきました・・・

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (1) | トラックバック

歯医者さんのトップクラスWebマーケティング事例

我慢に我慢を重ね・・・
しかし、とうとう痛みに耐えかね駆け込んだ歯医者さん。
私の事務所から徒歩30秒。


飛び込み初診でしたので、どんな歯医者さんか心配でしたが、
かなりの腕前でほっとしました。


初回こそ、神経まで達していた虫歯のために麻酔を打ったりと、
ちょっとつらかったですが、今は治療の痛みはまったくといって
良いほどありません。安心して身を委ねられます。


院長先生は、開業30年のベテラン。スタッフはいるものの、
歯科医師としてはお一人でやってこられたようですね。


50代の結構なお年のはずですが、先取の精神高しです!
Webサイトも立ち上げてます。


早速のぞいてみると・・・

すごい。感動しました。
これは、間違いなく「プロ」がサポートしてますね。


シンプルなデザインながら、ヘッダーには「青空のイメージ」を
配して、歯医者に行くブルーな気分を紛らわせてくれます。

トップページを開くと真っ先に目に入ってくるキャッチコピーは

「歯は削らなくても大丈夫です」

と不安を解消してくれる一言。


さらに、

「○○歯科医院の理念」

が続きます。

たとえば、

 「患者さんの要求に応えられる歯科医院」

など全3か条で、当院のポリシーを明確に伝えています。


その下を見ていくと、患者さんからの喜びの声を掲載!

-------------------------------

○山○人さん(33歳)

私は5歳のころから○○歯科医院に通ってます・・・
成人してから久々にいくと、5歳の時のカルテが残っていて
感動しました・・・云々。

-------------------------------

なるほど、地元に根付いた歯医者さん、
ホームドクターのように信頼できますよ、
というウリをしっかり代弁してもらってますね。


そして、別ページに掲載されている院長の、
親しみを与える柔和な笑顔の写真もなかなかいいのですが、
その下のメニューの「スタッフ紹介」を見ると、すごい、
美人揃いです!

とりわけ、受付の女性は、

「元モデルですか?」「今夜空いてませんか?」

と思わず聞いてみたくなりました。(笑)
いやほんとに、美しい方・・・


しかし、今のところ、なぜだかいつも受付の女性は
体調を崩していて休んでいます。まだお会いできてません。
(受付の女性は本当にいるのか、ちょっと疑い始めてます・・・(^_^;)

というわけで、院長先生自ら受付業務もやってくれてますが、
精算はできないらしく、今のところ医療費は「ツケ」です。


「よくある質問」もしっかりあります。

-------------------------------

Q 治療期間はどの位かかりますか?
A 大変難しい質問です。
  それぞれの・・・(以下略)


Q 歯石を取る回数はどれ位ですか?
A これも大変難しい質問です。
  歯石の・・・(以下略)

-------------------------------

思わず笑ってしまいましたが、
この率直な物言いも、なかなか好感もてます。


さらにさらに、なんと「院長ブログ」もやってるではないかあ!

あまりマメに更新されてませんが、実直そうな人柄が
伝わってきました。

また、熱烈な巨人ファンであることもわかりました。
(後楽園球場、というか東京ドームまで徒歩10分で
いける場所に開院したのは、巨人ファンだから?)


といった具合でして、
歯医者さんのWebマーケティングの取り組みとしては
トップクラスの事例でしょう。


Webサイトのおかげだけではないと思いますが、
予約はいつも満杯の、人気の歯医者さんであることは確かです。


なお、受付の女性の写真、あるいは院長先生のお顔を
拝んでみたいという方は、私まで直メールをお送りください。

あなただけに、こっそりURLをお教えします。(*^_^*)

投稿者 松尾 順 : 00:59 | コメント (0) | トラックバック

CRMキッチン・・・全員が女将

あなたの会社では、「顧客満足度調査」を実施してますか?


次に、顧客満足度調査を実施されている方にお聞きします。

「調査結果」をどの程度活用できてますか?


まさか、

調査会社から報告書を受け取り、プレゼンを聞いてオシマイ!

じゃないですよね。


そもそも、顧客満足度調査を実施する目的は、
商品・サービスの改善を行うこと、そして究極的には

・「リピート率」を向上すること
・「ロイヤル顧客」の育成を図ること

ですよね。


ですから、顧客満足度調査を実施する上で最も大事なことは、
現場(顧客接点)にいる、一人ひとりのスタッフへの適切な
「調査結果のフィードバック」と、スタッフ一人ひとりの
「継続的な行動改善や工夫」です。


しかし、現実には、「顧客満足度調査」と「現場」が乖離し、
調査結果が現場での行動改善、工夫に必ずしも落とし込まれない
企業が多いんじゃないでしょうか?


では、どうしたら顧客満足度調査と
現場を結びつけることができるのでしょうか?

最大のポイントは、

・満足度向上を実現するのは現場の自分たちだという
 「主体性」を持たせること

でしょう。


これを実際に取り組んでいるのが、
星野佳路氏率いる「星野リゾート」です。

「星野リゾート」は、リゾート運営の達人を掲げ、
自社保有の軽井沢のホテル・旅館等の経営に加えて、
「磐梯リゾート」、「アルファリゾート・トマム」など、
地方の経営破たんしたリゾート施設の再建を次々と
成功させてきている企業。


同社では、3年ほど前から、

「CRMキッチン」

というITシステムを全スタッフと共有しています。
(日経コンピュータ、2007.4.16)


「CRMキッチン」では、経営情報とともに、
顧客満足度調査の結果が自由に閲覧できるようになっています。

同社スタッフは、「CRMキッチン」を使って、
顧客満足度の結果をリアルタイムで把握しながら、

「なぜ顧客満足度が低下したのか」
「どんな改善策があるのか」

と自ら考え、実行に移すことを日常的にやっています。

スタッフとしても、自分の行動に対する顧客の反応が
迅速にわかるわけですから、やりがいを感じるでしょうし、

「どうやったら、もっと満足度があがるのかな・・・?」

と自発的に工夫するようになりますよね。


上記のようなことを考えるのは、従来は、

‘旅館の女将’

の役割でしたが、


星野社長によれば、

“スタッフ全員を「女将」にするのが目標”

なのだそうです。


なお、同社では、顧客満足度の向上度合いに応じて、
決算賞与の分配を行っています。「金銭的な動機付け」
もしっかり取り入れているんですね。

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

(続編)「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

今日は、「キリン・ザ・ゴールド」の続編です。


3月20日発売の「キリン・ザ・ゴールド」は、
キリンが出すビールカテゴリーアイテムとしては実に
17年ぶりの主力商品です。

*「キリン・ザ・ゴールド」ブランドサイト


すでに、発泡酒カテゴリーで、

「淡麗<生>」

をまた、第三のビールカテゴリーで、

「のどごし<生>」

という定番パワーブランドを育て上げることに成功したキリン。


「ゴールド」についても、じっくりと育てていく意向のようです。

そのためなのか、初年度の出荷目標は800万ケース。
かなり控えめな数字です。


では、発売後10日間の出荷実績はどうだったか。

年間目標の20%に当たる160万ケースでした。
好調な滑り出しですね・・・


そして、3月末(29-30日)には、
JMR生活総合研究所によるアンケート調査も行われていました。
(インターネットリサーチ、回収サンプル数:634件)

→2007年春のビール商戦 -ビール・発泡酒・第三のビール
 (JMR生活総合研究所)


この調査結果によると、

・ゴールドの認知率(「知っている」消費者の割合)は約63%。
・3ヶ月以内での自宅でのゴールド飲用経験は2割弱

です。発売早々としては悪くない数字と言えるでしょうか。


気になるのは「リピート意向」です。

上記調査によれば、ゴールドを飲んだ人のうち、
今後も飲みたいと回答した消費者は、62.8%でした。

60%台のリピート率のビールを見ると、

「サントリー・モルツ」(69.0%)
「サントリー・プレミアムモルツ」(68.4%)
「アサヒ・プライムタイム」(63.4%)
「サッポロ・黒ラベル」(63.2%)

などが並んでいます。
こうしてみると、新製品とはいえ(新製品なのに・・・)
ゴールドのリピート意向はあまり高いとは言えませんよね。


ちなみに、リピート率が高いビールは、
次のようなブランド。

「キリン・一番搾り」(81.2%)
「キリン・ラガー」(80.3%)
「アサヒ・スーパードライ」(75.7%)
「サッポロ・エビス」(74.4%)

これらは、固定ファンがしっかり支えているブランドであること
がうかがえますね。


さて、「ゴールドのリピート意向」に戻りますが、
やはり懸念した通り、「また買いたい」と思わせるだけの商品力
(端的には「味」)は持ち合わせていないように思います。


とすれば、ゴールドの成否は、マーケティングコミュニケーション
の展開次第ということになりますよね。

ご存知かと思いますが、ゴールドの広告のタレントには
「オダギリ・ジョー」を起用してます。

メインターゲットが20-30代ということも踏まえての選定。


肝心のコミュニケーションの内容としては、

「いつ、誰と、どんな状況で飲むのがGOODか」

という提案がどこまでできるかですよね。


そうそう、日経デザインの記事によれば、

「ボサノバに合うビール」

というイメージが、現在のパッケージデザインには
反映されているんでした。


うーん、どうですかねぇ・・・
ボサノバっぽいデザインには見えませんが。


あくまで個人的意見ですが、パッケージデザインについては、
やはりもっと力強いものにした方がいいんじゃないかと
感じるんですけど。

投稿者 松尾 順 : 07:49 | コメント (2) | トラックバック

「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

今日もデザイン寄りの話です。

なお、私はデザインの専門家ではありません。

偉そうなことを書き散らしてきてはいますが、
実態はたいしたことない・・・(^_^;

デザインについては、あくまで私も勉学中の身。

ですから、「それは違うでしょう、松尾!」などと、
ぜひいろんな方の反論をお待ちしております。


さて、全国のビール好きの皆さん、
(そうでない方、すいません)

3月20日発売の「キリン・ザ・ゴールド」はお試しになりましたか?

→「キリン・ザ・ゴールド」ブランドサイト

このビールは、

「隠し苦味」

というのが最大のウリです。
ただ、この意味は、Webサイトの説明を読んでもよくわかりません
でしたが・・・


実際飲んでみた感想として申し上げると、

「爽快感のある苦味」

麦芽100%ですし、結構いける!と思いました。


しかしながらこの新ビール、売れるでしょうか?

発売当初はそれなりに売れるとしても、果たして
「定番化」できるでしょうか?


私は、「ちょっと難しいかな」と感じています。


味はまあ確かにおいしいけれども、際立った個性はありません。
つまり、「味」だけでリピートは得られないように思います。

一方、キリンさんの販売力には定評ありますから、
これはOKとして。


引っかかるのはパッケージデザインですね。

写真より、実物を手にとってもらうとわかりますが、
全体的にとてもおとなしい。「ビールらしくない」顔つき。

他のビールは、おおむね派手な色使いで、ごちゃごちゃ
文字が入っていますが、それと逆路線なんですよね。


でも、「上品さ」はあるけれど、か細い印象を与えます。

結果として、店頭で

「これ飲んでみたい」

というワクワク感、シズル感を与えることができていない。


特に、缶上部の「マット(つや消し)な薄い金色」が
こんな弱い印象を生み出しているように思います。


実は、この金色、販売直前まではピカピカの派手な金色
でした。

ところが、女性社員から、

「大阪のおばちゃんが身に着けていそうな金色に見える」

と指摘されて、きゅうきょ、この薄い金色に変更したのです。

この変更は果たして適切だったのか・・・


このパッケージデザイン、
キリンでは、昨年夏にデザイン会社数十社に声をかけ、
500案もの提案を受けたそうです。
(日経デザイン、April 2007)

その結果選ばれた今回のデザインの基本方向は

「ビールらしさをいかに払拭するか」

でした。


そして、日経デザインの記事に書かれているのですが、
このデザインにおいて最もチャレンジングな点は、

「店頭での目立ち具合よりもむしろ、
 手に取り部屋に置かれた時の雰囲気にマッチするかを
 重視したこと」

なのです。

ですから、キリンさんとしては、
私が指摘するような、店頭での「引きの弱さ」は
織り込み済ではあるんですね。

さて、このチャレンジは成功すると思いますか?


補足として、日経デザイン誌が行ったアンケート調査結果
(包装向上委員会)の一部をご紹介しておきます。

調査結果を見ると、ゴールドに対する評価は高いですね。

--------------------------------------------------

*写真(パッケージデザイン)を見て「キリン・ザ・ゴールド」を
 飲んでみたいと思いますか?

  ・とても飲んでみたい(31.3%)
  ・飲んでみたい(59.4%)
  ・飲んでみたくない・ぜんぜん飲みたくない(9.3%)


*4種類のビール(スーパドライ、ゴールド、一番搾り、ラガー)
 の中でパッと見て、どれを一番飲んでみたいですか?

  1位:ゴールド(40.4%)
  2位:一番搾り(26.3%)
  3位:スーパードライ(22.0%)
  4位:ラガー(11.3%)

 (注)この回答は注意が必要です。
    発売前の調査のため、回答者はゴールドを飲んだことが
    ありません。自由回答を見ると「試してみたい」という
    ものがありますので、ゴールドに対する回答は割り引いて
    評価する必要があります。

 (注)本筋と関係ないですが、「ラガー」は人気ないですねぇ!


<調査概要>
・調査対象者:20代、30代、40代、50代、60代以上、
 それぞれ60名(男女半々ずつ)、合計300名
・調査方法:インターネット調査
・調査時期:2007年3月上旬

--------------------------------------------------

投稿者 松尾 順 : 10:36 | コメント (0) | トラックバック

記憶にあるデザイン

エレコムのUSBハブ、

「これハブ」

の売れ行きが好調なんだそうです。

年間150万個の市場で、昨年秋以来既に10万個を出荷しています。
(日経産業新聞、2007/04/06)


写真を見ていただくとわかりますが、
電器製品等のコンセントを増やすための「電源タップ」を
連想させる形状です。

もちろん、あえて似せて作ってあります。


エレコム社で同製品のデザインを担当した矢代昇吾氏によれば、


“USBハブはUSBポートにとって、いわば電源コンセントに
 とっての電源タップ。使い方も同じならば形状をそのまま
 似せてはと考えた”


だそうです。

ただし、実際の電源タップは野暮ったいデザインですから、
USBハブはより洗練されたデザインを目指したそうです。


「これハブ」の価格は、通常のものとほぼ同じ。
しかし、従来品と比べるとやや大きめなのがネックです。

PCに接続する際に「邪魔」と感じるユーザーがいるかもしれない
という不安があったようですが、ふたをあけてみたらヒット!


さて、この製品が売れている理由は、
「電源タップ」風の形状以外には考えられませんが、
そもそもユーザーは、なぜ購入したくなるんでしょうか?


この理由を考えている時に思い出したのが、
人工知能研究の第一人者、ロジャー・シャンク教授の言葉です。


“目の前のことを「理解する」ということは、過去の経験と
 なんらか結び付けることができたことを言う”


つまり、人は「新しいこと」に出会った時、
そのままでは「理解」できない。

当然ですね、それまでは未知のことだったわけですから。


そこで、過去の経験と照らし合わせて、

「これは、過去のあれと同じようなものとみなせばいいんだな」

と、既存の枠組みの中に置き換えることでようやく理解できる
というわけです。


「USBハブ」は、10年ほどに登場したばかりの新しい商品で、
いったいどういう機能をもつものなのか、なかなか理解しにくい。


しかし、エレコム社の「これハブ」は、

「以前の電源タップのようなもの」

私たちの過去の記憶にあるデザインを呼び起こし、
その機能が即座に理解できる分かりやすさを実現した。

結果として、購買意欲を刺激することができたのでしょう。


なお、人気ブログ「情報考学」の橋本大也さんは、

「デザインにひそむ<美しさ>の法則」のエントリー

で次のように書いています。

“まったく新しいものなのだけれども、どこかに過去の
イディオムを再利用していることが本物っぽさの正体なのかも
しれない。”

“伝統と断絶したデザインは、斬新だけれども使いづらく
感じることが多い。新しいイディオムは一度、ユーザに
受け入れられると、クラシックになり、次の世代のイディオム
の要素になるのだろう。”

“そう考えると、クリエイターの創造性の魔法のように思える
デザイン技術も、歴史学や社会心理学的な理論で検証できる
体系があるのかもしれないと思えてくる。”


「本物」というのは、要するに
「本家本元」であり、「源流」にあるもの。

つまり、一番最初から存在している物で、時間的には
古いものほど「本物」と感じやすいと言えそうです。


この考え方を敷衍すれば、USBハブにとっては、
同じような機能を持つ「電源タップ」の方が古い。

したがって、電源タップもどきのデザインを持つ

「これハブ」

は、より「本物っぽい」と感じさせることに成功したのかも
しれません。

投稿者 松尾 順 : 09:51 | コメント (1) | トラックバック

客が客を呼ぶ・・・四万温泉のスマートボール

ディスコの「センターピン」(成功要因)は、

「混んでいること」

と見抜いたのは、ジュリアナ東京、ベルファーレなどを
プロデュースした折口雅博氏でした。

人が集まるからこそ、その場に「活気」が生まれ、
楽しさを倍増させてくれるからです。


同様の理由で、周囲の反対を押し切り、
無料券をばらまいて新潟スタジアムを一杯にしたのが、
Jリーグ、アルビレックス新潟の代表取締役会長、池田弘氏。


上記の例はどちらもスケールの大きい話ですが、
店舗、とくに娯楽施設は規模の大小にかかわらず、

「客が客を呼ぶ」

というのは同じだなあと改めて思ったのが、
先日行った群馬の四万(しま)温泉の温泉街でした。


四万温泉は、近くにある伊香保や草津ほどの知名度はなく、
歓楽街もないため、温泉街はちょっと寂れた感じです。
(そこが逆に言えば魅力にもなってますが・・・)


さて、車1台がやっと通るくらいのある細い通りに入ると、
いくつかのそば屋などと並んで、スマートボール屋さんが
2軒、斜め向かいに並んでいました。

スマートボールは、私も今回始めて経験したのですが、
ピンボールのような斜め横置きの台で、ちょっと大きめの
ビー玉のような玉をはじき、5とか15とか書かれた穴に
入ると、その数だけ玉が出てくるもの。

まあ、ピンボールとパチンコの「アイノコ」と
思ってもらえればいいです。


この2軒のうち、1軒は、スマートボールとパチンコ、
もう1軒は、スマートボールと射的の複合店。

どちらも店舗面積はは同じくらいです。

でも、一方は先客万来なのに、もう一方は
ガラガラ、というか人っ子ひとりいないんです。


私たち家族は、たまたま最初に混んでいる方に入りましたが、
BGMには「ド演歌」が流れています。

「ド昭和」の香りがしました。

店主は、“若く見積もって”50歳過ぎのおばはん。
へたに声をかけるのがためらわれる「ド迫力」をお持ちでした・・・

土曜日の午後でしたが、この店には次から次へと客が入ってきます。

千客万来

*ガラス越しでちょっとわかりにくいですが、混んでるのはわかりますよね。


そして、その店を出たらすぐ反対側にあったのが、
ガラガラの2軒目の店。

スマートボールだけじゃなくて「射的」もあったので、
ちょっとやってみたいと思ったのです。

ガラガラ

しかし、店内に客が誰もいないので入る勇気が出ません。
素通りしてしまいました。


この2軒、経営センスの差と片付けてしまうのは簡単ですが、
ガラガラ店のオーナーさんは、「サクラ」でもなんでも、
できることをやればいいのにと思ってしまいました。

1組でも先客がいれば、みな安心してお店に入れるんですけど!

こう明暗がはっきり分かれている実例も珍しいですよねぇ・・・


なお、ついでながら、今回の四万温泉の宿泊先は
老舗の「四万たむら」という旅館です。

→四万たむら Webサイト

ただし、部屋は、四万たむらの中でも最も古い施設である、
「花涌館」(かようかん)を選びました。


「花涌館」は、全体的な高級イメージを壊すためか、
Webサイトではおおっぴらには紹介されていません。

古い旅館にありがちなトイレ・バスなしの部屋でしたが、
掃除が行き届いているようで、清潔感がありました。


なにより、たむらの全施設内には源泉掛け流しの風呂が
10種類ほどもあって、どれも趣があってすばらしいもの。

また、夕食はいわゆる懐石料理でしたが、
値段を考えると十分な品数があり、かつどれもおいしい。

これで休前日でも、1泊2食付1人1万円弱です。


もちろん、この宿には、1泊2-3万円を超えるグレード
の高い部屋もいろいろとあるのですが、私たちが選んだ
最安値パックではお得感があるし、満足度も高い!

久々にリピートしたいと感じた宿でした・・・


以下、いくつか写真をご紹介。


 *たむら 前景 
  萱葺き屋根の日本家屋風のたたずまいがいいですね。
たむら前景

 *たむら玄関
  玄関を入ると正面はこんな感じ。
  奥のほうには、田村家に代々伝わる家宝の人形が展示されてます。
たむら玄関

 *たむら帳場(フロント)
  文字通り「帳場」と書いてあり、ここでチェックイン・チェックアウトの手続きをします。
たむら帳場

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (2) | トラックバック

「百年、幸福でした」

「百年、幸福でした」


サントリーの「赤玉ポートワイン」が誕生したのは1907年。

冒頭のコピーは、

「以来100年の間、皆様に愛されて幸せでした」

ということらしいんですが。


しかし、大変失礼ながら、ホームランバーと同様、
まだ販売していたんですね・・・

いったい、どこで買えるんでしょうか?


「幸福でした」といいつつ、本心としては、
POSデータ活用で、マイナー商品はさっさと店頭から排除する、
冷酷なコンビニやスーパー等からは見離されて寂しかったのでは?


しかし、「100周年」の節目ということで、
「赤玉ポートワイン」も復活ののろしを上げてます。

最近、なんだかノスタルジーですね。

→赤玉ポートワイン ブランドサイト


ちなみに、「サントリー」の社名の由来は、
このワインにあるのはご存知ですか?

赤玉=太陽、だから「サン」、「トリー」は、
創業者の「鳥井信次郎」の姓を組み合わせた造語。

サントリーの旧社名は「寿屋」でしたが、
63年「サントリービール」の発売に合わせて、
「サントリー」に変更しています。


サントリーのコールセンターには、

「サントリーの社名の由来を教えてください」

という問い合わせが、年に何本かあるそうです。

投稿者 松尾 順 : 06:58 | コメント (0) | トラックバック

ホームランバー 生涯現役宣言

「ホームランバー」

当たるともう一本もらえる!


懐かしさを感じるのは30代以上ですかね・・・


直方体のアイスに、そっけない銀紙を巻いただけのアイス
でしたが、安かったし、当たるし、結構おいしいし、
と3拍子揃ってました。

もうとっくに製造中止かと思ってたら、いまだ健在なんですね。
今年47歳です。


昨日気づいたのですが、プロ野球開幕に合わせたのか、
地下鉄内のポスター広告にホームランバーがスポーツ新聞風
で登場。その名も「メイトー新聞」。

『ホームランバー 生涯現役宣言』

というコピーが泣かせます。


通勤快足と同様、知名度は高いけれど、すっかり記憶のかなたに
追いやられたブランドの再生に取り組むことにしたんでしょうか。

そもそも、コンビニとかスーパーに置いてあれば、
もっと買うんですけど・・・(^_^;

まずは広告を先行させないと、お店は置いてくれないですけどね。

投稿者 松尾 順 : 10:29 | コメント (0) | トラックバック

「気」のコミュニケーション

最近、やたら

「気」

が、気になってます。(^o^)


ここでいう「気」というのは、
古来中国などで言われてきた「気」のことです。


「気」について、私なりのシンプルな定義をすると、

「五感を超えたところで行なわれるコミュニケーション」

です。


すべての物体、とりわけ「生命体」は、
植物であれ動物であれ、すべてが「気」によってつながることが
できます。つまりなんらかの情報をやりとりできます。


ただ、私は、上記のことを別に「スピリチュアル的」に
語りたいわけではありません。

まだ科学的に解明されていないけれども、
現実には確実に「気」は存在していると思います。


たとえば、米国の原子力潜水艦は、子ウサギを飼っています。

そして、無線が届かない深海で潜水艦に非常事態が起きたとき、
子ウサギの首をはねることになっている。

すると、米国本土にいる「親ウサギ」が大騒ぎをする。
こうして、潜水艦の危機を伝えるのです。


また、昔、声の届かない山奥に仕事に行った子供に
「客人」の到来を知らせ、家に戻ってきてもらうために、
母親は自分の指を強く噛んだ。

すると、子供も、親が噛んだ指に異変を感じた。
そして、家に帰ってきた。


以上は、作家・僧侶の玄侑宗久氏から聞いた話です。

どの程度の信頼性のある話なのか、私は裏を取ってなくて
すいませんが、「気」存在を感じさせますよね。


また、これは「ナショナルジオグラフィック」に
掲載されていた記事ですが、中南米に生息する

「アカメアカガエル」

の「驚くべき護身術」というのがあります。


「アカメアカガエル」は、文字通り目が赤く、
緑色のボディとのコントラストが大変に美しいキュートな
カエル。

そして、アカメアカガエルが生む卵は、
昔、皆さんも田んぼなどで見たことがあると思いますが、
プチプチのような半透明の膜に覆われた卵がたくさん
つながった形です。


この卵は、ハチやヘビの格好のエサになるのですが、
こうした捕食者がやってくると、卵の中のおたまじゃくしは
自らの成長を速め、急いで孵化して逃げ出すのだそうです。

おそらく、捕食者が卵を食べようとする時の揺れを感じて、
孵化を速めるといった行動を取るわけです。

不思議なのは、天敵ではなく、風や雨などの自然現象が
起こす揺れでは決して同じ行動はしないのだそうです。

つまり、単に風で揺れているだけなのか、天敵がやってきて
危険が迫っている状況なのかを卵の段階で区別できてしまう。

しかも、天敵のタイプによって、卵の取る行動が変わるのです。

びっくりですよね。


このカエルの卵の護身術は、
遺伝子にあらかじめ埋め込まれた本能的行動なのでしょうけど、

「俺はハチだ、おまえらを食べちゃうぞ!」
「俺はヘビだ、おまえら、うまそうだなあ!」

といった「気」を卵が感じているんじゃないでしょうか。


そういえば、宗久さんの話でもうひとつ思い出したのが、
おかしなことを言ったり、行動を取る人のことを昔

「気違い」

と言いましたが、これはまさに「気」が通じなくなった状態
のことなんですよね。

しかも、面白いのは、「気違い」を治すのに効果があるのが、

「リズム」

なんだそうです。


音楽、ダンスといった「リズム」をベースとしたものが
宗教的な治療行為に取り入れられていたのはちゃんと
それなりの意義があったわけです。

また、私見ですが、自然と交流することは、
ノイズが多すぎる現代において弱体化しがちな「気」の力
(まさに「気力」)を取り戻させることに高い効果がある
と思います。


さて、「気」は、前述したように科学的な証明が十分に
なされてはいないものの、普段からひとつの
ノンバーバル(非言語的)コミュニケーションの方法として
活用していることは間違いありません。


あえて大胆な提言をさせていただきますが、
マーケターの皆さんも、これからは

「気」

の研究にも取り組む必要があるんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (2) | トラックバック

「ヒット商品を最初に買う人たち」

今回は、純粋な書評です。


マーケティング戦略において、
ターゲットを考える際に最も役立つ理論が

「イノベーター理論」

です。


マーケティングコンサルタント、森行生氏の最新作、


「ヒット商品を最初に買う人たち」
(森行生著、ソフトバンク新書)

では、まるごと一冊、この「イノベータ理論」、
特に、流行を生み出す「イノベータ」に焦点を当てた議論が
展開されています。


「イノベータ理論」とは、新しい商品を誰が買い、
それがどのように広がっていくかを説明するもの。

本書では、新商品に真っ先に手を出す少数の人たちを
「イノベータ」、イノベーターに続く人たちを
「アーリーアダプタ」、最後に買う人たちを「フォロワー」
と3つのセグメントに分けます。

さらに、森氏のイノベータ理論では、
これまでイノベータ層の中に含まれていた

「マニア」層

を区別し、

「マニア層」と従来の「イノベーター層」

の心理や行動面の違いを指摘しています。


新商品が売れるためには、まず「イノベーター層」が
飛びついてくれることが必要ですよね。

しかし、いわゆるオタク的な心理や行動を持つ「マニア層」
だけにしか受け入れられなかった商品は、大ヒットに結びつく
ことはありません。

したがって、新商品の初期購入者がマニア層にとどまっているか
どうかを見極めることは、新商品の将来性を占う最初の試金石と
なります。

本書では、こうした森氏オリジナルのイノベータ理論に基づき、
花王ヘルシア、ニンテンドーDS、アップルのiPODなど、
具体的な事例を挙げながら、なぜ、ある商品は成功し、
あるいは失敗したのかを明快に分析しています。


また、森氏は、「従来型イノベータ」とは異なる行動を取る

「革新型イノベータ」

と呼べる層が存在していることを本書で初めて明らかに
しています。


「革新型イノベータ」は、従来の常識や商品のイメージに
とらわれず、新たなルールで行動する人たち。

逆に言えば、これまでのルールを壊してしまいます。

ですから、「革新型イノベータ」の心をつかむことができれば、
従来のルールにおいては最強だった競合他社商品を打ち負かす
新たなヒット商品を生み出すことができるかもしれません。


著者の森行生氏は、代表作の

「シンプルマーケティング」
(森行生著、ソフトバンクリエイティブ)

や、長年にわたって発行されているメールマガジンでは、
極めて濃厚な議論を展開してきました。

文章はとても読みやすいのですが、書かれている内容自体は、
高度で緻密なため、読み手にも相当の覚悟が必要です。(笑)


しかし、本書は、初心者向けにさらにわかりやすく、
平易に書かれています。

ですから、上記「シンプルマーケティング」を読まれたこと
のない方には、準備体操的なものとしてお勧めできます。

本書を読んだら、さらに本格的な森理論が学べる
「シンプルマーケティング」がきっと読みたくなります。


一方、森氏の本に既にどっぷりはまっている方にとっては、
「これで終わりなの・・・」と感じるほどあっさりしているため、
さっと読んだだけでは空腹感を感じるかも知れません。


しかし、実は内容自体はかなり高度なもの。

玄米のようにゆっくり噛み締めて飲み込み、
また牛のように反芻することをお勧めします。


なお、「ヒット商品を最初に買う人たち」をベースに、
著者の森さんが講演をされます。

4月25日(水)です。
森さんの話は、お世辞抜きでメチャクチャ面白いですよ。

↓詳細・お申し込みはこちらからどうぞ!

*シナプス・マーケティング・コミュニティ

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

生マジメに遊ぶ

‘ちょいワルおやじ’


で一世を風靡した「LEON」。
最新のコンセプトは‘プラチナおやじ’ですね・・・

同誌を成功させた元編集長、岸田一郎氏は、
超富裕層(年収2千万円以上)にターゲットを絞った新雑誌、

「ZINO」

を3月23日に創刊していますのはご存知かと思います。

Webと連動させた新たな雑誌ビジネスが果たして成功するかどうか、
興味津々ですね。


さて、岸田氏によれば、「LEON」でやってきたことは、

「見立て」

だそうです。
(日経ビジネスアソシエ、207.04.17)


単に商品を並べたカタログを作るのではなく、

「モテる」「口説く」

ために有効なものを実体験も踏まえて、厳選して提示する。

読者にとって読むに値するオリジナルな切り口を示せたから、
成功しました。


ただし、個人の感性や感覚だけで突き進んでいいわけでは
ありません。

岸田氏によれば、

"あまたの経験と計算、周到な分析が不可欠"

だそうです。


ですから、岸田氏は寸暇を惜しんで多彩な経験を積んでいます。

食事、サーフィン、ファッション、シガー・・・

すべて仕事のためだそうです。


"私は生マジメなビジネスパーソンなのですよ。"

なるほど、生マジメに遊んでらっしゃるというわけですね。

遊びを正当化する説明として最高です。
これからは、私も使わせていただきます。(笑)


もはや、「ロジカルシンキング」(論理的思考能力)は
ビジネスパーソンにとって常識、できて当たり前です。

これからは、クリエイティブシンキング(創造的発想能力)が
加えて重要でしょう。

となれば、「遊び」はビジネスパーソンにとって
不可欠の活動です。(と言い切ります)


また、岸田氏は、アソシエ読者に対するアドバイスとして、

”「客観性」を持つべきだ”

ということを挙げています。


個人の感性や感覚、つまり自分の好き嫌いに関係なく、
世の中を客観的に眺め、冷静に分析するクセをつけること。

それが「ビジネス」だと、岸田氏は考えています。


客観性を身に着けるためにも、自分の感性の枠にとらわれず、
様々なモノコトを体験してみる、やっぱり

「遊び」

が必要じゃないかと、私は思いますね。

投稿者 松尾 順 : 09:56 | コメント (2) | トラックバック

通勤快足の原点回帰(2)

今年(07年)に発売20周年を迎える

「通勤快足」。


ターゲットの男性ビジネスパーソンにおける知名度は、
ほぼ100%でしょうね。

しかし、失われた時代と言われた1990年代以降、
競合他社製品や、安い製品の登場で長期低落傾向に陥りました。

売上で見ると、89年に年商45億円だったのが、
05年には同3億円という惨状です。


「通勤快足」は、誰でも知ってる超有名ブランドですから、
もっと売れているかと思いませんでしたか・・・?

(PCで「かいそく」と入力すると、ちゃんと「快足」と
 漢字変換されるほどスタンダードなんです!)


では、なぜ、こうなっちゃったのか?

をプロダクトコーン理論に基づいて
考えてみたいと思います。


念のため、プロダクトコーン理論を簡単に説明しておくと、
商品を次の3つの要素で定義するものです。

-------------------------------------------

・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)

-------------------------------------------


では、「通勤快足」のプロダクトコーンです。
(松尾の独自の判断によるものです)

-------------------------------------------

・規格=抗菌・防臭効果のある靴下
・ベネフィット=(女性に)臭いと言われない
・エッセンス=男としての自信

-------------------------------------------


さて、プロダクトコーンに基づく、
マーケティングコミュニケーションは、

規格→ベネフィット→エッセンス

と進んでいくことが望ましいとされています。
(その理由は、末尾のマインドリーディング記事や、
 森行生さんの「シンプルマーケティング」をお読みください。)


「通勤快足」の場合、当初「抗菌・防臭効果」を謳って
大ヒットしました。

「規格」を訴求するという定石通りのアプローチで
成功したわけです。

さらに、きちんとデータや資料を振り返ったわけではないのですが、
通勤快足のベネフィットである、

「周囲の人(特に女性)に臭いと言われないですむ」

ということを訴えるコミュニケーションまでは、
行っていたように記憶しています。

つい最近、某調査で知ったんですが、男性にとっては、
「嫌い」と言われるよりも「臭い」と言われる方が
よりショックが大きいそうです。(実感としてわかります)


したがって、この「ベネフィット訴求」も、
「通勤快足」のヒットに大いに貢献したんでしょう。


問題は、この先にあったと思います。


通勤快足の持つ「エッセンス」、つまり、
通勤快足を履いていれば、

「男としての自信」が持てる

という点まで、訴求ポイントを移行することはしていなかった。


もし、うまくエッセンスを訴求できていたなら、

「できる男、自信にあふれた男は、みな通勤快足を履いている」
(それが常識・・・)

といったイメージを形成できたかもしれない。

これは、いわゆる高い顧客ロイヤルティを獲得できる「ブランド」
を確立することであり、価格の高さが、逆に高く評価されることに
つながったはずです。

そして、相応の売上げを維持できたかも知れません。


ところが、現実の戦略は、前回紹介したように、
足を温める効果のある「カプサイシン加工」などのような
新たな機能を毎年のように追加していった。

これは、エッセンスに進むのではなく、
むしろ規格に後戻りし、ベネフィットで足踏みしていることです。

規格やベネフィットは、他社もすぐに追随できることですから、
差異化は長続きしない。

その結果、長期低落傾向に歯止めをかけることができなかったと、
分析できるんじゃないでしょうか。


さて、20周年を迎えて、再び、

「抗菌・防臭効果」

という原点に立ち戻った通勤快足ですが、
この戦略は正しいと思います。

というのも、現時点では、「通勤快足」は知名度だけが高くて、
買う人が少ない、形骸化したブランドになっていたからです。

ですから、ゼロベースで「再生」するのがベスト。


ただし、今後、

[規格→ベネフィット→エッセンス]

の訴求の順番に沿ったコミュニケーションを着実に実行しないと、
再浮上は難しいかもしれません。


「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番


◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 11:58 | コメント (0) | トラックバック

通勤快足の原点回帰(1)

足元から漂ってくる臭いニオイを抑えることのできる、
高い抗菌効果を持つ靴下は当初、

「フレッシュライフ」

という商品名で売り出された。

しかし、初年度こそ3億円を売り上げたものの、
翌年以降はあえなく失速。


そこで、

「通勤快足」

と軽妙な名称に変更したところ、CMの投入も奏功して大ヒット!


この超有名な事例を知らないマーケターはいませんよね。


さて、通勤快足は今年(07年)に発売20周年を迎えるそうです。
(日経産業新聞、2007/03/30)

記事によると、「通勤快足」と改称して再スタートを
切った87年の売り上げは、一気に13億円に到達。

89年には、45億円も売り切ってます。
当時は、予約券を配る売り場もあったとか。

「そうそう、こんな靴下欲しかったんだよね・・・」

それほどまでにも、お父さんたちの足のニオイの悩みは
大きかったということでしょうか。


しかし、その後は競合品の登場、低価格販売店の登場などで
「通勤快足」も苦戦を強いられます。

抗菌機能を維持しつつ、足を温める「カプサイシン加工」
などの機能を追加して差別化を図ったものの、
直近05年の売り上げは、わずか3億円にまで縮小しています。


そこで、通勤快足の開発・製造・販売元、レナウンインクスでは、
この20周年を機に、再び「原点回帰」を図ることにしました。

つまり、改めて当商品のわかりやすい特色である、

「抗菌防臭効果」

を前面に打ち出すことに。


ロゴマークも変更し、これまでは「通勤快足」だけだった
ものに、「抗菌防臭ソックス」とタグラインが追加されてます。
つまり、この靴下の持つ「機能」を明示したわけですね。

また、「吸水速乾機能」を持つ新製品もラインアップに追加。
もろもろ機能性を向上させてます。


このリニューアル製品は、今年2月頃から店頭に並んでますが、
百貨店の仕入れ担当者などからは、

「機能がわかりやすくなった」

と評価されています。


今のところ、出荷ベースでは前年実績15%アップ、
07年度の目標の20%アップは達成可能と見込んでいるそうです。


さて、この通勤快足の取り組み、私の導師、森行生さんの
「プロダクトコーン」をベースに考えてみましょう!


*プロダクトコーンについては下記記事参照のこと。

「シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論

「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番

「シンプルマーケティング(10)プロダクトコーン修正モデル

「シンプルマーケティング(11)「R25」のプロダクトコーン修正モデル」


おっと、よく見るとすでにずいぶん長くなってますので、
続きは明日にします!


この「通勤快足」のマーケティング事例ですが、
あなたならどう読み解きますか?

投稿者 松尾 順 : 22:25 | コメント (0) | トラックバック