格安航空会社(LCC)のヒミツ

格安航空会社(LCC)の
ビジネスモデルの特徴は、

高い品質と驚く安さ

を両立させていることです。

「高品質」と「低価格」という、

二律背反的課題

をどのように解決しているのでしょうか?

-------------------

LCC(Low Cost Carrier)は、
マスコミでは「格安航空会社」と
称されていますね。

‘格安’という言葉の語感からは、

「安かろう、悪かろう」

という印象をどうしても受けてしまいます。

しかし、実のところ、
LCCは高い品質、そして高い安全性を
維持しつつ、低価格を提供しているのです。

逆に言えば、品質を下げたり、
単純に利益を削って低価格を
提供しているわけではないということ。

一定の利益を確保しつつ、
低価格を提示できる最大の秘密は、

機材の効率活用

にあります。

端的に言えば、
1つの機体を高頻度で飛ばすことです。

例えば、

・関西⇔福岡

といった、基本的に乗り継ぎが発生しない
短い路線を1日に何度も往復することで、
1便当たりの

「単位コスト」

の低減を可能にしているというわけです。

もちろん、座席数を増やし、
一度に運べる旅客数を増やすことによって
総収益を引き上げる工夫はしています。
(また、もろもろのサービスを有料化すること
 での追加収益もありますが)


しかし、最も重要なのは、
目的地に着いたら、すばやく客室内の清掃や
給油を終え、乗客を乗せてすぐにトンボ返り
できるオペレーションを確立すること。

LCCは基本的に、チェックイン時間を
厳密に定めており、わずか1-2分でも遅れたら

搭乗できない(キャンセル、払い戻し不可)

のも運航スケジュールを滞りなく守るためです。

また、ビジネス、エコノミーの区分がなく、
基本的に全席「自由席」なのも、早く乗った人
からさっさと座ってもらえるようにするため。

預ける手荷物も、
最初の1個から別料金が発生しますが、
追加収益を得ると同時に、
預かる荷物をできるだけ減らして、
積み下ろしの時間を短くすることを狙っています。

座席は

「革張り」

で高級感を演出していますが、
実は、さっと拭くだけでいいので
清掃時間が短縮できる!

このような様々な工夫・仕組みを積み重ね、
すばやく離陸準備が整うようにして、
短い時間での折り返し運航を可能にしている
というわけです。


LCCに不慣れな日本人としては、
既存航空会社とは異なる、このような

LCCの独特なルール

に戸惑い、また不満を感じる人もいます。

しかし、慣れるにしたがい、

「だから安いんだね」

ということで納得して利用するように
なるのだそうです。


さて、旅客航空の品質は、
主に以下の3つの指標で判断されます。
(品質を評価するための「KPI」ですね)

・定時出発率(時間通りに出発できたか)

・就航率(予定通りに飛ばせたか)

・手荷物事故発生率
 (預かり荷物の紛失などの事故がどの程度発生したか)

世界のLCCの実績を見ると、
実は、既存大手航空会社よりも、
これらの指標の数値がいい。

例えば、欧州の某LCCの「定時出発率」は

90%

であるのに対し、
既存の欧州大手航空会社は80%台です。

「就航率」も既存航空会社を抑えてトップ。

「手荷物事故発生率」は、
数字が低いほど優秀ですが、
前述の欧州LCCはわずか

0.6%

なのに対して、
既存航空会社は10%を超えているのです。


このように、機材の効率稼動を追求することが、
結果的に「航空旅客サービス」の品質向上にも
つながるのがLCCの強さだと言えますね。

他にも、コスト削減の工夫として、
利用する航空機を燃費の良い機種1種類だけに
絞ることで、

・パイロットの教育コスト低減
(航空機の場合、航空機の種類毎にそれぞれ
 専用の免許が必要です)


・整備コストの低減
を実現。

しかも、基本的に

「新造機」

をリースして、短期間で新しい機体に
更新することで故障が圧倒的に減るとのこと。

これもまた、機材の高稼働に寄与すると同時に、

「安全性」

の高さにもつながる点が実に面白いところです。


ところで、こうした低価格のビジネスモデルが
登場すると、一般には、既存企業の顧客が、
安さに惹かれて流れてしまうものです。

しかし、LCCについては、
既存航空会社の旅客をほとんど奪っておらず、
むしろ、新たな需要を生み出しています。

新規需要の多くは、
これまでは、電車、バスなどを利用していた人々が
LCCを利用するようになったり、以前よりも旅行の
回数を増やした結果なのです。

他国では、ビジネス目的では既存航空会社を
利用し、家族旅行ではLCCを利用するといったように
上手に使い分けられています。

日本でも、そうした使い分けが
これから普及していくのでしょうね。


*以上は、ピーチアビエーション社長、井上慎一氏の
 夕学五十講でのお話も参考にしました。

受講生レポート 「アジアの架け橋 LOVE & PEACH」  

*参考文献

『「格安航空会社」の企業経営テクニック』

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投稿者 松尾 順 : 10:20 | コメント (0) | トラックバック

『目標による広告管理』(DAGMAR)の色あせない主張

広告の目的として、
本来はマーケティング全体、あるいは企業自体の
目的であるべき

「売上増」

などを置いてはいけません。

広告活動のPDCAに、
こうした目的は役に立たないからです。

広告を含む多様化した、
現代のマーケティングコミュニケーションに
おいても同様のことが言えます。

--------------------------

先日、私が講師を務める

「マーケティング効果測定」
(シナプス・マーケティング・カレッジ)

で受講生の方から

「DAGMAR(ダグマー)」

についての質問を受けました。

これは、ソロモン・ダトカによって
書かれた古典的名著である、

『新版|目標による広告管理-DAGMAR(ダグマー)の新展開』

で提唱されている考え方です。

いい機会だと思って本書を再読してみました。

ちなみに、「DAGMAR(ダグマー)」は、
以下の頭字語です。

Defining
Advertising
Goals for
Measured
Advertising
Results

現在、同書は実質的には忘れられた存在に
なっていますが、今でも通用する重要な主張が
含まれていることを今回はお伝えします。

同書の中で最も重要な主張は、
以下の部分だと私は考えています。

-----------------------

消費者向け商品・サービスの広告、
およびマーケティングの最終目標は、
購入を引き起こすことである、とされて以来、
広告とマーケティング目的との区別が、
不明瞭なままにされてきた。

マーケティングのほんの一部分である広告は、
「ブランド選好」のような心理学的な効果を
生み出すことにかかわっている。

一方、マーケティングは、商品(あるいはサービス)
がつくられ、集められれ、消費者あるいはユーザーに
届けられるまでのすべての機能-広告も含めて-
をカバーしている。

「あなたの広告目的は何か?」という問いが、
広告をつくり、あるいはその広告を承認する数多くの
人々に対してなされてきたし、これからもなされる
だろう。たいていの会社はこの問いに対して答えを
用意している。

しかしながら、それらをよく検討してみると、
これらの答えが、広告の特定の目標というよりも、
もっと広い、企業目的あるいはマーケティング目的で
あることが多い。

(同書、P5-6)
------------------------

ここで、ダトカが指摘している点は、
マーケティングの一部にすぎない「広告」が
目的とすべきは、対象とする製品・サービスの

・認知
・関心
・理解
・好意

といった心理的な変化(態度変容)を
起こすことであるべき。

ところが、現実には、
マーケティング全体(広告含む)や、
あるいは企業・事業事態の究極的な目的
であるはずの、

・販売増大
・顧客増加
・市場シェア拡大

などが、広告の「目的」として、

‘間違って’

設定されているということです。


広告もまた、あらゆる他の企業活動と同様、
究極的には「収益貢献」が求められることは
間違いありません。

しかし、だからといって例えば、

「広告の目的は売ることである」

として、広告に対して

「売上目標」

を設定するのは意味がありません。
(ダイレクトレスポンス広告を除く)

なぜ意味がないのか?

それは、「売上目標」は、
最終的な「成果・結果」の良し悪し(到達度)
が判断できるだけにすぎず、

広告の企画・開発・展開・改善

というPDCAのプロセスに対して
ほとんど具体的な示唆を与えないからです。


そもそも、目的を明確化し、
具体的な目標を設定する意義は、
それによって、活動をより効果的・効率的に
改善していくこと。

ドラッカーが提唱した、

「目標による管理(management by objective)」

の真髄はここにあります。

したがって、DAGMARのアプローチによる
広告活動における、望ましい目的は前述した

・認知
・関心
・理解
・好意

といったものであり、
例えば、「認知向上」が目的とするなら、
具体的な目標設定としては、

「認知率」を

10%(現状)→30%(1年後)に引き上げること

といったものとなります。

このように「認知向上」という目的、
そして、こうした目的に基づく目標設定であれば、
実際の広告活動の内容、すなわち

・メディアミックス
・投下量(リーチ&フリークエンシー)
・広告表現

などにおける

問題点の洗い出し(問題仮説立案)

が可能になり、より効果的・効率的な施策へと
内容を改善していくことができます。

一方、ここで「売り上げ増」といった目的を
置いてしまうと、実際の広告活動との関連性が
遠すぎて、具体的な問題点の洗い出しが難しい
ことがおわかりだと思います。


さて、今のマーケティングにおいては、

「広告」

という言葉がもはや「時代遅れ」に感じられるほど、
多様なメディア(ペイドメディア、オウンメディア、
アーンドメディアなど)を通じて、消費者と多様な
コミュニケーションを企業は行なっていますね。

こうした多様なコミュニケーション、
すなわち「マーケティング・コミュニケーション」も
また、究極の目的は「収益貢献」だとしても、
直接の目的として「売上増」などを置くのは、
適切ではないことが多い。

例えば、自社フェイスブックページでの情報発信
の直接目的はどうでしょうか?

「売上増」

としていない(むしろ、そうすべきでない)
企業が多いはずです。


消費者は以前よりもますます、

「企業からのアプローチを受けてすぐに購入する」

ことをしなくなっていますね。

むしろ、様々な情報を積極的に収集し、
人の意見・評価に耳を傾け、比較検討して賢明な選択を
しようとすることが増えている。


このような環境変化において、

マーケティングにおける「広告」、いや

「マーケティング・コミュニケーション」

は、より適切な目的の明確化と目標設定を
踏まえたPDCAをまわす必要があります。

すべてのマーケターにとって、

『新版|目標による広告管理-DAGMAR(ダグマー)の新展開』

を一読してみるのは無駄ではないでしょう。


『新版|目標による広告管理-DAGMAR(ダグマー)の新展開』

*マーケティング効果測定(シナプス・マーケティング・カレッジ)
 http://www.cyber-synapse.com/college/course/mz/

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投稿者 松尾 順 : 10:50 | コメント (0) | トラックバック

インバウンド・マーケティング-ハンターからハーヴェスターへ

「ad:tech tokyo 2012」@東京国際フォーラム
において行なわれた講演、

「インバウンドマーケティング~
 従来型デジタルマーケティング脳を切り替えるためのレッスン」
(株式会社スケダチ 代表取締役 高広伯彦氏)

を聴いてきました。

今回は、高広氏の講演内容に、私の考えも踏まえ、
インバウンドマーケティングとは何かについて
まとめました。(したがって、内容に対する文責は
すべて私にあります)

----------------

「インバウンドマーケティング」の主な特徴は、
私の理解では以下の3点になります。


----------

1 対象顧客を探し出し、「ターゲティング」するのではなく、
  消費者にとって有益なコンテンツを公開し、見つけてもらい
  やすい工夫をして、関心のある消費者に見つけてもらう(get found)

2 近々購買したい人に今すぐの購買を促すだけでなく、
  ちょっと関心がある、情報を集めているだけの人も含め、
  見込み客(lead)との関係性を確立し、育成していく。

3 上記の目的達成のために、ブログ、動画、ソーシャルメディア、
  e-newsletter(メルマガ)、SEM/SEOなど、様々なメディア、ツール
  を整合性、一貫性のある形で統合的に活用する。

----------

高広氏も強調していましたが、
インバウンドマーケティングは、

「全く新しい方法」

というわけではありません。

インバウンドマーケティングの核にあるのは、

「ユーザー視点」

です。

そのルーツ(原点)は、
1999年発刊されベストセラーとなった、
セス・ゴーディンの

「パーミションマーケティング」

に遡ることができると高広氏は指摘します。

同書の中で、セス・ゴーディンは、
マスメディア広告は、
消費者(オーディエンス)の生活に
勝手に割り込んでくる

一方的なコミュニケーション

だから嫌われ、アテンション(注目)を
得られにくいと主張し、まず消費者の

「許可(パーミション)」

を得ることから始めるべきだと説いたのでした。


その後、検索エンジンが普及する中、
Googleのリスティング広告、

「AdWords」

では、サイト閲覧者のクリック率に応じて
表示順位が決定される仕組みが採用されましたが、
これは、消費者の当該広告に対する関心の強さ、
すなわち

「支持率」

によって広告の露出度合いが決定されるものであり、
広告が「企業視点」から「ユーザー視点」へと
移行しつつあることを表すものでした。


また、ブログやソーシャルメディアを通じて、
消費者自らが積極的に情報発信し、
消費者同士のつながりを通じて情報共有が
頻繁に行なわれるようになったことから、
マス広告の影響力は弱まっています。

消費者はもはや、
マス広告にあまり依存することなく、
検索エンジンを活用し能動的に情報収集する
と同時に、ソーシャルメディアでつながっている
友人・知人の情報を頼りに、

購買意思決定

を行なうようになっていますね。


このような歴史的背景を踏まえ、
消費者の購買意思決定の変化に対応する
解決策として提唱されたのが
インバウンドマーケティングです。

企業は、ターゲットオーディエンスに対し
マス広告を通じて一方的にメッセージを送る

「アウトバウンドマーケティング」

だけでなく、

「消費者に役に立つ、喜ばれる情報」

をその道のプロとしての企業が、
様々なメディア・ツール活用して公開し、
またその情報を見つかりやすくしておく。

そうすることで、消費者が、
その情報を必要としたときに

「見つけてもらう」

ようにすることが重要なのです。

このため、インバウンドマーケティングで
最も重視されるツールは、

「ブログ」

なのだそうです。

ブログは更新が容易なため、
最新の情報を手軽にアップできることに
加えて、検索エンジンに引っかかりやすく、
また、ソーシャルメディアなどでの共有も
しやすいというメリットがあるからです。

高広氏は、

「ブログなくしてインバウンドマーケティングなし」

と言い切っていました。


さて、インバウンドマーケティングの場合、
適切なコンテンツを提供する目的が

目先の販売(売上)

にだけ向いているのではないことに、
留意する必要があります。

近年のマーケティング、
特にネットマーケティングでは

ターゲットの絞込み(ターゲティング)

が技術的に容易になったため、
すぐに購入しそうな

「熱い見込み客」(hot prospect)

にばかり注力する傾向が強まっています。

一方で、ある製品・サービスに
ちょっと関心を持っただけ、あるいは
情報収集をしているだけの

「ぬるい見込み客」(warm prospect)

を実質的に切り捨てています。

というか、むしろ、

「ぬるい見込み客」

にまで強引に、
今すぐの購入を勧めてしまう
コミュニケーションをやってしまい、
そっぽを向かれることも起きています。


インバウンドマーケティングでは、
ぬるい見込み客も含め、検索エンジンでの検索結果や、
フェイスブック・ツイッターなどで目に留まった
他者の投稿を通じて、まず自社が提供する

「お役に立てるコンテンツ」

に触れてもらうことを目指します。

そして、さらに価値の高い

「プレミアムコンテンツ」

を提供することで、

見込み客のコンタクト情報(メールアドレス等)

を収集する。

その後は、e-newsletter(メルマガ)などを
活用しながら、見込み客との良好な関係を形成
していきます。

また、既存客をリピーター、ロイヤル顧客へと
育成していくのです。


実は、こうした見込み客からロイヤル顧客への
育成を目的とするアプローチは、

「CRM」(Customer Relationship Management)

と考え方が同じ。

この意味でも、インバウンドマーケティングが
全く新しい方法ではないことがおわかりでしょう。

インバウンドマーケティングは、
私に言わせると、

「検索エンジン、ソーシャルメディア時代のCRM」

とも言い換えることができるのではないかと
思っています。


なお、インバウンドマーケティングは、

「コンテンツマーケティング」

ともアプローチが似ていますね。

しかし、コンテンツマーケティングでは、
必ずしも、見込み客を育成することが目的には
なっていません。

この点が、決定的な違いだと言えます。


高広氏は2012年9月、

株式会社マーケティングエンジン

を設立、インバウンドマーケティングに
関するワンストップサービスの提供を開始しており、
その実行環境として、

「Hubspot」

というツールを取り扱っています。

Hubspotは、

・SEO
・ブログ、ソーシャルメディア
・eメールオートメーション
・マーケティング統合分析

など、インバウンドマーケティングを
統合的に実行できる機能を備えています。

消費者に役に立つ有益なコンテンツを提供し、
そのコンテンツを見つけられやすくする。

また、見込み客を育成するプロセスを
効果的・効率的に実行するためには、
多様なメディア・ツールの活用と施策検証の
ためのデータ分析を含む

PDCA(Plan-Do-Check-Action)

を統合的に行なわなければなりません。

Hubspotは、そうしたインバウンドマーケター
のニーズに応えることができる優れたツールと
いうことで、高広氏は日本市場への導入を
推進しているようです。

私自身、Hubspotはぜひとも使ってみたい
と感じました。


高広氏は、講演の最後に、

「ハンターからハーヴェスターへ」
(from Hunter to Harvester)

という言葉を示しました。

これは、従来のように、
顧客を「狩る」ために狙い撃ちする
(ターゲッティング)のではなく、
有益なコンテンツという土壌を整備し、
そこに見込み客の種をまき、
時間をかけて丹念に育てるアプローチへと
切り替えるべきということです。


私もこの主張には完全に同意します。

狩猟型、短期志向のマーケティングは
もう通用しない時代だからです。

多くの企業が今後、

インバウンドマーケティング

へと舵を切ることは間違いないでしょうし、
私もそうなることを望んでいます。


*株式会社マーケティングエンジン
 http://mktgengine.jp/


(参考文献)

『インバウンド・マーケティング』
(ブライアン・ハリガン、ダーメッシュ・シャア著、すばる舎)

『パーミション・マーケティング』
(セス・ゴーディン著、阪本啓一訳)

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投稿者 松尾 順 : 10:13 | コメント (2) | トラックバック

手間をかけたい欲求

LPレコードが復活のきざし!

今年(2012年)11月以降、
ビートルズをはじめ、往年のロックバンドの
名盤がLPレコードとして再発売される予定で、
反応も上々のようです。

LPレコードが再び人気を集めている背景には、
あえて手間をかけたい欲求があるのではない
でしょうか?

-------------

日経産業新聞(2012/10/12)の記事によれば、
ビートルズの全アルバム12作品と関連作品3作品
が全世界でレコードとして再発売される予定。

高音質なリマスター音源を用い、
アナログならではの特性を引き出すため、
細部までこだわった

「音作り」

が売りのようです。

また、12月には、

・ザ・ローリングストーンズ
・ザ・フー
・レインボー
・エイジア

など70~80年代のロック名盤を中心とする
LPレコードも発売されるとのこと。

こうした往年のロックバンドをリアルタイムで
楽しんでいた年代(私もそうです)にとっては、
思わずワクワクしてしまうんじゃないでしょうか。


日本レコード協会によると、
アナログレコードの国内生産額は2010年に
底を打ち、2011年には前年比2倍の3億3600万円、
生産枚数も21万枚と倍増しています。

DJにとってレコードは、

「スクラッチ音」

を出すための必需品ですが、
DJの市場は限定的ですね。

むしろ、ゲームやアニメファン向けの

「コレクターアイテム」

として発売されているレコードが
若者の心を捉えているようです。

LPレコードの大判ジャケットは、

「芸術作品」

として手に取って楽しめますが、
ジャケットレスの音楽配信に慣れた若者
にとって新鮮に映るのでしょう。

また、これは若者に限りませんが、
自宅でゆったりと好きな音楽を楽しみたいとき、
ジャケットからレコードを取り出して、
ターンテーブルに乗せるという

「手間」

がワクワク感を高めてくれる

「価値ある行為」

になっているのではないかと思います。


「人の欲求(ニーズ)」の分類には
様々なものがありますが、
以下の2種類に分ける考え方があります。

・機能ニーズ
・快楽ニーズ


「機能ニーズ」というのは、端的には

生活上の不便・不満・不平を解消してほしい

という欲求です。

ひとことで言えば

「問題解決」

であり、製品・サービスに求めるのは主に

機能性と効率性

です。

要するに、あまり手間をかけずに
すばやく問題を解決してくれる
製品やサービスを歓迎します。


一方、「快楽ニーズ」は、

快楽や楽しさ、達成感

を得たいという欲求。

エンタテイメント商品、すなわち

「映画」「演劇」「小説」「スポーツ」

や、達成感や成長を実感できる

「学び」

が快楽欲求を充たす商品です。


さて、このニーズの2分類の枠組みで考えると、
ネットでの音楽配信や携帯音楽プレーヤーは、
すばやく、手軽に音楽を聴きたいという

「機能ニーズ」

に対応するものだと言えますね。

そして、

「快楽ニーズ」

に対応するのが、

LPレコード
でしょう。

聴くまでのひと手間がかかり、
手入れも必要だからこそ、

楽しみの時間

が長くなる。

そうなんですよ、快楽ニーズでは、
できるだけ楽しみの時間を引き延ばしたい
のです!

とても面白い小説を読んでいるとき、
いつまでも終わって欲しくないという気持ちが
湧き起こるのは快楽を引き伸ばしたいから。

つまり、快楽ニーズでは

「手間をかけること」

言い換えると、

「わざわざ時間をかけること」

が大事だということです。


山崎正和氏は、

『柔らかい個人主義の誕生-消費社会の美学』

において以下のように述べています。

-------------------------

「人間の消費行動はおよそ効率主義の対極にある
 行動であり、目的の実現よりは実現の過程に
 関心を持つ行動」

「いわば、消費とはものの消耗と再生をその仮りの
 目的としながら、じつは、充実した時間の消耗
 こそを真の目的とする行動だ」

--------------------------

実際には、手間をかけたくない、つまり効率性を
追求するニーズも存在しているわけですが、

手間や無駄

をあえて追求するニーズも並行して存在していることを
私たちマーケターは忘れてはいけません。


(参考文献)

『柔らかい個人主義の誕生-消費社会の美学』
(山崎正和著、中央公論社)

投稿者 松尾 順 : 09:36 | コメント (0) | トラックバック

「アート」と「サイエンス」のハイブリッドアプローチ

私たちは、自分の直感的・感覚的な判断が
しばしば間違っていることもあることを自覚し、
データ分析に基づく科学的な判断を積極的に
取り込む必要があります。

--------------

これまで、当メルマガ&ブログで
しばしば取り上げてきていることですが、
私たちの日々の「判断」の多くは、
直感的・感覚的に行っています。

直感的・感覚的判断は、

・本能的な反応と言えるもの 
 (例えば、危険な動物を見ると恐怖を感じ、
  すぐさま退避行動が取れるのは、ご先祖様から
  引き継いだ本能的な反応)

・経験や知識を通じて学んだもの
 (例えば、警察官など、制服を着た人に対して素直に
  従ってしまうのは、過去に従うことで「安全」が
  確保されるなどメリットが大きかったから)

に大別できます。

上記のどちらにせよ、過去に蓄積された

「経験・知識」

に基づいて現在や未来についての判断を
行なっているのですが、だいたいにおいて
うまくいくのは確かです。
(過去と類似の事象は繰り返し起こるからです)

こうした直感的・感覚的判断は、
できるだけ頭を使わず(思考せず)、
すばやく判断することで、
無駄なエネルギーを使わないように
するために習得した一種の

「アート(技術)」

だと言えるでしょう。

ただ、直感的・感覚的判断にはしばしば

「ゆがみ(バイアス)」

が含まれていることは、

「行動経済学」

などによって検証されてきており、
当メルマガ&ブログでも、
様々なバイアスの例をもろもろ
ご紹介してきました。

個人の日常生活であれば、
直感的・感覚的判断に伴う多少の
バイアスはそれほど大きな問題とは
なりません。
(もちろん、状況によっては騙されて
大損することもありますから、
できるだけ思慮深くありたいものですが)


一方、企業においては、
判断を間違うと、数千万~数億円
(あるいはそれ以上)の損害を出すリスクが
あるにも関わらず、実に多くの企業で、
担当者、あるいは最終決裁者である役員陣による、

直感的・感覚的判断

が下されてきています。

例えば、以前聞いた話ですが、
50~60代の役員陣が、
自社の10代向けの製品やサービスについて
なぜ、自信満々に「歪んだ判断」を下せるのか、
私には不思議でなりません。

「自分の若い頃はこうだったから」

という自分の過去の経験をベースにしている
のだと思いますが、今の若者たちの考え方とは
大きくずれている可能性は考えないのでしょうか?

おそらく、役員陣には、

「自信過剰バイアス」

が働いているのでしょう。

つまり、自分の判断は正しいという
思い込みが強すぎるのです。

非連続な変化があまり起きなかった時代では、
企業の意思決定においても、おおむね経験則で
うまくいってきたことが、根拠のない自信に
つながっているのでしょう・・・


しかし、現在の社会は、
ますます複雑化・高度化しています。

ネットワークによって地域・国を越え、
あらゆる年代、職業の人々がリアルタイムに
つながることができるといった状況は、
これまでのアナログな人間社会とは
全く異なるものです。

人々の意識もすぐには変わりませんが、
徐々に変わりつつある。


幸い、IT化の進展により、
人々の意識、行動についてのデータは
ふんだんに入手できます。

また、膨大なデータ=ビッグデータを
迅速に分析するツールも日々進化しています。

したがって、少なくとも企業においては、
よりデータを活用した科学的アプローチ
すなわち

「サイエンス」

を重視しなければならないと言えますね。

もちろん、直感的・感覚的判断、
すなわち

「アート」

も軽んじてはいけません。


アートとサイエンスをうまく融合した

ハイブリッドなアプローチ

が企業における意思決定には
ますます求められているのではないでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

ネットツールと「自己呈示・自己開示」

自分のことを他者に伝える場合の方法を
その「目的」で分けると大きく2種類あります。

「自己呈示」と「自己開示」です。

ネットツールはこの2つの方法に応じて
今後は明確に使い分けられていくことになる
でしょう。

-------------

「自己呈示」とは、わかりやすく言えば、
伝える相手に対して自分をより良く見せる、
また好感度を高めることを目的とする
コミュニケーション。

いわゆる

「プレゼンテーション」

は自己呈示の方法のひとつです。

昨今、よく言われる

「セルフブランディング(あるいは、
 パーソナルブランディング)」

は「自己呈示」を積極的に行なうことですね。


一方、「自己開示」とは、相手に対して、
自分の感情や意見をありのまま伝えることを
目的とするもの。

自分が信じる宗教における神や聖なる存在に
対して罪の告白をする

「ざんげ」

は、自己開示の最も極端な例だと言えます。

「自己開示」は、ざんげまで行かずとも、
相手に対して気持ちを素直に吐露することで、
相手との親密感を高めることができます。

また、つらい思いを持っているなら、
それを吐き出してしまうことを通じた

「癒し」(要するに「すっきりする」)

の効果もあります。


さて、ここ数年で急速に普及した
フェイスブックやツイッターといったSNSは、

・自己呈示
・自己開示

のどちらに適したコミュニケーションツール
でしょうか。

アカウントを開設したばかりで、
とても親密な数人程度だけとつながっているだけ、
あるいはクローズドな設定にしてあるなら、

「自己開示」

のためのツールとして活用できますね。

ようするに、

「ぶっちゃけトーク」

ができるわけです。


ところが、公開設定をしているツイッターや、
またフェイスブックでは、それほど親しくない人たち
ともつながることが増え、

「特定少数」

から、

「特定多数」

あるいは、

「不特定多数」

へとつながる人々が増加した場合、
もはや

「自己開示」

は非常に難しいものとなります。


ぶっちゃけトークが全くできないわけでは
ないけれど、一歩間違うと

「炎上」

のリスクを抱えているからです。


したがって、基本公開設定であり、
特定多数の友だちやフォロワーを有している
フェイスブック、ツイッターユーザーは、

「自己呈示」

を主体とする投稿にならざるを得ません。

つまり、自分の投稿を見ている人々に対して、
自分の印象を良くする、あるいは
少なくともネガティブな印象を与えないように
配慮しながら言葉や内容を選らばなければならない。

・休日に遊びに行きました
・レストランでディナーを楽しみました

なんて気軽な内容でも、
行き過ぎると、嫉妬する人がいるかもしれない。

昨今言われる「SNS疲れ」と言われる現象も、
別に、つながっていること自体が負担なのではなく、
自分の投稿が相手にどんな印象を与えるだろうか、
ということを常に考え、言葉や内容を選ばなければ
ならないことから来るのだと思います。

また、相手の投稿に対しての反応、
すなわち

・「いいね」をポチるかどうか
・「コメント」をするかどうか

も「自己呈示」の1種ですが、
これも結構気を遣いますよね。

確かにちょっと疲れる・・・(笑)


「自己呈示」は要するに

「見せたい自分」

をフェイスブックやツイッターという

「ステージ」

で演じているようなものです。

たまには楽屋に戻って素顔に戻り、

「あーやってらんねーな・・・」

などとつぶやいてみたいもの。


まあ、ツイッターへの投稿はそもそも

「つぶやき」

と言われるように、自己開示的な投稿がある
程度許容されてきましたが、近年はユーザー数
の増加により、数年前と比較すると、やはり

「自己開示」

はやりにくくなっています。


このところ、スマートフォンで利用できる

「LINE」

の利用者が急成長していること、
また、恋人同士2人だけで利用できる
アプリ

「Pairly(ペアリー)」

の人気が高まっているのも、
親密な相手とだけとクローズドなやりとりが
できるから。

もはやフェイスブック、ツイッターでは
やりにくい

ぶっちゃけトーク=「自己開示」

が存分にできるからでしょう。


社会において多様な人々と関わりながら
生きる私たちは、

・自己呈示
・自己開示

の両方を必要とします。

したがって今後、
フェイスブックやツイッターは基本的に

「自己呈示」

に適したネットツールとして活用し、
一方、「LINE」や「Pairly」のようなアプリは、

「自己開示」

のネットとして活用する。

このような、目的に応じたツールの使い分けが
明確になっていくものと思われます。
(逆に言えば、この使い分けを意識しないと、
「炎上」するリスクが高まるということです)

投稿者 松尾 順 : 10:09 | コメント (0) | トラックバック

「信じたい心」と「懐疑の精神」

これまで、私たちは

「人を信じること」

が「生き残り」に有利であったことから、
基本的に

「人を信じたい」

という強い欲求を生まれながらに
持っています。

しかし、ITの進展などによって、
極めて多くの数の人々とつながるように
なった今、適度な「懐疑の精神」を
意識的に養うことが、生き残りにますます
必要になっています。

------------

人類の歴史は400-500万年程度と言われていますが、
農耕が始まり、食料が安定して確保できるように
なったのは1万年前ほどから。

この食料の安定確保によって一定の地域での定住が
可能となり、ひとつの社会(集団)の人口は、
加速度的に増加していきます。

しかし農耕開始以前に400-500万年も続いた

「狩猟採集生活」

は、要するに「その日暮らし」です。

常に食料(獲物)を求めて移動せざるを得ない
状況でした。

したがって、ひとつの社会(集団)として
維持できる構成員数は、100人程度だったと
考えられています。

100人程度と言えば、オフィスが一箇所の
会社であれば、全員の顔と名前、そして
ある程度はそれぞれの性格などもわかる
人数ですね。

私たちの祖先は、
そんな100名ほどの小集団を形成し、
お互いに助け合って厳しい自然環境
を生き延びてきたのです。


さて、こうした小集団に属する個人において
まず必要とされることは、

「人を信じること」

でした。

なぜなら、人が教えてくれる、
あるいは言い伝えや噂などとして聞く、

・このきのこは食べてはいけない(食べて死んだ人がいるから)
・あの谷には行ってはいけない(行方不明になる者が多いから)
・けがをしたらこの草を治療に使うとよい(効果があったから)

などといった話は、基本的に疑いを持たず
言われた通り信じることで難を逃れることができ、
生き残りに有利であったからです。


もちろん、「オオカミ少年」のように
嘘をついたり、騙す者もいました。

しかし、そうした人間は、

「信用できないやつ」

として誰も相手にしてくれなくなるため、
じきに淘汰されてしまう。

ですから、ともあれ人の言葉(および行動)を
信じていれば、おおむね間違いないということを
私たちは、数百年万年の間に学習してきたわけです。


ちなみに、「信じる」ということは、
言い換えると、人の言葉や行動を

「真似する」

ということでもありますね。

したがって、

『影響力の武器』

において、「説得テクニック」のひとつ
として挙げられている

「社会的証明の原理」
(人の行動を参照して意思決定すること)

の根底には、

「人を信じたい」

という欲求があるといえるでしょう。


ただ、農耕が始まった1万年前以降、
私たちの社会の構成員数は、

数千、数万、数十万、数百万、数千万

と増加し続けてきた。

これだけの数となると、
もはや、お互いの顔も名前も性格も
わからない人がほとんどです。

しかも、ITネットワーク社会の今、
そうした知らない人々の言動や噂が
情報として日々、山ほど入ってきます。

その中には、当然ながら相手を騙す、
陥れることを目的とした情報も多数含まれている
ことは言うまでもありません。
(しかも、匿名性が高いため、万が一ばれても
 当人が罰せられる可能性は低く、なかなか
 淘汰されない)


ですから、人の言葉や噂などをむやみに
信じることは、逆に自分の状況を危うくして
しまう可能性が高くなっていると言えるでしょう。

ところが、私たちは数百万年かけて学習し、
本能と言えるほど体に染み付いてしまった

「人を信じること」

を止めることはなかなかできないようです。

結果的に、身近なところで言えば、

「振り込め詐欺」

のような事件がいつまでたっても
沈静化することがない。

また、昨今の中国での反日デモ等についても、
煽りたがるマスコミ報道を安易に信じてしまい、
感情的になっている人も多い。


お互いを信じあえることは、
実に幸せなことではあります。

しかし、同時に、

「本当に信じていいのだろうか」
「何か裏はないのだろうか」
「他の視点から見たらどうだろうか」

などと、頭の片隅でちょっとだけ
疑ってみることが求められています。

すなわち、健全な


「懐疑の精神」

を意識的に身につけるべきなのです。


ただ、疑いの心を持つことは、
私たちの社会においては基本的に
タブーです。

したがって、積極的に疑う習慣をつける
ことに対して抵抗感があります。

欧米では、

「クリティカル・シンキング」

と呼ばれる思考法が重視されているのは
ご存知かと思います。

これは、情報を丸呑みするのではなく、

・客観的
・批判的(「否定的」ではない点注意!)
・論理的

に情報を解釈することによって、

「(健全な)懐疑の精神」

を養うトレーニングがある程度できています。

しかし、日本ではまだまだの状況ですね。


世界中の人々がインターネットで結ばれ、
多種多様な人々の玉石混交の情報であふれる今、

「懐疑の精神」

を養う必要性は、
ますます高まっているのではないでしょうか?


『影響力の武器-なぜ、人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会、誠信書房)

『ひとはなぜだまされるのか』
(石川幹人著、講談社)

投稿者 松尾 順 : 12:31 | コメント (0) | トラックバック

ショールーミング&アマゾンチェック対策

売り手にとって今、
最も悩ましいネットの消費者行動は2つあります。
(現実には、両者を組み合わせたものになることが多いのですが)

ひとつは、リアル店舗で品定めだけして、
購入はオンラインで行なう「ショールーミング」。

もうひとつは、通販カタログや様々なECサイトの
セール品を衝動買いするのではなく、アマゾンなどで
同一品・同等品の価格を比較して、最安値のサイトで
購入する「アマゾンチェック」です。


「ショールーミング」は、
リアル店舗において悩みの種。

しかも、スマホの浸透により、店頭でさらに簡単に
オンライン価格を調べることができるようになったので、

「ショールーミング」

はますます加速することが予測できます。


リアル店舗では、地代・家賃、光熱費、人件費など、
ネットと比較しても多額の維持運営費が必要です。

したがって、ネットほどの「安値」を打ち出すことは
なかなか難しい。店頭価格をネット価格に無理やり
合わせるお店もあるようですが、利益を削るだけの話。

また、「ポイントカード」が、
ショールーミング対策のひとつとして採用が
推奨されているようですが、ネットでも類似の
ロイヤルティプログラムをやっていれば、
あまり効果ありませんね。

現状、リアル店舗において有効なショールーミング対策は、

・オリジナル商品(プライベートブランド)開発
・既存商品のコーディネート、カスタマイズ提案
・接客サービスの向上

といったことになるかと思います。


一方で、

「アマゾンチェック」
(私が勝手にそう名づけました)

は、リアル店舗に加えて、
カタログ通販、テレビ通販、ECサイトなどに
とっても悩ましい行動です。

私もつい最近、ある通販カタログでいいなと思った
商品があり、購入しようしたんですが・・・

「ちょっとまてよ、いちおうアマゾンで同一品が
 あるかもしれないから調べてみよう!」

とブラウザーを立ち上げたら、
やっぱり同一商品が見つかりました。

しかも、カタログ価格よりも1,000円も安かった。

送料も無料となれば、カタログ通販を利用するような
アホなことは誰もしないでしょう。


なお、「アマゾンチェック」といっても、
実際には、商品カテゴリーによっては
アマゾンだけでなく、楽天、そしてカカクコム
なども当然チェックするわけです。

要するに、もはや「安い(かも)」と思わせて
衝動買いさせるのはますます難しくなっており、

「同じ商品なら安いほうがいい」

とネットを調べまくる消費者を売り手は相手に
しなければいけないのです。

では、アマゾンチェック対策はどうしたらいいのか
ということですが、やはりショールーミング対策と同様、

・オリジナル商品(プライベートブランド)開発
・既存商品のコーディネート、カスタマイズ提案

に取り組むことでしょう。

昔のように、問屋から商品を仕入れて並べるだけの
安易な小売商売はできなくなったということです。


なお、ECサイトについて補足すると、
リアル店舗では可能な、

・接客サービスの向上

が実質的にはできません。
(ヴァーチャルにはある程度可能だけれど)

したがって、別の方法でのECサイトの「利用体験」、
すなわち

「ユーザーエクスペリエンス」

の充実がポイントになってくるように思います。

では、具体的にどうすればいいのか、
なかなか即答は難しいですが、
大事なのは、

「楽しい気分」や「ワクワクする気分」

にさせることでしょう。

感情的に高揚すると、
多少の価格差は気にならなくなる。
つまり、財布のひもがゆるむのです。


リアル店舗の例になりますが、

「ドン・キホーテ」

の店内を見て回るのは、
楽しく、ワクワクする気分をもたらして
くれるものです。

そして、欲しい商品を見つけて、

「ネットでも購入できるかも?」

と思っても、ついついその場で
購入してしまう。

それは、ドンキが

「楽しいユーザーエクスペリエンス」

を店舗で提供できているから。


アマゾンチェックにやられないためには、
ECサイトでも、ドンキのような

「楽しいユーザーエクスペリエンス」

をオンラインでどうやって実現するか、
とことん頭を絞らなければなりません。

投稿者 松尾 順 : 10:55 | コメント (0) | トラックバック

高まる「色」のカスタマイゼーションニーズ

なにか製品を購入するとき、
自分の「好きな色」が選べるのはうれしいもの。

ガラケー・スマホ、デジカメ、ノートPCなどでは、
カラーバリエーションが豊富な機種も多く、
選ぶ楽しさがありますね。

従来、カラーバリエーションは、
競合製品との機能的な違いを生み出しにくい状況に
おいて、差別化戦略の最後の切り札的に展開されて
きました。

しかし、現在ではむしろ、

「自分らしさを表現したい」

という消費者のニーズに対応するための

「マイナーなカスタマイゼーション」

の手法として採用されています。


さて、比較的小型の「デジタル機器・端末」の
カラーバリエーションが豊富になってきた一方で、
いわゆる、

「家電品」

については、従来とさほど変化がありません。

とりわけ「白物家電」と呼ばれている、
冷蔵庫や洗濯機などの大型家電品はその名の通り、

「白色」

が基本ですね。

カラーバリエーションが提供されているのは、
ほんの一握りのブランドのみです。


なぜ、大型家電でカラーバリエーションが
提供されないのかという理由については、

・購入者の多くは、実際には「白色」を選ぶから。

・カラーバリエーションを増やすと流通在庫が
 膨らみ、売れ残りリスクが高くなる。
 (他の家電品やデジタル機器以上に)

という現実があります。

このため、白以外の色を選択したいという少数派は、
ガマンするしかなかったわけです。

というのも、大型家電は容量や重量など、
機能・性能などの「仕様面」において、


「自分のニーズ」(家族数など)

に合うことが最優先であり、
「色」は後回しにせざるを得ないからです。


ところが、こうした少数派のニーズに応える
サービスが浸透する兆しがあります。

ビックカメラ新宿東口店では、
購入する冷蔵庫のドアなどの表面に、
カラーフィルムを貼って自分の好きな色や柄の
家電に仕立て上げる

「オーダーカラー家電サービス」

を今年(2012年)から開始しています。

まだ始めたばかりでそれほど実績はないようですが、
他店をさんざん探して思うようなものがない客が
噂を聞きつけて足を運ぶなど、認知度が少しずつ
高まりつつあるとのこと。


また、香川県の

「リビングカラーズ」
(サイト名は、「ラシックカラーズ」)
 http://rashic.jp/com.html

では、冷蔵庫の塗装サービスを提供しています。

家電量販店などで購入した冷蔵庫を同社に送ると、
1台丸ごと好きな色に塗装してくれるというもの。

塗装料金は10万円前後の冷蔵庫の場合で

約8万円

と決して安いものではありません。

それでも、ホームページに問い合わせた客のうち、
約2割が注文に至り、月間20台ほどの注文がある
とのこと。

注文の絶対数としては少ないとはいえ、
本体価格に匹敵する塗装料金を支払っても、
自分好みの色に冷蔵庫を仕上げたいという顧客が
相当数存在しているというのはちょっと驚きでは
ないでしょうか?

同社に塗装を依頼する顧客は、
デザイン性の高い、(高額な)海外製の冷蔵庫を
検討していることが多いということですから、
多くは「富裕層」の人々なのかもしれませんね。


基本的に、日本の家電メーカーは、
生産・販売効率を重視し、

「良いものをより安く」

という発想が強いため、消費者に対し、
「色」を始めとして選択肢をあまり与えない
戦略を採用してきました。


しかし、今後ますます高まると思われる、

「自分らしさ実現ニーズ」

とでも呼べるものに対応するため、
生産・販売効率を犠牲にしたり、在庫リスクを
高めないようにしつつ、カラーバリエーションを
を始めとする、

「マスカスタマイゼーション」

を実現する方法を見つける必要があるのでは
ないでしょうか?


*ビックカメラ、およびリビングカラーズのケースは、
 『日経デザイン』(September 2012)から引用しました。

投稿者 松尾 順 : 09:33 | コメント (0) | トラックバック

オフィスグリコに見る「バラエティ・シーキング」

オフィスにお菓子の入ったボックスを置き、
「富山の薬売り」方式で販売する

「オフィスグリコ」

の成功の最大の要因は、

「オフィスでも、堂々とお菓子が食べたい」

という潜在ニーズに応えたことにあります。


基本的に日本企業では、
お客さんや出張帰りの同僚が買ってくる時折の
お土産を除き、仕事中にお菓子を食べるのは

「タブー」

というか、あまり好ましくないという空気があります。
(ベンチャー企業とかではその限りではないですが)

なので、私なども、会社勤めのころは、
机の引き出しなどに隠して、こっそりと口に
入れていたものです。


そこで、オフィスグリコでは、

「お菓子はリフレッシュに役立つ」

というメリットを強調し、
お茶を飲んで一休みできるオフィス内の
リフレッシュスペースに置いてもらうことを
狙ったのだそうです。

オフィスグリコのボックスは、
会社が承認して設置してあるもの。

すなわち、ある意味「会社公認」ですから、
女性も男性も、遠慮なくオフィスで毎日お菓子を
口にすることができるようになったわけです。

さて、もうひとつ、成功要因として面白いのが、
ホームセンターでみかけるような小型の透明の箱、

「リフレッシュボックス」

にお菓子を入れた点です。

このボックスには3つの棚があり、
それぞれ8個づつ計24個のお菓子が
入っています。

そして、売れ残りがあっても、
中身を3週間かけて総入れ替えすること
になっています。


素人考えでは、「自動販売機」にしてしまえば、
代金の回収の問題もなくなるし、それほど頻繁に
商品を入れ替えなくて済み、コストが下がるのでは?
と考えてしまいます。

しかし、実際には、

「頻繁に商品を入れ替えること」

が成功の鍵なのです。

というのも、低価格の食品の購入において
しばしば観察されるのですが、いつも同じもの
ではなく、気分に応じていろんなブランドや、
異なるフレーバーを楽しみたいという、

「バラエティ・シーキング」

を消費者が行なうからです。

「バラエティ・シーキング」は、
例えば、カップヌードルを食べるとき、
いつも定番の「しょうゆ味」だけを選ぶのではなく、
たまには気分を変えて「カレー」や「しお」を
選ぶようなこと。


オフィスグリコの担当者によれば、
お菓子の自動販売機は、多くの人が行き交う、
ボーリング場や高速道路のサービスエリアなど
では成立するそうです。
(鉄道の駅構内にもよく見かけますね)

しかし、いつも決まった人が利用するオフィスでは
すぐに売れなくなる。商品の種類(バラエティ)が
固定的なためです。


そこで、オフィスグリコでは、
代金の回収も兼ね、毎週お菓子を入れ替ていく
仕組みとした。しかも、グリコの商品だけでなく、
他社商品も積極的に取り揃えて多様性を確保している。

こうして、オフィスグリコ利用者の「飽き」を防ぎ、
継続的な売上を確保しているというわけです。


*当記事は、以下の記事を参考にしました。

・オフィスグリコ、ヒントは富山の薬売りじゃないです
 相川昌也 江崎グリコ オフィスグリコ推進部部長(前篇)
 (日経ビジネスオンライン)

・オフィスグリコ、「カエルの集金箱」の秘密
 相川昌也 江崎グリコ オフィスグリコ推進部部長(前篇)
 (日経ビジネスオンライン)


<主催セミナーのご紹介>

●早わかり!『消費者行動論』エッセンス(9月26日)

●深堀り!『影響力の武器』エッセンス(9月12日)

●早分かり!『行動経済学エッセンス』(8月29日) 

           ------------

●英語で学ぶ「ベーシック・マーケティング」(8月26日)

投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (0) | トラックバック

黒目美人は魅力的?

黒目が大きく見える、チバビジョン社の
カラーコンタクトレンズ(通称:カラコン)、

「フレッシュルック デイリーズ イルミネート」

のテレビコマーシャルが現在流れてますね。
 ↓
*TVCM:イルミネート 気づいてほしいの篇
 http://www.freshlook.jp/cm/

チバビジョン社では、2010年にイルミネートの
「ジェットブラック」を発売。今年(2012年)1月には、
同「リッチブラウン」が新発売されています。

テレビコマーシャルは、この新製品を併せ、

「黒目拡大機能」

を持つカラーコンタクトレンズ市場を
さらに拡大させようという狙いでしょう。


黒目拡大機能を持つ「カラコン」は、
周縁部にのみ色がついているため「リングタイプ」
と呼ばれています。

チバビジョン社のニュースリリースを見ると、
コンタクトレンズ市場は、全体では前年対比3.8%減と
マイナス成長。

ところが、リングタイプは、
“瞳を大きく印象的に見せたい”女性の支持を得て、
全体対比13.7%と拡大の一途にあるとのこと。

競合商品として有名な、
ジョンソン・エンド・ジョンソン社の

「アキュビュー ディファイン」

はどうなんだろうとWebサイトに行ってみたら、この4月には

「欠品についてのお詫び」
「一部販売休止の知らせとお詫び」

というリリースが立て続けに流されてており、
リングタイプに対して世界的にも需要が急増していて、
生産が追いつかない状況があることがうかがえます。


さて、なぜ女性は「黒目美人」を目指すのでしょうか?

以前もブログでご紹介しましたが、女性が黒目を
大きく見せたいのは、無意識的に(あるいは意識的にも?)、
男性に対するアピール力を高めるためだと考えられています。


人は、好きなもの、関心があるものを見ると、
黒目が拡大する傾向があります。

また男性は、黒目の大きい女性をより好むことが
実験からわかっています。

したがって、黒目が大きい女性から見つめられると、
魅力的に感じられるだけでなく、

「オレに気があるのかも・・・」

とバカな勘違いをしやすくなるのです。

こうして寄ってきた男性の中から、
女性が意中の男性を選択するわけですよ。

つまり、つきあう男性の選択肢を増やすための
工夫のひとつが「黒目拡大」なんですね。


婚活ブームがまだまだ衰えぬきざしを見せない日本。

女性は、骨身を惜しまぬ努力を重ねてますます魅力的に
なっていくようですが、男性もがんばらないとですね!


ただ、ここまで黒目がちに見せるのはやりすぎ!
 ↓
*直径22ミリ!黒目がちすぎる黒目コンタクトレンズが呪怨レベル

(関連記事)ベラドンナ
http://www.mindreading.jp/blog/archives/200611/2006-11-13T2356.html

投稿者 松尾 順 : 09:41 | コメント (0) | トラックバック

眼前に姿を現した巨大な「鏡衆(きょうしゅう)」

電通消費者研究センターが2007年に実施した

「電通・新大衆調査」

の結果から浮かび上がってきた新たな消費者像は、

「鏡衆(きょうしゅう)」

と命名されていました。


「鏡衆」とは、

・人からの影響をうまく受け取りながら
・鏡のようにレスポンス&発信していく共振力を持つ人々

であり、「共振型消費者」とも表現されていました。


ここで「共振力」とは、「クチコミ発信力」とも
言い換えることができます。

すなわち、他者の情報に感心や感動、あるいは共感したら、
その情報を鏡のように自らも再発信し、他者にも伝えようと
する能力(意欲)が「共振力」です。


当調査によれば、鏡衆=鏡新型消費者が全体に占める割合は、
43%と、半数近くに達するボリューム層になっていました。

一方、「他者からの影響は受けないが、うまくレスポンス&
発信することはしている」という人々は36%でした。彼らは、
「私こだわり消費者」と表現されており、自分なりの選択眼
で判断することを大切にしている人々です。


この調査結果からわかるように、現代は、
「個性を活かす時代、自分らしさの時代」と言われながらも、
実際には、他者と共通点を探し、共有できる「モノ・コト」
を楽しみたいという欲求の高まりがうかがえます。


この「鏡衆」という言葉は、2007年当時もそれほど注目された
わけではなく、現時点ではほとんど忘れ去られた言葉に
なっています。


2007年当時は、ツイッター、フェイスブックの本格普及以前。

共振力を発揮していたのは一握りのブロガーであり、
レビューサイトで積極的に自らの評価を投稿する
やはり一握りのレビューワーに過ぎなかった。

また、当時ソーシャルメディアの雄として絶好調だった
mixiは、基本的にクローズドな仕組みであったため、
拡散力に欠けていました。

つまり、「鏡衆」という概念そのものに対しては納得できても、
その具体的な影響力を実感することは、当時はまだ困難だった
と思われます。

しかし、日本のフェイスブックユーザー、ツイッターユーザー
がどちらも1千万人を突破した今、多くの人々が「共振力」を
容易に行使できるようになっています。

とりわけ、フェイスブックの「いいね」ボタンは、共感という
レスポンスを、そして「シェア」ボタンは、「(再)発信」を
誰もが簡単に行なえる機能です。

フェイスブックユーザーの方には言うまでもないことですが、
日々、ウォールの投稿に対して、多くの「共振」を繰り返して
いますよね。


つまり、「共振型消費者」=鏡衆はついに眼前に
その巨大な姿を現したと言えます。

マーケターとしては、「共振型消費者」の特性を深く理解し、
彼らに対してどのような「ネタ(情報)」を提供すれば、
大きく共振してもらえるか、をとことん考える必要があるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 10:32 | コメント (0) | トラックバック

寄付文化は日本に根づくか?

うかつにも今日まで知らなかったのですが、
昨年(2010年)末に、日本初となる

『寄付白書 2010 - GIVING JAPAN2010』
(日本ファンドレイジング協会)

が発行されていたんですね。

ネットでちょっと調べてみました。

同白書では、日本の寄付とボランティアの全体像を
把握するために、大規模な全国調査を実施した結果が
まとめられているようです。

それで、日本全体の年間寄付額についてみると、
総額で1兆円強でした。内訳としては、

・個人寄付:5500億円
・法人寄付:4900億円

となっています。


さらに、上記の明確な寄付行為以外に、
個人が「会費」として年間3700億円余りを
払っています。

私自身も数年前から、
アジアの途上国を支援する某NPOの会員になり、
わずかな会費を出していますが。

こうした会費も、実質的な寄付行為とみなすことが
できるでしょうから、日本人は知られざるところで
結構寄付を行なっているということですね。

たまたまメディアで取り上げられて、
注目を集めることになった「伊達直人を名乗る人たち」
ばかりほめていてはだめなんです。(笑)


まあ、日本人もそれなりに寄付をしていたとはいえ、
個人寄付については、米国のわずか40分の1の規模だそうです。
(米国の個人寄付には一部資産家の莫大な寄付が
 含まれているでしょうけど)

人口比を考えても、日本人の寄付額は圧倒的に少ないですね。
もちろん、だからと言って米国と同じ水準を目指すべき、
という競争的な発想はしたくないですけど。


さて、「平等意識」が比較的強い日本の文化の
視点からみると、日本人は相対的に「寄付行為」が
苦手だと思います。

お互いに助け合うということはOKでも、
あからさまな「寄付」は、心理的な上下関係を
生み出してしまうからです。

古くからそれほど明確な社会階級が存在しなかった
日本では、「一方的な慈恵行為」は、するほうも、
されるほうもあまり好きではない。

一方、欧米の階級意識はかなり根強いものがあります。

「ノブレス・オブリージュ」
(貴族などの、地位や財力、権力の高い者は、
 社会に対して相応の責任を果たすべきという考え方)

という言葉があるように、自分よりも下位のものに
恵むことは当然という考えが根底にあるようです。

また、寄付をすることは、
彼・彼女の自尊心を高めることでもあるのです。

以前、某日本人が書いたエッセイに書かれていたのですが、
外国人の知り合いが、街中でお金を乞うているホームレス
の人などに気軽に小銭を渡しているのを見て

「どうしてそうしたことをするの?」

と聴いたら、

「だって、気分がいいじゃないか!」

と応えたというのです。

この回答には、「見下している」とまでは
言いませんがちょっとした「優越意識」が感じられますよね。

私たち日本人には、なかなか理解しにくい
感覚ではないでしょうか。

日本人の寄付が欧米に比べて圧倒的に少ないのは
このあたりに起因するところがありそうです。


ただ、逆に言えば、伊達直人現象に見られたように、
寄付者が誰かがわからなければ抵抗がないわけですから、
インターネットなどを通じて、気軽に、ひそかに寄付が
できる環境が整いつつある今後は、日本人の寄付行為も
さらに増加していくことにはなるかと思います。


*日本ファンドレイジング協会 Webサイト
http://jfra.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:15 | コメント (0) | トラックバック

コミュニケーションは'BIG WHY'から始めよ!

『Start with Why: Hwo Great Leaders Inspire Everyone to Take Action』

の著者、Simon Kinek(サイモン・キネック)氏が、

「TED(Technology Entertainmet Design)Conference」

で行なった講演の動画をご覧になったことがありますか?

キネック氏の話は、まさにInspiring(示唆に富む)もの。
大変面白く、かつわかりやすくので必見ですよ。


さて、彼は、スティーブ・ジョブズや、
マーティン・ルーサー・キングといった
偉大なリーダーたちはまず、

「Why(なぜ)から語っている」

と述べています。

そして、Whyを実現するために

・How(どうやって)
・What(何をするか)

という順序で話を進めるのです。

つまり、偉大なリーダーは常に、
次のような順序で語っているのです。

Why ⇒ How ⇒ What

実際、スティーブ・ジョブズは、

「私たちのライフスタイルに革命を起こす」

という'Why'を印象的に語った上で、

・美しくデザインされて使いやすい(How)
・iPod、iPhone、iPadといった製品を(what)世に送り出す

と続けることで、人々の熱狂と共感を起こすことに
成功していますし、結果として同社製品は世界中を
席巻していますね。


一方、世の中に出回っている多くのメッセージを
見てみると、'What'から始まっていることがほとんど。

・こんな製品を出します(What)
・これはこんな設計に基づいています(how)

しかも、なぜ、その製品、あるいは企業が、
世の中に存在する価値・意義があるのか=Whyまで
きちんと語られていることがありません。

モノが欠乏していた時代ならともかく、
現代は、'What'から語り始めても人の興味・関心を呼び、
また、購買意欲を喚起させることはできないのです。


企業のコミュニケーションは、
「Whyを語ること」から始めなければなりません。

それは、企業や製品の社会における存在価値・意義
をまず相手に理解してもらうことです。

なぜなら、人々はもはや、'Why'が明確でない企業、製品
を受け入れてくれないからです。


ただし、キネック氏の主張に補足させてもらいたい
のですが、単なる'Why'では駄目だということ。

'Big Why'であることが望ましいということを強調したい。


'Big Why'とは、一個人の生活を超えて、
地域全体、あるいは国全体、世界全体、さらには
宇宙全体に変革・革命を起こすというレベルまで
'Why'のレベルを高めたもの。

まあ、「宇宙全体」は多少オオゲサとしても、実際、

世界全体の大問題=グローバル・ビッグ・イシュー
(地球温暖化、熱帯雨林の消失、旱魃・飢饉等)

を企業経営の主軸に沿え、これらの解決に寄与すること(Why)
を最初にメッセージとして前面に出しているグローバル企業
が増えつつあるのです。


フィリップ・コトラーの『マーケティング3.0』では、
マーケティングの目的の変遷を次のように示しています。

マーケティング1.0:製品を販売すること
マーケティング2.0:消費者を満足させ、保持すること
マーケティング3.0:世界をより良い場所にすること

マーケティング3.0でもやはり、

'Big Why'
を目的に据えなければならないとしているのですね。


あなたの会社・商品は、'Big Why'から語っていますか


TED Conference:
Simon Sinek: How great leaders inspire action

投稿者 松尾 順 : 13:23 | コメント (0) | トラックバック

ソーシャルネットワークと共感力

女性の高い共感力は、近代よりもはるかに長く続いた
原始・狩猟採集時代に培われたと言われています。

男性が狩りに行っている間、女性たちは集落に残り、
近くの木の実を拾ったり、家事・育児をやったりといった
仕事を協力しあってやっていました。

こうした毎日では、女性同士は極めて密接な関係性が
あり、濃密なコミュニケーションが要求されるため、
相手の表情、言葉遣い、態度などから相手の気持ちを
的確に推測する力=共感力が高まったのです。

ちなみに、共感力に加え、原始時代の生活が影響している
と考えられ、今も根強く見られる女性固有の心理としては
以下のようなものがあります。

・つながっていたい
・ステイタスの差を最小限にしたい
・感情や弱みをみせる
・話すことで他者とつながる
・他者を助けることで自分の力を感じる
・協力のほうが楽しい
 
(出所:『女性のこころをつかむマーケティング』)

さて、女性の社会進出、すなわち、男性文化が根強い
企業で、女性が男性に伍していこうとする中で、女性の
共感性が低下していく可能性があるでしょう。
なぜなら、企業社会では、女性が本来好まない、

「競争」的発想をどうしても意識しなければならず、
共感性が高すぎると、競争を回避してしまいたく
なってしまうからです。

しかし、一方で、ソーシャルネットワークの浸透によって、
女性、そして男性の全般的な共感力を高めることに
つながる可能性があります。

ソーシャルネットワークは、そこでうまくやっていくためには
高い共感力を必要とします。お互いに認め合う、相手の気持
ちをわかりあうということができないと孤立してしまう。

孤立するのであれば、ソーシャルネットワークに所属している
意味がありません。

しかも、抽象性の高い「言語」主体のコミュニケーションから
相手の心理を的確に読まなければならない。これは相当負荷
の高い共感力養成トレーニングになるのです。
(ですから、すっかり疲れて果ててしまったり、十分な共感力が
 身に付かず、ソーシャルネットワークから離脱してしまう人も
出てきます)

というわけで、全般的に言えば、ソーシャルネットワークの浸透
により、私たちはますます高度な「共感社会」に向かっていると
言えるのではないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 17:09 | コメント (0) | トラックバック

フェイスブックの浸透を加速させるのは「疎外感回避」

このところ、昔の職場の元同僚たちと、
数年ぶりにフェイスブック(以下「FB」)上で
芋づる式に‘再会’し、

「同窓会でもやりましょう!」

という話が進んでいます。

皆さんの間でもこんなこと起きてませんか?

FBのメッセージ機能、イベント機能を使って、
日時・場所を簡単にすり合わせできるので便利ですね。


さて私は、FBは日本でも急速に浸透すると確信していますが、
それは、たくさんの人とつながることができて、また、
便利な機能が使えるといったポジティブな理由からだけでは
ないと感じています。


FBをやっていないと、FB上だけでなく、
リアルな状況でも自分だけ仲間はずれにされるかもしれない。

そんなネガティブな「疎外感」を回避するために、
(意識的にも無意識的にも)皆始めざるを得ないと
感じています。

こんな疎外感は従来のSNSでは、
たぶんほとんど感じることがないですよね。

‘君、mixiやってないの?’

‘君、FBやってないの?’

では重みが違う。

基本的に匿名ベースであり、ヴァーチャルな付き合いが
多い従来のSNSでは、リアルとある意味分離している
おかげで、リアルな疎外感はそれほどありません。

自分だけ、mixiやってなくても平気なのです。


ところが、実名制のFBはリアルの延長であるため、
FBでの存在感がリアルな存在感とダイレクトに
結びついてしまう。


実際、冒頭に述べた同窓会も、
FB上にいない人には声をかけていません。

別の方法で連絡取れないこともないのですが、

「めんどくさいし、まあいいか」

となってしまうわけですね。


したがって、逆の立場、つまりFBやってない人に
とっては、知人・友人がなだれをうってFBを始めたら、
疎外されないために自分もやるしかない。

いわゆる「ネットワーク外部性」による利便性向上
に加えて、「疎外感回避」のためにFBの利用者は
どんどん増えていくことになるというわけです。


もちろん、その影には「FB弱者」を生み出すという
大きな負の側面がありますが。

「FB弱者」についての議論はまた改めて。

投稿者 松尾 順 : 13:42 | コメント (4) | トラックバック

カチッ・サー理論:自動車販売会社の取り組み事例

「カチッ・サー理論」とは、カセットレコーダーの
スイッチを「カチッ」っと入れると「サー」とテープから
音が流れ出すように、外部からの働きかけに対して、
人が無意識に、つまり‘自動的’に反応してしまうパターン
(=心理的スイッチ)を理論化したものものです。

昨日ご紹介したように、
ビューコミュニケーション(NPO法人)では、
「カチッ・サー理論」に基づく心理的スイッチ
(同法人では、「対人関係心理」と呼んでいます)と
して以下の10項目があるとしています。

1 返報性
2 コミットメント
3 容姿
4 類似性
5 お世辞
6 協同性
7 連合性
8 社会的証明
9 権威性
10 希少性

それぞれの解説は昨日のブログをご覧ください↓
http://www.mindreading.jp/blog/archives/201102/2011-02-03T0944.html

今日は「カチッ・サー理論」を業務の現場に
応用している自動車販売会社(セールスパーソン対象)
の取り組み事例をご紹介します。

ただし、取り組み始めてからまだ数ヶ月が
経過したばかりであり、明確な成果報告が
行なわれたわけではない点をあらかじめ
おことわりしておきます。


神奈川県の大手自動車販売会社、K社には、
いわゆる「セールスパーソン」が約500人います。

K社では、このうち30人のセルースパーソンを選抜、
彼らの顧客各30人に対してアンケート調査を実施し、
自分の担当セールスパーソンについての評価を
してもらいました。(回収サンプル数合計900件)

評価項目は、上記心理スイッチの10項目です。
アンケートで得られた心理スイッチの評価点と、
各セールスパーソンの販売台数との関係性を
分析したのです。


その結果、セールスパーソンの販売力と
最も正の相関が高かった上位3項目は以下でした。

1 類似性
2 多数性(社会的証明のこと)
3 お世辞

「正の相関が高い」というのは、
上記の項目に対する評価が高いセールスパーソン
ほど、車をたくさん売っているということです。


第1位の類似性というのは、この場合、
顧客とセールスパーソンになんらかの共通点が
あることです。生まれた場所や出身学校が同じ
だとか、どちらもサッカーや野球が好きだとか。

おそらく、優れたセールスパーソンは、
お客さんとの会話を通じて共通点をたくさん
見出し、それを会話のネタとすることで
好意度を高めているのでしょうね。


第2位の多数性とは、

「今これが一番売れています」

といった他の人の評価を伝えることです。

「他の人も買っているのならきっといいんだろうな」

といった、「多数派の意見・行動」に同調しがちな
人間心理をうまく刺激するのがうまい人ほど、
販売力があるということになります。

そういえば、先日の新聞記事で読んだのですが、
ビックカメラの販売員の方の話によると、
店頭セールスのコツの一つとして、

「最近売れている商品はですね・・・」

と周囲の人にも聴こえるように大きめの声で
説明すると、自分の周りにたくさんの人が
集まってきて、芋づる的にたくさん商品を
売ることができるそうです。

皆、自分以外の人が何を買っているか、
つまり、売れ筋って気になるものですよね。


第3位のお世辞。

多少薄っぺらいお世辞だとしても、
言われた方の気分は悪くないものですよね。

優秀なセールスパーソンは、
上手にお客さんを褒めること、つまり
「持ち上げること」ができる。

そうしてお客さんの気分をよくさせて、
クロージングに持ち込めるということでしょう。


以上の分析結果を読んだ方の中には、

「なんだ、どれも当たり前のことだよね・・・?」

と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、大事なのは、売れるセールスパーソンと
売れないセールパーソンの違いが何かを明確に把握し、
的確な改善施策を打てるようになることなのです。


実のところ、トップセールスの多くは、

「なぜそんなにキミは売れるの?」

と聴かれてもうまく言葉で説明できないのです。

「なぜだか売れちゃうんだよね」

としか言えない人が多い。

従来は、結局「センスの良し悪し」で
片付けられていたことも多かったわけです。

ですから、セールス研修でも、せいぜい礼儀作法や
セールストークのロールプレイをやるだけ。

「カチッ・サー理論」のような、対人関係心理に基づく、
効果的な販売増につながるセールス方法を学ばせること
はほとんどやられてこなかったというのが実情なのです。


さて、話を元に戻しますが、K社では、
調査結果を元に、カチッ・サー理論に基づく
セールス活動のあり方についての研修を開始し、
心理スイッチに関連した販売ノウハウのあぶり出し、
その共有化を図っているところです。

前述したように、まだ成果を検証できるところほど
時間が経過していませんが、大きな期待をかけている
そうです。

というのも、自動車自体で明確な差別化を図ることは
もはや難しく、結局のところ、

「セールスパーソンという人間をまず売ること」

ができなければ、自動車は売れないという
厳しい現実があるからです。

投稿者 松尾 順 : 13:59 | コメント (0) | トラックバック

カチッ・サー理論とは?

昨日(2/2)午後は、
ビューコミュニケーション(NPO法人)が主催する

[ECS研究会 実証実験 成果発表会]

に出席してきました。

同法人は、顧客満足度指標(CSI)をはじめとする
各種評価事業を行なっている団体です。


‘ECS'とは、拡張された顧客満足度の意味です。
(Extended Customer Satisfactionの略称でしょう)

従来のCSの概念ではカバーできない領域を指標化
しようとする試みのようです。


さて、昨日の成果発表会は、

1部:売上の科学
2部:顧客の心をつかむ科学

の2部構成でした。


1部の「売上の科学」は高度な分析方法を用いた
実証研究の話でしたので割愛します。

2部の「顧客の心をつかむ科学」について
簡単にご紹介したいと思います。


顧客の心をつかむ科学は、

『影響力の武器』

で提示された「カチッ・サー理論」が
下敷きとなっています。

これは、スイッチを「カチッ」っと入れると、
「サー」と音が流れるカセットレコーダー
(喩えが古いですけど、まだCDが普及して
ない頃に書かれた本なのです)のように、
外部からの働きかけに対して、人が無意識に、
つまり自動的に反応してしまうことを意味
しています。

そして、このカチッとスイッチを押すことの
できる働きかけの主なものが末尾に示した
10項目です。


実証実験では、この「カチッ・サー理論」を
実務の現場で実際に活用してその効果を
検証することが目的になっています。


今回は、以下の2組織の取り組み事例の
発表が行なわれました。

・自動車販売ディーラー(セールスパーソン)
・病院(看護士)

上記2組織の取り組み内容は、
明日明後日に続編としてご紹介しますね。


今日は、ビューコミュニケーションズが
指標として設定している「カチッ・サー理論」
の10項目がどんなものかを示しておきます。

------------------------------

1 返報性

受けた恩義に対しては、
将来報いなければならないという心理。

最初に無料プレゼントをもらってしまうと、
その代わりになにか買わないと悪いと感じて
しまうようなこと。

2 コミットメント

自分の態度や行動が「一貫していること」
は望ましいとみなす心理。

一度、小さい依頼に「YES」と言ってしまうと、
次の大きな依頼に対しても「YES」と言いたく
なってしまうようなこと(「NO」と言うのは、
一貫性が保てないから)

3 容姿

外見の良さ(「みだしなみ」も含む)
は好感度に大きな影響を与えるという心理。

いわゆる「ハロー効果」が効いています。

4 類似性

自分と出身地や趣味関心事が似ている人に
対して親近感を覚える心理。

5 お世辞

たとえ、真実ではないとしても、
自分を称賛してくれる人を好ましく思う心理

6 協同性

自分の味方になってくれる人、協力してくれる人
を好む心理。

7 連合性

望ましいこと、望ましくないことを
結びつけてとらえる心理。

おいしい食事の時に会った人に
対してはその好ましい思い出とその人が
結びつき、その人に対して好感を持つような
こと。

8 社会的証明

他者がどうしているかに基づいて、
自分の行動を判断してしまう心理。

「これが一番人気ですよ」と言われると、
自分も欲しくなるようなこと。

9 権威性

権威がある人は、自分よりもある分野において
知識があり、その人に従うことが自分にとって
利益になる」ということを知っているから、
無意識に服従してしまう心理。

資格や肩書きが立派な相手をむやみに
信用しがちなのは、この権威性によるもの。

10 希少性

機会を失いかけると、それはより価値が
あるものだと感じてしまう心理。

限定●●個と言われると、
売り切れる前に買わなきゃと、
たいして欲しいものではなくても
感じてしまうようなこと。

----------------------------------

上記10項目は、販売やサービスの現場で多くは、
経験則的に、つまり無意識に適用されており、
優れたセールスパーソン、サービス提供者は、
これらをうまく活用できている人々なのです。

ただ、こうして「形式知」として体系化され、
伝授されることが今までほとんどなかったという
のが現実なんですね。

では、明日は取り組み事例をご紹介します。
なかなか興味深いですよ。

『影響力の武器 第二版 なぜ人は動かされるのか』
(ロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳、誠信書房)


ビューコミュニケーションズ Webサイト
http://www.viewcom.or.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 09:44 | コメント (2) | トラックバック

今の売り手が果たすべき役割は「ステージャー」である!

『経験経済』(1999)の中で、
パイン&ギルモアは、経済システムは
次のように変化していると述べています。

農業経済

産業経済

サービス経済

経験経済

そして、それぞれの経済において、
売り手の役割は以下のように変化しています。

取引業者

メーカー

プロバイダー

ステージャー

農産物が主な商材であった「農業経済」では、
売り手は、自然から収穫されたものを市場で
相対取引する‘取引業者’という役割でした。

モノ(有形物)が主流となった「産業経済」では、
モノを製造する‘メーカー’としての役割がメイン。

サービス(無形財)が主流の「サービス経済」では、
有形物を製造はせず、サービスを提供することが
重要なので、売り手は、‘プロバイダー’と
呼ぶのがふさわしい。

そして「経験経済」では、

思い出に残るような経験

を買い手に提供するための「場=ステージ」を
演出する‘ステージャー’としての役割が
求められています。

経験経済の中で、買い手たる顧客は、
「クライアント」というよりは、
「ゲスト」と呼ぶべき存在になります。


今はまさに、
経験経済の真っ只中にいると言えますね。

例えば、デパートの外商さんは、
富裕層を相手にしているわけですが、
デパートで売っているようなものは
ほとんど持っていて、もはや欲しいものは
ないと言われる。

むしろ、

「今持っているドレスやバッグを身に
 着けていける 機会・場所が欲しいわ」

と外商さんに言うのです。

つまり、何かを売るためには、
まさにそれを活用できる

「ステージ」

も用意してあげないといけないのです。


また、カフェにもっとお客を呼びたければ、
例えば、

「早朝の街のゴミ拾いボランティア活動」

みたいなものとセットで仕掛ける。

ちょっと善いことができるステージを
提供することでカフェへの集客増も実現する。

従来のように、割引クーポンを配って、
直接カフェに呼ぼうとするのもありですが、
以前ほどの効果は期待できなくなってますよね。


これから、あらゆる売り手は、
自分たちの主な役割を「ステージャー」とみなし、
顧客・見込み客に対してどんな素晴らしい

「ステージ」(場・機会)
を提供できるかを
まず念頭に置かなければならないといえます。


『新訳 経験経済』
(B・J・パイン、J・H・ギルモア著、
 岡本慶一、小高尚子訳、ダイヤモンド社)

投稿者 松尾 順 : 10:06 | コメント (0) | トラックバック

マーケティング3.0考

●最新マーケティングバイブル『Marketing3.0』

『Marketing3.0』は、これからのマーケティングのあるべき方向性を明確に
示 した良書です。マーケティングの「最新バイブル」とも呼べる内容であり、
マーケターの必読書となることは間違いありません。

『Marketing3.0』では、新しいことが説かれているわけではありません。
マー ケティングがこれからどうなっていくかについての「きざし」をうまく
整理し、概念化してある点に本書の良さがあります。

実は、『Marketing3.0』の核となるアイディアは、アジアで生まれています。
コトラー氏の共著者は、東南アジアに拠点を持つマーケティング会社の人です。
これからポイントを紹介していく中でなんとなくわかると思いますが、
東洋的な思想がマーケティングに取り入れられたのが『Marketing3.0』です。

ですから、日本人の私たちにも結構しっくりくることが書かれています。

●マーケティングの進化

過去数十年間、マーケティングは顧客や市場環境の変化に伴って進化を遂げて
きました。最初の「Marketing1.0の時代」は作れば売れる時代のマーケティング
でした。製品を売ることしか頭になかった「製品中心のマーケティング」。

そのうち、市場にモノがあふれ競争が激化し、消費者の嗜好が高度化・複雑化
したため、「Marketing2.0の時代」へと進化せざるを得なくなります。2.0の
時代は、「顧客中心のマーケティング」です。個々の消費者のニーズにきめ
細かく対応し、製品を売るのではなく、顧客を創造することがマーケティングの
最大目的となりました。

そして今、「Marketing3.0の時代」が到来しつつあります。3.0の時代を迎え
た背景には、地球温暖化などの地球環境や生物多様性に関する問題、
人口爆発、経済成長のひずみが生み出した貧困問題など、社会・地球規模
で取り組むべき課題が増えたことがあります。

現代の消費者は、ただ自分の欲求を充たすだけではなく、自分の購入する商品
が地球環境などに悪影響を及ぼさないかということを懸念するようになってい
ます。あるいは、身近な日本社会における問題、さらには発展途上国の諸問題
について憂慮し、「自分にできることが何かないか」と考えるようになってき
ました。

つまり、現代の消費者は、個人としてだけでなく日本社会というコミュニティ
の一員として、さらには、様々な生物と共に大きな一つの生態系を作りあげて
いる地球に住む人類の1人である、という意識で行動するようになっています。

こうした消費者に受け入れられるため、マーケティングは、消費者の個人的な
ニーズだけに着目するわけにはいかなくなりました。単に「商品を購入する人」
として見るのではなく、全人間的に消費者を把握し、彼らが抱えている社会・
世界レベルの懸念や関心事にも、ビジネスを通じて何らかの形で対応する必要
があります。

つまり、Marketing3.0は、「人類中心(human-centric)のマーケティング」
なのです。

個人的なニーズを超え、現代の消費者が抱える社会全体・地球全体に関わる
問題(=人類レベルの問題)の解決に、ビジネス、そしてマーケティングが
何らかの形で'意識的に'貢献することが必要になったということです。

●3つの力

まず、「Marketing3.0」という新たなマーケティングの概念が要求されるように
なった背景にある「3つの力」について解説しましょう。3つの力とは、
「参加の時代」「グロバールパラドックスの時代」「創造的社会の時代」です。

・参加の時代

「参加の時代」とは、企業の商品開発やマーケティングコミュニケーションに、
消費者が積極的に参加することができるようになったということです。
これを実現したのは言うまでもなくIT革命ですね。低価格のパソコンや携帯
電話、インターネット接続サービス、そして多くの場合、無料で手に入る優れた
オープンソースの各種ソフトウェア。

IT革命によって、企業と消費者は、簡単に双方向のやりとりができるようにな
りましたし、人々がつながりあうソーシャルメディアによって、消費者の集団
的なパワーが増大しました。

したがって、これからの企業は、事業活動に積極的に消費者を巻き込み、
彼らの意見や要望をリアルタイムに取り入れることが求められます。これは、
消費者が本当に求めている、有益な製品づくりに役立つだけでなく、顧客との
絆づくりにもつながるのです。

ブランド構築についても、マーケターは従来のようなコントロール力を持ち
得ず、消費者ネットワーク、消費者コミュニティの集団的パワーが、ブランドに
大きな影響を与えるようになっています。もはや、ブランド構築もある意味、
消費者に委ねる時代なのです。

・グローバルパラドックスの時代

次に「グローバルパラドックスの時代」について。IT革命と輸送技術の進展の
おかげで、世界の国々の間の情報・物資のやりとりは非常に早く簡単に
低コストになりました。いわば世界は一つの国のようにあらゆるものが自由に
流れつつある時代です。

ただ、グローバル化は、同時にいくつかの矛盾というか「パラドックス」を
生み出しています。ひとつは、グローバル化は誰にも平等の恩恵をもたらした
わけではないということです。低賃金労働問題のような形での所得格差を大きく
することにもつながっているのです。グローバル化によって生まれた様々な問
題に対する懸念が高まっているのです。

また、グローバル化によって、ファーストフードに代表される、画一的な商品
・サービスが世界の都市を席巻することで文化が世界的に均質化する傾向が
ある一方で、その反動としてのローカルな文化、伝統を守ろうとする動きが
強まっています。つまり、人々は以前よりもますます自分たちの文化・伝統に
対する関心を高めているのです。

こうしたグローバル化の矛盾によって、やはりビジネス、マーケティングは、
個人のニーズだけを考えるのではなく、社会・世界全体レベルでの視野を
持たなければならなくなっています。

・創造的社会の時代

最後の「創造的社会の時代」ですが、お金で買えないものに価値を見出す、
また精神的なものを大切にしたいとする人々が世界的に増加しているという
意味です。彼らの多くは創造性が要求される専門的な職業に従事している
ことから「クリエイティブ・クラス(階級)」と近年呼ばれるようになっています。

創造的社会では、ただ便利とか安いというだけでは商品は選択されません。
デザインの美しさなどの情緒的価値の高さに加えて、人々の奥深くにある魂を
揺り動かすことのできるような価値をも提供しなければならないのです。(これ
は、必ずしも、いわゆるスピリチュアル、宗教的なものというわけではありま
せん)

●価値駆動の時代

またちょっと別の視点でMarketing 3.0を考えてみます。

Marketing 3.0は、「価値駆動の時代(Value-driven era)」において、
求められるマーケティングの取り組み方法だと言えます。「価値駆動」とは、
人々は、自分が大切にしたいと考えること=価値観に基づいて消費を行うと
いう意味です。

従来のように、ただ充たされない欲求があるから製品やサービスを購入する
のではなく、地球全体、あるいは社会全体の問題に対して「どうにかしたい」
という思いを商品選択で重視するようになってきたということです。

ですから、Marketing 3.0では、従来のように、単に「消費者」として人々を
見るのではなく、知性(Mind)、感情(Heart)、そして人間性(Spirit)を
併せ持つ一人の「人間」として把握しようとします。

ここでちょっとわかりにくいのが「人間性」(Spirit)という言葉です。

人間性とは、人々が誰もが本来心の奥底に持っていると思われる、個人の欲求
を超えたところにある、社会的価値の追求、さらに言えば地球的価値の追求と
言えるでしょう。したがって、前述した「価値駆動の時代」に最も大きく
関わってくるのが、この人間性です。

要するに、自分個人よりも社会全体、地球全体の調和や幸福を願い、その実現
に対して、自分が何らかの形で貢献したいという思いのこと。一言で形容でき
るぴったりの言葉は今のところ発見できていませんが、いちおう、私は
「人類愛」と言い換えることにしています。

●水平的につながった消費者

Marketing 3.0では、今日の市場においては人々の企業に対する「信頼」が
劇的に低下していることを指摘しています。実際、日本においても偽装事件が
次々と明るみに出るなど、企業に対する信頼性は随分と失われました。

一方、信頼性が高まっているのが消費者お互い同士。SNSやツイッターなど
インターネット上で水平的に広がるネットワークを通じて頻繁に情報を交換
しあっています。

消費者の中にはもちろんガセネタを流す人もいます。しかし、ソーシャル
ネットワークは、友人同士がつながるところから始まっているだけに入手
できる情報は十分に信頼に足るものが多いのです。売上のためにしばしば、
ウソの情報を流してきた企業とは大違い。

従来、消費者の情報入手方法が実質マスメディアに限定されていた時には、
企業は、マスコミュニケーションを通じて消費者が得る情報内容をかなりの
程度自由にコントロールできました。

豊富な予算を持つ企業が、情報においては上位に立ち、孤立した消費者たちを
上から見下ろすかのように、垂直的な情報操作を行ってきたのです。しかし、
そんな時代はインターネット革命によって終焉を告げたのです。

消費者はもはや孤立しておらず、数億人、数十億人の規模で水平的に
つながりあい、巨大なグローバル企業でさえ凌駕するパワーを持つように
なってきました。

消費者がその気になれば、世界規模で特定企業の商品ボイコットや糾弾活動を
展開し、企業を事業停止に追い込むことさえ比較的簡単にできる可能性がある
のです。

今、企業人としての私たちは、ネットワークでつながった消費者が持つ
強大なパワーを決してみくびってはいけないのだと痛感しています。

●消費者の信頼を回復するMarketing 3.0

企業に対する消費者の信頼が大きく展開した今、信頼を回復するためには、
「新消費者信頼システム(the new consumer trust system)を構築する
必要があると『Marketing 3.0』では説いています。

「新消費者信頼システム」は、消費者間の横のつながりを尊重するものです。
従来のように、企業が上位に立ち垂直的にコミュニケーションを行い、消費者
を恣意的に操作することができなくなった現代における新たな取り組みです。

そして、この新消費者信頼システムの構築において主要な役割を果たすのが
「マーケティング部門」なのです。ここでマーケティング部門には、広報、
広告、販促、営業などが含まれます。

なぜ、マーケティング部門が主要な役割を果たすのでしょうか?

言うまでもありませんが、消費者と直接的な接点を持つのがマーケティング
部門だからです。消費者は、マーケティング部門と行うコミュニケーション、
また、当該部門の人々と直接触れ合うことによって、企業に対する信頼を
形成していくからです。

このことは、自社Webサイトや公式ツイッターなどを運営することによって、
マスメディアを媒介せず、ダイレクトに消費者とコミュニケーションを行う
ことができるようになった今、極めて重要なポイントだと言えます。

『Marketing 3.0』では次のように述べられています。

“マーケティングはもはや、単に売ることでもなく、需要を生みだすための
 道具を使うことでもない。マーケティングは今、消費者の信頼を回復する
 ための、企業にとっての大きな希望と考えるべきである。”

●共創、コミュニティ化、性格(キャラクター)形成

企業が、Marketing 3.0を実践して成功を収めるためには、消費者が近年、
ますます重視するようになってきた3つのことを深く理解する必要があります。
それは、「共創(Cocreation)」「コミュニティ化(Communitization)」
「性格形成(Character Building)」の3つです。

・共創(Cocreation)

共創とは、企業と消費者が共同、協力しあって、新たな価値を生みだすこと。
共創を実現するためには、企業は、消費者との共同・協力の場となる基盤=
プラットフォームを構築する必要があります。

この一例を挙げれば「クックパッド」。消費者が自分の得意な料理レシピを
投稿することにより成立している情報サイト。企業が構築した基盤の上で、
消費者がお互いにレシピを入手することを通じて、企業は、新商品開発に
つながる貴重なヒントや事業収益の機会を得ています。

・コミュニティ化(Communitization)

ここでのコミュニティ化というのは、SNSなどだけを指しているわけではあり
ません。従来の多くのコミュニティが地域などの地縁で成立していたのに対し、
特定の興味関心や共通するライフスタイルなどによって結びついた現代の
新たなコミュニティのことです。

企業として忘れてはいけない点は、コミュニティはそこに属するメンバーの
ために存在しているのであり、企業が勝手に操作しようとすべきでないこと、
むしろ、コミュニティに奉仕すべきであることです。

・性格形成(Character Building)

企業や製品を「人」だと考えてください。人はそれぞれユニークな性格や価値
観を持っていますね。企業は製品もまた、ユニークな性格を形成していく必要
があるのです。

もちろん、単にユニークであるということだけでなく、正直で真摯で信頼にた
る性格を形成することによって、消費者とのきずなを深めていくのです。

●マーケティングの進化

さて、『Marketing3.0』では、これまでのマーケティングの進化についても、
実に手際よく、わかりやすく説明されています。本書によれば、
マーケティングは大きく3つの基本的な考え方に基づいて進化してきています。

すなわち、「製品管理」「顧客管理」「ブランド管理」の3つです。

「製品管理」とは、製品の開発・生産・販売に重点を置いたもの。
作れば売れた時代のマーケティングですね。日本で言えば高度成長期。
冷蔵庫、エアコン、自動車など、生まれて初めて買うという消費者がほとんど。
いい製品を作ること、その存在を広告することだけを考えていれば十分でした。

しかし、市場が成熟し競合も激化。新規購入ではなく、買い替え、買い増しの
消費が主流となると、「どんな製品を買うか」ではなく、「どの企業から買う
かという判断が重要になってきます。このため、製品だけでなく、顧客対応や
サービスの充実が求められるようになってきた。

そこで「顧客管理」がマーケティングにおける中心課題となったのです。
私の専門としている「CRM(Customer Relationship Management)が、
当時の最新のマーケティングの考え方として大きな注目を浴びました。

そして、顧客管理に続く、マーケティングの進化として生まれてきたのが、
「ブランド管理」です。「ブランド」とは、消費者の頭の中にある、商品に
ついてのイメージや好き嫌いなどの評価や感情のこと。

マーケティングは、製品や顧客との関係性を管理するだけでなく、
消費者の頭の中にあるブランドを望ましい形で形成することに目を向ける
ようになったのです。

●マーケティング=経営

マーケティングの進化には、別の視点もあります。Marketing3.0で
説明されている内容を私なりに噛み砕けばやはり次の3段階になります。

「戦術的」→「戦略的」→「経営的」

前項の「製品管理」の初期の時代では、「戦術的」なマーケティングが
行われていました。要するに、基本的に作った製品を「売る手段」に
過ぎなかったわけです。小手先のテクニック開発がメインでした。

しかし、製品自体だけでなく、優れた顧客対応やサービスも要求されるように
なってくると、より高所的、全体的な視点でマーケティングを組み立てる必要
が出てきます。製品開発・生産・販売・サービスという価値連鎖を考慮した
「戦略的な」マーケティングが広まっていきます。

そして、近年はさらに経営全体の視点からマーケティングを考える必要が
出てきました。ある意味、マーケティング=経営という等式が成り立つほど
ビジネスにおけるマーケティングの存在が大きくなったのです。

「経営的」マーケティングが求められる理由。それは、消費者が社会、
また地球規模の影響を考慮して商品を選択するようになり、企業の社会に
おける存在意義を問うようになったからです。

したがって、マーケティングは、社会における企業の存在価値を証明する
活動として位置づけるべきであり、ここには経営レベルの視点が不可欠
なのです。

●まるごとの人間

マーケティング3.0では消費者を「まるごとの人間」(Whole Human beings)
として把握し、対応する必要があると説いています。本の中では、
『7つの習慣』のスティーヴン・コヴィーの説を引用していますが、まるごと
の人間は、以下の4つの基本的な要素を持っています。

・身体(physical body)
・知性(mind)
・心(heart)
・人間性(spirit)

すなわち、物質的な「身体」、独立した考えや分析を行うことのできる
「知性」(mind)、感情を司る「心」(heart)、そして、「人間性」(spirit)
です。

「人間性」(spirit)は以前もご説明しましたが、今回は別の説明を加えると
そもそも人間とは何か、なぜこの世に存在しているのかといった哲学的な
思いをはせる部分のことだと理解してください。

マーケティングは、当初、「知性」を対象にコミュニケーションをして
きました。つまりこの製品は役に立つ、といった論理的な判断を求める
方法です。製品が持つ「機能的価値」「便益的価値」を訴求するわけです。

しかし、同じような「機能的価値」「便益的価値」を持つ競合他社商品は
山ほどありますよね。そこで、消費者の「心」、言い換えると「感情」に
訴えようとするコミュニケーションが台頭してきたのです。

これは、例えば、「この商品を買うと、楽しい気分になりますよ、
心地よいですよ、誇らしいですよ」といった「情緒的価値」を伝えるという
ことです。このアプローチは、一般に「感情マーケティング」と呼ばれ
現在全盛期を迎えていると言えます。

●グローバル・ビッグ・イシュー

そして近年、増える兆しを見せてきたのが、「人間性」に訴えるアプローチ
です。これは、個人の欲求を超えたところにある、社会、あるいは地球規模の
課題や心配事、不安について、企業がどのように考えており、それらの解決に
どのような貢献ができるかを伝えることです。

人間性に訴えるマーケティングは、外国の大手グローバル企業は既に
積極的に取り組んでいます。たとえば、GEやネスレなどです。こうした企業
では、「グローバル・ビッグ・イシュー」を解決するということを事業の根幹に
据えて活動していることを対外的に公言しているのです。

「グローバル・ビッグ・イシュー」とは、文字通り「地球規模の大課題」と
いうこと。具体的には、貧困、伝染病、資源の枯渇、絶滅危惧種、地球温暖化
といった課題の解決を企業として目指す。

その一環として様々な商品を開発、提供するということです。 具体例として
は、GEの「ecoimagination」(エコ イマジネーション)があります。Web
サイトがありますので興味のあるかたはアクセスしてみてください。
この取り組みはGEが環境問題の解決のためのものであり、具体的には、
太陽光発電用のパネル、風力発電用タービンなどの 製品に結びつけています。
単にお題目としてではなく、実際に環境問題の解決に貢献していることを
伝えているのです。

「人間性」に訴えるマーケティングは、単に以前のメセナやフィランソロピー
のように、収益の一部を寄付するといった活動に限定しません。企業全体と
して取り組む、商品を通じて貢献するという点が従来と大きく異なります。
すなわち、「経営的」なマーケティングなのです。

●ブランドの所有者は消費者

2010年10月頭、米GAPが公式ベージ上のロゴマークを新しいマークに切り替え
たところ、ツイッターやフェイスブックなど、ソーシャルメディアで消費者
からの反対の声が上がり、わずか数日後には、元のロゴマークに戻すという
事件がありました。今月(2011年1月)にも、スターバックスのロゴマーク
変更に対して、利用者から賛否両論の意見が湧きあがっていますね。

ブランドは、いったん成立したら、もはや企業のものではなく消費者のもの
であると言われてきました。この言葉が単なるお題目ではなく現実にそうで
あることを「GAPロゴマーク事件」は実感させてくれました。

Marketing 3.0では、イケアのフォント事件が紹介されています。
イケアは、 2010年からカタログなどに利用している文字を従来の「FUTURA」
から「VERDANA」に変更しました。

「VERDANA」は、紙でもWEBでも使いやすいこと、また「FUTURA」は
有料でしたが「VERDANAは無料のため、コスト削減にもつながり、
それが顧客の利益にもなるという判断だったようです。

ところが、やはり消費者の反発を受け、元のフォントに戻すオンラインの
署名活動が行われたほどでした。新しいフォントは、イケアの持つ
スタイリッシュなブランドイメージにそぐわないということらしいのです。

イケアの場合、旧フォントに戻すまでには至っていませんが、ソーシャル
メディアによって消費者が横につながり、社会的な発言力を高めたおかげで
企業に対する賛成、あるいは反対の意向が即座にかつ明確に社会に広まる
ようになったこと。

これが、消費者を真の意味でブランドの所有者にしたのでしょう。

●望ましいブランドミッション

もはや企業はブランドを所有できない。そしてブランドのミッション(使命)
は、消費者のミッションと等しいのです。つまり消費者が日々の生活の中で
目指していること、望んでいることをブランドが体現しているということです。

Marketing 3.0では、このような現状において企業ができることは、ブランド
のミッションに沿って、自らの企業行動を行うことだと述べています。もし、
ブランドのミッションに反するような行動を取ったら、すぐにブランド所有者
である消費者から、強烈なパンチを食らうことになります。

では、よいブランドのミッションは何なのでしょうか?それは、消費者の生活
をより良い方向に変えることです。小手先の商品を出して束の間の満足を与え
ることにとどまらず、ライフスタイルを大きく変えてしまうくらいのインパクト
を持つもの。

そうした商品は必然的により大きな視点、すなわち社会や世界、地球全体と
いった視点で、より望ましいライフスタイル、生き方を捉え直すことから
始める必要があります。

そしてまた、わかりやすく、心に響く「ブランドのストーリー(物語)」が、
ブランドミッションと共に、人々の間で語り継がれていくことが望ましい。

目先の顧客ニーズだけを追っている場合ではない時代なのです。

●洞察力がブレークスルーにつながる

企業が持つべき、望ましいブランドミッション(使命)は、消費者の生活を
大きく変えることのできる(もちろん良い方向に)インパクトを持つことです。
これは、極めて強い競争優位性の確立につながります。

近年、これを実現しているブランドとしては、やはりiPod、iPhone、
iPadといった製品を世に出した「アップル」が一番わかりやすいでしょう。
アップル社の製品は、まさに私たちのライフスタイルを大きく変える力を
持っています。

では、こうした「ブレークスルー」(飛躍的な革新)とも言える製品を開発
するにはどうしたらいいのでしょうか。それは、消費者、というより、人間
そのものについての深い理解、そして、深い理解に基づく洞察力を持つこと。

洞察力とは、人がほとんど意識していない微かな欲求、あるいはすっかり
慣れてしまったために、普段は気付かない不平、不満、不便を感じ取る力
だと言えるでしょう。これらは、「インサイト」とも呼ばれます。

「インサイト」を感じ取る力が洞察力。もちろん、言うは易しで簡単に身に
つくものではありません。いわゆるカリスマリーダーと呼ばれる人たちの
多くは、洞察力を生まれながらに持ち合わせてるようですが。

大事なことは、中心部ではなく周辺に目を配ること。大勢ではなく少数派の
動きに注目すること。というのも、周辺部にいる少数派の人々は、いち早く
多数派がまだ気付いていないインサイトを顕在化させ、それを言葉に
出している可能性があるからです。

すなわち、企業は、外部で起きている小さな変化、兆しに敏感になる必要が
あるということです。私の専門分野である「マーケティング・リサーチ」
について考えると、基本的に多数派の意見を吸い上げることに向いている
アンケート調査だけでは不十分です。

サンプル数は数件でも、消費の現場に行き、現実の顧客とじっくり対話する。
あるいは、ありのままの消費行動を観察させていただく。そうすることで、
小さな変化、兆しを捉えることができます。また、こうした行動が、洞察力
を高めることにもつながります。

●ブランドストーリーも重要

さて、消費者の生活を大きく変えるようなブランドには、ブランドを支える
ストーリー(物語)がつきもの。ブランド・ストーリーを通じて、
人は感動し、共感・共鳴し、ブランドの熱烈な支持者となっていきます。

実は、ブランドストーリーも、やはり企業だけが作るものではありません。
基本のストーリーはもちろん、企業内で生まれます。しかし、昔ばなしが、
人から人へと伝えられる過程で少しずつ変貌していったように、ブランド
ストーリーも消費者との共同作業になります。

Marketing 3.0では、ブランドストーリーもまた、企業がコントロールしよう
とはすべきではなく、消費者に手渡すべきだというのが基本主張です。
企業がやるべきことは、真摯(Integrity)で真正(Authenticity)であること。
そうすれば、否定的なストーリーへと変容させられていくことはありません。

●グリーンマーケティング

「石」からできている紙があるのはご存知でしょうか?石灰石の粉末に
ポリエチレン樹脂等と加えたもので、丈夫で防水性も高いそうです。
製品名は「リッチ・ミネラル・ペーパー(RMP)」です。

「石の紙」は値段的にはちょっと高めです。しかし、木材パルプを使用して
いないため、森林資源の保護につながる点がメリットです。個人的には、
こうした製品がもっと普及してくれればと願っています。

地球環境保護に役立つ製品は、おおむね割高なのが課題ですね。しかし、
普及すればするほど生産コストも低下して、手に入りやすい価格になる、
おかげでますます利用されるようになるという「善循環」を私は期待して
いるのです。

さて、地球環境保護につながる製品を開発したり、マーケティング施策を行う
ことを「グリーンマーケティング」と呼びます。「グリーン」とはもちろん、
緑豊かな自然を喩え、それを守ることを意図しています。

近年、地球環境の悪化が顕著になるに伴い、グリーンマーケティングに対する
消費者の関心が大きく高まっています。同時に、これまで述べてきたように、
企業の社会貢献意識も強まったことから、企業のグリーンマーケティングへの
取り組みもますます積極的になっています。

ただ、現実にはまだまだ普及途上であり、「エコに配慮した製品を開発した
ものの、消費者はなかなか買ってくれない」という企業側の嘆きを聞くことも
多いのです。

●グリーン市場4つのセグメント

グリーンマーケティングがなかなか浸透しない背景には、個々の消費者の心理
の違いがあります。端的に言ってしまうと、環境に配慮した製品に対して肯定
的で、積極的に購入する人は少数派であり、まだまだ慎重派、懐疑派が多数を
占めているということです。

Marketing3.0では、上記について「グリーン市場の4つのセグメント」という
視点を提示しています。すなわち、グリーン製品(環境保護に貢献する製品)
に対する消費者心理の違いから、「トレンドセッター」「バリューシーカー」
「スタンダード・マッチャー」「コーシャス・バイヤー」という4つのセグメ
ント(グループ)に分けているのです。

「トレンドセッター」は、自らも環境保護活動を行っているような、いわば
「環境マニア」です。彼らは、環境保護に役立つ革新的な製品を歓迎する
人たち。感情的・精神的動機からグリーン製品を購入します。ロジャースの
普及理論に当てはめれば「イノベーター(革新者)」や、「アーリー
アダプター(初期採用者)」です。

「バリューシーカー」は、合理的な動機、効率向上、コスト削減にも役立つと
いう理由でグリーン製品を購入する人たち。つまり、グリーンマーケティング
に積極的ではあるものの、ただ環境保護に役立つという理由だけでは買わない。
普及理論では「アーリィ・マジョリティ(前期追随者)」に該当するでしょう。

「スタンダード・マッチャー」は保守的で、グリーン製品が広く利用されるよ
うになるまで様子見を決め込む人たち。スタンダード=標準となるまではなか
なか購入しようとしない消費者です。普及理論では、「レイト・マジョリティ
(後期追随者)」のセグメントに入るでしょう。

「コーシャス・バイヤー」は、最も保守的で懐疑的な人たち。グリーン製品な
んて、企業が売るためのまやかしなどと思っている人たちもここに含まれます。
普及理論では、「ラガーズ(遅滞者)」です。

企業がグリーンマーケティングに取り組む際には、こうした消費者心理に
基づくセグメントを意識する必要があります。

●「ありがとう」こそ最高の言葉

ちょっとうろ覚えで申し訳けないのですが、歌手・俳優の加山雄三さんが以前
どこかでおっしゃっていたことで今でも強く印象に残っている話があります。

それは、お客さんから頂く言葉で一番うれしいのは「ありがとう」という感謝
の気持ちを表す言葉だということです。加山さんのようなエンタテイナーだけ
でなく、様々な製品やサービスを提供する側にとって最高のほめ言葉は
「ありがとう」でしょう。

ちなみに、一般的な顧客満足度調査では、「とても(大いに)満足した」と
いった選択肢が最高ですね。しかし、実は、満足の先に、「感激した」あるいは
「感動した」というより高次の表現があります。そして、究極の満足に達した
顧客が発する言葉が「感謝したい」という表現なのです。

従来、満足度調査において、「感動した」「感謝したい」という表現を使用
するのはちょっとオオゲサかなと感じていました。しかし、近年はむしろ
積極的に取り込んでいくべきではないかと考えるようになってきました。

というのも、地球環境や社会の様々な問題解決に対して、自社の各種製品や
サービスを通じて貢献することを強く意識し始めた企業が増えているからです。

こうした地球・社会問題解決型の企業は、実際のところ、顧客から
「ありがとう」という言葉をもらうことが多くなっています。本当に困って
いたことが解決したり、ずっと望んでいたことが実現できた顧客の口から
思わずこぼれ出るのは、感謝の言葉になるのです。

●感謝される企業

例えば、池などからくんできた汚れた水でも、特殊な粉末を入れてかき混ぜる
だけでたちまち浄化でき、漉しとればおいしい水が飲めるようになる製品を
開発・販売している日本企業があります。

こうした製品は、非常時用だけでなく、水道が普及していない発展途上国で
使ってもらえるようにすれば、おいしい水が飲めるようになった現地の人に
とっては、「ありがたい」という言葉しか出てこないでしょう。

あるいは、数千円台で購入できるパソコンが最近開発されています。こんな
パソコンは、従来は高価すぎて利用不可能だった途上国の子どもたちに
使ってもらうことで、識字率を低下させ、学力向上に役立てることができます。
子どもたちもまた、パソコンメーカーに対しては、単に満足するのではなく、
大いに感謝してくれることでしょう。

この連載記事では、過去半年ほど「Marketing3.0」の考え方をご紹介して
きましたが、結局のところ、これからの企業が目指すべき方向性、それは、
「感謝される企業を目指す」ということではないかと思っているのです。

「感謝される企業」を目指すことは、企業の私利・私欲を追わないということ
です。また、顧客のせつな的な欲求を充足することでもありません。むしろ、
「本当の意味での幸せ」を実現することに貢献することだと考えています。

「本当の意味での幸せ」は定義が難しいですが、あえて言い切ってしまうと、
自分ひとりがいい思いをすればいいのではなく、社会全体、また地球の
あらゆる生物を含めた全体が調和し、皆が活き活きとした「生」を謳歌できる
ことだろうと思います。

キレイゴトに聞こえますか?しかし、こんなキレイゴトに真剣に取り組む
企業しか、これからは生き残れないと私は確信しています。

投稿者 松尾 順 : 02:26 | コメント (0) | トラックバック

未来予測は当たるのか?

先日、日本能率協会総合研究所、
マーケティング・データ・バンク主催の

『未来予測セミナー』

を受講しました。


当セミナーは大変充実した内容で、
今後の世界、また日本を変えていくであろう、

「大きな潮流」

を再確認するよい機会となりました。

具体的な内容については、
今後、折に触れご紹介したいと思っています。


さて、そもそも、
未来予測って当たるんでしょうか?

実際のところ、

「大きな潮流」

については、
その変化の「芽」が多少なりとも
地面から顔を出していることが多いので、
ほぼ確実に当たります。
(「芽」に気づかない人も多いですが・・・)


しかし、

「個別業界や個別商品の先行きがどうなるか」

について言えば、
正確な予測は極めて難しいのが現状です。

というのも、
確実なひとつの収束点というものはなく、
たいていは複数のシナリオがありえるからです。

しかも、どのシナリオが実際に展開することに
なるのかは、確率的にしか予測できませんから、
結局はその時になってみないとわからないのです。


ですから、もし予測が当たったとしたても、
それはまぐれ当たりに過ぎないと言えるでしょう。
(超能力者を除き・・・)


ただ、そもそも、

「ビジネスにおける予測」

はそれ自体が目的ではありません。


たとえ、複数の「未来シナリオ」があるとしても、
将来の変化に適応して生き残るために、
今から準備しておくべき行動が明確になります。

そして、未来のためにやるべき行動が明確であれば、
あとは、それぞれの未来シナリオが現実化する確率を
踏まえて、優先順位をつけた行動計画を立案し、
早速着手する。


すなわち、予測困難だからこそ、
あえて予測してみることで、
未来に備えるために今から取り組むべき
行動を認識する。

これが未来予測の意義だと言えます。

よく、

「どうせ、未来はどうなるかわからないんだから、
目先のことに全力を注ぐべき」

という方がいますよね。

しかし、こんな人は、今転ばないように、
足下の石ばかりみて歩いているようなもの。

ふと顔を上げたら目の前は断崖絶壁だった!
どんづまりにいて、もはや後戻りもできない!

という事態になりかねませんよね。


足下の石ころに気をつけるのも大切ですが、
同時に、遠く水平線を見渡して、自社(自分)が
どんづまりの道を進んでいないかを常に確認する
ことも必要なのです。

要するに、これが未来予測をやる意義です。


ところで、変化には次の3種類があります。

---------------------------------

(1)パラダイム的変化

場・価値基準が短期間に大きく変化するもの
(ex.ガソリン自動車→電気自動車)

(2)構造的変化

一方向に進むが、新しい局面を生み出すもの
(ex.ノートPC→ネットブック)

(3)循環的変化

波状、元に戻る性質のあるもの
(ex.景気循環)

---------------------------------

そして、上記3種類の変化に対して、
企業が取るべき適応戦略の基本方向は以下の通り。

・パラダイム的変化 ←新しい競争条件の予見と革新準備

・構造的変化 ←ニーズギャップの調整や次世代製品

・循環的変化 ←生産調整やカイゼン


現在、私たちは昨年秋のリーマンショックに端を発した
世界的景気低迷期から少しずつ回復しつつあります。

これは、循環的変化ですね。

しかし同時に、
明らかにパラダイム的変化にも直面しています。

パラダイム的変化にはいくつかありますが、
その中で最も看過できないのはやはり、
地球温暖化や地球資源枯渇といった

「地球環境問題」

でしょう。

このパラダイム的変化は、
既に私たちの消費行動にも大きな影響を及ぼし
はじめており、企業は早急な適応戦略を立案し、
行動する必要性を感じはじめています。


というわけで、我田引水ですが、
INSIGHT NOW!さんの主催で、

『ソーシャル消費時代の適応戦略(製造業編)』

という勉強会を開催することにしました。

ご興味・ご関心のある方はぜひご参加ください!

『ソーシャル消費時代の適応戦略(製造業編)』


*本文中、3種類の変化については、
『未来予測セミナー』の内容を参考にしました。

講演者の安部忠彦氏(富士通 研 取締役)、
および、清水克彦氏(東京創研 取締役)には、
この場を借りて御礼申し上げます。

*日本能率協会総合研究所
マーケティング・データ・バンク
http://www2.mdb-net.com/

*富士通総研
http://jp.fujitsu.com/group/fri/

*東京創研
http://www.tokyosoken.com/

『未来予測2009/2019』
~大不況後の事業戦略立案のための基礎資料

投稿者 松尾 順 : 14:30 | コメント (0) | トラックバック

「休憩所」から、目的を持って「立ち寄る場所」へ

京葉道路で人気のサービスエリア(SA)が、
「pasar幕張」です。

2008年夏の開業以来、我が家でも、
千葉・房総方面に車で出かける時は
必ず立ち寄ってしまいます。

松戸の自宅を出て、
まだ1時間も経っていないので、
あえて立ち寄る必要はなんですけどね。


‘pasar’というのは、スペイン語で

「立ち寄る」「時を過ごす」

また、インドネシア語では、

「市場」

を意味するそうです。

従来のSAと違って、
体育館のように天井が高く、
柱の少ない建物。

休憩用のテーブルは、
ゆったりと配置してあります。


ごちゃごちゃした雰囲気がなく、
洗練された開放的な空間設計が、
思わず立ち寄りたくなる理由でしょう。

また、他のSAにはない、
専門店があるのも人を惹きつける磁石の
役割を果たしているようです。


従来、高速道路のSAやPAは、
ドライブに疲れた時やトイレ休憩など、
必要に迫られて行く場所ですよね。

そして、私たちは休みたくなるタイミングが
おおむね同じなので、PAやSAによって
混雑の度合いが随分違います。

例えば東名高速では、

「海老名SA」

が休憩を取るのにちょうどよい地点にあるため、
一番人気ですね。

ところが、隣の

「足柄SA」

はといえば、海老名に比べると
立ち寄る人の数は寂しいものです。

したがって、足柄SAに出店している店舗は、
けっこう厳しい経営を余儀なくされています。

個店単位でいろいろと集客努力を
されてはいるようですが、

‘pasar幕張’

のようなトータルなコンセプトチェンジ&
リニューアルが必要なのかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (2) | トラックバック

交通整理のおじさんが3人いるパン屋

千葉・松戸の自宅から、
車を走らせること10分少々。

目当てのパン屋さん発見。

店前の行列ですぐわかったんですけど。
20組ぐらいかな、並んでたのは。


「わあー、いったいどれくらいの時間
 並ばなきゃいけないんだろう・・・?
 家から近いから出直そうかな!」

と思いましたが、
ともかくもそばの駐車場へ。

交通整理のおじさんが2人もいました。


車を止めて、店に向かうと
店の前にも1人、交通整理のおじさん。

「歩道に広がらないように並んでください」
「自転車、通りまーす」

などと注意を促してます。


この人気のパン屋さんは、

「Zopf(ツォップ)」

という名前のお店。

先日(09年9月6日)のソロモン流(テレビ東京)
にて、店主の伊原靖友氏が紹介されたおかげで、
お客さんがさらに増えたようです。


実は、ツォップは、
随分前から地元でも知られたお店。

でも、私は今回が初めて・・・

わざわざ行くのが、
なんか面倒だったんですよね。

実際、駅からも遠く不便な場所にありますが、
ジモティの私の場合、車ならわずか10分でした。
(もっと昔に行っとけば良かった・・・)


さて、行列に並ぶこと30分、
意外に早く順番がやってきました。

中に入ると、6畳ほどの大きさ、
というか狭さ。

しかし、驚くほどたくさんの種類のパンが
並んでいます。

一緒に行った息子は、
あれも欲しい、これも欲しいと
次々と選んでいきます。

息子が大好きなメロンパンも、
2種類ありましたので両方とも買いました。


値段はとみると、100円台のパンも多く、
他店と同じくらいの水準です。

例えば、ソロモン流で一番人気と
紹介されていたカレーパンは1個160円。

パンのさくさくした歯ごたえは、
他の店のカレーパンでは味わえない食感。

確かに病みつきになりそう!


ソロモン流によれば、
当店では1日300種類ものパンを
焼くそうです。

そして、1日に売れるパンの数は、
なんと約6,000個!


さて、ツォップが、
開店時間の朝6時半から、
夕方6時の閉店まで途切れることなく、
お客さんが続くほどの人気店になった
理由をまとめておきます。


・300種類から選ぶ楽しさ

 店主の伊原氏によれば、
 1種類当たりの販売個数は少なくしても、
 種類数は減らさないとのこと。

 実際、たくさんのパンの中から、
 自分の好みのパンを選べるのは実に楽しい。
 (一般的には1店当たりせいぜい
  50種類くらいですかね)

 しかも、ありきたりのものだけでなく、
 オリジナリティあふれた創作パンもあります。

 パン自体を味わえること以前に、まず
「パンを買う楽しさ」も味わえるのが、
 ツォップの最大の魅力でしょう。


・手頃な値段

 私が買ってきたツォップのパン、
 どれもおいしかったですが、

 「他店よりも格段においしいか?」

 と言われると、正直それほど大きな差は
 ないかと思います。

 しかし、一般消費者が「お手頃」と感じる
 値段でこのおいしさなら満足です。

 「そこそこ安いのに十分おいしい」

 という実感を与えてくれる点が重要でしょう。


私は、今の「大衆向け飲食業界」において、
成功するために押えておくべき基本線は、

「そこそこ安いのに十分おいしい」

だと考えています。

「餃子の王将」しかり、「サイゼリア」しかり。
「ツォップ」もまさにこの路線だと言えます。


高いお金を出せば、
相応においしい食事ができるのは当たり前。

しかし、値段を抑えつつ、
「十分においしい」と感じさせる食事を
提供するのはそう簡単なことではないんですね。

逆に、この基本線を押えることに成功すれば、

「どうせ行くならあの店にしようや」

と優先的に選ばれる存在になりえるわけです。


私自身も今後は、

「どうせパン買いにいくなら、
 やっぱりツォップにしよう!」

と思いますもん。


Backstube Zopf
パン焼き小屋 ツオップ
千葉県松戸市小金原2-14-3
http://www.zopf.jp/b_zopf.html

*食べログの評価
http://r.tabelog.com/chiba/A1203/A120302/12000514/

投稿者 松尾 順 : 15:56 | コメント (0) | トラックバック

ガソリンスタンドがなくなる日

先日、両親の金婚式のため福岡に里帰りした際、

「自動車整備」

の会社をやっているイトコたちと久しぶりに
話すことができました。

イトコたちも私もいい年(中年)なので、
自然に仕事が話の中心になります。


自動車整備業界も厳しい昨今ではありますが、
長年地元に根ざして信頼を築いてきたおかげで
彼らの会社もなんとか回っているそうです。


とはいえ、自動車の電子化の進展によって、
修理・整備の能力がどんなに高くても、
いわゆる従来の

「自動車整備士」

では手に負えない部分が増えてきています。

ですから、長期的には楽観できないし、
次世代の自動車整備士として生き残って
いくためには日々勉強が必要のようですね。


さて、これからの自動車整備士に、
確実に新たなスキルを要求することになるであろう、
電子部品だらけの

「電気自動車」

の本格普及期はいつ頃やってくるんでしょうか?


日産自動車社長&CEOのカルロス・ゴーン氏は、

「2020年までに電気自動車は市場の一割を占める」

と予測しています。


たとえ、

・エンジンからモーターへ
・ガソリンから電気へ

という移行が完了したとしても、

「自動車」

そのものが不要になることはないでしょうから、
自動車整備の仕事は残るとしても、
間違いなく存亡の危機に立たされるのが、

「ガソリンスタンド」(以下「GS」)

ですね。


当面、電気自動車の「電池」の容量の制約から、
ガソリンと同様、街中に充電設備が必要です。

ですから、従来のGSが

「充電スタンド」(電気スタンド?)

へと生まれ変わっていく流れが、
まず起こるでしょう。


ただ、1台の電気自動車の充電に
必要な電気代は200円足らずなのだそうです。

充電スタンドにとっては、この電気代が

「原価」

になりますよね。

これに、諸経費、利益を乗せたとして
1台当たりの売上はせいぜい、

300-400円

といったところでしょうか。


ガソリンの場合は、おおむね

2,000円以上/台

でしょうから、
充電スタンドの売上(単価)は
現在の数分の一にとどまる。

とても採算が取れません。


また、危険物を扱うため、
厳しい規制の元で設置されるGSと異なり、
充電器はコンビニなどにも簡単に設置可能。
(現在は1台800万円くらいするようですが)

ですから、

「充電サービス」

だけでみると、
充電スタンドの競争相手は
拡大することになります。

GS業界にとっては、
さらに厳しい時代が間近に迫っているのです。


しかしながら実は、

そもそも充電器さえ不要になる時代

が、おそらく50年くらい先には
やってきそうなのです。

現時点ではまだ実験段階ではありますが、

「無線で電気を飛ばす技術」(無線充電)

が実用化され社会に浸透した時、
GSはおろか、

「充電スタンド」

さえ過去のものとなるでしょう。


無線充電装置が、路肩のガードレール、
あるいは、道路のアスファルトに
埋め込まれていれば、電気自動車の受電装置に
常時電気を送ることが可能になります。

そうすると、
レールから常時電気をもらって走る電車と同様、
電気自動車も、充電の心配を一切することなく
好きなところに行けるようになる。

充電のために立ち寄る施設は、
もはや不要になるというわけです。


今回、随分未来の話をしています。
しかし夢物語ではありません。

先端技術動向をチェックしていれば、

いつ(WHEN)変化が起きるか

までは正確に言えないけれど、

「確実にやってくる未来」

を見ることは可能です。


ここで、

“まだまだ先のことだから・・・”

と油断していると、
どんな業界、どんな会社・人にも

「時代遅れ」
「過去の遺物」
「無用の長物」

などと言われる日が、
あっというまにやってきます。

実際、ドッグイヤー、マウスイヤーと呼ばれる
インターネット技術の進展と社会への浸透に
よって、わずか10年足らずの間に、
消滅を余儀なくされつつある業界や会社が
既に出てきていますよね・・・


GSに話を戻しましょう。

ガソリンスタンドは、実は和製英語。

米国では、

「サービスステーション」(SS)

と呼ばれているのをご存知かと思います。


今後、GSが生き残っていくためには、
給油、あるいは充電サービス以外に、

「どのようなサービスが可能なのか?」

を真剣に考え始める必要がありそうです。


*参照記事

『充電インフラ整備、どこも及び腰 
 電気自動車、普及に向け不安』
(日経ビジネス、20098月10日・17日号)

『2030年への挑戦 次世代産業技術
 光速充電技術(下)』
(日経産業新聞、2009/07/29)

投稿者 松尾 順 : 12:09 | コメント (2) | トラックバック

かりんとう&カステラ

先週末、
ちょっと福岡(八女)に里帰りしました。


戻りの福岡空港。

搭乗口に向かっている途中、

「かりんとう饅頭」

の試食販売を発見しました。


かりんとう+饅頭

という一見奇妙な組み合わせが気になり、
一口食べてみたらけっこういける!

1箱買って帰りました。


この商品の正式名称は、

「花林糖まんじゅう 笑x2」
(注)笑の2乗です


鹿児島のメーカー

「美味芋本舗」

が製造してます。


ちょっと気になったので、
ネットで調べてみたんですが、

「かりんとう饅頭」

は、特に鹿児島名産というわけではなく、
全国のあちこちで作られているようですね。

どうやら、「かりんとう饅頭」は、
密かなブームになりつつあるようです・・・


さて、「かりんとう」で思い出したのが、
日経MJ連載中のコラム

「招客招福の法則」
(小阪裕司氏、オラクルひと・しくみ研究所)

に先日書かれていた内容です。


ある店が、
中華街で人気の冷凍食品、

「かりんとうドーナツ」

を仕入れたんだそうです。


これは本来自然解凍して食べるもの。

しかし、この店では冷蔵庫で解凍し、
冷たいままで食べる

「冷菓」

として店頭で売ることにしました。


見た目はかりんとうなので、

「冷やしかりんと」

とネーミング。


チラシを作り、
既存客にはDMも送付。

店の前には、
立て看板まで置きました。

ところがさっぱり売れない。
味や食感には自信があったのに・・・


そこで、20代の男性に試食してもらったところ、

“チェーン店のドーナツに負けていないですね。
 もうひとつ食べていいですか”

と、実際食べてみた人の評価は高かったのです。


店主は、この男性が、

「かりんと」

ではなくてしきりに

「ドーナツ」

と言うことに気づき、

「冷やしドーナツ」

と名称を変更したところ、
急に売れ始めたのだそうです。


なぜ、ネーミングを

かりんと→ドーナツ

と変更したことが功を奏したかの理由について、
小阪氏は、次の2つの理由を挙げていました。

・ドーナツの方が、かりんとよりも食べている人が
 多いから、ドーナツという言葉にピンとくる人が
 多いのかもしれない

・あるいは、あたたかいイメージのあるドーナツが
 「冷やし」と形容されたことで「おや」と思った
 のかもしれない


どちらも理由としてはありそうですが、
やはりなんといっても、

「なじみ度合い」

の違いだと私は思います。


今の若い人は、

「かりんとう」

をあまり食べることがないため、
はピンとこないのです。

ちょっと古臭いイメージもありますね。


日本の伝統的なお菓子である

「かりんとう」

は、おそらく40代以上の方には、
小さい頃から慣れ親しんだ味でしょう。


しかし、次々と新商品が生まれ、
多種多様なお菓子にあふれた時代に育った
30代以下の人にとって、「かりんとう」は、
めったに食べる機会のないお菓子。

コンビニでもほとんど目立ちませんしね。


しかし、よけいな添加物がほとんど
含まれておらず、自然な味わいが楽しめる、

昔ながらのお菓子

が再評価されつつあるのが現代です。


ただし、昔ながらの味はさておき、
昔ながらの考え方、つまり

「職人的売り方(味がよければ売れる)」

からは、脱却する必要があります。

つまり、上述した

・かりんとうまんじゅう
・かりんとうドーナツ

のような斬新な新製品の投入や、
洗練されたネーミング、パッケージへの
変更によって、若年層を中心として新規客
を獲得する努力が求められているのです。


ちなみに、福岡空港では、

「キューブカステラ」(福砂屋)

とという製品も発見。

買って帰りました。


「キューブカステラ」は、
手にちょうど乗るくらいの大きさの
サイコロ状の紙製のパッケージ。

パッケージの色は5色あります。
見た目も楽しい。


パカっという感じで、
左右に開くとカステラが2切れ!

しっとりした食感が最高でした。


通常のカステラ一本だと、
ちょっとボリュームがありすぎ
ですよね。

自家用にしろ、贈答用にしろ、
買うのに躊躇しますが、

「キューブカステラ」

なら気楽に買えます。


長崎名産のカステラも、
とてもおいしいお菓子です。

しかし、なかなか食べる機会が
ないのが現実ですよね。


やはり、時代に合わせた

「イノベーション」

が伝統菓子にも必要なのだと、
改めて感じました。


*文中で引用した日経MJのコラム
「招客招福の法則」は、2009年8月5日掲載分です。


*オラクルひと・しくみ研究所
 http://www.kosakayuji.com/

*美味芋本舗
 http://www.umaimohonpo.com/

*キューブカステラ(岩田屋オンラインショップから)
 http://www.iwataya.co.jp/net/foods/miyage/07/

製造元、福砂屋のHPには当商品は未掲載です。
(なんで・・・?)

投稿者 松尾 順 : 10:55 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (6)六番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、2006年に公開された「六番」をご紹介します。


第六番は「音楽家特集」と言える内容です。

メインの出演者は全員外国人ですが、
日本からは、

「虚空の音」

の演奏家として以下の人たちが、
心に染み入る演奏を聞かせてくれています。

・奈良裕之(弓、スピリット・キャッチャー)
・KNOB(ディジュリドゥ、天然空洞木)
・雲龍(笛)
・長屋和哉(打楽器・磬)


<ラヴィ・シャンカール>

シタール奏者として、
世界的に有名なラヴィ・シャンカール。

ビートルズ時代のジョージ・ハリスンが
シャンカール氏の音楽に魅せられて弟子入りし、
半年ほど彼の元で修行しています。


シャンカール氏によれば、
インドでは、

「音(ナーダ)」

には次の2種類があると、
言われているそうです。

・アーハタナーダ(私たちの耳に聞こえる通常の音)
・アナハタナーダ(私たちの耳には聞こえない虚空の音)


また、インドには

「ナーダ・ブラフマー」(音は神なり)

という言葉もあります。

この世を生み出し、動かしているのは、
耳に聞こえない音の波だと考えられているのです。

インドで言う「音」とは、
おそらくすべての「波動」を含む概念なのでしょう。

こうした考え方は、

「量子理論」

の考え方(量子は「粒」と「波」の両方の性質を備えている)

に通じるものがあります。


シャンカール氏は、
私たちの耳に聞こえない「波」を美しい音楽に変えて、
世界の人々と分かちあいたいと願っています。


<ケリー・ヨスト>

アイダホ州で生まれ育ち、
その美しい自然をこよなく愛する音楽家、
ケリー・ヨストは、ふるさとの自然環境保護活動
にも積極的に関わってきています。


彼女は一切ライブコンサートを行わず、
じっくりと時間をかけて磨き上げたクラシックの
名曲を収録したCDを自費出版してきました。

ヨスト氏の透明な音楽は、
口コミで世界に広がっていったのです。


彼女は一人っ子として育ちましたが、
山の中にいると孤独を感じません。

河原にある石ころの思いや山の心を
感じることができるから。

すべてのものが「命」だけでなく、
「意識」さえ持っている。

すべてが、しかるべき場所で、
しかるべき役割を持って存在している。

ヨスト氏は、
こうした感覚を音楽の中にも
感じるのだそうです。


演奏者の使命について
ヨスト氏は次のように考えています。

“音楽には、作曲家や演奏者を超えた、
「光」にも似た偉大な力が潜んでいる”

“演奏者は、その偉大な力を引き出し、
 溶け込み、自分を消し去る”

“私は、音楽の「通り道」になりたいのです。”


ヨスト氏は、音楽の「通り道」になるため、
常に自分を清め、波動を整えて透明になろうと
努めています。


<ロジャー・ペイン>

ペイン氏は、ザトウクジラの歌を
水中マイクを使って録音し、解析した結果、
人間と同じ方法で作曲し、歌っていることを
世界で始めて発見しました。

たとえば、基本の旋律を徐々に変化させながら
繰り返し、また基本の旋律に戻る

「ソナタ形式」

の歌をクジラは作ります。

また、しばしば「韻」を踏む曲さえ作ります。

ペイン氏によれば、韻を踏むのは、
長い歌を忘れないためだろうとのこと。

人間とほぼ同じ容積の脳と深いしわを持つクジラは、
私たちのような言葉は持ちませんが、独自の文化を
築いていることは確かです。


クジラの歌は、1977年に打ち上げられた
ボイジャー1号、2号に搭載されたレコードにも
収録されて、今も宇宙を旅しています。

ペイン氏は、このクジラの歌は
私たち自身に向けたメッセージでもあると
述べていました。


私たちは、今ようやく気づき始めているのです。

私たちはショーの主役ではないことに。

人類が、これからも「地球」という舞台の主役
であるかのように振る舞い続けるなら、
舞台そのものを破壊してしまうことになるということに。


*GAIA SYMPHONY official site of jin tatsumura
 http://www.gaiasymphony.com/

*「地球交響曲」公式ガイド 六番

*地球交響曲第六番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 16:08 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (5)五番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、2004年に公開された「五番」をご紹介します。

実は、第四番までの出演者のうち、
第五番の撮影開始時点で次の3人の方が
既にこの世を去っていました。

・野澤重雄
・ジャック・マイヨール
・星野道夫

五番では、彼らの霊を弔うため、
3人の名を記した「精霊船」が流される様子が
含まれています。


また2003年には過去の出演者たちのうち、
以下の4人が次々と来日。

・スーザン・オズボーン(第二番、三番の主題歌を歌った)
・ラッセル・シュワイカート(元宇宙飛行士)
・ジェームス・ラブロック(ガイア理論提唱者)、
・14世ダライ・ラマ
・ジェーン・グドール(霊長類学者)

彼らの来日の模様も収録されています。


さて、第五番のメインの出演者は、
石垣昭子氏とアーヴィン・ラズロ氏の2人です。


<石垣昭子>

草木染織作家、石垣氏は、
一度は廃れてしまっていた沖縄の伝統的な

「草木染織」

を復活した方です。

五番では、「芭蕉」という多年草から、
手作業で繊維を取り出して割き、
糸を生み出す根気のいる工程が紹介されています。


沖縄では、
「魂」のことを「マブヤー」と呼ぶそうです。

石垣氏は、糸づくり・布づくりを手間をかけ、
丹念に行うことで、芭蕉の中に元々あった

「マブヤー」

を糸や布にも残していくことが大事だと考えています。


石垣氏が染色に使う草木は

赤 → 紅露(クウル)、イモ科の自生植物
黄 → 福木(ふくぎ)の表皮
青 → 藍

などです。

山の急な斜面にしか生えない紅露を探し、
取ってくるのは石垣さんの旦那さんの役割。

必要な分だけ取り、根は残します。
新しい実がつくように。


また、樹齢数百年にもなる「福木」から、
表皮の一部を剥ぎ取る際には、次のように祈ります。

“木の神さま、私の分を分けてください”

削りとられた福木の表皮は、
数年のうちに、すっかり再生してしまいます。


石垣氏によれば、化学繊維は、
自然な草木の色には決して染まらない
のだそうです。

だからこそ、「糸」づくりにこだわる。


芭蕉を植えるところから始まり、
ようやく最後に「糸」として目に見える形に
なるまでの膨大な年月と単調な作業の連続は、
実に大変で厳しいものです。

しかし、糸になる以前の

「見えない仕事」

に手を抜かないことが、

「マブヤー」

のある優れた染織作品につながると、
石垣氏は考えているのです。


<アーヴィン・ラズロ>

幼少の頃、天才ピアニストとして
名をはせたラズロ氏。

彼は、芸術的な感性を磨いたおかげで、

「世の中を全体のつながりの中でみる」

という思考をずっとしてきました。


これは、通常の科学の思考法、すなわち
要素に分解していくことでものごとを
理解しようとする

「還元主義的な世界観」

とは異なる見方です。


ラズロ氏は、

“自然界にはなにひとつ偶然はない”

と言います。

すべてがつながっており、
全ての命が共に働き、変化し、進化し、
響き合っている。

ですから、ある場所で起きた微細な変化でさえ
遠く離れた場所に何らかの変化を着実に与えて
います。


さて、最新の量子物理学の研究成果によれば、
私たちは、とてつもないエネルギーに満たされた

「量子エネルギー場」

の中にいます。

そして、世の中のあらゆる出来事は、
この量子エネルギー場に何らかの痕跡を
「情報」として残すのだそうです。

この情報は、量子エネルギー場に
ずっと記憶され続けるのです。


ラズロ氏は、

“宇宙は記憶を持っている、だから
 過去は今も生きています。”

と述べています。


ダーウィンは、生命は偶然(の変異)によって
進化したと考えましたが、偶然で進化する
確率は極めて低いのです。

むしろ、生命は、量子エネルギー場を通じ、
現在・過去の情報をお互いに交換しあうことで
効率的に進化を果たした。

ラズロ氏はこのように考えています。


*GAIA SYMPHONY official site of jin tatsumura
 http://www.gaiasymphony.com/

*「地球交響曲」公式ガイド 五番

*地球交響曲第五番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 14:49 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (4)四番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、2001年に公開された「四番」をご紹介します。


<ジェームズ・ラブロック>

ラブロック氏は、「ガイア理論」の提唱者です。

彼は、地球がひとつの生命体である根拠として
映画の中で2つの現象を示しています。

ひとつは、地球の平均気温が、
おおむね一定に保たれてきたことです。

もちろん、地域によって寒暖差がありますが、
おおむね生命が耐えられる温度の幅に維持されている。

実は、数十億年前と比較して、
現在の太陽の温度は30%も高くなっていることが
わかっています。

それでも気温が高くなりすぎないように、
地球はうまく自己調節してきているということなのです。


また、大気中の酸素濃度も過去8億年間、
ずっと21%に保たれてきています。

あと1%酸素濃度が高かったら、
山火事が消えることができず、
地球の森林は消滅してしまうと考えられています。

つまり、酸素濃度は、
極めて微妙なレベルに維持されてきています。


生命にとって「地球環境」は、
外部にある所与のものではありません。

生命もまた地球環境の形成・維持に
さまざまな形で寄与しているというのが真実。


ラブロック氏は、
観念的・抽象的な「神」の存在を
否定はしませんが、むしろ、
目に見え、感じ、理解することができる

「地球」

そのものを敬うことを勧めます。

そうすれば、私たちが何をすべきか、
また何をすべきでないかという道徳的な判断も
可能になると主張しています。


<ジェリー・ロペス>

ハワイ生まれの伝説的なサーファー。

彼の母親は日系3世で、

“イタクラ・ケン”

という日本名も持っています。


彼にとってサーフィンはダンスのようなもの。

サーフボードがパートナー。波が音楽。
波に乗ってダンスが始まるのです。


ロペス氏は、長年、
海という強大な大自然と共に過ごしてきた体験から、

“大自然には対抗できない。
 対抗しようとすれば悲惨な結果を招く。
 我々ができるのはともに歩むことだけだ”

と考えています。


<ジェーン・グドール>

ジェーン・グドール氏は、
チンパンジーが道具を使うことを
初めて発見した世界的に有名な霊長類学者です。

彼女は、実は1歳半の頃、
父親からチンパンジーのぬいぐるみをもらい、

ジュビリー(Jubilee)

と名づけて、肌身離さず大切にしてきました。

後にチンパンジー研究の道に入ることになるとは、
ジュビリーはまさに「予兆」だったと、
グドール氏は述べています。


彼女は、チンパンジーの生態観察のため、
最初、タンザニア・ゴンベの森に入り、
母親と共にテント生活をしていました。

森にずっと暮らしたおかげで、
彼女が気づいたことがあります。

それは、

森には「死」というものがない

ということです。

あるのは生命の循環だけ。


一本の木が倒れると、
そこから新しい命が育まれる。

「死」が次の「生」をもたらしてくれる
ということがはっきりわかるのです。


<名嘉睦稔(なかぼくねん)>

沖縄県・伊是名島生まれの版画家。

彼の作品のほとんどには、
伊是名島で毎日触れ合った、

豊かな色彩や奇妙な形

を持つ生物たちの独特のイメージが
刷り込まれています。


睦稔氏は、
子どもたちへのメッセージとして
沖縄に昔から伝わる、ある格言を
紹介しています。

それは、

「生(う)まりれぇー 同歳(ちゅとぅし)ん人(ちゅ)」

というものです。

この言葉は、この世に生を受けた者は、
子どもも、90歳のお年寄りも全て同じ年だと考えよ
という意味です。

なぜなら、いつ死ぬかは、
現在の年齢とは関係ないからです。

だからこそ、生きている今、この瞬間を
おろそかにしてはいけないのだということを
教えているのだそうです。

“この世界は本当にすばらしい、
 世界の子どもたち皆が幸せになったとしても、
 決して幸せが減ることはない”

睦念氏はこう信じています。


*GAIA SYMPHONY official site of jin tatsumura
 http://www.gaiasymphony.com/

*「地球交響曲」公式ガイド 四番

*地球交響曲第四番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 16:15 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (3)三番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、1997年に公開された「三番」をご紹介します。


<星野道夫>

アラスカの大自然や人をモチーフに
私たちの目をひきつけて離さない写真を
数多く残した星野道夫氏。


彼は、1996年8月8日、
ロシアのカムチャツカでヒグマに襲われ、
この世を去ります。

同年9月から、第三番の出演者として、
取材が始まる直前のことでした。

したがって、第三番は、
星野氏と親しくしていたアラスカの友人たちによる、
星野氏の回顧録的な内容になっています。


実は彼は、アラスカの少数民族、
クリンキット族から、

「カーツ」

という名前をもらっていました。

「カーツ」は、クマの父親、
人間の母親を持つ伝説上の存在です。

クリンキット族はクマを崇める一族であり、
星野氏は、その一族として認められたのでした。

皮肉なことに、
星野氏はクマに襲われて命を落とします。

友人たちはこの悲劇について、

“道夫は自らの命をクマに捧げたのだ”
“道夫は、クマのことを悪くは思っていない”

と考えることで、
かけがえのない友を失った気持ちの整理を
しています。


でも実際、星野氏自身は、
次のように語っているのです。

“一撃で人を倒せるクマの力を知ると、
 そんな自然がまだこの地球にあると
 わかって、ちょっとほっとしますね・・・”


<フリーマン・ダイソン>

天才物理学者。

弱冠24歳で、相対性理論と量子力学を統合する方程式、

「ダイソン方程式」

を発見します。

ダイソン氏は、地球は、
月の表面のように単調ではなく、
多様な命で満ち溢れているからこそ
美しいのだと述べています。


そして、ダイソン氏は、
この美しい地球を今のままで残すためには、
人類は宇宙に移住すべきであると考えています。

彼によれば、この宇宙移住は、
数千年以内に実現するだろうとのこと。
(それまで地球がもつでしょうか・・・?
 私個人としてはそれでは手遅れのような気がしますが)


<ナイノア・トンプソン>

トンプソン氏は、ハワイの先住民族です。

彼が最初に学んだ言葉はハワイ語です。
そして、小さい頃は先住民族の文化に
囲まれて育ちました。

ところが、学校に入ったとたん、
ハワイ語を話したり、フラダンスを踊ると
ムチで叩かれ、止めさせられるという経験を
しています。


さて、ハワイの先住民族の祖先は、
南方のミクロネシアから、数千年前、
太平洋5千キロをはるばる航海して
やってきたと考えられていました。

しかし、そんな昔の素朴な航海技術では、
5千キロも離れた島からやってこれるわけが
ないと、この可能性は否定されていたのです。


そこで、トンプソン氏は、
太陽や月、星、風、波などの自然の様子だけで
船の位置や方角を推測し、進路を決定する
ナビゲーション技術を学びます。

そして、1980年、500年ぶりに復興した
遠洋航海カヌー「ホクレア号」のナビゲーター
として、海図や磁石、羅針盤等を一切使うことなく、
ハワイ=タヒチ間の往復航海に成功したのでした。


彼は、心の中に目的地である島をはっきりと
イメージすることの重要性を説きます。

月も星も隠された曇天の夜、
風も吹かず、波も見えない漆黒の闇の中を
漂う船上でどうやって進むべき方向を知るのか?

それは、目で見ようとすることではなく、
自分の内面に気を集め、外界の自然を感じること
によって、見えない島をビジョンとして描き出す
ことによってです。

心の中の島の存在を本気で信じることができれば、
道を失うことはありません。


トンプソン氏は、子どもたちにも、
見えない島への航海に出て欲しいと願っています。

*GAIA SYMPHONY official site of jin tatsumura
 http://www.gaiasymphony.com/

*「地球交響曲」公式ガイド 三番

*地球交響曲第三番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 15:02 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (2)二番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、1995年に公開された「二番」をご紹介します。


<佐藤初女(はつめ)>

厳格な士族の娘として生まれた佐藤さんは、
若い頃、結核に苦しみました。

ある時、「薬」では自分の病気は治らないと
悟った佐藤さんは、地元で取れる自然の食材を
使った食事を通じて健康を回復するのです。


佐藤さんが、
青森県の岩木山のふもとに開設した

「森のイスキア」

には、全国から、
苦しみや悲しみを抱えた人がやってきます。


佐藤さんは、素朴な、しかし、
自然の恵みにあふれた食事を彼らにふるまい、
ただそばに寄り添うだけです。

ところが不思議なことに、
彼らは生きる勇気をもらい元気に帰っていきます。


佐藤さんは「めんどくさい」というのが嫌いです。

何事も、ある程度の線まではみんなやる。
しかし、そこで「めんどくさい」とやめてしまう。

佐藤さんはめんどくさがらず、
その線を超えるまでがんばるのです。

また、「今日」と「明日」が同じなのもいやです。

ちょっとでもいいから違っていたい。

そのために佐藤さんは日々の生活の
細かいことにも、決して手を抜くことがありません。


この映画で紹介される
青森県・弘前の四季の移ろいは本当に美しいです。


<ジャック・マイヨール>

1983年、56歳の時、ジャック・マイヨールは、
素潜り(フリーダイビング)で

105m

という世界記録を樹立します。

ちなみに、同等の競技(コンスタント・ウェイト)
の現在の世界記録(男)は122m。日本記録は105m。


マイヨール氏は子どもの頃、
佐賀・唐津の海で海女の子どもたちと
泳いでいました。

ある日、近くに寄ってきたイルカと
マイヨール氏の目が合った瞬間、彼は閃きます。

「将来、自分はイルカと一緒になにかやることになる」

と・・・


さて、マイヨール氏は、

「生」と「死」

は、「表」と「裏」の関係だと考えています。

例えば、赤ちゃんは、
生まれる時、「死」を通過してくるのです。

すなわち、母親とつながっていた

「へその緒」

を切られます(これが死)。

しかし今度は、

「呼吸」

によって母なる大宇宙とつながる。
大宇宙という子宮に戻るようなものだと、
語っています。


彼の夢は、

「イルカの老人ホーム」

を作ることでした。

すなわち、水族館で長年人間に
奉仕させられてきたイルカたちが、
余生をゆっくりと送れる場所を提供すること。


残念ながらマイヨール氏は2001年に
自らの命を絶ち、イルカの老人ホームが
実現することはありませんでした。


<フランク・ドレイク>

ドレイク氏は、

ET(地球外生命体)

の存在の可能性を示した

「ドレイク方程式」

で有名です。


ドレイク方程式によれば、
私たちが交信可能な宇宙人(宇宙文明)の数は、

最低20万~最大200万

と考えられます。

ただ、過去半世紀にわたて続けられてきたものの、
宇宙人の存在を立証できるデータは、
まだ入手できていないようです。

ひょっとしたら、米国政府が
隠しているのかもしれませんが・・・

余談ですが、米国人が、米国政府に
開示を求める資料のトップに来るのは、
宇宙人についての極秘資料です。


ドレイク氏は、宇宙人に会いたい理由を
次のように語っています。


“自分が何者であるかを知りたいのです。
 そして、これから人間はどうなっていくのか
 また、地球に人間が登場した理由を教えてほしい。
 彼らは我々よりもはるかに進化しているはずですから”


<14世 ダライ・ラマ>

14世ダライ・ラマは、
13世の生まれ変わりとして2歳の時発見され、
4歳で法王に即位。

法王は、自分の小さい頃を振り返り、
ダライ・ラマとしての修行は厳しいものだったが、
いつもいたずらをしたり冗談ばかり言う子ども、
つまり、

「ふまじめダライ・ラマ」

だったと自らを茶化しています。


法王は、チベット人の典型的な気質として、

穏やか、ほがらか、友好的、平和的

といった点を挙げます。

こうした気質が育まれる背景には、
仏陀の教え、特に、

「全ての生きとし生けるものに尽くす」

という大乗仏教の教えがあります。


法王の夢は、

「チベットを世界の人のための平和と癒しの地にすること」

です。

このためには、チベット人一人ひとりが
平和な心を持つ必要があります。ですから、
教育に最も力を入れているのだそうです。


法王は、
地球の未来に対してとても楽観的です。

私たち人類の知性によって、
問題は解決できると確信しています。


ただし、全ての人たちの

地球的規模での気づき

が必要だと法王は強調します。
この世界は全てがつながりあっているからです。


法王自身も、

自分にできることを精一杯やるだけ

だと語っています。


*GAIA SYMPHONY official site of jin tatsumura
 http://www.gaiasymphony.com/

*「地球交響曲」公式ガイド 二番

*地球交響曲第二番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 11:15 | コメント (0) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (1)一番

当シリーズ映画の基本コンセプトは、

「“母なる星地球(ガイア)”は、それ自体が一つの大きな
 生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、
 他の全ての生命体と共に、今、ここに生かされている」

というもの。

世界の賢人たちへの取材を通じて、
ガイアの思想が決して妄想でないことを
実感させてくれます。


今回は、1992年に公開された「一番」の中から、
印象深いところを抜粋してご紹介します。


<野澤重雄氏>
野澤氏は、たった一個のトマトの種を
巨木のように大きくし、1本のトマトの木から、
13,000個以上の実をつけることを実現した植物学者。
(普通に育てたトマトになる実は、
 1本あたり60個くらいだそうです。)

トマトの巨木を育てるのに、
野澤氏は、農薬も遺伝子操作も行いません。

水耕栽培によって、
最初からたっぷりと水分と養分を与える。

すると、トマト自身がそのような環境に
あることを把握し、その生命力を大きく
発揮するのだそうです。

大事なのは、まだものごころがつかない
小さな芽のうちから、

「大きく育っていいんだ!」

ということをトマトに感じさせることなのです。

あらゆる生物は、
周囲の環境を明確にキャッチし、
その環境に適応しようとします。

小さな鉢に植えられた盆栽が、
庭に植え替えられたとたん大きく育つのは、
外部環境の「許容度」みたいなものを
ちゃんと感じていることの証拠でしょう。


野澤氏によれば、現在の科学ではまだ、
1本のトマトが13,000個もの実をつけることを
うまく説明できないのだそうです。

科学は絶対ではありません。

自然の高度なメカニズムは、
現代の科学の枠を超えたところにあります。

野澤氏は、科学者と一般人が一緒になって、
このかけがえのない地球の自然環境を守っていく
べきだと考えています。


<ラッセル・シュワイカート>

シュワイカート氏は、
アポロ9号に乗った元宇宙飛行士。

宇宙飛行士になる前は、
原子爆弾を積んだ戦闘機のパイロットでした。

当時、彼は東南アジアの有事に
備えていたのですが、
もし原子爆弾の投下命令を受けたら、

・自分は投下するだろうか
・何を基準に投下するのか

をいつも考えていました。

ただ、考えた結論は、いつも

「投下する」

ということになったのだそうですが。
(シュワイカート氏は、広島に何度か訪れて、
 日本の原爆被害者に追悼を捧げています)

さて、シュワイカート氏は、
宇宙からみた地球の美しさに驚嘆し、
人生観が変わってしまいました。

彼は、宇宙で彼が感じた気持ちを説明するのに、
スペースシャトルに搭乗したサウジアラビアの
サウド王子の言葉を引用しています。

“宇宙に行って1日目、まず自分の国を探す。
 3日目には、自分の大陸を指差す。
 5日目、私たちはただひとつの地球を見るようになる”


シュワイカート氏は、人類が宇宙に飛び出すのは、
母なる地球という子宮から生まれ出るようなもの
と考えており、

「宇宙的誕生(Cosmic Birth)」

と言う言葉を使っています。


<ラインホルト・メスナー>

メスナー氏は、世界の8,000m級の高山すべてを
単独・無酸素での登頂に成功したスーパー登山家。

高度8,000mは、
およそ生命の存在を許さない死の世界。

なぜ、メスナー氏は、
そんな死の世界に無酸素で挑戦したのでしょうか?

山を征服したかったのではありません。
自分が登れるということを証明したかった
わけでもない。

一言でいえば、自分を知りたかった。

自分という有限の肉体、ハダカの肉体を試し、
どれだけ命の可能性を拡げられるかを
確認したかったのです。

メスナー氏もまた
極限への挑戦を通じて、
自分が大自然の一部であることを
強く実感しています。


そして彼は、人間にとって

・スピリット(霊的な魂)
・マインド(理知的な心)
・ボディ(物理的な肉体)

の3つの要素の調和が大切だと感じています。

もし、病気などボディに問題があれば、
スピリットやマインドも影響を受けます。

結局のところ、人は3つの要素のうち、
一番弱いところを基準に生きるしかないと
メスナー氏は考えているのです。


<ダフニー・シェルドリック>

シェルドリック氏は、
密猟者によって母象を殺され孤児となった
「小象」を引き取って育てる

「動物孤児院」

を数十年にわたって運営してきました。


シェルドリック氏によれば、
象の一生は人間ととてもよく似ています。

20歳くらいで成年に達し、
60-70歳くらいまで生きます。

象は、その長い敏感な鼻と大きな耳で、
人間には感知できない匂いや音を聞き分け、
また遠方の仲間たちと交信(テレパシー)を
行うことができます。

しかし、アフリカの厳しい自然で
生きていくためには、オトナの象から多くのこと
を学ばなければなりません。

象の群れを率いているのは、
面白いことに年寄りのメスの象だそうです。

長老的存在のそのメス象は、
いつ乾季がやってくるのか、
乾季の時どこに行けば水にありつけるかと
いったことを知っていて自分の群れを安全に
率いるのです。

シェルドリックが育てた小象は、
最終的には野生に戻すします。

その手伝いをしてくれるのが、
やはり2歳の頃に引き取り育てたメスの象、

「エレナ」

です。

エレナは既に30数歳となっていますが、
ひときわ母性愛が強く、シェルドリック氏の
ところで育てられ、乳離れをした2歳過ぎの
小象を預かり、大人になるまで野生の中で
彼女が育て上げてくれるのだそうです。

エレナを深く愛しているシェルドリック氏の願い、
それは、彼女が自分の赤ちゃんを産むことだと
語っています。


<エンヤ>

アイルランド出身の歌手、エンヤは、
自分自身を

“現代に「ケルトの魂」を伝える音楽家”

だと自覚しています。

ケルト人は、
ヒマラヤのふもとからヨーロッパに
移り住んだといわれる民族。

後に、アングロサクソン、ゲルマン民族などに終われ、
主にアイルランドの地でその文化を守り伝えてきています。

ケルト人は、
全ての自然現象の中に神が宿ると考え、
自然との調和を重視しました。

(日本の「八百万の神」と似ていますね)

エンヤの音楽を聞くと、
そんな自然との一体感が感じられます。

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*地球交響曲第一番 スペシャルエディション【DVD】

投稿者 松尾 順 : 14:30 | コメント (2) | トラックバック

地球交響曲 -GAIA SYMPHONY- (0)イントロダクション

『地球交響曲 -GAIA SYMPHONY-』

は、現在6本(第6番)まで制作されたドキュメンタリー映画。
(最近、7本目の撮影がクランプアップしてます)


このシリーズ映画を貫いている

「メインテーマ」

は、監督の龍村仁氏によれば、

「地球の中の私、私の中の地球」

です。

様々な分野で偉業を成し遂げ、
あるいは活躍している人々への丹念な取材を通じて、
地球はひとつの生命体であると考える

「ガイア理論」

の視点から、地球の未来、今後の人類の歩むべき道について
多くの示唆を与えてくれる内容となっています。


当映画は一般の映画館で公開されたことはありません。

今も全国各地で開かれている自主上映会によって、
人々の目に触れ、多くの共感者を獲得してきています。


私も5年ほど前に自主上映会で見て感銘を受け、
後にDVD化された6本の作品を自宅で繰り返し見ています。

見るたびに新たな発見があります。

またなんともいえない不思議な感慨が、
私の胸を満たします。

おおげさな言い方になりますが、
一個人としてではなく、「ガイア」のちっぽけな
ひとつの構成員に過ぎない「人類」としての覚醒が
もたらされられるといったところでしょうか・・・


どなたでも一度は見る価値のある映画だと、
私は感じています。

そこで、今日からしばらく、
1992年に公開された第1番から最新の第6番まで、
毎日1本ずつ、その内容を簡単にご紹介していきます。

目先のビジネスには役立ちませんが、
まあ、お盆の時期くらい、仕事とは直接関係ないけれど、
私たちの未来に深い関係のあるテーマについて考えて
みるのもいいんじゃないでしょうか?


今回は、これまでのシリーズに登場した主な著名人を
紹介して終わりにします。


<第一番>

・野澤重雄(植物学者)
・ラッセル・シュワイカート(元宇宙飛行士)
・ラインホルト・メスナー(登山家)
・ダフニー・シェルドリック(動物保護活動家)
・エンヤ(ミュージシャン)
・鶴岡真弓(美術史学者)

<第二番>

・佐藤初女(森のイスキア主宰)
・ジャック・マイヨール(海洋冒険家)
・フランク・ドレイク(天文学者)
・14世ダライ・ラマ方法(チベット仏教最高指導者)

<第三番>

・星野道夫(写真家)
・フリーマン・ダイソン(宇宙物理学者)
・ナイノア・トンプソン(外洋カヌー航海者)

<第四番>

・ジェームズ・ラブロック(生物物理学者)
・ジェリー・ロペス(レジェンド・サーファー)
・ジェーン・グドール(野生チンパンジー研究家)
・名嘉睦稔(木版画家)

<第五番>

・大野明子(産科医)
・石垣昭子(草木染織作家)
・アーヴィン・ラズロ(哲学者、物理学者、音楽家)

<第六番>

・ラヴィ・シャンカール(インド音楽家)
・ケリーヨスト(ピアニスト)
・ロジャーペイン(鯨の歌を解析した研究者)


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投稿者 松尾 順 : 13:02 | コメント (0) | トラックバック

買物難民を救え!

落語家の桂ざこば師匠が、
今年10月、免許証が切れるのを契機に、
「運転免許」を返上するつもりだそうです。
(桂ざこばのざっこばらん、日経MJ、2008/08/07)


ざこば師匠はまもなく62歳。

年のせいか、運転能力の低下を
感じるようになったのが返上理由です。

まだ60歳そこらなのに、
もう運転免許を返上するとは、
ずいぶん気が早いなあ・・・と思います。


でもまあ、ざこば師匠は毎日のように
酒を飲んでますし、いざとなれば、
弟子たちなどに送り迎えさせることも
できるので、自分で車を運転できなくなっても、
それほど困らないのでしょう。


しかし、地方にすむ高齢者にとって、
自分の車がない、また、自分で運転できないことは、
まさに死活問題に近いものがあります。

これは、日常の「買い物」が「おおごと」に
なってしまうという意味です。


たとえば、私の両親が住む福岡の実家は、
田園地帯の集落にあります。

近くに商店街は存在しません。

幸い、徒歩3分ほどのところに、
私が生まれる前からやってる「よろずや」的
個人商店があるものの、最寄りのスーパーまでは、
車でないととても行けません。

もし、父(75歳)が将来運転免許を返上してしまったら、
佐賀に住む弟に来てもらうか、タクシーを呼ばないと、
かさ張る系の買い物はできなくなってしまいます。


帯広大学畜産大学教授、杉田聡氏は、
歩いていける距離に商店がなく、また車を自分で
運転できないことが原因で、買い物に困っている
高齢者の実態を足かけ7年かけて調査しました。
(日経新聞夕刊、2009/08/06)


杉田氏は、買い物に困っている高齢者を

「買物(かいもの)難民」

と名づけています。


買物難民が発生した背景には、
自動車の普及によって郊外に大型店が展開したため、
客を奪われた地元の個人商店や商店街が衰退・消滅して
しまったことがあります。


全国13市町村、65歳以上の1人暮らし、または夫婦だけの
高齢者を対象に行った、杉田氏のアンケート調査結果によれば、

・買い物の行き来に苦労を感じていると答えた人が5割、
 75歳以上になるとこれが6割にアップ

・車が運転できるなど、現在買物難民でない人も、
 4人のうち3人が今後の買い物に不安を抱いている

といった現状が明らかになっています。


さて、以上の話を聞いて、
さまざまなビジネスチャンスの存在を
感じられた方が多いのではないでしょうか?

高齢者の買い物をサポートすることは、
社会的にも意義のあることですし、
相応の対価もいただけるでしょうから、
事業として成立する可能性も高いですからね。


大手スーパーなどが、
インターネットで注文を受け、
戸口まで配送する

「ネットスーパー」

に続々と乗り出してきているのは、
社会的要請と事業としての魅力の両方が
高まってきたからだといえます。


ただ、高齢者の場合、
ネット・リテラシーが高い人は少数派ですね。

そこで、PC経由だけではなく、
電話で注文を受けたオペレーターが、
高齢者の代りにWebサイトを操作して
注文を完了するサービスを提供している
ところもあります。


また、個人宅に商品を届けるのではなく、
自宅近くからお店まで格安料金(片道100円など)で
送迎バスを毎日運行している大型店もありますね。


「買い物付き添いタクシー」の展開もありでしょう。
(以前からやってる会社ありますが・・・)

ただ、現行の料金システムでは割高になるため、
利用が進まないと思われます。

しかし、福岡で営業している

「遠賀タクシー」

のように、独自の料金システムを持ち、
乗客がこの仕組みを理解してうまく使いこなせば
従来よりもはるかに安い料金で乗れるような
タクシー会社が増えれば、買物難民にとって
救世主になるかもしれませんね。


遠賀タクシー(Wikipedia)

投稿者 松尾 順 : 14:56 | コメント (1) | トラックバック

祝福を受けた不安

先日、長期宇宙滞在から帰還した若田光一さんは、

“人類は進化できる。1カ月も経過したら宇宙の過酷な
 環境にも適応できた”

とコメントしていました。


若田さんは、人類が永遠に生存するために、

「宇宙開発」

はリスクはあっても取り組む価値のある
重要な仕事だと考えています。


私の個人的な解釈ですが、
人類を含む「地球」というひとつの生命体を
存続させるためには、

「人類の一部が宇宙に移住するしかない」

という考えが若田さんにもあるのではないでしょうか?


以前と違って、もはや地球は、
過剰に増加し、また資源をムダに消費するばかりの
人類を支えきれないからです。

地球をサスティナブル(持続可能)な状態にしておくためには、
生態系として完全に循環可能なレベルまで社会・経済活動を
抑える必要があります。

もし、それが難しければ、地球外の未開拓の資源を求めて、
私たちは宇宙に新たな生息地を見つけるしかないのかも
しれません。


とはいえ、まだ希望は残されています。

現在の地球が抱える様々な問題に立ち向かっている、
草の根的な活動が世界のあちこちで活発化しつつある
からです。

こうした活動は、生命体が備えている

「免疫システム」

のようなものだと指摘するのは、
環境活動家、起業家、ジャーナリストの

ポール・ホーケン氏

です。


ホーケン氏は、著書

『祝福を受けた不安』

の中で次のように書いています。

“数十万もの非営利組織で行われている活動は、
 政治腐敗、経済的困窮、環境悪化という
 「外部からやってくる毒」への免疫反応として
 見ることが可能だ”

“免疫システムが組織の長年にわたる永続性を
 保つために内的防御を行うのと同じく、サステナビリティ
 (持続可能性)の思想は人間にとって長きにわたって
 存在しつづけるための戦略なのである”


天然資源破壊や、ゴミ廃棄物の増加、文化の根絶、
労働者搾取といった私たちが抱える問題は、
人体にとっての肝炎やガンのようなものなのです。

病気に対して人体は、
体内のあちこちに分散している免疫システムが
ネットワークで連携しながら対抗します。

同様に、環境運動を始めとする世界各地の社会活動は、
インターネットや携帯電話など、デジタル革命のおかげで、
実に容易に連携可能になりました。

ひとつひとつの組織は多くは小規模で、
けっして強くありませんが、お互いに連携しあうことで、
地球・人類が苦しんでいる病気に立ち向かう力を得つつ
ある、と言えそうです。


先日、邦訳が出たばかりのホーケン氏の
『祝福を受けた不安』は、ひとことで言えば、

「着実に進行している各種社会活動の最新報告書」

です。

同書で取り上げられている様々な社会活動は、
もちろんメインストリームではなく、まだ周辺部で
うごめいているだけの目立たないものがほとんど。

しかし、じわじわとその勢力を強めていることが、
同書を読むと実感できます。


『祝福を受けた不安』は、
内容自体は確かに難しいのですが、
とても読みやすく書かれています。

あまり環境活動等に興味のなかった方も
面白く読めるのではないかと思います。


今後の社会の進化の方向性を「読む」上で、
アーヴィン・ラズロ氏の著作と並んで
必読書のひとつといえるかと思います。


『祝福を受けた不安』
(ポール・ホーケン著、阪本啓一訳、バジリコ)

投稿者 松尾 順 : 13:15 | コメント (0) | トラックバック

「ロゴス文明」から「ホロス文明」への社会進化

「地球は、“ひとつの生命体”であり、
 地球に存在するすべての物質や生命は、
 相互に結びつき、関係し合っている」


ジェームズ・ラブロック氏の「ガイア理論」では、
上記のような考え方を提唱。

当初は多くの学者たちから強烈な批判を受けましたが、
現在は、ほぼ「定説」となりました。


そしてまた、

「物質も生命もすべてが結びつき合っている」

ということ、言い換えるなら、

「天地同根万物一体」

であるという点は、
最新の量子物理学の枠組みにおいて、
説明可能であることがわかってきています。


ですから、私たちが時折感じることのできる、
気の合う仲間たちとの一体感、あるいは、
大自然に囲まれたときに沸々と湧いてくる
動植物たちとのつながり感は、

「スピリチュアルな幻想」

に過ぎないのではなく、
科学的に説明できるリアルな現象と言えます。


さて、この一体であるはずの地球を、
その構成員でありながら、崩壊させつつあるのが、
私たち「人類」ですね。

こうした警鐘もまた、つい最近までは、

“極端なエコロジー思想にとりつかれた人々の
「たわ言」に過ぎない”

と無視したり、バカにする人がほとんどでした。


しかし、もはや、市井の一般人でさえ、

「なんか地球、まずいことになってきてるぞ・・・!」

という実感を禁じえないほどの状況にまで
来てしまったように思います。

そして、従来の考え方、生き方を続けるわけに
はいかなさそうだと、誰もが明確に自覚しつつあります。

「包括的進化論(GET)」の紹介記事で
述べたように、現在、私たちは、

「社会」や「精神」の新たな進化

が求められる「岐路」に立っているわけです。


アヴィーン・ラズロ氏によれば、
現在の私たちは、

「進化か絶滅か」

という地球規模の転換点=マクロシフトに
近づきつつあると述べています。

そこで、ラズロ氏は、
望ましい社会の進化の方向性として

・現在の権力と征服を重視する「ロゴス文明」(理性重視文明)

から、

・個人の成長と、人間のコミュニティと生物圏の持続可能性
 を核とした「ホロス文明」(全一性重視文明)

への移行を提唱しています。


ホロス文明は、
既にその芽が大きく成長しつつあります。

そして、この文明をリードしているのが、
例えば、社会学者のポール・レイ氏が消費者調査に
基づいて提唱した

「文化的創造性を持つ人々」(Cultural Creatives)

であり、日本なら、
消費社会研究家の三浦展氏が命名した

「シンプル族」

だと言えるでしょう。


ホロス文明の主役になるであろう彼らは、
現在は依然として周辺部にいる人々であり、
決して主流派ではありません。

しかし、消費動向において、
明確な徴候を捕捉できるくらいの規模まで
じわじわと増えてきています。

ですから、ビジネスの視点で言えば、
企業が、ロゴス文明からホロス文明へと、
その基本思想を切り替えることができない限り、
これからの消費者の心を動かす商品開発や
コミュニケーションはできないということが
言えるのではないでしょうか?


『グローバルブレイン 未来への鍵‐地球崩壊を止めるために
 よりよい世界へ向かう世界頭脳のクォンタムシフト』
(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳、バベル・プレス)

『シンプル族の反乱 モノを買わない消費者の登場』
(三浦展著、KKベストセラーズ)

投稿者 松尾 順 : 13:39 | コメント (1) | トラックバック

包括的進化論 - GET( General Evolution Theory) - 後編

ダーウィンが提唱した「進化論」では当初、
自然淘汰を通じて、生命の種の進化は段階的に起こる、
つまり‘少しずつ’変化していくと考えられていました。

このことについて、ダーウィンは、
植物学者のリンネに倣って、

“自然は跳躍しない”

と断言しています。


しかし、研究が進むにつれ、

「進化は跳躍的である」

という説の方が有力となってきています。


既存の種は存続している間、
ほとんど変化(=進化)しないのです。

そして、外部環境の変化に伴い、
それまで優勢だった既存の種が適応困難となり、
絶滅の危機へと追いやられます。

一方、周辺部で偶然に出現した新種や亜種が、
新しい環境で優勢となっていくのです。

こうして、既存種から新種・亜種へと

「進化の跳躍」

が起こるというわけです。


では、社会全体の進化について考えてみましょう。

社会の場合も、生命と同様、
次のような進化のプロセスが観察されるのです。

中心部に居座り、優勢な大多数を占める

「変化しない人間」

が大きな環境変化に直面して不安定な状況になります。
(しかしなかなか変わろうとはしない)

一方で、周辺部に孤立させられていた

「少数の人間」(おそらく奇人・変人と呼ばれた人たち)

が、環境変化に乗じて多数派に挑戦し、
中心部へと侵入して、ついに多数派を追い出して
しまうのです。


これは企業の栄枯盛衰をイメージすると
わかりやすいでしょうね。

以前、日経ビジネスが、

「会社の寿命30年説」

を提唱しましたが、実際、ひとつの企業が
その時々の環境変化に柔軟に対応し、
段階的な進化を長期的に続けるケースは、
あまり多くありません。

ほとんどの場合、既存の企業は滅び、
新しい時代に適応可能な新興企業が取って
代わります。


アーヴィン・ラズロ氏は、
社会の変化もこのように跳躍的であり、
稀にしか起こらないこと、
そして、進化を引き起こす

「きっかけ」(誘引)

としては、大きくは以下の3種類がある
と述べています。

*新しい種の誕生をもたらすという意味で
 「分岐」という言葉をラズロ氏は用いています。


1 T分岐

新しい技術の登場によって、
既存の社会が不安定となります。

そして、新しい技術を積極的に導入した
人間たちが形成した新しい社会が古い社会
を呑み込んでしまうものです。

いわゆる産業革命が典型的なもの。

20世紀末から始まったデジタル・インターネット革命
もまた、私たちの社会を根底から作り変えつつあります。


2 C分岐

様々な紛争によって誘引された進化。

いわゆる政治的な革命です。
国際的な戦争や内戦が伴う場合もあります。

「革命」は、

「旧体制」

を不安定化させた脅威や難問に対応できるような、
制度、行動、価値観を作り出すという機能を
担っているようだ、とラズロ氏は指摘しています。


3 E分岐

経済危機や社会危機によって誘引される進化。

まさに今、私たちが経験している経済危機も
そのひとつかもしれません。

しかし、目先の「経済危機」以上に深刻であり、
適切な「社会の進化」(さらに言えば「精神の進化」)
が求められる誘引があります。

それが

「地球環境問題」

です。


地球は、ひとつの生命体であり、
自己調節機能を持っているという考え方があります。

これは「ガイア理論」と呼ばれるもので、
地球の環境(空気の組成や気温など)を

生命に適した一定のレベルに維持する力

を地球全体として持っているというものです。


ところが、人間は、社会の進化の過程において、
まるで、地球は人間の占有物であるかのように扱った結果、
地球が持っていた自己調整機能を破壊しつつあります。

その悲観的な末路はもちろん人類滅亡ですね・・・


私たちは、自らがもたらしたものですが、
人類史上最大の危機といえるE分岐上にいます。

周辺部にいた地球環境保護を重視する人たちが
中心部へと勢力を拡げ、利己的な利益を重視し、
むやみな経済発展を推進してきた多数派の人々を
蹴散らしつつある。

私たちは、E分岐による跳躍的な社会進化を
今体験し、また目撃しているのだと言えるのかもしれません!


(参考書籍)

『進化の総合真理』
(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳、バベル・プレス

『ガイアの復讐』
(ジェームズ・ラブロック著、竹村健一訳、中央公論新社)

投稿者 松尾 順 : 13:35 | コメント (0) | トラックバック

包括的進化論 - GET( General Evolution Theory) - 前編

私たちが

「進化」

という言葉を聞いた時、ほとんどの方は

「生物の進化」

をイメージするかと思います。


まあ、最近は、

「ウェブ進化論」
「プロフェッショナル進化論」
「ブランド進化論」
「読書進化論」

といったように、
比ゆ的に使われるケースも多いので、
人によってずいぶん違ったイメージが
湧くかもしれませんね。


さて、「進化」という言葉が表す

「変化のパターン(の共通性)」

に着目し、宇宙全体のあらゆる事象に適用可能な、
拡張された概念としての、新しい「進化理論」が
提唱されているのをご存知でしょうか?


これは

包括的進化論 - GET( General Evolution Theory) -

と呼ばれています。(以下「GET」)

当理論の創始者は、ピアニストかつ哲学者の
アーヴィン・ラズロ氏。


ラズロ氏は、

「進化の総合真理」(バベルプレス)

の中で、次のように述べています。

“この新しい「進化」の概念が意味するのは、
 生物の進化だけではなく、我々が知っているものと
 しての宇宙のなかで、出現し、存続し、変化し、
 また消滅する、すべてのものの進化である”


そして、GETについては、

“ある学問が科学と呼ばれるに必要な、
 基本的な規範を満たしており、日々経験する無秩序と
 思える様々な出来事の根底にある、包括的・網羅的
 かつ一貫性のある意味を見出すことを目指している”

のだそうです。


ラズロ氏は前掲書において、
以下の4つの領域の進化プロセスについて
詳述しています。

1 物質

 宇宙の誕生から始まる物質の形成プロセス

2 生命

 生命の誕生以来、今日に至るまでの生物の進化プロセス

3 社会(歴史)

 特定の関係にある人間の集合からなるシステム(系)
 である社会の存続、発展、消滅のプロセス
 
4 精神(mind)

 端的には、知覚や思考、感情、想像、価値観などの経験
 を意味する「精神」の進化プロセス


さて、私が、
「GET」に対して興味を抱いた理由は2つあります。

ひとつは、今後の社会や個人の大きな変化の方向性を
予測するのに役立つだろうということ。

(それは、最終的には日々の人々の消費行動・社会行動
 にも反映されてきます)

もうひとつは、「地球温暖化」、「人口爆発」など、
人間を含む生命圏全体の絶滅につながりかねない

危機的状況(人間自らが招いたものですが)

において、まさに大きな

社会的進化・精神的進化

が求められている今、
どのような進化が求められるのかという

理想像

を描くために活用可能であることです。


ラズロー氏も、

“今日わたしたちに与えられた課題は、
 「いかに進化するべきかを知れ」である”

と述べています。


GETは、まだ十分に確立された理論とは言えず、
また、私自身、理解が追いついていません・・・

したがって、現時点では、

「こんな考え方がありますよ」

という紹介しかできませんが、
今後のビジネス展開においても使える理論
ではないかと思っています。


後編では、社会の進化における
3つの典型的パターンについてご紹介したいと
思います。


『進化の総合真理』
(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳、バベル・プレス)

投稿者 松尾 順 : 12:31 | コメント (0) | トラックバック

飛ぶコンピュータ!

数年前、ISIS編集学校(松岡正剛校長)が主催した

「アイディアコンテスト」

がありました。

これは、某家電メーカーとのタイアップで行われたもの。


テーマは、

「超リモコン」

です。


テレビやエアコンなどに欠かせないリモコンですが、
現在のリモコンを

‘超える’

斬新なデザインや機能を持つリモコンのアイディアを
出すのが当コンテストの狙いでした。


そこで、私が当時提出したアイディアは、
ひとことで言うと、

「鳥(ちょう)リモコン」

でした。

「ダジャレ!」ありきではないのですが、
自分で空を飛べるリモコンなのです。

外見は、オウムくらいの大きさの小鳥。

人と自然文で対話しながら、
人とマシンの仲立ちをしてくれます。

好きな名前をつけて
ペットのように付き合える関係。


既存のリモコンは、
どこに置いたかすぐにわからなくなって
探すのが面倒ですよね。

でも、鳥リモコンは、

“リモちゃん、どこいるの?”

と呼びかければ、

“ハーイ、今行きます、ご主人さま!”

などと答えてすぐに飛んできてくれます。


さて、私の考えた「鳥リモコン」は、
ほぼ実現不可能な

「夢物語的アイディア」

のつもりでしたが、
類似のアイディアの実現にむけて
研究している方がいらっしゃるんですね。

つい最近知りました。


一日中、ウェアラブルコンピュータを身に付け、
頭にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を
装着しているちょっと変わった先生、ご存知ですか?

時折、テレビなどにも登場されるこの先生は、

塚本昌彦氏(神戸大学工学部電気電子工学科教授)

です。


塚本氏は、見た目はいかにも

マッドサイエンティスト風(ほめ言葉)

ですね。なかなかクール!

そして、塚本氏が推進している

「飛ぶコンピュータ」

の研究も、塚本氏同様、実にユニークです。


同研究には、
ラジコンヘリで知られるメーカー、

「ヒロボー」

も協力しているそうです。


残念ながら、塚本教授の研究室等の
Webサイトでは、当研究の詳細や進捗状況に
ついての情報は少なめです。

しかし、ソフトバンクビジネス+ITでは、
詳しい記事が掲載されていますので
興味のある方はそちらをぜひご覧ください。
文末URL参照)


同記事によれば、現在開発中のものは、

“オリジナルの小型コンピュータに自立飛行用のシステムが
 搭載され、地上のマークを探し出してのホバーリングが可能。
 2メートル司法のスペースがあれば空中に浮遊することができる”

とのこと。

イメージとしては、

“飛ぶコンピュータは、まさしくドラえもんの出す小道具のひとつだ。
 ストーリーの中で、のび太がスネ夫やジャイアンの行動を監視する
 ために飛ばしている「目玉にアンテナが付いているロボット」”

だそうです。

ただし、他人を監視するのではありません。

上空をホバリングしながら付いて来て、
自分自身のための

“第三の目”

になってくれるのが、
塚本氏の考える飛ぶコンピュータです。

具体的な用途ですが、
例えば災害に遭って、生き埋めになった時、
自分の分身である飛ぶコンピュータが、
救助隊にご主人さまの場所を的確に伝えることができます。
(飛ぶコンピュータも巻き添えになってなければ・・・ですが)


あるいは、客観的な立場で。
あれこれ助言してくれる便利なアドバイザー機能を活用。

例えば、朝の身支度時には・・・

「そのスーツなら、ネクタイは赤が似合いますね」
「鼻毛が見えてますよ。切りましょう!」

また、ジョギング中には・・・

「そろそろ止めたいと考えてますね。ダメです。」
「もう少しがんばれば、目標体重クリアですよ!」

などと叱咤激励してくれるでしょう。

ちょっと「うざい」と感じるかもしれませんが、
自分のためでもありますし、特に単身者の方は、
ズバリ直言してくれる配偶者・パートナーが
いませんから、ありがたい存在になるのではないでしょうか。

ヒマで退屈な時には、

「かくれんぼ」

など、遊びにも付き合ってくれます。


塚本氏は次のように語っています。

“(飛ぶコンピュータは)ピーターパンに出てくるフック船長
 の肩に乗っているオウムのような役割を果たすことになる
 でしょう。 ただ、ハードウェアとしての便利さをもたらす
 だけでなく、時には毒舌をはき、時には慰めたり、励ましたり。 
 なくてはならない、かけがえのないパートナーになると思いますね。”


私は、オウムよりむしろ、

ど根性ガエルの「ピョン吉」

を連想しましたけどね。
(わかる人がどのくらいいるかな・・・?)


私は、よりよい人生を生きるために、
私たちがマスターすべき‘最も重要なスキル’は、

「自分を客観視できる力

だと考えています。

これは、しばしば

「メタ認知力」や「幽体離脱力」

とも呼ばれますが、
現実にはなかなかできないものですよね。

ですから私は、

「飛ぶコンピュータ」

の実用化に大いに期待しているのです。


*参考記事

『関西流ベタベタIT商法の挑戦』
(合同会社関西商魂代表、中森勇人氏、
 ソフトバンクビジネス+IT)

夢を実現するナニワのエジソン(前編)
夢を実現するナニワのエジソン(後編)


*飛ぶコンピュータ PROJECT


*塚本昌彦氏関連サイト

Tsukamoto lab.
チームつかもと


*ヒロボーグループ Webサイト


*ISIS編集学校

*関連記事

『メタ認知力を磨け!』

投稿者 松尾 順 : 15:46 | コメント (0) | トラックバック

ブルーオーシャン戦略の要諦

このところ注目を集めている新しい経営戦略、

「ブルーオーシャン戦略」

はどんなものか、ご存知ですか?


関連書籍を読んでみたけど、
けっこう難しくて、あまり理解できた気がしない
という人もいらっしゃるでしょう。


そこで、ブルーオーシャン戦略(以下「BO戦略」とします)
についての理解を深める上で役に立ちそうなポイントを
私なりにまとめて、ご紹介したいと思います。

なお、参考にしたのは、末尾に示した参考図書2冊と、
池上重輔氏(早稲田大学大学院商学研究科 准教授)
の夕学五十講での講演内容です。

---------------------------------

(1)BO戦略は、「戦略理論」である。

BO戦略は、30を超える業界で過去20年の間で見られた
150以上の戦略の打ち手を調査・研究した中から抽出された

「新たな市場創造ための基本的な成功パターン」

です。すなわち、「抽象化された理論」であり、
決して「必勝」を約束するものではありません。

しかし、この成功パターンを自分の業界・業種に適用し、
再現する確率を高めることを可能にする各種ツールが
用意されています。

---------------------------------

(2)BO戦略は、「市場創造戦略」である。

私たちがこれまでなじんできた戦略は、
マイケル・ポーターが確立した「競争戦略」です。

競争戦略は、既存の市場の中で、
他社と同じ競争の軸で戦うための理論ですね。

競争戦略の枠組みでは、
企業は血みどろの戦いを続けるため、
ブルーオーシャンと対比して、

「レッドオーシャン」

呼んでいます。

一方、BO戦略では、新たに市場の線を引き直し、
競争のない市場を創造することを狙います。

競争戦略の理論は既に確立されていますし、
ツールは既に豊富に存在していますよね。

しかし、市場創造のための戦略理論やツールは
ほとんど存在していませんでした。

しかし、BO戦略は、経営史上初めて、
市場創造のための明快な理論とツール群を
提供しているといえるものです。

---------------------------------

(3)BO戦略では、価値向上とコストダウンの両立を実現する

BO戦略では、競合他社が提供していない、
独自の価値を生み出そうとします。つまり、
新たな付加価値創造を狙うのです。

これは、競争戦略の枠組みで言う「差別化戦略」と同じです。

しかし、差別化戦略では、価値を高めることによって、
必然的にコストが上昇するため、販売価格が上昇することを
前提としています。

したがって、「高くてもいいものを買う」と考える限定された
顧客が対象となります。場合によっては、「ニッチ戦略」と
呼ばれることもあるでしょう。

ところが、BO戦略では、付加価値を生み出すと同時に、
なくてもいい価値、よけいな価値を除去したり、
減らしたりする取り組みを行うのです。

こうすることによって、顧客に取っての価値を上げつつ、
トータルでのコストダウンを実現していく。

BO戦略で、これを「バリューイノベーション」と呼んでいます。

バリューイノベーションは、
基本的に、競争戦略ではありえない考え方です。

---------------------------------

(4)BO戦略は、マス(広大な需要)を狙う

BO戦略では、新たな付加価値を生み出すことによって、
それまで逃していた新しい顧客を獲得しようとします。

つまり、市場の線を引き直すというのは、
これまでターゲットとしていなかった層(ノンカスタマー)
を狙うということなんですね。

ただ、前述したように、
並行してコストダウンを図ることで、
新規顧客の多くが魅力的と感じる価格を設定します。

留意して欲しいのは、
最安値を提示するわけではない点です。

他社にはない新しい価値を示しつつ、
最大限に利益を確保できる適切な価格設定を行う。

これにより、売上げ拡大と同時に、
利益率向上も実現できるというわけです。

---------------------------------

(5)BO戦略は、「共通点」(コモナリティ)に着目する

BO戦略では、マスを狙うため、

「セグメンテーション」(市場分割)

という考え方をしません。

新規顧客の多くが共通して抱える問題やニーズを
敏感に嗅ぎ取って、それらを解決・充足できるものを
新たな付加価値として提示するのがBO戦略です。

---------------------------------

(6)BO戦略は、「オルタナティブ」を考慮する

BO戦略においても、
もちろん競合の存在を意識します。

ただし、直接に競合する「代替品」(サブスティチュート)
ではなく、「オルタナティブ」(他の選択肢)を考慮します。

例えば、「レストラン」の代替品(直接競合)は
他の飲食店ということになります。

しかし、単に食欲を充たすのではなく、
「楽しい時間を過ごす」という目的であるなら、
映画館や演劇も競合しますね。

これらが「オルタナティブ」です。

オルタナティブは、形態も機能も違うけれど、
顧客の目的(=充足したいニーズ)は同じというものです。

オルタナティブを考慮することによって、
既存の市場の枠組みにとらわれない発想が可能になります。

--------------------------------

BO戦略のポイントは他にもいろいろとありますが、
だいたい以上のことで基本はおさえられるのではないか
と思います。


さて、結果的に、つまり後付け的に分析してですが、
ブルーオーシャン戦略で成功した事例として、
最もわかりやすいのは、任天堂のゲーム機「Wii」でしょう。

「Wii」は、従来のゲーム機がマニア層をターゲットとして
どんどん高品質化、高機能化、高価格化をしていったのに対し、
ゲームをしなくなった社会人、ファミリー層、またそもそも
ゲームをしないシニア層にも受け入れられる、わかりやすさ、
簡単さ、楽しさを提供する一方、スペック的にはあえて
低品質化することによって手頃な値段を実現しましたよね。


また、ビジネスホテルの「スーパーホテル」も
まさにブルーオーシャン戦略の成功例と言えるでしょう。

広々としたベッドと6種類から選べる枕で、
従来にない快適な寝心地や、無料セルフの朝食、
天然温泉といった付加価値をビジネスパーソンに
提供する一方、自動チェックインの仕組みを始め、
客室電話を廃止するなどによって大幅なコストダウン
を実現。1泊5千円弱の手頃な価格設定を可能にしています。


最後に、池上先生による、
BO戦略の簡潔な定義をご紹介しておきましょう。


「ブルーオーシャン戦略」は、“広大な需要”を
 主体的かつシスティマチックに創造する戦略理論

*参考図書

『ブルーオーシャン戦略 競争のない世界を創造する』
(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、
ランダムハウス講談社)

『日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く』
(安部義彦、池上重輔著、ファーストプレス)


*関連記事

・意外!Wiiの真のライバルは○○だった!
(All About よくわかるマーケティング)

・スーパーホテル 顧客満足の秘密 「選択と集中」編
(Kanamori Marketing Office)

投稿者 松尾 順 : 14:40 | コメント (4) | トラックバック

雑食系男子を目指そう!

「婚活」がブームですね。

でも、4月20日に始まったばかりの、
SMAP中居くん主演の月9ドラマ『婚カツ!』は、
視聴率低迷にあえいでいるとか。

どうやら脚本がもうひとつのようです。
まあ、話題性だけで視聴率を引っ張るのは、
無理がありますよね。


さて、ネットでは、

「草食系男子、肉食系男子、どちらがモテる?」

なんてアンケート(アメーバニュース掲載)も
行われています。

-----------------------------

*言葉の定義

・草食系男子:
 協調性が高く、家庭的で優しいが、恋愛に積極的でないタイプ

・肉食系男子:
 恋愛の行動時、女性に対して果敢に攻めるタイプ

------------------------------

アンケート結果を見ると、

「草食系、肉食系で、モテるのはどちら」

という設問に対しては、

女性の回答:肉食系・・・60% 草食系・・・40%
男性の回答:肉食系・・・73% 草食系・・・27%

となっていて、
基本、肉食系の方がモテるということが確認できています。


また、女性に聞いた、

「草食系、肉食系、どちらと付き合いたいか?」

という設問に対する答えは以下の通り。

・草食系男子・・・5%
・草食系よりの男子・・・42%
・肉食系よりの男子・・・44%
・肉食系男子・・・7%
・その他・・・2%


純粋な草食系や肉食系男子ではなく、
両方のミックス、いわば

「雑食系男子」

が女性に選ばれやすいことが表れていますね。

また、アメーバニュースの記事では
このアンケート結果に対する考察として、
以下の2点が示されています。

1 “ガツガツしている男”は人気がないが、
  “男の積極性”は支持されている

2 恋愛相手には肉食系男子、結婚相手には
  草食系男子が支持されている


このうち、特に2点目については、
この考察を実証するような実験もあるんですよ。
(同実験は、90年代に行われたもののようです)


この実験では、平均年齢22歳の日本人女性40人に対し、
日本人や白人の男性の顔写真を見せて、
魅力的と感じる顔を選んでもらいました。

写真の男性は、同一人物の「素のまま」のものと、
ちょっと加工して、優しい顔立ち(女性化)の度合いを
20%、40%にしたもの、また逆に精悍な顔立ち(男性化)
の度合いを20%、40%にしたものの5種類が用意されました。

これは、肉食系男子と草食系男子の顔立ちを比べて、
どちらが好きですかという実験だと言えますよね。

(もちろん、顔立ちが女性的か男性的かということと、
 草食系、肉食系を単純に結びつけていいのかという
 議論があるかもしれませんが)


なお、実験は、

・女性が妊娠しやすい時期(妊娠ハイリスク時期)
・妊娠しにくい時期(妊娠ローリスク時期

のそれぞれの時期に行われました。

この2つの時期に、
女性は同一の作業をやっています。


この実験結果を簡単にまとめると、

・妊娠ハイリスク時期には、より男性化した顔が好まれる
・妊娠ローリスク時期には、より女性化した顔が好まれる

というものでした。

おそらく、子どもができそうな時期の女性は、
繁殖力が強く、強い子どもができる遺伝子を
持っていそうな男性を無意識に求めてしまうと
いうことなんでしょう。

逆に、子どもができる可能性が低い時期の女性は、
協力的で優しい男性の方がつきあって楽しいから・・・
ということで女性的な顔つきの男性を好むのでしょうね。


というわけで、婚活中の草食系男子へのアドバイス。

・結婚後の家庭生活・育児生活において、
 草食系男子の優しさはプラスです。
 多いにアピールしましょう。

・でも、やはり恋愛中は積極的に。
 努力して肉食系男子的行動を取りましょう。


雑食系男子を目指そう!


「草食系男子」、「肉食系男子」結局モテるのはどっち!?
(アメーバニュース)


*男性の写真を見せる実験の出所:

 『恋愛遺伝子』(山元大輔著、光文社)

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (3) | トラックバック

マズローの「自己実現欲求」の先にあるもの

このメルマガ・ブログをお読みの方なら、

「マズローの欲求階層説」

はよくご存知でしょう。
(これまでも、何度か簡単にご紹介しましたし)

マズローは、人の欲求は以下の5段階からなるという
考え方を示しました。

------------------------------------

1.生存の欲求(食欲、性欲など根源的な欲求が満たされたい)
2.安全の欲求(生命が脅かされない、安全に暮らしたい)
3.社会的欲求(所属や愛が欲しい)
4.自我(自尊)の欲求(社会の中で承認、尊敬を得たい)
5.自己実現の欲求(自分らしさを発揮したい)

------------------------------------

このうち最高次の欲求が、5段階目の

「自己実現欲求」

ですが、これは、

「自分らしさを発揮したい」

という欲求ですから、

「個性化欲求」

と言い換えることもできます。


さて、特にこの数年、
世の中のヒット商品やトレンドを眺めていると、
この5つの欲求ではうまく説明できない消費者行動が
顕著になってきているように思います。


実は、マズロー自身も晩年に提唱していたのですが、
「自己実現欲求」の先に知られざる別の欲求が
いくつかあるのです。

それは、自己超越、つまり他人への奉仕や、
知識欲の充足、美の追求といったもの。

私は、これらをわかりやすく説明するキーワード
として、何か適切なものがないかなと考えていたところ、
ふとある言葉が浮かんできました。

それは、

「真・善・美」

です。


「真・善・美」は、
主に哲学の世界で用いられてきた言葉です。

しかし、私は大胆ながら、
現代の消費行動を説明しやすい欲求として

「真・善・美の欲求」

という考え方を提示してみたいと思います。


「真・善・美の欲求」は、
マズローの自己実現欲求の先にある
新たな3つの欲求のこと。

そして、これは現代日本のような
成熟社会に顕著になってくる欲求です。


簡単に説明します。


・「真」の欲求

物事の真理を追究したいという欲求。
知りたい、学びたいという行動の源泉になります。

現在一線を退いたシニアの方々が、
最も熱中しているのが「学び」ですよね。

すでに人生の目標はなんらかの形で
達成された方たちですから、
「成功したい」とかそんな明確な目標は
もはや必要ありません。

純粋に学ぶことが楽しいのです。

脳科学者の茂木健一郎氏の言葉を借りれば、

学びは最高のエンターテイメント。
いくら学んでもおなか一杯にならない。

(つまりいくらでも楽しめる)

ということなのです。

実は、私の父も70歳を過ぎてから、
サイバー大学に入学しITを学んでいます。

地元NPOのホームページを作ってあげたりと
いった役にも立っているようですが、
やはり学ぶこと自体が楽しいようです。

もちろん、シニア層に限らず、
主婦を含むあらゆる階層が「学び」に
貪欲になりつつありますよね。


・「善」の欲求

人のために役立ちたい、
善いことをしたいという欲求。

先日の記事でご説明した、

「フィールグッド・マーケティング」

の根底にあるのがこの善の欲求です。

マズローが、トランスパーソナル=自己を超える、
すなわち自己超越欲求と呼んだものがこれに
該当します。

自己実現を果たした、つまり「個」としての自分が
確立できた時、多くの人が次に向かうのが社会貢献
ですよね。


・「美」の欲求

美しいものを愛でるというのは、
人の最も根源的な欲求の一つなのかも知れません。

アウシュビッツの収容所から生還を果たした心理学者、
ヴィクトール・フランクルは、明日はガス室送りかも
しれないという極限状態にある人々さえ、収容所から
見る夕日の美しさを讃えていた風景に感銘を受けたこと
を手記に書いています。

さて、「美」は、大量生産・大量消費型商品においては、
これまでかなり軽視されてきた要素です。

美しさにこだわると、コスト高、ひいては
高価格の原因になるからですね。

しかし、近年のデザイン家電の隆盛や、
また、優れたデザイン力を発揮してきたアップル
の飛躍的成長を見ると、消費者はますます、

「デザインの美しさ」

を選好要因の一つとして重視するようになっています。

結局のところ、人の感性に訴えかけ、
人を感動させるパワーを持っているのは、

「美」

ですよね。


以上、真・善・美の欲求について
簡単にご説明しました。


これからの商品開発においては、

「真・善・美の欲求」

をいかにくすぐることができるかが、
ヒットするかどうかの分かれ目だと思うのですが、
いかがでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 13:34 | コメント (3) | トラックバック

甘えてない円盤

1970年代後半、空前の「超常現象ブーム」が起きました。

「UFO(空飛ぶ円盤)」「超能力」「心霊現象」

といった人知を超えた謎・不思議への関心が高まったのです。


ユリゲラーが、日本中の家庭の止まった時計を
動かしたこと覚えてますか。

ピンクレディーが「UFO」を歌ったのも、
そんなブームのさなかの1977年でした。


現在40代以降の方は、懐かしく思い出されることでしょう。

私もご他聞に漏れずハマりました。

特に「UFO」が大好きで(というのもなんか変ですが)、
小6の頃、1万円弱もする「UFO探知機」を買ったほど!
(当時、どうやって1万円を工面したのか思い出せません)


さて、ゲームセンターに「UFOキャッチャー」が登場したのは
1985年でしたが、その頃から肝心のUFO自体に対する関心は
下火となり、90年代以降はほぼ忘れられた存在となっています。

UFOにとって、
90年代は「失われた時代」と言えるんじゃないでしょうか(笑)


70-80年代の有名なディスコナンバーに、
日本語の替え歌を乗せて歌う「ダンス☆マン」は、
2000年に発表した「ミラボーリズム3」で、

「甘えてる円盤」
(原曲:A Night to Remember by Shalamar)

の中で、次のようにUFOを偲んで歌っています。
(一部のみ引用)

------------------------------

子どもの頃はよく出てきたね
テレビでもよく特集やってたよ

 (中略)

最近あんまり聞かないよ UFO
そんなんじゃ 信じるのやめちゃうぞ~

全然 出ない この頃少し甘えてる円盤

(中略)

今はもっと情報が多いのに
なぜかあんまり聞かないんだよなぁ UFO
ほんとに 信じるのやめるぞ~

全然 出ない この頃少し甘えてる円盤

(以下略)

-------------------------------


しかし、UFOにとって受難の時代がようやく
終わりつつあるようです。

救世主はなんだかわかりますか?

それは、ひとことで言えば、

「デジタル革命・インターネット革命」

ですね。

安価なデジカメ・ビデオの普及に加えて、
2005年の「Youtube」の登場が決定的でした。

今、「Youtube」で検索すると、
世界各国で撮影されたUFOの目撃最新動画が
数え切れないほどヒットします。

すでに過去のものだったずのUFOですが、
インターネットのおかげで、
ひそかに復活を遂げていたわけです・・・
(オオゲサ?)


もちろん、昔のような大ブームになることは
まずないでしょう。

70年代のUFOブームはマスメディア、
特に大衆に大きな影響力を持っていたテレビが
主導したもの。

要するに、当時の人気番組「木曜スペシャル」です。


しかし、もはや、インターネットが日常となった今、
テレビを初めとするマスメディアは以前ほどの力が
ありません。


大衆側もまた、

「みんな一緒に同じことに関心を持つ」

という時代を過ぎて、今では
異なる関心ごとに分かれたグループ内で
ひそかに楽しむようになっています。

こうした活動を容易にしたのも、
インターネットですね。


考えてみれば、現在マスメディアでカバーされる
様々なイベント(直近でいえばWBCなど)も、
一見盛り上がっているように見えますが、
必死で盛り上げようとしているマスメディアに
応えて本当に盛り上がっている人々は、実のところ
全体のほんの一握りに過ぎないはず。

他の人々はそれぞれの関心事に埋没し、
マスメディアに踊らされている人たちを冷ややかに
見ているというのが現実ですよね。


70年代に青春を送った私にとって、
みんな一緒にUFOに夢中になれた当時が懐かしい。

でもとりあえず、「Youtube」のおかげで、
UFOは再び活発に我々の前に姿を現すように
なっています。

「このごろは、あまり甘えてない円盤♪」

という曲、歌ってよダンス☆マン!


*ダンス☆マン 
 ミラーボール星オフィシャルサイト
http://danceman.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 12:28 | コメント (0) | トラックバック

フィールグッド・マーケティング

企業の「社会的責任」が
ますます重視されるようになってきた昨今、
メインの事業活動である、

「マーケティング活動」(商品開発~広告宣伝~販売)

の中に「社会的意義の高い要素」を組み込む動きが
増えていますね。


最近大きな関心を集めたものとしては、
ミネラルウォーターのボルヴィックが日本では
2008年に実施した

『1L for 10Lプログラム』

が挙げられます。

これは、飲料水不足に苦しむアフリカの人々の救援と、
アフリカの水と衛生に関する問題に対する関心と理解を
高めることを目的としていました。

具体的には、
消費者が購入したボルヴィック1リットル当たり、
10リットル相当の安全な飲料水を生み出せるように、
井戸掘りなどの現地活動を支援するというもの。


ボルヴィックのWebサイトを見ると、
2008年の同プログラムによって
アフリカのマリ共和国に生まれる飲料水は
11億リットル強。

これにより、マリ共和国の子どもたちとコミュニティ、
20,000人以上へ、清潔で安全な水が10年間にわたり
供給されるのだそうです。


ミネラルウォーターにも、
たくさんの競合製品がありますよね。

もし、特にこだわりがなければ、安全な水が飲めずに
苦しんでいるアフリカの人たち助けることにいくばくか
貢献できる

「ボルヴィック」

を積極的に選んだ消費者が多かったのではないかと
思います。


なぜ、積極的に選んだのでしょうか?

それは、端的に言えば、
そうすることが

「気持ちよい」(Feel Good)

からですね。

言い換えると、

「いいことしてる感」

があるからです。


さて、ボルヴィックの場合、いわゆる

「途上国支援」

をマーケティングに組み込んだわけですが、
それ以外にも、

・環境保護(リサイクリング、カーボンオフセット等)
・絶滅危惧種保護
・フェアトレード(公平貿易)
・里山再生 

など、さまざまな社会貢献の方法が、
企業のマーケティング活動に組み込まれるように
なっています。


こうした施策は以前から、

CRM:Cause-Related Marketing
~コーズ・リレーテッド・マーケティング~
(大義名分を掲げたマーケティング)

と呼ばれてきましたが、もはや誰でも知ってる

CRM:Customer Relationship Management)

と違って、このもうひとつの「CRM」は、
あまり認知されていない状況だと言えます。

おそらくその理由は、

‘Cause’

という英単語になじみがなく、
日本語に訳しにくかったことがあるでしょうね。

また、そもそも社会貢献活動を一体化させた
マーケティングが大きなトレンドとなってきたのは
この数年だということもあるかと思います。


先ほど、消費者がボルヴィックを
積極的に選択したのは、そうすることが

「気持ちよい」(Feel Good)

からであると申し上げましたが、
リサイクルやカーボンオフセットのような
環境保護につながる商品を購入する背景にも、
やはり単に自分のニーズを満たすだけでなく、

「気持ちよい」「いいことしてる感」

があるから。


自動車業界では最近、
ハイブリッド車が売れてますよね。

これは、もちろん燃費が良くて経済的ということ
だけでなく、二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないため、
それだけ「環境保護」にも役に立ってるという

「気持ちよさ」

が得られるからではないでしょうか。


そこで私は

CRM(Cause-Related Marketing)

に変わる言葉として、
社会貢献につながる要素を組み込んだ
マーケティングのことを

「フィールグッド・マーケティング」

と呼んでみたいと思います。


既に、欧米では「社会貢献的要素」のことを

「フィールグッド・ファクター」
(Feel-good factor)

と呼ぶ向きもあり、
それをどうマーケティングに組み込むか、
いろいろと実践&研究が盛んです。


「フィールグッド・マーケティング」

という言葉が果たして定着するかどうかはさておき、
上述したような動きが、今後ますます盛り上がるのは
間違いないでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:47 | コメント (0) | トラックバック

ユニバーサルカーブと草食系男子

1匹(頭)のメスを巡って、
2匹(頭)のオスが激しく争う。

発情期を迎えた動物たちが、
何十万年も前から繰り返してきた行為ですね。


他のオスと戦い、勝利を収めることによって、
オスは自分のたくましさ、生命力をメスに示す。

メスもその魅力に惹かれて、オスを受け入れる。


私たち人間のオス(男)も同様に、
好みのメス(女)を獲得し、またメスから選ばれるために
オス同士での「強さ」を競い合ってきました。


昔の西部劇などでは、
1人の女性を巡って決闘をするという場面が
ありましたよね。

まあ、さすがに現代では、
恋人を巡って殴り合うという人は少ないと思いますが、
変わりに様々な方法で男性は競い合ってます。

例えば、スポーツ選手が持つような行動な身体能力や、
学歴などで示される高い知性だけでなく、お金であったり、
地位・権力であったり、車などの所有物などによってです。


さて、女性を獲得するための男性同士の戦いは、
自分の血を後世に伝えるために遺伝子に組み込まれた
プログラムと言えます。

このため、基本的に、
男性は思春期を迎えると攻撃的になります。

そして、他の男性に負けたくないというプライドのために、
すぐに揉め事を起こしがち。

時にやり過ぎて、
相手を殺してしまうことにもなります。


ですから、横軸に年齢を取ったグラフで、
年齢別の殺人率(他人を殺めてしまう率)を描くと、
男性の20歳前半のそれがぐんと高くなるカーブに
なります。

つまり、右側(20代前半)にグラフのピーク(頂点)
があり、ガクンとさがって、そのあとは年齢が高く
なってもほぼ横這いが続くので、近年ネット業界で
流行った

「ロングテール」

のような形をしています。


このグラフの形は、
世界のどの国でもほぼ同じであることが
わかっているため、

「ユニバーサルカーブ」

と呼ばれています。

国は変われど、
男性の気質は変わらないということですね。


ところが、近年、日本では

「ユニバーサルカーブ」

が消滅してしまいました。

若い男性が以前よりも攻撃的でなくなり、
殺人を犯さなくなったのです。
(凶悪さは増加しているかもしれませんが)


年齢別殺人率のグラフを見ると、
ほぼ平坦な線が続きます。

そして、若年男性よりも、
むしろ中年男性の殺人率のほうが
若干高いくらいなのが最近の傾向なのです。


なぜ、日本の若い男性は
以前ほど殺人を犯さなくなったのでしょうか?

ひとつには、豊かな社会となった日本では、
殺人を犯すことによって失うものがあまりに
大きいから、自制するようになったという点
が挙げられます。

多くの若者が貧困にあえぐ国では、
失うものが少ない上に、その貧困さからくる絶望が
攻撃性をより高めているのと対照的ですね。


ただ、もう一つ大きな理由があると思います。

それは、好みの女性を獲得するために、
また自分を選んでもらうために、

強さ、たくましさ

を女性に示す価値が低下してきたという点です。


現代の女性も、
地位、名誉、金、容姿を兼ね備えた

「白馬の王子さま」

が自分を迎えに来てほしいという願望は
持っていますよね。

しかし、現実を振り返ると、
「白馬の王子さま」と呼べる男性はほんの一握り。


実際には、それほど稼ぎも良くない男性と結ばれ、
共働きで生きていかねばならない可能性が高いこと
を自覚しています。

であるなら、いたずらに男性に

3高(高学歴・高年収・高身長

を期待するよりも、むしろ

3低(低姿勢、低リスク、低依存)

の男性を選ぶことを志向するようになってきたのです。


3低の男性なら、
家事・育児も喜んでやってくれるだろうし、
上から目線の物言いをせず、他愛のない会話
にもつきあってくれるからですね。

つまり、端的に言えば、
現代の女性が求めているのは

強さ、たくましさ

よりも

かわいさ

なんですね。


こうした女性の男性を選ぶ基準の変化が
生み出したのが、このところ注目を集めている

「草食系男子」

でしょう。


「草食系男子」を

‘お嬢マン’

と呼ぶ牛窪恵さんによれば、
草食系男子とはおおよそ次のような人。

・おっとりとしてマイペース
 「まあなんとかなる」とのんびり構えている

・多くはキレイ系
 スリムで少食。ファッション、コスメへの関心高い

・女の子との食事も基本ワリカン
 堅実で消費にしっかりメリハリをつける

・親・家族と仲良く、女友達にも紳士的
 同じ部屋に泊まっても安全。基本、狼に変身しない


こんな穏やかな草食系男子(年齢的には20-35歳が多い)
が増殖した結果、若年男性の殺人率が低下し、

ユニバーサルカーブの消滅

という現象としても現れてきたというところでは
ないでしょうか。


それにしても草食系男子の増殖は、
日本の消費行動や文化に大きな影響を
与えつつありますよね。


ちょっと腰を入れて、

「草食系男子」

の生態を研究してみる必要が
ありそうです。


(参考文献)

『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』
(牛窪恵著、講談社プラスアルファ新書)

投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (0) | トラックバック

マグロ船のゲーム理論

マグロ船は、一度出航すると40日位、
一度も港に立ち寄ることなく漁を続けます。

その間、マグロを求めて漁場を移動し続けるのですね。


このマグロ船で一番偉いのは、船のオーナーである

「親方」

です。親方は、マグロのいそうな海域を予想します。

そして、親方が予想した海域に船を動かすのが

「船長」

の役割だそうです。


さて、親方は、マグロのいそうな海域を
どのようにして予想するのでしょうか?

近くの船と無線による情報交換を
通じて行うのです。

つまり、
+

「お互いの船ではどのくらいマグロが
 取れているか」

ということをお互いに教えあうわけです。


詳細はよくわかりませんが、おそらく、
それぞれの船が漁を行っている場所での
マグロの取れ具合から、マグロの群れの大きさや
移動する方向を読むのでしょうね。


マグロ船は、このように
お互いに助け合って漁をしているのですが、
強欲な親方になると、他の船にウソの情報を
流すことがあるそうです。

こうして、
マグロが取れる漁場を独り占めするのです。

仲間に対する裏切り行為ですよね。


最初は儲かるかもしれません。

しかし、これを繰り返していると、
他の船からの信用を失い、
有効な情報がもらえなくなるため、
長期的には売上が低迷することになるそうです。


一方、正直にマグロ情報を共有しあうマグロ船は、
結果的に同じ海域で共に漁をすることになるため、
1隻あたりの水揚げは減ることになります。

しかし、マグロが全く取れないというリスクを
減らすことができるため、情報共有をしない船よりは
売上げがよい傾向があるとのこと。


ご存知の方も多いと思いますが、
ゲーム理論の枠組みで紹介される有名な戦略に

「しっぺ返し戦略」

と呼ばれるものがあります。


これは、相手が協調してきたら、
こちらも協調する。

逆に、相手が対立(裏切り)してきたら、
こちらも同様に対立する

という戦略です。

この戦略を採用するのが、
最も「利得」が多くなることが、
コンピュータ・シミュレーションの結果から
実証されているのです。


マグロ船同士の情報共有は、この

「しっぺ返し戦略」

が現実においても有効な戦略であったことを
わかりやすく説明できる面白いケースではないか
と思います。


以上、マグロ船の話は、

『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』
(齊藤正明著、マイコミ新書)

を参考にしました。

本書は、齊藤氏のマグロ船乗船記ですが、
読み物として面白いだけでなく、
ビジネス、キャリアについての学びも大きい内容です。

一読をオススメします。


『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』
(齊藤正明著、マイコミ新書)

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (0) | トラックバック

キリン・ザ・ゴールドの終焉

キリンさんが本格ビールとしては17年ぶり、
社運をかけて07年3月に発売した

「キリン・ザ・ゴールド」

ですが、今年(09年)2月で製造終了となりました。


私は、発売当初から

「このビールは厳しいのではないか・・・?」

という見方をしておりましたが、
予想通り定番化できませんでしたね。


不発に終わった最大の理由は、やはり

・味が平凡だった
・パッケージデザインのインパクトが弱い

の2点かと思います。


発売当初の立ち上がりはまずますだったものの、
売上が失速するのも早かったゴールドは、
途中、パッケージデザインをハデハデなものに変えるなど、
劣勢挽回の努力はしていました。


しかし、味自体の個性の弱さは
どうしようもありません。

要するに、

「ブランドポジションが不明確」

であったため、
十分な数の固定客をつかむまでには
いかなかったのでしょう。


しかも、レギュラービールなのに、
「ゴールド」という豪勢なネーミングや
上品なデザインが与える印象から

「プレミアムビール」

と勘違いされ「高い」というイメージを
持たれてしまったのも痛かったようです。


ところで、私は普段はサントリーの

「ザ・プレミアム・モルツ」

を愛飲しておりますが、
なぜかと言えばやはり、このビールの

「個性の強い味」

が好きだから。

一番最初に飲んだ時こそ、

花の香り

を思わせる味わいが気になりましたが、
飲み続けるとそれが際立つ個性として感じられ、
クセになりました。


そういえば、
いまだレギュラービールの王者として君臨する

「アサヒ スーパードライ」

も、それまでのビールになかった、

コク・キレのある爽快な味わい

が人々の心を掴んだのですよね。


私は思うのですが、結局のところ、
製品はその基本的な価値、ビールで言えば

「味そのもの」

が他のブランドとは明確に異なる
優れた特徴を持っていなければ、
どんなにデザインやマーケティングに力を入れても、
固定客を確保することはできないのです。


「キリン・ザ・ゴールド」の終焉は、
このことを教えてくれているように思います。


余談ながら、
今年5月にアサヒビールから発売予定の

「アサヒ ザ・マスター」

に期待しています。

「味わいビールの傑作」

と自ら謡っているくらいですから、
独特の味わいを提供してくれるんでしょうね?


これまで、一部の例外を除き、

ブラインドテスト(ブランド名を伏せた試飲)

をしても、
各社競合ビールの違いがほとんど区別できなかった

同質的な日本のビール市場

も少しずつ変わりつつあると言えますかね?


(関連記事)

*「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

*(続編)「キリン・ザ・ゴールド」は定番化するか?

*「キリン・ザ・ゴールド」の不発

投稿者 松尾 順 : 14:27 | コメント (5) | トラックバック

電話帳広告の今とこれから

あー、また勝手に置いてかれちゃったよ・・・


毎年今の時期になると、
事務所のドアの前に分厚いハローページとタウンページが
黙って置かれていきます。

以前は、直接手渡してくれたように記憶してますが。


黙って置いていくようになったのは、

「使わないから電話帳持って帰ってよ・・・!」

と、受取拒否する人がいるからかもしれませんね。


実際、私も、
電話帳はここ5年くらい1度もめくってません。
インターネットで調べることに慣れちゃいましたから。


だから、

電話帳も必要な人にだけ配布してくれたらいいのに!

と思います。


もちろん、NTTさんとしては、
こうすることはなかなか難しい決断でしょう。

配布部数が減少すれば、
広告媒体としての価値が落ちてしまいますから。

タウンページNETを見ると、

・タウンページの発行部数は5,600万部(全国285版)
・ハローページは同5,500万部(全国788版)

 (どちらも2008年3月現在)

と、いちおう日本の全世帯をカバーする数が
発行されているのです。


さて、電通発表による2008年日本の広告費を見ると、
電話帳に掲載されている広告費合計は今でも

892億円

もありました。

これは、CATV、CS、BS放送などの衛星メディア関連広告費、

676億円

より多いのです。


ただし、電話帳広告費の推移を見ると、

・2006年→1154億円
・2007年→1014億円
・2008年→ 892億円

ですから、過去3年だけでみると
毎年100億円を超える減収傾向が続いています。


電話帳は、インターネットが不便な、
あるいは使いこなせない地域や年代の人々にとって、
まだまだ重要な情報源であり、電話帳広告の効果も
それなりに高いとは言われてきていますね。

ただ実際、どの程度の費用対効果(ROI)があるのか
私が探してみたところでは公開されていないようです。

そもそも、広告料金も複雑すぎるのか、
公開されておらず、お問合せベースとなっています。

ざっくり調べてみたところでは、
1枠数千円から数百万円まで広告予算に応じて
選択肢は豊富のようですね。


インターネットは今後もさらに浸透し、
電話帳を利用しない人が増えていくでしょうから、
電話帳広告の存在意義も、他のマス媒体と同様、
今後も低下していくのは間違いありません。


NTTとしてはインターネット版の電話帳である

iタウンページ

に力を入れてきていますが、
Yahoo、Googleなどの検索エンジンから情報を探す場合の
存在感が薄いですよね。

iタウンページの
検索エンジン対策が不十分な点は
早急に改善すべき点ではないでしょうか?

*電通 日本の広告費(平成21年2月23日発表)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2009/pdf/2009013-0223.pdf

投稿者 松尾 順 : 08:45 | コメント (6) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(5):時間のパラドックス

時間のパラドックスは、端的には次の一文で表せます。


“短期的に成功を収めるためには、
 長期的な視点で考える必要がある”

- To succeed in the short term,
   you need to think long term.


そして、その逆もまた真なりです。


“現代において長期的に成功するためには、
 今過ぎ去っていく毎分毎分を細かくマネージする必要がある”

- To succeed in the long term today,
  you need to micromanage every passing minute.


第2回のビジョナリーのパラドックスでご説明したように、
現在と未来は、しばしばお互いに相容れません。

例えば、未来のための新商品開発は、
現在の既存商品の顧客を奪うことにつながりやすく、
事業の収益基盤を不安定にする可能性が高いですよね。

一方、現在の事業にのみに経営資源を投下し続けると、
未来の収益源を育てることに出遅れてしまい、
将来において淘汰されてしまう可能性が高くなります。


したがって、事業を未来にわたって継続するためには、
短期的な視点と長期的な視点を併せ持つこと、すなわち

「2元性」(Durality)

が必要なのです。


ただ、1人の人間が、

「現在」と「未来」

という2つの時制の中で、
同時並行的に生きるのは簡単ではありません。


ビジョナリーハンドブックでは触れられていませんが、
脳科学や心理学の研究によれば、人は本来的には

「短期志向」

なのだそうです。

動物はおしなべて短期志向です。

なぜなら、今、飢えないためには、
目先の獲物をつかまえることが最優先だからです。

人間もまた、太古の狩猟時代に経験した飢えに対する
恐怖から、「短期志向」がDNAに刻み込まれています。

ダイエットが続かないのは、
「体重減」という長期的な目標よりも、
目の前のケーキ1個を食べたいという短期的な欲求に、
私たちが屈しやすいからですね。

したがって、ビジネスにおいても、
長期的な視点で考え、また行動することは、
相当意識的に行う必要があります。


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー


*ペーパーバックもあります。
*現在は、出品者からしか手に入らないようです。

投稿者 松尾 順 : 13:31 | コメント (0) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(4):規模のパラドックス

“蝶のように舞い、蜂のように刺す”
 - Float like a butterfly, sting like a bee -


これは、米国ヘビー級プロボクシングにおける
往年のチャンピオン、

モハメド・アリ

の言葉として有名ですよね。


モハメド・アリは、
ヘビー級の相手をKOできる強烈なパワーと同時に、
華麗なフットワークを持っていました。

従来の力任せに殴りかかるだけの他のヘビー級ボクサー
とは一線を画した、このボクシングスタイルによって、
彼は19度もの王座防衛に成功したわけです。


ビジョナリーハンドブックでは、
現代の企業経営の理想的な在り方として、
冒頭のモハメド・アリの比喩ほど適切なものはない
と述べています。


企業は大きくなればなるほど、
できるだけ小さくなるべきであるのです。

ここで「小さくなる」というのは、
そうすることで、環境変化に対してより敏感になり、
また俊敏な動きが可能になるということを意味しています。

特に、マスマーケットが細分化され、いわゆる

「マイクロマーケット」

が多数出現している現代において、
全体としての規模は大きくとも、活動単位としての組織の
大きさは可能な限り小さく構成されるべきでしょう。


この点について、同書では別の面白い比喩を示しています。

それは、大企業の組織は、

「チキンナゲットモデル」

を採用すべきであるということです。

チキンナゲットのような一口サイズまで、
組織を細分化せよということですね。

もし、チキンナゲットモデルの採用が難しい場合、
大企業は鈍重な恐竜のまま止まり、環境の急激な変化に
あっけなく滅びてしまう可能性が高くなるからです。


一方、規模の小さい企業は、
対外的にはより大きく見える必要があります。

ここで大きく見えるというのは、
たとえ小さくとも、業務を最初から終わりまできちんと
完結できるという仕組みを確立しており、顧客として
信頼を寄せることができるということを意味しています。


ですから、小企業の運営は、

「ローストチキンモデル」

を採用しなければなりません。

丸ごと1体の企業として見えるということですね。

このため、組織運営としては、

「万能」

に近いものを求められます。

起業したての会社を想像してもらえればいいのですが、
多くの場合、生産、マーケティング、財務、物流等、
多岐にわたる企業の機能をしばしば一つの組織や人で
こなさなければならないのです。

また、小企業はより外部の環境変化の影響を
受けやすいため、保守的になることは許されません。

積極的に変化を受け止めると同時に、
こちらからも大胆な挑戦をしかけていくことも
必要となります。


このことはとても厳しい試練ですが、
この状況を乗り越えられるかどうかが、
成長の鍵を握っていますよね。


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー


*ペーパーバックもあります。
*現在は、出品者からしか手に入らないようです。

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(3):価値のパラドックス

ビジョナリーハンドブックでは、

「価値のパラドックス」

を説明するために、

「ホットドッグ」

が例として取り上げられています。


販売者にとってのホットドッグの「価値」、端的に言えば

「価格」

は、ホットドッグ用のパンや、
中に入れるソーセージ、レタス等の仕入価格の合計ですよね。


販売者は、
これに自社の費用(店舗賃貸料、人件費など)や
利益分を上乗せした

「販売価格」

を設定して消費者に売るわけですが、
ホットドッグに限らず、同じ製品なのに場所や時間に
よって価格が高い場合があります。

例えば、空港、ホテル、百貨店、観光地などです。


なぜ高い価格設定が可能になるかというと、

・時間がない時にすばやくおなかを満たしたい
・豪華な雰囲気も味わいたい

など、購入者側のニーズが、
製品にもともと備わっている基本的な価値以外にも
あるからですね。


本書の中では議論されていませんが、
マーケティング理論として私も以前紹介したことのある

「価値の構造」

を考えてみれば当然のことではあります。


価値の構造は、一般に以下の4つです。

・基本価値
 当該製品が有する基本的な品質や機能

・便益価値(ベネフィット)
 当該製品の使用や消費によって得られる便益

・感覚価値(情緒価値)
 当該製品を使用・消費するに当たっての感覚的な楽しさ、
 形態的な魅力

・観念価値
 企業の経営方針や製品コンセプト(環境保護など)が
 生み出す価値


大事なことは、販売者ではなく、

「顧客」

こそが、製品の最終的な価値=購入価格を決めるのであり、
それには基本価値以外の要素が考慮されるということです。


ただ、本書で述べられている最も重要な指摘は、
製品の基本価値や購入時の状況(場所、時間など)
だけでなく、

「情報の(量、質)」

によって価値=価格が変化することです。


これは、インターネットが浸透し、
一消費者が手軽に情報収集が行えるようになった現在、
より顕著な傾向になっていると言えるでしょう。


わかりやすい例を挙げましょう。

つい先日、私は近くの家電量販店で、
外付けハードディスクを購入しました。

いつもならネットで調べてから行くところですが、
お正月特価だから安いはずだと勝手に思い込み、
よく調べずに購入しました。

ところが、家に戻り、
インターネットで調べてみると、
もっと安く買えるところがいくらでもありました。

つまり、ネットを活用して情報を集めれば、
同じ製品を安く手に入れることが可能だったわけです。


このことは、売り手、すなわち企業側の立場で言えば、
自社が考える価値にふさわしい価格で売ることが
容易ではないということを意味しますよね。

これが、「価値のパラドックス」です。


では、売り手として、
このパラドックスにどう対処すればいいのでしょうか?

ひとつには、以前から行われてきたことですが、
原材料調達コストや生産コストを削減し、
低価格での販売でも利益を確保できるようにすることが
あります。

しかしコスト削減には限界がありますね。


売り手としてより重要なことは、

消費者の購入サイクル(Buying Cycles of Consumers)

をより深く理解することです。


そうすれば、消費者の

ショッピングのリズム(The rhythm of their shopping)

に応じた価格設定がより適切に行えるようになります。


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー


*ペーパーバックもあります。
*現在は、出品者からしか手に入らないようです。

投稿者 松尾 順 : 08:43 | コメント (0) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(2):毎日のパラドックス

ビジョナリーハンドブックの著者は言います。

“私たちは、複数の現実(multiple realities)が、
 同時に真実であり、また信頼できる世界で生きることを
 学ばなければならない。”

これは、前回の冒頭に述べたこと、つまり、

「この世の中に、絶対的な真理や正解はない」

を受け入れましょうということですね。


具体的な例を挙げましょう。組織の規模についてです。

・組織は大きいほうがよい
・組織は小さいほうがよい

どちらが真理でしょうか、あるいは正解でしょうか?

答えは、どちらも真理であり、正解といえます。

組織は大きいほうが、
簡単には外界の変化の影響を受けにくく、
安定しています。

一方、組織は小さいほうが、
外界の変化に対して機敏に対応できます。

どちらにも優れた点(同時に弱点も)があるので
どちらが正しい、間違っているということは言えません。

もちろん、時と場所、場合によって、
どちらがより最適かというのはありますけどね。


さて、ビジョナリーハンドブックでは、

日々直面する矛盾=
毎日のパラドックス(Paradoxes of The Everyday)

として以下の7つのパラドックスを挙げています。

-------------------------------------

1 価値のパラドックス
- The Paradox of Value -

2 規模のパラドックス
- The Paradox of Size -

3 時間のパラドックス
- The Paradox of Time -

4 競争のパラドックス
- The Paradox of Competition -

5 行動のパラドックス
- The Paradox of Action -

6 リーダーシップのパラドックス
- The Paradox of Leadership -

7 レジャーのパラドックス
- The Paradox of Leisure -

-------------------------------------

今回は、この7つのパラドックスそれぞれについて
ポイントを簡単にご紹介しておきます。


1 価値のパラドックス

商品が本来の持っている固有の価値は、
ますます低下している。

商品の価値は、
ニーズの有無やニーズのタイミングで決まる。


2 規模のパラドックス

あなた(会社)が大きければ大きいほど、
小さくならなければならない。

一方、あなた(会社)が小さければ
小さいほど、大きく見えなければならない。


3 時間のパラドックス

光の速さでは何も起こらない。

短期的な成功のためには、
長期的に考える必要がある。

現在は未来に抵抗する。
したがって、現在と未来の両方を
同時に考慮しなければならない。


4 競争のパラドックス

あなたの最大の競合は、
あなた自身の未来に対する見方である。

敵は、外側だけでなく内側にもいる。


5 行動のパラドックス

あなたは、手に入らないとわかっているものを
目指さなければならない。

未来は、現在思い描いたとおりにはならない。
しかし、自らが描いた未来像への到達を目指して
行動を起こさない限り、未来は創造できない。


6 リーダーシップのパラドックス

先頭に立って率いるためには、
物語の中にいなければならない。

リーダーは、将来のあるべき姿=ビジョンを
追うと同時に、日々の矛盾だらけの現実に
対処しなければならない。


7 レジャーのパラドックス

いい仕事をするためにはよく遊べ。
よく遊ぶためには、よく働け。

仕事と遊びは不可分になりつつある。


次回は、「価値のパラドックス」を掘り下げます。

余談ですが、
私たちは社会に出るまで基本的に

「真理探し」「正解探し」

のトレーニングしか受けませんよね。

ところが、いったん社会にでると、
そこは、矛盾だらけの混沌とした不合理な場所。

多くの若者が、適応に苦労するのも当然ですよね。
(私も、大変な思いをした1人でした・・・)


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー

・ペーパーバック1
・ペーパーバック2

*現在は、出品者からしか手に入らないようです。

投稿者 松尾 順 : 15:11 | コメント (1) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(1):ビジョナリーのパラドックス

ビジョナリーハンドブック(The Visionary's Handbook)は、

「そもそも世の中は矛盾だらけである」

ということを大前提に置いています。

言い換えると、

「この世の中に、絶対的な真理や正解はない」

ということです。


もちろん、「特定の瞬間」や「特定の場所」といった
限定条件付きであれば、

一時的な真理や正解

がありえるかもしれません。

しかし、常に状況・環境が変化し続けているため、
いつでもどこでも、常に通用する真理や正解といったものは
存在しえないのが現実の世界でしょう。


だからこそ、
自分(自社)はこうした前提を踏まえた上で、

状況・環境の変化に応じて最善の選択をし続けること

が必要になってくるわけですね。


さて、ビジョナリーハンドブックが示す

9つのパラドックス(矛盾)

のうち、最初に説明されているのが

「ビジョナリーのパラドックス」

です。


ちなみに、「ビジョナリー」は、日本語では

「先見の人」あるいは「予見の人」

と訳せるでしょうか。


ビジョナリーのパラドックスの第1番目、
それは次のようなものです。

“あなたが描くビジョン(未来像)が、
 より確かな真実(Truth)になればなるほど、
 それは、単に現実の延長で未来を語っているに
 すぎない。”


同書の著者らは、
未来について書かれた本の多くは、

「想像力の失敗作」(failure of imagination)

とこきおろしています。


なぜなら、現在すでに起こりつつある変化を踏まえただけの
ビジョンを語っているに過ぎないことが多いからです。

例えば、世界がネットワークでつながり、
リアルタイムの情報交換ができるようになるというビジョンは、
今日のインターネットの原型である

「ARPANET」

が30年以上も前に構築された瞬間から始まった変化を
敷衍すれば、簡単に予見できたことでした。

こんなビジョンは、未来における変化を見越すという
本来の意味での

「予見」

としてはそれほど価値のあるものではありません。
(私としては、こうしたビジョンも十分に役に立つと
 思いますが・・)


現在の延長線をはみだす多様な未来像を描けてこそ、
真のビジョナリー(先見の人)と呼ぶことができるでしょう。

しかし、これは言うは易し、実際には極めて難しい・・・


もしあなたの予見が確実なものになりつつあったとしたら、
それはもはや予見ではなく、現実に起こりつつある変化を
語っているにすぎないという認識が必要でしょう。


では、2つめのビジョナリーのパラドックスを紹介しましょう。

これは、「イノベーション」への取り組みの難しさを
説明しているものだと言えます。


“あなたが未来をより正しく予測できるようになればなるほど、
 さまざまな面で、現在(の経営)を不安定にさせていく”


例えば近年、コダックや富士フィルムなどのフィルムメーカーは、
デジタルカメラの普及によって、従来の「銀塩フィルム」は、
ごく一部の利用者にのみ必要とされるだけの

「過去の製品」

になってしまうという予測が確実になればなるほど、
未来の技術であるデジタルイメージング関連の技術の
開発と製品化に力を入れざるを得なくなりました。

これは、当然ながらこれまで会社を支えてきた
銀塩フィルム関連製品、関連部門の縮小や人員の配置転換
といった経営・組織の不安定化に対処せざるを得ませんでした。


このように、様々な企業(個人)において、

・将来の収益製品・部門

と、

・現在の収益製品・部門

との間でさまざまな点において利害の対立が
しばしば発生します。

もし、現在の収益製品・部門の力が強すぎると、
次世代製品への移行が遅れてしまい、未来においては
淘汰されてしまうわけです。

こうして消滅してしまった企業はたくさんありますね。

ですから、ビジョナリーとしては、
こうした将来と現在の間で発生するパラドックスを
見逃してはいけないわけです。


ビジョナリーハンドブックでは、
前述した2つ以外にも、いくつかの

「ビジョナリーのパラドックス」

が示されていますが、
最後にあと1つだけ紹介しておきたいのが
次のパラドックスです。

“自分(自社)の将来像がどのようなものであれ、
 その通りになることはないと予想しなければならない”

要するに、

「自分が描いたとおりの未来になることはないと
 最初から覚悟しておけ!」

ということですね。

これは、前回も書いたように、
周囲の環境変化に応じて

「予見」

そのものをしばしば見直すことの重要性を示唆するものであり、
また、予見に依存しすぎることを戒めるパラドックスだと
言えそうです。


そもそも、未来を予見することは、
未来がどうなるかを的中させることが
最大の目的ではありません。

極端な話、予見が外れてもいいのです。


『未来学』の著者、根本昌彦氏が主張しているように、
未来を予見することは、

“現在の条件を元に、未来のあらゆる可能性を考えること”

であり、

“将来の危機を回避するためや、未来を創造するためのもの”

だと言えるでしょう。


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー

・ペーパーバック1
・ペーパーバック2


*現在は、出品者からしか手に入らないようです。


『未来学』(根本昌彦著、WAVE出版)

投稿者 松尾 順 : 16:12 | コメント (2) | トラックバック

ビジョナリーハンドブック(0):イントロダクション

今年の正月休み、
私はあえてインターネット、パソコンから遠ざかり、
以下に示したタイトルの本を読み返していました。

『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes
 That Will Shape The Future of Your Business』


この本は、企業として、また個人として、
不確実な未来に対してどのように行動すべきかについて
有益な示唆を与えてくれるガイドブックです。


変化が激しく、一歩先さえ見えない、
そんな混沌とした今、こんな本が必要とされているのでは
ないでしょうか?

というわけで、ずいぶん前から本書の内容をご紹介したいと
考えていましたが、いかんせん翻訳版がありません。

残念ながら、洋書を読み、その内容をすらすらと
要約することは私の能力を超えています・・・

そこで、この正月にじっくり読み直して十分に準備し、
ようやく年明けからご紹介できるというわけです。

ちょっと難しい内容ではあります。

でも、理解しにくい点があったとしたら私の責任です。
どうかご指摘くださいね!


“Welcome to the Age of Possibility”
   -可能性の時代へようこそ-

Visionary's Handbookの第一章の冒頭は、
この文で始まっています。


現在でも、
自分が生まれた場所・家、育った環境などに基づく
様々な制約があります。

それでも、以前に比べると私たちははるかに自由な
生き方ができますよね。すなわち、

・自分(自社)は将来どうなりたいか
・何をしたいか
・何を知りたいか
・どこに行きたいか

といったことについて多くの選択肢があります。


ただ、自分(自社)の可能性が拡がった分、
自分の進むべき方向を自ら決めなければならなくなりました。

自由だからこそ、可能性が大きいからこそ、
むしろ不確実な未来に立ち向かわなければならない
というのはある意味皮肉なことです・・・


でも、生まれ持っての宿命や運命に従うしかなかった
時代はとうに過ぎ去っています。

次々と生まれる新たな思想や技術、体制によって、
これまでの古い思想や技術、体制が破壊(更新)され続ける今、
周囲の環境変化に対して、

「受身」

でいるだけではただ翻弄されるばかりです。

自分(自社)は、自らの運命の管理人となり、
周囲の変化を能動的に乗り切ることが求められているのです。


Visionary's Handbookでは、
未来を予測する方法を教えてくれるわけではありません。

そもそも、未来を正確に予測することは不可能です。
とりわけ変化が加速している現代においては・・・

しかし、将来を予測することを止めてしまうのでは
ありません。

物事が変化し続けることを「常態」として受け入れ、
将来の変化についての予測を頻繁に見直しつつ、
柔軟に自分(自社)の行動も変化させていくのです。


以前のように、例えば10年先の未来を予測したら、
それを固定的なものとしてみなし、現在にさかのぼって
今後10年間の活動計画を立てるという方法は、
もはや役に立たないということですね。


さて、Visionary's Handbookでは、
混沌とした現代を生き抜く上で理解しておくべき9つの

「パラドックス」(矛盾)

が取り上げられています。

次回以降、各パラドックスのポイントを
ご紹介していきますね。お楽しみに!


『The Visionary's Handbook:Nine Paradoxes That Will Shape
The Future of Your Business』
(Watts Wacker,Jim Taylor,Howard B. Means著,Harperbusiness)

・ハードカバー

・ペーパーバック1
・ペーパーバック2

*現在は、出品者からしか手に入らないようです。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

マーケティングメトリックス:Web分析の新しい方法

まず、前回の記事の簡単な復習です。

マーケティングメトリックスにおいて
最も重要なのは、

「評価指標」

の取り扱いでした。


この評価指標は、
大きくは次の2つに分けて考えます。

・ゴール指標
・中間指標


ゴール指標は、

マーケティング施策全体

を総合的に評価するものです。

ですから、

・施策のどこが良かったのか?

逆に、

・どこに問題があったのか?

についての推察を行い、仮説を立て、
施策内容を改善するためにはあまり役立ちません。


そこで、ゴール指標に到達するまでの前段階で、
顧客が起こした行動や心理の変化を把握する指標が必要です。

これが

「中間指標」

です。

マーケティングメトリックスを実施するに当たっては、
多数存在する最終指標や中間指標の中から、前述したように、

マーケティング施策の目的や内容に即した指標

を選択し、指標相互の関係性を把握して、
体系化しておく必要があります。


さて、先日届いたばかりの

月刊『アイ・エム・プレス』最新号(2008.12 Vol.151)

の中の連載記事

「米国におけるeコマースの最新事情」

では、評価指標の選択に関する内容が
取り上げられていました。


今回は、その記事のポイントを簡単にご紹介します。

上記連載の今回のタイトルは、

“Web分析の新しい方法”

です。


米国のECサイト(記事中では「eテーラー」)では、
売上げと利益を伸ばし続けるためのカギは、
ビジターの行動の分析、その継続的なベンチマーキング、
トレンドの追跡だという点を理解しています。


ただ、やりかたは以前と大きく異なっているそうです。

ECサイトが従来重視していた

評価指標(記事中では「測定項目」)

は、以下の2項目でした。

-----------------------

1.コンバージョン率
 
サイト訪問者数に対する注文者数の割合

2.買い物の中断

商品をショッピングカートに入れたのに、
チェックアウト(注文完了)には至らなかった
買い物客の数

------------------------

しかし、最近のECサイトは、
もっと精密な測定を行うべきであることを
認識しています。

そのひとつの理由は、

コンバージョンや中断にいたる途中の経過

を知る必要があるからです。

すなわち、私の言葉で言えば、

「中間指標」

をもっと測定しないと、
具体的な改善施策を打てないからです。


そこで、最近注目されている測定項目として
以下のようなものがあります。

これらは、ECサイト向けの各種ソリューションを
提供している‘MarketLive’社が集計している

「MarketLive Performance Index」

で把握可能な項目です。

--------------------------

・「ワン・アンド・アウト」ビジター

1ページだけ見てサイトを離れるビジターの数。
日本では、一般に「直帰率」と呼んでいますね。

直帰率は低いほうがもちろんいい。

同記事によれば、
ホームぺージ(トップページ)に異なる商品が8つあるサイトが
最も低い「ワン・アンド・アウト率」を達成しており、
コンバージョン率はほかのサイトの3倍以上だそうです。


・検索toカート率

どの検索キーワードが、
カートに最も結びついたかを示す。

販売促進の指針として役立ちます。


・製品ページ訪問toカート率

どのページが強力にコンバージョン率に貢献しているか
を示すもの。あるページにおいてこの率が低い場合には、
コピーやグラフィックを改善すべきです。

--------------------------

同記事では、ご紹介した上記項目以外の項目についても
いくつか説明されていますが、長くなりますので割愛します。
(詳細はアイ・エム・プレス本誌を参照ください)


最近注目されている指標は、
行動の結果(すなわち「ゴール指標」)ではなく、
おおむね、なぜその行動を起こしたかという動機や、
きっかけを推測できるなものだという点に
お気づきでしょうか。


*月刊『アイ・エム・プレス』
 http://www.im-press.jp/

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

マーケティングメトリックス:評価指標とは?

「マーケティングメトリックス」とは、
マーケティング施策の効果や効率を定量的に、
すなわち「数字」で把握するための仕組みです。


マーケティングメトリックスの運用は基本的には、

・マーケティング施策の目的や内容に基づき、
・最適な「評価指標」を選択し、
・その「評価指標」の算出に必要なデータを収集し、
・収集したデータを元に「評価指標」を算出、
・施策の効果・効率の検証を行う

という手順を踏みます。


さて、マーケティングメトリックスにおいて
最も重要なのは、

「評価指標」

の取り扱いです。


評価指標は、英語では

“Performance Indicator(s)”

と表します。

確実に把握しておくべき重要な評価指標のことを

“KPI”- Key Performance Indicator(s)-

と呼ぶのはご存知の方も多いと思いいます。


この評価指標ですが、
大きくは次の2つに分けて考えます。

・ゴール指標
・中間指標


「ゴール指標」は、「最終指標」とも言います。

マーケティング施策の最終(究極)の目的・目標
への到達度合いを評価するための指標です。


マーケティング施策の最終(究極)の目的は、
結局のところ、売上や利益ですよね。

したがって、ゴール指標は、多くの場合、

販売数、利益額、顧客獲得数、ROI(Return On Investment)

といった

「金銭的な成果」

に直結するものが選ばれます。


ゴール指標は、

マーケティング施策全体

を総合的に評価するものです。


ですから、

・施策のどこが良かったのか?

逆に、

・どこに問題があったのか?

についての推察を行って仮説を立て、
施策内容を改善するためにはあまり役立ちません。

なぜなら、文字通り施策の

「最終結果」

しか把握していないからです。


そこで、ゴール指標に到達するまでの前段階で、
顧客が起こした行動や心理の変化を把握する指標が
必要です。

それが

「中間指標」

です。

ゴール指標に‘先行’する指標であるため、

「先行指標」

と呼ぶこともあります。


ECサイトの例でゴール指標と中間指標をご説明しましょう。


・最終指標

以下のような数値が最終指標として選択されることが
多いでしょう。

 -販売額
 -利益額
 -販売数
 -新規購入者数
 -再購入者数
 -コンバージョン率(購入者数/サイト訪問者数)


・中間指標

顧客が当該ECサイトで購入する前段階の行動を把握します。
例えば次のようなものです。

 -購入中断率(カートに入れたのに購入に至らなかった割合)
 -滞在時間(商品に対する関心度や理解度を表すと考える)
 -サイト訪問者数
 -ネット広告閲覧数
 -ネット広告クリック数
 -検索エンジンからの来訪者数


マーケティングメトリックスを実施するに当たっては、
多数存在する最終指標や中間指標の中から、前述したように、

マーケティング施策の目的や内容に即した指標

を適切に選択し、指標相互の関係性を把握し、
体系化しておく必要があります。


(関連記事)
『マーケティングメトリックスとは?』

投稿者 松尾 順 : 13:18 | コメント (0) | トラックバック

ハイブリッドの時代

香港で一番有名な日本語はなんだか知ってますか?


それは、ひらがなの

「の」

なんだそうです。


街中を歩くと、

「新の城」「優の良品」「日の船」

など、「の」を使った店名の看板があちこちにあります。


なぜ「の」が香港で好まれるかの理由について、
最も有力な説は、

「高品質な商品を提供できる日本を連想させるから

ということらしいです。

また、

「丸っこい形が、記号としてかわいらしいから」

ということもあるようですね。


すなわち、具体的な意味を伝えるのではなく、
高品質とか可愛いといった感覚的なイメージを伝える

「デザイン」

としてひらがなの「の」が使用されているというわけです。


類似の理由で、
ユニクロのニューヨークSOHO店のロゴは、
アルファベットの「UNIQLO」に加えて、

カタカナの「ユニクロ」

が採用されているのはご存知かと思います。


SOHO店を訪れる大半の外国人にとって、
店頭に掲げられた旗やショッピングバックなどに
印刷された

「ユニクロ」

というカタカナは意味不明の単なる記号にしか見えません。

しかし、見慣れない文字だけにインパクトがありますし、
少なくとも

「ユニクロは日本発のブランドである」

というアイデンティティを感じることができますね。


さて、日本人は、

漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット

の4種類を駆使する世界でも稀な民族です。


ユニクロSOHO店のデザインを行った、
アートディレクターの佐藤可士和氏によれば、
外国人は、日本人デザイナーが取り組んでいるパンフレット
などの各種制作物の上に、上記の4つの異なるスタイルの文字
がバランスよく並んでいるのをみて驚くのだそうです。

基本的に「アルファベット」しか使わない外国人としては、

「なんと器用なことができるのだ」

という感嘆の声を上げるのです。


佐藤氏は、日本人は古来から、
外部から様々なものを取り込んで、
従来のものと上手に融合させる

「ハイブリッド」

が得意だと先日の講演で指摘していました。

確かに、私たちは、

「和洋折衷」

という言葉があるほど、
様々な分野でのハイブリッド化を実に
柔軟にやっていますよね。

そういえば、
世界的に評価の高いトヨタの

「プリウス」

も文字通りハイブリッド。


現代は、以前よりもさらに、
多種多様なモノの自由な組み合わせによって
イノベーションを起こすことが重要だと
考えられています。

佐藤氏も強調していましたが、

「ハイブリッド」

が現代のキーワードなのです。


日本人が様々な分野で世界をリードできる時代
なのかもしれませんね。

投稿者 松尾 順 : 12:07 | コメント (0) | トラックバック

性能破壊型ノートPCに日本メーカーはついていけるか?

日経産業地域研究所がまとめた

「2008年第三四半期の新製品ランキング」

で、台湾アスーステックコンピュータ

「EeePC(イーピーシー)」

が総合1位に選ばれていますね。
(日経産業新聞、2008/10/23)


「EeePC」はパソコンに求められる性能・機能を絞り込み、
小型化と低価格化を実現。

「5万円パソコン」

の新市場を開拓した製品です。


さて、この製品は、イノベーションのタイプとしては、

「パラダイム持続型―性能破壊型」

に分類できます。


「パラダイム持続型」というのは、
EeePCは、PCとしての基本的な枠組みは既存のものと
変わらないという意味です。

一方、「性能破壊型」というのは、
意図的に性能を引き下げることによって別のベネフィット
(EeePCの場合、「携帯性」と「安さ」)を高めたという
意味です。

「パラダイム持続型―性能破壊型」

に分類される他のIT関連製品としては、
以前紹介したように、

ハードディスクやフロッピーディスク

などがあります。

ハードディスクについて言えば、
14インチから始まり、8インチ、5インチ、3.5インチ
へと小型化が進みました。

こうした小型化は、当初は記憶容量が減るため、
実質的な性能低下になるわけです。


しかし、「記憶容量」ではなく「小サイズ」という
ベネフィットを評価するユーザーによって受け入れられ
普及が進んだ結果、旧製品を淘汰してしまいました。

注目すべきは、
上記のような性能破壊型イノベーションの場合、
従来製品でトップを走っていたメーカーの多くが、
小型化の流れについていけず、新興メーカーに道を
譲ったことです。


現在売れている製品を売れなくするような新製品を
出すことは社内的な抵抗が大きいからですね。

また、あえて性能を低下させるような製品を設計するのは
技術者としては面白みがないという点もあるでしょう。

いわゆる「イノベーションのジレンマ」です。


「EeePC」によって開拓された5万円パソコン市場の拡大に
よって、従来のノートPC市場はかなりの影響を受けています。

さすがに静観していられなくなった
日本の大手PCメーカーも追随しつつありますが、
おおむね価格設定が高めですよね。

同じ土俵で勝負できる製品をまだ出せていません。


やはり、

「イノベーションのジレンマ」

に直面しているのではないかと想定されます。


一方、PC最大手のHPは動きが速い。
イノベーションのジレンマを乗り越えることに
成功してます。

本日の日経本紙に15段全面広告で、
4万円台まで価格を引き下げたノートPCの発売を
告知していました。

これはかなり衝撃的・・・

デルなども近々、
同じ水準のノートPCを投入するのは
間違いないでしょうね。


ハードディスクドライブやフロッピーディスクのように
5万円パソコンが従来パソコンを完全に代替してしまう
ことはないと思われます。


しかし、既存ノートPC市場の縮小、
あるいは縮小はしないまでも成長が鈍化することは必至です。


「イノベーションのジレンマ」

を乗り越えて、低価格ノートPC市場で勝負できない
日本メーカーは、今後窮地に追い込まれることになるでしょうね。


*技術イノベーションの4類型

投稿者 松尾 順 : 17:38 | コメント (0) | トラックバック

観念価値の時代

「製品が提供できる価値にどのような種類があるのか」

については様々な考え方や理論があります。


私の場合、
最近は以下の3階層で製品価値の構造を捉えています。

(1)便益価値(最下層)
(2)感情価値(中階層)
(3)観念価値(最上層)


------------------------------

(1)便益価値

製品がどんな具体的な欲求を充足してくれるのか、
ということです。

「その製品は、どんな問題を解決してくれるのか」
「その製品は、どんな役に立つのか」

といった質問の答えが「便益価値」になります。


先日のドリルの話で言えば、

「ドリル」という製品は、

「ねじ穴」

を開けるのに役立つという

「便益価値」

を持っています。

-----------------------------

(2)感情価値

その製品を利用することによってユーザーが感じる

「心地よさ」「たのしさ」、「うれしさ」

など、感情に作用する価値のことです。
(「情緒価値」ということもあります)


これはブランドイメージとも強く結びついています。

たとえ割高(最近はそうでもありませんが)でも
アップル製品を積極的に購入したいと考えるユーザーが
いるのは、アップル製品を所有することの喜びや楽しさが、
他のメーカーよりも大きいからですね。 

また、以前ご紹介した、花王のハンディモップ、

「クイックルワイパーハンディ」

では、小さいほこりを除去して部屋がきれいになるという

「便益価値」

に加えて、思わずなでなでしたくなる、
ネコじゃらしのようなふわふわした形状にモップ部分を
したことで、「楽しい」「かわいい」といった

「感情的価値」

をユーザーに提供しています。

------------------------------

(3)観念価値

これは「コンセプト価値」と言うこともありますが、

「製品」

そのものが持つ価値というよりも、
むしろ、その製品を提供する企業が打ち出している

経営理念や方針、企業文化

などがもたらす価値です。


具体的には、

「誠実な経営に徹する」

といった経営自体についての方針や、

「原材料には天然ものしか利用しない」

といった品質についての考え方であったり、

「環境保護」「動物愛護」

といった、社会的な意義の高い問題に対する
貢献意識の強さです。(いわゆる「CSR」)

人々は、上記のような、
製品の背後にある企業のこだわりや考え方、
社会的な貢献意識の高さに共感して、
あえてその製品を選択するという行動を取ります。

------------------------------

さて、従来は「便益価値」の大きさが、
特定の製品が選ばれる最大の理由でした。

近年は、便益価値での差別化が困難になったため、

「感情的価値」

がより重視されるようになってきましたね。

しかし、これからは、なによりも

「観念価値」

が購入に当たってますます重視されるように
なってくるでしょう。

どんな製品かということ以上に、
どんな会社がそれを提供しているのか、
そしてその会社はどんな考え方を持っているのか
を知った上で購入を判断したいと考える消費者が
増えていきます。

これは、情報化が進んだことにより、
企業の実態が次々と明るみにでるようになった今、
公正で誠実な会社があまりに少ないことに消費者が
気付いたことの反映でもありますね。


*情緒価値重視の製品開発:花王のケーススタディ

投稿者 松尾 順 : 07:44 | コメント (1) | トラックバック

大相撲の経済学(6)「八百長」の経済学

「週刊現代」の八百長疑惑を報じた記事を巡る

「大相撲八百長訴訟」

の弁論(08/10/03)において、
講談社側の証人として出廷した元小結の板井圭介氏は、
次のように証言しています。

『現役時代、八百長に関与した。横綱、大関なら当時で
 70~80万円を払って下位の力士に頼んでいた』

『下位の力士同士であれば、1回勝ったら、次は負ける。
 それが相撲界のルール』


板井氏の発言の真偽はさておき、

『大相撲の経済学』

では、八百長を行うインセンティブ(動機)、メリットが、
どのような場合において発生する可能性があるかを検討しています。
(八百長が実際に行われているどうかを検討したものではありません)


同書では、数式を用いて説明してあるのですが、
難しくなるので詳細は本を読んでいただくとして、
ここではポイントのみ紹介しておきます。


そもそも、「経済学の基本理論」にしたがえば、
八百長の取引が成立するためには、その取引によって

正味の利益増加分(純利益)

が発生しなければなりません。


八百長が生み出す利益とは、
ひとつには、負けることによって失うはずの地位や所得を
維持できることです。

また、勝ち負けを確実にすることで、
ガチンコ(真剣)勝負のリスクを回避できることです。


さて、八百長を実際に行うとしたら
取引の方法には坂井氏が証言したように次の2つの方法があります。

1.金銭の授受を行う
2.星を交換する(現在と将来の勝ち星を交換)


金銭の授受が行われる場合について詳しく説明しましょう。

『大相撲の経済学』では、
八百長をもちかけ、金銭を渡す力士を「渡川」、
もらう側を「受取山」と名づけて八百長の成立条件を
具体的に検討しています。

なお、前提として、渡川、受取山の両者は巡業などを通じて
お互いの実力を熟知していて、ガチンコ勝負した際にどの位の割合で
渡川が受取山に勝つかもわかっていることにします。


この前提において、渡川が受取山に八百長を持ちかけるためには、
ガチンコで勝った場合の利益よりも、八百長で確実な勝ち星を得る方
が利益が多くなければなりません。(まあ、当然のことですけど)

一方、受取山が八百長話をOKする条件は、
負けることによって失う損失よりも、
渡川からもらうお金が多くなければなりませんよね。


ですから、八百長が成立しやすくなるのは、
渡川にとってこの一番で勝つことの利益が十分に大きく、
一方、受取山にとって負けることの損失が小さい場合です。

例えば千秋楽において、十両最下位の渡川は、

7勝7敗

で勝ち越しがかかっているとします。


一方、十両十枚目の受取山は、

8勝6敗

で既に勝ち越しを決めています。


このような状況での渡川と受取山の一番で、
もし渡川が負けると幕下に転落。

約100万円の月給がゼロになります。


しかし、受取山の場合は、
勝ち越しているので、この一番に負けても、
それによって被る損失は、勝った場合に得られる勝ち点分
(1円分、実質1場所当たり4000円の力士褒賞金)だけです。


そこで、もし両者のリスク(勝敗率)評価や実力、交渉力が
ほぼ同じだと仮定すれば、この一番における渡川の勝ち星の
取引額はおよそ

25万円

当たりになるだろうと同書では推定しています。


「星の交換」による八百長の場合も、
基本的な成立条件は同じです。

つまり、

八百長の利得がガチンコの利得を上回る場合

に、八百長を行うインセンティブ、メリットが生まれてきます。


逆に、八百長が成立しにくい状況としては、
次のような点が挙げられます。

ひとつは、両者の実力が離れている場合です。

先ほどの例で言えば、渡川が受取山よりも圧倒的に強いと
わかっていれば、ガチンコでも勝てる可能性が高いわけですから、
渡川としては、金銭を渡してまで勝ちを確実にしようとは
思わないでしょう。


もう一つは、両者の現在の一番の重要度が近い場合です。

同じく先ほどの例で言えば、
受取山も、渡川と同様に十両最下位にいて7勝7敗、
千秋楽で負ければ幕下転落の崖っぷちにいるということであれば、
渡川も受取山もどちらも絶対に負けたくない状況です。

この場合、まずガチンコ勝負しかありえませんね。


相撲協会では、八百長を防ぐことを狙いとして、
一番の取組の重要性がほぼ同じ力士同士の取組を増やしています。

千秋楽で、共に7勝7敗の取組が多いのは、
八百長をしたくなるインセンティブを低下させるためなのです。


また、幕内力士と十両力士、
および、十両力士と幕下力士の対戦が多く組まれます。

下位に陥落して給料を減らしたくない力士と、
上位に這い上がって給料を増やしたい力士の対戦であれば、
お互いの損得の和が近いため、八百長をすることによる
純利益がほとんど発生しません。

ですから、やはり八百長をするインセンティブが低くなります。


なお、八百長が起きないようにするためには、
実力がかけ離れた力士同士を組ませるという方法もあります。

ガチンコ勝負でも、
どちらが勝つかお互いほぼわかっているため、
八百長する必要がないからです。


しかし、観客にとっては、
勝ち負けが明白な一番はまったく面白くありません。

(こんな取組ばかりだとファン離れが起きるでしょうね)

どっちが勝つかわからない実力伯仲の力士同士が
闘うからこそ面白いわけです。

したがって、大相撲という興行(娯楽スポーツ)の
運営主体である相撲協会としては、現実にはこのような
取組は避けなければなりません。


ところで、
冒頭の訴訟に出廷した板井氏の証言によると、
八百長をやる理由として、

『お金がほしいというよりも、いま自分がいる地位を保ちたいからだ』

と述べています。

八百長が行われる背景には、
単に経済的なメリットだけでなく、
プライドというか、見栄というか、心理的な要素も
絡んでくるようです。

板井氏のコメントは、
人間が100%合理的な判断に基づく行動するとは限らない点を
示していると言えますね。


今回で『大相撲の経済学』の内容紹介は終わりです。

一連の記事でご紹介できなかったテーマもまだたくさん
ありますので、興味のある方はぜひ本書読んでみてください!


八百長疑惑は残念なことですが、
大相撲界の今後のさらなる隆盛を1相撲ファンとして
応援したいと思っています。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 15:29 | コメント (6) | トラックバック

親父さん、娘には避けられて正常です!

私は若い頃、

フィールド調査員

の仕事を2年ほどしていた時期があります。

関東の様々な小売店(GMS、スーパー、コンビニ、
ドラッグストア、化粧品店、タバコ店など)を訪問して
消費財の売れ行きを調べるのです。


この仕事をしているフィールド調査員は、
全国に配置されていましたが、私は

「リリーフ要員」

という役割。

つまり、人手が足りないところに派遣される
お助け部隊でした。


業務遂行には、
高度な調査技術や豊富な商品知識が必要で、
一人前にこなせるようになるまで結構大変でしたが、
ひとつ、おいしい点がありました。


それは、現場での作業時間はおおむね

朝9時過ぎから夕方4時くらい

まで。

残務処理があるとはいえ、
毎日ほとんど残業がなかったのです。

なぜ作業時間が短いのかというと、
お店のオープン前後から調査を開始して、
夕方、お客さんで混み始めるまえに終了する
必要があったからです。

しかも、毎日オフィスに行く義務がなく直行・直帰。
オフの時間がたっぷりありました。
(地方在住の調査員は、そもそも東京の事務所に
 通勤できませんから)


さて、以上は実は前振りです。
長くてすいません。


当時私は独身でしたが、
結婚されている調査員の方の中には、
毎日欠かさず夕食を家族で囲むという方がいました。

仕事が終わってまっすぐ帰れば、
5時、6時には自宅に戻れますからね。


そんなわけで、家族みんなと
とても仲が良かったその調査員のおじさんは、

中学生の娘といまだに一緒にお風呂に入っている

という話をしていたのを覚えています。

当時独身の私にはよくわかりませんでしたが、
現在中3の娘を持つ身となってみると、
一緒にお風呂に入るなんてとても考えられません。

年頃の娘は基本、親父を避けるものですからね。
ちょっと悲しいですが・・・


そもそも、年頃の娘は、
なぜ父親を避けるのでしょうか?

特に「親父のにおい」を毛嫌いしますよね。


次の実験にそのヒントがありそうです。

スイスのベルン大学、米国シカゴ大学などが
行った実験です。

まず何人もの男性に、
同じTシャツを数日間続けてもらいます。
(男性のにおいがたっぷり染み付きますね)

そして、そのTシャツを複数の女性にかいでもらい、
好ましいと感じたものを選んでもらうのです。
(被験者の女性にとっては、あまり楽しい実験では
 なさそう・・・)


個々人の体臭は、

「HLA遺伝子(MHC遺伝子)」

で決まることがわかっているそうですが、
実験結果によると、女性は、

自分と近い遺伝子を持つ男性のにおい

を避ける傾向にあることが確かめられたそうです。

これは、近親婚を回避し、
遺伝的多様性を保つための本能的な働きと
考えられています。


この実験を踏まえると、
血のつながった親父のにおいを娘が嫌い、
接触を避けようとするのは正常なことだと言えます。

中学生にもなった娘が、
親父のにおいを嫌わないのは逆に好ましくないわけです。

ちょっとほっとしました。


上記実験内容については以下の書籍を参考にしました。

『ここまで解明された最新の脳科学 脳のしくみ』
(ニュートンムック)

投稿者 松尾 順 : 10:24 | コメント (2) | トラックバック

ディズニーランドより楽しい?「キッザニア東京」

2006年10月に開業した

「キッザニア東京」(以下「キッザニア」)

に行かれたことありますか?


「キッザニア」は、
子供たちのための「職業体験型テーマパーク」です。

この施設では、

・働いてお金を稼ぐ
・稼いだお金を銀行に預ける
・稼いだお金を店で使う

といった、大人にとっては「日常的なこと」ですが、
子供たちにとっては「非日常なこと」を体験できます。


キッザニアでは、
楽しみながら社会勉強ができる(仮想の)街ということで、

「エデュテイメントタウン」

と自らを呼んでいます。


なお、「エデュテイメント(Edutainment)」は、

・エデュケーション(Education)
・エンターテイメント(Entertainment)

の2つの要素が融合しているという意味を持つ造語ですね。


キッザニアのメインターゲットは、
小学校低中学年、つまり7-9歳の子供たち。

ただ、実際には中高生の社会科見学や修学旅行先として
利用されることも多いため、7-9歳を頂点として
顧客層の裾野は意外に広いようです。


ご存知の方も多いと思いますが、
キッザニアが生まれたのはメキシコ。

メキシコの子供たちに大人気だったキッザニアを
日本に持ってくる際には、日本のスポンサー企業の理解・賛同
を得るのに苦労したとのこと。

従来にない施設だったからです。


また、果たして日本ではうまくいくかどうか、
懐疑的な人もいましたが、フタを開けてみれば大成功!

昨年07年度は、延べ97万人の来場者数を記録。

「ディズニーランドより楽しい!」

と繰り返しリピートする、
熱狂的な子供たちのファンも生まれています。

実は、私の長男(小6)も、
昨年初めてキッザニアを体験しましたが、
今もディズニーランドよりキッザニアに行きたい
と申しております・・・


さて、キッザニアとディズニーランドは、どちらも

「非日常」

を演出している点は同じながら、
それぞれのコンセプトや仕組みを比較してみると、
ある意味対極的な位置づけにあることがわかります。


それは、まず第1に

・ディズニーランド=ファンタジー
・キッザニア=リアリティ

という対比です。


ディズニーランドは、
来園者を夢の世界に連れて行くため、

「日常生活」

を思い出させないための細かい工夫がしてあります。

とことん

「ファンタジー」

を追求しているのがディズニーランドです。


一方、キッザニアは、
「リアリティ」にこだわっています。

子供たちはスポンサー企業のパビリオンで、
様々な仕事、職種を体験できます。

例えば、大和運輸のパビリオンでは宅急便で荷物を配達し、
ピザーラのそれでは、実際に食べられる本物のピザを焼き上げる。


キッザニアでは、スポンサー企業の出展に当たって、
自社事業に関連のある仕事であり、かつ各事業の独自ノウハウに
基づいた職業体験ができることを求めたそうです。

ですから、100%全く同じとはいかないまでにしても、
大人が実際に行っている宅急便やピザーラなどの仕事を
子供たちも同じ業務で行うことができるようになっています。


また、キッザニアでは、
様々な企画を立てるに当たって、

「子供だましはしない」

ということをいつも言っているそうです。

相手が子供だからといって、
リアリティに欠けた

「ままごと遊び」

に過ぎない内容にしてしまうと、
子供たちはすぐにふざけ始めてしまうからです。


さて、ディズニーランドとキッザニアの
もう1つの大きな違いは、

・ディズニー=受動的体験
・キッザニア=能動的体験

です。


ディズニーのアトラクションは
基本的に見て楽しんだり、決められたレールの上を走る
ライドに乗って楽しむ。

客側のアクションはほとんどありませんよね。


しかし、キッザニアでは、1部2部総入れ替え制、
1度に最大1500人の子供たちを入場させ、
5時間にわたって、70種類を超える職種の中から
好きな職種を選んで、子供自身が体験できる仕組み。
(1回の入場で体験できるのは、5職種前後だそうです)


例えば、テレビ局(BSフジ)のパビリオンでは、
子供たちが、アナウンサー、音響エンジニア、ディレクター、
スタイリストなどになりきって番組を作っていく。

運営方のスタッフは結構大変でしょうけど、
いろいろとハプニングも起きたりして、子供たちは
臨場感あふれるリアルな仕事現場の一員になれるわけです。

すなわち、キッザニアが提供しているのは、

能動的な娯楽

なのです。


同じテーマパークでも、ディズニーとキッザニアでは、
ずいぶんと楽しみ方が異なることがおわかりでしょうか。


なお、子供たちの中には

「キッザニアよりもやっぱりディズニーが好き!」

という子もいるでしょうし、
どちらがより優れているかという話をしたいわけではありません。


ただ、ハード面でも多大な投資が必要なディズニーランド型
のテーマパークと違い、「職業体験」というソフト面の充実
でリピート客を生み出しているキッザニアからは、
大人も学べる点が多いように思います。


当記事は、以下の講演の内容を参考にしました。

*日本マーケティング協会 月例会(2008/09/28)

「職業体験テーマパーク『キッザニア』の開発について

 講師:株式会社キッズシティージャパン
    マーケティング部部長 関口陽介氏


*キッザニア東京
http://www.kidzania.jp/index.html

投稿者 松尾 順 : 17:37 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(4)相撲界の終身雇用制度

近年、力士の大型化が急速に進んだのは、
体の大きな外国人力士の影響だと言われています。

現在はタレントとして活躍しているKONISHIKI、
つまり、ハワイ出身の「小錦」は新入幕時から200キロを越す
体躯で活躍し、無差別級の相撲における

「体格」

の優位性をまざまざと見せつけましたよね。


しかし、最高体重283キロまで増えてしまった小錦は、
タクシーに乗ればタイヤがパンクし、飛行機のトイレには
体が大きすぎて入らないため用が足せないなど、日常生活
にはいろいろと不便があったそうです。


前回説明したように、
相撲という特殊なスポーツで上位を目指すために、
多くは中卒で相撲界に入り、「相撲部屋」という一般社会とは
全く環境の異なる世界で暮らして体を巨大化させる力士は、
引退後のキャリアチェンジが容易ではありません。

このため、一定以上の成績を上げ、
大相撲の隆盛に貢献した力士に対しては、
引退後も手厚い生活保障が提供される仕組みになっています。


それは

「年寄制度」

です。

これは、「年寄株」を取得することにより、
引退後も日本相撲協会に「親方」として残ることが
できる仕組みです。


「年寄株」は正確には、

「年寄名跡(みょうせき)」

と呼ばれています。定年は65歳です。

したがって、力士が30代前半で現役を引退して
年寄株を取得すれば、65歳の定年までの約30年間に
わたって給料をもらい続けることができます。
(幕内力士の平均引退年齢はおよそ32歳だそうです)


年寄にもランクがあります。

相撲協会内でがんばって働けば、

平年寄→主任→委員→監事→理事

と出世していくことができます。

年収は、平年寄では1千万円強ですが、
理事になると2千万円を超えます。


『大相撲の経済学』では、
上記の「役職」はおおむね年齢とリンクしていることが
指摘されており、出世の条件としては、

「年功」

の占める要素が大きいようです。


さて、年寄たちに与えられる十分な報酬は、
言うまでもなく、相撲興行から得られる収益から
分配されるもの。

つまり、大相撲界全体としてみれば、
現役力士たちが、引退した年寄たちの生活を支える
構図です。

「年金」を連想しますね。


もちろん、年寄たちは年金生活をしているわけではなく、
自分の相撲部屋を持って若い力士を育成するなど、
日本相撲協会の一員として様々な業務を遂行していますから、
いわば一般企業における

「終身雇用制度」

と同様の仕組みが確立されていると言えるわけです。
(終身雇用制度の枠組みには入れるのは、ごく一握りの
 力士に限られる点がプロスポーツの厳しい現実ですが)


一般企業における終身雇用制度は崩壊しつつありますよね。

しかし、キャリアチェンジが容易でない大相撲の世界では、
大相撲の隆盛に貢献できる有望な新力士を呼び入れるためにも、
生涯にわたる生活保障を維持する必要があります。


「年寄株」は105しかなく、
需要が供給を上回っているのが現状です。

つまり、引退して年寄株を取得できる資格があるにも関わらず、
空きがないため年寄になれない元力士もいます。
(ただし、四股名のまま相撲協会にしばらく残れる措置があります。
 いわゆるウエイティング状態ですね!)


年寄株の取引の実態は明らかではありません。

高値で取引されることもあるなど、さまざまな問題が
指摘されてきていますが、

「年寄制度」

もまた、大相撲界全体としての存続という目的に照らすと、
十分な経済合理性を持っていると考えられます。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 09:42 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(3)現役力士の報酬制度

大相撲界の報酬制度もまた、経済合理性の観点から見ると、
実に巧妙に練り上げられたものだと言えます。


現在の現役力士に対する報酬制度の特徴は、

「一定以上の実力を持つ力士が上位の座を目指すこと、
 そして長く現役で活躍することを動機付けるもの」

です。


ここで、

「一定以上の実力」

と言うのは具体的には

「10両以上」

のランクのことです。


力士は、10両以上になると

「関取」

と言われるようになり、
給料がもらえるようになります。


逆に言えば、10両未満の力士は給料が出ません。

10両未満のランクは、
総称して「幕下」と呼ばれています。

幕下ランクにいる力士は、通称

「取的」

と言われますが、正確には

「力士養成員」

という名称の立場です。

彼らは、所属する相撲部屋の

住み込み賄い人

として、相撲部屋の炊事や掃除・洗濯、
10両以上の力士の世話などをして働きつつ、
一人前の力士になるべく日々稽古に励んでいるのです。


給料は出ませんが、
部屋住み込み、食事付きですから生活には困りません。

年6回開催される本場所ごとに、
彼らにもランクに応じて10万円前後の手当てがでますが、
2ヶ月に1回で10万円程度ですから「お小遣い」ですね。


要するに、幕下力士は

「見習い修行中」

なのです。花街で言えば、

舞妓さん

と同じ立場にあるわけです。


さて、10両以上になった力士がもらえる報酬は、
2段階構造になっています。

報酬のベースとなるのが、いわゆる「月給」。

これは、

・横綱:282万円
・大関:235万円
・関脇・小結:131万円

といったようにランクに応じて決まっています。
年収だと、横綱で3400万円程度ですね。

ランクに応じた固定報酬です。


もうひとつは「力士褒賞金」。
これは、上記月給に上乗せされる成果報酬となります。

「力士褒賞金」は、

・勝ち越しの数・・・0.5円(一つにつき)
・金星(平幕力士が横綱に勝った場合)の数・・・10円
・全勝した場合・・・50円

など、本場所での「成果」に応じて与えられます。
(実際の報奨金は、この金額を4,000倍した額)


興味深いのは、
10両以上に止まっている限り、
力士褒賞金はどんどん積みあがっていくだけで
減額されることがない点です。

ある場所で負け越したからといって、
褒賞金は増えないにせよ、減ることはありません。

また、たとえ幕下に陥落しても、
積み上げた褒賞金はキープされますが、
再び10両以上に上がらない限り、褒賞金はもらえません。

したがって、長く10両以上にとどまり、
現役を続けているほど褒賞金は多くなっていきます。


『大相撲の経済学』によれば、
昭和54年に初土俵を踏み、以来幕内に93場所在位し、
平成14年秋場所後に引退した「寺尾」の場合、
引退時の褒賞金は

230円

でした。

これは、現在の倍率(4,000倍)で換算すると

92万円

ですね。

長年幕内に在位していた寺尾は、
引退する頃には、本場所ごとに90万円程度の褒賞金
を月給にプラスしてもらっていたわけです。


一方、『大相撲の経済学』が出版された2003年の時点
での横綱「朝青龍」の褒賞金は、

180円

程度でした。

当時はまだ、角界入りしてから日が浅かったため、
褒賞金の積み立てが少なかったのですね。


これは、実質報酬額(x4,000)としては

72万円

であり、寺尾よりも20万円低い!


すなわち、朝青龍は当時、月給は横綱ですから当然トップ、
ところが、上乗せ分の「力士褒賞金」については、
長年現役を務めることで大相撲界に貢献してきた寺尾の方が
多かったのです。


このように、

「月額給与」

は、ランクに応じて増減しますので、
より上位のランクを目指すインセンティブとして
働いきますが、

「力士褒賞金」

は、10両以上の力士として現役に長くとどまることを
動機付けていると言えるわけです。

なお、上記の基本的な報酬以外に、
場所ごとの成果に応じてもらえる特別手当(優勝賞金など)や、
企業などが広告宣伝目的で出す「懸賞金」などの報酬もあります。


以上の仕組み、給料の出ない幕下以下の力士にとっては
厳しいものですが、10両以上になれる資質を持ち、かつ
不断の努力を続けることのできる力士にとっては、
とてもありがたいものです。


というのも、力士の多くは中卒で相撲部屋に入ります。

最近は高卒、大卒の力士の割合も増えてきているそうですが、
学歴というか基礎的な学力を考慮すると、相撲界から一般企業
に転進するのはなかなか大変です。

また、相撲部屋という特殊な環境の中で鍛えられ、
相撲という特殊なスポーツ競技で勝てるようになるために
一般人とはかけ離れた

「巨大な体躯」

を意図的に作り上げます。

この点でも、相撲界を離れた後の職業選択の幅が、
どうしても狭いものになってしまうわけです。

要するにつぶしがあまりきかない。

そこで、短期的な成果に基づく純粋な成果報酬ではなく、
一定以上の実力を保って現役を続けることがプラスになるような、
現在の年功的要素の強い報酬制度に落ち着いたと考えられます。


なお、現役時代に活躍し、相応の成績を収めた力士は、
引退後も「年寄」になることで安定した収入(1千万円以上!)
を65歳の定年まで得ることができます。

このあたりについては次回で!


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本


(その他関連本)

『力士はなぜ四股を踏むのか』

『大相撲界の真相』

『力士の世界』

投稿者 松尾 順 : 19:24 | コメント (0) | トラックバック

大相撲の経済学(2)競争制限的な仕組み

大相撲界は、一つの大きな会社組織のようなもの。
別の言い方をすれば、「運命共同体」です。


現役の力士たちは、
より高い番付や、場所優勝を目指して、
お互いに競い合っているものの、

「真の敵」

ではありません。

むしろ、大相撲という

「興行」(=娯楽サービス)

を共に盛り上げる仲間。だから、
同じ会社の「社員」という見方ができるわけですね。


さて、大相撲界では、力士や部屋単位ではなく、
全体の繁栄・存続を大前提とする

「巧妙な仕組み」

が長い年月を経てできあがっています。


この点は、同じ「興行」でありながら、
特定の球団の繁栄が優先され、業界全体の地盤沈下が著しい
プロ野球界がぜひ学んで欲しいところです・・・


おっと脱線しましたが、
前述の「巧妙な仕組み」に戻りましょう。

巧妙な仕組みの多くは、

‘競争制限的’

なものです。


例えば、相撲は「個人競技」ですが、
全力士が、他の全力士と戦うことができる

「個人総当り制」

ではありません。


同じ部屋に属する力士同士は、
本場所の土俵上では戦わない決まりです。
(優勝決定戦を除いて)

つまり、本場所の取組は、
他の部屋の力士の間でしか組まれないのです。

これは、

「部屋別総当り制」

と呼ばれ、昭和40年から続いているそうです。


当然ながら、

「部屋別総当り制」

だと、

「個人総当り制」

よりも「取組」の多様性が低くなります。


例えば、同じ高砂部屋の

‘朝青龍’(西横綱)と‘朝赤龍’(西小結)

の取組が見たいと願っても、

「優勝決定戦」

にならない限り実現することはありません。


ですから、以前より「個人総当り制」を
望むファンの根強い声があります。

しかし、今後も「個人総当り制」に
変更される可能性はほとんどないでしょう。


なぜなら、より多くの白星を取れたり、
優勝を狙える力士をたくさん抱えている部屋ほど、
相撲協会からの補助金がたくさんもらえるためです。


ですから、もし「個人総当り制」になってしまうと、
強い力士をたくさん育成することよりも、むしろ、
同じ部屋の力士同士の取組の場合に、どちらを勝たせるべきか
といった所属力士の白星・黒星の配分に気をつかうことになる
でしょう。

仮に、個人総当り制となったとして、
もし自分の部屋のある力士があと1勝で優勝するという取組で、
同じ部屋の他の力士と戦うことになったとします。

この場合、親方としては、当然ながら優勝しそうな力士を
勝たせたいでしょう。(そのほうが補助金が多くなる)

そうすると裏取引、
すなわち「八百長」が行われるかもしれませんよね。


結局のところ、大相撲は、
「個人別競技」でありながらその実体は、

「部屋同士の戦い」

なのです。


ですから、強い力士の数に応じて
相撲部屋にインセンティブが与えられる現状においては、

「部屋別総当り制」

が最も合理的な仕組みと言えるわけです。


なお、強い力士を育てることは相撲部屋の仕事であり、
相撲協会自体は育成にはかかわりません。

したがって、相撲協会が、
強い力士の数に応じて部屋にインセンティブを
与えることも経済合理性に適っています。


さて、もうひとつ競争制限的な仕組みを説明しましょう。

力士は、入門する相撲部屋は選べますが、
その後は自分の意思で他の部屋に移籍することはできません。

つまり、

「フリーエージェント」

の権利を現役力士は持っていないのです。


なぜ、移籍の自由が認められないのでしょうか。

それは、もし移籍が自由化されれば、
相撲部屋の親方は、有望な弟子を手間暇かけて
育てるよりも、番付の高い人気力士を金の力で
スカウトしようとする可能性が高いからです。

そうなると、資金力に勝る部屋にばかり強い力士が
偏ることになりますよね。
(現在も、現役時代に人気が高かった力士が親方と
 なっている部屋に有望な力士が集まる傾向はありますが)


前述したように強い力士がいる部屋ほど、
相撲協会から多くの補助金が入るため、
移籍自由の世界では、特定の部屋がますます
強大化していくことになります。

こうなると、1強○弱みたいになってしまい、

「部屋別総当り制」

における取組はまるで面白みのないものになるでしょう。
(強い力士同士の迫力ある取組が減少するから)


このあたりの弊害がもろに顕在化しているのが
現在のプロ野球ですよね。


以上述べたように、大相撲界の場合、
伝統文化の名の下に力士本人の自由度が
かなり限定されているのですが、

大相撲界全体

の繁栄・存続のためには、
実に合理的な仕組みではあるのです。


ただ、親方の性格や、
それぞれの相撲部屋が持つ固有のルールや社風(部屋風?)と、
所属する力士との間の「合う・合わない」、つまり

「相性」

の問題が、一般の会社と社員との間と同様、
発生するでしょう。

ですから、他の部屋に移籍できないことが、
有望な力士の成長をつぶしてしまったり、
不祥事の種になる可能性を秘めていますよね。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 14:21 | コメント (1) | トラックバック

大相撲の経済学(1)大相撲界ってどんなところ?

さて今回から、

『大相撲の経済学』

の内容を私なりに咀嚼した上でご紹介していきます。


まずは、大枠を押えましょう!

すなわち、

「大相撲界ってどんなところなのか」

ということです。


ひとことで言えば、大相撲界とは、

「大相撲会社(グループ)」

とでも形容できる、
一般企業に似た大きなひとつの組織なのです。


なぜ、

「会社組織」

に類似していると言えるのでしょうか?


まず、力士を始め、各部屋の親方、行司、床山、世話人、
また日本相撲協会の理事、監事、役員など、関係者全員が

「日本相撲協会」

の構成員として属していることがひとつ。


次に、「番付」や「取組」は、
全て日本相撲協会の運営を行う

「年寄」

たちによって決められる点があります。
(「年寄」とは、相応の功績のあった力士が、
  現役引退後に取得できるポジション)


『大相撲の経済学』によれば、

「年寄」たちは‘(トップレベルの)管理者’

であり、

現役の力士たちは‘(一般)社員’

にあてはめると納得がいくと書いてあります。
(カッコ部分は松尾補記)


力士たちにとって、「番付」とは、
一般の会社が行う「人事」と等しいものです。

すべての番付は、
審判部に属する親方を中心に構成される

「番付編成会議」

によって決められ、
力士は人事に口をはさむことはできません。
(一般企業でも、基本的に「人事」に社員が
 異を唱えるのは難しいですよね)


また、各場所において、
どの力士とどの力士が対戦するかという、

「取組」

は、会社側が力士に下す「業務命令」と
みなせますね。


なお、力士、行司、床山など「(一般)社員」たちは、
日本相撲協会の構成員であると同時に、どこかの相撲部屋に
それぞれ所属しています。

そして、各相撲部屋に対しては、
弟子の数や弟子の活躍に応じて下記のような補助金、

・部屋維持費
・稽古場経費
・力士養成費

が日本相撲協会から支給されています。


先ほど、「大相撲会社(グループ)」と書きましたが、
日本相撲協会がいわば全体を束ねる

「持ち株会社」

のような形で存在しており、
各相撲部屋は、相撲協会からの出資を受けながら、
それぞれの部屋を運営している

「子会社」

のようなものだからです。

つまり、全体としては同じ「相撲事業」に関わっている
会社グループだとみなせるわけです。


さて、力士に払われる給与(基本給)ですが、
横綱、大関、関脇・小結など番付=職階に応じて
決まっています。

明快な賃金テーブルがあるわけです。


つまり、大相撲界では、
プロ野球やJリーグのように、
各スポーツ選手と球団側との個別交渉に基づく
契約ベースの報酬ではないのです。


このあたりの仕組みを見ても、大相撲界とは、

「大相撲会社(グループ)」

という大きな会社組織であり、
また、大相撲界にいる人々は、管理者、
あるいは社員であるという見方がしっくりきますよね。


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 15:14 | コメント (2) | トラックバック

大相撲の経済学(0)イントロダクション

近年、大相撲界の不祥事が相次いでますね・・・

特に、このところの麻薬汚染問題は大相撲にとって
深刻なイメージダウンにつながっています。


実は、私事ながら9月14日から始まる

「大相撲九月場所」

の両国国技館のチケットを購入していたのです。
(イス席ですけどね・・・)


相撲好きだった祖父の影響で、
大相撲のテレビ中継は小さい頃から毎日のように
観ていた私ですが、生の大相撲を観るのは生まれて初めて!

もし万が一、同場所が中止にでもなったら
どうしようと心配してました。

さすがに中止はなさそうですが。


さて、大相撲は日本が誇る

「伝統文化」

のひとつであることは言うまでもありません。

ただ、その封建的、閉鎖的な制度が、
現代においてはややそぐわなくなっている点は
否めないでしょう。

とはいえ、大相撲界が、伝統文化であると同時に、
興行を始めとする経済活動を通じて存続してきた以上、
その仕組みには、確かな

「経済合理性」

があります。


こうした経済合理性の観点から、
大相撲界の仕組みを分析した本があります。

『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

です。

この本はとても面白い本で、
以前からご紹介したいと思っていたのですが、
ネガティブな意味で現在最も注目されている今こそが
ベストタイミングでしょう。


例によって何回かに分けたシリーズで、
内容をご紹介していきたいと思いますのでお楽しみに!


『大相撲の経済学』
(中島隆信著、東洋経済新報社)

→単行本
→文庫本

投稿者 松尾 順 : 11:31 | コメント (5) | トラックバック

臭いオトコはもてないよ!

先日参加したある懇親会で、
某ゲーム開発会社にお勤めの2人の女性と
話す機会がありました。


どんな流れでそんな話題になったのか、
酒の席だったのでよく覚えていないのですが、
彼女たちによれば、

「うちの会社は、くさいんですよ・・・」

とのこと。

エレベーターに会社の男性と乗り合わせると、
正直、息を止めたくなるほどいやな臭いを感じるのだそうです


開発担当の男性たちは、
連日会社に泊まりこんでゲーム開発に没頭しています。

風呂もろくに入らないし、
着替えもどのくらいマメにやっているのか不明。

会社の特性上、

「あまり好ましくないにおい」

が会社に充満しているのも、
やむを得ないのかなと思いました。


さて、近年、

「におい」

に対する関心が高まってますよね。


とりわけ、人が発する

「臭いにおい」

をどうやって抑えるかという

「防臭」

に対する関心が強まっています。


これは、高齢化社会の進展によって。
中高年特有の体臭、いわゆる

「加齢臭」

が注目されるようになったことも背景にあるでしょうね。


加齢臭は、男女問わず40歳代以降に増加するようですが、
自分のことは棚にあげて言うと、やはりオヤジのほうが臭い
わけです。

なぜなら、自分自身の臭いに鈍感であり、
そもそも気にしてもいない人が多いからでしょう。

前述したゲーム開発会社の若い男性たちも、
ゲームのことで頭が一杯、自分がどんなにひどい格好を
しているか、またどんなに臭いかなんて、まったく気に
していないそうです。


一方で、においを含む「外見」を磨くことの重要性に
目覚めた男性もいますし、体臭については、特に奥さんや彼女、
娘などから厳しい指摘を受けることから、なんらかの対策を
打つ必要性に迫られていますね。


こんな男性サイドの高まるニーズに応えたのが、
クラシエフーズ(旧カネボウフーズ)のガム、

『オトコ香る。』

です。

『オトコ香る。』は、食べて1-2時間すると、
体からほのかにバラの香りがするという画期的な商品。


香水などの強い香りで体臭をごまかすのは、
香水慣れしていない多くの男性にとって、
あまり気が進まないものです。

しかし、ガムを噛むだけで、
体の内側からよい香りがするようになるこの製品は、
とても魅力的だったのです。


『オトコ香る。』は、2006年7月の発売と同時に
爆発的に売れました。

店によっては、バラ1個売りではなく、

「ボックス売り」

するお店もあったとか。

このため、発売わずか2カ月ほどで出荷停止。

2007年3月に再発売されてからも、
コンスタントに売れ続け、現在はコンビニの定番商品
としての地位を確立していますね。


ご存知の方も多いと思いますが、
クラシエフーズでは、若い女性向けに同様の機能を持つ

『ふわりんか』

を2005年8月に発売。

この製品はヒットしただけでなく、
お客様センターに次のような声が寄せられたのだそうです。

「男性(夫)にプレゼントしたい」
「パッケージが女性ぽくって買いづらい」
「加齢臭に効きますか」


『ふわりんか』のような製品が、
中高年層、特に男性にも求められていたことに気付いた
同社商品開発部では、以前から

「男のモテガムを作りたい」

という発想があったことから、

ふわりんかの男性版の開発に着手したのだそうです。


興味深いのは、『ふわりんか』も『オトコ香る。』も、
経営陣の受けは悪く、当初の年間目標は4億円という
控えめなものにさせられたのだそうです。

しかし、フタを開けてみれば
どちらも年商10億円以上のヒット商品になりました。

現在、『オトコ香る。』の購入者の7割が男性、
一方、『ふわりんか』の場合、7割が女性ということで、
うまくすみわけもできています。


「体臭」は、目をそむければ済む見た目と違い、
鼻をずっとつまんでいない限り防ぐことができません・・・

しかも、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、肌感覚の5感のうち、
脳神経に直結していているのは嗅覚だけ。

それだけ、においは脳に直接的な刺激を与えるのです。


したがって、臭い男性(女性もですが)は、
それだけで異性の生理的不快感を与えてしまい、
引かれてしまう可能性が高いのです。

ですから、体臭を抑える機能を持つ商品に対するニーズは
今後もますます強まっていくのではないかと思います。


*『オトコ香る。』については、
 日経情報ストラテジー(OCTOBER 2008)の記事、
 『あのプロジェクトの舞台裏』を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

女は狩りに出よ!男は自分を磨け!・・・「婚活」時代

私は20代の頃から、勤め先の会社以外の
外部の様々な集まり(異業種交流会や趣味系サークルなど)
に顔を出してきました。


さて、こんな私が最近特に気になって仕方がないのが、
外で出会う人たちのうち、実に多くの魅力的で妙齢の女性、男性が

「独り身」

でいることです。


こうした独身の人たちの中には、

「私は結婚はしない」

という主義の人もいます。

でも、ほとんどの人は、

「いい人がいたら結婚したい」

と考えているのです。


『「婚活」時代』
(山田昌弘著、白河桃子著、ディスカヴァー携書 21)

は、そんなひとたちのために役立つ内容となっています。


「婚活」とは、‘結婚活動’の略です。
‘就職活動’を「就活」と略すことに倣っています。

この本では、就職活動と同様、現代においては
積極的な結婚活動を行わなければ結婚に至らないという
基本認識があります。


就職活動について言えば、
以前は、職業の選択の自由がほとんどなく、
だからこそ逆にほとんどの人がなんらかの仕事に
就いていました。

また、周囲(教授や親戚縁者など)の斡旋を通じて
就職することも一般的でした。

ところが、就職市場が自由化され、
選択の自由が与えられた結果、皮肉にも、
働く側と雇用する側のマッチング(すりあわせ)が
必要となり、就職活動の如何によって仕事を得る人、
得られない人が出てくるようになったのです。


結婚についてもほぼ同じことが言えます。

以前は、親が決めた相手(いいなずけ)と結婚することが
一般的でしたし、また世話好きの「仲人おばさん」などから、
半ば強制的に結婚相手とお見合いさせられるということも
あったわけです。

おかげで、ある程度受身でも、
ほとんどの人が結婚できていました。


しかし、近代においては、「恋愛」と「結婚」が分離し、
結婚の自由化が進んだことによって、やはり就職と同様、
男女双方が主体的に選択しあう関係となりました。

しかも、結婚をするに当たっては、
以前よりも価値観やライフスタイルが多様化したため、
「結婚」についての双方のすり合わせが重要になりました。


このため、

「結婚活動」(婚活)

をがんばって行わなければ、
なかなか結婚できなくなってしまったというのが
現状なのです。


『「婚活」時代』では、
具体的な婚活の方法が詳しく解説されていますが、
男女それぞれが取るべき基本方針(戦略)は次の通りです。
(私の個人的な解釈も含まれている点ご注意!)

-----------------------------------------

・女性は狩りに出よ!

 昨今の男性は「待ちの王子様」です。
 また、自分のプライドが傷つくのが怖い
 「ガラスの王子様」でもあります。

 待っていても、なかなか声をかけてくれません。
 気になる男性がいたら、自分から声をかけ、
 セッティングしましょう。

 そして、自分好みの「男性」へと教育しなさい。
 (最初から魅力的な男性を見つけようとするのではなく、
  恋愛ベタな男性の中に、あなたにとって最高の男性と
  なり得る原石が見つかるかもしれません)


・男性は自分を磨け!

 女性から選んでもらうために重要なのは、
 経済力とコミュニケーション能力。

 経済力、つまり「稼げる能力」を高める努力、
 そして、「外見」を含めて女性との適切な付き合い方
 を学ぶことが必要です。

 なお、最近は経済的に自立している女性が、
 あまり経済力のない男性を選択するということも
 増えてきているようです。

 したがって、男性にとって「経済力」が、
 結婚相手を見つける上で、なくてはならないものとは
 必ずしも言えないかもしれません。

 むしろ、不潔な格好をしているとか、
 NGワードを会話で連発するようなコミュニケーション
 能力のなさの方が問題だと思われます。

 ただ、経済力と異なり、
 コミュニケーション能力は比較的短期間で
 高めることができますので、男性はまずこちらから
 着手すべきかなと思います。

-----------------------------------------


現代社会の結婚状況や、
詳しい「婚活」の方法について関心のある方は、
ぜひこの本を読んでみてください。

構成もよく練られていて、
本としての完成度の高い内容ですよ。


『「婚活」時代』
(山田昌弘著、白河桃子著、ディスカヴァー携書 21)

投稿者 松尾 順 : 14:03 | コメント (2) | トラックバック

社交的なコンピュータオタク・・・マイクロトレンド

いわゆる「コンピュータオタク」は、
内向的で非社交的な人間というイメージがあります。

確かに以前は、他人との接触が苦手、友達もおらず、
ひとり黙々とコンピュータ操作に没頭する人が
多かったですよね。


しかし、今や、コンピュータや携帯端末などの
テクノロジーを使いこなしている人々は最も社交的で
たくさんの友人と交流している人です。


コンピュータとコンピュータをつなぐ

「インターネット」

の浸透によって、人と人の間のコミュニケーションが
安価かつ手軽になりました。

最新のテクノロジーは以前と異なり、
社交的な目的のために開発・利用されることが
多くなっています。

ですから、社交的な人ほど、
さらに人とのつきあいを広げたり深めるために
テクノロジーの活用に熱心に打ち込んでしまうと
いうことかもしれません。


米国で行われたある調査では、
最も熱心なテクノロジー愛好者のうち
60%が「外交的」なタイプだったそうです。

(一般米国人のそれは49%)


彼らは、家にとじこもってひたすらコンピュータなどを
いじっているだけではありません。

「夜遊び、街に繰り出す」といった遊びもする
と回答した人は、「テクノロジー嫌い」の人の倍もいます。

また、熱心なテクノロジー愛好者の41%が、
パーティを「積極的に楽しむ」と答えているのに対し、
消極的なテクノロジー利用者は同24%に止まっています。


テクノロジーの役割が変わってしまった現代、

「コンピュータオタク」

に対する認識を改める必要があるのではないでしょうか?


さて、上記でご紹介した「社交的なコンピュータオタク」は、

『マイクロトレンド-世の中を動かす1%の人びと』

の本で解説されている

「41の多様なグループ(層)」

のひとつです。


『マイクロトレンド』とは、
価値観やライフスタイルの多様化を背景として
たくさん生まれている

「小さな兆候」

のこと。

この小さな兆候は、
人口のわずか1%かそこらの規模しかないため
あまり目立ちません。

しかし、今後大きく成長する可能性を秘めた個性的な
グループであり、社会の変化に大きな影響を与えているのです。


本書で挙げられている事例は米国が中心になっていますが、
日本国内の動向については、消費社会研究家の三浦展氏の
コメントが随所に盛り込まれています。


未来を的確に読むために、一読をお勧めします。


『マイクロトレンド-世の中を動かす1%の人びと』
(マーク J. ペン with E キニー・ザレスン著、吉田晋治訳、
 三浦展監修)

投稿者 松尾 順 : 16:21 | コメント (0) | トラックバック

良循環の医療システム(後編)

歯医者さんの数は、
実はコンビニより多いのだそうです。

このため、過当競争に陥っており、
歯科医院の経営は大変厳しい状況です。

実際、年収が300万円程度の歯科医師が
5人に1人もいると言われており、マスコミでは、

「歯科医師のワーキングプア問題」

がしばしば取り上げられるほどですよね。


こんな厳しい経営環境の中で、千客万来、
全国から、またわざわざ海外からもお客さんが
押し寄せてくるため、次の予約が数週間先にならざるを
得ないという超人気の歯科医院があります。

それは、東京都・中央区、築地や月島に近い
聖路加ガーデン・セントルークスタワー1Fに開業している

「馬見塚(まみづか)デンタルクリニック」

です。


同クリニックの「経営理念」は、

「健康創造型歯科医療」

という言葉に集約されています。


これは、具体的に言えば、

「できる限り‘治療’をしない」

というもので、現在の歯科医療の真逆の考え方。

言い換えると、
治療が必要なムシ歯などにならないように

「予防」

のための医療に力を入れるということです。


ですから、当クリニックでは、
一般の歯科医院が提供する各種診療にも
すべて対応していますが、特に、

「PMTC」
(プロフェッショナル・メカニカル・
 トゥース・クリーニング)

と呼ばれる治療を前面に出しています。

これは、歯垢をきれいに取り去った上に、
フッ素を塗布するもの。

PMTCを受けると、

・歯周疾患の改善、進行防止
・ムシ歯予防
・歯質強化
・審美性の向上(タバコのヤニなどによる着色の除去)

などの効果があるそうです。


「PMTC」は正確には「治療」ではありません。

歯の病気を治すのではなく、
歯の病気を防ぐためのものだからです。

このため、保険診療の対象とならず、
患者さんの全額負担(自費診療)となります。


「PMTC」は、1-2ヶ月に1回程度、
定期的に受けることが原則です。

1回あたりの医療費は1万円超!

これを患者さんが全額負担するわけなのですが、
PMTCを受けている患者さんは、PMTCの意義・価値を
十分納得した上で、喜んでこの費用を負担しています。


病院の全診療費に占める「自費診療」の割合を

「自費率」

と呼び、これが高ければ高いほど
病院の収入も増えます。

歯科医院の場合は、自費率が50%を超えたら理想的
と言われているのに対し、当デンタルクリニックの
自費率はなんと

70%

だそうです。

つまり、患者さんの多くが、
同クリニックの技術力や、PMTCなどの予防医療の価値を
高く評価し、健康保険の対象とならない「保険外診療」を
望んで受けているということです。


馬見塚院長は、予防医療について言えば、

「もはや、‘患者さん’とは呼べない」

とおっしゃっていました。

PMTCの定期受診を通じて、当クリニックが
患者さんの歯の健康を守り続けることが理想だからです。

実際、小さい頃からPMTCを受けている人の中には、
小学6年生の時点でも全永久歯でムシ歯ゼロという子供さん
がいるとのこと。


実は、開業当初は、この「予防医療」の考え方を
患者さんに理解してもらうのにはとても苦労したそうです。

「とにかくこのムシ歯を治してくれればいいから」

といった患者さんがほとんど。


しかし、ムシ歯は普段の生活習慣に起因するものです。

仮に今のムシ歯を治療しても、
文字通り「対処療法」に過ぎません。

しばらくするとまた同じところや別のところが
病気になり、再び治療しなければならなくなるのです。


そこで、現在罹っている病気の治療だけでも、
また病気を早期発見することだけでもなく、
そもそも病気にならない

「予防」

の重要性を馬見塚院長は患者さんに説き続けました。

「患者さんにとって本当に良い医療とは何か」

を重視し、「治療してくれればいい」といった
お客さんの目先の治療ニーズに安易に迎合しなかったのです。


そして今や、当クリニックの来院者の8割は口コミ。

ほぼ全員が、当クリニックの「健康創造型歯科医療」の理念や、
PMTCについての基本知識をWebサイトで理解し、納得した上で
やってくるので、もはや「予防」の重要性を時間をかけて
説明する必要はほとんどないそうです。


当記事前編では、

「良循環の医療システム」

の基本的な方向性として

・「医師に会う時はすでに患者」という状況を抜け出し、
 医師と患者の対話を促進し、関係性を改善する

・開業医と勤務医のインフォーマルな連携プレーを促進し、
 医療の生産性向上と勤務医の時間の余裕を生み出す。

・「国民医療費」というコスト発想ではなく、
 「国民医療消費」という「価値」の消費へ発想転換する

の3点をご紹介しました。


歯科医院の場合、2点目の「開業医と勤務医の連携」に
ついてはあまり該当しないものの、

・医師と患者の対話促進、関係性改善

および

・「国民医療消費」という「価値」の消費への発想転換

については、
馬見塚クリニックでは現実のものとなっていることが、
以上の説明からご理解いただけたでしょうか?


*馬見塚デンタルクリニック


*本記事は、馬見塚デンタルクリニックのWebサイト、
 および、馬見塚デンタルクリニック院長、馬見塚賢一郎氏
 のご講演に基づいて作成しました。

投稿者 松尾 順 : 11:11 | コメント (2) | トラックバック

良循環の医療システム(前編)

元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳氏(現社会システム
デザイン研究所 ディレクター・社会システムデザイナー)は、

「社会システムをデザインする」

というコンセプトを掲げています。


ここで、「社会システム」とは、端的には

「生活者・消費者への価値提供の仕組み」

と定義されます。

従来の‘産業(業界・業種)別’の縦割りの発想と異なり、

‘産業横断型’

でシステムを設計すべきだと提唱されているのです。


例えば、「金融」というと、これまでは、

銀行、証券、ノンバンク...

といった「金融業」に分類される企業しか念頭に置きません。


しかし、実際の「金融システム」の運用には、

通信、IT、小売業...

など、他の業界の企業が様々な形で参画していますよね。

ですから、

「理想的な金融システム」

を設計するためには、「業界本位」ではなく、

「消費者・生活者の視点」

から業界横串的に一貫性のある形でシステムを見直し、
設計することが必要となってくるというわけです。


さて、横山氏は現行の医療システムの問題点として
一言で言えば、

「自己規律」

が欠如していることを挙げています。

具体的には、

・医療機関は、患者に要求されるがまま、
 腰の引けた過剰医療に陥っており、
 超多忙な毎日で疲労感を蓄積している。

・患者は、医療行為に対する価格感覚がなく、
 過剰診療を要求しがちである。

・現行健康保険制度においては、
 「価格対価値」とあまり関係のない診療報酬が
 支払われてしまう。

といった周知の問題があります。

そして、こうした問題は、
医師・患者間の相互不信の増長や
医師の労働時間の増加といった

「悪循環の医療システム」

を生み出すことにつながっているのです。


では、良循環の理想的な医療システムへと、
システムをデザイン(設計)しなおすには
どうすればいいのでしょうか?

この質問に対する回答として、
横山氏は、次のような方向性を示しています。


・「医師に会う時はすでに患者」という状況を抜け出し、
 医師と患者の対話を促進し、関係性を改善する

・開業医と勤務医のインフォーマルな連携プレーを促進し、
 医療の生産性向上と勤務医の時間の余裕を生み出す。

・「国民医療費」というコスト発想ではなく、
 「国民医療消費」という「価値」の消費へ発想転換する


以上の点は、言うまでもなく、
日本の医療全体において実現されるべきですが、
1医療機関として、

良循環の「理想的な医療システム」

に限りなく近い医療を実現している病院があります。


それは、東京・築地の聖路加タワーにある歯医者さん、

「馬見塚デンタルクリニック」

です。

後編では、当病院を具体事例としてご紹介します。


*横山禎徳氏の話は、夕学五十講の講演内容に基づいています。

投稿者 松尾 順 : 16:08 | コメント (0) | トラックバック

小売店の競争マイオピア

小売店の「業態別」の成長(成熟)度合いを把握するため、

「製品ライフサイクル」

に当てはめてみます。


成長初期にあるのは「ネット通販」ですね。

一方、加速成長の時期にあるのが、
ユニクロ、無印良品、ヤマダ電機などの「大型専門店」です。

「コンビニエンスストア」は成熟期に入ってますね。


そして、成熟期から衰退期へと移りつつあるのが、

イトーヨーカー堂、ジャスコ、ダイエー

などの「総合量販店(総合スーパー」(GMS)。

「百貨店」や「中小商店」は衰退期です。


さて、今回は、「小売の雄」と言われたダイエーが
破綻したことに象徴されますが、消費者の支持が著しく低下し、
厳しい経営状況に追い込まれている

「総合量販店」

に焦点を当てます。


私自身、時々、自宅近くのダイエーやイトーヨーカー堂に
行きますが、テナントとして入っているファッションブランド
はさておき、品揃えにほとんど違いを感じません。

つまり、どの総合量販店も変わり映えがしないため、
あえて特定の店舗を選ぶ理由がほとんど見つからないですよね。
(距離的に近い以外は)

ただ、一時期、イトーヨーカ堂グループに在籍されていた
元伊勢丹バイヤーの藤巻幸夫氏によれば、同店の衣料品の品質
は価格的みて非常に優れているとおっしゃっていましたが。


総合量販店の品揃えが似通ってしまうのはなぜでしょうか?

それは、商圏内の競合他店との競争において、
違いを出そうとするのではなく、逆にお互いに模倣しあう結果
であるという研究があります。


なぜ模倣しあうのでしょうか?

それは、商圏内の消費者の衣食住にわたる幅広いニーズに、
大量仕入れで販売価格を引き下げ、大量販売を狙う総合量販店
としては、そうするしかないからです。


つまり、ひとりでも多くの消費者に商品を買っていただくためには、
あまりとんがった個性的な商品を並べるわけにはいきません。

どうしても、無難で平均的な品揃えになってしまうのです。

また、他店で売れ筋の商品があれば、
それを黙って指をくわえて見ているわけにはいきません。

消費者にも、

「あの店には置いてあったのに、
 どうしておたくには置いてないの?」

と言われてしまいますしね。

そこで、同じ、または類似商品を仕入れざるを得ない。


こうして、商圏内の同じ消費者を奪い合っているはずなのに、
競合店舗と差別化しようとするのではなく、逆にどんどん

「同質化」

していくということが起きるのですね。

田村正紀氏(同志社大学教授)は、この現象を

「競争マイオピア」

と読んでいます。
(マイオピアとは近視眼的行動の意味)


この同質化現象は「ゲーム理論」でも説明できるようです。

詳細な解説は末尾に示した参考記事をご覧いただきたいのですが、

「相手プレーヤーの戦略が変わらない時に、
 自分1人だけ戦略を変えても利得が増えないような状態」

と言える

「ナッシュ均衡」

をどの店舗も選んでしまうために同質化が起きるのです。


総合量販店は、前述したように、
基本的に商圏内の「最大公約数的ニーズ」に対応する
店づくりを目指しています。

端的に言えば、大量に売れそうな商品しか置かない。

ここで、ある店が差別化のために、
あえてユニークな商品を入れたらどうなるかというと、
好き嫌いが明確に分かれる商品ですから、
たくさんは売れませんし、競合店に客が流れてしまい、
売上が低下するのは明らかです。

したがって、お互いナッシュ均衡を選ぶしかないというわけ。


なお、このゲーム理論による説明は、
覇権を狙う大手政党(米国における共和党と民主党、
日本における自民党と民主党)の政策がどんどん
似通ってくることにも適用されています。


選挙で少しでも多くの支持者を得ようと思ったら、
過激な政策ではダメ。

むしろ、多くの支持者が拒否反応を示さないような、
中庸で無難な政策をお互い打ち出すしかないですし、
また競合政党の政策の中で支持率の高いものがあれば、
やはり競争上、類似の政策を掲げて支持率を高める行動を
取るしかないからですね。


*総合量販店の同質化についての研究

 「GMS激突競争における競争マイオピア」
  (田村正紀氏、同志社大学教授、)

*ゲーム理論による店舗同質化についての参考記事

 「経済学で斬るビジネス潮流 ゲーム理論」
 (文:広野彩子氏、監修:安田洋祐氏、政策研究大学院大学助教授)
  日経ビジネス マネジメント、Summer 2008

投稿者 松尾 順 : 12:48 | コメント (3) | トラックバック

拡大するリターン市場

リーダー(バンドマスター)曰く、

“俺たちはオヤジバンドじゃないから、
 オヤジバンドコンテストなんか出ないぜ!”


とは言え、傍目からはどう見ても

「オヤジバンド」

にしか見えないバンドのメンバーとして、
私はエレキベースを担当しております。

もちろん、メンバーは皆音楽が大好きで、
以前バンドをやっていたか、やりたかったかのどちらか。
(私がベースを再開したのは20年ぶりでした。)

ただ、ドラマーは関西在住ですし、
残りのメンバーは関東に住んでますが、
なかなか練習スケジュールが合わないのが悩みの種です。


さて、忙しいビジネスパーソンも、
30代後半から40代過ぎになると多少余裕がでてきますので、

「昔やっていたけど挫折してしまったこと」
「昔やりたかったけど、時間的・金銭的余裕がなくて
 やれなかったこと」

に向かう人が増えてきます。


私は、こうした中年以降の消費行動を

「肉体的・精神的な老化を防ぎたい」

という意識の反映だろうと解釈しており、

『アンチエイジング消費』

と呼んでいます。


一方、博報堂生活総合研究所エグゼグティブ・フェローの
関沢英彦氏は、上記のような消費行動の結果として、
拡大しつつある市場のことを

「リターン市場」

と呼んでいるようです。
(日経産業新聞、2008/06/13)


関沢氏は、「リターン」と、
類似した言葉である「リバイバル」の2つの言葉の違いを
上記記事の中で説明しています。


「リバイバル」とは、一度すたれた商品やトレンドが、
時代の一巡によって復活すること。

対して、「リターン」は、消費者が自分の意思で、

「昔やっていたこと」

に戻ることです。


例えば、最近、ハーレーを始めとする大形バイクが、
最近中高年に人気ですよね。

彼らは「リターンライダー」と呼ばれているそうですが、
おそらく、10代のころにナナハンに憧れていたり、
400ccくらいのバイクに乗っていた人たちが多いんじゃない
でしょうか。

若い頃は大型バイクは高くて、とても手が出せずにいた。

でも、子供たちも独立して家計に余裕ができた今なら、
買えないこともないといった人たちでしょう。


同様に、高級コンパクトデジタルカメラも、
以前一眼レフに凝っていた写真好きの中高年層が、
好んで買っているのだそうです。


また、私も子供のころ憧れたものの、
やっぱり高くて買えなかったNゲージ、HOゲージなどの

「鉄道模型」

も、今の中高年が、子供そっちのけで夢中に
なってるんですよね。


音楽系で言えば、ピアノやエレクトーンを始める中高年男性が
増えているようですが、最初からいきなり自分の好きな曲を弾く
練習ができるクラスが人気です。

プロを目指すわけじゃないので、
退屈な基礎練習をしてもつまらないし、続かないからですね。


さて、関沢氏によれば、リターン市場拡大の背景には、

「昔のことに再び取り組みたい」

という熱い思いがあるということですが、
市場活性化のための重要なポイントを示しています。


それは、新しい技術によって、

「ハードルを低くしてあげること」

だそうです。

大型バイクは今はマニュアルではなくオートマが主流。
つまり運転しやすくなっています。

このように、そんなに努力しなくても使いこなせる
操作性の高さや、それなりに楽しめる敷居の低さが
重要なのです。


ちなみに、40代以降の人生の後半生における、
人の心理的発達段階は、次の4つの段階に分かれることを
ジーン・コーエン氏(米ジョージワシントン大学の医学者)
が提唱しています。

-----------------------------------------------

1.再評価段階(40代前半から50代後半)

いつかは自分も死ぬという現実に初めて向き合う。

再評価、探求、移行が行動上の特徴で、探究心や危機感に
駆り立てられて計画を立てたり、行動を起こしたりする
傾向がしばしば見られる。


2.解放段階(50代後半~70代前半)

「いまやるしかない」という意識を持つことが多くなる。
これが、新たな「内なる解放」を呼び起こす。

「解放」「実験」「革新」が行動上の特徴で、
自分の要求に従い、自分の思いや個人の自由意識から
計画を立てたり、行動を起こしたりする傾向が
しばしば見られる。


3.まとめ段階(60代後半~80代)

自分の知恵をみんなと共有しようとする傾向が強まる。

「総括」「決意」「貢献」が行動上の特徴であり、
人生を振り返り、総括する中で、人生を意味を見つけたい
という欲求から計画を立てたり、行動を起こしたりすること
がしばしば見られる。

4.アンコール段階(70代後半~人生の最期)

「継続」「回想」「祝福」:が行動上の特徴である。

人生の大きなテーマについてもう一度、語りたい、
主張したいという思いや、そのテーマの変奏曲のように
新たな人生を探求したいという思いから、
計画を立てたり、行動を起こしたりする傾向が見られる。

*以上は『リタイア・モラトリアム』より一部引用。
---------------------------------------------------

これら4段階のうち、「リターン市場」は、
主に最初の2段階、すなわち

「再評価段階」と「解放段階」

にいる人たちがキープレーヤーだと考えられますね。


(参考文献)
『リタイア・モラトリアム』
(村田裕之著、日本経済出版社)

(関連記事)
『男のアンチエイジング消費』

投稿者 松尾 順 : 13:38 | コメント (3) | トラックバック

「歌」というコミュニケーション

元携帯電話のセールスマン。

英国のスター誕生番組でその才能を見い出され、
今は世界ツアーを敢行するほどの人気を
博している英国人の新人オペラ歌手。

その人の名は・・・?


ポール・ポッツ氏です。

彼の名前は覚えていなくても、上記番組

「Britan's Got Talent」(以下「BGT」)

に登場し、冴えない風貌と裏腹に、

「誰も寝てはならぬ(Nessun dorma)」
(プッチーニの歌劇、『トゥーランドット』から)

を高らかに歌い上げ、
聴衆を感動させた動画を「YouTube」で
ご覧になった方が多いでしょう。


彼は今週来日し、渋谷Bunkamuraの

オーチャードホール

での2日間にわたる公演を成功裡に終えました。


私は昨晩(4/30)の彼の公演に、
トレンドウォッチングを兼ねて行ってまいりました。


何がトレンドウォッチングかというと・・・

まったくの無名。しかも、デビューして
1年にもならないオペラ歌手が、いきなり

「オーチャードホール」(総客席数2,150)

でのライブを実現できたのは、

「ネットの力」

以外に考えられないからです。


昨日の公演でも入り口で来場者を観察していたのですが、
中学生だけのグループからお年寄りまでいろんなタイプ
の人たちがいて客層がバラバラ。


おそらく、ポール・ポッツ氏来日コンサートのチケットを
購入した人の共通点は、口コミなどを通じて彼のことを知り、
「YouTube」を見て感動し、

「ぜひ、自分の耳で直接聞いてみたい!」

と考えたことだけだと思います。

もしネットがなかったら、
決してこんなことは起こらないですよね。


さて、肝心の彼の歌ですが、
やや線は細いものの、繊細で伸びやかな高音がすばらしく、
心の奥底まで入り込んできます。

彼は小さい頃から歌が大好きで、6歳から地元の教会で
歌っていたそうです。しかし、オペラの英才教育を受けた
エリートではなく、ほぼ独学で今の歌唱力を身につけた雑草
のような人。

思わずプロ野球の現楽天監督、野村克也氏を連想しました。(笑)


彼が歌った曲の歌詞は英語やイタリア語なので
言葉として伝えたいことはほとんどりわかりませんでした。

しかし、彼の歌に対する「熱い思い」は
聴いているほうにも確実に伝わってきました。


たとえ歌詞がわからなくても、歌はまぎれもない

「コミュニケーション」

であることを改めて納得しました。


ついでながら、私の好きなラブコメ映画のひとつ、

「Music & Lyrics」(ラブソングができるまで)

では、ヒュー・グラント演じる元ポップスターのアレックスと、
ドリュー・バリモアが演じるソフィーの2人が
新曲を作り上げていく中で愛を育んでいくという話なんですが、
この中のある場面でソフィーが口にするセリフがちょっと
面白いです。ご紹介しておきましょう。(意訳してます)

“メロディーは人に初めて会うようなもの。
 身体的な魅力だとかセックスだとかに惹かれて。
 でもその後で、その人となりを理解するのが歌詞よ。
 相手のストーリーを知ることでね。
 メロディーと歌詞が組み合わさって魔法ができるの”


このソフィーの言葉に従うなら、
ポールポッツ氏が歌う歌詞の意味も理解できたなら、
さらに昨日のコンサートが楽しめたということになりますね。


どちらにせよあの歌声だけで十分堪能できましたけど!


*ポール・ポッツ情報
http://www.bmgjapan.com/paulpotts/
*こちらで「BGT」のコンテストの動画も見れます。

投稿者 松尾 順 : 13:20 | コメント (0) | トラックバック

ターゲティングのパラドックス

たくさんの人に買って欲しいと、
「幅広い顧客像」をイメージして作った商品が
まるで売れない。

逆に、たった「一人の顧客」のために作った商品が、
多くの人に支持されてヒット商品となる。


これは最近よく聞く話ですが、

「ターゲティングのパラドックス(矛盾)」

とでも呼べますかね。


さて、このパラドックスには、
優れた言語感覚を持つ歌手&作詞家の一青窈も
気づいているようです。

彼女は、

“よりたくさんの人に伝えようと思うと歌詞は狭くなる。
 対象を絞ったほうが言葉は普遍化する”

と先日放映されたテレビ番組の中で言っていました。


ふーむ、ちょっと抽象的な物言いですが、
彼女の言わんとすることはわかりますよね。

歌詞とは、

基本的に聴き手に自分の思いを伝えるためのもの

です。

もし歌詞の内容が

「相手に対する愛」

を伝えるためのものだとしても、
それが「万人」に向けて書かれたものであったなら、
その歌詞は、好きな人の心だけでなく、
誰の心もつかむことができないというのは
直感的にわかりますよね。


商品開発についても同じことが言えるのでしょう。

その商品は

「誰のためのものなのか?」

という点を

・商品特性(ネーミング、スペック、パッケージデザイン等)、

および

・マーケティングコミュニケーション

において、相手に明確に伝えることができるかどうかが、
ヒットする商品を生み出せるかどうかの分かれ目なのでは
ないでしょうか。


実際、ターゲットとした顧客が特定の1人だったとしても、
その1人と近い好みや感性を持つ人は必ず一定数以上いるわけです。

つまり、1人にターゲットを絞ることによって、
結果的に極めて明確な顧客セグメンテーションを
同時に設定できているということになります。

だからこそ、

「これは私のための商品だ!」

とターゲット顧客は感じ、喜んで買ってくれるのでしょう。
(しばしば想定外のターゲットに売れることがありますけど)


問題は、ターゲットに定める

「1人」

を誰にするかということです。

やはりそこそこ売れて欲しいマス商品の場合、
セグメントを狭くしすぎるのは収益に限界があるため
できません。

したがって、ちょっと矛盾した言い方に聞こえるかも
知れませんが、より多くの人を包含したセグメントを
代表するような1人を選びたいところです。


残念ながら、この点について
明快な答えを今の私は持っていません。


ただ、明治学院大学教授、清水聰氏が取り組んでいる

「目利き」

の研究が参考になりそうです。

清水氏の研究によれば、
新商品がヒットするかどうかを高い確率で予測できる人たち、
すなわち「目利き」がいることがわかっています。

彼らは、一般大衆の潜在ニーズを嗅ぎ取ることのできる、
優れた感性の持ち主ということでしょう。

ということは、「目利き」の人を対象顧客にして
商品を開発すればいいのでは。

そして、彼らが

「これなら売れる、買いたいと思う」

と太鼓判を押してくれた商品を世に出せば、
ヒットする可能性が高くなるのではないでしょうか?


*関連記事

『目利きと死に神の研究』

投稿者 松尾 順 : 08:08 | コメント (0) | トラックバック

魚ロッケ?・・・もったいない食堂

以前、リサイクルショップの生活創庫浜松本店では、

「野菜のリサイクル」

に取り組んでいるという話をご紹介しました。


規格よりも大きすぎたり、形が曲がっているなどの理由で、
味は変わらないのに市場には出せないため、
そのまま廃棄されてしまう野菜を生産者から引き取り、
店頭で「朝市」を開いて格安で販売しているのです。


さて、私たちの多くは野菜生産の実態を知りませんが、
安心して食べられる無農薬・有機野菜の場合には、
虫食いの跡もあったりしてさらに売りにくい。

このため、できた野菜の半分近くが
やむを得ず捨てられてしまうこともあるようです。
(もちろん自家用で消費しても使い切れない分です)

いやはや、もったいない話ですね。


こんな浮かばれない、
不揃いな野菜たちを使う家庭料理のレストランがあります。


その名もズバリ、

「もったいない食堂」

です。2005年に熊本に誕生しています。


運営会社は、97年から自然食レストランを運営してきた
地元企業の(株)ティア。

ちなみに「ティア」は、

「土と命と愛ありて」(Tuchi-Inochi-Ai)

から取っているそうです。


「もったいない食堂」の基本コンセプトは、

「日本の食を守る食堂」

です。

前述したように、
市場に出せない無農薬・有機野菜は見た目が規格外なだけ
ということで、ちぎってサラダに使うなどの工夫をしています。

これは

「もったいない野菜」

と呼んでいるそうです。


また、

「もったいない魚」

も使っています。


魚市場では「色箱」と呼ばれるものがあります。

この箱には、カレイやヒラメなどの高級魚も入っているのですが、
1種類で1箱に満たない様々な魚が寄せ集められているもの。

この「色箱」、1箱数百円の値しかつかないのだそうです。
びっくりですね。

もったいない食堂ではこうした魚たちも有効活用すべく
仕入れています。


さらに、ひと山いくらで安く売られている「豆アジ」。

10-15センチほどの真アジのことですが、
小さいため養殖用として利用されているものの、
人が普通に食べてももちろんおいしい。

そこで、もったいない食堂では、
これをたたき身にしてコロッケとしてメニュー化。

「魚ロッケ」(ギョロッケ)

です。


もったいない食堂は、
開店から2年間は赤字だったそうです。

しかし、今は健康的で安心して食べられる、
肩肘張らない家庭料理のお店として
地元の人たちの支持を受け繁盛しています。


規格から外れている、しかし安全で安心して
食べられる食材を使うレストランは、ティアに限らず
全国あちこちにありますよね。

最近の消費者の最大関心事の一つが、
食についての不安や懸念ですから、
こうしたLOHAS的な店は今後ますます増えるでしょうね。


蛇足ですが、「ティアの家族達」と呼ばれる店、
つまりティアの系列店は、九州を中心に10数店ありますが、
そのうち1店は、私が生まれ育った福岡の田舎(八女)の実家から
車で5分ほどのところにあることを知りました。

今度帰郷した際、立ち寄ってみようと思います。


*以上は「生活と自治」(2008年3月号)、
 およびインターネット上の各種情報を元に作成しました。

→ティア長崎銅座店

ティア本体のホームページはないようです。


『野菜のリサイクル』

投稿者 松尾 順 : 11:33 | コメント (1) | トラックバック

香りマーケティング

「香り」

をマーケティングに採用する動きが、
今後ますます強まりそうです。


今年(08年)6月、ニューヨークで、

「SCENT world CONFERENCE & EXPO 2008」

が開催されます。

「香り」をメインテーマに据えた
初めての大規模なコンファレンス&展示会だそうです。
(宣伝会議No.737、2008.3.15)

面白そうです。行ってみたいですよね。


さて、具体事例です。

マンハッタンのタイムワーナービル内にある
サムソンのショールーム、

「The Samsung Experience」

では、天井に設置されたポンプから、
店内に心地良い香りが放出されており、
訪問客をリラックスされているそうです。


この香りは、
おそらく全世界の同社のショールームや
オフィスなどでも流されるのでしょうね。

そして、ユーザーは、
この心地よい香りを嗅ぐたびに、
サムソンを思い出すことになるわけです。


こうしたブランド独自の「香り」を

「ブランド・セント」

と呼びます。


高級ホテルでも、顧客との

「感情的なエンゲージメント」

を築くために独自の「ブランド・セント」を
ホテルのロビーなどに放出しています。


日本では、昨年、
DNPメディアクリエイトと
早稲田大学の恩蔵直人氏が共同で、
香りのマーケティング実験を行っています。

百円ショップ「セリア」の八店を実験店舗と
して選び、店内で香りを発生させることで、
売上に影響を与えることができるかを調べたのです。
(日経MJ、2008/02/06)


香りは2種類。
気分を落ち着かせる「ジュニパーアロエ」。
気分を活性化させる「オレンジブラッサム」。

それぞれ3店で放出。
残り2店は比較のため香りを流しませんでした。

実験中と実験前後の売上の変化を見ると、
「ジュニパーアロエ」を流した店舗の場合、
インテリアや文具商品での伸びが顕著だったそうです。

ところが、衣料品、収納用品、レジャー用品では
売上が減少してしまいました。


一方、「オレンジブラッサム」の場合は、
文具用品で売上が伸び、インテリア用品で減少と、
インテリアについては「ジュニパーアロエ」と
逆の結果になっています。


客の店舗滞留時間を見ると、
「ジュニパーアロエ」では滞留時間が延び、
「オレンジブラッサム」では逆に時間が短縮しています。


こうした結果を見ると、
販売している商品カテゴリーによって適した香りが
あること、また、滞留時間を延ばしたい、逆に
客の回転を早めたいといった企業側の意図に応じて
選択すべき香りが異なることがうかがえますね。

このあたりは、BGMとして流される音楽と
同じような考え方でいけそうです。


今後、どの店舗に入っても独自の

「BGC」(Background Scent:環境香り?)

が流れている時代が来るかもしれませんね。


広告会社も、

「テレビCMは、自主的に視聴するのを飛ばせるが、
 嗅覚は自分で止めることができない」

ということで、様々なマーケティングに

「香り」

を採用することが増えてきそうです。


もちろん、消費者側にしてみれば、
好き・嫌いの関係なく、特定の香りを強制的に
嗅がされるわけですから、やりすぎは禁物ですけどね。

投稿者 松尾 順 : 06:48 | コメント (1) | トラックバック

「ホスピタリティ」が求められる理由

竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授)は、

「サービス経済化」

を読み解くキーワードとして第一に

「ホスピタリティ」

を挙げます。


「ホスピタリティ」とは、端的に言えば、
一人ひとりの多様な欲求を深読み・先読みして、
かゆいところに手が届くような、

「心のこもったおもてなし」

を顧客に提供することです。


竹中氏によれば、「サービス経済化」、
すなわち経済活動の重点が、

製造業から非製造業に移行する社会

では、

「ウォンツ」と「ニーズ」

に着目することで、

「ホスピタリティ」

の重要性が明らかになると言います。


ここで、

「ニーズ」

とは、経済的に何を購入したいか、
という具体的な製品・サービスのこと。

一方、

「ウォンツ」

とは、ニーズに先立つ人々の欲求そのものです。


経済発展段階が低い社会であれば、
「ウォンツ」と「ニーズ」の結びつきは単純・明快です。

「お腹を満たしたい」という単純なウォンツは、

「とにかく食べれさえばよい」

というレベルですから、
対応する「ニーズ」も簡単なもので済みます。


ところが、サービス経済化が進む豊かな社会では、

「ウォンツ」

の幅が広がっていくのです。


「もっとおいしいものを食べたい」
「すばらしい環境で食事を楽しみたい」
「美しい器に入れて食べたい」

などなど。


こうしてウォンツの幅がどんどん広くなっていくと、
顧客本人でさえ、どんな商品・サービスが自分のウォンツを
充たせるニーズなのかわからなくなっていきます。

ウォンツが複雑であいまいになるため、

「どんなものが欲しいですか?」

と聞かれても、
具体的なニーズ(商品・サービス)に
置き換えて答えることができないわけですね。


この幅の広がっているウォンツを正確につかみ、
それを充たせるニーズに対応するサービスを提供することが

「ホスピタリティ」

なのです。


「ホスピタリティ」の優劣が、

「強み・弱み」

として明快に現れるのは、言うまでもなく、
ホテル・旅館、レストランなどのサービス業です。


しかし、製造業においても、

「ユニバーサルデザイン」

への注力や顧客サポート体制の充実は、

「ホスピタリティ」

に基づく動きと解釈すべきなんでしょうね。


竹中氏の話は、下記文献を元にしました。

『Works 82号』(リクルート、2007.06-07)

投稿者 松尾 順 : 10:18 | コメント (0) | トラックバック

泣き女とラビット

「泣き女」そして「ラビット」

「泣き女」は、葬儀のときに呼ばれる人。

「ラビット」は、
マラソンの「ペースメーカー」の俗称です。

どちらも立派な仕事なんですよね・・・


この2つの間に特に関連性はないんですが、
どちらも興味深い職業として一緒に取り上げます。


まず「泣き女」。

泣き女は、
葬儀の時に嘆きの言葉を上げながら泣き叫んだり、
哀愁いっぱいの歌や踊りを披露することが仕事です。

故人、遺族とのつながりはありません。


昔は日本にも「泣き女」がいたようですが、
今はさすがに聞きませんね。

しかし、中国では今でも風習として残っており、
葬儀会社の従業員として雇われるか、葬儀のたびに
アルバイトとして召集されるそうです。


「泣き女」の年齢は30代~50代。

採用条件がちゃんとあります。

1.まじめそうな外見
2.よく通る声
3.人生経験の豊かさ

さすがに重苦しい葬儀の場ですから、
軽い印象を与える女性は向いていないのも
当然でしょうね。


上記3つの条件のうち、
重要なのは「人生経験」だそうです。

なぜなら、苦い経験を積んだ人ほど
感情表現が豊かだからです。

流す涙にも説得力があるでしょうしね。


1出番当たりの報酬は200元ほど。
日本円で約3千円です。

現地では自転車が買えるほどの値段ですから、
安い金額ではないですね。


「泣き女」としてのプロ意識は高く、
喪服の手入れは怠らず、
亡くなった人の経歴や人柄を叩き込んだ上で
葬儀に臨みます。

高い評判を得ているある「泣き女」は、

「親族並みの尊敬と愛情を持って死者と向き合うのが泣き女」

と語っているそうです。


次に、マラソンの「ペースメーカー」。

俗称「ラビット」と言われるように、
マラソン序盤から中盤30キロくらいまで、
快調なペースで飛ばして先頭を走る人たちです。


彼らの仕事は、
選手同士がけん制しあって全体的にスローペースに
ならないようにすること。

また、一定のペースで走ることで選数の負担を減らし、
風よけの役割も果たします。

まさに「ペースメーカー」ですね。

世界新記録を破るような好タイムを出すためには、
ペースメーカーの存在が不可欠なのが現実です。


彼らの存在は、
日本では最近まで公然の秘密というか、
公式には認められることがありませんでした。

しかし04年のアテネオリンピックの男子選考会で
正式に「認知」されたことで、世間でも知られるように
なってきたというわけです。

先日の東京マラソンでは、
5人のペースメーカーが出走したそうです。


彼らは、普通に走ったら上位入賞も可能な実力の持ち主。

それでもペースメーカーの仕事を選ぶのは、
フルマラソンを走りきって消耗してしまうより、
中盤で切り上げて体力を温存し、数多くのマラソンに
出場したほうが稼げるからです。

ペースメーカーの報酬は明らかにされていませんが、
実績が認められた人になると、1レースで100万円以上
もらえるほどだそうです。


まあ、「仕事」として考えたら、

「マラソンからどれだけの売り上げが見込めるか」

という実利的な判断が行われても仕方がないでしょう。


さて「泣き女」と通称「ラビット」は、
お互い直接的には関係ないとはいえ、
ある場を盛り上げるための作為的な

「演出」

であるという点は同じですよね。


極論すれば、

「さくら」(やらせ)

です。

非難するつもりはまったくありません。

ただ、人間社会において、
こうした仕事が必要とされることが、
そもそも不思議ではありませんか?


ビジネス的な色合いの強いマラソンはともかく、

「葬儀」

になぜ「泣き女」が必要なんでしょうねぇ?


桜の季節に「さくら」の話題を提供させていただきました。


参考にした記事:

日経新聞夕刊(2008.3.3)、および「R25」(2008.3.19)

投稿者 松尾 順 : 09:06 | コメント (0) | トラックバック

愛されないかもしれないマスコット・キャラクター

平城京ができたのは西暦何年でしょう?

710年です。

学生の頃、

「なんと綺麗な平城京」「納豆食べて平城京」

といった語呂合わせで覚えましたよね。


さて、2年後の2010年は、
平城京誕生1300年を迎えるということで、

「平城遷都1300年祭」

の開催が計画されています。

「平城宮跡」を主会場に、奈良、関西各県で
さまざまな展示、イベントが行われる予定です。

事業規模は約100億円。


この平城遷都1300年祭に関連して、
このところ物議をかもしていることがあります。

それは、当事業のシンボル的存在となる

「マスコットキャラクター」

です。現在名称募集中!


まあとりあえず、ちょっと彼の姿を見てあげてください!
http://www.1300.jp/mascot.html


第一印象はいかがでしょう?

かわいい? かわいくない?


コンセプトシートを読むと、

奈良の守り神である「鹿」の角を生やした
「童子」のようないでたち

とありますね。


このキャラクターについて、
地元奈良では、

「かわいくない」

という批判が相次いでおり、
白紙撤回を求める署名運動が始まっているそうです。
(毎日新聞、2008/03/02)


元吉本興業常務で、
フリープロデューサーの木村政雄氏は、

「こんな写実的なデザインがなぜ選ばれたか理解に苦しむ」

とコメントしてます。

実際、愛嬌がないわけではないけれど、
ちょっとリアルすぎますかね・・・


愛されるキャラクターにはある程度共通点があります。

それは、「赤ちゃん」、もしくは
「動物」(特に動物の子供)を連想させるものです。

具体的な特徴としては、

・頭が大きい(全体的なバランスで見て)
・目が大きい
・丸顔
・2頭身などずんぐりむっくり

などがあります。

愛知万博のマスコットキャラクター、
森の精「モリゾー」「キッコロ」はこれらの条件を
満たしていました。

http://www.expo2005.or.jp/jp/A0/A1/A1.10/index.html


一方、平城遷都のキャラクターは、
これらの条件にほとんど当てはまってないですね。

残念ながら、
あまり愛着の持てるキャラクターには
なりえないことがわかります。

かわいそうですね。彼は何も悪くないのに!


さて、彼の行く末はどうなるのでしょうか?

投稿者 松尾 順 : 07:29 | コメント (4) | トラックバック

セブンイレブンに感じた現場力

北海道や東北の一部では、
冬場にコンビニで「おにぎり」を買うと、

「おにぎりあたためますか?」

と店員に聞かれることがあるそうです。


コンビニのおにぎりは保冷されていますし、
寒い地域なので

「あたためて食べたい」

というニーズが多かったんでしょう。

自然に広まった慣行みたいですね。


ちなみに北海道テレビでは、

「おにぎりあたためますか」

というバラエティ番組がずいぶん前から制作・放送されてます。


東北以南の地域のコンビニでは、
どの程度この慣行が広まっているかよくわかりませんが、
少なくとも東京近辺では、

「おにぎりあたためますか?」

と聞かれることはありませんよね。


さて、先日の寒い夜、
セブンイレブンで久しぶりにおにぎりを2個買いました。

あたたかいおにぎりが食べたかったのですが、
当然ながら、店員さんは

「おにぎりあたためますか?」

とは聞いてくれません。


そこで、

「おにぎりをちょっとあたためてもらえますか?」

と私からお願いしました。

すると、店員さんは、
おにぎりをわざわざ1個ずつ別の電子レンジに
入れてタイマーをセットしてました。

私は、

「2個一緒に暖めれば手間が省けるのに・・・」

と不思議に思って、
レジのお兄さんに聞いてみたんですね。

するとお兄さんは、

「以前2個一緒にあたためたら店長に怒られたんですよ。
 1個ずつ別々にあたためるように言われてます。
 どうしてなのかわかりませんが・・・」

と返してきました。


‘どうしてなのかわかりませんが’
という一言は余計ですね。言わなくてもよろしい。

しかし、さすがセブンイレブンです。


おそらく、おにぎりを複数個一緒にレンジで
チンすると、

「あたためムラ」

ができるためだと思われますが、果たして、
セブンイレブン以外のコンビニチェーンで
こうした細かいオペレーションを徹底できるだろうか?
と、ふと感じました。


コンビニの日本1号店は、

セブンイレブンの豊洲店

だったというのは有名ですよね。


セブンイレブンは、

「コンビニエンスストア」

という新業態における先駆者であるわけです。

そして74年の1号店開店以来、
多くの追随企業の参入によって競合が激化する中、
現在に至るまで、ダントツの業績を残してきています。


セブンイレブンの高い業績の秘密は、
言うまでもなく「戦略の巧さ」ではありません。

各店舗の日々のきめ細かいオペレーション(戦術)、
すなわち

「現場力」

が強いからなのです。


コンビニ業界に詳しい方によれば、
競合他社と比較して、明らかに店舗の清掃の徹底度合いや
店員の接客水準の高さは群を抜いているそうです。

もちろん、セブンイレブンの店内に流れる、
一言では説明しにくい「心地よさ」は、
一消費者でも容易に感じることができますよね。
(他のチェーンも悪くはないのですけど)


セブンイレブンの強さを考えると、
重要な点は戦略をコピー(真似る)のは比較的簡単だが、
現場のオペレーションをコピーするのは、

人材の質や教育の質

といった人的要素が大きいため、
簡単ではないということがわかりますよね。


セブンイレブンが作り上げた、
緻密と言われる

「運営マニュアル」

を仮に入手したとしても、
それを日々の運営に定着させることは
やはり人の問題です。簡単には追いつけない。


以前も書いたように、

戦略、戦術

のどちらも、事業の成功のために重要ではあります。

しかし、最近は戦略のコピーは、
以前よりはるかにしやすくなっているのが現実でしょう。
(金さえあればたいてい解決しますから・・・)


となると、やはり最後は「戦術」の勝負です。

机上で語れる「戦略」をこねくり回すよりも

「現場力」

に磨きをかけるということが、
これからの最重要課題ではないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 16:39 | コメント (1) | トラックバック

イノベーションとしての「カラー」

3月15日にデビュー予定。

小田急ロマンスカーの新型車両、

「MSE」

は、清涼感や透明感、豪華さを
感じさせる車体色のブルーが美しい!


この青色は、

「フェルメール・ブルー」

と名づけられています。

そう、17世紀オランダの画家、

「フェルメール」

が好んで用いた色が採用されているのです。
(日経デザイン、March 2008)


デザインを担当した建築家の岡部憲明氏によれば、
当初から大きな課題として挙げられ、

「車体のスタイリング」

と同一レベルで検討を要求されたのが、

「車体色」

だったそうです。


さて近年、商品デザインにおける

「色」

の重要性がますます高まっていますよね。


この背景には、
商品が持つ「本質的な価値」とも言える

「機能や性能」

の次元では、
他社との十分な差別化が図れないから
という企業側の事情があります。


一方、ユーザー側の立場で言えば、
ほとんどの製品カテゴリーにおいて、

現在保有・利用している製品で十分に用が足りている

ということがあります。

機能面や性能面を現行機種より多少向上させたからといって、
それは

「買い換える理由」

になりにくい時代だということです。


実際、現在家にある様々な製品のことを考えてみると、
自分の解決したかった元々の問題やニーズはすでに
ほぼ解決・充足されていますよね。

新たに買う理由が
ロジカル(論理的・理性的)に考えるとありません。

つまり、「本質的な価値」のレベルでは、
消費者を購入に踏み切らせることができないわけです。


そこで、付加価値的な部分、とりわけ

「カラー」(色使い)

のバリエーションによって、感性を刺激し、

「欲しいから欲しい!」(理屈抜きに・・・)

と消費者に思わせることが
必要になってきたということです。


機能・性能本位だったノートパソコンの世界でも、
スタイリングに加えて、「色」にこだわった製品が
増えてきました。

ソニーやHP(ヒューレットパッカード)は、
花柄やグラデーション入りの製品を相次いで投入してます。


昔からのPCファンは、

「見た目は本筋ではない」

という非難が。

でも、メーカーの機能・性能向上競争にワクワクし、
石(CPU)の処理速度が速くなったからというだけの理由で
買い換えるのは一握りのイノベーターだけですよね。


ソニーの直販サイトでは、
柄入りが選べる機種の販売台数のうち4割が柄入りと、
目標(2割)を軽く超える予想外の売れ行きだそうです。
(日経産業新聞、2008/02/22)


使い勝手の向上にも関連する

「スタイリング(形状のデザイン)」

と比較して、

「色」

は、製品の本質的な価値を高めることには
ほとんど寄与しません。

しかし、「色」は、見た目の心地よさや
好きな色の製品を所有する喜びや満足感を
与えてくれますよね。


そういえば、
イノベーションの切り口として、
従来言われてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

に加えて、

・アイステシス・イノベーション

という軸が必要だという考え方を
ちょっと前にご紹介しました。


「アイステシス・イノベーション」

とは、

美しさ、心地よさ

といった、
生活の質の向上に寄与するイノベーションです。


商品デザインにおける「色」の重要性が高まったこと。

これは、企業がこれまで力を入れてきた

・技術イノベーション
・経営イノベーション

については、情報化等の進展によって
均質化が進んだため、これからは、

「アイステシス・イノベーション」

により一層力を入れざるを得なくなってきた
ということなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 12:45 | コメント (2) | トラックバック

「人間圏」の行く末

今日は、ちょっとスケールの大きな話です。
小人物の私が書くのはちょっと気が引けますが・・・


このところ、

「地球環境問題」

に対する関心がますます高まってますよね。


私は、以前からしばしば、
素朴な疑問が頭をよぎることがあります。


「なぜ、人間は、環境にただ従属するのではなく、
 環境そのものを大きく変えてしまう力を持ったのだろうか?」


人間がこれまでどおりの生き方を続けていたら、
地球資源を蕩尽し、また破壊しつくして、
最後には地球の全生物を巻き込んで自滅してしまうでしょう。

これは決して悲観的な推測ではなく、
現状の延長線上にある確実な未来だと思います。


単純に考えると、
人間は、地球の生物の終末を速めるために、
地球に誕生したやっかいな生物ということになりますよね?

私たちは「ターミネーター」?

いや、さすがに人間がそんな宿命を背負って
生まれたはずはない。何か別の重要な、
果たすべき役割があると考えたいところです。


その答えは見当もつきませんが、
今日は、人間の存在というものを
宇宙や地球の歴史も踏まえて考えてみたいと
思います。


宇宙の年齢は、およそ137億年だそうです。

つまり、ビッグバン(宇宙大爆発)が起こり、
宇宙が膨張を始めたのが137億年前でした。


地球の誕生は約46億年前です。

地球に「生物」が現れたのは、
約20億年前と推定されています。


私たち現生人類につながる旧人類の歴史は、
700万年前に始まりました。

現生人類である

「ホモサピエンス」

は、15万年前に登場。


「ホモサピエンス」も、
当初は環境に従属した暮らしをしていました。

すなわち、狩猟採集で命をつなぐ、
食物連鎖に組み込まれたか弱い生物に
過ぎませんでした。


しかし、農耕牧畜を始めた時から、
人は環境に働きかけ、環境そのものを
人間が暮らしやすいように変質させていくことを
学んでいったのです。

これは約1万年前のことでした。

なぜ、1万年前に農耕牧畜が始まったのか?

それは、そのころから地球の気候が安定したためと
考えられています。

それ以前は気候が大きく変動し続けていたため、
今年食べることのできる木の実や動物たちが
来年もあるかどうかわからない。

今、目の前にあって手に入る食物を
狩猟・採集するしかなかったのです。


ところが、気候が安定することによって、
毎年同じ時期に花が咲き、実がなるようになった。

その周期に気づいた人間が、
農耕牧畜をはじめたというわけです。


こうして、
地球という大きなシステムに従属し、
食物連鎖の中で生きる

「生物圏」

を人間は飛び出て、

「人間圏」

を形成していきました。


「人間圏」という言葉は、
松井孝典氏(東京大学教授)の造語です。

人は、農耕牧畜を開始し、
いわゆる「文明化」を成し遂げることによって、
他の生物が属している「生物圏」とは異なる
独自の生活領域である

「人間圏」

の中で生きています。


この人間圏の中で人間がやってきたこと。

それは端的に言えば、
様々な道具・機械などを駆使して、
人間圏への資源(太陽、水、食物など、
生命維持に必要なもの)の流入量を拡大することです。


そして、とりわけ人間圏への資源の流入量を
驚異的に増大させたのは、

「駆動力」

を手に入れてからでした。

化石燃料(石炭・石油)を使ったエンジンが
その端緒でしたね。


現在、私たちが人間圏への資源の流入量は、
環境にかなりの部分従属していた時期
(江戸時代くらいまでの現状維持的な生活)の
10万倍なのだそうです。

つまり、私たちの現代の暮らし100年は、
昔の1千万年に相当するほどの変化を地球に
もたらしていることになる。

このところ、急速に地球環境問題が
大きくなってきたのは当然のことだったのです。

私たちは、昔の10万倍の速さで地球資源を消費している。

その反動としての様々な問題、松井氏は

「負のフィードバック」

と読んでいますが、
それが今、強烈に私たちにかかってきていると
言えるわけです。


さて、松井氏もまだ、

・なぜ、私たち人間だけが環境自体を大きく変える力を持ったのか?
・人間という種の存在には、どんな意味や役割があるのか?

についての答えは見つかっていないようです。


もちろん、まずは、生き急いでいるかのような文明生活の当然の帰結
としての、環境問題を初めとする様々な問題に対して、
具体的な行動を起こすべきではあります。


ただ、同時に、上記のような

「そもそもの問い」

を考えることで、
根本的な解決の方向性が見えてくるかも知れません。


*以上は、夕学五十講での松井孝典氏の講演内容を
 参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 14:01 | コメント (2) | トラックバック

野菜のリサイクル

スーパーの野菜売り場に並ぶ、

きゅうり、にんじん、じゃがいも、トマト、大根・・・

などなど。

何気なく買い物をしている時には思いもしませんが、
どれも形が大きさがほぼ同じですよね。見事に揃っています。

工業製品でもないのに、
野菜の外見がほぼ均一なのはよく考えると不思議です。


でも、実は大きすぎたり、小さすぎたり、曲がっていたりする

「規格外の野菜」

は店頭に並ばないだけのことなんですね。


ある一定の大きさ・形から外れた野菜は、
販売する側としては、運搬しにくいし売りにくい。

まがったきゅうりは、
袋詰め3個売り用のビニール袋に
入りきらないこともあります・・・


一方、消費者側も、
ほとんどの人は畑で取れたばかりの野菜たちの
「不揃いさ」を知りません。

そのため、スーパーに並ぶ野菜が、

「標準」=無難なもの、良いもの

だという思い込みができあがってしまう。
そして、標準から外れた野菜に手を出そうとしなくなる。

つまり、規格内の野菜しか売れないということになるわけです。


こうして、規格外の不揃いの野菜たちは、
食べられることなく、大半が廃棄処分にされてしまうのだそうです。


そこで、こうした捨てられてしまう

野菜のリサイクル

に乗り出したのが「生活創庫」です。
(カンブリア宮殿、テレビ東京、20008/02/11)


リサイクルショップ(チェーン)を全国に約190店舗展開する
生活創庫の浜松本店では近くの農家の畑に出向き、
従来は捨てられていた規格外の野菜を買取っています。

そして、週1回土曜日、本店で朝市を開いて、
買い取った野菜の即売を行っています。


例えば、育ちすぎて通常の2倍くらい大きい大根。

スーパーでは陳列場所に困るでしょうし、
客も持ち帰るのに重すぎると文句を言う大きさですが、
生活創庫では1本50円。

大きくても、車で来てれば重さは負担になりませんね。
もちろん、味は規格品と変わりません。
安くて新鮮、大家族にはうれしい大根でしょう。


あるいはちょっと表面がブツブツしている株。
これも味には問題はないのに見た目が良くないということで
スーパーでは扱ってくれません。

生活創庫では1株100円で売ってます。


というわけで、
朝市の野菜は結構売れているようです。


生活創庫の

「野菜のリサイクル」

はまだ浜松本店だけの実験的な取り組みのようですが、
全国展開できるといいですね。


規格外野菜を売る試みは、
これまでも全国各地で細々とやってきているとは
思いますが、生ものを扱うだけに一朝一夕ではできない
難しい事業でしょうから。


野菜に限らず、合理的になりすぎた現代社会で、
「外見」だけで振り落とされてしまうモノゴトを
何らかの形で活かしてあげられる仕組みが、
あらゆる分野で求められてるんじゃないかと思います。

投稿者 松尾 順 : 15:53 | コメント (0) | トラックバック

「見た目」がすべてか?

大減量に成功した岡田斗司夫氏。

社会評論の本を出していた岡田氏自身は、自分は

「社会評論家」

と見られていると思っていました。


ところが、現実には

「デブキャラ」

とみなされ、知的なイメージが無かったとのこと。


まあ、サンドウィッチマンの伊達さんのような

「小太り」

程度であればそんなことはなかったと思います。

しかし、相撲取り級の120キロに迫る体格となれば、
岡田氏が、単なる「デブ」としか受け取られなかったのも
むべなるかなです。


ところが、67キロにまで体重を減らした今、
掲載される写真やスペースが大きくなったそうです。

なるほど!
しかし、これは見た目が改善されたからというよりも、
ダイエット成功による

「体型の変化」

で注目を集めているからだと思います。


岡田氏は、

“見た目が悪いと、いい仕事をしても評価されない。
 私たちはいつの間にか、外見で中身や仕事の実績まで
 評価されているのです。”

と言い切っています。
(日経新聞夕刊、2008/01/30)

なるほどね!
しかし、自分が痩せたからといって、
岡田氏もちょっと言い過ぎではないでしょうか。


さて、確かに私たちは、
まずは対象(人に限らず食べ物なども)の見た目で、

・危険はあるか・ないか(近づいても大丈夫か)
・好きか・嫌いか(付き合いたいか)

を判断しますよね。


ただしこの判断はあくまで「直感」による

「仮評価」

に過ぎず100%正しいとは限りません。

ですから、少なくとも危険はなさそうだと判断できたら、
実際に近づいてみて、例えば食べ物であれば、

においをかいだり、
手で感触を確かめたり、
ちょっとかじってみて、

見た目じゃなくて「本質」(中身)は
実際どうかを確かめるわけです。


ところが、近年は本質を確かめる以前の
「仮評価」の段階で思考を停止してしまい、

あの人はだめ、この食べ物はだめ

とさっさと最終評価にしてしまう傾向が
高まっているようです。


この背景にはやはり、

情報過多で複雑になりすぎた社会

があるのではないかと思います。

ひとつひとつ、外見だけじゃなくて、
本質まで確かめようとしたらとても時間が足りないですから。


岡田氏は、「見た目主義」の是非を問うようりも、
どんな行動をすれば効率的かを考えて行動すべきと
考えています。

見た目が良いほうがメリットが大きい社会であるなら、
太っている人は痩せたほうがいい、というシンプルな理屈です。


ただ、これもあくまで本質(中身)が伴っての話でしょう。

ぱっと見がよいと確かに最初はみな飛びつく。
でも、本質がたいしたことなければすぐに離れて
いってしまいますからね。


最近、「きゅうり」の人気が落ちているそうです。

その理由は、どうやら「見た目」は良くなったけれど、
「本質」がだめになったからです。


「きゅうり」は、
本来水分の蒸発を防ぐ白い粉が付着し、
くすんだ色をしていました。

しかし、これが消費者からは

「鮮度が良くない」

ように見えるため不評。


そこで、白い粉をなくす栽培法が普及し、
光沢のあるきゅうりが主流になりました。

ところが、この美しいきゅうりは、
皮が厚くて固く、みずみずしい本来のおいしさが
失われたのだそうです。


要するに、見た目がいいから買ったものの
実際食べてみたらおいしくないから、
きゅうりを買う人が減ってしまったというわけです。


やっぱり見た目がすべてじゃありません。

投稿者 松尾 順 : 09:30 | コメント (2) | トラックバック

ギフトエコノミー・・・合計0ドル、お支払いはペイフォワードで!

カリフォルニア州立バークレー大学近くの

「カーマレストラン」

は、土曜日の夕方5時から10時までオープンしているお店。
毎週、40-50席ほどの店内が満席になる賑わいです。
(オルタナ、FEB. 2008 No.6)


ネパール料理をベースとするインド風メニューは、
ネパール、イラク、ベトナムからの移民シェフが作る本格派。

サラダ、メインディッシュ、デザートまで、
豊富なメニューが並んでいます。

ところが、メニューには値段が書かれていません。
なぜなら、食事後にいくら払うかを「客」が決める仕組み
だからです。


客が料理を食べ終わると、
伝票の代わりに封筒が置かれるそうです。

その中に入っているカードには、

「合計0ドル」

という文字と共に次のようなメッセージが!

寛容の精神に基づいて、この食事はあなたの前に来た
 だれかからの贈り物です。私たちは、あなたがこの循環を
 続けてくれることを願っています。
 もし、これから訪れるお客様へこの輪をつなげたいと思ったら、
 封筒に無名の寄付を残してください。」


この封筒にお金をいくら入れるかは客の自由。

しかも、客から回収された封筒は店内のポストにしまわれ、
閉店後に開封されるため、誰がいくら払ったか、
あるいは払わなかったかは、一切分からないようになっています。


カーマレストランの創設者の一人、

ニプン・メーター氏

によれば、このレストランのコンセプトは、

「ギフト・エコノミー」

です。


ギフトエコノミーとは、
自ら進んで与えることを前提に成立する経済。

需給関係で価格が決まり、貨幣の支払いと引き換えに
モノやサービスが提供される市場経済とは異なり、
ギフトエコノミーでは、お互いの善意と信頼関係が必要です。

ところが、この店では、ギフトに対して直接の見返りを
期待するのではなく、信頼関係のない見知らぬ次の人に
対してギフトを送るという思想、すなわち

「ペイ・イット・フォワード」

が根底にあります。
(映画「ペイフォワード」で描かれた姿)


カーマレストランは07年3月にオープン。
当初、ギフトエコノミーの手法が成功するかどうか
わかりませんでした。

しかし、ふたを開けてみると、
毎週土曜日の開店中に訪れる客は平均70-100人程度。

座席数を考えると、
わずか5時間で約2回転していることになりますね。

売上も常にコストをカバーし、
2倍以上になることもあるそうです。


こうした、客が支払額を決める

「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」

は同店だけでなく、
ユタ州、コロラド州、ワシントン州などにもあり、
増加の兆しを見せているとか。


お互いに助け合うことで成立する共同生活を営む、
社会的動物である人間の「遺伝子」に組み込まれている

「互恵性」

を活かしたギフトエコノミーに基づくビジネスは、
これから面白い発展を見せてくれそうです。


そういえば、イギリスのロックバンド、

「レディオヘッド」

は、昨年末にリリースした最新アルバム

「In Rainbows」

のダウンロード販売で、
購入者が価格を決める方式を採用して話題を
呼びましたね。

これは、カーマレストランの

「ギフトエコノミー」

コンセプトであるとはちょっと違いますが。


レディオヘッドの試みもまた、

「成功した」

と言えそうです。

有料でダウンロードしたユーザーは30-50万人。
平均購入価格は、およそ6ドル(660円)と
推定されており、総売上2-3億円に達します。

メジャーなレコード会社を介さない
ダイレクト販売ですから粗利も大きいでしょう。


*カーマレストランについての出典

「オルタナ」(Feb.2008 No.6)

*オルタナ公式サイト
 http://www.alterna.co.jp/

投稿者 松尾 順 : 04:53 | コメント (2) | トラックバック

YouTubeで発見されたジャーニーの新リードボーカル

私が高校・大学生の頃に
大好きだったアメリカのロックバンドのひとつが

「ジャーニー」

です。

全盛期は80年前半でしたので、
最近はほとんど忘れられた存在ですね・・・
(とりあえず彼らのCDはすべて持ってますけど)


まあ正直なところ

「まだいるの?」

という感じでしょう。

でも、中だるみの時期もあったものの、
バンド結成30年を越えてまだがんばってます。

日本にも3年おきくらいに来てたようです。
(私も気づかなかったほど小規模ですが)


ところで、ジャーニーのリードボーカルは
過去1年ほど不在だったのですが、昨年末(07年12月5日)、
フィリピン・マニラ出身の

「アーネル・ピネダ」(Arnel Pineda)

に決まったことが発表されました。


アーネルは、1967年生まれのフィリピン人です。

地元で「ZOO」というバンドを率いており、
ジャーニーを始めとする70-80年代のロックバンドの
カバー曲を主に演奏していました。


実は、この無名のアーティスト、アーネル・ピネダが
ジャーニーの新ボーカルに抜擢されたのは、

「YouTube」

がきっかけでした。


ボーカル不在の状態が続いて困っていたジャーニーのギタリスト、
ニール・ショーンが自分たちのバンドにふさわしい人材がいないかと
YouTubeを探し回ったのです。


そして、二ールはアーネルを発見した。

YouTubeには、「Zoo」のライブ演奏が多数アップされていますが、
アーネルは本当に素晴らしい歌を聞かせてくれています。
(バンド自体の演奏はあまり上手くありませんが・・・)


特に、ジャーニーのカバー曲を聞くと、

「日本のものまね紅白歌合戦に出演しませんか?
 優勝間違いなしですよ。」

と誘いたくなるほど、
ジャーニー全盛時のリードボーカル、
スティーブ・ペリーにそっくりなんですよね。

もちろん、アーネルは単に似ているだけではない、
素晴らしい才能を持っていることが、
他の有名ロックバンドのカバー、例えばクィーンや
ボストン、チープトリックなどの曲を聞けばわかります。


さてアーネルの才能に魅了されたニールは、
早速、YouTubeを通じてアーネルに連絡を取ったのですが、
アーネルは当初、

「どうせひっかけだ!」

と無視しました。

しかし、このニールからのメッセージを最初に見つけた
友人のノエルは、アーネルに次のように言ったのです。

“What if it really was Neal and He wanted to offer
you the chance of a lifetime?”

もしそれが本物のニールで、生涯最高のチャンスを
 君に与えようとしていたとしたら?

そこで、アーネルはニールにeメールを送ってやりとりが始まり、
ついにジャーニーの新しいリードボーカルとして迎えられることが
決まったというわけです。


もし、YouTubeがなかったら・・・?

おそらくアーネルは、出身地のフィリピンでは
そこそこ人気のあるリードシンガーではあるものの、
それで終わっていた可能性が高いですよね。


インターネットのおかげで、世界のあちこちで
発見されないまま埋もれている才能が見い出され、
世に出るきっかけが与えられる可能性があるのだという
事実に、私は素直に感動してます。


*ジャーニーの新ボーカル決定についてのニュースリリース(英文)
 http://www.journeymusic.com/index2.html

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (6) | トラックバック

モノホンのお笑い・・・サンドウイッチマン

島田紳助は、

「XとYの法則」

という考え方を持っているのはご存知ですか?


これは紳助の持論である、

「お笑い芸人として売れ続けるための法則」

です。

*YとYの法則については、下記の記事で詳しく説明してます。

「天才マーケター島田紳助」
 
「XとYの法則」(Z会ブログ sideB キャリアデザインのはなし)


簡単にポイントのみ説明します。

「X」とは、その芸人が持つお笑いのスタイル、
つまり個性や強みのこと。

一方、「Y」は、「お笑いのトレンド」のことです。

そして、X(芸人の強み)とY(トレンド)が
交差した瞬間が、その芸人がブレークする時です。


たとえば、昨年末のM-1グランプリ2007で優勝した

「サンドウィッチマン」

の場合、あの瞬間が「XとYが交差した時」だったのでしょう。

島田紳助は、彼らに98点と、
審査員の中で最高点をつけていたのが興味深いです。


サンドウィッチマンの二人は苦節9年なんですよね。

すばらしいY(才能)を持っていたのに、
Y(トレンド)となかなか合わなかったわけです。

でもまあ、世に出た今となっては、
長い下積みの経験があったおかげで、自分を見失うことなく、
トレンド(Y)の変化に合わせて自分たちの芸風(X)を
うまく微調整していけることでしょう。


それにしても、なぜ彼らが突然受けたのでしょうね?

私は、お笑いについてきちんと語れるほど詳しくは
ありませんし、あくまで横目で見ていただけでしたが、
近年のお笑いブームは、見かけや動きの奇抜さが強調され、
中身は薄っぺらでチマチマしたネタばかり・・・

内輪(箸が転がっても笑う、扱いやすい若年層)受けで
盛り上がっていただけという印象を持っています。

まあニセモノ、マガイモノとまで言わないまでも、
キワモノ系が多かった。すぐに飽きちゃう。
(私のような中年男性には、イマドキのお笑いは
 そもそもあまり理解できないということでもありますが)


そこで、正統派で質の高い漫才やコントがやれる

「サンドウィッチマン」

のような本物の芸人の登場が渇望されていた・・・
ということではないかと思います。


産業界では偽装事件が続く中、お笑いの分野でも

「本物」「正統」

への回帰が始まっているのでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:34 | コメント (2) | トラックバック

「KY」を生み出す社会的圧力

こどもは非常に幼いときから、

大人のゼスチャーを見るだけでその意味の推測ができる

ということが、研究でわかっているそうです。


こどもの言語知識形成や非言語コミュニケーション活動
などの研究を行っている小林春美氏(東京電機大学教授)は、

『科学のクオリア』(茂木健一郎、日経ビジネス人文庫)

に掲載されている茂木氏との対談の中で、
次のような実験を紹介しています。

“キャップが付いたペンを一歳代の赤ちゃんに見せ、
 キャップを取ろうとするふりを見せます。
 キャップを取ろうとして取れない、というような動作です。
 そのペンを渡すと、赤ちゃんはキャップを取るのです。”


1歳そこらの赤ちゃんでさえ、
目の前の大人はペンのキャップを取りたいのだという

「意図」

を自然に読み取り、自分が取ってあげるという行動を
できるというのは驚きますよね。


小林氏は、このような行為ができる理由については
触れていませんが、おそらく昨日ご紹介した

「ミラーニューロン」

のおかげでしょう。

ミラーニューロンとは、平たく説明すれば、
他人の行動を見るだけで、その行動を自分自身の脳内で
「疑似体験」しているような感覚を与える神経回路のことです。

人は、誰もが生まれつき持っているミラーニューロン
のおかげで相手の言動をリアルタイムに理解(推測)できる。

そして、この能力が、共同体を作って相互に助け合って生きる
人間社会への適応を容易にしているのでした。


さて近年、ミラーニューロンを持っているはずなのに、
その能力を眠らせている人たちとも言える

「KY」(空気が読めない人)の増加

が問題視されています。

この「KYが増えている原因・理由」については、
次の2つの視点で考えることができます。

1.本人のコミュニケーション力の低下
2.KYを許容できない社会的圧力の強度化


世間一般の論調としては、
1の本人の問題に原因を帰結させていますね。

つまり、小さいころから他者(特に家族以外)との
コミュニケーションが不足したまま育ったため、
複雑な相手の感情を的確に読む力が低いという指摘です。

また、「KY」は、周囲の人の気持ちを読めるかどうかだけでなく、
その気持ち(=場の雰囲気)に即した適切な言動ができないという
ことがより問題ですが、これは、社会規範の欠如というか、
暗黙のルールを身につけていないということが挙げられます。


実際、こうした本人の問題も大きいでしょう。

しかし、同時に2番目に示した

「社会的圧力の強度化」

という視点も忘れてはいけないと思います。


昔の人々は、お互いにもっと感情をストレートにぶつけ、
傷つけあうことも多かった。人に迷惑をかけっぱなしの
ぶっとんだ人もたくさんいました。

それでも、以前なら、人間社会にそうした負の側面が
多少あっても仕方がないと許されていたところがありました。


しかし、現代では、できるだけ社会のルールを守り、
そして、お互いに相手を傷つけあうことを極力回避するように
なっています。

この背景には、社会学的には

「人格崇拝の高度化・厳格化」

があると見ることができます。

「人格崇拝」とは、個々人が、相互に相手の人格にまるで
神の聖性が宿っているかのごとく敬意を表し、その尊厳を
傷つけないよう配慮しあうことです。


また、例えばエスカレーターでは常に左側に立ち、
急ぐ人のために右側を空けておく(関西では逆)といった
ルールを守ることによって、全体として合理的でスムーズな
社会活動が可能になっていますよね。

現代は、こうした合理的な振る舞い、スムーズに予想した通りに
ものごとを進行させようとする人々が増えています。

ITによる自動化も進みましたし、
そうしないと世の中が回らなくなってしまってますよね。


こうした世の中では、以前なら「KY」とは言われなかったで
あろう人たちでさえ、KYのレッテルを貼られてしまうことに
なります。

他人の振る舞いに対する許容度が小さくなったためです。


ですから、KYの増加は、単に個人の問題だけでなく、
現代社会の高度化・厳格化しすぎた人格崇拝や合理化にも
原因があると考えられるのです。


同時に、こうした社会では、
自分自身の感情コントロールを極度に求められるわけですから、
精神的にはつねに緊張状態を強いられます。

その結果、精神的に破綻をきたす人も増加せざるを得ないでしょう。

また、こうした精神的破綻を避けるためでしょうか、
あえて自分の個性を消し、周囲に過度に同調する

「鉄板病」(おちまさとしの命名による現代人の行動傾向)

という症状が現れてきています。


よく、最近の若い人に対して、

打たれ弱い、ストレス耐性が低い

という非難を私たちは向けますよね。

しかし、この点についても、
本人の問題だけでなく、社会が個人に対して要求する

「自己コントロール力」

のハードルが極端に高くなっているからなのだという点も
忘れてはいけないのではないでしょうか?


現代社会は、以前よりはるかに適応が難しくなってるのです。


*人格崇拝や合理化の高度化、厳格化、また合理化の議論は、

『自己コントロールの檻 感情マネジメント社会の現実』
(森真一著、講談社選書メチエ)

を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 11:41 | コメント (4) | トラックバック

おいしそうな入浴剤

入浴剤使ってますか?

体が冷える冬には、
自宅のお風呂でもちょっとだけ温泉気分が味わえて、
体も温まる入浴剤を使いたくなりますよね。


入浴剤といえば、やはり

「バスクリン」

を真っ先に思い出します。

とりわけ中高年の方にとって、
不思議と懐かしさを感じるのがバスクリンでしょう。


ただ、若い人にとっては、
最近TVコマーシャルでの露出が多い、

「バスロマン」

の認知度の方が高いかも知れませんね。


さて、入浴剤の本質的な価値は、

・温浴効果(体が温まる)
・清浄効果(体の汚れが落ちる)

の2つがメインです。


そして付加価値としては、まずは

「香り」

をつけるという手が王道でした。

レモン、ジャスミンなどの香りで嗅覚を刺激。
癒し効果を狙っています。


あるいは、

「草津の湯」

など、有名温泉と同じ成分を配合して、
そのブランドを借用した製品も多いですね。


子供向け入浴剤になると、

「アンパンマン」

などのキャラクターの力を借りる手が主流でした。

また、固形の入浴剤を湯船に入れると、
しばらくして中から恐竜が飛び出してくるといった
仕掛けを加えることで、「遊び」の要素を付加する
商品があります。


最近は、新たなトレンドとして、

「お菓子もどき入浴剤」

がヒットしています。
(日経産業新聞、2007/01/04)


例えば、バンダイの

「ガリガリ君入浴剤Cool!」

は、赤城乳業のアイスバー

「ガリガリ君」

そっくりに仕上げてありました。
同製品は、今夏限定100万個を売り切っています。

子供だけではなく、20-30代の男性にまで購入層が
広がったようです。


さらに、バンダイでは、昨年(07年)12月に、

「うまい棒入浴剤」

を投入。


お菓子の「うまい棒」もまた、
子供から大人までファンが多いことから、

「うまい棒入浴剤」

は幅広い顧客層の心を捉えそうです。


ガリガリ君入浴剤にしろ、うまい棒入浴剤にしろ、
店頭でこれらのパッケージをみた最初の印象は、

「あ、おいしそう!」

というものでしょう。

入浴剤だとわかっても、

「おいしそう!」

という心地よい感情は残ります。
思わず買いたくなる効果抜群だと思います。


最近、五感刺激型の製品づくりに注目が
集まっていますが、「嗅覚」刺激が主流だった入浴剤に、

「味覚」を通じて「食欲」

を刺激する価値を付加するというのは、
大きな発想の飛躍だといえます。


そういえば、以前
にぎり寿司型のUSBメモリーも大ヒットしました。


人の三大本能のひとつである「食欲」を
刺激するという付加価値を与えるという工夫は、
さまざまな製品分野に適用可能だということがわかりますね。

投稿者 松尾 順 : 12:57 | コメント (3) | トラックバック

天国へのお引越し

ある老人の遺品を整理していた吉田太一氏に、
そのおじいさんのお孫さんが尋ねてきました。

「おじさんたち何してるの?」

まだ小学1-2年生くらいの小さい子供に

「遺品整理」

という言葉は難しいだろうと

「亡くなったおじいさんの荷物を整理してるんだよ」

と応えると、その子はこう言ったそうです。

「じゃあ、おじさんたちは、
 天国へのお引越しをお手伝いしてるんだね!」


吉田太一氏は、全国初の「遺品整理」の専門会社、

「キーパーズ」
http://www.keepers.jp/

2002年に立ち上げた方です。


「遺品整理」は文字通り、
亡くなった方の自宅や部屋の物を整理し、清掃し、
形見の品を遺族に渡して、残ったものを処分する仕事です。

マスメディアでもたまに取り上げられていますので、
ご存知の方もいらっしゃるでしょう。


亡くなった方の多くは「孤独死」です。

孤独死した人の親戚縁者は
おおむね故人とは疎遠だったために、
自分では遺品整理をやりたがりません。

そこで、キーパーズのような会社に
お金を払って依頼するというわけです。


独居老人などが「孤独死」した場合、
身内がどこにもいないこともあります。

このような場合には、
部屋を貸していた大家さんが仕方なく、
遺品整理を依頼することが多いようです。


また、「自殺」や「他殺」によって亡くなった方の
遺品整理の仕事もあります。

この場合もやはり、
遺族が自分で遺品整理するのは難しいため、
遺品整理会社に依頼が来るようです。

現場では、
もちろん遺体は既に運び出されていますが、
血が飛び散っていたりする凄惨な状況の中で
遺品整理や清掃の作業をすることになります。
(だから、心情的にも遺族がやるのは難しいわけです)


遺品整理の仕事は、
想像するだけでも大変な仕事だなと思いますが、

「自分たちがやらなかったら誰がやるんだ」

という強い使命感で、
吉田さんたちは仕事を引き受けています。


現在では、こうした遺品整理の会社は全国に
30社くらいあるそうです。

高齢化が進み、独居老人が増加していいる現代、
遺品整理業の方がますます忙しくなることは確実ですね。

もちろん、自殺や他殺による仕事が増えることは、
遺品整理業の方も望んでいないでしょう。


最近は、独居老人の方で、

「生前予約」

をされる方が増えているそうです。

今は元気だけれど、いつ突然死んでしまうかわからない。

その時、身内や周囲の人に迷惑をかけたくないと、
あらかじめ遺品整理の見積もりを取り、代金を払って
その時に備えておきたいということなのだそうです。

生前に「墓」を購入しておくだけでなく、

「遺品整理」

までも、死ぬ前に、
赤の他人に依頼してきたいと考える人が増えている。


これは、人間関係がますます薄くなっている現代を
反映していると言えそうですよね。


ところで、吉田太一氏の著作、

『遺品整理屋は見た!』(扶桑社)

には、孤独死したある女性の部屋には、

28匹の猫

が残されていたという話が出てきます。

可哀想なことですが、飼い主を突然失い、
引き取り手もいない猫たちは保健所が連れて行きました。


最近、自分が死んだ後のペットの面倒を
見てくれるサービスも開始されたようですね。
(キーパーズではありません)

独居老人には犬や猫を子供のように
かわいがっている方もいらっしゃるわけです。

自分亡き後のペットの行く末が心配の種と
なっていた方に応えるサービスもついに登場したのです。


高齢化社会では、これまで思いもしなかったニーズが
生まれているのだと痛感させられます。


なお、同書に書かれていますが、
独居老人の孤独死は、55-65歳が多いとのこと。

高齢だと周囲も気を遣いますが、
60歳前後ならまだまだ若いので周囲もあまり心配しない。

このため、亡くなったことに気づくのが遅れてしまうようです。

一人暮らしの55歳以上の親戚や知人がいたら、
ぜひこまめに連絡を取ってあげてください。


年の瀬にあまり楽しくない話を書きました。

正月にドクロを杖につけて「ご用心、ご用心」と歩き回った一休さん
ではありませんが、私たちは常に死と隣り合わせで生きていること、
そして、「生きていること」の幸せをかみしめてもらえればと思います。

『遺品整理屋は見た!』
(吉田太一著、扶桑社)

投稿者 松尾 順 : 00:21 | コメント (0) | トラックバック

「プロファイルパスポート」とは?

経済産業省が進めている

「情報大航海プロジェクト」

のことはご存知ですか?


このプロジェクトの目的は、

大量の情報の中からユーザーが求める情報やサービスを
的確に検出する共通技術を開発し、新たな情報サービスを
創出すること

です。


情報大航海プロジェクトには、

V、S、P

の3つの柱があります。具体的には次の通りです。

------------------------

・V(バリュー):

 新しい価値を生む次世代のインターネットサービス

・S(ソーシャル):
 
 新たな社会インフラとしてのITサービス

・P(パーソナル)

プライバシーに配慮した未来型パーソナルサービス

-----------------------


さて、この3つの柱のうち、
「P」に該当する興味深い実証実験が始まっています。

それは、

「プロファイルパスポート」

と呼ばれる事業です。

リクルートと東京工業大学が共同で設立した

(株)ブログウォッチャー
http://www.blogwatcher.co.jp/

が実施主体となっています。


「プロファイルパスポート」とは、
端的にいえば、消費者情報を一元的に集約したデータベース。


これまでも、リサーチ、マーケティング業界では、
消費者の意識(心理)や行動をより深く理解するために役立つ、

「一元的消費者情報データベース」

の構築が何度か試みられてきましたが、
コスト面、技術面でのハードルが高く実現には
至っていませんでした。

つまり、ほとんど「夢物語」に止まっていたんですよね。


しかし、IT技術の普及のおかげでとうとう、

「一元的消費者情報データベース」

が、夢物語とは言えなくなる時代になってきました。


さて、プロファイルパスポート事業によって集約される情報は、
多岐にわたっています。

・利用者の基本属性
・利用者が書いた日記(生の声)
・視聴した動画やテレビ
・行った場所、お店
・購入した商品やサービス
・その他の関連情報(天候など)

つまり、消費者の生の声に加えて、
メディア接触・視聴履歴、行動履歴、購買履歴等が
ユーザー個別に収集、蓄積されるというわけです。


これらの情報の収集には、
インターネットや携帯電話が活用されます。

これによって、コスト面や技術面でのハードルが
一気に下がったというわけです。


利用者の日記(生の声)はネット上のブログなどから採取。

視聴した動画やテレビも、ネットを通じて捕捉が容易です。
(テレビは、ネットとの連携がまだ十分ではないですが)

ユーザーの行動情報については、
GPS付の携帯電話が普及していけば簡単に
把握できるようになりますね。

購買情報は、オンラインショッピングであればもちろん
簡単に収集できますし、リアル店での購買情報を収集して
データベースに結びつけることも技術的には可能です。

お天気の情報などのさまざまな関連情報も、
ITを活用すれば自動収集・蓄積ができますよね。


では、こうして一元化された情報は
どのように利用されるのでしょうか?

例えば、ユーザー1人ひとりのレストランの嗜好を分析した

「レストランパスポート」

を作成します。

そして、ユーザーがレストラン紹介サイトにアクセスした際、
この「レストランパスポート」を示すと、その情報を元に
ユーザーの嗜好に合致するレストランが推奨されます。


あるいは、ユーザーのキャリアの志向性を分析した

「キャリアパスポート」

を作成します。

ユーザーが転職情報サイトでこの「キャリアパスポート」を
示すと、その人にとって最適な転職先が紹介されます。


このように、「プロファイルパスポート」の活用によって、
企業は、ユーザーの求める情報、商品、サービスを高い精度で
予測し提案することができるため、ユーザーにとっても、
企業にとってもありがたいシステムと言えるわけです。


さて、この事業で技術的には最も難しいけれど、
最も面白い部分は、ブログなどから収集される「生の声」、
つまり「テキスト情報」の分析でしょう。


消費者のブログからは、

「どこそこに行った」「何を見た」

といった行動や、

「楽しかった」「むかついた」

といった評価、感想、

「こんな生活が理想です」「こんな場所に行きたい」

といった価値観、ニーズ

等が豊富に含まれています。

つまり、顧客の心理を深く洞察することが
可能になる情報の宝庫と言えるわけです。


ただ、こうした分析を行う前に、
まず、スパムブログやアフィリエイトブログ、
やらせブログの情報を排除しなければなりません・・・

ニフティ研究所でも、
「ブログ」を対象としたテキストマイニング、
すなわち「ブログマイニング」に取り組んでいますが、
所長の友澤大輔氏によれば、世の中のブログ全体の半数以上が、
スパムブログを始めとする、分析には使えないブログである
ということが同所の分析からわかっているとのことでした。


なお、ブログウォッチャーでは、
ブログの文章表現から書き手の性別を推測することも
始めています。

例えば、男性は「かわいい」という言葉をあまり使わないと
いった表現上の傾向を元に、書き手が男性なのか女性なのかを
判別するのです。

同社の羽野仁彦氏によれば、
性別の予測精度は90%以上とのことですから、
なかなかですね!

投稿者 松尾 順 : 15:03 | コメント (2) | トラックバック

ビッグ・イシューを買うと・・・?

『ビッグ・イシュー』はホームレスの方が販売する雑誌。


全国主要都市の駅前や交差点などで、
右手に雑誌を高く掲げている人を見かけることがあります。

あの雑誌が『ビッグ・イシュー』です。
以前購入したことがあるよ、毎号買ってるよという方も
いらっしゃると思います。


『ビッグイシュー』は1991年にロンドンで誕生し、
現在は世界28カ国、80都市で発行されています。

そして、『ビッグイシュー日本版』は2003年に創刊され、
現在は月2回発行です。


同誌は1冊300円。うち160円が
ホームレスの方の収入になります。

ビッグイシュー日本版の発行元によれば、
販売者の平均収入は、

3,200~4,000円/日(20-25冊販売)

となるようです。

この結果、路上生活を脱し、1日1000円程度で泊まれる
簡易宿泊所に移れるホームレスの方が増えてきたとのこと。


つまり、ビッグイシューを買うと、
寒空に凍えずにすむホームレスの方が増える。


今年大きな話題を集めたNHK特集「ワーキングプア」では、
年金をもらえない高齢者の方が、空き缶を集めてぎりぎりの
生活をする様子が伝えられていましたよね。

私の事務所がある本郷3丁目近辺の路上でも、
アルミ缶をリヤカーに積んだ方をよく見かけます。

あの仕事、朝から晩まで集めて回っても、
せいぜい1000円/日程度にしかならないため、
食事代をまかなうのがやっとなのだそうです。

したがって、路上での寝泊りを脱出することは
できません。


しかし、ビッグイシューを売れば、
暖かい屋根の下に眠れるだけの現金収入が得られる。

それ以上に、誰かに施しを受けるだけの情けない存在から、
社会の一員としての役割を果たしているという自覚、
働いて収入を得ているという「誇り」と「自信」が生まれる。


ビッグイシューの根底にあるのは

「セルフヘルプ」(自助努力)

です。

お腹を空かせた人に「魚」をあげるのではなく、
「魚の釣り方」を教える

という言葉の通りを実現した、
優れたソーシャルビジネスだと言えます。


さて、ビッグイシュー日本版の発行部数は、
wikipediaによれば現在約3万5千部のようですが、
もっと購入する人が増えてほしいなと思います。


実は、私は募金が苦手です。

もちろん、募金を否定するつもりはありません。
ちゃんと運営されているところがあるのはわかっています。

でも、本当に助けを必要としている人に、
自分のお金が使われるのかという不安が消えません。


しかし、『ビッグイシュー』を買うのは、
そんな不安がありません。目の前のホームレスの方の
収入になることがわかる。しかも、それは、単なる
「施し」でもありませんからね。


ちなみに、

『ビッグイシュー日本版』最新号(84号、2007.12.1)

の表紙を飾っているのは、

「WAR IS OVER」

のパネルを掲げたジョン・レノン、オノ・ヨーコ。

スペシャルインタビューはもちろんオノ・ヨーコです。

巻頭のインタビューには、
あの男前経営者、ピーチジョン代表の野口美佳さんが
登場されてます。

薄い雑誌ですが、
なかなか読み応えのある編集内容です。
(以前と比較するとずいぶん充実してきました)


『ビッグイシュー日本版』ホームページ
http://www.bigissue.jp/

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (2) | トラックバック

サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(2)

試供品を配布したい企業と、
試供品をもらいたい消費者を結びつけるWebサイト、

「サンプル百貨店」
http://www.3ple.jp/

を運営する

(株)ルーク19
http://www.luke19.jp/index2.html

では、従来の試供品配布方法にはなかった、
新しい付加価値を創造することに積極的に取り組んでいます。


その一つは、

「リアルサンプリングプロモーション」


これは、ホテルの宴会場を借り、
OL、主婦を中心に1000人ほどを一同に集めて行う
大サンプリングイベントです。

同イベントには、
メーカーなど20-30社が参加して試供品を提供。

集まった女性たちの前で、
開発担当者が、商品に対する思いや開発秘話を
プレゼンテーションすることができます。


このイベントへの参加は、ブロガー優先。

したがって、当日のイベントの模様や、
もらった試供品あれこれ(合計数万円相当)についての感想が
後日ブログにアップされることで、口コミマーケティングが
展開されるという仕組みです。


先日の11月18日には、特別企画として、
横浜港から出航する豪華客船「ふじ丸」を12時間貸切。

東京湾内をクルーズする客船内で、
大手メーカー20社のプレゼンとサンプル配布が行われています。


このイベント、約500名の会員が参加したようですが、
1人8000円の参加料を払っています。

でも、豪華客船でのランチ、ディナー付ですし、
キャスター付バッグ一杯の試供品を持って帰れるわけですから
参加された方は皆大満足でしょう。


こうしたイベントでは、試供品の清涼飲料を
バカラのグラスに注いで飲んでもらうこともするそうですが、
たかが100円のドリンクであっても、
バカラで飲めばるかにおいしく感じられるでしょうね。

また、一流ホテルの宴会場、あるいは海上に浮かぶ豪華客船と
いう環境は、そこで配布される試供品に対する好意的なイメージ
を強化することに役立っていることは間違いありません。

これこそ確かに「価値創造型サンプリング」と言えますね。


さらに、ルーク19が始めた新たな取り組みに興味を惹かれました。

それは、試供品ではなくて、コンビニやドラッグストアの棚に
並んでいる実売品を無料でもらえるというもの。

この仕組みはそもそも、アイスクリームなど温度管理が必要な製品を
試してもらいたいと思っても、サンプル百貨店で従来採用してきた
宅配便等を使って送っていたのでは、送料が高くなりすぎてしまう
という問題を解決するためでした。


そこで、試供品本体ではなく、はがきの引き換え券を希望者に送り、
その引き換え券を持って協力店舗(セブンイレブンを始めとする
大手小売チェーン)に行けば、対象商品がもらえるという仕組みを
考え出したというわけです。

これだと、従来は法規制上困難だった、
医薬品のサンプリングも可能なのだそうです。


同社渡辺社長によれば、
この引き換え券の引き換え率は87%。

ほぼ全員に近い人が、
店頭に足を運んで商品を受け取っています。


実は、この仕組みは単に送付コストを抑えつつ、
試供品を確実にターゲットユーザーに渡す以外の

「副次的効果」

がありました。

それは、まずこの仕組みで流すことになった新製品は、
協力コンビニの全店舗の棚に確実に並ぶということです。

ご存知かと思いますが、売り場面積の限られたコンビニの
販売スペース獲得競争は熾烈なものがあります。

そうそう簡単に置いてもらえないし、
売れなければさっさと撤去されてしまうのが現実。


しかし、引き換え券を持った全国の会員が、
交換に現れるわけですから、当該製品は棚に置いてもらえる。

こうして店頭に並んでいることで、
会員以外の人が見つけて買うこともあるでしょうし、
それだけヒット商品になる可能性も高くなるというわけです。

しかも、引き換えに来た会員も、対象商品をもらうだけでなく、
ついでにあれこれ買っていく。

つまり、店舗の売上にも貢献する。


というわけで、サンプルとしての実売品を無料でもらえる
消費者、そして販売スペースを確保できるメーカー、
売上アップになる小売店と、関係者全員にとってメリットの
ある仕組みになっているのです。


*以上の記事は、ルーク19、サンプル百貨店についての公開資料、
および、渡辺明日香氏の講演(IMプレスビジネスセミナー)を
元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 12:05 | コメント (0) | トラックバック

サンプル百貨店:価値創造型サンプリング(1)

「試供品配布」、いわゆる「サンプリング」と言えば、
長い間、路上での無差別配布が主流でしたね。

しかし、この方法だと、
対象商品を実際買いそうもない人にも
お試し品が渡ってしまいます。

このため、販売促進効果がもうひとつ。


というわけで最近増えてきたのが、
登録会員制で詳細なプロフィールをあらかじめ把握しておき、
試供品のターゲットユーザーの属性に合致していて、
かつ自分から欲しいと手を上げた人だけに試供品を渡す
ビジネスモデルです。

例えば、今年07年7月には表参道に、
試供品がもらえるリアルな店舗「サンプル・ラボ」が
オープンしてます。


さて、こうした新しいサンプリングを展開する企業の中でも、
とりわけ面白い事業をあれこれ手がけているのが、

(株)ルーク19
http://www.luke19.jp/index2.html

です。

同社は、試供品を配布したい企業と、
試供品をもらいたい消費者を結びつけるWebサイト、

サンプル百貨店」
http://www.3ple.jp/

を2005年8月から運営。直近の登録会員数は30万人です。

実は、私もこのビジネスモデルには以前から注目しており、
一年ほど前からいちおう会員になってます。

会員のおよそ8割が女性、その多くが主婦のようですので、
私のようなオヤジは、やはりどうも場違いなんですけど・・・


「サンプル百貨店」の基本的な仕組みは、
同サイトで行われるサンプリングに、擬似通貨の

「サンプラー」(=ポイントですね)

を使って応募するというもの。

例えば、ある試供品をもらうためには「100サンプラー」
が必要といった具合です。このため、会員たちは、
「サンプラー」を貯めるのに必死なんだそうです。

サンプラーは、試供品を使用した後のアンケートに
答えるとか、ブログに記事としてアップしたことに対する
報酬としてもらえます。

この仕組みによって、試供品を単に配布するだけでなく、
試用者の調査や口コミプロモーションまでつなげられる
というわけです。

また、登録会員は、サンプル配布だけでなく、
新商品開発にも協力しています。


例えば、大正製薬の女性向けの栄養ドリンク、

「リポビタン・ファイン」

では、開発段階からサンプル百貨店の女性会員が、

「パッケージはピンクのほうが手に取りやすい」

など、約8000件の意見を寄せた内容を元に、
製品仕様が決定されたそうです。


同製品の発売は05年10月でした。

大正製薬では、発売後しばらくはサンプル百貨店以外での
広告宣伝はしない方針で臨んだようですが売り上げは順調に伸び、
今年5月から本格的なマーケティングを展開しています。


ルーク19の代表取締役社長、渡辺明日香氏によれば、
単なる試供品配布にとどまらず、それ以上の新たな価値を付加する、
そんな

「価値創造型のサンプリング」

に取り組んでいるのだそうです。


では、明日は、バーチャルな「サンプル百貨店」に、
リアルな場を組み合わせた同社のユニークなイベントや
ビジネスモデルをご紹介したいと思います。


*以上の記事は、ルーク19、サンプル百貨店についての公開資料、
および、渡辺明日香氏の講演(IMプレスビジネスセミナー)を
元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 09:58 | コメント (0) | トラックバック

「ジョブ・エンゲージメント」からの示唆

昨日、マーケティングにおける「エンゲージメント」に
ついての記事を書きました。


その中で、人材マネジメント業界においても、

「エンゲージメント」

が近年最もホットなテーマであることに触れました。


今日は、このメルマガ&ブログの基本軸から多少ずれますが、
この人材マネジメントにおける「エンゲージメント」に
ついて簡単にご紹介した上で、マーケティングへの示唆を
考えてみたいと思います。


さて、人材マネジメントにおける「エンゲージメント」は、

「ジョブ・エンゲージメント」

と一般に呼ばれます。


これは、文字通りに訳せば、

「仕事と婚約している状態」

です。

具体的に言えば、自分の仕事が好きで好きでたまらず、
仕事が楽しくて、思わず時間を忘れてしまうほど
「のめりこんでしまう」ことを意味します。


では、なぜ「ジョブ・エンゲージメント」が、
人材マネジメントにおいて注目を集めているのか。

それは、このところより一層、昇進・昇格、昇給といった
「外的報酬」だけでは社員のやる気を高めることが困難に
なってきたからです。

今の多くの私たちの生活は十分に満たされていますからね。

昔のように「にんじん」をぶらさげられても、
あまり走る気にはなりません。


逆に、降格、減給、左遷といった「罰則」でも、
やる気を高めることはできません。

簡単に転職できる世の中になりましたし。


つまり、ニンジンやムチといった

「外的な動機付け」

ではなく、むしろ、

仕事そのものが面白いか、楽しいかということ
(=「内的動機付け」)

が、社員のやる気を高め、
結果的に仕事上の高い成果に結びつくということが
わかってきたのです。

まあ確かに、夢中になって仕事に打ち込めるなら、
仕事も速いし、仕上がりだってすばらしいものに
なる可能性が高いですよね。


これが、「ジョブ・エンゲージメント」が
重視されるようになってきた理由です。


さて、人材コンサルティング会社、
ワトソンワイアットのコンサルタント、川上真史氏によれば、
これまでの調査研究から、「ジョブ・エンゲージメント」が
実現するためには、次の3つの視点が必要なことがわかって
きています。

1.自己効力感
2.シナジー
3.プライベート


「自己効力感」とは、
自分の能力が仕事を通じて発揮できているという感覚、
また、何かを成し遂げている、成功したという事実に基づく
自尊感情のこと。

要するに

「オレって結構いけてるじゃん、えらい」

と自分を肯定できることです。


次の「シナジー」とは、
職場の良好な人間関係が生み出すもの。

お互いを認め合い、支えあい、褒めあう。
そんな中から、一人ではできないことが実現していく。

要するに、好きな仲間、気の合う仲間となら、
どんな仕事だってある意味楽しくなる、のめりこみやすい
ということです。


最後の「プライベート」。

夫婦関係、恋愛関係や親子関係が良好でないと
いくら好きな仕事でもさすがになかなか集中できませんよね。
健康状態も然りです。

オンの仕事にがんばれるためには、
オフのプライベートが良好であることが望ましいわけです。

(したがって、今後の人材マネジメントでは、
社員のプライベートなことは社員自身の問題である、
と切り離すのではなく、会社として可能な支援を行うべきである
という方向になっています。)


以上、「ジョブ・エンゲージメント」の考え方を
ご説明しました。


さて、企業と社員という人材マネジメント固有の問題である
「プライベート」の問題はさておき、

・自己効力感
・シナジー

については、

「エンゲージメント・マーケティング」

に対して貴重なヒントを与えてくれているように思いませんか?


「自己効力感」を与えやすいマーケティング施策は、
たとえば「ゲーム」ですよね。

たとえ簡単なゲームであっても、
高い得点をあげることができればうれしい。

思わずのめりこんでしまいます。


また、「シナジー」を実現しやすい仕組みが、
ブログ、SNSに代表されるCGMではないでしょうか?

もちろん、ネガティブな問題もいろいろ起きますけど、
基本的には、お互いにコメントやトラックバックなどを
通じて承認しあい、時にほめ、励ましあえるそんな心地よい
コミュニティが、SNSやブログつながりの仲間ですよね。


人材マネジメントにおける「エンゲージメント」を
安易にマーケティング分野に当てはめることには注意が
必要かもしれませんが、それにしても、

・自己効力感
・シナジー

は、エンゲージメント・マーケティングにおける具体施策に
おいても重要なキーワードになりうると私は思っています。

投稿者 松尾 順 : 10:17 | コメント (0) | トラックバック

エンゲージメント、エンゲージメント・マーケティングとは何か?

最近のマーケティングにおける、
最もホットな「バズワード」(流行り言葉)のひとつに

「エンゲージメント」

がありますね。

(実は「エンゲージメント」は、
 人材マネジメント業界においてもホットなバズワードですが!)


ところが、さまざまな情報に当たってみても
未だにその正体ははっきりしません。

先日参加した某勉強会でも

「エンゲージメント・マーケティング」

が、旬のテーマとして取り上げられてました。

しかし、現時点では言葉だけが独り歩きしていて、
中身はまだ空虚なままであるということがはっきりしました。


そこで、今日は私なりの「エンゲージメント」についての考えを
書いてみます。


まず「エンゲージメント」を日本語にどう訳すかですが、
これは、

「のめりこみ」

という言葉がしっくりくると思います。

人材マネジメント業界では、この「のめりこみ」という言葉が、
ワトソンワイアットの人材コンサルタント、川上真史によって
紹介されています。

人材マネジメントの枠組みでは、社員が、
どれだけ自分の仕事に“のめりこめている”かどうかが、
高い生産性や成果をあげるために重要だという視点で
注目されています。

つまり、従来のように企業本位の視点で、
どうやって働かせるかという発想ではありません。

逆に、社員本位の視点で、
どうやったら仕事に自発的に取り組んでもらえるかを考えるのが、
人材マネジメントにおける「エンゲージメント」です。


マーケティングの枠組みにおける「エンゲージメント」、
つまり「のめりこみ」も、同様に視点(立ち位置)の移動が
あります。


従来のマーケティング・コミュニケーションは、

どうやって伝えるか、理解してもらうか、買ってもらうか

という企業本位の発想でした。


しかし、「エンゲージメント」の考え方では、

対象ユーザー(消費者)が、どの程度、
当該商品・サービスにのめり込んでいるか
(エンゲージしているか)

を重視します。


すなわち、「対象ユーザーの視点」で、
マーケティング・コミュニケーションを評価しようするのが、

「エンゲージメント」(のめりこみ)

の基本発想だと言えます。

より具体的に説明すれば、「エンゲージメント」(のめりこみ)
では、この言葉が示すとおり、従来の

「ブランド認知」「ブランド理解」

といった浅いレベルではなく、
より深いレベルでの対象ユーザーとブランドとの関わり方に
焦点を当てます。

すなわち、対象ユーザーと当該商品・サービスとの間に
どの程度強い「心の絆」が形成されているかという、

「心理面での関わり度合い」

と、その目に見える形での現れとしての

「行動面での関わり度合い」

に着目します。


そして、エンゲージメントの基本思想である、

「深いレベルでの対象ユーザーとブランドの関わり方を
 強化すること」

を目指した具体的なマーケティング施策のことを

「エンゲージ・マーケティング」

と呼ぶのだと私は考えています。


さて、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、
「エンゲージメント」の基本思想は、

「CRM」(Customer Relationship Management)

のそれとほぼ同じです。

どちらも、対象ユーザーとブランド(企業を含む)との
関係性強化を狙うものだからです。

ただし、「CRM」は、どちらかといえば企業本位の視点が
強かったのに対し、「エンゲージメント」では、
企業のマーケティング活動の成果を対象ユーザーの深いレベルの
心理面や行動面の変化で評価しようとする点が異なると言えます。


問題は、「エンゲージメント」をどう測定するかですね。
この点で、米国でも日本でも論争が続いています。


行動面の評価指標の候補としては、例えばインターネットなら

サイトの滞在時間、ブログでのキーワード頻出数、
コメント数、トラックバック数

といったものが挙げられます。


一方、心理面の評価指標は、目に見えない心理状態を
把握するわけですから、なんらかのアンケート調査を行うか、
人間の脳を直接測定する「神経生理学」(ニューロサイエンス)
の手法を採用することが考えられます。
(このニューロサイエンスを活用したマーケティングである、
「ニューロマーケティング」も最近のバズワードのひとつですね)


ニューロサイエンスはまだ敷居が高いのですが、
アンケート調査による、対象ユーザーの心理状態の把握については、
すでに利用可能と思われる先行指標があります。

それは先日ご紹介した、

「BRQ:Brand Relationship Quality」

です。

「BRQ」は、10年ほど前に開発された評価指標ですが、
ブランドの関係性の「質」を測定するものです。


具体的には、

“消費者が、ブランドに対して持っている感情的なつながり”

を評価します。

これは、「エンゲージメント」で言われる「心の絆」に
他なりません。


「BRQ」では、次の7つの軸で「心の絆」の強さを見ます。

1 親密さ(Intimacy)
2 こだわり(Commitment)
3 パートナー品質(Partner Quality)
4 今の自分とのつながり(Self-connection)
5 愛着(nostalgic feeling)
6 相互依存(Interdependence)
7 愛情(Love/Passion)

そして、この7つの軸の強弱を競合ブランド間で比較分析
することなどによって、具体的なマーケティング施策を
立案することが可能です。


さて長々と説明してきましたが、まとめます。


エンゲージメントとは、
対象ユーザーが当該商品・サービスに対して持っている
「心の絆の強さ」のことです。

ひらたく言えば、対象ユーザーが、

当該ブランドにどれだけのめり込んでいるか

ということです。

「心の絆」を強化することを狙ったマーケティング施策を
「エンゲージマーケティング」と呼びます。

「エンゲージマーケティング」の効果測定は、
心理面と行動面の2面で行う必要がありますが、
まだ一般に認知された指標はありません。

ただし、心理面の指標としては、
「BRQ」が採用可能だと考えています。


(関連記事)
*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(0)イントロダクション

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(1)感情的なつながり

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(2)活用の具体手順

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(3)効果と具体施策

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(4)BRQ低下をもたらすもの

*[BRQ]ブランド関係性の質を評価する(5)まとめ

*ニューロマーケティング:コークvsペプシ

*欲望解剖

*fMRI:機能的磁気共鳴画像法の利用増えてます。

投稿者 松尾 順 : 09:37 | コメント (2) | トラックバック

シニアライフの未来形・・・カレッジリンク型シニア住宅

私の義母、つまり妻の母親は昨年、自ら自分の資産を処分し、
千葉房総の鴨川に近い山の中に建つ

「介護付マンション」(端的に言えば「有料老人ホーム」)

に居を移しました。

そこは、栗を拾いに野生のサルが顔を出すような、
自然にあふれた素晴らしい場所です。


幸い、私の自宅は千葉・松戸にありまして、
鴨川・勝浦近辺には年に何度も旅行に行く場所でした。

ですので、家族旅行の度に義母のところを訪ねています。


さて、このマンションの入居者は、当然ながら全員ご老人です。
ロビーで見かけるのはご老人の方ばかり。
(受付の方とか、介護士の方々は皆さんお若いですが)

入居者の間で様々なサークル活動が盛んのようですし、
夏祭りなどの行事も盛大にやってます。


しかし、やはりお年寄りしかいない食堂で
お昼をいただいている時などに感じるのですが、
いわゆる「老人専用マンション」は、正直言って、
あまり活気のあるものではないですね。


ある意味「現世」から隔離されているとも言える、
刺激の少ない大自然の中で、老人たちだけで固まって
毎日を過ごすというのはどうなんだろう?

よっぽど自分で自覚してないと、あまり頭も体も使わなくなり、
老化の進行が早まるんじゃないか?

といった疑問がよぎります。


年をとれば誰もが体力・気力が衰えはしますが、
従来理想とされてきた「静かな余生」は、
人にとって本当に望ましいものなのでしょうか?


「必ずしもそうではない」

と言える興味深い事例があります。


それは、「カレッジリンク型」のシニア向け住宅です。

カレッジ、すなわち「大学」と連携したシニア住宅。

米国では10年ほど前に登場し、じわじわと普及しつつある、
いわばシニアライフの未来形と呼べるものでしょう。


「カレッジリンク型シニア住宅」の具体例としては、
ボストン郊外の高級住宅地、ニュートンにある

「ラッセルビレッジ」

があります。

ここは、「ラッセルカレッジ」という大学と一体となって
運営されているシニア住宅です。

ラッセルビレッジは、
入居者を募集開始したとたん即売。
現在も100人以上の空き待ちの方がいる人気だそうです。


この住宅、他とちょっと違っているのは、
入居の条件として、なんと年間450時間以上、
大学の講義を受講しなければならないという点。

金さえあれば入居できるわけではないのがユニークですね。


もちろん、入居者は大学の施設を自由に利用できます。

カフェテリアでは、若い学生たちと共に食事を楽しむ
入居者の老人たちを見ることができます。

大学の授業は、若い学生と共に受講しますが、
歴史の授業などでは、ご老人たちは文字通り

「生きた歴史の教科書」

となり、学生たちに自分の経験談を語ることができます。


また、詩の朗読のクラスなどでは、
入居者の老人がリーダーとなって学生をまとめることも
あるそうです。

しかも、人生の先輩として、
入居者たちは、学生のキャリア・人生相談役も務めます。

すでに引退しているとはいえ、
現役のころは様々な職業を経験してきている人がいます。

学生にとってはとてもありがたいアドバイスが得られますよね。


さて、以上は学生にとってのメリットですが、
入居している老人にとってのメリット、それは、
授業で頭を使い、学生たちと交流して彼らの若いエキスを
吸収できることで(笑)、いつまでも若々しく元気で
いられることです。

実際、入居者の方々の写真を見ましたが、
90歳近くの方でも、60歳代にしか見えないほどでした。


通常、老人ホーム入所5年後の要介護率は、
約10%だそうですが、ラッセルビレッジでは、
同3%に止まっているそうです。

つまり、老化のスピードが明らかに減速する。
かなり強力なアンチエイジング効果ではないでしょうか。


私は、決して従来型の介護付マンションがダメとは
思いませんが、年を取っても元気いっぱいでいられて、
若い人にとっても人生の先輩の知恵が得られる、

「カレッジリンク型のシニア住宅」

は、日本でも今後人気を集めるのは確実だと思います。


実は、来年(2008年)5月に、
日本初のカレッジリンク型のシニア住宅がオープン
するそうです。関西大学との連携です。

*クラブアンクラージュ御影
http://www.encourage.co.jp/


以上は、シニアビジネスの第一人者、
村田アソシエイツ代表、村田裕之氏のお話を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 15:53 | コメント (2) | トラックバック

奇跡の美術館・・・「まるびぃ」

「奇跡の動物園」と言えば、

「旭山動物園」(北海道旭川市)

ですね。


では、「奇跡の美術館」と言えば・・・?

それは、

「金沢21世紀美術館」(石川県金沢市)

です。


同美術館は、円形の建物。
そこで“丸い美術館”の意味を取って、通称

「まるびぃ」

と呼ばれています。


さて、「まるびぃ」は、2004年10月オープン。

初年度の年間入場者数は157万人、
2年目は120万人でした。


たかだか人口46万人の地方都市に過ぎない金沢の美術館が、
これだけの来場者数を集めるのは驚きです。

というのも、全国の美術館の
平均年間来場者数はせいぜい5-6万人。

開館日一日当たりで200人たらず。


ところが、まるびぃには、

土日は7-8千人、平日でも4-5千人

が来場します。


「まるびぃ」の奇跡を主導した特任館長、
蓑豊(みのゆたか)氏は、この美術館を任される前は、
「大阪市立美術館」の館長を務めていました。

大阪は人口300万人、
京都、神戸を含めると周辺人口は500万人になりますが、
大阪私立美術館の年間来場者数は

100万人

を超えたことがないそうです。

ちなみに、金沢の最大の観光名所といえる、
日本三大名園のひとつ、兼六園の年間入場者数は
160万人程度です。

なるほど、「まるびぃ」が、旭山動物園と並んで

「奇跡」

と称されるのは納得ですね。


では、なぜこのような奇跡が起きたのでしょうか?

もちろん、単に運が良かったわけではなく、
蓑館長はじめ、関係者の努力の賜物ですが。


成功要因のひとつは、
「まるびぃ」が金沢市中心部にあること。

他の地方都市に多い、郊外にある美術館よりも、
人々が気軽に立ち寄りやすいという立地上のメリットが
ありました。


さらに、円形の建物はガラス張りで開放的。

従来の美術館の薄暗いイメージを覆す
明るい雰囲気があります。しかも、
出入り口が5カ所もあるので、入りやすい
敷居の低い美術館なのです。


しかし、こうした環境要因以上に、
成功の決め手となったのは、モントリオール美術館、
インディアナポリス美術館、シカゴ美術館など、
北米の名だたる美術館の東洋部長を経験された蓑氏が、

「美術館も人が来てナンボ!」

という「経営・マーケティング発想」で、
「まるびぃ」を積極的にプロモートした点にあります。


おおむね日本の美術館は、館長にしろ、学芸員にしろ、
客が入ろうが入るまいが、自分たちには関係ない、
高尚な芸術を理解できない大衆が悪い、という

開き直りの運営

が一般的。

蓑氏のように、

美術館を経営する、マーケティングする

という発想はまったくないのです。

日本の美術館のほとんどが、
うまくいっていないのは当然ですよね。


では、まるびぃの人気の秘密をご紹介しましょう。

まず、施設について。

まるびぃは、全体の3分の1が無料スペースです。
無料スペースにもいくつか展示物があります。

またレストラン、ミュージアムショップは
無料スペース内にあるので、入場料なしで遊びに行けます。

実際、来場者120万人前後のうち、
有料スペースに入るために入館料を払う人は、
約3分の1、40万人程度だそうです。

東京都内で開催される大型の企画展では、
40-50万人前後の来場者を集めますが、
そのかなりの割合が招待券、
つまりタダ券によるものであることを考えると、
まるびぃの有料入場者が

40万人

もいることは驚くべきことでしょう。


おそらく、無料スペースがなければ、
これだけの来場者も集められないでしょうし、
また、有料来場者も大幅に少ないはずです。

無料スペース=単なる経費、無駄

ではないということです。


この無料スペース、
閉館日の月曜も開放してありますし、
営業時間は朝九時~夜10時まで。

仕事帰りの方でも立ち寄りやすいですね。

この長い営業時間も、
他の美術館では考えられないことです。


次にマーケティング。

蓑館長は、

「子供も楽しめる美術館」

というコンセプトを打ち立てました。

そして、子供たちを積極的に集めることにしたのです。

急がば回れということなのでしょうか、
子供のころから美術館を経験し、その楽しさを知れば、
彼らが大人になった時、自分の子供も美術館に連れてくる
という長期的な視点を蓑氏は持っています。


開業した年、蓑氏は、
金沢市の4万人の小中学生を全員「まるびぃ」に無料招待。

その際、子供たちには、

「もう一回券」(無料入場券)

を渡しました。

すると、子供たちは、「もう一回券」を手に、
親を連れて再来場してくれました。

回収された「もう一回券」は、7000枚に上ったそうです。
つまり、子供たちだけでなく、大人の来場者の促進にも
効果があったということです。


また、「まるびぃ」単体だけでなく、
周辺の街も巻き込んで、面的な集客策にも
取り組んできました。

飲食店街では、まるびぃの半券を見せると
特別サービスを提供する店舗がありますし、
蓑氏の名前を取った

「MINO丼」「MINOスパゲティ」

をメニューに載せ、
半券で100円引きにするところもあるそうです。


蓑氏のすごい点は、こうした初期の成功にあぐらをかかず、
常に斬新な人をひきつける企画を次々と打ち出すことが
必要だと考え、継続してきた点です。

また、金沢市内の全小中学生を招待すると言った時、

「事故でも起きたら誰が責任取るんですか?」

といった官僚的発言をする人にひるむことなく、

「子供たちであふれる美術館」

にしたいという強い思いを貫くため、
リスクを取って実行した蓑氏の度量の大きさ。


蓑氏のこの情熱的なリーダーシップが、
「まるびぃ」の成功をもたらした最大の要因でしょう。


以上は、下記文献、および蓑氏の講演(夕学五十講)に
基づいて書きました。


*『超・美術館革命 -金沢21世紀美術館の挑戦』
(蓑豊著、角川oneテーマ21)

投稿者 松尾 順 : 10:57 | コメント (0) | トラックバック

ドクターの代理人・・・民間医局とは?

「医師のキャリアづくり」を支援するビジネス。

この分野で成功を収めているのが、

(株)メディカルプリンシプル社(以下、MP社)
 http://www.medical-principle.co.jp/

です。


MP社は、端的に言えば、
医師の転職先やアルバイト先を紹介する事業、
すなわち、

「人材紹介業」

を行っています。

医師の紹介先は、もちろん医療機関・施設です。

ただし、この医療機関・施設には、
いわゆる一般の病院だけでなく、介護施設や製薬会社の研究職、
産業医として勤める企業なども含みます。


MP社は、他の人材紹介会社と異なり、

「医師」

だけに専門特化しているのが競争優位性の源泉です。

医師の人材紹介に固有の深い知識・ノウハウを
社内に蓄積、共有してきています。

そして、同社が展開する医師向けのサービスを
包括する名称として

「民間医局」

というブランド名称が与えられています。


さて、MP社と医師との主な接点は、次の3つです。

------------------------------------

1.「民間医局」専任エージェント

人対人のハイタッチな接点。

民間医局の登録会員1人ひとりに専任の担当者が任命され、
まるでメジャーリーガーの代理人(エージェント)のように、
医師の立場に立ち、医師のキャリアづくりのお手伝い
や転職先探し、待遇などの条件交渉を代行しています。


2.「民間医局」Webサイト

Webサイトを通じたヴァーチャルな接点。

民間医局サイトでは、転職やアルバイト先を希望する
医師などが、求人検索や各種サービスを利用できます。

なお、民間医局の登録会員には、
医師、および医学生、研修医だけがなれます。


3.ドクターズマガジン 

ブランディングのための接点です。

医療機関や民間医局の登録会員に無料で配布される
MP社独自発行の専門誌がドクターズマガジン。

同誌では、医師の方にとって有益な各種情報に加えて、
オピニオンリーダー的存在の医師の方々の「人となり」に
フォーカスした記事が掲載されており、MP社に対する
信頼感と高品質なイメージの醸成に寄与しているそうです。

--------------------------------------


ところで、そもそも医師のキャリアはどのようなものなのか、
一般の方はあまりご存じないと思います。


実は、医師のキャリアは、
各医師が在籍している大学病院の

「医局」

によってコントロールされていました。
(現在でも、この仕組みは基本的に変わっていません)

*「医局」について、
 Wikipediaでは次のように説明されています。

「大学医学部・歯学部の附属病院での診療科ごとの、
 教授を頂点とした人事組織」


これは、大企業に入社した社員のキャリアが、
人事部によってコントロールされているのと
ほぼ同じ仕組みだと言えるでしょう。


しかし、このところの医療行政の変化などにより、
大学医局のコントロール力(人事権)が弱まってきました。

このため、医師側としても、
これまでのように医局に命令されるままに異動する

「受身のキャリア」

ではなく、
自らのキャリアを自主的にデザインし、
勤務先・転職先を積極的に選択する

「自律的なキャリア」

の必要性が高まってきています。


こうした、医師の自律的なキャリアづくりのための
サービスを提供しているのが

「民間医局」

であり、「大学医局」で対応しきれなくなった部分を
補完する役割を果たしているのだそうです。


では、MP社の最大の強みはなんだと思いますか?


私の見るところ、それは、

「専任エージェントによるきめ細かいサービス」

です。


同社では、医師の

「転職先紹介」

をメインのサービスとしながらも、
医学生から研修医、そして新米医師からベテラン医師に
至るまでの

「医師の長いキャリア全般」

をカバーする様々なサービスをワンストップで
提供しています。

そして、こうした医師人生の要所要所での点的なサービスを
つなぎ、医師との長い「線的な関係性」を構築・維持するのが
生身の人間である、

「民間医局の専任エージェント」

なのだそうです。


民間医局を利用した医師によれば、
単に求人情報を送りつけてくるだけの競合他社と異なり、
まず直接面談する時間を持ち、自分のキャリアについて
じっくり話すことができる点を高く評価しているとのこと。

ここには、

効率よりも効果、
短期的な収益よりも長期的な収益最大化を狙う

という同社の基本方向がうかがえるように思います。

また、こうした教育に時間のかかる人的なサービスは、
簡単に他社が真似することができません。

つまり、民間医局の最大の競争優位性は

「現場」

にあります。


CRM(Costomer Relationship Management)の本質を
踏まえた、専任エージェントによる

「ハイタッチなサービス」

こそが、MP社を成功に導いたビジネスモデルの核に
あると感じました。


*上記内容は、同社への取材に基づいて独自に
 書き起こしたものであり、文責は当記事執筆者である
 松尾にあります。

*MP社については、INSIGHT NOWの特集、

「Secrets of First Most Only
-なぜ、あの企業は「日本初・日本一・日本唯一なのか-」

で詳細な取材記事(執筆:竹林篤美氏)が来週以降
アップされますのでお楽しみに!


*民間医局Webサイト
http://www.doctor-agent.com/da/member/top/index

投稿者 松尾 順 : 10:48 | コメント (0) | トラックバック

地域密着型SNS・・・JIMOT(ジモット)

近年開始された企業主宰のユーザーコミュニティとして
そこそこ成功していると言えるのは、

・ダイエット食品ユーザーのための
 「リエータカフェ」

・補正下着ユーザーのための
 「ワコール・スタイルサイエンス・スタスタ部」

でしょうか。


(関連記事)

*孤独感を和らげるダイエットブログ

*「愛すべきなまけものたちへ」・・・
ワコール・スタイルサイエンスのWeb-CRM


リエータカフェ、スタイルサイエンスとも女性専用。

どちらも、

「ダイエット」「痩身」

といった女性の切実な願いを支援するコミュニティです。

こうした明確な目的をユーザーが共有しているのが、
両コミュニティ成功の最大の要因でしょうね。


一方、明確な目的を共有しないコミュニティは、
自由度は高いものの、ダイエットのような強いテーマを
設定しにくく、ユーザーを引き付け続けるのが難しい。

このため、運営側は、
コミュニティの活性化に苦労してきています。


そこで、従来型のコミュニティよりも、
人と人の個人的なつながりを形成しやすく、
自分の居場所的な感覚を持てる

「SNS型」

のコミュニティを企業主宰で立ち上げるケースが
ぼちぼち出てきていますね。


たとえば、住友不動産販売では、地域密着型SNS、

「JIMOT(ジモット)」
http://www.jimot.com/

を今年(07年)1月に開設。

当初の9ヶ月で1万人の登録会員を獲得しています。
(日経ネットマーケティング、2007.11)


同SNSを主宰する住友不動産販売としては、

「チラシに代わる自社媒体を持つ」

というのがJIMOT開設の狙いです。


このため、地域限定のマーケティングを標榜。

これまでは、

東京世田谷区と神奈川湘南地区

を中心にユーザーを募集してきています。
(11月から首都圏全域に拡大中)


さて、JIMOTの最大の特徴は、
自分の地元地域を市町村より細かい

「エリア」

単位で登録できることです。
(私の場合、自宅よりも長い時間を過ごす事務所の
 所在地である「東京都文京区本郷」で登録してます)

サイトをごらんいただくとわかりますが、
実にローカルでジモティな話題やイベントが
アップされてます。

コミュニティによっては活発な議論が交わされている
ところもありますが、全体としてはまだまだこれから
ということろでしょうか。


なお、住友不動産販売では、
当初の会員獲得方法として、対象地域に限定した
チラシ配布と、ターゲティングメールを採用しました。

この結果、30-40歳代のユーザーが
全体の7割を占めるSNSとなっています。


実は、SNS最大手、
ミクシィのユーザーの年齢別構成を見ると、

30歳代は24.5%、40歳代は5.6%

しかいません。(07年3月末時点)

つまり、中高年層は、
SNSの未開拓市場と考えられるわけで、
「JIMOT」のようなローカルなSNSが
成功する余地はまだまだ残されていると言えますね。

投稿者 松尾 順 : 08:37 | コメント (0) | トラックバック

「味集中システム」とは?

博多発祥、とんこつラーメンの

「一蘭」

はご存知でしょうか?


首都圏には10店舗ほど展開してますが、
まだ知る人ぞ知るという存在でしょう。

私は、事務所に近い、
東京ドームシティ・ラクーア店にたまに行きます。


先日も午後4時ごろ、
仕事のついでに立ち寄りましたが、
店内は満席でした。

おおむねどの時間帯にいっても混んでます。


さて、わたしが「一蘭」をご紹介するのは、
店舗の構造や仕組みが極めてユニークだからです。

こだわりかたが、半端ではありません。

おそらく、創業者はよほどの変人、
いや天才かなと・・・


このユニークな仕組みは、


「味集中システム」

と命名され、特許出願済みです。
(出願番号:特願2003-289989)


席はすべてカウンターのみ。

1席づつ、両脇がパーティション(仕切り壁)で
仕切られているブーススタイルです。

また、正面は、赤いのれんで半分隠されているため、
店員の顔は見えません。彼らの前掛けのおなか部分が
かろうじて見えるだけです。


入り口の自販機で食券を買い、店内に入ったら、
席の埋まり具合を教えてくれる表示板を見ます。

「空」の表示があれば、そのブースに行き、
紙のオーダーシートにスープの味や麺の硬さを記入。
呼釦を押して店員を呼びます。

そして正面に30センチほど開いたすきまから、
顔の見えない店員に、食券とオーダーシートを渡す。

およそ1-2分でラーメンが出てくると、
前のわずかなすきまにも「すだれ」が下ろされ、
ほぼ完全に自分だけの空間になります。


おかげで、食べている間はひたすら

「味」

に集中できるというわけです。


替え玉の注文は、箸袋が追加注文シートを
兼ねているのでそれに記入して呼釦を押せばOK。

誰が追加注文したかは、ほかの客にはわかりません。

ですから、女性の方でも気兼ねなく、
何玉でもおかわりできますよ!


というわけで、確かに「味集中システム」は、
「味」に集中できるようにと、あらゆる工夫が施された

「完成されたシステム」

です。


しかし、ラーメンを食べている自分が、まるで

「食欲マシーン」

になったような気分になることがあります・・・


店頭には、混雑時でも、

「40秒にお一人の割合で、
 ご案内できるようになっています」

といった表示があります。

つまり、「客」自身もこのシステムの一部となり、
流れ作業的にラーメンが作られ、供され、食されている
というわけです。実に効率的なシステム。


また、前述したように、
ブーススタイルのカウンターしかありませんので、
家族だろうがカップルだろうが、それぞれ別のブースに
分かれて入ることになります。

したがって、
店内ではほとんど会話する気が起きません。


ちょっと味気ないですね。
家族連れやカップルは入りにくいでしょう。

そのせいでしょうか、客の多くは一人の男性客のようです。


一蘭のラーメンは、えぐみが少なく、
とんこつスープながら、とても透明感のある味です。

また、ぴりっと辛い「秘伝のたれ」が
アクセントになっていて味そのものもとてもユニーク。

事務所のそばにあれば、
私は、もっと頻繁に通うだろうなと思います。


それにしても、一蘭のラーメンをたいらげて
店を出た時の胃の満腹感と裏腹に、
心に一抹の寂しさが吹き抜けるのは私だけでしょうか。

まだ一蘭を体験されていない方は、
ぜひお試しになり、感想を聞かせてくださいね。


*一蘭Webページ

投稿者 松尾 順 : 11:12 | コメント (6) | トラックバック

「着地型旅行プラン」の充実に期待!

あなたは、旅行は好きですか?
国内旅行にはよくいきますか?


私は旅行が好きです。
とはいってもそう頻繁に行けるほど時間も金もなく、
年に4回ほど、国内旅行(1-2泊)に行く程度です。


国内旅行の行き先としては「温泉地」が多いのですが、
毎回悩むのは、温泉宿にチェックインする前の時間と、
チェックインした後の時間に何をするかです。


周辺の有名な名所・名跡(なんとかの滝、何とか寺)は、
一回行けば十分・・・

沿道に並ぶお土産屋に置いてあるものは、
どこに行っても変わり映えのしないものばかり。
ネーミングが違うだけ、というものも多い。

裏の表示を見ると、どれも

「Made in China」

だったりします。(笑)

「なんとかランド」といったあちこちにある遊園地も、
わざわざ温泉旅行先で行かなくてもいいなと思える。


結局、行きたいところがないわけです。

かといって、何時間もかけて行ったのに、
温泉だけ入って帰ってくるのはもったいない。

そこで、別に行きたくもない名所に再び行って、
まさにお茶を濁して帰ってくる。


あなたの国内旅行も、
多かれ少なかれこんな感じじゃないですか?


国内旅行の不振は、今に始まったことじゃありませんが、
リピーターがなかなか生まれないことも含めて、
国内旅行不振の最大の問題は、旅行先での滞在を楽しいもの
とするための仕掛けや、情報提供が十分になされていないこと
でしょう。


最近は、Webサイトでずいぶん豊富な情報が入手可能ですよね。
しかし、掲載されている情報は型どおりで表面的なものがほとんど。

具体性に欠け、イメージが広がりません。

どんな楽しみ方があるのかといったことまで踏み込んでいないため、
行ってみたいという気持ちがかきたてられない。


結局、旅行者の気持ちになって情報が
提供されていないんですよね。

これは旅行サービス提供者側の怠慢だと
言いたいのですが、要するに、

「ありきたりの旅行プラン」

しか提案できていないわけです。


だから、旅行する側としては、
国内旅行ってたいして楽しくないと感じてしまう。

でも実際には、現地で探してみると、
旅行者が楽しめることっていろいろとあります。


たとえば、今年になって何度か行った群馬の

「四万温泉」(しまおんせん)

の近くには、

「ふるさと公園たけやま」

という観光施設があります。


公式サイトなどでは、

「手打ちそばの体験ができる施設がある」

といった程度の情報しか見つけることができません。


しかし、実際行ってみると、この観光施設から、
標高789mの「嵩山」(たけやま)に上れる登山道が整備され、
普段着の家族連れでも、無理のない登山が楽しめることが
わかりました。

登山途中には、あらかじめ打ちつけてある「くさり」を
使わないと上れない岩場があったりして、結構スリリングです。
(注意すれば危険はありませんし、小学生以上なら十分上れます)

そして、頂上からの眺めは絶景!

ゆっくり上り、ゆっくり下りてきても、
所要時間は3時間程度と手ごろな遊びです。

森の新鮮な空気もたっぷり吸えますし。


登山の後は、ふもとにあるそば屋で
おいしい手打ちそばを堪能するのもよし。

お昼ごろに上って、
山頂でお弁当を広げるというのも気持ちよさそうです。


いかがでしょうか。

こんな情報があれば、あなたも行ってみたくなりますよね。
また、いろんな楽しみ方ができることもわかります。


こういう情報は、

「CGM」(Consumer Generated Media)

つまり消費者が書くブログやSNSに任せておけばいい
という方がいるかもしれません。


しかし、そんな待ちの姿勢ではなく、
地元の人たちが積極的に

「地元ならではの良さ、楽しみ方」

について情報発信していくことで、
国内旅行はもっと活発化するのではないでしょうか。


さて、最近、旅行会社大手は、地域密着の

「着地型」

と呼ばれる観光旅行の拡充に乗り出しているそうです。
(日経産業新聞、07/10/22)


「着地型旅行」は、
従来の出発地の旅行会社が企画する

「発地型旅行」

の対義語。旅行客を受け入れる観光地側で作った
観光プランのことです。


「着地型旅行」の観光プランに含まれるのは、
全国的に有名なものではなく、地域住民だけに親しまれている
名所や伝統料理、生活習慣などを体験させるものが多いようです。


旅行業界関係者も、国内旅行は、

「どこに行っても、見るのは寺、食べるのは刺身」

の紋切り型が多く、顧客離れを招いていることを自覚しています。

しかし、旅行会社は、有名観光地以外の地域の情報を
十分に持っていない。

一方、地元の自治体や商工会は、
旅行商品の企画・販売ノウハウを持っていない。


そこで、地元と旅行会社が連携して、
地元発の、その地域ならではの旅行商品を生み出すことに
取り組み始めたわけです。


よく、田舎に住む人が、

「ここにはなんも面白いものはないからなあ・・・」

と言いますが、地元の人には日常であっても、
外から訪れる旅行者にとっては新鮮で珍しい体験と
感じられるものが意外にたくさんあります。


国内旅行がますます楽しくなるためにも、

「着地型旅行プラン」

の充実を期待したいと思います。

投稿者 松尾 順 : 08:49 | コメント (0) | トラックバック

AMNブログマーケティングポリシー(β)について

現時点で35個のブログをネットワーク化し、バナー広告や、
ブログ・オン・ブログ広告(最新RSSフィードとロゴを掲載)
等を配信している、

「アジャイルメディア・ネットワーク」
(Agile Media Network、以下、AMN)

が先日、

ブログマーケティングポリシー(β)

を公開しています。


ブログを活用したマーケティングは、
現在最もホットなテーマでもありますので、
当ポリシーについてちょっと考えてみたいと思います。


さて、AMNは、

“ブロガーによるブロガーのためのネットワーク”

であり、

「ブロガーと読者と企業の会話を促進することで、
 三社を共感で結ぶカンバセーショナルマーケティングを推進する」

ことを目指しています。


この枠組みにおいて、企業側がエンドユーザー直接ではなく、
人気ブロガーとの会話を行う意味・価値があるのは、
ブロガーは、多数のエンドユーザー(読者)に対して、

・専門影響力(専門的な知識が源となる影響力)
・情報影響力(コンテンツ自体の質の高さが源となる影響力)

を駆使して、強力な影響を与えることができるからです。


ただし、

『影響力を解剖する(6)影響力の源-2』

で書いたように、
ブロガーが自らの利益誘導だけを目的として、
企業からお金をもらって「やらせ記事」を書いたりすると、
読者の反感を買い、影響力を失ってしまいます。

そうなると、企業としては、
ブロガーと会話する意味・価値がありません。


また、ブロガー自身も、
記事を書き続けるために最も重要な動機付けとなっていた

「読者の支持」(ブロガーに対する共感や理解、信用、愛情など)

が失われます。

読者としては、信頼していたブロガーが、
実は企業の提灯持ちだとわかってがっかりです。

もはやこのブロガーは信用できないと、離れていくでしょう。


この結果、ブロガーの「承認欲求」が
満たされなくなりますから、記事を書く意欲が
低下してしまいます。

もちろん、そもそも目的としていなかったのですが、
「金銭的報酬」も得られなくなります。


これは、企業、ブロガー、そして読者の3者にとって
不幸な結末ですよね。


ですから、ブログマーケティングにおいて
厳守しなければならない基本原則は、

「読者をあざむかない」

ということだと私は思っています。


さて、この基本原則に照らして、

「AMNブログマーケティングポリシー(β)」

を見てみます。


同ポリシーの大項目は次の3つです。

・報酬の有無を開示します。
・広告と編集は分離されています。
・率直で正直な意見を尊重しています。


これらは、「読者をあざむかない」ために
最低限必要なポリシーでしょう。

これらのうち、とりわけ重要なのは

「報酬の有無の開示」

です。

これがなければ、
読者をあざむく「やらせ記事」がどんどん生まれて
しまいますからね。


なお、この項目の詳細説明の中には、

AMNは、記事の内容を問わず、
ブロガーが記事を投稿するだけで報酬を支払う、
いわゆる「Pay Per Post(ペイパーポスト)」
にも関与しない

とも書かれています。


「ペイパーポスト」については、
広告であることが明示されていれば問題ないと
私は考えています。

ただ、ブロガーにとっては、
金銭的報酬による動機付けが強くなりすぎて、
広告ばかりの記事が続くことになる可能性が高いですね。

そうなると、やはり読者の支持が弱まり、
ブロガーの影響力が低下することになるでしょうから、

「ペイパーポスト」

を手がけないというのは賢明な判断でしょう。


そして、続く2項目、

・広告と編集は分離されています。
・率直で正直な意見を尊重しています。

は、要するに、ブロガーの記事内容について
AMNは一切影響力を行使しないということを明確にしたものです。

これによって、ブロガーの公正さ、信頼性が維持できるように
意図しているわけですね。

結果として、少なくとも企業やAMNの操作によって、
読者をあざむくような行為の発生を防止することはできます。


残るのは、ブロガー自身の倫理観ということになります。

これについては、AMNができることは限られていますけど。


ただ、同ポリシーの中に、端的に書けば、

「倫理観に欠けるブロガーは、ネットワークに加入させません」

といった項目を追加してもいいかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 09:20 | コメント (4) | トラックバック

ターザン養成所 - ターザニア

07年7月21日にオープンしたばかりの新コンセプトのテーマパーク、

「ターザニア」(TARZANIA)


に先日行ってきました。

というわけで、今回は1ユーザーとしての体験ルポです。


------------------------------------------------
★どんなところ?
------------------------------------------------

森の木をそのまま活かした運動施設です。

簡単に説明すると、まず、はしごなどを使って、
樹上3-5メートル以上の高さに登ります。そして、
グラグラする不安定な木の板や、
1本のロープなどの上を渡って向こう側の木に移るというもの。

<こんな感じ>
tarzania_rope.JPG


もちろん、ターザンのように
ロープにぶらさがって移るコースもあります。

「ターザンスイング」

と言います。

また、木から降りるときは、
地上まで斜めに渡されたロープを使って
シュルルルーと滑り降ります。

これは、

「ジップスライド」

と呼ばれています。


こうしたさまざまなコースが2コース、全9種類あります。

・ディスカバリーコース(3種類)
・アドベンチャーコース(6種類)

*コースマップ


ディスカバリーコースは比較的やさしく、
練習のためのコースという感じ。

アドベンチャーコースは、
木に登る高さも一段と高くなり難易度も上がります。
それだけ面白くなるというわけですが。


なお、全種類クリアまでの所要時間は、
ゆっくりやっても3時間弱です。


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★で、結局どうだったの?
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なかなか楽しいですよ!

自然の森の中ですから、
空気もおいしくて気持ちがいい!

フィールドアスレチックと違って、
筋力・体力があまり必要ありませんので、
女性や子供でも無理なく遊べますね。
(はしごさえ登ることができればOKです!)

<女性(知らない人です)も、がんばってますね>
tarzania_rope2.JPG


樹上の高いところから見下ろす風景は新鮮。
祖先(サル)の血が騒ぎました。(笑)

地上は暑くても、
樹上には涼しい風が吹いているんですね。

まあ、さすがにちょっと怖いといえば怖いのですが、
安全器具で「命綱」(セーフティライン)に常に
つないでいる状態ですので転落する心配はありません。


利用料金は大人3,500円、18歳未満は2,000-2,500円。

3時間ゆっくり遊んでの値段としてはまあ納得です。

「リピート割引」とかあるといいんですけどね。


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★誰に勧める?
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小学生高学年以上なら男女問わず。
お年寄りでも大丈夫ですね。

小学生高学年以上というのは、
身長制限があるからです。

身長110cm以下だと

ディスカバリーコース(3種類)

しかできないので、ものたりないでしょう。


ターザニアは、

「家族連れ」

がメインターゲットだと思いますが、私は、

「カップル」(恋愛初期)

に、特にお勧めします。


フィールドアスレチックや各種スポーツは、
お互い、体力・筋力、そしてある程度のスキルが
ないと一緒に楽しめないですよね。

でも、ターザニアだったら、
誰でも簡単にできますし、それほど力もいらない。

全コースクリアしても、それほどヘトヘトに
なるわけでもない。

一方で、高いところでドキドキする時間を共有できる。
2人の仲が急接近するに違いありません!

心理学の実験で

「吊り橋効果」

というのがありますが、アレです。(笑)

<愚息が短い吊り橋の上でわざと足を踏み外しているところ>
tarzania_ashihazushi2.JPG


「吊り橋効果」というのは、
ドキドキするのは高いところにいるからなのに、
それを相手に対する(好きだという)気持ちから
来ると勘違いしてしまうことです。

まあ、倦怠期のカップルにも多少の効果があるかも!


あ、もちろん

「高所恐怖症」

の方は無理ですね。


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★どこにあるの?
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千葉県房総半島のちょうど真ん中あたり。

「生命の森リゾート」

内にあります。

東京からは車で1時間程度です。

我が家は、千葉・松戸の自宅から車で行きましたが、
やはり1時間程度かかりました。

写真付の詳しいアクセスマップがあって助かりました。

電車だと、東京駅からJR外房線の誉田駅まで
やはり1時間程度。そこから無料送迎バスで20分。


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★着いたらまずどうするの?
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生命の森リゾートにある

「日本エアロビクスセンター」

のフロントで受付をします。

受付では代金の支払いを行い、また、

「確認書」

にサインをします。

確認書は、要するに、

ターザニア内での事故などは自己責任だということ

を確認(承認)するものです。

なお、混んでいると待たなければならないので、
開始時間を事前に予約しておいたほうがいいようです。


ところで、「日本エアロビクスセンター」は、
テニス、エアロビクスなど各種スポーツが
楽しめる運動&宿泊施設です。


<フィールドあたりから眺めた風景>
tarzania_resort.JPG


目の前にトラック&フィールドがありました。

プロスポーツ選手や、
オリンピック選手などの合宿先としても
利用されているようですね。

ロビーには、巨人時代の松井、清原や、
水泳の北島康介選手など、様々な分野のアスリートの
サイン色紙が飾られてました。


さて、フロントでの受付を済ませたら、
5分ほど歩いてターザニアの門を抜け、

「ターザニア・シャレー」

に行きます。


<ターザニアの門>
tarzania_entrance.JPG


ターザニア・シャレーはバンガロー風の施設です。

<ターザニアシャレーの入り口あたり>
tarzania_chalet.JPG


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★ターザニアでまずやることは?
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ターザニア・シャレーでは、
担当のインストラクターと会い、
安全器具(「ハーネス」)をつけてもらいます。

<シャレーにあった今日のインストラクターたちの紹介>
tarzania_instructor.JPG


そして、インストラクターから

「安全講習」

を受けます。

ハーネスの腰あたりについている金属のワッカや、
プーリー(滑車)を使って、常に木や木の間に
渡してある命綱(「セーフティライン」)に
自分の体がつながっている状態で移動するやり方を
教わります。


<お腹についているワッカ(上から見下ろしたところ)>
tarzania_anzen.JPG


当日の私たちのインストラクターは

サブさん

でした。この人は、すごいロン毛です。

腰まで届く髪をなびかせて滑り降りる姿は、
まさに本物のターザンのようでした!


<安全器具の使い方を説明するサブさん>
(ロン毛は普段は帽子で隠されている)
tarzania_sabu1.JPG

tarzania_sabu2.JPG


さて、10分ほどの安全講習を受けたら、
インストラクターから離れて、早速

「ディスカバリーコース」

から挑戦開始です。

ずっとインストラクターが付き添ってくれるかと
思ったらそうじゃなかったので、ちょっと不安を
感じました。

でも、実際やってみたら、
自分たちだけで大丈夫でしたね。


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★本当に安全?
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インストラクターの教えを忠実に
守ればよっぽどのことがない限り大丈夫でしょう。

手順を間違えて、命綱につながっていない状態に
してしまうと事故につながりますから、
あまり甘くみないようにしたほうがいいですが。

<木の赤いロープに安全器具をつなげます>
tarzania_anzen2.JPG


<木と木の間を移動する時は、頭上にある命綱(セーフティライン)に
プーリーを取り付けることで安全に移動>
tarzania_anzen3.JPG


また、特に危険と思われる箇所には
安全ネットも下に張ってあります。

<安全ネット>
tarzania_tree.JPG


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★面白いのは?
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やはり、

「ジップスライド」

ですね。

樹上から地面まで、
プーリー(滑車)を使ってかなりのスピードで
滑り降ります。

「一人ロープウェイ」

という感じでしょうか。

ジップスライドは、全コース9種類のすべてに
ついていますが、最長のものは90メートルもあります。


なお、滑り降りている間に後ろ向きになってしまい、
地上にクッションとして置いてある柔らかい木片に
背中から激突することがあります。

<ジップスライドで滑り降りる私。後ろ向きにならないように必死で耐えている>
tarzania_zipslide.JPG

でも大丈夫、痛くはありません。
首は起こしてないとちょっと痛いかな。(笑)


あと、やはり

「ターザンスウィング」


ターザンになりたければ、
ロープ1本で木を渡れなければね・・・

ということでバンジージャンプに似て、
結構勇気が入りますよ。

「怖(こわ)楽しい」

というところでしょう。
(どうしてもできないという人には迂回路あり)

*ターザンスイングがどんなものかは、
 写真で伝えるのは難しい・・・ぜひ実体験してみて!


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★また行きたい?
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まあ、頻繁に行きたいというほどではないですが、
1-2年に1回くらいは行きたくなりそう。

まだオープンしたばかりなので
リピート施策は何も考えていないようですが、
前述したように、リピート割引とかあるといいですね。


また、

木に登って別の木に移る

という動きは比較的単調なので、
もっと別の

「遊び的要素」

が加わるといいなあと思いました。


かといって、どれだけ短時間で全コース回れるか
といったコンテストは、危険が増しそうですけどね。


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★こうしたテーマパークの起源は?
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97年にフランス・アヌシー郊外で誕生した

「La foret de L'avanture」(冒険の森)

が第1号だそうです。
(日経MJ、2007/08/31)

日本では、ターザニア以外にも、

・フォレストアドベンチャー・フジ(山梨県)

があります。


以上、

「ターザン養成所」(私が勝手につけたキャッチ)

の体験ルポでした。

投稿者 松尾 順 : 15:12 | コメント (0) | トラックバック

検索社会で漂流する個人

PCの前に座れば、クリックひとつで、
さまざまな分野の膨大な情報が手に入るインターネット時代。

個人はネットを通じて情報を入手・活用することで、
企業と対等か、時に上回るパワーを持つようになっていますね。


しかし、私たちは、この拡大しつづける情報の海の中で、
本当にうまく泳げているのでしょうか。

ひょっとして、

「ただ流されているだけかも・・・」

という感覚がありませんか。


編集工学研究所所長、松岡正剛氏は、

“世界的な事情として「検索社会」というものが、
 非常に強く個人に食い込んでいるのではないかと思います。
 世界中を、グーグルやアマゾン検索というシステムが
 覆っているわけです。”

と言い、検索社会では、

“一人ひとりが情報と深く関わらなくなっている”

ということを指摘しています。
(人間会議、夏号 2007)


松岡氏は、ネットを通じて情報を入手する手続きを

「親指一発ケータイ主義」

と呼んでいますが、情報の入手は実に簡単になったけれど、
検索社会には「落とし穴」があることを見抜いています。


“親指ひとつで、どんどん情報を出しているようでいて、
 実はそのたびに、前の情報を消し去っているんです。

 だから、自分は実にたくさんの情報に対応していると
 いう錯覚はつくり出せるのだけれど、対応しているのは、
 一回ずつ、他とまったく無縁のものであって、情報の
 「かけら」しか見ていないのです。”


このため、前述したように

「一人ひとりが情報と深く関わらなくなっている」

という結果をもたらしているというわけです。


問題は、個人や基地や港や船などの「エンジン力」をつけないと
膨大な情報のなかは泳いでいけないはずのネット時代において、
そうした力をそぎ落とすことになっている点です。

これは、情報の良し悪しを判断する拠り所や基本的な価値観、
「自分は何者か」といったアイデンティティを
はっきりさせないまま、入手しやすい限られた情報を
盲目的に受け入れてしまっているという意味だと
私は解釈しています。


“情報が膨大だといっても実際は、ページランクの上位100
 とかしかみていないわけですから、アクセス数やランキングに
 よって、個人は泳がされているに過ぎない。”

という松岡氏の指摘には激しく同意します。


そして、アメリカを中心とする一極的な政治経済体制に
呑み込まれている現代日本と、上記の「検索社会」が
組み合わさることによって、

“スタート時点から、個人は孤立したまま、
 「深さ」を持ちえずに漂流せざるを得ない”

という状況が生まれていると松岡氏は考えています。


さて、この「個人が漂流する」ということについては
2つの側面があると松岡氏は言っています。

ひとつは、個人が孤立していて、
コミュニティの中心が欠如しているということ。

もうひとつは、個人単位で見たときに、
自己が自己のセンタリングが効かなくなっているということ。
(=志向の能力低下がどんどん起きているという意味)


検索社会は、上記のような

「漂流する個人」

を多数生み出す結果をもたらしているのは確かでしょう。


これは、別の見方をすれば、
流通させる情報をうまく操作することで、
他の人々を動かすことがますます簡単になっていることも
意味しているんじゃないでしょうか?

「口コミ」の影響力が、ネット社会、検索社会において
飛躍的に高まっていることは、そのひとつの表れだと思います。

投稿者 松尾 順 : 07:17 | コメント (4) | トラックバック

マーケティングとは何か?

“マーケティングとは、ひとことで言えば何ですか?”

先日、ミクシィのマーケティング・コミュニティで、
こんなトピックが立てられていました・・・


ああ!なんと素朴な質問であることでしょう!
(質問をした人をバカにしてるんじゃないですよ)

これまでも、このような「そもそも論的質問」は、
あちこちで、何度となく繰り返されてきたんでしょうね。


確かに、ナイーヴ(素朴)な問いではありますが、
たまにこうした「原点」に戻ることは決して
無意味じゃありません。


ただし、そもそも

「マーケティングとは何か」

なんて一言で言えるはずはありませんよね。
人それぞれ、様々な見方・考え方があります。


ですから、こうした

「原点に立ち返る問い」

をする場合には、ひとつの答えを求めようとするのではなく、
むしろ、多様な答えが帰ってくることを期待する。

そして「マーケティング」に対する、
多面的、立体的な理解を深めることを狙いとすべきでしょう。


さて、先ほどのミクシィのトピでは様々な回答が投稿されてます。
(勝手ながら、一部加筆修正しつつ引用させていただきます)

マーケティングとは、

・売れる仕組みづくりである
・市場に対する働きかけである
・市場とのコミュニケーション活動である
・製品やサービスを消費してもらうための技術である
・お客さまの笑顔をつくる全ての手段
・見込客の創造である(これは私のCRM的定義です)

などなど・・・

いろいろ挙げられてましたが、どれも正解ですよね。

こうしてさまざな視点でマーケティングを
切ってみる(定義する)ことで理解は確実に深まります。


ちなみに、私が最近好んで使うマーケティングの定義は、

------------------------------------

顧客(見込客含む)を獲得するための、

・仕組み
・仕掛け
・仕切り

づくりである

------------------------------------

というものです。


仕組みとは、「構造」、仕掛けとは「機能」、そして
仕切りとは「マネジメント」(管理)のことです。

マーケティング戦略、マーケティング施策を考える際には、
この定義における

・仕組み(構造)
・仕掛け(機能)
・仕切り(管理)

という3つの切り口が参考になるんじゃないでしょうか?


ところが最近、
さらに現場に即した見方(定義)に遭遇しました。

それは次のようなものです。

“マーケティングという行動を突き詰めて言うならば、
 より上手にモノを売っていくために「客の立場に立って
 知恵を使い続けること」と捉えることができる”

*出所:『売れないのは誰のせい?』―最新マーケティング入門
    (山本直人著、新潮新書)

この文中、

「客の立場に立って知恵を使い続けること」

という平易な表現を読んだ瞬間に、感じることがありませんか?


「マーケティング」

と言ってしまうと、なんだか、
しっかりした企業組織やマーケティング部門ためだけの言葉
のように響きます。


しかし、その本質は、
下町の八百屋、魚屋のオヤジさん、オカミさんも含めた全ての
商売人、全ての組織が日々行っている活動そのものであること。

そして、客の立場に立ち、
客の気持ちが理解できなくてはならないこと。
(顧客が欲しいと思うからこそ商品は売れる)

なにより、とことん考えて知恵を搾り出すことを継続すること。
(永久に有効であり続ける「売れる仕組み」は存在しないから)

という、マーケティングにおける

「理想とすべき基本姿勢」

が伝わるなあと私は感じたのです。

“マーケティングという行動を突き詰めて言うならば、
 より上手にモノを売っていくために「客の立場に立って
 知恵を使い続けること」と捉えることができる”


「知恵」使い続けてますか?

投稿者 松尾 順 : 05:44 | コメント (0) | トラックバック

誰が新聞を滅ぼすのか

ネットに読者や広告を奪われ、
最も大きな打撃を受けているのが新聞・雑誌業界でしょう。


かといって、自らネットに力を入れれば、
自社の紙媒体からの収益の落ち込みを加速させる可能性もあり、
なかなか思い切った意思決定ができない。

いわゆる

「イノベーションのジレンマ」

に直面してますよね。


さて、日経ビジネス最新号(2007年7月16日号)の第2特集は、

「誰が新聞を滅ぼすのか」

というタイトルで主に米国新聞業界の動向を伝えていました。


この特集のなかで、面白いと思ったのは、
有料モデルを採用する米経済新聞、

「WSJ(Wall Street Journal)」

と、無料モデルを採用する米経済雑誌、

「フォーブス」

の対比でした。


WSJは当初から電子版は有料を貫いていてきました。

現在の電子版の購読料は、年額79ドル。
紙の購読者は、これが同20ドルになります。

契約者数は、前年比20%の93万人と、
紙の購読者の約半数に達しているそうです。


この結果、WSJの電子版の収入構成は、
広告と購読料が50%ずつとなっており、
ほぼ広告収入だけに頼る他紙と比較すると、
収益基盤は手堅いものがあります。


WSJサイトの月間訪問者数は370万人。
新聞社サイトトップの人気を誇る

「ニューヨークタイムズ」

の同1000万人超の約3分の1しかありません。


WSJは、当初「オンライン戦略に出遅れた」と
言われていたそうです。

しかし、このところ電子版、紙版ともバランスよく
読者数を増やしてきていることから、
そのビジネスモデルが見直されているとのこと。


WSJは、今年1月に紙面改革を行いました。

最新のニュース報道は電子版に任せ、
紙の方では、ニュースの分析や解説が8割を
占めるようになっています。

つまり、電子版と紙版の役割分担を
はっきりさせたわけです。これが両方の読者数を
増加させることに寄与したと考えられています。


一方のフォーブス。

フォーブス電子版の特徴は、
雑誌の支援媒体ではなく、
独立した媒体として位置づけてきた点です。


フォーブスは、記事全文を無料公開していますが、
公開のタイミングは木曜日の午後6時です。

雑誌が届くのは、金曜か土曜なので、
電子版の方が早く読めることになります。

でも、雑誌の部数減には、
今のところつながっていません。


スティーブ・フォーブス社長兼CEOは、

“紙とオンラインは共食いしない。
 広告主はあらゆるプラットフォームの広告を
 要求するようになった。これからは、
 紙に固執するほど、紙が痛手を受ける時代になる”

と述べています。

彼は、

「イノベーションのジレンマ」

を乗り越える決意を固めているようですね。


なお、北米を中心に雑誌の発行部数を
伸ばしている英エコノミストのWebサイトの発行人、
ベン・エドワーズ氏は、
同特集の中で、次のような重要なコメントを残しています。

“本来、雑誌とウェブは使い方が異なる。
 当社のサイトに読者が滞在する時間は、平均6分。
 これは、仕事上、必要な情報を探し出すために
 使っていることを意味する”

“これに対して、雑誌は週末や電車の中で
 ゆっくりと読むもの。もし雑誌の部数が落ちているなら、
 それはウェブのせいではなく、雑誌自身の中身の問題だろう”


私自身、10誌以上の雑誌をいまだに購読し、
並行して、各種ニュース系Webサイト、ポータル、ブログ、
メルマガを読んでいますが、
まさに、オンラインとオフラインでは使い方が異なります。


そして、コンテンツが面白かったり、役に立つものであれば
有料でも読みますし、そうでなければ無料でも読みません。
時間もコストですから。

それだけです。


新聞、雑誌の関係者の方々は、
自社媒体が売れない格好の理由として「ネット」を
槍玉に挙げるべきではないんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 08:41 | コメント (4) | トラックバック

ホステス派遣

クラブ活動やってますか?

大人のクラブ活動です。
活動拠点は銀座。人によっては六本木ですが。

私は予算の制約のため、ほとんどやってないんですけど。


さて、昨日の夕方、行きつけのラーメン屋で担担麺を
食べていたら、たまたま流れていたテレビ番組で、

「銀座のクラブにホステスさんを派遣するビジネス」

が紹介されてました。


なかなか面白いと思ったので、メモ代わりに書いておきます。

まず、あまりよくこの世界を知らない人のために
簡単に説明しておきますが、銀座や六本木のクラブとは、
おおむね一組のお客さんに2-3人のホステスさんが付き、
スナックとお酒で他愛のない会話をする

「男性のための癒しのスペース」

を提供するところです。

お代は、2-8万円UP程度。
ランクによって料金に大きな差があります。

基本的に、「接待」という名目で、
会社に請求書を回すことが多いようです。


お客さんは、
お気に入りのホステスさんと一緒に店に入ったり(同伴)、
席についてから、指名することもできます。

この場合、ホステスさんには、
通常のお給料に加えて、別途報酬が支払われます。


実は、この業界もやはり万年人手不足。

繁閑の差も激しいでしょうし、
常勤のホステスさんだけでは店が回りません。

必要な時だけホステスを呼べるのは
ありがたいわけです。


一方、働く側としても短時間で高収入が得られますし、
夜間のお仕事ですから、昼間とのダブルワークが可能。

テレビで紹介されていた派遣会社には、
500人ほどが登録しているとのこと。

時給は3千円でした。
夜8時から11時まで3時間働けば、9千円になりますね。


さて、どのくらい前から「ホステス派遣」という形態が
あったのか不明ですが、従来の正規ホステス、あるいは
アルバイトの斡旋(この場合、お店が雇用者になります)
と違って、

「派遣」

には、働く側に次のようなメリットがあります。

・残業がない(終電に間に合うように上がれます)
・ノルマ(同伴件数など)がない
・お客さんと距離を置かなければならない
 (名刺を作成しない、出勤日を教えない)


つまり、しつこい客に追いかけられたり、どろどろした
色恋沙汰になることがありませんので、あと腐れなく
気楽に働ける労働形態ということです。


番組では、何人かの派遣の女性が登場していました。

昼間は大手企業の社長秘書をやっているが、
お小遣い稼ぎのために夜も働いている人。

海外留学の資金を貯めるために働いている人。

心理カウンセラー(臨床心理士でしょう)を目指して
大学院に通っていて、お客さんとの会話を通じて、
カウンセリングの技術を磨いている人

など、様々な目的で働いているんですね。


ともあれ、クラブの世界も

「非正規化」

が進んでいるということに驚きました。


なお、夜の世界に詳しい方、
補足情報や「そこ間違ってるよ」という点がありましたら、
ぜひご連絡お願いします。


しかし、マーケターなら、
こうして2次情報に頼っているだけでなく、
「現場」にも行って1次情報を収集すべきですよね。

投稿者 松尾 順 : 08:20 | コメント (6) | トラックバック

富裕層マーケティングの極意

日経MJ(2007/07/02)のMJ論壇に、

『富裕層マーケティングの極意』

と題して、
アメックス(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル)
日本支社支社長、山中秀樹氏の寄稿が掲載されていました。


なかなか興味深いことが述べられていたので、
要点をご紹介したいと思います。


・現在の富裕層は、カネさえあれば、キンキラでもいいという
 かっての「成金」から、「オシャレで賢く、合理的な」
 スタイルへと洗練されてきている。

・富裕層をさらに細分化するとブランド志向の高い人と
 低い人がいる。

・富裕層を取り込む3原則は次の通り。

 1 emotional Affinity (感情への訴えかけ)
   →ブランド志向の高い層に「持つメリット」(利点)を
    訴求する
 
 2 rational value (理にかなった価値)
   →ポイントを航空各社のマイレージに交換可能など
    現実的な特典

 3 customer experience (感動体験)
   →会員に提供するきめ細かく、親身で質の良いサービス

・アメックスの会員が、カードの盗難や紛失など困った時に
 コールセンターへかけてくる電話に対する我々の第一声は
 「ご安心ください」。即座にカードを再発行でき、会員も実際に
 安心する


なるほど。

金持ちは、誰もがブランド志向といった思い込み(固定観念)
は避けるべきなんですね。

いわゆる、「新富裕層」と呼ばれる人たちの
「心理と行動」については、正確な把握が必要なようです。


さて、山中氏は、

“安心感を抱かせるためには歴史も大切だ”

と強調しています。

“アメックスには、150年以上積み上げてきた世界で
 通用する安全と安心の顧客サービスの歴史がある”

とのこと。

確かに、ブランドは一夜にしてなりません。
長い時間をかけて培っていくものです。


そして、山中氏は、トヨタ自動車のレクサスが、
当初目標よりうまくいっていないということの理由について、
次のような見方を示しています。


“レクサス車は高い価格に見合う高い性能があるが、
 まず歴史がない。顧客は後ろにトヨタ自動車のエンブレムを
 透かしてみてしまう”

“加えてレクサス車を選ぶ顧客は高級ブランドにさほど執着せず、
 むしろ実利を求める層だろう。”


“ところが、レクサスの広告手法をみると、
 「感情への訴えかけ」が前面に出ており高級ブランドの
 イメージで売ろうとしている。”

“レクサスの場合は、「特徴」を訴求すれば、
 その性能・機能の高さで実利を求める顧客を取り込めるはずだ”


マーケティング・コンサルタント、森行生氏の

「プロダクトコーン理論」

によれば、新製品(新ブランド)の
訴求は、まず「規格」から始めるのが基本です。


*プロダクトコーン理論については下記記事を参照ください。

「シンプルマーケティング(8)プロダクトコーン理論」

「シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論 訴求の順番」


規格とは、すなわち性能、機能面の特徴のこと。

プロダクトコーン理論では、
まず「規格」を訴求したら、次に「ベネフィット」を訴求、
最後に「エッセンス」(=ブランドイメージ)へと
訴求ポイントを移すのが定石です。


レクサスの場合、最初から

「エッセンス」

を訴求しているため、「伝わるコミュニケーション」
としては、難易度が高かったのは確かですね。

投稿者 松尾 順 : 07:22 | コメント (0) | トラックバック

ボールパークのセンターピン

「ボールパーク」とは野球場のことです。

今日は、メジャーリークの事例をご紹介するので、
あえて英語で表現してみました。


さてさて、

ボールパークのセンターピン(成功のカギ)

は、なんだと思いますか?


実は以前にも書いたんですが、その答えは、

「混んでいること」

です。

参考>人の集まるところに人は集まる


大観衆で埋まった野球場の熱気、地面が揺らぐような大歓声は、
野球を観戦する楽しさを倍増させてくれます。

逆に、閑散とした客席に座って、
応援もまばらな中でみるゲームほどわびしいものはありませんよね。


福岡生まれの私は、小さいころ、年に1度は今は取り壊された
平和台球場に野球観戦に行ってました。

その頃の地元球団はライオンズです。

しかし、ライオンズの黄金時代ははるか昔のこと。
当時は、毎年最下位争いをするチームに成り下がってました。

さすがに、地元でも人気は低迷。
球場は閑散としていて、どうも盛り上がらない。
しかも、たいてい負けてしまう。

7回が終わった頃には、

今日も負けているし、混む前にそろそろ帰るか・・・

などと、見切りをつけて帰るのは本当にわびしいものでした。

そんな状況の中、ライオンズのエース、
東尾投手が孤軍奮闘していた姿を思い起こすと
泣けてきます・・・


おっと、感傷に浸っている場合じゃないですね。
本題に戻しましょう。


「混んでいること」

がセンターピンとなるのは、サッカーやディスコも同じです。

上記の過去記事で書いたように、
「ジュリアナ東京」がブレークしたのも、
「アルビレックス新潟」がJリーグ最大の観客動員数を
誇るようになったのも、当初、タダ券を大量にばらまいて、
とにかく人を集めて、「混んでいる感」を演出したからです。


つまり、こうした娯楽施設においては、
たくさんの人が来場していることが、大衆にとっては
人気度を判断する尺度であり、また、活気を生み出し、
興奮や感動を高めてくれる要素になるのです。

また、実際に人気が高まってくれば、
今度は、チケットなかなか手に入らなくなりますから、
価値が高まり顧客単価も上昇しますよね。
(いわゆる「プラチナチケット化」)


さて、野球場に例を絞りますが、
「混んでいる」状態に見せるための打ち手は、
次の2つ(の組み合わせ)になりますよね。

・人を大量に集める
・野球場のサイズ(座席数=収容人数)を小さくする


ただ、野球場のサイズを小さくするというのは、
従来のビジネスの発想からはバカげたことに感じます。

なぜなら、野球場からの売上は、

顧客単価x座席数(=来場者数)

で決定されるからです。

すなわち、座席数を減らすということは、
自ら売上機会を減少させていることになります。


しかし、「混んでいること」
というセンターピンに照らし合わせると、
むやみに野球場のサイズを大きくしてしまうと
逆効果になることがわかります。

というのも、そこそこ人が入っていたとしても、
施設が大きすぎるために、相対的にスカスカに見えてしまい、
「混んでいる」ように見えないからです。

つまり、収容人数だけではなく、座席の稼働率、
端的に言えば「埋まり具合」も考慮しなければならないわけです。


このことに気づいたのがメジャーリーグの各球団でした。
(日経ビジネス、2007年6月25日)

たとえば、ニューヨーク・ヤンキースが建設中の新球場の
客席数は現在の1割減の5万1千人。今でもチケット入手が
困難な人気チームにも関わらずです。

同様に、ニューヨーク・メッツの新球場「シティーフィールド」
の客席数は、なんと2割減の4万5千人。

ボールパークは狭くしたほうが、稼動率が高まり、
結果的に総売上が高くなるというロジックですね。


実は、このロジックは、地方球団のサクセスストーリーに
よって証明されたことでした。


クリーブランド・インディアンズの本拠地、
クリーブランド市営球場は観客席7万4400の巨大施設でした。

アメリカンフットボールのクリーブランド・ブラウンズとの
共用施設として建設されたこの施設は、野球場としては
あまりに大きすぎたようです。

観客と選手との距離が遠く臨場感が味わいにくい。
また、ホームランが出にくいために、ゲームの面白さも
足りなかったようです。

しかも、チーム力も低迷していたこともあって、
1試合あたりの平均観客数は、1万人ちょっと。

テレビに映るガラガラの客席は、地元の人に

「いつでも入場できる」

という意識を植え付けて、さらに足を遠ざけることに
なっていました。
(また、あんなガラガラの球場で試合を見てもぜんぜん楽しくない
 という気持ちも当然湧いたでしょうね)


しかし、94年に建設した野球専用の「ジェイコブス・フィールド」
では、客席数を4万3千人に絞りました。

また、ファウルグランドも狭めて、迫力あるプレー観戦も
実現しました。


そして、客席を埋め尽くしたファンの声援に押されて、
同チームの選手も大活躍します。

有名選手を獲得できるだけの資金がない分、
有望な若手を育成する方針もちょうど功を奏し始めてました。

結局、94年には1ゲーム差の2位という成績を収めます。
翌年も満員のゲームが続き、とうとうアメリカンリーグを制覇。


ちなみに、同チームの1試合あたり平均チケット収入(ドル)は、
93年のクリーブランド市営球場時代は約25万ドル。

ところが、94年、ジェイコブスフィールドに移った年は、
約57万ドルに達しています。


座席を約半分に絞って、売上は倍増したのです。

投稿者 松尾 順 : 11:03 | コメント (4) | トラックバック

温浴施設のセンターピン

先日起きた、渋谷の女性専用高級スパ「シエスパ」の爆発事故に
よって、温浴施設には、一歩間違うと人命に関わる危険性がある
ことがわかって驚きました。

どうやら、上記施設には、運営上最も重視すべき

「安全性」

に対する意識が弱かったようですね。


さて、近年、全国的に温浴施設を集客の切り札として
建設するところが増えています。

また、手ごろな値段で様々なタイプのお風呂が楽しめる
「スーパー銭湯」もあちこちに増殖中です。


こうした温浴施設、特にスーパー銭湯の

「センターピン」

は何だと思いますか?


なお、「センターピン」とは、ボーリングのピンのことです。
センターピンにボールが当たると全部のピンが倒れて
「ストライク」が取れることから、

「成功のカギ」

という意味で使います。

このセンターピンという言い回しは、
現在マスコミに叩かれて憔悴気味のグッドウィルグループ代表、
折口雅博氏の言葉です。

折口氏は、拡大欲にとち狂い、事業の「社会性」を
見失ってしまいましたが、ビジネスセンスは
すばらしいものがありました。


本題に戻しましょう。

冒頭に述べたように「安全性」は、あって当たり前。
「センターピン」ではありません。

「センターピン」とは、
繰り返し利用したくなるような独自の強みのことです。


温浴施設のセンターピンは、私の考え(仮説)では、

「休憩スペースの広さ」

が第一だと思います。


休憩スペースが食事処を兼ねているところもありますが、
飲食する・しないに関わらず、湯上りにゆっくりできる
十分なスペースがあることって、重要だと思いませんか?


私も、新しくオープンした自宅周辺のスーパー銭湯には
よく行ってみるのですが、「休憩スペース」が十分に
広いところは意外に少ないです。

そのため、ゆっくりすることができず、
そそくさと帰途につかなければなりません。


今の私たちは、昔の銭湯の時代のように
内湯がないから行くわけではないですよね。

温浴施設の広い湯船に浸かって開放感を味わい、
体だけでなく、心もさっぱりしたいから、
わざわざ外湯に行く。

なのに、湯船ばかりやたら豪華で、
入浴後のスペースを軽視しているところが、
結構多いと思います。


昨年、房総旅行の帰りに、
養老渓谷の新しい温浴施設に立ち寄ったことがあります。

総ヒノキ造りの豪華な上屋。
お風呂の種類はあまり多くありませんでしたが、
天井が高く、広々としていて気持ちが良い。


しかし、食事処はあっても休憩スペースがありません。
正確には、2階に有料の個室がいくつかありましたが、
かなり高めの値段でした。

ゆっくりしたかったら、食事を頼むしかないわけです。


その時は、夕食を取ることにしたので問題はありませんでした。
でも、そうでなければさっさと帰らざるを得ません。

私は、「なんだかなあ・・・」とつぶやきながら、
ここには2度と来ることはないだろうと感じてました。


実はこの温浴施設は、地元の大手温泉宿が建設したものでした。

旅館の場合、宿泊客には部屋があるので、
館内の浴場に休憩スペースを設けてないことが多いですよね。

この発想をそのまま新しい温浴施設の設計に持ち込んで
しまったんじゃないかと思います。

温浴施設の「センターピン」が何かをわかっていなかった
ということでしょう。(私の仮説に基づけばですが)


余談ながら、この施設、「総ヒノキ造り」にこだわり、
長持ちさせるために、建物の空気の通りが良い設計に
なっていました。

このため、入浴されるお客さまには、
多少寒い思いをさせることになります。
この点ご理解お願いします。

などと書いてある。


ところが、洗い場のオケを見ると、
ヒノキに見せかけたプラスチック製です。

「ヒノキにこだわるなら、細部にこだわれよ」

と突っ込みを入れてました。


さて、この温浴施設、
莫大な資金をつぎこんだことは明らかでしたが、
まだ存在しているのかどうか・・・

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

ナポリピッツァが食べたい:パルテノペ

昨日のお昼は、ランチョン・ミーティング。

ランチの場所は、女性に人気のナポリピッツァの店、

パルテノペ(恵比寿店)

にしてみました。


パルテノペは、広尾が1号店です。恵比寿は2号店。

広尾、恵比寿以外には、品川、横浜にもありますが、
実は、同店は、日清製粉(株)が始めたレストランです。


「日清製粉って、カップヌードルの会社?」

じゃないですよ。それは日清食品。
(実際、よく間違えられるそうですが・・・)


日清製粉は、小麦粉メーカーですね。
販売先は、パン屋さんなど消費財メーカーがメイン。

すなわち、同社は、消費財メーカー向けに、
「小麦粉」という原材料を製造・販売する生産財
メーカーであり、典型的なB2Bビジネスを展開
している地味で堅実な会社です。


さて、生産財メーカーの同社が、
なぜナポリピッツァのレストランを始めたのか。

もちろん、それは、小麦粉需要を拡大するため。
小麦粉の実際の用途のひとつである
ナポリピッツァの市場を自ら創造することが狙いでした。


パルテノペ広尾店がオープンしたのは2000年です。

当時の日本のピッツァ市場は1964億円で、
1996年の2100億円をピークに微減傾向となっていました。

つまり、頭打ち状態になっていたんですね。

また、ナポリピッツァの店は
まだほとんど存在していませんでした。


しかし、その後のナポリピッツァブームにより、
2006年の市場規模は2400億円と、再び急拡大しています。

ナポリピッツァの店もずいぶん増えました。


こうして、ナポリピッツァブームを仕掛けることに、
狙い通り見事成功したのが

「パルテノペ」

でした。


日清製粉としては、まず広尾、恵比寿といった、
外国人が多く住む洗練されたイメージのある街への出店を
行うことで、ナポリピッツァの

「ブランド化」

を図ることにしたそうです。


両店では、ピッツァ窯をイタリアから直輸入、
薪で焼く本格的な石窯を導入しました。

また、ピッツァ生地も、粉から練り上げる「スクラッチ」
という製法を採用し、本場の味を実現したおかげで、
たちまち外国人や食通の人気を集め、メディアからの取材も
殺到するようになりました。

ぴあランキンググルメ(2002)では、
パスタ・ピッツァ部門、イタリア部門の両部門でランキング
1位を獲得しています。


こうして、ナポリピッツァへの注目が高まる中、
最近急速に成長している

「ピッツァ・サルバトーレクオモ」

なども続いて、市場が急拡大してきたわけです。


なお、日清製粉では、昨年(2006年)、
イタリア・ナポリで、ナポリピッツァの伝統的製法を守っている
「真のナポリピッツァ協会」の日本支部の立ち上げを主導。

「ナポリピッツァ」のブランドを維持・向上させるための
ネットワーク化を進めています。


ところで、ナポリピゥツァの魅力は、

「表面はカリッと香ばしく、中はふんわりモチモチの食感」

ですね。まさに日本人好みの味だと思います。


試したことのない方はぜひ!
(別にパルテノペの回し者じゃありませんよ)

投稿者 松尾 順 : 07:06 | コメント (4) | トラックバック

ナチュラルローソンの探索型マーケティング

コンビニ業界は、もはや成長産業ではありません。

有望立地には、競合店舗がひしめき、
一部の商品では価格競争さえ始まっています。


要するに、コンビニ店は量的には飽和状態。
今後も、売上を維持・拡大するためには

「質的な転換」

を図る時期が来ていると言えますよね。


とはいえ、

徒歩5分以内商圏、24時間営業、100平方メートル程度の店舗面積、
3000-4000アイテムの多品種少量の品揃えと、
チケット販売、公共料金支払い、ATMなど多様なサービスを提供

といった、これまでの成功モデル(型)を
打ち破るのは簡単ではありません。

最大手のセブン-イレブンでさえ、
まだ、コンビニの新たなスタイルを打ち出せずにいます。


しかし、若きリーダー、新浪剛史氏率いるローソンでは、

「ナチュラルローソン」

という2001年に立ち上げた新業態で、
脱コンビニの新たなスタイルを生み出すための、
さまざまな試行錯誤を重ねる

「探索型マーケティング」

を行い、一定の成果を上げているようです。
(PRESIDENT 2007.7.2)


ナチュラルローソンのメインターゲットは、
20-30代の働く女性です。

従来のコンビニが、20-30代の男性をメインターゲット
としていましたから、対極にある人たちをターゲットに
置いているわけです。


店内には「おでん」は置いてありません。
代わりに、焼きたてのパンの香り。

また、いかにも女性が好みそうな可愛い輸入雑貨や文具が
工夫を凝らした展示で置いてあります。

ヌードが踊るアダルト雑誌は昨年末に撤去。
一人で軽食がとれるイートインスペースあり。


そそくさと必要なものを買うために、
ついでに立ち寄る存在だった従来型コンビニとは異なる、
高品質な空間づくりにある程度成功していると思います。


日販は約60万円。従来のローソン(青ローソン)より
2割ほど高いそうです。

なお、平均的なコンビニの日販は40万円台です。
そして、約60万円というのは、酒・たばこを販売
している店舗がようやく達成できる水準です。

ナチュラルローソンの場合、
かなり客単価が高いんでしょうね。


さて、立ち上げからこれまでの経緯を追うと、
同業態の基本コンセプトである

「美と健康」

を売る店としての輪郭が鮮明になるためには3年を要し、
さらに業態としての完成度が増してきたのは、
この2年ほどとのこと。

つまり、およそ5年に渡る試行錯誤の中から、
新たなコンビニのモデル(型)を彫りこんきたわけです。


もちろん、さまざまな失敗も。

たとえば、軍手やクラフトテープは、
ナチュラルローソンらしくないといったんカットしたものの、
女性客の要望で復活。

一方で、イメージに合うキッチン雑貨は売れないそうです。
(ターゲットの働く女性は、忙しくてキッチンに
あまり入らないんじゃないかと思いますが。あるいは、
両親と同居しているので料理は母親任せかも・・・)

また、伊藤園の「おーい、お茶」を撤去して、
保存料の入らないオリジナルの緑茶を入れたところ、
客からクレームがつき、元に戻さなければならない
ということもありました。


こうしたことは、実際やってみないことには
見えてこないことばかりですよね。


基本コンセプトを核に、
現場でのテストマーケティングを繰り返すなかで、
顧客ニーズを探索し、「ナチュラルローソン」
らしさをすこしずつ打ち出していく。

顧客の振る舞いを予測するのがますます難しい昨今、
ナチュラルローソンの「探索型マーケティング」のアプローチが
成功の近道なのかもしれません!

投稿者 松尾 順 : 20:27 | コメント (0) | トラックバック

これハブ

4月10日に書いたブログ記事、

「記憶にあるデザイン」

でご紹介したエレコムのUSBハブ、

「これハブ」

を私もちょっと前に購入し、利用しています。


「これハブ」は、電器製品等のコンセントを
増やすための「電源タップ」に似た形にしてあります。

既存製品とはまったく異なる構造であるため、
設計には手間がかかったそうです。

若干大きめの形状になりましたし、
競合製品よりも割高です。

ですので、開発担当者は、
果たして売れるかどうか不安を感じたようですが、
結果的には、とてもよく売れています。


私も実際購入してみて、なぜ売れるのかがわかりました。

理屈抜きに

「カワイイ!」

のです。(笑)


USBハブは、他にもいろいろな形状の製品を使ってますが、
いじっていて、「愛情」とか「愛着」といった感情が
湧き起るのは、

「これハブ」

だけなんですよね。


まさに、ダニエル・ピンクさんの言う、

「実用性」と「有意性」

をくしくも兼ね備えているのが、「これハブ」でした。

投稿者 松尾 順 : 00:36 | コメント (0) | トラックバック

靴磨き.com

検索エンジンで、

「靴磨き」

を入力して、キーワード検索してみてください。


Yahooでは表示順1位、Googleでは同2位に来るのが、

「靴磨き.com」

です。


代表者は、現在23歳の若き靴職人、長谷川裕也氏。

長谷川さんは、失業中の20歳の頃、
いよいよ生活費が底をつきかけてきたため、
すぐに始められて元手がいらず、日銭が稼げるからという理由で、
「靴磨き」を始めました。

靴磨きセットやタオルなどは、100円ストアで調達。
04年5月のことでした。

靴磨きを始めてすぐ、アパレルショップの正社員の仕事が
見つかるのですが、彼は靴磨きも並行して続けました。

奥深い「靴」の世界に、はまってしまっていたからです。


結局、06年8月に、長谷川さんは靴職人として独立を
果たします。すごいのは、活動開始わずか3年にして
ブランド構築に成功していることです。

5月2日付の日経MJにもでかでかと紹介されましたし、
ファッション誌『ゲーテ』(May 2007)では、
4ページの記事が掲載されました。

つい先日は、NHKの番組にも登場してます。


実は、この成功の裏には、カリスマ経営コンサルタント、
石原明氏(日本経営教育研究所)がアドバイスを
していたという秘密がありますけどね。


たかが靴磨き職人?

「靴磨き」だけに捉われてしまえばそうかも知れません。

でも、靴磨きを入り口として考え、
顧客との関係構築という視点で見つめなおすと、
その先に広がる世界は大きいんです。

なぜならば、磨くだけの価値のある靴を
持っている人たちの多くは富裕層ですから。

これ以上の説明は不要ですよね。


ところで、ホームページを見ると、
日本経営教育研究所以外に、マクロミルとも
提携されています。

どういう提携なんでしょうね?

投稿者 松尾 順 : 06:36 | コメント (0) | トラックバック

「自分語り」なプロフ

「プロフ」

とは、自己紹介するためのホームページのこと。

この「プロフ」が女子高生の間で大流行しているんだそうです。
(日経産業新聞、2007/03/22)


女子高生に強いマーケティング会社、(株)ブームプランニング
によれば、

全国の女子高生の50%以上、首都圏に限れば70%

が「プロフ」を所有しています。


プロフには、PC用もありますが、
女子高生の利用は圧倒的に携帯電話用です。

携帯からプロフ用のサイトにアクセスすると、
そこには氏名、年齢から始まって、趣味や好きなタレントなど、
40-100項目におよぶ多種多様な質問が用意されています。


彼女たちがそれらに答え、また自分の顔写真を貼り付ければ

「自己紹介ページ」

が完成するというわけ。


さて、私が気になったのは、
ブームプランニングの代表取締役、中村泰子氏が、
「プロフ」を活用する女子高生たちの一般的な傾向として、

「自己表現には腐心する反面、相手には関心を示さない」

という点を指摘されていたことです。


さらに、中村氏は次のような分析を行っています。

「女子高生の会話を聞くと、自己中心的で自意識過剰という
 気がする。こんな傾向が強まる中でプロフが登場し、
 受け入れられたのではないだろうか」


なるほど。
もっと自分のことを知ってほしい、語りたいという
「自分語り」のために

「プロフ」

は、格好のツールなんでしょうね。


ただ、自己中心的で自意識過剰という傾向が
強まっているのは、女子高生だけではないように思います。


たとえば、mixiなどのSNSで話題になっている「読み逃げ」。

これは、マイミクでつながっている友人・知人のページに
アクセスして日記などを読んだのに、コメントを残さない
のはずるい、よくない、「読み逃げ」だという批判です。


あなたは、「読み逃げ」はずるいと思いますか?

私はずるいと思いません。
コメントを書き手が強要するのは変です。

コメントを残す・残さないは読み手の自由でしょう?

そもそも、特に「自分語り」の強い日記などの場合、
コメントを残すのが難しいことが多いですしねぇ・・・


ですから、「読み逃げ」のような考え方が生まれるのは、
一般の人々においても、自己中心性、自意識過剰性が
強まっているということを示しているんじゃないでしょうか。


ちなみに、個人が自分のホームページを持つ理由についての
先行研究(国際比較)によれば、他国と比較して日本人の場合、
自分自身の性格や意見などをホームページに呈示している傾向が
高いことがわかっています。


つまり、以前から、特に

「自己開示」「自己表出」

の手段としてホームページを利用することが多かったのが
日本人です。


「プロフ」もまた、この日本人の基本的な志向にぴったり
はまったということでしょう。

「SNSの使われ方」についての国際比較研究は、
まだあまり行われていないと思いますが、おそらく、
日本人と他国の人ではずいぶん違うんじゃないでしょうか。


*以下参考文献です。

「ウェブログの心理学」
(山下清美、川浦康至、川上善郎、三浦麻子著、NTT出版)

投稿者 松尾 順 : 11:49 | コメント (4) | トラックバック

百姓になった高橋がなりの『農家の台所』

先日、国立にある自然食レストラン、

『農家の台所』


に行きました。

この店は、ソフト・オン・デマンド(SOD)の創業者、
高橋がなり氏が数年前に立ち上げた「国立ファーム」の運営。
店自体は、まだ開店して2ヶ月弱です。


*国立ファーム

「国立ファーム」は、日本の農業を改革するというビジョン
を掲げ、農業の生産から流通までを一貫して行う事業を
行っています。


そして、『農家の食卓』では、国立ファームを通じて仕入れた
新鮮な野菜をふんだんにつかったメニューが提供されています。


店の目玉は、「サラダバー」です。

ファミレスの変わり映えのしないサラダバーと違い、
この店では、地元国立で取れた「東京うど」など、
普段はあまり食べる機会のない珍しい野菜が食べ放題。

目の前でお姉さんが野菜を切っていて、新鮮そのものです。

3種類ほどの天然塩をつけて食べる、
野菜のしゃきしゃきした食感が最高でした。


この店で初めて知ったんですが、

「ソルトリーフ」

という野菜があるんですね。

見ると葉っぱの表面に白く塩が浮いています。
文字通り「塩吹き葉」。

なにもつけなくてもそのまま塩味で食べられます。
サボテンの仲間だそうです。


また、この店では「ボトルキープ」ならぬ、

「農場キープ制」

というのをやってます。

通路の棚に、野菜が育っているプランターがたくさん
置いてありまして、それぞれ名札がついています。

年間1万円払うと、プランター2個分(長さ1メートルちょっと)
の野菜をお店で育ててくれます。

自分だけのプチ農場がキープできるというわけです。


さてメインディッシュとして、私たちは、

「和風御前」、「中華御前」(どちらもサラダバー付)

を注文しました。


素材が吟味されているせいか、
味わい深く、とてもおいしかったです。

量はそれほど多くなくていいから、
健康的でおいしいものを食べたいという現代人のニーズに
マッチしてますね。

野菜中心ですから、カロリーも低めでしょう。
その分、酒をがぶがぶ飲みましたが。(笑)


国立はちょっと遠いので、
ぜひ都内にも出店して欲しいなあと思いました。

農家の台所を紹介してくれた知人に感謝です!

投稿者 松尾 順 : 09:54 | コメント (0) | トラックバック

リアル社会での孤独、でもヴァーチャルでも孤独か

「OECD諸国の女と男」(PDF)

という調査報告書(経済協力開発機構:OECD)によれば、
OECD加盟の21カ国の中で、日本人男性が最も

「孤独」

だという結果が出たそうです。


調査報告書を見ると、「孤独」(Social Isolation)
の度合いを聞く設問は、

「友人・知人や同僚と、業務外のスポーツやサークル活動などで
外出したりすることがほどんど、あるいはまったくない」

です。

この設問にYESと答えた人は、日本人男性が21か国中最高でした。
最高といっても、全体の16.7%ですが。
(なお、日本人女性も、メキシコに次いで2位です。)

要するに先進国の中で、日本人男性が最もリアルな交友活動を
していない、だから「孤独だ」ということになるわけです。


しかし、この結果の解釈にはちょっと引っかかりませんか。


そう、ネット上の交流。そしてまた、携帯電話での交流。

携帯電話(PHS含む)の契約台数は約1億台。
ミクシィの登録者は800万人を突破。


男性、女性とも、日本人のネットやケータイを通じた
コミュニケーションは、先進国の中でおそらく最も活発でしょう。

たいていのことは、直接会わなくてもネット、携帯で
用が済んでしまう。

しかも、オンラインでの交流にのめりこみすぎて、
家から出なくなることも多くなった。

結果的に、リアルな交友活動は減ってしまっている。


でも、だからといって私たちが「孤独」を感じているとは
限らないわけです。

ヴァーチャルでのつながり感があるから、
あえて、リアルで直接会って「つながりあい」を確認する
頻度が低下しただけじゃないのか。

こんな仮説が立てられそうです。


この仮説が正しいかどうかはさておき・・・


そもそも、OECDのこの調査自体が、
「セカンドライフ」のようなもうひとつの社会生活、
多様な人生が、ネット上でヴァーチャルに繰り広げられている
現状をきちんと反映した調査設計になっていないように思います。

投稿者 松尾 順 : 10:41 | コメント (1) | トラックバック

グーグルを凌駕するかもしれない検索サービス

世界最強のネット企業、「グーグル」

もはや、その地位は揺らぐことはないように思えますが、
今年、強力なライバルが登場しますね。


2005年設立、サンフランシスコの「パワーセット」です。

●「パワーセット」

実は、まだサービス開始してませんが・・・

試作版(英語版)のサービス開始は、今年末を予定。
日本版も準備中です。
(日経新聞、2007/03/14)


パワーセットの検索サービスの特徴は「自然文検索」です。

Googleも含め、従来の検索サービスでは、
調べたい内容に関連した単語(キーワード)を入力しなければ
なりません。


しかし、パワーセットは、例えば、

“1996年にIBMが買収した会社はどこだったのか?”

と文章をそのまま打ち込むことができます。

すると、高度な自然文解析機能を使って、
調べたい内容を的確に把握し、適切な検索結果を返してくる。


検索結果の精度はグーグルを上回るようで、
将来、検索サービスの分野ではグーグルをしのぐのではないかと
期待されています。


なるほど、面白いことになってきました。

昔の巨人軍(たとえが古い・・・)ではありませんが、
一人勝ちほど見てて面白くないものはありません。

グーグルが焦るような新興サービスが
どんどん登場してほしいものです。


さて、パワーセットのサービスの行方ですが、
英語版での成功の確率はかなり高いんじゃないかと思います。
グーグルに追いつくのは当然ながらそう簡単ではありませんけど。

しかし、日本版ではかなり苦労するでしょう。

アンケートの自由回答(つまり自然文)や、コールセンターへの
問い合わせなどを分析する「テキストマイニング」の仕組みを
ご存知の方は特によくおわかりになると思いますが、
日本語の自然文の解析は、英語よりもはるかに難しいんですよね。

なぜ日本語の解析が難しいかの説明は、
その説明自体が難しくなりますので止めておきますが、
ともかく、日本語版では、検索精度を上げるのに苦労することに
なると思います。


ところで、検索サービスについては、そもそも、

「検索サービスの精度は、高ければ高いほどいいのか」

という疑問を投げかけておきたいと思います。


確かに、調べたいことにドンピシャの結果が得られた方がいい。

でも、一方で、適度に精度が甘いほうが、
思いもしなかった検索結果が現れ、それをクリックすることで
新たな発見や気づき、学びを得ることができます。


こうした、偶然的な未知との出会いを脳は大好きです。

脳科学者、茂木健一郎氏は、ネット上においては、

「偶有性」

が重要だと言っています。

「偶有性」とは、ある程度は何が起こるか予測できるが、
100%完全には予測できないことです。


現在の検索サービスは、ノイズが多すぎる面もありますが、
たまに「こんな情報があったのか」という発見の喜びがある。

まさに「偶有性」の世界。


茂木氏によれば、「偶有性」は脳を活性化させます。

以前も書きましたが、次に何が起こるか全くわからない状態は
人を不安にさせます。

しかし、ある程度起こる範囲が分かっている中で、
予想もしなかった展開があるかもしれないという偶有性的状況
は、人をワクワク、ドキドキさせてくれるんです。


実際、完全な予定調和の世界は、面白くもなんともありませんよね。

投稿者 松尾 順 : 11:50 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(14)「集合知」のマネジメントへ

市場における顧客サービスは、

コスト・サービス
   ↓
ナレッジ・サービス
   ↓
マインド・サービス

と進化していきますが、この進化と同時に、
企業のマネジメントも、「コインの裏表」のように進化します。


すなわち、企業のマネジメントは、
単に情報やデータを扱っていた段階から、より高度な

「ナレッジ・マネジメント」

へ向かい、さらに深い智慧を扱う「ノウハウ・マネジメント」
「マインド・マネジメント」へと向かうのです。


ただ、田坂氏は、
ひところブームになった「ナレッジマネジメント」でさえ
あまり成功していないことを指摘します。

その理由は、「企業文化」が変わっていないからです。


いくら「情報システム」を導入し「業務プロセス」を
変えたところで、その背景にある「企業の文化」が変わらない限り、
本当に重要な「知識」や「智慧」は共有されないんですね。

ですから、企業のマネジメントがより深い

「ノウハウ・マネジメント」や「マインド・マネジメント」

に向かうとき、この「企業文化」がさらに大きな壁として
立ちはだかってくると田坂氏は考えています。


さて、企業の「ナレッジ」マネジメント」の進化は、
企業内部から始まりますが、第二段階は外へ向かいます。

それは、

「異業種のナレッジ・マネジメント」

です。

顧客の特定のニーズに関連したさまざまな商品やサービスが
「商品生態系」を形成し、市場競争が「商品生態系同士」で
行われる時、生き残るために必要なことは、

同じ商品生態系に生きる異業種企業との提携・連合を通じて
いかにうまく、お互いの知識、智慧をいかに結集して、
より優れた商品生態系を生み出すか

です。


そして、さらに、企業のマネジメントの対象は外に広がり
第三の段階に到達します。


「顧客のナレッジ・マネジメント」

です。


つまり、「企業の智慧」だけでなく、

「顧客の智慧」

を借りることへと進化を遂げるわけです。

実は、その具体的な方法こそ、
既にご紹介した「顧客コミュニティ」や「ブログウオッチング」
を通じて、生の「顧客の声」を集めることなのでした。


では、この「顧客のマネジメント」の行き着く先は
なんでしょうか?


田坂氏によれば、それは

「集合知」のマネジメント

です。


個々の顧客の智慧をマネジメントする世界を超え、
無数の人々の持つ「智慧」が集まった

「場の叡智」

とも呼ぶべきもののマネジメントを行うことを
企業は求められるというわけです。


ふう・・・

というわけで、「これから何が起こるか」のロングレビューは
今回で終了いたします。お付き合いくださいましてありがとう
ございました。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 06:45 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(13)顧客サービスの深まり

ネット上の安売りで知られたPCサクセス。
先日、あっけなく倒産してしまいました。


同社はカカクコムで比較すると、
ほぼあらゆる商品で常に「最安値」でした。

実は、あれはプログラムで自動化されていたんですね。
他社が安い価格を出してきたら、すぐに追随して
さらに安い価格に書き換えるようになっていたそうです。


最初は手作業だったけれど、取り扱いアイテムが増えて
作業が追いつかなくなったのが自動化した理由。

しかし、この自動化のために、
利幅の薄い商品では、仕入値よりも売値が安くなる、
要するに赤字で売ることも多くなりました。

まあ、倒産するのは当然の結末でしたね。


このように、ネット革命の影響で「価格競争」は
極端なところまでいっちゃってるわけですが、
振り子が一方に振り切ったら、もう一方に戻り始めるように、
これからはリバウンドが起こります。


田坂氏は、価格だけで勝負するサービスを

「コスト・サービス」

の競争と呼んでいます。


そして、この「コスト・サービス」がリバウンドする方向は、

「高付加価値化」

をめぐる競争になります。


具体的には、

「ナレッジ・サービス」

です。


例えば、ネット証券では、当初「手数料の安さ」、すなわち
「コスト・サービス」での競争を繰り広げてきたわけですが、
近年は、証券アナリストによる株価分析や市場予測など、
最先端の知識を顧客に提供することで、

「ナレッジ・サービス」

への転換を図るところが出てきていますよね。


ただ、「ナレッジ・サービス」が終着点ではありません。

その先にあるのは

「マインド・サービス」

です。


これは、田坂氏の挙げる例では、

将来に不安を感じている高齢者向けに、
安心感と信頼感を持てる細やかな心配りのサービスを提供する、

「シニア・コンシェルジュ」

のサービスがあります。


では、このような「顧客サービスの深まり」において
重要なのは何でしょうか?

マインド・サービスは、人が登場して動画で商品を説明する
といったことでもある程度実現できます。


しかし、最終的には、顧客接点(コールセンターなど)のスタッフ
として、ホスピタリティ(気配り力とでも訳しますか)の高い人材
をどれだけ多く採用でき、また、育成できるかということに
なるんじゃないでしょうか?


いくらネット時代とはいえ、なにもかも

「バーチャル化」や「セルフサービス化」
(この発想には、ユーザーに自分でやってもらって、
こちらは楽して儲けようという甘い考えが隠れています)

では済まないのです。


ちなみに、ネット証券の雄、「松井証券」でも、
すでに「マインド・サービス」への取り組みを始めていますね。

昨年書いた下記の記事を参考になさってください。

●人間くさいネット証券

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 06:50 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(12)ブログウォッチング

「顧客の声」が集まる顧客コミュニティは、今後、
従来の「見えるコミュニティ」から「見えないコミュニティ」、
すなわち、

「ブロゴスフィア」

に進化していく。


だとするなら、この「ブロゴスフィア」において「顧客の声」に
耳を傾ける方法は、

「ブログウォッチング」

です。


田坂氏は、

・自社の商品に関する評価と評判
・自社の商品に関する顧客ニーズ
・自社の商品が含まれる商品生態系
・自社の商品を使う顧客のライフスタイル

などに関連するメッセージに
深く耳を傾けるべきだと主張しています。


ブログは検索に引っかかりやすいこともありますし、
もし、企業が社内に「ブログ・ウォッチャー」のような
専任担当者を置けば、収集された情報は、極めて高い価値を
持つものになると考えられます。

なぜなら、ブログウオッチングには、従来の「アンケート」や
「インタビュー」などにない優れた点があるからです。


ひとつには、バイアスがかからない声が聴けること。

アンケートやインタビューは、
どうしても聴かれる側が構えてしまって素直な意見を聞くこと
が難しいのですが、ブログは自発的に書かれるメッセージです。

ですから、正直で率直な意見が書かれていることが多く、
製品改良などに役立つより価値の高い情報だというわけです。

ただし、お金をもらって企業の新商品を紹介するような、
「やらせブログ」の増加は、このメリットを台無しにしてしまい
ますけどね・・・


もうひとつは、ライフスタイルやワークスタイルなどを
含めた背景情報や文脈情報が得られることです。

ブログには、その書き手の日々の生活の仕方や、
価値観などが自然に現れてきます。

そうした背景情報や文脈情報がわかっていると、
彼らのブログ上の発言の意図や真意が、より明確に見えてきます。

しかし、アンケートやインタビューでは、設問数や時間が
限られているために、調査対象者の背景情報を十分に集めることが
できないのです。

表面的な言葉からはわからない本当の気持ちは、
背景情報、文脈(コンテキスト)情報があってこそ、
的確に把握することができるんですよね。


さて、このようにして、無数の

「目に見えない顧客コミュニティ」

を分析することは、無数の

「商品生態系」

を細やかに分析することだと、田坂氏は指摘しています。


顧客(一般消費者)の同士がやりとりする情報の関係性の中に、
実は、商品同士の関係性も隠れているということでしょうか?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 01:00 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(11)顧客コミュニティの進化

田坂氏は、すべてのコマースサイトは自然にポータル化していく
(逆に言えば、そうしなければ生き残れない!)、つまりは

「商品生態系」

が自然に増えていくと考えています。


なぜなら、ポータルサイトがなんらかの形で備えている
「顧客コミュニティ」を通じて、「顧客の声」が集まるからです。

そして、ポータルサイトの運営者が「顧客の声」に応えようと
すると、いつのまにか関連商品・サービスへと取り扱いやリンクが
広がり、ひとつの「商品生態系」を形成するようになってしまうと
いうわけです。


さて、この「顧客の声」が、「商品生態系」の進化を促すプロセス
は「Web2.0革命」の時代においてはさらに強まっていきます。

それは、「顧客コミュニティ」そのものが進化するからです。


田坂氏が言う、

「目に見えるコミュニティ」

から

「目に見えないコミュニティ」

への進化です。


「目に見えるサイト」とは、主催者が明確で、
ネット空間の中でも、その場所が明確なコミュニティです。

ポータルサイトや、さまざまなブランドが主催する
ユーザーコミュニティ、また「2ちゃんねる」に代表される
掲示板サイトは、すべて「目に見えるコミュニティ」ですね。


一方、「目に見えないコミュニティ」とは、
ブログを運営するブロガーたちと、彼らのブログに訪れる
ビジターたちが生み出すもの。


ブロガーのある商品についての記事に対して、
ビジターがコメントする。それにブロガーがコメントを返す。

あるいは、他のブロガーが、同じ商品についての記事を書き
トラックバックを張る。さらに、時に、アフィリエイターや
メールマガジン発行者も、同商品についての情報を通じて
つながりあう。


こうしたブログを中心とする「目に見えないコミュニティ」を
田坂氏は、

「ブログスフィア」

と呼んでいます。


ブログスフィアには、明確な境界がありません。
それだけに、お互いに自由につながりやすく、
無限に広がっていく可能性を秘めています。

したがって、境界が明確で広がりに限界を持つ
従来のコミュニティよりも、今後、より大きな影響力を
持つようになると思います。


ところで、私はこの話を読んで、社会学の分野で言われる、

「強い絆」と「弱い絆」

との関連性を感じました。


「強い絆」とは、親兄弟や近い親戚などとのつながり。

「弱い絆」とは、年に1回しか会わない遠い知人や、
知人を介して出会う「友達の友達」のような関係。

「強い絆」は、つながりが強いだけに同質性が高く、
その絆から、新奇で有益な情報がもたらされることは少ない。

一方、「弱い絆」は、普段はまったく別の世界で生きている人
同士だからこそ、異質で価値ある情報が得られる可能性が高い。


従来の「目に見えるコミュニティ」は「強い絆」で結ばれており、
「ブログスフィア」のような「目に見えないコミュニティ」は
「弱い絆」で結ばれた関係であると言えるのではないでしょうか。


さらに、もう一歩踏み込んで、この考え方から
マーケティング的な仮説を提示させていただくなら、


「目に見えるコミュニティ」は、
既存商品の改善のための情報を得ることに有効であり、

「目に見えないコミュニティ」は、
全く新しい商品を生み出すための情報を得るために有効である

と言えるんじゃないでしょうか?

いかがでしょう?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:00 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(10)商品生態系と顧客コミュニティ

ネット革命は、顧客中心市場の中で、
無数の「商品生態系」を生み出していきます。


「商品生態系」とは、

「顧客の特定のニーズを中心に互いに結びついた
様々な商品やサービス」

のことでした。


そして、この「商品生態系」が目に見える形で
姿を表している場が

「ポータルサイト」

だと、田坂氏は指摘しています。


顧客中心市場では、多くの顧客が、
自分のニーズに関連した商品とサービスが一箇所に集まっていて、
ワンストップで購入できる場所を求めるからです。


だから、すべての「コーマスサイト(商取引サイト」は、
自然に「ポータルサイト」になっていくと田坂氏は考えています。

それは、Webの持つ最大の特徴ともいえるリンク機能によって、
特定のニーズに関連したさまざまな商品・サービスを容易に
取り揃える(紹介する)ことができるからでもあります。


直近の具体事例としては、旅行におけるワンストップサービスを
標榜している「フォートラベル」が挙げられるでしょう。

●フォートラベル

●関連記事「旅行の口コミサイト フォートラベル」


さて、すべてのコマースサイトが自然にポータル化していく
ということは、「商品生態系」が自然に増えていくことを
意味します。

つまりポータル化が「商品生態系」の進化、創発を促すこと
になるのですが、これはなぜなのでしょうか?


それは「顧客の声」が集まるからです。
ポータルサイトには、必ず何らかの形で、
「顧客コミュニティ」が生まれてくるからですね。
(「フォートラベル」は、コミュニティ先行型ですが)


そうした顧客コミュニティ内では、

「こんな商品・サービスもほしい」

といった顧客の声が飛び交います。

そしてポータルサイトの運営者が、
そうした要望に次々と応えていくことで、
いつのまにか関連商品・サービスへとリンクが広がり、
ひとつの「商品生態系」を形成するようになってしまう
というわけです。


考えてみれば、事業者側の勝手な思い込みだけで
最初からあれこれ品揃えを広げると失敗しがちですよね。


むしろ、まず、コアのユーザーとの密な関係を通じて
活発なコミュニティを作り上げ、維持する。

その後は、コミュニティメンバーの要望を丁寧に拾い上げ、
顧客ニーズをしっかり反映した無理のない「商品生態系」を
サイト上で育てていくというのが、

最善のEコマース戦略

ではないでしょうか?


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:51 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(9)商品生態系同士の戦い

ネット革命がもたらす「顧客中心市場」において、

「商品」

はどう変わらざるを得ないのでしょうか?


「商品」と「商品」同士、つまり単体商品が戦う時代は
終わっています。

そして、「商品生態系」同士の戦いが始まっています。


田坂氏によれば、「商品生態系」とは、

「顧客の特定のニーズを中心に互いに結びついた
 様々な商品やサービス」

のことです。


例えば、「Windows OS」や「Mac OS」といったオペレーティング・
システム(基本ソフト)は、パソコン本体、アプリケーション、
ディスプレイ、プリンター、周辺機器、サプライ用品などとともに、

「パソコンを使いたい」

というニーズを中心にひとつの「商品生態系」を形成していますね。


ちなみに、以前は、WindowsとMacは全く異なる生態系を形成して
いたわけですが、相互互換性が高まり、2つの生態系はある程度
重なりあうようになってきています。

ですから、Windowsが圧倒的優勢にもかかわらず、
Macの商品生態系も淘汰されずに済んでいるのでしょう。


今となっては古い事例ですが、完全に淘汰されてしまったのは、
ビデオテープの「ベータ」の商品生態系。

「VHS」の商品生態系との互換性がなかったため、
「VHS」が優勢となった時、ベータの生存が許される場所は
残されていませんでした。(プロ向けのわずかなニッチを除いて)


そして今、商品生態系同士の争いでホットな分野を挙げるなら、

「音楽や動画、学習教材などをいつでもどこでも聴きたい」

というニーズを中心に形成されている

「携帯音楽プレーヤー」の商品生態系でしょうか。


言うまでもなく、現在は「iPod」のそれが優勢ですね。


家電量販店の「iPod」のコーナーに行けばわかりますが、
「iPod」用の様々な周辺機器、アクセサリ用品など、
その商品生態系の繁栄ぶりは、
競合他社の追随を許さないように思います。

その結果、ユーザーとしては、「iPod」との相性のよい周辺機器
(卓上スピーカーや外付けバッテリーなど)を揃えてしまっている
ことが、他社へのブランドスイッチを阻む要因になっています。

私もその一人です。


これからの「売れる商品づくり」においては、

顧客ニーズを中心とする核の商品と、
それを取り巻く周辺機器群やサービスを加えた

「商品生態系」

の発想が不可欠でしょうね。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 11:23 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(8)最強の戦略・・・利他の精神

顧客中心市場に生まれた新しいルール。


それは、

「顧客が最良の商品を買うのを手伝おう」

とする企業に顧客の支持が集まるということです。


逆に、従来の企業の考え方であった

「顧客に自社の商品を売りつけよう」

とする企業は顧客から疎まれます。


今後、ビジネスモデルが、

「販売代理(販売支援)」から「購買代理・購買支援」

へと進化していかざるを得ないのは、
そうしなければ顧客の支持を得られないから。

顧客の支持がなければ、売上にはつながらず淘汰されるしかない。
シンプルな理屈ですね。


さて、

「顧客が最良の商品を買うのを手伝う」

というのは、具体的にはどんなことでしょうか?

田坂氏の本には次のような例が示されています。


自社の店頭に顧客が来る。
しかし、その顧客のニーズを聞くと、自社の商品がベストではない。

そのとき、真摯に、誠実に、

「お客様、それがお客様のニーズであるならば、
 残念ながら当社の商品よりも、この会社の商品を
 お勧めいたします」

とライバル企業の商品でさえ勧めることができること


こうした態度が取れる

「器の大きな企業」

「真に顧客中心の精神を持った企業」

にこそ消費者の支持が集まると田坂氏は言います。


ただ、これは単に

「無私の精神」「利他の精神」

を求めているのではありません。

こうすることが、結果的には企業の競争優位を築き、
また最終的には収益を生み出すことになる

「最強の戦略」

であるからです。


私はこの箇所を読んでいて、思わず

「情けは人の為ならず」

ということわざを思い出してしまったのですが、
個人的な人間関係ではとりわけ、

「相手のためになることをする」(GIVE!)

の姿勢を貫くことで、回りまわって自分にも
良い形で戻ってくるというのが、
この世界の普遍的な真理だと思っています。

また、「CRMの魂でもあります。


近年、ほとんどの企業では、
収益を上げることが最重要の目的になっていますよね。

しかし、企業において収益を上げることは
本来の目的ではありません。


企業もまた社会の構成員であり、社会になんらかの形で
貢献することで存在を許されています。
(貢献というのは、端的には、
他の人が必要としているものを提供すること)

そして、収益は、その貢献を継続するために
必要な資源を調達するための手段に過ぎません。


ですから、事業活動においても、

「利他の精神」

が単なるきれいごとやお題目ではなく、

「最強の戦略」

とせざるを得なくなったというのは、
社会全体としては、非常に喜ばしいことではないでしょうか?


それにしても、人のアナログな営みとは対極にあるとしか思えない

「ITC」(Information Technology and Communication)

の進展が、最もアナログ的な精神へと立ち戻らせることになる
というのは、なんとも不思議なことです。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:32 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(7)ビジネスモデルの進化

「ネット革命」「Web2.0革命」によって、
市場は、次のように進化していきます。

「企業中心市場」→「顧客中心市場」→「主客融合市場」


そして、この市場の変化に伴い、
中間業者も、次のような進化を遂げます。

「(オールド)ミドルマン」→「ニューミドルマン」
→「コンシェルジュ」→「メタ・プロシューマ」


すると、ビジネスモデルもまた進化をしていく。

その最初の進化が、

「販売代理(販売支援)」→「購買代理(購買支援)」

というビジネスのパラダイムが逆転する大きな変化です。


さて、

「購買代理(購買支援)」

というビジネスモデルは具体的には、次に示した

「3つのワン・サービス」

という形態でまとめることができます。


-<3つのワン・サービス>----------------------------

1.ワンテーブルサービス

「カカクコム」「アットコスメ」のように、
特定の商品ジャンルのいろいろな競合商品を一つのテーブルに
乗せ、さまざま角度から比較し、評価をしてくれるサービス


2.ワンストップサービス

「オートバイテル」「ウィメンズパーク」のように、
特定のニーズに関連するすべての商品とサービスの情報を
ワンストップで提供してくれるサービス


3.ワンツーワンサービス

ネット上での相談にのる「ファイナンンシャル・プランナー」
のように、顧客に対して担当者がワンツーワン(1対1)で
対応し、親切丁寧なアドバイスを提供してくれるサービス

------------------------------------------------------


さて、実は、この3つの順番には大切な意味があります。


仮にあなたが、今はリアル店舗を展開して

「販売代理(販売支援)」

型のビジネスを行っているとします。

でも、今後は、顧客に対して本当に親切なサービスを
提供したいと考えたら、必ず上記の順番でサービスが
深まっていくと、田坂氏は指摘しています。


ただし、現実には、

ワンテーブル→ワンストップ→ワンツーワン

とサービスが深まるほど、コストが増加するため、
従来のリアル店舗では実行が困難でした。


しかし、ネット革命がこの「コストバリア」を打ち破った。


ネット上でこの3つのワン・サービスを提供し、

「購買代理(購買支援)」

のビジネスモデルを構築できるようになったというわけです。


ここで、ひとつ留意しなければならないことがあります。


それは、3つのワン・サービスを通じた

「購買代理(購買支援)」

のビジネスモデルは、提供できるというよりは、

「提供しなければならない」

ものであること。


あなたの会社が提供しなければ、競合他社がやってしまいます。
その結果、競争優位は競合が手にします。


あなたの会社は生き残れない・・・

厳しい時代ですね。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(6)中間業者の進化:メタ・プロシューマへ

田坂氏によれば、「ネット革命」「Web2.0革命」によって、
市場は、次のように進化していくということでした。

「企業中心市場」→「顧客中心市場」→「主客融合市場」


この市場の変化によって、企業もまた進化せざるを
得なくなるのですが、まず「中間業者」の進化が最初に
起こります。


「ネット革命」創生期のころ、
ネットはメーカーとユーザーをダイレクトに結ぶことができるので、
「中間業者」(卸・小売など)は淘汰されると言われましたよね。

実際、ただ介在するだけの存在、手数料をかすめ取るだけで
なんら付加価値を創造していなかった中間業者は淘汰されました。


しかし、古いタイプの中間業者が淘汰された変わりに、
新しいタイプの中間業者、すなわち

「ニューミドルマン」

が台頭してきました。


ニューミドルマンは、オールドミドルマンと向いている方向が
違います。

オールドミドルマンは、取引先(メーカーなど)を
見て仕事をしていました。つまり「販売側の代理」でした。

ニューミドルマンは、ユーザー(買い手、消費者など)を
見て仕事をしています。つまり、「購買側の代理」です。

購買代理のビジネスモデルをインターネット以前から
実践していたのが、金型商社の「ミスミ」であることは
ご存知の方も多いでしょうね。


そして、ネット革命以降、いわゆるインターネットビジネス
として成長してきた多くの企業が、この「ニューミドルマン」
だったわけです。

たとえば、「アマゾン」は、エンド・ユーザーのために
ありとあらゆるサービスを取り揃えたニューミドルマンと
言えます。

本だけで見ても、あまり売れない本でもたいてい見つかるし、
新本だけでなく、古本も買える。しかも、読み終わった本は
アマゾンで売却できる。


アマゾンに比べると、リアル書店は、
従来の販売代理モデルをいまだ踏襲していることが明確ですね。
(むろん、リアルだからこその制約があるからですが)


さて、田坂氏は、「ニューミドルマン」は、さらに
「コンシェルジュ」に進化すると主張しています。

コンシエルジュは、顧客の「購買」というニーズのさらに奥に
ある「生活」という、より本質的なニーズに応える存在です。

そして、田坂氏がコンシェルジュの具体的な役割を説明する
事例として挙げるのは、

「銀行の窓口に、住宅ローンを借りにきた顧客のニーズ」

です。

ニューミドルマンの購買代理の考え方だと、
顧客の立場に立ち、「最適な住宅ローンを選択してあげること」
ということになります。


しかし、コンシェルジュは、より本質的なニーズに目を向けます。

この顧客の本当のニーズは、

「住み心地のよい家に住んで、幸せな家庭生活をしたい」

ということでしょう。


とすれば、単に住宅ローンを提供するだけにとどまらず、

「不動産データベースの提供」「家の設計事務所の紹介」
「家具販売店の紹介」「引越しサービスの割引」

など、「生活」の全体に関わるさまざまな商品・サービスを
ワンストップで提供してくれた方が顧客にとってはありがたい。

コンシェルジュは、そうしたユーザーの期待に応えるわけです。


コンシェルジュとは、本来、ホテルの宿泊客のあらゆるニーズに
対応する「何でも屋的」サービスです。

コンシェルジュは、基本的に高級ホテルにしかいないのですが、
それは非常にコストのかかるサービスだからです。


しかし、ネット革命は、他の業界・業種においても
コンシェルジュ的サービスを低コストで提供することを
可能としたんですね。


さて、これまでの進化は、ブロードバンド革命が
もたらすものです。

さらに、今起こりつつある「Web2.0革命」は、
「コンシェルジュ」を「メタ・プロシューマ」に進化させます。

「メタ・プロシューマ」は、

「プロシューマ」

を支援する存在です。


「プロシューマ」とは、「生産者」(プロデューサ)と
「消費者」(コンシューマ)が融合した

「生産消費者」

と呼ばれる進化した消費者のことです。

「主客融合市場」においては、無数のプロシューマが
生まれてくることになりますが、そうしたプロシューマを支援し、
プロシューマ型の商品開発を支援することをビジネスとする
「開発支援」の中間業者が必要とされてくる。


彼らが、「メタ・プロシューマ」です。


おそらく、「メタ・プロシューマ」を目指すビジネスモデルが、
これからのネットビジネスの発展を支えていくことになると
私は思います。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 11:25 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(5)市場の進化

ちょっと間が空きましたが、田坂広志氏の最新刊

「これから何が起こるのか」

に書かれていることから、
マーケターに有益だと思うポイントの紹介を続けます。


さて、前回までにご説明した

「ネット革命」「Web2.0革命」

によって、

「市場」

ではどのような「進化」が起こるのでしょうか。


まず、ネット革命によって市場は、

「企業中心市場」から、「顧客中心市場」

に進化します。


「顧客中心市場」は、企業より顧客のほうが圧倒的に強い市場。
顧客が、自由に市場や商品の情報を得ることができるため、
ガラス張りの市場です。

以前は、商品を比較検討しようと思っても、
そもそも情報が十分に公開されていなかったり、そうした情報を
集める時間、手間、コストがかかりました。

しかし、現在は、十分な情報が公開されていない製品・企業は、
はなから顧客に相手にされません。

このため、経営コンサルタントの石原明氏が指摘されるように、
自社が持つ情報はどんどん「先だし」することが必要になって
います。


また、一方で、カカク・コムのようなサービスを通じて、
顧客はすばやく簡単に商品比較情報が手に入るようになりました。

このため、「顧客中心市場」では、徹底的な

「価格競争」

が起こります。

田坂氏によれば、これは鉄則であり、
どの業界にも必ず「価格競争」は起こる、だから、
まだ起こっていない業界であっても、そのための準備を
今始めるべきだと警鐘を鳴らしています。


また、田坂氏は、「顧客中心」を抽象的な「精神論」として
捉えるのではなく、具体的な「戦略論」として理解すべきだと
説いています。

「企業中心」から「顧客中心」への変化は、ビジネスモデルの
組み替えが起こっているのであって、古いビジネスの常識を
次々と覆していくものだからです。

単なる理念、企業姿勢として「顧客中心」(=顧客主義)を
唱えているだけでは生き残れませんよ、ということでしょう。


そして、この新しい「顧客中心」のビジネスモデルにおいて、
古い常識を書き換えていく変化は次のようなことです。
(括弧内は、古い常識)

●商品のすべての仕様を、好きなように選ぶ
 (いくつかの商品のタイプから好きなものを選ぶ)

   →世界でも一つしかない自分だけの商品、すなわち
    「オンリーワン商品」の時代

●顧客が価格を決める
 (企業が価格を決める)

   →オークションのモデル

●消費者がマーケティングを行う
 (企業がマーケティングを行う)

   →田坂氏は、「ギャザリング」を例として挙げていますが、
    アフィリエイトや、ブログ、SNSを活用した口コミ
    マーケティングもこの変化の具体例ですね。


さらに、

「顧客中心市場」は、「主客融合市場」

へと進化していきます。

企業優位の「企業中心市場」が、いったん顧客優位の
「顧客中心市場」へと振れた後、企業と顧客は、
平等で対等な立場に立ち、両者が協力、協働することを始めます。

こうすることが両者の利益にかなっているからです。
もはや、企業と顧客は、お互いに利害が対立する存在では
ありません。


田坂氏が例として示す「プロシューマ型開発」においては、
「顧客」が自分たちの智恵を出すことによって、
企業に欲しい商品を買ってもらえる、「企業」は、そうした
商品を作ることによって必ず買ってもらえる。

このような、相互利益の関係が生まれるというわけです。


そして、「Web2.0革命」は、
この「顧客中心市場」から「主客融合市場」の進化を
加速するものとして起こっています。


------------------------------------------------

*「Web2.0革命の3つの軸は、次のとおりです。

・「衆知創発の革命」

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。


・「主客融合の革命」

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。

・「感性共有革命」

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。


-------------------------------------------------


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 12:37 | コメント (0) | トラックバック

「Web3.0」・・・ティム・オライリー氏の見解

田坂氏は、「これから何が起こるのか」で、

「ユビキタス革命」が「Web2.0革命」に融合することによって、
「情報革命」は「Web 3.0革命」に進化する

と述べていました。


この「ユビキタス革命」においては、
情報端末を備えた「人間」と「商品」、「空間」の情報共有が
行われるようになります。

そして、これらの「情報端末」は「Webの世界」への出入り口と
しても働くため、すべての「リアル空間」が「ネット空間」と
融合していきます。


つまり、田坂氏は、「リアルとネットの融合」がもたらす変化が、

「Web3.0革命」

と呼ばれるものになると予測しているわけです。


さて、そもそも「Web 2.0」の概念を提唱した
ティム・オライリー氏は、「Web 2.0後」をどのように
見ているのでしょうか。

1ヶ月ほど前の日経産業新聞(2007年1月19日)に掲載された、
オライリー氏のインタビュー記事からポイントをご紹介します。


「十年後にはネットはあらゆるものの中心になっているだろう。
 だが、我々は『Web3.0』とは呼ばない。なぜなら、次に来る
 変化は今ある(ビジネス)のエコシステムを超えるものに
 なるはずだからだ」

なるほど。

オライリー氏としては、次の変化は現在のパラダイムを変えて
しまう不連続なものになると見ているようです。

だから、現在の延長に過ぎない

「Web3.0」

とは呼ばないつもりなんですね。


そして、オライリー氏が注目している動きは次の3点です。


・ものが発信するデータを基にしたサービスの台頭
 
 GPSやICタグ、携帯電話などがユーザーが意識しているか
 いないかにかかわらず、自動的に発信する情報が価値を
 持ってくる。
 (これは田坂氏の言う「ユビキタス革命」ですね)


・リアルとバーチャルの融合
 
 仮想都市を舞台にしたオンラインゲーム「セカンドライフ」や、
 「グーグルアース」のようなサービスにその兆しがあると
 指摘しています。


人工知能(AI)により近づいたサービス
 
 検索エンジンや翻訳サービス、人物認証などの分野で、
 人工知能(AI)により近づいたサービスが登場する


大きな方向性としては、オライリー氏の見ている未来は
田坂氏と同じと言えそうです。


ただ、オライリー氏の次のコメントは、
また異なる視点を与えてくれます。


「コンピュータ産業の歴史を振り返ると、大きな変化は
 二十年から二十五年周期で訪れている。
 ネットワーク効果と広告収入に支えられたWeb2.0の
 ビジネスモデルは、少なくともあと十年間は続く。」

「だがそれと並行して全く予期しない方向から新しい変化が
 起きてくるだろう。個人的には、次の波はモノ作りに関係する
 分野から生まれてくるのではないかと思っている」


物事の変化は、しばしば振り子のように動きますよね。
一端まで振り切ると、逆の方向に振り戻される。

20世紀は、「モノ」から「サービス」へと向かって
大きく振り子が動いたのですが、まもなく、再び
「モノ」の方向へと振り子が戻り始めるのかもしれません。

投稿者 松尾 順 : 10:28 | コメント (3) | トラックバック

これから何が起こるのか(4)「Web3.0革命」へ

田坂氏は、「Web2.0革命」の3つの革命、すなわち、

・「衆知創発の革命」
・「主客融合の革命」
・「感性共有の革命」


に導かれ、

「企業」も「市場」も「社会」も、そして
「商品」も「サービス」も「ビジネス」も、

すべてが急激な進化を遂げていくと述べます。


さらに、田坂氏によれば、
これから始まる「ユビキタス革命」が「Web2.0革命」に
融合することによって、「情報革命」は

「Web3.0革命」

に向かっていくのだそうです。


では、「Web3.0革命」をもたらす

「ユビキタス革命」

とはどんなものでしょうか?


それは、次の3つの革命として捉えることができます。

---------------------------------------------

・「個人」のユビキタス化

すべての個人が、情報端末を身に着けるようになって
いくことです。「携帯電話」は個人のユビキタス化を
進展させる最も典型的な情報端末です。

ただ、携帯電話だけでなく、自動車や、冷蔵庫、テレビ
などの家電品もまた、情報端末として進化するため、
ますます「個人」のユビキタス化を進展させますよね。


・「商品」のユビキタス化

今後、多くの商品がICタグを内蔵し履歴情報を保持するように
なり、また、商品の表面にはQRコードなどの
「二次元バーコード」が表示され、そのコード経由で
当該商品のサイトに接続できるようになります。

こうして、すべての「商品」が、自分自身について語り、
顧客と対話するようになります。


・「空間」のユビキタス化

たとえば、ホテルのロビーに到着した客のポケットの
ICカードをフロントの情報端末が読み取り、
その客の名前と利用履歴が表示される。

そして、予約した部屋に入ると、客の好みの室温と
好みの香りやBGMが流されている。

このように、すべての空間が、顧客の気持ちを読み、
顧客が望むことを迅速に行う、顧客の「コンシエルジュ」
になっていきます。

---------------------------------------------


さて、この「ユビキタス革命」は、

「情報共有」

の意味を根本から変えてしまいます。


これまでの「情報共有」は、
あくまで人間同士の情報共有を意味していました。


しかし、「ユビキタス革命」では、「情報共有」という言葉は
「人間同士」ではなく、「人間」と「商品」、「空間」の
情報共有を意味するようになっていきます。

上記の3つのユビキタス革命で示したように、
「人間」、「商品」、「空間」のすべてが情報端末を備え、
互いに対話を行うようになるからです。


しかも、この「情報端末」は

「Webの世界」

への出入り口(ゲートウェイ)としても働くようになります。


その結果、すべての「リアル空間」が「ネット空間」と
融合していきます。

リアルとヴァーチャルを分ける考え方はもはや古い。


田坂氏によれば、

「リアル空間」が「ネット空間」と
融合した快適なライフスタイル


それが、

「Web3.0革命」

がもたらしてくれるものです。
具体的なイメージはまだまだはっきりしてませんが・・・


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 10:46 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(3)「Web2.0革命」の深まり

田坂氏の示す「Web2.0革命」とは、
次の3つの革命が基軸となっています。

---------------------------------------------

・「衆知創発の革命」

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。


・「主客融合の革命」

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。


・「感性共有革命」

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。

---------------------------------------------

では、上記3つの革命が、今後どのような深まりを
見せていくのでしょうか?


まず、「衆知創発」は「共感創発」の革命に向かいます。

「衆知」を集めて「創発」を促す方法は、
オープンソースとも呼びます。これは、リナックスのような
ソフトウェアのプログラム開発で採用されている手法ですね。


今後は、このオープンソースの手法がプログラムだけでなく
あらゆる分野に適用されていきます。

限られた専門家の知、すなわち「専門知」よりも、
たくさんの人の知恵を集めた「集合知」の方が正しい答えに
到達できる可能性が高いこともあるからです。

そして、電車男の例で見られたような、
一人の恋愛の行方を2ちゃんねるのコミュニティが応援し、
それぞれの思いが掲示板を通じて伝わっていくことで、
知恵だけでなく「共感」が生まれていく。
みんなの思いが深まっていく。

こんな

「共感創発」

の場があちこち生まれていくことになります。


次に「主客融合の革命」は、
アルビン・トフラーが「第三の波」で予言した

「プロシューマー(生産する消費者)」

を現実のものとしつつあります。

これまでも、消費者のアイディアが開発に
偶然のきっかけで、生かされることもありました。


しかし、今は、ネットベンチャー「エレファントデザイン」が
運営する「空想生活」のように、
消費者の要望を集めてメーカーに開発してもらう

「プロシューマ型開発」

がネット革命によって「仕組み化」されつつあるのです。


製品開発だけではありません。
マーケティングもまた、「顧客」が「企業」に替わって
マーケティングを行うようになってきています。

すでに確立された仕組みのひとつが「アフィリエイト」
ですよね。(ただし、自分が本当に良いと思える商品を
紹介しているかどうかが重要ですが)

顧客が、企業に替わって商品開発、マーケティングを
行う時代、それは

「主客融合革命」

によってもたらされているというわけです。


そして、「感性共有の革命」は、既存のマスメディアの
在り方を根底から変えていこうとしています。

なぜなら、「感性共有革命」は、
これまでマスメディアを担ってきた限られたクリエーター
だけでなく、「無数の無名の草の根の人々」が行う

「草の根メディア」

が社会に対する影響力を高めているからです。


ただ、ここで留意しておきたいのが、

既存の「マスメディア」と「草の根メディア」は
対立関係にあるわけではないということです。

むしろ、お互いをうまく結びつけようとする試みを通じて、

「相互浸透」「相互進化」

のプロセスを加速させています。


「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 14:43 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(2) 「web1.0革命」から「Web2.0革命」へ


情報革命による「情報主権」の移行プロセスを
田坂氏は、次のように振り返ります。


移行プロセスの始点は、95年の「インターネット革命」です。

これは「Web1.0革命」とも呼ぶべき革命でしたが、
この革命によって、世の中に次の3つの革命が始まりました。

---------------------------------------------

・情報バリアフリー革命

 これまで世の中に存在した様々な「情報のバリア」が壊され、
 誰でも手軽に、欲しい情報を入手できるようになっていく

・草の根メディア革命

 世の中に「草の根メディア」とでも呼ぶべきものが数多く生まれ、
 誰でも手軽に、自分のメッセージを発信できるようになっていく

・ナレッジ共有革命

 単なる「データ」のレベルの情報だけでなく、高度な「ナレッジ」
 (知識)のレベルの情報が、多くの人々の間で共有できるように
 なっていく

---------------------------------------------

ただ、上記3つの革命は、
当初「革命」と呼ぶには中途半端でした。
なぜなら、それぞれの革命に大きな壁が存在していたからです。

しかし、日本では2000年ごろに始まった

「ブロードバンド革命」

がこれら三つの壁を打ち破り、

「Web2.0革命」

への道を切り拓きました。

田坂氏は、この意味で「ブロードバンド革命」は、

「Web1.5革命」

と呼ぶべきものだと述べています。


さて、「ブロードバンド革命」が打ち破った3つの壁とは、

・通信料金の壁
・機器操作の壁
・文字情報の壁

です。

ブロードバンド革命は、常時接続・定額料金を浸透させ、
情報の「コストバリア」を打ち壊しました。

また、ブロードバンドと同時期に普及した携帯電話やPDAは、
その使い易さのおかげで、パソコンの操作方法や
インターネットの技術を知らなくとも、
誰もがインターネットの世界に入れるようにしました。

さらに、ブロードバンドのおかげで、
ナローバンド時代と異なり、文字情報だけでなく、
データの重い音声、動画も自由に共有できるように
なってきました。


こうして、3つの壁が「ブロードバンド革命」に
よって打ち破られたことで、先ほどの3つの革命は
次のような進化を遂げます。

これが、トム・オライリーが命名した「Web2.0革命」です。

---------------------------------------------

・「情報バリアフリー」革命は、「衆知創発」に進化

 誰でも、多くの人々の智恵を集め、新たな智恵の創発を
 促すことができるようになる革命。
 「情報バリアフリー革命」との違いは、「すでに存在する
 情報」だけでなく、「まだ存在しない情報」(衆知による
 新たな智恵の創造)が入手できるようになる点です。


・「草の根メディア革命」は、「主客融合の革命」に進化

 情報の発信者、受信者、あるいいは生産者、消費者といった
 これまで別々のもの、すなわち「主」と「客」が一体化し、
 融合し、区別がなくなっていく革命。
 「草の根メディア」の使われ方は、
 「情報発信」(コミュニケーション) から
 「協働作業」(コラボレーション)へと深まっていきます。


・「ナレッジ共有革命」は、「感性共有革命」に進化

 人々が、「ナレッジ」(知識)だけでなく、
 感情や感動、感覚、感性を共有できるようになる革命。

 文字情報の壁がなくなり、写真、映像、映画など、
 感覚や感性に直接的に働きかける情報をネットに乗せる
 ことができるようになったことから、
「言葉では表せない智恵」、「言葉を超えた感情や感動、
 感覚や感性」が誰とでも簡単に共有できるようになって
 きました。

---------------------------------------------

これらの「Web2.0革命」が、
どんなサービスとして具現化しているのか、
あなたは容易に思い浮かべることができますよね。
(はてな、You tube・・・などなど)


具体例や、革命の詳細説明については、
ぜひ本書を読んでください。

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

投稿者 松尾 順 : 12:20 | コメント (0) | トラックバック

これから何が起こるのか(1)「情報革命」の本質

私たちが生きている今の時代の変化は速すぎますね。
あまりにも目まぐるしくて、わけがわからなくなります。

だから、変化を追いかけることに疲れ、
その意味を読む気力を失ってしまうのかもしれません。


ただ、こうなってしまうのは、物事の表面的な変化にしか
着目せず、その深層にある大きな「潮流」を見ようとしないから
だと思います。


比較的ゆったりと流れている潮流が見えていれば、
その潮流から派生している細かな激しい流れの方向性を
読むのは楽です。

ですから、目に見える現象そのものではなく、
その現象をもたらしている本質的な変化を把握することが、
激しい環境変化に余裕をもって適応する上で有効じゃないで
しょうか。


この本質的な変化を把握する上で役立つ情報のひとつが、
田坂広志さんのお話しや本だと思います。

田坂さんの近刊

「これから何が起こるのか」
(田坂広志著、PHP研究所)

では、まさに、これからの社会がどう動いていくのかの
「根本原理」がわかりやすく語られています。


個人的には、すべての社会人に読むことをお勧めしたいと
思いますが、とりわけ、消費者ニーズを的確に読む必要のある
マーケターにとって有益な知見がたくさん発見できますよ!


というわけで、しばらくこの本の紹介をしたいと思います。

自分で言うのもなんですが、
私のブックレビューはかなりしつこいです。(笑)

昨年後半に取り上げた「シンプルマーケティング」は、
全20回にもなってしまいました。

さすがに今回の本はそこまで長くならないと思いますが、
どうかお付き合いのほどを!


さて、「これから何が起こるのか」の基本的な問いは、

“「情報革命」で世の中はどう変わっていくのか”

ということです。


この問いからわかるように、

「情報革命」

とは、これからの社会のあり方に対して極めて大きな影響力を
持つ「大きな潮流」であるということです。


ただ、田坂さんは、

「情報革命」とは、「効率化」「合理化」「コスト削減」の革命

だと考えるのは誤解だと喝破しています。


革命とは、ただ「新しいことが起こる」ことではありません。
革命の定義、それは昔から一つしかないのだそうです。

それは、

「権力の移行」

です。


そして、情報革命で起こっているのは、

「情報主権の移行」

です。

すなわち、これまで「情報の主導権」を持たなかった
「情報弱者」が、その主導権を手にするということです。

具体的に言えば、

「企業」においては「経営幹部」から「一般社員」へ、
「市場」においては「企業」から「消費者」へ、
「社会」においては「官庁」から「生活者」へと

移ろうとしている。

これが、情報革命がもたらす根源的・本質的変化です。


では、この「情報主権の移行」から派生する細かい変化とは
どんなことなのか。

同書では、75の変化にまとめてあります。


次回以降は、これらの変化の中から、
特にマーケターの方に役立つと思ったところを
かいつまんでご紹介しますね。

乞うご期待!

投稿者 松尾 順 : 10:54 | コメント (0) | トラックバック

家族を楽しむ

このところ、幼児~小中学生の子どもを持つ30-40歳代の親を
ターゲットにした「育児・教育誌」の創刊が続いていますね。
(PRIR、2007 January「シリーズメディア研究」)


具体的には次の5誌が挙げられます。

「日経Kids+」
「プレジデントFamily」
「edu」
「AERA with Kids」
「FQ JAPAN」


上記のような最近刊行された「育児・教育誌」の特徴的な点は、
従来の子育て、教育を扱った雑誌のメインターゲットが女性
だったのに対し、男性がメインターゲットになっているものが
出てきたことです。

これはもちろん、子育てや教育に積極的に関わっていいたいと
考える男性が増加しつつあることの反映だと言えるでしょうね。


PRIRの記事では、時事通信社調べのアンケート

「父親の育児参加に関する意識調査」

の結果が紹介されてますが、

‘母親と育児を分担して積極的に参加すべき’

との回答が、20歳代では約50%、30歳代で40%超に達します。
(50歳代では、同約20%、40歳代で同約30%)


すごいですね。

20歳代の男性の2人に1人は、
育児に積極参加したいと考えているわけです。


口先だけじゃなくて、ほんとに育児参加できるのかい
などと、40歳代の私なんかは思ってしまうのですが、
ともあれ

「育児のことは妻に任せる」

という古い考えの持ち主は、
近い将来、少数派になる可能性が高いですね。


さて、同記事の中で、絵本作家/キャラ研の代表取締役社長、
あいはらのりゆき氏は、家族のあり方が変容しつつあるのでは
ないかと指摘しています。

企業と社員との関係のあり方が変化し、
父親が、以前のように会社に依存したり、
会社の中に自分の存在価値を見出すことが難しくなったこと。

一方で、子どもに関する事件やいじめなど、
母親だけで解決できない問題が増加してきたこと。

こうした状況に直面し、父親はただ収入を得ればよい、
威厳を保っていればよいという存在にとどまらず、
家庭をいかに営むかを考えるようになってきたわけです。


また、あいはら氏は、

「親自身も子育てや教育を楽しもうという意識が
 生まれているのではないか」

「父親・母親はかくあるべし、
 という固定概念に囚われることなく、
 自分たち家族の楽しみ方や幸せを目指す、
 という家庭は今後も増えていくと思います」

とも述べています。


収入格差・生活水準格差の広がりという懸念材料は
あるものの、おおむね物質的には充足された日本では、

人生も仕事も家族も、

「いかに楽しむか」

がこれからのメインテーマであることは間違いないと思います。

投稿者 松尾 順 : 10:34 | コメント (2) | トラックバック

企業サイトに群がるネットユーザー

10月26-27日に開催された

「NTT Communications Forum 2006」
の講演の模様が、ストリーミング配信でアップされ、
誰でも無料で閲覧できるようになってます。


スケジュールの都合で出席できなかったリアルなセミナーも
こうしてネットで公開されていれば、いつでも
自分の好きな時に「オンデマンド」で見れますから便利ですよね!


余談ながら、オンライン上で実施、公開されるセミナーを

「Webiner」(ウエビナー)

と米国では呼んでますが、日本では、
まだ一部で使われているだけであまり浸透してませんね。

少なくとも日本語としての「ウエビナー」は、
ちょっと語感がよくないですよね。


さて、余談はこのくらいにして、上記フォーラムの話。


いくつかの講演のうち、

「Web2.0で始まるビジネススタイルの変貌」

と題して講演された
ネットレイティングス株式会社社長の萩原雅之さんの
データを駆使した話が相当面白かったです。


萩原さんの話を聞いて改めて驚いたのが、

ネットユーザーのサイトアクセス行動の変化

です。

中でも、

エンドユーザー(一般消費者)における
企業サイト訪問者数の伸び

が驚嘆です。


萩原さんのプレゼン資料は、
上記サイトからダウンロードできますが、
その4ページには、

サントリー、キリン、日産、本田技研

の4サイトの

2000年4月から2006年9月までの月別訪問者数推移

のグラフが掲載されています。


これを見ると、各社とも2000年4月頃は、
月あたりせいぜい10-20万人程度の訪問者でした。

ところが、2006年直近になると、
サントリー、キリン、日産の月間訪問者数は約200万人と、
この6年間で10倍以上に増えています。
(本田技研も、180万人/月くらいまで来てます)


要するに、大企業のサイトになると
200万人もの膨大な数の消費者が直接、
商品情報、企業情報を取りにきているということです。

今や、企業と消費者は、
サイトを通じたダイレクトなコミュニケーションを
これだけの規模で頻繁に行っているんですね。


ネット以前の商品情報、企業情報の入手ルートが、
店頭、企業が作成した商品パンフや会社案内、
そしてマスメディアにほぼ限定されていたことを考えると、
現在は、企業と消費者のコミュニケーションのあり方が
まったく異なる次元に入ったことを示していますよね。


そして、こうした変化で直観的にわかることは、

「Webサイトを軽視している企業に未来はない」

ということでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 17:12 | コメント (4) | トラックバック

銭湯ランナー

豪華な設備と手ごろな値段のスーパー銭湯が増え、
ますます存在価値が薄くなっている昔ながらの「銭湯」ですが、
思わぬことで、再び人気を盛り返しているところもあるんですね。
(日経新聞夕刊、2006/10/14)


地下鉄半蔵門駅そばのマンションの1階、

「バン・ドゥーシュ」

というしゃれた名前の銭湯には、夕方になると仕事帰りの
ビジネスマン、OLが次々とやってきます。

彼らは、まずロッカー荷物を預けます。
そしてトレーニングウェアに着替えると、
歩道に出て準備体操をし、マラソンの練習。

戻ってきたらお風呂で汗を流してさっぱり。


同銭湯の経営者は、

「一時は廃業も考えたけれど、今は洗い場の拡張を検討中」

だとか。


マラソン客が増え始めたのは、2007年2月に初開催される

「東京マラソン」

の一般申し込みの受付が始まった夏ごろから。


最近は健康意識がますます高まってますが、
ジョギング用のおしゃれなウェアも登場して、
とりわけ、若い女性のランナーが急増しているようです。

皇居周辺なら警官が多く、
夜間に走っても安心なんですね。

ただ、仕事帰りに走ろうとする場合の問題は、
着替えたり、荷物を置いておける適当なところが
なかなか見つからない点でした。

しかし、「銭湯」がランナーのための格好の場所を
提供してくれてありがとうというわけです。

皇居周辺を走る「銭湯ランナー」、
ますます増えそうですよね。


このケース、非常に特殊な状況なので
あまり参考にならないと感じるかもしれません・・・

でも、人々のライフスタイルの変化が、
新たなニーズを生み出すということはしばしば起きている
ということ、それをうまくすくい取れば、
たとえ斜陽産業でも復活できるという可能性を示していると
思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (0) | トラックバック

ライフスタイルマーケティング

このところ、「シンプルマーケティング」から、
‘ライフスタイル’をテーマに書いてますが、
ついでに関連本の


「実践講座 消費行動の「なぜ?」がわかる
          ライフスタイルマーケティング」
(ODSマーケティングコンサルティングチーム著、宣伝会議)


も簡単にご紹介しときます。


この本の参考文献は、

「改訂 シンプルマーケティング」
「最新 ランチェスター戦略がわかる・できる」

の2冊です。


実際、同書の内容は、ほとんどシンプルマーケティングで
語られていることが下敷きになっていることがわかります。

ですから、シンプルマーケティングを読んだ人間には
ちょっとものたりない内容です。


ただ、ODS社が30年前から実施してきた消費者調査のデータベース、

「ODS LifeStyle Indicator」

に基づく最新の

「ライフスタイル分類」

が詳細に説明されている点が参考になります。


このライフスタイル分類ですが、
日本人を次の8つの特徴的なグループに分けたものです。
2003年に開発されたもの。

-------------------------------------

1.アチーブ:自立達成型(11.4%)

 知識教養、トレンド情報やアートまで幅広い関心を持ち、
 達成感を糧に自己向上していくタイプ

2.プレジャー:浪費快楽型(10.1%)

 流行モノや通俗的な楽しみとブランドモノが好きで、
 目立ちたい意識のある、楽天的・享楽的なタイプ

3.ナイーブ:感性・感覚型(8.3%)

 目立ちたい意識が強く、流行関心が高く感覚的判断をする、
 未成熟な子供っぽさがあるタイプ

4.リョウシキ:良識社会型(14.9%)

 ビジネス、政治や環境など社会全体に関心が高く、
 社会的な責任感や道徳的意識を持ち、新たな知識教養を
 取り入れるタイプ

5.ヘイオン:中庸雷同型(22.3%)

 家族みんなで穏やかな生活を過ごすために、
 一生懸命頑張っている。無難で人と同じであることを
 望むタイプ

6・キハン:保守規律型(13.3%)

 性的道徳や地域社会へのかかわり、お中元・お歳暮といった
 慣習など、昔ながらのモラルを、誠実真面目に遵守するタイプ。

7.ヤリクリ:やりくり倹約型(9.9%)

 経済的余裕も精神的余裕もなく、どうにかやりくりして
 毎日を過ごしている。頑張る気持ちもあるが、すぐ現実逃避
 したがるタイプ。

8.クール:静的無関心型(9.8%)

 物事に対する関心が低く、自ら何かを発信することに
 思い入れがなく、世の中をナナメに見ているところが
 あるタイプ。

-------------------------------------


このライフスタイル分類の主な活用目的は、

ライフスタイル分類と、
商品・ブランド・コミュニケーションとの因果関係を明らかに
することによって、商品が売れたり、売れなかったりする理由を
構造的に解明すること

です。


たとえば、シャープの液晶テレビ‘AQUOS’がヒットしたのは、

・よくテレビを観ており、かつ高額商品を購入できる経済力
 を持つ「リョウシキ」を着目した。

・「最新鋭の国内工場で生産」「環境に優しい」といった
 コンセプトが、国産を好み、環境意識の高いリョウシキから
 共感を得た。

・自宅のリビングなどにおいても違和感のないデザインが
 「良質で高級感」を求める「リョウシキ」の価値観に合致
 していた。

・リョウシキに人気の高い吉永小百合を広告キャラクターに
 採用した。

といった理由が挙げられています。

さらに、「リョウシキ」からの影響が大きい
「ヘイオン」や「ハキュウ」へと波及させることができたのが
大ヒットにつながった理由です。


同書には、他にもいろいろと具体例が掲載されてますので
一読の価値はあるでしょう。

投稿者 松尾 順 : 09:36 | コメント (3) | トラックバック

パズル制作者が失業する日

1997年、米IBMのコンピューター「ディープブルー」が、
世界チェスチャンピオンのガスパロフ氏をチェス対決で破った時、
私たちは、大きな衝撃を受けましたよね。

チェスのような高度なゲームをする能力は、
人間の知能だからこそ持ちえるものだと考えていたのに、
コンピューターがそれを上回ってしまったことに、
一種の恐怖を感じたのかも知れません。


さて、チェスほどの話題にはなってませんが、
イタリアのシエナ大学が開発した「ウェブクロウ(Web Crow)」
は、クロスワードパズルを解く能力で人間を上回る能力を
証明したそうです。

「ウェブクロウ」は、いわゆる「人工知能」
(AI:Artifitial Intelligence)の技術を使って開発された
ソフトウェアです。

日経産業新聞(2006/08/07)のコラムによれば、
辞書や百科事典をデータベースに組み込むことで、
自然言語の体系やさまざまな知識を学習し、

「右の反対は?」
「九月を陰暦でなんと呼ぶ?」

といった程度の問題は答えられるようになってきたそうです。


そして、「ウェブクロウ」がIBMの「ディープブルー」と
大きく違うのは、インターネットの検索エンジンと接続している
点です。

ウェブクロウは、クロスワードの設問の中からキーワードを
抜き出しネットで検索、関連語を抽出して試行錯誤で正解を
発見していきます。

ウエブクロウが接続しているのは、おそらくグーグルでしょうね。

グーグルの高度な検索技術とインターネットという巨大な情報源の
おかげで、ついにパズルの分野でもコンピュータが人間を上回る
性能を持ち始めたわけです。


日々新しい情報が更新されるインターネットだと、
過去の知識だけでなく、最新の時事問題にだって簡単に対応
できますし、日本語に対応させることだって問題なし。

しかも、ウェブクロウの技術を逆に使うと、
気の利いたパズルが簡単に制作できるようになります。

そうすると、近い将来、パズル制作者が失業する日が
間違いなく来るということです・・・


考えてみれば、クロスワードパズルを解くことは、
主として言語情報の記憶に頼っています。

多少連想を働かせる力が必要ではありますが、
頭の中に蓄積した過去の情報、知識の再生力に依存するところが
大きいですよね。

しかし、この能力は、そもそもコンピュータが得意な領域であり、
人間を凌駕するマシンが出てくるのは時間の問題だったわけです。

ただ、それはインターネットという巨大な外部脳の成長が
不可欠だったのでしょうけど。


あまり愉快な話ではありませんが、今後も
人間にしかできないと考えられていたことが次々とコンピュータで
代替されていくことは、こうした事象を見ていればはっきりと
「予見」できますよね。

こんな時代、
あなたがいい仕事をするために伸ばすべきスキルは何なのか、
現実を直視して考える必要があると思いませんか。


英文ですが、以下は「ウェブクロウ」の記事です。

●COMPUTER BEATS HUMANS AT CROSSWORD PUZZLES

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

9月の夏休み

最近、8月のピークシーズンを避けて、
9月に夏休みを取る人が増えているんですね。

お盆の時期に一斉休みを取るのは、
製造業が多い(工場の稼動上その方が都合がいい)のですが、
近年は、サービス業で働く人の割合が高くなり、
むしろ交代で休んだ方が都合がよくなりましたからね。

また、休みが集中すると行楽地が混んじゃいますから、
夏休みは分散して取りましょうという風潮も少しずつ
強くなってきてました。


ただ、上記の理由以外にも、
9月の旅行が増加している要因には「ネット予約サイト」
の影響があるようです。(日経MJ、2006/08/11)

ネット予約サイトのメインユーザーは20-30代。
彼ら若年層は、独身であったり、まだ子供がいないことが多く、
子供の夏休みに合わせる必要がありません。

また、ネット予約サイトでは、
他の時期に比べて8月の客室在庫数が少なく、
予約が取りにくい状況があります。

このため、子供に制約されないユーザーが、
予約の取りやすい9月へと旅行時期をシフトしつつあるわけです。

実際、高級ホテルのオークション予約サイト「一休」では、
9月の予約件数が前年度の60%増。8月は同27%増ですから、
9月への旅行シフトが顕著です。

他のネット予約サイト「ヤフートラベル」や「楽天トラベル」
でも9月の予約数の伸びは、8月よりも上回っています。


さて、日経MJには触れられていなかったのですが、
上記の夏休み時期シフトの背景には、
このところ取りざたされている、「晩婚化」「少子化」と
いう大きな社会的変化がありそうです。

近年の晩婚化、言い換えると独身者、そして、
結婚しても子供を作らない夫婦が増えているのは数字で
明確に現れていますよね。

身軽に動ける独身者、あるいは子供なしカップルの比率は
今後も増えていくことでしょうし、彼らの消費行動が
ネット予約サイトを通じて顕在化し、
旅行時期にも影響を与え始めたと考えるべきかも知れません。
(現時点ではあくまで「仮説」ですが)


消費者心理・消費行動を読む場合には、
消費者一人ひとりの心理の機微を理解するだけでなく、
こうした大きな社会的なトレンドを併せて把握しておく
必要がありますね。

投稿者 松尾 順 : 14:19 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション(続き)

国境を越え、かつ企業の組織の枠を越えて、
個人同士がつながりあう。

目的に応じてヴァーチャルなドリームチームを作れば
大きな仕事だってこなせてしまう。

個人によるグローバリゼーションの時代はすでに
社会や企業の仕組みを根本から変えつつありますよね。
(日本はまだまだ守られているので実感薄いですけど・・・)

こうした大変革は、ある人にとっては「機会」(チャンス)
であり、逆に、ある人にとっては「脅威」です。


そして、今最大の「脅威」を感じているのは、
実は以外にもその道の「専門家」です。

専門家は専門領域の「スキル」をばら売りしているわけです。


「スキル」とは、端的に言えば、普通の人よりも、
専門業務をこなすことに慣れている、早い、間違いがないという
「業務の卓越性」のことです。

しかし、たいていの場合、
その「スキル」は、他の誰かと代替可能です。
(極めて才能があって、
 成果物が「芸術」の域に達している人を除いて)


例えば、会計処理のスキルは、スキルだけを取り出すなら、
どの会計士に頼んでもほとんど同じ。
成果としての「決算書」は同じです。

システム開発のプログラミングだって、
もちろん精査すれば優劣があるのでしょうけど、
一定以上の品質に達していれば、
プログラマーが誰かは、あまり問題ではない。


だったら、利用する側としては、
できるだけ安い方がいいですよね。

費用対効果を考えたら、結論はこうなります。


要するに、

「業務の卓越性」(オペレーショナル・エクセレンス)

だけで勝負していると、同じ技量を持つ別の安くやれる人、
そして、今は他国の安い人に仕事を取られてしまう可能性が
高くなっているのです。
(他国の安い人、というのは経済格差上そうなっている
という意味で、差別的意味合いはありません。)


すると、スキルを売っている専門家の人たち
(実際は、一般のビジネスパーソンもその道の専門家と
 呼べますので、ほとんどの社会人が該当すると思います)
に残された戦略は、次の2つになります。


★顧客親密性(カスタマーインティマシー)

 いわゆる「CRM」(Customer Relationship Management)。
 個々の顧客との関係を深め、感情的絆を結ぶ。


★製品(サービス)リーダーシップ

 斬新なアイディア、明確なポジショニングに基づく製品開発。


では、上記戦略を実現するための具体的な方策は?

企業レベルでは複雑な仕組み・仕掛けにならざるを得ないので
個人レベルで言うなら、


★顧客親密性のためには、顧客の心を読む力を高めること

 我田引水、「マインドリーディング」を学びましょう。(^-^)
 より詳しく言うなら、「人」に関心を持ち、世の中の様々な
 事象の背景にある人の「心」と「行動」のつながりを理解
 することに努めましょう。


★製品リーダーシップのためには、発想力を高めること

 異質な情報を貪欲に仕入れ、自由自在に組み合わせる方法を
 学びましょう。ひとつの選択としては、「編集学校」があります。


最後はいきなりベタな結論に持っていってしまいましたが、(⌒o⌒;
個人によるグローバリゼーションの時代には、
もはや、企業が社員を守ってくれることはありません。

企業もまた、優秀でかつ労働コストの安い人を求めています。
そうしないとグローバルな競争に生き残れないからです。


ですから、一人ひとりが自律的にキャリア戦略を立案し、
実行しないと、自分の知らない遠くの国の誰かに仕事を
奪われてしまうかもしれませんよ・・・
(自戒をこめて)

投稿者 松尾 順 : 10:42 | コメント (0) | トラックバック

個人によるグローバリゼーション

最近話題のビジネス書、

「フラット化する世界」(上・下)
(トーマスフリードマン著、日本経済新聞社)
>上巻
>下巻

はお読みになりましたか。

この本は昨年、欧米のエグゼクティブたちに最も読まれた本の
ひとつだそうです。

私も早速買いましたが、まだ積読状態です・・・(⌒o⌒;


しかし、この本のキモは、私が先日参加した夕学五十講の講演の中で、
一橋大学教授の一條和生先生が解説してくれましたので
ご紹介したいと思います。


この本では、「グローバリゼーション」を
次の3つの段階でとらえているそうです。

・国によるグローバリゼーション
・企業によるグローバリゼーション
・個人によるグローバリゼーション


国によるグローバリゼーションは、
コロンブスの新大陸(米国)発見の年、
つまり1492年から1800年くらいまでの時代。

スペイン、オランダ、ポルトガルといった国々が
世界に乗り出し、植民地化を進めた。まさに、
国による世界進出ですね。


企業によるグローバリゼーションは、
1800年~2000年までの時代。

イギリスの産業革命による工業化以来、
資本主義下の企業が台頭。

新市場、あるいは生産拠点を求めて世界に乗り出した
企業による世界進出です。


そして、個人によるグローバリゼーションは、
2000年に始まっています。

2000年は、「Google」が表舞台に登場し、
インターネットが社会やビジネスのあり方を
根本的に変えてしまう可能性を予感させた年です。


Googleのリスティング広告、また各種アフィリエイト広告
の仕組みは、貧困に苦しむ発展途上国の一個人が
世界を相手に稼ぐことのできる機会を提供しています。
(アフィリエイトで彼らが手にする、わずか数セント、数ドル
のお金が、彼らの国ではどれだけの価値を持つか、容易に想像
できますよね)


また、米国人の所得税の申請書作成業務は、
相対的にコストの安いインドに流れています。

ITシステム開発に関わるエンジニアたちの仕事も同様に、
インド在住のエンジニアが奪いつつある。

モノの生産拠点としては、低コストの膨大な労働力を抱える
中国がダントツ。


インターネットの浸透によって、時空を超えて業務プロセス
(研究開発→生産→販売・マーケティング→物流と流れる
 バリューチェーン)が成立するようになったわけです。


ただ、日本では、この大きなパラダイムチェンジの脅威を
十分に実感していないようです。

言語や文化の壁が、「有効」に機能しているのでしょう。

私が独立前、プロジェクトマネージャーとして働いていた
システム開発のベンチャー企業では、ロシアに開発拠点を
置いていました。

確かに、英語ベースのソフトウェアについては、
ロシア人の優秀なエンジニアによって低コストで開発が
できました。

しかし、そのソフトの販売先は日本です。

日本語化(ローカリゼーション)のためのコストが別途
必要となり、結果的にロシアの開発拠点の高生産性が
あまり活かせていませんでした。


しかし、遅かれ早かれ、日本もまた、
「個人によるグローバリゼーション」の波に
丸ごと飲み込まれてしまうのは間違いありません。


このような状況で、欧米や日本の企業、あるいは個人は
どこに競争力の源泉を求めるべきなのでしょうか?

これについては明日に回します。(^-^)

投稿者 松尾 順 : 09:52 | コメント (0) | トラックバック

巨大な外部脳が促進する企業の進化と淘汰

昨日書いた、

ダイハツ カフェ プロジェクトの「なんだかなあ」体験、
結構な反響がありました。

やはり、ナマの事実情報は人の心を刺激する力が強いですね。

販売店訪問時のことを補足すると、
確かにスイーツ目当てで行ったしたものの、せっかくだから
ということで、展示してある車はしっかりと見ましたし、
発売されたばかりの新型車「SONICA」は、
スポーティな外観、ターボ付エンジンなのに燃費も23km/リッター
と、かなり心惹かれるものがあったんですよ。


さて、実は、営業マンの対応に納得できなかった妻は
ダイハツのコールセンターに電話をかけたそうです。

電話に出たオペレーターの方は、素直に非を認め謝罪をしつつも、

「販売店でのことは、そのディーラーの本社に言って欲しい」

という絵に描いたような脱力系典型的模範回答。

さすが、見事なフィニッシュです!
最初から最後まで一貫した「なんだかなあ」体験を味わわせて
くれました。(笑)


まあ、これ以上はもういいや、
今回の不愉快な体験は、さっさと忘れてしまおう

ということなんですが、ともあれ、

こうしたブランド体験は、
いいことであれ、悪いことであれ、
個人がどんどんブログに書くべきだと思います。

できるだけ事実を中心に。
もちろん、そのときの感情や意見、文句も書いていいと
思いますが、単なるグチや批判にならないように。


今、ブログなどでブランド体験を書き、公表するということは、
インターネットという「巨大な外部脳」に個人的記憶を移すと
いうことです。

すると、「個人的記憶」が、
多くの人が共有できる「集合的記憶」になります。

しかも、その場で忘れ去られてしまう短期記憶ではなく、
ドメインが生きている限りは「長期記憶」として止まり、
いい情報も悪い情報もどんどん蓄積されていきます。

私個人としては忘却の彼方に行ってしまう出来事が、
インターネット上では、
いつでも参照できる長期記憶として共有される。


これは、どういう事態をもたらすか明白ですよね。
すでにその徴候は見えているわけですが。


ネガティブな情報が外部脳に蓄積されていく
「ダメダメ・カンパニー」は、あっという間に顧客離れを招き、
さっさと淘汰されてしまう。

逆に、ポジティブ情報が蓄積されていく「グッド・カンパニー」
には顧客がどんどん集まる。スタッフの志気も上がり、
ますますクオリティが向上し進化していくことになるでしょう。


つまり、一般個人がネット上でどんどんブランド体験を公開
することは企業の進化と淘汰を促進し、結果的に
気持ちよいブランド体験をする機会が増えるというわけです。


さて、
ダイハツさんは本来的には堅実なまじめな会社だと思います。
今後、淘汰されてしまわないように奮起を期待します。

投稿者 松尾 順 : 10:05 | コメント (1) | トラックバック

同じ土俵で勝負しないこと

まだ1年も経っていないのですが、
本郷三丁目の駅前に昔からあった古い喫茶店が大改装を行い、
今風のモダンなカフェになりました。

といってもプレミアムカフェの「スタバ」風ではなく、
低価格カフェの「ドトール」風の設計でした。


改装費用は1千万円は超えていないと思いますが、
5百万円以上はかかっているでしょう。

オーナーについてはよく知りませんが、おそらく個人経営。
かなり思い切った投資だったんだと思います。


問題は、真正面に「ドトール」があったことです。

ドトール自体も随分前からありましたが、やはり1年ほど前に、
10mも離れていないところに新店舗を出して地域シェアを
高めています。


さて、改装したカフェについてよくわからないのが、
ドトールが最大のライバルだとわかっていたはずなのに、

「なぜ、ほぼ同じスタイルのカフェで真っ向勝負を
 挑んだのか?」

ということです。

名もない喫茶店が、同じ土俵で勝負してドトールに勝てる
はずはありません。ワールドカップで日本チームがブラジルに
勝利する以上に難しいことですよね。


このカフェは、どうやらパスタ類を提供するのを
「ウリ」にしてたようです。

確かに、ドトールではパスタは出してませんが、
レンジでチンの即席パスタでは、
ドトールとの差別化のための切り札にはなりえない。

パスタを出すなら、玄人をうならせるレベルの味にするとか、
あるいは、高さ1メートルのビッグパフェとか、
奇想天外なものでもいいので、なにかひとつ目玉商品がないと
客はドトールに流れるのになあ・・・

といつも店の前を通りながら思ってました。


そして、予想していたとおり、
とうとう先日、閉店の張り紙が・・・。


しょせん、私は傍観者であり、好き勝手に偉そうなことを
書いているとは思いますが、

「競合とは違う明確な何か」

がなければ客は来てくれないことは明白なはず。

つまり、競合と同じポジションではなく、
違うポジションを狙った新たなコンセプトのカフェに
しなかったのが、不思議でなりません。

投稿者 松尾 順 : 08:42 | コメント (1) | トラックバック

拒否集合の増大

「新しいパソコンを買いたい!」と思い立ったとします。
その時、あなたはどうやって購入機種を絞り込んでいきますか。

まさか、世の中に存在するすべての機種を調べることは
しないですよね。

普通は、デスクトップかノートパソコンかといった
大きな仕様の違いや、だいたいの予算枠を決めた上で、
自分が知っている(思い出せる)メーカーの中から、
買いたい機種候補をいくつか挙げていきますよね。


ここで、自分が知っているメーカー名(および機種名)
のことを

「知名集合」

と言います。

知名集合に入るのは、やはり次のような大手どころになると
思います。

ソニー、富士通、NEC、パナソニック・・・など。


そしてさらに、「よし、この機種の中からどれかに決めよう」
と、購入をじっくり検討する製品群のことを

「考慮集合」

と言います。(ベタな言い方をすると「買いたいやつリスト」)

もちろん、「Mac命!」の人は最初っから
「Apple Computer」しか思い浮かばないし、
考慮集合にはMac製品しか入らないでしょうけど。(^-^)


ただ、大手量販店に行くと、そういえばSharpのパソコンも
あったな、とか、SOTECのようにお手頃価格で買えるメーカーが
あるのを知ることができます。そうすると、そうした新たに
知ったメーカーの中からも、購入機種候補が出てきますね。

つまり、「買いたいやつリスト数」が増加するわけです。

さらに、あなたがインターネットを活用すると、
エプソンとか、マウスコンピューターとか、
さらにたくさんの新たな候補を発見して、
ますます考慮集合が膨れることかもしれませんよね。


つまり、ネットを活用するかしないかで、
私たちの情報量に大きな差が生じ、
「考慮集合」となる「買いたいやつリスト」の数に
大きな差が生じてくるということです。

ま、これはもっともな現象ですね。


清水聰先生(明治学院大学教授)は、
ユーザーのインターネット活用度合いと考慮集合の関係について、
自動車の購入を対象に調査されていて、
上記のような、

インターネットユーザーにおいて
考慮集合が増加する傾向を検証されてるんですが、
その傾向よりもっと興味深いのは、

「このメーカー(機種)だけは買いたくない」
(買いたくないやつリスト)

という

「拒否集合」

もまた、インターネットを活用する人の方が多くなるという点です。


インターネットだと過剰なまでの情報が簡単に集まりますが、
その情報を元に「買いたいやつリスト」に入れるものを選別
していくのと同時に、

「あー、こいつは明らかに使えない」


というものもわかるので、「拒否集合」に入る数も増えて
しまうというわけですね。

以前は、情報量が限られてましたから、買いたいものは
ある程度見えてきても、買いたくないかどうかという
ネガティブな判断はできませんでした。

しかし、情報入手が容易なネットの時代では、
駄目な商品はばっさり斬られてしまうわけです。


清水先生は、

「企業にとってインターネットは両刃の剣となることが
 明らかにされた」

と上記研究を収録した著書、

「戦略的消費者行動論」(清水聰著、千倉書房)

で書かれていますが、ほんと、他社と横並びの平凡な製品しか
市場に出せないメーカーは、すぐに「拒否集合」に入れられて
しまって日の目を見ることがない、
そんな厳しい時代になっちゃったんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

インターネットマガジン休刊

インターネットマガジンがとうとう休刊ですねぇ・・・

同誌が創刊されたのは1994年9月でした。
94年は、日経新聞などで「インターネット」の進展が
頻繁に取り上げられ始めた年で、私は、
「インターネットのメディア登場元年」と呼んでいます。


当時、私はシンクタンクの研究員でしたが、
インターネットのただならぬ動きに注目し、大いに興味を持ち、
自分の目で、「ホームページ」がどんなものか、
見たくて見たくててたまらなかったですね。
(まじめなやつも、エロいやつも・・・)

もちろん、まだインターネットは、一般社員が使える環境には
なっていませんでしたし、個人で契約するにしても、当時は
従量課金で月数万円以上、とても手が出せない。

そんな頃、ほぼ唯一のインターネット専門誌としてワクワク
しながら読んだのが「インターネットマガジン」でした。


95年前半には、ベッコアメインターネットが個人向けに
定額制のネット接続サービスを開始し、私もちゅうちょなく
飛びつきました。

以来、私はどっぷりとインターネットの世界に浸かり、
いわゆる「インターネットマーケティング」の領域での
活動がかなりの割合を占めてきました。


インターネットマガジンは、私もいつしか購読しなくなって
いましたが、それは、インターネットをどう使いこなすか、
という段階から、インターネットをどのようにビジネスや
マーケティングに応用するか、という段階に入った頃の
ように思います。


インターネットマガジンの休刊の理由は、

社会全体に大きな影響を与えるまでに進化したインターネットを
一つの(総合)月刊誌でカバーすることがむずかしくなった

からだそうです。


考えてみれば、もはや「インターネット」という言葉は
あまりに当たり前すぎてほとんど使いませんよね。

インターネットは暗黙の前提としてわざわざ言うまでもない。

いきなり、「Web2.0」とか「マッシュアップ」とか
個別の話題に入るようになりました。


これまでは、インターネットの「量的な側面」、つまり
普及率といったことが話題の中心でしたが、これからは、
ネットのより深い活用、つまり「質的な側面」が注目
されるわけです。

これは、弁証法でいう「量から質への転化」が始まっている
と言えるんでしょうね。量的な変化がある時点で質の変化
へとつながるということです。

そうやって物事は進化していく。


田坂広志さんは、「量から質への転化」のタイミングは、
そのキーワードがメディアで取り上げられなくなった時
だとおっしゃってました。

メディアは常に新しいものを追いかける。

新しい言葉、そして、その言葉が指し示す意味なり概念が
すっかり定着したた時、メディアは、その言葉は
取り上げるだけの価値があるとはみなさなくなる。

つまり、メディアは言葉を消費してしまうわけです。
しかし、それは、その言葉の終わりを意味しないのです。

むしろ、そこから質的な転化、新たな進化が始まるという
ことだそうです。

インターネットマガジンの休刊は、インターネットの量から
質的転化を示すひとつの徴候でしょうね。


ともあれ、インターネットマガジンにはお世話になりました。
ありがとう。

投稿者 松尾 順 : 18:16 | コメント (0) | トラックバック

前向きな中国の消費者

オンラインモニター(回答協力者)を抱えるネットリサーチ会社
は、日本市場が飽和状態なのかどうかわかりませんが、
外国進出を本格化させるところが増えていますね。

特に今、調査ニーズがあるのは、
やはり日本企業が積極的に進出している「中国」のようです。
(近い将来は「インド」でしょうね。)


昨日の日経産業新聞(2006.05.11)によると、
インフォプラントさんは、今月中に自前で集めた現地モニターを
使ったネット調査を開始するそうです。

これまでは、現地提携先のモニターを利用してきたのですが、
選択式の調査をやると、全体的に回答が前向きな方にブレやすい
という傾向が分かってきたとのこと。

そこで、自前のモニターに対しては、選択式回答に加えて
「自由回答」を中心にした調査を実施できるようにして、
中国消費者の本音を引き出すようにするそうです。


「回答が前向き」という意味が、この記事だけではもうひとつ
はっきりしません。

そこで勝手に推測してみますが、
高度成長期が続き、消費意欲も高い中国ですから、
「いけいけどんどん」「ポジティブシンキング」のかたまり、
何事にも鷹揚で肯定的な消費者が多いのかも知れません。


海外調査の場合、個別の回答者に起因する違いだけでなく、
上記のような国民性の違いや、時代の気分のようなもので、
回答に偏りが出てくることを注意する必要があるんですね。


そういえば、同じ日の日経産業新聞の別の記事では、
某日本企業の中国現地会社の社長を最近、
日本人から中国人に切り替えているということが
書いてありました。

なぜなら、日本人は「改善」はできるが「改革」はできないから。

猛スピードで変化しつつある中国では、やはり
中国人じゃないと迅速、大胆な意思決定はできない、
と判断したようです。


成熟国家の日本で暮らしていた気分のままで、
成長国家の中国に赴任しても通用しないんでしょう。

調査モニターの意識が日本と中国で違ってくるのも
こんな話を聞くと当然だと思えますね。

投稿者 松尾 順 : 07:40 | コメント (0) | トラックバック

成功するために失敗する

人気メルマガ「プレジデントビジョン」の今週のゲストは、
人材採用や営業のコンサルティング会社「ワイキューブ社長、
安田佳生氏です。

安田さんは、物言いが実にストレートなので私は大好きです。
(面識はないのですが)

ワイキューブは、営業電話をかけまくる「プッシュ型営業」
から、問い合わせを増やして売りにつなげる「プル型営業」
に転換して成功した会社です。

「プル型営業」のことを同社では「反響営業」と言ってますが、
これは要するに「見込客創造」のためのマーケティングに重点を
移したということですね。


安田さんは、広報についての考え方も実にユニークです。

メディアに記事として取り上げてもらうために一番大事なのは
文字通り「ニュース性」があるかどうか。

目新しいこと、変わったことじゃなきゃ掲載する価値が
ないわけです。

安田さんはこのあたりの理解を踏まえて、

「必要のないことをやれば、記事として扱ってもらえる」

と言い切ってます。

それで、安田さんが実際にやったのは、例えば
社員用に1本1万円のオリジナルの傘を作ったこと。

社員200人に配ると200万円の費用です。

これは常識的な経営判断では「無駄遣い」。
必要のないことにムダ金を使っているということになります。

しかし、こんな不必要なことをやるからこそ、
ニュース価値が出てきてメディアが寄ってくる。記事になる。

200万円の広告費用をかけるよりよっぽど安上がりで、
かつ社員満足度も上がるのです。

ワイキューブのオフィスも、地下にバーを設置し、
ワインセラーもあったりと、仕事をやる場所という視点で
評価すると不必要なものだらけ。

でも、あちこちの媒体で紹介された結果、
ブランド価値は確実に向上してますからね、
外野がケチをつけるわけにはいきません。


安田さんの成功するための考え方も本質を突いていると
思います。

成功パターンを学ぶのではなく、逆説的ですが、
失敗パターンを学ぶべきだというんですね。
売れない理由、反応がない理由を解明してつぶしていく。

安田さんによれば、失敗パターンは20パターンくらいだそうで、
それらをつぶしてしまえば、ある程度明確な成功曲線を描ける
のだそうです。

大事なのは、実際にやってみて失敗しないと駄目だという点。
失敗を避けていては失敗から学べないということ。


全くその通りだと私も思います。

過去の成功者である大手企業が成功し続けることが難しいのは
ここにあるんだなと思いました。

現在の事業で儲かっていると失敗による損失を恐れてしまい、
新たなチャレンジができなくなる。失敗もしないかわりに、
新たな成功曲線も見えないので新興企業にしてやられてしまう
わけです。

投稿者 松尾 順 : 10:23 | コメント (0) | トラックバック

存在の耐えられない軽さ

ファスナー(ジッパー)と言えば・・・?

そうですね、「YKK」です。

YKKさんは、

「言わずと知れた」ファスナー市場のトップブランド

のはずでした。

確かに世界70カ国・地域、世界シェアは、現在も約46%と磐石。


ところが、2004年春、知名度調査の結果にYKKの役員陣は
愕然とします。

野村総研が実施した調査によると
30-50代で、「YKK」を知らない人は5%以下であったのに対し、
20代は、10人に1人が、10代では、10人に3人が「YKK」を
知らないと答えたのです。

YKKの役員陣が驚いたのは、自分たちは知名度が高いと
思い込んでいたからです。しかし、若年層に限って言えば、
思い違いだったことが事実として突きつけらたわけですね。


私は現在42歳ですが、
小さい頃から繰り返し見たテレビCMのおかげで、
「YKK」のブランドが頭にこびりついています。

CMの最後に「Y・K・K」と、社名を言う男性の声を
今でも明瞭に思い出します。
調査結果が示すとおり、30代以上のほとんどの方が、
あの男性の声を覚えてるんじゃないでしょうか。

YKKの主力商品、「ファスナー」はいわゆる「産業材」です。
バッグや衣料品の部材として利用されるため、最終消費財メーカー
と比べると、元々消費者にとっての「存在感」は軽い。

でも、YKKさんは60年代からテレビCMに力を入れ、
一般消費者でさえもよく知っているブランド力を築くことに
成功していたわけです。

よく産業材のブランディングの成功事例として、
パソコンの部材であるCPUの「インテル」
(インテル、入ってる!)が紹介されますよね。

でも、「YKK」は、インテルの取り組みのはるか昔から、
産業材ブランディングに取り組んでいたんです。


さて、近年、20代以下での知名度が低くなったのは、
80年代後半から、テレビCMを控えたためだそうです。

産業材だけに、広告量の減少がブランド知名度の低下に
如実につながっていることがわかります。


YKKさんとしては、これ以上の存在の軽さには耐えられない
ということでしょう。

これ以上の知名度低下は、優秀な人材の確保にも支障をきたす
可能性もあります。

そこで、YKKさんは、

「一般消費者への露出を高めること」

を重要な経営課題として位置づけ、
2005年度は、2001年度の3倍の広告予算を投下しています。

そういえば、昨年後半、JR山手線の車体広告で、
YKKのファスナーを描いたものをよく見かけました。


知る人ぞ知るで良いマイナーな産業材なら別ですが、
消費財に組み込まれてとしてマス市場を狙っていくメーカーなら、
一般消費者向けブランディングも重要なマーケティング施策
なんだということを再認識させられますね。

以上、日経産業新聞(2006.03.22)の記事を元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

団塊の性感帯

団塊の世代はここまで死ぬほど頑張ってきた人たち。

ところが、年金をもらっておいしい思いをしているのは前の世代。

団塊の世代は、我々も

「頑張れば先輩たちのようになれる」

と思ってたら、

世間が「ルールが変わった」「実力主義」だと言い始めて、
やや理不尽な思いがある。


そこで、

「頑張りましたよね、先輩!」

とくすぐってやれば、

「そやろ?」

と返してきます、間違いなく。(笑)

「団塊」の“性感帯”はそこじゃないですか。


と言うのは、元吉本興業常務の木村政雄氏です。
(プレジデント、2006/0403)

さすが、元やすきよのマネージャーだけあって、
絶妙な言葉を使ってきますね。


人は誰でも、「認められたい」という承認欲求があるものですが、
団塊の世代は、日本経済の高度成長に貢献したのが我々だという
自負があるだけに、人一倍「認められたい」という欲求が強い。


ですから、その思いをうまく「攻める」のが、
団塊の世代を「イかせる」コツというわけです。


また、木村さんは、団塊の世代の特徴として、
社会との関わりがものすごく強かったので、

「社会の役に立ちたい」

という思いが非常に強いそうです。


このため、退職、引退によって社会との関わりが断ち切られるのが
つらい。そして、木村さんの言う「賞味期限切れの自分」を
認めたくはない。

だから、彼らの「賞味期限」を伸ばしてあげることが
求められているのです。

これは、言い換えると自分の「存在意義」の再生でしょう。


というわけで、木村さんが考えているビジネスアイディアは、

・定年後、行く場所と名刺を失って困っている人たちを対象

・いい場所にビルを借りて「○○株式会社」を立ち上げ、
 フロアをブースで仕切る

・そこでは、仕事をしても、新聞を読んでいても良い

・名刺の肩書きは、「顧問」だとお情けみたいだから、
 功成り名を遂げた感のある「相談役」

・月会費は5万円程度

といったもの。

これで、同窓会でも、ご近所でも「面目」が立ちますよ、
ということだそうです。


このアイディア、いわゆるレンタルオフィスの延長で
すぐにでもできそうですね。

傍目から見ると、形式を整えてあげるだけのサービスに
しか過ぎず、ちょっと空しさが漂ってきますけど。


でも、「面目を立てる」ことはまさに体面的、
つまり表面的な問題ですから、団塊の世代の方々の
存在意義を再生させるベストソリューションかも知れません。

投稿者 松尾 順 : 12:36 | コメント (0) | トラックバック

スポーツ縁

トリノ五輪がいよいよ始まりますね。

リアルタイムで見ようと思ったら寝不足必至ですから、
ほどほどにしとかないといけません。

特に、私のように、

[私のボスはわたしです]

の労働環境だと、仕事そっちのけになってしまう
可能性ありますし。(⌒o⌒;


さて、オリンピックに限らず、「スポーツ」は、
これから最も有望なエンタテイメントですよね。

「最も有望なエンタテイメント」というのは、
消費者視点で言い換えると、

「消費者が一番求める商品(サービス)」

だということです。

なぜなら、人と人のつながりを回復させてくれる力が
あるから。


以前は、同じ地域、場所に住んでいるという「地縁」や、
親兄弟親戚といった、「血縁」というもので、
お互いの「つながり」を感じることができました。

また、地縁の場合は、お祭りのような行事、
血縁の場合は、お盆やお正月に親戚みんなが集まる
といった機会を通じて、
「つながり」を再確認しあうことができましたよね。

今でも地方では、地縁、血縁が強いところ
がたくさん残っていると思います。

しかし、都市を中心に人はどんどん孤立化しつつあります。

いちおう住んでいる地域で町内会は作られているけれど、
実際にはほとんど顔を合わせることもない。
祭りも開かれることが減っています。

家族内でも、それぞれが個室を持ち、ばらばらに行動するのが
当たり前。食事時間もみんな違う。無理に時間を合わせない。

携帯電話という個人メディアの普及によって、
隣の部屋の親兄弟より、遠方の友人との間の方が、
よほどたくさん言葉を交わしている。

こんな風に、単に同じ地域、家にいるだけで、
実際には、「心はつながっていない」状態です。

でも、みんなそれでいいとは全然思っていない。

なんたって、人間の三大本能は、食欲、性欲に加えて、
「集団欲」です。

やはり、みんな群れていたいんです。
できればバーチャルじゃなくてリアルに。
お互いに触れ合える関係の人たちと・・・


というわけで、期待の星が「スポーツ」となります。
特に地域に根ざしたスポーツ、典型的には「Jリーグ」です。

先日、アルビレックス新潟の代表、池田弘氏の話を聞く機会が
ありましたが、アルビレックスのおかげで多くの新潟の家族が
救われています。

家族共通の話題があるので家族団らんが生まれる。

家族みんなで新潟スタジアムに行き、アルビレックスの活躍で
父親と高校生の娘が抱き合って喜ぶ。

こんな信じられない、私のように長女に無視されて悲しい思いを
している者には、なんともうらやましい現象をあちこちで
見ることができるそうです。

新潟スタジアムには、毎試合4万人以上が来場し、
超満員の観衆と選手たちがみなファミリーだという一体感に
包まれる。

地域人々のつながりも確実に強まっています。


「地縁」「血縁」に変わって、これから人と人とつながり
を回復させてくれるのは「スポーツ縁」なんですね。

投稿者 松尾 順 : 12:11 | コメント (0) | トラックバック

「価値ハンター」に照準を定めよ

高い品質を求めるのであれば、相応の金額を払う必要がある。
逆に安さを求めるのであれば、品質には妥協しなければならない。

これは、ごく一般的な考え方でしょう。
つまり、基本的に、品質と価格はトレードオフの関係
(両方同時には成立しない)にありますよね。


ところが、高い品質を求めつつ、同時にお手ごろ価格を求める
欲ばりな消費者層が存在します。

彼らは、

「価値ハンター」(価値追求型消費者)

です。


価値ハンターは、自分たちにとっての価値、すなわち
「顧客価値」(製品便益-ライフサイクル費用)を
最大化しようと行動する人たちです。

そして現在の日本においては、価値ハンターが
消費者の過半数を占めている一大勢力となってきたのです。

つまり、マス市場として登場しているのが価格ハンター層です。


したがって、企業が大きな売上げを狙うのなら、
「価値ハンター」の心理や行動特性を的確に把握し、
正しく照準を定める必要があります。


価値ハンターの特性としていくつかご紹介すると、
まず、商品知識が豊富であることがあります。

安くいい物を手に入れようとするわけですから、
そうした「お買得品」を見極めるだけの知識が
必要だからです。

そして、事前に十分に購入商品を検討しますから、
お店ではほとんど指名買いです。
ですから、商品について詳しい店員はありがた迷惑で、
むしろ、心のこもったサービスを歓迎します。


また、価値ハンターは、気に入ったブランドに対しては
忠誠心が高く、長期的な取引を通じて
顧客価値を高めようとします。

単に、「いいものを(無理やり)安くしろ」と
ゴネる消費者ではないわけです。

例えば、ポイントカードをきっちり利用して、
将来における顧客価値を高めることを考えます。
(その場限りで安いというのは、実際には、
 品質が伴わないことがわかっているのでしょう)


90年代後半から、顧客との関係性構築に焦点を当てた
マーケティング・経営手法である「CRM」
(Customer Relatioship Management)が注目を集め、
徐々に浸透しつつありますが、

現代の消費者の主流となった

「価値ハンター」

に照準を定めるということは、
「CRM」の本格導入・定着が不可欠であることを
意味しているといえるのではないでしょうか。


*「価値ハンター」についての詳細は下記書籍を
 ご参照ください。

『バリュー消費-「欲ばりな消費集団」の行動原理』
 田村正紀著、日本経済新聞社

投稿者 松尾 順 : 10:47 | コメント (0) | トラックバック

男のアンチエイジング消費

ジャズの演奏に合わせて、手足がチョコチョコと動くミニチュアの
人形たち、バンダイの「リトルジャマー」

がおじさんたちに大人気です。

1セット約2万円もする高額な「おもちゃ」ですが、
累計販売台数5万台を超えたそうです。

おじさんで音楽好きの私も、とても欲しいです。(笑)

しかし、やはり2万円は高い、というわけで、
姉妹製品の「プラグビート」(こちらはロックバンド人形)を
買いました。ギター、ベース、ドラム3体で約1万円。

こちらも十分高額おもちゃですから、
「オトナ買い」じゃないと売れない製品でしょう。

最近、おじさんバンドや音楽教室が盛んになってきたことも
ご存知ですよね。

楽器店では、数十万~数百万のビンテージギターを40-50代の
おじさんが即決で買っていきます。

音楽だけじゃありません。

家庭で本格的なプラネタリウムが楽しめるセガトイズの「ホームスター」

もバカ売れしています。

上記製品の価格も約2万円です。おそらく主力購買層は
昔、天文少年だったおじさんであるのは間違いありません。
(私もやはり欲しい・・・)


さて、おじさんが上記のような製品を購入する現象は、
いわゆる「ノスタルジック消費」と呼ばれますね。

少年のころ果たせなかった夢に対する郷愁が、
購買意欲を刺激しているのだと。

ですが、もっと深いところには、老いていくことへの抵抗が
あるように思います。

つまり、端的に言えば「若返りたい!」

そうした気持ちが、少年的な遊びへと向かわせている。
男性にとっての「アンチエイジング消費」と言えるんじゃない
でしょうか。


女性の場合、アンチエイジングとは、しわを減らすとか、
お肌の張りを取り戻すといった、外面的な対策の製品が
メインです。

女性にとっては、「外面の若返り」が最大関心事なんですね。

ところが、男性の場合は、外面的にはあまり老いを否定せず、
むしろ成熟した大人としての魅力を打ち出す一方、
「内面の若返り」に関心が高いということが言えます。

おじさん向け市場は、シニア向け市場と重複するところが
ありますが、男性にとってのアンチエイジングとは何か、
ということを理解しておく必要があるんじゃないでしょうか。


ところで、おじさんの心理をなんだかとても代弁してくれて
いると感じる歌があります。一部を引用します。

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遊ぶこと忘れてたら老いて枯れんだ
ここんとこは、仕事オンリー、笑えなくなっている

ガラクタの中に輝いてたものがいっぱいあったろう?
“大切なもの”すべて埋もれてしまう前に

~~~

積み上げたものぶっ壊して 身に着けたもの取っ払って
幾重にも重なり合う描いた夢への放物線
紛れもなく僕らずっと全力で少年なんだ

      from 「全力少年」by スキマスイッチ

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投稿者 松尾 順 : 10:41 | コメント (4) | トラックバック

スキマスイッチの「全力少年」

「スキマスイッチ」という名称の男性デュオ、ご存知ですかねぇ・・・

最近、バンド仲間から教えてもらって、聴いております。
どのくらい人気があって、売れているのか知りませんがなかなか良いです。

しかしなんでまた、こんな変な名前なのか。
一回聞いただけで絶対忘れない、秀逸なネーミングではあります。

なんか由来があるんでしょうね。知りたいとはあまり思いませんが。(⌒o⌒;


で、スキマスイッチの最近のヒット曲(らしい)は

「全力少年」

というタイトル。
これも、相当怪しい。

スキマスイッチの「全力少年」

と書いちゃうと、ほんと理解不能な言語ですよね、
特におじさんたちにとっては。

このタイトルを見ただけなら、普通は絶対聴かないと思います。
しかし、実はとてもすばらしい曲でした。メロディーも歌詞も
大好きです。


そういえば、男性デュオで、「コブクロ」という方々もいるらしい。
名称だけは聞いたことがあったけれど、わけわからんので、
気に留めていませんでした。

とりあえず聴いてみます。

投稿者 松尾 順 : 15:28 | コメント (0) | トラックバック

居酒屋で隣の人に作ってもらった生搾りのチューハイがおいしくないのはなぜか

日経夕刊の囲み記事にこんな興味深いことが。

5月に発売された新チューハイ「-196℃」を手がけた、サントリーの和田龍夫さんは、
タイトルに挙げた微妙な差異に気付いていました。

逆に言うと、

「なぜ、自分で作ったチューハイは、他人が作った生搾りのチューハイよりおいしいのか」

ということです。

そして、和田さんは発見したんですね。

自分で果実を搾って作る際に、皮などからにじみだした香り成分が手に付着する。
その手で飲むから、気分がさっぱりしておいしく感じていたことを。

つまり、飲むときに手が口元に近づく、そのときにまず果実の香りを先に楽しんで
いたわけです。

そこで、「-196℃」では、果実を丸ごとセ氏マイナス196度の液体酸素で
瞬間凍結させ、微粉末にしてアルコールに漬けて、香りを酒に封じ込める。

この新製法により、果汁にアルコールと炭酸ガスを混ぜる従来の製法では
無理だった豊かな香り付けを可能にしたそうです。

日常の微妙な差異をまず発見すること、そしてその理由を探り出すこと。
今の商品開発に求められるのはこれなんでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 15:36 | コメント (0) | トラックバック

変えないところ、変え続けるところ

以前、沖縄にセミナーの講師として出張した時、
とても好きになった小料理屋がありました。
セミナーのアシスタントをやってくれた方の紹介でした。

「子福」という名前のお店です。
なんかあったかい店名ですよね。
カウンターが8席くらい、お座敷3卓くらいの大きさです。

年の割(失礼)には、かわいらしい感じのママさんの
素朴な客あしらいには心が癒されましたし、
ママさんのお姉さんがつくる料理はなかなかおいしかった。
時々、ママさんの娘さんがカウンターの手伝いをしていました。
そこそこ食べて飲んで、客単価5千円程度。

「子福」には、際立った特徴はありませんが、
また来てもいいかなと思わせる安心感がありました。
たぶんいつ来ても、上記に書いたような点は変わらないだろうから。

そして結局、その出張の時、
私たちは2日間連続で通ってしまったのです。

なぜそんな気持ちになったかおわかりでしょうか。

お手洗いに入ると、洗面台の壁に色紙が貼ってありました。
ママさんがちょっとした言葉を書いているのです。日替わりです。
聞けば、開店前に時間を見つけて書いているとのこと。

あいだみつおの言葉のような、印象的な内容ではないけれども
ママさんの人柄がにじみでる色紙の言葉をまた明日も読んでみたい。
そう思って2日目も、ふらふらと子福に行ってしまいました。

人の欲求は、矛盾を抱えています。
相反する欲求を同時に持っているのです。

例えば、変わらないことから来る安心感と、
変化することからの刺激の両方を同時に求めています。
おそらく、たいていの人は、8割くらいは安心を求め、
2割程度の刺激を求めるんじゃないかと思います。

「子福」さんの場合、食事やサービスといった変わって
欲しくないところと、色紙のちょっとした変化のバランスが
絶妙だったのでしょう。
実際、色紙見たさに常連になるお客さんがいたようです。

私も、沖縄に今度行ったら、「子福」さんに立ち寄って
また、あの色紙が見たいと思い続けています。

色紙を毎日書き続けるのはちょっと面倒ではあるけれど、
良く考えると、その程度の工夫で「ちょっとした変化」を
生み出せて、常連客を増やせるとしたらなんでもないことですね。

投稿者 松尾 順 : 05:02 | コメント (0) | トラックバック

東京中華思想?

熊本出張の帰り、実家福岡に立ち寄りました。

普段は2,3年に1回程度しか帰郷できませんが、
今年はこれで2回目。

懐かしいふるさとをちょっとだけ堪能しました。

さて、このブログを書くようになったおかげで、
なにごとにも問題意識を持つようになったというか、
深く考えるようになったのですが、やはり田舎の生活は
明らかに都会と違うという点を実感しました。

感覚的な書き方であることをあらかじめお断りしておきますが、
たとえばこちらでは日経新聞を読んでいる人はすごく少ないということ。

実家でも「西日本新聞」という地方紙しか購読していません。
私が、中学生や高校生のころ、新聞配達のアルバイトを
していましたが、当時でも日経新聞を購読している人は少なかった。
多分、それは今でもそれほど変わっていない。

何を言いたいかというと、地方では東京にいると感じられる
ビジネスビジネスという感覚がほとんどないということです。

もっとみんな生活生活してるんです。

特に実家あたりは久留米市の隣町ではありますが、
都市部ではありません。主力産業は農業です。

いわゆる「政治経済」に対する関心は
普段は決して高くないと思いますl。

東京での仕事で、マーケティングの企画を立てる時、
まずは、ターゲットとなる消費者像を思い浮かべるのですが、
ついつい、都会暮らしの人々の生活にしか思いが至らないことに、
田舎に帰ると気づかされます。

まあ、「東京中華思想」みたいなものに毒されていると
言えるんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 03:57 | コメント (0) | トラックバック

最も希少な資源

■希少な資源ほど価値が高い。

言うまでもないことですね。

例えば、ダイヤモンドや金などは、非常に限られた量しか産出
しないから、高額で取引されるわけです。
(ただし、ダイヤモンドについては世界的なカルテル機構が
 市場流通量を少なめになるようコントロールしているんですが)

しかし、一般の人にとって、ダイヤモンドは実用品ではなく
装飾品であり、装飾品に関心のない人はあまり価値を感じません。

ところが、誰にとっても、最も希少な資源といえるものが
あります。

それは「時間」です。

生まれてから死ぬまで、一人ひとりの人生はおよそ数万時間で
尽きてしまうことが、運命的には決まっているからです。
生まれたら、ただただ砂時計が落ちるように減っていくばかり
なのが、人生における「時間」なんですね。

いつ死ぬか、普通はわからないし、また考えたくもないので
時間は無限のように勘違いしてしまっているかも知れません。
若い頃は特にそうで、無為にだらだらと時間を過ごした時期も
ありましたよね。(笑)

しかし、人はだれでも本能的に、人生時間は有限であり、
時間が最も希少でかつ大切な資源であることをわかっている
と思います。

その典型的な人が「いらち」と言われるような短気な人です。
何事もすぐにやらないと気がすまない。あるいは、他人の
仕事が遅かったり、待たされると爆発するような人。

彼らは、

「私の時間を無駄に消費させるな」

という怒りを素直に表に出してしまう人なんですね。

また、売れ筋の商品やサービスの特徴として
常に上位に来るのは「利便性」ですが、
これはまさにお客さんの時間を節約してくれるからです。

特に現代は、いろいろとやりたいこと、やるべきことが
あふれているので、なおさら、自分の時間を無駄にしないですむ、
あるいは節約できる商品・サービスが求められているといえます。

逆に、時間が最も希少な資源であるなら、それをお客様のために
使うことが高い付加価値を生み出すことにもなります。

例えば、お客様への誠意を示す一番の方法は、人がお客さん
のところに出かけていくことです。お客さんはわざわざ、
時間を使って来てくれたことを喜ぶんですね。

最近、ある輸入車の販売ディーラーでは、営業マンが
既存客のところへ積極的に訪問するようにしたそうですが、

「オーナー様のために私の希少な時間を喜んで使います」

という姿勢を見せることがリピートや口コミにつながると
踏んでいるわけです。
(あからさまな売り込みのための訪問は違いますよ・・・)

もし実際に訪問できなければ、次善の策として手紙、
それも手書きのものがお客様を喜ばせます。

これもやはり、人が手で書くための時間をわざわざ
私のために使ってくれたということが感じられるからです。

私は常々感じているのですが、インターネットの会員制
サービスで、誕生日やお正月にグリーティングカードや
Eメールを送付するのは無意味だからやめた方がいいです。
(誕生月限定の割引とか、プレゼントがあるなら別ですが)

システムで機械的に処理され、送付されるグリーティングカード
には、自分のために誰かが時間を使ってくれた感がまったく
感じられないので、ありがたみゼロなんですよね。


そう思いませんか?

投稿者 松尾 順 : 12:41 | コメント (0) | トラックバック

第三の場所

私たちはみんな、仮面をかぶって毎日を送っています・・・

「仮面」というのはちょっと怪しい表現でしたが、職場や
家庭など、それぞれの立場で求められる役割を果たすために
自分の性格を使い分けているという意味です。

この「仮面」は、心理学などでは、パーソナリティの語源に
あたる「ペルソナ」と言うことがあります。役割に応じて、
ある意味、「本当の自分でない自分」を演じているような
ものなので「公的な性格」とも言われます。

たとえば、実際には気弱な性格であっても、会社でリーダー
の立場にあったら、断固とした性格であるかのように振舞う
必要がありますよね。そうでなければ、部下たちが不安を
抱きますし、ついてきてくれません。

もちろん、家庭においても、夫・妻、あるいは親として
ふさわしい自分を演出しなければなりません・・・
外で仮面をかぶっているのがつらいからといって、
家に帰ったとたん、仮面を外してまったくの素の自分を
さらけだしてしまったら、家庭が崩壊してしまいます。

だから、実は家庭は本当の意味ではくつろげる場所では
ないのかも・・・

たとえ一人暮らしでも、近隣には顔見知りがいますから、
なかなか素の自分になれる場所がないものです。

でも、ずっと仮面をかぶったままでは、精神的に参って
しまいます。そこで、心理カウンセラーの諸富祥彦氏は、

「第三の場所を持ちましょう」

と提案しています。

「第三の場所」とは、理想的には秘密の隠れ家です。
小学生の時に見つけようとした「秘密基地」です。
職場でも、家庭でもない、知り合いが誰もいない、たった
一人になれるところ。

最近は、職場でも家庭でも時間に追いまくられることが
多くなってきているせいか、みんなすごいストレスを
ためてますよね。だから、意識的に、あるいは無意識に
「第三の場所」を求めているんじゃないでしょうか。

そうした消費者の欲求をつかんでいるのが、例えば
「漫画喫茶」でしょう。あるいはちょっと休憩・昼寝が
できる個室を時間貸しで提供しているスペースです。

独身でなくても、第三の場所を求めてあえて一人で
お酒を飲んだり、食事をしたり、旅行するという
パターンもますます増えてくるかもしれません。

「本当の癒し」とは、自分の仮面、ペルソナを外せる
環境で得られるものです。

「第三の場所」を提供できる商売が、これからもいろいろと
出てきそうですね。

投稿者 松尾 順 : 10:10 | コメント (0) | トラックバック