ブランド価値の違い・・・ルイ・ヴィトンvsサマンサタバサ

先日、

「ブランドデータバンク」

のアンケート調査に基づいた、

「三越な人」(三越が好きな人)

「伊勢丹な人」(伊勢丹が好きな人)

のそれぞれが保有しているブランド品や好きなブランド品、
好きな有名人、信頼するメディア、消費に関わる価値観
などの「違い」についてご紹介しました。


とはいえ、三越も伊勢丹も同じ

「百貨店」

と呼ばれる業態に分類される店です。

2つの百貨店の強みやイメージはかなり異なるものの、
三越が好きな人は、伊勢丹も結構好きと答えていますし、
逆も同様で、伊勢丹が好きな人は、三越もそこそこ好き
なのです。

つまり、百貨店好きという点で共通点が多く、
三越な人も伊勢丹な人もかなり似通った消費行動を
取っています。

どちらも中高年層の比率が高いですしね。

例えば、好きなバッグブランドの
上位御三家は、順位がちょっと入れ替わりますが、
三越な人、伊勢丹な人のどちらも、

・ルイヴィトン
・コーチ
・グッチ

です。


ところが、20代前半の女性だけで見ると、
突然上位に浮上するバックのブランドがあります。

「サマンサタバサ」(以下「サマンサ」)

です。

日経MJ(2008/04/30)の消費分析の記事では、
都内女子大生500人対象のアンケート調査の分析が
掲載されていましたが、以下の3つの質問に対して、
グッチやコーチを抑え、いずれもルイ・ヴィトン
(以下、「ヴィトン」)に次いで2位の座を
獲得していたのが「サマンサ」でした。

・どのブランドにステータスを感じるか
・ファッション雑誌から受けるブランドの印象の強さ
・どのブランドが流行を引っ張っているか

同記事を読んだ方はお気づきだと思いますが、
上記の回答に挙がっていたブランドは、
サマンサを除いてすべて海外ブランド。

国産ブランドの中で、ほぼ唯一サマンサだけが、
短期間でこれだけの高い地位に上りつめた理由に
ついては、私はファッション動向にあまり詳しく
ないので、ぜひどなたかに教えてもらいたいのですが、
ブランディングの成功事例として
とても興味があります。

さて、日経MJの同記事では、
女子大生対象のアンケート結果を「多変量解析」
のひとつである、

「共分散構造分析」

を用いて深い分析を行った結果が
併せて紹介されていました。


共分散構造分析とはどんなものか、
わかりやすさを優先して説明すれば、
回答結果の背景(奥底)にある

「潜在心理」(専門的には「構成概念」と呼ぶ)

の構造を把握しようとするものです。


前述の調査について言えば、
ヴィトンとサマンサの2つのブランドについて、
それぞれを評価している理由を聞いた回答結果を
共分散構造分析にかけて、両者のブランド価値の
違いを比較しています。


どちらのブランドも、潜在心理としては

・流行意識
・価格を含めた品質意識

が高い「ブランド価値」につながっているのですが、
「流行意識」については、ヴィトンがサマンサよりも
強いことがわかりました。

特に、

「流行意識」

と関連の強いアンケート項目である

・持っていると友達に自慢できる

という回答で、ヴィトンは
サマンサを大きく上回っていたのです。


一方、サマンサは、

「価格を含めた品質意識」


と関連性の高い

「使いやすい」

という項目でヴィトンを上回っていました。


この結果だけで、サマンサのブランド力の源泉が
何かを語るのは難しいですが、長い歴史と伝統を誇る
海外ブランドに対抗するために、新興の国産ブランドは、
どのような強みの軸を伸ばせばいいのかというヒントに
なりますよね。

投稿者 松尾 順 : 18:05 | コメント (0) | トラックバック

奇跡のシンフォニー

原題は『オーガスト・ラッシュ』。

日本公開を心待ちにしていましたが、

『奇跡のシンフォニー』
http://kiseki-symphony.com/

という邦題で

6月21日封切り

だということを今日知りました。

ストーリーの単純さや強引さはさておき、
フィーチャーされた音楽は本当にすばらしい。

奇跡のシンフォニーは、頭じゃなくて心で見る・感じる映画です。

これは心の時代と呼ばれる現代社会が求めているものですし、
結構ヒットするかも・・・という期待があります。

邦題の「奇跡のシンフォニー」は平凡すぎますけどね・・・
まあそれはどうでもいいや。

私は公開中、5000回位は観に行くつもりです。(笑)

*早すぎる映画レビュー『August Rush』 -オーガスト・ラッシュ-(邦題:奇跡のシンフォニー)

投稿者 松尾 順 : 13:37 | コメント (1) | トラックバック

人脈を広げるための3つのポイント

1年ほど前から私は、

「Z会キャリア開発コースBLOG」
http://www.zkaiblog.com/castaff/

の中で、「週刊キャリアデザイン」というコーナーをもらって
キャリアについてのお話を週1回書いています。


毎週木曜日が更新日。先日公開されたのは、

「人脈を広げるための3つのポイント」

です。

こうしたことを偉そうに書けるほどの人脈を
私が持っているかと聞かれると、実はそれほど自信はありません。


でも、20代前半からあちこちの異業種交流会に
顔を出してきましたし、今のカミさんも異業種交流会で
見つけました。(笑)

というわけで、当時からビジネスパーソン平均よりも
社外の知人は多かったという自負はあります。


さて、私を含め、
ほとんどの人が束になってもかなわない

「人脈づくりの達人」

は、元伊勢丹のカリスマバイヤー、
フクスケの再建を成功させ、イトーヨーカードーを経て、
現在、フジマキ・ジャパンの副社長を務める藤巻幸夫氏でしょう。


藤巻氏のケータイには、
メモリ限度一杯の1000人の連絡先が登録されており、
常時連絡を取り合っています。

年賀状は毎年1万枚出すそうです。

聞くだけでため息が出ますね。


さらに藤巻さんは、
会いたい人に対する面会の依頼のために、

「あなたに会いたい」

というメッセージを

「電報」

で送ることもあるのだそうです。

「電報」で来た面会依頼はなかなか断れないでしょうね。


いやあ、ここまでやるか・・・

藤巻氏は、

「人脈づくりの仙人」

とでも呼びたいところです。


*キャリア・アドバイザー松尾順の「週刊キャリアデザイン」
 http://www.zkaiblog.com/careerdesign/

投稿者 松尾 順 : 09:29 | コメント (0) | トラックバック

あと何年続く「ケガの功名(巧妙)広告」

事務所で購読してる新聞に、
またまた「松下電器」からの

「例のチラシ」

が入ってました。

死亡事故を起こした古い年式のFF式石油暖房機を
いまだに探してるんだそうです。


何年目ですかね、粘り強いですね。
年末と春先の年2回、チラシまいてるみたいですね。

そういえば当時の社長さんが、
最後の1台まで回収すると宣言しましたよね。


しかし、このチラシ、単なるお願いに終わっていません。
最高の企業ブランド広告ですよ。

私がこのチラシを見て感じたことは、

「さすが松下電器、偉い!
 最後まで責任を取ろうとする姿勢は企業の鑑だ・・・」

です。(ちょっとオオゲサですが)


以前、上記の視点は、

「ケガの功名広告」

というタイトルで取り上げましたけど、
このチラシ、さらなる事故を防ぐための措置でありながら、
同時に企業ブランドイメージを向上させることができる
という点で、莫大な経費を正当化できるんですよね。


あと何年続くでしょうかね・・・?


『ケガの功名広告』

投稿者 松尾 順 : 11:06 | コメント (0) | トラックバック

三越な人 vs 伊勢丹な人

本日(2008/04/25)の午後、
有楽町電気ビル北館20Fの「日本外国特派員協会」の
会議室で開催された、

『ブランドの達人[改訂版]』出版記念セミナー

に出席してきました。


本稿はその速報レポート!


『ブランドの達人[改訂版]』
(ブランドデータバンク著、ソフトバンククリエイティブ)

は3万人の消費者アンケート調査である、

「ブランドデータバンク」

の分析結果を元に書かれた本です。


同書では、様々なブランドに対する人々の好みの違いに
着目した消費者のタイプ分けと、それぞれのタイプ別の消費行動や
価値観などの特徴を豊富な図表とともに解説してあります。

例えば、

・ユニクロな人(ユニクロが好きな人たち)
・日産スカイラインな人(スカイラインが好きな人たち)

といった人がどんな人たちなのかが理解できます。

消費者分析に興味がある方だけでなく、
有名ブランド(モノだけでなく、サービスや場所、キャラクター、
有名人なども含む)に興味がある方なら楽しく読める本でしょう。


さて、肝心のセミナーですが、ひとことで言えば

「消費者アンケートデータベースとその分析システム」

を「ASPサービス」として提供している

「ブランドデータバンク」

の紹介を目的として行われたものでした。


ブランドデータバンクは、毎年6月と12月の年2回、
全国の消費者3万人を対象として行われる
オンラインアンケートのデータベースです。


当アンケートでは、車、化粧品、金融、小売店など、
消費者が購入・利用、あるいはメディアで目にする様々な

「もの」
「店」
「サービス」
「場所」(繁華街、旅行先など)
「ひと」(アニメキャラクターやタレント、有名人など)


等を含む、全部で130ジャンルについての所有・利用有無や
好意度に加えて、

・消費に関わる価値観(新しい商品はチェックせずにいられない等)
・各種メディア(広告接触)に対する信頼度

を聞いています。

これによって、前述したように、
例えば「ユニクロを好きな人」は、
他にどんな商品(ブランド)が好きなのか、
どんなライフスタイルや価値観を持っているのか、
また信頼しているメディアは何なのかをオンラインベースで
簡単に把握することができるようになっています。


セミナーでは、昨年(07年12月)に行われた第7期調査結果から、

・三越な人(三越が好きな人)
・伊勢丹な人(伊勢丹が好きな人)

のそれぞれの消費者像の違いを対比させて説明していました。


説明の詳細は、
ブランドデータバンクのWebサイトから誰でも
自由にダウンロードできる

「プレゼン資料」

を見ていただくとして、ここでは、
プレゼン資料にもまとめとして掲載されている

「三越な人」「伊勢丹な人」

それぞれの特徴のみ、簡単にご紹介しておきましょう。

----------------------------------

【三越な人】

●格式を備えた、保守的なブランド嗜好性を持つ

サンプル数:1600サンプル
平均年齢:46.08歳(全体平均:40.41歳)
平均世帯年収:753万円(同:673万円)
平均お小遣い:4.41万円(同:3.87万円)

・50代以上の比率が高い
・能動的な情報摂取は少なく、
 TVや新聞のような旧来のマススメディアを強く信頼
・彼らが選ぶブランドは、長い歴史や格式が高いブランドである


【伊勢丹な人】

●求めるのは時代のセンス、洗練されたブランド嗜好性を持つ

サンプル数:2494サンプル
平均年齢:42.26歳(全体平均:40.41歳)
平均世帯年収:773万円(同:673万円)
平均お小遣い:4.85万円(同:3.87万円)

・中高年比率は高いが、幅広い年代から支持されている
・口コミや交通広告に対する信頼度高い。携帯サイトなども
 活用し、幅広く、また能動的に情報をキャッチ
・海外ブランドに目がない

-------------------------------------

なお、三越な人、伊勢丹な人がそれぞれ好きなブランドで、
際立って違うものとしては、以下のようなものがあります。
(私が適当にピックアップしました)


●男性のお気に入りの腕時計

 三越人・・・ダンヒル、セイコー/クレドール
 伊勢丹人・・・カルティエ、セイコー/グランドセイコー

●女性のお気に入りの服

 三越人・・・シャネル、クリスチャン・ディオール
 伊勢丹人・・・セオリー、カルバンクライン

●女性のお気に入りの腕時計

 三越人・・・ブルガリ、シャネル
 伊勢丹人・・・ロンジン、コーチ

●所有している車

 三越人・・・トヨタクラウン、プリウス
 伊勢丹人・・BMW3シリーズ、フォルクスワーゲンゴルフ

●購読しているファッション・ライフスタイル誌(女性誌)

 三越人・・・婦人公論、家庭画報
 伊勢丹人・・SPUR、25ans、ELL JAPON

●好きな有名人

 三越人・・・小泉純一郎
 伊勢丹人・・・佐藤浩一


まあ、うなずける結果ではありますが、
人それぞれの生きかたやこだわりといったものが、
ブランドに対する態度(心理)や行動を通じて
よく見えてきますね。


*三越な人 vs 伊勢丹な人(セミナーで使われたPDFプレゼン資料)

*ブランドデータバンク
http://www.branddatabank.com/

『ブランドの達人[改訂版]』
(ブランドデータバンク著、ソフトバンククリエイティブ)

投稿者 松尾 順 : 18:53 | コメント (0) | トラックバック

限定に弱い人ってどんな人?

「いつでも、どこでででも買えるのなら、
 一番安い時に一番安い場所で買いたい・・・」


ほとんどの方はこう思ってますよね?


以前から繰り返し申し上げているように、
上記のことが実際に可能になったのがネット時代の今ですね。


ダイレクトメールや通販カタログ、テレビ通販等を見た時の
私たちの反応として、

「おっ・・・この商品良いなあ、安いなあ。
 でも他でも扱っているかもしれないし、もっと安いところが
 あるかもしれない。ネット検索して調べてみよう!」

となる新しい購買行動プロセスが定着したため、

「宣伝文句につられて思わず買っちゃった・・・」

という衝動買いは確実に減っているでしょう。


このため、なんらかの形、すなわち、
この場所でしか、あるいは一定数しか買えないなど、

「限定品」

であることを前面に打ち出し、

「今すぐの購入」

を促すことがますます必要になってきていますね。

さて、日経MJ(2008/4/23)に掲載された消費分析では、

「限定品」

に弱い層はどんな人たちかが明らかにされています。


どんな人たちかというと、

・自分がどう行動したらよいかは自分で判断できる
 といった考えや、他人に束縛されることを嫌う傾向の
 強い、ひとことで言えば「独立心」旺盛な人でかつ、

・人の助言は押し付けがましいと思いつつも、
 目立たないようにふるまい、周りの人の意見に合わせる
 こともできる女性

なのだそうです。

独立心は持ちつつも、
うまく周囲と合わせることができるということですから、

「バランス感覚に優れた女性」

と言えるでしょうか。


「限定品」は、
今しか買えないといった制約があります。

このため、あれこれ人の意見も聞く余裕はなく、
即決しなければなりません。

この点で、人の押し付けを嫌い、
自分の意思で決めることを好む

「独立心の強い人」

に限定品が買われやすいと考えることができそうです。


ただ、「周囲との同調傾向」が強い人に限定品が買われやすい
という点については、関係性がちょっとわかりにくいですね。

ひょっとしたら、そもそも独立心が高いにも関わらず、
円滑な社会生活を送るために‘無理して’周囲に合わせていること
の反動かもしれません。

自分以外に持っている人が少ないことが明らかな

「限定品」

を買い求めることで、
心のバランスを取り戻しているという意味です。


また、女性のほうが、男性より「限定品」に
弱いというのは経験的にもうなずける点ですよね。

一般に男性は、
様々な商品を十分に比較検討、吟味することは面倒で、

「いつも買ってるやつでいいよ」

となりがちですから。


冒頭、ネット検索で
比較検討がしやすくなった現代においては、

「限定品」

が「今すぐの購入」を促すために必要だと申し上げましたが、
誰にでも効くというわけではない点を留意しておくべきでしょう。

投稿者 松尾 順 : 14:05 | コメント (0) | トラックバック

ターゲティングのパラドックス

たくさんの人に買って欲しいと、
「幅広い顧客像」をイメージして作った商品が
まるで売れない。

逆に、たった「一人の顧客」のために作った商品が、
多くの人に支持されてヒット商品となる。


これは最近よく聞く話ですが、

「ターゲティングのパラドックス(矛盾)」

とでも呼べますかね。


さて、このパラドックスには、
優れた言語感覚を持つ歌手&作詞家の一青窈も
気づいているようです。

彼女は、

“よりたくさんの人に伝えようと思うと歌詞は狭くなる。
 対象を絞ったほうが言葉は普遍化する”

と先日放映されたテレビ番組の中で言っていました。


ふーむ、ちょっと抽象的な物言いですが、
彼女の言わんとすることはわかりますよね。

歌詞とは、

基本的に聴き手に自分の思いを伝えるためのもの

です。

もし歌詞の内容が

「相手に対する愛」

を伝えるためのものだとしても、
それが「万人」に向けて書かれたものであったなら、
その歌詞は、好きな人の心だけでなく、
誰の心もつかむことができないというのは
直感的にわかりますよね。


商品開発についても同じことが言えるのでしょう。

その商品は

「誰のためのものなのか?」

という点を

・商品特性(ネーミング、スペック、パッケージデザイン等)、

および

・マーケティングコミュニケーション

において、相手に明確に伝えることができるかどうかが、
ヒットする商品を生み出せるかどうかの分かれ目なのでは
ないでしょうか。


実際、ターゲットとした顧客が特定の1人だったとしても、
その1人と近い好みや感性を持つ人は必ず一定数以上いるわけです。

つまり、1人にターゲットを絞ることによって、
結果的に極めて明確な顧客セグメンテーションを
同時に設定できているということになります。

だからこそ、

「これは私のための商品だ!」

とターゲット顧客は感じ、喜んで買ってくれるのでしょう。
(しばしば想定外のターゲットに売れることがありますけど)


問題は、ターゲットに定める

「1人」

を誰にするかということです。

やはりそこそこ売れて欲しいマス商品の場合、
セグメントを狭くしすぎるのは収益に限界があるため
できません。

したがって、ちょっと矛盾した言い方に聞こえるかも
知れませんが、より多くの人を包含したセグメントを
代表するような1人を選びたいところです。


残念ながら、この点について
明快な答えを今の私は持っていません。


ただ、明治学院大学教授、清水聰氏が取り組んでいる

「目利き」

の研究が参考になりそうです。

清水氏の研究によれば、
新商品がヒットするかどうかを高い確率で予測できる人たち、
すなわち「目利き」がいることがわかっています。

彼らは、一般大衆の潜在ニーズを嗅ぎ取ることのできる、
優れた感性の持ち主ということでしょう。

ということは、「目利き」の人を対象顧客にして
商品を開発すればいいのでは。

そして、彼らが

「これなら売れる、買いたいと思う」

と太鼓判を押してくれた商品を世に出せば、
ヒットする可能性が高くなるのではないでしょうか?


*関連記事

『目利きと死に神の研究』

投稿者 松尾 順 : 08:08 | コメント (0) | トラックバック

魚ロッケ?・・・もったいない食堂

以前、リサイクルショップの生活創庫浜松本店では、

「野菜のリサイクル」

に取り組んでいるという話をご紹介しました。


規格よりも大きすぎたり、形が曲がっているなどの理由で、
味は変わらないのに市場には出せないため、
そのまま廃棄されてしまう野菜を生産者から引き取り、
店頭で「朝市」を開いて格安で販売しているのです。


さて、私たちの多くは野菜生産の実態を知りませんが、
安心して食べられる無農薬・有機野菜の場合には、
虫食いの跡もあったりしてさらに売りにくい。

このため、できた野菜の半分近くが
やむを得ず捨てられてしまうこともあるようです。
(もちろん自家用で消費しても使い切れない分です)

いやはや、もったいない話ですね。


こんな浮かばれない、
不揃いな野菜たちを使う家庭料理のレストランがあります。


その名もズバリ、

「もったいない食堂」

です。2005年に熊本に誕生しています。


運営会社は、97年から自然食レストランを運営してきた
地元企業の(株)ティア。

ちなみに「ティア」は、

「土と命と愛ありて」(Tuchi-Inochi-Ai)

から取っているそうです。


「もったいない食堂」の基本コンセプトは、

「日本の食を守る食堂」

です。

前述したように、
市場に出せない無農薬・有機野菜は見た目が規格外なだけ
ということで、ちぎってサラダに使うなどの工夫をしています。

これは

「もったいない野菜」

と呼んでいるそうです。


また、

「もったいない魚」

も使っています。


魚市場では「色箱」と呼ばれるものがあります。

この箱には、カレイやヒラメなどの高級魚も入っているのですが、
1種類で1箱に満たない様々な魚が寄せ集められているもの。

この「色箱」、1箱数百円の値しかつかないのだそうです。
びっくりですね。

もったいない食堂ではこうした魚たちも有効活用すべく
仕入れています。


さらに、ひと山いくらで安く売られている「豆アジ」。

10-15センチほどの真アジのことですが、
小さいため養殖用として利用されているものの、
人が普通に食べてももちろんおいしい。

そこで、もったいない食堂では、
これをたたき身にしてコロッケとしてメニュー化。

「魚ロッケ」(ギョロッケ)

です。


もったいない食堂は、
開店から2年間は赤字だったそうです。

しかし、今は健康的で安心して食べられる、
肩肘張らない家庭料理のお店として
地元の人たちの支持を受け繁盛しています。


規格から外れている、しかし安全で安心して
食べられる食材を使うレストランは、ティアに限らず
全国あちこちにありますよね。

最近の消費者の最大関心事の一つが、
食についての不安や懸念ですから、
こうしたLOHAS的な店は今後ますます増えるでしょうね。


蛇足ですが、「ティアの家族達」と呼ばれる店、
つまりティアの系列店は、九州を中心に10数店ありますが、
そのうち1店は、私が生まれ育った福岡の田舎(八女)の実家から
車で5分ほどのところにあることを知りました。

今度帰郷した際、立ち寄ってみようと思います。


*以上は「生活と自治」(2008年3月号)、
 およびインターネット上の各種情報を元に作成しました。

→ティア長崎銅座店

ティア本体のホームページはないようです。


『野菜のリサイクル』

投稿者 松尾 順 : 11:33 | コメント (1) | トラックバック

「タスポ」の導入がビジネスに与える影響と消費行動・心理

数年前、飲酒運転に対する罰則が強化された際、
その影響で業績が悪化した業界として

「居酒屋」

がありました。

とりわけ、郊外に展開する店舗の売り上げが落ちたんです。


街中で飲み、電車で帰宅することの多い方には
あまりピンと来ないと思いますが、東京近郊や地方に行くと、
駐車場付の居酒屋って結構多いんですよね。


こうした郊外型居酒屋は、
主にファミリー客をターゲットとしており、
近年その数が増加していた業態です。

しかし、業績が落ちたところを見ると、
以前から、運転手も酒を飲んでいたケースが多かったことが
うかがえますね。

実は白状すると、私もその一人でした。

まだ妻がペーパードライバーだった10年以上前のことですが、
家族で某郊外型居酒屋に立ち寄った際、我慢できずにビールを
1杯飲んでしまい、ほろ酔いで運転して帰ったことがあります。
(自宅まで3分ほどの道のりでしたが)


また、路上駐車に対する罰則が強化された際も、
道路に面した駐車場のない飲食店(ラーメン屋など)の
売り上げが低下しました。

まあ、飲酒運転も路上駐車も本来法律違反です。

違反者からの売上分が減ったとしても、
それはまっとうな水準に戻ったということではあるのですが。


さて、上記と似たような現象が今、

タバコ業界

でも起きています。


今年から、自動販売機では、

「タスポ(taspo)」

と呼ばれる、顔写真付きの

「成人識別カード」

を持っていないとタバコが購入できなくなりますよね。


上記制度の導入時期は地域によって異なるのですが、
いち早くこの3月から導入された鹿児島県や宮崎県では、
売り上げが導入前の3割、つまり

7割減

と大きく落ち込んでいるようです。
(日経ビジネス、2008年4月21日号)


現時点でのタスポの普及率は、

鹿児島県で26%(宮崎は同29%)

ですから、普及率に連動して売上げが低下しているのです。


このため、必要経費を賄えるだけの売上げが確保できなくなり、
廃業を決めたタバコ屋さんも出てきています。


私は以前、各種タバコ銘柄の販売動向調査で
タバコ屋さん巡りをしていた時期がありましたので、
比較的この業界には詳しいのですが、
たばこの販売手数料は10%に過ぎないため、
基本「薄利多売」、つまりたくさん売らないと
商売としては成立しないんですよね。

今回の「タスポ導入」という販売規制強化によって、
予想されたことではありましたが、自販機に依存してきた
タバコ販売店が苦境に立たされてしまったというわけです。


一方、タスポのおかげで特需に沸いているのがコンビニです。
対面販売のため、タスポの提示が不要だからです。

鹿児島のあるコンビニ店では、

“盆と正月が一緒にきた。
 タバコの売上げは以前の2倍以上。8万円になった。”

とのこと。


さて、以上のような状況は、

「タスポの普及が進めば平準化する」

と日本たばこ産業(JT)では考えているようです。

しかし、タスポカードの取得手続きはかなり面倒です。
そうそう進まないでしょうね。
(私は非喫煙者なので関係ありませんが・・・)


しかも、鹿児島の某たばこ店主によれば、
店頭での反応で、

想定していなかった喫煙者の層

が、2つあることが分かったのです。


ひとつは、隠れ喫煙者層、つまり、
家族に内緒でたばこを吸っている人たちです。

具体的には、主婦や、子供の誕生を機に
禁煙したことになっているはずの男性などが該当します。
(自宅外でこっそり吸ってるんですね)

彼らは、自宅にしか送ってもらうことのできない
タスポカードを申請するわけにはいかないのです。


もうひとつは、やめたいのにやめられない層。

彼らは、タスポカードを保有することは、
喫煙を続ける意思表示をしたことに等しいと感じるために、
タスポカードの入手をためらってしまうのです。


タバコに対する販売規制の強化が、
さまざまな形でたばこビジネスに影響を及ぼしている
だけでなく、消費者の意外な消費行動や心理が浮き彫り
になったんですね。

投稿者 松尾 順 : 11:54 | コメント (3) | トラックバック

筏(いかだ)の上で結婚式。マジ?

人口わずか500人ほどの過疎の村、
和歌山の北山村では、自治体初のブログポータル

「村ぶろ」

を1年ほど前に開設。

現在のブログ開設者はおそらく
7千人くらいになっているんじゃないかと思います。
人口の10倍以上が、

「ヴァーチャル村民」

になってるわけです。

私も、当マインドリーディング記事の転載にすぎませんが、
「村ぶろ」にブログを開設しています。


先日、当事務局からメールが届きました。

村ぶろが縁で知り合ったカップルが
5月3日に結婚することになったという連絡です。


このカップルは、北山村名物の

「筏(いかだ)くだり」

の筏の上で結婚式を挙げるとのこと。

おそらく世界初・・・

とメールには書いてありましたが、
間違いなく「世界初」でしょう。(笑)


花婿は紋付はかま、花嫁さんは白無垢で
筏に乗るそうです。この姿でまさか
川に落ちたりしないかちょっと心配です。

当日はオフ会&祝賀会が予定されています。
私も参加申し込みできるのですが、
さすがに和歌山は遠いなあ・・・

面白そうなんですけどね。

投稿者 松尾 順 : 07:47 | コメント (2) | トラックバック

ファッションウォーカーと提携・・・ジュピターショップチャンネル

昨日とりあげたテレビ通販大手の

「ジュピターショップチャンネル」

の売上高は、07年は数%減だったそうです。
(日経産業新聞、08/04/16)


これは、近年成長著しかったテレビ通販市場が

「踊り場」

を迎えてしまったことを表していると言えますね。


同社では、

「東京ガールズコレクション」

で知られる「ゼイヴェル」のネット通販子会社、

「ファッションウォーカー」

と新たに連携し、
若年女性に人気のあるファッションをテレビ通販で
紹介する施策を4月から展開しています。


テレビ通販の主要顧客層は40-50代ですが、
ゼイヴェルと組むことで若年層に顧客を拡大することを
狙っているわけですね。

投稿者 松尾 順 : 23:22 | コメント (0) | トラックバック

知識は常に最新のものに更新すべし!

外部から取り入れた情報を頭で記憶すれば、
それは

「知識」

となります。


この「知識」というもの、
たとえ記憶した当時は正しくても、
時間が経つと古くなり、間違った知識になることも
多いのです。

ところが、私たちはしばしば、
古くなってしまった知識を疑おうとせず、
その知識に囚われ、その知識に基づいて
間違った判断をしてしまいがち。


この点は以前も、

『健全な懐疑主義を持て』

という記事で触れました。


古い知識に基づく間違った判断は、
場合によっては「偏見」や「差別」にさえ
つながることもあるだけに、普段から
知識は常に最新のものに更新し続けるということを
心がけるべきだと私は思っています。


さて、突然の質問ですが、
あなたは「エイズ感染者」の余命は
現在どのくらいか、ご存知ですか?


1995年以前は、
25歳でエイズ感染が分かった人の余命は
わずか平均7年でした。

当時エイズが

「死を確実にもたらす病気」

として恐れられたのも無理はありません。


ところが最近の感染者の平均余命は、
なんと推定40年だそうです。

もし、今時点で感染者と判断された人なら

同50年くらい

になるだろうと推測されています。
(日本経済新聞、2008/02/17)

これは、健康な人の寿命とあまり変わらないですね。


エイズ治療が劇的に進歩したおかげで、
早めに診断を受け、ちゃんと治療をすれば
HIVウイルスの活動を抑えて長期にわたって発症を
防ぐことができるようになっています。

つまり、糖尿病などと同様、
生涯つきあう「慢性病」となったのが
今の「エイズ」なのですね。


ところが、世間一般では未だ、
エイズは

「すぐに死ぬ病気」

であるという誤解や、
エイズ感染者に対する差別を恐れて
検査を受けようとしない人が多い・・・

また医療従事者でさえ、
こうした最新の知識を持たないため、
HIVウィルス感染者に対する適切な説明ができず、
患者を不安に陥れているのだそうです。

ある妊婦さんは、
通っていた産婦人科からウイルス感染を告げられ、
まるで腫れ物にさわるように、

「エイズ拠点病院」

への転院を勧められたのです。

このため、この妊婦さんは、

「私は死ぬんだ」「子供はどうなるんだろう」

と毎日泣き続けたのでした。


しかし、3週間後、
エイズの現状に詳しい医師の診察を受け、

・子供への感染は薬と帝王切開で99%防ぐことが
 できること

・上述したように、HIV感染者も普通の人と
 同じように長生きできること

・2人目、3人目の子供も産めること

など正しい知識を教えられて、
安心することができたそうです。


というわけで、自戒を込めて、

知識は常に最新のものに更新すべし!

投稿者 松尾 順 : 18:58 | コメント (0) | トラックバック

80歳のおばあちゃんの仮説思考を支える情報システム

料理の脇に添えられた、
色鮮やかな「もみじ」の葉っぱなど、

「つまもの」

と呼ばれる商品で「村おこし」に成功した

徳島県・上勝町

の全国シェアはどの程度かご存知ですか?


なんと8-9割。ほぼ独占状態なのだそうです。

この圧倒的な市場シェアは、
当該市場の先行者であることも大きいですが、
高い品質や市場ニーズへの対応力、安定した供給力など

「事業運営能力」

によるところが大きいでしょう。


そしてこの事業運営能力を支えているのが、
コンビニの情報システムをモデルにして開発された

「情報システム」

なのです。


「つまもの」も一種の生鮮品です。新鮮さが重要。

したがって、市場の需要動向を見ながら
タイミングよく市場に供給していく必要があります。


ちなみに、上勝町から出荷される「つまもの」は、
ナンテン、モミジ、カキなどの葉っぱ、
サクラ、ウメ、ボケなどの花、ヒイラギ、ユズリハ
といった祭事ものなど、320種に及ぶそうです。

限られた売り場で多品目を販売し、
最小の在庫しか持てないコンビニの運営と
この点で類似していますね。


さて、上勝町の「つまもの」事業の運営会社

「いろどり株式会社」

と生産者宅に設置されたパソコンは
ネットワークで結ばれています。

そして、会社側からは毎日、

品目別の市況や需要動向

が発信されています。

生産者は、この情報を元に、
どの品目をどれだけ出荷すれば、
大きな収益が得られるかを考えます。


また、POSシステムを導入しており、
出荷した商品には生産者別のバーコードがついているため、
自分の商品が市場でいくらで売れたかも翌日には可能。

したがって、出荷数量など自分の判断の正否がすぐに
確認できて次回の出荷にも活かせます。

マネジメントサイクル(P-D-C-A)が、
しっかり回せる仕組みになっているというわけです。


しかも、このシステムでは、
個人別売り上げがランキングで示され、
自分が何位かがわかるようになっています。

実は、田舎の人ほど負けん気が強く、
プライドが高いのだそうです。

そこで、こうした競争原理を導入することで
生産者のモチベーションを適切に刺激することにも
成功しているんですね。


「いろどり」の代表取締役、横石氏は、
上記のシステムについて興味深いコメントをしています。

“情報システムは基本的には「商売のための仕組み」です。
 それが、上勝では生産者が「自分で考えるための仕組み」
 になった。どうすれば出荷がうまくできるのか。
 80歳を過ぎたおばあちゃんがものすごく頭を使い、
 思考力を高めていくのには本当に驚かされました。”


適切な出荷量を決めるためには、
PCに写し出された目先の市況や需要量を
見ているだけではだめなのです。

需要に影響を与える様々な外部要因、具体的には、

・週末の天気
(天気がよければ外食する人が増え、つまもの需要も増える)

・季節性
 結婚式のシーズンなら縁起物の品目の需要が高まる)

などを考慮しなければなりません。

まさに、セブンイレブンの鈴木会長が言う

「仮説思考」

を生産者は駆使しているんですね。


失礼ながら、
こうした一線のビジネスパーソン
顔負けの仮説思考を

70-80歳超のお年寄りたち

がやっているんですよ。
(上勝町の平均年齢は70歳超です)


みんな頭をフル回転させて、かつ、
つまものを収穫するために体を使っているせいか、
元気いっぱいのようですね。

徳島県内の全市町村のうち、
高齢化比率は上勝町が1位なのに
医療費は県内最低額。

老人ホームも閉鎖されたそうです。


私たちも負けてはいられませんね。


以上は、

『Works』(Apr.-May 2008)リクルートワークス研究所

「野中郁次郎の成功の本質」

を元にしました。

投稿者 松尾 順 : 17:27 | コメント (1) | トラックバック

テレビ通販も厳しくなってきた?

米国ではずいぶん昔から盛んだったテレビ通販。
専門的には「インフォマーシャル」と呼びますね。

米国生まれの「テレビ通販」は、
日本では当初なかなか定着しなかったのですが、
今や最盛期を迎えていると言えます。


まあ、24時間、次々と「お買い得商品」を
説明するキャスターたちの

大げさなしゃべりやゼスチャー

には多少違和感を抱かないでもないですが、
一種の「エンタテイメント」でもありますから、
あのくらいわざとらしい演技のほうが楽しいですね。


さて、テレビ通販の場合、
消費者のツボにはまった商品が出た時の販売力は
すごいというのは想像がつくかと思います。

以前放映された取材番組で見たのですが、
テレビ通販大手、ジュピターショップチャンネルが
オリジナルで開発した

「天然石の腕時計」(売価:9450円、限定5,000個)

はテレビでの紹介開始後40分で完売してました。
わずか40分で約5千万円の売り上げ。

テレビ通販では、
こうしたことが日常茶飯事で起きています。


ただ、最近はやはりインターネットの影響で
消費者の購買行動に変化が生じており、
そうそう簡単には売れなくなってきているようです。


これは、先日指摘したダイレクトメールや、
また、カタログ通販も同様ですが、
テレビ通販を見て即座に発注をするのではなく、
ネット通販の価格動向も見ながら、最安値を狙う
ユーザーが増えてきているのです。
(日経新聞、2008/04/15)


以前のユーザーは、
テレビ通販に対してどちらかといえば受動的でした。
説明を聞いて納得したら迷わず注文していたのです。


ところが最近は、他に安く買えるところはないかを
十分調べた上で、能動的に購入先を選別・決定するように
なっています。

まあ、これはネットを縦横に使いこなせる今の消費者に
とってごく自然な行動ですよね。


したがって、テレビ通販会社としては、
インフォマーシャルとしてのクリエイティブを
より効果的なものとするだけでなく、
「価格面」での魅力的なオファー、端的には

「最安値」

を提示することにも、
ますます配慮しなければならないということです。


これはクリエイティブ上の競争ではなく、
価格競争をせざるを得ないということであり、
粗利がどんどん削られていくわけですから、
どうにも厳しい時代になったものですね。


こうした価格競争を回避するには、
前述したような「オリジナル商品」の開発に
力を入れる戦略に向かわざるをえません。


そもそも、テレビ通販を含む、いわゆる

「ダイレクトマーケティング」

では、ひとつの施策に対して、
どれだけ多くの反応(注文など)が取れるか
が最重要目標です。


ですから、以前から言われてきたことですが、

・今だけ(今しか買えない)
・ここだけ(ここでしか買えない)
・これだけ(限られた数しか買えない)

の商品を提示できるかどうかがポイントなんですよね。

投稿者 松尾 順 : 12:22 | コメント (0) | トラックバック

「技術の独善」を捨てられない日立

他人とうまくやっていくための最重要ポイント。
それは、次の2つでしょう。

・自分のことをよく理解してもらう
・相手のことをよく理解する

わざわざ言うまでもない基本的なことですね。


でも、私たちはしばしば、

「自分のことをよく理解してもらう」

ことにばかり気を取られ、

「相手のことをよく理解する」

ということを忘れがちです。


誤解を恐れずに言えば、
この傾向は男性に多いように思います。

「どう、俺ってこんなにすごいんだよ!」

と、自分の知性の高さや見た目の良さ、血筋の良さ、
金持ちであること、ナニの大きさなどを誇らしげに語るのです。

しかし、実際にすごいかどうかを評価するのは、
意中の女性の役目ですよね。

しばしば男性は、

相手が「すごい」と思ってくれるのは何か

をよく理解しようとせず、独善的に振舞ってしまう。
この結果、あっさりふられてしまうのです。
(恥ずかしながら、自分のことも語っています・・・)


日経ビジネス最新号(2008年4月14日号)の日立の記事を
読んでいたら、日立は上記のような「男性的」な発想が強い会社
だなと思わず感じてしまいました。


日立は年間売上10兆円、
日本人で知らない人はいない大企業です。

しかし、民生用、
つまり一般消費者向け製品における存在感は極めて薄いですね。

はっきり言って、強いカテゴリーは一つもありません。

我が家の家電製品、AV製品を調べてみたら、
松下、ソニー、東芝、シャープ、サンヨー、パイオニア。
日立の影はやはり薄い。かろうじて10年以上前から使っている
テレビ1台だけが日立製でした。


日立の技術力の高さには定評があります。

例えば、洗濯機では2004年に、

「ビート式」

の洗濯機を世界で初めて発売しています。


日立は、この方式を採用した洗濯機のことを

「第3世代の洗濯機」

と位置づけていました。

というのも「ビート式」は、
洗浄力は強いが水の使用量が多い従来の「うずまき式」や、
節水能力は優れているが洗浄力が弱く時間がかかる「ドラム式」
とは異なる新しい方式であり、

水の使用量、洗浄力、洗浄時間

といった主な性能面で他の方式を凌駕する

「すごい洗濯機」

だったからです。


ところが、当時洗濯機で大ヒットしていた、
言い換えると、主婦の心をつかんでいたのは、
2003年に松下が初めて発売した

「ななめドラム式」

のような、洗濯物の取り扱いの容易な洗濯機だったのです。


日立の人たちは、

「どうしてこの技術のすごさがわかってくれないんだ・・・」

と嘆いたことでしょう。

しかし、そうやって嘆く以前に、
そもそも相手(消費者)が求めていることを理解しようとしない、

「技術の独善」

を捨てるべきではないでしょうか。


自分がどんなに「すごい」と思っていても、
相手が「すごい」と思ってくれなければ受け入れられない。

このあまりにも当たり前のことが実践できない
独善的な企業(人)は日立に限らずたくさんありますが、
この発想を捨てない限り、狙った相手にそっぽを向かれるだけだ
という厳しい現実を自覚すべきでしょうね。

投稿者 松尾 順 : 09:22 | コメント (2) | トラックバック

機内販売のプロが語るセールスの極意

あなたは、飛行機の機内販売で

「ブランド品」

とか買ったりしますか?


機内限定販売の商品がメインとはいえ、
あの狭い空間でわざわざバッグなどを購入したくなる気持ち、
正直よくわかりません。

おそらく、旅行中の高揚した気分が
財布の紐をゆるくしてしまうのでしょうね。


こんな私にとって、機内販売は、
客室乗務員の方が手に商品を持って
ゆっくりと通路を通過していくだけの他人事の風景です。

機内は、そもそも積極的に商品を販売できる

「売り場」

ではありませんし、

「売れても売れなくてもいい」

という程度のものなのかなと思っていました。


しかし、この世界にも、
やはりトップセールスはいるんですね。


わずか2時間程度の国内線のフライトで、
機内積み込みのブランドバッグを売り切ったこともある
全日本空輸(ANA)の別府奈津美さんのセールスの極意は、
第一に

「ターゲティング」

にあるようです。
(日経ビジネスアソシエ、2008.05.06)


すなわち、別府さんによれば、

「どのお客様が買う雰囲気を持っているか。
 それを搭乗時に見分けること」

が重要なのだそうです。

前述したように、
機内はそもそも「売り場」=店舗ではありません。

乗客全員が見込み客ではありません。

したがって、早い段階で

「見込み客」

を的確に発見し、
ターゲットを絞り込んで攻めることが
鍵になってくるわけです。


別府さんが特に注目するのは、
女性のグループ。

中でも、そのグループのリーダーが誰かを見定めます。


なぜなら、リーダーに売ることができれば、
周囲に、

「あなたも一つ、どう?」

と勧めてくれることが多いから。

機内販売においても、

「オピニオンリーダー」

をまずおさえることが有効なんですね。

機内の場合、仲の良い仲間が至近距離で
集まっているだけに、リーダーからの「口コミ」が
効きやすい状況にあると言えます。


また、機内販売のネクタイを着けている
ビジネスパーソンもねらい目。

彼らは、いわゆる

「既存客」

ですから、新規客開拓よりもはるかに楽に
販売できる可能性が高いですね。


さて、機内販売の時間が始まってから、
別府さんが会話のきっかけづくりに活用しているのが、

「目」

です。


通路を歩きながらくまなく目線を走らせる。

買う気がある人は、
気づいてもらおうと顔を別府さんに向けてきます。

しかし、ここですぐに近づくことはしません。
恥ずかしがって顔を背けてしまう人もいるからです。

別府さんは、顔を向けてきた人を心持ち長く見つめ、
さらに小首をかしげてかすかに微笑む。


これは

「ロングアイコンタクト」

と呼ばれるテクニックです。

この無言のメッセージを相手に送ると、
たいていの客は手を挙げたり、

「すいません」

と声をかけてくるそうです。


さらに、会話中には、
相手の感情を刺激するような言葉、

「ゴージャス」「キュート」「セクシィ」

などを織り交ぜることで気分を高揚させ、
決断を促します。

上記のような言葉(形容詞)は、

「エモーショナル・ワード」

と呼ぶようです。

単価数万円の高級ブランドを売るためには、
こうした歯の浮くような言葉の後押しが効くというのは
私でもわかる気がします。


以上ご紹介した別府さんの機内販売の極意は、
新幹線の車内販売のトップセールスの方と
共通点が多々あります。

新幹線の車内販売の場合もやはり、
買う気がある人を見極めるターゲティングと
目の使い方が鍵なのでした。


(関連記事)

「新幹線ガール」

「背中に刺さる弁当欲しい視線」

「カリスマ社内販売員の言葉のマジック」

投稿者 松尾 順 : 13:10 | コメント (0) | トラックバック

「たこ焼き」も差別化しよう!(笑)

先日、地元の松戸・常盤平で毎年開催されている

「さくらまつり」

に行きました。

文字通り、約500本の桜が植えられている

「さくら通り」

を中心に開催されるお祭りです。


桜は散り始めてましたが、
そもそも桜を観賞する以前に、
ずらっと並んだ屋台の食べ物にばかり目が行ってしまうので
あまり関係ありません。花より団子です。(笑)


さくら通りの両側に長々と続く屋台の中には、
私も大好きな

「たこ焼き」

が5店ほど出てました。(値段はどこも1パック500円)


これらのうち、一番長い行列ができていたが、

「大ダコ入りたこ焼き」

と書いてある店。


次に「京たこ」の店。私はここで買いました。

そして、ほとんど誰も並んでいなかったのが、
単に「たこ焼き」と書いてあるだけの店です。


焼いてるところをよく観察してみたら、
たこ焼きの直径や、中に入れる「たこ」の大きさに
大差ありません。

大だこ入りの店は、
さすがに中のたこが大きめでしたが。


やっぱり、どんな業種・業態であれ、
客を集めたいなら、

「コンテンツ」(たこ焼き自体)

および(あるいは)

「コミュニケーション」

レベルでの差別化が必要ですよね。

投稿者 松尾 順 : 20:01 | コメント (0) | トラックバック

振り込め詐欺、オレオレ詐欺にご注意!

「振り込め詐欺」や「オレオレ詐欺」って、
4-5年前から問題になっている犯罪ですよね。

もはや、今最も流行している詐欺の手口として、
知らない人はいません。

実は、最近この詐欺で被害を受けた人も、
振り込め詐欺のことは全員知っていたのだそうです。


ところが、現実を見ると、
この詐欺に引っかかっちゃう人が年々増加しています。

だまされる人に特徴的なのは、

「自分が被害にあうとは思っていなかった」

と他人事のように考えていた人です。
要するに、警戒心が薄い。

だからコロっとだまされてしまう。


私の知人も、以前、

「あんな手口に引っかかるのはだまされる方が悪い。
 私は絶対にだまされないよ」

と断言していました。

でも、こんな人ほど危ないんですよね・・・


私の場合、若い頃に幸か不幸か、
詐欺まがいの話に何度か引っかかったので
免疫ついてます。(笑)


そういえば、ちょっと前の新聞の投書欄で

「オレオレ詐欺」

らしき電話を受けた女性の話が掲載されていました。

彼女の息子さんのフリをして電話をかけてきたのですが、
幸い騙されることはありませんでした。

なぜなら、息子さんは3年前に亡くなっていたからです。


ところが、息子さんと声は違っていたのに、
ぶっきらぼうな話し方がどことなく似ているようで、
本当の息子と話したかのような感覚を覚え、
電話を切った後もしばらくドキドキしていたとか。

そして、もう少し話せば良かったとか、
もう一度「息子」と話したいなどと、
心のどこかで、あの詐欺の電話がかかってくることを
期待しているということでした。


なんだかちょっと悲しくなっちゃう話ですね。

オレオレ詐欺は、
こんな親の子を思う愛につけこんでるだなあと
改めて思ったものでした。

投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (2) | トラックバック

人見知りな営業でも大丈夫

以前もちょっと触れたことがありますが、

「営業(の仕事)とは何か?」

という問いに対する答えとして、私が一番いいなと思うのは、

「営業とは、お客様から‘課題’をもらうこと」(Task-getting)

というものです。


そこで、営業マンのことは、

「タスクゲッター(Task Getter)」(課題をもらう人)

と言い換えることができます。


ここで「課題」とは、

お客さんが抱えている、なんらか解決したい問題や、
充足してほしいニーズ(夢・願望など)

のことです。

営業の仕事における究極の目的は、
言うまでもなく自社商品を販売することですよね。

しかし、そのためには前段階として、

「顧客の求めているものが何か」

を確実に把握しなければならないということです。


この考え方は、セールストークを駆使して

「売り込む!」

という古いアプローチがもはやほとんど通用せず、

「買っていただく(選んでいただく)」

という姿勢で営業に臨まなければ売れない、
今の時代においてより強調されるべきかなと思います。


したがって、営業担当者の資質として

「社交的」「話し上手」

という点はあまり重要ではなくなってきています。


例えば、輸入車販売大手の「ヤナセ」で
昨年全国2位の成績を収めたトップセールス、
石原孝明セールスマネージャーは、

“今もそうだが学生時代からおとなしく、
 あまりしゃべらないタイプ。
 人と仲良くなるまでに時間がかかる”

と自己分析しています。
(日経産業新聞、2008/04/10)


そこで、営業担当としてはマイナスとなる「話ベタ」を
補うために、石原氏が留意しているのは大きくは次の3点です。

------------------------------------------------

1.聞き上手になる

 「どういう車の利用方法を想定しているか」
 「荷物は何を運ぶのか」

 といった具体的な質問を投げかけ、
 顧客の反応をすべて受け止めて対応する。


2.商品知識や関連知識に精通する

 顧客に対してパンフレットを見ないでも
 即座に的確に答えることができるくらいの知識を蓄える。

 「あの人に聞けば何でもわかる」

 と思われるくらいの“最高の御用聞き”になれば強い。


3.顧客に暗いというイメージを抱かせない

 話が苦手でも、挨拶は元気よく。
 服装もカラフルにして、外見で明るい雰囲気を作り出す。
 (やはり「暗い」というイメージを持たれてしまうのはだめ)

-------------------------------------------------

石原氏はもちろん、
顧客に対するフォローコミュニケーションも
きっちりやってます。

大きな顔写真入りの年賀状、暑中見舞いを送ることで、
少なくとも年2回は自分の顔を思い出してもらうのです。


「最初から焦らず、顧客とのコミュニケーションを
 上手に取れるようになれば、後から結果がついてくる」

と石原氏は述べていますが、

「顧客とのコミュニケーションを上手に取る」

というのはどういうことでしょうか?


もちろんもうお分かりでしょう。
顧客の話を丁寧に聞いて、相手を十分に理解することです。

営業担当者が、自社商品の説明を
一方的にまくし立てることではありません。


だから、人見知りで口下手な営業でも大丈夫なんですよ。


なお、聞き上手になること、また、
商品知識・関連知識をたくわえることは、

要するに

「情報収集力」

を高めることだと言えます。

営業担当者の必須能力として最も重要なのは

「情報収集力」

であるという点は、
トップセールスの方々が口を揃えて言うことです。


というわけで、

「営業活動における情報収集のノウハウ」

というコンセプトで書いた本がまもなく出ます。

単行本としては、私の初めての著作です。
ご興味のある方は、ぜひ読んでみてください!

投稿者 松尾 順 : 14:02 | コメント (4) | トラックバック

結局中身が決め手のSEO対策

グーグルやヤフーで

「印刷会社」

のキーワードを入力して検索すると、

「恒信印刷」

という、大変失礼ながら、
聞いたこともない印刷会社が、
検索結果の最上位に表示されます。

業界大手の「大日本印刷」などを抑えての一位。

まあ、大手はSEO対策なぞしなくても、
十分に仕事があるのでしょうか。

そもそも、検索結果の上位には
大手の印刷会社はそれほど表示されていませんね。


恒信印刷では、

「SEO(サーチエンジン最適化)」

に自力で取り組んできました。
(日経MJ、208/04/07)

トップページの右上に顔写真が掲載されていますが、
同社の吉田社長が専門書やセミナを通じてSEOを学び、
自ら陣頭指揮を取って自社サイトを作成したようです。


吉田社長によれば、SEOで大事なのは

「中身の量」

です。同社のページは650ページもあります。

その他、吉田氏が自らの実践を通じて学んだ
SEOのポイントは次のとおり。

・「同人誌」「小冊子」などの適切なキーワードを盛り込む
・キーワードは全体の文章の5%が適切。多すぎてはだめ
・デザイン会社など印刷関連の有力ページとリンクを張り合う
・自ら多くのホームぺージを作りリンクを張る
 (同社では「印刷用語集などのページを作成して相互リンク)

 

印刷会社は繁閑の差が激しい業界ですが、
検索エンジンでトップに表示されるようになってからは、
注文件数が以前の20倍に増加。

繁閑の差がなくなり、得意領域に仕事を絞り込むことが
できるようになって収益性が大幅に高まったそうです。


なお、サイトのコンテンツ自体も、

「お客の目線でわかりやすく、専門用語を使わない」

ことをモットーに作成しており、
サイトに来てもらったユーザーをできるだけ
長くつなぎとめようと努力しています。


恒信印刷のホームページを見ると、
デザイン的には洗練されているとは言えませんが、
なんとなくにぎやかで楽しい雰囲気が感じられますし、
豊富なコンテンツに圧倒されます。

なにより、吉田社長のサイトに対する強い思い入れが
にじみ出ているようです。


SEO対策というと、安易な発想と、
こて先のテクニックでなんとかしようと考える企業が
あいかわらず多いようですが、多数の競合企業が
検索結果トップを目指してしのぎを削っているのです。

恒信印刷さんのような継続的で膨大な注力が
不可欠なんでしょうね。

「恒信印刷」
http://www.ko-sin.co.jp/index.htm

投稿者 松尾 順 : 13:18 | コメント (0) | トラックバック

これぞ戦略モデルの勝利

最近、29,800円程度の格安中古パソコン
のネット販売が目に付きます。

スペック的には、メインメモリがわずか256MB程度、
ハードディスクが20G程度ですから、
業務用としてはもはや役に立ちません。

しかし、個人の電子メール送受信や
ホームページ閲覧程度なら支障はありませんよね。

先日は、上記程度のスペックのノートPCが、
光ファイバー接続サービス新規契約のオファーとして
用意されており、

「ご契約の方には、中古ノートPCを
 レンタルではなく無料提供します!」

というコピーが踊るチラシが私の事務所(マンション)
に入っていました。


さて、こうした格安中古パソコン販売における
新たなビジネスモデルで成長している企業があります。

「ブロードリンク」

です。(日経ビジネス、2008年4月7日号)


同社では、
ビジネスモデルの3つの構成要素うち、
核となる

「戦略モデル」

において新たなスキマ市場を発見、開拓したのです。
(ちなみに「ビジネスモデル」の残りの2つの構成要素は、
「収益モデル」「業務モデル」です)


戦略モデルは、

●誰に(WHO)
●何を(WHAT)
●どうやって(HOW,WHERE)

の3つの視点で定義できますが、
同社の場合は次のようになります。


●誰に・・・中高年のパソコン初心者
●何を・・・最新の高性能機ではないが日常の使用には十分
      堪える中古パソコン
●どうやって・・・総合スーパーや百貨店の催事場で


以前は、総合スーパー(イトーヨーカドー、ダイエーなど)
や百貨店でもパソコンが置いてありましたよね。

ところが、パソコンの主要顧客である20-30代の男性は、
家電量販店(ビックカメラ、ヤマダ電機、ヨドバシカメラ)
など品揃えが豊富で安いところに行きます。

このため、総合スーパーや百貨店では、
パソコンはあまり売れず、売り場を縮小したり
廃止するところが増えています。


一方、中高年の初心者層が求めていた、

「高性能でなくてもいいから安いパソコンを買いたい」

というニーズを充たしてくれる店(場所)は
なかったのです。

もちろん、以前から中古パソコンの専門店はありました。

でも、ターゲットはやはり20-30代の主要顧客層。
ある程度高いスペックのパソコンが並べられており、
価格的にはそれほど安くはありませんでしたよね。


このことに気づいたブロードリンクの榊彰一社長は、
最初はフリーマットに中古パソコンを出品してみました。

ただしこれは失敗。

フリマに来るような人は、
数百円からせいぜい数千円の買い物のために来ますから、
いくら安いとはいっても数万円のパソコンを買うお金を
そもそも持っていません。

そこで中高年が行き交う大阪の地下鉄なんば駅改札の広場に
ワゴンを置いて並べてみるとどんどん売れたのだそうです。

ブロードリンクでは、そうした試行錯誤の後、
中高年層の比率が高い総合スーパー、百貨店での
店頭販売にたどりついたというわけです。


同社のビジネスは、
中古パソコンというありふれた商材であっても、
新たな戦略モデルを定義することによって、
肥沃な市場を開発することができることを証明した
良いケースですよね。

投稿者 松尾 順 : 15:15 | コメント (0) | トラックバック

スイカとパスモ、両方とも持っちゃってる人手挙げて!

首都圏の私鉄・バス共通IC乗車券、

「パスモ」(PASOMO)

の発行枚数が、800万枚を突破したそうで・・・


運用開始1年で、この数字は驚異的ですね。

2004年から運用開始している関西の

「ピタパ」

の会員は、やっと100万人だそうですから。
(対象エリアの人口が大きく違うとはいえ)


以前も書きましたが、

「スイカ」(SUICA)

との

「相互互換性」

があることを広く周知していたら、
ここまで発行枚数が伸びたか疑問ですよね。


ともあれ、パスモの運用会社は利息なしの運用資金、

「40億円」(デポジット500円x800万枚)

をこの1年で手にしたわけです。


気になるのは、パスモとスイカの重複保有率。

つまり、

「両方持ってる人がどのくらいいるか」

ということです。


また、もうひとつ知りたいのは勘違い利用率。

JRはスイカ、私鉄・バスはパスモしかそれぞれ使えない
と思い込んでいて、わざわざ2枚を使い分けてる
ご苦労さんな人がどの程度いるのか気になります。
(少ないとは思いますが)

投稿者 松尾 順 : 01:56 | コメント (6) | トラックバック

出前メニューファイル

キングジムから、

「出前メニューファイル」

がこの春新登場。


ラーメンやピザ店の「出前メニュー」が
出し入れしやすいように収納ポケットは斜めにカット。

クーポンやスタンプカード用のミニポケット付き。

ひもが付いていて、
壁や冷蔵庫などにぶら下げられるそうです。


ふーむ、なかなか使い勝手よさそうですね。


キングジムでは数年前に出した

「取扱説明書ファイル」

が大ヒットしてます。

大きさ、厚さが様々な取扱説明書が保管しやすく、
付属のCD-ROM用のポケットもあるもの。


「取扱説明書ファイル」「出前メニューファイル」

のどちらも‘ありそうでなかった’商品です。


「取扱説明書ファイル」は、
もはや枯れた商品とも言えるファイリング製品でも、
まだまだアイディア次第でヒット商品が作れる
ということを証明してますね。


さて、

「出前メニューファイル」

は売れますかね?

家庭ではともかく、
オフィスにはかなり浸透しそうです。

投稿者 松尾 順 : 10:03 | コメント (2) | トラックバック

上海で人気のクーポン発行システム「VELO」

最近、上海に行くと、地下鉄各線の主要駅や、
ローソン、映画館、レストランなどに、

「VELO」(中国語名:維絡城)

という広告媒体端末が設置されているそうです。
(『ビジネスマンのための中国経済事情の読み方』
  DIAMOND ONLINE、2008年3月27日)


現在400台ほど設置されているこの端末からは、
端末設置地点周辺にある飲食店などの割引クーポンが
無料で発券できます。


当システムに加入している業者は、
飲食業、映画館、本屋、外国語学校など140社。

ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドも、
加入しているそうです。


当端末の利用には

「VELO CARD」

という小さなカードが必要です。

このカードは、運営会社のWebサイトで請求できますし、
あるいは、街頭で配布されている未登録のカードを受け取り、
その場で携帯電話を利用して登録すればすぐに利用可能です。


現在の登録者数は約50万人。
毎日平均5千人のペースで新規登録者(カード保有者)が
増えているとのこと。


この「VELO」が人気を博している理由ですが、やはり、

「行った先で即座に様々なお店のクーポンが手に入る」

という便利さ・手軽さでしょう。


日本では(またおそらく中国でも)、
携帯端末を利用した「電子クーポン」の仕組みが
広がりつつありますよね。

でも、この仕組みは個店・チェーン単位での登録が必要ですし、
ダウンロードには結構手間がかかります。

私もマクドナルドの携帯電子クーポンをたまに利用しますが、
操作手順が面倒なので、新聞の折り込みチラシについてくる
紙のクーポンを使うことのほうが多いです。


また、中国にも無料クーポン誌の「ホットペッパー」が
あるそうですが、日本版は区別電話帳なみに分厚い。

情報量が多すぎますし、常に持ち歩くわけにはいきません。

ホットペッパーのようなクーポン誌は、
あらかじめ、どの町のどの店に行くかを決めて、
事前にクーポンを準備しなければならないという問題が
あります。


しかし、「VELO」の場合は、
その場でサクッと近くの店を選べますね。

クーポンがあるから「行ってみようか」となることも
多いんじゃないかと思います。

さて、日本ではまだ類似のシステムは普及していませんが、
先日(4月1日)、凸版印刷が非接触IC技術「フェリカ」
を搭載した携帯電話、

「おサイフケータイ」

と、電子POP(店頭販売促進物)を組み合わせた

「販促用端末システム」

を開発したと発表しています。


これは、店舗内における効果的な販促のためのもので、

「VELO」

とは、若干目的や利用方法が異なりますが、
販促端末に「おサイフケータイ」をかざすと、
割引クーポンや特典ポイントを発行できるそうです。


当端末は、5月中旬までKDDIの

「auショップ」

や、家電量販店など3店舗に設置して、
来店者のアクセス数などの利用状況調査をするとのこと。


なるほどね・・・

しかし、どうせなら、「VELO」のような
設置エリア単位の販売促進施策として活用したほうが
消費者の人気を集めるんじゃないかと私は思うのですが、
あなたはどう思いますか?

投稿者 松尾 順 : 13:58 | コメント (0) | トラックバック

心を動かすサプライズ!

注文した覚えのない荷物が、amazon.comから届く。

何かと思って開けると、
amazon.comオリジナルのコーヒータンブラー。

社長のジェフ・ベゾス氏の手紙が添えられていて、

「日ごろのご愛顧に感謝してこれを贈ります・・・云々」

とある。ロイヤル顧客向けのプレゼントだったのです。


アマゾンが日本に進出する前、
90年代後半にamazon.comをよく利用されていた方は
同じようにプレゼントを受け取られたのではないでしょうか?

コーヒータンブラーは、
スタバのグランデサイズくらいの容器でした。

スタバに持っていけば、
コーヒーを入れてもらえるマイタンブラーです。

今は、もはや持っていないのですが、
当時は、どこでも手に入るものではないだけに
いい気分でコーヒーが飲めたものでした。

よく考えてみると、
アマゾンは黒字化するはるか以前に、
既存顧客維持のための費用もきちんとかけていた
ということです。さすがです。


さて、私たちはこんな嬉しい

「サプライズ」

を求めていますよね。

サプライズは、
予期していなかったことが
起こるからサプライズ。

期待値ゼロだけに、
ちょっとしたことでもうれしい。

心が大きく動く。

顧客維持のためのコミュニケーション施策として
とても効果的なのに、意外にあまり採用されないのが、
こうした「サプライズプレゼント」です。


以下は、槇原敬之デビュー当時の話。

まだ売れる前で、
テレビやラジオには出演させてもらえない頃、

「ダイジェストCD」

を制作したんだそうです。

曲の1番目くらいでフェードアウトして、
次の曲が始まるというスタイルの5曲入り
「お試し版」です。


このダイジェスト版、
当初はレコード店のレジカウンターに置いて
無料で配布しようと考えました。

しかし、タダでもらったものなんか
ロクに聴いてくれないだろうと、
別の方法を採用しました。


『君が笑うとき君の胸が痛まないように』

という長いタイトルのグリーティングカードを作り、
応募した人にはこのカードが送られてくる仕組みです。

ただし、カードと一緒に、
ダイジェスト版を内緒で送ったのです。

つまり「サプライズプレゼント」にしたんですね。


この仕組みは、
マーケティング的に見てとても巧妙です。

「カードあげます」

というだけで応募する人は、
槇原敬之に多少とも興味を持った人でしょう。

こうした優良見込客にだけ、
ダイジェストCDを送付した。

期待していなかったCDが届いて本人は大喜び。

CDを確実に聴いてくれたでしょうし、
彼のファンになった人も多かったのではないでしょうか。


実際、本盤を買ってくれた人も結構いたそうです。
さらに、本盤を買ってくれた人には

「インストアライブ」

をやった。

結果としてデビューアルバムは、
1万5千枚位売れました。


デビュー初期のこうした人間心理の機微をつく
巧妙なマーケティングによって、
彼のブレイクが加速化されたのは間違いありません。


*槙原敬之の話は、沢田研二、アグネス・チャン、
山下久美子、吉川晃司、槇原敬之、バンプ・オブ・チキン
などを手がけた音楽プロデューサー、木崎賢治氏の
インタビュー記事(ディレクターズマガジン、APRIL&MAY 2008)
を参考にしました。

投稿者 松尾 順 : 08:02 | コメント (0) | トラックバック

香りマーケティング

「香り」

をマーケティングに採用する動きが、
今後ますます強まりそうです。


今年(08年)6月、ニューヨークで、

「SCENT world CONFERENCE & EXPO 2008」

が開催されます。

「香り」をメインテーマに据えた
初めての大規模なコンファレンス&展示会だそうです。
(宣伝会議No.737、2008.3.15)

面白そうです。行ってみたいですよね。


さて、具体事例です。

マンハッタンのタイムワーナービル内にある
サムソンのショールーム、

「The Samsung Experience」

では、天井に設置されたポンプから、
店内に心地良い香りが放出されており、
訪問客をリラックスされているそうです。


この香りは、
おそらく全世界の同社のショールームや
オフィスなどでも流されるのでしょうね。

そして、ユーザーは、
この心地よい香りを嗅ぐたびに、
サムソンを思い出すことになるわけです。


こうしたブランド独自の「香り」を

「ブランド・セント」

と呼びます。


高級ホテルでも、顧客との

「感情的なエンゲージメント」

を築くために独自の「ブランド・セント」を
ホテルのロビーなどに放出しています。


日本では、昨年、
DNPメディアクリエイトと
早稲田大学の恩蔵直人氏が共同で、
香りのマーケティング実験を行っています。

百円ショップ「セリア」の八店を実験店舗と
して選び、店内で香りを発生させることで、
売上に影響を与えることができるかを調べたのです。
(日経MJ、2008/02/06)


香りは2種類。
気分を落ち着かせる「ジュニパーアロエ」。
気分を活性化させる「オレンジブラッサム」。

それぞれ3店で放出。
残り2店は比較のため香りを流しませんでした。

実験中と実験前後の売上の変化を見ると、
「ジュニパーアロエ」を流した店舗の場合、
インテリアや文具商品での伸びが顕著だったそうです。

ところが、衣料品、収納用品、レジャー用品では
売上が減少してしまいました。


一方、「オレンジブラッサム」の場合は、
文具用品で売上が伸び、インテリア用品で減少と、
インテリアについては「ジュニパーアロエ」と
逆の結果になっています。


客の店舗滞留時間を見ると、
「ジュニパーアロエ」では滞留時間が延び、
「オレンジブラッサム」では逆に時間が短縮しています。


こうした結果を見ると、
販売している商品カテゴリーによって適した香りが
あること、また、滞留時間を延ばしたい、逆に
客の回転を早めたいといった企業側の意図に応じて
選択すべき香りが異なることがうかがえますね。

このあたりは、BGMとして流される音楽と
同じような考え方でいけそうです。


今後、どの店舗に入っても独自の

「BGC」(Background Scent:環境香り?)

が流れている時代が来るかもしれませんね。


広告会社も、

「テレビCMは、自主的に視聴するのを飛ばせるが、
 嗅覚は自分で止めることができない」

ということで、様々なマーケティングに

「香り」

を採用することが増えてきそうです。


もちろん、消費者側にしてみれば、
好き・嫌いの関係なく、特定の香りを強制的に
嗅がされるわけですから、やりすぎは禁物ですけどね。

投稿者 松尾 順 : 06:48 | コメント (1) | トラックバック

「ホスピタリティ」が求められる理由

竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授)は、

「サービス経済化」

を読み解くキーワードとして第一に

「ホスピタリティ」

を挙げます。


「ホスピタリティ」とは、端的に言えば、
一人ひとりの多様な欲求を深読み・先読みして、
かゆいところに手が届くような、

「心のこもったおもてなし」

を顧客に提供することです。


竹中氏によれば、「サービス経済化」、
すなわち経済活動の重点が、

製造業から非製造業に移行する社会

では、

「ウォンツ」と「ニーズ」

に着目することで、

「ホスピタリティ」

の重要性が明らかになると言います。


ここで、

「ニーズ」

とは、経済的に何を購入したいか、
という具体的な製品・サービスのこと。

一方、

「ウォンツ」

とは、ニーズに先立つ人々の欲求そのものです。


経済発展段階が低い社会であれば、
「ウォンツ」と「ニーズ」の結びつきは単純・明快です。

「お腹を満たしたい」という単純なウォンツは、

「とにかく食べれさえばよい」

というレベルですから、
対応する「ニーズ」も簡単なもので済みます。


ところが、サービス経済化が進む豊かな社会では、

「ウォンツ」

の幅が広がっていくのです。


「もっとおいしいものを食べたい」
「すばらしい環境で食事を楽しみたい」
「美しい器に入れて食べたい」

などなど。


こうしてウォンツの幅がどんどん広くなっていくと、
顧客本人でさえ、どんな商品・サービスが自分のウォンツを
充たせるニーズなのかわからなくなっていきます。

ウォンツが複雑であいまいになるため、

「どんなものが欲しいですか?」

と聞かれても、
具体的なニーズ(商品・サービス)に
置き換えて答えることができないわけですね。


この幅の広がっているウォンツを正確につかみ、
それを充たせるニーズに対応するサービスを提供することが

「ホスピタリティ」

なのです。


「ホスピタリティ」の優劣が、

「強み・弱み」

として明快に現れるのは、言うまでもなく、
ホテル・旅館、レストランなどのサービス業です。


しかし、製造業においても、

「ユニバーサルデザイン」

への注力や顧客サポート体制の充実は、

「ホスピタリティ」

に基づく動きと解釈すべきなんでしょうね。


竹中氏の話は、下記文献を元にしました。

『Works 82号』(リクルート、2007.06-07)

投稿者 松尾 順 : 10:18 | コメント (0) | トラックバック